主文 被告人を懲役4年に処する。 未決勾留日数中180日をその刑に算入する。 理由 (犯罪事実)被告人は,平成14年3月19日午後9時40分ころ,普通乗用自動車を運転して,鹿児島県姶良郡a町内の国道10号線を,時速約60キロメートルの速度でb町方面からc町方面に向けて西進中,同郡a町d町e番地先の信号機により交通整理の行われているT字路交差点を直進するに当たり,同交差点入口の停止線の手前約160メートルの地点で,自車進路の前方に同交差点が存在することを認識するとともに,同交差点の車両用対面信号機が青色信号を表示しているのを認めたが,その後煙草を取るため五,六秒間くらい脇見をしたため,同信号機が赤色信号を表示しているのを上記停止線の手前約36.8メートルの地点で認め,直ちに制動措置を講じれば同停止線付近で停止することができたにもかかわらず,先を急ぐ余り,制動措置を講じることなく更に時速約65ないし70キロメートルまで加速して,赤色信号を殊更に無視し,かつ,重大な交通の危険を生じさせる上記速度で同交差点内に進入したことにより,折から同交差点出口の横断歩道上を青色信号に従い左から右に横断歩行中のA(当時42歳)に自車前部を衝突させて跳ね飛ばし,よって,同人に脳挫傷,急性硬膜下血腫等の傷害を負わせ,同月20日午後6時53分ころ,鹿児島市f町g番h号所在の鹿児島市立病院において,同人を同傷害により死亡させたものである。 (事実認定の補足説明)第1 被告人は,本件自動車を約60キロメートル毎時の速度で運転して本件交差点を直進する際,赤色信号を無視して同交差点内に進入した上,青色信号に従って横断歩道を歩行中の被害者を跳ね飛ばす事故を起して被害者を死亡させたことは認めるものの,赤色信号を認めたのは同交差点入口の停止線(以下「本件停止線」という て同交差点内に進入した上,青色信号に従って横断歩道を歩行中の被害者を跳ね飛ばす事故を起して被害者を死亡させたことは認めるものの,赤色信号を認めたのは同交差点入口の停止線(以下「本件停止線」という。)の手前約15メートルの地点であり,また,その後,同交差点内に進入する際加速した事実はないと弁解し,弁護人は,被告人の同供述を受けて,被告人が赤色信号を認めた時点で制動措置を講じたとしても本件停止線の手前で停止することは不可能であるばかりか,同交差点に進入する際加速した事実もないことからして,被告人が赤色信号を殊更に無視したとは言えず,刑法208条の2第2項後段の危険運転致死罪は成立しない旨主張する。 第2 そこで検討するに,前掲証人Bの公判供述その他取調済みの関係各証拠によれば,概ね争いのない事実として,以下の事実を認めることができる。 1 本件事故現場は,鹿児島県姶良郡a町d町e番地先を東西に走る国道10号線と北方からの町道駅前大通り線とがT字型に交差する,信号機による交通整理の行われている交差点(通称「a駅前交差点」)である。 2 被告人は,平成13年2月27日に普通一種運転免許を取得し,これまで同年7月に赤信号無視,座席ベルト装着義務違反,同年12月に座席ベルト装着義務違反の交通違反歴を有している。 3 被害者であるAは,本件事故当時,鹿児島県警察a警察署交通課課長の地位にあり,当日は,勤務終了後に同署の送別会に参加した後,帰宅途中に本件事故に遭遇したものであり,被害当時,血液1ミリリットルあたり0.1ミリグラムのアルコールを身体に保有していた。 4 被告人は,宮崎市内に居住していたが,平成14年3月19日夕方,中学時代からの友人であるC,後輩のD及びEと共に,自己所有の普通乗用自動車(トヨタエスティマ,ステーションワゴン型,3 ていた。 4 被告人は,宮崎市内に居住していたが,平成14年3月19日夕方,中学時代からの友人であるC,後輩のD及びEと共に,自己所有の普通乗用自動車(トヨタエスティマ,ステーションワゴン型,3列シート;以下「本件車両」という。)を運転して宮崎県都城市までドライブをした後,同乗者らの一致した希望により,鹿児島市へ遊びに行くことになったが,被告人は気が進まなかったため,なるべく早く同市に着いて早く宮崎市に帰りたいという気持ちを持っていた。 そして,助手席にE,2列目助手席後部にC,同運転席後部にDをそれぞれ同乗させ,被告人が運転して鹿児島市に向けて国道10号線を西進中,同日午後9時40分ころ,本件交差点手前にさしかかった。当時,被告人の走行車線の前後には他の走行車両はなく,前照灯を下向きに点灯し,時速約60キロメートルの速度で進行していた。 5 本件交差点には,その東西及び北の各出口に,それぞれ歩行者用信号機により交通整理の行われている横断歩道が設置されており,同交差点内の南側歩道に街灯が設置されているため夜間でも比較的明るい。また,被告人が走行していた国道10号線は,本件交差点の前後では直線道路になっており,その見通しは良い状況にある。 そして,国道10号線をb町方面から西に向かって本件交差点に近づくと,それまで片側1車線であったのが,本件停止線の手前約50メートル付近で直進車線(幅員3.4メートル)と町道駅前大通り線方向への右折車線(幅員2.8メートル)とに分岐し始め,この2車線区間が同交差点まで続いている。また,被告人の進行方向から見て,同交差点入口右側と同交差点出口左側にそれぞれ車両用信号機(以下,特に断らない限り,この2機の車両用信号機を併せて「本件信号機」という。)が対面して設置されている。さらに,本件交差点を 方向から見て,同交差点入口右側と同交差点出口左側にそれぞれ車両用信号機(以下,特に断らない限り,この2機の車両用信号機を併せて「本件信号機」という。)が対面して設置されている。さらに,本件交差点を通過すると,片側1車線道路(各幅員3.5メートル)に復するが,同交差点出口の横断歩道の外側から,道路中央に車道を区分するゼブラが表示され,これが約80メートルの間続いている。 6 被告人は,本件停止線の手前約160メートルの地点で,本件交差点が存在することを認識するとともに,同交差点の車両用対面信号が青色であることを確認したが,その後煙草を吸おうとして,右手でハンドルを握り,いつも煙草を置いている運転手席の背もたれ付近に左手を伸ばして煙草を探したが,見つからなかった。そこで,体を左側にねじって探したが見つけることができなかったたため,ハンドルを左手に持ち替え,体を右側にねじって顔を右後ろに向け,手探りで煙草を探したところ,ようやく見つけることができた。この間,五,六秒くらいであったが,左側を向いた状態から右後ろを向くように体の向きを変える際,いったん前方を見たものの,上記対面信号を確認することはしなかった。 そして,被告人は,煙草の箱を右手でつかんだまま,両手でハンドルを握り前方に目をやったところで初めて,上記対面信号が赤色になっていることに気付いた。 7 その後,被告人は,本件交差点中央(後記衝突地点手前約15.2ないし15.6メートル)で「うわーっ」と大声で叫んだ直後,同交差点出口に設けられた横断歩道上で,左側歩道から約2.4メートルの地点において,左から右へ横断歩行中の被害者に本件車両前部を衝突させて約21メートル跳ね飛ばし,判示のとおりの傷害を負わせて死亡させた。なお,衝突地点から本件停止線までの距離は,約36.7メートルで 点において,左から右へ横断歩行中の被害者に本件車両前部を衝突させて約21メートル跳ね飛ばし,判示のとおりの傷害を負わせて死亡させた。なお,衝突地点から本件停止線までの距離は,約36.7メートルである。 8 被告人は,同日午後10時10分から30分間にわたり実施された実況見分に立ち会った後,同10時45分,業務上過失傷害の被疑事実によりa警察署の警察官に現行犯逮捕され,同月21日,業務上過失致死の被疑事実で勾留された。さらに,同月29日,鹿児島家庭裁判所において同非行事実で観護措置を受け,その後宮崎家庭裁判所に移送され,同年4月18日の検察官送致決定を経て,同月26日に危険運転致死の事実で当庁に公訴提起された。 9 本件交差点付近の国道10号線は,アスファルト舗装された道路であり,本件事故当時,路面は乾燥していた。また,本件交差点付近の速度規制は,被告人が走行していた国道10号線において,最高速度が時速50キロメートルに規制されていた。 ・本件事故当時,本件信号機は,黄色が3秒間,次いで,本件信号機,町道駅前大通り線に対面する車両用信号機及び歩行者用信号機の全てが赤色となる,いわゆる「全赤」が3秒間,さらに,本件信号機と東西方向の歩行者用信号機以外の信号機が青色となるサイクルで作動していた。 ・本件車両は平成9年式であり,本件事故以前,ハンドル,ブレーキ(アンチロック・ブレーキ・システム付き),タイヤ,前照灯等に異常はなかった。 ・ Fは,自動車を運転して国道10号線をc町方面から本件交差点方向に向け,時速約四,五〇キロメートルの速度で東進していたが,対面信号が青色から黄色に変わるのを認めて減速し,時速約10キロメートルで走行中,赤色に変わったのを見て(青色から黄色に変わるのを認めた地点から33.8メートル進行している。)す で東進していたが,対面信号が青色から黄色に変わるのを認めて減速し,時速約10キロメートルで走行中,赤色に変わったのを見て(青色から黄色に変わるのを認めた地点から33.8メートル進行している。)すぐに制動措置を講じ,赤色に変わったのを見た地点から5.5メートル進んだ,停止線の手前1.4メートルの位置で停止したところ,その一,二秒後,同交差点手前の横断歩道を右から左に向けて横断を始めていた被害者を発見し,その後被害者が約3歩歩いたところで本件車両と衝突するのを目撃した。Fがこの衝突を目撃したのは,赤色の対面信号を認めてから最低でも5秒は経過していた。 第3 次に,本件事故当時,本件車両に同乗していたC及びEの各供述内容とそれらの信用性について,順次検討する。 1 2列目助手席後部に同乗していたCの供述について(1) Cは,検察官の事情聴取に対し,大要,以下のとおり供述している。 本件交差点入口手前約60メートル位(Cの実況見分時の指示説明によると,本件停止線の手前約66.2メートル)の地点で既に本件信号機が黄色信号になっているのに気付いた。その後,すぐのことで,同停止線手前約50メートル(同約48.4メートル)の地点で同信号機が黄色から赤色に変わった。当然,被告人は赤信号に従って停止するものと思っていたが,自分が赤信号に変わったのを見てすぐに,被告人はスピードを落とすどころか,逆に加速して交差点に突っ込んでいき,自分の体が後ろのシートに押されるような感じになった(Cの実況見分時の指示説明によると,加速した地点は本件停止線手前約31.1メートル)。自分の感じでは,加速しても60キロから70キロの範囲内だと思う。被告人は,加速する時に前方を見ていたので,当然,赤信号であることは分かっていて,加速したのだと思う。これほどの距離 1メートル)。自分の感じでは,加速しても60キロから70キロの範囲内だと思う。被告人は,加速する時に前方を見ていたので,当然,赤信号であることは分かっていて,加速したのだと思う。これほどの距離で赤信号であることに気付いておれば,当然,止まるべきであるし,運転手が私であっても,また誰であっても,当然,急ブレーキを掛けていたと思う。 (2) ところで,本件現場付近の国道10号線を対向直進中本件事故を現認したFの目撃状況(前記第2の・)に徴し,本件信号機は,本件衝突時の約5秒前に黄色信号から赤色信号に変わったことが認められるところ,被告人が時速約60キロメートル(秒速約16.67メートル)で走行したと仮定した場合,5秒間で約83メートル進行するから,衝突地点から停止線までの距離を差し引くと,本件車両が停止線手前約46メートルの地点を走行中に本件信号機が黄色信号から赤色信号に変わったことになる(なお,黄色信号から赤色信号に変わったのが本件衝突時の6秒前なら,停止線手前約63メートルの地点)。もとより,この数値は,Fの感覚に基づいて算出されたものであり,かつ本件車両の速度の変化等を考慮しないものであるものの,少なくとも本件車両が本件交差点入口を走行中に本件信号機が黄色信号から赤色信号に変わったことは否定されるというべきである。これによれば,本件信号機の信号が,本件停止線の手前約50メートルの地点で黄色から赤色に変わったとの前記C供述は,Fの目撃状況から導かれる事実と符合しているということができる。 そして,Cの上記供述は,本件事故から5日後という,Cの記憶がよく保持されていた時期に同人立会の下に実施された実況見分調書の内容に沿うものであるばかりでなく,Cは被告人の親しい友人であり,特段の事情がない限り,殊更被告人に不利な虚偽供述をすると ,Cの記憶がよく保持されていた時期に同人立会の下に実施された実況見分調書の内容に沿うものであるばかりでなく,Cは被告人の親しい友人であり,特段の事情がない限り,殊更被告人に不利な虚偽供述をするとは考え難いところ,そのような事情は見当たらないことや,検察官に対し,「当然,信号に従って止まるものと思っていたのに,止まるどころか,逆に少し加速して,赤信号の状態の交差点に突っ込むことが分かり,私は,一瞬『えっ』と思った。それは,信号は赤なのに,なぜ加速して交差点に突っ込むのだろう。こんな手前から赤で突っ込むと,右から車が出てきたり,人がいたら衝突してしまうと,ちょっと怖くなったからでした。そういうわけで,私は,前方をまともに見る勇気がなく,怖くて目のやり場がなかったため,前方から目を背け,右隣に坐っていたD君の方を見てい(た。)」などとその心情について,具体的な心理描写を含む詳細で迫真性に富んだ供述をしているところ,このような心情面を検察官に供述したことを公判廷においても自認していることが認められる。 (3) 以上の検討結果に照らし,Cの検察官に対する前記供述は,十分な信用性を有していると評価できる。 (4) これに対して,Cは,公判廷において,捜査段階での供述を覆し,要旨,次のように証言している。すなわち,「最初に本件信号機に気付いたのは,本件交差点入口から四,五〇メートル手前の地点で,その時,信号は青か黄色であったが,今はよく覚えていない。その後,交差点入口の横断歩道の手前約5メートルで同信号機が黄色から赤色になり,被告人は,交差点に入る前,交差点の入口辺りで時速約60,65キロメートルくらいまで加速した。」というのである。 しかしながら,Cの公判供述は,本件信号機が黄色信号から赤色信号に変わった地点という核心部分において,Fの目撃 点の入口辺りで時速約60,65キロメートルくらいまで加速した。」というのである。 しかしながら,Cの公判供述は,本件信号機が黄色信号から赤色信号に変わった地点という核心部分において,Fの目撃状況から導かれる事実(前記(2)及び第2の・)と明らかに矛盾する。また,Cは,前述したとおり,公判廷で,被告人が加速して本件交差点に進入する際,右方から車が出てきたり,横断歩行者がいたら衝突してしまうと思って「えっ」と思い,怖くなって,事故が起きなければいいと思って横を向いた事実を認めており,この点に関して検察官にした供述は間違いない旨述べているところ,Cの公判供述を前提にすれば,被告人の運転する本件車両は,本件信号機が黄色信号から赤色信号に変わった直後に本件交差点内に進入したことになるから,Cが上記のような衝突事故発生に対する強い不安を感じるとは到底考えられない。さらに,Cは,被害者は青色信号で渡っていたと証言しているが,本件信号機の作動状況(全赤が3秒間)に照らすと,本件交差点直前で赤色信号になったという上記証言とは相容れず,明らかに矛盾している。 そして,Cは,検察官の事情聴取に対し,概ね前記のような供述をしたことは認めつつ,間違いがあったと述べ,間違いを述べた理由について,検察官や警察官から強制されたことはないが,警察官から実況見分の際,「大体ここら辺やろうが」としつこく決めつけるように言われて,誤った調書になった,検察官に対しては警察官に対する供述と違うことを言ってはいけないと思ったと説明するに止まり,本件信号機の信号の色など親友である被告人の刑事責任に重大な影響を与えることが容易に認識できる事柄について,間違った内容の検察官調書に署名指印した理由として納得できる理由を示していない。加えて,その内容自体あいまいな部分が多く, る被告人の刑事責任に重大な影響を与えることが容易に認識できる事柄について,間違った内容の検察官調書に署名指印した理由として納得できる理由を示していない。加えて,その内容自体あいまいな部分が多く,迫真性も乏しいと言わざるを得ない。 以上の次第により,Cの上記公判供述は到底信用することはできない。 2 助手席に同乗していたEの供述についてEは,公判廷において,弁護人による反対尋問以降は,「最初に本件信号機を見た時には黄色であり,すぐに赤色に変わった,(信号が変わったばかりだったので)行けるっちゃないかなと思った」と供述する。 しかしながら,Eの公判供述によれば,距離ははっきりとしないものの,交差点の直前で赤色信号に変わったことになり,C証言と同様Fの目撃状況から導かれる事実(前記1の(2),(4)及び第2の・)と明らかに矛盾する。また,Eは,検察官からの主尋問に対しては,本件交差点の少し手前で,最初に本件信号機を見た時には赤色信号であった旨相反する証言をしているだけでなく,検察官調書では,本件停止線の手前約6.7メートル(平成14年3月24日付け実況見分調書(E立会)にいう①地点)で,本件信号機が赤色信号になっているのに気付き,「あら,被告人は赤で行きよっちゃ」と思った旨述べており,供述に変遷が見られる上,この変遷について,「実況見分の際に,赤信号に気付いた地点とされている地点(上記・地点)あるいはその手前の地点で,最初黄色信号に気付いたと警察官に述べたが,その位置からでは,そういう体勢(肘を窓際のところに乗せて右斜め上を見ている。)をしよったんじゃ信号は見れないと言われて,受け入れてもらえなかった」旨弁解するけれども,その内容自体意味不明であり,その立会の下実施された実況見分で上記・地点を(赤色)信号を見た位置とし いる。)をしよったんじゃ信号は見れないと言われて,受け入れてもらえなかった」旨弁解するけれども,その内容自体意味不明であり,その立会の下実施された実況見分で上記・地点を(赤色)信号を見た位置として指示説明し,その旨記載されていることや,同趣旨の検察官調書が作成されていることに照らし,不合理でもある。 以上に加えて,Eが,証言するに先だって裁判所職員に対し,被告人やその両親のいる前では供述できない旨申し出ていたのに,急きょ被告人及びその両親のいる前で証言することになった経緯や,その供述態度等を併せ考慮すれば,Eの冒頭掲記の公判供述は到底信用できるものではない。 第4 次に,被告人の捜査段階及び公判廷での各供述の信用性について検討する。 1 被告人は,捜査段階で,警察官らに対し,以下のとおり供述している。 (1) 平成14年3月27日付け警察官調書煙草を手に取ってハンドルを握ったあと,本件信号機を見ると車両用の信号が赤になっていた。この時,「あっ,赤だ,無理をすれば停止線付近で止まれる位の距離だ。」と思い,更に右側の交差道路から出てくる車はいないか,いなければこのまま行こうと思い,少し,アクセルを踏み込んで速度を上げた。この時,歩行者のことなどは全く念頭になく,交差道路から自車の進路に出てくる車の明かりなどが見えないかに,神経を集中した(なお,被告人は,平成14年3月25日付け実況見分調書(被告人立会)中の③地点で赤色信号を認めた旨供述しているところ,③地点と本件停止線との距離は,実況見分を実施したB警部補の証言によれば,約36.8メートルの地点であったことが認められる。)。 (2) 平成14年3月28日付け検察官調書煙草を手に取った後,本件信号機を見ると赤信号だった。強めにブレーキをかければ停止線辺りで止まることができる トルの地点であったことが認められる。)。 (2) 平成14年3月28日付け検察官調書煙草を手に取った後,本件信号機を見ると赤信号だった。強めにブレーキをかければ停止線辺りで止まることができると思ったが,交差点右側道路から出てくるような車のライトが見えなかったので,「止まるのは面倒だから,このまま行ってしまえ。」という気持ちで,少し加速させた。「その信号機のある交差点に横断歩道があることは,交差点に入る前に見て分かっていました。」しかし,横断歩道を渡る人がいるかどうかは念頭になく,確認することをしなかった。 (3) 平成14年4月25日付け検察官調書前記被告人立会の実況見分調書記載の・地点(本件停止線手前約36.8メートル)で本件交差点の車両用対面信号が赤色に変わっていたことに気付いた。 そのとき,直感で,交差点入口付近までの距離は30メートル以上はあると思い,直ちに急ブレーキを掛ければ,停止線付近で止まれる距離だと思ったが,「止まるのは面倒だから,このまま行ってしまえ。」と思った。自分が先頭車で,右方道路から交差点に入ろうとしている車も目に入らなかったので,横着構えて,このまま赤信号で突っ走り,早く交差点を抜けようと思った。早く交差点を通過しようと思い,少し加速した。自分のこれまでの運転経験からして,時速65から70キロメートルくらいの範囲のスピードだったと思う。本件交差点の入口と出口に横断歩道があることは分かっていたが,右方道路から車が来ないかどうかに集中して進行したため,横断歩道に対する注意がおろそかになった。右方道路からの車などがないようだったので,前方に視線を戻したところ,交差点出口側にある横断歩道を渡り始めている歩行者に気付いた。 2 これに対し,被告人は,第1回公判期日の被告事件に対する陳述で,赤色信号を 車などがないようだったので,前方に視線を戻したところ,交差点出口側にある横断歩道を渡り始めている歩行者に気付いた。 2 これに対し,被告人は,第1回公判期日の被告事件に対する陳述で,赤色信号を認めたのは本件停止線の手前約20メートルの地点であったと思うし,本件交差点に進入する際,速度を上げた覚えはない旨,その後の公判期日における被告人質問において,要旨,「交差点入口の15メートル手前で赤信号を認めたが,急ブレーキを踏んでも交差点の真ん中付近までは行ってしまい,危険であると思い,右から車が来ていないことを確認して,このまま抜けようと思って,交差点の真ん中辺りで少し加速した。」「加速したのとほとんど同時くらいに横断歩道を渡っている被害者が見え,1秒ないくらいで衝突した。」旨,いずれも捜査段階における前記各供述と相反する内容を述べている。 3 当裁判所は,被告人の捜査官に対する前記各供述調書に信用性が認められる反面,公判供述は信用できないと判断するものであるが,その理由は,以下のとおりである。 (1) 信用性の認められるCの検察官調書によれば,被告人が,本件信号機の信号が黄色から赤色に変わった直後,本件停止線の手前約31.1メートルの地点で加速した事実が認められるところ,被告人の捜査官に対する供述はこれに概ね符合する一方,被告人の公判供述はその事実と明らかに矛盾している。 (2) 被告人は,公判廷において,本件事故直後の実況見分時に,前記1記載の③地点につき,より交差点に近いところである旨2回くらい指摘したものの,見分官のBから,「これ以上近づくと前方を確認したときに本件信号機に目線が行かない」と言われ,聞き入れてもらえなかったと弁解する。 しかし,Bは,公判廷で証人として,被告人から上記のような指摘を受けたことはなく,Bが被 づくと前方を確認したときに本件信号機に目線が行かない」と言われ,聞き入れてもらえなかったと弁解する。 しかし,Bは,公判廷で証人として,被告人から上記のような指摘を受けたことはなく,Bが被告人に対し,「これ以上近づくと前方を確認したときに信号機に目線が行かない」などと言ったことはないと供述しているところ,被告人立会の上記実況見分時にBを補助していたG巡査部長もこれを裏付ける証言をしていること,本件停止線手前約36.8メートルより交差点寄りの地点では本件信号機に目線が行かないという客観的状況にないことは,上記G巡査部長が実施した,助手席に同乗していたE立会の実況見分において,Eが赤色信号を認めた地点として本件停止線手前約6.7メートルの地点を指示説明していることや,被告人は,本件信号機のうち,交差点出口に設置されている信号機を見た旨供述しているところ,前記平成14年3月25日付け実況見分調書記載の・地点より交差点寄りの地点でも同信号機が目線に入ることを自認していることなどからも明らかであって,このような客観的状況と符合しない事実関係を,事故直後に実施された実況見分において,当該事故の詳細を知らない実況見分担当警察官から押しつけられたとは到底考え難い。 (3) また,前記(2)の弁解は,その後の捜査機関による取調べや,観護措置決定手続時の裁判官による質問(なお,この際,非行事実中に,赤色灯火を認めた地点として,初めて「停止線手前約36.8メートルで」と付加されている。),少年審判,その後,危険運転致死の公訴事実による起訴後の勾留質問時のいずれにおいてもなされた形跡はなく,被告人自身,公判に至って初めてしたものであることを認めている。 この点について,被告人は,自己の認識と異なる事実関係について責任を問われようとしているこ いずれにおいてもなされた形跡はなく,被告人自身,公判に至って初めてしたものであることを認めている。 この点について,被告人は,自己の認識と異なる事実関係について責任を問われようとしていることを意識してはいたが,いったん供述した内容を変えてはいけないと思ったと弁解するが,異なった立場の者から,その都度,被疑事実や非行事実,更には公訴事実として告知を受け,弁解を述べる機会を与えられ,しかも,自己の刑事責任の存否に関わる重要な事柄について自己の認識と反していることを意識しつつ,なおそのような供述を続けるということは,被告人が当時未成年であり,かつ公訴提起まで弁護人,付添人が付いていなかったことを考慮しても不自然であると言うほかない。のみならず,被告人は,被害者を発見した地点(平成14年3月25日付け実況見分調書における④地点)については,捜査段階においてその供述を変えていることに鑑みても,その弁解を容易に採用できない。なお,供述内容を変更した点について,弁護人は,被告人が取調官からの指摘に合わせる形で訂正したものである旨主張するが,被告人としては,少なくとも,これを契機に実況見分時の指示説明について訂正ができないものではないことを認識できたはずであるから,上記結論を左右するものではない。 (4) さらに,弁護人は,前記のとおり,被害者を発見した地点について,捜査段階でその供述を変えていることなどを根拠に,被告人が事故直後のパニック状態で実況見分が行われた旨主張し,実況見分時の指示説明やそれに基づく捜査段階における供述の信用性を弾劾する。 なるほど,前記検察官調書によると,被告人は,供述を変えた理由として「今,冷静に振り返ってみると,もう少し前だった」旨説明しており,又一般に重大な事故を引き起こした運転者の心理を考えても,被 なるほど,前記検察官調書によると,被告人は,供述を変えた理由として「今,冷静に振り返ってみると,もう少し前だった」旨説明しており,又一般に重大な事故を引き起こした運転者の心理を考えても,被告人が事故直後通常の平静な気持ちでいることができなかったことは容易に想像されるものの,Bの公判供述や同乗していたC,E,Dの各公判供述からは,正確な指示説明が不可能ないし著しく困難であるほどのパニック状態であったことを窺わせる事情は見当たらず,被告人自身,事故直後に110番通報するなどの合理的な行動に出ていることに照らせば,被告人が平静さを失った面があったからといって,この点のみを取り上げて実況見分時の指示説明やそれに基づく捜査段階の供述における信用性を失わせるものと評価することはできない。 第5 以上認定の事実関係及び検討の結果を基にまとめると以下のとおりである。 1 前記第2で認定した事実関係に加えて,いずれも信用性の認められる,前記被告人の捜査官に対する各供述調書及び同乗者であるCの検察官調書などの関係証拠を総合すると,被告人は,時速約60キロメートルの速度で進行中,本件信号機が赤色信号を表示していることを,本件停止線の手前約36.8メートルの地点で認めたものの,先を急ぐ余り,制動措置を講じることなく,更に加速して時速約65ないし70キロメートルの速度で本件交差点内に進入したものと認めることができる。 2 そして,本件車両の停止距離を,公知の事実である路面の摩擦係数や反応時間を基に計算すると,路面の摩擦係数を0.55~0.7(乾燥したアスファルト普通舗装),反応時間を0.6~0.8秒(運動神経の普通の人)とし,速度時速60キロメートルとした場合,約30.2ないし39.1メートルと算出される。 なお,本件車両は,アンチロック・ブレーキ・ ルト普通舗装),反応時間を0.6~0.8秒(運動神経の普通の人)とし,速度時速60キロメートルとした場合,約30.2ないし39.1メートルと算出される。 なお,本件車両は,アンチロック・ブレーキ・システムが装備されていたことからして,より短距離で停止できたものと推測される。 加えて,本件車両に同乗していたCが,前記第3の1(1)のとおり,検察官に対して,被告人が赤信号を認めて加速したことを前提として,「これほどの距離で赤信号に気付いていれば,当然止まるべきであるし,自分は勿論,運転手が誰であっても急ブレーキをかけていたと思う」旨供述していることも併せ考慮すると,被告人が,赤色信号を認めた時点(本件停止線手前約36.8メートル)で直ちに制動措置を講じていれば,本件停止線の手前,あるいは長くても同停止線を約2.3メートル越えた地点で停止できたと認められる。(ちなみに,本件停止線から本件交差点入口の横断歩道の外側までの距離は,約3メートルである。) 3 そして,このような事情に加えて,被告人自身,捜査段階から公判廷に至るまで一貫して,時速60キロメートルの速度で走行した場合の停止距離は30メートルであると認識していた旨供述していることや,捜査段階においては,赤色信号を認めた時点で急制動を掛ければ本件停止線付近で停止できると認識していた旨の供述を終始維持していたことなどを総合すれば,被告人は,赤色信号を認めた時点で,急制動をすれば本件停止線付近で停止できると確定的に認識していたことが認められる。 第6 そこで,危険運転致死罪の成否について検討を進める。 刑法208条の2第2項後段の危険運転致死罪の構成要件である赤色信号を「殊更に無視し」とは,故意に赤色信号に従わない行為のうち,およそ赤色信号に従う意思のないものをいうと解される。 これ める。 刑法208条の2第2項後段の危険運転致死罪の構成要件である赤色信号を「殊更に無視し」とは,故意に赤色信号に従わない行為のうち,およそ赤色信号に従う意思のないものをいうと解される。 これを本件について見るに,被告人は,制限最高速度を超える時速約60キロメートルで走行中,本件停止線の手前約160メートルの地点で,本件交差点及び信号機の存在を確認し,同交差点に右方から進入する自動車等のあり得ることを認識したが,本件信号機の表示信号が青色であったことに気を許して約五,六秒間も脇見をし,その後,赤色信号であることを確定的に認識し,直ちに制動措置を講じれば本件停止線付近で停止することが客観的に可能であり,かつ被告人自身もその旨確定的に認識するとともに,本件交差点の入口と出口にそれぞれ横断歩道が設置されており,横断歩行者等のあり得ることを認識したにもかかわらず,早く目的地に到着したいという気持ちなどから,横断歩行者の有無については全く考慮を払わず,右方から進入する自動車等に注意しつつも,更に時速約65ないし70キロメートルに加速して本件交差点に進入したというのであり,そこには同交差点を信号に従って通行する自動車等や自車の同乗者,なかんずく,横断歩行者など他者の生命・身体の安全を顧慮する態度を全く看て取ることはできず,被告人にはおよそ赤色信号に従う意思が欠けていたと言わざるを得ない。 そうしてみると,被告人は赤色信号を「殊更に無視し」たものと認められるのであって,他の要件に欠けるところはないから,被告人には刑法208条の2第2項後段の危険運転致死罪が成立するという結論になる。 被告人及び弁護人の前記主張は,理由がなく,採用できない。 (適用法令)罰条刑法208条の2第2項後段,1項前段未決勾留日数の算入刑法21条 死罪が成立するという結論になる。 被告人及び弁護人の前記主張は,理由がなく,採用できない。 (適用法令)罰条刑法208条の2第2項後段,1項前段未決勾留日数の算入刑法21条訴訟費用の処理刑訴法181条1項ただし書(被告人に負担させない。)(量刑事情)本件は,被告人が,夜間,普通乗用自動車を運転して,指定最高速度50キロメートル毎時の幹線道路を時速約60キロメートルの速度で走行中,信号機により交通整理の行われている交差点を通過するに当たり,脇見をしていたため,同交差点に設置された車両用対面信号が既に赤色に変わっているのを停止線の手前約36. 8メートルの地点で初めて気付き,その際,直ちに制動措置を講じれば停止線付近で停止することが可能であり,かつ被告人もその旨認識していたにもかかわらず,先を急ぐあまり,更に時速約65ないし70キロメートルに加速しながら,赤色信号を殊更に無視して交差点に進入したことにより,折から交差点出口の横断歩道上を青色信号に従って歩行中の被害者に自車前部を衝突させて跳ね飛ばし,死亡させたという事案であるところ,被告人は,進路前方に信号交差点が存在すること及び自車の速度が約60キロメートル毎時であることを十分認識しながら,煙草を取ろうとして約五,六秒間も脇見をし,前方注視,とりわけ車両用対面信号の表示確認を怠ったまま進行したもので,その運転態度は,自動車運転者としての自覚に欠ける甚だ危険なものと言わざるを得ないが,その挙げ句,同対面信号が既に赤色に変わっていることに気付いても,単に早く目的地に着きたいなどという身勝手な理由から,殊更赤色信号を無視して交差点を通過することを決意し,更に加速して制限速度を約15ないし20キロメートル上回る高速度で交差点に進入したものであり,交差点を信号に に着きたいなどという身勝手な理由から,殊更赤色信号を無視して交差点を通過することを決意し,更に加速して制限速度を約15ないし20キロメートル上回る高速度で交差点に進入したものであり,交差点を信号に従って通行する自動車等,特に横断歩行者など他者の生命・身体の安全を全く顧慮しない,無謀かつ極めて危険で悪質な行為であって,厳しい非難に値する。 被害者は,当時42歳と働き盛りで,警察署の交通課長の要職にあり,これまで交通警察活動等に従事してきたものであるところ,自らは青色信号に従って横断歩道上を歩行していたもので,全く落ち度がないにもかかわらず,被告人の無謀かつ極めて危険な運転により跳ね飛ばされて瀕死の重傷を負い,意識が完全に戻らないまま翌日の夕方には,妻と幼い娘二人を後に残して逝かなければならなかったものであり,その無念さは想像に難くない。また,一家の大黒柱であった被害者を突如失った家族の精神的打撃,悲しみは余りにも大きく,その結果は重大であって,残された遺族らの被告人に対する処罰感情が峻烈であることも当然である。 被告人は,公訴提起された段階までは公訴事実(公訴提起以前は被疑事実ないし非行事実)を認めていたが,公判廷では赤色信号を認めた地点について捜査段階の供述を覆し,これと相反する供述をしたほか,不合理な弁解を繰り返しているのであって,真摯に反省しているのか疑問なしとしない。 以上の諸事情に照らすと,被告人の刑事責任はまことに重大である。 そうすると,被告人が,犯行時少年であり,現時点でも成人後二か月しか経過していない若年者であること,事故直後自ら警察に通報するなど所要の措置を講じていること,被害者の死亡に伴う経済的損害については,現時点で示談は成立していないものの,今後その額が確定次第,自賠責保険によって賄われない分についても任 直後自ら警察に通報するなど所要の措置を講じていること,被害者の死亡に伴う経済的損害については,現時点で示談は成立していないものの,今後その額が確定次第,自賠責保険によって賄われない分についても任意保険から支払いがされる見込みであること,被告人の母親が当公判廷において今後の監督を約束していることなど,被告人のために酌むべき事情もあるが,これらの事情を最大限に考慮しても,その刑事責任は重く,相当期間の実刑をもって臨むほかない。 よって,主文のとおり判決する。 (検察官千代延好晃,私選弁護人成見正毅各出席)(求刑ー懲役6年)平成14年12月26日宮崎地方裁判所刑事部裁判長裁判官小松平内裁判官細野敦裁判官蛭田振一郎
▼ クリックして全文を表示