令和6年2月27日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和4年(ワ)第251号損害賠償請求事件口頭弁論終結日令和5年11月7日判決 主文 1 被告は、原告に対し、150万円及びこれに対する令和4年3月10日から支払済みまで年3分の割合による金銭を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用はこれを7分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。 4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求被告は、原告に対し、1100万円及びこれに対する令和4年3月10日から支払済みまで年3分の割合による金銭を支払え。 第2 事案の概要 1 事案の概要⑴ 被告は、原告の父親であるAから献体を受けたが、遺体の解剖実習及び火葬後、原告に対し連絡をせず、Aの遺骨(以下、「本件遺骨」という。)の返還をしなかった。 ⑵ 本件は、原告と被告の間で、原告が被告に対してAの遺体を引き渡し、被告が解剖実習後に火葬して本件遺骨を原告に返還することを約束する使用貸借契約(以下「本件契約」という。)が成立したことを前提に、上記⑴を理由に、原告が、被告に対し、本件契約による本件遺骨の返還債務に係る債務不履行に基づく損害賠償請求として、慰謝料及び弁護士費用合計1 100万円及びこれに対する令和4年3月10日(訴状送達日の翌日)か ら支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提事実⑴ 当事者被告は、B大学を設置・運営する学校法人である。 原告は、被告へ献体をしたAの子である。 ⑵ 献体制度及び遺骨返還までの業務手順(乙1、5、6、15、証人C) 2 前提事実⑴ 当事者被告は、B大学を設置・運営する学校法人である。 原告は、被告へ献体をしたAの子である。 ⑵ 献体制度及び遺骨返還までの業務手順(乙1、5、6、15、証人C)ア献体とは、遺体を医学教育・研究のために大学へ提供し、医学生の解剖や外科的訓練等のために用いることで医学・医療の発展と安全性向上を図る制度であって、故人が生前に献体登録手続を取り、かつ、遺族が承諾した場合 に行われる。 イ被告は、献体を受けた遺体について、解剖実習等を実施した後、遺体を火葬し、遺骨を遺骨安置室に安置する。なお、平成26年当時、被告は、年間約50体の遺体を解剖実習に使用し、遺骨安置室に約400柱の遺骨を保管していた。 ウ被告の担当事務員(平成26年当時は1名)は、遺骨を返還する準備が完了(具体的には、火葬後、遺族に送付する書類の準備が整い、被告における決裁が終了した段階。遺骨を返還する準備等には、約1、2か月を要する。)した時点で、遺族に対し、遺骨返還について案内し、遺族との間で、遺骨の返還方法(全て返還する方法、本骨(喉仏)のみ返還し、胴骨は永代供養と する方法、返還せずに被告にて合祀する方法がある。)や返還する場合の日時・場所を調整する。 エ担当事務員は、上記日程調整の結果をもとに、遺骨返還リストを作成し、担当技術員と遺骨返還リストを共有する。担当技術員は、遺骨返還リストに基づき、遺骨安置室から1柱ずつ遺骨を運び出し、担当事務員が調整した日 時・場所において、遺族に対し、遺骨を返還する。 ⑶ Aの献体及びその後の状況(甲1、2、9の1・2、乙7、12、15、証人D、証人C)ア Aは、平成15年12月20日、被告に対し、献体登録の申込みをした。 Aは、平成26年2月1 ⑶ Aの献体及びその後の状況(甲1、2、9の1・2、乙7、12、15、証人D、証人C)ア Aは、平成15年12月20日、被告に対し、献体登録の申込みをした。 Aは、平成26年2月13日、死亡し、原告は、同月15日、Aの遺体を献体として被告に引き渡したところ、これによって、原告が、被告に対して、 Aの遺体を引き渡し、被告が、Aの遺体を、公衆衛生の向上・医学教育・研究のために解剖実習において無償で使用し、実習終了後は火葬して、遺骨を原告に返還することを約束する使用貸借契約(本件契約)が成立した。 イ被告は、Aの遺体について、平成27年1月13日から同年3月6日まで、解剖実習を実施し、同年4月18日、火葬を行い、本件遺骨は、被告の遺骨 安置室において安置された。なお、解剖実習の際、原告から被告に対して解剖実習の案内はされなかった。 ウ原告は、令和3年10月5日、被告に対して、本件遺骨について問い合わせたところ、被告から原告に対して遺骨返還の案内がされず、本件遺骨の返還が滞っていたことが判明した。 エ被告の教授であるDと事務部長であるCは、令和3年10月27日、原告宅を訪問し、原告に謝罪するとともに、本件遺骨が返還されなかった経緯を説明した。 3 争点(債務不履行の内容及び損害)に関する当事者の主張(原告の主張) 被告が約6年半にわたり遺骨の返還を怠ったことにより、原告は、被告から返還しようとする遺骨が本件遺骨であることの確信を持つことが困難となっており、本件遺骨の返還を受けることが不可能となり、本件遺骨を弔う機会を失ったものというべきである。 また、被告は、遺骨が返還されていないことが発覚した後も不誠実な対応に 終始したことも考慮すれば、原告が被った精神的苦痛を慰謝するための費 、本件遺骨を弔う機会を失ったものというべきである。 また、被告は、遺骨が返還されていないことが発覚した後も不誠実な対応に 終始したことも考慮すれば、原告が被った精神的苦痛を慰謝するための費用と しては、1000万円を下回ることはなく、相当因果関係のある弁護士費用として100万円を認めるのが相当である。 (被告の主張)被告は、本件遺骨を埋火葬許可証の原本と共に遺骨安置室に安置しており、本件遺骨と他の遺骨を混同するおそれはないから、本件遺骨を返還することは 可能である。また、被告は、本件遺骨の返還がされていないことが発覚された後も、すぐに謝罪に赴くなどし、同様の遺骨の未返還の遺族との均衡も踏まえて誠実に対応しており、原告の主張する慰謝料額は高額にすぎる。 第3 当裁判所の判断 1 前記第2の2の前提事実のとおり、被告は、平成27年4月18日にAの遺体 を火葬しており、本件遺骨の返還準備等に要する期間を考慮しても、同年6月下旬には本件遺骨を返還すべきであったといえ、6年半にわたり、原告に対して本件遺骨の返還をしようとしなかったことは、本件契約の履行を怠ったものといわざるを得ない。 2 そして、被告が、本件遺骨を返還しなかった原因は、①担当事務員が、原告に 対して行うべき通知を一切しなかったこと、②担当事務員が、後任者に対する引継ぎを徹底せず、必要な情報共有をしなかったこと、③献体に係る事務処理を点検する体制が整えられていなかったこと、④本件遺骨の遺骨安置室データ上の区分は「返還対象」であるが、「胴骨のみ永代供養」と誤入力され、それを基に、本件遺骨が永代供養の遺骨を安置する区画に配置されていたこと、⑤遺骨安置室デ ータの入力後にダブルチェックをする体制がなく、遺骨の現物とデータを照合するなどの点 養」と誤入力され、それを基に、本件遺骨が永代供養の遺骨を安置する区画に配置されていたこと、⑤遺骨安置室デ ータの入力後にダブルチェックをする体制がなく、遺骨の現物とデータを照合するなどの点検作業を定期的に行わなかったことであると認められる(甲2、乙15、証人C)。そうであれば、被告の遺骨管理について、事務担当者の職務上の誤りがあったのみならず、かかる過誤を防止し、また、何らかの過誤が発生した場合にこれを発見・是正する体制がおよそ構築されていなかったものというべきで あり、このような杜撰な管理体制のため、本件遺骨が現に6年半にわたって原告 に返還されなかったことに照らしても、被告の上記帰責性は決して軽いものではない。 3 原告は、献体から遺骨の返還までの一連の手続が適正に行われるという信頼を前提として、Aに対する敬愛や追慕の念を措いて、医学の発展や教育のため、またAの生前の意向を尊重して献体に同意したものと認められ(甲9の1・2、原 告本人)、そうであれば、被告による本件遺骨に係る処理は、この信頼を大きく損なわせるものである上、我が国において、遺族が故人を敬愛や追慕の情をもって弔うことと遺骨の存在は密接に結びついており、かかる宗教的感情は人格的利益として一定の保護を受けるべきものということができることからしても、原告が6年半にわたって本件遺骨が原告に返還されなかったことにより被った精神的 苦痛も決して軽視されるべきものではない。 他方、被告は、本件遺骨を埋火葬許可証と共に遺骨安置室に安置しており(乙3の1・2、乙4)、遺骨返還業務に係る管理体制は杜撰であったにせよ、遺骨自体を粗雑に扱っていたこと等をうかがわせる証拠はないことからしても、本件遺骨と他の遺骨とが混同していたこと等の具体的な可能性があるという 乙4)、遺骨返還業務に係る管理体制は杜撰であったにせよ、遺骨自体を粗雑に扱っていたこと等をうかがわせる証拠はないことからしても、本件遺骨と他の遺骨とが混同していたこと等の具体的な可能性があるということはで きず、本件遺骨の返還が不可能であるとまでは認められない。 4 以上の事情を総合的に考慮すれば、本件契約の債務不履行による原告の精神的苦痛を慰謝するためには、150万円が相当であると認められる。もっとも、原告に生じた弁護士費用との間の相当因果関係を認めることはできない。 なお、原告は、①被告の教授であるDが、原告に対し、遺骨安置室データに誤 りが生じた原因について、虚偽の説明をしたこと、②被告がホームページ上で遺骨の返還漏れについて公表するにあたり事実の隠ぺいがあったこと、③被告が原告に対して提示した金額や和解協議での態度が不誠実であったことを慰謝料増額事由として主張する。しかし、①新任の技術員がエクセルデータの書式を変えたいと言ったことは、遺骨安置室データに誤りが生じた原因としてあり得るから、 Dが虚偽を述べたとは認められず、②遺骨の返還漏れという重要な点について公 表していることを踏まえれば(甲4)、事実関係を隠ぺいする意図で、原因の一部を公表しなかったとは認められず、③被告が原告に提示した金額や和解協議における対応が、原告にとって受け入れがたいものであったとしても、被告に遺族感情を悪化させる意図があったとか、慰謝料増額事由となるような不誠実な態度があったものとまでは評価することはできず、いずれも採用できない。 第4 結論よって、原告の請求は、150万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、その限度で認容し、その他は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する 第4 結論 よって、原告の請求は、150万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、その限度で認容し、その他は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。 神戸地方裁判所第4民事部 裁判長裁判官 河本寿一 裁判官 藤田晃弘 裁判官 加藤明日美
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