令和5(わ)356 強盗致死、有印私文書偽造・同行使、詐欺、電磁的公正証書原本不実記録・同供用被告事件

裁判年月日・裁判所
令和6年12月12日 福岡地方裁判所 小倉支部
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判決文本文11,218 文字)

令和6年12月12日宣告令和5年(わ)第356号、第377号、第442号、第451号、第511号、第577号強盗致死、有印私文書偽造・同行使、詐欺、電磁的公正証書原本不実記録・同供用被告事件判決 主文 被告人を懲役20年に処する。 未決勾留日数中270日をその刑に算入する。 福岡地方検察庁小倉支部で保管中の「お引出し用(払戻請求書)」1通(令和6年領第336号符号428)及び「普通預金払戻請求書」1通(令和5年領第1919号符号1)の各偽造部分を没収する。 理由 (罪となるべき事実)第1(令和5年12月26日付け公訴事実関係)被告人は、生活保護法に基づく生活扶助等の名目で現金をだまし取ろうと考え、令和4年12月19日及び同月22日、北九州市小倉北区大手町1番1号の北九州市小倉北福祉事務所及び同市小倉北区(以下省略)の被告人方において、同事務所職員らに対し、真実は、同年9月1日から同年11月30日までの間に、被告人の知人であるAから、生活扶助等の金額算定の基礎となる収入である合計40万9747円の振込入金(以下「本件入金」という。)を得ていたのに、これを秘し、被告人及び同居家族に前記期間の収入がない旨うその内容を記載した収入申告書等を提出するなどして生活扶助等の給付を申請し、前記職員らを介して、同事務所所長をして、被告人及び同居家族に収入が全くないものとして算定した金額の生活扶助等を給付すべきである旨誤信させて、同 年12月26日、被告人に対する同月分及び令和5年1月分の生活扶助等の給付を決定させ、よって、令和4年12月27日、同市小倉北区大手町1番1号小倉北区役所1階(以下省略)において、手渡しにより、生活扶助等の名目で合計21万9938円の給付を受け、正当に支給を受けるべき金額 決定させ、よって、令和4年12月27日、同市小倉北区大手町1番1号小倉北区役所1階(以下省略)において、手渡しにより、生活扶助等の名目で合計21万9938円の給付を受け、正当に支給を受けるべき金額との差額合計19万1966円の交付を受け、もって人を欺いて財物を交付させた。 第2(令和5年11月27日付け公訴事実第1関係)被告人は、長女であるBと共謀の上、令和5年3月17日頃、前記被告人方において、行使の目的で、ほしいままに、C店発行の領収証に、数字等が記載された紙を貼り付けて、合計金額を「¥30,390-」、商品名及び金額を「センタクキ¥26,900」「ソウジキ¥3,490」などと改変した上、これを複写し、もって同店発行の領収証1通を偽造した上、同月17日、同市小倉北区(以下省略)において、被告人が、小倉北区役所保護第二課職員に対し、前記偽造に係る同店発行の領収証1通を、真正に同店から発行された領収証であるかのように装って提出して行使した。 第3(令和5年11月27日付け公訴事実第2関係)被告人は、Bと共謀の上、同月22日頃、前記被告人方において、行使の目的で、ほしいままに、D店発行の領収証に、数字等が記載された紙を貼り付けて、合計金額を「¥24,700-」、購入日時を「2023/03/01/11:22」、商品名及び金額を「ソウジキ¥12,600」「スイハンキ¥12,100」などと改変した上、これを複写し、もって同店発行の領収証1通を偽造した上、同月22日、同市小倉北区大手町1番1号の小倉北区役所において、被告人が、同区役所保護第二課職員に対し、前記偽造に係る同店発行の領収証1通を、真正に同店から発行された領収証であるかのように装って提出して行使した。 第4(令和5年10月27日付け公訴事実関係)被告人は、Aと共謀 二課職員に対し、前記偽造に係る同店発行の領収証1通を、真正に同店から発行された領収証であるかのように装って提出して行使した。 第4(令和5年10月27日付け公訴事実関係)被告人は、Aと共謀の上、令和5年5月17日、前記小倉北区役所において、 Aが、情を知らない同区役所職員に対し、真実は、Aが同市小倉北区(以下省略)に住所を異動した事実がないのに、同所に住所を異動した旨の内容虚偽の住民異動届を提出して受理させ、その頃、情を知らない北九州市市民文化スポーツ局市民総務部区政事務センター職員らをして、同届に基づき、権利義務に関する公正証書の原本として用いられる電磁的記録である住民基本台帳システムにその旨不実の記録をさせ、即時これを北九州市役所が管理するサーバー内に備え付けさせて公正証書の原本としての用に供した。 第5(令和5年9月8日付け公訴事実[訴因変更後のもの]関係)被告人は、Aと共謀の上、Aが被告人及びその子らに金銭を融通するためにAの実姉であるEに借金の申込みに行くに当たり、Eが応じない場合には預金通帳等を強取しようと考え、令和5年6月2日午後零時50分頃から同日午後1時29分頃までの間に、福岡県遠賀郡水巻町(以下省略)のE方において、Aが、E(当時52歳)に対し、催涙スプレーを噴射し、殺意をもって前頚部を圧迫し、両手首及び両足首を結束バンドで緊縛するなどの暴行を加え、よって、その頃、同所において、Eを頚部圧迫による窒息により殺害した上、E管理に係る通帳3冊及び印鑑1個等を強取し、さらに、同所付近において、E管理に係る軽四輪乗用自動車1台(時価約1万円相当)を強取したが、被告人には殺意がなかった。 第6(令和5年9月26日付け公訴事実関係)被告人は、Aと共謀の上、Eから強取したF銀行G支店発行のE名義の普通 四輪乗用自動車1台(時価約1万円相当)を強取したが、被告人には殺意がなかった。 第6(令和5年9月26日付け公訴事実関係)被告人は、Aと共謀の上、Eから強取したF銀行G支店発行のE名義の普通預金通帳及び「H」と刻した印鑑を利用して、預金払戻しの名目で現金をだまし取ろうと考え、令和5年6月2日午後2時43分頃、同県中間市(以下省略)の同支店において、Aが、行使の目的で、同支店備付けの「お引出し用(払戻請求書)」の「おなまえ」欄に「E」、「金額」欄に「¥738000」などと各記入し、「お届印」欄に前記印鑑を押印し、もってE名義の「お引出し用(払戻請求書)」1通(令和6年領第336号符号428)を偽造した上、その頃、同 所において、同支店従業員に対し、同請求書を真正に成立したもののように装い、前記通帳と共に提出して行使し、現金73万8000円の払戻請求をし、同従業員をして、同請求が正当な権限に基づくものであると誤信させ、よって、その頃、同所において、同従業員から現金73万8000円の交付を受け、もって人を欺いて財物を交付させた。 第7(令和5年10月31日付け公訴事実関係)被告人は、Aと共謀の上、Eから強取したI銀行J支店発行のE名義の普通預金通帳及び前記印鑑を利用して、預金払戻しの名目で現金をだまし取ろうと考え、令和5年6月2日午後2時52分頃、同市(以下省略)の同銀行K支店において、Aが、行使の目的で、同支店窓口に設置のタブレット端末を操作するなどして、「口座番号」欄に「(省略)」、「金額」欄に「¥290,000」などと各記載された「普通預金払戻請求書」1通を、同窓口に設置されたプリンターで印字させ、同請求書の「おなまえ」欄に「E」と記入し、「お届出印」欄に同支店従業員をして前記印鑑を押印させ、もってE名義の「普通 記載された「普通預金払戻請求書」1通を、同窓口に設置されたプリンターで印字させ、同請求書の「おなまえ」欄に「E」と記入し、「お届出印」欄に同支店従業員をして前記印鑑を押印させ、もってE名義の「普通預金払戻請求書」1通(令和5年領第1919号符号1)を偽造した上、その頃、同所において、前記従業員に対し、同請求書を真正に成立したもののように装い、前記通帳と共に提出して行使し、現金29万円の払戻請求をし、同従業員をして、同請求が正当な権限に基づくものであると誤信させ、よって、その頃、同所において、同従業員から現金29万円の交付を受け、もって人を欺いて財物を交付させた。 (事実認定の補足説明)第1 事案の概要 1 公訴事実の概要本件は、被告人が、①生活保護の申請に際し、知人であるAから振込入金(本件入金)を受けた事実を福祉事務所職員らに申告しないことにより本来よりも多額の生活保護費を受給したとされる詐欺(判示第1)、②娘であるBと共謀の 上、2度にわたり、商品名及び金額等を改変したレシートを偽造して区役所職員に提出したとされる有印私文書偽造・同行使(判示第2及び第3)、③Aと共謀の上、Aが、自身の住所に関する内容虚偽の住民異動届を区役所職員に提出したとされる電磁的公正証書原本不実記録・同供用(判示第4)、④Aと共謀の上、Aが、自身の姉であるEに催涙スプレーを噴射してその前頚部を圧迫するなどの暴行を加えてEを殺害し、E名義の通帳及び印鑑等を強取した(ただし被告人には殺意がなかった)とされる強盗致死(判示第5)、⑤Aと共謀の上、Aが、銀行2行において、それぞれEから強取した印鑑を使用してE名義の払戻請求書を偽造し提出するなどして不正に預金の払戻しを受けたとされる有印私文書偽造・同行使、詐欺(判示第6及び第7)からなる事案であ 、銀行2行において、それぞれEから強取した印鑑を使用してE名義の払戻請求書を偽造し提出するなどして不正に預金の払戻しを受けたとされる有印私文書偽造・同行使、詐欺(判示第6及び第7)からなる事案である(以下、判示第5から第7を「水巻事件」と総称する)。 2 争点主たる争点は、被告人が生活扶助等の給付申請の際に本件入金を収入として申告しなかったことが詐欺に当たるか(争点1・判示第1関係)及び水巻事件における被告人とAの間の共謀の有無・内容(争点2・判示第5から第7関係)である。また、Eを殺害したのがAであることにも争いがないわけではない(判示第5関係)。 第2 当裁判所の判断 1 被告人の生活状況等関係各証拠によれば、被告人の生活状況等に関し、以下の事実が認められる(特段の争いもない)。 ⑴ 被告人は、本件当時、すなわち令和4年9月頃から令和5年6月頃までの間、北九州市小倉北区内の被告人方で長女のB(当時23ないし24歳)と同居して生活しており、また、同区内で別居する長男のL(当時26歳。被告人、B及びLを以下「被告人一家」と総称する。)とも毎日のように顔を合わせていた。Bは、令和4年5月頃に当時の勤務先を退職して無職となった が、在職時の出来事が原因で精神的に不安定であったことから、被告人も仕事をせずにBを看護するなどしていた。被告人及びBは、同年12月から生活保護を受けていた。一方、Lは、令和5年1月頃には生活保護を受けていたが、同年2月に就職した。 ⑵ 被告人とAは、平成15年頃に当時の勤務先で同僚となって以来の知り合いであった。Aはかつて福岡県遠賀郡水巻町で子らと生活していたが、平成20年頃に子らを残して失踪し、本件当時は、北九州市八幡西区(以下省略)を生活拠点として、売春で金銭を稼ぎつついわゆるホーム り合いであった。Aはかつて福岡県遠賀郡水巻町で子らと生活していたが、平成20年頃に子らを残して失踪し、本件当時は、北九州市八幡西区(以下省略)を生活拠点として、売春で金銭を稼ぎつついわゆるホームレスとして生活していた。 2 争点1(被告人が生活扶助等の給付申請の際にAからの本件入金を収入として申告しなかったことが詐欺に当たるか)について⑴ 関係各証拠によれば、Aは、平成16年頃以降、被告人、B及びL名義の預金口座への入金を続けており、令和4年9月1日から同年11月30日までの間にも、その一環として「M」名義で1回当たり数千円から1万円余りを毎日のように被告人名義の預金口座に振込入金していたこと(本件入金)が認められる。B及びLは、被告人とAが互いに金を貸し借りしていた旨一致して供述し、このことは被告人の当初供述にも表れている。そして、本件入金当時の被告人世帯(被告人及びB)に見るべき収入がなかったこと、本件入金のあった口座から被告人らの携帯電話料金が毎月引き落とされていたこと、同様の入金が途絶えた令和5年2月頃には被告人がAに対して「主今日銀行入ってませんがどういう事ですか。家賃光熱費払えません。」と生活費に充てるための入金を督促するメッセージを繰り返し送信していたことに照らせば、本件入金の実態は、少なくともその一部を被告人世帯のために費消することができるものであり、令和4年12月以降も本件入金と同様の入金が継続し、被告人世帯がこれを生活の財源とすることが見込まれていたということができ、被告人も本件入金をそのようなものとして認識していたこと が認められる。 これに対し、被告人は、平成16年頃にAから「指示に従わなければ被告人やその家族に危害を加える」旨脅され、その指示に従って被告人管理の預金口座を使わせるようにな たこと が認められる。 これに対し、被告人は、平成16年頃にAから「指示に従わなければ被告人やその家族に危害を加える」旨脅され、その指示に従って被告人管理の預金口座を使わせるようになって以降、本件当時まで、Aが被告人管理の預金口座に振り込んだ金は、全てAの指示に従って引き出してはAに渡していたのであって、Aからの入金の実態はAからの「預り金」にすぎず、被告人がこれに手を付けたことはない旨弁解する。しかしながら、Aが被告人やその家族への危害をほのめかして被告人をその指示に従わせていたという点については、そもそも被告人が述べるAの脅しの内容(要旨、Aの正体は北朝鮮で高い身分を有する人物であり、その気になれば関係者を利用して被告人らを拉致したり殺害したりすることができる、と約20年間繰り返し言い続けたというもの)が荒唐無稽である上、本件当時の被告人が、Aに対してたびたびAを口汚くののしる内容のメッセージを送信していたこととも整合せず、到底信用することができない。また、本件入金の中には、Aによる入金の直後に引き出されているものも少なからず存在するが、このことは全てが預り金であるという被告人の供述では説明がつかず、被告人の供述はこの点でも信用できない。 ⑵ 被告人世帯に支給される生活扶助等の金額は、国の定める基準により算出される同世帯の1か月当たりの最低生活費から受給月における収入の合計額を控除して算定されるところ、この収入は、申請日の直前3か月における世帯全員に対する入金のうちその趣旨等からして今後も継続する見込みがあるものから推計される。本件入金の実態が前記のとおりである以上、被告人世帯に支給される生活扶助等の金額を算定するに当たっては、本件入金から推計される受給月における収入が控除されることになるから、被告人が本件入金 される。本件入金の実態が前記のとおりである以上、被告人世帯に支給される生活扶助等の金額を算定するに当たっては、本件入金から推計される受給月における収入が控除されることになるから、被告人が本件入金を申告しなかったことは、生活扶助等の金額算定の基礎となる重要な事項を偽るものとして、詐欺罪における欺罔行為に当たる。 そして、世帯における生活の財源の不足分を補うという生活保護の制度趣旨に鑑みれば、本件入金が生活扶助等の金額算定の基礎となる重要な事項であることはいわば当然というべきであるから、本件入金の実態を前記のとおり認識していた被告人には、本件入金を申告しないことが欺罔行為に当たることの認識、すなわち詐欺の故意も認められる。 ⑶ よって、被告人が生活扶助等の給付申請の際に本件入金を収入として申告しなかったことについて詐欺罪が成立する。 3 争点2(水巻事件における被告人とAの間の共謀の有無・内容)について⑴ア関係各証拠によれば、Aは、令和5年5月下旬頃、消費者金融からの借入れを試みるもうまくいかなかったこと、その頃、被告人やBの面前で、催涙スプレーやスタンガンを使えばEの所から金を取ってくることができるのではないかなどと述べたりしていたこと、同月25日には、被告人及びBと共に福岡県福津市内の防犯グッズ店に行って従業員から催涙スプレーの効果について説明を受けるなどしたこと、事件当日には、被告人が運転する車の後部座席に乗り込み、動きやすく目立ちにくいものとして被告人に用意させた黒色ジャージに着替え、被告人の運転で前記防犯グッズ店に行って催涙スプレーを購入した後、引き続き被告人の運転でE方付近に行き、催涙スプレーや被告人が用意した手袋等を持って降車し、徒歩でE方に向かったことが認められる。これらの事実からすれば、E方を訪ねた 行って催涙スプレーを購入した後、引き続き被告人の運転でE方付近に行き、催涙スプレーや被告人が用意した手袋等を持って降車し、徒歩でE方に向かったことが認められる。これらの事実からすれば、E方を訪ねたのはあくまで金を借りるためであったというAの供述を踏まえても、事件当日のAは、まずはEに借金を申し込むが、仮にEが応じなければ催涙スプレーを使うなどしてEから強引に金目の物を奪うことも辞さないという意思であったと認められる。 他方の被告人は、前記のとおり、かねてA本人から催涙スプレーやスタンガンを使えばEの所から金を取ってこれるのではないかと聞かされていた上、事件当日も、防犯グッズ店に行ったAから「身分証がなく商品が 買えない」旨の連絡を受けると、当時自宅にいたBにAの保険証の画像を送るよう依頼するなどしている。また、Aが紙袋を持って防犯グッズ店から戻ってくるのを見たことは被告人自身認めているところ、それまでの経過に照らせば、被告人はその紙袋の中身が催涙スプレーであることも当然に認識していたと認められる。これらの事実からすれば、被告人としても、遅くともE方付近でAを降車させた時点において、Aの意思が前記のとおりであり、強盗に及ぶ可能性が現実的なものであることを認識していたと認められる。 加えて、通帳や印鑑は個人を標的とした強盗においては一般に奪取の対象となり得る物品であって、それらを用いて金融機関の窓口で被害者に成りすまして不正に預貯金口座から現金を引き出すことも強盗の後の成り行きとして自然に想定されるものといえる。 以上によれば、被告人とAの間には、場合によってはEから通帳等の金目の物を奪い取り、銀行等でEに成りすまして預貯金をだまし取ること(以下「本件強盗等」という。)につき、少なくとも黙示の意思連絡があったと認め ば、被告人とAの間には、場合によってはEから通帳等の金目の物を奪い取り、銀行等でEに成りすまして預貯金をだまし取ること(以下「本件強盗等」という。)につき、少なくとも黙示の意思連絡があったと認められる。 イこれに対し、被告人は、Aは物騒な冗談を言うことがあるため「Eの所から金を取ってくる」との発言を真に受けたわけではなく、事件当日に防犯グッズ店からE方付近に向かう間にも、Aは「催涙スプレーをEに示して家に入り、その後は頭を下げてEから金を借りる」旨述べていたのであるから、Aが催涙スプレーを使ってEから金目の物を奪い取るとは思っていなかった旨弁解する。しかしながら、被告人はAが実際に防犯グッズ店に行って催涙スプレーを購入したことを認識しており、この段階に至ってもなおAの発言を冗談だと思っていたとは考え難い。また、催涙スプレーを示してまでE方に入り込んだAが穏便にEから金を借りられるとも到底考え難い。被告人の上記弁解は不合理といわざるを得ない。 また、被告人は、E方を立ち去った直後のAから電話で「Eと一緒にいる」旨聞かされていたため、AがEに成りすまして預貯金をだまし取るとは思わなかったとも弁解するが、被告人によれば、その際にAから「Eの首を絞めた」とも聞かされ、その直後に被告人から同旨の話を聞いたBは、人が首を絞められると何秒で失神するのか等を検索している。このような事実経過を前提とすると、被告人においてAがEと一緒にいると信じていたとはおよそ考えられない。 ⑵ア前記のとおり、被告人は、AがEから無理やり金を取ってくることを考えていると知りながら、その依頼に応じてE方に行くための衣服を用意し、事件当日には車を運転してAを防犯グッズ店まで連れて行き、BにAの保険証の画像を送信させることにより、犯行用具である催涙ス とを考えていると知りながら、その依頼に応じてE方に行くための衣服を用意し、事件当日には車を運転してAを防犯グッズ店まで連れて行き、BにAの保険証の画像を送信させることにより、犯行用具である催涙スプレーの購入を可能にした上、Aを犯行現場付近まで連れて行っており、本件強盗等の実現に不可欠で重要な役割を果たしており、そのような被告人の行為によって強盗が可能となったAが現に催涙スプレーを持ってE方に行くのを止めずにその場を離れている。そして、本件強盗等の前月にAが被告人と共に虚偽の住民異動届を提出して保険証を入手し、被告人一家と消費者金融を回って金を借りようとしたが、これに失敗したためE方に行って金を調達することとしたという経緯や、現に被告人が本件強盗等によって得られた現金合計100万円余りのうち少なくとも91万円を受け取り、そのうちの多くをLやBにも分配していることからすれば、本件強盗等の目的はAが被告人一家に金を渡すことにあり、被告人もそのような展開を期待していたと認められる。これらの事情からすれば、本件強盗等は被告人の犯行でもあると評価できるものであり、被告人とAの間には、遅くともAがE方付近で降車した時点において、本件強盗等、すなわち、強盗、有印私文書偽造・同行使、詐欺についての共謀が成立していたと認められる。 イこれに対し、被告人及び弁護人は、本件強盗等の目的はAが被告人一家 に金を渡すことにあったわけではなく、被告人は長年にわたって脅されていたAからの指示で仕方なく本件強盗等に関与させられたにすぎないから、被告人とAの間で本件強盗等についての共謀が成立していたとはいえない旨主張する。 しかしながら、被告人がAに長年脅されていたとする供述が信用できないことは前述のとおりである。本件強盗等の経過に即してみても、仮 で本件強盗等についての共謀が成立していたとはいえない旨主張する。 しかしながら、被告人がAに長年脅されていたとする供述が信用できないことは前述のとおりである。本件強盗等の経過に即してみても、仮に被告人が述べるとおりであるとすれば、Aが本件強盗等にまで及んで得た100万円近くの大金を突如として無理やり被告人に渡し、その後すぐに被告人も、強盗という犯罪によって得られた想定外の大金をためらいなくLやBに渡したということになるが、このような事実経過はそれ自体極めて不自然・不合理といわざるを得ない。 4 Eを殺害したのがAであることについて⑴ 弁護人は、冒頭陳述において、Eを殺害したのはAではない旨主張し、Aは、当公判廷において、Eの首を絞めていない旨供述する。 ⑵ Eの死因が前頚部の圧迫による窒息であることは動かし難く(弁護人も争っていない。)、Eの司法解剖を行ったN医師の供述から、Eが大量のカプサイシンを摂取した後短時間で死亡したこと、その死亡の直前又は直後に両手首及び両足首を緊縛されたこと、死亡の日時は令和5年6月2日朝から同月3日朝頃までであることも認められる。他方、Aが同月2日にカプサイシン入りの催涙スプレーを持ってE方を訪問し、Eに対してこの催涙スプレーを噴射し、さらにEの両手首及び両足首を結束バンドで緊縛したことは、A自身も認めるところである(この点については種々の証拠や間接事実によっても十分に裏付けられている。)。 これらの事実からすれば、Eの前頚部を圧迫して窒息死させたのはAであることが強く推認される。この推認は、E方を立ち去ったAが被告人に対して「Eの首を絞めた」旨発言した事実によっても裏付けられている(A自身 は当該発言も否定するが、被告人も当該発言を聞いたこと自体は認めており、B及びLもAが当該 立ち去ったAが被告人に対して「Eの首を絞めた」旨発言した事実によっても裏付けられている(A自身 は当該発言も否定するが、被告人も当該発言を聞いたこと自体は認めており、B及びLもAが当該発言をしたと被告人から聞いた旨を一致して供述しており、当該発言があったことは明らかである。)。第三者による犯行の可能性をうかがわせる事情も見当たらない。 ⑶ Eの輪状軟骨の骨折状況に照らせば、AはEの前頚部を相応に強い力で数分間にわたり圧迫したと推認できるところ、このような行為は人を死亡させる危険性を有する行為といえ、そのことをAが認識していなかったことを疑わせる事情もないから、Aは、殺意をもってEの前頚部を圧迫し、窒息により死亡させたと認められる。 (量刑の理由) 1 量刑の中心となる判示第5から第7(水巻事件)の各犯行は、いずれもAが自ら計画・実行したものであり、被告人はAがEを死亡させるような暴行に及ぶことまでは想定していなかった。この点において、被告人にAと同等の非難を向けることはできない。 しかしながら、これらはいずれもAが被告人一家に金を渡すために行われた犯行である。Aがそこまでして被告人一家に金を渡そうとした背景には、被告人とAの長年の付き合いの中で形成された、Aが被告人一家に対して当たり前のように金銭を融通するという、被告人が精神的に優位に立っているとみられる関係が存在していることも否めない。そのような立場にある被告人が、犯行用具の準備や車での送迎等、Aの強盗を促進する重要な行為を担い、その結果、Aによる犯行が現実のものとして迫っているのを目の当たりにしながら、これを止めずにAを行かせている。上記各犯行の実現に与えた被告人の精神的・物理的影響力はいずれも大きい。被告人は、犯行後、AがEの首を絞めたと聞きながらその利益の 迫っているのを目の当たりにしながら、これを止めずにAを行かせている。上記各犯行の実現に与えた被告人の精神的・物理的影響力はいずれも大きい。被告人は、犯行後、AがEの首を絞めたと聞きながらその利益の大半を手にした上、ためらいなく子らに分け与えたというのであり、その余の犯行が利欲目的の身勝手なものであることからしても、被告人の犯罪に対する意識の低さは看過できない。被告人が当公判において不合理な弁解を弄し、Aに責任 を押し付けるなど真摯な反省の色が見えないことも併せ考えれば、その刑事責任は重大というべきである。 2 以上によれば、被告人が犯行の一部を認めていること、被告人に前科がないことを踏まえてもなお、相当長期の懲役刑は免れず、同種事案(強盗既遂、前科なし)の量刑傾向にも鑑みれば、主文の刑が相当と判断した。 (求刑懲役27年及び主文同旨の没収)令和6年12月12日福岡地方裁判所小倉支部第2刑事部 裁判長裁判官武林仁美 裁判官松浦佑樹 裁判官町田哲哉

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