令和6(ネ)10038 不当利得返還等請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
令和7年1月15日 知的財産高等裁判所 1部 判決 控訴棄却 東京地方裁判所 令和5(ワ)70114
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令和7年1月15日判決言渡 令和6年(ネ)第10038号不当利得返還等請求控訴事件(原審・東京地方裁判所令和5年(ワ)第70114号) 口頭弁論終結日令和6年10月31日判決 控訴人 X 同訴訟代理人弁護士 西垣建剛 念竜之介 被控訴人 ヤマハ発動機株式会社 同訴訟代理人弁護士 長坂省友 村明弘蕪城雄一郎 同補佐人弁理士 江口昭彦 高村和宗 津田拓真 主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は、控訴人に対し、1億円及びこれに対する令和5年4月18日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 事案の要旨(略語は原則として原審のものによった。)本件は、発明の名称を「自動二輪車のブレーキ制御装置及び挙動解析装置」とする特許に係る特許権を有する控訴人が、被控訴人が同特許権に係る特許発明の技術的範囲に属する電子制御装置搭載の自動二輪車を製造、販売等したことにつき、被控訴人に不法行為又は不当利得が成立すると主張し 許に係る特許権を有する控訴人が、被控訴人が同特許権に係る特許発明の技術的範囲に属する電子制御装置搭載の自動二輪車を製造、販売等したことにつき、被 控訴人に不法行為又は不当利得が成立すると主張して、被控訴人に対し、3億1200万円の一部として1億円及びこれに対する不法行為の後の日で訴状送達の日の翌日である令和5年4月18日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を請求する事案である。 原判決は、本件特許権に係る請求項1に記載の発明(本件発明1)及び請求項7 に記載の発明(本件発明2。本件発明1及び2を併せて「本件各発明」という。)のいずれについてもサポート要件(特許法36条6項1号)を欠き、本件各発明に係る特許について、特許無効審判により無効にされるべきものであって控訴人はその権利を行使することができない(特許法104条の3第1項)として、控訴人の請求をいずれも棄却した。これに対し、控訴人は本件控訴を提起した。 2 前提事実 (当事者間に争いがない事実、証拠(以下、書証番号は特記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実)原判決の「事実及び理由」の第2の2記載のとおりであるから、これを引用する。 3 争点原判決の「事実及び理由」の第2の3(3)の「(3) 損害(争点3)」を「(3) 損害 又は不当利得(争点3)」と改めるほかは、同第2の3記載のとおりであるから、これを引用する。 第3 争点に関する当事者の主張 1 以下のとおり当審における当事者の補充主張を付加し、原判決の「事実及び理由」の第2の4(8)の表題の「(8) 損害(争点3)」を「(8) 損害又は不当利得(争 点3)」と改めるほかは、同第2の4記載のとおりであるから、これを引用する。 決の「事実及び理由」の第2の4(8)の表題の「(8) 損害(争点3)」を「(8) 損害又は不当利得(争 点3)」と改めるほかは、同第2の4記載のとおりであるから、これを引用する。 2 当審における当事者の補充主張(1) 控訴人の主張ア本件各発明の意義ないし課題についての認定の誤り原判決は、本件各発明の意義ないし課題を①「走行時の横Gセンサーと角速度センサーを関連付ける」ことによって、「正確な傾斜角の検出」という課題を解決し、 これによって「正確な横Gの検出」を可能とし、さらに、②「横Gセンサーと角速度センサーを関連付ける」ことにより、「車両の挙動を把握することが可能」となり、「車両挙動を安定化するための自動ブレーキ装置の実現」を目的とするものと捉えている。そして、これを前提に、原判決は、「構成要件1F及び1Hの「横G(Ghosei)」は、従来はできなかった正確な傾斜角の検出を行うなどした上で算出さ れた、車両の傾斜走行状態での正確な横Gであると認められる。」と判断している。 しかし、むしろ、本件明細書において、「正確な横G」は、上記の課題①との関係で、タイヤでの荷重接地点変化から生じる戻り角(ρ)を加味した正確な傾斜角及び加速度センサーと角速度センサーの関連付けにより明らかになったロールによる速度変化の影響を加味して導かれる、加速度センサーにおいて安定走行時に検出される 横G(Gken)のことを指すものとして説明されており、他方、「横G(Ghosei)」は、上記の課題②との関係で、正確な横Gの検出が可能となったことを踏まえた、車両を安定化に導くブレーキシステムの構成要素の一つとして説明されている(甲21)ものというべきであって、原判決は、本件各発明の意義及び課題の解決についての理解を誤ってお 能となったことを踏まえた、車両を安定化に導くブレーキシステムの構成要素の一つとして説明されている(甲21)ものというべきであって、原判決は、本件各発明の意義及び課題の解決についての理解を誤っており、「正確な傾斜角」の検出及び「正確な横G」の検出 に関して説明されている箇所を看過している。 イ 「Ψ」を角加速度を表す記号「Ψ. 」に訂正すること等控訴人は、本件明細書等に記載された「Ψ」を角加速度を表す記号「Ψ. 」と誤記の訂正をするものである。式A「Ghosei=Gken-(Ψ・Rhsen)」に関し、Ψを通常の記号の意味どおりに捉えると、加速度の次元を有するGkenか ら角速度にセンサー取付け高さを乗じた速度の次元を有する値を減算する式となっ ており、物理学上意味をなさない式となってしまうから、「Ψ・Rhsen」をその字義どおり、角速度にセンサー取付け高さを乗じる計算であると理解することはできない。一方、式Aのうち横G(Gken)の補正項である「Ψ・Rhsen」が、Gkenに重畳されている円周軌跡上の速度変化、換言すれば、周加速度を取り除くための補正項であることは明らかである。 さらに、本件明細書の段落【0074】では、式Aのうち、「Ψ・Rhsen」の影響度(Grol)について、具体的な数値を用いて説明がされており、「ロール速度の変化を1秒間に0→0.25π「rad/sec」(45deg/sec)変化だったと想定した場合発生するG(Grol)はGrol=0.25*3.14*1*=0.785「m/s^2」」「但し、センサー取り付け高さRを1mとする。」 との説明がされている。この説明によると、Ψに代入する値として、ロール速度の1秒当たりの変化を、1秒当たりの角速度〔rad/sec〕の変化で表した値、 、センサー取り付け高さRを1mとする。」 との説明がされている。この説明によると、Ψに代入する値として、ロール速度の1秒当たりの変化を、1秒当たりの角速度〔rad/sec〕の変化で表した値、すなわち角加速度が用いられている。このように、本件明細書の段落【0074】では、補正項「Ψ・Rhsen」について、具体的数値を用いて、角加速度にセンサー取付け高さを乗じる計算が行われている。 (2) 被控訴人の補充主張ア本件各発明の意義ないし課題について認定の誤り控訴人の主張の趣旨は必ずしも明確ではないが、いずれにせよ、本件各発明の課題に関し、原判決も控訴人も、「正確な傾斜角の検出」及び「正確な横Gの検出」を実現するという点や、「車両挙動を安定化するための自動ブレーキ装置の実現」 を目的とする点において共通しており、原判決が認定した課題と、控訴人が主張する課題との間に実質的な相違はない。 イ 「Ψ」を角加速度を表す記号「Ψ. 」に訂正すること等本件明細書において、「G(Grol)」は段落【0074】にしか登場せず、また、段落【0074】の上記記載は極めて不明確であること等から、「G(Gr ol)」が具体的にどのような物理量であるのか不明である。例えば、G(Gro l)の単位が「m/s^2」となっていることからすると、G(Grol)は加速度であるようにも推察されるが、どのような加速度であるのかは不明である。一方、Grolを表す式中の「0.25*3.14」の単位が「rad/sec」や「deg/sec」と記載されていることからすると、Grolは速度を表す物理量であるようにも推察される。したがって、当業者は、「G(Grol)」が「センサ ー取付高さと角加速度の積」である、とは理解することができない。 そ いることからすると、Grolは速度を表す物理量であるようにも推察される。したがって、当業者は、「G(Grol)」が「センサ ー取付高さと角加速度の積」である、とは理解することができない。 そもそも、段落【0074】の上記記載のうち、「Ψ・Rhsen の部位の影響度は・・・(中略)・・・発生するG(Grol)は・・」との部分は、主語が2つ登場するなど日本語として成立していない。段落【0074】の記載から、当業者が、補正項である「Ψ・Rhsen」と「G(Grol)」との関係を理解す ることはできない。 したがって、段落【0074】の記載は、本件明細書で何度も登場する「Ψ」の全てが「Ψ. 」の誤記であることや、「角速度」の全てが「角加速度」の誤記であることの理由とはなり得ない。 また、控訴人の主張に係る「Ψ・Rhsen」が「角加速度にセンサー取付け高 さを乗じた値」であることの具体的な根拠は一切述べられていない。 第4 当裁判所の判断 1 本件各発明について本件明細書に記載されている本件各発明の意義は、原判決「事実及び理由」第3の1記載のとおりであるから、これを引用する。 2 サポート要件違反があるか(争点4-1)について(1) 当裁判所も、原判決と同じく、本件各発明のいずれについても、本件明細書に記載された発明であるとはいえず、サポート要件を欠き、これらの発明に係る特許について、特許無効審判により無効にされるべきものといえるから、控訴人の請求は理由がないものと判断する。その理由は、原判決「事実及び理由」第3の2記 載のとおりであるから、これを引用する。 (2) 当審における控訴人の補充主張についてア控訴人は、原判決が「構成要件1F及び1Hの「横G(Ghosei)」は、従来はできな 記 載のとおりであるから、これを引用する。 (2) 当審における控訴人の補充主張についてア控訴人は、原判決が「構成要件1F及び1Hの「横G(Ghosei)」は、従来はできなかった正確な傾斜角の検出を行うなどした上で算出された、車両の傾斜走行状態での正確な横Gであると認められる。」と判断しているが、むしろ、本件明細書において、「正確な横G」は、本件課題との関係で、タイヤでの荷重接地点変 化から生じる戻り角(ρ)を加味した正確な傾斜角及び加速度センサーと角速度センサーの関連付けにより明らかになったロールによる速度変化の影響を加味して導かれる、加速度センサーにおいて安定走行時に検出される横G(Gken)のことを指すものとして説明されており、他方、「横G(Ghosei)」は、本件課題との関係で、正確な横Gの検出が可能となったことを踏まえた、車両を安定化に導く ブレーキシステムの構成要素の一つとして説明されていると主張する。 そこで、控訴人が主張する「戻り角(ρ)」に着目すると、発明の詳細な説明には「ハイブリットセンサー20 には、進行方向の加速度を検出する加速度センサー21、 進行方向ロール速度を検出する傾斜角速度センサー22 及びロール方向の加速度を検出する加速度センサー23 が小型に内蔵されおり、ライダーの体 重を含めた合成重心に近いところにレイアウトされる。 ハイブリットセンサー2 0 には、傾斜時に生じる理論バンク角(Φ)及び傾斜によってタイヤでの荷重接地点変化から生じる戻り角(ρ)が同時に存在している。 (図8も同時参照)センサー20 に生じる力(ベクトルA)と実際に生じる力(ベクトルA ’)とはずれが生じている。 このずれ角(戻り角(ρ))によって、正確な横Gを検出する ことが解析 (図8も同時参照)センサー20 に生じる力(ベクトルA)と実際に生じる力(ベクトルA ’)とはずれが生じている。 このずれ角(戻り角(ρ))によって、正確な横Gを検出する ことが解析された。」(【0060】)、「Gken = g・cosΦ・tanρ −Ψ・Rhenと変形でき、シンプルな式になる。ここで、表されるΦは車両の理論バンク角度であり理論傾斜角でもある、 傾斜角速度センサー22 から検出される角速度Ψ(rad/sec) を時間積分して得られた角度であり、ρは傾斜戻り角であり、RはGセンサー#23の実車取付けの高さ(図8bhsen ) をそれぞれ示している。」(【0063】)との記載が認められるが、この記載は、「横 加速度(Gken)」を解析した結果として、傾斜角Φ、傾斜戻り角ρ、傾斜角速度Ψ等を用いた式で表すことができることを示すに尽きるのであり、他方で、特許請求の範囲の記載において、本件発明1の「横加速度(Gken)」は「横加速度を検出する加速度センサー」により検出されたものとの特定がされているものの、傾斜角Φ、傾斜戻り角ρ、傾斜角速度Ψ及びRhenに基づき、Gken=g・cos Φ・tanρ-Ψ・Rhenという演算から導き出されたことは特定されていないから、控訴人の主張はその前提を欠く。 また、仮に「横加速度を検出する加速度センサー」により検出された「横加速度(Gken)」を正確な横Gであるとするならば、正確な横Gの検出は「横加速度を検出する加速度センサー」が本来的に備えている機能であり、正確な傾斜角の検出 とは無関係である。そうすると、控訴人が主張する「①「走行時の横Gセンサーと角速度センサーを関連付けること」及び「正確な傾斜角の検出」によって、走行状態での「正確な横G」の検出を 斜角の検出 とは無関係である。そうすると、控訴人が主張する「①「走行時の横Gセンサーと角速度センサーを関連付けること」及び「正確な傾斜角の検出」によって、走行状態での「正確な横G」の検出を可能とすること」という課題とは矛盾することにもなるから、控訴人の主張は本件明細書の記載とは整合しない独自の見解であって採用することはできない。 イ 「Ψ」を角加速度を表す記号「Ψ. 」への訂正について(ア) 特許がされた特許請求の範囲、明細書又は図面における訂正について、特許法126条1項ただし書2号は、「誤記又は誤訳の訂正」を目的とする場合には、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正をすることを認めているが、ここで「誤記」というためには、訂正前の記載が誤りで訂正後の記載が正しいこと が、当該明細書、特許請求の範囲若しくは図面の記載全体から客観的に明らかで、当業者であればそのことに気付いて訂正後の趣旨に理解するのが当然であるという場合でなければならないものと解され、特許法134条の2第1項ただし書2号の「誤記又は誤訳の訂正」も同様に解される。 したがって、明細書等の記載について、物理学上意味をなさないことが客観的に 明らかであることが認識できたとしても、物理学上意味をなさないことの一事をも って、ただちに同号の「誤記」と認められるわけではなく、当該物理学上意味をなさない記載について訂正後の趣旨に理解するのが当然であるという場合でなければ、同号の「誤記」とは認められないと解するのが相当である。この点、控訴人は、請求項に記載された計算式に係る誤記の訂正に関して、それを字義通り解すると、次元の異なる物理量同士の減算となり、その技術的意味が理解困難となること等を理 由として、誤記の訂正が認められること 、請求項に記載された計算式に係る誤記の訂正に関して、それを字義通り解すると、次元の異なる物理量同士の減算となり、その技術的意味が理解困難となること等を理 由として、誤記の訂正が認められることを主張するが、技術的意味が理解困難となることの一事をもって誤記の訂正が認められるものとはいえないから、控訴人の上記主張は採用できない。 (イ) 以上を踏まえ、本件明細書等の記載について検討する。 控訴人は「Ψ」を角加速度を表す記号「Ψ. 」に訂正することを主張する。本件特 許権に係る特許請求の範囲及び本件明細書には、「傾斜角速度(Ψ)」、「角速度検出値(Ψ)」、「角速度Ψ(rad/sec)」、「角速度(Ψ)」「車両のロールによる角速度」、「ロール方向の角速度」、「角速度出力(Ψ)」、「ロール角速度Ψ」、「ロール速度Ψ」、「傾斜角速度Ψ」及び「ロール角速度(Ψ)」(請求項1~4、【0055】、【0061】、【0063】、【0066】、【0073】、【0084】、【0085】、【0 090】、【0127】、【0130】、【0131】)との記載が認められ、他方で、「該傾斜角速度(Ψ)の時間微分で得られる傾斜角加速度(dΨ/dt)」(請求項2)、「傾斜し始めの傾斜速度(ロール速度Ψ)を時間微分 dΨ/dt した角加速度を検知(図中ΔΨの部位)することにより」(【0131】)との記載も認められるから、本件明細書においては、傾斜角速度を「Ψ」、傾斜角加速度を「dΨ/dt」又 は「ΔΨ」と表しているものと認められる。 そして、本件発明1では「横加速度を検出する加速度センサーのロールによる影響を取り除く演算を行った補正後の横G(Ghosei)の導出方法」と特定され、本件発明2では「加速度センサーのロールによる影響を取り除く演算を行った補正 加速度を検出する加速度センサーのロールによる影響を取り除く演算を行った補正後の横G(Ghosei)の導出方法」と特定され、本件発明2では「加速度センサーのロールによる影響を取り除く演算を行った補正後の横G(Ghosei)の導出方法として、前記横加速度から前記加速度センサ ーの車両取り付け高さと前記傾斜角速度(A)または傾斜角速度(B)のいずれか の積、との差分を求め、」と特定されているところ、請求項1を引用して記載された請求項4には「前記信号演算として、加速度センサーのロールによる影響を取り除く演算を行った補正後の横G(Ghosei)の導出方法として、前記検出された横加速度(Gken)から加速度センサーの車両取り付け高さ(hsen)と前記検出された傾斜角速度(Ψ)の積、との差分を求めること、の導出方法を有する事」 と記載され、本件明細書には「実際の走行傾斜時に検出される検出横G(Gken)は、傾斜角の時間的変化である傾斜角速度(Ψ)を用いた補正が必要であることから補正後の横G(Ghosei)はGhosei = Gken−(Ψ・Rhsen)として表される。」(【0073】)、「2)、 走行時に変化する実際の検出横G(Gken)を少なくとも傾斜角の時間微分(dΦ/dt)値である傾斜角速度(Ψ) を用いた補正を行い、補正後の横G(Ghosei)をGhosei= Gken−(Ψ・Rhsen)の式を用いて補正した値の算出G値」(【0085】)、「項目2)は、走行時の傾斜により検出された検出G(Gken)は車両のロールによる誤差が重畳されるためロール成分を取り除くために角速度の補正を行うことが必要となる。 すなわち、センサーからの検出G(Gken)から規範G成分の部位を実 際の検出される横G(Gken)に置換え が重畳されるためロール成分を取り除くために角速度の補正を行うことが必要となる。 すなわち、センサーからの検出G(Gken)から規範G成分の部位を実 際の検出される横G(Gken)に置換え、角速度による補正を行えば規範同様にロールによる影響を排除した補正後の制御で使用できるG(hosei)が導け、Ghosei=Gken−(Ψ・Rhsen) の様に表される。ここで補正項として傾斜角速度を加味している理由は、前記したように制御上無視できない要素になっているためである。」(【0087】)などと記載されている。 以上によると、本件特許権に係る特許請求の範囲及び本件明細書の記載は、傾斜角加速度は傾斜角速度の時間微分で得られるという認識の下、両者を明確に区別した上で、「加速度センサーのロールによる影響を取り除く演算を行った補正後の横G(Ghosei)の導出方法」について、加速度の次元の物理量である実際の走行傾斜時に検出される検出横G(Gken)から、速度の次元の物理量である傾斜 角速度(Ψ)にセンサー取付け高さRhsenを乗じた値を減算することで終始一 貫していると認められる。 そうすると、本件明細書等に記載された「加速度センサーのロールによる影響を取り除く演算を行った補正後の横G(Ghosei)の導出方法」について、当業者は本件明細書に物理学上意味をなさない導出方法が記載されていることを理解するにとどまり、角速度Ψを角加速度Ψ. の趣旨に理解するのが当然であるとまでは認 められない。 (ウ) 控訴人は、式A「Ghosei=Gken-(Ψ・Rhsen)」に関し、Ψを通常の記号の意味どおりに捉えると、加速度の次元を有するGkenから角速度にセンサー取付け高さを乗じた速度の次元を有する値を減算する式となって Ghosei=Gken-(Ψ・Rhsen)」に関し、Ψを通常の記号の意味どおりに捉えると、加速度の次元を有するGkenから角速度にセンサー取付け高さを乗じた速度の次元を有する値を減算する式となっており、物理学上意味をなさない式となってしまうから、「Ψ・Rhsen」をその字義どお り、角速度にセンサー取付け高さを乗じる計算であると理解することはできない一方、式Aのうち横G(Gken)の補正項である「Ψ・Rhsen」が、Gkenに重畳されている円周軌跡上の速度変化、換言すれば、周加速度を取り除くための補正項であることは明らかであると主張するが、上記イのとおり、物理学上意味をなさないことをもって誤記と認められるわけではなく、式Aについては上記のとお りであるから、控訴人の主張は採用できない。 また、控訴人は、本件明細書の段落【0074】では、式Aのうち、「Ψ・Rhsen」の影響度(Grol)について、具体的な数値を用いて説明がされており、「ロール速度の変化を1秒間に 0→0.25π 「rad/sec」(45deg/sec)変化だったと想定した場合発生するG(Grol)はGrol= 0. 25*3.14*1 = 0.785 「m/s^2」」「但し、センサー取り付け高さ Rを1mとする。」との説明がされており、Ψに代入する値として、ロール速度の1秒当たりの変化を、1秒当たりの角速度〔rad/sec〕の変化で表した値、すなわち角加速度が用いられているとし、このように、本件明細書の段落【0074】では、補正項「Ψ・Rhsen」について、具体的数値を用いて、角加速 度にセンサー取り付け高さを乗じる計算が行われていると主張する。 しかしながら、控訴人が指摘する記載は、控訴人が主張するとおり「補正項として用いている 具体的数値を用いて、角加速 度にセンサー取り付け高さを乗じる計算が行われていると主張する。 しかしながら、控訴人が指摘する記載は、控訴人が主張するとおり「補正項として用いているΨ・Rhsenの部位の影響度」に係るものであり、式Aの「Ψ・Rhsen」そのものを説明するものではなく、仮に、控訴人が指摘する記載が式Aの「Ψ・Rhsen」そのものを説明するものとするならば、かえって、この記載のみが上記イで挙げた「傾斜角速度(Ψ)」等の記載に整合していないとも言い得る から、この記載を根拠に式Aにおける「Ψ・Rhsen」のΨに代入する値として角加速度が用いられていると認めることはできず、控訴人の主張は採用できない。 (エ) 以上のことから、控訴人が主張する「Ψ」を角加速度を表す記号「Ψ. 」への訂正は認められず、本件各発明のいずれについても、特許請求の範囲に記載された発明が本件明細書に記載された発明であるとはいえない。 第5 結論以上のとおり、本件各発明のいずれについても、本件明細書に記載された発明であるとはいえず、サポート要件を欠き、本件各発明に係る特許について、特許無効審判により無効にされるべきものといえる。 したがって、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がな いからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第1部 裁判長裁判官本多知成 裁判官遠 裁判官遠山敦士 裁判官天野研司

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