平成30(ネ)2899 損害賠償請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
平成30年10月18日 東京高等裁判所 その他 甲府地方裁判所 平成29(ワ)238
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判決文本文12,277 文字)

- 1 - 主文 1 原判決を次のとおり変更する。 2 被控訴人は,控訴人に対し,100万円及びこれに対する平成28年4月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 控訴人のその余の請求を棄却する。 4 訴訟費用は,第1,第2審を通じてこれを3分し,その2を控訴人の負担とし,その余を被控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は,控訴人に対し,300万円及びこれに対する平成28年4月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本件は,甲府地方裁判所平成26年第264号懲戒解雇無効確認等請求事件(以下「別訴」といい,別訴の原告Aを「別訴原告」,別訴の被告株式会社河口湖チーズケーキガーデンを「別訴被告」という。)において,別訴被告申請の証人として尋問を受けた控訴人が,別訴原告の訴訟代理人弁護士である被控訴人から反対尋問を受けた際に,その発言により名誉を毀損されて精神的苦痛を受けたと主張して,不法行為に基づく損害賠償として,慰謝料300万円及びこれに対する不法行為の日(上記尋問を受けた日)である平成28年4月12日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 原審は,不法行為が成立しないとして,控訴人の請求を棄却し,控訴人は,これを不服として,本件控訴をした。 2 前提事実(争いのない事実,後掲証拠と弁論の全趣旨により容易に認められる事実)- 2 - ⑴ 当事者等ア控訴人は,別訴被告の従業員である。 控訴人は,別訴の平成28年4月12日の口頭弁論期日において,別訴被 弁論の全趣旨により容易に認められる事実)- 2 - ⑴ 当事者等ア控訴人は,別訴被告の従業員である。 控訴人は,別訴の平成28年4月12日の口頭弁論期日において,別訴被告申請の証人として,証人尋問を受けた(以下,この尋問を「本件尋問」という。)。本件尋問が行われた甲府地方裁判所211号法廷には,多くの傍聴人や訴訟関係者がいた。 イ被控訴人は,弁護士であり,別訴において,別訴原告の訴訟代理人として,本件尋問において,控訴人に対する反対尋問を行った。 (争いのない事実)⑵ 別訴の争点等ア別訴は,別訴被告において店長として勤務していた別訴原告に対する懲戒解雇の効力が争われた事案であり,懲戒事由の有無及び就業規則の周知性の有無等が争点となっていた。 イ別訴被告は,控訴人を証人申請するに際し,その立証趣旨を,①別訴原告が勤務時間中外出していたこと,②別訴原告が別訴被告の従業員に対し別訴原告のタイムカードを打刻するよう指示していたこと,③別訴原告が別訴被告の商品の代金を別訴原告名義の口座に振り込むよう指示していたこと,④別訴被告に就業規則が存在したこととしていた。 (争いのない事実,甲1,弁論の全趣旨)⑶ 本件尋問における被控訴人の発言控訴人は,本件尋問の主尋問において,別訴被告の主張に沿う証言をした。 被控訴人は,本件尋問の反対尋問において,次のような発言をした。 ア被控訴人は,控訴人に対し,控訴人が勤務先である別訴被告に提出した履歴書に,職歴として,株式会社BのB線C駅の駅長をしていたことを記載していなかった理由について質問した。 これに対し,控訴人は,「すみません,何が聞きたいんでしょうか。」- 3 - と発言し,別 て,株式会社BのB線C駅の駅長をしていたことを記載していなかった理由について質問した。 これに対し,控訴人は,「すみません,何が聞きたいんでしょうか。」- 3 - と発言し,別訴被告代理人から,関連性がない旨の指摘があった。 ここで,被控訴人は,「いや,関連性はあります。」,「証人の信用性に関わることですので。」,「それから,もう1つは,この陳述書に関わる,その就職した契機に関わることなので,関連性あると思います。」と発言した。 そして,被控訴人は,これに続けて,「あなたは,そこのC駅の初代駅長をしてたときに,そこのお金を,3000万円くらい横領したということで,やめたということじゃないんですか。」(以下,これを「本件発言1」という。)と質問した。 イ控訴人は,上記質問に対し,「心配していただいて,ありがとうございます。全て解決しておりますので,御心配いただかなくても結構です。」と答えた。 被控訴人は,これに対し,「いやいや,解決してるかどうか聞いてるんじゃなくて,その3000万円くらい,横領したということで,やめたんじゃないですかと。」(以下,これを「本件発言2」という。)と質問した。 控訴人は,この質問に対し,「違います。」と答えた。 被控訴人は,「解決したというふうに,今,おっしゃられたけど,どういうふうに解決したんですか。」と質問した。 控訴人は,この質問に対し,「言わないといけないんでしょうか。」と述べた。 被控訴人は,「そうですね,あなたの証言の信用性に関わることですから。」と述べた。 ここで,別訴被告代理人が,「裁判長,関連性がないと思いますが。証人の名誉を侵害するような質問は,やめて 控訴人は,「そうですね,あなたの証言の信用性に関わることですから。」と述べた。 ここで,別訴被告代理人が,「裁判長,関連性がないと思いますが。証人の名誉を侵害するような質問は,やめていただきたい,そんなことは。」と発言し,裁判長は,被控訴人に対し,「次の質問にいってください。」- 4 - と発言した。 これに対し,被控訴人は,「いやいや,関係ないというか,そんなことないというんだから,別に,名誉を侵害することではないです。」と発言した。 裁判長は,「だけど,本件の争点との関連性が,いま一つ理解できないんで。」と発言した。 ここで,控訴人から発言があったが,被控訴人は,「今,関係ないことを言わないでください。質問にだけ答えてください。そしたら,その必要性のことですけれども,必要性について,言わないと,まずいですか。」と発言した。 裁判長は,「そうですね,関連性というかね。」と発言した。 ウそこで,被控訴人は,「当時,こちらのほうの考えてるのは,横領行為があって,首になって,そのことで仕事がなかった。それから,示談して,金額を,Bに払ってるために,仕事が,どうしても必要だったという事情があって,それで,Aさんのほうに,就職させてくれるように頼んできたと,こういう経過があるんですね。ですから,このことは,非常に重要な事実だというふうに思ってます。」(以下,これを「本件発言3」という。)と発言した。 これに対し,別訴被告代理人が,「それは関連性がないじゃないですか。」などと発言した。 エ被控訴人は,これに対し,「こういうことなんです,結局,どうしても,働かなきゃならないんです,証人はね。ですから,ここで首になったら困る,そういうことがあっ ですか。」などと発言した。 エ被控訴人は,これに対し,「こういうことなんです,結局,どうしても,働かなきゃならないんです,証人はね。ですから,ここで首になったら困る,そういうことがあって,やはり,会社のほうに対しては,自分の意思に反しても,会社に有利な証言をしなきゃならない立場にある,こういうことなんです。」と発言した(以下,これを「本件発言4」といい,本件発言1ないし4を合わせて「本件各発言」という。)。 - 5 - 裁判長は,「余り関連性がないように,私は思うんで,次の質問にいってください。」と発言した。 (争いのない事実,甲1) 3 争点⑴ 本件各発言は,控訴人の名誉を毀損したか。(争点1)⑵ 本件各発言は,正当な訴訟活動として違法性を阻却するか。(争点2)⑶ 損害額はいくらが相当か。(争点3) 4 争点に関する当事者の主張⑴ 本件各発言は,控訴人の名誉を毀損したか。(争点1)(控訴人の主張)本件各発言は,控訴人が前職であるC駅の駅長として勤務していたときに3000万円を横領したという犯罪事実を摘示するものであるから,控訴人の社会的評価を著しく低下させ,控訴人の名誉を毀損したものである。 (被控訴人の主張)ア控訴人は,被控訴人の本件発言1に係る質問に対し,3000万円を横領した事実はないと否定すれば,控訴人の社会的評価が下がることはなかったにもかかわらず,「心配していただいて,ありがとうございます。全て解決しておりますので,御心配いただかなくても結構です。」と,あたかも,何らかの問題があって,後日解決したかのような証言をした。これは,控訴人の証言の仕方の問題であって,被控訴人の質問の問題ではない。 イ控訴 ,御心配いただかなくても結構です。」と,あたかも,何らかの問題があって,後日解決したかのような証言をした。これは,控訴人の証言の仕方の問題であって,被控訴人の質問の問題ではない。 イ控訴人は,被控訴人の本件発言2に係る質問に対し,「違います。」と答えたが,横領行為がなかったとは答えず,横領行為はあったが,それが原因で辞めたのではないともとれる証言をした。 ウ仮に,控訴人が,世間から何らかの疑惑を招いたとしても,それは控訴人の証言態度によるものであり,被控訴人の本件各発言が,控訴人の名誉を毀損したものではない。 ⑵ 本件各発言は,正当な訴訟活動として違法性を阻却するか。(争点2)- 6 - (被控訴人の主張)ア正当な訴訟活動による違法性阻却憲法及び民事訴訟法上は,裁判の公開を定めており,公開の法廷で証人尋問が行われる結果,そのやりとりの中で証人の社会的評価が下がることがあったとしても,それは法が予定していることである。 弁護士は,その職責を果たすために,反対尋問において,証言の信用性を揺るがす事実を質問しなければならない。弁護士は,証人の社会的評価を落とすために質問をするわけではなく,証人の証言内容の信用性を弾劾することを目的に質問するのである。弁護士が反対尋問をすることは,職務上の正当行為であって,その結果として証人の名誉が毀損されたとしても,違法性は阻却される。 イ本件各発言の関連性及び必要性等 別訴被告は,別訴において,別訴原告に対する懲戒事由の存在を立証するため,別訴被告の従業員である控訴人を証人として申請した。 控訴人は,かつては別訴原告の近所に居住し,別訴原告と親しかったことから,別訴被告において店長であった別訴原告が,控訴人を別訴被告に紹介し,就 従業員である控訴人を証人として申請した。 控訴人は,かつては別訴原告の近所に居住し,別訴原告と親しかったことから,別訴被告において店長であった別訴原告が,控訴人を別訴被告に紹介し,就職を斡旋した経緯があり,控訴人は,別訴被告においては,別訴原告の部下であった。 そのような立場の控訴人が,あえて,別訴被告申請の証人として,別訴原告に敵対的な証言をすることについては,それなりの事情があると考えられた。それは,次のような事情である。 控訴人は,C駅の駅長をしていたときに横領行為を行い,それが発覚して勤務先を辞め,大月市から甲府市に転居し,かつての勤務先に損害賠償金の支払をしなければならなかったことから,絶対に別訴被告を退職するわけにはいかなかったのであり,そのために別訴被告に有利な証言をする必要があったのである。 - 7 - そこで,被控訴人は,本件尋問において,控訴人には別訴被告に有利な証言をしなければならない事情があることを法廷に顕出し,控訴人の証言の信用性を弾劾する必要があった。 ウ本件各発言には十分な裏付けがあったこと控訴人と別訴原告は,かつて大月市内で近所に居住し,極めて親しくしていたこともあり,別訴原告は,控訴人の別訴被告への就職の世話をした当時,近所の噂だけでなく,株式会社Bの従業員からも,控訴人の横領の事実を聞き及んでいた。 したがって,被控訴人の本件各発言は,十分な裏付けのあるものであって,実際に控訴人は,被控訴人の本件各発言に対し,横領の事実を明確には否定してはいない。 エ以上によれば,被控訴人の本件各発言が,控訴人の名誉を毀損するとしても,正当な訴訟活動として,違法性が阻却される。 (控訴人の主張)ア 事実を明確には否定してはいない。 エ以上によれば,被控訴人の本件各発言が,控訴人の名誉を毀損するとしても,正当な訴訟活動として,違法性が阻却される。 (控訴人の主張)ア関連性及び必要性について被控訴人の主張は,概ね,「控訴人は金に困っており,別訴被告で働き続けて賃金を得なければならないため,別訴被告に有利な証言をする必要があった。」というものである。 しかし,一般に,企業に勤務する労働者は,経済的に企業に従属しているのであって,勤務先を退職すると困るのは,控訴人だけに当てはまることではない。したがって,経済的に企業に従属していることを理由とする証人の信用性の弾劾は無意味であって,本件各発言と控訴人の証言の信用性との間には何ら関連性がない。また,被控訴人は,本件発言1において,控訴人があたかも横領の犯罪者であるかのような質問をしているが,控訴人に借金があることが法廷に顕出されれば,被控訴人の目的の達成には十分なはずであるから,端的に「生活に困っているかどうか」を質問すれば足りるのであっ- 8 - て,本件発言1には必要性がない。 イ相当性について本件各発言は,多くの傍聴人がいる法廷において,控訴人を3000万円の横領をしたと犯罪者扱いするものである。さらに,被控訴人は,別訴被告の訴訟代理人から関連性がないとの異議が出て,裁判長からも関連性がないとの指摘を受けた後も,質問を継続したものであって,表現方法や態様として不適切であり,相当性が認められる余地はない。 ウ訴訟行為の意図について上記ア及びイのとおり,本件各発言には,関連性,必要性及び相当性がないにもかかわらず,被控訴人は,控訴人を犯罪者扱いする発言を繰り返し,別訴原告の支援者であった山梨ユ 行為の意図について上記ア及びイのとおり,本件各発言には,関連性,必要性及び相当性がないにもかかわらず,被控訴人は,控訴人を犯罪者扱いする発言を繰り返し,別訴原告の支援者であった山梨ユニオンに対して控訴人が犯罪者であることを聞かせ,訴訟を有利に展開させているかのように印象付ける意図があったと思料されるのであって,被控訴人には,別訴で勝訴判決を得ることとは別のところに真の目的があったといえ,より不当である。 エ関係者の地位について控訴人は,別訴の当事者ではなく,あくまでも証人であって,尋問において犯罪者扱いされなければならないいわれはない。 オ本件各発言の根拠被控訴人は,本件各発言には裏付けがあると主張するが,その裏付けとするところは,いずれも控訴人が横領行為をしたことの直接的な証拠ではなく,極めて根拠は薄弱である。 カ以上によれば,本件各発言について,正当な訴訟活動として違法性が阻却されることはない。 ⑶ 損害額はいくらが相当か。(争点3)(控訴人の主張)本件各発言は,控訴人が前職のときに3000万円もの大金を横領したとし- 9 - て控訴人を犯罪者呼ばわりするものである。 法廷の傍聴席は満席(46名)であり,別訴被告の関係者も傍聴していたものである。 そして,一般に,弁護士の発言は信用されるものであるから,被控訴人の本件各発言は,控訴人の社会的名誉を著しく貶めるものである。 以上の事情からすれば,控訴人が受けた精神的苦痛は筆舌に尽くし難く,慰謝料は300万円を下ることはない。 (被控訴人の主張)争う。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所は,控訴人の請求は,100万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるか 万円を下ることはない。 (被控訴人の主張)争う。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所は,控訴人の請求は,100万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないから棄却するのが相当と判断する。その理由は,以下のとおりである。 2 本件各発言は,控訴人の名誉を毀損したか。(争点1)⑴ 本件各発言は,控訴人がC駅の駅長をしていたときに約3000万円の大金を横領し,それが発覚したために,勤務先を退職したという具体的な事実を公開の法廷において公然と摘示するものであり,そこで摘示された事実は,横領行為という犯罪事実であるから,本件各発言は控訴人の社会的評価を低下させるものといえる。 ⑵ 本件各発言のうち,本件発言1及び本件発言2については,控訴人に対する質問であって,控訴人としてはこれを否定することができる以上,質問自体は横領行為の事実を摘示していないのではないかということが一応問題となり得る。また,被控訴人は,控訴人が本件発言1に係る質問に対し,3000万円を横領した事実はないと否定すれば,控訴人の社会的評価が低下することはなかったのであり,控訴人の社会的評価が低下したのは,控訴人の証言態度によるものであると主張する。 - 10 - しかしながら,本件発言1及び本件発言2は,「横領したということで,やめたんじゃないですか。」というものであり,これを聴いた人は控訴人が横領をしたのではないかと受け止めるから,弁護士がそのような質問をしたこと自体によって,控訴人の社会的評価を低下させるものといえる。控訴人は,被控訴人の本件発言2に対し,「違います。」と答えたが,これによって控訴人の社会的評価が完全に回復されるとはいえないと考えられるから,本件発言1及 人の社会的評価を低下させるものといえる。控訴人は,被控訴人の本件発言2に対し,「違います。」と答えたが,これによって控訴人の社会的評価が完全に回復されるとはいえないと考えられるから,本件発言1及び本件発言2は控訴人の名誉を毀損するものである。 ⑶ また,本件発言3は,別訴の裁判長の質問に対し,本件発言4は別訴被告代理人の発言に対し,各回答するための発言ではあるが,本件発言3は,本件発言2に続いて「横領行為があって,首になって」と控訴人の社会的評価を低下させる内容を含んでおり,本件発言4も,本件発言3に続いて,控訴人に対して本件発言1及び2に対する回答を求める趣旨の発言であり,被控訴人が控訴人の名誉を毀損する行為の態様を示す発言として評価するべきものである。 したがって,本件各発言は,その全体が控訴人の社会的評価を低下させるものというべきである。 3 本件各発言は,正当な訴訟活動として違法性を阻却するか。(争点2)⑴ 本件各発言は,被控訴人の民事訴訟上の訴訟活動である証人尋問において行われたものである。民事訴訟は,訴訟当事者間で争われている事実関係を明らかにし,明らかにされた事実を基礎として裁判所が法的判断を行う制度であるから,証人尋問では,争点に関する事実関係についての質問にとどまらず,事実関係を明らかにする目的で証言の信用性を弾劾するため,その信用性に関する事実を質問し,証人の信用性を争うために,証人の利害関係,偏見,予断のほか,性質・行状等に関する質問をする必要があり得る。そのような場面では,証人にとって不名誉な事実を質問する場合が存する。 しかしながら,証人は,事実の存否について攻撃防御をしあう当事者ではない第三者である上,証言の信用性に関わる事実は,立証命題ではなく,当該訴- 11 - 訟における争点 する場合が存する。 しかしながら,証人は,事実の存否について攻撃防御をしあう当事者ではない第三者である上,証言の信用性に関わる事実は,立証命題ではなく,当該訴- 11 - 訟における争点との関係性は存しないか低いものであるから,証人の信用性に関する事項の質問は必要性のあるものでなければならず,必要性のない質問によって証人の名誉を毀損することは許されない。他方,尋問において摘示された事実によって証人の名誉を毀損されたとしても,その事実が真実か又は真実であると信じたことが相当である場合には,当該質問は,証人の信用性を争うために行われている限り,争点である事実関係を解明するための正当な行為として,許容されているといえる。逆にいえば,証人の名誉を毀損するような事実に係る質問をする場合には,摘示する事実が真実であるか,又は真実であると信じたことに相応の根拠があることが必要であると考えられる。また,名誉を毀損するような質問が許されるためには,質問の表現や態様は相当である必要がある。そして,質問の必要性,真実であることの相応の根拠及び質問の表現や態様の相当性の有無は,当該質問によって毀損される名誉の内容や程度に応じて判断されると考えられる。 そうすると,民事訴訟における反対尋問において証人の証言の信用性を弾劾する目的で証人の名誉を毀損する質問が行われた場合においては,当該質問によって毀損される名誉の内容や程度,質問の必要性,当該質問において摘示した事実の真実性,又は真実であると信じた相応の根拠の有無,質問の表現方法や態様の相当性を総合考慮し,正当な訴訟活動として違法性が阻却されるか否かを判断するのが相当である。 ⑵ 上記の観点から,本件各発言が正当な訴訟活動として違法性が阻却されるか否かを検討する。 ア質問の必要性について 正当な訴訟活動として違法性が阻却されるか否かを判断するのが相当である。 ⑵ 上記の観点から,本件各発言が正当な訴訟活動として違法性が阻却されるか否かを検討する。 ア質問の必要性について前記前提事実及び証拠(甲1)によれば,被控訴人は,控訴人が本件尋問の主尋問で別訴被告の主張に沿う証言をしたため,反対尋問において,控訴人が前職であるC駅の駅長をしていたときに約3000万円の横領行為を行い,高額の損害賠償金を支払わなければならない状況にあって,控訴人が別- 12 - 訴被告を退職するわけにはいかないという事実を法廷に顕出し,控訴人が退職しなくて済むように,別訴被告に有利な証言をする立場に置かれていることを明らかにして,控訴人の主尋問での証言の信用性を弾劾しようとしたことが認められる。 しかしながら,別訴のような労働事件訴訟において,使用者側が雇用する従業員を証人として申請した場合,使用者に対して弱い立場にある当該従業員が使用者側の主張に沿った証言をする傾向があることは当然に想定され,通常みられることである。このような従業員の証人に対して,雇用関係にあることを理由として,証言の信用性を弾劾することに意味があるとは思えない。そして,企業に勤務する従業員において,勤務先を退職したくないということは,ほとんどの者に当てはまることであるから,控訴人に別訴被告を退職したくない強い事情があったとしても,そのことによって,別訴の争点に関わる控訴人の証言の信用性が特別に減殺されるとはいえない。また,控訴人が前職において約3000万円の横領行為をし,その勤務先と示談をした人物であるという控訴人の行状等についても,仮にそのような事情があったとしても,それを法廷で明らかにすることによって,別訴における争点に関わる控訴人の証言の 円の横領行為をし,その勤務先と示談をした人物であるという控訴人の行状等についても,仮にそのような事情があったとしても,それを法廷で明らかにすることによって,別訴における争点に関わる控訴人の証言の信用性が減殺されるとは考え難い。 そうすると,あえて控訴人が3000万円を横領したという事実を摘示した本件各発言は,訴訟遂行上の必要性があったかどうか,きわめて疑問である。 イ摘示した事実の真実性,相当性について控訴人が横領をした事実が真実であると認めるに足りる証拠は全くない。 被控訴人が,本件各発言等をした時,控訴人が横領をしたことが認められるような資料を入手していた,あるいは信用性のある情報を得ていたと認めるに足りる証拠もない。被控訴人は,別訴原告が近所の噂だけでなく控訴人の前の職場の従業員からも控訴人の横領の事実を聞き及んでいたとして,十分- 13 - な裏付けがあったと主張する(前記第2,4⑵ウ)。しかし,上記裏付けというのは,被控訴人が別訴被告と対立関係にある別訴原告から聴取した事実にすぎず,中立的な第三者から確認したり,客観的資料に当たった事実等はうかがわれず,横領行為を推認させる事実としては薄弱なものであるから,相応の根拠があったとはいえない。被控訴人は,相応の根拠もなく,本件各発言に及んだといわざるを得ない。 ウ表現方法や態様について前記前提事実及び前記ア認定事実,証拠(甲1ないし3)と弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。 被控訴人は,本件尋問において,控訴人に対し,控訴人の職歴に関する質問をした段階で,控訴人から「すみません,何が聞きたいんでしょうか。」と問われ,別訴被告代理人から関連性がない旨の指摘を受けたにもかかわらず,本件発言1の質問をし,控訴人が全て解決しているから る質問をした段階で,控訴人から「すみません,何が聞きたいんでしょうか。」と問われ,別訴被告代理人から関連性がない旨の指摘を受けたにもかかわらず,本件発言1の質問をし,控訴人が全て解決しているから心配不要と発言しているにもにもかかわらず,本件発言2の質問をし,控訴人が「違います。」と回答しているのに,「どういうふうに解決したんですか。」と続けた。 これに対し,控訴人が「言わないといけないんでしょうか。」と質問すると,被控訴人は「そうですね,あなたの証言の信用性に関わることですから。」と述べ,別訴被告代理人が「裁判長,関連性がないと思いますが。証人の名誉を侵害するような質問は,やめていただきたい,そんなことは。」と発言し,裁判長から「次の質問にいってください。」と言われても,関係ないということはないとし,本件発言3に及んだ。 そして,別訴被告代理人が「それは関連性がないじゃないですか。」などと発言したが,控訴人は,本件発言4に及んだ。 上記認定事実からすると,本件各発言は,別訴被告代理人から質問の趣旨及び争点との関連性について複数回疑問を呈され,名誉毀損に該当する- 14 - との指摘を受けても質問を続け,裁判長から次の質問に行くよう言われても,さらに発言し続けたものであって,執拗なものであり,その態様は不適切であったといわざるを得ない。 エ以上検討したところによると,本件各発言は,前職において約3000万円を横領したという控訴人の名誉を大きく毀損する内容であるところ,質問の必要性がきわめて疑問であり,当該発言において摘示した事実が真実であった,あるいは,真実であると信じることに相応の根拠があったとはいえず,質問の態様も執拗不適切で,相当性を欠くものであり,これらを総合考慮すると,本件各発言について,正当な訴訟活動 た事実が真実であった,あるいは,真実であると信じることに相応の根拠があったとはいえず,質問の態様も執拗不適切で,相当性を欠くものであり,これらを総合考慮すると,本件各発言について,正当な訴訟活動として違法性が阻却されると認めることはできないというべきである。 ⑶ なお,前記前提事実の経緯からすると,被控訴人は,本件各発言を,その内容を認識してしたものであるから,故意責任を免れない。被控訴人が正当な訴訟活動と判断していたとしても,違法性の評価を誤ったものに過ぎないから,責任が阻却されるものではない。 4 損害額はいくらが相当か(争点3)⑴ 前記前提事実及び認定事実,証拠(甲1ないし3)と弁論の全趣旨によれば次の事実を認めることができる。 ア別訴に関し,「山梨ユニオンニュース No9」と題するビラが作成されており,それには今後の裁判日程,従前の裁判の報告等や「何時も裁判の傍聴支援をありがとうございます。」といった内容が記載されていた。 イ控訴人は,本件尋問の前に,別訴被告代理人から,山梨ユニオンの人たちがたくさん来ているかも知れないと聞いていたところ,本件尋問の際の法廷では,別訴原告の支援者が多数傍聴しており,控訴人の勤務先である別訴被告の関係者も傍聴していた。 ウ控訴人は,別訴被告から説得され,仕方なく別訴の証人となったが,本件各発言を受け,裁判に行かなければ良かったと思った。 - 15 - エ控訴人は,本件各発言の内容を大量にビラ配りされることを予想し,道を歩いているだけで控訴人を犯罪者であると思って見ている人がいると感じ,辛くて,恥ずかしく,悔しく思い,強い怒りを覚えた。 ⑵ 本件各発言がされたことにより控訴人が受けた精神的苦痛の慰謝料は,上記⑴の各事実に加え,本件各発言の内容が控訴人が前職場で約 いると感じ,辛くて,恥ずかしく,悔しく思い,強い怒りを覚えた。 ⑵ 本件各発言がされたことにより控訴人が受けた精神的苦痛の慰謝料は,上記⑴の各事実に加え,本件各発言の内容が控訴人が前職場で約3000万円を横領する犯罪に及んだという控訴人の名誉を大きく毀損する内容であったこと,本件各発言は,その態様が質問の趣旨に疑問を呈され,異議を述べられた後も繰り返し発言するという執拗かつ不適切なものであったことを斟酌すると,100万円が相当と認める。 5 以上のとおり,控訴人の請求は,100万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないから棄却すべきところ,原判決はこれと異なり全部棄却しているから,原判決を変更して,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第21民事部 裁判長裁判官中西茂 裁判官原道子 裁判官大嶋洋志

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