平成11(ワ)12838 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成15年5月30日 大阪地方裁判所
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判決文本文21,045 文字)

主文 1 被告医療法人北錦会は,原告に対し,金2200万円及び内金2000万円に対する平成8年12月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告A,同B及び同Cは,原告に対し,各自,金733万3333円及び内金666万6666円に対する平成8年12月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 原告の被告Dに対する請求をいずれも棄却する。 4 訴訟費用は,原告に生じた費用の3分の1と被告Dに生じた費用を原告の負担とし,原告に生じたその余の費用とその余の被告らに生じた費用をその余の被告らの負担とする。 5 この判決は,原告の勝訴部分に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 主位的請求(1) 被告医療法人北錦会及び被告Dは,原告に対し,各自,金2200万円及び内金2000万円に対する平成8年12月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2) 被告A,被告B及び被告Cは,原告に対し,各自,金733万3333円及び内金666万6666円に対する平成8年12月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 予備的請求(1) 被告医療法人北錦会及び被告Dは,原告に対し,各自,金1650万円及び内金1500万円に対する平成8年12月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2) 被告A,被告B及び被告Cは,原告に対し,各自,金550万円及び内金500万円に対する平成8年12月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,原告の息子であるGが,被告医療法人北錦会(以下「被告北錦会」という。)が経営していた大和川病院に入院していたところ,精神分裂病患者であるG の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,原告の息子であるGが,被告医療法人北錦会(以下「被告北錦会」という。)が経営していた大和川病院に入院していたところ,精神分裂病患者であるGに対して適切な治療が行われなかったために,Gの体力が衰弱し,Gが高度の便秘状態を呈していたにもかかわらず放置された結果,腸閉塞(イレウス)によって死亡したとして,主位的に,債務不履行又は不法行為に基づき,Gの相続人である原告が,被告北錦会,大和川病院の院長であった被告D並びに大和川病院の実質的経営者であったHの相続人である被告A,被告B及び被告Cに対し,Gの慰謝料として3000万円のうち原告が相続した1500万円,原告固有の慰謝料500万円,及び弁護士費用200万円の合計2200万円並びに内金2000万円に対する不法行為ないし債務不履行の日(Gが死亡した日)である平成8年12月13日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を,予備的に,適切な治療を受ける期待が裏切られたとして,債務不履行又は不法行為に基づき,Gの相続人である原告が,被告北錦会,被告D並びにHの相続人である被告A,被告B及び被告Cに対し,Gの慰謝料として3000万円のうち原告が相続した1500万円及び弁護士費用150万円の合計1650万円並びに内金1500万円に対する不法行為ないし債務不履行の日(Gが死亡した日)である平成8年12月13日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を,それぞれ求めた事案である。 1 前提事実(争いがないか証拠上明らかな事実・なお証拠については,以下特に表示のない限り,枝番,孫番を含む。)(1) 当事者らア原告はGの母であり,Gが,平成8年12月13日に死亡したことにより,Gの財産を法定相続分で な事実・なお証拠については,以下特に表示のない限り,枝番,孫番を含む。)(1) 当事者らア原告はGの母であり,Gが,平成8年12月13日に死亡したことにより,Gの財産を法定相続分である2分の1の割合で相続した。(甲2)イ被告北錦会は,大阪府柏原市aに所在する大和川病院を経営していた医療法人である。なお,被告北錦会は,平成9年10月1日,大阪府知事の設立許可取消によって解散し,現在は清算法人となっている。 ウ Hは,平成11年6月27日に死亡し,被告A,被告B及び被告Cは,Hの相続人である。(甲3)エ被告Dは,平成5年5月6日まで大和川病院の院長であった者である。(乙2)(2) Gの死亡に至る経緯ア Gは,平成8年7月30日から同年8月29日まで,及び同年10月8日から同月27日まで,警察の紹介で,過去2回,大和川病院に任意入院していたことがある。(乙12,13)イ Gは,同年12月7日,自宅において父親といさかいになり,警察に保護され,翌12月8日,午前0時45分ころ,大和川病院のA2病棟に任意入院(以下「本件入院」という。)することとなった。(甲19,乙1)ウ Gは,同年12月13日,午後1時45分ころ,大和川病院において死亡した。(甲1) 2 争点(1) Gの死亡原因は麻痺性イレウスによるものであるか。 ア原告の主張(ア) Gは,平成8年12月8日,一日当たり,抗精神病薬である100ミリグラム・スルピリド錠9錠,10パーセント・プロペチル細粒1.5グラム,10パーセント・プロクラジン顆粒1.0グラム,1パーセント・ハロペリドール細粒1. 0グラム,50ミリグラム・ゾピテ錠3錠,25ミリグラム・パドラセン3錠,10パーセント・ピレチア細粒1.0グラム,チスボン2錠の処方を2日分受け,同月1 ラム,1パーセント・ハロペリドール細粒1. 0グラム,50ミリグラム・ゾピテ錠3錠,25ミリグラム・パドラセン3錠,10パーセント・ピレチア細粒1.0グラム,チスボン2錠の処方を2日分受け,同月10日,同じ内容の処方を4日分受け,本件入院時から,毎日,抗精神病薬の投薬を受けた。 Gは,大和川病院のA2病棟で補助看護人をしていたEに対し,本件入院当初,すでに2週間便通がないことを申告し,「どないかしてくれ。」「浣腸してくれ。」と訴えた。そこで,Eは,看護婦の主任のIに相談したところ,Iは,「いざとなったら座薬を入れたらいいのよ。」と言って,Gに対し,何の措置もとらなかった。 Eが,平成8年12月13日の朝,投薬のためにGのもとを訪れると,Gは,Eに対し,「飲むの勘弁してくれ。飲んだことにして,捨てておいてくれ。」と訴えたので,EはGに投薬しなかった。同日の午前中,Eが巡回の都度,Gの様子を見ると,Gは苦しそうに呻いていた。同日,正午ころ,Gの隣のベットの患者が,Eに対し,Gの様子がおかしいと告げに来たため,Eが様子を見に行くと,Gの腹部が異様に膨らんでいた。そこで,EはIに対し,「Iさん早く下剤を与えるか,浣腸しないと」と言ったが,Iはとりあわなかった。さらに,約1時間後,Eが,Gの様子を見に行くと,Gは口から便のような黒いものをはき出していた。Eが,IをGのもとに連れてくると,Iは病院全体に点呼をかけるようにEに指示し,廊下にいた他の患者を病室内に入れ,Gを1階の重症患者を収容する部屋に収容した。 原告が,大和川病院で見たGの遺体の状況は,腹部あたりが異様に腫れて膨らんでおり,目の周りには涙がたまり,鼻からは出血し,首の周りには反吐が固まっていた。 また,Gの葬式の際,遺体を棺桶に入れるときに,Gの口と肛門から大量の内容物が排 ,腹部あたりが異様に腫れて膨らんでおり,目の周りには涙がたまり,鼻からは出血し,首の周りには反吐が固まっていた。 また,Gの葬式の際,遺体を棺桶に入れるときに,Gの口と肛門から大量の内容物が排出された。 (イ) Gが投薬を受けていた抗精神病薬の量を標準的な抗精神病薬であるクロルプロマジンに換算すると,1日当たり1630ミリグラムとなり,一般的に精神病に用いるクロルプロマジン換算の容量は50ミリグラムから450ミリグラムであるとされていることから,Gに対する投薬内容はいかに多量であるかは明らかである。 (ウ) Gの死亡原因は,死亡に至る経過,遺体の状況等から判断して,多量の抗精神病薬を多剤併用投与されたために,その副作用である自律神経症状として,高度の便秘状態を呈することとなり,これが高じて麻痺性イレウスとなり,便通が阻害され,腸内容物が腸内に蓄積し,それに伴って腸内細菌が増殖し,その腸内細菌が毒素を生み出し,これが体内の血液に入り込んで敗血症を引き起こし,ショック状態を呈して死亡したものである。 イ被告らの主張(ア) 以下の理由から,Gが麻痺性イレウスに罹患していたとは考えられない。 aGは,平成8年12月4日,済生会奈良病院を受診し,食道・胃・十二指腸の消化管透視検査及び便中のヒトヘモグロビンの有無の検査を受けており,その際,下腹部症状の訴えはなく,しかも,これらの検査において異常所見は認められなかった。したがって,Gには平成8年12月4日に便通があったこと及び大腸疾患の疑いがなかったことは明らかである。また,Gには,同年12月10日に1度便通があった。 bGの大和川病院の入院時の投薬内容は,本件入院を含め3回の入院ともほぼ同じであるが,過去2回の入院時にも4ないし5日間便通がなかったことがあった(平成8 ,同年12月10日に1度便通があった。 bGの大和川病院の入院時の投薬内容は,本件入院を含め3回の入院ともほぼ同じであるが,過去2回の入院時にも4ないし5日間便通がなかったことがあった(平成8年8月10日から同月13日まで,同月20日から同月23日まで,同年10月8日から同月12日まで,同月16日から同月20日まで)が,いずれも特変なく経過していることからすると,Gにおいては4ないし5日間便通がなくても麻痺性イレウスを発症することはないと考えるのが妥当である。 c いかに,麻痺性イレウスが症状に乏しい場合があるとはいっても,全く何も症状がないというわけではなく,腹痛,嘔吐,腹部膨満などの症状は認められるはずであるところ,カルテ(乙1)には全くそれらの記載がなく,Gが麻痺性イレウスを発症していたとは考えられない。 d 麻痺性イレウスから敗血症を引き起こしていたとすれば,悪寒,戦慄,発熱,瀕脈などの症状が出現し,血液データにおいても白血球数やCRPの上昇,好中球の核の左方移動,赤沈の亢進などが見られるはずであるが,カルテ(乙1)にはこれらの記録が全くないばかりか,同年12月11日に実施された血液検査においては白血球数は8000/μlと正常であり(乙1の5の1),他に異常所見も見られないのであり,Gが敗血症を発症していたとは考えられない。 e 麻痺性イレウスに罹患していたとすれば,便は肛門まで運ばれないため,肛門から便が出ることはない。Gの遺体の肛門から内容物が出てきたとすれば,Gの死因が麻痺性イレウスでないことを裏付けている。 (イ) Gは,平成2年ないし3年ころより,基礎疾患として,糖尿病に罹患しており,平成8年7月16日から同年12月4日までの済生会奈良病院入院中も,血糖値のコントロールは不良であった。また,Gは,身長189センチメート 年ないし3年ころより,基礎疾患として,糖尿病に罹患しており,平成8年7月16日から同年12月4日までの済生会奈良病院入院中も,血糖値のコントロールは不良であった。また,Gは,身長189センチメートル,体重98キログラムと肥満であり,1日40本の喫煙習慣があった。飲酒歴も中学2年から高校の一時期は一日にウイスキーボトル半分もの大量の飲酒をしており,精神障害のためスポーツの経験がほとんどなかった。さらに,済生会奈良病院における血液検査の結果によると,血性カリウムの値がやや高く,心疾患のリスクが高かったといえる。 以上の事実及び発症から短時間で死亡していることからすると,Gは基礎疾患としての糖尿病に,肥満,喫煙等の危険因子が加わって動脈硬化が進展し,心筋梗塞を引き起こして突然死亡した可能性が高い。 (2) 被告北錦会,H及び大和川病院の職員に注意義務違反(過失)が認められるか。 ア原告の主張被告北錦会,H,被告D及び大和川病院の職員には,Gの治療ないし看護に関して,次の注意義務違反(過失)が認められる。 (ア) 被告北錦会及びH,被告Dは,適正な人員の医師及び看護婦を配置して,精神分裂病に罹患していたGに対して十分な治療及び看護を実施できる体制を整備しなければならない注意義務を負っていたにもかかわらず,それを怠った。 (イ) 被告北錦会及びH,被告Dは,医師によってGに対して適時適切な診察を行わなければならない注意義務を負っていたにもかかわらず,それを怠った。 (ウ) 被告北錦会及びH,被告D並びに大和川病院の職員は,診察に基づいて,Gに対し適切に投薬治療を施さなければならない注意義務を負っていたにもかかわらず,それを怠って機械的画一的に多剤多量の抗精神病薬を投与した。 (エ) 被告北錦会及びH,被告D並びに大和川病院の職員は,Gの病 し適切に投薬治療を施さなければならない注意義務を負っていたにもかかわらず,それを怠って機械的画一的に多剤多量の抗精神病薬を投与した。 (エ) 被告北錦会及びH,被告D並びに大和川病院の職員は,Gの病状を適時適切に観察しなければならない注意義務を負っていたにもかかわらず,それを怠って漫然と多剤多量の抗精神病薬を投与し続けた。 (オ) 被告北錦会及びH,被告D並びに大和川病院の職員は,Gの病状に応じて適切な治療を施さなければならない注意義務を負っていたにもかかわらず,それを怠って,浣腸を望んだGの懇願を無視した。 (カ) 被告北錦会及びH,被告D並びに大和川病院の職員は,Gの精神分裂病及び腸閉塞(イレウス)に対し,自らが適切な治療を施すことができないのであるから,その治療が可能な他病院へ転院させなければならない注意義務を負っていたにもかかわらず,他病院への転院措置をとらずにGを放置した。 イ被告らの主張(ア) Gに対しては,本件入院当日である平成8年12月8日,当直医であったF及び担当医であったJが,また同年同月10日,担当医であったJが診察を行っている。 (イ) Gは,本件入院当日の時点において,すでに治療のため多剤併用の大量投与をせざる得ない状態に陥っており,他病院でのGに対する投薬内容と比較しても,大和川病院における本件入院期間中に治療に,必要な範囲を超えた多剤多量の投薬がなされたとはいえない。 急性期の精神病患者の場合,入院時は標的症状を定めて投薬するより,むしろ鎮静目的と精神症状を抑える目的で多剤を中容量から高容量投与するという治療戦略をとることが一般的であり,薬物の減量,単剤化は,精神症状が落ち着いて,1週間から4週間症状に変化がないか,あるいは薬剤の効果が強すぎることを確認した後で行うことが多い。初期より1,2剤を投与する場 をとることが一般的であり,薬物の減量,単剤化は,精神症状が落ち着いて,1週間から4週間症状に変化がないか,あるいは薬剤の効果が強すぎることを確認した後で行うことが多い。初期より1,2剤を投与する場合は,特定の精神症状がはっきりしているか,興奮まで至らずに来院した患者に限られ,Gのように,精神運動興奮に陥り,救急車ないし警察の協力で搬送されてくる患者にはあてはまらない。 したがって,Gに対して不必要な多剤多量の投薬がなされたということはない。 (ウ) その余の注意義務違反の主張についても否認する。 (3) 各被告の責任原因ア被告北錦会の責任について(ア) 債務不履行責任a 原告被告北錦会は,大和川病院の経営主体として,Gが大和川病院に本件入院するにあたってGとの間で診療契約を締結しており,(2)アの各注意義務違反について債務不履行責任を負う。 b 被告北錦会被告北錦会が,Gとの間で診療契約を締結していた事実は認めるが,被告北錦会が債務不履行責任を負うとの主張は争う。 (イ) 不法行為責任a 原告被告北錦会は,(2)アの各注意義務違反について不法行為責任を負う。 b 被告北錦会争う。 (ウ) 使用者責任a 原告被告北錦会は,大和川病院の経営主体として,同病院の医師及び看護婦ら職員を雇用していたといえるから,同病院の医師ないし看護婦らの,(2)アの過失による不法行為について,民法715条1項により使用者責任を負う。 b 被告北錦会争う。 イ Hの責任について(ア) 債務不履行責任a 原告Hは,被告北錦会の実質的オーナーであり,人事,経理,営業,診療及び不正工作の全てについて,実質的な権限を有していたのであるから,Hは,大和川病院の経営者として,Gとの間で,直接診療 a 原告Hは,被告北錦会の実質的オーナーであり,人事,経理,営業,診療及び不正工作の全てについて,実質的な権限を有していたのであるから,Hは,大和川病院の経営者として,Gとの間で,直接診療契約を締結したものと解することができ,(2)アの各注意義務違反について債務不履行責任を負う。 b 被告らGは,被告北錦会との間で診療契約を締結したのであり,Hが被告北錦会の実質的オーナーであったとしても,これを契約当事者である被告北錦会と同視することはできない。すなわち,Hは,Gに対し,医療上の注意義務を負う立場にはなく,その違反に基づく責任を負うこともない。 (イ) 不法行為責任a 原告Hは,(2)アの各注意義務違反について不法行為責任を負う。 b 被告ら争う。 (ウ) 使用者責任a 原告Hは,大和川病院の経営者として,自ら直接に同病院の医師及び看護婦ら職員を雇用していたといえるから,同病院の医師ないし看護婦らの,(2)の過失による不法行為について,Hは民法715条1項により使用者責任を負う。 b 被告ら大和川病院の経営者として被用者の選任及び指揮監督にあたっていたのは,同病院を開設した被告北錦会であり,Hではない。また,仮にHが被告北錦会ないし大和川病院の実質的経営者であったとしても,そのことから直接に使用者責任を負うものではない。 (エ) 代理監督者の責任a 原告大和川病院の医師及び看護婦等の職員を雇用していたのが,被告北錦会であったとしても,Hは,大和川病院の医師及び看護婦を選任し,指揮監督してきたのであるから,Hは被告北錦会に代わって大和川病院の業務を監督していたものといえる。 したがって,Hは,大和川病院の医師ないし看護婦らの,(2)アの過失による不法行 護婦を選任し,指揮監督してきたのであるから,Hは被告北錦会に代わって大和川病院の業務を監督していたものといえる。 したがって,Hは,大和川病院の医師ないし看護婦らの,(2)アの過失による不法行為について,民法715条2項により代理監督者として責任を負う。 b 被告ら民法715条2項の代理監督者の責任とは,法人の代表者などの代表機関が,現実に被用者の選任・監督を担当していた場合に負うものである。Hは,被告北錦会の理事ではなかったのであり,仮にHが被告北錦会ないし大和川病院の実質的経営者であったとしても,そのことから同人が代理監督者の責任を負うものではない。 (オ) 共同不法行為a 原告Hは,大和川病院の医師ないし看護婦らの,(2)アの過失による不法行為について,共同不法行為者としての責任を負う。 b 被告ら争う。 (カ) 法人格否認の法理に基づく債務不履行責任a 原告被告北錦会及びその経営にかかる病院は,財産上も業務上もHの個人病院である安田病院と反復継続的に混同しており,収支に関する区分が完全に欠如していたし,被告北錦会については,理事会も全く開催されず,代表者も理事会の決議を経ずにHの一存で決定し,しかも代表者は実権を全く有せず,単に名義を利用していたに過ぎないなど,医療法人として必要な機関も手続も全く欠如していた。このように,法人という法的形態の背後に存在する実体たる個人に迫る必要が生じるときには,法人名義でなされた行為であっても,相手方は法人格を否認し,あたかも法人格がないのと同様,背後者たる個人の行為と認めてその責任を追及することができるとすると解すべきであり,Hは被告北錦会が負うべき債務不履行責任を負う。 b 被告ら法人格否認の法理 かも法人格がないのと同様,背後者たる個人の行為と認めてその責任を追及することができるとすると解すべきであり,Hは被告北錦会が負うべき債務不履行責任を負う。 b 被告ら法人格否認の法理は,株式会社が税金の軽減を図る目的で設立されるなど,実質が全くの個人会社にほかならない場合,これと取引をした相手方がその取引が会社としてなされたのか,個人としてなされたか判然としないような場合にはじめて適応されうるのであって,仮に被告北錦会及び大和川病院の実体が原告の主張するとおりであったとしても,本件で被告北錦会の法人格を否認することはできない。 ウ被告Dの責任について(ア) 債務不履行責任a 原告大和川病院の院長経験者として,病棟の看護婦等に適切な看護を可能とするべき責務を負いながら,Hの指示命令に漫然と服したものであり,診療契約の当事者に準じる者として,(2)アの注意義務違反について債務不履行責任を負う。 b 被告D争う。 (イ) 不法行為責任a 原告被告Dは,(2)アの各注意義務違反について不法行為責任を負う。 b 被告D争う。 (4) 損害額ア Gの死亡に基づく損害(ア) 原告aGに対する慰謝料 1500万円Gは,原告との面会もできないままに,わずか1週間余りの本件入院期間後,排便できず腸内容物を嘔吐しながら,無惨な姿で死亡させられるに至った。Gが被った精神的苦痛に対する慰謝料としては3000万円を下らない。 原告は,上記慰謝料請求権3000万円のうち,法定相続分である2分の1に当たる1500万円を相続した。 b 原告に対する慰謝料 500万円原告は,Gの母であり,最愛の子供を失ったことにより原告自身が被った精神的苦痛に対す の1に当たる1500万円を相続した。 b 原告に対する慰謝料 500万円原告は,Gの母であり,最愛の子供を失ったことにより原告自身が被った精神的苦痛に対する慰謝料としては500万円を下らない。 c 弁護士費用 200万円原告は,本件訴訟を提起するために,原告代理人に依頼をしたが,弁護士費用として200万円を請求する。 (イ) 被告ら否認ないし争う。 イ Gが適切な治療を受ける期待を裏切られたことによる損害(予備的請求)(ア) 原告aGに対する慰謝料 1500万円仮に,Gに対する治療ないし看護に関する注意義務違反とGの死亡との間に因果関係が認められないとしても,Gは大和川病院において,適切な治療と看護を受けられず,その期待が裏切られたのであるから,これによって生ずるGの精神的な苦痛に対する慰謝料としては3000万円を下らない。 原告は,上記慰謝料請求権3000万円のうち,法定相続分である2分の1に当たる1500万円を相続した。 b 弁護士費用 150万円原告は,本件訴訟を提起するために,原告代理人に依頼をしたが,弁護士費用として150万円を請求する。 (イ) 被告ら否認ないし争う。 第3 争点に対する判断 1 争点(1)(Gの死亡原因)について(1) 事実認定前提事実及び証拠並びに弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ア G(昭和42年5月8日生)は,平成7年ころから警察官を極度に恐れるようになって外出をしなくなり,夜も寝られなくなった。平成8年3月ころ(以下,特に表示のない限り, ,以下の事実が認められる。 ア G(昭和42年5月8日生)は,平成7年ころから警察官を極度に恐れるようになって外出をしなくなり,夜も寝られなくなった。平成8年3月ころ(以下,特に表示のない限り,平成8年の意味である。)から気分が憂うつとなり,死にたくなり,体が振るえて止まらなくなるような状態となり,盗聴されていると訴えるようになった。5月11日,上野病院で診察を受け,心因反応の病名で,同月15日,16日と入院し,その後,精神分裂病等の病名で,6月3日から7月1日まで飛鳥病院へ入院し,7月5日には,五条山病院へ通院し,7月16日から12月4日まで済生会奈良病院へ通院し,この間,7月30日から8月29日までと,10月8日から10月27日までの2回,大和川病院へ入院していた。(甲19,乙12ないし18,原告本人)イ Gは,12月7日,自宅で父親といさかいになり,翌12月8日午前0時45分ころ,大和川病院のA2病棟に本件入院をすることになった。この時診察を行ったのは,当直のFであった。Gが,左手の掌に傷を負っていたため,Fは,消毒や抗生物質を投与し,睡眠剤を処方したが,特段,Gから他の訴えはなかった。(乙1の4・6,11。証人F)ウ 12月8日午前,Gは,主治医のJの診察を受けた。Gは,精神的には不安定であり,胸部心音が不純であったが,食欲は正常で,他に訴えはなかった。(乙1の4,10)エ Gは,12月8日,1日当たり,抗精神病薬である100ミリグラム・スルピリド錠9錠,10パーセント・プロペチル細粒1.5グラム,10パーセント・プロクラジン顆粒1.0グラム,1パーセント・ハロペリドール細粒1.0グラム,50ミリグラム・ゾピテ錠3錠,25ミリグラム・パドラセン3錠,10パーセント・ピレチア細粒1.0グラム,チスボン2錠の処方を2日分受 顆粒1.0グラム,1パーセント・ハロペリドール細粒1.0グラム,50ミリグラム・ゾピテ錠3錠,25ミリグラム・パドラセン3錠,10パーセント・ピレチア細粒1.0グラム,チスボン2錠の処方を2日分受け,同月10日,同じ内容の処方を4日分受け,入院時から,毎日,投薬を受けた。(乙1の4・6)オこのうち,精神神経用剤であるプロクラジン顆粒の1日の適用量は25ミリグラムから200ミリグラムとされており,フェノチアジン系抗ヒスタミン剤であるピレチアの1回の適用量は5ミリグラムから25ミリグラムとされている。(甲9)そして,Gが投薬を受けていた抗精神病薬の量を標準的な抗精神病薬であるクロルプロマジンに換算すると,1日当たり1630ミリグラムとなり,一般的に精神病に用いるクロルプロマジン換算の容量は50ミリグラムから450ミリグラムであるとされていることからすると,Gに対する投薬量は,その3・6倍から32・6倍に相当する。(甲12)カ Gは,12月10日ころ,大和川病院のA2病棟で補助看護人をしていたEに対し,便秘がひどいことを申告し,「どないかしてくれ。」「浣腸してくれ。」と訴えた。そこで,Eは,看護婦の主任のIに相談したところ,Iは「Eさん,いいのよ。いざとなったら座薬を入れたらいいのよ。」といって,Gに対し,何の措置もとらなかった。(甲5,証人E)キ Eが,12月13日の朝,投薬のためにGのもとを訪れると,Gは,Eに対し,「飲むの勘弁してくれ。飲んだことにして,捨てておいてくれ。」と訴えたので,EはGに投薬しなかった。同日の午前中,Eが巡回の都度,Gの様子を見ると,Gは苦しそうに呻いていた。同日,正午ころ,Gの隣のベットの患者が,Eに対し,Gの様子がおかしいと告げに来たため,Eが様子を見に行くと,Gの腹部が異様に膨らんでいた。そこ の都度,Gの様子を見ると,Gは苦しそうに呻いていた。同日,正午ころ,Gの隣のベットの患者が,Eに対し,Gの様子がおかしいと告げに来たため,Eが様子を見に行くと,Gの腹部が異様に膨らんでいた。そこで,EはIに対し,「Iさん早く下剤を与えるか,浣腸しないと」と言ったが,Iはとりあわなかった。さらに,約1時間後,Eが,Gの様子を見に行くと,Gは口から便のような黒いものをはき出し,脈もほとんど無い状態であった。Eが,IをGのもとに連れてくると,Iは病院全体に点呼をかけるようにEに指示し,廊下にいた他の患者を病室内に入れ,Gを1階の重症患者を収容する部屋に収容した。 (甲5,証人E)ク Gは,12月13日午後1時45分ころ死亡した。死亡診断書(甲1)を作成したのはFであるが,同医師がGの死亡に立ち会ったわけではなく,家族への説明のため,Gが急死したことと,糖尿病と不完全右脚ブロックの既往症がカルテ上から認められたため,死因を心筋梗塞と記載したに過ぎなかった。(甲1,乙1の6,11ないし13,証人F)ケ 12月13日午後4時ころ,原告は,大和川病院でGの遺体を見たが,その状況は,腹部のあたりが腫れて膨らんでおり,目の周りには涙がたまっていた。自宅に帰ってから,Gの鼻から出血があり,葬式の際,Gの遺体を棺桶に入れるとき,腹部を押さえたためか,Gの口と肛門から大量の内容物が排出された。(甲19,原告)コ抗精神病薬は,副作用の多い薬物であり,近年大きな問題となっているのは,自律神経症状であり,特に,下部消化管の機能障害,すなわち,慢性便秘,麻痺性イレウス,巨大結腸症などである。慢性便秘は,抗精神病薬の長期服用により,抗アセチルコリン作用によって腸管の拡張が起こり,運動不足などが重なって糞塊の停滞が慢性化し,大腸の筋緊張が低下して更に拡張が続くと ス,巨大結腸症などである。慢性便秘は,抗精神病薬の長期服用により,抗アセチルコリン作用によって腸管の拡張が起こり,運動不足などが重なって糞塊の停滞が慢性化し,大腸の筋緊張が低下して更に拡張が続くという悪循環によって起こると考えられている。麻痺性イレウスは,腸管筋の緊張低下に起因する腸の通過障害である。特にクロルプロマジンなどの薬剤は,抗アセチルコリン作用が強く,これらを大量に使用ないし併用することは,腸管の蠕動に抑制を来しやすいとされている。麻痺性イレウスは,大腸の動きが止まり,腹部も異様といえる程膨満し,小腸も停滞,充満し,腸内細菌の増殖が始まり,小腸粘膜が損傷されると,腸内の大量の細菌,エンドトキシン等が一気に血管内に進入し,悪寒,発熱等の症状をみる間もなく,容易に敗血症を引起し,同時にショック状態となり,救命は困難になるとされている。腸内容物は出血した血液が混じると黒くなり,腸から胃にまで充満し,嘔吐するようになる。あまり痛みはなく,腹痛もあったりなかったりで,気付かないうちに麻痺性イレウスになっている例もある。このような場合には,腸内の便が,一部排出されることもある。(甲10ないし14)(2) Gの死亡原因以上認定のGに対する抗精神病薬の大量投与,Gのひどい便秘状態,死亡に至る経緯,遺体の状況などからすると,Gの死因は,原告の主張するとおり,多量の抗精神病薬を多剤併用投与されたために,その副作用である自律神経症状として,高度の便秘状態を呈することとなり,これが高じて麻痺性イレウスとなり,便通が阻害され,腸内容物が腸内に蓄積し,それに伴って腸内細菌が増殖し,小腸粘膜の損傷によって,これが体内の血液に入り込んで敗血症を引き起こし,ショック状態を呈して死亡したものと認めるのが相当である。 (3) 被告らの主張に対する検討1 それに伴って腸内細菌が増殖し,小腸粘膜の損傷によって,これが体内の血液に入り込んで敗血症を引き起こし,ショック状態を呈して死亡したものと認めるのが相当である。 (3) 被告らの主張に対する検討1アこれに対し被告らは,Gは,12月4日,済生会奈良病院を受診し,食道・胃・十二指腸の消化管透視検査及び便中のヒトヘモグロビンの有無の検査を受けており,その際,下腹部症状の訴えはなく,しかも,これらの検査において異常所見は認められなかったから,Gは,12月4日に便通があり,また,大和川病院においても12月10日に1度便通があったこと,Gの大和川病院の入院時の投薬内容は,過去2度の入院時にもほぼ同様であり,その際にも,4ないし5日間便通がなかったことがあったが,いずれも特変なく経過していることからすると,Gにおいては4ないし5日間便通がなくても麻痺性イレウスを発症することはないと考えられるし,麻痺性イレウスにおいても,腹痛,嘔吐,腹部膨満などの症状は認められるはずであるところ,カルテ(乙1)には全くそれらの記載がなく,麻痺性イレウスから敗血症を引き起こしていたとすれば,悪寒,戦慄,発熱,瀕脈などの症状が出現し,血液データにおいても白血球数やCRPの上昇,好中球の核の左方移動,赤沈の亢進などが見られるはずであるが,カルテ(乙1)にはこれらの記録が全くないばかりか,12月11日に実施された血液検査においては白血球数は8000/μlと正常であり,他に異常所見も見られないのであるから,Gが敗血症を発症していたとは考えられず,麻痺性イレウスに罹患していたとすれば,便は肛門まで運ばれないため,肛門から便が出ることはなく,Gの遺体の肛門から内容物が出てきたとすれば,Gの死因が麻痺性イレウスでないことを裏付けている旨主張する。 イ確かに,Gは,済生会奈良病 ば,便は肛門まで運ばれないため,肛門から便が出ることはなく,Gの遺体の肛門から内容物が出てきたとすれば,Gの死因が麻痺性イレウスでないことを裏付けている旨主張する。 イ確かに,Gは,済生会奈良病院において,11月12日,食欲低下,便が出ない,という訴えを医師にしており,これに対してプルセニドという下剤が14日分投与されており,次の受診日である11月26日には,食欲が出てきたとの記載が同病院のカルテになされている。(甲14,乙17の29ないし31,25の9・10)また,Gは,大和川病院へ本件入院する4日前である12月4日,済生会奈良病院を受診し,食道・胃・十二指腸の消化管透視検査及び便中のヒトヘモグロビンの有無の検査(検便)を受けており,その際,下腹部症状の訴えはなく,しかも,これらの検査において異常所見は認められなかったことが認められる。(乙17の30・33・38,25の11)しかし,検便の対象となった便がいつ排出されたものか,その日時を認めるに足りる証拠はなく,仮に12月4日に排出されたものとしても,前認定(1)コのとおり,麻痺性イレウスであっても便がでることはあり得る上に,Gが死亡する12月13日までに9日間の経過があることを考慮すると,これらの事実の存在もGの死因に関する前認定を妨げるものではない。 ウ Gの過去2回の大和川病院への入院の際にも,本件入院時と同様の投薬がなされ,4,5日置きに便通があった旨の記載が看護日誌になされていることが認められる。(乙12,13)しかし,E証言によると,看護日誌は,無資格の補助看護人が記入しており,尿や便通の回数については,患者に確認することなく,形式的に記入していたことが認められるので,このような信頼性の認められない看護日誌の記載を前提にする被告らの主張は採用できない。 エ麻 しており,尿や便通の回数については,患者に確認することなく,形式的に記入していたことが認められるので,このような信頼性の認められない看護日誌の記載を前提にする被告らの主張は採用できない。 エ麻痺性イレウスの症状としては,全身的には,電解質異常と代謝異常,脱水症状を来し,腹部症状としては,腹痛,膨満,悪心,嘔吐,鼓腸,ガス・大便の排泄障害などを生ずるとする文献もある。(甲13,乙8,9)しかし,前記認定(1)コのとおり,麻痺性イレウスの場合,腹痛は必ずしも発生するものではなく,かえって麻痺性イレウスの場合には疼通があらわれることは少ないと指摘している文献(乙9)もある上に,腹部膨満,嘔吐,大便の排泄障害などの症状が認められたことは前認定のとおりであるから,この点の指摘も判断を左右するものではない。 オ大和川病院において12月11日に実施された血液検査において,Gの白血球数は8000/μlと正常範囲内であり(乙1の5の1),敗血症を発症していた形跡がうかがえないことは,被告ら指摘のとおりである。 しかし,前認定(1)コのとおり,麻痺性イレウスから敗血症性ショックを引き起こした場合,時間的に余裕のないことが認められ,死亡する2日前の血液検査の白血球数が正常であり,他に悪寒,発熱,瀕脈等の症状が認められないとしても,麻痺性イレウス,敗血症の発症を否定する根拠となるものではない。 カ被告らは,Gの遺体から便が出てきたことを麻痺性イレウスの発症を否定する理由とするが,麻痺性イレウスであっても,便が一部排出されることがあることは前認定(1)コのとおりである。 (4) 被告らの主張に対する検討2ア被告らは,また,Gは基礎疾患としての糖尿病に,肥満,喫煙等の危険因子が加わって動脈硬化が進展し,心筋梗塞を引き起こして突然死亡した可能性が高い りである。 (4) 被告らの主張に対する検討2ア被告らは,また,Gは基礎疾患としての糖尿病に,肥満,喫煙等の危険因子が加わって動脈硬化が進展し,心筋梗塞を引き起こして突然死亡した可能性が高い旨主張する。 イ確かに,証拠によれば,以下の事実が認められる。 (ア) Gは,平成2年ないし3年ころより,基礎疾患として,糖尿病に罹患していた。そして,平成8年の血糖値の検査結果は,以下のとおりである。(甲19,乙14,15,17,18,原告)5月11日  182ミリグラム/リットル5月16日  197ミリグラム/リットル6月4日 170ミリグラム/リットル7月19日  75gOGTT(糖負荷試験)投与前 236ミリグラム/リットル30分後  284ミリグラム/リットル60分後  321ミリグラム/リットル120分後 356ミリグラム/リットル7月29日  214ミリグラム/リットル9月17日  197ミリグラム/リットル10月30日 212ミリグラム/リットル11月12日 179ミリグラム/リットル11月26日 159ミリグラム/リットル(イ) Gは,身長189㎝,体重は,7月16日当時98kg,12月8日当時105㎏で,肥満状態にあり,1日40本の喫煙習慣があった。(乙1の4,17,18)(ウ) 前認定のとおり,Gには,不完全右脚ブロックが見られた。(乙1の6)(エ) 右脚ブロックとは,心臓の調結節からの刺激が,心房から房室接合部,ヒス束を通って右脚と左脚へ伝えられるが,右脚の興奮伝導が障害(ブロック)されている状態をいう。その原因は,冠状動脈硬化等の虚血性心疾患,高血圧性心疾患などであるとされている。そして,突然完全房室ブロックに移行し 右脚と左脚へ伝えられるが,右脚の興奮伝導が障害(ブロック)されている状態をいう。その原因は,冠状動脈硬化等の虚血性心疾患,高血圧性心疾患などであるとされている。そして,突然完全房室ブロックに移行して心停止を生じる例もある。(乙3ないし6)(オ) 心筋梗塞は,冠状動脈の閉塞または急激な血液の減少により,心筋の領域に一定時間血流が途絶え,あるいは十分に行かない場合に起こる虚血性心疾患で,心筋の壊死を生じたものという。その素因として糖尿病があれば発生率は高くなり,若年者においては肥満も関係があるといわれており,喫煙する人は,タバコを吸わない人の3倍の発生率があるといわれている。(乙22,弁論の全趣旨)ウこれらの認定事実からすると,被告らの主張の心筋梗塞がGの死因であるとの主張も確率は低いものの(甲13),むげに排斥できないように思われる。 しかし,上記イ(エ)(オ)認定のとおり,Gの死因が心筋梗塞であるというためには,右脚ブロックの原因として,冠状動脈硬化等の虚血性心疾患が基礎疾患として存在していることを要するところ,11月26日に済生会奈良病院において行われたGの血液検査の結果によると,Gのコレステロ-ル値及び中性脂肪値は,いずれも正常値の範囲内にあることが認められ(乙17の38),Gの年令(29歳)等も考慮すると,Gが動脈硬化の状態にあったとは考えにくい。 そしてなによりも,心筋梗塞による死亡の状況と,前認定のGの死亡前後の状況とが合致せず,被告らのこの主張も採用の限りではない。 2 争点(2)(被告北錦会,H,被告Dの注意義務違反の有無)について(1) 事実認定証拠によれば,以下の事実が認められる。 ア大和川病院には,4階建ての建物が2棟あり,それぞれ「A・B」棟と「C」棟と呼ばれ,「A・B」棟には,A2の1,A2の ついて(1) 事実認定証拠によれば,以下の事実が認められる。 ア大和川病院には,4階建ての建物が2棟あり,それぞれ「A・B」棟と「C」棟と呼ばれ,「A・B」棟には,A2の1,A2の2,A3の1,A3の2,B2,B3及びB4病棟があり,「C」病棟には,C1,C2,C3及びC4病棟があった。病床数は全部で524床であったが,常にほぼ満床の状態であった。平成8年12月当時,常勤の医師は,平成5年5月7日から院長を務めていたJ(内科専攻)を含めて約4名,非常勤の医師が4,5名,看護婦が約30名,看護補助者が約6名しか勤務していなかった。(甲45,証人E)そして,A病棟はJの担当,B病棟はFの担当,C病棟は被告Dの担当であった。(甲5,証人E)イ被告北錦会は,大阪府知事に対し,平成8年6月24日,大和川病院について,看護婦等の配置名簿等内容虚偽の書類を添付して,入院患者6名に対し1名の看護婦を配置する「6対1看護」の届出をし,同届出は同年7月1日に受理されたが,現実に勤務している看護婦数は,上記届出の基準を満たしていなかったので,医療監視対策として,退職した看護婦の氏名や免許証のコピーを無断で利用して,看護婦の数を実際よりも水増したり,勤務日数を大幅に水増してタイムカード,勤務表,病棟管理日誌などを偽造していた。(甲23,39,42ないし44,46,49,50,59,60)ウ平成8年12月19日から平成9年4月18日にかけて,八尾保健所が実施した平成8年度の医療監視の結果によれば,大和川病院全体では,医療法で要求されている人員数より医師は5・1名不足,看護婦は38・1名不足している状況であった。(甲28)エ Gが入院していた当時の大和川病院のA2病棟の担当医であるJは,専門は内科であり,昭和54年9月から大和川病院で 数より医師は5・1名不足,看護婦は38・1名不足している状況であった。(甲28)エ Gが入院していた当時の大和川病院のA2病棟の担当医であるJは,専門は内科であり,昭和54年9月から大和川病院で勤務するようになる以前は精神科の経験がなかった。平成8年12月当時,A2病棟には90名程度が入院していたが,Jは,1日10名程度の患者を診察していたに過ぎなかった。平成5年5月7日からは,大和川病院の院長になったが,何らの権限もなく,後記認定のとおり,Hの作成した治療マニュアルや指示に基づいてカルテに記載されていた処置等に合わせて病名等を付けていたに過ぎなかった。(甲5,45,乙2,証人E)オ大和川病院では,毎日,系列の安田病院や円生病院からレセプトを作成するため,院長付きと呼ばれる看護婦がやってきて,毎月末日までのHの具体的な指示ないしHが作成した治療マニュアルに基づいて記入したカルテの記載に基づいてレセプトを作成し,看護婦が,患者の状況や検査結果,処置の内容等を付箋に書いてこれに添付し,そのレセプトをHが点検し,翌月の注射,投薬,検査等についての具体的指示を付箋に記入して担当の看護婦に返還し,各看護婦は,その付箋に記載されてあるHの指示事項を,看護婦詰所の指示簿やカルテに記入し,その後,毎月月初めに,Hがレセプトを作成した看護婦を安田病院に集めて,カルテの記載内容とレセプトの記載を照合してチェックを行い,付箋外しを行っていた。このように,大和川病院では,現実には患者を診察していないHの指示やHがあらかじめ作成していた治療マニュアルに基づいて,看護婦がカルテに薬の処方や実施する検査の内容を記入し,その記載に基づいて投薬や検査が行われていた。そして,医師は,このカルテの記載に見合うように病名や所見をカルテに記載していた。看護婦が,Hの指示 看護婦がカルテに薬の処方や実施する検査の内容を記入し,その記載に基づいて投薬や検査が行われていた。そして,医師は,このカルテの記載に見合うように病名や所見をカルテに記載していた。看護婦が,Hの指示ないしマニュアルに従わずに異なる処置をした場合には,Hから罰金を取られることがあった。 (甲31,33ないし35,38,39,41,43ないし45,53,55,64)(2) 被告北錦会及びHの注意義務違反ア被告北錦会は,精神病院である大和川病院の経営主体であるから,大和川病院に入院したGに対し,診療契約の内容として,その個人としての尊厳を尊重し,人権に配慮しつつ適切な精神医療の確保及び社会復帰の促進に資するよう,適切な治療及び看護を提供すべき義務を負うものである(甲29)。 したがって,その当然の前提として,被告北錦会及びHは,適正な人員の医師及び看護婦を配置して,Gに対して十分な治療及び看護を実施できる体制を整備し,医師によってGに対して適時適切な診察を行い,その診察に基づいて,適切に投薬治療を施し,Gの病状を適時適切に観察し,その病状の変化に応じてさらに適切な治療等を施すべき注意義務を負っていることは明らかである。 イ(ア) しかるに,被告北錦会の医師や看護婦の人数は,前認定のとおり,大阪府知事に対して届け出た基準を大幅に下回っており,到底,適正な人員の医師及び看護婦を配置して十分な治療及び看護を実施できる体制を整備していたとはいえず,Gを一度も診察もしていないHの作成した治療マニュアルや指示に基づき,画一的機械的に極めて多量の抗精神病薬を連続して投与し,Gが高度の便秘状態で苦しんでいたのに,適切な診察や処置をしないまま放置し,麻痺性イレウスを発症させ,さらに敗血症を発症したのに,その病状の変化を見過ごし,適切な治療を行わないままGを して投与し,Gが高度の便秘状態で苦しんでいたのに,適切な診察や処置をしないまま放置し,麻痺性イレウスを発症させ,さらに敗血症を発症したのに,その病状の変化を見過ごし,適切な治療を行わないままGを死亡させたもので,被告北錦会は,前記各義務に違反したものと認められる。 (イ) また,Hは,Gを一度も診察もしていないのに,自己の作成した治療マニュアルや指示に基づき,画一的機械的に極めて多量の抗精神病薬を連続して投与させ,Gが高度の便秘状態で苦しんでいたのに,適切な診察や処置をしないまま放置し,麻痺性イレウスを発症させ,さらに敗血症を発症したのに,その病状の変化を見過ごし,適切な治療を行わないままGを死亡させたものであって,Gに対して,適時適切な診察を行い,その診察に基づいて,適切に投薬治療を施し,Gの病状を適時適切に観察し,その病状の変化に応じてさらに適切な治療等を施すべき注意義務に違反したものと認められる。 ウ被告らは,Gに対する抗精神病薬の投与は,多量とはいえず,医師の診療も行った旨主張する。しかし,Gに対する抗精神病薬の投与量が,一般的に用いられる量の3・6倍から32・6倍であることは前認定のとおりであり,FやJの診察が行われていたとしても,Hの作成した治療マニュアルや指示に基づくものを変更するものではなく,これに見合う所見等をカルテに記載するに過ぎなかったことも前認定のとおりであるから,被告らの主張は採用できない。 (3) 被告Dの注意義務違反被告Dは,平成5年5月6日まで,大和川病院の院長であったが,前認定のとおり,平成8年12月当時は,大和川病院のC病棟の担当医師で,Gに対して診療等を行ったことを認めるに足りる証拠はない。 してみると,大和川病院の診療態勢が前示のとおりであったとしても,他の病棟の医師である被 8年12月当時は,大和川病院のC病棟の担当医師で,Gに対して診療等を行ったことを認めるに足りる証拠はない。 してみると,大和川病院の診療態勢が前示のとおりであったとしても,他の病棟の医師である被告Dに対して,前記各注意義務違反があるとまで認めることはできない。 3 争点(3)(被告らの責任原因)(1) 被告北錦会の責任原因被告北錦会は,大和川病院の経営主体として,Gが大和川病院に入院するに当たって,診療契約を締結しているものと認められる。 前記2(2)で判示したところの各注意義務違反は,診療契約上の債務の不履行に該当すると認められるので,被告北錦会は,Gに対し,債務不履行責任を負うことは明らかである。 (2) Hの責任原因Hは,前記2(2)で判示したとおり,Gを診察することなく,治療マニュアルに基づき,Gに対して多量の抗精神病薬を継続して投与せしめ,その結果,麻痺性イレウスを発症し,敗血症を引き起こし,ショック状態を呈して死亡せしめたのであるから,Gに対して不法行為責任を負うことは明らかである。 (3) 被告Dの責任被告Dには,注意義務違反が認められないので,債務不履行責任及び不法行為責任とも認められない。 4 争点(4)(損害額)(1) Gに対する慰謝料 3000万円Gは,多量の抗精神病薬を投与され,高度の便秘に苦しみながら,適切な治療や処置も受けられず,内容物を嘔吐しながら,無惨な姿で死亡させられるに至ったもので,大和川病院における治療の実態をも考慮すると,その精神的苦痛に対する慰謝料としては,金3000万円が相当である。 (2) 原告に対する慰謝料 500万円原告は,Gの母であり,大和川病院への入院後わずか5日後に最愛の子供を失ったもので,G死亡の状況等も考慮すると,原告自 ,金3000万円が相当である。 (2) 原告に対する慰謝料 500万円原告は,Gの母であり,大和川病院への入院後わずか5日後に最愛の子供を失ったもので,G死亡の状況等も考慮すると,原告自身が被った精神的苦痛に対する慰謝料として,金500万円が相当である。 (3) 弁護士費用 200万円本件事案の内容,訴訟の進行経過等を考慮すると,弁護士費用として,金200万円が相当である。 (4) 相続関係ア原告は,Gの死亡により,Gの被告北錦会に対する債務不履行に基づく損害賠償請求権及びHに対する不法行為による損害賠償請求権の各2分の1を相続した。 イ被告A,被告B及び被告Cは,Hの死亡により,Hが負担していたGに対する不法行為に基づく損害賠償債務を,それぞれの相続分である3分の1ずつ分割して相続した。 第4 結論以上によれば,原告の請求のうち,被告Dに対する請求はいずれも理由がないからこれを棄却し,その余の被告に対する主位的請求は理由があるからこれを認容することとして,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第12民事部裁判長裁判官中村隆次裁判官宮武康裁判官藪崇司

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