平成30年5月24日判決言渡平成29年(行ケ)第10129号特許取消決定取消請求事件口頭弁論終結日平成30年3月22日判決 原告築野食品工業株式会社 訴訟代理人弁理士岩谷 龍 勝又政徳 佐野有紀 被告特許庁長官指定代理人佐々木 正 章 山崎勝司 紀本 孝 板谷玲子 藤原浩子 主文 1 特許庁が異議2016-700420号事件について平成29年5月8日にした決定を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求主文同旨第2 事案の概要 1 特許庁における手続の経緯等(1) 原告は,平成27年3月5日(優先権主張:同年2月4日),「米糖化物並びに米油及び/又はイノシトールを含有する食品」と題する発明につき特許出願(特願2015-43376号。以下「本件出願」という。)をし,特許査定を受けて,平成27年10月2日,特許第5813262号として特許権の設定登録がされた(以下「本件特許」という。)。 (2) 平成28年5月13日,本件特許につき特許異議の申立てがあり,特許庁は,これを異議2016-700420号事件として審理した。 同審理においては,同年7月12日付けで取消理由が通知され,同年9月13日に意見書の提出及び訂正の請求がされ,同月30日に上申書が提出され,同年11月14日に特許異議申立人から意見書が提出され,その後,平成29年1月19日付けで取消理由(決定の予告)が通知され,同年3月27日に意見書の提出及び訂正の請求がされた(以下,最後の訂正請求を「本件訂正請求」という。)。 なお,平成28年9月13日付けの 成29年1月19日付けで取消理由(決定の予告)が通知され,同年3月27日に意見書の提出及び訂正の請求がされた(以下,最後の訂正請求を「本件訂正請求」という。)。 なお,平成28年9月13日付けの訂正請求は,平成29年3月27日付けの訂正請求(本件訂正請求)がされたため,特許法120条の5第7項の規定により,取り下げられたものとみなされた。 (3) 平成29年5月8日,特許庁は,本件訂正請求を認めた上,「特許第5813262号の請求項1~4に係る特許を取り消す。」との決定を行い,その謄本は同年5月19日に原告に送達された(以下,同決定を「異議決定」という。)。 (4) 平成29年6月14日,原告は,異議決定の取消しを求めて本件訴えを提起した。 2 特許請求の範囲の記載本件訂正後の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである(以下「本件発明」といい,個別に特定するときは,請求項の番号に従って「本件発明1」などと 特定する。また,本件発明に係る明細書及び図面を併せて「本件明細書」という。)。 「【請求項1】米糖化物,及びγ-オリザノールを1~5質量%含有する米油を含有するライスミルクであって,当該米油を0.5~5質量%含有するライスミルク。 【請求項2】さらにイノシトールを含有する請求項1に記載のライスミルク。 【請求項3】イノシトールを0.01~0.5質量%含有する請求項2に記載のライスミルク。 【請求項4】請求項1~3のいずれかに記載のライスミルクを含有する食品。」 3 異議決定の理由の要旨異議決定の理由は,別紙決定書の写し記載のとおりである。要するに,本件発明は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものでない,すなわち,①本件明細書の記載からは,γ-オリザノールを1~5質量%含有する米油 理由は,別紙決定書の写し記載のとおりである。要するに,本件発明は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものでない,すなわち,①本件明細書の記載からは,γ-オリザノールを1~5質量%含有する米油全てについて,それぞれライスミルクへの含有量が0.5~5質量%の全範囲にわたって,本件発明1の課題を解決できることまでは認識できず,②本件発明1の特定事項を全て含み,米油について新たな限定を付加するものでない本件発明2~4についても同様であるから,本件発明は,特許法36条6項1号の要件(サポート要件)を満たしておらず,本件発明にかかる特許は,特許法113条4号により取り消されるべき,というものである。 第3 原告が主張する取消事由の要点 1 判断手法の誤り(取消事由1)異議決定は,その理由から,知的財産高等裁判所平成17年(行ケ)第10042号同年11月11日特別部判決(偏光フィルム事件大合議判決。以下「大 合議判決」という。)が示す判断基準を本件に適用させたものであることが明らかである。 しかし,大合議判決は,パラメータXとパラメータYとが式(I)と式(II)の二式を満足するという複雑な関係が,従来技術の有する課題を解決するために不可欠な手段であるか否かが争われた特殊なケースであるのに対し,本件発明1の「米油中のγ-オリザノール含有量1~5質量%」及び「ライスミルク中の米油含有量0.5~5質量%」のいずれの数値限定も,本件発明の課題の解決のために不可欠ではなく,望ましい数値範囲にすぎない。すなわち,本件発明1において米油中のγ-オリザノール含有量を「1~5質量%」とし,ライスミルク中の米油含有量を「0.5~5質量%」と限定したのは,本来具体的に限定する必要がない含有量について,一般的に採用されるであろうと考えられる範囲に限定 ノール含有量を「1~5質量%」とし,ライスミルク中の米油含有量を「0.5~5質量%」と限定したのは,本来具体的に限定する必要がない含有量について,一般的に採用されるであろうと考えられる範囲に限定して早期に特許を受けようとしたのにとどまるのである。 したがって,本件発明1においては,数値範囲と得られる効果との関係の技術的な意味を立証する必要はないのに,この立証が必要なことを前提とする大合議判決の論理を適用するのは誤りである。 なお,大合議判決が示す判断基準のうち,「発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである」との部分は,法文上根拠のない事項であり,考慮されるべきものではない。かかる意味でも,異議決定は,誤った事項に依拠して行ったという違法がある。 2 課題の認定の誤り(取消事由2)(1) 本件明細書に記載されているとおり,本件発明の課題は,「コク,甘味,美味しさ等を有する米糖化物含有食品を提供すること」であり,同課題は,「米糖化物及び米油を含有する食品」によって解決される。 しかるに,異議決定は,本件発明1の課題は,「実施例1-1のライスミ ルクに比べてコク(ミルク感),甘味及び美味しさについて優位(判決注:「有意」の誤記と認める。以下同じ。)な差を有するものを提供すること」であり,本件発明1が課題を解決できると認識できるためには,「γ-オリザノールの含有量が1質量%の米油から5質量%の米油のすべてについて,それぞれライスミルクへの含有量が0.5~5質量%の全範囲にわたって,実施例1-1のライスミルクに比べてコク(ミルク感),甘味及び美味しさについて優 質量%の米油から5質量%の米油のすべてについて,それぞれライスミルクへの含有量が0.5~5質量%の全範囲にわたって,実施例1-1のライスミルクに比べてコク(ミルク感),甘味及び美味しさについて優位な差を有することを認識できることが必要である」と認定した。 しかし,かかる異議決定の認定は誤りである。 (2) 上記認定が誤りである理由ア異議決定(9頁下から2行~10頁5行)は,甲1(米国特許出願公開第2004/0213890号明細書)に記載の「米油を2重量%含有するライスミルク」及び甲8(特許第5596846号公報)に記載の「一般の米油がγ-オリザノールを0.1~0.5質量%含有すること」がいずれも周知であると述べており,異議決定の理由が,上記各引用文献記載事項が周知であるとの理由に大きく依存していることは明らかである(甲1及び甲8は,いずれも新規性及び進歩性欠如を理由とする拒絶理由通知に引用された文献である。)。 しかし,甲1には,γ-オリザノールについての記載も示唆もなく,甲8には,米油を2重量%含有するライスミルクについての記載も示唆もないから,「米油を2重量%含有するライスミルク」及び「一般の米油がγ-オリザノールを0.1~0.5質量%含有すること」が周知であるとの異議決定の認定は事実に反する。甲1及び甲8には,公知技術が記載されているにすぎない。 特許法36条6項1号において,課題が解決できる範囲のものであるか否かの判断に,公知技術を考慮することが必要であること,及び,公知技術を参酌して課題が変動し得ることの法的根拠は全くない。課題は,出願 当初の明細書に従って決定されるべきであって,新規性,進歩性にかかわる出願後に見出された公知技術により,変更されるべきものではない。 イ異議決定は,「本件発明1にお 全くない。課題は,出願 当初の明細書に従って決定されるべきであって,新規性,進歩性にかかわる出願後に見出された公知技術により,変更されるべきものではない。 イ異議決定は,「本件発明1において,ライスミルクにγ-オリザノールを含有する米油を0.5~5質量%含有すること自体は,上記課題を解決する上で特別な技術的特徴とはいえない。」,「本件発明1は,上記課題を解決する上で,ライスミルクに含有させる米油のγ-オリザノールの含有割合に技術的特徴がある」などと認定しており,特許取消理由が,γ-オリザノールの含有割合に技術的特徴があるとの認定に依拠していることが明らかである。 しかし,そもそも,サポート要件の適否判断に,「技術的特徴」ないし「特別な技術的特徴」などという,法的な根拠がない要件を持ち込むこと自体が誤りである。 また,本件発明の課題は,前記のとおり,「コク,甘味,美味しさ等を有する米糖化物含有食品を提供すること」であり,このことは,いずれの公知文献においても記載も示唆もされていない。したがって,本件発明は課題に特徴がある,いわゆる課題発明というべき特徴を有し,公知文献に全く記載がない革命的課題を提供することが,本件発明の特徴である。 したがって,ライスミルクに含有させる米油のγ-オリザノールの含有割合に特徴があるとする特許取消理由は正しくない。 なお,異議決定は,その理由付けとして,原告が提出した平成27年6月26日付け意見書(甲15)記載の主張をも引用するが,同主張は飽くまで進歩性に関するものであって,これをサポート要件の議論にも適用するのは不当である。 ウ異議決定は,「本件発明1の課題は,上記aのとおり,具体的には,実施例1-1のライスミルクに比べてコク(ミルク感),甘味及び美味しさについて優位な差を有するもの にも適用するのは不当である。 ウ異議決定は,「本件発明1の課題は,上記aのとおり,具体的には,実施例1-1のライスミルクに比べてコク(ミルク感),甘味及び美味しさについて優位な差を有するものを提供することであり」(12頁16~1 8行),「本件発明1が課題を解決できると認識できるためには,…,実施例1-1のライスミルクに比べてコク(ミルク感),甘味及び美味しさについて優位な差を有することを認識できることが必要である。」(12頁20~25行)とする。 しかし,実施例1-1のライスミルクに比べてコク(ミルク感),甘味及び美味しさ等について有意な差を有することが認識できることが必要であるとする理由の根拠が異議決定のどこにも見当たらない。 また,実施例1-1は,本件特許の優先日前において公知ではないが,仮に公知であるとしても,公知技術が特許法36条6項1号の判断に採用されなければならない法律上の根拠はない。 3 課題を解決できると認識できる範囲の判断の誤り(取消事由3)(1) 異議決定には,課題を解決できると認識できる範囲の判断について,以下の点で誤りがある。 ア呈味メカニズムについて異議決定において「γ-オリザノール自体ではなくγ-オリザノールを構成するものを含む植物ステロールが風味に影響してくることも否定できない。」(11頁31~33行)と認定しているが,この呈味メカニズムに関する理由は根拠がない。 また,γ-オリザノールは,植物ステロールとフェルラ酸とが共有結合したもので(甲26),化学構図の一部に植物ステロール骨格を有するけれども,γ-オリザノールと植物ステロールとは,別異の化学物質でありその化学構造は大きく異なるから,当業者であれば,γ-オリザノールを構成する植物ステロール部分が風味に影響するといえない を有するけれども,γ-オリザノールと植物ステロールとは,別異の化学物質でありその化学構造は大きく異なるから,当業者であれば,γ-オリザノールを構成する植物ステロール部分が風味に影響するといえないと理解する。 そもそも,実施例1-1と実施例1-2とを対比すると,実施例1-1のコク,甘味,美味しさ等は,実施例1-2によって有意に改善している(異議決定:12頁下から12~10行)。しかるに,実施例1-1で用 いられた「こめ油」と実施例1-2で用いられた「米胚芽油」の組成は,甲26(2頁の表)に記載のとおり,γ-オリザノール量については,後者は前者の7倍であるのに対し,植物ステロール量については,後者は前者のわずか1.05倍であり,両植物ステロール量は実質的に同じである。 また,甲26(2頁の表)に記載のとおり,両者の脂肪酸組成は全く同じである。したがって,コク(ミルク感),甘味,美味しさ等の改善の原因は,米油が,植物ステロールではなく,γ-オリザノールを含有しているからであるとする明確な合理的理由がある。 いずれにしろ,呈味のメカニズムはサポート要件には関係ない。 イコク(ミルク感),甘味及び美味しさの評価点数について異議決定は,「『コク(ミルク感)』,『甘み』及び『美味しさ』の各評価項目を用いて,それぞれが具体的にどのような評価点数になることで課題が解決されたと判断されるのか,又は合計・平均点数が何点以上で課題が解決されたと判断されるのか等,直ちに上記課題が解決できるかどうかは理解できない。」と論難している。 しかし,本件明細書の【0023】において,「コク,甘味及び美味しさに関して,例えば,本発明の食品と,米油もイノシトールも含有しないで例えば大豆油等を含有する食品との食味試験を行い,有意差がある場合に,改善された 書の【0023】において,「コク,甘味及び美味しさに関して,例えば,本発明の食品と,米油もイノシトールも含有しないで例えば大豆油等を含有する食品との食味試験を行い,有意差がある場合に,改善されたと判断することができる。」旨,記載され,実際,実施例では,米油もイノシト-ルも含有しない,基準ライスミルクや大豆油を比較対象として食味試験を行い,米油を含有するライスミルクが,これらに対して,t-検定統計処理により有意差があることを実証している。 ウ 1~5質量%の全範囲及び0.5~5質量%の全範囲にわたる立証について異議決定には,「γ-オリザノールを1~5質量%含有する米油の全てについて,それぞれライスミルクへの含有量が0.5~5質量%の全範囲 にわたって,本件発明1の課題を解決できることまでは認識できない」(13頁14~17行)旨,記載されている。 しかし,数値範囲は一般的に一定範囲の連続数であり,その中には,無限の数の数字が含まれるから,数値範囲の全範囲について立証することは,不可能である。出願当初の明細書に実施可能であると開示されている範囲の全範囲を立証できなくとも,出願時の明細書又は出願後提出の代表例によって,上記開示が正しいことを裏付ければよい。 (2) 課題は本件発明1によって解決されることア前記のとおり,本件発明の課題は,「コク,甘味,美味しさ等を有する米糖化物含有食品を提供すること」である。 本件明細書の図1によれば,比較例1のようにライスミルクに大豆油を含有することでは,米油を含有しない基準ライスミルク1と比較して,ライスミルクの甘味が改善されず,ライスミルクの美味しさは有意に劣る一方,実施例1-1及び1-2の両者のいずれもライスミルクに米油を含有することで,米油を含有しない基準ライスミルク1 1と比較して,ライスミルクの甘味が改善されず,ライスミルクの美味しさは有意に劣る一方,実施例1-1及び1-2の両者のいずれもライスミルクに米油を含有することで,米油を含有しない基準ライスミルク1及び米油を含有しないで大豆油を含有する比較例1と比較して,コク(ミルク感),甘味及び美味しさが有意に優れている。 また,米油によってライスミルクのコク(ミルク感),甘味,美味しさ等が改善されることは,本件明細書の図2の試験例2及び図4の試験例4(なお,図4中,実施例2-3は実施例4-1の誤記である。)からも,明らかである。 なお,γ-オリザノールは米油特有の微量成分であり(甲40・35頁4~6行),現に,どのメーカーの米油もγ-オリザノールを含有している一方,米油以外の食用植物油,例えば,図1の比較例1で用いられる大豆油は元々γ-オリザノールを含有しない。 図1に接した当業者は,γ-オリザノールを含まない大豆油や基準ライ スミルクでなく,γ-オリザノールを含有することが知られている米油が本件発明の課題を解決できる,ひいては,本件発明の課題の解決において重要なのは,γ-オリザノールの米油中の割合ではなく,米油ないしγ-オリザノールを含有する米油にあるものと認識する。 したがって,本件発明1がその発明の課題を解決できるものであることは明らかである。 イなお,本件明細書の出願当初の明細書の記載が特許法36条6項1号の規定を満足することを更に明瞭にするためのデータを,甲52として提出する。これからも,本件発明の課題が本件発明1によって解決されることは明らかであり,甲52は必ず考慮されるべきである。 第4 被告の反論の要点 1 判断手法の誤り(取消事由1)について(1) 大合議判決を適用したことについて大合議判決が示した, されることは明らかであり,甲52は必ず考慮されるべきである。 第4 被告の反論の要点 1 判断手法の誤り(取消事由1)について(1) 大合議判決を適用したことについて大合議判決が示した,「特許請求の範囲に発明として記載して特許を受けるためには,明細書の発明の詳細な説明に,当該発明の課題が解決できることを当業者において認識できる」ように記載しなければならないとの要件は,原告が主張する特殊なケースであるか否かにかかわらず,適用されるものである。 これを,本件発明1についてみると,「米油中のγ-オリザノール含有量1~5質量%」及び「ライスミルク中の米油含有量0.5~5質量%」という二つの数値範囲を用いて特定された数値限定発明が,本件明細書の発明の詳細な説明に,当該発明の課題が解決できることを当業者において認識できるように記載しなければならない。 異議決定は,数値限定発明である本件発明1について,特許出願時の技術常識を参酌して,本件発明1の数値範囲を満たすものであれば,所望の効果が得られ,当該発明の課題が解決できると当業者において認識できる程度に, 具体例等が明細書の詳細な説明に記載されているかどうかを判断したものである。 したがって,異議決定における「判断手法」に誤りはない。 (2) 数値範囲は課題を解決するために不可欠ではないとの原告主張について原告は,「米油中のγ-オリザノール含有量」及び「ライスミルク中の米油含有量」は,本件発明の課題を解決するために不可欠ではなく,望ましい数値範囲にすぎないから,これらの数値範囲と得られる効果との関係の技術的な意味を立証する必要はない旨主張する。 しかし,本件発明1において特定された数値範囲が,当該発明の課題を解決するために不可欠であるか否かにかかわらず(言い換えれば,そ られる効果との関係の技術的な意味を立証する必要はない旨主張する。 しかし,本件発明1において特定された数値範囲が,当該発明の課題を解決するために不可欠であるか否かにかかわらず(言い換えれば,その数値範囲を満たさなくても課題が解決できるものであるとしても),本件発明1が数値範囲を発明特定事項とするものである以上,当該数値範囲を満たす本件発明1について,当該発明の課題が解決できると認識できる範囲のものであることを示すことが必要である。 したがって,原告の上記主張は失当である。 (3) 以上のとおり,異議決定における判断手法に誤りはなく,原告が主張する取消事由1は理由がない。 2 課題の認定の誤り(取消事由2)について(1) 原告の主張(2)アについてア異議決定においては,本件出願の10年以上前に公開となった甲1に基づいて「米油を2重量%含有するライスミルク」が周知であり,また,甲8に基づいて「一般の米油がγ-オリザノールを0.1~0.5質量%含有すること」が周知であるとした。 甲1又は甲8のそれぞれから,「米油を2重量%含有するライスミルク」及び「一般の米油がγ-オリザノールを0.1~0.5質量%含有すること」の両事項が周知であると認定したのではないから,原告が主張するよ うに,甲1に「米油を2重量%含有するライスミルク」が記載され,γ-オリザノールの記載がなく,甲8に「一般の米油がγ-オリザノールを0. 1~0.5質量%含有すること」が記載され,米油を2重量%含有するライスミルクの記載がないことは,上記の二つの周知技術の認定に影響するものではない。 イ発明が解決しようとする課題とは,出願時の技術水準に照らして未解決であった課題であるから,異議決定においては,本件明細書の【0006】の記載及び実施例から 技術の認定に影響するものではない。 イ発明が解決しようとする課題とは,出願時の技術水準に照らして未解決であった課題であるから,異議決定においては,本件明細書の【0006】の記載及び実施例から,原告主張のとおりの「コク,甘味,美味しさ等を有する米糖化物含有食品を提供すること」を課題として認定した上で(9頁下から8~3行),上記周知技術を(本件出願時の技術水準を示すものとして)参酌するなどして,本件発明1の課題は,「具体的には,実施例1-1のライスミルクに比べてコク(ミルク感),甘味及び美味しさについて優位な差を有するものを提供すること」であるとしたものであり(12頁16~18行),原告の主張するように,公知技術を参酌して本件発明1の課題を認定したものではない。 ウしたがって,異議決定の周知技術の認定及び公知技術を参酌して課題を変動することについての原告の主張は,いずれも理由がない。 (2) 原告の主張(2)イについてア異議決定の「本件発明1は,上記課題を解決する上で,ライスミルクに含有させる米油のγ-オリザノールの含有割合に技術的特徴があるものと認められる。」(10頁9~11行)との記載における「技術的特徴」とは,本件明細書に記載された背景技術(及び本件出願時の技術水準)と比較して特別な技術的事項であり,本件発明1の課題を解決するための手段としての技術的事項であることを明確にするために使用した文言である。 サポート要件の判断に当たって,上記の意味において「技術的特徴」を使用して検討を行ったことに違法はない。 また,原告は,米油のγ-オリザノールの含有割合に特徴があるとする異議決定の判断は正しくない旨を主張しているところ,このような,米油のγ-オリザノールの含有割合が課題解決に関係しないかのような主張は,特許 告は,米油のγ-オリザノールの含有割合に特徴があるとする異議決定の判断は正しくない旨を主張しているところ,このような,米油のγ-オリザノールの含有割合が課題解決に関係しないかのような主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものであり,失当である。 なお,食品において,より美味しいものを得ようとすることは自明の課題であるから,本件発明1の「コク,甘味,美味しさ等を有する米糖化物含有食品を提供すること」という課題は,格別なものではない。 したがって,「技術的特徴」に関する原告の主張は,理由がない。 イ異議決定において指摘した平成27年6月26日付意見書(甲15)の進歩性に関する主張は,判断を裏付ける資料の一つとして記載したにすぎず,当該主張をサポート要件の判断の具体的な根拠としたものではないから,この点に関する主張も理由がない。 (3) 原告の主張(2)ウについてア異議決定において「実施例1-1のライスミルクに比べて」と記載した理由について(ア) 本件明細書の背景技術の欄には,「ライスミルクとは,米糖化物含有食品であり,例えば,米を酵素,麹等で糖化させたものに植物油,塩等を加えて味を調整し,ミルク状にした飲み物のことをいう。」(【0002】)と記載され,米糖化物含有食品であるライスミルクに,植物油を加えることが周知であったことが示されている。 また,本件明細書の背景技術の欄に記載された特許文献2(特開2014-180249号公報・乙1)の【0004】には,「米国で近年ブームになっているライスミルクは,玄米を糖化したものに,紅花油,海塩を加えて味を調整したもの」であることが記載されている。 そうすると,本件明細書において,本件出願時の技術水準として,「紅花油等の植物油を含む米糖化物含有食品」は広く知られていたことが記 油,海塩を加えて味を調整したもの」であることが記載されている。 そうすると,本件明細書において,本件出願時の技術水準として,「紅花油等の植物油を含む米糖化物含有食品」は広く知られていたことが記 載されているといえる。 異議決定において,周知技術について甲1を示したのは,本件出願時の技術水準である「紅花油等の植物油を含む米糖化物含有食品」には,「米油を2重量%含有するライスミルク」も当然含まれていることを示すためであって,単なる公知技術に基づいて本件発明1の課題を認定するためではない。 また,原告が認めるように,米油はγ-オリザノールを含有するものであって,「一般の米油がγ-オリザノールを0.1~0.5質量%含有する」ことが周知である(甲8【0011】)ことを考慮すると,本件出願時の技術水準を構成する「米油を2重量%含有するライスミルク」における「米油」に含まれるγ-オリザノールは,0.1~0.5重量%であると解するのが相当である。 したがって,本件明細書の実施例1-1のライスミルクは,γ-オリザノールを0.2重量%(質量%)含む「こめ油」を3質量%含有するものであるから,本件出願時の技術水準を構成するものであると認められる。 (イ) 発明が解決しようとする課題とは,出願時の技術水準に照らして未解決であった課題であるから,本件発明1の「コク,甘味,美味しさ等を有する米糖化物含有食品を提供すること」という課題は,本件出願時の技術水準を構成する米糖化物含有食品(具体的には,実施例1-1のライスミルク)に比べて,コク,甘味,美味しさ等を有する米糖化物含有食品を提供することであるというべきである。 (ウ) したがって,異議決定においては,本件発明1の課題について,「具体的には,実施例1-1のライスミルクに比べてコク(ミルク さ等を有する米糖化物含有食品を提供することであるというべきである。 (ウ) したがって,異議決定においては,本件発明1の課題について,「具体的には,実施例1-1のライスミルクに比べてコク(ミルク感),甘味及び美味しさについて優位な差を有するものを提供すること」としたものである。 イ異議決定は,原告が主張するように,実施例1-1が公知技術であることを根拠として判断したものではない。このことは,上記アにおいて示したとおりである。 (4) 以上のとおり,異議決定の課題の認定に誤りはなく,原告が主張する取消事由2は理由がない。 3 課題を解決できると認識できる範囲の判断の誤り(取消事由3)について(1) 原告の主張(1)アについて異議決定において,植物ステロールと風味との関係については,原告(特許権者)の主張に関する「なお書き」として記載しているにすぎず,植物ステロールが風味に影響していることが否定できないことを,サポート要件違反であることの理由としているわけではない。 (2) 原告の主張(1)イについて異議決定の当該記載は,実施例の官能評価が点数化されていることから,官能評価の点数が具体的に,どのような点数であれば,実施例1-1のライスミルクと比較して「コク,甘味,美味しさ等を有する」ものとなり,本件発明1の課題を解決したといえるのかを検討したものである。 確かに,本件明細書の【0023】に「コク,甘味及び美味しさに関して,例えば,本発明の食品と,米油もイノシトールも含有しないで例えば大豆油等を含有する食品との食味試験を行い,有意差又は有意差傾向がある場合に,改善されたと判断することができる。」旨記載されており,官能評価をt-検定によって統計処理したこともうかがえるが,本件明細書には,実施例1-1のライスミ 験を行い,有意差又は有意差傾向がある場合に,改善されたと判断することができる。」旨記載されており,官能評価をt-検定によって統計処理したこともうかがえるが,本件明細書には,実施例1-1のライスミルクと比較して「コク,甘味,美味しさ等を有する」ものとなり,本件発明1の課題が達成できたといえるためには,具体的に,コク,甘味及び美味しさそれぞれの点数が何点であればよいのか,又は合計点が何点であればよいのか等について何ら記載はない。 そうすると,本件明細書の図2に示された実施例2-1,2-2,2-4, 2-5のライスミルクが,実施例1-1のライスミルクと比較して「コク,甘味,美味しさ等を有する」ものとなっているか否かを,明確に理解することができない。 このことから,異議決定は,官能評価の結果から,直ちに上記課題が解決できるかどうかは理解できないとしたものであり,異議決定に誤りはない。 (3) 原告の主張(1)ウについて異議決定においては,実施例1-1のライスミルクと比較して,コク,甘味,美味しさ等を有するといえるのが,実施例1-2のライスミルク(実施例2-3は,実施例1-2と同等のライスミルク。)のみである(12頁26行~13頁4行)ことや,「γ-オリザノール含有量とコク(ミルク感),甘み及び美味しさの評価結果との関係を示唆する技術常識は存在しない」こと(13頁7~9行)を理由として,γ-オリザノールを1.5質量%含有する米胚芽油を3質量%含有するライスミルク(実施例1-2のライスミルク)以外の,二つの数値範囲で特定された本件発明1の全範囲にわたって,当該発明の課題を解決できるとまでは認識できないとしたものである。 サポート要件を満たすためには,特許出願時の技術常識を参酌して,本件発明1の数値範囲内であれば,所望の効果が得 の全範囲にわたって,当該発明の課題を解決できるとまでは認識できないとしたものである。 サポート要件を満たすためには,特許出願時の技術常識を参酌して,本件発明1の数値範囲内であれば,所望の効果が得られると当業者において認識できる程度に,具体例を開示して記載すればよいのであって,原告が主張するように,無限の数の数字,それぞれについて具体的な実施例の立証が求められるものではない。 (4) 原告の主張(2)アについて原告の主張は,本件発明1が,当該発明の課題を解決できるというためには,米油を含有しない基準ライスミルクと比較して,コク,甘味及び美味しさが改善されていればよいことを前提とするものである。 しかし,本件発明1が,当該発明の課題を解決できるというためには,本件出願時の技術水準を構成すると認められる実施例1-1のライスミルクと 比較して,コク,甘味及び美味しさが改善されていることが必要であることは,前記したとおりである。 したがって,原告の上記主張は,その前提において誤りがある。 そして,本件発明1が,実施例1-1のライスミルクと比べて,コク,甘味及び美味しさが改善しているといえないことは,異議決定の12頁13行~13頁18行で説示されているとおりである。 (5) 原告の主張(2)イについて特許法第36条6項1号は,特許請求の範囲の記載について,「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」を規定するものであり,事後的に実験データを提出して明細書の記載内容を記載外で補足することによって,サポート要件を満たすようにすることは,発明の公開を前提に特許を付与するという特許制度の趣旨に反し許されない。 仮に,甲52の実験データを考慮しても,示されたサンプルの食味試験の評価が,実施例1-1のライ 件を満たすようにすることは,発明の公開を前提に特許を付与するという特許制度の趣旨に反し許されない。 仮に,甲52の実験データを考慮しても,示されたサンプルの食味試験の評価が,実施例1-1のライスミルクに比べて改善しているとは理解できないので,本件発明1が,当該発明の課題を解決できると認識することはできない。 (6)小括以上のとおりであるから,異議決定の判断に誤りはなく,取消事由3は理由がない。 第5 当裁判所の判断 1 本件発明について(1) 発明の詳細な説明の記載本件明細書の発明の詳細な説明には,次の記載がある(表1,図1,図2及び図4については,別紙本件明細書の表及び図参照)。 ア技術分野【0001】 本発明は米糖化物並びに米油及び/又はイノシトールを含有する食品に関する。 イ背景技術【0002】ライスミルクとは,米糖化物含有食品であり,例えば,米を酵素,麹等で糖化させたものに植物油,塩等を加えて味を調整し,ミルク状にした飲み物のことをいう。例えば,玄米を粉砕し,水に分散させて,プロテアーゼ,セルラーゼ,ペクチナーゼ,アミラーゼを加えて反応させてライスミルクを製造する方法があるが(特許文献1参照),プロテアーゼ,セルラーゼ,ペクチナーゼといった酵素を制御することなく加えるため,プロテアーゼによりアミノ酸,オリゴペプチドが生成し,うまみ調味料様の雑味がついてしまい,その用途は狭く限定されてしまっていた。 【0003】そこで,食感が滑らかで雑味がなくすっきりした味を持つ米糖化液としてアミノ酸濃度が一定範囲である米糖化液が開発されたが(特許文献2参照),甘味,コク(ミルク感)等の風味は十分に改善されておらず,必ずしも満足できるものではなかった。さらに,グラノーラ,パンケー してアミノ酸濃度が一定範囲である米糖化液が開発されたが(特許文献2参照),甘味,コク(ミルク感)等の風味は十分に改善されておらず,必ずしも満足できるものではなかった。さらに,グラノーラ,パンケーキ等が流行する一方,牛乳アレルギー,大豆アレルギーの人口は増加傾向にあり,風味が改善された牛乳や豆乳の代用品が求められていた。そこで,牛乳アレルギー,大豆アレルギーを持つ人の食生活を豊かなものにするため,これまで様々な研究開発がなされている。従来牛乳や大豆を用いて製造又は調理されていた多数の食品を,牛乳や豆乳を使用せずに作ることを可能にする食品を提供することも目的とする。 ウ発明が解決しようとする課題【0006】本発明は,米糖化物含有食品のコク,甘味,美味しさ等を改善するとい う課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果見出されたものである。すなわち,本発明は,コク,甘味,美味しさ等を有する米糖化物含有食品を提供することを目的とする。さらに,従来牛乳や大豆を用いて製造又は調理されていた多数の食品を作ることを可能にする食品を提供することも目的とする。 エ課題を解決するための手段【0007】本発明は,上記課題を解決するために,以下の発明を包含する。 〔1〕米糖化物並びに米油及び/又はイノシトールを含有する食品。 〔2〕米油がγ-オリザノールを0.1~40質量%含有する前記〔1〕記載の食品。…〔5〕米油を0.1~10質量%含有する前記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の食品。…オ発明の効果【0009】本発明によれば,コク,甘味,美味しさ等を有する米糖化物含有食品を提供することができる。…カ発明を実施するための形態【0011】本発明は,米糖化物並びに米油及び/又はイノシトールを含有する食品( ば,コク,甘味,美味しさ等を有する米糖化物含有食品を提供することができる。…カ発明を実施するための形態【0011】本発明は,米糖化物並びに米油及び/又はイノシトールを含有する食品(以下,本発明の食品という)を包含する。本発明の食品は,米糖化物,米油及びその他の成分を含有する食品であってもよく,米糖化物,イノシトール及びその他の成分を含有する食品であってもよく,米糖化物,米油,イノシトール及びその他の成分を含有する食品であってもよく,米糖化物及び米油のみからなる食品であってもよく,米糖化物及びイノシトールのみからなる食品であってもよく,米糖化物,イノシトール及び米油のみか らなる食品であってもよい。 【0012】〔米糖化物〕本発明における米糖化物は,米のデンプン分子のグリコシド結合の加水分解物を含む。米糖化物は加水分解物を0.01~99.99質量%含有していてもよく,15~35質量%含有していてもよい。…【0013】〔米油〕本発明における米油は,例えば米糠を原料とした米原油及び精製途中の米油,最終製品である精製米油等が挙げられ,その製法は特に限定されない。…本発明における米油は,例えば,γ-オリザノールを0.1~70質量%含有していてもよく,…1~5質量%含有していてもよく,…1. 4~1.6質量%含有していてもよい。本発明における米油は,γ-オリザノールを1質量%以上含有していることが好ましい。γ-オリザノールを1質量%以上含有する米油は,米油に外部からγ-オリザノールを添加せずに製造されたものであってもよく,外部からγ-オリザノールを添加されたものであってもよいが,米油に外部からγ-オリザノールを添加せずに製造されたものであることが好ましい。本発明における米油がγ-オリザノールを多く( あってもよく,外部からγ-オリザノールを添加されたものであってもよいが,米油に外部からγ-オリザノールを添加せずに製造されたものであることが好ましい。本発明における米油がγ-オリザノールを多く(例えば,1質量%以上)含有することにより,本発明の食品は,血流促進作用,皮脂分泌促進作用,血中コレステロール低下作用,ヒトの皮膚微小循環機能亢進作用,毛細血管透過性の抑制作用,末梢皮膚温度の上昇作用,ストレス改善作用,更年期障害に伴う症状の緩和作用等が認められる。 【0015】本発明における米油として,例えば,こめ油(築野食品工業株式会社製,γ-オリザノール0.2重量%),米胚芽油(米胚芽油PRO-15,築 野食品工業株式会社製,γ-オリザノール1.5重量%)等を使用することができる。 本発明の食品は,例えば,米油を0.1~10質量%含有していてもよく,0.5~10質量%含有していてもよく,0.5~5質量%含有していてもよく,0.5~3質量%含有していてもよい。 米油を含有する本発明の食品は,コク,甘味及び美味しさを有する米糖化物含有食品として提供することができる。本発明の食品は,米油を含有することにより,米油でなく他の植物油脂を含有する食品よりも,特にミルク感が付与される。本発明の食品は,米油を含有することにより,米油でなく他の植物油脂を含有する食品よりも,常温での長期保存において,劣化が生じにくくなり,臭い発生の抑制や過酸化物価(POV),酸価(AV)の上昇を抑制することができる(特許第5596846号参照)。 【0016】〔イノシトール〕本発明の食品は,例えば,イノシトールを0.01~0.5質量%含有していてもよく,0.05~0.5質量%含有していてもよく,0.05~1質量%含有していてもよい。…本発明 】〔イノシトール〕本発明の食品は,例えば,イノシトールを0.01~0.5質量%含有していてもよく,0.05~0.5質量%含有していてもよく,0.05~1質量%含有していてもよい。…本発明の食品は,イノシトールを含有することにより,特にその甘味の味質が改善される。本発明の食品は,イノシトールを含有することにより,さらに脂肪燃焼効果,抗脂肪肝効果等を有する。 【0023】〔コク,甘味及び美味しさ〕本発明の食品は,コク,甘味及び美味しさの点で優れている。…コク,甘味及び美味しさに関して,例えば,本発明の食品と,米油もイノシトールも含有しないで例えば大豆油等を含有する食品との食味試験を行い,有意差又は有意傾向がある場合に,改善されたと判断することができる。 キ実施例【0031】次に,実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが,本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく,多くの変形が本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。 【0032】〔製造例1:米粉の調製〕とぎ汁が透明になるまでうるち米(以下,単に「米」という)をとぎ,1~3時間水に浸し,白っぽくなるまで静置した。その後,ざるに上げて,水を切った。ざるに米を広げて干し,米を指で押すとその一部が欠け落ちるようになるまで,米を乾燥させた。乾いた米をミルで100gずつ10分間粉砕した。その後,米を茶こし(メッシュ160)でふるった。茶こしに残った米は,すり鉢ですって粉にした。1合の米から150gの米粉を製造した。 【0033】〔製造例2:米糖化物の調製〕米粉20gに対して水79.9g,α-アミラーゼ(スミチームA10,新日本製薬株式会社製)0.1gを加えた後,スターラーで攪拌しながら 製造した。 【0033】〔製造例2:米糖化物の調製〕米粉20gに対して水79.9g,α-アミラーゼ(スミチームA10,新日本製薬株式会社製)0.1gを加えた後,スターラーで攪拌しながら90℃になるまで1時間加熱した。その後,1時間攪拌し,米糖化物を得た。 【0034】〔製造例3:米糖化物含有食品(ライスミルク)の調製〕米糖化物に各種類の油脂,イノシトール(築野食品工業株式会社製),食塩及びモノグリセリドを種々の割合で添加した後,水を加えて,下記表1の組成となるように濃度を調整した。ミキサーで30秒間攪拌し,その後30秒間静置し,再び30秒間攪拌混合し,ライスミルクを得た。なお, 使用した油脂はそれぞれ米油(こめ油,築野食品工業株式会社製,γ-オリザノール0.2重量%),米胚芽油(米胚芽油PRO-15,築野食品工業株式会社製,γ-オリザノール1.5重量%,米油の一種),大豆油(昭和まるごと大豆油,昭和産業社製)である。 【0035】【表1】【0036】〔試験例1〕含有油脂の種類が異なるライスミルクを用いて食味試験を行った。評価は無作為に選出した30名のパネラーにより行った。評価項目は,「コク(ミルク感)」,「甘み」及び「美味しさ」であった。基準ライスミルク1と同等の場合を「0」,基準ライスミルク1より優れている場合を「1」,基準ライスミルク1よりさらに優れている場合を「2」,基準ライスミルク1より劣っている場合を「-1」,基準ライスミルク1よりさらに劣っている場合を「-2」として評価を行った。 【0037】結果を図1に示した。図1に示されるとおり,油脂の種類がこめ油及び米胚芽油である本発明のライスミルク(実施例1-1及び1-2)は,基準ライスミルク1と比較して,コク(ミルク感), 【0037】結果を図1に示した。図1に示されるとおり,油脂の種類がこめ油及び米胚芽油である本発明のライスミルク(実施例1-1及び1-2)は,基準ライスミルク1と比較して,コク(ミルク感),甘み及び美味しさの全ての項目において,有意に優れた結果を示した。一方,油脂の種類が大豆油であるライスミルク(比較例1)は,基準ライスミルク1と比較して,美味しさの項目において,有意に劣った結果を示した。このことから,米糖化物含有食品は,こめ油又は米胚芽油をさらに含有することで,コク(ミルク感),甘み及び美味しさが優れた食品になることが示された。 【0038】〔試験例2〕 油脂の種類が米胚芽油であり,その含有割合が異なるライスミルクを用いて食味試験を行った。評価は無作為に選出した30名のパネラーにより行った。評価項目は,「コク(ミルク感)」,「甘み」及び「美味しさ」であった。基準ライスミルク2と同等の場合を「0」,基準ライスミルク2より優れている場合を「1」,基準ライスミルク2よりさらに優れている場合を「2」,基準ライスミルク2より劣っている場合を「-1」,基準ライスミルク2よりさらに劣っている場合を「-2」として評価を行った。 【0039】結果を図2に示した。図2に示されるとおり,油脂の種類が米胚芽油であり,その含有割合が0.5~5質量%である本発明のライスミルク(実施例2-1~2-4)は,基準ライスミルク2と比較して,コク(ミルク感),甘み及び美味しさの全ての項目において,有意に優れた結果を示した。また,油脂の種類が米胚芽油であり,その含有割合が10質量%である本発明のライスミルク(実施例2-5)は,基準ライスミルク2と比較して,コク(ミルク感)及び甘みの項目において,有意に優れた結果を示した。このことから,米 芽油であり,その含有割合が10質量%である本発明のライスミルク(実施例2-5)は,基準ライスミルク2と比較して,コク(ミルク感)及び甘みの項目において,有意に優れた結果を示した。このことから,米糖化物含有食品は,米油又は米胚芽油を0.5~10質量%含有することが好ましいことが示された。 【0040】〔試験例3〕イノシトールの含有割合が異なるライスミルクを用いて食味試験を行った。評価は無作為に選出した30名のパネラーにより行った。評価項目は,「コク(ミルク感)」,「甘み」及び「美味しさ」であった。基準ライスミルク3と同等の場合を「0」,基準ライスミルク3より優れている場合を「1」,基準ライスミルク3よりさらに優れている場合を「2」,基準ライスミルク3より劣っている場合を「-1」,基準ライスミルク3より さらに劣っている場合を「-2」として評価を行った。 【0041】結果を図3に示した。図3に示されるとおり,イノシトールの含有割合が0.01~0.1質量%である本発明のライスミルク(実施例3-2~3-4)は,基準ライスミルク3と比較して,コク(ミルク感),甘み及び美味しさの全ての項目において,有意に優れた結果を示した。また,イノシトールの含有割合が0.5質量%である本発明のライスミルク(実施例3-1)は,基準ライスミルク3と比較して,甘み及び美味しさの項目において,有意に優れた結果を示した。このことから,米糖化物含有食品は,米油又は米胚芽油を0.01~0.5質量%含有することが好ましいことが示された。 【0042】〔試験例4〕米胚芽油及びイノシトールを含有することによるライスミルクの「コク(ミルク感)」,「甘み」及び「美味しさ」の変化を調べるために,食味試験を行った。評価は無作為に選出した30名のパネ 〔試験例4〕米胚芽油及びイノシトールを含有することによるライスミルクの「コク(ミルク感)」,「甘み」及び「美味しさ」の変化を調べるために,食味試験を行った。評価は無作為に選出した30名のパネラーにより行った。 評価項目は,「コク(ミルク感)」,「甘み」及び「美味しさ」であった。 基準ライスミルク4と同等の場合を「0」,基準ライスミルク4より優れている場合を「1」,基準ライスミルク4よりさらに優れている場合を「2」,基準ライスミルク4より劣っている場合を「-1」,基準ライスミルク4よりさらに劣っている場合を「-2」として評価を行った。 【0043】結果を図4に示した。図4に示されるとおり,米胚芽油及びイノシトールを含有することにより,「コク(ミルク感)」,「甘み」及び「美味しさ」の全ての項目において相乗効果が認められた(実施例4-2~4-5)。 このことから,米糖化物含有食品は,米胚芽油及びイノシトールを含有す ることで,コク(ミルク感),甘み及び美味しさがさらに優れた食品になることが示された。なお,実施例4-4のライスミルクの糖度は,ポケット糖度計PAL-1(株式会社アタゴ製)を用いて測定すると17.4質量%であった。 ク産業上の利用可能性【0051】本発明によればコク,甘味,美味しさ等を有する米糖化物含有食品を提供することができるため,産業上有用に用いることができる。 (2) 以上の記載を総合すると,本件発明に関し,次の事項が認められる。 ア米糖化物含有食品であるライスミルクの製造時に各種酵素を制御することなく加えると,プロテアーゼによりアミノ酸,オリゴペプチドが生成し,うまみ調味料様の雑味がついてしまい,用途が限られてしまう(【0002】)。 食感が滑らかで雑味がなくすっきりした味を持つ米糖化液と く加えると,プロテアーゼによりアミノ酸,オリゴペプチドが生成し,うまみ調味料様の雑味がついてしまい,用途が限られてしまう(【0002】)。 食感が滑らかで雑味がなくすっきりした味を持つ米糖化液としてアミノ酸濃度が一定範囲である米糖化液が開発されたが,甘味,コク(ミルク感)等の風味は十分に改善されておらず,必ずしも満足できるものではなかった。また,グラノーラ,パンケーキ等が流行する一方,牛乳アレルギー,大豆アレルギーの人口は増加傾向にあり,風味が改善された牛乳や豆乳の代用品が求められている(【0003】)。 そこで,本発明は,コク,甘味,美味しさ等を有する米糖化物含有食品を提供することを目的とし,さらに,従来牛乳や大豆を用いて製造又は調理されていた多数の食品を作ることを可能にする食品を提供することも目的とする(【0006】)。 イ本発明は,米糖化物並びに米油及び/又はイノシトールを含有する食品を包含する(【0011】)。本発明における米油は,γ-オリザノールを1~5質量%含有していてもよい。γ-オリザノールを1質量%以上含 有する米油は,米油に外部からγ-オリザノールを添加せずに製造されたものであってもよく,外部からγ-オリザノールを添加されたものであってもよい(【0013】)。 ウ本発明によればコク,甘味,美味しさ等を有する米糖化物含有食品を提供することができるため,産業上有用に用いることができる(【0051】)。 2 取消事由1(判断手法の誤り)について特許法36条6項1号は,特許請求の範囲の記載は「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」との要件(サポート要件)に適合するものでなければならないと定めている。その趣旨は,発明の詳細な説明に記載していない発明を特許請求の範囲に記載する る発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」との要件(サポート要件)に適合するものでなければならないと定めている。その趣旨は,発明の詳細な説明に記載していない発明を特許請求の範囲に記載すると,公開されていない発明について独占的,排他的な権利を認めることになり,特許制度の趣旨に反するから,そのような特許請求の範囲を許容しないとしたものである。 そうすると,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解するのが相当である。 原告は,上記判断基準は「特殊なケース」にのみ当てはまるものであって,本件においては当てはまらない(考慮すべきでない)と主張するが,同判断基準が,原告が主張するような「特殊なケース」にのみ妥当するものではなく,特許発明一般に関するものであることは,上記の立法趣旨からして明らかというべきである。 したがって,原告の主張は採用できない。 なお,異議決定が,本件発明をγ-オリザノールの含有割合に技術的特徴が ある数値限定発明(パラメータ発明)と解した上でサポート要件の適否を検討したことについては,誤りがあるというべきであるが,この点については,後記のとおり,取消事由2及び3において検討する。 3 取消事由2(課題の認定の誤り)及び取消事由3(課題を解決できると認識できる範囲の判断の誤り)について(1) 課題の認定に の点については,後記のとおり,取消事由2及び3において検討する。 3 取消事由2(課題の認定の誤り)及び取消事由3(課題を解決できると認識できる範囲の判断の誤り)について(1) 課題の認定についてア前記のとおり,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 また,発明の詳細な説明は,「発明が解決しようとする課題及びその解決手段」その他当業者が発明の意義を理解するために必要な事項の記載が義務付けられているものである(特許法施行規則24条の2)。 以上を踏まえれば,サポート要件の適否を判断する前提としての当該発明の課題についても,原則として,技術常識を参酌しつつ,発明の詳細な説明の記載に基づいてこれを認定するのが相当である。 かかる観点から本件発明について検討するに,本件明細書の発明の詳細な説明には,米糖化物含有食品であるライスミルクの製造時に各種酵素を制御することなく加えると,プロテアーゼによりアミノ酸,オリゴペプチドが生成し,うまみ調味料様の雑味がついてしまい,用途が限られたこと(【0002】),食感が滑らかで雑味がなくすっきりした味を持つ米糖化液としてアミノ酸濃度が一定範囲である米糖化液が開発されたが,甘味,コク(ミルク感)等の風味は十分に改善されておらず,必ずしも満足でき るものではなかったこと,さらに,グラノーラ 持つ米糖化液としてアミノ酸濃度が一定範囲である米糖化液が開発されたが,甘味,コク(ミルク感)等の風味は十分に改善されておらず,必ずしも満足でき るものではなかったこと,さらに,グラノーラ,パンケーキ等が流行する一方,牛乳アレルギー,大豆アレルギーの人口は増加傾向にあり,風味が改善された牛乳や豆乳の代用品が求められていたこと(【0003】)などが背景技術として記載されている。その上で,発明の詳細な説明には,発明が解決しようとする課題として,「本発明は,米糖化物含有食品のコク,甘味,美味しさ等を改善するという課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果見出されたものである。すなわち,本発明は,コク,甘味,美味しさ等を有する米糖化物含有食品を提供することを目的とする。さらに,従来牛乳や大豆を用いて製造又は調理されていた多数の食品を作ることを可能にする食品を提供することも目的とする。」との記載がある(【0006】)。 これらの記載からすれば,本件発明は,「コク,甘味,美味しさ等を有する米糖化物含有食品を提供すること」それ自体を課題とするものであることが明確に読み取れるといえる。 イこれに対し,異議決定は,「本件発明1の課題は,本件特許明細書の『コク,甘味,美味しさ等を有する米糖化物含有食品を提供すること』(【0006】)との記載及び実施例(【0031】~【0043】)において,『コク(ミルク感)』,『甘み』及び『美味しさ』の各評価項目について評価を行っていることから,『コク,甘味,美味しさ等を有する米糖化物含有食品を提供すること』と認められる。」と,一旦は上記アと同様に本件発明1の課題を認定しながら,最終的なサポート要件の適否判断に際しては,「本件発明1の課題は,上記aのとおり,具体的には,実施例1-1のライスミルクに比べてコク( る。」と,一旦は上記アと同様に本件発明1の課題を認定しながら,最終的なサポート要件の適否判断に際しては,「本件発明1の課題は,上記aのとおり,具体的には,実施例1-1のライスミルクに比べてコク(ミルク感),甘味及び美味しさについて優位な差を有するものを提供することであ(る)」とその課題を認定し直し,課題の解決手段についても,「本件発明1が課題を解決できると認識できるためには,…実施例1-1のライスミルクに比べてコク(ミルク感), 甘味及び美味しさについて優位な差を有することを認識できることが必要である。」としている(異議決定12頁16~25行)。 この点について,被告は,発明が解決しようとする課題とは,出願時の技術水準に照らして未解決であった課題であるから,本件発明1の「コク,甘味,美味しさ等を有する米糖化物含有食品を提供すること」という課題は,本件出願時の技術水準を構成する米糖化物含有食品(具体的には,実施例1-1のライスミルク)に比べて,コク,甘味,美味しさ等を有する米糖化物含有食品を提供することであり, したがって,異議決定においては,本件発明1の課題について,「具体的には,実施例1-1のライスミルクに比べてコク(ミルク感),甘味及び美味しさについて優位な差を有するものを提供すること」としたものである(したがって,異議決定の課題の認定に誤りはない)と主張する。 確かに,発明が解決しようとする課題は,一般的には,出願時の技術水準に照らして未解決であった課題であるから,発明の詳細な説明に,課題に関する記載が全くないといった例外的な事情がある場合においては,技術水準から課題を認定するなどしてこれを補うことも全く許されないではないと考えられる。 しかしながら,記載要件の適否は,特許請求の範囲と発明の詳細な説明の記載に関 的な事情がある場合においては,技術水準から課題を認定するなどしてこれを補うことも全く許されないではないと考えられる。 しかしながら,記載要件の適否は,特許請求の範囲と発明の詳細な説明の記載に関する問題であるから,その判断は,第一次的にはこれらの記載に基づいてなされるべきであり,課題の認定,抽出に関しても,上記のような例外的な事情がある場合でない限りは同様であるといえる。 したがって,出願時の技術水準等は,飽くまでその記載内容を理解するために補助的に参酌されるべき事項にすぎず,本来的には,課題を抽出するための事項として扱われるべきものではない(換言すれば,サポート要件の適否に関しては,発明の詳細な説明から当該発明の課題が読み取れる以上は,これに従って判断すれば十分なのであって,出願時の技術水準を 考慮するなどという名目で,あえて周知技術や公知技術を取り込み,発明の詳細な説明に記載された課題とは異なる課題を認定することは必要でないし,相当でもない。出願時の技術水準等との比較は,行うとすれば進歩性の問題として行うべきものである。)。 これを本件発明に関していえば,異議決定も一旦は発明の詳細な説明の記載から,その課題を「コク,甘味,美味しさ等を有する米糖化物含有食品を提供すること」と認定したように,発明の詳細な説明から課題が明確に把握できるのであるから,あえて,「出願時の技術水準」に基づいて,課題を認定し直す(更に限定する)必要性は全くない(さらにいえば,異議決定が技術水準であるとした実施例1-1は,そもそも公知の組成物ではない。)。 したがって,異議決定が課題を「実施例1-1のライスミルクに比べてコク(ミルク感),甘味及び美味しさについて有意な差を有するものを提供すること」と認定し直したことは,発明の詳細な説明から発明の課 したがって,異議決定が課題を「実施例1-1のライスミルクに比べてコク(ミルク感),甘味及び美味しさについて有意な差を有するものを提供すること」と認定し直したことは,発明の詳細な説明から発明の課題が明確に読み取れるにもかかわらず,その記載を離れて(解決すべき水準を上げて)課題を再設定するものであり,相当でない。 以上によれば,異議決定における課題の認定は妥当なものとはいえず,被告の主張は採用できない。 (2) 課題を解決できると認識できる範囲についてア上記のとおり,本件発明の課題は,コク,甘味,美味しさ等を有する米糖化物含有食品を提供することであると認められるので,本件発明が,発明の詳細な説明の記載から,「コク,甘味,美味しさ等を有する米糖化物含有食品を提供する」という課題を解決することができると認識可能な範囲のものであるか否かについて検討する。 イ発明の詳細な説明の記載について(ア) 発明の詳細な説明には,課題を解決するための手段として,米糖化物 並びに米油及び/又はイノシトールを含有する食品とすることが記載され,同食品は米油を0.5~5質量%含有していてもよいこと,米油中のγ-オリザノール含有量は,1~5重量%であってもよいことが記載されている(【0007】,【0013】及び【0015】)。 また,「〔コク,甘味及び美味しさ〕本発明の食品は,コク,甘味及び美味しさの点で優れている。…コク,甘味及び美味しさに関して,例えば,本発明の食品と,米油もイノシトールも含有しないで例えば大豆油等を含有する食品との食味試験を行い,有意差又は有意傾向がある場合に,改善されたと判断することができる。」(【0023】)と記載されていることからも,発明の詳細な説明においては,ライスミルクに米油又はイノシトール,あるいは,その い,有意差又は有意傾向がある場合に,改善されたと判断することができる。」(【0023】)と記載されていることからも,発明の詳細な説明においては,ライスミルクに米油又はイノシトール,あるいは,その両方を添加することが課題の解決手段とされていることが理解できる。 (イ) 発明の詳細な説明の実施例には,米粉から米糖化物を含有するライスミルクを調製した製造例1ないし3と,ライスミルクの食味試験を行った試験例1ないし4が記載されている(【0031】~【0043】)。 ここで,ライスミルクの調製に用いた米油のγ-オリザノール含有量は,こめ油では0.2重量%,米胚芽油では1.5重量%であるから(【0034】),本件発明1の範囲に含まれる実施の態様であるライスミルクは,試験例1及び4に用いた実施例1-2と,試験例2の実施例2-1ないし2-4,さらに,試験例4の実施例4-2ないし4-5であるといえる(【0035】表1)。 (ウ) また,上記食味試験の方法について,【0036】,【0038】及び【0042】の記載によれば,試験ごとに比較の基準となるライスミルクを設定し,無作為に選出した30名のパネラーにより,「コク(ミルク感)」,「甘み」及び「美味しさ」の評価項目について,基準ライスミルクと比較して,基準ライスミルクと同等の場合を「0」,基準ラ イスミルクより優れている場合を「1」,基準ライスミルクよりさらに優れている場合を「2」,基準ライスミルクより劣っている場合を「-1」,基準ライスミルクよりさらに劣っている場合を「-2」として評価を行ったことが理解できる。 ウ本件発明の範囲内のライスミルクを用いた上記試験の結果について(ア) 試験例1について試験例1の結果を示す図1によれば,γ-オリザノールを1.5重量%含有する米油である とが理解できる。 ウ本件発明の範囲内のライスミルクを用いた上記試験の結果について(ア) 試験例1について試験例1の結果を示す図1によれば,γ-オリザノールを1.5重量%含有する米油である米胚芽油を3質量%含有する実施例1-2のライスミルクは,油脂を含有しない基準ライスミルク1と比較して,コク(ミルク感),甘味,美味しさの全てにおいて,1.5点以上であり,基準ライスミルク1より優れていると評価されたことが読み取れる。 そして,図1下部には,「*p<0.05,**p<0.01(t-検定)」と記載されているところ,図1のグラフにおいて,実施例1-2については,コク(ミルク感),甘味,美味しさの各評価項目の全てに「**」が表示されている。このことは,試験例1における基準ライスミルク1と実施例1-2の比較結果が,全ての評価項目において,t-検定によりp<0.01という高い精度で統計的に有意であることを示している。 そうすると,試験例1における実施例1-2のライスミルクについて図1に示された結果は,コク(ミルク感),甘味,美味しさといった人間の感覚である食味に関する官能試験において,無作為に選出された30名のパネラーにより,基準となるライスミルクを設定して比較を行い,統計評価を行って有意差があることを確認しているのであるから,評価基準を明確化し主観を排した客観的な評価結果であると認められる。 そして,発明の詳細な説明には,本件発明1においては,課題を解決するための手段として,米糖化物並びに米油及び/又はイノシトールを 含有する米糖化物調製食品とすることが記載されており,実際に図1の結果に示されるとおり,本件発明1のライスミルクに該当する実施例1-2のライスミルクが,コク(ミルク感),甘味,美味しさの全ての点で,上記解決手 化物調製食品とすることが記載されており,実際に図1の結果に示されるとおり,本件発明1のライスミルクに該当する実施例1-2のライスミルクが,コク(ミルク感),甘味,美味しさの全ての点で,上記解決手段を有していない基準ライスミルク1より優れているということは,少なくとも,実施例1-2の具体的なライスミルクに関しては,上記解決手段により課題が解決されていることを裏付けるものであるといえる。 (イ) 試験例2について【0035】の表1によれば,試験例2は,米油を含有しない基準ライスミルク2に対し,γ-オリザノールを1.5重量%含有する米油である米胚芽油を異なる量で含有するライスミルクを評価した食味試験である。試験例2においても,【0038】に記載された試験方法,図2に記載された統計評価からみて,試験例2は試験例1と同様に客観性が担保されていると認められる。 図2によれば,実施例2-1ないし2-4のライスミルクは,全ての評価項目の点数が基準ライスミルク2を上回っており,米胚芽油の含有量は,実施例2-2では1重量%,実施例2-3では3重量%,実施例2-4では5重量%であるから,米糖化物含有食品のコク,甘味,美味しさを改善するための解決手段である米油の含有量としては,1~5重量%の範囲で課題が解決できることが裏付けられているといえる。 (ウ) 試験例4について試験例4は,米油に加えて,イノシトールをさらに含有する本件発明2及び3に対応する実施例に関するものであるが,試験例1及び2と同様に食味試験及び統計評価が行われ,イノシトールと米胚芽油3質量%を含有する実施例4-2ないし4-5の点数は,全て,イノシトールを含まない基準ライスミルク4及びイノシトールを含むが米油を含有しな い実施例2-3のいずれをも上回っている(【0035】 量%を含有する実施例4-2ないし4-5の点数は,全て,イノシトールを含まない基準ライスミルク4及びイノシトールを含むが米油を含有しな い実施例2-3のいずれをも上回っている(【0035】表1,【0042】及び【0043】図4)。 したがって,米油に加えて,イノシトールを含む本件発明2及び3についても,課題が解決できる範囲のものであることが裏付けられているといえる。 (エ) そして,上記試験例1,2及び4の結果を総合すれば,本件発明4についても,課題が解決できる範囲のものであることが裏付けられているといえる。 エ以上によれば,本件発明は,いずれも,発明の詳細な説明の記載から,「コク,甘味,美味しさ等を有する米糖化物含有食品を提供する」という課題を解決することができると認識可能な範囲のものであるといえる。 (3) 被告の主張についてこれに対し,被告は,本件発明がγ-オリザノールの含有割合に技術的特徴がある数値限定発明であり,その課題が「実施例1-1のライスミルクに比べてコク(ミルク感),甘味及び美味しさについて有意な差を有するものを提供する」ことであることを前提に,発明の詳細な説明に記載された実施例では,γ-オリザノールの含有量が1.5重量%である米胚芽油(を3質量%含有するライスミルク=実施例1-2のライスミルク)についてしか効果が確認されておらず,γ-オリザノールの含有量が1~5質量%である米油を0.5~5質量%含有するライスミルク全般に一般化できないから,本件発明はサポート要件に適合しない旨主張する。 しかしながら,そもそも被告が主張する課題の認定自体に誤りがあることは,前記(1)のとおりであるから,被告の主張は採用できない。 (4) 小括以上のとおり,異議決定は,サポート要件の判断の前提となる課題 ら,そもそも被告が主張する課題の認定自体に誤りがあることは,前記(1)のとおりであるから,被告の主張は採用できない。 (4) 小括以上のとおり,異議決定は,サポート要件の判断の前提となる課題の認定自体を誤り,その結果,本件発明が発明の詳細な説明の記載から課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かについての判断をも誤って,サポート要件違反を理由とする特許取消しの判断を導いたものである。したがって,その旨を指摘する取消事由2及び取消事由3は理由がある。 4 結論以上のとおり,異議決定には取り消されるべき違法があるから,これを取り消すこととして,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官鶴岡稔彦 裁判官寺田利彦 裁判官間明宏充 (別紙)本件明細書の表及び図 【表1】 【図1】 【図2】 【図4】
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