昭和31(う)263 公職選挙法違反被告事件

裁判年月日・裁判所
昭和31年9月26日 福岡高等裁判所 宮崎支部 棄却
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【DRY-RUN】主    文      被告人全員の本件各控訴、および被告人Aに対する検察官の本件控訴は 何れもこれを棄却する。          理    由  被告人等全員の弁護人福沢文夫の陳述した控訴趣意は弁護

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判決文本文5,829 文字)

主文被告人全員の本件各控訴、および被告人Aに対する検察官の本件控訴は何れもこれを棄却する。 理由被告人等全員の弁護人福沢文夫の陳述した控訴趣意は弁護人徳田禎重名義の各被告人別控訴趣意書に記載のとおりであり被告人Aに対する検察官の控訴趣意は大根占区検察庁検察官事務取扱検事山根静寿名義の控訴趣意書に記載したとおりであるからここに之を引用する。 弁護人の控訴趣意第一点及び第三点について。 論旨は原判決は「被告人は判示県議会議員選挙に立候補したBの選挙運動者であるがC、Dが同候補者に当選を得しめる目的で投票取り纒め費用及び選挙運動報酬として一括供与するものであることの情を知りながら同人等から現金の供与を受けた」という事実を認定しその供与を受けた現金全額について被告人を公職選挙法第二一条第一項第四号の受供与の罪に問擬処断した。しかし被告人が同候補者のため選挙運動方依頼を受けた出張先は選挙事務所所在地a町から離れた遠隔地であるから之に要する往復自動車賃弁当料及び宿泊料等を考慮して之らの実費の前渡しを受けたものである。仮りに受供与金額が之らの実費でないとしても当該出張先への往復交通費が幾何を要するか位のことは当該地方居住者には顕著な事実であるばかりでなく、少くとも証拠によつて之が明らかとなつた以上実費部分と運動報酬部分ははつきり区別できるのであるから両者を分別して報酬部分りみについて受供与の罪を認むべきである。然るに原判決が叙上と異なる事実を認定し且つ被告人の受供与金全額について受供与の罪に問擬したのは事実を誤認し且つ同法第一九七条の二の解釈適用を誤まり受供与金全額につき有罪としたことについて理由不備の違法があるというにある。しかし判示C、Dが被告人に対しB候補のための選挙運動を依頼して供与した現 を誤認し且つ同法第一九七条の二の解釈適用を誤まり受供与金全額につき有罪としたことについて理由不備の違法があるというにある。しかし判示C、Dが被告人に対しB候補のための選挙運動を依頼して供与した現金はその使途を指示限定せず被告人の裁量に一任したもので該運動をするについて要する交通費等の法律上許容された実費と運動報酬とを区別することなく両者を包括した趣旨のものであつたこと従つて当時後日の精算報告及び領収証の作成交付をも要求していないこと、被告人もその情を諒知しながらその現金を貰い受けたことは原判決に挙示引用の証拠に徴し明らかである。かくの如く法律上許容された交通費等の実費部分と運動報酬部分とを分別することなく両者を包括する趣旨で現金が授受されたときはその授受金額の全額について授者に対しては供与の罪で受者に対しては受供与の罪で処断すべきものと解するのが相当でありそうして右両罪は現金の授受と同時に既遂となるのであるから、爾後実費部分と報酬となる部分とが分明となつたとしても右の解釈に消長を来すものではない。 記録を精査するも原判決の事実の認定に誤はなく証拠の取捨、証明力の判断に経験則違反等不合理の点は存せない、又法令の解釈適用の誤もなければ理由不備の違法もないから論旨は理由がない。 控訴趣意第二点について。 論旨は原審裁判官は判決宣告の際被告人に対し「選挙に関する金銭の授受は出納責任者の承諾を得且つ之を出納簿に記載し領収証を徴さなければならぬ、しかるに本件のみならずB候補の運動員に対する支出は右の手続を経てない又被告人が運動のため旅行したことも認むるが果して正当の運動をしたか不明である」との判決理由を宣明したが前記の如き出納上の手続を経ない場合には違反として公職選挙法第二四六条第一項第四号及び第五号を以て処断さるべきものであつて右処罰規定に るが果して正当の運動をしたか不明である」との判決理由を宣明したが前記の如き出納上の手続を経ない場合には違反として公職選挙法第二四六条第一項第四号及び第五号を以て処断さるべきものであつて右処罰規定に該当する金銭の授受が全部本件の同法第二二一条に違反する行為と認むるは立法の趣旨を誤解した判断であるというにある。しかし同法第二四六条第一項第四号及び第五号に該る罪と同法第二二一条第一項各号に該る罪とが所論のような異なる性質の犯罪であることは勿論であり原審裁判官が判決宣告の際果して所論指摘の趣旨の説示をしたかどうかの点は記録及び原判決書の上に記載がないので之を知るに由ないのであるが仮りに右の様な説示をしたとすればそのような出納上の手続を経ていないことを以て被告人を買収犯として断罪するための一つの情況証拠とした趣意を宣明したものと理解すべきであつて右の片言を捉えて直ちに前記各法条の趣旨を誤解したと断ずるのは早計であり却つて原審裁判官が該法条を誤解したものでないことは判決書中の罪となるべき事実摘示と之に対する法令の適用を見れば自ら明らかである。論旨は理由がない。 控訴趣意第四点について論旨は公職選拳法第一九七条の二は仮令選挙運動従事者は選挙運動のため自己の自転車使用、手弁当持ち、親族知人方の無料宿泊等現実に交通費、弁当料、宿泊費等の実費を必要としなかつた場合でも法定基準内の之ら実費の前渡し又は事後弁償を受けうる趣旨で規定されたものであるところ被告人の支給された実費は右基準にも達しない少額であるというにある。しかし同法条の趣旨は選拳運動従事者は運動をするについて将来又は過去において具体的且つ現実に必要とし又必要とした交通費、弁当料、宿泊費等の実費で同条所定の基準内のものに限り弁償を受けうるに過ぎないと解すべきであつて論旨は独自の誤れる見解を前提 るについて将来又は過去において具体的且つ現実に必要とし又必要とした交通費、弁当料、宿泊費等の実費で同条所定の基準内のものに限り弁償を受けうるに過ぎないと解すべきであつて論旨は独自の誤れる見解を前提とするもので採用することができない。 控訴趣意第五点について論旨は原判決は本件において被告人及び弁護人において本件金銭の授受は選挙運動するための実費の前渡であり該運動の報酬でないから犯罪は成立しないと主張したのに証拠の標目のみ掲げてこれに対する判断をしないのは刑事訴訟法第三三五条第二項に違反する違法があるというがかくの如き主張は単なる公訴事実の否認であつて同条にいう法律上犯罪の成立を妨げる理由となる事実の主張に該らないから、原判決がこれに対する判断を示さなかつたのはむしろ当然であつて、論旨は理由がない。 被告人Aに対する検察官の控訴趣意第一点(事実誤認)について、所論は原判決が本件公訴事実中被告人Aが昭和三〇年四月一三日頃原判示選挙に際しC、Dから原判示(一)(二)と同趣旨の金六百円の供与を受けた事実につき無罪の言渡をしたことは事実を誤認したものというに在るから記録について調査すると同被告人の検察官並びに司法警察員に対する供述調書によると論旨同趣旨の金員の供与を受けた事実について自白が存するけれども原判決も説示しているとおりこれを補強するに足る証拠はない。即ち供与者の立場にあるCは検察官の取調に対しても全くその点は触れておらず原審公判廷における証言にても原判示(一)(二)の金銭授受の事実については明確に供述しているに拘らず所論の金六百円については記憶がないと供述しておりDは原審証人として「或は渡しているかも知れないが、記憶がない」と述べ、検察官に対する供述において原判示(一)の金三百円(二)の金千円の授受につき明確な供述をしているに いては記憶がないと供述しておりDは原審証人として「或は渡しているかも知れないが、記憶がない」と述べ、検察官に対する供述において原判示(一)の金三百円(二)の金千円の授受につき明確な供述をしているに拘らず所論の金六百円の授受については「渡したことがあるように思う」と言葉をにごし明確な供述をしていない。従つて右両名の供述の経過並びにそのあいまいな点からみると右の供述を以てしては所論の「自白の真実性を保障し」得る程度に至らないと解すべきでありその他記録上右被告人の自白を補強するに足る証拠を発見しない。それで原判決が該事実につき自白以外にこれを補強すべき証拠なく結局犯罪の証明がないものとして該部分につき無罪の言渡をしたことは相当であつて論旨は理由がない。 同第三点(法令適用の誤)について、所論は要するに選挙運動の報酬と実費がその割合の定めなく包括的に授受せられた場合にはその収受金全額を没収追徴すべきであるのに不拘原判決が右収受金の内一部実費として費消した分を控除して追徴を命じたことは公職選挙法第二二四条の法意を誤り解したものであるというに帰する。しかしながら公職選挙法第一九七条の二は選挙運動者に実費の支給を許容していることは明らかであり同法第二二四条においては「収受し又は交付を受けた利益」を没収又は追徴すべき旨規定しているのである。凡そ選挙運動をなすについて交通機関等を利用しなければならない場合には必然的にその交通費が入用でありかかる必要実費を選挙運動者自己の出捐を以つて支弁させることは過酷に過ぎ且実情に適しないとの見地から同法第一九七条の二の規定が設けられたのであつて右実費に充てられる目的で授受せられた選挙運動の費用が同法第二二四条にいう収受又は交付を受けた「利益」と解せられないことは当然である。しかして初めから実費と報酬とを分別して金 定が設けられたのであつて右実費に充てられる目的で授受せられた選挙運動の費用が同法第二二四条にいう収受又は交付を受けた「利益」と解せられないことは当然である。しかして初めから実費と報酬とを分別して金員が授受せられた場合には前者については合法性あるものとして既に起訴適格を欠き後者のみについて起訴すべきものと解せられるところ右後者の金員中より受供与者が実費を支弁したとしてもそれは受供与者が受けた報酬の一部につき自由処分したものであつて受供与全額の報酬たる性格につき変りはなく同法第二二四条の関係においては全額を収受した利益と解すべきであるが機動性を尊重する選挙運動の実際においては必要とする実費の限度を予見することは困難であり事実上実費と報酬とを分別することなく包括的に供与せられる場合が多いと解せられるところかような場合には供与者においても受供与者においてもその必要とする実費の限度においてはこれを受供与者の利得に帰せしむる意思は初めからなかつたというの外はなくその限度においては同法第二二四条に<要旨>いわゆる収受した利益ということはできないのである。従つて実費と報酬とを一括し分別することなく供与し</要旨>た場合でも運動実費として費消せられた分が後日明確にせられたときはその範囲において受供与者の収受した利益は存しないのであるからこの部分は同法の追徴額から控除すべきものと解する。このように解することは理論上当然であつて若しそうでないとすれば仮に必要な選挙運動実費が約九千円と予想せられる場合に実費及び報酬を含めその内容を分別せずして金一万円を供与し現実に必要実費として金九千円が費消せられたことが立証せられた際においても金一万円全額を追徴しなければならない不合理に陥り且公平の観念に反する結論に到達しなければならない。原判決が実費と報酬とを一括して供 要実費として金九千円が費消せられたことが立証せられた際においても金一万円全額を追徴しなければならない不合理に陥り且公平の観念に反する結論に到達しなければならない。原判決が実費と報酬とを一括して供与せられた金員中から現実に必要な交通費等実費として費消した金額を控除した部分だけについて追徴の言渡をしたのは右と同趣旨にいでたものであつて相当である。所論は同法第二二四条第一九七条の二の法の真意を解しないものであつて理由がない。 同第二点(量刑不当)について、本件犯罪の回数、受供与金額、その他記録上みられる諸般の情状を綜合すると原判決の被告人Aに対する刑の量定は相当である。論旨は理由がない。 次に職権を以つて被告人Eに関する原判決を調査すると原判決は判示第一において被告人は(中略)Fより同候補に当選を得しむる目的で投票取纒め方選挙運動の依頼を受けその費用及報酬として一括供与するものであることの情を知り乍ら右届出前である同年三月三十日頃同郡b町において同人から金千二百円の供与を受け以つて立候補届出前の選挙運動を為したと判示している。しかしながら公職選挙法においていわゆる選挙運動とは一定の公職選挙において一定の議員候補者を当選させるため投票を得若しくは得しむるについて直接又は間接に必要且有利な周旋勧誘若しくは誘導その他諸般の行為を為すことを汎称し事柄の本質上積極的に他に働きかける行動がなければならぬものと解せられるところ原判決が認定したところによると同被告人は単にB候補の選挙運動を依頼せられたに止まり、且選挙運動に要すべき実費と将来運動することに対する報酬として供与を受けたに止まり投票獲得に必要且有利な直接又は間接の行為をしたことは何等認められず、又選挙運動の依頼を受けたこと、原判示同旨の金員の供与を受けたことそれ自体は右趣旨の選挙運動の範 る報酬として供与を受けたに止まり投票獲得に必要且有利な直接又は間接の行為をしたことは何等認められず、又選挙運動の依頼を受けたこと、原判示同旨の金員の供与を受けたことそれ自体は右趣旨の選挙運動の範疇に属しないものと解せられるから原判決が右の事実を逮えて立候補届出前の選挙運動となし公職選挙法第一二九条第二三九条を適用したことは法令の解釈適用を誤つたものといわざるを得ないが右立候補届出前の選挙運動の罪と原判示金銭受供与の罪とは刑法第五四条第一項前段により金銭受供与の罪の一罪として処断せらるる結果となるので右の誤は判決に影響を及ぼすものとはいえないから原判決破棄の理由とはならない。 以上説明のとおり全被告人の本件控訴及び被告人Aに対する検察官の控訴は何れも理由がないから刑事訴訟法第三九六条によりこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官筒井義彦裁判官二見虎雄裁判官長友文士)

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