平成12(行ウ)24 外国人退去強制令書発付処分等無効確認請求

裁判年月日・裁判所
平成14年1月16日 名古屋地方裁判所
ファイル
hanrei-pdf-7793.txt

判決文本文21,237 文字)

主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告法務大臣が平成10年12月8日付けで原告に対して行った難民不認定処分は無効であることを確認する。 2 被告法務大臣が平成11年11月15日付けで原告に対して行った原告の難民不認定処分に対する異議申出は理由がない旨の裁決は無効であることを確認する。 3 被告法務大臣が平成11年12月24日付けで原告に対して行った出入国管理及び難民認定法49条1項に基づく原告の異議の申出は理由がない旨の裁決は無効であることを確認する。 4 被告名古屋入国管理局主任審査官が平成11年12月24日付けで原告に対して行った外国人退去強制令書発付処分は無効であることを確認する。 第2 事案の概要本件は,短期滞在の在留資格で本邦に入国後,在留期間の満了に伴い退去強制令書の発付を受けたエティオピア連邦民主共和国(以下「エチオピア」という。)の国籍を有する外国人である原告が,原告はエチオピアと紛争状態にあるエリトリア国(以下「エリトリア」という。)出身の両親を有するエリトリア系エチオピア人であり,出入国管理及び難民認定法(以下「法」という。)所定の難民に該当し,エチオピアに強制送還された場合にはエチオピア政府によって迫害されるおそれがあるから,原告に対して難民認定処分及び特別在留許可がなされるべきであったにもかかわらず,被告法務大臣は,原告が難民に該当せず,迫害のおそれもないとして,原告に対し,請求の趣旨1ないし3項記載の処分及び裁決を行ったものであるから,これらはいずれも重大かつ明白な瑕疵を帯びるものとして無効であり,被告名古屋入国管理局主任審査官が行った請求の趣旨4項記載の処分も,無効な請求の趣旨3記載の裁決に基づくものであること及び「拷問及び これらはいずれも重大かつ明白な瑕疵を帯びるものとして無効であり,被告名古屋入国管理局主任審査官が行った請求の趣旨4項記載の処分も,無効な請求の趣旨3記載の裁決に基づくものであること及び「拷問及び他の残虐な,非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰に関する条約」(以下「拷問等禁止条約」という。)等に違反するから無効であるとして,上記各処分及び各裁決の無効確認を求めた抗告訴訟である。 1 前提事実(争いのない事実及び証拠により容易に認定可能な事実)(1) 当事者原告は,昭和48年(1973年)11月10日にエチオピアで出生した,同国国籍を有する外国人である。 (2) 本件の経緯等ア原告は,平成10年8月1日,エチオピア旅券を所持して関西国際空港に到着し,渡航目的をビジネス,日本滞在予定期間を5ないし6日として上陸申請を行い,90日間の短期滞在の在留資格を得て本邦に上陸した。 イ原告は,同月6日,千葉県習志野市長に対して,居住地を千葉県習志野市として外国人登録法に基づく新規登録申請を行い,同年9月1日,外国人登録証明書の交付を受けた。 ウ原告は,同月8日,被告法務大臣に対して,エリトリア系エチオピア人であることを理由に迫害を受けるおそれがあるとして,難民認定申請を行った。 エ原告は,同年9月16日,東京入国管理局(以下「東京入管」という。)において,本邦で就労したいとして資格外活動許可申請を行い,同日,同許可書の交付を受けた。原告は,同年10月2日,東京入管において,在留期間更新許可申請を行い,同月8日,在留資格を短期滞在,在留期間を90日として在留期間更新の許可を受けた(平成11年1月28日に在留期間満了)。また,原告は,上記在留期間更新許可を受けたのと同日,東京入管において,更新された在留期間中に本邦で就労したいとして資格外 日として在留期間更新の許可を受けた(平成11年1月28日に在留期間満了)。また,原告は,上記在留期間更新許可を受けたのと同日,東京入管において,更新された在留期間中に本邦で就労したいとして資格外活動許可申請を行い,同日,同許可書の交付を受けた。 オ東京入管難民調査官は,平成10年10月28日,原告から事情を聴取するなど事実の調査を行ったが,原告はその翌日,本国から送られてきたものであるとして,新聞(乙8の3ないし6),書簡及びその封筒(乙8の2の1,8の2の3。以下「本件書簡」という。),招へい状(乙8の7,以下「本件招へい状」という。)並びに原告の入国目的に関する書面(乙8の8ないし11)を持参した。 カ被告法務大臣は,同年12月8日,原告の難民認定申請に対し,迫害を受けるおそれは認められず,難民の地位に関する条約(以下「難民条約」という。)及び難民の地位に関する議定書(以下「議定書」という。)にいう難民(以下「条約上の難民」という。)とは認められないとして,不認定処分(以下「本件不認定処分」という。)をなし,平成11年1月7日,原告にその旨告知した。原告は,本件不認定処分を不服として,同月11日,被告法務大臣に対して異議の申出を行った。名古屋入国管理局(以下「名古屋入管」という。)の難民調査官は,同年2月4日,原告から事情聴取するなど事実の調査を行った。 キ名古屋入管の入国警備官は,同年5月18日,原告につき,法24条4号ロ(不法残留)の該当容疑で違反調査に着手し,同年10月28日に調査を実施した結果,原告が同号に該当すると疑うに足りる相当の理由があるとして,同日,被告名古屋入管主任審査官から収容令書の発付を受けてこれを執行し,原告を名古屋入管収容場に収容して,同月29日,原告を法24条4号ロ該当容疑者として名古屋入管入国審 る相当の理由があるとして,同日,被告名古屋入管主任審査官から収容令書の発付を受けてこれを執行し,原告を名古屋入管収容場に収容して,同月29日,原告を法24条4号ロ該当容疑者として名古屋入管入国審査官に引き渡した。 ク被告法務大臣は,同年11月15日,本件不認定処分に対する原告の前記カの異議申出につき,本件不認定処分の判断に誤りは認められず,他に原告が難民条約上の難民に該当することを認定するに足りる資料もないとして,異議に理由がない旨の裁決(以下「本件不認定裁決」という。)をし,同月18日,原告にその旨告知した。 ケ名古屋入管入国審査官は,違反審査の結果,同月22日,原告が法24条4号ロの退去強制事由に該当する旨の認定を行って,原告にこれを通知したところ,原告は,同月24日,口頭審理の請求をした。 名古屋入管特別審理官は,同月30日,原告につき弁護士立会いの下で口頭審理を実施した上,入国審査官の上記認定には誤りがない旨判定し,原告にその旨通知したところ,原告は,同日,被告法務大臣に対して異議の申出を行った。 被告法務大臣は,同年12月24日,上記異議の申出には理由がない旨の裁決(以下「本件裁決」という。)をして被告名古屋入管主任審査官に通知した。 コ被告名古屋入管主任審査官は,同日,原告に対して本件裁決を告知するとともに,原告に対して強制送還先をエチオピアとする退去強制令書(以下「本件退令」という。)を発付した(以下「本件退令発付処分」という。)。 サ名古屋入管入国警備官は,平成12年2月4日,原告を入国者収容所西日本入国管理センター(以下「収容所」という。)に移収した。 シ原告は,同年4月27日,本訴を提起するとともに,同日,本件退令に基づく送還処分及び収容処分の執行停止申立て(当庁平成12年行ク第7号)をなし,同年5月1 (以下「収容所」という。)に移収した。 シ原告は,同年4月27日,本訴を提起するとともに,同日,本件退令に基づく送還処分及び収容処分の執行停止申立て(当庁平成12年行ク第7号)をなし,同年5月16日,本件退令のうち送還部分の執行を,本件訴訟の1審判決言渡しの日から1か月を経過した日まで停止する旨の一部認容決定を得た。 (3) エチオピア及びエリトリアに関する一般情勢アエチオピアはアフリカ北部に位置する国家であり,首都はアディス・アベバ,主に使用されている言語はアムハラ語及び英語である。エリトリアは平成5年5月にエチオピアから分離独立した国家で,エチオピアの北に隣接しており,首都はアスマラ,主に使用されている言語はティグレ語,アラビア語などである。エリトリア独立後,両国は友好協力協定を締結するなどして緊密な関係を維持していたが,平成10年5月12日,国境画定を巡る問題からエリトリア軍がエチオピアの実効支配地域である北西部のバドメ地域に侵入,占拠したため,両国の間で軍事衝突が発生し,本格的な戦闘に発展した。この紛争開始後,一時的に戦闘と空爆が休止していた期間もあったが,平成11年2月になると北部国境地域において再び激しい戦闘が展開され,エチオピア軍が上記のバドメ地域を制圧するに至った。 イエリトリアとエチオピアは,平成12年6月18日,アフリカ統一機構がかねてから両国に対し提示していた調停案を受諾し,停戦協定を締結した。 (4) 条約上の難民の定義について法2条3号の2は,難民の定義につき,難民条約1条又は議定書1条の規定により難民条約の適用を受ける難民をいうと定めているところ,難民条約1条A及び議定書1条2項によれば,「人種,宗教,国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十 を受ける難民をいうと定めているところ,難民条約1条A及び議定書1条2項によれば,「人種,宗教,国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために,国籍国の外にいる者であって,その国籍国の保護を受けることができないもの又はそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まないもの」は難民とされている。 2 争点(1) 原告は条約上の難民に該当するか(原告が条約上の難民に該当しないとした本件不認定処分は重大かつ明白な瑕疵を有する無効な処分か。)(2) 本件不認定裁決は重大かつ明白な瑕疵を有するか。 (3) 本件裁決は,原告に対して法50条1項所定の在留特別許可(以下「在特許可」という。)を与えなかった点において裁量権を著しく逸脱した重大かつ明白な違法があり,無効なものであるか。 (4) 本件退令発付処分は重大かつ明白な瑕疵を有する無効な処分か。 3 争点に関する当事者の主張(1) 争点(1)(原告の難民該当性)について(原告の主張)ア被告ら主張のように,難民該当性についての立証責任が原則として申請者側にあるとしても,難民は必要最小限の物を持って迫害から逃れてくるのが通常であるから,申請者の側に厳格な立証責任を課することは不当であり,申請者の供述を裏付ける証拠が欠如している場合でも,疑わしきは申請者の利益にとの原則に従って判断すべきである。 イエチオピアとエリトリアの紛争開始後,わずかの期間に5万4000人ものエリトリア系エチオピア人が逮捕,拘留され,非人道的な方法で国外に追放され,その過程で虐待を受けている。追放が始まった当初の平成10年6月には,追放の対象は政府がスパイ活動を行っていると判断した約1000名に限られていたが,やがてその対 ,非人道的な方法で国外に追放され,その過程で虐待を受けている。追放が始まった当初の平成10年6月には,追放の対象は政府がスパイ活動を行っていると判断した約1000名に限られていたが,やがてその対象は拡大し,年齢,性別,職業,住所を問わない無差別的なものとなり,平成11年2月までの間に,エリトリア系エチオピア人の実に13.5パーセントもの者が追放されるに至っている。したがって,エリトリア系エチオピア人については一般的に迫害を受けるおそれがあるというべきである。 原告の両親はエリトリアの出身であり,原告は両親がエチオピアに移住して結婚した後にエチオピアで出生した。したがって,原告はエチオピア政府が迫害の対象としているエリトリア系エチオピア人に該当する。 ウ原告の家族,友人及び勤務先の会社は,現にエチオピア政府による迫害を受けており,このことは原告に迫害を受けるおそれがあることを如実に示すものである。 (ア) 原告は,バレ地方のゴバ州の出身であり,原告の母と妹はゴバに居住していたが,平成10年6月,エチオピア政府が命じたスパイ摘発活動の際に,原告の実家を訪問した警察官が,原告の母と妹をスパイと決めつけて殺害するという事件が発生した。この事件は,興奮した警察官の一人が引き起こした突発的な事件であり,殺害を行った警察官は逮捕,収監されたが,エチオピア政府のスパイ摘発活動を契機として発生した事件である点で,迫害のおそれを基礎付けるものである。 (イ) 原告の父は,30名のエリトリア出身のビジネスマンとともに逮捕され,シャゴリ(ショグラ)刑務所に収容されていたが,その後死亡した。 なお,原告は名古屋入管収容場に収容された後の事情聴取において,父親が逮捕,拘束された事実については供述していながら,死亡の事実は供述していないが,自らが身柄を拘束さ れていたが,その後死亡した。 なお,原告は名古屋入管収容場に収容された後の事情聴取において,父親が逮捕,拘束された事実については供述していながら,死亡の事実は供述していないが,自らが身柄を拘束されたことに対する怒りや不信感が原因となって死亡の事実のみをあえて供述しなかったとの可能性があるから,このことは原告の供述の信用性を減殺するものではない。 (ウ) 原告の勤務先の会社であるサン・エチオピアは,原告の入国後,エリトリア系の株主がいたことを理由としてエチオピア政府により強制的に閉鎖された。 (エ) 本件書簡は,原告の友人であるAが原告にあてて送付してきたものであるが,Aの勤務していた工場が閉鎖され,そこで働いていたエリトリア人の半数は刑務所に入れられ,残る半数も住んでいた所を追われたこと,Aも逮捕されないよう逃げ回っていること,原告が偶然エチオピアを出国したことは良かったこと,原告がエチオピアにいたのでは皆と同じように殺されたかも知れないこと等が記載されており,これによれば原告に対する迫害のおそれがあることが明らかである。 なお,原告は,難民申請に際して本件書簡の翻訳文を作成,提出した際,原文にはない原告の父が逮捕された事実などを一部付け加えているが,この程度の脚色を行ったからといって,原告がエリトリア系であること自体が否定されるわけではない。 エ被告らは,原告の査証取得時の申請内容と難民認定手続における主張との矛盾,変遷や,原告の入国経緯及び入国後の行動について種々主張するが,査証の申請手続はすべて原告の勤務先の会社であるサン・エチオピア(以下「サン・エチオピア」という。)が行ったものであり,原告自身はこれに関与していないから,この点は原告の供述の信用性に影響しない。また,原告が関西国際空港で入国後,招へい先の会社のある宮崎県 ア(以下「サン・エチオピア」という。)が行ったものであり,原告自身はこれに関与していないから,この点は原告の供述の信用性に影響しない。また,原告が関西国際空港で入国後,招へい先の会社のある宮崎県に行かず,いったん東京に向かったことについても,東京が日本の首都であることや,原告が東京にいる知人のガーナ人を訪問しようと思ったことなど合理的な根拠があるから,これらが原告の難民性に関する供述の信用性を減殺する事情に該当するとはいえない。 オ以上のとおり,原告については,迫害を受けるという十分に理由のある恐怖があることについての立証がなされており,条約上の難民に該当することが明らかであるから,この点に関する判断を誤った本件不認定処分には重大かつ明白な瑕疵があり,無効とされるべきである。 (被告らの主張)ア条約上の難民に該当するためには,単なる主観的事情を超えて,通常人が当該人の立場に置かれた場合にも迫害の恐怖を抱くような客観的事情が存在していることが必要である。 そして,難民の認定がいかなる手続を経て行われるべきかについては,難民条約及び議定書のいずれにも規定されていないから,この点は各国の立法に委ねられていると解されるところ,法は,61条の2第1項において,被告法務大臣は申請者の提出した資料に基づき難民認定を行うことができる旨定めているほか,61条の2の3第1項において,被告法務大臣は,申請者により提出された資料のみでは適正な難民の認定ができないおそれがある場合その他難民の認定又はその取消しに関する処分を行うため必要がある場合には,難民調査官に事実の調査をさせることができると規定していることに照らすと,難民認定申請者に難民該当性についての第1次的な立証責任を負担させるのが法の趣旨であると解される。 イ原告は,エリトリア系エチオピア 官に事実の調査をさせることができると規定していることに照らすと,難民認定申請者に難民該当性についての第1次的な立証責任を負担させるのが法の趣旨であると解される。 イ原告は,エリトリア系エチオピア人が国外に追放されていることを迫害のおそれの根拠として挙げるが,原告主張の事実によっても,エチオピア国内に40万人いるエリトリア系エチオピア人のうち,8割以上の者はなお追放されることなく引き続きエチオピアにおいて暮らしていることになる。したがって,エリトリア系であるからといって,直ちに迫害を受けるおそれがあるとはいえない。 しかも,原告は,原告がエリトリア系エチオピア人であることを証明するに足りる資料を提出していない。なお,国連難民高等弁務官事務所(UNHCR,以下「UN」という。)は,調査嘱託に対して,原告がエリトリア系であることを確信している旨回答しているが,その具体的な根拠は何ら記載されていないから,この調査嘱託の結果は原告がエリトリア系であることの裏付けとはなり得ない。 その上,原告がエリトリア系であるとする点については,以下のような疑問点が存在する。すなわち,原告は,エリトリア系の両親から出生したと主張するにもかかわらず,エチオピアの公用語であるアムハラ語と英語しか解さず,エリトリアの公用語であるアラビア語及びティグレ語を解さない。また,原告は,後記エ(ア) のとおり,出国に際し,エリトリア系エチオピア人が受けていた出国ビザの不発給やパスポートの没収といった移動の自由の制限を受けていた形跡がない。したがって,いずれの点からしても,原告がエリトリア系であることを認めることはできない。 ウ原告が迫害のおそれに関する具体的事情として掲げる事実は,次のとおり,いずれも供述自体信用できないか,または迫害のおそれを示す事実とはいえない。 リトリア系であることを認めることはできない。 ウ原告が迫害のおそれに関する具体的事情として掲げる事実は,次のとおり,いずれも供述自体信用できないか,または迫害のおそれを示す事実とはいえない。 (ア) 母と妹の殺害の事実を裏付ける証拠はない上,その原因についての原告の供述は変遷している。しかも,仮に,これが事実であったとすれば,原告は,両名が殺害された平成10年7月16日の2週間後にエチオピアを出国したこととなるところ,原告は,専ら商用を目的として来日した後,父が逮捕されたことを知って初めて迫害のおそれを認識したとも供述しているから,母と妹の殺害に関する原告の供述は信用できない。 また,仮に殺害の事実が真実であったとしても,殺害の実行行為者の警官が逮捕され,刑務所に収監されているということは,上記殺害がエチオピア政府当局により企図された組織的迫害とは異質の,単なる犯罪であったことを裏付けるものである。したがって,母及び妹の殺害の事実は原告に対する迫害のおそれを基礎付ける事情とはいえない。 (イ) 原告は,原告の父がシャゴリ刑務所に収容された後死亡したと主張しているが,これを裏付ける証拠はない。しかも,原告は,難民認定手続及び異議申出手続当時,父がシャゴリ刑務所に収容されたことのみを述べるにとどまり,死亡したとの事実を全く主張していなかったものであり,このように重要な事実について当時供述をしなかった合理的な理由を示すことなく,聞かれたけれども答えなかったなどと弁解するにとどまるから,原告の供述はおよそ信用できない。 (ウ) 原告は,サン・エチオピアの閉鎖の事実を日本に入国した翌々日の平成10年8月3日に知ったと供述するが,この供述は,出国当時,迫害に関する具体的危険性を感じなかったとの供述と矛盾し,不自然である。しかも,サン・エチオ オピアの閉鎖の事実を日本に入国した翌々日の平成10年8月3日に知ったと供述するが,この供述は,出国当時,迫害に関する具体的危険性を感じなかったとの供述と矛盾し,不自然である。しかも,サン・エチオピアなる会社は,後記のとおり,そもそも実在することにつき疑問がある。 (エ) 原告は,本件書簡の英訳文を作成する際,原文にない事実を付加している上,本件書簡の差出人であるAの勤務先や稼働していた工場について矛盾した供述をしており,Aなる人物の実在は疑わしい。したがって,本件書簡は原告が友人に虚偽の事実を記載した手紙の作成を依頼して送付させたものであるとの疑いを払拭できず,信用できない。 エさらに,原告については,難民該当性を疑わせる以下のような事情が存する。 (ア) 原告は,エチオピアとエリトリアの間の紛争が発生し,エリトリア系エチオピア人に対する迫害が開始された後である平成10年5月25日に,自ら旅券事務所に赴き,旅券の発給を受け,さらに,この旅券を使用して同年6月25日と同年7月23日の2回にわたって出国許可期間の延長手続を受けた上で出国しており,殊に,2回目の延長手続は,原告が母と妹が殺害されたとする日よりも後になされている。このように,原告は,エチオピア本国から旅券発給をめぐる一般的な保護を受け,国内外を含めた移動の自由を保障されており,エリトリア系エチオピア人が受けているとされる出国ビザの不発給やパスポートの没収といった移動の自由の制限を受けていないから,原告に迫害を受けるおそれがあったなどとは到底考えられない。 (イ) 原告は,勤務先のサン・エチオピアで購買係をしており,中古車のビジネスのために,日本のB社からの招へい状により市場調査目的で日本に来ることになった旨供述しており,B社作成の本件招へい状を提出している。 しかし,原告 ン・エチオピアで購買係をしており,中古車のビジネスのために,日本のB社からの招へい状により市場調査目的で日本に来ることになった旨供述しており,B社作成の本件招へい状を提出している。 しかし,原告は,自己の勤務先と主張するサン・エチオピアの実態や事業内容等はおろか,社長の名すら供述できない上,中古車についての知識もなく,サン・エチオピアから支給された旅費等についても何ら具体的に答えることができない。しかも,原告の査証は偽造ないし変造された招へい状を用いた虚偽の内容に基づく申請により不正に発給されたものであるところ,サン・エチオピアが実在してビジネスを行っているのであれば,このような不正な手段で査証を取得する必要は全くないのであって,このような手段を用いていること自体,それ以外に日本に入国する手段がなかったことを示すものにほかならない,したがって,サン・エチオピアから派遣されてビジネス目的で来日したとの原告の供述は信用できない。また,原告は,関西国際空港から入国後,用務先と主張するB社のある宮崎県に向かおうとしないばかりか,同社に連絡もとらず,合理的理由もないのに東京に向かうという行動をとっており,以上の事情を総合すれば,原告が不法就労を目的として日本に入国した事実が認められるというべきである。そして,難民に該当する者はその恐怖から逃れるため速やかに他国の保護を求めるのが通常であり,不法就労目的で来日するなどということは考え難いから,この事実は原告が難民に該当しないことを示すものである。 オ以上より,原告が条約上の難民に該当することを証明するに足りる資料の提出があるとはいい難く,本件不認定処分につき重大明白な瑕疵があるとはおよそ認められないから,本件不認定処分は適法である。 (2) 争点(2)(本件不認定裁決の瑕疵)について(原告の に足りる資料の提出があるとはいい難く,本件不認定処分につき重大明白な瑕疵があるとはおよそ認められないから,本件不認定処分は適法である。 (2) 争点(2)(本件不認定裁決の瑕疵)について(原告の主張)ア難民認定手続は,その結果の重大性にかんがみ,適正手続の要請がとりわけ強いと考えられるところ,本件不認定処分に対する異議申出手続において,難民調査官は,原告がエリトリア系であるとの点を含め,原告の供述内容について疑問を抱いていたのであるから,その疑問点について,原告に釈明の機会を与えるために矛盾点を指摘したり,より具体的な質問を発するなどの手続をとるべきであったにもかかわらず,原告に釈明と防御の機会を十分に与えなかった。したがって,上記異議申出手続は,憲法の要求する適正手続の保障に反したもので,違憲,無効である。 イ本件不認定裁決には,原告が条約上の難民に該当することを認定するに足りるいかなる資料も見出し得なかったと記載されているのみで,処分の理由を原告に知らせるに足りる具体的な理由の記載がないから,理由付記を欠く違法,無効なものである。 (被告らの主張)ア原告は,本件不認定処分に対する異議申出手続において,十分に供述する機会を与えられていたにもかかわらず,難民調査官に対し,意図的に非協力的な態度をとり,父の死亡の事実等につきあえて供述せず,弁護士をつけて法廷に持っていけばよいなどと考えていたものであるから,本件不認定裁決に適正手続に関する違法があるとはいえない。 イ処分庁が一定の事実関係の存在を理由としてある行政処分を行う場合とは異なり,難民であることを基礎付ける事実関係について立証すべき具体的な証拠がないという理由で処分を行う場合には,処分の前提として明らかにすべき一定の事実関係があるとはいえないから,処分庁としては,具体 なり,難民であることを基礎付ける事実関係について立証すべき具体的な証拠がないという理由で処分を行う場合には,処分の前提として明らかにすべき一定の事実関係があるとはいえないから,処分庁としては,具体的な証拠がない旨の理由付記しかなし得ない。 そして,一定の事実関係を前提として処分がなされる場合にも,理由付記の程度として心証形成過程までも示すことは必要でなく,不服申立の便宜とするために処分の前提となった事実関係を示す限度で足りると解されていることからすると,本件不認定裁決に示された理由は理由付記の程度として必要十分なものであったというべきであり,この点に関する違法はない。 (3) 争点(3)(本件裁決の瑕疵)について(原告の主張)ア本件不認定処分及び本件不認定裁決は,いずれも前記のとおり違法,無効というべきところ,このように難民不認定処分又は難民不認定に対する異議に理由がない旨の裁決が無効な場合,被告法務大臣の裁量権の幅は著しく収縮し,あるいはその行為は羈束行為となり,実質的に在特許可を付与しなければならない義務を負うと解すべきである。 本件裁決も,無効な本件不認定処分及び本件不認定裁決の瑕疵を承継しているから無効というべきである。 イまた,仮に在特許可を付与するか否かについて被告法務大臣に広範な裁量権があるとしても,原告がエリトリア系であることをうかがわせる一定の証拠がある本件において,原告がエチオピアに送還された場合には生命,身体に関わる激しい迫害を受けるおそれがあり,かつ,第三国の受入国もなかったのであるから,在特許可を与えないことは社会通念上,著しく妥当性を欠き,裁量権を逸脱するものとして違法,無効というべきである。 (被告の主張)ア法は難民認定手続と退去強制手続の関係につき何ら規定しておらず,かえって,難民認定を受け は社会通念上,著しく妥当性を欠き,裁量権を逸脱するものとして違法,無効というべきである。 (被告の主張)ア法は難民認定手続と退去強制手続の関係につき何ら規定しておらず,かえって,難民認定を受けている者についても退去強制手続を進めなければならないことを前提とする規定(法61条の2の8)を置いているから,難民認定申請をしていること又は難民認定を受けたことは被告法務大臣が在特許可(法61条の2の8によるものを含む)を付与するか否かを判断する際の一事情となるにすぎないというべきである。そして,在特許可は恩恵的なものであって,これを付与するか否かについては,被告法務大臣の広範な裁量が認められているから,被告法務大臣がその付与された権限に背いて裁量権を行使したと認め得るような特別な場合を除くほか,その裁量権の行使が違法となることはない。 イ本件は,争点(1)について述べたとおり,原告の供述に疑義がある事案であって,原告が条約上の難民であることが明らかであるとはいい難いから,原告に在特許可を与えなかった被告法務大臣の本件裁決に違法はない。 (4) 争点(4)(本件退令発付処分の瑕疵)について(原告の主張)ア前記のとおり,本件裁決は違法,無効であるから,これに基づいてなされた本件退令発付処分は,その違法性を承継し,無効となる。 イ原告は,エチオピアに送還された場合,エリトリア系エチオピア人であることを理由として同国の公務員等により迫害を受け,生命及び身体の危険にさらされることになるから,送還先をエチオピアとする本件退令発付処分は,このような国への強制送還を禁じた法53条2項及び3項並びに拷問等禁止条約3条に違反し,重大かつ明白な瑕疵がある。 (被告らの主張)ア本件裁決には違法事由がないから,本件裁決の違法の承継に関する原告の主張は失当で 制送還を禁じた法53条2項及び3項並びに拷問等禁止条約3条に違反し,重大かつ明白な瑕疵がある。 (被告らの主張)ア本件裁決には違法事由がないから,本件裁決の違法の承継に関する原告の主張は失当である。 イ原告が法53条2項及び3項並びに拷問等禁止条約3条違反の根拠として挙げる事実は,原告がエリトリア系エチオピア人であり,エチオピアに帰国した場合に迫害されるおそれがあるという点であるが,前記争点(1)について述べたとおり,この事実を認めることはできないから,原告の主張には理由がない。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)について(1) 前記前提事実及び証拠(甲4ないし7,11,乙41)によれば,エチオピア政府は,平成10年6月12日,約40万人と推定されるエリトリア系住民のうちエリトリアに資金を提供している者及びエリトリアのためにスパイ活動をしている者を追放すると発表し,アムネスティーインターナショナルの報告によれば,それ以降,多いときには週に1500人のエリトリア系住民がエリトリア領内に追放され,同年6月から平成11年2月6日までの間にその数は合計5万4000人に達したこと,追放された人々はその過程で不衛生な環境下で食料や水も十分に与えられないなどの非人道的な処遇を受けたほか,暴行を加えられた者もおり,死者も出ていること,国連の経済社会委員会や米国国務省によっても,同種の事実が報告されていること,以上の事実が認められる。したがって,エチオピア政府によって追放の対象とされるべき客観的事情を有する者は,条約上の難民に該当するというべきである。 (2) ところで,証拠(乙4の2,8の1,11,15,16,20,24)によれば,原告は自己がエリトリア系エチオピア人であること及び迫害を受けるおそれがあることにつき,難民認定申請以後本訴提起ま (2) ところで,証拠(乙4の2,8の1,11,15,16,20,24)によれば,原告は自己がエリトリア系エチオピア人であること及び迫害を受けるおそれがあることにつき,難民認定申請以後本訴提起までの間に次のような供述をしていることが認められる。 ア原告の父は,エリトリアのアサブで生まれ,50年前にエチオピアのバレに移り住んだ。原告の母は,エリトリアのアスマラで生まれ,30年前にバレに移り住んだ。原告は,エリトリア系エチオピア人のティグレ族である。原告は,父母及び妹とともにバレで生活していたが,平成3年に高校卒業後,原告のみが首都アジスアベバに転居し,平成5年以降は自動車の輸入及びコーヒー等の輸出をしているサン・エチオピアで営業担当の会社員として勤務していた。 イ原告の母及び妹は,平成10年7月16日に,バレにおいて,3人の警察官によって射殺された。その警察官は逮捕され,刑務所に入れられたが,うち2名は1日で釈放された。母と妹が殺された原因は,エリトリア軍によるマカレの空爆についてスパイ容疑をかけられたため又は父の所在について警察官と口論になったためである。 ウ原告は,来日後3日目に当たる平成10年8月3日にエチオピアに電話し,原告の家族又は父の召使(C)から,父が逮捕され,シャゴリ刑務所に投獄されたこと,父の会社は閉鎖され,財産を没収されたことの情報を得た。 また,原告は,上記電話において,原告の勤務していたサン・エチオピアがエリトリア系市民に利益を与えているという理由で政府の命令により閉鎖された旨の情報も得た。 (3) そこで,上記供述の信用性について検討するに,原告は,本訴において,上記供述を裏付ける客観的な証拠として,本件書簡を提出しているので,その信用性についても併せて検討する。 ア本件書簡は,Aを差出名義人とする平成 述の信用性について検討するに,原告は,本訴において,上記供述を裏付ける客観的な証拠として,本件書簡を提出しているので,その信用性についても併せて検討する。 ア本件書簡は,Aを差出名義人とする平成10年9月29日付けの原告あての手紙であり,原告の日本からの手紙が2週間前に届いたこと,Aの働いていた工場が閉鎖され,誰も働いていないこと,工場で働いていたエリトリア人の半分は刑務所に入れられ,残りの半分も住んでいたところから出ていくように言われ,出ていったこと,原告が良いタイミングで日本に行ったこと,Aは警察に逮捕されないよう逃げ回っていること,原告は父一人を残して出ていったと話していたが,ここにいればみんなと同じように殺されたかも知れないこと,新聞記事2つを同封することなどが記載されているが,サン・エチオピアが閉鎖されたことや,原告の父が逮捕されたことに関する記載は全く存在しない。 イ原告は,東京入管に対し,平成10年10月29日,本件書簡を自ら英訳した書面(乙8の2の2)を提出したが,同英訳書面には,本件書簡の原文には存在しない,難民認定申請に有利となる事項(サン・エチオピアが閉鎖されたこと,原告の父が逮捕されたこと)が原告によって追加されているほか,Aの働いていた場所について,本件書簡の原文には「工場」と記載されている部分がサン・エチオピアと英訳されている。 ウ原告は,本人尋問において,原告の来日当時のAの勤務先はサン・エチオピアであり,他方,サン・エチオピアは輸出入業を営む会社であって,工場を有しないなどと本件書簡の内容と矛盾した供述をしている。そして,そのことを指摘されるや,原告は,本件書簡に記載されているAの働いていた「工場」がどこのことなのかは分からないと供述するようになり,さらに,原告がサン・エチオピアの閉鎖の事実を知っ ている。そして,そのことを指摘されるや,原告は,本件書簡に記載されているAの働いていた「工場」がどこのことなのかは分からないと供述するようになり,さらに,原告がサン・エチオピアの閉鎖の事実を知ったのは来日後3日目の電話によってではなく,もっとずっと後になってからのことで,その手段も電話であったかどうか分からないと供述するに至った。 また,原告は,難民認定手続の初期の段階から一貫して,サン・エチオピアでは中古車の購買係を担当しており,中古車の市場調査のため来日した旨供述しているところ,本人尋問においても当初は同旨の供述をしていたが,被告代理人から中古車の価格等についての具体的な質問をされるや,自分は中古車についてはあまり詳しくなく,コーヒーの価格なら分かるなどと唐突に供述を変更している。さらに原告は,サン・エチオピアの会社組織や社長の氏名についての尋問に答えることができず,サン・エチオピアから日本への出張旅費としていくら交付されたかも覚えていないと供述している。 エ原告は,第6回弁論準備手続期日に至って,原告の父は既に死亡しており,原告がその事実を知った時期は,原告が名古屋入管に収容された時より前であると主張した(当裁判所に顕著)。しかしながら,平成10年9月8日に原告が難民認定申請した際に提出された陳述書(乙4の2)には,父が逮捕されてシャゴリ刑務所に収監されたとの事実は記載されているものの,父の死亡の事実は記載されていない上,収容令書が執行された当日である平成11年10月28日付けの原告の供述調書(乙16)には,「父はシャゴリ刑務所にいると思うが音信がないのでわかりません。」と前記主張と明らかに異なる事実が記載されている。 オ原告は,UNの職員による事情聴取の際(平成11年1月13日),エリトリア独立の可否を問う国民投票に家 ると思うが音信がないのでわかりません。」と前記主張と明らかに異なる事実が記載されている。 オ原告は,UNの職員による事情聴取の際(平成11年1月13日),エリトリア独立の可否を問う国民投票に家族全員が参加しなかったと答えた(甲10の添付5)にもかかわらず,本人尋問においては,参加したと供述し,その矛盾点を指摘されるや,日本の入管関係者には参加しなかったと答えたと供述し,最後に,本人以外の家族は皆投票していないんですねとの原告代理人の誘導を受けて,これを肯定する供述をするに至っている。 以上のように,原告は,本件書簡にはサン・エチオピアの閉鎖や原告の父の逮捕の事実が記載されていないにもかかわらず,故意に原文と異なる英訳文を作成しており,この事実からは,自己に有利な証拠を作出しようとする原告の思考がうかがわれる上,自己の供述が客観的事実と矛盾することを指摘されるや,従前からの供述を何らの根拠もなく変更し,あるいは要領の得ない弁解を試みており,その供述の変遷過程も不自然であるから,原告がサン・エチオピアに勤務しており,同社が閉鎖されたとの事実及び原告の父が逮捕され死亡したとの事実に関する供述は,いずれも全体として信用性に乏しく,本件書簡も,難民認定手続の資料として意図的に作出されたものとの疑いを払拭できない。 (4) さらに,原告による本邦入国の経緯,目的について検討するに,証拠(乙1,8の7ないし11,38の1ないし5,39及び40の各1及び2,原告本人)によれば,以下の事実が認められる。 ア原告は,平成10年6月8日,エチオピアの日本大使館において,日本に入国するための査証を取得しているが,その申請書(乙38の2)には,申請者の所属する団体として「ラス・ダシン・インターナショナル・トレーディング」,日本における身元引受人として「D副 おいて,日本に入国するための査証を取得しているが,その申請書(乙38の2)には,申請者の所属する団体として「ラス・ダシン・インターナショナル・トレーディング」,日本における身元引受人として「D副社長E」との記載があり,千葉県千葉市(以下省略)所在のD社の副社長Eの招へい状及び宿泊先ホテルの連絡書等が添付されている。しかし,原告の査証申請書に添付されたEからの招へい状は,D社の副社長であるE’}が作成した別件の招へい状を使用して偽造ないし変造されたものである。また,D社が発行した上記別件の招へい状は,原告が査証申請したのと同じ平成10年6月に,エチオピアのラス・ダシンと称する会社がD社を欺罔して発行させたものであり,この招へい状を利用して,ラス・ダシンの関係者と称する外国人3名が日本に入国し,その後逃亡している。 イエチオピア所在のサン・エチオピアと称する会社は,宮崎県所在のB社と中古車に関する商談のファックスをやりとりし,B社から招へい状を受け取った上,原告外1名を日本に派遣すると連絡した。原告は,サン・エチオピアに電送された上記書面及び招へい状を持って入国したが,B社がサン・エチオピアの依頼を受けて原告外1名の宿泊のために予約していた大阪市内及び宮崎市内のホテル(8月1,2日)に宿泊することなく,入国後直ちに目的地の宮崎県とは逆の方向である東京に向かい,B社にはその後も何らの連絡をとることがなかった。B社は,原告らと連絡がとれず,かつその行方が分からなくなったことから,入国の翌日である平成10年8月2日に,サン・エチオピアに対して電話及びファックスで連絡を試みたが,電話はつながらず,ファックスに対しても何の返答がなかった。 ウ原告は,平成10年5月25日にエチオピア政府に対して旅券を申請した際,直ちにその発給を受けており,同年 びファックスで連絡を試みたが,電話はつながらず,ファックスに対しても何の返答がなかった。 ウ原告は,平成10年5月25日にエチオピア政府に対して旅券を申請した際,直ちにその発給を受けており,同年6月25日と同年7月23日の2回にわたって出国許可期間の延長手続を受けた上で,同月31日にこの旅券を使用してエチオピアのボレ国際空港から通常の方法により出国している。 以上の認定事実を基に検討するに,原告が勤務先であると主張するサン・エチオピアなる会社が実在するのであれば,原告の査証申請が上記アのような経緯で行われることは通常考えられない(この点について,原告は,査証申請手続はすべてサン・エチオピアによってなされ,原告は何ら関与していないと主張するが,本人尋問において,日本大使館に少なくとも1回赴いたことを自認している上,査証申請書の手書部分は,原告作成の他の書類,例えば乙2,5,6の1,2,7,8の2の2,10,26の1,2の手書部分と筆跡がよく似ており,特に署名部分は酷似しているから,原告の上記主張は採用できない。)し,原告がサン・エチオピアの自動車購入等の用務で来日したのであれば,上記イのような行動をとることはおよそ考え難い(原告は,入国後,宿泊予約が無駄になるにもかかわらず,B社に向かわず東京に行った理由について,特別な理由はなく,東京にいるガーナ人に会うつもりだったなどと供述しているが,通常のビジネスマンのとる合理的行動とは到底いい難い。)。また,原告は,平成11年11月18日の名古屋入管入国審査官による事情聴取の際には,入国後,B社に行くのを中止した理由につき,平成10年8月3日の月曜に家族に電話した際,父が逮捕された事実及びサン・エチオピアが閉鎖された事実を知ったからであると供述しているが(乙20),そこでいう家族が誰を指すの のを中止した理由につき,平成10年8月3日の月曜に家族に電話した際,父が逮捕された事実及びサン・エチオピアが閉鎖された事実を知ったからであると供述しているが(乙20),そこでいう家族が誰を指すのか不明である(原告は,残る家族の母と妹は殺害されたと主張している。)ことはさておくとしても,原告が家族に電話して父の逮捕の事実を知ったとする場所は,東京都ないし千葉県内であり,宮崎県所在のB社で商談をする予定の当日に関東地方にいること自体がそもそも極めて不自然である。その上,原告は,本人尋問の際には,前記のとおり,サン・エチオピアが閉鎖された事実を知ったのは平成10年8月3日よりも後であると供述を変更している。 以上の検討結果に照らせば,サン・エチオピアに勤務し,商用で来日した後に迫害のおそれを認識した旨の原告の供述は,全く措信できず,このように,来日の経緯,目的という根幹的事実に関する原告の主張,供述への信頼性が崩れた以上,原告は不法就労目的でブローカーの手配により査証等を取得して来日した疑いが濃いというべきである。 (5) 以上のとおり,父に対する迫害の事実や勤務先の会社に対する迫害の事実に関する原告の供述が信用できず,また原告の来日目的が不法なものである疑いが濃いことを併せ考えると,何らの裏付けを伴わない母と妹に対する迫害に関する原告の供述も,同様に信用できないというほかない。また,仮に,母と妹が殺されたとする原告の前記供述が真実であったとしても,原告自身,上記殺害自体がエリトリア系市民に対する組織的な迫害行為として行われたものではないことを自認しているし,現に原告は,上記殺害事件によっては自己が迫害を受ける危険につき認識するに至らなかったと供述しているのであるから,この事実は,仮に存在したとしても,原告に対する組織的迫害の可能性を示 自認しているし,現に原告は,上記殺害事件によっては自己が迫害を受ける危険につき認識するに至らなかったと供述しているのであるから,この事実は,仮に存在したとしても,原告に対する組織的迫害の可能性を示すものではないというべきである。 そして,原告が,上記(4)ウのとおり,軍事衝突発生後2か月が経過し,エリトリア系市民に対する迫害が開始された後になって,移動の自由を制限されることなく,二度の査証延長手続を経た後にエチオピアから通常どおり出国できたことに照らすと,原告がエリトリア系エチオピア人であるがゆえに迫害を受けるおそれがある旨の供述についても,これを疑う合理的根拠があり,原告の供述のみから迫害のおそれを認定することはできないといわざるを得ない。 なお,UNに対する調査嘱託の結果(2回)によれば,UNは,原告の経歴の一部を「アフリカの角」地域に勤務するUNの担当官に確認した結果,原告がエリトリア系であると判断し,原告をマンデート難民に認定した事実が認められるが,上記調査嘱託回答書には,UNの担当官がどのような根拠に基づきどのような具体的事実を確認したかという重要な点が全く記載されていない上,同回答書によれば,UNは,家族に対する迫害や会社の閉鎖に関する原告の供述内容がすべて真実であるという基本的前提の下に難民性の判断を行っていることが認められるから,上記調査嘱託の結果は前記認定,判断を覆すものとはいえない。 (6) 以上のとおり,原告が異国にあって,その証拠収集能力に限界があることを最大限しんしゃくするとしても,原告が条約上の難民に該当するとの事実を認めるに足りる証拠はなく,かえってこれを疑わせる合理的事情が多数存在するのであるから,原告が条約上の難民に該当しないとした本件不認定処分に何らの違法はない。 2 争点(2)について(1) 事実を認めるに足りる証拠はなく,かえってこれを疑わせる合理的事情が多数存在するのであるから,原告が条約上の難民に該当しないとした本件不認定処分に何らの違法はない。 2 争点(2)について(1) 適正手続違反について原告の供述内容及び原告の行動に不自然な点及び矛盾点が多数存在することは前記1のとおりであるが,原告は,本訴においてもこれらの矛盾点等について合理的な説明をなし得ず,その供述は信用できないから,難民調査官が原告に対して矛盾点を指摘し,反論,弁明の機会を与えるべきであったとはいい難い。 かえって,難民認定手続及び異議申出手続において,原告が十分に自己の意見を陳述する機会を与えられていたことは,前掲各証拠(乙4の2,8の1,11,15,16,19)から明らかであるから,いずれの点からしても,適正手続違反に関する原告の主張は採用できない。 (2) 理由付記について法61条の2第1項の規定によれば,難民認定についての第1次的な立証責任は難民申請をした者にあると解すべきであって,法61条の2の3第1項も,被告法務大臣に事実の調査をする権限を与えたにとどまり,そのような調査をすべき義務を負わせたものとは認め難い。したがって,申請者の提出した証拠が不十分で,難民性を認定するに足りない場合,被告法務大臣は単にその旨を理由として摘示して処分をすれば足りるというべきであり,本件不認定裁決について理由不備の違法があるとはいえない。 3 争点(3)について被告らの主張するとおり,難民認定申請をしていること又は難民認定を受けたことは,被告法務大臣が在留特別許可(法50条又は61条の2の8)を付与するか否かを判断する際の一事情となるにすぎないし,在留特別許可を付与するか否かについては,被告法務大臣の広範な裁量が認められているから,社会通念上 が在留特別許可(法50条又は61条の2の8)を付与するか否かを判断する際の一事情となるにすぎないし,在留特別許可を付与するか否かについては,被告法務大臣の広範な裁量が認められているから,社会通念上著しく妥当性を欠き,裁量権を濫用するものであることが明らかな場合などを除くほか,その裁量権の行使が違法となることはないと解するのが相当である。 その上,本件裁決は,原告が条約上の難民に該当しないとした本件不認定処分及び本件不認定裁決が形式的には確定している状況下においてなされたものであるから,本件不認定処分について重大かつ明白な瑕疵が認められない限り,難民に該当しないことを前提としてなされた本件裁決に裁量権の逸脱があったとはいえないところ,本件不認定処分及び本件不認定裁決に違法がなく,無効といえないことは前記争点(1)及び(2)について判断したとおりであって,むしろ原告主張の事実を疑わせる事情が多数存する本件について,原告に在特許可を与えなかったことが著しく妥当性を欠くとはおよそ認め難いから,本件裁決に違法はない。 4 争点(4)について(1) 法49条5項は,被告法務大臣から異議の申出に理由がないと裁決した旨の通知を受けた場合,主任審査官は退去強制令書を発付しなければならないと定めており,その発付について主任審査官に裁量を認める余地は全くないから,前提となる裁決に無効原因がない場合には,退令発付処分のうち強制退去を命じる部分が違法,無効となる余地もないと解される。そして,本件裁決に違法がないことは前記3のとおりであるから,違法性の承継を根拠とする原告の主張は,その前提を欠くものとして採用できない。 (2) また,原告について迫害を受けるおそれがあると認め難いことは争点(1)について判断したとおりであるから,本件退令発付処分のうち,原告の送還 告の主張は,その前提を欠くものとして採用できない。 (2) また,原告について迫害を受けるおそれがあると認め難いことは争点(1)について判断したとおりであるから,本件退令発付処分のうち,原告の送還先をエチオピアと指定した部分が拷問等禁止条約に違反するとの主張も採用できない。 5 結語以上の次第で,原告の請求にはいずれも理由がないからこれらを棄却し,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第9部裁判長裁判官加藤幸雄裁判官橋本都月裁判官富岡貴美

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る