主要判決速報平成14年(わ)第148号殺人被告事件主文被告人を懲役11年に処する。 未決勾留日数中1400日をその刑に算入する。 理由 (犯罪事実)被告人は,平成14年2月20日午後8時30分ころから同月21日午前2時ころまでの間に,福井県越前市(旧武生市)のA女(当時85歳)方8畳寝室内において,同女が死亡するに至るかも知れないことを認識しながら,同女に対し,その首を手で絞め,その顔面を手拳で殴打し,その顔面及び頭部等を金属製のピンキングはさみ様のもので数十回殴打し,その上半身を足で踏みつけるなどの暴行を加え,よって,そのころ,同所において,同女を頭部外傷,胸郭外傷及び顔面のし開創の競合又は協同による外傷性ショックにより死亡させて殺害したものである。 (証拠の標目)(省略)(事実認定の補足説明)本件各証拠によれば,A女(以下「被害者」と略称。)が,平成14年2月20日午後5時ころから同月21日午前8時過ぎころまでの間に,福井県越前市(旧武生市。以下「武生市」という。)にある被害者方(以下「被害者方」と略称。)8畳寝室において,何者かによって襲われて死亡したことについては優に認められるところ,弁護人は,被告人の犯人性を裏付ける証拠は存在せず,被告人は無罪である旨の主張をし,被告人も,捜査・公判を通じて,被告人が被害者 を死亡させたことを否認し,当公判廷において,被告人が同月20日午後9時ころ被害者方を訪問した際には被害者は既に死亡していたとの供述をしている。 そこで,以下,当裁判所が,直接証拠がなく,被告人の自白もない本件において,状況証拠によって,被告人が本件犯行に及んだ犯人であると認定した理由について補足的に説明する。 第一本件各証拠により認定できる前提事実一当事者等について 被告人は,昭和8年9月15 おいて,状況証拠によって,被告人が本件犯行に及んだ犯人であると認定した理由について補足的に説明する。 第一本件各証拠により認定できる前提事実一当事者等について 被告人は,昭和8年9月15日に出生し,昭和32年11月にBと婚姻し,同人との間に長男C及び長女D子の二子をもうけ,本件当時,福井県武生市にある被告人方(以下「被告人方」と略称。)において,B,長男のC,その妻E子及びその二子の6人で,居住していた。 被害者は,大正6年1月20日,父Fの非嫡出子として出生し,その後,Gと婚姻し,平成11年G死亡後,被害者方において1人で居住していた。 なお,被害者は,Bとは異母姉弟にあたる。 二被告人及びその家族と被害者との関係等について 被害者は,Gとの間に実子がなく,昭和40年ころ,被害者の妹の子である甥のHに養子になるよう持ちかけたが断られ,昭和55年4月3日,被害者の異母弟Bの子であるD子を養子にした。 被告人及びBは,被害者らとD子との養子縁組後,被害者らとの付き合いを深めるようになったが,その後D子が被害者方を出て武生市内の県営住宅に入居し,昭和58年4月4日にIと結婚してI姓となったことから,被害者らは,同年12月13日,D子と離縁した。 Hは,地元の中学を卒業後,名古屋市内のJ金属という会社に勤務するようになり,昭和44年には同市内に自宅を新築し,昭和46年ころには福井県南条郡池田町に住んでいた両親を呼び寄せるなどして,名古屋市内を生活の本拠とするようになったが,その後も,お盆と正月に帰省した際, 被害者方を訪れていた。ただし,Hは,被告人及びBとは親戚付き合いはしていなかった。 平成11年10月30日,Gが富山で死亡した際,被告人及びBは,被害者に代わって遺体の引き取りに富山まで赴き,地元に帰って葬儀に親 。ただし,Hは,被告人及びBとは親戚付き合いはしていなかった。 平成11年10月30日,Gが富山で死亡した際,被告人及びBは,被害者に代わって遺体の引き取りに富山まで赴き,地元に帰って葬儀に親族として出席した。被告人及びBは,その後は以前にも増して一人暮らしとなった被害者のために献身的に何かと世話をするようになり,特に,平成13年5月ころ,被害者方のリフォーム工事や同年夏の下屋出し工事等の際にはBが手伝いをするなどしていた。 被害者は,Gの死後,Bに対し,A家の財産(被害者方建物や土地等)をBに譲る旨申し出たが,Bはこれを断った。 そこで,被害者は,平成12年1月20日ころ,被告人を介して,Bに対し,A家の財産を残すために,I及びD子に被害者の全財産を相続させる旨の遺言書のひな形を作るように依頼したところ,Bは,遺言書のひな形を作成し,被告人を介してこれを被害者に交付した。 さらに,被害者は,被告人に対し,「A」の姓を残すため,D子夫婦にA家に養子に入ってもらえないかと相談をし,その後,被告人夫婦及びD子夫婦の同意を得て,同年11月15日,Iと養子縁組し,以後D子夫婦はA姓を名乗るようになった。ただし,D子夫婦と被害者は同居はしなかった。 被害者は,介護保険のうち「要支援」の認定を受けており,デイケア及びデイサービスを受けていたほか,毎週1回(火曜日)に担当ホームヘルパーが被害者方を訪れて,部屋の掃除等を行う家事援助を受けていた。 第二本件各証拠により認定できる本件発生前後の事情について一本件発覚の経緯 平成14年2月21日午前8時50分ころ,社会福祉協会デイサービスセンターのK及びLが被害者方を訪問したところ,被害者方8畳寝室で血 を流して死んでいる被害者を発見し,直ちに警察に通報した。 上記両名が被害者方を 1日午前8時50分ころ,社会福祉協会デイサービスセンターのK及びLが被害者方を訪問したところ,被害者方8畳寝室で血 を流して死んでいる被害者を発見し,直ちに警察に通報した。 上記両名が被害者方を訪問した当時,玄関には鍵が掛かっていない状態で,被害者方の照明に関しては,8畳寝室の天井に吊り下げられた蛍光灯の豆電球と南側廊下と西側廊下とが交差する便所前の豆電球のみが点灯していた。 また,玄関板の間に血の付いた足跡が複数あり,8畳寝室に至る4枚のガラス戸の中央部分がガラス1枚分開いていた。 同日の朝,被害者を担当していたケアマネージャーのMは,被害者が殺されたという連絡を受け,同日午前9時45分ころ,被告人方に知らせに行ったところ,被告人は,内職をしていた。Mは,被告人及びBに事情を話し,一緒に車で被害者方に行った。 二被害者の創傷状況及び現場の血痕付着状況等について 被害者の主な創傷状況(1)右頭部に挫裂創4個及び表皮剥脱1個が認められる。また,顔面に挫裂創(し開創等)多数,皮膚裂創数個,梯子様表皮剥脱(縞模様の創傷)多数,さらに,それらを含む左眼窩部に鶏卵大の皮下出血,及び右眼窩部より右頬部を含む範囲に手掌面大の皮下出血が認められる。 (2)左右の上顎骨,右顎骨及び頭蓋底のトルコ鞍周囲に複雑骨折が認められる。また,下顎骨は,ほぼ正中で骨折している。さらに,右頭頂部より右頭部の頭皮に両手掌面大の軟部組織間出血1個,右側頭筋内に鶏卵大の組織内出血が認められる。 (3)右手首の前面に皮膚裂創2個及び表皮剥脱1個が認められる。また,右手背に表皮剥脱1個及び表皮剥脱を伴う皮下出血数個が認められる。 (4)左胸郭前壁の第2ないし第4肋骨並びに右胸郭前壁の第2及び第3肋骨に骨折,さらに,その周囲に出血が認められる。 被害者の身体の 背に表皮剥脱1個及び表皮剥脱を伴う皮下出血数個が認められる。 (4)左胸郭前壁の第2ないし第4肋骨並びに右胸郭前壁の第2及び第3肋骨に骨折,さらに,その周囲に出血が認められる。 被害者の身体の主な血液付着の状況 頭部の頭髪部分が部分的に血液で濡れた状態で,顔面は顔一面に血のり状の血液が付着しており,両手の着衣から出ていた部分全体にも乾燥した血液が付着していた。 被害者の着衣の主な血液付着の状況両肩から両腕,両肘,袖口にかけて多量の血液が下着シャツまでしみこんでおり,両腿部から両膝部にも血液が付着していた。 犯行現場(被害者方8畳寝室)の主な血痕付着の状況(別紙見取図参照)(1)枕に大量の血痕が付着していたほか,①カーペット北東端の遺体頭部の上方に,南北幅最大112センチ,東西幅最大74センチの血痕②カーペット東側の畳上(整理ダンス前)に,南北幅最大165センチ,東西幅最大72センチの血痕③カーペット南東端の畳上(洋服ダンス前)に,台形状に南北幅最大47センチ,東西幅最大73センチの血痕がそれぞれ付着していた。 (2)現場北側の襖4枚及び南側ガラス引き戸4枚には,多数の飛散した血痕が,西側障子,電灯を覆う半透明プラスチック製の笠及び天井北東角付近にも多数の飛散した血痕が付着していた。 (3)現場東側のキャスター付三段棚,5段小物入れ,黄緑色カラーボックス,整理ダンス及び洋服ダンス(高さ116センチないし144センチの位置に横長の線状の飛沫痕)の各前面に多数の血液の飛沫痕が認められるほか,箱(金色で周辺が茶色のもの)(平成15年押第9号符号13)及び置き時計にも血液の飛沫痕が付着していた。 物色状況(1)被害者方8畳寝室の整理ダンス2段目及び3段目は着物を引きずり 出して垂れ下がったままの状態が認 )(平成15年押第9号符号13)及び置き時計にも血液の飛沫痕が付着していた。 物色状況(1)被害者方8畳寝室の整理ダンス2段目及び3段目は着物を引きずり 出して垂れ下がったままの状態が認められた。洋服ダンスの片方の扉が開いた状況であった。なお,各タンス及び洋服ダンス前の手提げ袋内には,被害者が保管していた現金合計11万452円,残高のある普通預金通帳及び郵便貯金通帳並びに定期貯金証書がそのまま残されていた。 (2)被害者方8畳寝室以外の6畳和室,8畳居間及び8畳仏間(数十万円の現金等があった)は,いずれも物色された形跡はなかった。 三死因及び犯行態様について 死因についてNの公判供述及び第16回公判調書中の供述部分(以下「N証言」と略称。),「意見書」と題する書面(甲153)(以下「N意見書」と略称。)及び解剖鑑定結果報告書(甲5)によれば,被害者には頭部外傷,胸郭外傷及び顔面のし開創等が認められるが,そのいずれもが単独では死因を説明することはできない以上,これらが競合又は協同した結果,外傷性ショックによって死亡するに至ったものと認められる。 犯行可能時間帯について解剖鑑定結果報告書(甲5)によれば,解剖開始時(平成14年2月21日午後4時15分)は,被害者の死後半日ないし1日が経過しているということである。そして,被害者は,同月20日午後4時ころから同日5時ころにかけて,被害者方敷地内でケーブル線撤去工事をしていた作業員と会話を交わしており,この時点で,被害者は生存していたことが目撃されていることからすると,犯行可能な時間帯は,平成14年2月20日午後5時ころから同月21日午前4時ころまでの間である。 被害者に対する犯人の攻撃態様についてN証言及びN意見書によれば,被害者の創傷の発生機序として考えられるの 時間帯は,平成14年2月20日午後5時ころから同月21日午前4時ころまでの間である。 被害者に対する犯人の攻撃態様についてN証言及びN意見書によれば,被害者の創傷の発生機序として考えられるのは,①頚部への扼圧作用,②顔面の左右眼窩部及び右口唇部への鈍体作用③右頭頂部への鈍体作用,④前胸部の上部への圧迫作用, ⑤顔面のし開創を形成した作用であると認められる。 そして,それぞれの作用がどのようなものであったかについて,まず,①については,頚部に爪痕が存在することから,手による首絞め行為であったと認められる。②については,顔面の左右眼窩部には暗紫色の変色があり,また,右口唇部にも紫紅色の変色があり,いずれも作用面積が比較的大きく,かつ表面が滑らかな鈍体が作用することによって生じたものといえることから,手拳による顔面への殴打である可能性が高いと認められる。③については,頭蓋内の異常所見からすれば,被害者が鈍体に向かって急激に移動し,衝突を起こすことによって生じたものと考えられ,転倒や墜落のようなことにより右頭頂部が床面,柱ないしは家具などの平面にぶつかったという状況が存在したと推定できる。④については,左右肋骨が同じような高さで骨折していることや肺挫傷が存在していることからすれば,外因性の骨折であることが認められ,仰向けになって転倒している被害者の前胸部の上部を足で踏みつけるなどの行為が想定される。さらに,⑤については,ピンキングはさみであったとして矛盾しない金属製の凶器による顔面及び頭部等に対する多数回にわたる攻撃であったと認められる。 以上からすれば,犯人による被害者に対する暴行の態様としては,少なくとも,ア手で被害者の首を絞める行為イ顔面を手拳などで殴打する行為ウ上半身を足で踏みつけるなどの行為エ金 られる。 以上からすれば,犯人による被害者に対する暴行の態様としては,少なくとも,ア手で被害者の首を絞める行為イ顔面を手拳などで殴打する行為ウ上半身を足で踏みつけるなどの行為エ金属製のピンキングはさみ様のもので数十回被害者の顔面等を殴打する行為があったものと認められる。 このうち,アの行為は,致命的なものではなく,被害者の抵抗により直ぐに排除されている。そして,イとウの攻撃によるダメージはそれ自体被 害者にとり相当大きかったと思われ,しかも,エの攻撃については,被害者に防御創がなく,かつ,機械的に連続して顔面等に加えられていることからすると,上記イとウの攻撃によるダメージにより脳震盪を起こして,既に意識を失った状態にあった被害者に対してなされたものと思われるのであって,犯人は何らかの事情により被害者に対して感情を爆発させ,興奮状態,ヒステリー状態下で上記エの攻撃を行ったものと認められる。 次に,被害者の身体や現場である被害者方8畳寝室におびただしい血液が流出,あるいは飛散して広範囲にわたって付着しているところ(別紙見取図参照),これらの血痕付着は,犯人による被害者の頭部・顔面に対する攻撃(上記エの行為)による出血が原因と認められる。 第三被告人の犯人性をうかがわせる証拠一犯行現場に遺留された痕跡等について 足跡被害者方玄関板の間及び南側廊下から血液付着の現場足跡7個が採取された。上記足跡は,いずれも右足の靴下のカバー痕であり,鑑定結果によれば,その痕跡の特徴は,被告人の右足の足型の特徴に類似している(縦の長さは短いのに幅は非常に広い)ことが認められた。 なお,被害者を担当していたホームヘルパーのOは,平成14年2月19日午後1時30分ころに被害者方を訪問して,玄関上がり框及び板の間のふき掃除をしていた。 いのに幅は非常に広い)ことが認められた。 なお,被害者を担当していたホームヘルパーのOは,平成14年2月19日午後1時30分ころに被害者方を訪問して,玄関上がり框及び板の間のふき掃除をしていた。 物色の痕跡8畳寝室内の整理ダンスの上から一段目右小引出内の大茶封筒に軍手痕様の血痕,三段目引出下部の引手窪に血痕,洋服ダンス上段の右扉内の白色紙箱に擦過様の血痕がそれぞれ付着している。 ガラス引き戸に残された痕跡ガラス引き戸4枚には,その内側に血痕が多く付着し,このうち東から 3枚目の引き戸は敷居から外れて最西端の引き戸に立て掛けられていた。 その引き戸の木製枠両端の地上81センチメートルの箇所に,廊下側から両手で掴んで左側三指先と掌部分が印象されたと認められる血痕が,地上87センチメートルの箇所に,右側に指の第一関節1本分の指型様の血痕が付着している。 ベニシタンの葉平成14年2月21日に実施された実況見分中に,8畳寝室内にある血痕が付着した畳(洋服ダンス西側の畳)の上から発見・押収された1枚の葉は,その特徴からすれば,ベニシタンの葉と認められる。この植物は自生するものではなく,一般家庭では余り見られない植物で,この付近では,被告人方を除いて,被害者方の庭や被害者方から被告人方までの道沿いの家屋及びその周辺には植えられていなかった。 二懐中電灯について 被告人は,平成14年7月に実施された被告人方捜索において,被告人方の内職の作業場(以下「ミシン場」と略称。)内から,懐中電灯((平成16年福井地方検察庁領第165号符号1。以下「本件懐中電灯」と略称。)が発見,押収された。なお,本件懐中電灯は被告人が普段使用しているものである。 本件懐中電灯には,血痕が多数付着しており(甲115),特に,帯状,擦過状の血痕の付着が左側面 本件懐中電灯」と略称。)が発見,押収された。なお,本件懐中電灯は被告人が普段使用しているものである。 本件懐中電灯には,血痕が多数付着しており(甲115),特に,帯状,擦過状の血痕の付着が左側面等に多数認められるほか,ケシの実大の小さい血痕も多数付着している(同号証添付見取図9)。 本件懐中電灯に付着していた血痕のうち7箇所から採取してDNA鑑定を実施した結果によると(甲118。以下「本件DNA鑑定」と略称。),上記血痕は全て人血痕で,血液型は不明であるが,この内,血痕の1つが被告人のDNA型と一致し,血痕の3つが被害者のDNA型と一致したことが認められる。 (1)本件DNA鑑定の信用性について第13回ないし第15回公判調書中のPの各供述部分によれば,本件DNA鑑定は,プロファイラーキットという検査試薬を使用したSTR型検査及びアメロゲニン型検査によるものであり,DNAの中の10部位について,塩基配列が繰り返される回数が個人によって違いが存在することから,その違いを型として判定することにより個人を識別する鑑定方法であること,この鑑定方法は,平成13年4月から科警研で実施され,日本人の個人識別の点で優れているということで,平成15年8月からは全国の科捜研で実施されていること,本件鑑定人のPは,平成5年からDNA鑑定に従事し,本件鑑定時までに数多くの鑑定を行ってきており,科警研の行う研修において講義等も担当していること,本件鑑定の具体的方法は,鑑定資料からDNAを抽出,精製した後,プロファイラーキットを用いたPCR増幅法により,DNAを増幅し,これをフラグメントアナライザーにセットして電気泳動させDNAの長さを分析し,そのデータをソフトウエアを使って解析して型鑑定するというものであること,機械装置や検査キットが正確に作動 NAを増幅し,これをフラグメントアナライザーにセットして電気泳動させDNAの長さを分析し,そのデータをソフトウエアを使って解析して型鑑定するというものであること,機械装置や検査キットが正確に作動していること及び外来DNAが混入されないことを検証・確認しながら鑑定が行われており,また,検査を複数回行い,いずれの検査においても同一の型が検出されたことが確認されたものだけを最終的な検査結果としているなど,客観的な正確性が担保されていること,が認められる。 以上からすれば,本件DNA鑑定は,鑑定実施者が十分な専門的知識と技術水準を有しており,一般に確立した鑑定の手順・手法に基づいて実施されており,一連の鑑定経過に鑑定結果の信用性を疑わせる事情は存在せず,また,鑑定資料の管理保存にも問題はないといえるので,その信用性は高いというべきである。 なお,再鑑定の資料が残っていない点は,鑑定の在り方として当不当 の問題は残るものの,信用性自体の問題ではなく,再鑑定の資料がないからと言って鑑定自体の信用性が否定されるものではない。 (2)弁護人の主張本件DNA鑑定は,①実験が複数回繰り返され,都合の悪いデータは抹消又は隠蔽されていること,さらには,データは複数の実験結果を合成したものである可能性があること,②あえて精度の悪い抽出方法がとられ,その理由について虚偽の説明がなされていること,③1つの型のみ判定された座位についてはヘテロ型である可能性が否定できないこと,④マニュアルが開示されないために鑑定方法の科学的検証が不可能であることから,その信用性はもちろん,証拠能力も認めることはできない。 (3)検討ア①についてフラグメントアナライザーにより複数回の解析を行うのは,検査機器の有する特性上,DNAの長さを現す検査結果を検出するこ 用性はもちろん,証拠能力も認めることはできない。 (3)検討ア①についてフラグメントアナライザーにより複数回の解析を行うのは,検査機器の有する特性上,DNAの長さを現す検査結果を検出することが可能な適正な検出範囲が存在しており,DNA鑑定量を調整しながら複数回の検査を行い試行錯誤によって,検査結果が適正な検出範囲に入るように適正なDNA量を決定するためである。 適正なDNA量が決定されるまでの途中経過においては,本来検出されるべきDNA型のすべてが検出されない場合があるが,これは単に一部の型が検出されなかったということに過ぎない。 弁護人の主張のように,都合の悪いデータが抹消又は隠蔽されたり,複数の実験結果が合成されたものであるということはなく,いずれの検査においても同一の型が検出されたことが確認されたものだけが最終結果となる。 イ②について 確かに,Pも執筆者に名を連ねる弁36号証の2(科学警察研究所報告)によれば,血痕からDNAを抽出する場合,Q社のキット(QIAampDNAMiniKit)でフェノールクロロホルム抽出法の50パーセントに留まった旨の記載がある。 しかしながら,抽出されたDNA量と鑑定自体の正確性は別の問題であること,上記報告は平成12年10月当時のものであり,本件DNA鑑定(STR型検査及びアメロゲニン型検査)の検査方法の確立される以前の基礎的研究段階のものであり,平成14年10月に実施された本件DNA鑑定の信用性を左右するものではない。このことは,Pが,当公判廷において,現在ではほとんどQ社のキットが使用されており,本件DNA鑑定を実施した際も,経験的にQ社のキットで抽出して問題ないと判断した上で行ったと明確に証言していることからすれば,Q社のキットを用いてDNAを抽出したことは,本件D トが使用されており,本件DNA鑑定を実施した際も,経験的にQ社のキットで抽出して問題ないと判断した上で行ったと明確に証言していることからすれば,Q社のキットを用いてDNAを抽出したことは,本件DNA鑑定の信用性に影響しないというべきである。 ウ③についてそもそもDNA鑑定は,検査結果として検出・判定された型の範囲内で同一人と考えて矛盾がないか否かを判断するものであって,判定されていない型を前提として同一性の有無を議論するものではない。 エ④について本件DNA鑑定の鑑定方法は,鑑定人であるP証人を調べることで明らかとなっているのであるから,科学的に検証できないということはない。 オ以上のとおりであり,弁護人の主張はいずれも理由がない。 三本件犯行前後ころの被告人の行動等について D子夫婦の借金についてD子は,平成4年ころから,いわゆるサラ金等からの借入・返済を繰り 返すようになり,平成8年ころ,D子の借金がふくれあがったため,被告人夫婦は,D子に対し,借金の返済費用として200万円を用意し,借金を清算させた。 ところが,D子は,その後再び,借金をするようになった。平成12年11月ころ,D子の借金は370万円くらいになっており,D子は,被告人夫婦に相談し,被告人夫婦から220万円を借り,うち190万円を借金の返済に充て,残りを生活費に充てるなどした。 D子は,平成13年夏ころ,生活費に困り,被害者から3万円を借りた。 被告人は,D子に対し,平成14年の正月ころに5万円を与え,同年1月末ころに4万円を与え,同年2月には12万円を貸し,さらに3万円を与えるなどBら家族に内緒で,D子に対して,繰り返し金銭援助を行っていた。 なお,平成14年4月時点でのD子夫婦のサラ金等の借金は,I名義が190万円余,D子名義で420万円余に達 ,さらに3万円を与えるなどBら家族に内緒で,D子に対して,繰り返し金銭援助を行っていた。 なお,平成14年4月時点でのD子夫婦のサラ金等の借金は,I名義が190万円余,D子名義で420万円余に達していた。 Hの被害者方訪問についてHは,平成14年1月3日,被害者方を訪問した際,被害者に対し,「定年になったら福井に帰ってこようかな。あの田んぼ俺に安う分けてくれんか。するとあそこへ小屋でも建てて,田舎の山仕事でもするに。」などと言ったところ,被害者から,「あんなとこあかんわ。もっと早う言うてくりゃ良かったのに。Hちゃん,ここに入りゃいいが。」などと言われた。Hは,「ここはDちゃん夫婦が入ることになっているんや。あほなこと言うとBさんにしかられるよ。」などと言った。 被告人は,その後,Hが被害者を訪れたことについて被害者から聞いていた(第10回公判調書中のHの供述部分)。 平成14年2月20日の昼の状況について(1)被害者は,平成14年2月20日午前10時ころから同日午前10 時30分ころまでいきいき体操に参加し,「今日は人があるので帰るわ。」などと言って,いつもより30分以上早く被害者方へ帰った。 一方,被告人は,ミシン場で内職をした後,同日午前11時30分ころ,農協の通知書をもらうために被害者方を訪問した。 (2)ケアマネージャのMが同日午前11時30分ころから同日午後零時ころに被害者方を訪問したところ,被害者は被害者方板の間に,被告人は被害者方玄関コンクリートにいた。被告人は,Mに対し,「今来たとこよ。見せなあかん紙があったので持ってきたんや」などと言った。 (3)その後,被告人は,Mと一緒に被害者方玄関前において雪かきをするなどし,被害者方から帰ろうとした際,被害者から,「Dちゃんにもしっかりしてもらわんと。Hさん で持ってきたんや」などと言った。 (3)その後,被告人は,Mと一緒に被害者方玄関前において雪かきをするなどし,被害者方から帰ろうとした際,被害者から,「Dちゃんにもしっかりしてもらわんと。Hさんがここらで住みたいと言うてるよ。Aの後いいもんに継いでもらえるやろか。」などと言われた。 (4)被告人は,同日午後零時10分ころ,被告人方に戻り,Bらの昼ご飯の支度をして,Bと一緒に昼ご飯を食べた。その際,被告人は,被害者から上記のように言われたことをBに伝えなかった。その後,被告人は内職をした。 平成14年2月20日の夜以降の状況について(1)被告人は,被告人方において,Bらと一緒に,同日午後7時ころから夕食をとり,しばらく炬燵でテレビを見ながらうとうとし,その後,同日午後8時30分ころ,ミシン場に行った。 (2)その後,被告人は,ミシン場を出て,1人で歩いて被害者方に行った。 しかし,被告人は,被害者方を訪れる前に,居間にいたCの妻E子ら家族にその旨を告げなかったし,E子ら家族も,被告人が夜中に被害者方に出かけたこと自体気付いていなかった。E子は,同日午後11時ころに,居間から離れに移ったが,そのころ,ミシン場の電気はついてい た。 (3)被告人は,被害者方からミシン場に戻った後,内職を同月21日午前零時30分ころまで続け,その後風呂に入って,就寝した旨の供述をしている。 長男Cは,夜勤を終えて同日午前2時ころ自動車で帰宅したが,その時点では,ミシン場を含めて家の電気は消えていて,風呂の湯も落としてあった。 (4)被告人は,Bを含め家族の誰にも被害者方への訪問及び被害者死亡の状況を伝えず,警察及び病院等にも通報しなかったばかりか,本件事件発覚後,再三の警察の事情聴取に際しても,被告人が事件当夜被害者方を訪問した事実を隠 含め家族の誰にも被害者方への訪問及び被害者死亡の状況を伝えず,警察及び病院等にも通報しなかったばかりか,本件事件発覚後,再三の警察の事情聴取に際しても,被告人が事件当夜被害者方を訪問した事実を隠していた。 被害者方訪問事実の供述について被告人は,本件犯行への関与を疑われ,本件発生後約3か月後の平成14年5月21日から,武生警察署において,被疑者として,R警察官らによる取調べを受けるようになり,同月30日に至り,被告人が本件犯行日時ころ,1人で被害者方に行き,8畳寝室内に入り,両手に軍手をはめた状態で,被害者の血痕の飛び散った整理ダンス及び洋服ダンスの引き出しを開けて,その中を物色したこと,また,同様に両手に軍手をはめた状態で,8畳寝室と南側廊下の仕切りとなるガラス戸のうち外れていた1枚を元に戻そうとしたことを供述するに至った。 第四犯人性についての検討一被告人が本件犯行日時ころに本件犯行現場を訪問していたこと 被害者方玄関板の間及び南側廊下から採取された血液付着の現場足跡7個の特徴が,被告人の右足の足型の特徴に類似していること(前記第三の一の1)から,上記現場足跡は被告人の足跡と認められる。 ミシン場内から発見,押収された,被告人が普段使用している本件懐中 電灯から,被害者及び被告人のDNA型と矛盾しない血痕が付着していること(前記第三の二)からすると,被告人は,上記懐中電灯を持って,上記犯行現場に赴いた際に,被害者から飛散あるいは流出した血痕が懐中電灯に付着したこと,及び被告人もその際に手を負傷したことが認められる。 なお,被告人は,本件懐中電灯に血痕が付着した理由として,公判廷において,犯行現場でタンスを開けたりガラス戸を直したりする際にはめていた軍手を左手に持った状態で,ミシン場内に置いてあった本件懐中電灯 お,被告人は,本件懐中電灯に血痕が付着した理由として,公判廷において,犯行現場でタンスを開けたりガラス戸を直したりする際にはめていた軍手を左手に持った状態で,ミシン場内に置いてあった本件懐中電灯を掴んだという旨の供述をするが,本件懐中電灯に付着した血痕の客観的付着状態(甲115)からすれば,被告人が供述するような状況によっては付着し得ないことは明らかであり,被告人のこの部分の公判供述は信用できない。 被害者方8畳寝室から被害者から流出した血痕が付着していた畳上にあったベニシタンの葉1枚が発見・押収されたが,この植物は自生するものではなく,この付近では,被告人方を除いて,被害者方の庭や被害者方から被告人方までの道沿いの家屋及びその周辺には植えられていなかったことからすると(前記第三の一の4),被告人が持ち込んだ可能性が認められる。 被告人が,捜査段階の途中において,本件犯行日時ころに1人で被害者方に行き8畳寝室内に入った旨を供述するに至り,以後公判においても,その供述を維持しているのであって,自己に不利益な事実を述べていることからすると,被告人の上記供述(被告人が本件犯行日時ころ本件犯行現場を訪問していたこと)は信用性が高いと認められる。 以上の1ないし4の各事実からすると,被告人が本件犯行日時ころに本件犯行現場を訪問していたことが認められる。 二被告人の不自然,不合理な行動 平成14年2月20日の昼から夜にかけての被告人の行動 (1)被告人は,被害者方を同日午前11時30分ころに訪問したところ,その帰り際に,被害者から,前記第三の三の3のとおり,D子に関してA家の跡継ぎとして不信感を持っているかのようなことを言われたにもかかわらず,Bら家族に一切相談しなかったし,D子にも連絡を取った形跡がない。 (2)その後, 記第三の三の3のとおり,D子に関してA家の跡継ぎとして不信感を持っているかのようなことを言われたにもかかわらず,Bら家族に一切相談しなかったし,D子にも連絡を取った形跡がない。 (2)その後,被告人は,同日午後9時ころ(被告人の供述によれば)という比較的遅い時間になって,1人で被害者方を訪問しているということであるが,その際,家族の誰にも告げずに,また,家族の者が気付かない間に,自宅を抜け出し,被害者方を訪問している。しかも,被告人は,一貫して否定しているが,本件懐中電灯をその際持参していた。 被告人は,本件当時,D子夫婦が多額の借金を抱えており,D子は生活費の不足を理由に被告人からしばしば金を受け取っていたこと,平成14年2月20日の昼に,被害者方から帰ろうとした際,被害者から「Dちゃんにもしっかりしてもらわんと。Aの後いいもんに継いでもらえるやろか。」などと言われたことなどからすれば,D子が経済的に困窮していることを知っており,そのことで被害者がD子のことを快く思っていないのではないかと感じていたのであって,加えて,被害者の親戚筋のHが正月に訪問した際の会話について被告人は被害者から聞いていたことが認められることからすれば,同日昼ころに被害者から言われたことが気になって,家族の誰にも告げずに,わざわざ夜遅くに被害者方を訪問しようとした事情が被告人にはあったことが認められる。 この点,被告人は,夜に被害者方を訪問した理由について,平成14年2月20日の昼ころ,被害者から,「Dちゃんにもしっかりしてもらわんと。」と言われた際に,同日夜に被害者方を訪れることを被害者と約束していた旨公判廷で述べている。しかしながら,発見時の被害者の服装,電気カーペットにスイッチが入っていたこと,掛け布団上に上着 (ちゃんちゃんこ,カーディガン) 害者方を訪れることを被害者と約束していた旨公判廷で述べている。しかしながら,発見時の被害者の服装,電気カーペットにスイッチが入っていたこと,掛け布団上に上着 (ちゃんちゃんこ,カーディガン)がたたんで置かれていたこと,カーペット上に足袋等がそろえてあったこと,8畳寝室と南側廊下の豆電球が点灯していただけであることなどからすれば,被害者は,8畳寝室で,寝間着姿で布団に入っていたところを犯人と遭遇したものであり,被害者が被告人の訪問を予期していたとは到底認められない状況であった。 そうすると,この部分の被告人の供述部分は信用することができない。 (3)被告人は,被害者方8畳寝室において,被害者が血だらけの状態で横たわっていたにもかかわらず,軍手をはめて多数の血痕が付着した整理ダンス及び洋服ダンスの中身を物色し,その結果,洋服ダンス内の紙箱に軍手模様の血痕を残している。 しかも,被告人は,その供述によれば,被害者方8畳寝室から物色により見つけた紙片を持ち出して,被害者方玄関で内容を確認し,自宅に持ち帰った上,その後焼却処分しているとまでいうのである。 なお,8畳寝室内の灯りは,天井から吊り下げられた蛍光灯の豆電球のみが点灯していたという状況であったにもかかわず,被告人は,犯行現場において,2度にわたり被害者が死亡していることを確認した旨公判廷で述べている。 この点,被告人は,軍手をはめて整理ダンス等を物色した理由として,南側廊下の段かごの上にあった軍手を見た瞬間に,昼に被害者から「Dちゃんにもしっかりしてもらわんと。」と言われたことに関し,被害者がD子の保証人になっているのではないかと思い,その書類を探そうと思い立ったなどと供述する。しかしながら,被告人は,結局,探し出したものが遺言書の書き汚しであったと分かったのに,探していたもので 者がD子の保証人になっているのではないかと思い,その書類を探そうと思い立ったなどと供述する。しかしながら,被告人は,結局,探し出したものが遺言書の書き汚しであったと分かったのに,探していたものではなかったということは何も思わなかった,もう一度探そうとは思わなかった,なぜかは分からないなどとも公判廷で供述していることからすれば,その内容自体が不自然・不合理というほかない。 さらに,被告人は,上記物色行為等の不自然な行動の理由について,当公判廷において,自分でもどうしてか説明できない,パニックに陥っていたという旨の弁解をする。確かに,整理ダンスから着物の帯がはみ出ていることやガラス戸が正しくはめ直されていないことからすれば,被告人は,ある程度は慌てていたものと思われるが,死体を目の当たりにしてなお目的物を探していること,その後,被告人は,持ち出した紙片を玄関で読んで内容を確かめるという行動をとっていることからすれば,訪問時に既に死亡していた被害者を発見してパニック状態に陥った故の説明のできない行動であるという弁解はおよそ信用できない。 (4)その後,被告人は,被害者方から自宅に戻っているが,被害者方を訪問したこと及び被害者が血だらけの状態で死亡しているという重大なことをBやE子ら家族の者に一切伝えていないばかりか,普段と変わらない態度を示していた。また,上記現場を目にしながら,その目撃状況について警察等にも通報していないし,発覚後,警察の事情聴取に対しては,夜間,被害者方を訪れたことを(平成14年5月30日の取調べまで)頑なに否定していた。 この点について,被告人は,当公判廷において,第一発見者は疑われると思ったから家族の誰にも告げず,また,警察や病院等にも通報しなかったという旨の弁解をし,さらに,氏名不詳者から電話で脅された いた。 この点について,被告人は,当公判廷において,第一発見者は疑われると思ったから家族の誰にも告げず,また,警察や病院等にも通報しなかったという旨の弁解をし,さらに,氏名不詳者から電話で脅された旨の弁解をする。 しかしながら,被告人及びBは,長年にわたり,被害者の面倒を見てきたのであって,とりわけ,被害者が一人暮らしとなってからは,被害者の相談に乗り,よく世話をしてきたことは地域内で周知のことであったことに加えて,被告人は,これまでにも何度も被害者方を訪れたことがあった旨公判で述べているのであるから,被告人が被害者の死亡していたことを発見したからといって,そのことから直ちに被告人に嫌疑が かかるものでないことは明らかである。 また,仮に,被告人が第一発見者は疑われると考えたとしても,被告人は,娘であるD子に関することで被害者方を訪れたというのであるから,身内である夫や長男等家族にも告げないことの理由とはならないのであって,本件犯行時から3か月以上も経過した平成14年5月30日のR警察官の取調べに至るまで,被告人の夫であり,被害者の異母弟でもあるBにすら,一切何も伝えなかったというのは,やはり,極めて不自然というほかない。 以上のような被告人の一連の行動は,一人暮らしの被害者に対し,日頃から世話を続け,面倒を見ていた被告人が,訪問時に既に死亡していた被害者を発見した場合の行動としては極めて不自然であって,むしろ,被告人が凄惨極まりない被害者の姿を目撃したにもかかわらず,不自然極まりない行動に出なければならなかったのは,被告人が被害者方を訪問した際に,家族にも警察にも隠さなければならない重大なことが起こったこと,即ち,被害者死亡に被告人が関わっていることを何よりも示すものというべきである。 ところで,弁護人は,被告人の捜 方を訪問した際に,家族にも警察にも隠さなければならない重大なことが起こったこと,即ち,被害者死亡に被告人が関わっていることを何よりも示すものというべきである。 ところで,弁護人は,被告人の捜査段階の供述調書(乙2ないし11)は,被告人が供述した内容がその通りには記載されておらず,警察での違法な取調べによる影響の下,捜査官が押し付けたストーリーが記載されているのであって,被告人は,捜査段階から一貫して公判供述と同様の供述をしており,捜査段階の供述との変遷はない以上,前記第四の二の1(2)ないし(4)で検討した被告人の公判供述の信用性は高い旨の主張をする。 しかしながら,被告人は,勾留期間中になされた勾留理由開示の法廷において,警察官の取調べの違法を訴え,更に,弁護人の申立てによる平成14年7月6日付け決定により勾留場所を武生警察署から福井刑務所の未決に変更となって,以後同所でS検察官の取調べを受けているが,同検察 官の供述によれば,警察における行き過ぎた取調べを一旦遮断した上で,被告人に対する取調べが行われたものと認められるのであって,しかも,上記各調書が作成される間,弁護人との接見(しかも複数の弁護人が担当)が繰り返されていることからすれば,上記各供述調書は,被告人が被害者方を訪問した理由,経緯に関して,被告人の言い分を検察官が要約して録取されたものと認めるのが相当である。 よって,上記各供述調書には,捜査段階において被告人が供述したとおりの内容が記載されており,前記第四の二の1(2)ないし(4)で検討した被告人の公判供述の信用性は高い旨の弁護人の主張は理由がない。 三第三者が本件犯行日時ころに本件犯行現場に立ち入った可能性について 血痕付着の痕跡について既に検討したとおり,犯行現場に遺留された血痕付着の痕跡(①血液 高い旨の弁護人の主張は理由がない。 三第三者が本件犯行日時ころに本件犯行現場に立ち入った可能性について 血痕付着の痕跡について既に検討したとおり,犯行現場に遺留された血痕付着の痕跡(①血液付着の足跡,②軍手痕様の血痕などによる物色の痕跡,③ガラス引き戸に残された血痕)は,いずれも被告人によって残されたものであり,犯行現場において,被告人以外の第三者によって印象された血痕付着の痕跡は見あたらない。 その他の痕跡について(1)8畳寝室内の整理ダンス及び洋服ダンスの中が物色されているにもかかわらず,被害者が保管していた現金や普通預金通帳等はそのまま残されていること,さらに,前記第二の二の5のとおり,8畳寝室以外の室内が特に荒らされた形跡がないことからすれば,犯行現場において,被告人以外の第三者による物色状況は認められない。 (2)この点,足跡痕に関し,玄関コンクリート内及び土蔵内にはフード付の中国製長靴痕があり,証拠(甲101,126,127)によれば,犯人遺留痕跡の可能性が高い旨の報告がされている。 しかしながら,上記長靴痕は,被害者方玄関コンクリート上,通路あ るいは本件犯行に関係した痕跡は何らない土蔵内に存在するだけであって,本件犯行が行われた8畳寝室内,板の間及び廊下には被告人の足跡痕以外には犯人を窺わせるような痕跡は印象されていない。被告人以外の窃盗・強盗目的の犯人が被害者方玄関板の間を通って,被害者のいる8畳寝室に侵入して被害者を殺害し,その後,前記第二の二の4のとおりの血痕が広範囲に飛散あるいは流出して付着した8畳寝室内から玄関まで何らの痕跡も残さずに戻ったとは考え難いこと,また,窃盗・強盗目的の犯人が8畳寝室以外の部屋に現金が存在するのに物色しないこと自体不自然であるといわなければならない。 そうす 8畳寝室内から玄関まで何らの痕跡も残さずに戻ったとは考え難いこと,また,窃盗・強盗目的の犯人が8畳寝室以外の部屋に現金が存在するのに物色しないこと自体不自然であるといわなければならない。 そうすると,結局,上記長靴痕は,被告人以外の第三者が本件犯行に関与しているという疑いを抱かせるようなものではない。 (3)また,上記長靴痕以外の血痕が付着していない足跡痕についても,上記同様に,いずれも,被告人以外の第三者が本件犯行に関与しているという疑いを生じさせるものではない。 特徴的な創傷状況についてさらに,前記第二の二の1のとおりの被害者の特徴的な創傷状況,すなわち,創傷が顔面及び頭部に集中しており,特に顔面にし開創を含む挫裂創及び梯子又は縞模様の創傷等が多数存在することなどからすれば,被害者に対する犯人の攻撃は顔面に集中し,かつ,被害者が何ら防御していないにもかかわらず,執拗に繰り返されているのであって,犯人の攻撃が興奮状態,ヒステリー状態でなされたことが認められる。そうすると,これほどまでに被害者に対する感情を爆発させ,興奮状態,ヒステリー状態で行われた犯行が,被害者とこれまで全く面識のなかった行きずりの第三者により敢行されたとする状況を想定することは困難であり,被害者と何らかの関係があった者による犯行であると考えるのが自然である。 以上からすれば,第三者が本件犯行日時ころに本件犯行現場に立ち入っ た可能性は否定される。 四凶器について 本件犯行に使用された凶器は発見されていないものの,N証言,N意見書,Tの公判供述,第5回ないし第8回公判調書中のUの各供述部分及び鑑定人T作成の鑑定書によれば,ピンキングはさみが凶器であったとして,被害者の創傷状況からして矛盾しないと認められる。 この点,弁護人は,ピンキングはさみ いし第8回公判調書中のUの各供述部分及び鑑定人T作成の鑑定書によれば,ピンキングはさみが凶器であったとして,被害者の創傷状況からして矛盾しないと認められる。 この点,弁護人は,ピンキングはさみと被告人との間につながりがないこと等につき縷々主張するが,いずれも理由がない。 すなわち,そもそもピンキングはさみは,裁縫道具の一つであって,布地の裁断部分をほつれにくくする際に使われるものであり,ホームセンター等で誰でも容易に入手することができるものである。また,被告人は,被害者から頼まれて縫い物等をしていたことを自認していることを併せ考えると,ピンキングはさみがおよそ被告人の周囲(被害者方を含めて)に存在しないというものではない。そうすると,職歴等から被告人とピンキングはさみとの間につながりがないなどという主張は理由がない。 また,被告人の手に目立った傷がないとしても,軍手をはめた状態でピンキングはさみを握ったものであれば,目立った傷がなくとも不自然ではないことからすれば,被告人がピンキングはさみを使用して本件犯行に及んだとは考えられないという旨の弁護人の主張にも理由がない。 殺人の凶器としてピンキングはさみを選択するのは不自然との主張についても,そもそも被告人において,最初から被害者を殺害するつもりで,被害者方を訪問したということは証拠上認められないことからすれば理由がない。 上記凶器の点に加え,被害者の体格(身長約143センチメートルと小柄で,腰が曲がっている)及び年齢(当時85歳)等に照らせば,被告人にも本件犯行態様の実行が十分可能であると認められる。 五 結論 以上のとおりの検討結果からすれば,被告人以外の第三者が本件犯人であるとの疑いを差し挟む余地はないというべきであり,被害者方を訪問して犯行現場である8畳寝室に入ったが と認められる。 五 結論 以上のとおりの検討結果からすれば,被告人以外の第三者が本件犯人であるとの疑いを差し挟む余地はないというべきであり,被害者方を訪問して犯行現場である8畳寝室に入ったが,その際にはすでに被害者は死んでいたなどという内容の被告人の公判供述はおよそ信用できず,被告人が本件犯行の犯人であることは明らかである。 第五殺意についての説明本件においては,関係各証拠からは直ちに犯行動機が明らかとはいえず,また,金属製のピンキングはさみ様のものによる攻撃に関しては,顔面への集中及びその回数からすれば,N証言のとおり,無我夢中の状態で行われていた可能性が高いといえるため,被告人の攻撃が,金属製のピンキングはさみ様のものによる多数回の攻撃の点を捉えると,いかに執拗な攻撃態様であったとしても,そのような凶器から直ちに殺意を認めるには疑いを挟む余地があるといえる。 しかしながら,上記の攻撃に加え,前記第二の三の3及び4のとおり,被告人は,被害者の首を手で絞めつける行為,その顔面を手拳などで殴打する行為及びその上半身を足で踏みつけるなどの行為にも及んだ上,上記攻撃を加えたことが認められる。そうすると,これらの行為態様を併せ考えると,被告人は,少なくとも被害者が死んでもかまわないという程度の殺意(未必の殺意)をもって,被害者に対して攻撃を加えたものと認めるのが相当である。 第六犯行時刻についての説明関係各証拠によれば,前記第三の三の4のとおり,被告人が平成14年2月20日午後8時30分ころにミシン場へ行ったこと,その後,被告人が家族の誰にも告げずに被害者方に行ったこと,Cが同月21日午前2時ころに帰宅したこと,その時点において,ミシン場の電気は消えていたこと,その 後同人は午前4時ころに就寝したことが認められる。 以上の事 誰にも告げずに被害者方に行ったこと,Cが同月21日午前2時ころに帰宅したこと,その時点において,ミシン場の電気は消えていたこと,その 後同人は午前4時ころに就寝したことが認められる。 以上の事実に,前記第二の三の2で検討した犯行可能時間帯を併せ考えると,被告人による本件犯行時刻は,平成14年2月20日午後8時30分ころから同月21日午前2時ころまでの間と認められる。 (法令の適用) 罰条平成16年法律第156号による改正前の刑法199条(行為時においては上記改正前の刑法199条に,裁判時においてはその改正後の刑法199条によることになるが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による。) 刑種の選択有期懲役刑を選択(刑の長期は,行為時においては上記改正前の刑法12条1項に,裁判時においてはその改正後の刑法12条1項によることになるが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による。) 未決勾留日数の算入刑法21条 訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書(量刑の事情)本件は,被告人が,夫の異母姉であり,娘の夫の養親でもある被害者を金属製の凶器を用いて殴打するなどの暴行を加えて殺害したという殺人の事案である。 被告人が,夜中に自宅を抜け出して被害者方を訪れたのは,被告人の娘夫婦の借金に心を痛めていたところに,娘の夫の養親でもある被害者から当日昼間に娘 のことを言われたことがきっかけとなっていることは明らかであるものの,その時点では被告人が未だ殺意を抱いていたとは認められない。その後,被害者方で被告人と被害者との間でどのような経緯があったかについては,被告人の自白がないた けとなっていることは明らかであるものの,その時点では被告人が未だ殺意を抱いていたとは認められない。その後,被害者方で被告人と被害者との間でどのような経緯があったかについては,被告人の自白がないため不明というほかないのであるが,少なくとも娘夫婦の養子問題が背景にあったことは疑いがなく,被告人は,被害者方において激高した上,本件犯行に及んだことが認められる。以上の経緯を前提にしても,被害者には殺されなければならないような落ち度は到底認められない。 被告人は,被害者の首を手で絞め,その顔面を手拳で殴打し,その顔面及び頭部等を金属製のピンキングはさみ様のもので数十回殴打し,その上半身を足で踏みつけるなどの暴行を加えて,被害者を殺害したものであり,その極めて残忍かつ執拗な犯行態様は悪質というほかない。 被害者は,当時85歳と高齢ではあったが,特段重い病気にかかっていたわけでもなく,まだまだ余生を十分楽しむことができたにもかかわらず,何物にも代え難い尊い生命を奪われたもので,その結果は重大である。そして,被害者は,従前面倒をよく見てもらっており,信頼していた異母弟の嫁でもある被告人の手によって本件凶行に遭い,この世を去らざるを得なかったもので,しかも,顔面及び頭部に多数の創傷により血だらけの状態で誰に看取られることもなく息を引き取り,翌朝まで放置されていたことからすれば,生命の尊厳が著しく傷つけられた被害者の無念さは筆舌に尽くし難い。 さらに,被告人は,本件犯行後,被害者が血を流して横たわっているにもかかわらず,両手に軍手をはめた状態で,整理ダンスや洋服ダンスを物色するなどして目当ての物を探したというのであり,犯行後の事情も芳しくない。 加えて,被告人は,当公判廷において,本件犯行を否認し,不合理な弁解に終始しており,反省の態度は全く認められない。 ンスを物色するなどして目当ての物を探したというのであり,犯行後の事情も芳しくない。 加えて,被告人は,当公判廷において,本件犯行を否認し,不合理な弁解に終始しており,反省の態度は全く認められない。 以上からすれば,被告人の刑事責任は重大であるといわざるを得ない。したがって,被告人が,本件犯行に及ぶまでの間,被害者の面倒を日常生活を含めて献 身的に見ていたこと,これまで前科前歴が全くなく,真面目に生活してきたこと,本件の審理に長期間を要したため,すでに5年近くもの間,身柄を拘束されていること,被告人の年齢及び健康状態など,被告人にとって斟酌すべき事情を最大限に考慮しても,被告人を主文記載の刑に処するのが相当であると判断した。 よって,主文のとおり判決する。 (求刑・懲役15年)平成19年5月10日福井地方裁判所刑事部裁判長裁判官久保豊裁判官池上尚子裁判官谷田好史(別紙見取図)省略
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