令和7(う)161 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律違反

裁判年月日・裁判所
令和7年6月3日 東京高等裁判所 東京地方裁判所 令和5特(わ)311
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判決文本文21,878 文字)

令和7年6月3日宣告東京高等裁判所第4刑事部判決令和7年(う)第161号私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律違反被告事件 主文 本件各控訴を棄却する。 理由 第1 事案の概要と控訴の趣意 1 原判示の罪となるべき事実の要旨は、次のとおりである(以下、関係者の呼称、略称等は原判決の例によることがある。)。 被告会社はイベントの企画・運営等を営む事業者であり、同社の常務取 締役の地位にあった被告人はその従業者として、第32回オリンピック競技大会(2020/東京)及び東京2020パラリンピック競技大会(以下、両大会を合わせて「東京大会」という。)に関し、テストイベント計画立案等業務委託契約等(組織委員会が競技・会場ごとに順次発注する各テストイベント計画立案等業務委託契約並びに同契約受注者との間で締結され ることとされていた各テストイベント実施等業務委託契約及び各本大会運営等業務委託契約からなるもの。)の受注等に関する業務に従事していたものであるが、被告人は、組織委員会大会準備運営第一局次長等としてその発注等の業務に従事していたB、被告会社を含む関係事業者7社の従業者として同様の受注等に関する業務に従事していた者等と共謀の上、関 係事業者7社の業務に関し、平成30年2月頃から同年7月頃までの間、面談等の方法により、テストイベント計画立案等業務委託契約等につき関係事業者7社の受注希望等を考慮して受注予定事業者を決定するとともに、基本的に当該受注予定事業者のみがテストイベント計画立案等業務委託契約に係る入札を行うことなどを合意した上、同合意に従ってテストイ ベント計画立案等業務委託契約等についてそれぞれ受 とともに、基本的に当該受注予定事業者のみがテストイベント計画立案等業務委託契約に係る入札を行うことなどを合意した上、同合意に従ってテストイ ベント計画立案等業務委託契約等についてそれぞれ受注予定事業者を決 定するなどし、もって関係事業者7社が共同して、同委託契約等の受注に関し、相互にその事業活動を拘束し、遂行することにより、公共の利益に反して同委託契約等の受注に係る取引分野における競争を実質的に制限した。 2 控訴の趣意は、理由不備、訴訟手続の法令違反、事実誤認ないし法令適 用の誤りの主張と解されるが、以下、事実誤認ないし法令適用の誤りの主張から検討する。 第2 事実誤認ないし法令適用の誤りの主張について 1 論旨は要するに、本件について原判決の判示するような不当な取引制限罪は成立しないから、原判決には事実誤認ないし法令適用の誤りがある、 というものと解される。 2 原判決の概略原判決は、概略次のように説示した。 ⑴ 事実関係等ア東京大会、組織委員会及び各事業者の概要、テストイベント業務の発注 方式の決定経緯、Bらの面談の経緯等① 東京大会では、本大会の運営能力向上のため、本大会で使用する競技会場において、競技や会場ごとに競技運営、会場運営等のテストイベントを行うこととされていた。テストイベント業務は、テストイベント計画立案等業務(以下「計画業務」又は「本件計画業務」という。)とテストイベン ト実施等業務(以下「実施業務」又は「本件実施業務」という。)とに分けられ、入札の単位となった会場、競技の案件(以下「会場案件」という。)ごとに発注されたが、計画業務については一般競争入札により、実施業務及び本大会運営等業務(以下「本大会業務」又は「本件本大会業務」という。)は随意契約によ 場、競技の案件(以下「会場案件」という。)ごとに発注されたが、計画業務については一般競争入札により、実施業務及び本大会運営等業務(以下「本大会業務」又は「本件本大会業務」という。)は随意契約により発注された。なお、組織委員会における物品、役務 等の調達は、原則として競争入札により、それ以外の方法によって調達す るには例外的な場合に当たる必要があるとされていた。 ② Bは組織委員会内で、テストイベントに関連する業務を担当するテストイベントマネジメント課が置かれていた大会準備運営第一局の次長として、テストイベントに関する業務の発注に中心的に関与していた。被告会社はイベントの企画・運営等を営む事業者であり、スポーツ事業部におい てスポーツイベントの競技運営、会場運営等を行っていた。株式会社C(令和元年12月31日以前の商号は株式会社D)は国内で圧倒的に最大手の広告代理店として競技大会の運営等を行っており、東京大会でも組織委員会からマーケティング専任代理店に選定され、従業者を同委員会の幹部職員として出向させるなど東京大会全体の運営に対し大きな影響力を有し ていた。関係事業者7社、すなわち、両社のほか、広告代理店である株式会社E(平成30年7月16日以前の商号は株式会社F)、株式会社G及びA社、イベントの企画、運営等を行う事業者である株式会社H及び株式会社Iは、経験やノウハウ等に応じ、それぞれ競技大会の運営等を得意とする競技、会場があり、国内でスポーツ競技大会の運営等を行うことのでき る実績、能力のある事業者はこれらをはじめとする一定の事業者に限られていた。 ③ Bは平成29年7月頃から、テストイベントの実施が遅延する中検討した結果、各競技について競技大会の運営実績等を有する事業者を確保するためには、随意契 はじめとする一定の事業者に限られていた。 ③ Bは平成29年7月頃から、テストイベントの実施が遅延する中検討した結果、各競技について競技大会の運営実績等を有する事業者を確保するためには、随意契約により発注する必要があると考えた。同年10月、財 務の責任者らに、テストイベント業務の委託先事業者の選定は本大会を見据え、テストイベント及び本大会の準備、実施を遂行できる十分な制作能力等がある事業者を選定するため随意契約により発注することが適当であるなどと説明し、組織委員会内部での調整を進めたが、平成30年1月11日には、テストイベント業務のうち原判示別表記載の会場案件に係る 本件計画業務については、委託先事業者を総合評価方式の入札によって選 定することなどが事実上決定され、同年3月15日には組織委員会の経営会議で、本件計画業務を入札によって発注することが決定された。その場でBは、本大会に向けては別途検討するが、当然本大会を見据えてのテストイベントであるから、基本的には同じ事業者でいくことを考えている旨発言し、事務総長も、テストイベントと本番の委託業者は基本的には一致 しないと意味がないなどと発言した。この後、事業者決定基準が作成され入札の際に公表されたが、技術点中の一部は「対象競技テストイベント事業実施における予算計画の管理手法及び本大会コスト最適化に向けた提案」に当てられた。これはテストイベントのノウハウを生かす観点から、実施業務及び本大会業務を計画業務の受注事業者に随意契約で委託する 方針であったところ、計画業務の発注の段階で、その後の業務委託に関する価格を安くできる仕組みを導入するために決定されたものであった。 ④ Bは、本件計画業務の発注が入札となったことを受け、東京大会の運営等を遺漏なく行うため 務の発注の段階で、その後の業務委託に関する価格を安くできる仕組みを導入するために決定されたものであった。 ④ Bは、本件計画業務の発注が入札となったことを受け、東京大会の運営等を遺漏なく行うためには、各事業者の実績等を把握した上で、各事業者に受注してもらいたい競技を伝えたり、その意向を取りまとめたりなどし て調整を行うことが必要と考え、平成30年1月25日及び同月30日、Cの従業者らと打ち合わせ、BやCの従業者らで、Cを除く関係事業者7社を含む複数の事業者の従業者らと面談等を行うこととした。 イ被告会社関係者とBらとのやり取り等① 被告人はBと面識があり、互いに、会ったり仕事上の知人を紹介したり する仲であった。被告人は平成29年12月5日、CのJと会食する被告会社のKに、Cの意向等を取材するよう依頼し、Kは、Jから被告会社の希望する競技を尋ねられるなどしたことを受け、同月8日、Jに対し陸上、トライアスロン、バレーボール、ハンドボール、ソフトボールであると伝えた。被告人は同月20日、組織委員会に出向していた被告会社のLから、 計画業務は随意契約によることが難しいと聞き、同月22日Lと被告会社 が受注したい競技、会場について相談し、同月26日被告会社の役員ミーティングで、討議後に回収するとされた配布資料に基づき、現状の「振り分け」予想の状況を共有した上で、1月中に大まかな競技の「振り分け」が内定する予定であり、「この1か月間が勝負期となる」と報告したほか、「オーバーレイについては設計会社、建築会社関連の内容であり、外部に 出していきたい」と説明するなどした。被告人は平成30年1月12日、組織委員会から、委託事業者の選考が総合評価方式の一般競争入札で行われることが明記され、事業者選定実施要領が添付 あり、外部に 出していきたい」と説明するなどした。被告人は平成30年1月12日、組織委員会から、委託事業者の選考が総合評価方式の一般競争入札で行われることが明記され、事業者選定実施要領が添付された、計画業務に関し見積もりを依頼するメールを受信した。 ② BはCの従業者らと打合せを行い、その結果を反映させたリストについ て、Cから組織委員会に出向していたMが、平成30年2月15日にLに送信したものには、トライアスロン、陸上競技、バレーボール、ホッケー、ハンドボール、アーチェリー、カヌー、射撃、馬術、ボートの10競技の「実績社」として、被告会社が記載されていた。被告人は、同月20日の被告会社の取締役会で、組織委員会に関し、実績も踏まえて選定業者を決 めている真っ最中であり、春先ぐらいには目途が立てていると思うこと、Cはじめ各企業において「色気があり」「色んなアタックをしてる」こと、10会場ほどで被告会社が候補に挙がっていることなどを説明した。 ③ Bは平成30年2月下旬頃、Lを介して被告会社側から入札に向けた意向を確認することとし、被告人は同月28日、Lとの面談の場で、「バレー ボールをNとHが一緒にやることはどうか」「ホッケー、アーチェリーをNとIが一緒にやることはどうか」といった事項を共有した。LはBと意見交換し、同日中に、バレーボールに関し「問題ないと思う」「会社同士で話をしたほうが良い」との、ホッケー、アーチェリーに関し「Nが良ければよいが、Iが受ける余力があるかどうかが疑問」とのBの回答を被告人に 伝えた。また被告人は、同日の役員ミーティングで、テストイベントと本 大会は紐づきでの発注となる、陸上、トライアスロン、ハンドボールはCなどJV体制を組んで対応予定である、などと報告し、同年3 えた。また被告人は、同日の役員ミーティングで、テストイベントと本 大会は紐づきでの発注となる、陸上、トライアスロン、ハンドボールはCなどJV体制を組んで対応予定である、などと報告し、同年3月7日の役員ミーティングで、東京大会の「受発注形態における現状」として、「オーバーレイ、各競技において担当企業の枠組みの検討が進んでおり、総会前には概ね座組みが決まると思う」「担当する会社により、受けきれずに断る こととなり、更に競技ほか声が掛かる可能性がある」などと報告した。 ④ 被告人は平成30年3月26日、Bに対し、話を進めてもらったHのOとの面談について予約できた旨や、他の代理店等との接触も着実に進めている旨などを伝え、Oとの面談後には、今後に向けて良い話ができた旨や、Hが新体操、柔道、バスケットにも参画したいようである、これらの競技 の団体は被告会社との関わりが少ないと応えた旨伝えた。 ⑤ Lは平成30年4月3日、Mから後記ウの最終更新後の一覧表の送付を受け、同月5日被告人に対し、Bから「Nに依頼をしたい」競技について、射撃、ハンドボール、陸上、「バレーボール H+N」、アーチェリー、「ボート Pの下で協力」であるなどと聞いた旨伝えたほか、Bから被告人に 話してあるとのことであったが認識に相違がないか確認する旨のメールを送信した。同月6日被告人が、Lに対し、現状報告のほかボートや馬術等に関し確認したい事項を記載したメールを送信したところ、同月7日Lは、Bからの問いかけはCから出てきた割り振り案に対する確認事項と思う、ボートについては組織委員会が発注する業務についての割り振りであ る、Cの認識では、被告会社がやりたい競技に入れていなかったのでそれであればA社に回したいという意向と思われるが、被告会社がやった ートについては組織委員会が発注する業務についての割り振りであ る、Cの認識では、被告会社がやりたい競技に入れていなかったのでそれであればA社に回したいという意向と思われるが、被告会社がやった方が自然である旨Bに回答してよいか、馬術については被告会社で受託してもらえば安心と思っている、などと記載したメールを送信した。被告人は同月15日の被告会社の役員合宿で、「今回は、計画調査業務。で、基本的に、 これを取った会社がそのまま本ちゃんまでいくだろうと思われて」いる、 「水面下では、一応各代理店さん等と話を進めさせていただいている途中で、来月はCさんとも話しますし、どこかで、やっぱり『今回の件を含めて、』どっかでグリップしていきたい」「EさんとH、それと来週(A社)と会いますけども、その辺の担当者などと『グリップをして、どこが幹事会社になってやっていくか、というのを』ならしていきたい」などと発言 した。また同月24日の役員ミーティングでの配布資料には、「本大会の計画立案支援及び精査業務」「当業務委託は、あくまでもテストイベント及び本大会実施に向けた計画と精査業務ですが、基本的にはこれを受注した業者がテストイベント実施⇒本大会業務に関わっていくものと思われます」との記載がある。 ⑥ 被告人は平成30年6月11日、Jと面談し、被告会社が「幹事」ないし「再委託」として参画する予定の会場案件等につき、メールでBに報告した上で、同月27日Bに対し、Cの関係会社であり、被告会社が幹事となる競技につき再委託先とされていたQとの協業に関し、Cの引き合わせによりQとご一緒することになった、これですべてのスクラム体制が整っ たことになる旨を伝えた。 ⑦ 被告会社は、射撃、陸上競技等、ハンドボール等、カヌー及びボー との協業に関し、Cの引き合わせによりQとご一緒することになった、これですべてのスクラム体制が整っ たことになる旨を伝えた。 ⑦ 被告会社は、射撃、陸上競技等、ハンドボール等、カヌー及びボート等、アーチェリーの各会場案件の入札のほか、Hとの共同企業体としてバレーボールの会場案件の入札に参加したが、これらにはいずれも、関係事業者7社のうち他の事業者は入札参加せず、被告会社が落札した。また被告会 社は、ホッケーの会場案件について、被告人が事前にBに入札参加する旨報告した上で入札に参加した。この会場案件については、Gが落札した。 ウ被告会社以外の各事業者とBらとのやり取りJ、同じくCのRは、平成30年1月中旬以降、本件計画業務が入札により発注されることを認識しつつBと打ち合わせ、これを通じ、競技ごと に実績等を有する事業者を記載した一覧表が作成されるなどした。BやJ は、平成29年12月から平成30年4月にかけて、関係事業者7社中の被告会社及びC以外の各事業者とも面談を進めたが、その際、入札参加を希望する会場案件を聴取し、Bが望ましいと考えていなければ他の事業者の名前を挙げたり、協業先として望ましいと考える事業者の名前を挙げたりし、Jは、組織委員会側の依頼で事業者の選定をしていることを伝える などした。各事業者はこれらの面談等を通じて、Bから受注が望ましいとされたり協業先として望ましいとされたりした別の事業者が挙げられた場合等には、当該別の事業者と打合せをするなどした。BやJらは並行して、各事業者の実績や受注希望、Bの意向等を考慮して前記一覧表を修正するなどしており、平成30年4月2日には、それまでの面談等の結果を 集約するなどしてその最終更新を行った。その上で、関係事業者7社のうち被告会 受注希望、Bの意向等を考慮して前記一覧表を修正するなどしており、平成30年4月2日には、それまでの面談等の結果を 集約するなどしてその最終更新を行った。その上で、関係事業者7社のうち被告会社(前記イ⑦)のほか、G及びA社が、Bの意向に反した入札参加をしたことはあったが、これらを除くと、関係事業者7社はBらの意向に沿って入札し、これと齟齬する入札はしなかった。 エ入札結果等 相当数の会場案件において、Bの意向に沿って関係事業者7社中では1社のみの入札が行われ、その結果、全26会場案件中二つを除く24会場案件でBの意向に沿った事業者が受注し、そのうち16会場案件でBの意向に沿った事業者のみが入札に参加した。また計画業務の発注後、二つの競技を除き、計画業務の受注事業者が、その会場案件の実施業務及び本大 会業務を随意契約により受注した。入札により受注事業者が決まった25会場案件についての入札金額を予定価格で除した落札率は、平均約65%であり、90%台が4件、80%台が2件、70%台が7件、60%台が3件、50%台が3件、40%台が1件、30%台が1件、20%台が4件であった。 ⑵ 争点に対する判断 ア 「共同して」「相互に」といえるかについて① 当該要件が認められるには、複数の事業者間において、取決めに基づいた行動をとることを認識ないし予測し、これと歩調を合わせるという意思の連絡が必要と解されるところ、これがあるというためには、事業者相互で拘束し合うことを明示して合意することまでは必要でなく、直接又は特 定の者を媒介として、相互に他の事業者の入札行動等に関する行為を認識して、暗黙のうちに認容することで足りると解される。 ② 前記の認定事実によれば、被告人ら被告会社関係者において、Bの行動 特 定の者を媒介として、相互に他の事業者の入札行動等に関する行為を認識して、暗黙のうちに認容することで足りると解される。 ② 前記の認定事実によれば、被告人ら被告会社関係者において、Bの行動は、テストイベントや本大会成功に向けて望ましいと思われる事業者が計画業務から本大会業務まで受注することを意図したものであることを認 識していたと認められる。また被告会社関係者において、遅くとも平成30年2月末までには計画業務が入札により発注される見込みであること、Bが各会場案件につき受注が適切と考えている事業者があり、被告会社が希望していた競技のうち、陸上競技、ハンドボールは被告会社、バレーボールは被告会社及びHがそれである一方、ソフトボールは異なること、組 織委員会内でトライアスロン、ホッケー、アーチェリー、カヌー、射撃、馬術、ボートは被告会社が実績社とみられていること等を認識したこと、組織委員会内で、計画業務の受注事業者に、基本的に実施業務、本大会業務を受注させる方針であること等を認識したと認められる。加えて、被告人らがBの立場、役割を認識していたことは明らかであるから、Bの意向 に沿って受注に向けた行動等をとることで、被告会社が希望する競技に関するテストイベント業務や本大会業務の受注可能性が高まると認識したと認められる。さらに、被告会社以外の事業者の従業者らについても同様に認識していたと認められる。 ③ その上で、被告人や他の事業者の従業者らは、BやCの従業者らとのメ ールのやり取りや面談等の内容等に照らし、それを通じて、Bが受注を適 切と考えている他の事業者の従業者らとも面談等を行ってその意向を示すなどしているであろうことを認識ないし予測していたことも認められる。そして、スポーツの競技大会の運営 じて、Bが受注を適 切と考えている他の事業者の従業者らとも面談等を行ってその意向を示すなどしているであろうことを認識ないし予測していたことも認められる。そして、スポーツの競技大会の運営等を行っていた事業者にとって、他の同種事業者も東京大会に関連する運営等の業務を受注したいと考えていることは当然想定し得た。そうすると、被告人や他の事業者の従業者 らは、他の同種事業者らが受注の可能性を高めるため、Bの意向に沿って入札等に向けた行動等をとることを相当程度の確実性をもって相互に予測していたと認められる。 ④ 以上を踏まえると、被告人らは、Bの意向に沿って受注に向けた行動等を行うことで、受注を希望する競技に関する業務について受注の可能性が 高まると認識し、他の事業者もBの意向に沿って入札等に向けた行動等をとることを相当程度確実と予測した上で、実際にBの意向に沿って他の事業者と調整を試みるなどしており、被告会社は遅くとも、被告人がBの協力を得てOとの面談を予約した平成30年3月26日時点(前記⑴イ④)で、相当程度の確実性をもって予測した他の事業者の入札行動等に協調し て、Bの意向に沿った入札等に向けた行動等を行う旨の意思を有するに至っていたと認められる。以後も個々の会場案件の調整を行い、これをBに報告するなどしていること(前記⑴イ④ないし⑥)も、そのような認定を支える。 ⑤ 被告会社以外の事業者についても、遅くとも、BやJらにおいて各事業 者と面談を行い、その結果を一覧表に最終的にまとめた平成30年4月2日(前記⑴ウ)までには、相当程度の確実性をもって予測した他の事業者の入札行動等と協調して、Bの意向に沿った入札等に向けた行動等を行う意思を有するに至っていたというべきである。 ⑥ 以上によれば、関係事業者 ウ)までには、相当程度の確実性をもって予測した他の事業者の入札行動等と協調して、Bの意向に沿った入札等に向けた行動等を行う意思を有するに至っていたというべきである。 ⑥ 以上によれば、関係事業者7社の従業者が平成30年2月以降、B又は Jらとの面談等を行うことにより、他の事業者がBの意向に沿った入札行 動等をとることを相当程度の確実性をもって相互に予測し、遅くとも同年4月2日までに、自らも他の事業者と歩調を合わせ、Bの意向に沿った入札行動等を行う意思を共有したといえる。このような事実関係に照らすと、関係事業者7社はBを介するなどして、相互に他の事業者の入札行動等に関する行為を認識し、暗黙のうちに認容したと評価することができ、他の 事業者との間で意思の連絡をしていたと認められ、関係事業者7社間で、受注予定事業者を決定するとともに基本的に当該事業者のみが入札を行うことなどを合意していたと認定できる(本件基本合意)。 ⑦ 被告人は前記の認定事実によれば、Bが被告会社以外の事業者の従業者とも面談するなどしてその意向を示すなどしており、それら事業者の従業 者もBの意向に沿って受注に向けた行動等を行うことで受注の可能性が高まると認識したことを、当然認識ないし予測していたと認められる。その上被告人も、関係事業者にとっての東京大会の意義を理解していたと認められるから、Bからその意向を示されるなどした事業者の多くが、受注の可能性を高めるためBの意向に沿って行動する意思を有するに至るこ とも当然予測していたといえる。そうすると、関係事業者7社間で合意があることにつき被告人の故意も認められる。 イ 「その事業活動を拘束し」たといえるかについて本来的には、各事業者は自由に入札に参加する会場案件について意思決定し得るの 、関係事業者7社間で合意があることにつき被告人の故意も認められる。 イ 「その事業活動を拘束し」たといえるかについて本来的には、各事業者は自由に入札に参加する会場案件について意思決定し得るのに、本件基本合意に参加した事業者は、まずはBの意向に沿っ た形で協議を行う必要があるなど、これに制約された意思決定を行うことになるという意味で、その事業活動が事実上拘束されたことが明らかであるから、本件基本合意は参加事業者の事業活動を拘束するものであったといえる。 ウ本件基本合意により一定の取引分野における競争が実質的に制限され たといえるかについて ① 一定の取引分野における競争を実質的に制限するとは、当該取引に係る市場が有する競争機能を損なうことをいい、一定の入札市場において、入札に参加する事業者の範囲等を取り決める行為によって競争制限が行われる場合には、当該取り決めによって事業者らがその意思で、当該入札市場における落札者及び落札価格をある程度自由に左右することができる 状態をもたらすことをいうと解される。 ② 本件基本合意は、関係事業者7社が入札行動等に関して、他の事業者と共に、競争機能を損なう協調的行動をとることを期待して形成されたものであり、これに参加した事業者は、本件計画業務の入札に参加した全11社のうち7社に及んでいること、これには、主要な広告事業者や被告会社 等のイベント会社、中でも売上や事業規模で他を圧倒し東京大会全体の運営に大きな影響力を有していたCも参加しており、本件基本合意に参加した事業者が入札参加事業者に占める割合のほか、参加事業者の範囲やその規模等を考慮すれば、事業者らがその意思で当該入札市場における落札者や落札価格をある程度自由に左右できるものであったといえる。 事業者が入札参加事業者に占める割合のほか、参加事業者の範囲やその規模等を考慮すれば、事業者らがその意思で当該入札市場における落札者や落札価格をある程度自由に左右できるものであったといえる。 ③ そして実際に、相当数の会場で本件基本合意の内容に沿い、Bの意向に沿った形で入札や協業の調整が行われ、入札結果も全26会場案件中24会場案件において、事前にBの意向に沿い受注が望ましいとされた事業者が受注するに至り、そのうち16会場案件については、受注が望ましいとされた事業者のみが入札に参加したこと、本件計画業務を受注した9社中、 本件基本合意と無関係に入札により受注したのは1社にとどまること等を考慮すれば、本件基本合意は事実上の拘束力をもって有効に機能し、前記の状態をもたらしていたといえ、後述する一定の取引分野において競争を実質的に制限していたと認められる。被告人もBとのやり取り等を通じて、一定の範囲の事業者がBとの面談等を行っていたことを概ね認識して いたと認められ、実際にも本件基本合意に従って、Bの意向に沿った協業 の調整等を行っていたから、本件基本合意が競争を実質的に制限するものと認識していたことは明らかである。 エ本件基本合意の対象である一定の取引分野の範囲についてテストイベントは本大会の運営能力向上のため、本大会で使用する競技会場で行うものであったから、組織委員会にとって、本件計画業務と本件 実施業務、本件本大会業務とは同一の事業者が受注する一連のものと認識されており、その認識の下、本件計画業務が発注されたと認められる。本件基本合意の参加事業者にとっても、それが合理的であると考えられていたと認められ、同合意をした際には、計画業務と実施業務、本大会業務とは同一の事業者が受注する可能性が高いこと されたと認められる。本件基本合意の参加事業者にとっても、それが合理的であると考えられていたと認められ、同合意をした際には、計画業務と実施業務、本大会業務とは同一の事業者が受注する可能性が高いことを前提としていたと認めら れる。各事業者の従業者中、BやJらとの面談で、計画業務の受注事業者については、同業務の実施等に関し特に問題がなければ、同一の会場案件や競技に関するその後の実施業務及び本大会業務も受注することが望ましいなどと伝えられていた者の存在が認められることも、これを裏付ける。 そうすると、本件基本合意の対象には、本件計画業務に加え本件実施業 務、本件本大会業務も含まれていたと認められる。 オ以上によれば、被告会社は、他の事業者と本件基本合意をすることや、これに従った個別調整行為により相互に事業活動を拘束、遂行し、他の事業者と共同して、各会場案件における計画業務、実施業務及び本大会業務の受注という一定の取引分野における競争を実質的に制限したと認めら れ、前記のとおりの不当な取引制限罪が成立する。 3 当裁判所の判断⑴ 前記のような原判決の認定、判断には、論理則、経験則等に照らし不合理な点は見当たらない。以下、主な所論に鑑み補足して説明する。 ⑵ 控訴趣意書第3(「法令解釈及び適用の誤り」)の1ないし4について ア所論は、法人事業者に係る不当な取引制限罪についての刑事事件におい ては、その従業者である自然人の違反行為が実行行為として特定される必要があるのに、原判決では、被告人自身のいかなる行為がこれに該当するのかが特定されておらず、また、これについての被告人の故意も示されていない、などと主張する。 しかしながら、原判決は「罪となるべき事実」の項で、被告人が他の事 業者の 為がこれに該当するのかが特定されておらず、また、これについての被告人の故意も示されていない、などと主張する。 しかしながら、原判決は「罪となるべき事実」の項で、被告人が他の事 業者の従業者らと共謀の上、それぞれの事業者の業務に関し、面談等の方法によりテストイベント計画立案等業務委託契約等の受注予定事業者を決定するとともに基本的に当該事業者のみがテストイベント計画立案等業務委託契約に係る入札を行うことなどを合意した上、同合意に従ってテストイベント計画立案等業務委託契約等についてそれぞれ受注予定事業 者を決定するなどした旨を認定している。これは不当な取引制限罪の実行行為に該当する事実を摘示したものということができ、被告人の実行行為及び故意の説示に欠けるところはない。所論は、原判決の「事実認定の補足説明」の項では、被告人自身のいかなる行為が同罪の実行行為に該当するのかが特定されず、その故意も示されていない、などというが、前記の ような罪となるべき事実を認定した根拠は十分示されているといえるから、所論は当を得ない。 イ所論は、原判決の「共同して」「相互に」の要件に関する説示は、最高裁判所の判決(最高裁平成22年(行ヒ)第278号同24年2月20日第一小法廷判決・民集66巻2号796頁)に基づくものと解されるところ、 この判決は本件とは事案が大きく異なる上、独禁法の行政処分における不当な取引制限規定の適用に関する限界事例であり、構成要件解釈の客観性と自然人個人の犯罪の実行行為の特定が求められる刑事事件に適用する余地はないし、そればかりか原判決は、この最高裁判決の要件を更に緩和させるもので誤っている、などと主張する。 しかしながら、原判決の判断がこの最高裁判決に基づいているとしても、 はないし、そればかりか原判決は、この最高裁判決の要件を更に緩和させるもので誤っている、などと主張する。 しかしながら、原判決の判断がこの最高裁判決に基づいているとしても、 同判決が独禁法の行政処分における不当な取引制限規定の適用に関する限界事例であり、刑事事件に適用する余地もないとの点は、そのように解するべき合理的理由は見いだし難いというべきである。また、同判決は事例判断ではあるが、本件との差異に関し所論の指摘する点を考慮しても、同判決の示した解釈が本件に適用できないとはいえない。さらに、所論は、 同判決が「取決めに基づいた行動をとることを認識し認容して歩調を合わせるという意思の連絡」との要件を設定したのに対し、原判決はここでいう「認容」を「予測」に変えた上、「認識」と「予測」のいずれかで足りるとし、要件を緩和させているというが、原判決は、意思の連絡があるというためには、相互に他の事業者の入札行動等に関する行為を認識して、暗 黙のうちに認容することで足りると説示した(前記2⑵ア①)上、検討の結果、関係事業者7社はBを介するなどして、相互に他の事業者の入札行動等に関する行為を認識し、暗黙のうちに認容したと評価することができ、他の事業者との間で意思の連絡をしていたと認められるとしている(前記2⑵ア⑥)から、原判決が最高裁判決に基づいているとしても、その要件 を緩和させているとはいえない。なお所論は、原判決は、前記のとおり誤った要件設定を前提に、「他の事業者がBの意向に沿った入札行動等をとることを相当程度の確実性をもって相互に予測し」などと、証拠も根拠もない事実認定によって同要件が充足されているかのように判示しており、前提としての原審弁護人の主張の位置付けも含め的外れな判断をしてい るなど の確実性をもって相互に予測し」などと、証拠も根拠もない事実認定によって同要件が充足されているかのように判示しており、前提としての原審弁護人の主張の位置付けも含め的外れな判断をしてい るなどとも主張するが、そもそも原判決に誤った要件設定がないことは前記のとおりであるから、この主張は前提を欠くものである。 ⑶ 控訴趣意書第3(「法令解釈及び適用の誤り」)の5についてア所論は、原判決は「Bの意向に沿った形で協議を行う必要がある」ということだけを理由に「事業活動の拘束」を認めているが、この「協議」が 何を意味するのか判然とせず、本件基本合意による「事業活動の拘束」に ついて理由が示されていない、などと主張する。 しかしながら原判決は、被告人や他の事業者の従業者らは、Bの意向に沿うことで希望する競技について受注の可能性が高まると認識し、他の事業者もBの意向に沿うことを相当程度確実と予測した上で、実際にBの意向に沿って他の事業者と調整を試み、入札するなどした旨を認定している のであり、これをもって、Bの意向に沿った「協議」が行われる必要があったとし、各事業者がこれに制約されたと評価したものと解される。関係証拠に照らしこの判断に誤りはなく、本件基本合意による「事業活動の拘束」があったことについて十分な理由を示しているといえる。なお、所論は原判決について、本件基本合意に反する入札をしようとする事業者は再 委託等を条件に入札を断念することも含め、協議することが義務付けられていることをもって「事業活動の拘束」と捉えているのかもしれないとした上で、原判決を論難するが、原判決がそのように捉えていないことは明らかである。 イ所論は、原判決の「一定の取引分野における競争の実質的制限」につい ての説示はこれ いるのかもしれないとした上で、原判決を論難するが、原判決がそのように捉えていないことは明らかである。 イ所論は、原判決の「一定の取引分野における競争の実質的制限」につい ての説示はこれがあったことを根拠付けるものではないとし、その具体的な理由として次のように主張する。①本件の各事業者間では、直接にも間接にも意思連絡が行われておらず、本件基本合意の当事者である事業者も具体的には認識していないし、原判決の認定によっても、「発注者の意向が示された場合にそれに沿った入札行動をとる」という「発注者から業務を 受注しようとする事業者として当然の行動」を「相互に予測した」というだけにすぎないのであるから、各事業者において本件基本合意に参加したという意識はない。②Cが本件基本合意に参加していたことと「一定の取引分野における競争の実質的制限」とはほとんど関連性はなく、実際にも、Cが受注を希望している競技についてBからの割り振りがあっても、受注 は容易ではなかった案件がある。③26会場案件のうち多くで競争が生じ ており、1社入札となったのは16会場にすぎず、率にすれば61%にとどまったことなどを踏まえれば、入札結果からも「一定の取引分野における競争の実質的制限」が生じたといえないことは明らかである。 しかしながら、①についてみると、被告人が、Lを介しBとの間でHとのバレーボールでの協業について意見交換した上、同社のOと面談してそ の結果をBに報告し(前記2⑴イ③④)、実際に被告会社がHとの共同企業体としてバレーボールの会場案件に入札したことに照らせば、少なくとも被告会社とHとの間には、直接の意思連絡があったといえることは明らかである。また、原判決が認定した被告会社を含む各事業者とBやJとのやり取りに照らせ ルの会場案件に入札したことに照らせば、少なくとも被告会社とHとの間には、直接の意思連絡があったといえることは明らかである。また、原判決が認定した被告会社を含む各事業者とBやJとのやり取りに照らせば、各事業者は直接の意思連絡のほかBらを介した間接の 意思連絡により、本件基本合意に参加したと認められる。②についてみると、原判決は、広告事業者やイベント会社の中でも他を圧倒し東京大会全体に大きな影響力を有していたCが参加していたこと、本件基本合意に参加した事業者が入札参加事業者に占める割合、この参加事業者の範囲やその規模等を考慮すれば、本件基本合意は、各事業者らが当該入札市場にお ける落札者等をある程度自由に左右できる状態をもたらし得るものであったとしているのであり、こうした評価に誤りはない。所論は、Cのような広告代理店とイベント会社との業態の違いや、アーバンスポーツの各競技についてCが容易に落札できなかったことを指摘するが、これらの事情は原判決の評価を左右しないというべきである。③についてみると、本来、 どの会場案件に入札するかは各事業者が自由に選択できるはずであるところ、26会場案件中約6割に上る16会場案件について、Bの意向に沿った事業者のみが入札したこと、本件計画業務を受注した9社中、本件基本合意とは無関係に入札で受注したのは1社にとどまること自体から、本件基本合意により実質的制限が生じていたと推認できるというべきであ る。所論は、一般競争入札ではどのような競争者が現れるか分からず、バ レーボールに関し被告会社が警戒していた有力な国内事業者や、海外事業者の参入の可能性があったともいうが、具体性がなくこの推認を妨げるような事情ではない。所論はいずれも採用できない。 ウ所論は、本件計画業務の入札時 告会社が警戒していた有力な国内事業者や、海外事業者の参入の可能性があったともいうが、具体性がなくこの推認を妨げるような事情ではない。所論はいずれも採用できない。 ウ所論は、本件計画業務の入札時点では、実施業務の内容も確定しておらず、本大会業務に至っては、そればかりか、新型コロナウイルス感染症対 策等の業務は想定すらされていなかったのであり、こうした業務が「不当な取引制限」の対象に含まれないのは明らかである、などと主張する。 しかしながら、原判決が説示するように組織委員会では、計画業務の発注時点でその受注事業者が実施業務及び本大会業務を行うことはほぼ一貫した方針であって、これがBらを通じて被告会社を含む各事業者に伝え られていたのであり、入札の際に公表された事業者決定基準の内容(前記2⑴ア③)等も考慮すれば、各事業者らは、計画業務の受注事業者が実施業務及び本大会業務も受注することになると認識した上で、本件計画業務に入札したと認められ、実施業務や本大会業務の内容が確定していなかったことはこれを左右するものではない。また本件基本合意は、どの会場案 件について、その計画業務から本大会業務までをどの事業者が受注するかという点に関し形成されたものであるから、各会場案件に関し感染症対策等の付随的な業務が生じたとしても、基本的には当該会場案件を受注した事業者がそれを担うというものであったとみるのが合理的である。そして現に、ほぼ本件基本合意の枠組みのとおりに、本件計画業務を落札した各 事業者が本大会までの各業務を担っている。原判決も同様の観点から、延期に伴う業務が本件基本合意の対象に含まれるとしたものと解され、その判断に誤りはない。 ⑷ 控訴趣意書第6(「事実誤認」)についてア所論は、原判決は被告会社の役員ミー 判決も同様の観点から、延期に伴う業務が本件基本合意の対象に含まれるとしたものと解され、その判断に誤りはない。 ⑷ 控訴趣意書第6(「事実誤認」)についてア所論は、原判決は被告会社の役員ミーティングにおける被告人の発言と その議事録の記載から、平成29年12月26日のミーティング(前記2 ⑴イ①)での「振り分け」は、それが被告会社にとって企業活動の「勝負」となることが明らかであり、Bらにより被告会社等の受注について調整が行われていた事実をいうものであることは疑う余地がないとし、平成30年3月7日のミーティング(前記2⑴イ③)は東京大会の受発注に関するものであることが明らかであることなどから、議事録にオーバーレイに関 する発言があるからといって仮設オーバーレイについてのみ議論がされたとは認められないなどとしたが、これらはSの検察官調書で初めて認定できるところ、S調書に信用性は皆無であるのにその点について判断もせず、信用性のない供述に基づき誤った認定をしている、などと主張する。 しかしながら、原判決は役員ミーティングの議事録の記載内容自体から、 そのように認定、説示したものであり、この点に誤りはないといえるところ、S調書に依拠していないことは明らかであって、所論は前提を誤っているというほかない。なお所論は、平成29年12月26日の議事録の内容について、この時点で競技運営の発注権限が国内競技団体にあるのか組織委員会にあるのか不明であって、双方に営業活動をする必要が生じる可 能性があり、被告人が時間の迫る中で危機感を募らせたことから、「勝負期」という表現になっただけである、などともいう。しかしながら、議事録の「1月中に大まかな競技の振り分けが内定する予定。この1か月間が勝負期となる」との記載をみ 中で危機感を募らせたことから、「勝負期」という表現になっただけである、などともいう。しかしながら、議事録の「1月中に大まかな競技の振り分けが内定する予定。この1か月間が勝負期となる」との記載をみれば、原判決のように解するのが自然かつ合理的である。また、被告人は原審公判で、原審検察官から「勝負期」の意 味を尋ねられ、「いろいろな競技団体さんの推薦をいただくためというふうに思ってます」と供述しているのであり、競技運営の発注権限が国内競技団体にある可能性を考慮していたとは解されない。そもそも、被告人は同日よりも前に、組織委員会に出向していたLから、「委託候補一覧」と題された表、「テストイベント事業委託について」「落札者決定基準について」 と題された各資料を渡されるなどし、組織委員会の内部情報を得ていたと 認められるのであって(原審甲326、乙8)、どこに向けて営業活動をすればよいのか不明であったなどとは到底考えられない。所論はいずれも採用できない。 イ所論は、総合評価方式の一般競争入札において、実績、経験を重視して評価する組織委員会側のBの意向に応じれば受注の可能性が高まるのは 当然であり、それを予測することは他の事業者の行動や入札参加の有無についての認識、予測によるものではないのに、原判決は、Bの意向に沿うことで受注の可能性が高まると認識していたことを、他の事業者がどのような行動をとるのかの予測に結び付け、他の事業者との意思連絡や「共同して」「相互に」の要件に関連付けており、認定を誤っている、などと主張 する。 しかしながら原判決は、被告人も他の事業者の従業者らも、Bの意向に沿うことで受注の可能性が高まると認識していたことを前提に、BやCの従業者らとの、自社から組織委員会への出向者を介し する。 しかしながら原判決は、被告人も他の事業者の従業者らも、Bの意向に沿うことで受注の可能性が高まると認識していたことを前提に、BやCの従業者らとの、自社から組織委員会への出向者を介したものを含むメールのやり取りや面談等を通じ、Bにおいて適切と考えている他の事業者の存 在と、Bがそれら事業者の従業者らとも面談等を行ってその意向を示すなどしているであろうこととを認識していたと認められるとした上で、世界的なスポーツイベントである東京大会の意義、各競技団体との関係性の維持等のため、他の事業者も東京大会に関連する競技大会の運営等の業務を受注したいと考えることは当然想定し得たから、他の事業者らがBの意向 に沿った行動等をとることを相当程度の確実性をもって相互に予測していたと認められるとしたものと解される。関係証拠やそれから認められる前記のような事実経過に照らし、こうした原判決の判断に誤りはない。Bの意向に沿うことで受注の可能性が高まると認識していたことを、他の事業者がどのような行動をとるのかの予測に結び付けているなどという所 論は、原判決を正解しないもので採用できない。 ウ所論は、原判決が被告会社に関して、Bの意向に沿った調整があったとした点は誤っているとし、その具体的な理由として次のように主張する。 ①原判決のいう他の事業者との「調整」(前記2⑵ア④)は、本件の業務で不可欠であった協業を行うための話合いであり、基本合意に基づく個別調整ではない。②平成30年6月11日の被告人によるBへの報告(前記2 ⑴イ⑥)は「調整」の結果の報告ではなく、その時点で入札参加を予定している競技について個人的な思いも込めて報告したものである。③事業者の対応は業態や方針によって異なり、「調整」などと一概にいえるもので イ⑥)は「調整」の結果の報告ではなく、その時点で入札参加を予定している競技について個人的な思いも込めて報告したものである。③事業者の対応は業態や方針によって異なり、「調整」などと一概にいえるものではない。 しかしながら、①についてみると、ボート、馬術(前記2⑴イ⑤)に関 しては、Lを通した上で、Bを介しCとの間で、被告会社を受注事業者とするか否かについての割り振りを協議したと認められるのであり、単なる協業を超えた「調整」を行っていたことは明らかである。②についてみると、被告人がBに送信したメール(乙18添付資料2)の内容に鑑みれば、被告人の個人的な思いが込められていたにせよ、Jと協議した結果、すな わち「調整」の結果を報告するものであることは明らかである。③についてみると、事業者ごとに対応が異なるからこそ「調整」をする必要があるともいえる。所論はいずれも採用できない。 エ所論は、組織委員会の平成30年3月15日の経営会議(前記2⑴ア③)で、本大会業務等を随意契約により発注することが事実上確定し、それに ついて被告人及び被告会社関係者らの事業者側が認識していたとの原判決の認定は誤っている、などとし、その具体的な理由として次のように主張する。①テストイベントマネジメント課が作成、配布した資料等の内容の変遷状況をみれば、同日の経営会議の時点では、本大会の発注に関しては正式な審議の対象にすらなっておらず、計画業務の受注事業者が本大会 運営についても受託できるかどうかは全く決まっていなかったことは明 らかである。②テストイベントが本大会の運営能力向上のためのものであったとしても、テストイベント関連業務と本大会業務とで受注事業者が必然的に同一でなければいけないことにはならないし、事業者決定基準が計 である。②テストイベントが本大会の運営能力向上のためのものであったとしても、テストイベント関連業務と本大会業務とで受注事業者が必然的に同一でなければいけないことにはならないし、事業者決定基準が計画業務の発注の段階でその後の業務委託に関する価格を安くできる仕組みを導入するためであったことと、計画業務発注の時点で本大会までの受 注事業者の選定を兼ねる趣旨であったこととは全く結び付かない。③平成30年2月28日の役員ミーティングでの被告人の発言(前記2⑴イ③)は、被告人の原審公判供述によれば本大会までの受注を前提とするものではないのに、何の理由もなくこの供述を無視している。 しかしながら、①についてみると、そもそも原判決は、当該経営会議で 本大会業務等を随意契約により発注することが確定したなどとは認定していない。②についてみると、原判決は、両業務の受注事業者が同一であることが必然であったなどとはしていない。また、実施業務及び本大会業務を計画業務の受注事業者に随意契約で委託する方針となったことを前提とすれば、計画業務に関する事業者決定基準を策定するに際し、本大会 コストの最適化に向けた提案を技術点の評価要素に盛り込むことは至って合理的であるところ、原判決は現にそうであったことを認定したのであって、この点に誤りはない。③についてみると、原判決は、被告人が当該役員ミーティングで、「テストイベントと本大会は紐づきでの発注となる」と報告したことなどから、前記のように認定したのであり、これを否定す る被告人の供述を信用できないと判断したものと解されるところ、その理由を示していないからといって不当とはいえない。なお、被告人は原審公判で、この発言について、一般的な話をしたものである、テストイベントと本大会とは一般論としては 判断したものと解されるところ、その理由を示していないからといって不当とはいえない。なお、被告人は原審公判で、この発言について、一般的な話をしたものである、テストイベントと本大会とは一般論としては紐づくだろうが、テストイベント計画立案業務とは紐づいていないと認識していた旨述べるが、これ自体意味するとこ ろが不明である上、「発注となる」との言葉にもそぐわず、信用できないと いうほかない。 ⑸ その他所論の種々主張するところを検討してみても、原判決の判断に誤りは見いだせない。 論旨は理由がない。 第3 理由不備の主張について 1 論旨は要するに、原判決には、①罪となるべき事実における被告人の実行行為が具体的に記載されていない点、②「合意の拘束性」について事実認定をしておらず、判断を回避している点、③関係者の検察官調書の信用性について判断を示していない点で、理由不備の違法がある、というのである。 2 しかしながら、そもそも原判決に刑訴法44条1項、335条1項により要求される判決の理由の記載があることは明らかである。③の点について判断を示していないからといって、理由の記載がないことにはならない。 なお、いずれの点についても原判決の判断、説示に誤りがないことは既にみたとおりである。 論旨は理由がない。 第4 訴訟手続の法令違反の主張について 1 論旨は要するに、原審裁判所の訴訟手続には多くの法令違反があるが、これはすべて、原審弁護人によるBの取調べ録音録画記録媒体及び証人尋問の請求を拒否する目的で行われたものであり、その結果原審裁判所は、 Bの検察官調書及び公訴事実を争わなかった同人自身の公判における被告人質問調書以外の供述を証拠とすることなく原判決を言い渡しているのであって 目的で行われたものであり、その結果原審裁判所は、 Bの検察官調書及び公訴事実を争わなかった同人自身の公判における被告人質問調書以外の供述を証拠とすることなく原判決を言い渡しているのであって、各法令違反が判決に影響を及ぼすことは明らかである、などというのである。 2 そこで検討すると、証拠調べの必要性の判断は裁判所の合理的な裁量に 委ねられているところ、所論指摘のBに関わる証拠調請求を却下した原審 裁判所の判断には、裁量を逸脱した不合理な点は見当たらない上、前記第2で検討したとおり、原判決の判断に誤りがないことも併せみれば、そもそも前記証拠調請求を却下した原審裁判所の判断にも誤りはないというべきである。所論は、原審裁判所の公判前整理手続及び公判手続に種々の法令違反があり、これはBの供述、証言を本件の証拠とすることを拒否す る目的で行われたものである、などというが、原審裁判所にそのような目的があったとはうかがわれない上、仮に所論指摘の点に、法令違反に当たるものがあったとしても、いずれも判決に影響を及ぼすとはいえない。 論旨は理由がない。 第5 結論 よって、刑訴法396条により、主文のとおり判決する。 令和7年6月3日東京高等裁判所第4刑事部 裁判長裁判官家令和典 裁判官早川幸男 裁判官安藤祥一郎

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