平成15(わ)1196 各恐喝未遂,傷害被告事件

裁判年月日・裁判所
平成16年2月19日 神戸地方裁判所
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判決文本文5,252 文字)

主文 被告人Aを懲役1年8月に,被告人Bを懲役1年4月に処する。 被告人両名に対し,未決勾留日数中各60日をそれぞれその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人らは,兵庫県立C病院に入院中であった被告人Bに出された昼食の盛りつけが粗雑であったことを種に「食べ残しを出してるんか。」などと因縁を付けて同病院関係者から金員を喝取しようと企て,共謀の上,平成15年9月30日午後1時45分ころから翌10月1日午前5時ころまでの間,神戸市a区b町cd番地所在の同病院において,同病院総務部長D(当時57歳)に対し,こもごも「誠意を見せんかい。」「部長やったら責任とらんかい。新聞社に言うぞ。」などと,被告人Aにおいて,「お前,辞表書かんかえ。こっから飛び降りろ。」「責任の取り方にはいろいろあるやろ。例えば1000万包まんかい。Bの命は1000万円ではすまんぞ。」などと語気鋭く申し向け,さらに,被告人Aにおいて,前記Dに対し,その腹部を1回足蹴にする暴行を加えた上,こもごも,「謝るのと責任とるのとは別や。誠意を見せろ。」などと,被告人Aにおいて,「警察呼ぶんやったら,呼んだらええ。警察が来るまでに,ぼこぼこにしたる。」などと語気鋭く執拗に申し向けて金員の交付を要求し,もしその要求に応じなければ同人の生命,身体等に更にいかなる危害を加えるかもしれない気勢を示して脅迫し,同人をしてその旨畏怖させて金員を喝取しようとしたが,同人らが警察官に届け出たため,その目的を遂げず,その際,前記暴行により,同人に加療約2週間を要する腰部,尾骨打撲の傷害を負わせたものである。 (証拠の標目)―括弧内の甲,乙で始まる数字は検察官請求証拠番号―省略(補足説明) 1 被告人両名は その際,前記暴行により,同人に加療約2週間を要する腰部,尾骨打撲の傷害を負わせたものである。 (証拠の標目)―括弧内の甲,乙で始まる数字は検察官請求証拠番号―省略(補足説明) 1 被告人両名は,被告人らにおいて,金員を脅し取る意図はなく,その旨の相談もしていない旨主張し,被告人らの各弁護人は,被告人らの供述に基づき,判示事実中,恐喝未遂の点について,恐喝の犯意も共謀の事実もないから,被告人両名は無罪である旨主張するところ,前掲関係各証拠によれば,弁護人らの主張する点を含め,判示事実は優に認められるのであるが,その理由につき補足する。 2 前掲関係各証拠によれば,被告人Bは,兵庫県立C病院にアルコール依存症等の病名で入院中の者であったが,平成15年9月28日,昼食のおかずの盛りつけが粗雑であったため立腹し,同病院の調理師らを怒鳴りつけるなどし,調理師らは謝罪するとともに別のおかずを持参したが同被告人の怒りはおさまらなかったこと,同日昼すぎころ,被告人Bは,見舞いに訪れた友人の被告人Aに対し,前記経緯を伝えたこと,翌29日,被告人Bは,同病院総務部長Dらに対して謝罪を求めたこと,同日昼すぎころ,Dは被告人Bに対し,約1時間にわたって謝罪したが,同被告人は納得せず,Dに対し,「誠意を示してくれ。」「新聞社に訴えるぞ。」などと怒鳴ったこと,同日午後5時ころにも,Dは,被告人Bに対し,再度謝罪したが,同被告人は納得しなかったこと,その後,被告人Bは,被告人Aに電話して,翌日Dらに面会する際に,被告人Aもこれに立ち会う旨両者間で合意したこと,同月30日午後1時45分ころ,同病院アルコール病棟2階相談室において,被告人両名は,被告人Bの担当医師であるEが同席する場で,謝罪を続けるDに対し,こもごも「謝罪は当たり前のことや。他に責任の取り方がある 午後1時45分ころ,同病院アルコール病棟2階相談室において,被告人両名は,被告人Bの担当医師であるEが同席する場で,謝罪を続けるDに対し,こもごも「謝罪は当たり前のことや。他に責任の取り方があるやろ。誠意を見せんかい。」などと怒鳴り,所用で同医師が退席した後にも,被告人Aにおいて,Dに対し,「辞表を書かんかえ。」「こっから飛び降りろ。」などと怒鳴りつけ,あるいは,机を蹴りつけ,同人に詰め寄って,怖くて震えている同人に対し,「何や,地震か。」などと申し向けたこと,同日午後5時半ころ,前記相談室において,前記D医師及び兵庫県病院局勤務の医療紛争相談員Fが同席する場で,被告人両名は謝罪を続けるDに対し,こもごも「誠意を見せろ。」「責任をとれ。」「新聞社に言うぞ。」などと罵声を浴びせたこと,同日午後8時ころ,同所において,被告人Aは,Dと二人きりになった際,同人に対し,「金を包んで解決する方法もあるやろ。」「Bになんぼか包んだったらええんとちゃうか。」と語気鋭く申し向けたこと,同日午後9時ころ,同病院管理棟2階の相談室において,前記E医師及び前記Fが同席する場で,被告人両名は,Dに対し,「誠意を見せろ。」「感情がこもっていない。」などと怒鳴りつけ,Dは床に土下座をして謝罪したが,被告人らは「今さらそんなことをしても遅い。」などと言い放ち,なおも,「どう責任取るんや。」などと怒鳴り続けたこと,その後,被告人Aにおいて,Dに対し,「お前のせいでBが退院せざるおえなくなった。」「責任の取り方にはいろいろあるやろ。例えば1000万円包まんかい。Bの命は1000万円ではすまんぞ。」などと申し向けたこと,同日午後11時50分ころ,同所で,疲労困憊したDが「謝ってますやん。」と口走るや,被告人両名は激高し,立ち上がって,被告人Aにおいて,Dに対し,そ 000万円ではすまんぞ。」などと申し向けたこと,同日午後11時50分ころ,同所で,疲労困憊したDが「謝ってますやん。」と口走るや,被告人両名は激高し,立ち上がって,被告人Aにおいて,Dに対し,その腹部を右足で一回蹴ったこと,その後も,翌10月1日午前5時ころまでの間,Dに対し,被告人Aにおいて,「警察呼ぶんやったら,呼んだらええ。」「警察が来るまでに,ぼこぼこにしたる。」などと,被告人両名において,「謝るのと責任とるのとは別や。」などと申し向け,執拗に謝罪要求を続けたことが認められる。 以上の事実が認められる。 3 被告人両名は,被告人Aにおいて1000万円という金額を口にしたことはあるが,1000万円出せと言ったわけではなく,責任の重さを感じてほしかったので例えとして述べたものである,あくまで誠意ある謝罪を求めたもので恐喝の犯意はなかった旨捜査段階からほぼ一貫して供述するが,それぞれその供述内容自体が曖昧かつ不自然,不合理である上,十分信用できるD,E,G及びFの検察官に対する各供述調書に照らし,信用できない。Dら病院側関係者は,昼食の盛りつけが粗雑であったことの非を当初から認め,一貫して誠実に謝罪を続けていたにもかかわらず,被告人両名は,「誠意がない。」「誠意ある謝罪の具体的内容は自分で考えろ。」などと長時間にわたり執拗に「誠意ある謝罪」を要求し続けた挙げ句,前記のとおり,被告人Aにおいて,Dに対し,「例えば1000万円包まんかい。」などと金員を要求し,「謝罪と責任は別や。」とも申し向けているのであって,この事実に,前認定のとおり,被告人AはDと二人きりになった際「金を包むという方法もあるやろ。」などと申し向けているほか,関係証拠によれば,被告人Aにおいて,前記Fに対し,「Fさん,D部長に,Bさんになんぼかでも封筒に入れて ,被告人AはDと二人きりになった際「金を包むという方法もあるやろ。」などと申し向けているほか,関係証拠によれば,被告人Aにおいて,前記Fに対し,「Fさん,D部長に,Bさんになんぼかでも封筒に入れて渡すように言ったてーやー」と申し向けている事実が認められることを併せ考慮すると,被告人らがDに対し,金員の要求に及んでいたことは明白である。関係証拠によれば,被告人Aが,Dらから見舞金の提供を申し出るよう仕向け,あるいは,「例えば」とか「一般的には」などの言葉をそえるなどして,あからさまな恐喝行為と見えないように明示の金員要求をできる限り避けていた経緯は窺われるが,このことは,犯行態様の悪質さを示すものではあっても,同被告人らに恐喝の意図がなかったのではないかとの疑問を生じさせるものではない。 4 これらの事実によれば,被告人Aにおいて,被害者に対し恐喝行為に及んだことは明白であって,被告人Bにおいて,被告人Aの恐喝行為を認識しながらこれを制止することなく,同被告人においても,これに終始同調して「誠意ある謝罪」を要求し続けたものであるから,被告人らが,少なくとも暗黙のうちに,Dから金員を喝取する旨の意思を相通じて本件犯行に及んだものと認めるに十分である。 5 以上のとおり,前掲関係各証拠によれば,判示恐喝未遂の事実を認めるに十分である。各弁護人の主張は理由がない。 (法令の適用)被告人両名の判示各所為中,恐喝未遂の点はそれぞれ刑法60条,250条,249条1項に,傷害の点はそれぞれ同法60条,204条に該当するが,これらはそれぞれ1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから,同法54条1項前段,10条により犯情の重い恐喝未遂罪の刑で各処断することとし,それぞれその所定刑期の範囲内で被告人Aを懲役1年8月に,被告人Bを懲役1年4月に処し, の罪名に触れる場合であるから,同法54条1項前段,10条により犯情の重い恐喝未遂罪の刑で各処断することとし,それぞれその所定刑期の範囲内で被告人Aを懲役1年8月に,被告人Bを懲役1年4月に処し,被告人両名に対し同法21条を各適用して未決勾留日数中それぞれ60日をそれぞれその刑に算入し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人両名に負担させないこととする。 (量刑の理由)本件は,判示病院に入院中の被告人Bに出された食事の盛りつけが粗雑であったことに因縁を付け,被告人両名が共謀の上,同病院の総務部長である被害者に対し,暴行脅迫を加え,見舞金名下に金員を喝取しようとしたが,被害者らが警察に届け出たためこれを遂げず,その際被害者に傷害を負わせた恐喝未遂,傷害の事案であるところ,犯行の動機に格別斟酌すべき事情は認められず,非を認めて誠実に謝罪を続ける被害者に対し医療の本質にかかわるなどと因縁を付け,あるいは新聞社に事実を公表するなどと脅迫するなどして,約15時間もの長時間にわたって執拗に謝罪要求名下に恐喝行為に及んだものであって,陰湿で悪質な犯行である上,被害者の受けた恐怖心,困惑その他の心身の苦痛は大きく,被害感情は今なお厳しい。加えて,本件のような犯行を放置すれば,医療現場一般に与える悪影響は軽視できないのであって,一般予防の見地からも,厳しい非難に値する。本件犯行の発案者が被告人らのいずれであるかは明らかでないが,被告人Bが,出された食事の盛りつけが粗雑であったことを被告人Aに伝達したことを契機に本件犯行が企画立案されたことにおいて,被告人Bの犯情は良くないし,被告人Aは,少なくとも,被害者を脅迫する際は主導的に犯行に及び,被害者に暴行を加えて負傷させた点においてその犯情は良くない。にもかかわらず,被告人らは捜査段 において,被告人Bの犯情は良くないし,被告人Aは,少なくとも,被害者を脅迫する際は主導的に犯行に及び,被害者に暴行を加えて負傷させた点においてその犯情は良くない。にもかかわらず,被告人らは捜査段階から終始恐喝する意図はなかった旨強弁するなど不合理な弁解を続けて止まず,本件犯行を直視してこれを省みる態度がみられないのであって,被告人両名の刑事責任はそれぞれ相当に重いといわざるを得ない。そうすると,判示病院の調理関係者の食事の盛りつけが粗雑であったことを契機に,これを奇貨として本件犯行に及んだもので計画的な犯行とはいえないこと,恐喝は未遂に終わったこと,被告人Bは,被害者を脅迫する際は,概ね被告人Aに同調するに止まったもので従属的であったこと,被告人Aには執行猶予付き懲役刑の前科はあるが平成元年宣告の古いものであり,その他には平成11年に傷害による罰金前科があるに止まること,被告人Bには平成7年の傷害の罰金前科があるに止まること,本件犯行中傷害の罪責については両名ともこれを認め,反省している旨述べていること,被告人Bは被害者に対し自己の妻を通じて慰謝の措置を取ろうと努力したこと等各被告人のために酌むべき事情を十分に考慮しても,本件はそれぞれその刑の執行を猶予すべき事案とは認められず,主文の各刑はそれぞれやむを得ないところである。 よって,主文のとおり判決する。 平成16年2月19日神戸地方裁判所第1刑事部裁判官杉森研二

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