- 1 -主文 本件控訴を棄却する。 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実 及び理由第1当事者の求めた裁判 控訴人( )原判決を取り消す。 ( )被控訴人が,平成14年4月11日付けでした控訴人の平成13年分所 得税にかかる更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分を取り消す。 ( )訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。 被控訴人主文同旨第2事案の概要事案の概要は,次のとおり付加するほかは,原判決の当該欄記載のとおりであるから,これを引用する。 控訴人の主張( )原判決は,本件調停が,控訴人が開業している歯科医院の事業再生を目 的としてなされたものであることを見落としている。控訴人は,本件債務免除がなかった状態にした上で,債務免除が担税力に応じて発生するよう債権放棄の時期を調整して一部弁済・一部債権放棄を長期に亘って行う手法をとることにしたのである。 ( )いったん債務免除前の状態に戻した上で,Aとの間で一部弁済・一部債 権放棄等の債務弁済の計画を合意しなかったのは,Aが近く整理解散を予定しており,本件債務に係る債権を全てサービサーに譲渡することを決めていたため,本件債務の支払方法についての協議は本件債務に係る債権の譲渡先- 2 -と交渉して欲しいとのことであったからである。 ( )本件調停成立前に控訴人代理人が本件債務に係る債権を譲り受けようと したのは,Aからの本件債務に係る債権の譲渡先が決まらなかったため,控訴人代理人としては,できるだけ早期に一部弁済・一部債権放棄の債務弁済計画の交渉相手を確定できるよう,取り敢えず上記債権譲渡の受け皿に自身がなることを申し出たものである。 ( )控訴人が,本件調停により,本件債務を自然債務とすることで債 弁済・一部債権放棄の債務弁済計画の交渉相手を確定できるよう,取り敢えず上記債権譲渡の受け皿に自身がなることを申し出たものである。 ( )控訴人が,本件調停により,本件債務を自然債務とすることで債権の譲 受人となる第三者との交渉を有利に進めようと考えたのは,Aが本件債務に係る債権をどのような相手先に譲渡するのか不明であり,債権回収に強硬で債務者の経済的再生など全く考慮しない相手先に譲渡された場合には,一部弁済・一部債権放棄等の債務弁済計画の交渉をする間もなく強制執行等の強,,硬な回収手段に出られることも考えられるためそのような可能性をなくし譲渡先との間で確実に一部弁済・一部債権放棄等の債務弁済計画の合意がなされることを意図して本件債務を自然債務としたのである。 ( )控訴人がBに一部弁済したのは,本件訴訟提起後であったが,これは, 最終的に債務弁済を交渉すべき債権譲渡先が確定したのがその時期であったためであり,弁済額が100万円と本件債務額のごく一部であるのは,控訴人の経済的再生を目的とし,控訴人の支払能力に応じた一部弁済とこれが行われたことに対する一部債権放棄を長期に亘り繰り返すことにより,債務免除益が担税力に応じて発生するよう調整しつつ債務の圧縮を図るという手法に基づくものであるからである。 ( )本件調停で復活した債権の額は2億1393万1105円であり,控訴 人が本件調停により1億円の税負担(本件債務免除益に対する課税)よりもこの額の債務の負担を選択したのは,国税を滞納した場合,国が滞納者の財産を早期に差し押さえてくることは世間一般の常識であるのに対し,民間の債務の未払いの場合には,差押えまでには訴訟を経由しなければならずその- 3 -間費用も時間もかかり,訴訟以前に債権者が減額等の交渉に応じることもあるし, とは世間一般の常識であるのに対し,民間の債務の未払いの場合には,差押えまでには訴訟を経由しなければならずその- 3 -間費用も時間もかかり,訴訟以前に債権者が減額等の交渉に応じることもあるし,訴訟になってもそこで和解ということもあり得るが,国税にはそのようなことはありえないからである。 この債務を復活させたとしても,その後15年ないし20年の期間をもって,一部弁済・一部債務免除を繰り返したほうが,一方的に課税される場合に比較し,その課税の増加分は極めて小さくなる。 ,,,( )控訴人は平成18年2月20日本件債務の譲受人であるBとの間で 債務弁済契約を締結した。その内容は,平成18年12月10日を第1回目とし,平成27年12月10日までの10年間に亘り,本件債務のうち各1000万円につき,その2.5パーセントに相当する25万円を支払い,その余の975万円については債権放棄してもらう,平成27年12月10日現在における本件債務の残高1億0893万1105円については,その時点での控訴人の経済状況を勘案しながら,少なくとも毎年1000万円を超える金額について,その2.5パーセントに相当する金額を支払い,その余の金額については債権放棄してもらうというものである。 ( )以上のとおり,控訴人に当初から本件債務を弁済する意思があったこと を否定する根拠はない。 ( )そして,本件債務は,事業再生に用いられる一部弁済・一部債権放棄等 の債務弁済計画により弁済されることになっており,自然債務とされた後も少しずつ弁済されていくもので,債務免除益も実際に一部放棄されたときに発生するのであるから,実質的観点からみても,本件調停の成立により本件債務は債務免除による経済的な利益が失われたと認めるべきである。 被控訴人の主張( ) 務免除益も実際に一部放棄されたときに発生するのであるから,実質的観点からみても,本件調停の成立により本件債務は債務免除による経済的な利益が失われたと認めるべきである。 被控訴人の主張( )控訴人に当初から本件債務を弁済する意思があったと認められないこと は,原判決の判断のとおりである。 ( )本件債務に係る債権の譲渡契約等における未払利息等の扱いは一定でな - 4 -く,この事情からも,本件調停及びその後の債権譲渡等が控訴人と債権者らとの間のなれ合いの産物であることがうかがわれる。 ( )そもそも,本件調停後の本件債務免除益の存否の判断において,控訴人 の主張するような当事者の意思内容が結論を左右するとは考え難い。 第3当裁判所の判断 当裁判所も控訴人の請求を棄却すべきものと判断する。その理由は,次のとおり付加訂正するほかは,原判決の当該欄説示のとおりであるから,これを引用する。 ( )原判決の訂正 ア原判決17頁14行目冒頭から同18頁7行目末尾までを削除する。 イ同19頁20行目冒頭から同20頁8行目末尾までを次のとおり改める。 「(エ)これに対し,C統括官は,Aが債務を元に戻すことに応じることは考え難いと思ったことから,D会計士に対し,その旨意見を述べた。 控訴人は,被控訴人担当職員が,D会計士に対し,自然債務とすれば課税関係は生じない旨回答した旨主張し,D会計士が被控訴人担当職員とのやりとりについて作成した事務連絡(甲7)には,被控訴人担当職員との話として「しぜん(ママ)債務については一応肯定していましたが,社団法人Aの事情から考えにくいとしていました」と。 の記載があるが,これによってもC統括官が,自然債務にすれば課税関係が生じないと回答したかどうかは判然とせず,D会計士自身も,被控訴人担当 たが,社団法人Aの事情から考えにくいとしていました」と。 の記載があるが,これによってもC統括官が,自然債務にすれば課税関係が生じないと回答したかどうかは判然とせず,D会計士自身も,被控訴人担当職員から自然債務が認められれば課税関係はなくなる旨明言されたというわけではないと証言したにとどまることに照らすと,控訴人主張事実を認めるに十分とはいえない」。 ( )当審における控訴人の主張に対する判断 - 5 -本件調停により,本件債務がいわゆる自然債務とされたことは,前示のとおりであるところ,自然債務は債務の履行が法律以外の社会規範による債務者の自発的な意思に委ねられている債務であって,債権者は強制履行の手段をとりえない債務である。したがって,弁済しなくても債務者には何ら法的不利益を生じないため,金額的にも時期的にも弁済されることの裏付けがなく,いかなる意味でもその支払が担保されていないものであるから(仮に,本件調停が事業再生を目的としてなされたものであるとしても,民事再生法等に基づく他の手法による事業再生とはこの点で根本的に異なるものというべきである,現実の弁済がなされないかぎり,その経済的価値は無いに。)等しいというべきであって,強制執行可能な通常の債務が自然債務に転化す,,,ればその時点で債権者の経済的利益は失われたこれを債務者からみれば対応する経済的利益を得たとみるのが相当である。控訴人の主張( )は,そ れ自体,本件債務が自然債務となることによって控訴人が受ける経済的利益を示すものである。 確かに,自然債務も債務が消滅するわけではなく,債務者が弁済すれば,非債弁済にはならないから,債務者はその返還を請求できない関係にあり,この場合,債務者は自然債務となった時点で得た経済的利益をその限度で失うことになるけれど 滅するわけではなく,債務者が弁済すれば,非債弁済にはならないから,債務者はその返還を請求できない関係にあり,この場合,債務者は自然債務となった時点で得た経済的利益をその限度で失うことになるけれども,これは弁済行為によって生じた結果であって,自然債務となっても経済的利益が生じていなかったことの現れとみるべきではない。 そうとすれば,実質的にみても,本件債務免除によって受けた控訴人の経済的利益が,本件調停の成立により本件債務が自然債務となったことによって失われたということはできない。 控訴人の主張( ),( ),( ),( )の点が仮に控訴人主張のとおりであると しても,上記の判断を左右するものではない。また,同( )の事実は,一部 弁済の都度,その限度で本件債務が自然債務となることによって控訴人の得- 6 -た経済的利益が失われることになるという以上の意味を有するものとはいえない。 以上によれば,控訴人の主張は採用できない。 よって,原判決は相当であり,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 仙台高等裁判所第1民事部裁判長裁判官小野貞夫裁判官信濃孝一裁判官大垣貴靖
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