平成28(ワ)7385 地位確認等請求事件

裁判年月日・裁判所
平成30年3月7日 大阪地方裁判所
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判決文本文22,383 文字)

- 1 - 主文 1 原告が被告に対して,労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。 2 被告は,原告に対し,平成28年6月から本判決確定の日まで,毎月16日限り42万0568円及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告は,原告に対し,平成28年6月末日限り,6万1368円及びこれに対する平成28年7月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 被告は,原告に対し,平成28年12月から本判決確定の日まで,毎年6月末日限り79万3646円,及び,毎年12月10日限り83万1557円並びにこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を 支払え。 5 原告のその余の請求を棄却する。 6 訴訟費用は,これを10分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。 7 この判決は,第2項ないし第4項に限り,仮に執行することができる 事実及び理由 第1 請求 1 主文第1項と同旨 2 被告は,原告に対し,平成28年6月から本判決確定の日まで,毎月16日限り42万0568円及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年 6分の割合による金員を支払え。 3 被告は,原告に対し,平成28年から本判決確定まで毎年6月末日限り79万3646円,及び,毎年12月10日限り83万1557円並びにこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等 1 本件事案の概要 - 2 -⑴ 被告の職員であった原告は,被告から独立行政法人A機構(以下「A機構」という。)への異動命令を拒否したことを理由として,平成28年4月27日 要等 1 本件事案の概要 - 2 -⑴ 被告の職員であった原告は,被告から独立行政法人A機構(以下「A機構」という。)への異動命令を拒否したことを理由として,平成28年4月27日付けで懲戒処分としての諭旨解雇とすること,同年5月11日までに辞職願を提出しなかった場合は,同月31日付けで懲戒解雇とする旨の通知を受けた(以下「本件解雇」という。なお,原告は,被告に対し,同月11日までに 辞職願を提出しなかった。)。 ⑵ 本件は,原告が被告に対し,本件解雇は無効であるとして,労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに,本件解雇後の給与及び賞与並びにこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで,年6分の割合による遅延損害金の支払を求めている事案である。 2 前提事実(争いがないか,後掲各証拠及び弁論の全趣旨から容易に認められる事実)⑴ 被告及びA機構ア被告は,厚生労働省直轄の施設等機関である旧Bセンターを前身とし,平成22年4月に独立行政法人となり,平成27年4月に国立研究開発法人 となった。 イ A機構は,厚生労働省直轄の国立病院・国立療養所が平成16年4月に独立行政法人となったものであり,A機構C病院(以下「C病院」という。)やA機構Dセンター(以下「Dセンター」という。)を傘下に有している。 (以上につき,甲1,2,乙7の①) ⑵ 原告の経歴等ア原告は,平成4年に国家公務員Ⅱ種試験に合格し,同年10月に厚生事務官として任用され,国立療養所E病院に配属された。 イ原告は,平成16年4月,A機構の独立行政法人化に伴ってA機構の職員となり,以後,平成18年4月にDセンター,平成19年10月にFセンタ ー,平成22年1月にGセンターと異動 された。 イ原告は,平成16年4月,A機構の独立行政法人化に伴ってA機構の職員となり,以後,平成18年4月にDセンター,平成19年10月にFセンタ ー,平成22年1月にGセンターと異動した。 - 3 -ウ原告は,平成24年4月1日付けで被告に異動し、Bセンターで入院外来係長として勤務し,平成26年4月1日に医療係長に配置換えとなった。 なお,A機構から被告への異動に際しては,A機構での退職手続と被告での採用手続が取られている。 (以上につき,甲6の②,弁論の全趣旨) ⑶ 本件解雇に至る経緯ア被告は,平成27年8月27日,原告に対し,C病院事務部管理課庶務係長への異動を打診し,同年9月10日には,同年10月1日付けで同係長を命ずる旨の文書を交付した。これに対し,原告は,妻が強迫性障害,パニック障害,うつ状態であり,異動により症状が悪化する可能性が高いこと等を 理由として,異動の撤回を求めた。 被告は,同年9月28日,上記人事異動を一旦留保することとし,同年10月1日付けで原告を総務部付とした。 (甲7,8,9の①②,10,乙9)イ被告は,平成28年2月22日,原告に対し,同年4月1日付けでのDセ ンターへの異動の打診をした(なお,この異動の法的性質については,当事者間において争いがある,以下,「本件人事異動」という。)。これに対し,原告は,同年2月24日付けで,妻の病気を理由として本件人事異動には応じられない旨文書で回答したが,被告は,同年2月29日付けで,原告に対し,平成28年4月1日からDセンター企画課業務班外来係長としての勤 務を命ずる旨の書面を交付し,本件人事異動を命じた(以下「本件人事異動命令」という。)。 (甲16,17)ウ 告に対し,平成28年4月1日からDセンター企画課業務班外来係長としての勤 務を命ずる旨の書面を交付し,本件人事異動を命じた(以下「本件人事異動命令」という。)。 (甲16,17)ウ原告は,平成28年4月1日,Dセンターに着任しなかった。 被告は,同日,原告に対し,原告が本件人事異動命令に応じなかったこと を理由として懲戒手続を開始する旨を告知するとともに,自宅待機を命じ - 4 -した。 (甲22,23,弁論の全趣旨)エ被告は,平成28年4月27日,原告に対し,被告の就業規則100条1項により懲戒処分としての諭旨解雇とすること,同年5月11日までに辞職願を提出しなかった場合は,同月31日付けで懲戒解雇する旨を通知し た(本件解雇。甲26,27。)。 オ原告は,平成28年5月9日付けで,被告の懲戒規程17条1項に基づいて,懲戒事由が存在しないことなどを理由として,本件解雇に対する不服申立てを行ったが,被告は,同月31日付けで同不服申立を却下した(甲28,29)。 カ原告は,平成28年5月11日までに辞職願を提出しなかった。 なお,被告は,同月31日をもって,本件解雇により原被告間の労働関係は終了したと主張している。 ⑷ 原告の賃金等ア被告の給与計算期間は,毎月1日から末日であり,支払日は翌月15日で ある。 イ原告は,本件解雇当時,月額基本給33万8400円,扶養手当1万300円,地域手当4万2168円,住居手当2万7000円の支給を受けていた。 ウ原告が本件解雇前3年間に支給を受けた賞与の平均額は,夏季(毎年6月 末日支給)については79万3646円,冬季(毎月12月10日支給)については83万1557円である。 なお,被告は,原告に対し 本件解雇前3年間に支給を受けた賞与の平均額は,夏季(毎年6月 末日支給)については79万3646円,冬季(毎月12月10日支給)については83万1557円である。 なお,被告は,原告に対し,本件解雇後に支払日が到来する原告の賞与のうち,平成28年夏季賞与については,一部を減額した上で,73万2278円を支払った(乙3)。 ⑸ 本件に関連する被告の就業規則等の定め - 5 -ア国立研究開発法人Bセンター職員就業規則(甲3の②)(配置換等)第78条職員は業務上の都合により配置換,併任を命ぜられることがあるものとする。 2 職員は,国,Hセンター,A機構又はその他関係機関への人事異 動を命ぜられることがあるものとする。 3 前2項の規定により命ぜられた職員は,正当な理由がない限りこれを拒むことができない。 イ国立研究開発法人Bセンター職員人事規程(甲4)第18条職員就業規則第78条第2項に規定する出向は,次に掲げる種類 とする。 一在籍出向(以下この規程により出向した者を「在籍出向者」という。)二転籍出向(以下この規程により出向した者を「転籍出向者」という。) 第3 本件の争点 1 本件解雇に係る懲戒事由の存否⑴ 本件人事異動命令の法的性質並びに原告の同意の要否及び同意の有無(争点1)⑵ 本件人事異動命令の有効性(人事異動に係る権限濫用の有無)(争点2) 2 本件解雇に係る懲戒権濫用の有無(争点3)第4 争点に関する当事者の主張 1 争点1(本件人事異動の法的性質並びに原告の同意の要否及び同意の有無)について(被告の主張) ⑴ア独立行政法人化される以前の被告及びA機構は,いずれも厚生労働省の - 1 争点1(本件人事異動の法的性質並びに原告の同意の要否及び同意の有無)について(被告の主張) ⑴ア独立行政法人化される以前の被告及びA機構は,いずれも厚生労働省の - 6 -一組織であり,職員全員が国家公務員であって,内部で人事異動・人事交流が盛んに行われていた。その後,被告及びA機構は,それぞれ独立行政法人化されたが,法人化以降においても,被告が独自に採用した職員を除き,A機構が実質的に人事権を持ち,近畿圏では被告を含めたグループの21の病院内で法人を跨いだ人事交流が常態的に行われ,A機構の指示によって, A機構から被告へ異動し,被告からA機構に戻るという人事異動が繰り返されている。 イ同異動において,別法人に異動する職員については,形式的には異動元の退職手続と異動先の採用手続が取られるものの,給与・賞与等の待遇は従前と同一以上であることが保障され,退職金については,職員がA機構を完全 に退職する場合にのみ,それまでの全ての在職期間を通算して計算された金額が支給されることとなっている。 そして,被告とA機構との間においては,以上のような取扱いを内容とする協定を取り決めており,その中では,A機構から被告への異動は出向と定められている。 ウ以上のような取扱いは,従前から一般的かつ広範に行われており,職員にも受け入れられてきた人事異動の慣例や実態,A機構と被告との協定の内容からすると,A機構の職員が被告に異動することは,実質的にはA機構から被告への在籍出向と同視すべきものであり,被告からA機構に戻る場合も,実質的には在籍出向を解かれて出向元に戻ることと同視すべきもので ある。したがって,同異動については,労働者の個別の同意は不要であるというべきである。 ⑵ また,仮に,本件人 に戻る場合も,実質的には在籍出向を解かれて出向元に戻ることと同視すべきもので ある。したがって,同異動については,労働者の個別の同意は不要であるというべきである。 ⑵ また,仮に,本件人事異動について労働者の同意が必要であるとしても,個別具体的な同意まで必要ではなく,包括的な同意で足りるというべきである。 この点,上記のとおり,原告が採用された当初はA機構も被告もいずれも厚 生労働省の一組織であり,原告はその職員がA機構の他の病院や被告に定期 - 7 -的に配置換されることを認識し,受け入れていたことに照らせば,原告が本件人事異動について,包括的に同意していたことは明らかである。 (原告の主張)⑴ 被告とA機構は別法人である上,両者間の異動は,異動元に辞職届を提出して承認を受け,異動先で新たに採用されるという厳格な手続を取っている。ま た,在籍出向とは,出向元との労働関係を保持したまま,出向先において労務に従事させる人事異動を指すところ,本件では,原告は出向元を退職していること,懲戒解雇等の権限も出向先が有していることからすると,在籍出向と異なるものというべきである。 以上からすると,本件人事異動は,解約型の転籍に他ならず,労働者の個別 の同意が必要であるというべきである。 ⑵ 被告は,被告とA機構との間における人事異動について,実質的に在籍出向と同視すべきである旨主張するが,上記のとおり,異動元の辞職及び異動先での採用という明確な法様式が踏まれている以上,その性質や法効果は,法様式に沿って判断すべきであり,実質的な判断を容れる余地はなく,被告の主張は 理由がないというべきである。 なお,被告就業規則78条2項は,人事異動に関する規定であり,転籍に関する規定ではないし,仮にこれに転籍が含まれ ,実質的な判断を容れる余地はなく,被告の主張は 理由がないというべきである。 なお,被告就業規則78条2項は,人事異動に関する規定であり,転籍に関する規定ではないし,仮にこれに転籍が含まれるとしても,労働者の個別の同意を要せずに転籍を命ぜられるとの点については,公序良俗に違反し,あるいは合理性を欠くものとして無効であるから,労働者を拘束するものではない というべきである。 2 争点2(本件人事異動命令の有効性。人事異動命令に係る権限濫用の有無)について(原告の主張)⑴ 本件人事異動については,原告を異動させる業務上の必要性や原告が人選 された根拠が乏しい。 - 8 -⑵ また,原告の妻は,強迫性障害,パニック障害,うつ状態のため,引きこもり状態が続き,単純な家事すらこなせない状態で原告の全面的な支援が必要である。原告の妻は,本件人事異動の打診を知り,パニック状態となり,以後も強迫観念がひどくなり,自殺用の紐を持って失踪しようとしたこともあった。原告の妻の主治医も,原告の妻の病状等から原告の職務や勤務地の変更を 禁じる旨の診断をしており,かかる状況で原告が本件人事異動によって異動すれば,原告の妻の希死念慮が高じて自殺に及ぶなどの危険性もある。 以上のとおり,本件人事異動命令については,原告及び家族が受ける不利益性は著しく大きいというべきである。 ⑶ そして,本件人事異動については,①異動先における当直の免除がされるか どうか等の労働条件の明示がされなかったこと,②主治医の上記意見を無視するものであったこと,③原告に対して,本件人事異動の必要性や人選について説明していないこと等に照らせば,手続面でも瑕疵があり,信義則にも反するものである。 ⑷ 以上によれば,本件人事異動は,被告が有する人 あったこと,③原告に対して,本件人事異動の必要性や人選について説明していないこと等に照らせば,手続面でも瑕疵があり,信義則にも反するものである。 ⑷ 以上によれば,本件人事異動は,被告が有する人事異動に係る権限を濫用し たものであり,無効というべきである。 (被告の主張)⑴ア原告は,平成27年7月の意向調査において,人事異動において考慮すべき事項として,妻が卵巣ガン術後,母が大腸ガン術後であることを挙げていたにすぎず,被告は,これらの点は異動を命ずるに当たり特に支障となるも のではないと判断して,同年10月1日付けでC病院への異動を命じた。ところが,原告は,同異動に対して,妻が強迫性障害,パニック障害及びうつ病であるとする診断書を提出し,原告の妻の主治医も転勤や異動を避けるべきとの意見を述べるに至ったため,被告及びA機構は,原告に対するC病院への人事異動を撤回した。 イもっとも,その結果,Bセンターが余剰人員を抱えることになったため, - 9 -被告及びA機構は協議の上,Bセンターよりも原告の通勤時間が短縮でき,原告がかつて在職したことのあるDセンターへの異動を計画し,本件人事異動を命じるに至った。 ⑵ 被告及びA機構の産業医は,原告の妻の病状について確認しておらず,原告が主張する原告の妻の病状自体疑わしいといわざるを得ない上,仮に原告の 妻の病状が深刻なうつ状態であったとしても,本件人事異動によって,原告の通勤時間は大幅に短縮され,原告と原告の妻が一緒に過ごす時間が増えるといえること,Dセンターはかつて原告が勤務しており,職場が変わること自体による原告への影響は最小限にとどまるものであることに照らせば,本件人事異動の内容が不合理なものではないことは明らかである。 ⑶ 被告は,原告に つて原告が勤務しており,職場が変わること自体による原告への影響は最小限にとどまるものであることに照らせば,本件人事異動の内容が不合理なものではないことは明らかである。 ⑶ 被告は,原告に対し,Dセンターとの間で当直の免除について協議することを表明しており,労働条件の明示がされていなかったとはいえない。また,本件人事異動は,実質的な人事権を有するA機構の合理的な裁量の下で行われたものであり,被告は,本件人事異動の必要性等について,原告個人に説明すべき法的義務を負うものではないから,本件人事異動命令について,原告の主 張するような手続上の瑕疵があるとはいえない。 ⑷ 以上によれば,本件人事異動命令は,被告が有する人事異動に係る権限を濫用したものであるとはいえない。 3 争点3(本件解雇に係る懲戒権濫用の有無)について(被告の主張) 人事異動命令を拒否することは,異動による人材及び職場の活性化・不正防止などの人事異動の重要な役割を阻害するものであり,職場を混乱させるものである。特に,A機構においては,被告を含めた21病院における人事異動が実施されるところ,これを拒否すれば,人事異動を計画することが不可能となり,A機構及び被告に対して与える影響は極めて大きい。また,原告に対しては,異動 について繰り返し説明を行い,原告が異動拒否の理由として挙げた妻の病状に - 10 -ついても確認を行うなど,十分に原告の言い分を考慮して人事異動手続を進めてきた。以上のとおり,本件解雇はやむを得ないものであり,不合理な点は認められず,懲戒権を濫用したものとはいえない。 (原告の主張)仮に,本件人事異動が原告の同意を要するものではなく,人事異動に係る権限 を濫用したものであるといえないとしても,少なくとも,原告は られず,懲戒権を濫用したものとはいえない。 (原告の主張)仮に,本件人事異動が原告の同意を要するものではなく,人事異動に係る権限 を濫用したものであるといえないとしても,少なくとも,原告は,本件人事異動には原告の同意が必要であると認識していたこと,被告は,本件人事異動に当たって,原告に対し,「辞職願」を形式と言いながら強要して書かせようとし,提出できなかったことが本件解雇に繋がったこと,上記のとおり,原告は,妻の病状から当直を担当することが不可能であり,夜間当直のあるDセンターへの本 件人事異動は,原告にとって著しい不利益となること,被告の本件人事異動に係る手続及び説明が不十分であったこと等本件人事異動命令発出に係る一連の経過に加え,懲戒解雇が労働者にとって極めて重い処分であること等をも併せ考慮すると,本件人事異動命令を拒否したことのみをもって懲戒解雇とすることは,懲戒権を濫用したものとして無効というべきである。 第5 争点に関する当裁判所の判断 1 認定事実前記前提事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ⑴ 被告とA機構間における人事異動の実情 ア被告及びA機構は,それぞれの組織が独立行政法人化される以前において,厚生労働省の内部部局の一つの機関であり,各病院の事務職員は全員国家公務員の地位を有し,厚生労働省内の異動として,部局内における人事異動が行われていた。 国立病院・国立療養所は,平成16年4月に独立行政法人に移行したが, 同職員の身分は国家公務員のままであったところ,独立行政法人化以降に - 11 -おいても,被告の前身であるB’センターとの間で従前同様の人事異動が行われていた。 (乙5,6,8)イB’センターは,平成22年 ままであったところ,独立行政法人化以降に - 11 -おいても,被告の前身であるB’センターとの間で従前同様の人事異動が行われていた。 (乙5,6,8)イB’センターは,平成22年4月に独立行政法人となったが,それ以降もA機構とBセンター(被告)との間においては,従前と同様に,組織を 超えた人事異動が行われていた。 もっとも,上記独立行政法人化において,被告は非公務員型の独立行政法人となり,職員には原則として国家公務員法が適用されず,非公務員と扱われることとなった。このため,A機構から被告への人事異動については,国家公務員としての地位を失わせることとなったため,異動対象とな る職員に辞職願を出させるという手続が取られるようになった。 その後,平成27年4月にA機構も非公務員型の独立行政法人に移行したが,それ以降も両者間の人事異動が続けられていた。 なお,A機構と被告は,平成27年2月23日,出向する者の取扱いについて必要な事項を定めた協定書を作成した。同協定書によれば,A機構 と被告の合意に基づいて,職員が一方の要請により辞職し,引き続き他方に採用される異動を出向とした上で(1条),両者間の合意はA機構が作成した人事異動の計画を被告に示すことによって行うこと(2条),出向のために出向元を退職する場合は退職手当を支給せず,退職手当の計算の基礎となる在職期間には出向元の在籍期間も通算すること(3条),給 与の決定は出向先が行うが,出向元のこれまでの昇給や昇格を考慮し,出向元での給与を下回らないようにすること(4条)等が定められていた。 もっとも,同協定書は,職員に対して周知されていなかった。 (以上につき,乙4ないし6,8,9,証人L,証人M,弁論の全趣旨)ウ被告の職員のうち ること(4条)等が定められていた。 もっとも,同協定書は,職員に対して周知されていなかった。 (以上につき,乙4ないし6,8,9,証人L,証人M,弁論の全趣旨)ウ被告の職員のうち,被告が独立行政法人となる前に採用された職員につ いては,配置に関する決定権限は事実上A機構が有し,被告は,A機構が - 12 -決定したところに基づいて,A機構からの異動を受け入れ,あるいはA機構に被告の職員を異動させていた。 異動対象となった職員については,異動元の退職手続と異動先の採用手続が取られるが,採用においては独自の審査等の実質的な判断はされず,手続のみが行われているという実情にあった。 なお,A機構から被告に異動した場合,いずれは再度の異動によりA機構に復帰する者が大半であったが,実際に異動により復帰するかどうかはその時々における人事異動の結果であり,異動時に予め被告での勤務期間等が示されることはなかったし,異動先で定年を迎えたり,A機構に戻らないという職員もいた。また,A機構と被告間のように,被告やA機 構との間で組織を超えた異動が行われている他の組織としては,独立行政法人I機構や国立研究開発法人J機構,国(厚生労働省)などがあり,被告の職員は,A機構以外のこれらの組織に異動することもあり,国(厚生労働省)に異動する場合は,改めて国家公務員として任用されることとされていた。 (以上につき,乙5,6,8,9,証人L,証人M,弁論の全趣旨)⑵ 原告がA機構から被告に異動した時の状況等ア原告は,平成16年4月にA機構の独立行政法人化に伴ってA機構の職員となり,平成18年4月にDセンターに異動となり,平成19年10月にはFセンターに異動し,平成22年1月にはGセンターに異動となった。 は,平成16年4月にA機構の独立行政法人化に伴ってA機構の職員となり,平成18年4月にDセンターに異動となり,平成19年10月にはFセンターに異動し,平成22年1月にはGセンターに異動となった。 イ原告は,平成24年4月1日付けで,被告への異動を命じられた。 同異動に当たって,原告は,A機構が指示するところに従って,同機構近畿ブロック担当理事宛に,「今般,任命権者の要請により,平成24年4月1日から独立行政法人Bセンターに就職するため,平成24年3月31日付けをもって辞職いたしますので,ご承認くださるようお願いいたします」 と手書きで記載した辞職願を提出した。 - 13 -ウ A機構は,平成24年3月31日付けで,原告の辞職を承認した(ただし,退職手当は支給しない。)。 また,被告は,原告に対し,同年4月1日付けで事務職基本給表2級(独立行政法人Bセンター財務経理部財務経理課医事室入院・外来係長)に採用する旨の辞令を発した。 原告は,同月2日から4日まで被告において開催された非常勤職員を含む新採用の職員全員に対する新採用者オリエンテーションに参加した。 (以上につき,甲6の②,甲33ないし35,45,原告)⑶ 本件人事異動命令前の原告の妻の病状等ア原告は,平成7年4月に妻Kと婚姻した。 原告の妻は,婚姻前から航空会社で勤務しており,婚姻後も勤務を続けていたが,平成13年1月に卵巣ガンが発見され,治療や手術のため,同年7月まで休職した。 原告の妻は,同月に職場復帰したものの,体力が落ちていたこともあって,同年9月に退職した。 イ原告の妻は,平成14年頃から電車に乗ると圧迫感を感じたり,めまいや動機,息苦しさ等の体調不良を感じるようになったことから,平成16年頃から いたこともあって,同年9月に退職した。 イ原告の妻は,平成14年頃から電車に乗ると圧迫感を感じたり,めまいや動機,息苦しさ等の体調不良を感じるようになったことから,平成16年頃からは,一人で電車に乗らないようになった。 また,原告の妻は,その頃から,日常生活の様々な場面で不安を感じるようになり,例えば,外出する際には玄関の鍵や水道,ガスなどが気になって 何度も確認したり,ゴミを捨てる際も,シュレッダーに掛けてもゴミから個人情報が流出するのではないかと不安に感じるという状態になった。また,普段と少しでも違うことがあると何か起きるのではないかとの不安を感じるようになり,原告が普段と違う道で帰宅するような些細なことでも,何か悪いことが起きるのではないかという不安に襲われるようになった。 ウさらに,原告の妻は,平成19年頃から,原告が当直で帰宅できない日は - 14 -眠れなくなり,昼夜が逆転する状況となっていき,平成23年頃には夜になると不安恐怖が増し,たびたび髪の毛を抜いたり,目の周りを針で突くなどの自傷行為に及ぶようになった。 また,この頃には,家事についても,食材のビニールを破る際にビニールの切れ端が冷蔵庫の方へ飛んでいき火事になるのではないか,掃除をする ときに掃除機の先が部屋の壁に当たって傷つけるのではないかなどと,ちょっとしたことでも不安や恐怖感を感じるようになり,家事をすることができなくなり,原告が家事全般をするようになった。 エ原告は,妻に対し,精神科や心療内科の受診を勧めたが,原告の妻は,医師であっても知らない人と話すことに恐怖感を感じたことや,受診をきっ かけとして,自身の疾病に関する個人情報が流出するのではないかと恐れ,医療機関の受診をすることができなかった。 ( は,医師であっても知らない人と話すことに恐怖感を感じたことや,受診をきっ かけとして,自身の疾病に関する個人情報が流出するのではないかと恐れ,医療機関の受診をすることができなかった。 (以上につき,甲49,証人K,原告,弁論の全趣旨)⑷ 本件人事異動命令発出に至る経緯アA機構は,平成27年8月頃,原告をC病院に異動させる人事異動案を 策定した。これは,C病院の庶務係長が平成27年9月30日付けで退職するため,後任を補充する必要があったこと,原告の被告における在職期間が3年6か月に及んでおり,異動のタイミングとして適切であったこと,原告は人事評価における昇任対象者となっていなかったこと,勤務地が和歌山と遠方になるが,通勤は不可能ではない上,同居家族は妻のみで 賃貸住宅に居住していることから転居も問題ないと判断したこと,大阪府内での勤務が続き,大阪府外の病院での経験を積ませることも必要と判断したことなどからであった。 なお,原告の異動を立案したA機構近畿グループの参事(人事担当)であるL(以下「L参事」という。)は,平成27年度における原告の職員 カードを確認し,原告が妻と母の健康上の理由(妻:卵巣ガン術後,母: - 15 -大腸ガン術後)により,現在の勤務地を希望していることを把握していたが,前年の職員カードにも同趣旨の記載があったことから,手術後少なくとも1年以上が経過しており,異動の支障になるものではないと判断していた。 本件解雇当時被告の総務部長であったM(以下「M総務部長」という。) は,原告に係るA機構からの異動の提示を受けて,平成27年8月27日,原告に対し,C病院への異動の打診(内々示)をした。これに対して,原告は,家庭の事情で遠方への異動は困難であると述べた。 ま は,原告に係るA機構からの異動の提示を受けて,平成27年8月27日,原告に対し,C病院への異動の打診(内々示)をした。これに対して,原告は,家庭の事情で遠方への異動は困難であると述べた。 また,原告は,同日,妻に対し,C病院への異動の打診を受けたことを伝えたが,それを聞いた原告の妻は,ショックで胸が苦しくなり,過呼吸 に陥り,パニック状態になった。 (以上につき,甲50,乙8,9,証人L,証人M,原告,弁論の全趣旨)イM総務部長は,平成27年8月31日,原告と面談をした。 原告は,同面談において,M総務部長に対し,自分がなぜ異動対象者と なったか質問したが,M総務部長は総合的な人事の都合としか言えないなどと回答した。また,M総務部長は,C病院への異動については,今後,人事異動命令として発令されることとなり,それを受け入れない場合は,職務命令違反として,懲戒免職となり得る旨の話もした。 原告の妻は,それまで医療機関を受診していなかったが,このままでは 自分の疾病が原告の勤務先に理解されず,異動を拒否したとして原告が懲戒免職となる恐れがあると感じたため,平成27年9月11日,Nクリニックを受診し,O医師(以下「O医師」という。)の診察を受けた。 O医師は,原告の妻について,強迫性障害,パニック障害,うつ状態であって,「現在夫(原告)の手厚い支援がなければ家庭生活は成り立たな い状態となっており,夫の支援がなくなってしまうと夫に対する自責感 - 16 -などから抑うつ状態が悪化し,自殺などの重大な行動が生じる可能性が高い。そのため,本人の症状が安定するまでは,夫を含む家庭内外の環境変化は極力避け,治療に専念することが望ましいと診断する。」との診断書を作成した。 (以上につき,甲8,36の② が生じる可能性が高い。そのため,本人の症状が安定するまでは,夫を含む家庭内外の環境変化は極力避け,治療に専念することが望ましいと診断する。」との診断書を作成した。 (以上につき,甲8,36の②,証人M,証人K,原告) ウ被告は,平成27年9月3日,原告に対し,C病院への異動に関する内示を出し,同月10日には,同病院への勤務を命じる旨の文書(甲7)を交付した。 これに対して,原告は,同月16日,被告に対し,妻の診断書と母親の要支援認定結果通知書を添付した「人事異動の内示をお断りした理由につい て」と題する書面(甲10)を提出した。同書面には,妻が精神的に不安定で環境の変化に対応できず,異動により症状が悪化する可能性が高い等,妻の病状が具体的に記載されていた。 その後,A機構は,原告の妻の病状について主治医の考えを確認しておく必要があると判断し,原告に対するC病院への異動命令を一旦留保するこ ととし,暫定的な扱いとして,原告を被告の総務部付き職員に処することとした。 (甲7,10,乙8,9,証人L,証人M,原告)エその後,A機構の産業医は,平成27年10月7日,O医師と面談したところ,O医師は,通勤時間の延長や夫婦同居の転居は問題がないが,当 直は避けるべきとの意見を述べた。そこで,L参事は,C病院まで出向き,原告の当直を免除してもらうこと等の了承を取り付けた。 A機構は,原告のC病院における当直免除が了承されたことで原告の同病院への異動に関する障害はなくなったと判断した。そこで,M総務部長は,平成27年10月27日,原告に対し,同月12月1日付けでのC 病院への異動を内示した。 - 17 -原告の妻は,上記内示当日,原告からその話を聞いてパニック状態となり,同月28日朝に 成27年10月27日,原告に対し,同月12月1日付けでのC 病院への異動を内示した。 - 17 -原告の妻は,上記内示当日,原告からその話を聞いてパニック状態となり,同月28日朝にはドアノブに紐を掛けて首を吊ろうとし,それに気づいた原告に制止されるということがあった。 原告の妻は,同月28日,Nクリニックを受診し,O医師は,新しい環境に適応する不安恐怖感が強く,転居という環境変化そのものが精神的 負担となっていること,夫の不在となる不安及び転居のストレスにより抑うつ状態が悪化し,自殺などの重大な行動が切迫していること,原状では夫を含む家庭内外の環境変化(転勤,転居を含む)は主治医判断として禁ずる旨の診断書(甲11)を作成した。 原告は,同月30日,被告に対し,上記の診断書を添付して,「人事異 動の再検討の依頼,及び理由説明の依頼について」と題する書面(甲12)を提出した。 (以上につき,甲11,12,46,乙1,証人L,証人K,原告)オその後,被告職員は,平成27年11月27日,O医師と再度面談を行い,原告の妻の病状を確認した。 O医師は,同年12月9日付けの意見書(甲14)において,「環境変化がないことを前提とした場合の治療の目安としては,概ね6か月程度で再評価し判断することが望ましい。」「夫の些細な部署異動であっても同一性保持が満たされない不安恐怖感といった部分が強化されてしまい,症状の悪化に寄与しやすいため,転勤,現職場での通勤時間の長短や部署異動など も極力避けることが望ましい。」などと記載した。 A機構は,O医師の意見を踏まえ,異動の可否を続けて検討していくこととしつつ,原告を平成28年3月まで総務部付き職員として置くこととした。 (甲14,乙2,8,証人L) 」などと記載した。 A機構は,O医師の意見を踏まえ,異動の可否を続けて検討していくこととしつつ,原告を平成28年3月まで総務部付き職員として置くこととした。 (甲14,乙2,8,証人L) カA機構は,原告について,いつまでも総務部付き職員という暫定的なポ - 18 -ストに付けておくわけにもいかないと判断し,再度,原告の異動について検討し,平成28年4月1日付けで本件人事異動に係る計画を策定した。 M総務部長は,上記人事異動計画を踏まえ,同年2月22日,原告に対し,本件人事異動を打診した。その際,M総務部長は,原告に対し,宿直の免除についてもDセンターと話をする必要があるが,当然に考慮され ていると思う,M総務部長からも確認をしてみる旨を述べた。 原告は,O医師の意見書では,妻について,おおむね6か月程度で病状の再評価をするのが望ましい旨記載されていたことから,妻の治療のためには原状維持が望ましいとは考えたものの,Dセンターでの宿直が免除されるのであれば,異動を受けることができるかもしれないと考え,M 総務部長に対し,一度持ち帰って検討する旨を回答した。 原告は,同日,妻に対し,本件人事異動の打診があったこと,宿直の免除についてはM総務部長が確認することとなっていることを告げたが,原告の妻は,「6か月は様子を見るという治療計画だったのに」,「まだ治っていない」,「当直の免除がなぜされていないんだろう」,「無理。 怖い」などと混乱した様子を見せ,パニック状態となった。 原告は,妻の様子を見て,今はまだ異動できる状態ではないと判断し,本件人事異動の見直しを求めるしかないと考えた。また,原告は,C病院への内示を伝えた際に妻が自殺を図ったこと(上記⑷エ)から,その日は朝まで起きて妻を見守った まだ異動できる状態ではないと判断し,本件人事異動の見直しを求めるしかないと考えた。また,原告は,C病院への内示を伝えた際に妻が自殺を図ったこと(上記⑷エ)から,その日は朝まで起きて妻を見守った。 原告は,翌23日,妻を連れてNクリニックに行き,O医師の診察を受けた。O医師は,同日付けの診断書(甲15)において,原告の妻の病状について,「強迫性障害とパニック障害のために単身での外出はおろか,病的な確認や強迫思考のために単純な家事もこなせない状態は現在も続いており,特に平成28年2月22日の転勤内示を夫が受けた後から希 死念慮を有するほど抑うつ状態が悪化しており自制困難となりつつあ - 19 -る。」「通勤時間に変化がなかったとしても,少しでも夫の職務や勤務地の変更などがあるとそのことで頭が一杯になり予期不安感が強くなり生活そのものがなりたたなくなる状況にある。よって治療環境としては居住地ならびに夫の職務や勤務地は現在の状況を維持するのが必須であると判断する。」などと記載した。 原告は,同月24日,被告に対し,上記診断書を添付して,現時点で妻の病状が改善していないので,今回の人事異動については見直していただきたい旨を記載した「人事異動についてのお願い」と題する書面(甲16)を提出した。 M総務部長は,同月26日,原告に対し,A機構から本件人事異動の内 示が来ていることを伝えた。 (以上につき,甲15,16,40の②,41の②,50,原告)キ原告は,平成27年3月7日,被告に対し,妻の診断書を添付した人事異動の内示を断った理由等を記載した書面を提出した。 M総務部長は,同月14日,原告と面談して,原告が本件人事異動を拒 否することについては正当な理由があるとは認められず,内示を 付した人事異動の内示を断った理由等を記載した書面を提出した。 M総務部長は,同月14日,原告と面談して,原告が本件人事異動を拒 否することについては正当な理由があるとは認められず,内示を撤回しない旨を述べ,Dセンターに転籍をするために被告を退職する旨を記載した辞職願か,あるいは自己都合で退職する旨の辞職願を提出するように求め,命令に背けば懲戒処分の手続に入る可能性がある旨を述べた。 (以上につき,甲19,甲43の②) クその後,原告は,辞職願を提出せず,また,平成28年4月1日,Dセンターに着任しなかった。 被告は,同日付けで,原告に対し,自宅待機命令を発し,正当な理由なく本件人事異動命令に違反し,Dセンターに着任しなかったことが懲戒事由に該当するとして,同月8日までに弁明書を提出するよう通知した。 原告は,同月8日付けで,被告に対し,妻の病状による不利益が大きす - 20 -ぎるため本件人事異動に同意することができないことや,本件人事異動に同意しないことが業務命令違反になるとは考えていなかったことなどを記載した弁明書を提出した。 被告は,同月27日,原告に対し,①諭旨解雇とすること,②平成28年5月11日までに辞職願を提出しなかった場合は,同月31日付けで 懲戒解雇する旨の懲戒処分を通知した。 (以上につき,甲22,23,25ないし27) 2 争点1(本件人事異動命令の法的性質並びに原告の同意の要否及び同意の有無)について⑴ 被告は,A機構と被告間の人事異動は,厚生労働省の一組織として内部で行 われた人事異動や人事交流を独立法人化した後も踏襲しているにすぎず,長年慣行として行われてきたものであり,実質的には在籍出向とその復帰と同視できる旨主張する(前記第4の1[被告 して内部で行 われた人事異動や人事交流を独立法人化した後も踏襲しているにすぎず,長年慣行として行われてきたものであり,実質的には在籍出向とその復帰と同視できる旨主張する(前記第4の1[被告の主張])。 アしかしながら,①被告とA機構間の人事異動においては,異動元の退職手続と異動先の採用手続が取られるのみならず,人事異動後においては異動 先の就業規則が適用され,懲戒権等も異動先が有し,異動した職員が異動元に対し,何らかの権利を有するとは認められないこと,②多くの職員が異動元に復帰している実情は認められるものの,復帰の時期が予め定められているわけではなく,復帰できるかどうかはその時々の人事異動の結果に依らざるを得ないこと,③A機構と被告間の人事異動においては,同一水準の 賃金が維持され,退職金については期間通算されることは認められるが,労働条件は,労使間の合意で自由に設定できるから,これらを条件として転籍出向することもあり得るところであり,この点をもって,在籍出向と同視できるとまでは認められないこと,以上の点に鑑みれば,被告とA機構間の人事異動は,実質的にみても転籍出向であると認めるのが相当であり,在籍出 向とは同一視すべきであるとする被告の主張は採用できない。 - 21 -なお,被告は,A機構と被告間の協定書(乙4)を根拠として,両者間の人事異動が実質的に在籍出向である旨主張するが,上記認定したとおり,同協定は被告職員に周知されておらず,上記説示した点をも併せ鑑みると,同協定書をもって,同人事異動が在籍出向に該当するものであるとは認められない。したがって,この点に関する被告の主張は採用できない。 イ以上を踏まえて本件についてみると,原告は,A機構との労働契約を解約することにより終了させ,被告 該当するものであるとは認められない。したがって,この点に関する被告の主張は採用できない。 イ以上を踏まえて本件についてみると,原告は,A機構との労働契約を解約することにより終了させ,被告に採用された者であるから,A機構から被告への異動については,転籍出向に該当すると認めるのが相当である。そして,本件人事異動(被告からA機構への異動)についてみても,本件人事異動命令発出時点においてA機構と何ら法的関係を有していない原告が,被 告との労働契約を終了させて,A機構と新たな労働契約を締結することを内容とするものであると認められる。したがって,本件人事異動は,転籍出向の性質を有するものであると認めるのが相当である。 ⑵ア被告は,本件人事異動について,原告の同意は不要である旨主張する。 しかしながら,労働契約の解約と新たな労働契約の締結を内容とする転 籍出向については,転籍元に対する労働契約上の権利の放棄という重大な効果を伴うものであるから,使用者が一方的に行うことはできず,労働者自身の意思が尊重されるべきであるという点に鑑みて,労働者の個別の同意が必要であると解するのが相当である。そして,上記認定説示したとおり,本件人事異動命令の法的性質は,転籍出向であると認められることからす ると,本件人事異動について,上記と別異に扱うべき実質的理由があるとは認められない。 イ被告は,仮に,本件人事異動に関して原告の同意が必要であるとしても,ある程度包括的なもので足り,原告については,包括的な同意がある旨主張する。 しかしながら,上記認定説示した転籍出向の趣旨内容及び転籍出向が労 - 22 -働者に及ぼす影響等に鑑みれば,転籍出向に係る労働者の同意については,個別の同意を必要とし,包括的な同意で足りると解する しながら,上記認定説示した転籍出向の趣旨内容及び転籍出向が労 - 22 -働者に及ぼす影響等に鑑みれば,転籍出向に係る労働者の同意については,個別の同意を必要とし,包括的な同意で足りると解することはできない。そして,この点は,原告が,従前の人事異動に関する運用を知っていたとしても,その点をもって,覆るものではないというべきである。 ⑶ なお,被告は,A機構や被告が厚生労働省の一部局であった当時, 被告とA 機構間において,同一グループとして広範な人事異動が行われていたという歴史的事実からしても,本件人事異動当時においても,そのような人事異動を認める必要性が高い旨主張する。しかしながら,被告及びA機構は,本件人事異動当時,非公務員型の独立行政法人ないしは国立研究開発法人となっていたのであって,原告は,同法人組織の一職員となった以上,両組織間における人事 異動に関する法的規律についても,自ずから変更されることになるのであって,被告が主張する歴史的経緯をもって,本件人事異動の法的性質及び原告の同意の必要性に関する上記認定説示した点は左右されないというべきである。 ⑷ 以上によれば,本件人事異動については,原告の同意が必要であるところ,本件人事異動命令は,原告の同意を欠いており,その点において,無効である と解するのが相当である。そうすると,本件人事異動命令に応じなかったことを理由とする本件解雇については,懲戒解雇事由に該当する事実が認められず,その限りにおいて,無効なものであるということになる。 3 争点2(本件人事異動命令の有効性。人事異動に係る権限濫用の有無)及び争点3(本件解雇に係る懲戒権濫用の有無)について ⑴ はじめに上記1で認定説示したとおり,転籍出向の性質を有する本件人事異動命令は 動命令の有効性。人事異動に係る権限濫用の有無)及び争点3(本件解雇に係る懲戒権濫用の有無)について ⑴ はじめに上記1で認定説示したとおり,転籍出向の性質を有する本件人事異動命令は無効であり,本件においては,本件解雇を基礎付ける懲戒解雇事由があるとはいえない。したがって,その限りにおいて,本件解雇は無効になるが,なお念のため,仮に,被告が主張するとおり,本件人事異動が,在籍出向に類似する もの(実質的に在籍出向)であるとして,本件人事異動命令が人事異動に係る - 23 -権限濫用といえるか否か(争点2)及び本件解雇が懲戒権濫用といえるか否か(争点3)についても検討することとする。 ⑵ 本件人事異動命令の有効性(人事異動に係る権限濫用の有無)及び本件解雇に係る懲戒権濫用の有無についてア使用者が労働者に出向を命じることができる場合において,当該出向 が,その必要性,対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして,その権利を濫用したものと認められる場合には,当該命令は無効となる(労働契約法14条)。 また,使用者が労働者を懲戒できる場合であっても,当該懲戒が,当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして,客観 的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合は,その権利を濫用したものとして無効である(労働契約法15条)。 イ以上を踏まえて本件についてみると,確かに,本件人事異動先であるDセンターについては,原告の通勤時間が異動前と比較して短くなるほか,上記のとおり,当直についても免除される可能性が高いこと,原告は,こ れまで数年の間隔で人事異動をしており,本件人事異動もそれに準じていること,原告について大阪府内以外の病院で経験を積ませる必要性も おり,当直についても免除される可能性が高いこと,原告は,こ れまで数年の間隔で人事異動をしており,本件人事異動もそれに準じていること,原告について大阪府内以外の病院で経験を積ませる必要性も首肯し得ること,以上の点に照らせば,本件人事異動については,一定の合理性があるといえる。 しかしながら,上記認定したとおり,原告の妻の病状は,相当に深刻な ものであったといわざるを得ず,既に日常生活においても多大な支障が具体的に生じていたと認められるところ,原告の妻は,本件人事異動を聞いて現にパニック状態となり,自殺未遂を起こすまでの状況に立ち至っており,原告が本件人事異動命令に従えば環境変化により重大な事態を引き起こす可能性も十分に想定し得たこと,原告の妻の主治医も,原告の 妻につき,「治療環境としては居住地ならびに夫の職務や勤務地は現在の - 24 -状況を維持するのが必須であると判断する。」旨の診断書を作成していること(なお,医学的な観点からの同意見を覆すに足りる的確な証拠は認められない。),原告が本件人事異動を拒否する動機は,妻の病状以外に見当たらず,原告が不当な動機で本件人事異動を拒否しているとは認められないこと,本件人事異動は,原告に係るこれまでの人事異動と同様に, ジョブローテーションの一環として定期的に行われるものであって,原告をDセンターへ異動させることそのものに高度な必要性があったとまでは言い難いこと,以上の点を総合的に勘案すると,仮に,本件人事異動が在籍出向の性質を有するとしても,本件人事異動は,その必要性,対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして,出向に係る権限を濫 用したものと認めるのが相当である。 また,仮に,本件人事異動命令が出向に係る権限を濫用したものといえないとしても ,対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして,出向に係る権限を濫 用したものと認めるのが相当である。 また,仮に,本件人事異動命令が出向に係る権限を濫用したものといえないとしても,上記で認定した原告の妻の病状及び原告が本件人事異動に応じ難い事由があることに加え,原告は被告に対し,人事異動に応じることができない理由等について,再三に渡って診断書を添付した書面 で説明をしていること,上記のとおり,本件人事異動は,ジョブローテーションの域を出るものではなく,原告をDセンターに異動させる高度の必要性があったとまでは認められず,被告及びA機構としては,原告の妻の病状に鑑みて,しばらくの間,原告の人事異動を差し控えることも十分に可能であったとうかがえ,少なくとも原告がDセンターに異動しなけ れば,被告ないしA機構において,組織上著しい支障が生じることを認めるに足りる的確な証拠は認められないこと,原告について処分歴や日常の勤務の不良等を窺わせる事情は認められないこと,以上の諸事情を総合すれば,本件人事異動命令に応じないことを理由とする本件解雇は,重きに失するものといわざるを得ない。したがって,本件解雇は,懲戒権を 濫用したものとして無効というべきである。 - 25 -⑶ なお,被告の就業規則78条2項及び職員人事規程18条によれば,被告における転籍出向について,職員の同意が必要とはならないようにも思われる。 しかしながら,上記2で認定説示したとおり,転籍出向に関しては,その趣旨目的及び労働者に与える影響等に鑑みて,労働者の同意が必要と解するのが相当であること,仮に,上記各条項を前提としたとしても,就業規則78条3項 は正当な理由がある場合は,出向を拒否することができる旨規定していることところ,上 みて,労働者の同意が必要と解するのが相当であること,仮に,上記各条項を前提としたとしても,就業規則78条3項 は正当な理由がある場合は,出向を拒否することができる旨規定していることところ,上記3で認定説示した点からすると,原告には本件人事異動を拒否する正当な理由があると認められること,以上の点からすると,上記した被告の就業規則の規定によっても,本件人事異動が有効とはいえず,本件解雇は無効であるといわざるを得ない。 4 小括⑴ 以上によれば,本件解雇は無効であるから,原告の被告に対する地位確認請求及び本件解雇日以降本判決確定の日までに生じる給与の支払を求める部分については理由がある。 また,賞与の支払を求める点については,被告が国立研究開発法人であるこ と,過去3年間の原告に対する賞与額は夏季も冬季も漸増しており,一定の水準が保たれていること(甲32の①ないし⑥),A機構における賞与は,年間4.2か月分程度で,病院の経営成績により別途年度末賞与が支給されることとされており(甲48),A機構からの転籍出向者であった原告についてもこれを下回る取扱いはされていないと推認できるところ,原告が請求している 夏季及び冬季の賞与の合計額は,原告の給与(住居手当部分を除く。)の合計額の4.2か月分を下回っていること等の事情に鑑みれば,原告が被告に在職する間においては,少なくとも原告には,毎年6月及び12月にそれぞれ本件解雇前3年間の平均額の賞与支払請求権が存在すると認めるのが相当である。したがって,原告の賞与請求についても理由があるというべきである。も っとも,平成28年の夏季賞与については,一部減額の上,支払われているの - 26 -で,この部分については,減額による差額の範囲で理由がある。 ⑵ そして 由があるというべきである。も っとも,平成28年の夏季賞与については,一部減額の上,支払われているの - 26 -で,この部分については,減額による差額の範囲で理由がある。 ⑵ そして,前記前提事実アのとおり,被告は,旧B’センターを前身とし,平成22年4月に独立行政法人となり,平成27年4月に国立研究開発法人となったものであり,商人には該当せず,また,原被告間の労働契約が商行為にあたることを認めるに足りる証拠はない。したがって,原告が被告に対して 請求することができる給与及び賞与に係る遅延損害金の利率は,民法所定の年5分ということになる。 第6 結論以上の次第で,原告の本件各請求は,主文掲記の範囲で理由があるから認容し,その余については理由がないから棄却することとし,仮執行免脱宣言について は相当ではないからこれを付さないこととして,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第5民事部 裁判長裁判官内藤裕之 裁判官前原栄智 裁判官大寄悦加

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