平成14(わ)419 業務上過失致死被告

裁判年月日・裁判所
平成14年9月30日 横浜地方裁判所 川崎支部
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判決文本文3,125 文字)

平成14年(わ)第419号 主文 被告人を罰金40万円に処する。 その罰金を完納することができないときは,金5000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,川崎市立A中学校の教諭として,同校において保健体育を担当する傍ら,同校野球部顧問を務め,同部の練習に際しては,総括的な指導監督に当たるとともに,常に同部員の健康保持に留意すべき業務に従事していたものであるが,平成12年8月21日午前8時ころから,川崎市a区b町c丁目所在のb町少年野球場及びその付近のd河川敷において,野球部員26名による練習を実施した際,同日は高温多湿の晴天で,同所付近の河川敷にはほとんど日陰がなく,真夏の炎天下に10日間の休暇後初めて練習を実施するのであるから,練習中は適宜休憩を取らせ,数回に分けて十分に水分補給させるとともに,激しい運動を避け,練習再開初日で暑さになれていない部員が熱中症等に罹患することを未然に防止すべきはもとより,持久走のごとき熱負荷の大きい運動をさせる場合には,熱中症に罹患しやすい太り気味で体力がない部員の健康状態に特に気を配り,部員に熱中症の症状が現れた場合に,直ちに運動を中止させて体温を下げるなどするために水,救急箱,携帯電話等を持って集団の後方から監視するなど迅速かつ適切な救護措置を講じられる態勢で部員を指導監督し,その健康保持に留意すべき業務上の注意義務があったのに,これを怠り,2時間以上にわたるノック及びゲーム形式ノックの練習中に休憩時間を設けず,同練習終了後に約5分間の給水休憩を取らせただけで,同日午前10時50分ころから,d河川敷の約5,089メートルの持久走を実施させた上,自らは先頭集団とともに1キロメートルあたり約6分を要するペースで走 終了後に約5分間の給水休憩を取らせただけで,同日午前10時50分ころから,d河川敷の約5,089メートルの持久走を実施させた上,自らは先頭集団とともに1キロメートルあたり約6分を要するペースで走って先に前記少年野球場に戻り,後から遅れてくる部員の健康保持に留意しなかった過失により,持久走途中の同日午前11時15分ないし20分ころ,同市a区ef番地c先d河川敷(スタート地点から約3,440メートル地点)において,太り気味で体力がない部員B(当時13歳)にふらついて転倒するなど熱中症の症状が出始めたことに気付かず,同人が後輩部員の肩を借りるなどして走り続けて同日午前11時25分ないし30分ころに同区eg番地h先d河川敷(スタート地点から約4,028メートル地点)において意識を失って転倒した後の同日午前11時35分ころになって初めて前記Bが熱中症に罹患したことを知り,同人の転倒地点に赴いて病状を確認し,同日午前11時50分ころ救急通報するなどの処置を執ったが,同人の熱中症の病状は回復せず,よって同日午後8時41分ころ,同区i町j丁目k番地所在のC病院において,同人を熱中症に起因する多臓器不全による出血性ショックにより死亡させたものである。 (証拠の標目) 略(法令の適用)罰条平成13年法律第138号(刑法の一部を改正する法律)附則2条により同法による改正前の刑法211条前段刑種の選択罰金刑労役場留置刑法18条(金5000円を1日に換算した期間)(量刑の理由)本件は,中学校の課外のクラブ活動に際して,同校の教諭で野球部顧問である被告人が,真夏の炎天下で部の活動を行うに当たり熱中症の発生を予防するとともに,部員に熱中症が生じた場合には迅速かつ適切な措置をとれるような態勢で指導監督し,部員の健康保持に留 諭で野球部顧問である被告人が,真夏の炎天下で部の活動を行うに当たり熱中症の発生を予防するとともに,部員に熱中症が生じた場合には迅速かつ適切な措置をとれるような態勢で指導監督し,部員の健康保持に留意すべき注意義務があるのにこれを怠った結果,部員のうち1名をして熱中症に罹患させた上,その症状が現れた時点でこれに気付かず,その対処が遅れたため,同部員を熱中症に起因する多臓器不全による出血性ショックで死亡させた業務上過失致死の事案である。 被告人は,大学の体育学部において運動生理学等の専門教育を受け,保健体育の教員として生徒に熱中症について教えるとともに,教育委員会などからも再々熱中症についての注意を喚起されるなどしていたものであって,熱中症の発生機序や発症時の対処方法などには相当程度の知識を有していたと認められるにもかかわらず,判示のとおり,炎天下における持久走を実施するに当たり,部員の健康状態への配慮に欠け,適切な救護措置を執りうる態勢にも欠けていたのであるから,体力的に十分の成長を遂げているとはいい難い中学生の部活動の指導を託された者として,その注意義務の懈怠は,厳しく非難されても仕方がないというべきである。 被害者の尊い生命を奪った本件の結果が重大なものであることはいうまでもなく,わずか13歳という春秋に富む年齢にしてその生涯を閉じるに至った被害者の無念は察するに余りある。また,被害者の母親は,毎日被害者のいない家に帰るのはつらく,被害者の死亡したときのことばかり考えてしまい,精神的に追いつめられていると検察官に述べ,さらに被害者はその無限を秘めた将来を奪われ,自分たちは日常生活の中で,笑ったりけんかしたりしながら我が子の成長を見届けるという,親として味わうことができたはずのごく平凡な幸せさえ永久に奪い取られた,被告人に対しては厳罰 を秘めた将来を奪われ,自分たちは日常生活の中で,笑ったりけんかしたりしながら我が子の成長を見届けるという,親として味わうことができたはずのごく平凡な幸せさえ永久に奪い取られた,被告人に対しては厳罰を求めると当公判廷でも陳述しているのであって,我が子に先立たれた父母ら,残された遺族の悲嘆は深く,その処罰感情は厳しいところである。 以上の点からすれば,本件について被告人の刑事責任は重いといわざるを得ない。 しかしながら,本件当日の練習に当たっては,被告人も長期休暇後の練習初日ということを考慮し練習量を通常より軽度のものにし,持久走を実施する直前には部員に給水休憩を与えるなどして,部員らの健康状態に一応の配慮をしていた様子がうかがわれること,被害者の遺族には,Dセンターの災害共済給付制度により死亡見舞金2500万円が既に支払われており,引き続きE委員会との間で賠償金の支払について協議がなされる予定であること,被告人は本件について既に6月間給料の月額の10分の1を減給する懲戒処分を受け,本件以後約2年にわたり教壇を離れて生徒との接触を断ち,また本件について報道を通じて広く世間に認知されるなど社会的制裁を受けていること,これまで被告人には前科前歴もないこと,当公判廷において,重大な責任を感じており,教師として責任を全て受けるつもりでいます,被害者のご両親に対しても謝罪させていただきたいと思いますなどと述べて,本件について十分反省し,謝罪の意を表していることなど被告人に酌むべき諸事情もある。そこで,主文のとおり量刑した次第である。 よって,主文のとおり判決する。 (求刑罰金50万円)平成14年9月30日横浜地方裁判所川崎支部刑事部裁判長裁判官栗田  健一裁判官髙木  順子裁判官横井健太郎 決する。 (求刑罰金50万円)平成14年9月30日横浜地方裁判所川崎支部刑事部裁判長裁判官栗田  健一裁判官髙木  順子裁判官横井健太郎

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