主文 1 被告会社及び被告D は、原告A に対し、連帯して、2698万2301円及びこれに対する平成31年4月8日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 2 被告会社及び被告D は、原告B に対し、連帯して、3913万9302円及び これに対する平成31年4月8日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 3 原告らの被告会社及び被告D に対するその余の主位的請求並びに原告らの被告C 及び被告E に対する主位的・予備的請求をいずれも棄却する。 4 訴訟費用は、別紙訴訟費用負担目録記載のとおりの負担とする。 5 この判決は、1項及び2項に限り、仮に執行することができる。 事実 及び理由第1 請求 1 主位的請求⑴ 被告らは、原告A に対し、連帯して、2813万2301円及びこれに対す る平成31年4月8日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 ⑵ 被告らは、原告B に対し、連帯して、4027万9302円及びこれに対する平成31年4月8日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 2 予備的請求⑴ 被告らは、原告A に対し、連帯して、2813万2301円及びこれに対す る令和3年12月1日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 ⑵ 被告らは、原告B に対し、連帯して、4027万9302円及びこれに対する令和3年12月1日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 事案の要旨 亡F は、被告会社の従業員であり、上司であった被告D 及び被告E(以下、両名 を併せて「被告D ら」という。)らの下で船舶管理業務に従事していたところ、平成31年4月、自殺(以下「本件自殺」という。) 告会社の従業員であり、上司であった被告D 及び被告E(以下、両名 を併せて「被告D ら」という。)らの下で船舶管理業務に従事していたところ、平成31年4月、自殺(以下「本件自殺」という。)をした。 本件は、F の父母である原告らが、本件自殺及びその原因となった精神障害は被告会社における過重な業務や被告D らによるパワーハラスメントに起因するものであるなどと主張して、次の⑴又は⑵の訴訟物に基づき、被告らに対し、損害賠償金 (逸失利益及び死亡慰謝料の各相続分、弁護士費用、原告A につき葬儀関係費用。 原告A につき2813万2301円 、原告B につき4027万9302円)及びこれに対する遅延損害金の連帯支払を求める事案である。 ⑴ 主位的請求相手方訴訟物被告会社不法行為又は使用者責任(民法715条1項)被告C使用者責任(民法715条2項)被告D ら不法行為又は使用者責任(民法715条2項)附帯請求の始期及び利率は、不法行為後の日(F の死亡日)である平成31年4 月8日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)所定の年5%の割合による遅延損害金⑵ 予備的請求相手方訴訟物被告会社安全配慮義務違反を理由とする債務不履行被告C会社法429条1項被告D ら不法行為又は使用者責任(民法715条2項)附帯請求の始期及び利率は、催告後の日である令和3年12月1日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正後のもの)所定の年3%の割合によ る遅延損害金 2 前提事実等(当事者間に争いがないか、掲記の証拠及び弁論の全趣旨により 容易に認められる事実。なお、証拠番号は特記なき限り枝番を含む。)⑴ 当事者等ア る遅延損害金 2 前提事実等(当事者間に争いがないか、掲記の証拠及び弁論の全趣旨により 容易に認められる事実。なお、証拠番号は特記なき限り枝番を含む。)⑴ 当事者等ア F(昭和63年生まれの男性)は、平成26年4月に被告会社に入社し、被告会社の船舶管理グループ(以下、単に「船舶管理グループ」という。)で船舶管理業務に従事していた。 イ原告らは、F の父母である。 ウ被告会社は、船舶の貸渡、受託運航及び管理等を業とする株式会社であり、平成31年1月時点の従業員数は19名であった。(甲1、2)エ被告C は、被告会社の唯一の代表取締役である。(甲1)オ被告D(平成8年4月入社)及び被告E(平成11年11月入社)は、平成3 1年4月当時、被告会社の従業員であり、F の上司であった。(乙22、23)⑵ 船舶管理グループの業務内容及び体制ア船舶管理グループは、①船舶の運航管理業務、②保船業務、③新造船建造業務を行っていた。①船舶の運航管理業務には、㋐船舶の運航支援を行う海務業務と、㋑船舶のハード面の管理を行う工務業務とが含まれ、工務業務には、船舶の修理部 品等の在庫管理業務等が含まれていた。②保船業務には、船舶の定期検査や臨時検査における入渠(ドックに船舶を入れることを指す。)工事の事前準備として、㋐検査内容や修繕内容を記載する入渠仕様書を作成する業務(以下「仕様書作成業務」という。)や、㋑複数の造船所での船舶検査の見積りの比較を行うための見積比較表の作成業務(以下「見積比較表作成業務」という。)が含まれていた。(甲48の1 1、甲57の6、乙22)イ船舶管理グループは、グループリーダー、監督(海務監督と工務監督とに分かれる。)、監督補佐、グループ員で構 表作成業務」という。)が含まれていた。(甲48の1 1、甲57の6、乙22)イ船舶管理グループは、グループリーダー、監督(海務監督と工務監督とに分かれる。)、監督補佐、グループ員で構成されていた。平成29年9月以降は、被告D がグループリーダー、被告E が海務監督、F が工務監督補佐を務めていた。平成31年1月時点の組織図は別紙組織図のとおりであり、監督補佐を務めているのはF のみであった。(甲48の11、甲57の6、乙4、21~23)。 ウ被告会社が管理する船舶の船員(以下、単に「船員」という。)の多くは英語話者であり、F を含む被告会社社員は、船員と電話やメールで英語を用いてコミュニケーションをとる必要があり、また、仕様書作成業務及び見積比較表作成業務は英語を用いて行う必要があったが、F は英語が不得意であった。(乙22、23)⑶ 平成30年度のF の担当業務の内容等 F は、平成30年度中(被告会社の事業年度では、平成30年6月から令和元年5月までを指す。以下、「年度」の記載については同様の期間を指す。)、船舶管理グループにおいて、①「O」(以下「本件船舶」という。)及び「P」の2隻の船舶(以下「本件各船舶」という。)の運航管理業務に工務監督補佐として関与するとともに、②本件船舶の保船業務並びに③その他の新造船の建造業務に従事した。(甲48の 1、甲57の6、乙22)F と被告D らは、当該業務に関し、平成30年10月4日~平成31年4月4日の間に、別紙メール一覧表のとおり、メールでのやり取りをした。 ⑷ 本件船舶の仕様書作成業務についてア被告D は、平成29年12月、F に対し、令和元年5月に定期検査を受ける 予定の本件船舶の仕様書作成業務(以下、本件船舶 でのやり取りをした。 ⑷ 本件船舶の仕様書作成業務についてア被告D は、平成29年12月、F に対し、令和元年5月に定期検査を受ける 予定の本件船舶の仕様書作成業務(以下、本件船舶の入渠仕様書を「本件仕様書」という。)を、平成31年2月末までに作成するよう指示した。(甲57の6、乙22)イ F は、平成31年2月末までに本件仕様書の作成業務を完了することができず、同作業を同年3月末に向けて継続的に行い、同月31日に本件仕様書を完成し て被告D に提出した。F は、同年3月の退社時刻が従前よりも遅くなっていた。(甲57の6、乙17)⑸ 本件船舶の見積比較表作成業務についてア被告D は、平成31年3月22日(金曜日)、F に対し、本件船舶の見積比較表作成業務(以下、本件船舶の見積比較表を「本件比較表」という。)を指示した。 (甲57の6) イ F は、この指示を受けて、被告D に対し、平成31年3月25日(月曜日)まで提出を待ってほしいと返答した。(甲57の6)ウ F は、被告D から、複数回にわたって作業の進捗を確認された後の平成31年4月5日(金曜日)午後10時38分、被告D に対し、本件比較表を提出した。 (甲57の6) エ被告D は、平成31年4月6日(土曜日)、F に架電し、本件比較表の中身を見直し、入力された数値の誤りを翌週月曜日(同月8日)に訂正するように指示した。(甲57の6)⑹ 本件自殺F は、平成31年4月8日(月曜日)、自宅アパート内で自殺した(本件自殺)。 (甲4、10の2)⑺ 本件自殺に係る労働者災害補償保険の支給決定と遺族補償給付等の受給ア佐伯労働基準監督署(以下「佐伯労基署」という。)の調査官は、本件仕様書及 (本件自殺)。 (甲4、10の2)⑺ 本件自殺に係る労働者災害補償保険の支給決定と遺族補償給付等の受給ア佐伯労働基準監督署(以下「佐伯労基署」という。)の調査官は、本件仕様書及び本件比較表の作成作業のためにF の時間外労働時間が増加し、また、F がパワーハラスメントを受けていたと認められ、F が被告会社での業務により「精神病症 状を伴わない重症うつ病エピソード」を発病し、本件自殺に至ったとの調査復命書(甲10の2)を作成した。 佐伯労基署長は、F の死亡は業務上の疾病によると認定し、令和3年4月28日付けで、原告A に対し、労働者災害補償保険(以下「労災保険」という。)に係る遺族補償一時金、葬祭料の支給決定通知をした。(甲10の2、甲13) イ原告A は、本件口頭弁論終結時までに、遺族補償一時金として1130万5000円を、葬祭料として67万8300円を受領した。(甲13、15)⑻ 原告らの被告らに対する損害賠償の催告原告らは、令和3年11月2日、被告らに対し、F の死亡に関する安全配慮義務違反、不法行為又は会社法429条1項に基づく損害賠償請求として、逸失利益、 死亡慰謝料、葬儀費用及び弁護士費用の合計額から原告A が受給した遺族補償一時 金及び葬祭料の金額を控除し、確定遅延損害金を加算した額を請求する旨の通知(甲16)をした。 3 本件の争点及びこれに関する当事者の主張本件の争点は、次のとおりであり、これに関する当事者の主張は、別紙「争点に関する当事者の主張」のとおりである。 ⑴ 本件自殺(及びその原因となった精神障害の発症)が被告会社の業務への従事によって生じたものであるか否か(争点1)⑵ 被告らの責任原因の有無(安全配慮義務違反の有無、不法行為の る。 ⑴ 本件自殺(及びその原因となった精神障害の発症)が被告会社の業務への従事によって生じたものであるか否か(争点1)⑵ 被告らの責任原因の有無(安全配慮義務違反の有無、不法行為の成否、使用者責任の成否、会社法429条1項責任の成否。争点2)⑶ 損害の有無及び額(争点3) ⑷ 過失相殺又は素因減額の類推適用の有無(争点4)第3 当裁判所の判断 1 認定事実前提事実、掲記の証拠並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実(以下、項番号等により「認定事実⑴」等と略称する。)が認められる。 ⑴ F の入社後の状況についてア F は、平成26年4月に被告会社に入社した後、船舶管理グループのグループ員として稼働しており、精神疾患の既往はなく、独身で一人暮らしをしていた。 (甲10の2、甲10の5、甲48の1、証人G〔2頁〕)F は、自宅で深夜までゲームをして過ごすことがあり、勤務中に眠そうにしてい ることが多かった。(甲57の9、甲57の13)イ F は、被告会社への入社前後に、船員として、2年半程度の期間、外国籍の船員と共に勤務をした経験があったが、英語が不得意であり、外国籍の船員との間では、英単語を並べて会話するなどしていた。(甲48の19、甲48の30、甲48の32、甲57の5、甲57の9、甲57の11、甲57の13、乙22) ウ被告D は、平成29年5月頃、F に対し、船舶の仕様書作成業務を指示した ことがあったが(F にとって、仕様書作成業務を行うのはこれが初めての経験であった。)、F は、同業務を完了できなかった。(被告D 本人〔49頁〕)⑵ 平成29年9月のF の昇格被告会社においては、前年度の人事評価が「B」以上であることが昇格の条件で めての経験であった。)、F は、同業務を完了できなかった。(被告D 本人〔49頁〕)⑵ 平成29年9月のF の昇格被告会社においては、前年度の人事評価が「B」以上であることが昇格の条件であったところ、平成29年9月時点におけるF の前年度の人事評価は「B-(マイ ナス)」であり、昇格の条件は満たされていなかったが、被告D が、F の成長への期待を込め、F の昇格を強く推薦した。 これにより、F は、平成29年9月、工務監督補佐に昇格した。 しかしながら、F は、工務監督補佐として、知識及び能力の点で不十分であると評価されていた。(甲10の5、証人G〔2頁〕、被告D 本人〔25、26頁〕、被告 E 本人〔15頁〕)⑶ 平成29年9月以後のF の勤務体制ア F に対する指揮命令等の体制(ア) F は、平成29年9月以降、グループリーダー兼人事評価権者である被告Dの指揮命令の下、F の上司であり、本件各船舶の主担当者であった海務監督の被告 E と共に、工務監督補佐として本件各船舶2隻を担当し、本件各船舶の運航管理業務のうち工務業務として、予備品・船用品及び潤滑油等の在庫管理及び手配業務などの通常業務のほか、事故・トラブル発生時の復旧に向けた支援や指示業務を行っていた。(甲10の5、甲48の1、甲57の4、甲57の6、乙4、7、21~23、証人G〔19頁〕) (イ) 平成30年度頃、本件各船舶の担当者は、被告E とF のみであり、本件各船舶を担当する工務監督は不在であった。(甲10の5、甲48の1、甲57の6、乙4、7、21~23、証人G〔19頁〕)他方、監督であったH 及びI の担当船はそれぞれ3隻及び4隻であり、同じく監督であったJ の担当船は6隻であった。(乙7、21、被告D 1、甲57の6、乙4、7、21~23、証人G〔19頁〕)他方、監督であったH 及びI の担当船はそれぞれ3隻及び4隻であり、同じく監督であったJ の担当船は6隻であった。(乙7、21、被告D 本人〔27、28頁〕) (ウ) 被告D は、F に対して指示していた仕事が手つかずであったり、期限に間に 合わなかったりした際に、F を強い口調で指導することがあり、被告E の面前で「なんでできてないのか」と強い口調で指導することがあった。(甲57の14、被告E本人〔10、13、14頁〕)イ船舶管理グループの勤務場所及び懇親会の状況(ア) 被告C と船舶管理グループの社員は同一フロアで勤務をしており、被告C と F は喫煙室でよく会話をしていた。(甲48の14、被告D 本人〔24頁〕)(イ) 船舶管理グループでは、平成27年12月から平成30年3月頃まで、毎月1回程度の頻度で取締役を交えた懇親会が開催され、被告D やF は、同懇親会に参加していた。また、その頃、毎月2回程度の頻度で、被告D は、F を終業後に飲みに誘うことがあり、F は被告D の誘いに応じていた。他方で、F は、被告会社の海務 監督であったK に対し、「酒が飲めないので会食に行ってもしんどい」と述べたことがあった。(甲57の9、乙22、被告D 本人〔2頁〕)ウ業務連絡の体制等(ア) F は、平成30年度において、被告会社から貸与されるパソコンを持ち帰り、自宅において被告会社の業務に関するメールの確認等を行うことがあった。(甲1 0の5、被告D 本人〔41、42頁〕、被告E 本人〔19頁〕)(イ) 被告会社が管理する船舶において事故やトラブルが生じると、船員から、船舶管理グループのメーリングリストに対し、昼夜を問 0の5、被告D 本人〔41、42頁〕、被告E 本人〔19頁〕)(イ) 被告会社が管理する船舶において事故やトラブルが生じると、船員から、船舶管理グループのメーリングリストに対し、昼夜を問わず、メールで連絡がされていた。また、被告会社において、F を含む監督及び監督補佐に対しては携帯電話(以下「業務用携帯」という。)が貸与され、被告会社が管理する船舶において緊急のト ラブルが生じると、船員から担当者に対し、英語で架電されることがあった(頻度は、二、三か月に1回程度であった。)。被告会社においては、勤務時間外においても、できるだけ業務用携帯を携帯するように指導しており、上記の電話対応を行った場合、当該対応結果を被告会社のLINEグループにおいて報告するよう指導していた。なお、担当者が上記の電話に応答しない場合は、他の監督等に電話連絡が されることとなっていた。(乙22、23、被告D 本人〔43、54頁〕、被告E 本 人〔4、5、19、20頁〕)エ勤務時間の管理体制被告会社は、被告会社において勤務時間管理に用いている勤務表(以下、単に「勤務表」という。)に出退勤時刻等を自己申告で記入させる方法により従業員の労働時間を管理していた。(争いがない) オ組織的な英語教育の不存在被告会社は、平成30年度当時、社員に対する組織的な英語教育を行っていなかった。(甲48の19、甲57の6、甲61の2、証人G〔12頁〕、被告D 本人〔28、32頁〕)⑷ F の平成30年7月までの勤務状況について ア本件仕様書作成業務(ア) 被告D は、平成29年12月、F に対し、令和元年5月に定期検査を受ける予定の本件船舶について、平成31年2月末までに本件仕様書を作成するよう指示した。仕 ア本件仕様書作成業務(ア) 被告D は、平成29年12月、F に対し、令和元年5月に定期検査を受ける予定の本件船舶について、平成31年2月末までに本件仕様書を作成するよう指示した。仕様書作成業務は、英語を用いて行う必要があり、仕様書作成の経験がない者にとって、四、五か月を要する業務であった。(甲57の6、乙22) (イ) もっとも、本件船舶は過去に定期検査が実施されたことがなかったため、Fは、本件仕様書作成に際し、従前の定期検査時に作成された仕様書を参照することができなかった。そのため、被告D は、F が本件仕様書の作成を行うに当たり、①本件船舶の中間検査時に作成された入渠仕様書のデータ(乙12)、②被告D において一部を本件船舶の仕様に修正してその点をマーカー等で示した他の船舶の定期検 査の入渠仕様書(乙13)を参考に提供していたが、中間検査と定期検査では検査項目が異なるため、本件船舶の中間検査時の入渠仕様書のデータは一部分のみしか流用することができず、また、船舶ごとに構造が異なるため、他の船舶の定期検査の入渠仕様書を、本件仕様書の作成にそのまま流用することはできなかった。(甲57の6、乙12、13、22、被告D 本人〔14頁〕) イ平成30年5月時点の本件仕様書作成業務の進捗状況被告D は、平成30年5月、F に対し、本件仕様書の作成業務の進捗状況を確認し、作成途中の本件仕様書の内容を確認した。この際、本件仕様書は70%程度完成していた。(被告D 本人〔15頁〕)⑸ F の平成30年8月~平成31年4月の勤務状況 ア概要F は、平成30年8月から平成31年4月4日にかけて、本件仕様書及び本件比較表の作成業務のほか、次のような業務を行った。このうち、被告会 30年8月~平成31年4月の勤務状況 ア概要F は、平成30年8月から平成31年4月4日にかけて、本件仕様書及び本件比較表の作成業務のほか、次のような業務を行った。このうち、被告会社において管理する船舶の事故やトラブルを管理するために作成されている「事故・トラブルリスト」(乙1)に記載されていたのは、(ア)①~④の事象のみであった。 (甲10の5、 甲10の6、甲57の7、乙1、22、被告D 本人〔4、5、29、30頁〕)(ア) 本件各船舶及びその他の船舶に関する運航管理業務① パイプの損傷への対応(平成30年9月)② 発電機燃料噴射ポンプの摩耗への対応(同月)③ 基板の不良への対応(平成30年10月。なお、このトラブル対応は、船舶 の不稼働につながる緊急性の高い案件であった。)④ 本件船舶に不適切な溶接が行われたことが発覚したことに対する対応(平成31年2月)⑤ 本件船舶の油圧アキュームレーターの不具合への対応(平成31年3月)⑥ 薬剤の在庫不足への対応(平成31年3月) ⑦ メインエンジン点火用の空気を送るモーターの不具合への対応(平成31年3月)⑧ 燃料補給に対する問合せへの対応(平成31年4月4日)(イ) 知識取得のための業務上司に同行して造船所等に出張するなどしての本件各船舶以外の船舶の建造や機 器の試運転、検査等の立会(4回) イ労働時間数等(ア) F が、死亡前6か月の期間において、勤務表を用いて自己申告した時間外労働時間は平成30年10月31日の4時間のみであったが、F の死亡前6か月の時間外労働時間は、少なくとも死亡前1か月において43時間29分、死亡前2か月において20時間39分、死亡前3か月において 働時間は平成30年10月31日の4時間のみであったが、F の死亡前6か月の時間外労働時間は、少なくとも死亡前1か月において43時間29分、死亡前2か月において20時間39分、死亡前3か月において5時間38分、死亡前4か月にお いて2時間30分、死亡前5か月において13時間30分、死亡前6か月において6時間58分であった。(甲10の5、甲10の10、甲10の11)(イ) 被告D は、①F が本件仕様書及び本件比較表の作成業務を行っていたこと、②死亡1か月前及び2か月前頃の期間において、各作業が順調に進んでおらず、F が、被告D よりも遅い時間まで勤務している状況であったことを認識していたが、F に 対し、「早く帰れ」という声かけをしたにとどまり、作業時間を短くする方法を指導するなどの具体的な業務負担の軽減策を採らなかった。(被告D 本人〔41、53頁〕)(ウ) F は、平成30年11月に実施された定期健診において、肥満との指摘を受けたものの、その他特段の健康上の支障は指摘されなかった。(甲8) ウ平成30年12月以降本件自殺に至るまでのF の具体的な業務状況等(ア) 被告D は、平成30年12月、F に対し、本件仕様書の作成業務の進捗状況を口頭で確認したところ、F は、業務はほぼ完了していると報告した。 (甲57の6、被告D 本人〔15頁〕)(イ) F は、平成31年の正月の帰省時、自室でゲームや小説を読み、友人と外出 するなどし、普段と変わらない様子で過ごしていた。(甲10の2、甲48の3、甲48の5、証人L〔13頁〕)(ウ) 本件船舶の借主は、平成31年1月12日、同年5月に予定されていた定期検査を同年1月20日に実施してほしいとの要望を述べ、調整の結果、本件船舶の定期検査を同年 8の5、証人L〔13頁〕)(ウ) 本件船舶の借主は、平成31年1月12日、同年5月に予定されていた定期検査を同年1月20日に実施してほしいとの要望を述べ、調整の結果、本件船舶の定期検査を同年2月中旬に実施する段取りとなった。被告D は、本件船舶の定期検 査の実施時期が早まったことから、F に対し、本件仕様書の作成業務の進捗状況を 確認したところ、平成30年12月に確認した段階から作業が進んでいなかった。 その後、本件船舶の借主は、平成31年2月17日、定期検査の日程を再度変更することを求める旨を連絡し、最終的に、同年5月18日が定期検査の実施日と調整された。(甲57の6)(エ) 被告E は、平成31年1月21日、F に対し、「土曜日に貴職へ送信した件、 返答がありません。以前返答するように注意しましたが、返答が無いということは週末はメールを見ていないと判断します。状況によりメールで返答できなければ、ラインでも返答は出来ます。」とのメールを送信し、勤務時間外においても被告会社のグループLINEの投稿内容等を確認するように指導した。(甲57の13、甲58、被告E 本人〔21、22頁〕) (オ) 被告D は、作業の締切りであった平成31年2月末、改めてF に対し、本件仕様書の作成業務の進捗状況を口頭で確認したところ、F は、業務は完了していると報告した。 しかしながら、F は、その時点で、実際には本件仕様書の作成業務を完了しておらず、引き続き、本件仕様書の作成作業を同年3月末に向けて行うこととしていた が、被告D は、その際、本件仕様書のデータの内容確認をしなかった。 (甲57の6、被告D 本人〔30、50頁〕)(カ) 被告D は、平成31年3月11日、F が本件仕様書の作成業務を完了して が、被告D は、その際、本件仕様書のデータの内容確認をしなかった。 (甲57の6、被告D 本人〔30、50頁〕)(カ) 被告D は、平成31年3月11日、F が本件仕様書の作成業務を完了していないことを認識し、メールで「F さん一年の猶予を与えましたので直ぐに提出出来るはずです。私にも直ぐに送って下さい。E 監督フォロー願います。」と連絡し、 同月12日、F に対し、F が提出した本件仕様書案のデータの添削を行い、メール本文に「昼休み返上で印刷範囲外に小職のコメントを入れました」等と記載し、また、添付ファイルのコメントとして、「手抜きにも程があります。」、「手抜きの何でも貼付けはやめようね。」、「先生ちゃんとしないと」、「恐れ多くもD 様が作成した原紙です。書体は揃える事。図面の貼付け方も雑にしない事。」等と記載した。(別紙メー ル一覧表、甲23、61、乙22、被告D 本人〔16頁〕) (キ) F は、平成31年3月15日までに被告D の上記コメントを踏まえて修正を行い、本件仕様書の暫定版を、定期検査の仲介業者に提出した。(乙16の1、16の2)(ク) F は、平成31年3月頃、兄であるL と電話で通話した際、「何をやっても私は駄目なんだ」と落ち込んだ様子で話をしていた。(甲10の2、甲48の3、甲4 8の5、証人L〔13頁〕)(ケ) 被告D は、平成31年3月22日、F に対し、本件比較表の作成も指示した。 本件比較表の作成は、依頼先の2社から提出された各見積書(乙18、19)の内容と金額を、定期検査の項目ごとに表に入力するという業務であり、英語を用いて行う必要があった。F は、本件船舶の中間検査の際に、見積比較表を作成した経験 があり、被告D の認識は、本件比較表の作成業務は、通 期検査の項目ごとに表に入力するという業務であり、英語を用いて行う必要があった。F は、本件船舶の中間検査の際に、見積比較表を作成した経験 があり、被告D の認識は、本件比較表の作成業務は、通常であれば、1日程度で完成できる業務であるというものであった。(甲57の6、乙22、被告D 本人〔52頁〕)(コ) F は、その後も、被告D の指摘を踏まえて本件仕様書のデータの修正作業をさらに継続して行い、平成31年3月31日に本件仕様書を完成して被告D に提出 した(乙17、22)。 (サ) 被告D は、F が本件比較表の提出期限を徒過したため、複数回、F に対して進捗確認を行い、その際、F からは、「まだやっていません」との報告を受けた。この際、被告D は、亡F が比較表作成を完了していない理由につき確認しなかった(甲57の6)。 (シ) F は、平成31年4月5日、被告D に対し、本件比較表を提出した。被告Dは、同月6日、F に対し、本件比較表の内容について、同月8日に訂正作業をするよう指示した(前提事実⑸ウ、エ)。 (ス) F は、平成31年4月7日、ロープと脚立を購入し、同月8日に自殺した(本件自殺)。(前提事実⑹、甲10の2) ⑹ 大分労働局地方労災医員協議会の意見書の内容 大分労働局地方労災医員協議会の意見書(以下「本件意見書」という。)には、Fは、本件自殺直前に、希死念慮を伴う重度のうつ状態に陥っていたと考えられるとして、F は、本件自殺当日の平成31年4月8日に、ICD-10診断ガイドラインに基づく疾病分類のうち、F32.2「精神病症状を伴わない重症うつ病エピソード」(以下「本件精神障害」という。)を発病して本件自殺に及んだと判断される 旨、F の業務による心理的負 ガイドラインに基づく疾病分類のうち、F32.2「精神病症状を伴わない重症うつ病エピソード」(以下「本件精神障害」という。)を発病して本件自殺に及んだと判断される 旨、F の業務による心理的負荷の程度は「強」と判断され、F の死亡は業務上のものとすべき旨の記載がある。(甲10の2) 2 争点1(F の自殺(及びその原因となった精神障害)が被告会社の業務への従事によって生じたものであるか否か)について⑴ 業務の過重性について ア事実認定の補足説明(F の時間外労働時間)について(ア) 被告会社のセキュリティシステムの開錠・施錠時刻、F のパソコンのログ時刻、メール送信時刻、ファイル更新時刻等の記録(甲10の5、甲10の10、甲10の11)によれば、F の死亡前6か月の時間外労働時間は、認定事実⑸イ(ア)のとおり、少なくとも死亡前1か月において43時間29分、死亡前2か月において 20時間39分、死亡前3か月において5時間38分、死亡前4か月において2時間30分、死亡前5か月において13時間30分、死亡前6か月において6時間58分であったと認めるのが相当である。 (イ) これに対し、被告らは、勤務表の記載に基づき、F の死亡前6か月の時間外労働時間は4時間のみであったと主張する。 しかしながら、勤務表は、自己申告で記入させる方法によって作成されたものである上(認定事実⑶エ)、勤務表に記載された時間外労働時間は、前記証拠(甲10の5、甲10の10、甲10の11)に照らし、F の勤務実態と乖離していることが明らかであり、被告らの上記主張は採用できない。 イ検討 前提事実及び認定事実によれば、本件自殺に至るまでのF の執務状況につき、前 記アのF の時間外労働(認定事実⑸ が明らかであり、被告らの上記主張は採用できない。 イ検討 前提事実及び認定事実によれば、本件自殺に至るまでのF の執務状況につき、前 記アのF の時間外労働(認定事実⑸イ)のほか、次の点を指摘することができる。 ① F は、入社5~6年目であり、監督補佐として1~2年目であった。F は、監督補佐への昇格時、被告会社内部の昇格基準を満たしておらず、監督補佐への昇格後も、周囲から、知識及び能力の点で不十分であると評価されていた。(認定事実⑴ア・⑵) ② 被告会社では、船員とのコミュニケーションや仕様書作成業務、見積比較表作成業務において英語を用いる必要があったが、F は英語が不得意であった。(前提事実⑵ウ、認定事実⑴イ)③ F は、初めて仕様書作成業務を担当した平成29年において、仕様書作成業を完了することができなかったこともあり、仕様書作成業務の経験が乏しい中で、 被告D から本件仕様書の作成業務を指示された。F は、本件仕様書の作成に当たり、本件船舶の過去の定期検査で作成された入渠仕様書のデータを参照することができなかったこともあり、被告D からの一定の支援(本件船舶の中間検査時の入渠仕様書のデータ提供や、被告D が本件船舶の仕様に合わせて一部修正した他の船舶の定期検査の入渠仕様書のデータの提供)を受けたものの、本件仕様書の作成業務を思 うように処理できず、作業の締切りを徒過した。また、平成31年1月には、本件船舶の定期検査日のスケジュールが一時的に早められ、F において、本件仕様書の作成業務を急ぐ必要が一時的に生じた。(認定事実⑴ウ・⑷・⑸ウ(ウ)・(オ))④ 被告D は、F が、本件仕様書の作成業務の締切りを徒過している状況であった平成31年3月22日に、本件比較表の作成 業務を急ぐ必要が一時的に生じた。(認定事実⑴ウ・⑷・⑸ウ(ウ)・(オ))④ 被告D は、F が、本件仕様書の作成業務の締切りを徒過している状況であった平成31年3月22日に、本件比較表の作成を指示したところ、F は、本件比較 表の作成作業についても締切りを徒過した。(認定事実⑸ウ)⑤ F は、業務時間外や休日においても業務上のメールに対応をするよう求められ、昼夜を問わず、船員からの緊急の電話連絡に対応できるように業務用携帯をできるだけ携帯するように指導されており、帰宅後や休日においても、一定の精神的緊張を強いられた。(認定事実⑶ウ・⑸ウ(エ)) 以上の事情を総合すれば、F は、監督補佐として知識及び経験の不足がある中で、 不得意な英語を用いる不慣れな本件仕様書の作成業務に苦慮している状況において、本件比較表の作成業務を指示されるなどしたため、これらの業務はいずれも順調に進展せず、結果として、F の死亡前約1か月の時間外労働は、少なくとも43時間29分に増加した(死亡前2か月の期間の時間外労働時間と比較して20時間以上増加した。)といえる。F が、帰宅後及び休日においても業務上メールや電話連絡に 対応すべきことが求められ、一定の精神的緊張を強いられていたという事情も併せて考慮すると、少なくとも、死亡前約1か月のF の業務内容は、質的にも量的にも、相当程度の心理的負荷を生じさせるものであったと評価できる。 ⑵ 被告D による指導の状況について前提事実によれば、被告D は、F の死亡前約1か月の期間において、F に対し、① 「手っ取り早くではなく、よ~く考えて行動して下さい」、「貴方にも後輩が出来ました。追い越されない様によ~く考えて下さい」とメールで送信し、②F が提出した本件仕様書 おいて、F に対し、① 「手っ取り早くではなく、よ~く考えて行動して下さい」、「貴方にも後輩が出来ました。追い越されない様によ~く考えて下さい」とメールで送信し、②F が提出した本件仕様書のファイルのコメントとして、「手抜きにも程があります。」、「手抜きの何でも貼付けはやめようね。」、「翻訳ソフトに頼るからこうなるでしょ。」(同コメントはのべ10回記入されていた。)、「先生ちゃんとしないと」(同コメントはのべ 4回記入されていた。)、「恐れ多くもD 様が作成した原紙です。書体は揃える事。図面の貼付け方も雑にしない事。」等と記載し、メールに添付して送信し、③F が、船舶の修理業者一覧表の作成業務を取引先に依頼したことが発覚したことについて、注意・指導をする趣旨で、「ナマケモノの態度を改めなければあなたを必要とする理由が見当たりません。猛省して下さい。」とのメール(以下、上記①~③のメールを 併せて「本件各メール」という。)を送信した(別紙メール一覧表)。 このような本件各メールの送信は、当該表現を用いたことについて業務上の必要性はなく、いずれも、F を叱責したり、その人格を貶めたりする内容で、社会的相当性を欠く不適切なものであったといえる。本件各メールを送信した時期は、F の業務内容が質的にも量的にも相当程度の心理的負荷を生じていたF の死亡前約1か 月間(前記⑴参照)であったことも併せ考慮すると、本件各メールの本文の表現及 びファイルに付されたコメントの表現は、F にとって、相当程度の心理的負荷を生じさせるものであったといえる。 ⑶ 小括以上によれば、F は、①その死亡前約1か月の業務内容が、質的にも量的にも相当程度の心理的負荷を生じさせるものであり、②これと近い時期に、上司である被 告 ものであったといえる。 ⑶ 小括以上によれば、F は、①その死亡前約1か月の業務内容が、質的にも量的にも相当程度の心理的負荷を生じさせるものであり、②これと近い時期に、上司である被 告D から、F を叱責し、その人格を貶める表現(このような表現を用いたことに業務上の必要性がなく、社会的相当性を欠く不適切なものであった。)を含む本件各メールが送信され、更に相当程度の心理的負荷を生じていたのであり、これらにより、遅くとも平成31年4月7日までに、心身共に疲労困ぱいした状態になったものといえる。そうすると、F の業務による心理的負荷は、社会通念上、客観的にみて、自 殺を惹起させうる精神障害を発症させる程度に過重であったと評価することができる。 そして、F に精神疾患の既往がなく(認定事実⑴ア)、F の死亡前の時期に、業務以外の心理的負荷が存在したとは認められないことも考慮すると、F が、前記のような被告会社の業務に起因して、平成31年4月8日に本件精神障害を発病し、本 件自殺に及んだとの本件意見書の内容(認定事実⑹)は採用することができる。したがって、F は、被告会社の業務への従事によって本件精神障害を発病し、本件自殺に及んだものと認められる。 ⑷ 被告らの主張についてこれに対し、被告らは、①F が従事した本件仕様書及び本件比較表の作成業務は、 いずれも高度な知識や技術、英語力が求められる困難な業務ではなく、また、被告会社の勤務表によれば、F が死亡前6か月の間に時間外労働を行ったのは4時間のみであり、F が死亡前に過重な超過勤務を行った事実はなかったなどとして、被告会社における業務は過重でなかった、②被告D がF に対して送信したメールの内容は、いずれもF に対する指導として業務上必要かつ相当な範囲内 亡前に過重な超過勤務を行った事実はなかったなどとして、被告会社における業務は過重でなかった、②被告D がF に対して送信したメールの内容は、いずれもF に対する指導として業務上必要かつ相当な範囲内のものであったな どと主張する。 しかしながら、①の点については、F には、監督補佐として知識及び能力に不足している部分があり、英語が不得意であった中で、本件仕様書及び本件比較表の作成業務を順調に終えることができていなかった状況が認められ、その事情はF の心理的負荷を生じさせていたといえることは前記⑴で説示したとおりであり、F の時間外労働時間については前記⑴アで説示したとおりである。 また、②の点については、F に対する業務上の指導を行う必要があったとしても、被告D が、F の死亡前約1か月の期間に、F に対して送信した本件各メールの表現が社会的相当性を欠く不適切な内容であり、当該表現を用いることにつき業務上の必要性があるとはいえないことは、前記⑵で説示したとおりである。 したがって、被告らの前記主張は、いずれも採用することができない。 3 争点2(被告らの責任原因の有無)について⑴ 判断枠組みについて使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当であり、使用者に代わって 労働者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は、使用者の上記注意義務の内容に従ってその権限を行使すべきものである(最高裁平成10年(オ)第217号、第218号同12年3月24日第二小法廷判決・民集54巻3号1155頁参照)。 ⑵ 被告会社の責任について の内容に従ってその権限を行使すべきものである(最高裁平成10年(オ)第217号、第218号同12年3月24日第二小法廷判決・民集54巻3号1155頁参照)。 ⑵ 被告会社の責任について ア検討認定事実及び前記2で説示したところによれば、被告会社は、①時間外労働時間を自己申告に委ね、F の客観的な労働時間を把握しようとせず(認定事実⑶エ)、②被告D において、F の死亡1か月前及び2か月前頃の期間に、F の業務遂行が順調に進んでいないこと及びF の残業時間が増加していることを認識していたにもかかわ らず、F の業務の量等を適切に調整するための措置を採ることはなく(認定事実⑸ イ(イ))、かえって、③F の業務の負担は、平成31年3月末頃に向けて増加することとなり、その結果、被告D による本件各メールの送信による心理的負荷の増加と相俟って、F は、心身共に疲労困ぱいした状態になり、それが誘因となって本件精神障害を発病し、突発的に本件自殺に至った(前記2)というのである。 以上によれば、被告会社は、F の業務の量等を適切に調整するなどして、F の業務 の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して、F の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うにもかかわらず、これを尽くさなかったものと認められるから、被告会社には、安全配慮義務違反及び不法行為法上の過失があったと認められる。 イ被告会社の主張について これに対し、被告会社は、本件自殺の直前まで、F の精神状態に変調はなかったのであるから、被告会社において、F の心身の健康が損なわれて何らかの精神障害を発症することについての具体的な予見可能性はなかったと主張する。 しかしながら、長時間労働の継続等により疲労や心理的負荷等 あるから、被告会社において、F の心身の健康が損なわれて何らかの精神障害を発症することについての具体的な予見可能性はなかったと主張する。 しかしながら、長時間労働の継続等により疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なうおそれがあることは、広く知られているところで ある。前提事実及び認定事実によれば、①船舶管理グループのグループリーダーである被告D において、F の本件仕様書及び本件比較表の作成業務が順調に進んでいないことや、F の死亡1か月前及び2か月前頃の期間に、F の残業時間が増加していることを認識していたのであり(前提事実⑵、認定事実⑸イ(イ))、②前記2⑵で指摘した不適切な内容を含む本件各メールは、業務上やり取りされたものであり、送 信先として被告E も適宜加えられていたから(別紙メール一覧表)、被告会社において適切な業務管理体制を執っていれば、このようなやり取りがされていることを容易に把握することができたといえる。これらの事情に加え、被告会社の周囲の社員もF が業務時間中に眠そうにしていることが多かったと認識していたこと(認定事実⑴ア)も併せを考慮すると、被告会社において、F の勤務状態がその健康状態の 悪化を招くことにつき、仮に現にこれを認識していなかったとしても、これを認識 し得たといえるから、前記アのような事態の予見可能性があったものというべきである。 したがって、被告会社の前記主張は、採用することができない。 ⑶ 被告C の責任についてア使用者責任(民法715条2項)について (ア) 民法715条2項にいう「使用者に代わって事業を監督する者」とは、客観的にみて、使用者に代わって現実に事業を監督する地位にある者を指称するものと解すべきであり(最高 2項)について (ア) 民法715条2項にいう「使用者に代わって事業を監督する者」とは、客観的にみて、使用者に代わって現実に事業を監督する地位にある者を指称するものと解すべきであり(最高裁昭和32年(オ)第922号同35年4月14日第一小法廷判決・民集14巻5号863頁参照)、使用者が法人である場合において、その代表者が現実に被用者の選任、監督を担当しているときは、当該代表者は同項にいう 代理監督者に該当し、当該被用者が事業の執行につきなした行為について、代理監督者として責任を負わなければならないが、代表者が、単に法人の代表機関として一般的業務執行権限を有することから、ただちに、同項を適用してその個人責任を問うことはできないものと解される(最高裁昭和39年(オ)第368号同42年5月30日第三小法廷判決・民集21巻4号961頁参照)。 (イ) これを本件についてみると、前提事実及び認定事実によれば、次のとおり指摘することができる。 ① 被告C は、平成30年度当時、従業員数が20名弱の小規模な会社である被告会社の唯一の代表取締役であった(前提事実⑴ウ、エ)。 ② もっとも、被告会社においては、代表取締役の下にM 取締役が配置され、同 取締役の下に、安全管理グループ(1名)と船舶管理グループ(12名)とが配置され、船舶管理グループのリーダーとして被告D が配置されていた(前提事実⑵イ)。 ③ F は、平成29年9月以降、グループリーダー兼人事評価権者である被告Dの指揮命令の下、F の上司であり、本件各船舶の主担当者であった海務監督の被告E と共にその具体的業務に従事していた(認定事実⑶ア)。 ④ 以上の事実に照らすと、被告会社において現実にF の選任、監督を担当して いた者は、 主担当者であった海務監督の被告E と共にその具体的業務に従事していた(認定事実⑶ア)。 ④ 以上の事実に照らすと、被告会社において現実にF の選任、監督を担当して いた者は、被告D や被告E であり、被告C は、現実にF の選任、監督を担当していたとは認め難いというべきである。 ⑤ したがって、被告C は、原告らに対し、使用者責任(民法715条2項)を負わない。 イ会社法429条1項の責任について 前提事実及び認定事実によれば、前記ア(イ) ①・②の事実に加え、次のとおり指摘することができる。 ① 被告会社は、使用者として、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負っていたところ、被告 C は、被告会社の代表取締役として、①委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、取締役の職務を行う義務を負い(会社法330条、民法644条)、②法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、株式会社のため忠実にその職務を行わなければならない(会社法355条)という立場にあった。 ② そうすると、被告C は、被告会社の代表取締役として、被告会社に前記①の 注意義務を尽くさせるため、善良な管理者の注意をもって、F の労働時間及び勤務状況を把握し、その心身の健康を損なうことがないように適切な労務管理を行うための体制を整備すべき職務上の義務を負っていた。 ③ ところが、F は、前記⑵アのような経緯により、心身共に疲労困ぱいした状態になり、それが誘因となって本件精神障害を発病し、突発的に本件自殺に至った ものである。 ④ 以上によれば、被告C は、被告会社の代表取締役と のような経緯により、心身共に疲労困ぱいした状態になり、それが誘因となって本件精神障害を発病し、突発的に本件自殺に至った ものである。 ④ 以上によれば、被告C は、被告会社の代表取締役として、F の業務が前記2⑴のとおり過重であったにもかかわらず、㋐時間外労働時間を社員の自己申告に委ね、社員の客観的な労働時間を把握するための仕組みを採用せず、㋑船舶管理グループ内の業務遂行の管理をグループリーダーに一任するといった業務体制を執った ため、㋐F の業務の量等を的確に把握できず、㋑F の業務遂行や時間外労働の状況を 認識していた船舶管理グループのグループリーダー(被告D)においてF の業務の量等を適切に調整するための措置を採らず、かつ、被告D のF に対する不適切な表現を含む本件各メールも放置されることになり、前記⑵アのような事態を招いたのであるから、被告会社において、F の労働時間及び勤務状況を把握し、F の心身の健康を損なうことがないように適切な労務管理を行うための体制を整備せず、前記職 務上の義務に違反したといえる。 ⑤ もっとも、被告C は、前記ア(イ)のとおり、現実にF の選任、監督を担当していたとは認め難いのであり、F の労働時間及び勤務状況が前記2⑴のとおり過重であったことを具体的に把握していたというべき事情もうかがわれないこと等を踏まえると、前記④のような被告C の過失(職務上の義務違反)は、わずかな注意を払 えさえすれば職務上の義務を尽くすことができたのに、漫然とこれを行わなかったといった故意に準ずる程度のものであったとまではいえず、会社法429条1項にいう「重大な過失」には当たらない。 したがって、被告C は、原告らに対し、F の本件精神障害の発病及び本件自殺につき、会社法429 に準ずる程度のものであったとまではいえず、会社法429条1項にいう「重大な過失」には当たらない。 したがって、被告C は、原告らに対し、F の本件精神障害の発病及び本件自殺につき、会社法429条1項に基づく損害賠償責任を負わない。 ウ原告らの主張についてこれに対し、原告らは、被告C が使用者責任(民法715条2項)又は会社法429条1項の責任を負う旨を主張する(別紙争点に関する当事者の主張⑵(原告らの主張)イ)が、以上に説示したところに照らし、原告らの前記主張はいずれの点も採用することができない。 ⑷ 被告D の責任についてア検討前提事実及び認定事実によれば、次のとおり指摘することができる。 ①被告D は、船舶管理グループのグループリーダー兼人事評価権者として、F をその指揮命令の下に置き、F に対して具体的な業務を指示し、その業務遂行の管理 監督をしていたが(認定事実⑶・⑷)、F の死亡1か月前及び2か月前頃の期間に、 F の業務遂行が順調に進んでいないこと及びF の残業時間が増加していることを認識していたにもかかわらず、F の業務の量等を適切に調整するための措置を採ることはなかった(認定事実⑸イ(イ))。そのため、F の業務の負担は、平成31年3月末頃に向けて増加することとなった。 ② さらに、被告D は、その頃、F を叱責し、その人格を貶める表現(このよう な表現を用いたことに業務上の必要性がなく、社会的相当性を欠く不適切なものであった。)を含む本件各メールを送信した(別紙メール一覧表)。これにより、F は、その心理的負荷が更に増加したものである(ただし、被告D が、F に対し、本件各メールの送信以外に、F を日常的に叱責するなどのパワーハラスメントも行ってい 別紙メール一覧表)。これにより、F は、その心理的負荷が更に増加したものである(ただし、被告D が、F に対し、本件各メールの送信以外に、F を日常的に叱責するなどのパワーハラスメントも行っていたと認めるに足りる的確な証拠はない。)。 ③ F は、それらにより、心身共に疲労困ぱいした状態になり、それが誘因となって本件精神障害を発病し、突発的に本件自殺に至ったである。 以上によれば、被告D は、船舶管理グループのグループリーダーとして、F の業務の量等を適切に調整するなどして、F の業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して、F の心身の健康を損なうことがないように注意すべき義務を負う にもかかわらず、これを尽くさなかったものと認められるから、被告D には、不法行為法上の過失があったと認められる。 イ被告D の主張についてこれに対し、被告D は、①被告D のF に対する指導の方法は業務上必要かつ相当なものであった、②本件自殺の直前まで、F の精神状態に変調はなかったのである から、被告D において、F の心身の健康が損なわれて何らかの精神障害を発症することについての具体的な予見可能性はなかったと主張する。 しかしながら、①の点については、被告D のF に対する指導のうち、本件各メールの送信が、当該表現を用いたことについて業務上の必要性はなく、いずれも、F を叱責したり、その人格を貶めたりする内容で、社会的相当性を欠く不適切なもので あったことについては、前記2⑵で説示したとおりである。 ②の点については、前記⑴アで説示したところに照らせば、被告D において、F の勤務状態がその健康状態の悪化を招くことにつき、仮に現にこれを認識していなかったとしても、容易にこれを認識し得た ②の点については、前記⑴アで説示したところに照らせば、被告D において、F の勤務状態がその健康状態の悪化を招くことにつき、仮に現にこれを認識していなかったとしても、容易にこれを認識し得たといえるから、前記予見可能性を有していたものというべきである。 したがって、被告D の前記主張は、採用することができない。 ⑸ 被告E の責任についてア検討前提事実及び認定事実によれば、次のとおり指摘することができる。 ① 被告E は、F の上司であり(前提事実⑴オ)、本件各船舶に関する業務をF と共に担当していたところ(認定事実⑶ア)、被告D の指示を受け、F の上司として、 F に対して業務上の指導を行ったこと(別紙メール一覧表)や、F に対して勤務時間外においても被告会社のグループLINEの投稿内容等を確認するように指導したこと(認定事実⑸ウ(エ))があった。 ② しかしながら、前記のような被告E のF に対する業務上の指導等が、業務上の必要性がなく、社会的相当性を欠く不適切なものであったと認めるに足りる的確 な証拠はない。また、当該業務上の指導等以外に、被告E がF を日常的に叱責するなどの社会的相当性を欠くパワーハラスメントを行っていたと認めるに足りる的確な証拠もない。 ③ 被告会社の船舶管理グループの業務内容及び体制(前提事実⑵、認定事実⑶)に照らすと、被告E がF の労働時間の管理を行っていたとも認め難い。 以上の諸点に鑑みると、被告E には、安全配慮義務違反又は不法行為法上の過失があったとは認め難い。 したがって、被告E は、F の本件自殺につき、直接の不法行為責任(民法709条)、使用者責任(民法715条2項)又は安全配慮義務違反の責任を負わない。 イ原告らの主張 あったとは認め難い。 したがって、被告E は、F の本件自殺につき、直接の不法行為責任(民法709条)、使用者責任(民法715条2項)又は安全配慮義務違反の責任を負わない。 イ原告らの主張について これに対し、原告らは、被告E が、F の長時間労働を放置し、F を日常的に叱責す るなどのパワーハラスメントを行い、F の業務上の心理的負荷を蓄積させたとして、直接の不法行為責任(民法709条)、使用者責任(民法715条2項)又は安全配慮義務違反の責任を負うと主張する。 しかしながら、前記アで説示したところに照らし、原告らの前記主張は、採用することができない。 4 争点4(過失相殺又は素因減額の類推適用の有無)について⑴ 判断枠組み企業等に雇用される労働者の性格が多様のものであることはいうまでもないところ、ある業務に従事する特定の労働者の性格が同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものでない限り、その性格及びこれに 基づく業務遂行の態様等が業務の過重負担に起因して当該労働者に生じた損害の発生又は拡大に寄与したとしても、そのような事態は使用者として予想すべきものといえる。しかも、使用者又はこれに代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う者は、各労働者がその従事すべき業務に適するか否かを判断して、その配置先、遂行すべき業務の内容等を定めるのであり、その際に、各労働者の性格をも考慮する ことができるのである。したがって、労働者の性格が前記の範囲を外れるものでない場合には、裁判所は、業務の負担が過重であることを原因とする損害賠償請求において使用者の賠償すべき額を決定するに当たり、その性格及びこれに基づく業務遂行の態様等を、心因的要因としてしんしゃくするこ い場合には、裁判所は、業務の負担が過重であることを原因とする損害賠償請求において使用者の賠償すべき額を決定するに当たり、その性格及びこれに基づく業務遂行の態様等を、心因的要因としてしんしゃくすることはできないというべきである(前掲第二小法廷判決参照)。このことは、同種の業務に従事する労働者の個性の 多様さとして通常想定される範囲を外れるものでないぜい弱性などの特性等についても、同様であると解すべきである。 ⑵ 当てはめこれを本件についてみると、前提事実及び認定事実によれば、次のとおり指摘することができる。 ア F は、そもそも精神疾患の既往はなく(認定事実⑴ア)、本件自殺の直前まで 欠勤等はなかった(認定事実⑸参照)が、①前記2⑴で説示した理由により業務の負担が増加してF の死亡前1か月の時間外労働が増加し、②被告D から、前記2⑵で説示したとおりの相当程度の心理的負荷を生ずるような本件各メールの送信を受けるなどしたことにより、遅くとも平成31年4月7日までに、心身共に疲労困ぱいした状態になり、それが誘因となって本件精神障害を発病したものである(前記 2⑶)。 イ F は、自宅で深夜までゲームをして過ごすことがあり、勤務中に眠そうにしていることが多かったところ(認定事実⑴ア・⑸ウ(イ))、このような事情は、F が前記アのような「心身共に疲労困ぱいした状態」になったことに起因した可能性が否定し難いが、F のゲーム等による時間の過ごし方の具体的状況を認めるに足りる 的確な証拠は見当たらないことを踏まえると、これが同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものであったと認めることはできない。 ウそして、他に、F について、同種の業務に従事する労働者の個性の多 えると、これが同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものであったと認めることはできない。 ウそして、他に、F について、同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるぜい弱性などの特性等を有していたことをうかが わせるに足りる事情があるとはいえない。 エ以上の諸点に照らすと、被告らの安全配慮義務違反等を理由とする原告らに対する損害賠償の額を定めるに当たり過失相殺に関する民法418条又は722条2項の規定の適用又は類推適用によりその額を減額すべき事情があるとはいえない。 ⑶ 被告らの主張について これに対し、被告らは、①本件精神障害の発症には㋐F の心理的要因(脆弱性)や㋑生活習慣(オンラインゲーム等による慢性的な睡眠不足)が寄与しており、原告らはF の生活習慣を認識していたこと、②被告らには本件精神障害の発病につき予見可能性がなかったことを踏まえ、過失相殺又は素因減額をすべきであると主張する。 しかしながら、①の点については、前記⑵で説示したとおりであり、②の点につ いては、前記3⑵イ、⑷イで説示したとおりである。 したがって、被告の前記主張は、いずれの点も採用することができない。 5 争点3(損害の有無及び数額)について⑴ F の損害についてア死亡による逸失利益 4315万8603円 前提事実及び認定事実に照らすと、F(死亡時30歳)は、少なくとも高専卒男子全年齢平均賃金(平均的給与収入)を得られた蓋然性があったと認められるから、F の死亡による逸失利益は、基礎収入を2019年賃金センサス男子・高専卒・全年齢平均の516万5200円、生活費控除率を50%、就労可能年数を死亡時30歳から67歳まで あったと認められるから、F の死亡による逸失利益は、基礎収入を2019年賃金センサス男子・高専卒・全年齢平均の516万5200円、生活費控除率を50%、就労可能年数を死亡時30歳から67歳までの37年間として算定するのが相当である。 (計算式)基礎収入516万5200円×0.5(生活費控除率50%)×16.7113(死亡時30歳、就労可能年数37年のライプニッツ係数(年5%)=4315万8603円イ死亡慰謝料 2200万円 認定事実に係るF が死亡するに至った経緯、F の生活状況、家族構成等に照らすと、F の死亡による慰謝料額は、2200万円が相当である。 ウ合計 6515万8603円⑵ 原告A の損害額ア前記⑴の相続分相当額 3257万9301円 原告A は、F の被告らに対する損害賠償請求権の2分の1(小数点以下第1位は、原告らの主張に係る配分による。)を相続した(前提事実⑴イ・⑹)。 イ葬儀費用 93万6300円証拠(甲68~71)によれば、原告A が支出した葬儀費用は93万6300円と認めるのが相当である。 ウ損益相殺原告A は、遺族補償一時金として1130万5000円を、葬祭料として67万8300円を受領した(前提事実⑻)。したがって、原告A の損益相殺後の損害額は、2153万2301円となる。 エ原告A 固有の損害 300万円 原告A は、F の父であり、本件自殺により甚大な精神的苦痛を被ったと推認される。原告A の民法711条に基づく固有慰謝料は、300万円と認めるのが相当である。 オア~エの小計 2453万2301円カ弁護士費用 245万円 本件訴訟の難易度、審理の経過及び認容額そ 民法711条に基づく固有慰謝料は、300万円と認めるのが相当である。 オア~エの小計 2453万2301円カ弁護士費用 245万円 本件訴訟の難易度、審理の経過及び認容額その他本件において認められる諸般の事情に鑑みると、本件と相当因果関係のある弁護士費用は245万円と認めるのが相当である。 キ原告A の損害額合計(オ+カ) 2698万2301円⑶ 原告B の損害額 ア前記⑴の相続分相当額 3257万9302円原告B は、F の被告らに対する損害賠償請求権の2分の1(小数点以下第1位は、原告らの主張に係る配分による。)を相続した(前提事実⑴イ・⑹)。 イ原告B 固有の損害 300万円原告B は、F の母であり、本件自殺により甚大な精神的苦痛を被ったと推認され る。原告B の民法711条に基づく固有慰謝料は、300万円と認めるのが相当である。 ウア・イの小計 3557万9302円エ弁護士費用 356万円本件訴訟の難易度、審理の経過及び認容額その他本件において認められる諸般の 事情に鑑みると、本件と相当因果関係のある弁護士費用は356万円と認めるのが 相当である。 オ原告B の損害合計額(ウ+エ) 3913万9302円 6 結語⑴ 以上の次第で、被告会社及び被告D は、原告らに対し、不法行為に基づき、①損害賠償金(原告A につき2698万2301円、原告B につき3913万93 02円)及び②これに対する不法行為後の日(F の死亡日)である平成31年4月8日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)所定の年5%の割合による遅延損害金の連帯支払義務を負う。なお、前記5で説示したところによれば、原告らの被告 である平成31年4月8日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)所定の年5%の割合による遅延損害金の連帯支払義務を負う。なお、前記5で説示したところによれば、原告らの被告会社及び被告D に対する使用者責任又は債務不履行に基づく損害賠償金の額は、前記5で説示した金額を超えるものとは認められない。 ⑵ よって、原告らの被告会社及び被告D に対する主位的請求は、前記⑴の限度で理由があるからこれらを認容し、その余の主位的請求並びに原告らの被告C 及び被告E に対する主位的・予備的請求はいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。 福岡地方裁判所第1民事部 裁判長裁判官林史高 裁判官溝渕章展 裁判官増崎浩司 別紙当事者目録、組織図は掲載省略 (別紙)訴訟費用負担目録 ⑴ 原告A と被告らとの間に生じた訴訟費用負担すべき訴訟費用負担者原告A に生じた費用の4分の1と被告会社に生じた費用被告会社原告A に生じた費用の4分の1と被告D に生じた費用被告D原告A に生じたその余の費用と被告C 及び被告E に生じた費用原告A⑵ 原告B と被告らとの間に生じた訴訟費用 負担すべき訴訟費用負担者原告B に生じた費用の4分の1と被告会社に生じた費用被告会社原告B に生じた費用の4分の1と被告D に生じた費用被告D原告B に生じたその余の費用と被告C 及び被告E に生じた費用原告B (別紙)メール一覧表 原告B に生じた費用の4分の1と被告D に生じた費用被告D原告B に生じたその余の費用と被告C 及び被告E に生じた費用原告B (別紙)メール一覧表 送信日送信者相手送信内容H30.10.4被告DF監督補佐でありながら2隻しか担当船のない貴方が手を抜いてはなりません。本船に丸投げすることなくご自身で図面を確認しなさい。(甲18)H31.2.21被告DFお分かりかと思いますが、貴方の担当船です。E 監督が不在ならば貴方の業務になります。業務の内容からN 監督に代行を頼んでいますが、貴方が何もしないのはどうでしょうか?次のために少しは勉強してみては如何でしょうか?(甲21)H31.3.9被告DF被告E(CC)「WIRE 類は船具屋に手配しています。随分長く手配関係を行っている貴方なら理解できると思いますが、WIRE は機器メーカーでも購入品です。貴方が部品屋さんにオーダーしても結局、船具屋が手配しますので手数料がかかるだけです。」「手っ取り早くではなく、よ~く考えて行動して下さい」、「貴方にも後輩が出来ました。追い越されない様によ~く考えて下さい」(甲22)H31.3.11被告DF被告E「F さん一年の猶予を与えましたので直ぐに提出出来るはずです。私にも直ぐに送 (CC)って下さい。」、「E 監督フォロー願います。」(甲23)H31.3.11F被告D「午前中にE 監督よりお叱りを受けました。 直ぐに提出致します。」H31.3.12被告D被告EF(CC)メール本文に「昼休み返上で印刷範囲外に小職のコメントを入れました」等。 添付ファイルのコメント お叱りを受けました。 直ぐに提出致します。」H31.3.12被告D被告EF(CC)メール本文に「昼休み返上で印刷範囲外に小職のコメントを入れました」等。 添付ファイルのコメントとして、「手抜きにも程があります。」、「手抜きの何でも貼付けはやめようね。」、「翻訳ソフトに頼るからこうなるでしょ。」(同コメントはのべ10回記入されていた。)、「先生ちゃんとしないと」(同コメントはのべ4回記入されていた。)、「恐れ多くもD 様が作成した原紙です。 書体は揃える事。図面の貼付け方も雑にしない事。」等(甲61)H31.4.4被告DF被告E(CC)同人が指示された船舶の修理業者一覧表の作成業務を取引先に依頼したことが発覚したことについて、注意・指導をする趣旨のメール(重要度を「高」に設定)の中で、「皆にバレない様に聞いたつもりかと思いますが」「面倒なことは何でも頼めとマシン商会を見下したあなたに勉強させる意味で『こんな事を調べさせられた』と全員に返信して反省を促したものと思います。」「ナマケモノの態度を改めなければあなたを必要と する理由が見当たりません。猛省して下さい。」等(甲24) (別紙)争点に関する当事者の主張 ⑴ 争点1(本件自殺(及びその原因となった精神障害の発症)が被告会社の業務への従事によって生じたものであるか否か)について (原告らの主張)F は、次の①~④の事情により業務上の強度の心理的負荷を受け、平成31年4月上旬頃までに「軽症うつ病エピソード」、「中等症うつ病エピソード」又は「精神病症状を伴わない重症うつ病エピソード」を発症し、これにより本件自殺に至った。 被告会社の業務への従事と、本件自殺及 1年4月上旬頃までに「軽症うつ病エピソード」、「中等症うつ病エピソード」又は「精神病症状を伴わない重症うつ病エピソード」を発症し、これにより本件自殺に至った。 被告会社の業務への従事と、本件自殺及びその原因となった精神障害の発症との間 には相当因果関係がある。 ① F は、被告会社内の昇格基準を満たしていないにもかかわらず監督補佐に昇格させられ、能力や経験が不足した状態で業務に従事しており、担当業務において負担軽減措置も取られなかった。また、F は、上司である被告D らとの年齢差が離れ、質問がしづらい執務環境で稼働していた。さらに、英語が不得意であったF は、 英語話者である船員と英語を用いて電話やメールでのコミュニケーションをとることや、英語を用いる必要がある仕様書作成業務及び見積比較表作成業務に苦慮していたが、被告会社において何らの支援も講じられなかった。 ② F は、平成31年2月以降、不慣れな仕様書作成業務及び見積比較表作成業務に従事し、時間外労働時間が、死亡前3か月において6時間、死亡前2か月にお いて21時間、死亡前1か月において43時間と増加しており、過重な超過勤務を行っていた。 ③ F は、勤務時間外においても、被告会社が管理する船舶の事故やトラブルに応対することを義務付けられ、また、船舶管理グループのメールやLINEでの連絡の内容を確認することを義務付けられていた。 ④ F の上司であった被告D らは、F に対し、F を日常的に叱責し、F を侮辱する 内容のメールを複数回にわたって送信するなどのパワーハラスメントを行った(以下「本件パワハラ」という。)。 (被告らの主張)F には精神疾患の既往歴はなく、本件自殺の3日前まで欠勤することなく勤務しており、F は原告ら て送信するなどのパワーハラスメントを行った(以下「本件パワハラ」という。)。 (被告らの主張)F には精神疾患の既往歴はなく、本件自殺の3日前まで欠勤することなく勤務しており、F は原告ら主張の精神障害を発症していなかった。 仮に、F が本件自殺時に原告ら主張の精神障害を発症していたとしても、次の①及び②の事情に照らし、本件自殺及びその原因となった精神障害の発症は、被告会社の業務への従事によって生じたものではないといえる。 ① F が従事した本件仕様書及び本件比較表の作成業務は、いずれも高度な知識や技術、英語力が求められる困難な業務ではない。また、被告会社の勤務表によれ ば、F が死亡前6か月の間に時間外労働を行ったのは4時間のみであり、F が死亡前に過重な超過勤務を行った事実はない。 ② 被告D らのF に対する指導は業務上必要かつ相当な範囲内のものであり、被告D らが、F に対して本件パワハラを行った事実はない。 ⑵ 争点2(被告らの責任原因の有無)について (原告らの主張)ア被告会社の責任被告会社は、亡F の労働時間、労働密度の適切な管理・把握を怠って長時間労働に従事させた上、被告D らに対する指導・監督を怠り、本件パワハラを招来した。 被告会社は、F の雇用主としての安全配慮義務に違反しており、F に対して不法行為 責任又は使用者責任(民法715条1項)、安全配慮義務違反の責任(労働契約法5条、民法1条2項、415条)を負う。 イ被告C の責任被告C は、小規模企業の唯一の被告会社の代表取締役であり、「使用者に代わって事業を監督する者」(民法715条2項)に当たるから、被告会社の安全配慮義務違 反につき、被告会社と連帯して使用者責任(715条2項)を負う。 の被告会社の代表取締役であり、「使用者に代わって事業を監督する者」(民法715条2項)に当たるから、被告会社の安全配慮義務違 反につき、被告会社と連帯して使用者責任(715条2項)を負う。 また、被告C は、被告会社が安全配慮義務を遵守する体制を整備すべき善管注意義務を負っているところ、悪意又は重大な過失によりこの注意義務に違反したから、被告会社と連帯して、会社法429条1項の責任を負う。 ウ被告D らの責任被告D は、船舶管理グループのリーダーとしてF を指揮命令しており、被告E は F の直属の上司であったから、被告D らは被告会社の代理監督者(民法715条2項)に該当する。被告D らは、F の長時間労働を放置した上、F に対して本件パワハラを行い、F の業務上の心理的負荷を蓄積させたから、F に対し、被告会社と連帯して、直接の不法行為責任(民法709条)又は使用者責任(民法715条2項)を負う。 (被告らの主張)ア被告会社についてF が過重な時間外労働を行い、被告D らが本件パワハラを行った事実はないから、被告会社に安全配慮義務違反はなく、被告会社は、F に対し、不法行為責任又は使用者責任を負わない。被告会社において、F の心身の健康が損なわれて何らかの精 神障害を発症することについての具体的な予見可能性はなかった。 イ被告C について被告会社に安全配慮義務違反はないから、被告C は、F に対し、不法行為責任、使用者責任又は会社法429条1項の責任を負わない。 ウ被告D らについて 被告D らは、F に対し、業務上必要かつ相当な指導を行っており、本件パワハラを行っていない。被告会社に安全配慮義務違反はなく、被告D らは、F に対し、不法行為責 被告D らについて 被告D らは、F に対し、業務上必要かつ相当な指導を行っており、本件パワハラを行っていない。被告会社に安全配慮義務違反はなく、被告D らは、F に対し、不法行為責任又は使用者責任を負わない。 ⑶ 争点3(損害の有無及び額)について(原告らの主張) ア F の損害 (ア) 逸失利益 4315万8603円F(死亡時30歳)には、少なくとも高専卒男子の平均的給与収入を得られたことが見込まれるところ、生活費控除率を50%とし、就労可能年数を67歳までの37年間として算定すべきである。 (計算式) 基礎収入516万5200円(2019年賃金センサス男子・高専卒・全年齢平均)×0.5(生活費控除率50%)×16.7113(死亡時30歳、就労可能年数37年のライプニッツ係数(年5%)=4315万8603円(イ) 死亡慰謝料 3000万円。仮に亡F の慰謝料が上記を下回る場合であっても、原告らに各400万円(合計800万円)の遺族固有の慰謝料が認められるべ きである。 イ原告A 固有の損害(ア) 葬儀費用 49万6200円(甲68、69)(イ) 仏壇費用 28万5000円(甲70)(ウ) 海外散骨費用 15万5100円(甲71) (エ) 弁護士費用 260万円ウ原告B 固有の損害弁護士費用 370万円(被告らの主張)いずれも否認し又は争う。逸失利益算定に用いる基礎収入は、死亡前の現実の収 入とするのが原則であり、亡F の死亡前1 年間の給与支給実績額である444万6416円を基礎収入として、逸失利益を算定すべきであり、この場合の逸失利益は、3715万2696円となる。また、F の死亡慰謝料額が2500 り、亡F の死亡前1 年間の給与支給実績額である444万6416円を基礎収入として、逸失利益を算定すべきであり、この場合の逸失利益は、3715万2696円となる。また、F の死亡慰謝料額が2500万円を超えることはない。 ⑷ 争点4(過失相殺又は素因減額の類推適用の有無)について (被告らの主張) F の精神障害の発症にはF の心理的要因(脆弱性)や生活習慣(オンラインゲーム等による慢性的な睡眠不足)が寄与していること、F の生活習慣を原告らが認識していたこと、被告らにはF の精神障害の発症につき予見可能性がなかったことを踏まえ、過失相殺又は素因減額がなされるべきである。 (原告らの主張) 争う。 以上
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