主文 1 原判決を次のとおり変更する。 被控訴人は,控訴人Aに対し,30万円及びこれに対する平成26年12月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被控訴人は,控訴人Bに対し,30万円及びこれに対する平成26年12月 18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 控訴人らのその余の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを50分し,その3を被控訴人の負担とし,その余を控訴人らの負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は,控訴人Aに対して,500万円及びこれに対する平成26年12月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被控訴人は,控訴人Bに対して,500万円及びこれに対する平成26年12 月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 訴訟費用は,第1,2審を通じて被控訴人の負担とする。 5 この判決は,第2項及び第3項につき仮に執行することができる。 第2 事案の概要等 1 事案の概要(以下,略称は,別途定めるほかは,原判決の例による。) スリランカの国籍を有する控訴人らは,在留期間を超えて日本に残留し,いずれも難民不認定処分を受けた後に入管法24条4号ロ(不法残留)に該当することを理由とする退令発付処分を受け,その後,難民不認定処分に対する異議申立てを行ったところ,同異議申立棄却決定の告知を受けた翌日に退令の執行を受け,集団送還の方法によりスリランカに強制送還された。 本件は,控訴人らが,控訴人らに対する退令の執行は,控訴人らに難民不認定 処分に対する取消訴訟等の提起について の執行を受け,集団送還の方法によりスリランカに強制送還された。 本件は,控訴人らが,控訴人らに対する退令の執行は,控訴人らに難民不認定 処分に対する取消訴訟等の提起について検討する時間的猶予を与えずに行ったもので,控訴人らの裁判を受ける権利を侵害したなどと主張して,被控訴人に対し,国賠法1条1項に基づき,控訴人1人当たり500万円の慰謝料及びこれに対する控訴人らが強制送還された日である平成26年12月18日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)所定の年 5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 原判決が控訴人らの請求をいずれも棄却したところ,控訴人らがこれを不服として本件控訴をした。 2 関係法令等の定め,前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張は,原判決30頁(別紙)24行目の「退去強制を受ける者」の次に「(以下「被退去強制者」 という。)」を付加し,当審における当事者の補充主張を後記3のとおり付加するほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要等」2から5までに記載のとおりであるから,これを引用する。 3 当事者の当審における補充主張⑴ 控訴人らの補充主張 ア控訴人らは,国外に送還されればもはや難民不認定処分の取消を求める訴訟について訴訟要件を満たさないことになり,裁判を受けることができなくなる。それにもかかわらず,そのような結果が生ずることをもって,入管法52条3項に基づく退令の速やかな執行・送還の要請が制限されるという法令上の根拠は見出しがたいとする原判決は,裁判を受ける権利を保障する憲 法32条や国際法よりも下位規範である法律(入管法)を優先するもので,国内法秩序を無視するものである。 制限されるという法令上の根拠は見出しがたいとする原判決は,裁判を受ける権利を保障する憲 法32条や国際法よりも下位規範である法律(入管法)を優先するもので,国内法秩序を無視するものである。憲法32条で保障され,行政事件訴訟法14条により6か月間検討の機会を与えられている裁判で争う権利の行使が,入管法52条3項の運用方針に劣後する理由はない。 原判決は,「取消訴訟の出訴期間中は強制送還を差し控えるべき注意義務 があったとまではいえない」とするが,控訴人らは,出訴期間内の送還を一 律に問題としているのではなく,控訴人らには出訴意思が明らかに認められたにもかかわらず,即時に(異議申立棄却決定の告知から24時間も経たないうちに)送還されたことの違法性を主張するものである。集団送還の必要性があり,控訴人らの逃亡を防ぐ必要があるとしても,異議申立棄却決定告知後に直ちに入管に収容することでこれを防ぐこともできるのであり,控訴 人らを直ちに送還する必要性・合理性はない。 イ控訴人らに対する本件送還は,以下のとおり,控訴人らの訴訟提起の機会を積極的に奪う意図を持ってされたものであり,控訴人らに対する手続保障をないがしろにするもので違法である。 控訴人らは,平成26年12月17日に仮放免許可の更新のために東京 入管を訪れたところ,いずれも同日,仮放免不許可が通知されて同入管に再収容され,本件各異議申立棄却決定が告知され,翌日18日の午前5時43分に送還されており,控訴人Aにおいては,本件異議申立棄却決定の告知から18時間足らず,控訴人Bにおいては,本件異議申立棄却決定告知から15時間足らずの時間的猶予しか与えられずに送還されて いるのであり,本件送還により,控訴人らは,訴訟提起の機会 決定の告知から18時間足らず,控訴人Bにおいては,本件異議申立棄却決定告知から15時間足らずの時間的猶予しか与えられずに送還されて いるのであり,本件送還により,控訴人らは,訴訟提起の機会はもちろんのこと,訴訟提起の検討の機会すら奪われた。 控訴人らは,いずれも本件各異議申立棄却決定が出された後,平成26年12月17日より前に仮放免許可更新のために東京入管を訪れており,入管職員はその機会に本件各異議申立棄却決定を告知することが十分可 能であった。それにもかかわらず,敢えて本件送還の数時間前という直前まで本件各異議申立棄却決定を告知しなかったのであり,被控訴人には控訴人らの訴訟提起を阻止しようとする積極的な意図があったといわざるを得ない。また,被控訴人は,難民異議申立事務取扱要領(甲36)において,異議申立棄却決定など結果が定まったときには,異議棄却決定の告 知のために事前に出頭通知をしなければならないと定めている。これは, 異議申立てに対する決定を告知することを事前に伝えるとともに,それにより,しかるべき訴訟提起,帰国などの判断を行わせるためのものであるところ,被控訴人は自ら定めるこの要領に反して控訴人らにこの通知を行っていないのであり,平成26年12月17日まで本件各異議申立棄却決定がされたことを秘していたといえる。このことからみても,被控訴人は, 控訴人らの訴訟提起を積極的に妨害する意図を有していたことは明らかである。 控訴人らは,平成26年度のチャーター機送還(集団送還)の対象者とされ,本件送還のために控訴人らに公用旅券の発給請求が上申されるなど(甲37~39),既に平成26年10月後半から11月初旬には,控訴 人らの送還は決定されていたのであり,被控訴人はその 者とされ,本件送還のために控訴人らに公用旅券の発給請求が上申されるなど(甲37~39),既に平成26年10月後半から11月初旬には,控訴 人らの送還は決定されていたのであり,被控訴人はその送還が失敗する事態として,控訴人らの訴訟提起を想定して,その機会を奪うことを積極的に意図していたといえる。 被控訴人においては,「改正行政事件訴訟法における「教示」制度の新設に伴う不利益処分の通知に関する取扱いについて(通達)」(法務省管審第 198号平成17年2月21日。甲40)を発出し,その中で,行政事件訴訟法の一部を改正する法律(平成16年法律第84号)は,行政事件訴訟について,外国人を含む国民の権利・利益のより実効的な救済手続の整備を図る観点から,国民の権利・利益の救済範囲の拡大を図ること等を目的として制定されたものであるとしている。実際に,控訴人らが難民認定 審査に対する難民不認定処分の結果を告知された際の教示書には,難民不認定処分に対して異議の申出を行った場合には,異議の申出に対する裁決があったことを知った日から6か月以内に難民不認定処分に対する取消訴訟を提起できる旨が明記されていた(甲40別添1-5)。被控訴人は,控訴人らに対し,難民不認定処分の教示書において,裁決があったことを 知ったときから6か月訴訟提起ができることを教示しておきながら,異議 の申立てに対する裁決がされる前までに控訴人らにおいて裁判所に対し送還の執行停止を申し立てなければ難民不認定処分取消訴訟を提起できないとするのは背理というほかない。 出入国管理及び難民認定法は,難民条約を国内法化したものであるが,難民条約16条1項は,「難民は,すべての締約国の領域において,自由に 裁判を受ける権利を有する。」と うほかない。 出入国管理及び難民認定法は,難民条約を国内法化したものであるが,難民条約16条1項は,「難民は,すべての締約国の領域において,自由に 裁判を受ける権利を有する。」として,裁判を受ける権利を規定しているところ,ここにいう「難民」とは,難民の地位に関する条約33条のノン・ルフールマン原則の名宛人と同様,難民認定申請者を含むとされている。 また,我が国が批准する拷問等禁止条約は,難民条約と同様にノン・ルフールマン原則を規定し,控訴人らが難民不認定や送還について争うため, 司法審査を受ける権利を保障すべきとする。すなわち,拷問禁止条約は,退去強制の通知後に「合理的期間」に「独立した機関」(裁判所)に対し,送還されない状態で救済を求める権利を保障しているのである。被控訴人は,難民条約や拷問禁止条約に基づき訴訟提起又はその検討の機会を確保すべきことを十分に認識しながら,敢えて本件送還を行ったものであり, 控訴人らの訴訟提起又はその検討を妨害する意図は明らかである。 ⑵ 被控訴人の補充主張アそもそも,難民不認定処分に係る異議申立棄却決定を異議申立人に通知すべき時期は,入管法上定められていない。異議申立てについて判断がされた場合,当該一件記録は,本省から決定の告知を行う地方入国管理局(本件で は東京入管)に郵送されるため,このような回付に要する時間に加えて,書類の脱落の有無や書類の記載内容の確認などの事務処理も行われることから,入管法上,ある程度の時間(1か月程度)を要することは当然に想定されているものと解される。 また,難民異議申立事務取扱要領(乙70)によれば,異議申立棄却決定 について,異議申立人に決定書の謄本を郵送するという通知の方法は想定さ れておら ているものと解される。 また,難民異議申立事務取扱要領(乙70)によれば,異議申立棄却決定 について,異議申立人に決定書の謄本を郵送するという通知の方法は想定さ れておらず,正確性を期すために通訳人を確保した上で,異議申立人を出頭させて対面で決定書の謄本を交付することにより告知する方法を採ることにしているのであり,そのために,異議申立人の確実な出頭が期待でき,手続を適正に行い得る日程を指定する必要がある。そして,既に退令が発付されている難民申請者で,仮放免許可を受けている者は,仮放免許可に係る出 頭日であれば,出頭しなければ仮放免許可の条件違反となり許可が取り消されて収容されることがあるため,確実な出頭が見込まれることから,出頭の確実性を確保する必要性を踏まえても,仮放免許可を受けている者については,仮放免許可に係る出頭日を通知日に指定するという運用を執ることが合理的といえる。 このように,異議申立棄却決定の通知を同決定日から1か月程度経過後に行うことは一般的であるところ,本件において,控訴人らは,仮放免許可期間の満了日である平成26年12月17日に東京入管に出頭し,同日,東京入管に収容されるとともに,異議申立棄却決定の告知を受けたものであり,同日より前に告知すべきであったと評価され得る機会がなかったのであっ て,実務の運用からみても,控訴人らの裁判を受ける権利を侵害するために,控訴人らに対する本件各異議申立棄却決定の通知をことさら通常よりも遅らせたものではないことは明らかである。 イ集団送還は,多数の送還忌避者を一度に送還するという特性から,多額の予算措置を講じた上で,送還体制の構築,送還手順の作成,在日大使館等を 通じた相手国政府との調整,航空会社等との打ち合 イ集団送還は,多数の送還忌避者を一度に送還するという特性から,多額の予算措置を講じた上で,送還体制の構築,送還手順の作成,在日大使館等を 通じた相手国政府との調整,航空会社等との打ち合わせ等の綿密な準備を経て実施している。このようなことから,仮に集団送還を中止せざるを得ない状況が発生した場合,単にそれまでの調整や準備が水泡に帰すというだけでなく,送還先等の相手国政府や航空会社との関係が悪化することが強く懸念され,最悪の場合,今後本邦政府の送還業務に対する協力を得ることができ なくなる状況すら危惧される。そのような状況を回避するために,事前にあ らゆる不測の事態を想定して準備・対応することは当然である。 集団送還の対象者は送還忌避者であることから,事前に集団送還がされることが外部に察知された場合,被送還者本人が逃走や自傷行為をするといった形で妨害行為に及ぶほか,関係者等による妨害行為がされるおそれがあり,これは抽象的な可能性にとどまらず,十分に想定され得る状況であった。そ こで,これらの事態を避けるため,集団送還の対象となっている被退去強制者全員の身柄を確保できる日であった平成26年12月17日に異議申立棄却決定の一斉通知をするという方法が採られたのであり,かかる方法自体,多数の送還忌避者を一度の機会に,安全かつ確実に送還先へ送還するというチャーター機送還の目的を達成するために執った必要かつ合理的な措置で あった。 ウ難民の本質は,国籍国による保護を受けられない者に対して,国籍国に代わって条約締結国が難民条約に定められた限度で保護を与えることになるもの」という要件は,迫害の主体が国籍国の政府自身である場合を想定して いることは明らかである。本件において,控訴人Bの難民認定申 て条約締結国が難民条約に定められた限度で保護を与えることになるもの」という要件は,迫害の主体が国籍国の政府自身である場合を想定して いることは明らかである。本件において,控訴人Bの難民認定申請における迫害を受ける理由及び根拠は,同人の叔父との間に土地の相続をめぐってトラブルがあり,本国に帰国すると,叔父及び叔父の仲間である地下組織メンバーによって殺されるというものである(乙46,48)から,迫害主体はスリランカ政府ではないし,迫害を受けるとする理由及び根拠も難民条約が 迫害の理由として規定する「人権」「宗教」「国籍」「特定の社会的集団の構成員であること」及び「政治的意見」のいずれにも該当しない。しかも,控訴人Bは,本邦入国後,合理的理由なく約7年3か月もの長期間難民認定申請をせず,不法就労を続けた後,不法滞在により逮捕された後に初めて同申請を行っているのであり,同人の難民認定申請は濫用的にされたものであり, 同申請に基づく難民不認定処分に対する異議申立ても濫用的に行われたも のというべきである。 また,控訴人Aは,何の問題もなく自ら自己名義旅券を取得して本国を出国し,その後本邦において自ら在京スリランカ大使館に接触して2冊目の旅券の発給を受けていたのであって,本国政府から保護を受けることができたというべきであるし,控訴人Aは,本邦入国後,合理的理由なく12年1か 月以上もの長期間難民認定申請をせず,不法滞在により逮捕された後に初めて同申請をしているので,これらの事実経緯からすれば,控訴人Aは,真実難民として保護を求めて来日したのではなく,不法就労を目的として本邦に入国し,不法滞在で逮捕されるや,本邦に在留し続けるための方便として難民認定申請を行ったことが強く疑われる。 そ 民として保護を求めて来日したのではなく,不法就労を目的として本邦に入国し,不法滞在で逮捕されるや,本邦に在留し続けるための方便として難民認定申請を行ったことが強く疑われる。 その上,控訴人らは,仮放免期間延長許可申請等の機会において,難民該当性についての訴訟提起の意向を示したことはなく,本件送還の対象であることを知った途端に裁判をしたいと言及したにとどまるのであり,送還を免れるために便宜上取消訴訟等に言及したにすぎないことが強く疑われ,真に難民不認定処分に対して司法上の判断を求める意思があったか否かについ ては疑義がある。 エ法務省入国管理局(現在の出入国在留管理庁)は,入国管理局の処分,民事事件,家事事件,労災申請事件に関し,被退去強制者の代理人となっている又は代理人となろうとする弁護士から通知希望申出書の提出があった場合,送還予定時期の概ね2か月前に送還予定時期通知書を送付して送還予定 時期を通知することとしており(乙83),被退去強制者の裁判を受ける権利に十分配慮しているところである。なお,送還予定時期の通知については,日弁連のウェブサイトの会員専用のぺージに広報文と書式が掲載されており,入管事件を取り扱う弁護士の間で広く利用されている。本件では,控訴人らの代理人又は代理人になろうとする弁護士から通知希望申出書は提出 されていないところ,仮に控訴人らが難民該当性に係る司法審査を受けたい と考えていたのであれば,弁護士を介して通知希望申出書を提出し,通知された送還予定時期までの間に退令発付処分に対する取消訴訟等を提起することができたのであって,本件送還によって司法審査を受ける機会が必然的に奪われたものではない。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所は,東京入管職員の 令発付処分に対する取消訴訟等を提起することができたのであって,本件送還によって司法審査を受ける機会が必然的に奪われたものではない。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所は,東京入管職員の控訴人らに対する退令の執行など本件送還にかかる一連の行為について,控訴人らが難民認定不処分に対する取消訴訟等の提起につき検討する時間を与えずに行ったものであって,控訴人らの司法審査を受ける機会を実質的に奪ったものとして,国賠法1条1項の適用上違法であり,控訴人らの請求のうち,控訴人ら1人につき30万円の慰謝料及びこれに対する平成2 6年12月18日(本件送還がされた日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるものと判断する。その理由は,以下のとおりである。 2 争点(本件送還の国賠法上の違法性)について 国賠法1条1項の違法性の判断基準については,原判決「事実及び理由」中 の「第3 当裁判所の判断」の1に記載のとおりであるから,これを引用する。 憲法32条,31条,13条違反についてア控訴人らは,本件送還は,本件各不認定処分や本件各異議申立棄却決定について,控訴人らが,取消訴訟を提起することも,その要否について検討す る時間的猶予も与えずに行われたもので,入管職員が控訴人らの訴訟提起の機会を積極的に奪う意図を持って行ったものであり,憲法32条の定める裁判を受ける権利を侵害するもので,国賠法上違法であると主張する。 ところで,退去被強制者については,入管法52条3項により速やかに送還すべきことが規定されており,入管法上,在留資格を取得していない難民 認定申請をした外国人については,難民認定不処分について異議申立てがあ っ は,入管法52条3項により速やかに送還すべきことが規定されており,入管法上,在留資格を取得していない難民 認定申請をした外国人については,難民認定不処分について異議申立てがあ った場合において,当該異議申立てが取り下げられ,又はこれを却下若しくは棄却する旨の決定がされるまでの間は,同法52条3項に基づく退令の執行による送還を停止する旨の規定(同法61条の2の6第3項)があるが,この規定以外に送還を停止する旨の法令上の規定は存在しない。 したがって,異議申立棄却決定後に取消訴訟の出訴期間が満了するまで送 還を停止すべき法令上の根拠はなく,異議申立棄却決定がされた被退去強制者について,取消訴訟の出訴期間が満了する前に送還を実施することが直ちに違法になるとはいえない。 イ他方,行政事件訴訟法は,原則として,処分等について審査請求できる場合においても,直ちに取消訴訟を提起することを妨げないとする自由選択主 義を採用しており(行政事件訴訟法8条1項本文),難民認定申請の不認定処分を受けた者に異議申立てによる行政不服審査によるか,取消訴訟による司法審査によるか,又はその両方の手段を採るかについての選択を委ねており,同処分に対する是正の機会を保障する仕組みを採用している。このように被退去強制者は,難民不認定処分に対する異議申立ての判断がされる以前 においても,同取消訴訟を提起することが可能であり,また,取消訴訟の提起と併せた申立てに基づく裁判所の執行停止の決定(行政事件訴訟法25条2項)を得ることにより,退令の執行を停止させ,送還について司法上の救済措置を求めることが可能な仕組みとなっている。 また,上記自由選択主義のもとで,処分に対する審査請求をした場合に, これに対する裁決 ,退令の執行を停止させ,送還について司法上の救済措置を求めることが可能な仕組みとなっている。 また,上記自由選択主義のもとで,処分に対する審査請求をした場合に, これに対する裁決がされるまでの間に取消訴訟の出訴期間が経過して取消訴訟を提起することができなくならないようにするため,行政事件訴訟法14条3項は,処分又は裁決について審査請求をした者については,これに対する裁決があったことを知った日から取消訴訟の出訴期間が開始する旨定めており,難民不認定処分に対する異議申立棄却決定後においても取消訴訟 を提起することを可能にしている。 そして,平成16年の改正により導入された行政事件訴訟法46条の教示制度は,行政庁が処分の相手方に対して,被告となる者,出訴期間など取消訴訟の提起に関する適切な情報を提供し,司法審査を受ける機会を実効的に保障しようという趣旨から設けられた規定であり,実際に控訴人らは,本件各不認定処分の通知及び本件各異議申立棄却決定の通知の際に教示書を交 付されており,これらの教示書には,異議の申出に対する裁決があったことを知った日から6か月以内に取消訴訟等の訴訟提起をすることができる旨の記載がある(甲37,乙21の2,29の1,2,49の2,56の1,2)。 これに加え,被控訴人は,難民異議申立事務取扱要領(甲36,乙70) において,異議申立棄却決定など結果が定まったときには,速やかにこれを通知するよう定めており(43頁),これは,出頭通知により,異議申立てに対する決定を告知することを事前に伝えるとともに,それにより,被退去強制者に訴訟提起又は帰国などの判断をする時間を確保するよう配慮する趣旨であると解される。 これらの法令等(上記取扱要 決定を告知することを事前に伝えるとともに,それにより,被退去強制者に訴訟提起又は帰国などの判断をする時間を確保するよう配慮する趣旨であると解される。 これらの法令等(上記取扱要領を含む。)の規定や趣旨からすれば,難民不認定処分に対する異議申立棄却決定後に送還を停止すべき旨を定めた規定がないことや,被退去強制者について速やかに国外に送還すべき旨の入管法52条3項の規定が存在することをもって,被処分者の難民該当性に関する司法審査を受ける機会を実質的に奪うような結果を許容することはできな いといわざるを得ない。 ウ本件においては,控訴人らは,本件各異議申立棄却決定を告知されて直ちに東京入管に収容され,外部との連絡を取ることができないままに翌日には送還がされたものであり,控訴人Aにおいては,高橋ひろみ弁護士を特定して,同弁護士に連絡を取りたい,訴訟を提起したいと何度も訴えたにもかか わらず,約30分の間に5度架電する機会を与えられただけで,結局,同弁 護士と連絡が取れないまま送還され,控訴人Bにおいても,上記告知の際に「提訴をしたい」と希望を述べたのに対して,入管職員に「6か月間裁判できますという意味であって,入管がその間送還しません,裁判を待ちますという意味ではありません。」と告げられてそのまま送還されたのであり,いずれも本件各異議申立棄却決定告知後に取消訴訟を提起する意向があった にもかかわらず,これが事実上不可能であったものと認められる。 そして,前記前提事実及び後掲の証拠によれば,控訴人Aについては,平成26年11月7日に本件異議申立棄却決定がされたが,これを告知されたのはその40日後の同年12月17日であり,控訴人Bについては,同年10月31日に本件異議申立棄却決 ば,控訴人Aについては,平成26年11月7日に本件異議申立棄却決定がされたが,これを告知されたのはその40日後の同年12月17日であり,控訴人Bについては,同年10月31日に本件異議申立棄却決定がされたが,これを告知されたのは その47日後の同年12月17日であり,控訴人らはいずれも,本件各異議申立棄却決定後,これを告知されるまでの間に仮放免許可更新の手続のために東京入管に出頭しているにもかかわらず(乙16,44),その際に本件各異議申立棄却決定を告知されなかったこと,遅くとも同年10月23日の時点では,控訴人らは平成26年度チャーター機送還(集団送還)の対象者と されており(甲37),同年11月5日には控訴人らの送還時期は同年12月18日から同月19日と予定されていた(甲38,39)ことが認められるのであって,これらを前提にすると,被控訴人は,控訴人らを集団送還の対象として,これが予定どおり実施されるために,控訴人らが訴訟提起をする前に送還を実施すべく,敢えて本件各異議申立棄却決定の告知を送還の直 前まで遅らせたものと解さざるを得ない。 エこれに対して,被控訴人は,異議申立棄却決定を一斉に通知し,通知の翌日に一斉に送還するという態様は,チャーター機による集団送還を事前に察知されて妨害行為がされないようにするために必要かつ合理的な措置であり,内通による送還妨害が予想され得る事案であったことに照らすと,控訴 人らの通信を制限したことをもって,国賠法上違法となることはないと主張 する。 しかし,集団送還についての情報が外部に察知されて,仮放免中の者が逃亡したり又は関係者等により集団送還を妨害されたりするのを防ぐという目的には一定の合理性が認められるとしても,集団送還についての情 しかし,集団送還についての情報が外部に察知されて,仮放免中の者が逃亡したり又は関係者等により集団送還を妨害されたりするのを防ぐという目的には一定の合理性が認められるとしても,集団送還についての情報が外部に察知されることにより,これについての妨害行為がされるという恐れは, 抽象的な可能性にとどまり,異議申立棄却決定の通知を受けた仮放免中の被退去強制者が逃亡する可能性のあることは,集団送還の場合でなくとも同様に想定し得るものである。また,被控訴人が自ら主張するように,法務省入国管理局(現在の出入国在留管理庁)は,被退去強制者の代理人となっている又は代理人となろうとする弁護士から通知希望申出書の提出があった場 合,送還予定時期の概ね2か月前に送還予定時期を通知する制度も設けており(乙83),集団送還の対象者であってもこの制度を利用すればあらかじめおおよその送還時期を確認できることになる。これらに照らせば,集団送還を妨害されないという目的があるとしても,異議申立棄却決定の告知を送還の直前に行うことに合理性はないというべきである。 さらに,被控訴人は,異議申立棄却決定を,通訳人を確保した上で,被退去強制者の面前で告知するためには事務処理的な観点から,一般的に準備期間を1か月程度要することから,控訴人らに対する告知がことさら遅れたものではない旨主張するが,被控訴人が定めた難民異議申立事務取扱要領には,(決定の告知を行う地方入国管理局は)本省入国管理局長から裁決の結果の 通知を受けたときは,速やかに当該異議申立人に対し出頭通知書を送るか,電話で出頭するよう通知することが定められており,異議申立棄却決定が出されてからこれを告知するまでに事務的な手続のために一定の時間を要するとしても,相当な時間が経過しているにも 出頭通知書を送るか,電話で出頭するよう通知することが定められており,異議申立棄却決定が出されてからこれを告知するまでに事務的な手続のために一定の時間を要するとしても,相当な時間が経過しているにもかかわらず,敢えて仮放免許可の更新手続のために被退去強制者が入管に出頭するときまで告知を差し控 えるべき理由は見出し難い。控訴人らは,異議申立ての裁決結果に関する出 頭告知を受けることなく,上記のとおり,それぞれ本件各異議申立棄却決定のされた日から40日以上も経過した平成26年12月17日に同決定の告知をされたことからすれば,被控訴人は,集団送還を確実かつ円滑に実施するために,集団送還の対象者となっていた控訴人らに対し,敢えて事前の出頭通知をすることなく,意図的に仮放免許可更新のために東京入管に出頭 する同日まで本件各異議申立棄却決定の告知を遅らせたものと評価せざるを得ない。 オ以上によれば,入管職員が,控訴人らが集団送還の対象となっていることを前提に,難民不認定処分に対する本件各異議申立棄却決定の告知を送還の直前まで遅らせ,同告知後は事実上第三者と連絡することを認めずに強制送 還したことは,控訴人らから難民該当性に対する司法審査を受ける機会を実質的に奪ったものと評価すべきであり,憲法32条で保障する裁判を受ける権利を侵害し,同31条の適正手続の保障及びこれと結びついた同13条に反するもので,国賠法1条1項の適用上違法になるというべきである。 なお,被控訴人は,控訴人らは,本邦入国後,約7年から12年の長きに わたり,難民申請をすることがなかったのに,不法残留により逮捕された後になって初めて難民申請をしていることなどからすれば,真に難民に認定されて保護を受けることを求めているのではなく,本 きに わたり,難民申請をすることがなかったのに,不法残留により逮捕された後になって初めて難民申請をしていることなどからすれば,真に難民に認定されて保護を受けることを求めているのではなく,本法に在留し続けるための方便として難民申請を行っているにすぎないものであるとして,控訴人らの本件各異議申立てが濫用的なものであり,救済の必要性に乏しいと主張する が,難民該当性の問題と難民不認定処分について司法審査を受ける機会の保障とは別の問題であり,当該難民申請が濫用的なものであるか否かも含めて司法審査の対象とされるべきであるから,控訴人らの難民申請にかかる上記事情を前提としても,そのことをもって,司法審査の機会を実質的に奪うことが許容されるものではない。 以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,東京入管職員の本 件送還にかかる一連の行為は,控訴人らの難民認定不処分に対する司法審査を受ける機会を実質的に奪ったものとして,国賠法1条1項の適用上違法であると認められる。 3 争点(控訴人らの損害及びその額)について本件送還に至る一連の行為により控訴人らが受けた精神的苦痛に対する慰謝 料は,控訴人らの難民認定申請に至る経緯など,本件に表れた一切の事情を考慮すると,控訴人ら1人につき各30万円とするのが相当である。 4 結論以上によれば,控訴人らの請求は,各30万円及びこれに対する本件送還がされた日である平成26年12月18日から支払済みまで民法所定の年5分の割 合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれらを認容し,その余はいずれも理由がないからこれらを棄却すべきところ,これと異なる原判決は一部不当であり,本件控訴はいずれも一部理由があるから,原判決を変更 害金の支払を求める限度で理由があるからこれらを認容し,その余はいずれも理由がないからこれらを棄却すべきところ,これと異なる原判決は一部不当であり,本件控訴はいずれも一部理由があるから,原判決を変更することとし,仮執行宣言については相当ではないからこれを付さないこととして,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第12民事部 裁判長裁判官平田豊 裁判官中久保朱美 裁判官井出弘隆
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