- 1 -H18・10・19東京高等裁判所平成18年(ラ)第769号証人尋問共助事件における証人の証言拒絶についての決定に対する抗告事件判示事項の要旨:米国アリゾナ州地区連邦地方裁判所の嘱託により実施された税務調査等につき取材しニュース記事を配信した共同通信記者に対する証人尋問において,取材源に関する記者の証言拒絶権が認められた事例主文 原告らの抗告を棄却する。 原決定中,証人の証言拒絶に理由がないとする部分を取り消す。 前項の部分に関する証人の証言拒絶は理由がある。 本件手続費用は,原審及び当審を通じ,原告らの負担とする。 理由 第1抗告の趣旨 原告ら(1)原決定中,証人の証言拒絶が理由があるとする部分を取り消す。 (2)前項の部分に関する証人の証言拒絶は理由がない。 (3)抗告費用は証人の負担とする。 証人主文同旨第2事案の概要前提事実及び争点に係る当事者の主張は,次の1のとおり付加・補正し,2のとおり当審における原告らの追加的主張,3のとおり当審における証人の追加的主張を付加するほかは,原決定の「理由」中の「第1事案の概要」のとおりであるから,これを引用する。 原決定の「第1事案の概要」部分の付加・補正(1)原決定2頁18行目の次に行を改めて,次のとおり加える。 - 2 -「なお,共同通信社海外部は,本件記事を別紙のとおり英訳して,これを海外に配信したが,翌日か翌々日,この英文の記事の内「taxsour,cessaid」は誤訳であるとの訂正記事を配信した」。 (2)同3頁22行目「原告らの税務申告に関する情報」の次に「納税者の(身元,同人の収入源又は金額で,当該納税者の納税申告が過去,現在又は将来において検査されるか又はその他の調査又は手続の対象となるか否かを問わ 行目「原告らの税務申告に関する情報」の次に「納税者の(身元,同人の収入源又は金額で,当該納税者の納税申告が過去,現在又は将来において検査されるか又はその他の調査又は手続の対象となるか否かを問わないものとし,また,納税申告に関してか又はいずれかの者の債務の存在・又はその存在の可能性(又はその金額)に関して,本章に基づく,税金,加算税,利息税,罰金税,科料税又はその他の付加税又は罰則税の目的上,財務長官が受領,記録,作成するか又はそれに対して提供されるか又はそれによって収集されるその他のデータ[タイトル26セクション6103(b)(2)(A」を加える。 )])(3)同頁25行目の次に行を改めて,次のとおり加える。 「本件訴訟の主要な争点は,ア被告内国歳入庁(以下「IRS」という)が国税庁に対し,日米租税条約及び被告法規(タイトル26セクシ。 ョン6103(a))の機密保持義務に違反する虚偽の情報を開示したのか,イIRSは,国税庁が,同条約に定める機密保持義務に反して,日本の報道機関に対し,機密情報を漏えいすることを知り又は知り得べきであったか,ウ国税庁は日本の報道機関に対し,本件報道に係る情報を漏えいしたかである」。 (4)同4頁9行目の次に行を改めて,次のとおり加える。 「(7)本件訴訟を審理している嘱託裁判所は,平成13年7月25日,原告ら及び被告と訴訟管理計画修正提案の協議を行ったが,原告らと被告との間において,平成8年に原告A社,原告B,G社に対し,IRSと国税庁により,日米の共同調査が行われたことは,争われていない。また,同管理計画修正提案において,国税庁から日本の報道機関に対する- 3 -情報の漏えいについて,国税庁が報道機関に機密性を有する税務情報を定期的に開示していたのか,日米の調査以前にこのような また,同管理計画修正提案において,国税庁から日本の報道機関に対する- 3 -情報の漏えいについて,国税庁が報道機関に機密性を有する税務情報を定期的に開示していたのか,日米の調査以前にこのような開示があることをIRSは認識していたのかが争点の一つとされていた。本件訴訟は,現在,証拠開示手続中であるが,嘱託裁判所は,我が国に対し,54名の証人の嘱託尋問を依頼したのは,その結果を事実審理に使用するためであった。 (8)G社の全取締役及び持分権者は,平成17年8月26日,本件記事等の情報源に関する情報,マスコミとの接触についての情報を有しているG社の現在又は過去の従業員,代理人が,この情報の開示に関する行為又は開示に関する過去の行為についての情報を,G社の経営者に申告しても,また,G社の経営者が上記記事の情報源であった可能性のある現在又は過去の従業員,代理人を知った場合であっても,当該人物に対し,いかなる懲戒処分,戒告,または制裁の対象としない旨の決議をした(以下「本件免責決議」という。 。)(9)被告及び原告ら並びにG社は,本件嘱託尋問において証人が回答する場合,原告ら及びG社に関する情報を求める限りにおいて,情報の提供を禁止する権利を放棄し,回答をすることに同意した。 なお,国税庁は,本件税務調査により,被告側の提供した情報について,原告らに対し,本件税務調査の日本側資料を開示することは,今後の日本と被告との情報交換及び日米同時調査に差し支えになるとして,一部を除き,応じていない」。 (5)同11頁12行目「米国内国歳入庁(以下「IRS」という」を「I。)RS」に改める。 (6)同16頁8行目「決議(以下「本件免責決議」という」を「本件免責。)決議」に改める。 当審における原告らの追加的主張- 4 -(1 IRS」という」を「I。)RS」に改める。 (6)同16頁8行目「決議(以下「本件免責決議」という」を「本件免責。)決議」に改める。 当審における原告らの追加的主張- 4 -(1)証言拒絶権の判断における考慮要素及び原決定の憲法違反ア裁判の場において,取材源の秘匿が認めるられるか否かについては,まず,①まず,当該報道が国民の知る権利を充足するものであるかが検討されなければならない。②次に,当該取材の取材方法等や,尋問対象となる事項といった種々の要素を仔細に検討した上,取材源に関するある特定の事項を明らかにすることが当該職業に深刻な影響を与え,以後その遂行が困難になるほどの影響を及ぼすか否かが個別具体的な事項ごとに検討されなければならない。③また,取材源の秘匿の問題が,公正な裁判の実現と報道の自由という相反する二つの利益の矛盾衝突をいかに調整するかという問題であることに鑑みれば,事件の重要性や証拠の必要性も加味して判断されるべきである。相反する二つの利益の矛盾衝突を調整するに当たり,安易に一方の利益を優先し,他方の憲法的利益を侵害するという憲法違反の結果をもたらすことは厳に慎まなければならず,当該職業に対し,以後その遂行が困難になるほどの深刻な影響を与えない場合は,たとえ国民の知る権利の対象たる事項についての報道がなされても,証言拒絶が認められるべきではない。 イところが,原決定は,あらゆる報道内容が行われた場合において,あらゆる取材につき,取材源に関するあらゆる事項について「職業の秘密」,に該当すると判示した上,取材源に関する証言拒絶を原則として理由があると述べ,例外が認められる場合を極めて制限した。このような解釈は,取材の自由に重きを置きすぎた解釈であって,憲法21条の解釈を誤り,その結果,憲法31条の 材源に関する証言拒絶を原則として理由があると述べ,例外が認められる場合を極めて制限した。このような解釈は,取材の自由に重きを置きすぎた解釈であって,憲法21条の解釈を誤り,その結果,憲法31条の適正手続の理念に反し,憲法上の要請である公正な裁判の実現を妨げ,もって憲法32条の定める原告らの裁判を受ける権利を侵害するものである。 (2)本件証言拒絶の対象項目についてア知る権利との関係- 5 -本件報道は,一私企業及びその関連企業に対する税務調査及び調査結果並びに課税処分を内容とするものであるところ,一企業の納税申告情報は,プライバシーに関する情報であって,国民の知る権利の対象ではなく,また,個人情報保護法において保護されるべき情報である。このように,本件報道の内容に着目すると,本件は,およそ知る権利の対象でない報道がなされた場合であるから,本件においては,取材源の秘匿は認められるべきではない。 イ取材源が誰かを直接尋ねる質問等(本件各質問20,25)本件訴訟においては,国家が強制的に収集した特定私人のプライバシーに関する個人情報の漏えい行為が公務員の違法行為として問題となっており,しかも,本件報道内容には,原告らに対して米国においても追徴課税がなされた旨の虚偽の内容があり,日米両国の税務当局の信頼性が問われている重要な事件である。その意味で,本件訴訟の帰趨は,日米両国の政府に対する納税者の信頼,日米両国の信頼関係及び協調,さらには日米両国の社会秩序自体に深刻な影響を与えかねないのであって,本件訴訟の事件としての重要性は明らかに高く,真実解明の要請は格段に高い。 本件訴訟は,証拠開示手続が進行中であるが,証拠開示手続では,収集される情報は,事実審理で採用が許されるものである必要ない。また,本件訴訟の証拠開示手続は,本件嘱託尋 ,真実解明の要請は格段に高い。 本件訴訟は,証拠開示手続が進行中であるが,証拠開示手続では,収集される情報は,事実審理で採用が許されるものである必要ない。また,本件訴訟の証拠開示手続は,本件嘱託尋問手続の他は,全て終了しており,本件訴訟の争点を直接立証する有力な証拠が新たに発見される可能性はほとんどなく,合理的代替証拠も尽きている。したがって,本件記事の情報源に関する証言を得る必要性は格段に高い。 そして,本件は,国際司法共助による嘱託尋問手続であることに照らすと,嘱託書に記載されている質問目録は,原則として尋問の必要性があるとして取り扱われるべきであって,このことは,嘱託書記載の質問目録に関連すると考えられる当事者の質問についても,同様である。したがって,- 6 -国際司法共助という観点からも,本件記事の情報源に関する証言を得る必要性は高い。 (3)取材源が日本政府あるいは国税庁の誰であるか,取材源が所属する組織名に関する質問(本件各質問59,142,179,186)ア仮に,日本政府ないし国税庁の職員が取材源であるとすると,当該職員は,国家公務員法100条ないし法人税法163条等による守秘義務に違反した者であり,情報の性質及び内容は,不正を告発する内部告発情報ではなく,単に税務当局による調査,課税処分の情報であり,守秘義務に違反してまで情報を提供することが正当化されるような性質の情報ではない。 イ正当な理由なく違法行為を行った者は保護に値しないのであって,そのような者との間においては,取材源の秘匿として通常存在する信頼関係はない。仮に存在したとしても,それは国家機関との癒着としか評価できないものであって,本来国家機関を監視することで国民の知る権利に資するという報道機関の趣旨に反するものであり,そのような信頼関係は法律上保護 に存在したとしても,それは国家機関との癒着としか評価できないものであって,本来国家機関を監視することで国民の知る権利に資するという報道機関の趣旨に反するものであり,そのような信頼関係は法律上保護に値しない。 ウまた,組織体は取材源たり得ないから,組織からの信頼を想定する必要はない。仮に,当該組織との信頼ということが考えられるとしても,報道機関は,政府との間で癒着ともいえる信頼関係を築くべきではないから,このような信頼関係は,法律上保護に値しない。したがって,組織体との信頼を失うことを理由に証言拒絶が認められるべきではない。 エ日本政府職員ないし国税庁職員の数は膨大であるから,当該取材源が日本政府ないし国税庁に所属しているかどうかという点について証言することにより,当該取材源が特定されるおそれは皆無に等しい。すなわち,本件同時調査は日本と米国の国税当局が協力した初めての日米同時税務調査であり,かつ,規模の大きい調査であったから,当該情報を知りうる者が事実上限定されているとしても,その範囲は極めて広範囲であって,本件- 7 -において組織の名称を明かすことが取材源の特定に至ることはほぼあり得ない。 オしたがって,本件において当該取材源に関する事項を明らかにしたとしても,それにより報道機関の取材源に対する法律上保護に値する信頼が著しく害され,報道機関に深刻な影響を与え,以後その遂行が困難になることはない。また,当該取材源との間で信頼関係が毀損され,当該取材源から二度と情報が提供されなくなったとしても,本件においては,本来的に国民の知る権利の対象でない私人の税務申告情報が二度と提供されなくなるというにとどまり,国民の知る権利への影響は存在しない。 (4)取材源に当事者らが含まれているかという質問(本件各質問46,47,49,50, の対象でない私人の税務申告情報が二度と提供されなくなるというにとどまり,国民の知る権利への影響は存在しない。 (4)取材源に当事者らが含まれているかという質問(本件各質問46,47,49,50,137,140,146,168,176,177,178,187)ア原告ら及び被告は,権利放棄書を締結しており,①取材源が原告らか,あるいは,②取材源がIRSかという質問に対し,証人が証言したとしても,それにより当該取材源は法律上の制裁を受けることはなく,それによって取材源が被る不利益はない。また,③取材源はG社関係者かという質問に対し,証人が証言したとしても,本件免責決議が存在するから,当該取材源は法律上の制裁を受けることはない。 イしたがって,上記質問に証言することによって,取材記者と取材源との間における信頼関係が損なわれることはなく,仮に損なわれるとしても,その程度は軽微であり,少なくとも,当該職業に深刻な影響を与え,以後,その遂行が困難になるほどの影響を与えると評価することができない。 (5)消去法について本件において,情報の提供が可能な者の範囲が完全に特定できなければ消去法をもってしても,取材源を特定することは不可能であり,原決定のように「いわば消去法を持って取材源を特定することが可能」というのは広汎に- 8 -過ぎる。そのような広汎な理由に基づいて証言拒絶を認めるのであれば,証言拒絶が認められる範囲が際限なく広がるおそれがあり,証人尋問手続が機能停止に陥ることは明らかである。 (6)取材源の信頼性に関する質問(本件各質問22,26,193)取材源の信頼性に関する具体的事情としては,まず,取材源の所属組織等が考えられるが,取材源の所属組織の名称について証言拒絶をできないことは前記のとおりである。 また,取材源の信頼性に関す ,193)取材源の信頼性に関する具体的事情としては,まず,取材源の所属組織等が考えられるが,取材源の所属組織の名称について証言拒絶をできないことは前記のとおりである。 また,取材源の信頼性に関する具体的事情として,例えば提供された情報の内容の具体性・迫真性といったことや,客観的証拠の裏付けが存するといったことが挙げられるが,これについて証言することが取材源の特定になり得ないことは明白である。 (7)取材源が情報提供の理由の具体的内容を告げたかどうかを尋ねる質問情報提供の理由の具体的内容を告げたかどうかを尋ねることは,取材源の特定に繋がらず,当該質問に対して証言することにより取材記者と取材源との間における信頼関係が損なわれることはなく,仮に損なわれるとしても,その程度は軽微であり,少なくとも,当該職業に深刻な影響を与え,以後,その遂行が困難になるほどの影響を与えるとは評価できない。 (8)取材源が守秘義務を課されている者であるか尋ねる質問(本件各質問165)取材源が守秘義務を課されている者であるかどうかを尋ねる質問に回答することにより,取材源が国税庁職員又はG社の弁護士若しくは会計士のいずれかであることが推測されうるとしても,そのいずれかに特定されるとは到底いえない。また,仮に,取材源がそのいずれかであるということまで明らかになったとしても,依然取材源が,国税庁職員かG社の弁護士又は会計士かは全く明らかでない。そうすると,この質問に回答することにより,取材源が特定されることはおよそあり得ないから,取材記者と取材源との間にお- 9 -ける信頼関係が損なわれることは全くないのであって,この質問に回答することにより,当該職業に深刻な影響を与え,以後,その遂行が困難になるほどの影響を与えるとは評価できない。 (9)税務情報を知りうる る信頼関係が損なわれることは全くないのであって,この質問に回答することにより,当該職業に深刻な影響を与え,以後,その遂行が困難になるほどの影響を与えるとは評価できない。 (9)税務情報を知りうる者を尋ねる質問(本件各質問133,175)この質問は,本件記事の取材源についての質問ではなく,一般的に税務情報を知りうる人間の範囲の確定を目的とする質問に過ぎない。したがって,この質問に回答したとしても,取材源が特定されることはおよそあり得ないから,取材記者と取材源との間における信頼関係が損なわれることは全くないのであって,この質問に回答することにより,当該職業に深刻な影響を与え,以後,その遂行が困難になるほどの影響を与えるとは評価できない。 (10)取材源自体の情報入手先を尋ねる質問(本件各質問48,51)この質問に回答することにより,取材源が特定されることはおよそあり得ないから,取材記者と取材源との間における信頼関係が損なわれることは全くない。 (11)Zから直接取材したことがあるかを尋ねる質問(本件各質問202,205)この質問は,取材の有無を問う質問であるところ,取材が記事に結びつかない場合は多々あるから,取材の有無を尋ねることが特定の記事の取材源であるかを尋ねることにはならない。 (12)証人は取材源と面識があったか等と尋ねる質問(本件各質問188,194)当該質問に回答することにより取材源をうかがう事情の一つが明らかになるとしても,それによって取材源が特定されることはおよそあり得ない。 当審における証人の追加的主張(1)情報源の数についての質問(本件各質問21)情報源の数は,他の情報源の属性を特定するような質問と相まって,情報- 10 -源を特定することになる情報である。ある質問への回答内容だけでは,情報源の特定 源の数についての質問(本件各質問21)情報源の数は,他の情報源の属性を特定するような質問と相まって,情報- 10 -源を特定することになる情報である。ある質問への回答内容だけでは,情報源の特定に直接には結びつかない場合であっても,その種の複数の質問に対する回答の累積により,消去法等を用いて,結果的に情報源が特定される場合もあり得る。また,本件訴訟の趣旨からして,本件各質問21が情報源の特定に繋がる質問であることは明らかである。本件訴訟において,国税庁職員が情報をマスコミに漏えいしたことを立証するために本件証人尋問が申請されているから,本件各質問21は当然のことながら,情報源の特定のためになされた質問である。なお,これが情報源特定に結びつかない質問であるとするならば,そもそも全く必要性がない不適切な質問ということになる。 (2)情報源が一つしかなかった場合の裏付けについての質問(本件各質問24,28)上記質問に回答することは,取材源が一つしかないと回答するにほぼ等しいのであり,本件各質問21の場合と同様に,他の質問と相まって,情報源を特定する質問となるため,証言拒絶が認められるべきである。仮に,情報源が一つしかない場合の一般的取材方針についての質問であるとすると,それは証人の意見を求めるものとなり,かつ,必要性のない不適切な質問であって,このような質問への回答を強いること自体が不当である。 (3)情報源からの匿名性の依頼等についての質問(本件各質問34,37,38,158,162)取材の進め方及び取材方法に関する質問についても,同種の質問を累積することによって,消去法等を用いて,結果的に情報源が特定される場合もあり得る。例えば,考えられる取材源のうち,自ら匿名を条件としたことを開示すれば,秘密保持義務を有している組織の者が取材 問を累積することによって,消去法等を用いて,結果的に情報源が特定される場合もあり得る。例えば,考えられる取材源のうち,自ら匿名を条件としたことを開示すれば,秘密保持義務を有している組織の者が取材源であることが容易に推定される場合もあるのであり,このような質問は「間接的に」取材源を,特定する質問と解すべきである。 (4)重複質問ないし意見を求める質問(本件各質問121,129)- 11 -証人が本件訴訟で問題とされている日本語の記事(情報源について「関係者によると」との記載があるもの)を作成した後に,情報源について「taxsources」及び「industrysources」との表現を含む英文の配信記事が証人による何らの関与もなく作成されたものであるが,証人は,証人が作成した記事には「税務当局」又は「業界関係者」というような表現を一切使用していなかったと回答し(本件各質問128,)「taxsources」の意味について「語感的に言いますと,例え,ば税務当局とか,あるいは税金に関係する仕事をしている税理士とかそういった印象がございます」と回答し(本件各質問120,更に,上記英文。 )の表現は誤訳である旨回答しているのであるから(本件各質問125ないし127,実質上は,質問121に対する回答も行われているのであって,)本件各質問121に対する証言拒絶が認められないとの判断は不当である。 また,本件各質問129についても,上記のとおり自らが全く関与していないところで作成された翻訳について,その意味を問うても,証人としての意見を述べるしかないのであり,証言拒絶を認めないとした原決定は誤りがある。 (5)証人に訴訟費用の一部を負担させたことの違法性証人は訴訟当事者ではなく,また,とりわけ本件では,証人が所属する共同通信社 べるしかないのであり,証言拒絶を認めないとした原決定は誤りがある。 (5)証人に訴訟費用の一部を負担させたことの違法性証人は訴訟当事者ではなく,また,とりわけ本件では,証人が所属する共同通信社自体も訴訟当事者とはなっていないため,当事者であれば当然に行使し得る,重複的質問,意見を求める質問及び趣旨が不明な質問等の民事訴訟法上不適切な尋問に対して代理人弁護士から異議を述べる権利は全く与えられていなかった。そして,事前に尋問事項書において開示された質問事項の「関連質問」として,その場で当事者代理人により初めて明らかにされた質問については,このような質問が法律上証言拒絶が可能な質問であるのか否かに関し,法律の専門家である弁護士からその場で法的助言を受けることができない状況下で尋問が行われた。このような場合に,不適切な証言拒絶- 12 -であったことを理由に訴訟費用の負担を課されたことには,適正手続の観点からは大きな問題があると言わざるを得ない。したがって,証人の費用負担についての決定は違法である。 第3当裁判所の判断 民事訴訟法197条1項3号にいう「職業の秘密」と取材源秘匿の関係及びその判断方法民訴法197条1項3号は「職業の秘密に関する事項について尋問を受け,る場合」には,証人は証言を拒むことができる旨規定しているところ,ここにいう「職業の秘密」とは,その事項が公開されると,当該職業に深刻な影響を与え,以後その遂行が困難になるものをいうと解される(最高裁平成11年(許)第20号平成12年3月10日第一小法廷決定・民集54巻3号1073頁参照。もっとも,民訴法が何人も原則として証人として証言をすべき義務)を負い,一定の事由がある場合に限って例外的に証言を拒絶することができると定めている(同法196条,197条)のは,公正 頁参照。もっとも,民訴法が何人も原則として証人として証言をすべき義務)を負い,一定の事由がある場合に限って例外的に証言を拒絶することができると定めている(同法196条,197条)のは,公正な民事裁判の実現を目的とするものであるから,証言拒絶が認められる理由となる「職業の秘密」といい得るのは,保護に値する秘密であると解するのが相当である。そして,保護に値する秘密であるかどうかは,秘密の公表によって生ずる不利益と証言の拒絶によって犠牲になる真実発見及び裁判の公正との比較衡量によって定めるべきである。 そこで,報道関係者の取材源について検討すると,報道関係者の取材源は,取材源が取材源を開示されることを承諾あるいは予想しているような場合でなければ,報道関係者によって開示されると,報道関係者と取材源との間の信頼関係が損なわれ,すると,取材活動は報道の必須の前提であるのに,将来にわたる円滑な取材活動が妨げられることとなり,報道機関の業務に深刻な影響を与え以後その遂行が困難になると解されるので,取材源の秘密は職業の秘密に当たるということができる。 - 13 -次に,当該取材源の秘密が保護に値する秘密であるかどうかは,当該報道の内容,性質,その持つ社会的な意義・価値,当該取材の態様,将来における同種の取材活動が妨げられることによって生ずる不利益の内容,程度等と,当該民事事件の内容,性質,その持つ社会的な意義・価値,当該民事事件において当該証言を必要とする程度,代替証拠の有無等の諸事情を比較衡量して決するのが相当である。 そして,このような比較衡量にあたって考慮すべき事項を検討すると,報道機関の報道は,民主主義社会において,国民が国政に関与するにつき,重要な判断の資料を提供し,国民の知る権利に奉仕するものであるから,事実報道の自由は,表現の あたって考慮すべき事項を検討すると,報道機関の報道は,民主主義社会において,国民が国政に関与するにつき,重要な判断の資料を提供し,国民の知る権利に奉仕するものであるから,事実報道の自由は,表現の自由を規定した憲法21条の保障の下にあるということができ,そして,このような報道機関の報道が正しい内容を持つためには,報道のための取材の自由も,憲法21条の精神に照らし,十分尊重に値するものということができる。そこで,取材の自由の持つこのような意義に照らすと,取材源の秘密は,取材の自由を確保するために必要なものとして,重要な社会的価値を有するというべきである。すると,当該報道が公共の利益に関するものであり,その取材の手段,方法が一般の刑罰法令に触れるとか(なお,情報源に対する情報提供の要請が真に報道の目的から出たものである場合は,情報を得る手段・方法が法秩序全体の精神に照らし相当なものとして是認されるものである限りは実質的な違法性を欠くものと解される,取材源となった者が取材源の。)秘密の開示を承諾しているなどの事情がなく,しかも,当該民事事件が社会的意義や影響のある重要な民事事件であるため,当該取材源の秘密の社会的価値を考慮してもなお公正な裁判を実現すべき必要が高く,そのために当該証言を得ることが必要不可欠であるといった事情が認められない場合には,当該取材源の秘密は保護に値すると解すべきであり,証人は,原則として,当該取材源に係る証言を拒絶することができると解するのが相当である(最高裁平成18年(許)第19号平成18年10月3日第三小法廷決定参照。 )- 14 -そこで,本件について検討すると,共同通信社が配信した本件記事は,東京国税局とIRSとが,米国系の日本法人であるG社のグループ企業を対象として,合同で税務調査を実施し,情報交換 。 )- 14 -そこで,本件について検討すると,共同通信社が配信した本件記事は,東京国税局とIRSとが,米国系の日本法人であるG社のグループ企業を対象として,合同で税務調査を実施し,情報交換をした結果,東京国税局により,G社が5年間に約77億円の所得隠しを指摘され,重加算税を含め約35億円の追徴課税をされたと見られるというものであるから,本件報道は,公共の利害に関する報道ということができる。そして,証人は共同通信社の社会部記者として本件記事を執筆したものであるところ,その取材の手段,方法が一般の刑罰法令に触れたり,あるいは取材源となった者が取材源の秘密の開示を承諾しているなどの事情をうかがうことはできない。他方,本件訴訟は,原告らが,被告に対し,被告の職員が原告らの税務申告に関する不利な虚偽の情報を国税庁に開示したためにG社が国税庁から誤った追徴課税を受け,また,被告職員が原告らの税務申告に関する情報を国税庁に開示したために,国税庁職員から漏洩された情報が新聞等で報道されたことによって損害を蒙ったとして,損害賠償を請求するものであって,社会的意義や影響のある重大な民事事件であるかどうかは明らかでなく,さらに,本件訴訟はその手続がいまだ開示(ディスカバリー)の段階にあり,事実審理の段階までに他の代替証拠が皆無であるかどうかなども必ずしも明らかではなく,公正な裁判を実現するために当該取材源に係る証言を得ることが必要不可欠であるといい得るような事情は認めることができない。したがって,証人は,民訴法197条1項3号に基づき,本件報道の取材源に係る事項についての証言を拒むことができるというべきである。 ところで,原告らは,本件報道は,一私企業及びその関連企業に対する税務調査及び調査結果並びに課税処分を内容とするものであり,一企業の納税申告 係る事項についての証言を拒むことができるというべきである。 ところで,原告らは,本件報道は,一私企業及びその関連企業に対する税務調査及び調査結果並びに課税処分を内容とするものであり,一企業の納税申告情報はプライバシーに関する情報であって,国民の知る権利の対象ではなく,また,個人情報保護法において保護されるべき情報であり,本件においては,取材源の秘匿が認められるべきではない旨主張する。 しかしながら,本件報道は,上記のとおり公共の利害に関する報道であり,- 15 -国民に知る権利の対象でないなどということはできない。なお,法人である原告には,個人の私生活や私的情報を公開されないことを保護法益とするプライバシーの権利は認められず,また,生存自然人を対象とする個人情報保護法は適用されないから,原告らの上記主張は採用することができない。 個々の質問についての検討(1)取材源と直接,間接に関わる質問ア上記のとおり,証人は,本件報道の取材源に係る事項についての証言を拒むことができると解されるので,取材源が公表することを同意している場合を除き,取材源を直接の対象とする質問及びこれを特定する質問は,証言拒絶の対象となるというべきである。 イしたがって,本件各質問20,25,46,47,49,50,59,137,140,142,146,168,175ないし179,186,187のような直接の取材源を尋ねる質問については,証言拒絶が認められる。 なお,これら質問のうち,137,140,146,176,177,178は原告ら及び被告が取材源であるかというものであるところ,上記のように,被告及び原告ら並びにG社は,本件嘱託尋問において証人が回答する場合,原告ら及びG社に関する情報を求める限りにおいて,情報の提供を禁止する権利を放棄し,回答をするこ ものであるところ,上記のように,被告及び原告ら並びにG社は,本件嘱託尋問において証人が回答する場合,原告ら及びG社に関する情報を求める限りにおいて,情報の提供を禁止する権利を放棄し,回答をすることに同意している。しかし,これらの質問は,原告ら及び被告に関する情報というよりも,実質的にはその構成員である原告らの役員,従業員,被告の職員が取材源であるかどうかを問うに等しい質問であり,ところが,上記権利放棄及び同意をもって,原告らの役員,従業員,被告の職員が取材源の開示に同意しているということはできないから,上記の権利放棄及び同意があるからといって,証人が上記各質問について証言拒絶権を有しないということはできない。 また,本件各質問46,49,168,187は,G社の従業員,役員,- 16 -代理人等が情報源であるかどうかを問う質問であるところ,G社の全取締役及び持分権者は,平成17年8月26日に本件免責決議をしていることは前記のとおりであるが,本件免責決議がなされたからといって,取材源が取材源であることを開示されることに同意したと認めることはできないから,本件免責決議があることを理由として,上記各質問について,取材源を秘匿することが許されないということはできない。 さらに,本件各質問59,137,140,142,178,179,186,187は組織体,あるいはその組織体の一員が取材源であるかどうかを尋ねる質問であるが,組織の名称が特定されれば,そこから取材源が特定されることはあり得ることであり,また,当該組織の中の取材源と同様の立場にある者からの取材も困難となると考えられることからすると,これらの質問について証人が証言拒絶をしたことも理由があるというべきある。 ウところで,原告らは,仮に日本政府ないし国税庁の職員が取材源であるとす らの取材も困難となると考えられることからすると,これらの質問について証人が証言拒絶をしたことも理由があるというべきある。 ウところで,原告らは,仮に日本政府ないし国税庁の職員が取材源であるとすると,当該職員は,国家公務員法100条ないし法人税法163条等による守秘義務に違反した者であるから,正当な理由なく違法行為を行った者は保護に値せず,そして,本件における情報の性質及び内容は,内部告発情報ではなく,単に税務当局による調査,課税処分に関する情報であって,守秘義務に違反してまで情報を提供することが正当化されるような性質の情報ではないので,そのような取材源との間においては,取材源の秘匿として通常存在する信頼関係はなく,仮に存在したとしても,それは国家機関との癒着としか評価できないものであって,本来国家機関を監視することで国民の知る権利に資するという報道機関の趣旨に反するものであって,そのような信頼関係は法律上保護に値しないと主張する。 しかしながら,取材源の秘匿が認められる根拠は,上記のように,民主主義社会において,国民の知る権利に奉仕する報道機関の報道が正しい内- 17 -容を持つために必要な取材の自由を確保するためであることからすると,情報源に対する情報提供の要請が真に報道の目的から出たものである場合は,情報を得る手段・方法が法秩序全体の精神に照らし相当なものとして是認されるものである限り実質的な違法性を欠くものというべきであるから(最高裁昭和51年(あ)第1581号昭和53年5月31日決定,刑集32巻3号457頁参照,このような意味において報道機関の取材の)手段,方法そのものが一般の刑罰法令に触れるといえないときは,たとえ取材源の内部関係においては,その情報を提供したことが法律に違反し,あるいは情報の内容が内部告発情報でな おいて報道機関の取材の)手段,方法そのものが一般の刑罰法令に触れるといえないときは,たとえ取材源の内部関係においては,その情報を提供したことが法律に違反し,あるいは情報の内容が内部告発情報でなかったとしても,取材源の秘匿が認められるものと解すべきである。したがって,原告らの上記主張は採用することができない。 エ本件各質問21,24は取材源の個数に関わる質問,本件各質問22,193は取材源が信頼できる理由を尋ねる質問,本件各質問26は裏付けを取ろうとしない理由を尋ねる質問,本件各質問28は情報源が1つしかない場合の裏付け作業をする際の方針の質問,本件各質問34,35は取材源が当該情報を提供する理由を伝えたかの質問,本件各質問37,38,158,162,165は情報の提供が秘密ないし匿名を条件とされたものかに関する質問,本件各質問48,51は取材源の情報入手先がG社の従業員等であるかどうか及びその情報提供者が誰かを尋ねる質問,本件各質問133,175は国税庁,IRS及び本件同時調査以外で本件記事の税務情報を知りうる者を尋ねる質問,本件各質問188,194は証人が取材源と面識があったか,以前に情報の提供を受けたかを尋ねる質問,本件各質問202,205は,証人がZから直接取材をしたことがあるか等を尋ねる質問である。これらの質問は,個々的にみれば,取材源が具体的に特定されるものとはいえないが,これらの質問と他のそれ自体では特定に至らない質問が重なれば,これらの質問と相まって取材源の特定に至る- 18 -ことが考えられから,これらの質問も秘匿の対象となると認めるのが相当である。 (2)その他の質問本件各質問121は,本件各質問120の「証人が認識しているtaxsourcesの日本語訳は何か」との問いに対し「taxsourc,e 対象となると認めるのが相当である。 (2)その他の質問本件各質問121は,本件各質問120の「証人が認識しているtaxsourcesの日本語訳は何か」との問いに対し「taxsourc,esというのは語感的に言いますと,例えば税務当局とか,あるいは税金に関係をしている税理士とかそういった印象でこざいます。でも,そうするような表現で書くのは不適切であるというふうに判断したわけです,正しく」との答えを受けて,さらに「どうして不適切なんですか」との問い。 ,。 に対し「情報源にも絡む,どこがsaidしたのかと同じに絡む」旨答え,て,回答をしなかったものである。しかし,証人は,その後の質問に対する回答で「taxsourcesは誤訳である」旨回答(本件各質問12,5ないし127の回答)をしており,結果としては回答があったものと認められるから,本件各質問121について,証言拒絶があったと認めるのは相当ではない。 本件各質問129は「industrysources』は嘱託尋,『問書には『業界情報源』と書かれているが,これは公の組織ではない当該,産業の業界に属している他の企業のイメージか」との問いに対し,証人は「情報源の特定につながる」として回答をしなかったものである。証人は,英文の配信記事については,共同通信社の海外部が作成した旨答えており,証人の経験していない特定した事実以外の意見を聞く質問であることからすると相当な質問とは認められず,証言拒否をしたことが理由はないとはいえない。 以上によると,原決定質問目録に記載の質問については,証人はすべて証言を拒絶できると認めるのが相当であるから,原決定中,本件各質問21,24,28,34,37,38,121,129,158,162に係る証人の証言- 19 -拒絶は理由がないと は,証人はすべて証言を拒絶できると認めるのが相当であるから,原決定中,本件各質問21,24,28,34,37,38,121,129,158,162に係る証人の証言- 19 -拒絶は理由がないとした部分は相当でない。したがって,原告らの抗告は理由がなく,証人の抗告は理由があるというべきである。 よって,原告らの抗告を棄却し,原決定中,証人の証言拒絶は理由がないとする部分を取り消し,同部分の証言拒絶は理由があるとして,主文のとおり決定する。 平成18年10月19日東京高等裁判所第24民事部裁判長裁判官大喜多啓光裁判官園部秀穗裁判官菅原崇
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