【判示事項の要旨】他人の預金債権を何の権限もなく払い戻した者が,債権者から不当利得の返還を請求された場合に,金融機関の払戻しには過失があって債権の準占有者に対する弁済に当たらないから預金債権は残っており債権者に損失はないと主張してその責任を免れることは,信義則に反し許されない。 判決当事者の表示(略) 主文 1 原判決を次のとおり変更する。 2 被控訴人は,控訴人に対し,金464万1468円及びこれに対する平成3年7月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 訴訟費用は,第1,2審を通じて被控訴人の負担とする。 4 この判決は,第2,3項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨主文同旨第2 事案の概要本件は,控訴人及び被控訴人の母である亡A(以下「亡A」という。)の原判決別紙預金目録(ただし,同目録6ないし8及び12ないし14の「定期預金」を「定期積金」と改める。)記載の各金融機関(以下「本件各金融機関」という。)に対する同目録記載の各預金(利息を含む。以下「本件各預金」という。)を被控訴人が亡Aの死亡後に全額払い戻し,法定相続分である2分の1を超える部分を法律上の原因がないことを知りながら取得したとして,控訴人が,被控訴人に対して,不当利得金464万1468円及びこれに対する平成3年7月23日(被控訴人が本件各預金の払戻しをすべて完了した日の翌日)から支払済みまで民法所定年5分の割合による利息の支払を求めたところ,原判決がそのうち1938円及びこれに対する利息の支払請求のみを認容し,その余の請求を 本件各預金の払戻しをすべて完了した日の翌日)から支払済みまで民法所定年5分の割合による利息の支払を求めたところ,原判決がそのうち1938円及びこれに対する利息の支払請求のみを認容し,その余の請求を棄却したため,控訴人が控訴した事案である。その余の事案の概要は,原判決の「事実及び理由」中の第2の1ないし3記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,原判決2頁18行目の「本件各金融機関」を「B信用金庫」と改め,同23行目の「応じたものである。」の次に「また,C銀行は葬儀費用として必要であるとの理由で被控訴人の払戻請求に応じたのであり,葬儀費用についてはその支払が緊急に必要となるものであるから全相続人の依頼がなくても相当額の払出しに応じるという慣例がある。」を加え,同3頁22行目の「陰影」を「印影」と改め,同5頁19行目末尾の次に「控訴人は,本件各金融機関に対する払戻請求の可否について調査義務を尽くさないまま被控訴人に対して不当利得返還請求をしており,落ち度のある本件各金融機関を擁護する背信行為というべきである。」を加える。)。 第3 当裁判所の判断 1 本件金融機関に対する本件各預金の払戻請求権は,亡Aの死亡により,法律上当然に分割されて共同相続人である控訴人と被控訴人とがそれぞれ2分の1ずつ取得する(最高裁判所昭和27年(オ)第1119号同29年4月8日第一小法廷判決・民集8巻4号819頁参照)。この点,控訴人は,預金払戻請求権は不可分債権であると主張するが,独自の見解であり,採用することができない。 なお,被控訴人は,控訴人が亡Aから相続分以上の生前贈与や遺贈を受けたから遺言書に記載された財産以外の遺産について相続分を主張できないとするが,これを裏付ける具体的事実の主張は全くなく,また,証拠をみても,亡Aが控訴人に50万円か100万 上の生前贈与や遺贈を受けたから遺言書に記載された財産以外の遺産について相続分を主張できないとするが,これを裏付ける具体的事実の主張は全くなく,また,証拠をみても,亡Aが控訴人に50万円か100万円を交付したことで控訴人の相続分はなくなったとの被控訴人本人の供述があるにすぎないのであり,亡Aの相続財産の総額並びに控訴人が受けた生前贈与及び遺贈の金額が全く明らかになっていない以上,被控訴人の上記主張を採用することは到底できない。 2 本件各預金の全額について払戻しを受けた被控訴人は,その法定相続分である2分の1を超える部分について不当に利得したことになる。この点,被控訴人は,本件各金融機関による払戻しは過失によるものであって,債権の準占有者に対する弁済に当たらず,控訴人は本件各金融機関に対してなお本件各預金の法定相続分に相当する部分の払戻請求権を有しているのであるから,控訴人には損失が生じていないと主張する。 しかし,何の権限もなく不当に弁済を受領した者(以下「弁済受領者」という。)が,正当な権利者からの不当利得返還請求に対し,債権の準占有者に対する弁済に当たらないから本来の債務者から弁済を受けるべきと主張して自らの責任を免れることができるとすると,正当な権利者が債権の準占有者の弁済に当たるか否かという微妙な判断を要する作業を正確に行って被告を選択しなければ救済を受けることができなくなり,他方で,債務者保護のための民法478条が弁済受領者の保護のために用いられるという不合理な結果になってしまうが,正当な権利者のこのような犠牲の下で弁済受領者を保護する必要性は全く存しない。そして,正当な権利者と弁済受領者との間で当該弁済による金銭的利益の帰属が是正されれば問題は一挙に解決されるのであり,弁済をした債務者が債権者に対して重ねて弁済しなけれ 護する必要性は全く存しない。そして,正当な権利者と弁済受領者との間で当該弁済による金銭的利益の帰属が是正されれば問題は一挙に解決されるのであり,弁済をした債務者が債権者に対して重ねて弁済しなければならず,それを待って弁済受領者が債務者に対して不当利得を返還するということは,余りにも迂遠である。したがって,弁済受領者が,正当な権利者からの不当利得返還請求に対し,債権の準占有者に対する弁済に当たらないから本来の債務者から弁済を受けるべきと主張して自らの責任を免れることは,信義則上許されないというべきである。 この点,被控訴人は,控訴人の調査義務違反を主張し,また,過失のある本件各金融機関の責任を免れさせるべきでないと主張するが,上記の検討から明らかなとおり,控訴人が被控訴人との関係でそのような調査義務を負うことはないし,自らの法定相続分を超えて本件各預金全額を払い戻した被控訴人が本件各金融機関の過失を非難して自らの責任を免れることも許されない。 よって,被控訴人に対する本件各金融機関による弁済が債権の準占有者に対する弁済に当たるか否かについて判断するまでもなく,被控訴人は,本件各金融機関から本件各預金全額を払い戻すことによって法定相続分である2分の1を超える部分を不当に利得し,これにより,控訴人に同額の損失が生じたと認められる。そして,被控訴人は,亡Aの相続人が控訴人と被控訴人であることを知りながら亡Aの遺産である本件各預金を全額払い戻したというのである(被控訴人本人)から,悪意の受益者に当たる。 第4 結論以上から,控訴人の控訴はすべて理由があるから,原判決をその旨変更するとともに,申立てにより仮執行宣言を付することとし,主文のとおり判決する。 仙台高等裁判所秋田支部裁判 由があるから,原判決をその旨変更するとともに,申立てにより仮執行宣言を付することとし,主文のとおり判決する。 仙台高等裁判所秋田支部裁判長裁判官矢 﨑 正彦裁判官潮見直之裁判官西岡繁靖
▼ クリックして全文を表示