平成24(行ケ)10189 審決取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成24年11月13日 知的財産高等裁判所 3部 判決 請求棄却
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平成24年11月13日判決言渡平成24年(行ケ)第10189号審決取消請求事件平成24年9月20日口頭弁論終結判決 原告 X 被告特許庁長官指定代理人千馬隆之同小関峰夫同氏原康宏同芦葉松美 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び 理由 第1 請求特許庁が不服2011-11095号事件について平成24年4月10日にした審決を取り消す。 第2 前提となる事実 1 当事者間において争いのない事実等原告は,発明の名称を「遮煙エレベータ装置」とする発明について,平成17年3月25日に特許出願(特願2005-89864号。以下「本願」という。)をしたが,平成23年4月14日付けで拒絶査定を受けた。これに対し,原告は,平成23年5月26日,上記拒絶査定に対する不服審判請求(不服2011-11095号)をするとともに,特許請求の範囲について補正をした(以下「本件補正」 という。)。特許庁は,平成24年4月10日,本件補正を却下するとともに,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は同月28日に原告に送達された(乙1)。 2 特許請求の範囲の記載(1) 本件補正前の特許請求の範囲の記載は,以下のとおりである(以下,本件補正前の請求項1に係る発明を「本願発明」という。)。 「【請求項1】エレベータ扉前の空気を流動除去することによりエレベータ内に煙が入らないように 範囲の記載は,以下のとおりである(以下,本件補正前の請求項1に係る発明を「本願発明」という。)。 「【請求項1】エレベータ扉前の空気を流動除去することによりエレベータ内に煙が入らないようにしたことを特徴とする防炎エレベータ装置。」(2) 本件補正後の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである(以下,本件補正後の請求項1に係る発明を「本願補正発明」という。)。 「【請求項1】吹き抜け構造を有し,火災発生の際,エレベータ近辺の煙がエレベータ付近に設けたスリットを通じ,減圧された吹き抜け内に流れることを特徴とする防炎エレベータ装置。」 3 審決の理由審決の理由は,別紙審決書写しのとおりである。要するに,①本願補正発明は,特開2002-97806号公報(以下,「引用例1」といい,引用例1に記載された発明を「引用発明」という。)に記載された発明,及び特開平8-38636号公報(以下「引用例2」という。),特開平6-15011号公報(以下「引用例3」という。)に記載された事項に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項で準用する,同法126条5項に違反してなされたものであり,特許法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項により却下すべきものである,②本願発明は,引用発明に基づき,当 業者が容易に発明をすることができたものであり,同法29条2項により特許を受けることができない,というものである。 審決は,上記結論を導くに当たり,引用発明の内容,同発明と本願補正発明ないし本願発明との一致点及び相違点について,次 ものであり,同法29条2項により特許を受けることができない,というものである。 審決は,上記結論を導くに当たり,引用発明の内容,同発明と本願補正発明ないし本願発明との一致点及び相違点について,次のとおり認定した。 (1) 引用発明の内容火災発生の際,エレベータ近辺の煙がエレベータ付近に設けた排煙口を通じ,減圧された空間内に流れる,万一の火災にも安全に避難できる建物内のエレベータ装置EV。 (2) 一致点及び相違点ア引用発明と本願補正発明との一致点及び相違点(ア) 一致点空間構造を有し,火災発生の際,エレベータ近辺の煙がエレベータ付近に設けた排煙口を通じ,減圧された空間内に流れる防炎エレベータ装置。 (イ) 相違点a 相違点1空間構造を有する点について,本願補正発明は,空間構造が「吹き抜け構造」であり,煙が「吹き抜け内に流れる」構成であるのに対し,引用発明は,煙が空間構造の空間内に流れる構成となっているものの,空間構造の具体的形態が明らかでない点。 b 相違点2「排煙口」について,本願補正発明は,その形態が「スリット」であるのに対し,引用発明は,単に「排煙口」とされていてその具体的形態が明らかでない点。 イ引用発明と本願発明との一致点及び相違点(ア) 一致点エレベータ近辺の空気を流動除去することによりエレベータ内に煙が入らないようにした防炎エレベータ装置。 (イ) 相違点エレベータ近辺の空気を流動除去する点について,本願発明では,流動除去の対象となるのがエレベータ扉前の空気であるのに対し,引用発明では,エレベータ装置EVの扉の前の空気を流動除去の対象としているかどうか,明らかでない点。 第3 当事者の主張 1 原告の主張(1) 本願補正発明の容易想到性判断(独立特許要件の 引用発明では,エレベータ装置EVの扉の前の空気を流動除去の対象としているかどうか,明らかでない点。 第3 当事者の主張 1 原告の主張(1) 本願補正発明の容易想到性判断(独立特許要件の判断)について本願補正発明は,低コストで容易に設置可能な防炎エレベータ装置を提供するものであるのに対し,引用例1ないし3には,以下のとおり,本願補正発明に特有の構成,それに基づく作用効果は,記載も示唆もされていないから,審決の本願補正発明の容易想到性判断(独立特許要件の判断)には誤りがある。 ア取消事由1(本願補正発明と引用発明の一致点・相違点の認定の誤り)本願補正発明は,低コストで容易に設置可能な防炎エレベータ装置を提供するものであり,建物に吹抜けと煙を吸い込むためのスリットを設けている点に特徴がある。すなわち,本願補正発明は,吹抜けの煙突効果により,吹抜け内が常時減圧状態となり,エレベータホールに煙が侵入しても,この煙はスリットから吹抜けに吸い込まれるので,エレベータ棟内に煙が侵入することはなく,このために吸気及び排気ファンを設ける必要がない。また,本願補正発明は,建築基準法によって設置が義務づけられている防煙扉又はカーテン等を必要としない。さらに,本願補正発明では,エレベータホールに侵入してきた煙は,1つの排気口(スリット)に向かう一連の束となり,拡散しないので,避難が容易となる。したがって,本願補正発明は,特有の構成を有し,格別の作用効果を奏するものである。 これに対し,引用発明は,高層集合住宅における排煙を目的とするところ,高層集合住宅の中央部に,避難用階段や非常用エレベータが配置されたコア部を備え,その外周を回廊が周回しており,附室を給気ファンで給気することにより,回廊を避難路とするものであって,本願補正発明と目的及 集合住宅の中央部に,避難用階段や非常用エレベータが配置されたコア部を備え,その外周を回廊が周回しており,附室を給気ファンで給気することにより,回廊を避難路とするものであって,本願補正発明と目的及び構成が異なる。また,引用発 明は,給気及び排気ファンを使用するため,電源が失われると排煙が停止する。さらに,引用発明は,排煙口を2個所設けているため,煙が分散し,エレベータホール内にいる人が避難できるエリアが狭くなる。 このように,一般の戸建て住宅等におけるエレベータ前防煙扉を除去する本願補正発明と,高層住宅用に設置することを主目的とする引用発明とは,技術的思想,課題及び具体的構成のすべてにおいて相違することは明らかである。 以上のとおり,審決の本願補正発明と引用発明との一致点・相違点の認定には誤りがある。 イ取消事由2(引用例2記載の発明の認定の誤り)引用例2記載の発明は,天井部分Aを複数のブロックに分け,その略中心部分に,複数の階を貫通する,角筒管状の排煙筒10を設け,排煙筒10から天井面に向かって放射状に設けた防煙壁により防煙区画に区分けし,各防煙区画間に設けた排煙口と排煙筒とを隣接させ,排煙口と排煙筒とを敷設ルートを曲げることなくダクトで連通するようにした発明である。引用例2記載の発明は,本願補正発明と異なり,エレベータ等の特定の構造物への煙の侵入を防ぎ,建築基準法に基づく防煙扉を不要とする発明ではない。また,引用例2記載の発明は,本願補正発明と異なり,煙等を除去するために,排気ファン等の動作用の電源を必要とするめ,電源が失われると排煙機能が停止する。さらに,本願補正発明は,通常の排気と火災時の排煙を1つの排気口(スリット)により行うものであるが,引用例2には,このような構成は記載も示唆もされていない。 したが われると排煙機能が停止する。さらに,本願補正発明は,通常の排気と火災時の排煙を1つの排気口(スリット)により行うものであるが,引用例2には,このような構成は記載も示唆もされていない。 したがって,審決の引用例2記載の発明の認定には,誤りがある。 ウ取消事由3(引用例3記載の発明の認定の誤り)引用例3記載の発明は,通路4に直交する小通路11と,空気を供給する給気ダクト7と,層状の気流を噴出する給気口6と,煙を吸引する排煙ファン9と,排気ダクト10から構成された装置である。引用例3記載の発明は,給気口6から排煙口8へ流れる層状の気流によって,煙を効果的に吸収・排煙することができるよう に構成し,逃げ遅れた者を封じ込めることのない通路4を設けるようにしたものであり,本願補正発明のように,エレベータ等の特定の構造物に煙が侵入しないようにする発明ではなく,本願補正発明の特徴である,エレベータの前に防煙扉を設ける必要がないという構成については,記載も示唆もされていない。また,引用例3記載の発明は,本願補正発明と異なり,煙等を除去するために,排煙ファン等の動作用の電源を必要とする。さらに,本願補正発明は,通常の排気と火災時の排煙を1つの排気口(スリット)により行うものであるが,引用例3には,このような構成は記載も示唆もされていない。 したがって,審決の引用例3記載の発明の認定には,誤りがある。 (2) 本願発明の容易想到性判断について本願発明の容易想到性判断に関する審決の判断は,争う。 2 被告の反論(1) 本願補正発明の容易想到性判断(独立特許要件の判断)についてア取消事由1(本願補正発明と引用発明の一致点・相違点の認定の誤り)に対して原告は,本願補正発明は,一般の戸建て住宅等におけるエレベータの防煙 の容易想到性判断(独立特許要件の判断)についてア取消事由1(本願補正発明と引用発明の一致点・相違点の認定の誤り)に対して原告は,本願補正発明は,一般の戸建て住宅等におけるエレベータの防煙扉を除去するものであって,引用発明とは,技術的思想や課題が相違すると主張する。しかし,本願の特許請求の範囲の記載は,高層集合住宅に設置するエレベータ装置を排除するものではないから,これも含まれる。また,引用例1の図2(別紙図面2)には,2つの排煙口32が示されており,そのうち1つは,エレベータホールEHないしエレベータシャフト40に近接して配置されている。この排煙口32には,排煙ダクト34が接続されており,屋上に配置された排煙ファン36の稼働によって,排煙ダクト34内を含む空間が減圧され,エレベータホールEHの煙が排煙口32を通じて外界へ排煙される。したがって,引用発明は,エレベータ近辺の煙がエレベータ付近に設けた排煙口を通じ,減圧された空間内に流れるものであり,本願補正発明と技術的思想や課題が相違するとはいえない。 また,原告は,本願補正発明は,吹抜けの煙突効果により,吹抜け内が常時減圧状態になるから,給気及び排気ファンを設ける必要がなく,電源が喪失しても動作すると主張する。しかし,本願の特許請求の範囲の記載は,給気ファンや排気ファンを備えた形態を排除するものではないから,原告の上記主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものである。 さらに,原告は,本願補正発明においては,エレベータホールに設けられる排気口は1つであり,エレベータホールに侵入してきた煙が拡散することがなく,エレベータホールにいる人は容易に煙を避けて避難することができるのに対し,引用例1では,エレベータホールに侵入してきた煙は,2つの排気口に分かれて排気され ールに侵入してきた煙が拡散することがなく,エレベータホールにいる人は容易に煙を避けて避難することができるのに対し,引用例1では,エレベータホールに侵入してきた煙は,2つの排気口に分かれて排気されるため,エレベータホールにいる人が避難できるエリアが狭くなると主張する。しかし,本願の特許請求の範囲の記載には,複数の排気口を有するものも含まれる上,引用例1の図2(別紙図面2)では,排気口32の一方がエレベータホールに近接して配置され,もう一方は遠く離れた位置に配置されており,排気口が2つあっても煙の流れが2つに分かれるわけではない。 以上のとおり,審決の本願補正発明と引用発明の一致点・相違点の認定に誤りはない。 イ取消事由2(引用例2記載の発明の認定の誤り)に対して原告は,引用例2記載の発明では,建築基準法に基づく不燃材料を用いた防煙壁が設けられているが,本願補正発明は,上記防煙壁を必要としないと主張する。しかし,防煙壁の有無に関する事項は,相違点1に係る容易想到性判断とは無関係であるし,本願補正発明においても,防煙壁を併用するものが含まれている。 また,原告は,引用例2記載の発明は,電源が失われると排煙機能が停止するのに対し,本願補正発明は,吹き抜けを利用しているので,排気ファンは必要ないと主張する。しかし,本願補正発明は,排気ファンを備える形態を排除していない。 さらに,引用例2には,防煙区画のブロックの所定範囲の中心部分に排煙筒が,屋上部分まで吹き抜けて設けられており,排煙のルートとなる排煙口の先の空間構造 として吹抜構造を使用することが開示されている上,上記排煙筒は,屋上近傍の外界に連通するものであるから,排気ファンが稼働しない状態であっても,排煙筒内の空間の気圧は大気圧よりも低く,減圧された状態となっている。し を使用することが開示されている上,上記排煙筒は,屋上近傍の外界に連通するものであるから,排気ファンが稼働しない状態であっても,排煙筒内の空間の気圧は大気圧よりも低く,減圧された状態となっている。したがって,引用例2に記載された排煙筒は,上記のとおり,本願補正発明の吹抜け構造と相違しない。 ウ取消事由3(引用例3記載の発明の認定の誤り)に対して原告は,引用例3記載の発明は,給気口6から排煙口8へ流れる層状の気流によって,煙を効果的に吸収・排煙することができるように構成し,逃げ遅れた者を封じ込めることのない通路4を設けるようにしたものであり,エレベータ等の特定の構造物に煙が侵入しないようにする発明ではなく,煙等を除去するために,排気ファン等の動作用の電源を必要とする上,エレベータの前に防煙扉を設ける必要がないという構成や,通常の排気と火災時の排煙を1つの排気口(スリット)により行うとの構成は,記載も示唆もされていないと主張する。 しかし,引用例3は,本願補正発明と引用発明との相違点である,スリットについて容易想到であることを示すために引用された刊行物であり,原告が主張する引用例3の構成は,上記容易想到性判断とは関係がなく,引用例3に記載されたスリットに関する構成を引用発明に適用することの妨げとはならない。 (2) 本願発明の容易想到性判断について審決の本願発明の容易想到性判断に誤りはない。 第4 当裁判所の判断当裁判所は,審決の本願補正発明に係る容易想到性判断(独立特許要件の判断)及び本願発明に係る容易想到性判断には,誤りがないものと判断する。その理由は,以下のとおりであるが,事案に鑑み,取消事由1ないし3を併せて検討する。 1 本願補正発明の容易想到性判断(独立特許要件の判断)について(1) 事実認定ア本願補正 のと判断する。その理由は,以下のとおりであるが,事案に鑑み,取消事由1ないし3を併せて検討する。 1 本願補正発明の容易想到性判断(独立特許要件の判断)について(1) 事実認定ア本願補正発明 (ア) 本願補正発明に係る特許請求の範囲の記載は,前記第2の2(2)記載のとおりである。 (イ) 本件明細書(甲4)には,以下の記載がある。 「【0002】従来のエレベータは図1の如く煙突状エレベータ棟(シャット)4の中にかご1があり,かご扉2とその前方に躯体又はエレベータ棟4に設けた出入り口扉3がある。これら扉が開閉する為に最低4ミリメートルの隙間が必要である。この隙間から火災時の煙5がエレベータ棟4及びかご1に侵入し,エレベータ棟4の煙突効果により上方の階に煙が運ばれ災害を拡大し,新宿のビルで多数の死者が出た。これにより建築基準法施工令の改正により,昇降路は遮炎性能及び遮煙性能を有する防災設備する事が義務付けられた。 このため,図2の如く鉄扉6をエレベータ前に設けるか,又は第3図に示す如くエレベータ前にフレーム8に保持されて上下する柔軟なシート状のシャッター7を設け,煙探知機9が煙を探知するとエレベータ入口上方にまきこまれていたシートシャッター7が重力により降下しエレベータ入口を遮断し煙が入らないようにするなどが従来技術であった。」「【発明が解決しようとする課題】【0003】新宿ビル火災から建築基準法が改正され,これをクリアするのに・・・エレベータ設置費が2倍以上になり,庶民は自宅にホームエレベータを付けることが難しくなり,エレベータメーカーは最近販売が停滞し業界全体としても大問題となっている。しかし,煙が入らないよう密閉するエレベータの開発は多大となり,不況の現状では不可能である。本発明により新 ことが難しくなり,エレベータメーカーは最近販売が停滞し業界全体としても大問題となっている。しかし,煙が入らないよう密閉するエレベータの開発は多大となり,不況の現状では不可能である。本発明により新しいエレベータを開発する事無く,建築基準法改正令をクリアする遮煙エレベータの発明である。」「【発明の効果】【0005】 先般の新宿のビルの火災により新しい建築基準法が施行され,これをクリアする為,図2及び図3のような装置を付けねばならず,これがコストアップになり,又,エレベータドアを煙が入らないよう密閉するドアの開発には開発費がかかりホームエレベータ業界の頭痛の種になっている。・・・」「【0006】本発明を以下図面に基づき説明する。 図4(判決注・図4は,別紙図面1のとおりである。)は本発明実施例で本発明建物及びエレベータの横断面を示す。本発明建物17には吹抜け10を設け,この吹抜け10とエレベータ前と連通するスリット11を設ける。このスリット11はスラブからスラブへの細長いスリットとする。ここに開閉窓を設けてもよい。建物17の入口ドア14から玄関18に入り次にエレベータホールドア19を開けエレベータホール13に入る。エレベータホール13は常気圧であるが,吹抜け10は煙突効果により空気が上方に抜け,減圧状態となっている。建物17内にある部屋からの排気26やキッチン等からの排出暖気27を前記吹抜け10に排出させるように設計することにより更に吹抜け内の空気を上昇させ吹抜け内が減圧状態になる。 従ってエレベータホール13の気圧よりも吹抜け10がマイナスであるので空気はエレベータホール13からスリット11を通じて12のごとく吹抜け10内に流れる。従ってもし火災が発生し煙がエレベータホール13に侵入したとしても煙はエレベータ も吹抜け10がマイナスであるので空気はエレベータホール13からスリット11を通じて12のごとく吹抜け10内に流れる。従ってもし火災が発生し煙がエレベータホール13に侵入したとしても煙はエレベータ前スリット11を通じ吹抜け10に導かれエレベータ外ドア13,カゴドア2やエレベータ棟4には煙は侵入しないので煙が他階に拡がらない。・・・」イ引用例1引用例1(甲1)には,以下の記載がある。なお,引用例1の図2,3は,別紙図面2,3のとおりである。 「【0002】【従来の技術】高層集合住宅には,火災時の安全性,すなわち,万一の火災にも安全に避難できる建物であることが要求される。 【0003】そして,避難時の安全性を確保するには,廊下,附室,エレベータシャフト等が,以下に挙げる条件を具備していることが必要である。」「【0006】3.エレベータシャフト:他階への漏煙を防ぐために煙がエレベータシャフトへ流入しないこと。ケージの移動時にエレベータシャフトに煙を流入させないこと。」「【0034】また,回廊14の天井には,排煙口32が設けられている。排煙口32には排煙ダクト34が接続されており,屋上に配置された排煙ファン36を稼働させることで,排煙口32を通じて回廊14内の煙が外界へ排煙される。」(2) 判断ア上記によれば,本願補正発明は,火災発生の際,エレベータ近辺の煙がエレベータ付近に設けたスリットを通じ,減圧された吹抜け内に流れることを特徴とする遮煙エレベータ装置である。他方,引用例1の上記発明の詳細な説明の記載及び図面によれば,エレベータ装置において,火災発生の際,他階への漏煙を防ぐために煙がエレベータシャフトへ流入しないようにすることは,引用例1の出願当時から存在した課題であり,また,引用例1には,火災発生 面によれば,エレベータ装置において,火災発生の際,他階への漏煙を防ぐために煙がエレベータシャフトへ流入しないようにすることは,引用例1の出願当時から存在した課題であり,また,引用例1には,火災発生の際,エレベータ近辺の煙がエレベータ付近に設けた排煙口を通じ,排煙ダクト等の減圧された空間内に流れる装置が記載されている。そうすると,本願補正発明と引用発明は,火災発生の際,エレベータ近辺の煙がエレベータ付近に設けられた排煙口を通じ,減圧された空間に流れる点で一致し,本願補正発明においては,排煙口の形態がスリットであり,煙が吹抜け内に流れるのに対し,引用発明では,これらの形態が明らかでない点で相違するものと認められる。 そして,上記相違点に関して,引用例2(甲2)には,「本発明は,火災時等の排煙処理に使用される防煙区画システムに関する。」(段落【0001】),「・・・各階の天井部分を幾つかの所定面積のブロックに分け,・・・そのブロックの所定範囲の中心部分に角筒管状の排煙筒10が,屋上部分まで複数階貫通して設けられている。 屋上の排煙筒10の先端部分には,規定容量の排煙ファンFAが設けられ,各階の 防煙区画20の排煙口30から吸引した煙を排煙筒10から排煙できるようになっている。」(段落【0009】)との記載があり,煙が吹抜け内に流れる構成が開示されている。また,引用例3(甲3)には,「本発明は,地下街等の火災の際に発生する煙を遮断・排煙する通路の遮断・排煙方法および装置に係り,特に,給気口から送られた空気が排煙口へ吸引されることにより生じる気流によって,通路付近の煙を一緒に該排煙口に誘い込んで吸収・排気するものに関する。」(段落【0001】),「・・・小通路11の各突き当たり面には,水平方向に細長く給気スリット6・・・と排煙口8・・ によって,通路付近の煙を一緒に該排煙口に誘い込んで吸収・排気するものに関する。」(段落【0001】),「・・・小通路11の各突き当たり面には,水平方向に細長く給気スリット6・・・と排煙口8・・・がそれぞれ対面する形で設けられている。ただし,該排煙口8・・・は,上記給気口6・・・ほど極端に幅狭にする必要はない。・・・」(段落【0013】)との記載があり,排煙口の形態がスリットであることが開示されている。 以上によれば,本願補正発明は,引用発明に引用例2及び3に記載された技術事項を適用することにより容易に想到できたといえる。 イこれに対し,原告は,本願補正発明は,引用発明とは異なり,①建築基準法によって設置が義務づけられている防煙扉又はカーテン等を必要としない,②吸気及び排気ファンを設ける必要がない,③エレベータホールに侵入してきた煙は,1つの排気口(スリット)に向かう一連の束となり,拡散しないので,避難が容易となるとの,特有の構成を有し,格別の作用効果を奏すると主張する。 しかし,原告の上記主張は,失当である。すなわち,本願補正発明に係る特許請求の範囲の記載は,上記のとおり,「吹き抜け構造を有し,火災発生の際,エレベータ近辺の煙がエレベータ付近に設けたスリットを通じ,減圧された吹き抜け内に流れることを特徴とする防炎エレベータ装置。」というものであり,防煙扉又はカーテン等を設けることや,吹抜け構造に吸気(給気)及び排気ファンを設けることを除外しているとは解されない。むしろ,本件明細書には,「・・・・防炎シャッター7を設けると同時に本発明スリット11を併用して設ける場合も本発明に含まれる。・・・」(甲4・段落【0006】)との記載があり,本願補正発明は,防煙扉又はカーテン等を併用することを含むものといえる。さらに,本願補正発明及び引用 ット11を併用して設ける場合も本発明に含まれる。・・・」(甲4・段落【0006】)との記載があり,本願補正発明は,防煙扉又はカーテン等を併用することを含むものといえる。さらに,本願補正発明及び引用 発明のいずれにおいても,排気口の設置数は特定されておらず,排気口の設置数などによって,煙の流れは変化するから,本願補正発明は,引用発明とは異なり,エレベータホールに侵入してきた煙は,1つの排気口(スリット)に向かう一連の束となり,拡散しないので,避難が容易となるとの格別の効果を奏するとはいえない(なお,原告主張の「低コストで容易に設置可能であること」や,「電源が失われても排煙装置が停止することがないこと」との効果は,本願補正発明により達成される場合もあるが,特許請求の範囲の記載に基づくものとはいえない。)。したがって,本願補正発明は,引用発明とは技術的課題を共通にするものであるし,上記相違点以外に,引用発明にはない特有の構成を有するとか,格別の作用効果を奏するとはいえない。 ウまた,原告は,引用発明2及び3は,いずれも本願補正発明と異なり,①エレベータ等の特定の構造物への煙の侵入を防ぎ,建築基準法に基づく防煙扉を不要とする発明ではない,②煙等を除去するために,排気ファン等の動作用の電源を必要とするため,電源が失われると排煙機能が停止する,③通常の排気と火災時の排煙を1つの排気口(スリット)により行うものではない,と主張する。 しかし,原告の上記主張は,失当である。すなわち,上記のとおり,本願補正発明は,防煙扉や排気ファンを設置することを除外していない。また,本願補正発明に係る特許請求の範囲の記載において,通常の排気と火災時の排煙を1つの排気口(スリット)により行うものとは特定されていない。そもそも,審決は,本願補正発明と引用発 除外していない。また,本願補正発明に係る特許請求の範囲の記載において,通常の排気と火災時の排煙を1つの排気口(スリット)により行うものとは特定されていない。そもそも,審決は,本願補正発明と引用発明との相違点1(空間構造が吹抜け構造であり,煙が吹抜け内に流れる構成である点)について,引用例2の技術事項を参酌し,相違点2(排煙口の形態がスリットである点)について,引用例3の技術事項を参酌したにすぎないから,原告の上記主張は,その主張自体失当である。 (3) 小括以上によれば,本願補正発明は,引用発明に引用例2及び3に記載された技術事項を適用することにより容易に想到できたものであり,本件補正は,独立特許要件 を満たさないものであるとした審決の判断に誤りはない。 2 本願発明の容易想到性判断について本願発明に係る特許請求の範囲の記載は,前記第2の2(1)記載のとおりである。 すなわち,本願発明は,エレベータ扉前の空気を流動除去することによりエレベータ内に煙が入らないようにしたことを特徴とする遮煙エレベータ装置である。他方,上記のとおり,引用例1には,火災発生の際,エレベータ近辺の煙がエレベータ付近に設けた排煙口を通じ,排煙ダクト等の減圧された空間内に流れる装置が記載されている。そうすると,本願発明と引用発明は,火災発生の際,エレベータ近辺の煙を流動除去することによりエレベータ内に煙が入らないようにした点で一致し,本願発明においては,流動除去の対象となるのがエレベータ扉前の空気であるのに対し,引用発明では,エレベータ装置EVの扉の前の空気を流動除去の対象としているか明らかでない点で相違するものと認められる。 上記相違点について検討すると,上記のとおり,エレベータ装置において,火災発生の際,他階への漏煙を防ぐために煙がエレベータシ を流動除去の対象としているか明らかでない点で相違するものと認められる。 上記相違点について検討すると,上記のとおり,エレベータ装置において,火災発生の際,他階への漏煙を防ぐために煙がエレベータシャフトへ流入しないようにすることは,引用例1の出願当時から存在した課題であり,エレベータ近辺の空気を除去する際に,エレベータ扉前の空気についても流動除去の対象とすることは,引用発明から容易に想到することができたといえる。 したがって,本願発明は,引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとの審決の判断に誤りはない。 3 結論以上のとおり,原告の主張する取消事由には理由がなく,他に審決にはこれを取り消すべき違法は認められない。その他,原告は,縷々主張するが,いずれも,理由がない。よって,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官芝田俊文 裁判官西理香 裁判官知野明 別紙 図面1(本件明細書〔甲4〕の【図4】) 図面2(引用例1〔甲1〕の【図2】) 図面3(引用例1〔甲1〕の【図3】) 3(引用例1〔甲1〕の【図3】)

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