(原審・浦和地方裁判所平成8年(行ウ)第8号労災保険給付不支給処分取消請求事件(原審言渡日平成12年5月29日)) 主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は,控訴人の負担とする。 事実 第1 当事者の求めた裁判 1 控訴人(1) 原判決を取り消す。 (2) 被控訴人が控訴人に対し平成2年3月16日付けでした労働者災害補償保険法に基づく遺族補償給付を支給しない旨の決定及び平成3年3月26日付けでした同法に基づく葬祭料を支給しない旨の決定をいずれも取り消す。 (3) 訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。 2 被控訴人主文と同旨第2 当事者の主張当事者の主張は,次のとおり訂正し,又は付加するほかは,原判決事実摘示のとおりであるから,これをここに引用する。 1 原判決4頁11行目から同5頁1行目にかけて及び同3行目の各「葬祭料補償給付」をいずれも「葬祭料」と改める。 2 原判決7頁8行目の次に行を改めて次のとおり加える。 「 Aの業務は,動的筋労作(等張性筋労作)と静的筋労作(等尺性筋労作)の複合されたものである。すなわち,空で50キログラム,充填後で100キログラムのボンベを垂直に立てられた状態から傾ける作業(動的筋労作),傾けたボンベを支える作業(静的筋労作),傾けたボンベを回転させて移動させる作業(動的筋労作),回転させて移動させる途中でボンベを支える作業(静的筋労作)及び目的の地点まで移動させた後傾けたボンベを垂直に立てる作業(動的筋労作)を繰り返すもので,動的筋労作と静的筋労作の両種の筋労作の負荷が合わせて加えられるところに特徴があり,これが1日中間断なく反復されるため,身体の多くの部位に筋活動が生じ,末梢血管抵抗は著しく減少し,心拍数の増加 ので,動的筋労作と静的筋労作の両種の筋労作の負荷が合わせて加えられるところに特徴があり,これが1日中間断なく反復されるため,身体の多くの部位に筋活動が生じ,末梢血管抵抗は著しく減少し,心拍数の増加,血圧上昇,脈圧の増加及び心拍出量の増加が起こるものである。このような作業は,動脈硬化が進行していたAにとっては避けられるべきであったが,繁忙期であったため,Aは,休日出勤を余儀なくされ,本件疾病を発症したのである。」 3 原判決14頁7行目の次に行を改めて「 今日では,心臓突然死が関連する基礎病変や直接死因に結びつく誘因は,臨床医学的経験に基づく体内の循環動態を中心としたメカニズムだけではなく,「中等以上の筋労作,長時間運転,情動ストレス」等の環境・労働要因が大きいことが理解されており,上畑鉄之丞が行った「ストレスと健康総合調査」の結果では,心筋梗塞などの虚血性心疾患や不整脈などの心臓発作には,休日の少なさや仕事のストレス,疲労感などがかかわっていることが示されている(甲44)。Aは,2年間を通算して月平均約54時間もの慢性的長時間労働により慢性的疲労状態にあったところ,繁忙期には1か月の休日が6日程度となり,充填作業量の多さと休みが取れない状態が続き,本件疾病の発症数日前には夜眠れないほどの胸の痛みを訴えるようになり,発症当日の同僚とのやり取りから強い精神的情動ストレスを受け,ついに心筋梗塞を発症したものであって,業務起因性は肯定されるべきである。 なお,労働基準局は,平成12年10月12日,脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準の見直しに向けた検討を始めたが(甲38),ここでは,業務の加重性の評価の仕方,慢性の疲労や過度のストレスの持続,1週間前の業務のとらえ方,平均的労働者の範囲の明確化などを検討すべきことが指摘されてお 見直しに向けた検討を始めたが(甲38),ここでは,業務の加重性の評価の仕方,慢性の疲労や過度のストレスの持続,1週間前の業務のとらえ方,平均的労働者の範囲の明確化などを検討すべきことが指摘されており,本件にあっても,この見直しの方向に沿った判断がされるべきである。」を加え,同9行目の「葬祭料補償給付」を「葬祭料」と改める。 第3 証拠証拠関係は,本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから,これをここに引用する。 理由 1 当裁判所も,控訴人の本件各請求はいずれも理由がなく,これを棄却すべきものと判断する。その理由は,次のとおり訂正し,又は付加するほかは,原判決理由説示のとおりであるから,これをここに引用する。 (1) 原判決22頁9行目の「第四号証」の次に「,第7号証の1,2」を加え,同9行目から同10行目にかけての「第一五号証の二」を「第15号証の1,2」と,同行目から同11行目にかけての「第二一号証の二」を「第21号証の1,2」とそれぞれ改め,同11行目から同23頁1行目にかけての「第二九号証の一ないし四」の次に「,第30号証の1ないし10,第31号証の1ないし3」を加える。 (2) 原判決23頁11行目の「約六年余り」を「約5年余り」と改める。 (3) 原判決24頁5行目及び同6行目を次のとおり改める。 「 トラックからプラットフォームに降ろされた空ボンベを整理し,回転式充填機の近くまで移動させる作業である(なお,トラックからプラットフォームに空ボンベを降ろす作業は運送会社が行っていた。)。」(4) 原判決25頁1行目から同2行目にかけての「トラックから搬入される空ボンベにも」を「トラックで搬入される空ボンベは,」と,同4行目から同9行目までを次のとおりそれぞれ改める。 )。」(4) 原判決25頁1行目から同2行目にかけての「トラックから搬入される空ボンベにも」を「トラックで搬入される空ボンベは,」と,同4行目から同9行目までを次のとおりそれぞれ改める。 「 しかし,ボンベの移動は,ボンベを斜めに傾け,底の円周の一点を地面との接点として,ボンベを回転させることによって行うため,バランスを取ってボンベの重心の鉛直線を地面との接点に置くことができれば,作業員は,ボンベの重量をさほど感じずにボンベを移動させることができ,バランスの取り方に慣れると,ボンベを傾けるときもこれを回転させるときも,それほど身体的に負担をかけず,精神的にも極度の緊張を強いられることなく作業を行うことができるものであった(乙第12号証,証人Bの証言)。」(5) 原判決26頁3行目及び同4行目を「 空ボンベを充填機の円形のターンテーブル上に1本ずつ載せて,これに充填ホースを取り付ける作業である。」と,同8行目の「五〇キログラム」から同11行目末尾までを「LPガス10キログラム当たり約0.8分で充填することができ,したがって,50キログラムのボンベは約4分で充填が完了する。ターンテーブルの回転速度は,調節が可能であるが,通常は約3分で1回転するように設定されているため,50キログラムのボンベは2回転するうちに,それ以外のボンベは1回転するうちに充填されることになる(乙第15号証の1,2,第17号証)。」とそれぞれ改める。 (6) 原判決27頁3行目及び同8行目の各「コンベア」をいずれも「ベルトコンベア」と,同10行目の「LPガス充填作業人員」を「LPガスの充填作業」とそれぞれ改める。 (7) 原判決28頁8行目の「原告」を「A」と,同10行目の「負担がかかる」を「負担が偏る」とそれぞれ改める。 (8) 原判決32頁 ス充填作業人員」を「LPガスの充填作業」とそれぞれ改める。 (7) 原判決28頁8行目の「原告」を「A」と,同10行目の「負担がかかる」を「負担が偏る」とそれぞれ改める。 (8) 原判決32頁4行目の「空のボンベ」から同5行目の「運搬されてくる」までを「空のボンベがトラックで搬入されてくるのは,正午ころと特に午後4時ころが多い」と,同8行目から同9行目にかけての「で行っていた」を「にゆだねられていた」とそれぞれ改める。 (9) 原判決33頁1行目及び同6行目の各「別紙三」をいずれも「本判決別紙1」と,同9行目から同11行目までを次のとおりそれぞれ改める。 「 Aは,平成元年11月3日に休日出勤し,充填機の清掃作業に従事したが,この作業は,毎年6月と11月に行われることになっており,Aは,昭和59年から毎年この作業に従事していたが,作業後は,20日間ほど,狭い所に入るので足腰が痛むと原告に訴えるのが常であった(乙第13号証)。」(10) 原判決34頁4行目の「別紙三」を「本判決別紙2」と,同6行目の「一日」を「11日」とそれぞれ改める。 (11) 原判決35頁2行目の「前記①」を「前記1(二)①」と改める。 (12) 原判決39頁11行目の「一立法ミリメートル」を「1立方ミリメートル」と改める。 (13) 原判決40頁7行目の「総合コレステロール」を「総コレステロール」と改める。 (14) 原判決42頁2行目の「甲第一五号証」の次に「。以下「C意見書」という。」を加える。 (15) 原判決43頁6行目の「増設された」を「増設され」に改める。 (16) 原判決44頁3行目の「二三日」を「28日」と改める。 (17) 原判決45頁2行目から同46頁11行目までを次のとおり改める。 「 前記認定のとおり,Aが従事していたLP に改める。 (16) 原判決44頁3行目の「二三日」を「28日」と改める。 (17) 原判決45頁2行目から同46頁11行目までを次のとおり改める。 「 前記認定のとおり,Aが従事していたLPガスの充填作業は,充填機のあるプラットフォームに降ろされた空のボンベを整理して,充填機のある場所まで移動させる作業,空ボンベを充填機のターンテーブル上に載せ,これに充填ホースを取り付け,LPガスを充填する作業,ガスの充填が終わったボンベを充填機から取り外してターンテーブルから降ろし,ベルトコンベアに載せる作業,ボンベをベルトコンベアから降ろし,得意先別にプラットフォーム上のそれぞれの出荷位置に移動して整理し,数量確認等の伝票照合をする作業から成るものであり,充填されたボンベの重量は,最も重いもので100キログラム程度になるが,Aら作業員が行うボンベの移動は,ボンベを斜めに傾けて,ボンベの底の円周の一点を地面との接点としてボンベを回転させて行うものであるため,バランスを取ればボンベの重量をさほど感じずに行うことができ,バランスの取り方に慣れれば,ボンベを傾けるときもこれを回転させるときも,それほど身体的に負担をかけず,精神的にも極度の緊張を強いられることなく作業を行うことができるものであったというのであり,他方,Aは,関東支店に勤務するようになって以来5年余り,LPガスの充填作業を日常の一般的な業務として行っていたというのである。そうしてみると,Aにとっては,LPガスの充填作業は,これまでに通常行っていた業務の範囲内にあり,かつ,既に習熟していたものということができるのであって,それほど身体的に負担をかけず,精神的にも極度の緊張を強いられることなく行うことができた作業であるということができる。確かに,LPガスの充填作業によって取り扱われるLP いうことができるのであって,それほど身体的に負担をかけず,精神的にも極度の緊張を強いられることなく行うことができた作業であるということができる。確かに,LPガスの充填作業によって取り扱われるLPガスは,可燃物であって,密閉された空間などに一定程度以上の濃度に充満させた状態で火気に触れると爆発する危険があることは公知の事実であり,その意味では危険物ということができるが,前記認定によれば,LPガス自体には毒性はなく,これを吸引しても,特に多量でない限り,身体的には特段の害はないというのであり,また,充填作業を行うプラットフォームは,ガスの充満を避けるため,屋根のみが設置され,周囲に壁が設けられていないというのであるから,ガスが漏れたとしても爆発の可能性は低いということができるのであって,LPガスを取り扱うということ自体で作業員が極度の緊張を強いられるものということはできない。 また,前記認定によれば,関東支店における昭和63年から平成元年にかけてのLPガスの充填量は,原判決別紙一記載のとおりであるところ,これによれば,季節的な変動があるものの,充填量が格別増加しているわけではない上,平成元年4月からは作業員1名が補充されたことは前記認定のとおりであるから,関東支店における作業環境,作業状況等の諸事情に照らしても,LPガスの充填作業自体が加重な負荷のかかる重筋作業であるとか,特に肉体的,精神的な負荷のかかる業務であると認めることはできない。」(18) 原判決48頁2行目の「別表」を「別紙」と改める。 (19) 原判決49頁4行目の「にはそれぞれ休暇を取っており」を「の各日曜日は休んでおり」と,同7行目の「負荷のある」を「負荷のかかる」と,同8行目の「本件疾病」から同9行目の「経過した」までを「Aが疲労を訴えた充填機の清掃作業から本件疾病 暇を取っており」を「の各日曜日は休んでおり」と,同7行目の「負荷のある」を「負荷のかかる」と,同8行目の「本件疾病」から同9行目の「経過した」までを「Aが疲労を訴えた充填機の清掃作業から本件疾病の発症までに約2週間が経過していた」とそれぞれ改める。 (20) 原判決54頁5行目の「別表二」を「別紙一」と改め,同10行目の「できないし」の次に「(現に,Aは,同年10月31日及び同年11月1日には2日続けて年次有給休暇を取っている。)」を加える。 (21) 原判決56頁4行目の「存在をも」を「存在を」と,同7行目の「医師C」から同8行目の「という。)」までを「のC医師作成のC意見書(甲第15号証)」とそれぞれ改める。 (22) 原判決57頁1行目の「かえって」から同6行目の「指摘しており」までを「しかしながら,C意見書によれば,Aは,高脂血症の状態にあったにもかかわらず,1日当たり1箱程度の喫煙を継続していたが,高脂血症と喫煙は冠動脈疾患の三大危険因子の中の二つであり,これに54歳というAの年齢なども合わせて考えると,心筋梗塞を準備するに十分な動脈硬化の相当程度の進展が起こっていたと推定することができるというのであるから」と改める。 (23) 原判決58頁2行目から同59頁6行目までを次のとおり改める。 「 また,C意見書中には,Aは,長年にわたって精神的,肉体的ストレス状態に置かれ,休暇を取ることも,高脂血症の療養指導を受けることもできず,本件疾病の発症前1週間は特に疲労しており,死亡15日前には休日出勤をし,通常より加重な業務をこなしていることなどからすれば,本件疾病は,長年の加重な勤務状況の下で動脈硬化が進展し,発症直前の加重な勤務状況下で心筋梗塞の発症が準備されたものであるから,Aの本件疾病の発症及び死亡は,Aが行っていた業 いることなどからすれば,本件疾病は,長年の加重な勤務状況の下で動脈硬化が進展し,発症直前の加重な勤務状況下で心筋梗塞の発症が準備されたものであるから,Aの本件疾病の発症及び死亡は,Aが行っていた業務に起因するものである旨の記載がある。しかしながら,Aの行っていたLPガスの充填作業が特に精神的,肉体的に負荷のかかる業務とはいえないこと,業務の都合でAが医師の診察を受けるための休暇を取ることが困難であったという状況はなかったこと,Aが本件疾病発症の約2週間前に休日出勤して行った充填機の清掃作業が本件疾病発症の原因となったとはいえないことは,いずれも既に判断したとおりであり,また,高脂血症については,Aは,健康診断の結果コレステロール値が高いことを指摘され,医師から食生活の改善を指導されていたことも前記認定のとおりであるから,C意見書中の前記記載は,いずれもその前提を欠くものであって,採用することができないというべきである。」 2 よって,当裁判所の上記判断と同旨の原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第20民事部裁判長裁判官石井健吾裁判官小田泰機裁判官大橋弘(別紙省略)
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