主文 本件上告を棄却する。 理由 検察官の上告趣意は,平成11年法律第136号による改正前の国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律(以下「改正前の麻薬特例法」という。)2条3項において不法収益とされる「薬物犯罪の犯罪行為により得た財産」の意義に関する原判決の判断が,所論引用の大阪高等裁判所平成11年(う)第1222号同12年8月30日判決に相反するというのである(なお,所論は,同裁判所平成12年(う)第1490号同13年7月17日判決にも反する旨を主張するが,同判決は,改正前の麻薬特例法の規定について解釈を示したものではないから,前提を欠くというべきである。)。 原判決は,上記「薬物犯罪の犯罪行為により得た財産」の意義に関して,犯罪行為を遂行するのに必要な経費の支出に充てるための資金として共犯者から実行行為者ら特定の個人等に預託されたにすぎないものは,これらの個人等の収益ということはできないなどと判示した上,被告人が共犯者から受け取った往復航空券の使用済みの往路の運賃相当額について,追徴をしなかった。この判断は,被告人が共犯者から受領した航空券は上記「薬物犯罪の犯罪行為により得た財産」に当たるとして,往路分を追徴,復路分を没収した所論引用の判決と相反するものである。 しかしながら,【要旨1】改正前の麻薬特例法2条3項において不法収益とされる「薬物犯罪の犯罪行為により得た財産」とは,薬物犯罪の構成要件に該当する行為自体によって犯人が取得した財産をいうものと解するのが相当である。【要旨2】薬物犯罪を遂行する過程において費消・使用されるものとして,犯人が他の共犯者から交付を受けた財産は,当該薬物犯罪との関係では, 体によって犯人が取得した財産をいうものと解するのが相当である。【要旨2】薬物犯罪を遂行する過程において費消・使用されるものとして,犯人が他の共犯者から交付を受けた財産は,当該薬物犯罪との関係では,犯罪行為の用に供するた- 1 -めに犯人が取得した財産というべきものであって,刑法19条1項2号の「犯罪行為の用に供し,又は供しようとした物」に当たることがあるのは格別として,上記「薬物犯罪の犯罪行為により得た財産」には当たらないものと解すべきである。 したがって,刑訴法410条2項により,所論引用の判例は,これを変更し,原判決を維持するのを相当と認めるから,所論の判例違反は,結局,原判決破棄の理由にならない。 ところで,原判決の認定及び記録によれば,被告人は,我が国で本件犯行を実行するため,共犯者から,台湾において,我が国に渡航する往復航空券のほか,報酬の一部前払及び本件犯行を遂行するに際して要する費用に充てる趣旨で,3万台湾元と日本円27万円を受け取った後,本件犯行の5日前,往路航空券を使用して我が国に入国し,本件犯行に及んだものである。そして,被告人は,本件覚せい剤を陸揚げした直後に逮捕された時点において,上記金員のうち,我が国における宿泊費や,上記陸揚げに使用するためのゴム脚ハンマーなどの各種用具(以下「本件用具」という。)の購入等に費消した残額である現金22万4936円と台湾紙幣30枚(以下,日本円及び台湾紙幣を併せて「本件金員」という。),本件用具及び本件犯行翌日に我が国を出国し台湾に戻るための復路航空券を所持していて,これらが押収されたというのである。そうすると,【要旨3】本件で被告人から押収された復路航空券及び本件用具は,いずれも改正前の麻薬特例法2条3項にいう「薬物犯罪の犯罪行為により得た財産」には当たらないものの,刑法 れたというのである。そうすると,【要旨3】本件で被告人から押収された復路航空券及び本件用具は,いずれも改正前の麻薬特例法2条3項にいう「薬物犯罪の犯罪行為により得た財産」には当たらないものの,刑法19条1項2号の「犯罪行為の用に供し,又は供しようとした物」に当たると認めるのが相当である。 また,被告人から押収された本件金員は,薬物犯罪の共犯者間において,犯罪行為の用に供しようとする金員と,受交付者に対する薬物犯罪の犯罪行為の報酬の趣旨に当たる金員とが,その割合を明示されることなく一括して交付された後,犯罪遂行のためにその一部が費消された残額であり,押収時点においてもなお,犯行後の- 2 -逃走のためなどに用いられることが予定されていたものであると認められる。このように,【要旨4】受交付者において薬物犯罪の犯罪行為を遂行するために費消した上,その残額を同行為の報酬として取得することとして,共犯者から交付を受けて犯人が所有する金員については,裁判所は,改正前の麻薬特例法14条1項及び刑法19条1項2号により,その全額を没収することが可能であると解すべきである。原判決は,復路航空券及び本件金員全額を没収したものであるが,その結論は是認することができるというべきである。 よって,刑訴法408条により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官福田博裁判官北川弘治裁判官亀山継夫裁判官梶谷玄裁判官滝井繁男)- 3 -
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