令和2(ネ)409 損害賠償請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
令和4年11月25日 仙台高等裁判所
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判決文本文21,826 文字)

主文 1 控訴人である原告らの控訴及び原告(番号11-4、24-2、25-1)の死亡による承継に基づき、原判決主文2項、3項中、同原告らに関する部分を次のとおり変更する。 2 被告は、別紙2認容額一覧表の「当審認容額」欄に金額の記載がある原告らに対し、同欄記載の各金員及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。 3 前項の原告らのその余の予備的請求を棄却する。 4 第1項の原告らのその余の控訴及び被告の控訴をいずれも棄却する。 5 訴訟費用は、第1項の原告らと被告との間においては、第1、2審を通じて5分の1を被告の負担とし、その余を同原告らの負担とし、その余の原告らと被告との間においては、控訴費用を被告の負担とする。 6 本判決主文2項は、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 訴訟承継後の原告137名の控訴⑴ 原判決中、控訴人である原告らに関する部分を次のとおり変更する。 ⑵ 被告は、前項の原告らに対し、別紙2認容額一覧表の「控訴額」欄記載の各金員及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。 2 訴訟承継後の原告129名に対する被告の控訴原判決中、被控訴人である原告らの請求を認容した部分を取り消し、取消部分に係る同原告らの請求をいずれも棄却する。 第2 事案の概要(注:使用する略語・用語は、原判決の例による。) 1 争いのない事実(福島第一原子力発電所の事故の発生とその原因)平成23年3月11日、東北地方太平洋沖地震により発生した津波により、福島 県双葉郡双葉町及び大熊町に被告が設置・運営してい 争いのない事実(福島第一原子力発電所の事故の発生とその原因)平成23年3月11日、東北地方太平洋沖地震により発生した津波により、福島 県双葉郡双葉町及び大熊町に被告が設置・運営していた福島第一原子力発電所において、大量の放射性物質が大気中に放出されて拡散する原子力事故が発生した。 地震により外部電源からの給電が停止したため起動した非常用ディーゼル発電機が、地震により発生した津波による発電所敷地の浸水により機能を喪失し、これにより原子炉の冷却機能が完全に失われて原子炉が損傷し、大量の放射性物質が大気中に放出されて拡散したものである。 2 南相馬市原町区内から避難した原告らの訴え本件は、福島県南相馬市原町区内の避難指示解除準備区域(半径20km圏内)又は緊急時避難準備区域(半径20km圏外で30km圏内)に居住していた原告らが、避難生活に伴う精神的苦痛とふるさと(故郷)喪失・変容についての精神的苦痛に対する慰謝料と弁護士費用の損害賠償を求めた事案である。 訴えを提起した144名の原告のうち10名が死亡し、他の原告134名と死亡した原告の訴訟を承継して参加した6名の合計140名が原告となっている。 当審においては、3名の原告(番号11-4、24-2、25-1)が死亡し、別紙1原告目録記載の承継人が、その権利義務を全部相続して承継した。 避難指示解除準備区域に居住していた原告が17世帯(番号2~18)、緊急時避難準備区域に居住していた原告が27世帯(1、19~29、31~40、43~47)である。緊急時避難準備区域は、平成23年9月30日に指定が解除され、南相馬市原町区の避難指示解除準備区域は、平成28年7月12日に避難指示が解除された。 請求の原因についての原告らの主張と前提事実は、原判決摘示のとおりであり 成23年9月30日に指定が解除され、南相馬市原町区の避難指示解除準備区域は、平成28年7月12日に避難指示が解除された。 請求の原因についての原告らの主張と前提事実は、原判決摘示のとおりであり、①本件事故による避難指示等、②南相馬市、特に原町区の概況及び本件事故発生前後の変化等、③原告らの避難状況と本件事故発生前後の生活状況等、④放射線に関する知見、放射線による健康影響、除染状況等、⑤中間指針等、⑥経済産業省の示した賠償基準の考え方、⑦被告の賠償基準等及び賠償の状況、以上の認定事実は、原判決第3章第3の1のとおりである。 原告らが居住していた南相馬市原町区の各地区の位置は、別紙3地図のとおりであり、半径20km圏内に、小沢、江井、小浜、20km圏内から圏外にかけて、大甕下、20km圏外に、大甕上、雫、仲町三丁目、下高平、錦町一丁目、北原、石神、上北高平、大木戸の各地区がある。事故時の居住地とその避難指示区分は、別紙2認容額一覧表記載のとおりである。 南相馬市原町区における環境放射能測定値は、原判決摘示(311~313頁)のほか、福島県の公表資料である別紙4県内7方部環境放射能測定結果(暫定値)平成23年3月11日~3月31日の表のとおりであり、本件原発の北約24kmに位置する錦町一丁目の南相馬合同庁舎における環境放射能測定値が、事故翌日の平成23年3月12日午後5時46分から測定され、福島県により随時公表されていた。これによれば、平成23年3月12日午後9時に、最大の測定値20.00μSv/h(平常値は、0.05μSv/h)が測定されていた。 3 被告による賠償金の支払と弁済の抗弁被告は、本件事故により放射性物質が拡散したことにより生じた損害(原子力損害)について、被告の過失の有無に関わりなく、原子力損害の )が測定されていた。 3 被告による賠償金の支払と弁済の抗弁被告は、本件事故により放射性物質が拡散したことにより生じた損害(原子力損害)について、被告の過失の有無に関わりなく、原子力損害の賠償に関する法律3条1項に基づく損害賠償責任がある。 被告は、原子力損害賠償紛争審査会が原賠法18条2項2号に基づき本件事故による原子力損害の範囲の判定等に関して策定した第4次追補までの中間指針に従い、原告やその家族に対し、別紙5の表のとおり、精神的損害、財産的損害、住居確保費用、弁護士費用として賠償金を支払っている。 被告は、この賠償金の支払を弁済の抗弁として主張し、原告らに対する損害賠償責任を果たしていると主張する。その他被告の主張は、原判決摘示のとおり。 被告は、避難生活に伴う慰謝料として、避難指示解除準備区域につき1人あたり850万円(月額10万円×平成23年3月から平成30年3月までの85か月)、緊急時避難準備区域につき1人あたり180万円(月額10万円×平成23年3月から平成24年8月までの18か月)を支払い、ほかに避難所等における避難生活 による増額(月額2万円)、要介護者等への増額、ペットとの離別慰謝料、自主的避難に係る損害、緊急時避難準備区域における避難生活等に関連した学校生活等における精神的損害35万円(平成24年9月から平成25年3月までの7か月×月額5万円)など個別事情による精神的損害の増額分を賠償として支払っている。 4 原審の判断と双方の控訴原審は、原告らの不法行為に基づく主位的請求を棄却し、原子力損害の賠償に関する法律に基づく予備的請求は、11名の原告の請求を棄却し、他の原告の請求を一部認容した。 請求を全部棄却された11名と一部棄却された原告のうち126名の合計137名が控訴し、控訴 害の賠償に関する法律に基づく予備的請求は、11名の原告の請求を棄却し、他の原告の請求を一部認容した。 請求を全部棄却された11名と一部棄却された原告のうち126名の合計137名が控訴し、控訴審において、避難指示解除準備区域に居住していた原告は、1人あたり1017万5000円、緊急時避難準備区域に居住していた原告は、1人あたり649万円の損害賠償を求める限度で原判決の変更を求めた。 被告は、原審で請求を一部認容された原告129名を被控訴人として控訴し、その部分の原判決を取り消して請求を棄却することを求めた。 第3 当裁判所の判断 1 骨子⑴ 慰謝料の算定について当裁判所は、慰謝料の算定にあたり、原子力発電所における原子炉損傷と水素爆発による大量の放射性物質の拡散という重大な事故により、①深刻な放射線被害の具体的な危険に直面し、突然住み慣れた生活を失って避難せざるを得なくなった精神的苦痛、②更に長期間の避難生活の継続を余儀なくされた精神的苦痛、③故郷が変容してしまった結果として地域社会における共同生活の利益を失ったことによる有形、無形の損害ないし精神的苦痛をそれぞれ考慮し、原審とは異なり、避難指示解除準備区域から避難した原告には一律に1100万円の慰謝料を認め、既払金850万円を控除した残額250万円に弁護士費用25万円を加えた275万円の損害賠償を認め、緊急時避難準備区域から避難した原告には一律に300万円の慰謝 料を認め、既払金180万円を控除した残額120万円に弁護士費用12万円を加えた132万円の損害賠償を認めるのが相当であり、原告らの請求は、これらの賠償と遅延損害金の支払を求める限度で認容すべきであると判断する。 ア避難指示解除準備区域 1100万円① 避難を余儀なくされた慰謝料 150 めるのが相当であり、原告らの請求は、これらの賠償と遅延損害金の支払を求める限度で認容すべきであると判断する。 ア避難指示解除準備区域 1100万円① 避難を余儀なくされた慰謝料 150万円② 避難生活の継続による慰謝料 850万円月額10万円×平成23年3月から平成30年3月までの85か月(期間中に帰還した者も同額とする。)③ 故郷の変容による慰謝料 100万円イ緊急時避難準備区域 300万円① 避難を余儀なくされた慰謝料 70万円② 避難生活の継続による慰謝料 180万円月額10万円×平成23年3月から平成24年8月までの18か月③ 故郷の変容による慰謝料 50万円⑵ 被告の弁済の抗弁について被告の弁済の抗弁については、個別事情による精神的損害の賠償の増額分、財産的損害、住居確保費用、弁護士費用の賠償は、本件において請求している損害とは別の損害ないし前記⑴の一律に認められる慰謝料を超える慰謝料の損害が発生し、被告がこれらの損害の発生を認め、損害賠償義務を履行したものと認められるから、前記⑴の慰謝料の損害賠償についての弁済とは認められないものと判断する。 家族に対する賠償も、前記慰謝料の損害賠償についての弁済とは認められない。 2 不法行為に基づく主位的請求について原判決理由説示のとおり、本件事故による損害について民法709条に基づき不法行為による損害賠償を求める原告らの主位的請求は、原賠法3条1項による損害賠償責任があることに争いのない損害について、同項により適用が除外されている民法709条の不法行為の規定に基づく損害賠償を求めるものであるから、その余 の点について判断するまでもなく理由がない。 原告らの控訴のうち、原判決が原告ら 同項により適用が除外されている民法709条の不法行為の規定に基づく損害賠償を求めるものであるから、その余 の点について判断するまでもなく理由がない。 原告らの控訴のうち、原判決が原告らの主位的請求を棄却した部分を不服とする部分は、理由がないから棄却する(主文4項)。 3 津波による原発事故の発生と原告らの避難の経過について平成23年3月11日午後2時46分、マグニチュード9.0の東北地方太平洋沖地震が発生し、福島第一原発では、定期検査中の4号機を除く1号機から3号機が運転中であったが、地震により、いずれの原子炉も緊急停止し、外部電源を失って非常用ディーゼル発電機が自動的に立ち上がり、電気の供給を始めた。 しかし、同日午後3時35分頃に押し寄せた津波は、1号機~4号機の主要建屋の設置場所の敷地高さ(O.P.+10m)を超え、南防潮堤の外側から主要建屋設置エリア南東側に侵入し、ほぼ全域が浸水した。 浸水高は、約O.P.+11.5~15.5mであった。 浸水により非常用ディーゼル発電機や配電盤などが使用不能となって交流電源を喪失し、直流電源まで喪失して全電源を喪失した結果、炉心溶融により原子炉が損傷し、溶融した燃料からセシウムなどの放射性物質が大量に原子炉から放出され、原子炉建屋の水素爆発も発生し、大気中に大量の放射性物質が放出された。 内閣総理大臣は、福島第一原発における全交流電源喪失及び非常用炉心冷却装置注水不能という事態を受け、3月11日午後7時3分、原子力緊急事態宣言を発令し、原子力災害対策本部を設置した。内閣総理大臣は、同日午後9時23分、原発から半径3km圏内の住民の避難のための立ち退き及び半径10km圏内の住民の屋内退避を指示した。更に、翌3月12日午前5時44分、原発から半径10km圏内の住民の 理大臣は、同日午後9時23分、原発から半径3km圏内の住民の避難のための立ち退き及び半径10km圏内の住民の屋内退避を指示した。更に、翌3月12日午前5時44分、原発から半径10km圏内の住民の避難のための立ち退きを指示した。 3月12日午後3時36分、1号機の原子炉建屋で水素爆発が発生し、同日午後6時25分、内閣総理大臣は、20km圏内の住民に対し避難のための立ち退きを指示した。しかし、南相馬市の住民の多くには自治体から避難指示の連絡が円滑にされず、多くの住民はテレビなどで避難指示が出ていることを把握する状態であっ た(国会事故調報告書第4部「4.2 住民から見た避難指示の問題点」、甲A1)。 政府からも、a官房長官が3月12日夜の記者会見において、「10kmから20kmの間の皆さんに具体的に危険が生じるというものではございませんが、(中略)念のために、さらに万全を期す観点から20kmに拡大いたしたものでございます」といった程度の説明しかせず、原発事故の具体的な状況、その時点で把握できていることとできていないこと、今後予想される事態、想定される避難の期間、被ばくのリスクの低い避難経路、被ばくのリスクの低いと考えられる適切な避難場所等について、避難住民に対し、その当時判明していた情報に基づいた具体的な説明がされることはなかった(同報告書343~344頁)。 ところが、前記第2の2のとおり南相馬市原町区における環境放射能測定値は、原発から約24km離れた合同庁舎のある中心市街地でも、3月12日夜の時点で午後8時に17.08μSv/h、午後9時に20.00μSv/hという極めて高い放射能が測定されていた。 しかし、半径20km以上30km圏内の住民に対しては、3月14日午前11時1分頃、3号機の原子炉建屋が水素爆発し、翌1 、午後9時に20.00μSv/hという極めて高い放射能が測定されていた。 しかし、半径20km以上30km圏内の住民に対しては、3月14日午前11時1分頃、3号機の原子炉建屋が水素爆発し、翌15日午前6時14分頃に4号機の原子炉建屋も水素爆発した後になって、3月15日午前11時、屋内退避が指示されたにすぎない。一方で、3月15日午前9時頃、2号機の原子炉損傷により、福島第一原発の正門付近では、空間放射線量が1万1930μSv/hを記録し、被告は、福島第一原発の一部の職員を福島第二原発に避難させるほど2号機が危機的な状況にあることを知りながら、その事実を適切な時期に公表せず、その情報が近隣住民の避難に活かされることはなかった(同報告書495~497頁)。 南相馬市は、3月16日、政府や県から具体的な避難指示の連絡はなかったが、市民の生活の安全確保等を理由として独自の判断に基づき、市全域の住民に対し、一時避難を要請した。南相馬市においては、上記半径20km以上30km圏内の住民への屋内退避指示以降、自主避難する住民が増加し、また、屋内退避区域内のスーパーマーケットや銀行等の生活に必要な店舗が撤退しつつあったため、区域内 に残って屋内退避していた住民のみならず、区域外で生活する住民の生活も困難な状況が生じていた。南相馬市では、屋内退避区域内の住民が自主的に避難したことに伴い、市内の店舗が相次いで閉鎖し、トラックなどが屋内退避区域に入って来なくなるなど物流も止まり、同地区で生活をしていくことが困難となった。それを受け、南相馬市は、住民の自主避難を支援するため、3月18日から20日まで及び25日にバスを用意した上で集団避難を行った。 4月22日、南相馬市原町区では、福島第一原発から半径20km圏内の区域は警戒区域に指定され、2 自主避難を支援するため、3月18日から20日まで及び25日にバスを用意した上で集団避難を行った。 4月22日、南相馬市原町区では、福島第一原発から半径20km圏内の区域は警戒区域に指定され、20km以上30km圏内の区域は、屋内退避指示が解除されて緊急時避難準備区域に指定された。なお、緊急時避難準備区域においては、引き続き自主的避難が要請されるとともに、特に子供、妊婦、要介護者、入院患者等は立ち入らないようにし、保育所、幼稚園、小中学校及び高等学校は、休所、休園又は休校とすること、勤務等のやむを得ない用務等を果たすために当該区域内に入ることは妨げないが、その場合においても常に避難のための立ち退き又は屋内への退避を自力で行えるようにしておくことなどが指示された。 なお、上記指示は、原子力災害対策本部が国際放射線防護委員会(ICRP)及びIAEAが定める緊急時被ばく状況における放射線防護の基準値である年間20mSvから100mSvのうち最下限の20mSvを指標とし、年間20mSvを超える地域については計画的に住民の避難を実施すること、一方、この数値を下回る区域については福島第一原発において発生し得る最悪の事態を想定し、緊急時に避難のための立ち退き又は屋内への退避が可能な準備を行うとされたものである。 原子力災害対策本部は、平成23年9月30日、緊急時避難準備区域を解除し、12月26日、年間積算線量が20mSv以下となることが確実であることが確認された地域を避難指示解除準備区域に設定し、避難指示区域等を再編する方針を明らかにし、避難指示解除準備区域については、当面の間、引き続き避難指示が継続されるものの、除染、インフラ復旧、雇用対策など復旧・復興のための支援策を迅速に実施し、住民の一日でも早い帰還を目指す区域とされ、局所的に線量が高 準備区域については、当面の間、引き続き避難指示が継続されるものの、除染、インフラ復旧、雇用対策など復旧・復興のための支援策を迅速に実施し、住民の一日でも早い帰還を目指す区域とされ、局所的に線量が高い地 点については優先的に除染を実施し早期の線量低減を図るとされた。 上記方針に基づき、平成24年4月16日、南相馬市における半径20km圏内の警戒区域は避難指示解除準備区域に再編され、平成28年7月12日、避難指示解除準備区域が解除された。 4 本件事故の重大性と事故発生についての被告の責任の重さについて本件事故は、事故の重大さを0から7の8段階にレベル分けした国際原子力・放射線事象評価尺度(INES)に基づいて、原子力安全・保安院が、「レベル7(深刻な事故)」と評価した過去に例のない極めて深刻な事故であり、1号機~3号機から大気中に放出された放射性物質の総量は平成23年6月6日の時点で、ヨウ素131が約16万テラベクレル、セシウム137が約1.5万テラベクレルであり、これらのヨウ素換算値は約77万テラベクレルとなる。 今でも、原子炉内には事故で溶け落ちた燃料デブリが残っており、冷却のために毎時3トンの注水を継続しているが、デブリなどに触れた水は損傷部分から建屋内に漏れ、高濃度汚染水が発生している(甲A347)。 令和4年3月16日、福島県と宮城県で震度6強を観測するなどした地震が発生し、1号機では地震の後にも原子炉格納容器内の水位が約40cm下がり、地震の影響で損傷箇所が広がったと見られているほか、2号機の使用済み核燃料を保管するプールにつながるタンクの水位が低下したため手動で冷却を止めたが、冷却を再開するまでに約7時間半を要した(甲A348~351)。 東京電力福島第一原子力発電所における事故の分析に係る検討会 管するプールにつながるタンクの水位が低下したため手動で冷却を止めたが、冷却を再開するまでに約7時間半を要した(甲A348~351)。 東京電力福島第一原子力発電所における事故の分析に係る検討会が、2021年3月5日に公表した「東京電力福島第一原子力発電所事故の調査・分析に係る中間取りまとめ」(甲A333)によれば、2号機と3号機の原子炉格納容器の真上にあるシールドプラグという蓋に相当する部分が極めて高濃度に汚染されていることが新たに判明しており、3枚重ねの蓋の1番上と真ん中の板との間にあると推定されるセシウム137の量は2号機で約20~40ペタベクレル(ペタは1千兆)、3号機で約30ペタベクレルに達すると推定される。 原子炉の設計に従事してきた技術者bの意見書(甲A336)によれば、事故後10年以上を経た現時点においても、燃料デブリや使用済燃料の取り出しの工程や方法・技術が確立されているとはいえず、廃炉の計画が順調に進むか不透明な状況にあり、燃料取り出し時における原子炉建屋の損傷に伴う放射性物質の拡散のリスクが全くないといえる状態ではない。 本件事故は、原子炉が損傷して原子力発電所が爆発し、大量の放射性物質が放出されたという過去に例のない深刻な事故であり、これにより前記3のとおり地域の経済社会活動に重大な損害をもたらしたばかりでなく、南相馬市の住民が一時全員避難するという歴史上かつてない社会の混乱を生じさせた重大な事故である。 本件事故に至った経緯、被告が行ってきた安全対策とその前提となるべき地震・津波に関する当時の知見等については、原判決の認定(第3章第2の1)のとおりであり、福島第一原発の設置にあたって敷地高さを超える津波の襲来が想定されていなかったことは事実である。しかし、被告が、本件事故前に、このような 見等については、原判決の認定(第3章第2の1)のとおりであり、福島第一原発の設置にあたって敷地高さを超える津波の襲来が想定されていなかったことは事実である。しかし、被告が、本件事故前に、このような津波を予見していなかったわけではない。 被告は、地震防災対策特別措置法に基づき政府に設置された機関である地震調査研究推進本部が平成14年7月に長期評価を公表した頃には、福島県沖を含む日本海溝沿いの領域においてM8クラスのプレート間の大地震が発生する可能性があることを認識し、平成18年5月の第3回内部溢水、外部溢水勉強会(国の機関である原子力安全・保安院と原子力安全基盤機構が運営していた勉強会であり、被告も参加していた。)の頃には、福島第一原発の敷地高を超える津波が到来した場合、タービン建屋の浸水により、原子炉を冷却する電源設備が機能を喪失する可能性があることも認識していた。 更に、M8クラスのプレート間の大地震が発生した場合の津波の浸水高についても、被告の土木調査グループは、平成20年4月18日に東電設計株式会社から、津波評価技術で設定されている明治三陸沖地震の波源モデルを福島県沖日本海溝沿いに設定した場合、最大津波高さが、敷地南側で、敷地高さ(O.P.+10m) を超えるO.P.+15.7m(浸水深5.7m)になる試算を受け取っていた。 本件事故の浸水高は、前記3のとおり約O.P.+11.5~15.5mであったから、被告は、事故の3年前、平成20年4月には事故原因となった津波の大きさを超える津波が到来する可能性を認識していたのである。 被告は、平成20年4月には、福島第一原発において、本件事故と同程度の津波が到来し、浸水により電源設備が機能を喪失して重大な原発事故が発生する危険があることを認識し、当時この津波想定に対する対 被告は、平成20年4月には、福島第一原発において、本件事故と同程度の津波が到来し、浸水により電源設備が機能を喪失して重大な原発事故が発生する危険があることを認識し、当時この津波想定に対する対策を検討した被告の担当部局の責任者であったc原子力設備管理部新潟県中越沖地震対策センター所長(甲A238)は、この想定津波への対策を検討し、平成20年7月31日、d原子力・立地本部副本部長に対し、別紙6(福島地点の津波評価について(状況報告))に基づき検討状況を説明した上で、d副本部長の下で、防潮堤の建設などの想定津波への対策について協議した。 その結果、防潮堤完成まで約4年(環境影響評価が必要な場合はプラス約3年)かかり、建設費が数百億円規模となり、仮に耐震バックチェックにより津波対策を求められ、対策が完了するまで福島第一原発の運転停止を求められることになれば、当時、柏崎刈羽原子力発電所が停止した状況にあって、火力による発電量を増やすことで対応していたが、その結果、燃料費がかさんだため収支が悪化している状況の中で、福島第一原発まで運転停止に追い込まれれば更なる収支悪化が予想され、電力の安定供給も果たせなくなる危険性があるため、福島第一原発が運転停止に追い込まれる状況は何とか避けたいという判断の下に、d副本部長の責任において、3年程度かけて土木学会に合理的な波源モデルを判断してもらった後に、それに見合ったしかるべき対策を講じることとし、想定した津波への対策を先送りすることを決定した。 d副本部長らは、他社の原子力発電所における津波対策として、建屋の止水扉の設置や壁を高くするなどの対策を講じた例があることも調査検討していたのに(別紙6の「2.関係各社の対応」)、土木学会で波源モデルを見直すこととして対策を 先送りした。すなわち 屋の止水扉の設置や壁を高くするなどの対策を講じた例があることも調査検討していたのに(別紙6の「2.関係各社の対応」)、土木学会で波源モデルを見直すこととして対策を 先送りした。すなわち危険性を認識していたにもかかわらず、その危険性をより小さく見積もるために土木学会による判断を経るという名目で時間を稼ぎ、一方で、防潮堤の建設以外の津波対策については何ら検討せず、本件事故の発生まで、津波による浸水によって全電源を喪失し、原子炉が損傷するという重大事故が発生することを未然に防止する措置を何ら講じなかったのである。 このような被告の対応は、原子力発電所を設置運転し、地域社会に深刻な被害を及ぼす原発事故を未然に防止する責務を負っている原子力発電事業者として、福島第一原発における津波による原子炉損傷という重大事故の発生の危険について3年も前から具体的な危険として予見していたにもかかわらず、津波対策により原発が運転停止に追い込まれる状況は何とか避けたいなどという経営上の判断を優先させ、原発事故を未然に防止すべき原子力発電事業者の責務を自覚せず、結果回避措置を怠った重大な責任があったと認めるのが相当である。 5 慰謝料の算定について⑴ 慰謝料の算定方法本件における慰謝料の算定にあたっては、原告らが主張する包括的平穏生活権の侵害、とりわけ地域生活利益の侵害に関し、前記認定の原告らの精神的苦痛及び有形、無形の損害を評価するにあたり、被告が原賠審の中間指針に従った賠償をしてきていることを踏まえ、被告の賠償基準により評価できる損害と評価し尽くせない損害とを区分して検討するのが合理的であると考える。 この点、被告は、避難指示の程度に応じて相当の避難期間を定め(避難指示解除準備区域85か月、緊急時避難準備区域18か月)、その期間につ くせない損害とを区分して検討するのが合理的であると考える。 この点、被告は、避難指示の程度に応じて相当の避難期間を定め(避難指示解除準備区域85か月、緊急時避難準備区域18か月)、その期間について一人月額10万円の割合による避難生活に伴う慰謝料を支払っている。したがって、当裁判所においても、相当の避難期間に応じた慰謝料(避難生活の継続による慰謝料)を算定するとともに、それでは評価し尽くせない損害についての慰謝料として、原告らの主張や被害の実情を勘案し、避難を余儀なくされた慰謝料、故郷の喪失又は変容による慰謝料について検討するのが、損害の合理的な評価方法と考える。 ⑵ 避難を余儀なくされた慰謝料前記認定のとおり、原告らは、居住地の近くで設置運営されていた福島第一原発における全く予期しない突然の事故により大量の放射性物質が拡散する重大な事故に見舞われ、深刻な放射線被害の具体的な危険に直面し、適切な情報も提供されないまま突然避難を余儀なくされるという重大な損害を被っている。 原告らの多くは、避難指示の遅れや情報の欠如から適切な時期に適切な場所に避難することができず、あるいは適切な被ばく防護策がとられなかったことで被ばくによる健康被害に対する具体的な不安や危惧があるというのに、放射線による生命・身体への被害の危険を判断する適切な情報もないまま、事故直後から避難指示を受けて、とるものもとりあえずあわただしく避難し、あるいは緊急時避難準備区域においても、屋内退避を指示され、南相馬市では一時避難を要請されるなどして同様の避難を実際上余儀なくされた。 被告や国から十分な情報が公表されず、避難経路や避難先を適切に判断することができず、より線量の高い地域に避難した者も少なくないし、余震が続く中にあって、鉄道や道路も十分利用で 上余儀なくされた。 被告や国から十分な情報が公表されず、避難経路や避難先を適切に判断することができず、より線量の高い地域に避難した者も少なくないし、余震が続く中にあって、鉄道や道路も十分利用できず、給油も困難な中、着の身着のまま慌ただしく避難をせざるを得なかった。 このような突然の避難により、原告らは、地域の人間関係を断たれ、場合によっては、職業生活を失い、学業の継続性や家族の一体性すらも阻害された。このように避難を余儀なくされた原告らは、その置かれた状況は様々であるとしても、それぞれの境遇において極めて大きな精神的苦痛を被ったものと認められる。このことは地震や津波により自宅が全壊ないしは損壊した者も変わりがない。 このような原告らの避難の状況を踏まえ、原告らが慰謝料の原因として主張する包括的平穏生活権の侵害により「避難生活を余儀なくされたこと」から生じる精神的損害のうち、避難後の避難生活の継続による精神的苦痛とは区別し、居住地からの避難を余儀なくされたこと自体により原告らが被った損害ないし精神的苦痛を評価して慰謝料を算定するのが相当と認められる。 このような慰謝料を算定するにあたっては、本件事故の発生について、事故を予見しながら結果回避を怠り深刻な原発事故を発生させた重大な責任が被告にあることも考慮して算定するのが相当である。原告らの避難は、原子力発電所の安全確保に重大な責任を負い、原告ら地域住民の信頼の上に福島第一原発を立地してきた被告が、事前に予見していた津波被害の対策を先送りして起こした重大事故のために余儀なくされたものであり、その観点からも、原告らが避難を余儀なくされた精神的苦痛は、更に大きなものと評価できるからである。 このような意味を有する避難を余儀なくされた慰謝料の算定をするには、上記のよう されたものであり、その観点からも、原告らが避難を余儀なくされた精神的苦痛は、更に大きなものと評価できるからである。 このような意味を有する避難を余儀なくされた慰謝料の算定をするには、上記のような原告らの損害ないし精神的苦痛の内容程度を的確に評価する観点から、本件事故時における生活の本拠における放射線被害の具体的な危険性の程度、すなわちこれを前提とする避難指示の程度を勘案して類型的に行うことが相当である。 この観点から、当裁判所は、上記の損害ないし精神的苦痛を評価した避難を余儀なくされた慰謝料として、原告らについて、避難指示の区分に応じて次の金額を認めるのが相当であると判断する。 避難指示解除準備区域であった地域から避難した原告については、放射線被害の危険や避難の切迫性が極めて大きく、将来の避難生活に対する不安も著しいものであったと考えられるから、1人あたり150万円とするのが相当である。 緊急時避難準備区域であった地域から避難した原告については、上記地域と比べ、避難生活を始めるにあたっての精神的苦痛にはそれほどの差がないとしても、放射線被害の危険や避難の切迫性の面では、精神的苦痛の程度がやや小さいものと評価できるから、1人あたり70万円とするのが相当である。 ⑶ 避難生活の継続による慰謝料前記⑵のとおり避難を余儀なくされた慰謝料を算定しても、避難後の避難先での日々の著しい生活阻害による心身の苦痛、不便、不自由、不安等のストレスないし精神的苦痛が慰謝されるものとはいえない。したがって、これらの損害ないし精神的苦痛を考慮し、相当の避難期間に応じた慰謝料(避難生活の継続による慰謝料) を算定するのが相当である。 慰謝料の月額については、被告は、原賠審の定めた中間指針に従い、1人あたり月額10万円の避難生活に伴 の避難期間に応じた慰謝料(避難生活の継続による慰謝料) を算定するのが相当である。 慰謝料の月額については、被告は、原賠審の定めた中間指針に従い、1人あたり月額10万円の避難生活に伴う慰謝料を支払っており、当裁判所は、前記⑵の避難を余儀なくされた慰謝料のほかに、原告らの相当の避難期間について、1人あたり月額10万円の避難生活の継続による慰謝料を認めるのが相当であると判断する。 この慰謝料の月額は、避難を余儀なくされたことは同じである以上、原告らが受けた避難指示の程度により差を設ける必要はない。 1人あたり月額10万円の避難生活の継続による慰謝料を認めるべき相当の避難期間は、本件事故時における生活の本拠における放射線被害の危険性や避難指示の程度に応じて、類型的に定めるのが相当である。 避難指示解除準備区域については、南相馬市原町区は、平成28年7月12日に避難指示解除準備区域が解除されたことを踏まえ、避難の継続か帰還かの判断をするについて相当な期間を経た平成30年3月までの期間を相当の避難期間とみて、本件事故から85か月の避難生活の継続による慰謝料を認めるのが相当である。 緊急時避難準備区域については、平成23年9月30日に解除されてから避難の継続か帰還かの判断をするについて相当な期間を経た平成24年8月までの期間について、相当の避難期間として、本件事故から18か月の避難生活の継続による慰謝料を認めるのが相当である。 他方で、この期間を超えて避難生活を続けても、本件事故による避難生活の継続と評価し続けるのは困難であり、それは、避難生活の継続による慰謝料として評価すべきではなく、少なからぬ原告らが避難を継続せざるを得ない実情は、故郷の喪失又は変容による慰謝料の算定において考慮するのが相当である。 また、上記の相当 は、避難生活の継続による慰謝料として評価すべきではなく、少なからぬ原告らが避難を継続せざるを得ない実情は、故郷の喪失又は変容による慰謝料の算定において考慮するのが相当である。 また、上記の相当の避難期間より前に帰還しても、避難生活の継続による慰謝料を認める期間に差を設けることは相当でない。早く帰還した原告らも、帰還したからといって通常の生活が直ちに戻るものではなく、避難生活を続ける原告らと比べ、勝るとも劣らない精神的苦痛が続いたと認められるからである。 原告として訴えを提起しながら、上記の相当の期間が過ぎる前に死亡した者についても、避難生活を続けながら死亡した無念さを考えれば、その点を考慮することにより、上記と同じ避難期間を基礎として、避難生活の継続による慰謝料を算定するのが相当である。 ⑷ 故郷の変容による慰謝料原告らは、故郷喪失・変容慰謝料について、包括的平穏生活権の中の「地域生活利益」というべき法益が侵害されたことによる慰謝料であると主張し、その諸要素として、当該地域の住民が、山林で自生するきのこ、たけのこ、山菜などを採取し、川や海で魚を獲り、田畑や家庭菜園で米や野菜などを収穫して消費していたことや、住民相互間でこれらの収穫物を「お裾分け」し合ったり、農作業、冠婚葬祭、子育て、介護などについて自発的に協力し合ったりするという協働又は共助の関係が根付いていたなどの事情を主張する。 原告らが主張する「故郷」とは、地域における住民の生活を支える基盤のひとつとしての自然環境的条件と社会環境的条件の総体を指し、自然環境的条件は、本件事故による放射性物質の飛散により汚染されたことで侵害され、社会環境的条件は、地域の住民が放射性物質の飛散により汚染され又は汚染されるおそれのある地域から唐突に避難することを余儀なく 的条件は、本件事故による放射性物質の飛散により汚染されたことで侵害され、社会環境的条件は、地域の住民が放射性物質の飛散により汚染され又は汚染されるおそれのある地域から唐突に避難することを余儀なくされたことで地域社会における住民相互の緊密な結び付きの全部又は一部が解体し、侵害されたということができる。この観点から、当裁判所は、このような地域における住民の生活基盤としての自然環境的条件と社会環境的条件の総体について、これを一応「故郷」と呼び、前記のとおり避難を余儀なくされた慰謝料や避難生活の継続による慰謝料を算定しただけでは評価し尽くされない損害について、避難前の故郷における生活の破壊・喪失による精神的損害の慰謝料として、南相馬市原町区における生活基盤の喪失・変容についての原判決説示(第3章第3の2⑶イ)の事実に基づき、故郷の変容による有形、無形の損害ないし精神的苦痛を評価し、故郷の変容による慰謝料を算定することとする。 避難指示解除準備区域については、事故から5年後に解除されて帰還が可能にな ったとしても、社会生活上、このような長期間を経て地域共同生活を取り戻すことは著しく困難であり、故郷が変容してしまったことにより、地域共同生活の利益を損なわれ、有形、無形の損害及び精神的苦痛が生じたと認められる。そこで、本件事故による地域共同生活の利益の侵害の程度や、地域社会が今後の復旧復興により徐々に回復される可能性も考慮し、この地域においては、故郷の変容による慰謝料として、100万円を認めるのが相当である。 緊急時避難準備区域については、事故から半年で解除され、避難の制度上は、通常の生活が可能になったとしても、南相馬市では、全住民に対して一時全ての住民に避難が要請され、多くの地域住民が避難したことにより、地域共同生活が相当に損な 事故から半年で解除され、避難の制度上は、通常の生活が可能になったとしても、南相馬市では、全住民に対して一時全ての住民に避難が要請され、多くの地域住民が避難したことにより、地域共同生活が相当に損なわれたことは否定できない。この点を考慮し、他方で、比較的早期に復旧復興が進められている実情を考慮すれば、この地域においては、故郷の変容による慰謝料として、50万円を認めるのが相当である。 ⑸ 被告の主張に対する判断被告は、原告らの避難の状況について、別紙7(避難指示解除準備区域)、別紙8(緊急時避難準備区域)のとおり個別の事情を主張し、これらの事情を個別に考慮して慰謝料を算定すべきであると主張する。 津波による自宅の損壊等の被害を受けた原告(番号1、26、27、32、以上雫地区、8、9、以上小沢地区、10、江井地区、14、小浜地区)についてみると、確かに原町区の沿岸地域には広範かつ甚大な津波被害が発生し、雫地区、小沢地区、小浜地区では、居住地域が建築基準法39条1項の災害危険区域(津波等による危険の著しい区域)に指定され、居住用の建物の建築が制限された者もある。 しかし、津波により自宅が損壊したからといって、当然の結果として、その地域での生活が継続できなくなるわけではない。地域から避難し、避難生活を継続し、その間に地域の共同生活が失われた原因は、津波ではなく原発事故にあったと認めるのが相当である。災害危険区域への指定も、当該地域に居住していた者が当該土地で生活を再建することを希望するか否かによって決定され、その意思決定は、津 波被害を原因として決定されたというよりも、津波に加えて原発事故による避難指示が続いたことが決定的な原因となったと認められるのである。 小沢地区のように、津波により全49戸のうち47戸が被害を受け、ほ 被害を原因として決定されたというよりも、津波に加えて原発事故による避難指示が続いたことが決定的な原因となったと認められるのである。 小沢地区のように、津波により全49戸のうち47戸が被害を受け、ほぼ全域が災害危険区域に指定された地区でも、地域社会はその地区のみでなく、周辺地域とのかかわりによって成り立つものであり、この地域が、原発から18kmと近く、避難指示が続き、放射能汚染の危惧が高かったことからすれば、小沢地区の地域コミュニティが変容した主たる原因は、やはり原発事故にあったというべきである。 したがって、津波により自宅が損壊した被災者あるいは地区のほとんどの家が津波被害を受けた小沢地区の原告にも、避難を余儀なくされた慰謝料、避難生活の継続による慰謝料、故郷の変容による慰謝料を同じように認めるのが相当である。 被告は、特別養護老人ホームへの入所(原告番号3-2、11-4)、進学・就職・結婚等のための転居による避難終了(4-3・4、6-4、11-3、15-4、18-3・4、33-3、40-3、45-3・5・6)などの事情を主張し、本件事故に起因する避難生活が継続していたとはいえないとも主張する。 しかし、避難指示解除準備区域に居住していた原告は、本件事故により、居住していた家や地域が放射性物質に汚染され、平成28年7月12日に避難指示が解除されるまではもとより、その後相当の期間を経た平成30年3月31日までは居住していた家や地域において平穏な日常生活を送ることが不可能になったといえる。 緊急時避難準備区域に居住する原告も、屋内退避を求められ、更に、南相馬市の独自の判断により避難を求められた上、物流が止まって生活が困難になる中、福島第一原発において発生し得る最悪の事態を想定し、緊急時に避難のための立ち退きや屋内への退避が可能な められ、更に、南相馬市の独自の判断により避難を求められた上、物流が止まって生活が困難になる中、福島第一原発において発生し得る最悪の事態を想定し、緊急時に避難のための立ち退きや屋内への退避が可能な準備を行う地域に指定されたことにより、平成23年9月30日の解除後も、平成24年8月31日までは被ばくを避けるために行動を制約され、同様に、平穏な日常生活を送ることが不可能ないし著しく困難にされた。 原告らは、福島第一原発から拡散した大量の放射性物質による生命・身体に対する深刻な放射線被害の具体的な危険に直面し、この放射線被害の危険は原子力発電 所における未曽有の大事故によるもので、その危険性の程度を的確に評価できず、将来における原状回復の可能性も全く予測できないものであった。除染が進められてきたとはいえ、環境中に放出された放射性物質による健康被害の不安は解消されず、とりわけ放射線への感受性が高い可能性がある子どもを抱える家族の健康上の不安は大きかったといえる。進学や就職により転居し、家族や地域社会との結びつきに変化があったとしても、原発事故後の生活には、深刻な原発事故の被害と避難指示による地域社会や家族関係の変動が大きな影響を及ぼしていることも明らかである。そのような事情も併せて考慮しなければ公平とはいえない。事故の影響で職場が閉鎖になった結果、家族を避難先に残して単身赴任したのはまさに本件事故によるものであり、家族と一緒に避難しているのと変わりがない。事故時点で大学に進学することが決まっていた者も、学業に必要な範囲で進学先の近くに居住したというにすぎず、学生と家族の結びつきの深さを考えれば、家族との避難生活を終えたと評価できるものではない。 本件事故により生活の基盤である自宅やその地域で生活する権利や自由を奪われた原告らが たというにすぎず、学生と家族の結びつきの深さを考えれば、家族との避難生活を終えたと評価できるものではない。 本件事故により生活の基盤である自宅やその地域で生活する権利や自由を奪われた原告らが失ったものは、原告それぞれの年齢、職業、通学先等の各自の事情により異なるが、原発事故により生活の基礎となる基本的な権利や自由が奪われた原告らの精神的苦痛を評価するには、そのような個別の事情を重視するよりも、原発事故に直面し、生活状況が事故により激変した被害の重大性、共通性を重視する方が、被害の実情に即した実質的に公平な損害の算定方法であると考える。 被告の主張する前記の個別の事情によって、原告の慰謝料、とりわけ避難生活の継続による慰謝料額に差をつけるのが相当とは認められない。 6 弁済の抗弁について被告は、前記第2の3のとおり賠償金の支払を弁済の抗弁として主張し、別紙5の表のとおり、被告が原告とその家族に対し、精神的損害、財産的損害、住居確保費用、弁護士費用として賠償金を支払い、精神的損害の増額分に係る内訳の整理が別紙9の表のとおりであることは、当事者間に争いがない。 被告は、別紙9の表のとおり、A「精神的損害(避難生活)」として、避難指示解除準備区域に居住していた原告に対し各850万円、緊急時避難準備区域に居住していた原告に対し各180万円を支払っているほか、原告の個別事情に基づいて、B「避難所等生活によるAの増額分」、C「精神的損害(要介護)」、D「ペットの死亡一時金」、E「精神的損害(学童)」、F「自主的避難等に係る損害」、G「生命・身体的損害(入通院慰謝料)」、H「ADR手続等における個別事情を踏まえた精神的損害の増額分」を支払っている。 このうち、A「精神的損害(避難生活)」として支払われた賠償金は、請求に 、G「生命・身体的損害(入通院慰謝料)」、H「ADR手続等における個別事情を踏まえた精神的損害の増額分」を支払っている。 このうち、A「精神的損害(避難生活)」として支払われた賠償金は、請求に係る避難慰謝料の支払に他ならないから、この部分の弁済は、前記認定の慰謝料額から控除すべきであるが、その他のB~Hの支払は、上記認定の慰謝料の損害を超える損害が各原告の個別事情により生じ、被告がその損害の発生を自認した上で賠償をしたものと認められるから、前記認定の慰謝料の損害の弁済には充当されない。 別紙5の表のうち、財産的損害、住居確保費用、弁護士費用の損害は、本件訴訟の請求とは別の損害に対する賠償義務を被告が認めた上で、その義務の履行として支払ったものであり、前記慰謝料の損害の弁済には充当されない。 原告の家族に対する損害の賠償についても同様である。 7 各原告への損害賠償額について⑴ 避難指示解除準備区域 1100万円(原審1000万円)① 避難を余儀なくされた慰謝料 150万円(原審なし)② 避難生活の継続による慰謝料 850万円(原審850万円)③ 故郷の変容による慰謝料 100万円(原審150万円)避難指示解除準備区域に居住していた原告については、上記の慰謝料1100万円から既払いの賠償額850万円を控除した残額250万円と弁護士費用25万円の合計275万円の損害賠償を認めるのが相当である。 原告番号(2-1~6、3-1~3、4-1~6、5-1・2、6-1~4、7-1~4、8-1~4、9-1・2、10、11-1~4、12-1・2、13- 1・2、14-1・2、15-1~5、16-1・2・6、17-1~9、18-1~5)、以上の64名となる(死亡した者は、訴え提起時の原告)。 こ 0、11-1~4、12-1・2、13- 1・2、14-1・2、15-1~5、16-1・2・6、17-1~9、18-1~5)、以上の64名となる(死亡した者は、訴え提起時の原告)。 このうち死亡した原告(8-1、11-4、15-5、16-2)については、全部を相続して承継した原告(8-1-1、11-4-1、15-5-1、16-2-1)に同額の損害賠償が認められ、同じく死亡した原告(17-3)については、各2分の1の割合で相続して承継した2名の原告(17-3-1・2)に各2分の1の137万5000円の損害賠償が認められる。 ⑵ 緊急時避難準備区域 300万円(原審250万円)① 避難を余儀なくされた慰謝料 70万円(原審なし)② 避難生活の継続による慰謝料 180万円(原審180万円)③ 故郷の変容による慰謝料 50万円(原審70万円)緊急時避難準備区域に居住していた原告については、上記の慰謝料300万円から既払いの賠償額180万円を控除した残額120万円と弁護士費用12万円の合計132万円の損害賠償を認めるのが相当である。 原告番号(1-1、19-1・2、20-1~4、21-1・2、22-1~4、23-1・2、24-1~4、25-1~4、26-1~3、27-1・2、28-1・2、29、31-1・2、32、33-1~5、34-1~3、35-1・2、36-1~6、37、38、39-1~4、40-1~3、43-1・2、44-1~4、45-1~7、46-1~5、47-1~3)、以上の80名となる(死亡した者は、訴え提起時の原告)。 このうち死亡した原告(24-2、25-1、31-1)については、全部を相続して承継した原告(24-2-1、25-1-1、31-1-1)に同額の損害賠償、同じく死亡 た者は、訴え提起時の原告)。 このうち死亡した原告(24-2、25-1、31-1)については、全部を相続して承継した原告(24-2-1、25-1-1、31-1-1)に同額の損害賠償、同じく死亡した原告(32)については、2分の1を相続して承継した原告(32-1-1)に2分の1の66万円、各8分の1を相続して承継した4名の原告(32-1-2~5)に各8分の1の16万5000円の損害賠償、同じく死亡した原告(39-4)については、各4分の1の割合で相続して承継した2名の原 告(39-4-1・2)に各4分の1の33万円の損害賠償が認められる。 8 控訴に対する判断⑴ 被告の控訴について以上によれば、被控訴人である訴訟承継後の原告129名について認めるべき損害賠償額は、いずれも原審が認容した額を上回るから、原判決中、これらの原告の損害賠償請求を認容した部分は相当である。 よって、被告の控訴はいずれも理由がないから棄却する(主文4項)。 ⑵ 原告の控訴について原判決により予備的請求の全部又は一部を棄却されて控訴した訴訟承継後の原告137名について認めるべき損害賠償額は、いずれも原審が認容した額を上回るから、予備的請求に関する原判決主文2項、3項中、これらの原告に関する部分を変更し、上記損害賠償額とこれに対する事故日からの民法所定の遅延損害金の支払を求める限度で上記原告らの予備的請求(原賠法に基づく損害賠償請求)を認容し、その余の予備的請求を棄却する(主文1~3項)。 ⑶ 当審の認容額について認容額は、当審における訴訟承継後の140名の原告につき、原審の認容額は、合計1億4609万1000円であったが、当審認容額は、合計2億7929万円となる。当審認容額の合計額は、控訴に基づき原判決を変更する137名の ける訴訟承継後の140名の原告につき、原審の認容額は、合計1億4609万1000円であったが、当審認容額は、合計2億7929万円となる。当審認容額の合計額は、控訴に基づき原判決を変更する137名の原告に対する別紙2認容額一覧表記載の当審認容額に、控訴しなかった原告3名に対する一審認容額を加えた額である。 ⑷ 仮執行の宣言について当裁判所は、被告が、迅速な被害救済を図る原賠法の趣旨を踏まえ本判決を受けて適切に対応することを期待し、本判決で被告に賠償の支払を命ずる部分に仮執行の宣言を付し、仮執行の免脱宣言を求める被告の申立てを却下する。 仙台高等裁判所第2民事部 裁判長裁判官小林久起 裁判官鈴木桂子 裁判官山 﨑 克人 別紙1「原告目録」、別紙4「県内7方部環境放射能測定結果(暫定値)」及び別紙6「福島地点の津波評価について(状況報告)」は、掲載省略

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