主文 原判決のうち被告人に関する部分を破棄する。被告人を懲役八年に処する。原審の未決勾留日数のうち一八〇日を右刑に算入する。押収の大型両ロスパナ一本(原庁昭和四七年押第六一号の一)を没収する。押収のビニール製黒鞄一個(前回押号の二)を被害者Aに還付する。原審における訴訟費用のうち証人Aに支給した分を被告人に負担させる。理由 本件控訴の趣意は、弁護人岡林次郎が差し出した控訴趣意書に記されたとおりであるから、これを引用し、これに対し次のとおり判断する。<要旨>職権をもつて原判決の事実認定および法令適用の当否を検討するのに、原判決は、被告人の原判示第一の</要旨>一、二の各強盗予備および同第二の強盗致傷をそれぞれ別個の犯意に基づく独立の犯罪とし、併合罪として処断しているが、後述するように、被告人は継続した一個の強盗遂行の意思のもとに、原判示第一の一、二の強盗予備を二回行い、次いで同第二の強盗致傷に及んで、所期の目的を遂げたのであるから、右二回の予備は当然に実行行為に吸収され、強盗致傷の一罪が成立するにとどまると解するのが相当である。けだし、原判決挙示の関係証拠によれば、被告人は、B銀行C支店の集金人Aが日曜日を除き毎日継続して原判示株式会社D別館から集金し、これを手提鞄に入れて業務上保管したものを強取しようと決意し、まず原審相被告人Eと共謀のうえ、右犯行に使用するための大型両ロスパナを携えてEの運転する軽乗用自動車に同乗し、昭和四七年八月一六日頃と同月一八日頃に原判示第一の一、二のようにAの携えた手提鞄内の現金を狙つて強盗の予備をしたが、その間にAが通らなかつたり、あるいは途中で同人を見失つたため実行するに至らなかつたこと、更に同月二〇 頃と同月一八日頃に原判示第一の一、二のようにAの携えた手提鞄内の現金を狙つて強盗の予備をしたが、その間にAが通らなかつたり、あるいは途中で同人を見失つたため実行するに至らなかつたこと、更に同月二〇日原審相被告人Fと共謀の上、翌二一日原判示第二のようにAが前記別館から集金を終えて現金一〇三万一九〇九円位等を入れた手提鞄を同所に駐車していた原動機付自転車の後部に積もうとした際、これを強取して当初の目的を達成し、その際同人に重傷を負わせたことを肯認することができる。 現金を狙つて強盗の予備をしたが、その間にAが通らなかつたり、あるいは途中で同人を見失つたため実行するに至らなかつたこと、更に同月二〇日原審相被告人Fと共謀の上、翌二一日原判示第二のようにAが前記別館から集金を終えて現金一〇三万一九〇九円位等を入れた手提鞄を同所に駐車していた原動機付自転車の後部に積もうとした際、これを強取して当初の目的を達成し、その際同人に重傷を負わせたことを肯認することができる。そして二回の強盗予備(これが一個の強盗予備となるかどうかについては、ここで触れない)と一回の強盗致傷との関係をみるのに、これ等の犯行は被告人が当初計画したのであり、犯行の際に利用した自動車もその都度被告人が調達し、前記スパナも被告人の所有であつて、被告人が終始犯行の主動的役割を果したこと、犯行の目的は主として同一被害者が同一場所から集金した現金を奪うことであり、犯行日時、場所は極めて近接しているし、計画ないし実行された犯行の手段、態様であることが明らかである。以上の事実を考え合わせると、二回の強盗予備は、Eが加担したのに強盗致傷はFが加担したので、共犯者を異にすることを考慮するとしても、被告人の原判示第一の一、二の各強盗予備と同第二の強盗致傷とは単一、特定の犯意の発現たる一連の動作であると認めるのが相当である。もつとも、被告人は司法警察員に対する昭和四七年一〇月七日付供述調書の中で強盗予備を二回した後は母も気づいているようなのでもう強盗をやめようと思つたと述べ、また検察官に対する同月五日付供述調書でも、二回失敗したので強盗するのは一応中止したと供述しているが、これらの供述個所は、原判決挙示の他の関係証拠と対比すると信用できないのであり、ほかに原記録の各証拠および当審におけ 月五日付供述調書でも、二回失敗したので強盗するのは一応中止したと供述しているが、これらの供述個所は、原判決挙示の他の関係証拠と対比すると信用できないのであり、ほかに原記録の各証拠および当審における事実取調の結果を検討してみても、それが別個独立の犯意に出たものであると解すべき別段の事由を発見することはできない。してみると、右のような事実関係においてはこれを強盗致傷の一罪と認定するのが相当であつて、独立した三個の犯罪として認定するのは誤謬といわねばならない。従つて、原判決が二回の強盗予備と一回の強盗致傷を独立した三個の犯罪行為として、それぞれ認定したのは事実を誤認し、ひいて法令の適用を誤つた違法があり(ちなみに、最判昭和二六・四・三、刑集五・五・八〇四は本件とは事案を異にするので、先例に当らない。 きない。してみると、右のような事実関係においてはこれを強盗致傷の一罪と認定するのが相当であつて、独立した三個の犯罪として認定するのは誤謬といわねばならない。従つて、原判決が二回の強盗予備と一回の強盗致傷を独立した三個の犯罪行為として、それぞれ認定したのは事実を誤認し、ひいて法令の適用を誤つた違法があり(ちなみに、最判昭和二六・四・三、刑集五・五・八〇四は本件とは事案を異にするので、先例に当らない。)、その違法は、処断刑に影響を及ぼし、判決に影響を及ぼすことが明らかであるというべく、量刑不当の控訴趣意に関する判断をまつまでもなく、刑訴法三九七条一項、三八二条、三八〇条により原判決のうち被告人に関する部分は破棄を免れない。よつて、右の破棄をしたうえ、同法四〇〇条但書の規定に従い、更に自ら次のように判決する。(犯罪事実)原判決理由の「罪となるべき事実」欄のうち第一の一行目の「同E」および同五行目の「被告人E」とあるのをそれぞれ「原審相被告人E」、同第一の一、二の各末行の「断念し」とあるのをそれぞれ「立ち去り」、同第二の一行目に「同Fは」とあるのを「原審相被告人Fと」と訂正し、同第一の二の冒頭に「犯意を継続して」、同第二の一行目の「被告人G」の次に「は犯意を継続して」を加え、同第一の二の末行(判決書三枚表の一一行目)の「もつてそれぞれ強盗の予備をなし、」を削除したうえ、これを引用する。(証拠)(省略)(法令の適用)被告 」の次に「は犯意を継続して」を加え、同第一の二の末行(判決書三枚表の一一行目)の「もつてそれぞれ強盗の予備をなし、」を削除したうえ、これを引用する。(証拠)(省略)(法令の適用)被告人の原判示所為は包括して刑法六〇条、二四〇条前段に該当するから、所定刑のうち有期懲役刑を選択して処断すべきところ、被告人は、前示のように、Eと共謀のうえ二回も強盗の予備をしたあげく、Fと共謀のうえ強盗致傷を行つて所期の目的を遂げたこと、その際いずれも長さ六〇センチメートル、重さ約一・三五キログラムに達する大型両口スパナと自動車とを準備し、B銀行C支店の集金人A(当時五二歳)を狙い、中でも目的を遂げた強盗致傷は、かねて目をつけた集金額の最も多い月曜日、被告人において背後から被害者Aの頭部を前記スパナで二回強打して同人をその場に転倒失神させたものであつて、奪取金額も現金一〇三万一九〇九円位の多額に達し、致傷の程度は入院加療約三か月間を要する頭蓋骨開放陥没骨折および脳浮腫脳挫傷であつたこと、これら一連の犯行は目的を達成するまで執拗、かつ計画的に敢行されたのであり、その手段方法は悪質であること、犯行の動機も覚せい剤買付資金欲しさのものであつたこと、強取金額の大半は被告人において取得、費消していることなどに徴すると、犯情は極めて悪く、被告人の刑責は著しく重いといわなければならない。 九円位の多額に達し、致傷の程度は入院加療約三か月間を要する頭蓋骨開放陥没骨折および脳浮腫脳挫傷であつたこと、これら一連の犯行は目的を達成するまで執拗、かつ計画的に敢行されたのであり、その手段方法は悪質であること、犯行の動機も覚せい剤買付資金欲しさのものであつたこと、強取金額の大半は被告人において取得、費消していることなどに徴すると、犯情は極めて悪く、被告人の刑責は著しく重いといわなければならない。しかし、他方、被告人の実母から被害金額を弁償し、負傷したAも被告人のため厳罰を望まないと述べていること、被告人は癲癇の持病をもち、今までに懲役刑の前科をもたないこと、その他所論が指摘する被告人に有利な諸般の情状を斟酌すると、被告人に対し所定刑期の範囲内で懲役八年に処するのを相当とし、なお刑法二一条に従い原審の未決勾留日数のうち一八〇日を右刑に算入し、押収の大型両口スパナ一 摘する被告人に有利な諸般の情状を斟酌すると、被告人に対し所定刑期の範囲内で懲役八年に処するのを相当とし、なお刑法二一条に従い原審の未決勾留日数のうち一八〇日を右刑に算入し、押収の大型両口スパナ一本(原庁昭和四七年押第六一号の一)は犯行の用に供した物で被告人以外の者に属しないから同法一九条一項二号、二項にのつとりこれを没収し、押収のビニール製黒鞄一個(前回押号の二)は判示強盗致傷罪の賍物で被害者に還付すべき理由が明らかであるから、刑訴法三四七条一項によりこれを被害者Aに還付し、また原審の訴訟費用のうち証人Aに支給した分は同法一八一条一項本文に従い、これを被告人に負担させることとし、主文のように判決する。(裁判長裁判官藤野英一裁判官真庭春夫裁判官池田憲義)
▼ クリックして全文を表示