平成15(わ)226 業務上過失致死被告事件

裁判年月日・裁判所
平成16年4月16日 神戸地方裁判所
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判決文本文6,208 文字)

主文 被告人を禁錮2年に処する。 訴訟費用は被告人の負担とする。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,平成14年5月28日午後5時55分ころ,業務として普通貨物自動車(軽四)を運転し,兵庫県a市b町cd番地のe先の交通整理の行われていない交差点を,東から西に向かい時速約50キロメートルで直進するに当たり,同交差点入口には横断歩道が設けられ,同横断歩道の左方(南方)は石垣により見通しが悪く,同横断歩道を左(南)から右(北)へと横断する歩行者等の有無の確認が困難な状況であったのであるから,適宜速度を調節して,歩行者等の安全を確認しつつ横断歩道上を通過すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り,歩行者等の有無及びその安全確認不十分のまま,漫然前記速度で進行した過失により,折から同横断歩道付近を自転車を運転して左(南)から右(北)へ横断中のA(当時14歳)を進路左前方約15.1メートルの地点に発見し,急制動の措置を講じたが及ばず,前記A運転の自転車に自車左前部を衝突させて同人を路上に転倒させ,よって,同人に頭部外傷等の傷害を負わせ,同年6月7日午後零時13分ころ,同市fgのh所在のa市立a市民病院において,同人を前記傷害によるびまん性脳損傷により死亡するに至らしめたものである。 (証拠の標目)ー括弧内の数字は証拠等関係カード記載の検察官請求証拠番号省略(補足説明) 1 弁護人の主張の要旨等弁護人は,被告人は,B運転の普通貨物自動車(以下「B車両」という。)に先導され,同車との車間距離を約12ないし13メートルに保ちつつ,判示普通貨物自動車(以下「被告人車両」という。)を運転し,判示交差点(以下「本件交差点」という。)手前の県道加古川三田線を東から西に向けて時速約 車との車間距離を約12ないし13メートルに保ちつつ,判示普通貨物自動車(以下「被告人車両」という。)を運転し,判示交差点(以下「本件交差点」という。)手前の県道加古川三田線を東から西に向けて時速約50キロメートルで進行中,同交差点東側入口に設置されている横断歩道(以下「本件横断歩道」という。)の手前約50メートルの地点で時速約40キロメートルに減速し,次いで,同横断歩道の手前約30メートルの地点でさらに時速約30キロメートルに減速し,かつ,ブレーキペダルの上に足を乗せながら運転を続け,同横断歩道手前約10メートルの地点で,B車両が同横断歩道を通過したのを認めた後,同横断歩道手前の一時停止線を少し越えた地点に至った際,左斜め前方約6メートルの地点にいきなり自転車に乗車して飛び出してきたA(以下「被害者」という。)を認め,急制動の措置をとったが,間に合わず本件事故を惹起したものであるから,被告人に判示の過失はなく無罪である旨主張するが,前掲関係各証拠によれば,弁護人ら主張の過失の点を含め判示犯罪事実は優に認められる。以下,その理由につき補足して説明を加える。 2 前掲関係各証拠によれば,被告人は,平成14年5月28日午後5時55分ころ,被告人車両を運転し,本件交差点手前の県道加古川三田線を,B車両に先導され,東から西に向けて時速約50キロメートルで進行していたこと,被告人は,実況見分調書(検察官請求証拠番号1。以下「検第1号証」というように表記する。)添付の交通事故現場見取図の①地点(以下の地点の表示はいずれも同見取図記載の地点である。)で,先行するB車両が本件横断歩道を通過するのをA地点(被告人車両の前方約26.6メートルの地点)に認め,先行する同車両を見ながらこれに追随して,前記速度のまま進行したこと,被告人は,②地点で,同交差点南側 するB車両が本件横断歩道を通過するのをA地点(被告人車両の前方約26.6メートルの地点)に認め,先行する同車両を見ながらこれに追随して,前記速度のまま進行したこと,被告人は,②地点で,同交差点南側道路から同交差点に自転車を運転して進入してきた被害者を,その左前方約15. 1メートルの!地点に発見し,急制動の措置を講じたが,約13.5メートル進行して③地点で被害者が運転する自転車に自車左前部を衝突させ,本件事故を惹起したこと,被告人車両は③地点から約10.9メートル進行した④地点で停止したこと,衝突地点である<×>地点は,!地点から北に約1.5メートル,本件横断歩道西端から西に約1.4メートル,道路中央線から南に約1.5メートルの地点であること,被害者は<ウ>地点(衝突地点の西約12.7メートルの地点)で転倒しており,その自転車は<エ>地点(衝突地点の西約11.5メートルの地点)に転倒していたこと,被害者の右足の靴が<オ>地点(衝突地点の西約7.6メートルの地点)に,左足の靴が<カ>地点(衝突地点の南約13.2メートルの地点)に,被害者のカバンが<ク>地点(衝突地点の西約16.2メートルの地点)にそれぞれ散乱していたこと(なお,前記実況見分調書には現場に残されたヘルメットの位置について<キ>地点である旨の記載があるが,被告人の警察官調書(検第16号証)によると被害者はヘルメットを被ったまま前記地点に転倒していたというのであり,被害者とヘルメットの位置関係にかんがみると,実況見分調書記載のヘルメットの位置は,被害者が救急車で運ばれる前にヘルメットを脱がされて現場に放置された位置である可能性も残る。),衝突地点の西約6.8メートルの道路南側有蓋側溝に,被害者の自転車のものと考えられる長さ約0.15メートルの擦過痕が印象されていたこと,本件現 脱がされて現場に放置された位置である可能性も残る。),衝突地点の西約6.8メートルの道路南側有蓋側溝に,被害者の自転車のものと考えられる長さ約0.15メートルの擦過痕が印象されていたこと,本件現場付近道路は両側2車線(片側1車線,西行車線の幅員約3.2メートル,東行車線の幅員約3.3メートル)の歩車道の区別のない県道加古川三田線であること,本件交差点は信号機のない変形交差点で,南にはこの県道と交差する道路(交差点入口付近,道路の西側に一時停止の白線が敷かれ,その西に一時停止の標識が設置されている。同所付近において幅員約8メートル。)があり,北には南側の道路から北西方向に通じる道路(幅員約3.1メートル)があること,本件交差点東側に幅員約4メートルの本件横断歩道が設置されていること,本件交差点の東南角には高さ約1.7メートルの石垣(南側の長さ約11メートル,東側の長さ約8メートル)が設置されていること,そのため東から西に向け本件交差点に向け進行してくる車両から,本件交差点に南側道路から進入してくる歩行者等の見通しは悪く,<P>地点(衝突地点の手前約18.5メートルの地点)で・地点(衝突地点の南約2メートルの地点)がようやく見通せる状態であること,被告人車両の左前部バンパー及びボンネットは凹損し,左前方向指示灯及びフロントガラスは破損していたこと,本件現場付近道路は時速50キロメートルの速度制限がなされていること,本件事故の直前,前記一時停止の白線付近で自転車にまたがって止まっている被害者の姿が目撃されており,同所において,被害者は交差点を横断するため自転車にまたがったまま停止していたものであり,その後同所から衝突地点まで自転車で進入したものと考えられること,以上の事実が認められる。 3 被告人は,本件事故直後,同日午後6時29分ころから するため自転車にまたがったまま停止していたものであり,その後同所から衝突地点まで自転車で進入したものと考えられること,以上の事実が認められる。 3 被告人は,本件事故直後,同日午後6時29分ころから同日午後7時32分ころまでの間,現場において,事故状況について前記2のとおり指示説明し,その後も,事故状況について,同年8月24日行われた取調べ(検第16号証は当日作成された被告人の警察官調書)においては,前記2のとおりである旨供述しているところ,本件事故にあっては,被害者を発見して急制動の措置をとった②地点から停止地点である④地点までの距離は約24.4メートルであるところ,その供述は,この事実に交通力学の知見をあてはめて算出される停止距離(いわゆる空走距離と制動距離との和)が②地点における被告人車両の速度が時速約50キロメートルとして算出したそれにほぼ合致することや,現場に残された散乱物の位置や痕跡,被告人車両並びに被害者及び同人の自転車の損傷その他の客観的状況に矛盾するところがなく,事故当日に行われた実況見分の際の被告人の指示説明にも合致した自然な供述であって,その供述の信用性は十分である。 4 ところで,被告人及び弁護人は,前記取調後のある時期から公判段階に至るまで,事故直後から事故状況は前記1のとおりであった旨の弁解をしていたのに捜査官から取り上げてもらえなかったなどとして,①検第16号証は取調べ警察官の強制により作成された部分,同警察官の完全な作文である部分,警察官により後に改ざんされている部分があるなど,任意性のない調書である,②実況見分調書(検第1号証)記載の「被告人の指示説明部分」は被告人がそのような指示説明をしたものではない,③検第1ないし第4号証の実況見分調書や写真撮影報告書中の写真中には,差し替えられているものがあって, 書(検第1号証)記載の「被告人の指示説明部分」は被告人がそのような指示説明をしたものではない,③検第1ないし第4号証の実況見分調書や写真撮影報告書中の写真中には,差し替えられているものがあって,客観的対象物をその撮影日時に撮影したものでない写真が含まれているから,これらの証拠は証拠から排除されるべきであるなどというが,本件交通事故直後の現場写真であることがその写真自体から明らかな写真について,事故当日とは別の日に散乱物等を設置し直して撮影したものであると主張するなど,これらの点に関する被告人の公判供述を精査しても,いずれも理解しがたい思い込みや強弁というほかのない類の主張であって,弁護人及び被告人の主張は明らかに理由がない。また,証人Bの公判供述もまた,被告人のそれと同様の供述であって,信用しがたいものである。 なお,被告人は,本件事故直前の被告人車両の速度は時速約30キロメートルであった旨主張して止まないが,被告人車両が時速約30キロメートルであったと仮定して,交通力学の知見により概算すると,いわゆるその停止距離は約10メートル程度となるから,被告人車両は,被害者に衝突する前に停止できた可能性が極めて高いことになるのであり,少なくとも,本件事故のような激しい衝突が生じる余地はないのであって,被告人の主張に理由のないことは明らかである。 5 被告人の過失の有無について前記2で認定した事実を前提として,被告人の過失の有無を検討する。車両等の運転者は,「横断歩道等に接近する場合には,当該横断歩道等を通過する際に当該横断歩道等によりその進路の前方を横断しようとする歩行者や自転車がないことが明らかな場合を除き,当該横断歩道等の直前で停止することができるような速度で進行しなければならない。」(道路交通法38条1項)ところ,前認定のと 進路の前方を横断しようとする歩行者や自転車がないことが明らかな場合を除き,当該横断歩道等の直前で停止することができるような速度で進行しなければならない。」(道路交通法38条1項)ところ,前認定のとおり,本件交差点は前記石垣のため見通しも悪かったのであるから,被告人に本件横断歩道の直前で停止することができるような速度で進行しなければならない注意義務があったのにこれを怠った判示の過失の認められることは明らかというべきである。 なお,被告人は,被害者が飛び出してきた旨主張するが,被害者が本件交差点の南側道路から一時停止することなく交差点に進入してきた旨の主張であるとすれば,本件事故の直前,一時停止の白線付近で自転車にまたがって止まっている被害者の姿を目撃した旨の信用性の十分な前記証人Cの証言に照らし理由のないものであるし,前認定のとおり,被告人車両が②地点から衝突地点(③地点)までの約13.5メートルを進行する間に被害者は自転車で約1.5メートル進行しているに過ぎないから,被害者の自転車が急な飛び出しといえるような速度で本件交差点に進入したものでないこともまた明らかである。 6 以上のとおり,前掲関係各証拠によれば,判示事実を認めるに十分であるから,弁護人及び被告人の主張は理由がない。 (法令の適用)罰条刑法211条1項前段刑種の選択禁錮刑宣告刑禁錮2年訴訟費用刑事訴訟法181条1項本文(全部負担させる。)(量刑の理由)本件は,被告人が,普通貨物自動車(軽四)を運転中,進路前方の,見通しが悪く,横断歩道を横断する歩行者等の有無の確認が困難な交通整理の行われていない交差点を直進進行するに当たり,適宜速度を調節して,歩行者等の安全を確認しつつ横断歩道上を通過すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠った過失によ 歩行者等の有無の確認が困難な交通整理の行われていない交差点を直進進行するに当たり,適宜速度を調節して,歩行者等の安全を確認しつつ横断歩道上を通過すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠った過失により,自車を進路前方の横断歩道付近路上を自転車に乗車して横断中の被害者に衝突させて死亡させたという業務上過失致死の事案である。 被告人は,車両等が横断歩道等に接近する場合の自動車運転者としての基本的な注意義務に違反したものであり,その過失の程度は軽いとはいえず,当時14歳の将来のある被害者は脳挫傷等の傷害を負い10日後に死亡するに至ったのであって,生じた結果は取り返しのつかない重大なものであること,示談が成立していないこと,被害者は突然その生命を奪われ,被害者自身の無念さはもとより,その両親,実姉など遺族の悲しみや嘆きは大きく,その憤りは峻烈であって,被告人の厳重処罰を求めていること,加えて,被告人が,公判において不合理,不可解な弁解に終始したことのほか,被害者遺族に対する謝罪等被告人の事故後の態度には誠意が認められないこと,業務上過失致死罪等の交通事犯に対する近時の我が国における国民の厳しい刑罰感情等などを考え併せると,被告人の刑事責任は重いといわざるを得ない。 そうすると,被害者遺族は損害賠償請求訴訟を提起する予定であり,示談は成立していないが,いずれ相当額の賠償がなされるであろうこと,被害者遺族に対し,香典10万円のほか見舞金として合計60万円を交付したこと,被告人には前科がないことなど,被告人のために酌むべき事情を考慮しても,主文の実刑はやむを得ないところである。 よって,主文のとおり判決する。 平成16年4月16日神戸地方裁判所第1刑事部裁判官杉森研二 主文 よって,主文のとおり判決する。 平成16年4月16日 神戸地方裁判所第1刑事部裁判官杉森研二

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