20く120.1.15東京高裁棄却316条の20 主文 本件即時抗告を棄却する。 理由 本件即時抗告の趣意は,主任弁護人C作成の即時抗告申立書記載のとおりであり,これに対する意見は,検察官D作成の「即時抗告申立に対する意見」と題する書面記載のとおりであるから,これらを引用する。所論は,要するに,A及びBに対する各不起訴裁定書(以下「本件各不起訴裁定書」という。)について,これらを開示する必要性に乏しく,また,開示することによって生じるおそれのある弊害も軽視できず,開示することが相当とは認められないので,刑事訴訟法316条の20第1項の要件を満たさないとした原決定の判断は誤っているから,原決定を取り消した上,本件各不起訴裁定書の開示を命じる裁判を求める,というのである。 そこで,記録を調査して検討すると,本件公訴事実の要旨は,被告人が,A及び氏名不詳者らと共謀の上,みだりに,営利の目的で,覚せい剤を輸入しようと企て,平成18年11月10日(現地時間),マレーシア・クアラルンプール国際空港において,航空機に搭乗するに当たり,覚せい剤2993・41グラムを隠匿したスーツケース2個を千葉県成田市所在の成田国際空港までの機内預託手荷物として預け,同月11日,同航空機により同空港に到着させて輸入したという覚せい剤取締法違反及び関税法違反の事案である。そして,検察官は,証明予定事実記載書や意見書等において,本来は,Aが,マレーシアにおいて,「E」というイラン人から,本件覚せい剤が隠匿されたスーツケースを日本に運び,成田国際空港で合い言葉を告げてくるイラン人に渡すように指示され,家族連れを装うために知人女性のBを同伴し,航空機に搭乗して来日し,成田国際空港の到着ロビーでこのスーツケースを携帯して待っていたところ,同じ航空機に搭乗し を告げてくるイラン人に渡すように指示され,家族連れを装うために知人女性のBを同伴し,航空機に搭乗して来日し,成田国際空港の到着ロビーでこのスーツケースを携帯して待っていたところ,同じ航空機に搭乗して成田国際空港に到着したイラン人である被告人が,Aに近づき,上記合い言葉を告げた上で,同人らを空港駐車場に案内しようとしたという事案であり,千葉県警察では,事前に覚せい剤密売組織の覚せい剤運搬人及びその妻並びに同人らの監視人が,上記航空機に搭乗して成田国際空港に到着するとの情報を得て,同空港内に捜査員を配置していたところ,運搬人と目される男女(A及びB)が,同空港内ロビーで,監視人と目される人物(被告人)と合流した上で,同人の先導により空港駐車場に向かったことから,同人らを警察署に任意同行した上で,緊急逮捕したなどと主張している。 これに対し,弁護人は,予定主張記載書面等において,被告人は,成田国際空港内ロビーで,空港駐車場への道順を尋ねるために,たまたまAらに声を掛けたのであって,本件覚せい剤密輸入の犯行には全く関与していないなどとして,共謀の成立を争うとともに,次のとおり,本件公訴を棄却すべきであるなどと主張している。すなわち,検察官は,A及びBに対し,事前に刑事免責(不起訴の密約)等の便宜を与えて捜査に協力させた上で,強引かつなれ合い的な取調べを行って,同人らの供述調書を作成したり,第1回公判期日前の証人尋問を実施したりし,その後,同人らが退去強制となることを十分に認識しながら,同人らを処分保留のまま釈放してその身柄を東京入国管理局に引き渡した。そして,同人らは,その後,実際に退去強制となり,検察官も,同人らを不起訴処分にしているのである。このように,検察官は,A及びBが退去強制となる事態を殊更利用して,同人らに対する弁護人の反対尋問を阻 して,同人らは,その後,実際に退去強制となり,検察官も,同人らを不起訴処分にしているのである。このように,検察官は,A及びBが退去強制となる事態を殊更利用して,同人らに対する弁護人の反対尋問を阻止し,検察庁上層部の関与や承認がなければなし得ない上記刑事免責の付与等の事実を隠蔽するために,同人らを釈放しているのであって,このような本件公訴提起に至る一連の経緯にかんがみると,本件公訴提起は,計画的かつ組織的な違法捜査に基づく違法かつ不適法なものであり,棄却されるべきである,というのである。 そして,弁護人は,上記主張に関連する証拠として,担当検察官がA及びBを釈放し,不起訴処分にした経緯及び理由を記載した本件各不起訴裁定書の開示を請求している。 弁護人の上記主張内容に照らすと,原決定が説示するとおり,本件では,担当検察官が,約3キログラムもの大量の覚せい剤を密輸入した実行犯であるA及びその同伴者であるBを不起訴処分にした経緯及び理由が重要な争点となり得ると考えられるのであるから,本件各不起訴裁定書は,弁護人の上記主張に関連する証拠と認められる。 しかしながら,検察官は,A及びBを不起訴処分にした担当検察官の証人尋問を請求し,弁護人も,その採用についてしかるべくとの意見を述べており,これが採用される見込みであること,検察官は,捜査機関が収集した証拠資料等を検討した上で,起訴・不起訴の判断をするのであるから,担当検察官の上記不起訴処分判断の適正やそれに関する担当検察官の証言の信用性は,その証言内容と上記不起訴処分判断の基礎となった証拠資料との整合性等を検討することによって判断できるところ,検察官は,既にA及びBの各検察官調書及び各証人尋問調書,両名の捜査経過等に関する報告書等の上記不起訴処分判断の基礎となった多数の証拠資料を弁護人に開示していること することによって判断できるところ,検察官は,既にA及びBの各検察官調書及び各証人尋問調書,両名の捜査経過等に関する報告書等の上記不起訴処分判断の基礎となった多数の証拠資料を弁護人に開示していること等の事情に照らすと,本件各不起訴裁定書を開示する必要性は乏しいといわざるを得ない。したがって,その余の点について検討するまでもなく,本件各不起訴裁定書は,刑事訴訟法316条の20第1項の要件を満たさない。 よって,本件証拠開示裁定請求を棄却した原決定の判断は正当であり,本件即時抗告は理由がないから,刑事訴訟法426条1項により,これを棄却することとして,主文のとおり決定する。 (裁判長裁判官・高橋省吾,裁判官・服部悟,裁判官・中島真一郎)
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