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裁判年月日・裁判所
平成30年12月10日 福岡高等裁判所 長崎地方裁判所 平成23(行ウ)4
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判決文本文102,512 文字)

主文 1 一審原告ら(一審原告28,43,51,55ないし57,148,152ないし154を除く。)の控訴をいずれも棄却する。 2 一審被告らの控訴に基づき,原判決中一審被告ら敗訴部分を取り消す。 上記取消部分に係る一審原告28,43,51,55ないし57,148,152ないし154の被爆者健康手帳交付申請却下処分及び健康管理手当認定申請却下処分の各取消請求をいずれも棄却する。 上記取消部分に係る一審原告28,43,51,55ないし57,148,152ないし154の被爆者健康手帳交付義務付け請求に係る訴えをいずれも却下する。 3 訴訟費用は,第1,2審とも,一審原告らの負担とする。 事実及び理由 第1章控訴の趣旨及び事案の概要第1 控訴の趣旨 1 一審原告ら(一審原告28,43,51,55ないし57,148,152ないし154を除く。)原判決中,一審原告ら(一審原告28,43,51,55ないし57,148,152ないし154を除く。)の敗訴部分(訴訟終了宣言に係る部分を含む。)を取り消す。 【別紙4】処分目録記載の各被爆者健康手帳交付申請却下処分及び各健康管理手当認定申請却下処分(いずれも処分番号28,43,51,55ないし57,148,152ないし154のものを除く。)をいずれも取り消す。 アの各被爆者健康手帳交付申請却下処分(処分番号5,11,19,22,30,36,76,95及び128のものを除く。)の「処分機 関」欄記載の行政庁は,当該各処分の「申請者」欄記載の一審原告(同欄に対応する「死亡日」欄に年月日の記載がある者については,同欄に対応する「相続人」欄に記載の一審原告)に対し,被爆者健康手帳を交付せよ。 イ処分番号5 該各処分の「申請者」欄記載の一審原告(同欄に対応する「死亡日」欄に年月日の記載がある者については,同欄に対応する「相続人」欄に記載の一審原告)に対し,被爆者健康手帳を交付せよ。 イ処分番号5,11,19,22,30,36,76,95及び128の各被爆者健康手帳交付申請却下処分の「相続人」欄記載の一審原告と当該各処分の「処分機関」欄記載の行政庁を首長とする一審被告との間において,当該各処分の申請人が,生前,原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律(平成6年法律第117号)1条3号に該当する被爆者の地位にあったことを確認する。 各健康管理手当認定申請却下処分の「処分機関」欄記載の行政庁を首長とする一審被告は,当該各処分の「申請者」欄記載の一審原告(同欄に対応する「死亡日」欄に年月日の記載がある者については,同欄に対応する「相続人」欄に記載の一審原告)に対し,当該各処分の「申請日」欄記載の年月日の属する月の翌月から毎月,当該一審原告に対応する「健康管理手当額」欄記載の額の金員を支払え。 2 一審被告ら主文同旨第2 事案の概要本件は,長崎市に投下された原子爆弾(以下「長崎原爆」という。)に被爆したと主張して原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律(平成6年法律第117号。以下「被爆者援護法」という。)2条1項及び27条2項(49条)に基づき長崎県知事又は長崎市長に対して被爆者健康手帳の交付申請(以下「手帳交付申請」という。)又は健康管理手当の支給要件認定申請(以下「手当認定申請」という。)をして却下された申請者又はその相続人である一審原告らが,当該申請者らは被爆者援護法1条3号に規定する者に 該当すると主張して,一審被告長崎県又は一審被告長崎市に対し,① 手帳交付申請却下処分の取消し及び被爆者健康手帳の交付の である一審原告らが,当該申請者らは被爆者援護法1条3号に規定する者に 該当すると主張して,一審被告長崎県又は一審被告長崎市に対し,① 手帳交付申請却下処分の取消し及び被爆者健康手帳の交付の義務付け又は死亡した申請者らが同号に該当する被爆者の地位にあったことの確認,② 手当認定申請却下処分の取消し及び健康管理手当の支払を求めた事案である。 原審は,本件訴訟のうち,原審口頭弁論終結前に死亡した申請者らが原告として提起したものは,その死亡によって終了したとして,訴訟終了宣言をし(原判決主文第1項),当該申請者らの相続人である一審原告らが訴訟承継人として追加した当該申請者らが生前において被爆者援護法1条3号に該当する被爆者の地位にあったことの確認を求める訴えを不適法として却下した上(同第2項),その余の一審原告らが提起した,健康管理手当の支払を求める訴えを不適法として却下し(同第3項),同一審原告らの一部の者(一審原告28,43,51,55ないし57,148,152ないし154(以下「一審勝訴原告ら」という。))について,上記各処分の取消し及び被爆者健康手帳の交付の義務付けを求める請求を認容し(同第4項,第5項),同一審原告らのその余の者について,上記各処分(ただし,一審原告25,165については,手帳交付申請却下処分のみ)の取消しの請求を棄却して被爆者健康手帳の交付の義務付けを求める訴えを不適法として却下した(同第6項,第7項)。 原判決に対して,一審勝訴原告ら以外の一審原告らがその敗訴部分と訴訟終了宣言に係る部分を,一審被告らがその敗訴部分をそれぞれ不服として控訴した。 1 争いのない事実等原判決12頁20行目から20頁15行目までを引用する。 ただし,次のとおり補正する。 原判決12頁22行目から13頁 その敗訴部分をそれぞれ不服として控訴した。 1 争いのない事実等原判決12頁20行目から20頁15行目までを引用する。 ただし,次のとおり補正する。 原判決12頁22行目から13頁7行目までを次のとおり改める。 「一審原告ら 一審原告らは,後記のとおり,長崎県知事又は長崎市長に対して,手帳交付申請又は手当認定申請をして却下された者又はその相続人である。」原判決14頁18行目の「制令」を「政令」に改め,20行目から15頁14行目までを次のとおり改める。 「本件手帳交付申請却下処分及び本件手当認定申請却下処分等ア 【別紙4】処分目録の各「申請者」欄記載の者(以下「本件各申請者」という。)は,同欄に対応する「却下処分」欄中の「申請日」欄記載の日に,それに対応する「処分機関」欄記載の処分行政庁に対して,被爆者援護法2条1項及び27条2項(49条)に基づいて,上記「却下処分」欄記載の各申請(ただし,一審原告25,165については,手帳交付申請のみ)を行い,同欄中の「却下日」欄記載の日に,手帳交付申請については本件各申請者が被爆者援護法1条3号に規定する者に該当しないとして,手当認定申請については本件各申請者が被爆者援護法1条に規定する被爆者に該当しないとして,当該申請をいずれも却下する処分(以下,これらの処分のうち,手帳交付申請の却下処分を「本件手帳交付申請却下処分」といい,手当認定申請の却下処分を「本件手当認定申請却下処分」という。)を受けた。 イ同目録の各「死亡日」欄に年月日の記載のある本件各申請者は,当該年月日の日に死亡し,同欄に対応する「相続人」欄記載の一審原告らが当該本件各申請者を法定相続分の割合に従って相続した。」 2 中心的争点とこれに関する当事者の主張 の記載のある本件各申請者は,当該年月日の日に死亡し,同欄に対応する「相続人」欄記載の一審原告らが当該本件各申請者を法定相続分の割合に従って相続した。」 2 中心的争点とこれに関する当事者の主張本件の中心的争点は,本件各申請者が被爆者援護法1条3号にいう「原子爆弾が投下された際又はその後において,身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者」に該当するかどうかであり,この点に関 する当事者の主張は,次のとおりである。 【一審原告らの主張】被爆者援護法1条3号の「身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった」とは,放射能の影響が疑われるような定性的事情ないし放射線の影響を受けたことが否定できない定性的事情があることを意味するものであって,現実に身体に放射線の影響を受けたかどうかは無関係であるし,爆光,爆風,「黒い雨」を浴びたことなどの具体的な被曝状況や被曝した放射線量,急性症状・慢性疾患の発症などの健康被害の発生,健康被害の放射能起因性は無関係である。また,一審被告らは,本件各申請者がそのような事情の下にあったとの事実が存しないことについて,立証責任を負うと解すべきである。 長崎原爆投下当時,爆心地から12㎞の範囲内にある被爆未指定地域(原判決別紙9の図面に記載された長崎県伊木力村,大草村,喜々津村,古賀村,戸石村,矢上村,日見村,茂木町,深堀村,香焼村,式見村,三重村及び村松村を併せた区域)に在って被爆し,その後も被爆未指定地域ないしより爆心地に近い地域において生活をしていた者には,次のとおり,放射能の影響が疑われるような定性的事情ないし放射線の影響を受けたことが否定できない定性的事情があったということができる。 ア外部被曝被爆未指定地域は,長崎原爆の爆発によって発生した原子雲 ,放射能の影響が疑われるような定性的事情ないし放射線の影響を受けたことが否定できない定性的事情があったということができる。 ア外部被曝被爆未指定地域は,長崎原爆の爆発によって発生した原子雲に覆われ,その全域に原子雲に多量に含まれていた放射性降下物が降下した。被爆未指定地域の住民は地表に残った放射性降下物が放出する放射線(ベータ線及びガンマ線)によって外部被曝した。 長崎原爆投下後に被爆未指定地域において実施された原爆由来の放射線の線量率の測定結果(後記のマンハッタン調査団の調査の結果)を基に,被爆未指定地域において被曝した本件各申請者の年間外部被曝線量を算出 すると,【別紙5】の年間外部被曝線量欄記載のとおりと推定され(推定の根拠は,後記オのA 意見のとおり。),本件各申請者は放射性降下物の放出する放射線の外部被曝によって健康被害が生じる可能性がある事情の下にあった。 イ内部被曝人体に取り込まれた微小な放射性物質は,全身の隅々に運ばれ,すべての組織,臓器,器官などの構成細胞に付着・吸収され,放射線を放出し続ける。体内に留まる放射性物質は,その周囲の細胞に全方位的・継続的に放射線を射出し,局所的な分子切断を生じさせること,放射性微粒子にはガンマ線よりも強いエネルギーを持つアルファ線及びベータ線が含まれており,これが内部被曝をもたらすことから,内部被曝では分子切断の危険度が高く,線量にかかわらず深刻な健康被害(生命の構造の損傷・機能喪失,急性症状の発症,急性死等)をもたらし,外部被曝よりも加害性のリスクが高い。 本件各申請者は,長崎原爆が投下された以降,被爆未指定地域において生活していたため,その投下直後から,原子雲から降下して大気中に充満した放射性微粒子を呼吸によって吸い込んだり,飲食物に含まれる放射性 件各申請者は,長崎原爆が投下された以降,被爆未指定地域において生活していたため,その投下直後から,原子雲から降下して大気中に充満した放射性微粒子を呼吸によって吸い込んだり,飲食物に含まれる放射性微粒子を飲食によって摂取したりして,その放射性微粒子から放出される放射線の内部被曝によって健康被害が生じる可能性のある事情の下にあった。 本件各申請者の甲状腺内部被曝線量を推計すると,【別紙5】又は原判決別紙10の甲状腺内部被曝線量欄記載のとおりと推定される(推定の根拠は,後記オのA 意見のとおり。)。 ウ被爆未指定地域の住民に生じた健康被害原爆投下後に長崎において実施された調査・研究の結果,爆心地から2㎞を超える地域(初期放射線量が100m㏜以下になる地域)におい て,下痢,脱毛,出血症状等の急性症状と同様の症状が生じたことや,被爆未指定地域に隣接する長崎市西山地区の住民に白血球の異常な増加が生じたり,白血病が複数発症したりしたことが明らかになった。また,原爆投下当時,被爆未指定地域に居住していた住民にも,下痢,脱毛,出血等の放射線被曝の急性症状と同様の症状が発症した。これらの症状は,いずれも長崎原爆の放射能の影響によるものであると考えられ,被爆未指定地域に居住していた本件各申請者にも,長崎原爆の放射能によって健康被害が生じる可能性があったことを示すものである。 エ低線量被曝の危険性100m㏜以下の低線量の被曝でも,健康被害が生じる可能性があるとの調査・研究結果が複数存在する。また,国際放射線防護委員会(ICRP)は公衆被曝の限度を年間1m㏜の実効線量としているほか,国の原爆症の認定基準において,爆心地から3.5㎞(初期放射線量が約1m㏜になる距離)以内で被爆した場合には積極認定の対象とされており,これらは1m㏜の放 限度を年間1m㏜の実効線量としているほか,国の原爆症の認定基準において,爆心地から3.5㎞(初期放射線量が約1m㏜になる距離)以内で被爆した場合には積極認定の対象とされており,これらは1m㏜の放射線量の被曝による健康被害の可能性があることを前提とするものである。 したがって,低線量(年間1m㏜以上)の被曝をした場合には,健康被害が生じる可能性があるというべきである。 オ前記アないしエの主張を裏付ける主要な証拠として, A (以下「A」という。)の意見(甲A130の1・3,甲A139の1,甲A148,甲A152,甲A153,甲A184,甲A185,甲A189,甲A190,甲A200,甲A207,甲A208,甲A211,証人A。以下,これらの意見を併せて「A 意見」という。)がある。 カ小括以上によれば,被爆未指定地域において生活していて長崎原爆に被爆した本件各申請者は,いずれも年間外部被曝線量又は甲状腺内部被曝線量が 1m㏜を超えている(【別紙5】又は原判決別紙10参照)から,本件各申請者について,長崎原爆の放射能の影響が疑われるような定性的事情ないし放射線の影響を受けたことが否定できない事情があったということができる。 したがって,本件各申請者は,被爆者援護法1条3号にいう「原子爆弾が投下された際又はその後において,身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者」に該当し,本件各申請者は,いずれも被爆者援護法27条1項所定の疾病要件も満たしている。 【一審被告らの主張】被爆者援護法1条3号の「身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情」とは,単なる放射能による身体の何らかの生物学的反応をいうのではなく,放射能の影響による健康被害を生ずるような事情,すなわち健康被害を発症し得 号の「身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情」とは,単なる放射能による身体の何らかの生物学的反応をいうのではなく,放射能の影響による健康被害を生ずるような事情,すなわち健康被害を発症し得る相当程度の放射線被曝をするような事情を指すものと解すべきである。また,一審原告らは,本件各申請者がそのような事情の下にあったとの事実が存することについて,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得る高度の蓋然性をもって証明する責任があるというべきである。 一審原告らは,本件各申請者について,被爆者援護法1条3号の「身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった」ことについて,個別具体的な事情を主張立証する必要があるところ,その主張立証をしていないから,一審原告らが主張の根拠とする意見書の科学的合理性を論ずるまでもなく,一審原告らの主張は失当である。 また,以下のとおり,長崎原爆投下当時,被爆未指定地域については,いかなる被曝態様によっても,放射能の影響による健康被害が生じるような被曝線量があったということはできない。 ア初期放射線 長崎原爆投下時の本件各申請者の居住地には,初期放射線は及ばなかった。 イ放射性降下物以下のとおり,国際的に通用する科学的知見を踏まえると,長崎原爆の爆心地から7㎞ないし12㎞程度離れた被爆未指定地域に,健康に影響するような放射性降下物の降下があったとは考えられない。 長崎原爆は,空中で核爆発を起こしたため,放射性降下物の拡散に関する経験則上,これによる放射性物質は,大半が火球と共に上昇し,成層圏にまで達して広範囲に広がったといえること,一般に,空中核爆発の場合,地表核爆発の場合に比べて,直下の放射性降下物による被害が著しく小さくな ,これによる放射性物質は,大半が火球と共に上昇し,成層圏にまで達して広範囲に広がったといえること,一般に,空中核爆発の場合,地表核爆発の場合に比べて,直下の放射性降下物による被害が著しく小さくなることから,長崎市内に降り注いだ放射性降下物は極めて少なかった。 長崎市内において,原爆投下直後に比較的高い放射能が計測されたのは,爆心地から約3㎞の風下に位置し,爆発後に激しい降雨のあった特定の地区(西山地区)だけであり,爆心地を除くその他の地区では,放射能はほとんど測定されなかった。 かえって,爆心地から7㎞ないし12㎞離れた地域における土壌中に含まれる放射能を測定した結果,原爆投下とは無関係のその他の地域の土壌中の放射能と大差がなかったことからすると,人体に健康被害を発症し得る程度の放射線被曝をもたらすような放射性降下物が降下しなかったことが推定される。原爆投下直後に比較的高い放射能が計測された西山地区においても,健康被害の発生可能性という見地からは,極めて少ない線量が推定されているにすぎない。 長崎原爆投下当時に爆心地から離れた地域に所在した者には,下痢,脱毛,出血傾向等の身体症状の訴えがなかった。また,原爆投下後,西山地区方向の住民に,原爆の放射能に起因すると考えられる身体症 状が多く発症したわけではない。これらの事情からすると,西山地区よりも爆心地から遠距離にある被爆未指定地域について,健康被害が生じるほどの放射線量が存在したとはいえない。 かえって,遠距離被爆者(被爆地点が爆心地から7㎞以上離れた者)に係る出血,脱毛,口腔咽頭病変,熱傷及び火傷の症状について調査した結果,被爆地点が爆心地から7㎞以上10㎞未満の者について,上記症状の発症率がいずれも0.5%以下で,10㎞以上の者については0% に係る出血,脱毛,口腔咽頭病変,熱傷及び火傷の症状について調査した結果,被爆地点が爆心地から7㎞以上10㎞未満の者について,上記症状の発症率がいずれも0.5%以下で,10㎞以上の者については0%であったことからすると,人体に健康被害を発症し得る相当程度の放射線被曝をするような事情はなかったことが推定される。 染色体異常頻度から線量を評価する手法は,信頼性が高い線量評価手法であるところ,遠距離被爆者と非被爆者の染色体異常頻度を測定した結果,両者の間で上記頻度に有意な差がなく,被曝線量に有意な差があったとは考えられない。 ウ誘導放射線以下のとおり,爆心地から7㎞ないし12㎞程度離れた被爆未指定地域において,長崎原爆に由来する誘導放射線の量が人体に健康被害を発症させ得る程度のものであったとはいえない。 中性子線による誘導放射線量は,① 原爆から放出された中性子線量,② 放射化し易い核反応断面積を有する金属元素の環境内における量,③ その半減期によって決定されるところ,上記②について,極めて短時間で誘導放射化されるのは,一部の限られた元素である上,上記③について,誘導放射化した元素の半減期は比較的短く,原爆の誘導放射線が問題となり得る核種は,マンガン56とナトリウム24だけである。 原爆による初期放射線の中性子は,爆心地からの距離が600mない し700mを超えるとほとんど届かないから,誘導放射線は,それを超える範囲では発生していない。また,爆発から無限時間誘導放射線の発生した地域の同じ場所にとどまっていたという仮定に基づいて誘導放射線の積算線量を算出した場合でも,その積算線量は健康に影響を与えるような程度のものではない。 エ内部被曝以下のとおり,爆心地から7㎞な にとどまっていたという仮定に基づいて誘導放射線の積算線量を算出した場合でも,その積算線量は健康に影響を与えるような程度のものではない。 エ内部被曝以下のとおり,爆心地から7㎞ないし12㎞程度離れた地域において,健康に影響するような内部被曝が一般的にあったとはいえず,本件各申請者について,内部被曝によって,人体に健康被害を発症し得る程度の放射線被曝をするような事情があったとは認められない。 内部被曝線量原爆で問題となる内部被曝は,放射性降下物及び誘導放射線によるものであるが,放射性降下物の量及び誘導放射線の線量が健康への影響という見地から極めて少ないものであったことは,前記のとおりである。 また,西山地区等の長崎市の住民が受けた内部被曝線量は極めて低かったと推定されており,長崎原爆による内部被曝の影響は,人体の健康被害という観点からは,重視する必要がない程度のものであった。 実際の健康被害放射性物質の中には,特異的に集積する臓器が決まっているものがあるところ,仮に原爆の放射線に起因する内部被曝の影響が無視できないものであるとするならば,被爆者らには特定の臓器に癌が多発したはずであるが,遠距離・入市被爆者に生じた癌は,非被爆者同様,様々な部位に発症した。また,医療上,放射性核種を投与することがあり,それによって内部被曝が起きているが,上記被曝による人体へ の影響はないというのが医療の常識とされている。 したがって,被爆者に生じた健康被害の観点から,被爆者が一般的に有意な内部被曝の影響を受けたということはできない。 内部被曝の危険性一般的に,内部被曝が外部被曝と比較して人体への危険性が高いということはできない。 すなわち,内部被曝の場合も,外部被曝の場合も,放射 受けたということはできない。 内部被曝の危険性一般的に,内部被曝が外部被曝と比較して人体への危険性が高いということはできない。 すなわち,内部被曝の場合も,外部被曝の場合も,放射線急性症状が発症する機序は変わらず,急性症状が発症する線量も同じであるところ,内部被曝の場合,急性照射ではなく,単位時間当たりの放射線の量が小さい低線量持続型の被曝形態となるため,人体の修復効果により,放射線による影響の効率が低くなり,急性症状を起こしにくくなる。また,放射性物質が微粒子で存在する場合,微粒子内での自己吸収によって線量自体が低くなる上,微粒子近傍では線量が相対的に高くなり,細胞死が先行して癌化の効果が低くなる。身体症状発症の点で,内部被曝において考慮すべきアルファ線やベータ線がガンマ線と比して危険であるといえる科学的知見はない。 一審原告らは,放射線核種を体内に摂取した場合,放射線核種から放出される放射線によって継続的な被曝が生じるとして,内部被曝の危険性を強調するが,体内に取り込まれた放射性核種は,物理的崩壊による減衰に加え,人体の代謝機能により,各元素に特有の代謝過程を経て体外に排出されるから,放射性核種を摂取した場合でもその影響が変わらずに残るわけではない。 低線量被曝の危険性実効線量が年間100m㏜を超過すると,放射線の人体の細胞等への影響により癌などが発生する可能性が高くなることが一般に認められているが,年間100m㏜を下回る被曝線量で癌の発症率が有意に上 昇するとの疫学的報告は存在せず,それ以下の低線量被曝によって,癌や白血病が発症するリスクが大きくなるとは認められていない。 また,放射線は,自然界に存在しているし,医療行為にも用いられているのであ 的報告は存在せず,それ以下の低線量被曝によって,癌や白血病が発症するリスクが大きくなるとは認められていない。 また,放射線は,自然界に存在しているし,医療行為にも用いられているのであって,放射線による健康への影響は被曝の量に従って増減することを踏まえると,被曝の程度を考慮せずに,被曝をしたというだけで健康に影響があるとする考え方には合理性がないことは明らかである。 以上の一審被告らの主張を裏付ける主要な証拠として, B(以下「B」という。)の意見(乙A66の1,乙A221,乙A228の1,乙A312,証人B 。以下「B 意見」という。)及び Cの意見(乙A349))がある。 結論 以上によれば,本件各申請者について,原爆投下によって人体に健康被害を発症し得る相当程度の放射線被曝をするような事情は認められず,本件各申請者は被爆者援護法1条3号に該当する者には当たらない。 第2章中心的争点についての判断第1 被爆者援護法1条3号にいう「身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった」ことの意義について 1 前提事実原判決42頁16行目から57頁11行目までを引用する。 ただし,原判決43頁14行目,16行目及び19行目の「もの」をいずれも「者」に,45頁7行目の「十年余」を「十余年」に,46頁17行目の「照射」を「輻射」に,54頁13行目の「行うべきではなく,」を「,関係者の間に新たな不公平感を生み出す原因となり,ただ徒らに地域の拡大を続ける結果を招来するおそれがある。」に改め,56頁初行の「撤廃された」を「撤廃されたところ,健康管理手当の額は,平成23年4月から平成 24年3月までの月分が3万3100円,同年4月分から平成26年3月までの月分が3万3000円,同年4 の「撤廃された」を「撤廃されたところ,健康管理手当の額は,平成23年4月から平成 24年3月までの月分が3万3100円,同年4月分から平成26年3月までの月分が3万3000円,同年4月から平成27年3月までの月分が3万3130円,同年4月分から平成28年3月分までの月分が3万4030円,同年4月分から平成29年3月分までの月分が3万4300円,同年4月分から平成30年3月分までの月分が3万4270円,平成30年4月以降の月分が3万4430円である(被爆者援護法27条4項,29条1項,平成30年政令第104号17条,附則2項)。」に改める。 2 被爆者援護法1条3号の意義原判決57頁13行目から62頁15行目までを引用する。 ただし,原判決58頁19行目末尾に「なお,同条1号において,当時の長崎市の区域内に在った者を一律に被爆者健康手帳の交付を受けることにより「被爆者」とすることとしたのは,同市の意向を尊重したためである。」を加え,60頁22行目の「被爆者援護法等が制定された」を「被爆者援護法等を制定した」に改め,62頁15行目末尾を改行の上,「もっとも,「原爆の放射線により健康被害を生ずる可能性がある事情の下にあった」というだけでは,ある特定個人又は原爆投下時点である地域に在った者らが,「身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった」か否かが一義的に決定されるものではない。「健康被害を生ずる可能性」の可能性は,単に可能性の有無ではなく,正確には蓋然性,すなわち確率の問題であり,一定の幅を持った概念といわざるを得ない。」を加える。 3 被爆者援護法1条3号についての立証の程度原判決62頁17行目から63頁12行目までを引用する。 ただし,原判決63頁12行目末尾を改行の上,次を加える。 るを得ない。」を加える。 3 被爆者援護法1条3号についての立証の程度原判決62頁17行目から63頁12行目までを引用する。 ただし,原判決63頁12行目末尾を改行の上,次を加える。 「 さらに敷衍して述べるに,一審原告らにおいて,本件各申請者が健康被害を受けた高度の蓋然性を証明することは要しない。しかし,一審原告らが,本件各申請者が原爆の放射線により健康被害を生ずる可能性がある事 情の下にあったことを推認させる間接事実として,原爆投下時に被爆未指定地域内にいた者(本件各申請者の一部又は他の第三者)が原爆の放射線により健康被害を受けたことを主張するのであれば(一審原告らが本件各申請者の健康状態等に言及するのは,上記主張をする趣旨と理解される。),上記の健康被害を受けた事実を高度の蓋然性をもって証明することを要することになる。これに対し,一審原告らは,最高裁平成12年7月18日第三小法廷判決・裁判集民事198号529頁を援用して,同判決は健康管理手当ですら「程度の弱い因果関係で足りる」としているのであるから,被爆者健康手帳の交付は更に程度の弱い因果関係で足りると主張する。しかしながら,被爆者援護法1条3号の要件充足性の立証を個々の疾病と原爆放射線被曝との因果関係の立証と比較して論じること自体失当であるから,一審原告らの上記主張は採用することができない。」 4 被爆者援護法1条1号ないし3号の関係等前記認定説示によれば,被爆者援護法の淵源である原爆医療法制定時に法律案を提出した内閣は,爆心地から半径1㎞以内の地域にいた者は高度の障害,半径1㎞から2㎞の地域内にいた者は中度の障害,半径2㎞から4㎞の地域内にいた者は軽度の障害を負ったとの原子爆弾災害調査報告書(昭和26年日本学術会議発行)等により,原爆の放射 いた者は高度の障害,半径1㎞から2㎞の地域内にいた者は中度の障害,半径2㎞から4㎞の地域内にいた者は軽度の障害を負ったとの原子爆弾災害調査報告書(昭和26年日本学術会議発行)等により,原爆の放射線により健康被害を被ったおそれのある者(ただし,いわゆる入市被爆者等を除く直接被爆者)は,広範に見ても爆心地から約5㎞以内の地域にいた者に限定されるとするのが科学的知見であるとの認識を有し,内閣は,上記認識に基づき,原子爆弾被爆者の医療等に関する法律施行令1条1項別表第一により,原子爆弾被爆者の医療等に関する法律(以下「原爆医療法」という。)2条1号にいう長崎市に隣接する区域を定めたこと(上記区域は,原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律施行令(平成7年政令第26号。以下「被爆者援護法施行令」という。)1条1項,別表第一が定める区域と同一であ る。),また,内閣は,被爆者を定義した原爆医療法2条1号ないし3号について,同条1号及び2号によって直接被爆者及び入市被爆者は原則すべて援護の対象とするとともに,これから漏れた被爆者を3号により個別に援護の対象とするものと位置付けていたこと,原爆医療法2条1号が,上記科学的知見に対する内閣の認識と異なり,当時の爆心地からの距離が最大約12㎞となる当時の長崎市(以下「旧長崎市」という。)の区域内にあった者を一律に被爆者健康手帳の交付を受けることにより「被爆者」とすることとしたのは,法律案を提出した内閣が地元自治体である長崎市の意向を尊重したためであること(上記意向は,同一市内にいながら被爆者と認定される者と認定されない者に分断されることから生ずる混乱等を回避するための行政上の又は政治的な配慮であると推測される。),以上の原爆医療法及び原爆医療法施行令制定当時の内閣の認識及び判断は,そのまま される者と認定されない者に分断されることから生ずる混乱等を回避するための行政上の又は政治的な配慮であると推測される。),以上の原爆医療法及び原爆医療法施行令制定当時の内閣の認識及び判断は,そのまま被爆者援護法の法律案を提出し,被爆者援護法施行令1条1項を制定した内閣に引き継がれ,国会もこれを是認して同法が成立したことが認められる。 上記によれば,被爆者援護法1条1号及び2号は,一定の時間的・場所的範囲にいた者を類型的に被爆者とし,同条3号は,同条1号及び2号に該当しない被爆者を個別に被爆者と認定して救済しようとするのが立法者の意思であると考えられる。 しかし,他方,同条1号ないし3号の定める被爆者要件が,相互に関連性のない各々独立したものと見ることはできない。すなわち,同条1号及び2号は,「身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者」を,それに当たることの立証を可能な限り容易にする趣旨から,その者が原爆投下当時いた場所,原爆投下後立ち入った場所が含まれる行政区画で区別することとし,これに当たる者を被爆者としてその援護の対象としているものと解される。また,原爆放射線による「身体に原子爆弾の放射 能の影響を受けるような事情」の有無は,最新の知見に基づいた高度に科学的,専門的な判断が必要であるし,これを地理的な区域と連動させて決定することは,高度に技術的な判断が必要であるが故に,同条1号が「隣接する区域」を定める権限を政令に委ねたと解するのが合理的である。よって,「身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった」ことは,同条1号ないし3号に通底する同法上の「被爆者」の基本概念というべきである。ただし,同条1号は,これとは別の政策上の理由から当時の長崎市の区域内にいた者を「被爆者」の要 な事情の下にあった」ことは,同条1号ないし3号に通底する同法上の「被爆者」の基本概念というべきである。ただし,同条1号は,これとは別の政策上の理由から当時の長崎市の区域内にいた者を「被爆者」の要件上一律に扱うものとしたことは前記のとおりである。 同条1号ないし3号の構造が上記のとおりであるとすると,① 被爆者援護法施行令1条1項における長崎市に「隣接する区域」の定めの根拠となった直接被爆者は広範に見ても爆心地から約5㎞以内の地域にいた者とするのが科学的知見であるとの認識に誤りがあり,当時の科学的知見によれば,「身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者」がいた範囲はより広範囲になるとき,又は② 同項制定当時の科学的知見に対する認識としては誤りがなかったが,その後の研究成果等を踏まえた最新の科学的知見は上記認識と異なるものとなり,「身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者」がいた範囲が同項の定める範囲より広範囲になるときは,同項は,正しい又は最新の科学的知見と整合するよう改正されなければならない。被爆者援護法1条1号は,上記①,②のような事態に遅滞なくかつ的確に対応することも理由の一つとして,「隣接する区域」の決定を政令に委ねたものと解される。 ところが,上記①又は②の事態が発生しているにもかかわらず,被爆者援護法施行令1条1項が改正されない場合,原爆投下時にいた場所が現行の同項が定める長崎市の「隣接区域」に含まれないものの適正な改正がされていれば改正後の「隣接区域」に含まれるであろう者は,「身体に原子 爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者」として被爆者援護法1条3号所定の被爆者に該当すると解すべきである。すなわち,この場合,同号所定の被爆者であるというためには, 原子 爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者」として被爆者援護法1条3号所定の被爆者に該当すると解すべきである。すなわち,この場合,同号所定の被爆者であるというためには,その特定個人がいた場所が,原爆投下当時,当該場所に在った者がおよそ一般的に「身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった」といえる区域内にあることを要するが,その場合には,当該特定個人についても個別具体的に「身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった」と認めることができることになるというべきである(もとより,それ以外に,当該特定個人につき「身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった」と認めるべき特有の事実関係があれば,被爆者援護法1条3号の要件を満たすことはいうまでもない。)。本件において,一審原告らは,本件各申請者について,「身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった」ことをそれぞれに特有の事実関係をもって個別具体的に主張立証するのではなく,本件各申請者が長崎原爆投下当時に被爆未指定地域に在ったことをもってこれを主張立証しようとするのであるから,以下における本件各申請者の同号の要件該当性の検討においては,被爆未指定地域内に在った者が一般的に原爆の放射線により健康被害を生ずる可能性がある事情の下にあったといえるか否かを検討することとなる。 第2 本件各申請者は,被爆者援護法1条3号にいう「原子爆弾が投下された際又はその後において,身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者」に該当するかについて 1 前提事実原判決63頁18行目「前記争いのない事実等」から79頁22行目までを引用する。 ただし,次のとおり補正する。 原判決66頁6行目の「37頁,」の後 た者」に該当するかについて 1 前提事実原判決63頁18行目「前記争いのない事実等」から79頁22行目までを引用する。 ただし,次のとおり補正する。 原判決66頁6行目の「37頁,」の後に「乙A226,」を加え,14 行目の「原子核の組成よって」を「原子核の組成によって」に,67頁2行目の「発された」を「発せられた」に,68頁19行目の「317」を「3.7」に,71頁11行目の「1.48m㏜」を「約2.1m㏜」にそれぞれ改め,72頁2行目の「29頁,」の後に「乙A393,」を加え,73頁23行目から24行目にかけての「以下の性質を有するものは人体にとって危険が高い。」を削り,74頁初行の「出すもの」の次に「は,人体にとって危険が高い。」を,75頁12行目の「放射性降下物」の前に「原爆及び大気圏核実験に伴い,核爆発した周辺に降下した放射性降下物を局所フォールアウト(ローカル・フォールアウト)と呼び,それより遠方及び地球規模で拡散し降下したものをグローバル・フォールアウトと呼ぶ。」を,79頁19行目の「甲A140ないし147,」の後に「甲A214,」をそれぞれ加える。 2 外部被爆(放射性降下物による被曝)について放射性降下物の影響原判決79頁25行目から80頁11行目までを引用する。 認定事実原判決80頁12行目の「後掲の」から92頁21行目までを引用する。 ただし,次のとおり補正をする。 ア原判決83頁18行目の「本件申請者」を「本件各申請者」に改め,21行目の「指数関数的に」の前に「時間の経過とともに」を加える。 イ原判決86頁6行目の「以下「年間積算線量」という。」の後に「正確には初年度の年間積算線量であるが,以下では逐一断らない。」を加え,7行目の「約95 に」の前に「時間の経過とともに」を加える。 イ原判決86頁6行目の「以下「年間積算線量」という。」の後に「正確には初年度の年間積算線量であるが,以下では逐一断らない。」を加え,7行目の「約95%」を「約84%」に,8行目の括弧内を「甲A130-15頁,甲A189-14~15頁,乙A29-213頁,乙A349-26~27頁」に,22行目の「マックレニイ」を「マックレイニ」にそれぞれ改める。 ウ原判決87頁6行目の「100ha」を「1000ha」に改める。 エ原判決89頁15行目の「618頁」の後に「,証人A(速記録)-28項」を加え,17行目の「マックレニイ」を「マックレイニ」に改める。 オ原判決91頁13行目の「自然放射線の測定した」を「自然放射線を測定した」に,16行目の「されている」を「考えた場合には」にそれぞれ改め,17行目の「0.01)」の後に「となる」を加え,20行目の「平成26年」を「平成25年」に改める。 カ原判決92頁2行目の「0.01mR/h」から3行目の「である。」までを削り,5行目の「伊切木村」を「伊木力村」に改める。 A 意見(一審原告らが援用する証拠)及びB 意見(一審被告らが援用する証拠)の内容ア A 意見の趣旨被曝線量の算定の概要(甲A130の1,甲A139の1,甲A152,甲A189-3~15頁・26~27頁,甲A190,甲A211-38~39頁,証人A(速記録)-34項)マンハッタン調査団の最終報告書(甲A132)の等線量分布図(原判決別紙13-1)を基にA が作成した図面(原判決別紙13-2)のb区域ないしe区域について,線量率の最低値と最高値の平均値(例えば,b区域の線量率の最低値〈0.1mR/h〉と最高値〈0. 2mR/h〉の平均値は0.15mR/h 成した図面(原判決別紙13-2)のb区域ないしe区域について,線量率の最低値と最高値の平均値(例えば,b区域の線量率の最低値〈0.1mR/h〉と最高値〈0. 2mR/h〉の平均値は0.15mR/h である。)を取り,それ以外の区域については,本件各申請者が居住していた各区域に最も近い計測地点の空間線量率を取って,その空間線量率をマンハッタン調査団により西山地区(旧長崎市に属し,爆心地の東側に位置する。)における線量率の測定が行われた昭和20年9月26日の空間線量率に換算する(マンハッタン調査団の放射能測定は昭和20年9月21日から同 年10月4日までの2週間にわたり行われ,その間にも放射性降下物の減衰は生じるため,比較のため,線量率換算式を用いて西山地区の測定が行われた同年9月26日の線量率に換算する必要がある。)と,【別紙6】の「補正値」欄記載のとおりとなり,b区域における線量率(0.18mR/h)に対するそれ以外の区域の上記換算後の線量率の比率は,【別紙6】の「エリアb比」欄記載のとおりとなる。 b区域につき,上記補正後の線量率(0.18mR/h)を基に空間線量率を線量率算定式(原判決85頁のa)のXtに,原爆投下から上記測定までの時間を線量率算定式のtにぞれぞれ当てはめて,原爆投下1時間後の地上高1mの線量率(線量率算定式のX1の値)を求め,さらに,上記線量率(X1)をDS86の式(公益財団法人放射線影響研究所(以下「放影研」という。)が中心となって作成した原子爆弾放射線の線量評価システムに基づく残留放射能による積算線量の推定式であり,減衰率(残留放射線の線量が減衰する速度)を-1.2のべき乗(t-1.2)とするもの。原判決85頁のb)に当てはめて,生涯積算線量(原爆投下1時間後から無限時間後までの累積的被曝線量。 定式であり,減衰率(残留放射線の線量が減衰する速度)を-1.2のべき乗(t-1.2)とするもの。原判決85頁のb)に当てはめて,生涯積算線量(原爆投下1時間後から無限時間後までの累積的被曝線量。原判決85頁のb)を算出すると,4250mRとなる。計算上の年間積算線量(原爆投下1時間後から1年後までの累積的被曝線量。原判決86頁のc)は,4250mRに0.84を乗じた3570mRとなる(DS86の式によって算出した年間積算線量は,同様の方法で算出した生涯積算線量の約84%である〈原判決86頁のc〉。)。そして,実際に被曝した年間積算線量は,遮蔽効果を考慮して3570mRに3分の2を乗じた2380mR(=22.6mGy。1R=0.95rad=9.5mGy で換算)となる(減衰率が-1.5のべき乗の場合は,22.6mGy に2.54を乗じた57.4m㏜となる(DS86の式における減衰率を-1.5のべき乗に置き換えて算出される年 間積算線量は,減衰率を-1.2のべき乗とするDS86の式に基づいて算出される年間積算線量の2.54倍になる〈原判決86頁のc〉。)。)。 b区域の年間積算線量に,エリアb比を乗じて,c区域以下の各区域の年間積算線量を算出すると,【別紙5】の「年間外部被曝線量」,「k=-1.2」及び「k=-1.5」欄記載のとおりとなる(単位はmGy)。 線量率の減衰率(甲A130の1-18頁,甲A139の1-7~15頁,甲A189-16~24頁,甲A207-41~43頁,甲A211-21~38頁,証人A(速記録)-25~30項,証人A(反訳書)-13頁)DS86の式が採用した減衰率-1.2のべき乗は,放射性降下物が風雨の影響を受けずにその場にとどまった場合の理論値であるところ, 長崎では,昭和20年9月2 ~30項,証人A(反訳書)-13頁)DS86の式が採用した減衰率-1.2のべき乗は,放射性降下物が風雨の影響を受けずにその場にとどまった場合の理論値であるところ, 長崎では,昭和20年9月2日に大雨が降り,さらに同月中に枕崎台風の影響で再度大雨が降るなどした結果,長崎に降下した放射性降下物は,土壌とともに相当量流出した。したがって,原爆投下後からマンハッタン調査団の調査が行われるまで(同年9月20日前)の減衰率は-1.2のべき乗よりも大きかったというべきである。 上記の事情に加え,DS86の式は,減衰率について,-1.3のべき乗又はその他の-1.5に準じる数値を採用することが可能であるとしていること,マンハッタン調査団の最終報告書(甲A132。原)には,長崎のように放射性降下物が雨などにより浸食を受け易い場合は,減衰率は-1.5に近い値と考えられる旨が記載されていること, D の研究(甲A139の2の2。原判決において算定された西山4丁目の住民の生涯積算線量(149rem〈証人A(速記録)-28項〉)は,DS86の式に減衰 率-1.5を代入して計算した生涯積算線量に近いことなどからすると,減衰率を-1.5に近い値とするのが実情に合う(ただし,それよりも低い値であった可能性もある。)。 放射性降下物の降下時期(甲A139の1-16~24頁,甲A200-12~13頁,甲A185,甲A189-25頁,甲A207-31~34頁,証人A(速記録)-22~23項,証人A(反訳書)-17~18頁・58頁)核分裂生成物の放射能は時間の経過とともに指数関数的に減衰するから,ある地域に同じ量の放射性降下物が降下した場合でも,それが原爆投下後どのぐらいの時間をかけて地表に到達したかは,地上にいる住民の被曝線量に影響すること は時間の経過とともに指数関数的に減衰するから,ある地域に同じ量の放射性降下物が降下した場合でも,それが原爆投下後どのぐらいの時間をかけて地表に到達したかは,地上にいる住民の被曝線量に影響することになる。 マンハッタン調査団の調査までに被爆未指定地域に降下した放射性降下物の主要部分は,原爆投下後,1時間以内に降下したということができる(被爆未指定地域に降下した放射性降下物の主要部分は,土砂等に放射性微粒子が付着したものであり,直径が十分に大きかったから,原爆投下後1時間以内に降下したと考えられる一方,爆発後1時間経っても地表に到達しないような微小な放射性降下物は,当時吹いていた西風の影響により,被爆未指定地域よりも遠方に降下したと考えられる。)。 すなわち,原爆投下当時,長崎では毎秒3m(時速約11㎞)の西風が吹いており,原子雲は,その内部の放射性物質を降下させながら,上記西風に流されて,東方に移動した。原子雲の主要部分の直径(正確な大きさは不明である。)を6㎞(半径数㎞)として,Aa の推定(甲A139の1-17~19頁,乙A278。原判決65頁のウ)を前提に,原子雲が上記西風(時速約11㎞)と同じ速度で東に移動し,原子雲から降下した放射性物質(の大半)は原子雲が通過する際 にその直下の地表に到達したと仮定すると,原子雲の東端が爆心地から9㎞東の地点(矢上村)に到達したのが,原爆投下の約20分後(午前11時20分頃)で,原子雲の西端が上記地点を通過したのは,原爆投下の約60分後(午前12時00分頃)となるから,上記地点に原子雲から放射性降下物が降下したのは,原爆投下の約20分後から約60分後となる。そして,マンハッタン調査団の最終報告書(甲A132。原判決82頁のc)の線量率の分布によれば,放射性降下物は実際に 原子雲から放射性降下物が降下したのは,原爆投下の約20分後から約60分後となる。そして,マンハッタン調査団の最終報告書(甲A132。原判決82頁のc)の線量率の分布によれば,放射性降下物は実際には直径6㎞の原子雲より広く分布したと考えられること,原子雲が通過した後も長崎市内において発生した大規模な火災によって生じ,上昇気流によって巻き上げられた灰や土埃(放射性物質を含むもの)の落下は続いたと考えられること,原爆投下と同じ頃に投下された観測用ラジオゾンデのパラシュートが同日午前11時30分頃に東長崎地区(被爆未指定地域のうち爆心地の真東方向に位置する矢上村,日見村,古賀村,戸石村を併せた区域)の戸石村に初めて落下したことに照らすと,東長崎地区への主要な降灰は原爆投下の30分後から1時間後に起こったと推定される(甲A139の1-20頁)。 マンハッタン調査団の調査結果を算定の基礎とすることの合理性a バックグラウンドが適切に考慮されていること(甲A139の1-27~28頁,甲A188-2頁,甲A189-28~31頁,証人A(速記録)-15項)マンハッタン調査団の調査結果においては,バックグラウンドを0.01mR/h としているところ,被爆未指定地域の地質には放射線の放出量が多い花崗岩等が含まれていないこと,Abeらの調査( E らが昭和43年に九州地方で行った環境放射能調査結果)において,長崎県でマンハッタン調査団の 調査におけるバックグラウンドより大きな自然放射線が測定された地域は,江迎,東彼杵と島原(いずれも被爆未指定地域外の地である。)に限られ,E の測定結果( E が昭和42以降に被爆未指定地域を含む長崎市及びその周辺の空間中の自然放射線量をも同様であること,A の測定結果のとおり,A が 爆未指定地域外の地である。)に限られ,E の測定結果( E が昭和42以降に被爆未指定地域を含む長崎市及びその周辺の空間中の自然放射線量をも同様であること,A の測定結果のとおり,A が平成25年11月23日に被爆未指定地域において自然放射線量(地上高5㎝及び1m)を測定したところ,伊木力村,茂木,野母半島,三重のいずれにおいても,0.01mR/h よりも相当低い数値が測定されたこと,バックグラウンドの時間的変化も十分小さいことなどに照らせば,マンハッタン調査団の調査結果においては,バックグラウンドが適切に考慮されており,その結果を基に被曝線量の推計を行っても,被曝線量を過剰に評価することにはならない。 b 測定が地上高5㎝で行われたこと(甲A153-16~18頁,甲A200-13~15頁,甲A207-45~46頁,甲A211-3~20頁,証人A(速記録)-17~19項)マンハッタン調査団の調査における線量率の測定は地上高5㎝で行われた。地上高5㎝の線量率が地上高1mのそれよりも高く測定されるとすれば,その原因は,① ベータ線を測定したことの影響,②ホットスポット(局所的汚染箇所)における測定であることの影響のいずれかである。これらの影響がない場合,地上1mも5㎝もほぼ同じ線量率である。実際,前記A の測定結果においても,地上高5cmと地上高1mとで自然放射線量の測定結果にほとんど差はなかった。 マンハッタン調査団の調査では,ガンマ線のみの測定を行い(ガンマ線のみを測定できる計測器を用いて測定した。),ホットスポット での測定を行っていない(住民が日常使用していた道路に沿って測定したところ,これらの場所は,水はけが良いため,雨水の流れによって落ち葉や土埃・泥などが集積することがない。)から,上記 での測定を行っていない(住民が日常使用していた道路に沿って測定したところ,これらの場所は,水はけが良いため,雨水の流れによって落ち葉や土埃・泥などが集積することがない。)から,上記①,②のどちらの影響もなかった。 また,被爆当時の本件各申請者の年齢,身長,生活上の動作等を考慮すれば,地上高5㎝の測定値を用いることはむしろ適切である。 以上によれば,西山地区及び被爆未指定地域の線量率の算定に当たり,地上高5㎝で測定したマンハッタン調査団の調査の測定値を用いることによって,被曝線量を過大に評価することにはならない。 イ B 意見の趣旨次のとおり,A 意見書における生涯積算線量及び年間積算線量の算出方法には問題点があり,その値は実際よりも過大になっている。 減衰率を-1.5のべき乗とするのは過大であること(乙A228の1-22~23頁,証人B -11~12頁・49~52頁)マンハッタン調査団の最終報告書(甲A132。原判決82頁のc)において,同調査団のタイバウト(Tybout。同調査報告書の放射線の項を執筆した技術部長)は,減衰率を-1.2のべき乗とすることが望ましいとしている上,マックレイニ報告書(乙A269の1・2。 において,昭和20年9月26日から同年11月12日までの減衰率は,上記期間中に降雨があったにもかかわらず,-1.2のべき乗が採用されている。 また,DS86において前提とされた西山地区での最大線量率(1. 8mR/h)は,風雨の影響を受けにくい地点(「貯水池東側の小道の外れ」,「草むら」)で測定されたものである。 長崎原爆由来の放射性降下物による残留放射能の放射線量を推計する際の減衰率は,上記のような風雨の影響を受けにくい地点の測定結果 を用いる場合,-1.2のべき乗とするこ 定されたものである。 長崎原爆由来の放射性降下物による残留放射能の放射線量を推計する際の減衰率は,上記のような風雨の影響を受けにくい地点の測定結果 を用いる場合,-1.2のべき乗とすることが妥当であり,-1.5のべき乗とすると過大に推計することになる。 放射性降下物の降下時期(乙A228の1-22~25頁,乙A329,証人B -12~13頁)核分裂生成物の放射能は時間の経過とともに指数関数的に減衰するので,ある地域に降下した放射性降下物の全体が降下した時期は,地上にいる住民の被曝線量に大きく影響する(放射性降下物が爆発後2時間で降下したとした場合,線量率は爆発1時間後に降下したとした場合の43.5%に減少し,3時間では26.8%,4時間では18.9%,6時間では11.6%,12時間では5.1%にそれぞれ減少する。仮に,被爆未指定地域の各区域の年間積算線量を推計するに当たり,放射性降下物の全体が1時間で降下したとの仮定を2時間に変更するだけでも,年間積算線量は15.4%ほど減少し(減衰率-1.2のべき乗の場合),3時間に変更すると23.5%ほど減少する。)。 A 意見は,被爆未指定地域に降下した放射性降下物の主要部分が爆発後1時間以内に降下したものとして,線量率及び積算線量を算出している。しかし,西山地区ですら爆発後30分程度で放射性降下物の主要部分が降下したという科学的根拠はなく,まして,同地区よりも爆心地から遠方にある被爆未指定地域において,放射性降下物の主要部分が爆発後1時間で降下したとする科学的知見はない。A 意見が前提とするように,風速風向が一定であったとは考え難いし,長崎において,西山地区以外で大量の降雨があったという記録は乏しく,降雨があったとしても少量であったのであるから,被爆未指定地域の多く 見が前提とするように,風速風向が一定であったとは考え難いし,長崎において,西山地区以外で大量の降雨があったという記録は乏しく,降雨があったとしても少量であったのであるから,被爆未指定地域の多くの区域ではゆっくりと(すなわち,1時間以上の時間をかけて)放射性降下物が地上に降下した可能性があるというべきである。 また,原爆の爆発で生じた火球が冷える過程で,核分裂生成物は融解温度が高いものから固化して比較的大きな粒子になり,それらの粒子は爆心地の近くに早く降下し,他方,融解温度が低い核分裂生成物はより小さい粒子になり,より長い時間をかけてより遠方の地上に到達する(フラクショネーション)。そして,長崎原爆のような空中核爆発の場合の核分裂生成物の粒子径は小さいこと,原子雲(キノコ雲)は相当高度に達することからすると,爆発によって生じた微粒子の多くは上空にとどまり,グローバル・フォールアウト(地球規模での拡散と降下)として時間をかけて降下したと考えられる。他方,比較的大きな放射性降下物は,爆心地から近距離に降下したはずである。 したがって,被爆未指定地域に降下した放射性降下物の主要部分が爆発後1時間以内に降下したとはいえず,西山地区における積算線量を算出するために用いられたDS86の式を西山地区よりも爆心地から遠距離にある被爆未指定地域での積算線量を算出するために用いると,これを過大に推計することになる。 マンハッタン調査団の調査結果をそのまま用いることはできないことa バックグラウンドの数値(乙A228の1-24~25頁,乙A312-25頁,証人B -56頁)マンハッタン調査団は,0.01mR/h をバックグラウンドとしたが,上記数値は,海岸の自然放射線レベルを測定したものである 1-24~25頁,乙A312-25頁,証人B -56頁)マンハッタン調査団は,0.01mR/h をバックグラウンドとしたが,上記数値は,海岸の自然放射線レベルを測定したものである。 海岸の自然放射線は,主に宇宙線によるものであり,他方,内陸部における自然放射線は,宇宙線に加えて,大地からの自然放射線によるものであること,九州の内陸部では,沿岸部に比べて自然放射線量が2ないし3倍強高いことからすると,マンハッタン調査団の測定結果のうち,バックグラウンドに近い数値が測定された地域の分については,大地からの自然放射能の「揺らぎ」を捉えている可 能性があり,上記バックグラウンドの数値を超える放射線が測定されたことをもって,原爆由来の放射性降下物が降下したということはできない。 また,自然放射線の測定は,天候や風の影響も受ける。そのため,Abeらの調査,E の測定結果,A の測定結果において測定されたバックグラウンドの数値が,マンハッタン調査団で設定されたバックグラウンドよりも低かったからといって,一概にマンハッタン調査団の測定結果が実際の線量率よりも低かったとはいえない。 したがって,マンハッタン調査団の線量率の測定結果を基に累積被曝線量を推計すると,実際よりも過剰な数値になる可能性がある。 b 地上高5㎝での測定値を用いることについて(乙A312-25頁,乙A329の1-11頁・14頁,証人B -16~20頁・80頁)マンハッタン調査団の調査では,空間線量率は地上高5㎝で測定された。放射線には距離の2乗に反比例して線量が低下する性質があるため,地表近くで測定するとその直下の線源の寄与が大きくなり,線量が高くなってしまうことから,地上高5㎝の線量率は,住民の被曝線量を算定する場合に一般に使わ 2乗に反比例して線量が低下する性質があるため,地表近くで測定するとその直下の線源の寄与が大きくなり,線量が高くなってしまうことから,地上高5㎝の線量率は,住民の被曝線量を算定する場合に一般に使われる地上高1mの線量率より高くなる(実測において地上高1mの線量率のほうが高くなる場合があるのは,周辺にホットスポット等の強い線源があるような場合である。)。実際に,マックレイニ報告書において,地上高5㎝での測定値は地上高1mでの測定値より2倍高かったとされている。 住民の被曝線量を算定する際の空間線量率は,地上高1m,建造物から1m離れた地点でのものを国際的に標準としている(大人の場合,この高さに重要臓器がある。)。国際的には,子どもについても地上高5㎝の測定値を用いるべきものとはされていない(子どもであ っても,重要臓器,特に頭部や胸部等は,地上高5㎝よりも地上高1mに近い高さに位置している。)。 したがって,マンハッタン調査団の調査において測定された線量率は,住民が平均的に受けていた線量率よりも少なくとも2倍高かったと考えられ,その調査結果をそのまま利用して住民の被曝線量を算定した場合,過剰に見積もることになる。 A 意見及びB 意見の適否についてア放射性降下物の放射線の減衰率減衰率の算出について放射性降下物の発する放射線の線量率は,時間の経過に伴う放射性物質の崩壊やウェザリング効果(気象現象等により,放射性物質(特に放射性降下物)の当初の土壌への沈着量が減少する効果。原判決75頁のc)によって減衰するところ,長崎原爆由来の放射性降下物の場所ごとの減衰率を調べた研究・調査は見当たらないこと,マンハッタン調査団の調査の測定が行われた各測定点におけるウェザリング効果の具体的な程度は明らかでないこ るところ,長崎原爆由来の放射性降下物の場所ごとの減衰率を調べた研究・調査は見当たらないこと,マンハッタン調査団の調査の測定が行われた各測定点におけるウェザリング効果の具体的な程度は明らかでないことからすると,上記各測定点における放射線の減衰率の具体的な数値を算出することは不可能である。 したがって,長崎原爆に由来する放射性降下物の発する放射線の減衰率については,当時の気象条件等を考慮して,概算するほかない。 減衰率を-1.2のべき乗とするDS86の式の評価aDS86の式が採用した減衰率-1.2のべき乗は,西山地区で採取した土壌サンプルを実験室に持ち帰って測定した数値である(原判決83頁のd)ところ,証拠(乙A228の1-22頁)及び弁論の全趣旨によれば,屋外にある原爆由来の放射性降下物は,風雨の影響を受けて移動・流出することが認められ,特に,前記(原判ア)のとおり,長崎においては,マンハッタン調査団 の調査前,多量の降雨があり,それによって風雨や土砂とともに移動・流出した放射性降下物も多いと推認される。 そして,DS86では,減衰率を定めるに当たり,放射性降下物が測定前の風雨の影響により散乱した可能性を認めた上で,資料採取場所について詳細な情報が得られないために風雨の影響を評価することが不可能であるとして,風雨の影響による補正をしない実験室内での測定データを用いたことが明示されている(原判決87頁の)。そうすると,DS86の式において採用された減衰率-1.2のべき乗は,実験室において核分裂生成物の発する放射線には妥当するとしても,長崎原爆に由来し風雨の影響の下にある放射性降下物の発する放射線にも妥当することが科学的に実証されたものと直ちにいうことはできない。 b もっとも,マックレイニ報告書(乙A269 妥当するとしても,長崎原爆に由来し風雨の影響の下にある放射性降下物の発する放射線にも妥当することが科学的に実証されたものと直ちにいうことはできない。 b もっとも,マックレイニ報告書(乙A269の1・2。原判決89には,西山地区における昭和20年9月26日の線量率とそれに近い場所の同年11月12日の線量率から推定される減衰率が-1.2のべき乗に合致するとする部分があり(原判決89頁の,日本原子力研究開発機構の茅野政道の意見(乙A226)にも,セシウムやプルトニウムは,土壌に固定し易く,土壌に到着した時点で固定化が進むため,数回の雨で大きく沈着濃度が減少することはないとする部分があり, F らの研究「広島原爆の早期調査での土壌サンプル中のセシウム137濃度と放射性降下物の累積線量評価」(乙A39の1・2)には,広島市内への原爆投下から3日後に採取された試料からの被曝線量は,広島に枕崎台風が到来した後の測定結果に基づき減衰率を-1.2のべき乗として計算したDS86の式による被曝線量の推計値と類似しているとする部分があるなど,風雨の影響の下にある放射性降下物の発する放射線に も,減衰率-1.2のべき乗が妥当するとの報告も少なからず存在する。 そうすると,DS86の式の減衰率-1.2のべき乗が実証的な裏付けを全く欠くものということもできない。 減衰率を-1.5のべき乗とするA 意見について他方,A 意見は,長崎原爆由来の放射性降下物による放射線の減衰率を,核実験Trinity(昭和20年7月16日に米国のニューメキシコ州の砂漠地帯にあるアラモゴード爆撃試験場において行われたプルトで発生した放射性物質による放射線の減衰率(ただし,雨が降った地域であるホットキャニオンと呼ばれる渓谷におけるもの。甲A130の3-7頁, 砂漠地帯にあるアラモゴード爆撃試験場において行われたプルトで発生した放射性物質による放射線の減衰率(ただし,雨が降った地域であるホットキャニオンと呼ばれる渓谷におけるもの。甲A130の3-7頁,甲A189-16頁)と同じ-1.5のべき乗であったとする。 この点,核実験Trinity は,長崎に投下された原爆と同型の爆弾が用いられたものの,空中核爆発であった長崎原爆と異なり,地上20mで行われた地表核爆発であったこと(原判決88頁の),一般に,地表核爆発では空中核爆発よりも多量の放射性物質が生成されること(原判決66頁の)からすると,核実験Trinity では,長崎原爆と比較して,誘導放射化された土壌の粉塵が多量に空中に巻き上げられ,相当多量の放射性降下物が発生したと考えられる。また,上記核実験が行われた場所は砂漠であり,自然条件が長崎原爆と大きく異なる。 したがって,核実験Trinity における放射性物質の減衰率を長崎原爆にそのまま当てはめることはできない。 また,マンハッタン調査団の最終報告書(甲A132。原判決82頁のc)において,長崎のように放射性降下物が風雨による浸食を受け易い場合には,減衰率は核実験Trinity の-1.5に近い値と考えられるとされているが(原判決83頁のd),同最終報告書が地形や観測 場所その他の条件をどのように考慮して核実験Trinity と長崎原爆とを対比したのか不明であって,同最終報告書から長崎原爆に由来する放射性降下物の減衰率が-1.5のべき乗に近い値であったと認定することはできない。 D の研究(甲A139の2の2。原判決88),Bb らの調査(乙A349),Wilson論文(甲A139の2の5の1・2)も,降雨量とウェザリング効果との関連性の有無・程度をどのように D の研究(甲A139の2の2。原判決88),Bb らの調査(乙A349),Wilson論文(甲A139の2の5の1・2)も,降雨量とウェザリング効果との関連性の有無・程度をどのように考慮したのかが不明である,過去の調査における実測値と減衰率を-1.5のべき乗とした場合の推計値が一致ないし類似するとの判断に客観性が乏しい,降雨によるウェザリング効果がない場合にも減衰率が-1.5のべき乗であることを前提にしている点で特異である,などの問題があり,長崎原爆に由来する放射性降下物の減衰率が-1.5のべき乗又はそれに準ずる値であることを積極的に根拠づけるものとはいえない。また,A が平成29年の台風18号の上陸時に行った台風による土壌流出の再現実験,A が行った福島第一原子力発電所事故後の現地走行調査による測定結果(乙A226),内閣府原子力被災者生活支援チームによる「避難指示区域における航空機モニタリングの測定結果」(甲A211参考文献7)からの減衰率の推計にも限界があると言わざるを得ない。 以上のとおり,減衰率に関するA 意見は採用できない。 長崎原爆に由来する放射性降下物の放射線の減衰率以上によれば,長崎原爆に由来する放射性降下物の発する放射線の減衰率について,マンハッタン調査団の調査における測定点ごとの具体的な数値を算出することはできないところ,それが風雨の影響(ウェザリング効果)によって-1.2のべき乗よりも高くなっているかどうか,なっているとして,どの程度かを的確に認定することはできな いというほかない。 イ放射性降下物の降下時期爆心地の東側(原子雲の本体が通過した直下ないしその付近)の地域aA 意見の前提A 意見は,積算線量の算定に当たって,原子雲がAa の推定(乙A139の 。 イ放射性降下物の降下時期爆心地の東側(原子雲の本体が通過した直下ないしその付近)の地域aA 意見の前提A 意見は,積算線量の算定に当たって,原子雲がAa の推定(乙A139の1-17~19頁,乙A278頁。原判決65頁のウ)のとおりに移動したこと,その間,西風が全ての高度で秒速3mの定常流として吹き続けていたことを前提に,被爆未指定地域には,その上空を原子雲の本体が通過する頃までに放射性降下物の主要部分が降下し終わり,したがって,爆発の約1時間後までに放射性降下物の主要な部分が降下したとする。 この点,長崎原爆によって地上で発生した大規模な火災による灰は,上空に舞い上がった後,核分裂生成物等を付着させて,爆発の30分後頃から数時間の間に降下した事実が認められる(原判決65頁のが,放射性降下物の全体量,そのうち核分裂生成物等の粒子径の大きさやその割合,粒子の大きさ・重量と降下速度の関係,爆心地周辺の各地域に降下した具体的な時刻,量等を測定した結果の記録はない(証人B -57~58頁,弁論の全趣旨)。 b 認定事実爆心地の東側の地域のうち西山地区では,被爆未指定地域よりも爆心地に近いことや爆発直後に降雨が見られたことを考慮すると,被爆未指定地域よりも早くに放射性降下物が降下したといえるところ,マンハッタン調査団の調査の結果によれば,線量率の測定値が西山地区をピークとしてそれより東側で概ね距離に応じて低下していること(原判決別紙12,13)からすると,放射性降下物は,原子雲が通過した頃ないし通過後間もない頃に,その直下付近に, 爆心地からの距離に応じて,時間的に連続して降下したと考えるのが合理的である。そして,Aa の推定(乙A139の1-17~19頁,乙A278頁。原判決65頁のウ)における原子雲 下付近に, 爆心地からの距離に応じて,時間的に連続して降下したと考えるのが合理的である。そして,Aa の推定(乙A139の1-17~19頁,乙A278頁。原判決65頁のウ)における原子雲の動きを前提にすると,爆心地の東側の被爆未指定地域,特に爆心地により近い地域においては,爆発後1時間が経過する前から,放射性降下物(特に粒子径の大きなもの)の降下が始まり,爆発の1時間後までにある程度の量が降下した事実が推認できる。 他方,被爆未指定地域は,西山地区よりも爆心地から遠距離にあること,本件証拠上,原爆投下後,爆心地の周辺地域のうち,西山地区以外で降雨があったとの客観的な記録はないこと,証拠(乙A329の2-9の2頁,証人B -12~14頁)及び弁論の全趣旨によれば,原子雲の火球が冷える過程で,核分裂生成物等は融解温度が高いものから固化して比較的大きな粒子になって早く降下し,他方,融解温度が低い核分裂生成物等はより小さい粒子になり,より長い時間をかけて地上に到達すること(フラクショネーション)が認められることからすると,西山地区より東側の地域では,西山地区よりも放射性降下物の降下が遅く始まり,その主要部分が地表に到達するまでにより長い時間がかかったものと推認できる。このことは,爆風によって塵となって吹き上げられた土壌や建造物,長崎原爆投下後の大規模な火災によって発生した粒子が核分裂生成物等を吸着したものについても同様と考えられる。 cA 意見の評価A 意見は,A が平成23年3月8日から同年4月30日までに行ったアンケートによる調査を根拠に,爆心地から北東約7.5㎞の離れた場所にある間の瀬地区において,午前11時20分頃から20分ないし30分の間,降雨があったとするところ(甲A130 の1-57頁),こ よる調査を根拠に,爆心地から北東約7.5㎞の離れた場所にある間の瀬地区において,午前11時20分頃から20分ないし30分の間,降雨があったとするところ(甲A130 の1-57頁),これは間の瀬地区において降雨とともに小さい粒子の放射性物質が早期に降下したとする趣旨と解される。しかし,上記のとおり,西山地区以外で原爆投下後間もなく降雨があったとの客観的な記録はなく,上記アンケートによる調査の結果のみから間の瀬地区で降雨があった事実を認めることはできないし,仮に降雨があったとしても,証拠(甲A130の1-57頁)によれば,上記アンケートによる調査結果では,雨の程度について,通り雨,にわか雨,小雨と回答した住民がいることが認められることからすると,間の瀬地区に降下した放射性降下物の主要部分が降下するのに十分な量の降雨があったと認めることはできない。 また,A 意見は,原子雲が通過する時間とその直下付近に放射性降下物の全部ないし主要な部分が降下(地表に到達)する時間とが同じであること(そして,原子雲が被爆未指定地域に到達するまでの時間が爆発後1時間程度に収まっていること)を前提にするが,原子雲が通過する時間とその直下付近に放射性降下物の主要部分が降下(地表に到達)する時間が同じであったことを裏付ける調査・研究は見当たらないこと,A 意見が前提とする気象台の観測結果「秒速3mの西風」が同所での全ての高度の風速・風向を示すと認めるに足りる証拠がないことなどからすると,A 意見(甲A185-3頁等)が推測するように,被爆未指定地域に降下したのが原爆で地表から巻き上げられて核分裂生成物を吸着した土砂や灰,水滴などの粗大粒子が主体であったとしても,上記前提は採用できない。 そもそも,A 意見の適否は,原子雲の大きさに依存するとこ したのが原爆で地表から巻き上げられて核分裂生成物を吸着した土砂や灰,水滴などの粗大粒子が主体であったとしても,上記前提は採用できない。 そもそも,A 意見の適否は,原子雲の大きさに依存するところ,その正確な大きさ自体も不明であり,例えば,矢ケ崎意見書(甲A179等)では,長崎原爆爆発による原子雲がその初期に半径15 ㎞の同心円状に広がり,ほぼ形をとどめたまま流され,その後,薄い雲が当日22時頃まで続いたところ,この雲が原子雲の通過した地域の放射性微粒子が凝結核となって生じ続けたものと推察されており,そうだとするとA 意見の推察の前提が失われることになる。 d 小括以上によれば,マンハッタン調査団が線量測定をするまでに被爆未指定地域に降下した放射性物質が,長崎原爆の爆発後1時間以内に地表に到達し始め,それが爆心地からの距離に応じてある程度の量に達していたということはできるが,その主要な部分が爆発後1時間以内に地表に到達していたと認めることはできず,特に爆心地から遠い地点ほど放射性降下物の降下に長い時間を要したことが推認できるというべきであって,そうであるとすると,爆発後1時間後以降の積算線量を算出する式であるDS86の式を用いた場合,被爆未指定地域における積算線量を過大に推計することになるというべきである。 爆心地以外の地域長崎原爆の爆発によって発生した放射性降下物の主要な部分は,原子雲の本体に含まれていたこと(原判決65頁の,長崎原爆投下当時,長崎では秒速3m(時速11㎞)程度の西風が吹いており,原子雲はこの風により爆心地から東側に移動したこと,地表に降下するのに数時間程度を要する粒子径の小さい放射性降下物(の多く)は,地表に達するまでの間に上記の風によって拡散したと考えられること,本件 原子雲はこの風により爆心地から東側に移動したこと,地表に降下するのに数時間程度を要する粒子径の小さい放射性降下物(の多く)は,地表に達するまでの間に上記の風によって拡散したと考えられること,本件証拠上,長崎周辺の地域で,西山地区以外に原爆投下後間もなく降雨があったとの客観的な記録は見当たらないことからすると,原子雲の本体が通過した爆心地の東側の地域以外の被爆未指定地域においては,放射性降 下物が東側の地域よりも長い時間をかけて徐々に降下したことが推認され,マンハッタン調査団の調査までに上記被爆未指定地域に降下した放射性物質の主要な部分が,爆発後1時間以内に降下したと認めることはできない。 G の意見についてG は,空中に浮遊する放射性降下物は,地表に到達しなくても放射線を照射するので,地上の住民は被曝し,したがって,地表に到達した放射性降下物のみで線量を評価すると過小評価となるとするところ(甲A188),そのこと自体は首肯し得ないではないものの,具体的な評価方法は不明であるし,生涯積算線量との関係も明らかでない。 ウマンハッタン調査団の調査結果の評価バックグラウンドについてa マンハッタン調査団の調査では,バックグラウンド(自然放射線)を一律に海岸付近(「北上して道路が海に到達する地点」。甲A132の2-4頁,甲A189-28頁)で測定した0.01mR/h として,これを各地点における放射線量の測定結果(ただし,カウント数で計測したもの)から差し引いた値をその地点における原爆由来の放射線量とした(原判決82頁のc)。 一般に,自然放射線量は,宇宙からの放射線量が主に計測される海岸線付近よりも,宇宙からの放射線量に加え,大地からの放射線が存在する内陸部の方が高くなる傾向にある(原判 とした(原判決82頁のc)。 一般に,自然放射線量は,宇宙からの放射線量が主に計測される海岸線付近よりも,宇宙からの放射線量に加え,大地からの放射線が存在する内陸部の方が高くなる傾向にある(原判決90頁のが,マンハッタン調査団の調査は,海岸線そのものではなく,そこから若干の距離だけ内陸に入った地点,すなわち,内陸部の計測値との連続性(比例関係)が維持されている地点(範囲)における最低値を求めたものであり(甲A132の2-4頁,A189-28頁),上記調査が海岸線そのものにおける特異な値を計測してバックグラウンドと したとの批判は当たらない。 実際,マンハッタン調査団の調査においてバックグラウンドとして採用された線量率(0.01mR/h)は,Abeらの調査(原判決90頁の,E の測定結果(原判決91頁のA の測定結果(原判決91頁のにおけるバックグラウンドの測定値よりも相当程度高い数値であり,複数の調査,測定結果に見られるこのような傾向にかかわらず,マンハッタン調査団の測定結果が天候の影響等による自然放射線の「ゆらぎ」をとらえたものに過ぎないとか,そのバックグラウンド値が海岸線における特異な測定値であるとすることはできない。 上記の事情に加え,本件証拠上,長崎において,昭和20年から平成25年までの間に,地質の変化など,自然放射線量に大きな変化をもたらす事象があったとは認められないこと,前記のとおり,被爆未指定地域を含む長崎市周辺の地質が高い放射線を放出する花崗岩等によって構成されているものではないこと,マンハッタン調査団がバックグランドとして採用した線量率(0.01mR/h)は,日本人が年間に受ける自然放射線(年間2.1m㏜)のうち外部被曝線量(宇宙線(0.3m㏜)と大地からの自然放射線(0.33m㏜)の合 査団がバックグランドとして採用した線量率(0.01mR/h)は,日本人が年間に受ける自然放射線(年間2.1m㏜)のうち外部被曝線量(宇宙線(0.3m㏜)と大地からの自然放射線(0.33m㏜)の合計0.63m㏜)と比較しても小さいとはいえないこと( H 意見・甲A204-6~7頁)などに照らせば,マンハッタン調査団の調査結果の採用したバックグラウンドの線量率が実際よりも低いということはできない。 b 一審被告らは,マンハッタン調査団の空間線量率の測定値とバックグランドの値を前提とすると,雲仙に至るまでの全ての地域で原爆由来の放射性降下物による影響があることとなるとして,それらの値が不当であると主張する。 しかし,前記のとおり,原子雲は爆心地から西風により東に流されたところ,雲仙は爆心地の東側に位置していること,原子雲に含まれていた粒子は降下時間が長く,その多くは上記西風によって東側へ拡散したものと推測されることからすれば,直ちにマンハッタン調査団の測定値やバックグラウンドの値が不自然であるとはいえない。 c 以上によれば,マンハッタン調査団の調査結果のうち,バックグラウンドに近い数値が測定された地域における線量率を基に累積被曝線量を推計すると実際よりも過大になる可能性があるとのB 意見は採用できない。 測定高についてa 判断の前提となる知見等放射線は,距離に反比例して線量が低下する性質を有する。そのため,① ガンマ線の線源が点状である場合,線量率は距離の二乗に反比例する(全方向に放射された放射線全てを計算に入れた場合。 ある対象物との関係では,対象物が位置する側に出た放射線量によって上限が画される。)。② 線源が線状に分布する場合は,放射線の線束は線状線源を中心線とする円柱の表面積に反比例する(放 入れた場合。 ある対象物との関係では,対象物が位置する側に出た放射線量によって上限が画される。)。② 線源が線状に分布する場合は,放射線の線束は線状線源を中心線とする円柱の表面積に反比例する(放射線束は線源からの距離に反比例する。)。③ 全面に一様に汚染され,線源が面状に分布している場合は,放射線の線束の減衰は点状線源や線状線源ほどには生じない。さらに,④ 線源が無限大に広がる面である場合は,測定高にかかわらず線量率は一定となる。 以上を踏まえ,他の条件を捨象すれば,平面に沈着した放射性物質からのガンマ線を測定した場合は,地上1mでの空間線量率の測定値は地上10㎝での測定値の約1.55分の1になるとの見解(乙A331-58~59頁,乙A349-24頁)や,地表面と地上1mと ではおおよそ1.3倍くらいの差になると推測する見解(甲A211-参考文献4)等がある(甲A153-16頁,甲A183,甲A211-5~6頁,乙A43の1,乙A43の2-231項,乙A331-58~59頁,乙A349-24頁,乙A312-25頁,乙A329の1-11頁・14頁,証人B -17頁)。 測定箇所の直下にホットスポット(局所的汚染個所)が存在する場合,地上10㎝ではその影響を大きく受けるのに対し,1mでは相対的にその影響が小さくなるため,それが存在しない場合に比べ測定値の差が顕著になる。他方で周辺にホットスポットがある場合,差が縮小し,ときに逆転する場合がある(乙331-15頁・59~61頁)。 以上によれば,線量率と距離との反比例関係があることを前提に,線源の形態(点状,線状,面状の別,一様さや広がりの程度等)により線源からの距離の増大に伴う線量率低下の程度が異なり,ホットスポットの影響の有無,地表面の凹凸や周囲の地形による修正がどの程 提に,線源の形態(点状,線状,面状の別,一様さや広がりの程度等)により線源からの距離の増大に伴う線量率低下の程度が異なり,ホットスポットの影響の有無,地表面の凹凸や周囲の地形による修正がどの程度加わるかによって,地上高ごとの測定値の差の有無・程度が変化してくることとなる。 b 米国海軍医学研究所(NMRI)の報告書について米国海軍医学研究所(NMRI)の報告書には,「西山地区では,計数管を地上1mの所から地上5㎝の所に移した時にはメーターの読みは殆ど倍増した。」として(原判決84頁の),西山地区において,地上高5㎝の放射線量の測定値が地上高1mのそれの約2倍になったとの記載がある。 証人Aは,米国海軍医学研究所(NMRI)の報告書における測定結果について,計数管の球状の窓を開いた状態でガンマ線とベータ線を同時に測定した結果として,ベータ線が測定された地上高5㎝での測定値がベータ線の測定されない地上高1mでの測定値よりも高 くなったものであり,ガンマ線とベータ線を分けて測定したマンハッタン調査団の調査の結果には妥当しない旨供述する(証人A(速記録)-17~18項)。 しかし,上記測定が証人Aの推測するような方法で行われたことを認めるに足りる証拠はなく,むしろ証拠(甲A169,乙A355)によれば,米国海軍医学研究所(NMRI)の調査が長崎市の中心区域と西山地区の放射線量を比較する目的であったこと,したがって,長崎市の中心区域では,球状の窓を閉じた状態で計数管を地上1m及び5㎝にそれぞれ置いて測定したことが認められるのであれば,西山地区において計数管を地上1m及び5㎝に置いた際にも球状の窓は閉じた状態であったと推認するのが自然であるところ,中心区域では,上記窓を閉じた状態で測定されていることが認められること であれば,西山地区において計数管を地上1m及び5㎝に置いた際にも球状の窓は閉じた状態であったと推認するのが自然であるところ,中心区域では,上記窓を閉じた状態で測定されていることが認められることなどに照らし,証人Aの上記証言は採用し難い。 そうすると,米国海軍医学研究所(NMRI)の報告は,マンハッタン調査団の調査当時,比較的多量の放射性降下物が降下した東長崎地区においては,西山地区と同様に,放射線量を地上高5㎝での測定値が地上高1mでの測定値の2倍近かったと推認する根拠となり得るものというべきである。 cA の測定結果等についてこれに対し,A 意見は,A の測定結果(平成25年11月23日に伊木力村等において自然放射線量を測定したもの。原判決91頁)において,地上高5㎝と地上高1mで,線量率にほとんど差が見られなかったこと,証拠(甲A153-資料6)によれば,平成24年7月23日から同年8月1日にかけて行った千葉県成田市内の保育園等における放射線量の測定でも概ね同様の結果であったこと,平成29年7月8日,A が福島県浪江町の山合いの牧場の見晴らしの 良い道路沿い(A 意見によれば,福島第一原子力発電所事故による放射性降下物による線量率が高い場所であるとされる。)においてガイガーカウンターを用いて地上高5㎝と地上高1mの各線量率の測定を行ったところ,測定値にほとんど差がなかったこと(甲A207-45~46頁)から,マンハッタン調査団の調査の際にも地上高の違いによる線量率の違いはなかったと推測されるとする(甲A139の1-27頁,甲A153-16頁,甲A207-45~46頁)。 しかし,伊木力村等におけるA の測定結果は,長崎原爆投下から約70年後の平成25年に実施された調査によるものであり,原爆由来の放射性降下 27頁,甲A153-16頁,甲A207-45~46頁)。 しかし,伊木力村等におけるA の測定結果は,長崎原爆投下から約70年後の平成25年に実施された調査によるものであり,原爆由来の放射性降下物による影響はほとんど残っていなかったと考えられ,残留放射線の影響が残っていたマンハッタン調査団の調査当時も同様の測定結果になったということはできない。 また,上記成田市における測定は,福島第一原子力発電所事故から1年以上経過した後に行われたものであり同事故に由来する放射性降下物の影響は相当程度弱まっていたと考えられ,原爆投下の2か月以内に実施されたマンハッタン調査団の調査と同じ状況で行われたとはいえない。 さらに,浪江町における測定結果については,伊木力村等におけるA の測定結果に比べて数値がかなり高く,未だ線量率が高い場所におけるものであることは推認し得るものの,厳密な測定条件(周囲の状況等)が不明であり,周辺のホットスポットの影響を排除できているのかも疑問である。 したがって,上記のA の測定結果等からマンハッタン調査団の調査についても同様の結果となったはずであるとはいえない。 なお,A 意見は,マンハッタン調査団が昭和20年9月26日(爆発から48日後)に地上高5㎝で測定した西山地区の各地点の測 定値と,米国海軍医学研究所(NMRI)が同年10月21日(爆発から73日後)に地上高1mで測定した西山地区の各地点の測定値とを,放射線の減衰率を-1.2のべき乗として換算した上で比較すると,全体としてよく一致していると指摘する(甲A153-18頁,甲A200-15頁。両測定の等線量分布図を重ね合わせた結果は【別紙7】のとおり。)が,地上高5㎝で測定したマンハッタン調査団の調査結果よりも地上高1mで測定した米国海軍医学研究 A153-18頁,甲A200-15頁。両測定の等線量分布図を重ね合わせた結果は【別紙7】のとおり。)が,地上高5㎝で測定したマンハッタン調査団の調査結果よりも地上高1mで測定した米国海軍医学研究所(NMRI)の調査結果の方が高い箇所が少なからずある上,両調査において使用された機材の違い(甲A153-16~18頁)などの測定条件の違いをも考慮すれば,両測定結果を単純に換算の上比較することの相当性には,疑問が残る。 以上のとおり,マンハッタン調査団の調査において地上高5㎝における測定値と地上高1mにおける測定値が同じであったはずであるとするA 意見は,これを採用することができない。 d 国際的な基準等の考慮についてなお,国際的な基準では,住民の被曝線量算定のための空間線量率を測定する場合,主要な臓器への影響を検討する必要から,地上高1m(かつ建造物から1m離れた地点)の測定値を用いるとされている(乙A403-50頁,証人B -16頁)のに対し,一審原告らは,本件各申請者が当時子どもであったことから,地上高1mの測定値を用いる必要はない旨主張する。 この点,証拠(甲A211-3頁及び参考文献1ないし3)によれば,国による福島第一原子力発電所事故に関する放射線量の調査等において,保育園,幼稚園,小学校については地上高50㎝の測定値が標準として採用されたことが認められるところ,これらは,被曝する者の重要臓器の位置(高さ)にも鑑みて被曝の実態を正確に把握す るための対応ということができ,本件各申請者の長崎原爆投下時の年齢に鑑みると,その被曝線量を推計するに当たって,その重要臓器の位置(高さ)を考慮することの合理性を裏打ちするものとはいえるが,だからといって,直ちに,地上高5㎝の測定値が地上高1mのそれよりも本件各申請者の被 その被曝線量を推計するに当たって,その重要臓器の位置(高さ)を考慮することの合理性を裏打ちするものとはいえるが,だからといって,直ちに,地上高5㎝の測定値が地上高1mのそれよりも本件各申請者の被曝線量を推計するに当たってより適切であるということにはならない。 e 小括以上によれば,理論上,測定高5㎝と地上高1mとでは測定値に最大2倍程度の差が出る可能性があることは否定できず,マンハッタン調査団の調査において測定高による差が皆無であったとも認められないから,測定高5㎝の測定値に基づくA 意見の推計値が,本件各申請者の当時の年齢(身長)を考慮したものとしてではあっても,被曝線量の推計値として過大である可能性は否定できない。 被爆未指定地域における年間積算線量(外部被曝)の推計ア年間積算線量の推計の前提前記のとおり,被爆未指定地域において,長崎原爆に由来する放射性物質の線量率の減衰率の場所ごとの具体的な数値を算出することはできない。また,本件証拠上,マンハッタン調査団の調査における地上高5㎝での線量率は,地上高1mのそれよりも大きいことが推認されるものの,前者を後者に換算した場合の正確な数値は不明である。さらに,各地点に放射性降下物が降下した具体的な時間や量,放射性降下物の組成(各元素の割合)も明らかではない。したがって,本件各申請者の個別の累積被曝線量や被爆未指定地域における平均的な累積被曝線量を詳しくかつ正確に算出することはできない。そこで,被爆未指定地域において被爆した本件各申請者の被曝線量については,マンハッタン調査団の調査の結果や上記検討の内容に基づいて概ねの数値を推計せざるを得ない。 そして,残留放射線の減衰率を-1.2のべき乗とした場合の年間積算線量(原爆投下1時間後から1年後までの 調査団の調査の結果や上記検討の内容に基づいて概ねの数値を推計せざるを得ない。 そして,残留放射線の減衰率を-1.2のべき乗とした場合の年間積算線量(原爆投下1時間後から1年後までの累積被曝線量)は,生涯積算線量(原爆投下1時間後から無限時間までの累積被曝線量)の約84%であること(原判決86頁のc。なお,減衰率を-1.5のべき乗とするとその割合は増加する。),生涯積算線量は被曝した者の寿命によって差が出ることから,被爆未指定地域の住民ないしそこで被爆したとする本件各申請者の被爆者援護法1条3号該当性については,長崎原爆投下から1年後までの年間積算線量をもって検討することとする。 イ年間積算線量の推計マンハッタン調査団の最終報告書(甲A132。原判決82頁のc)を基にA が作成した図面(原判決別紙13-2)のb区域ないしe区域については,同報告書における各区域ごとの線量率の最大値と最小値の平均値(b区域は0.15mR/h,c地域は0.06mR/h,d地域は0.015mR/h,e地域は0.008mR/h)をとり,それ以外の区域については,本件各申請者が居住していた各区域に最も近い計測地点の線量率をとり,線量率算定式を用いて,その線量率を西山地区における線量率の測定が行われた昭和20年9月26日の線量率に補正すると,【別紙6】の「補正値」欄記載のとおりとなる。 また,これらの補正値とb区域における線量率(0.18mR/h)に対する上記補正後の数値の比率は,【別紙6】の「エリアb比」欄記載のとおりとなる。 b区域における生涯積算線量の算定マンハッタン調査団の調査において測定された空間線量率を線量率算定式(原爆投下からt時間後の線量率(Xt)=X1t-1.2。ただし,X1は,原爆投下1時間後 b区域における生涯積算線量の算定マンハッタン調査団の調査において測定された空間線量率を線量率算定式(原爆投下からt時間後の線量率(Xt)=X1t-1.2。ただし,X1は,原爆投下1時間後の地上高1mの線量率である。)のXtに,原爆投下から上記測定までの時間を線量率算定式のtにそれぞれ当てはめ て,原爆投下1時間後の地上高1mの線量率(X1の値)を求め,さらに,そのようにして求めた線量率(X1)をDS86の式にあてはめて,b区域における生涯積算線量を算出すると,4250mRとなる。 また,DS86の式における減衰率-1.2のべき乗を-1.5のべき乗に置き換えて,同様の方法でb区域の生涯積算線量を算出すると,10795mRとなる。 各区域における年間積算線量の算定まず,減衰率を-1.2のべき乗とした場合の一応の年間積算線量をDS86の式を用いて算定する。 上記「エリアb比」を前記のb区域の生涯積算線量(減衰率を-1. 2のべき乗とした場合の値)に乗じて,被爆未指定地域の各区域における暫定的な生涯積算線量を算出し,その数値に0.84を乗じて各区域の年間積算線量を算出し(DS86の式によって算出した年間積算線量は,同様の方法で算出した生涯積算線量の約84%である(原判決86頁のc)。),さらに,遮蔽効果を考慮してその年間積算線量を3分の2倍(K 報告書〈原判決90頁のオ〉に基づく数値)して原爆投下後1年間の年間積算線量を算出する。 なお,上記算定に当たり,人体への影響を評価するためには,まず,照射線量(R)を吸収線量(Gy)に換算する必要があるところ,本件で問題となっているのは,空気線量率から実効線量を求める計算方法であるから,水吸収線量ではなく,空気吸収線量を用いるのが合理的である。よって,1R=0.876rad に換算する必要があるところ,本件で問題となっているのは,空気線量率から実効線量を求める計算方法であるから,水吸収線量ではなく,空気吸収線量を用いるのが合理的である。よって,1R=0.876rad=8.76mGy で換算することとなる(乙A349-31頁以下)。 また,Gy から㏜(実効線量)に換算して放射線の人体への影響を評価する必要があるところ,標準人を基準としたコンピュータシミュレーションに基づき,成人では1Gy=0.75㏜(実効線量),子どもで は,1Gy=0.9㏜(実効線量)で換算することとされており(乙A349-32頁以下),これを用いるのが相当である。 これに対し,A 意見は,全身に均等に1mGy を浴びた場合,等価線量はどの臓器・組織でも1m㏜となり,実効線量も1m㏜となることから,本件においても,1Gy=1㏜とすべきであるとする(甲A211-38~39頁,乙A403-37頁)が,原爆放射線の被曝,とりわけ放射性降下物による被曝において,当然に全身に均等に放射線を浴びることとなるのか疑問があるから,A 意見は採用できない。 そうすると,減衰率を-1.2のべき乗とした場合の被爆未指定地域の各区域の一応の年間積算線量は,【別紙8】の「①t-1.2の場合」欄記載のとおりとなり,減衰率を-1.5のべき乗とした場合の一応の年間積算線量は,減衰率-1.2のべき乗として算出される年間積算線量の2.54倍である(原判決86頁のc)から,【別紙8】の「②t-1. 5の場合」欄記載のとおりとなる。 もっとも,長崎における原爆投下後の昭和20年9月1日から同月25日の降雨量が年間降雨量の約3分の1に及び,その間,枕崎台風が襲来したこと(原判決80頁のア)を考慮すると,減衰率を-1.2のべき乗として求めた被曝線量は,実際より の昭和20年9月1日から同月25日の降雨量が年間降雨量の約3分の1に及び,その間,枕崎台風が襲来したこと(原判決80頁のア)を考慮すると,減衰率を-1.2のべき乗として求めた被曝線量は,実際よりも過小である可能性がないとは言い切れない。しかし,減衰率が-1.5のべき乗又はそれに準じる値であったと認めることができないことも前記説示のとおりであり,結局,被爆未指定地域における放射線の年間積算線量が減衰率を-1.2のべき乗として求めた推計値を超えることの証明はないといわざるを得ない。 むしろ,前記のとおり,マンハッタン調査団の調査における線量率の測定結果(地上高5㎝で測定された数値)は,地上高1mで測定した線量率よりも高い数値であった可能性があること,被爆未指定地域におい て,マンハッタン調査団の調査までに降下した放射性降下物の主要な部分が爆発後1時間以内に降下したと認めることはできないことに照らせば,上記の推計値ですら,被爆未指定地域の各区域の住民の年間積算線量を過大に評価している可能性が高いということができる。 I の意見についてア意見の内容I (以下「I 」という。)の意見(甲A43の1,甲A110,甲A128の1・2。以下「I 意見 」という。)は,「原爆投下直後,爆心地を中心とする半径約30㎞の範囲内に原子雲が形成され,そのうち,半径10㎞余りの範囲内の全ての地域に,原子雲の下に存在した放射性降下物が一様に降った。それは,上記地域に存在する者につき,原爆放射線により健康被害を生ずる可能性があるといえる程度のものであった」とする。 イ検討I 意見は,前記のとおり,マンハッタン調査団の調査の結果,爆心地を中心とした同心円の地域の中で原子雲の本体が通過した爆心地の東側で際だって高い線量 度のものであった」とする。 イ検討I 意見は,前記のとおり,マンハッタン調査団の調査の結果,爆心地を中心とした同心円の地域の中で原子雲の本体が通過した爆心地の東側で際だって高い線量率が計測されたことと整合しない。一般に,対流圏(地上から高さ10㎞ないし16㎞までの大気の層)は,対流が活発であるから(対流が起こりにくい成層圏とは異なる。乙A183),原子雲の下には放射性降下物があり,それが降下するとしても,原子雲の範囲内に一様に降り注ぐことは考え難い。また,証拠(甲A128の2-24頁・148頁・156~169頁)によれば,I 自身も,上記範囲内における放射性降下物の降り方について,均一ではなかったと別件訴訟で証言したことが認められ,上記証言は,放射性降下物の降り方が一様であった旨の上記I 意見と齟齬している。 I 意見は, J 「雲仙より見たる原子爆弾投下によって発生した雲について」(乙A184。以下「J 論文」という。)にあるスケッチ(第2図,第3図(原判決別紙17)。以下,併せて「本件スケッチ」という。)を根拠として,圏界面上に広がった雲域について,約30㎞に四方に広がったものとする。しかし,本件スケッチには,描かれた山の名称や縮尺の参考にし得るものの記載がなく,本件スケッチを周囲の地形等と比較することで雲の規模を推定することは困難であること,証拠(乙A184-142頁)によれば,実際の推計値について,J 論文においては,「雲底1200乃至1300米雲頂4000乃至5000米程度と思われる」とされていて,I 意見がキノコ雲の雲頂が成層圏(約10000m)に達したとしていることと齟齬していること,本件スケッチは,雲仙から西方の長崎市の方向を見たものであって,本件スケッチからは原子雲の東西方向 いて,I 意見がキノコ雲の雲頂が成層圏(約10000m)に達したとしていることと齟齬していること,本件スケッチは,雲仙から西方の長崎市の方向を見たものであって,本件スケッチからは原子雲の東西方向の広がりは分からないことからすると,本件スケッチを根拠に原子雲の形成された範囲が半径約30㎞の同心円であるとの事実を認めることはできず,その他に上記事実を認めるに足りる証拠はない。 したがって,前記のI 意見は,採用することができない。 3 内部被曝(体内に取り込まれた放射性物質による被曝)について⑴ 内部被曝の影響の評価についてア長崎原爆における内部被曝内部被曝とは,呼吸,飲食,外傷,皮膚等を通じて体内に取り込まれた放射性物質が放出する放射線による被曝をいう(原判決72頁の。 長崎原爆に関して内部被曝の主要な原因となり得るのは,放射性降下物(原爆により一旦気化した核分裂生成物,未分裂のプルトニウム及び原爆の容器に加え,誘導放射化された土壌や建築物等が塵となって爆風で吹き上げられたもの,火災により発生した粒子などを含む。)である。 イ K らの調査証拠(乙A29-219頁)及び弁論の全趣旨によれば,内部被曝について,長崎大学のK らが,昭和44年及び昭和56年の調査で残留放射線が多かった西山地区の住民を対象とするセシウム137(核分裂により生成されるセシウム〈原子番号55の元素〉の放射性同位元素であり,半減期は30年である。)の測定結果を用いて,昭和20年から昭和60年までの40年間のセシウム137による内部被曝線量を積算したところ,男性で10m rem(ミリレム。=0.0001Gy),女性で8m rem(=0.00008Gy)と推定されたと報告したことが認められる。 もっとも,上記の報告からは,セシウム 量を積算したところ,男性で10m rem(ミリレム。=0.0001Gy),女性で8m rem(=0.00008Gy)と推定されたと報告したことが認められる。 もっとも,上記の報告からは,セシウム137よりも半減期の短い(放射性崩壊の確率が大きく,単位時間当たりの放射線の放出量が多いと考えられる。)放射性物質等による内部被曝線量については不明であるが,半減期の短い核種は,原爆投下後短時間のうちに環境中から消失するため,体内に摂取される機会は極めて小さく,それによる内部被曝線量は,半減期が長く生成量が多いセシウム137による被曝を超えることはなく,放射性降下物の中で内部被曝線量に寄与する主な核種は,半減期が長く生成量が多いセシウム137であるとの見解がある(乙A30-20~23頁,乙A46-153~154頁,乙A54)。 これに対し,A 意見(甲A130の1-64~66頁,甲A139の1-36~38頁,甲A200-8~9頁)は,短寿命核種による被曝も考慮すべきであるとするが,上記証拠から認められる短寿命核種の半減期及び内部被曝線量を計算するための係数である実効線量係数に鑑みれば,長期間の内部被曝線量を推計するに当たり重要なのは,セシウム137であり,短半減期核種を含めた全体としての内部被曝線量を推計したとしても,セシウム137による値を大きく上回るものとなるとは認め難い。 そして,被爆未指定地域は,初期放射線及び誘導放射線の影響がなかっ たこと,被爆未指定地域に降下した放射性降下物が西山地区に降下したそれよりもかなり少なかったことをも考慮すれば,被爆未指定地域における内部被曝線量は,K らが推計したセシウム137による数値よりも更に少なかった可能性が高いというべきである。 ウ内部被曝における被曝線量の評価このよう とをも考慮すれば,被爆未指定地域における内部被曝線量は,K らが推計したセシウム137による数値よりも更に少なかった可能性が高いというべきである。 ウ内部被曝における被曝線量の評価このように,被爆未指定地域における内部被曝線量は,長期的にみてもかなり微量にとどまる可能性が高い。これに対し,一審原告らは,内部被曝の特殊性からして,線量としては微量であっても,人体に対する危険性は高いと主張するので,その当否を検討する。 一審原告らが拠って立つ見解について証拠(甲A75の1,甲A77,甲A83の2,甲A83の6,甲A109の3,甲A116,甲A121,甲A133,甲A217)によれば,内部被曝については,以下の要因から,外部被曝と異なる特徴があり,一時的な外部被曝よりも身体に大きな影響を与える可能性があるなどと指摘する見解があることが認められる。 すなわち,外部被曝の場合,放射能を有する物体から全方位に照射される放射線のうち,当該人体に向かうもののみが問題となり,有意な被曝をもたらすのは透過性の大きいガンマ線だけであり(甲A83の2-4頁),人体が放射線環境から離れれば継続して被曝することはないのに対し,内部被曝の場合,① 放射性物質が微粒子を形成すると,膨大な数の放射性核種が微粒子内に存在することになるため,微粒子から連続的に放射線が放出され,体内の微粒子の周囲にホットスポット(濃密な被曝領域)が作り出される(ホットパーティクル理論。甲A83の2-5頁,乙A192-2頁),② 体内で放射される全放射線のエネルギーが被曝に直結し,透過性が小さく,飛程の短いアルファ線やベータ線によって密度の高い電離作用が働くことになる(甲A83の2-4 頁),③ 放射性物質が体内に存在し続けることになるため,人体が放射性 に直結し,透過性が小さく,飛程の短いアルファ線やベータ線によって密度の高い電離作用が働くことになる(甲A83の2-4 頁),③ 放射性物質が体内に存在し続けることになるため,人体が放射性物質を体内に取り入れたその場所を離れても被曝が継続する,④このような体内における高密度の電離作用に加え,間接効果として放射線に直接当たらなかった近隣の細胞が影響を受けて染色体異常をきたす近隣効果(バイスタンダー効果)や,放射線が水分子を電離することでイオン化した水分子がDNAの二重鎖を切断する効果があるなどと指摘されている(甲A83の2-14頁・16頁)。 しかし,他方,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,現状においては,内部被曝における線量測定方法は確立していない上(甲A77-79頁,甲A156の1-48頁),外部被曝であろうと内部被曝であろうと,全身や組織,臓器が受ける放射線の量が同じであれば,人体影響に差異はないのであって,内部被曝であるからといって,ことさらに危険性が高まるということはなく,むしろ,内部被曝は,低線量で徐々に被曝する形の連続被曝であるため,急性の被曝の場合に比べて,人体の回復力が働きやすく,影響が少ないとして,内部被曝につき外部被曝より危険性が高いとはいえないとする見解があることが認められる(甲A82,甲A83,乙A30-22頁,乙A41-14頁,乙A359)。また,体内に取り込まれた放射性核種は,人体に備わった代謝機能によりいずれは体外に排出されるものとして,医療の現場等においても放射性物質の人体への投与が行われており(公知の事実),遠距離・入市被爆者に出現する癌に特定の核種が特定の臓器に沈着,集積して当該臓器に影響を与える危険性が現れていると認めるに足りる証拠もない。さらに,証拠(乙A191,乙A192)に (公知の事実),遠距離・入市被爆者に出現する癌に特定の核種が特定の臓器に沈着,集積して当該臓器に影響を与える危険性が現れていると認めるに足りる証拠もない。さらに,証拠(乙A191,乙A192)によれば,上記ホットパーティクル理論は,ICRP等により相当の科学的根拠をもって否定されていることが認められる。 これらのことを総合考慮すれば,内部被曝については一時的な外部被 曝よりも身体に大きな影響を与える可能性があるという見解が科学的知見として確立しているとは認め難いというべきであり,一審原告らが拠って立つ前記見解は,直ちに採用することができない。 細胞に生じる現象について証拠(甲A116-154頁・156頁,甲A175-143頁)によれば,内部被曝の危険性について,前記のバイスタンダー効果のほか,逆線量率効果(同じ被曝線量であれば,長期にわたって被曝した場合の方がリスクは高いこと),ゲノム不安定性(放射線を浴びて生き残った細胞集団の遺伝的変化が分裂した細胞に受け継がれていくこと),ペドカウ効果(「液体の中に置かれた細胞は,高線量放射線による頻回の反復放射よりも,低線量放射線を長時間放射することによって容易に細胞膜を破壊できる」というもの)等を指摘する研究が行われていることが認められる。 しかし,証拠(乙A365の1・2,乙A43の2-414項,乙A362-19頁,乙A363の1・2,乙A364-71~75頁,乙A366-80~81頁,乙A362-20頁,乙A367の1・2,乙A356-2頁)によれば,上記の現象については,いずれも,限定的な状況下で細胞レベルのものとして観察されたにとどまり,人体やヒトの集団を対象としても同様の現象が見られるのか不明である等の指摘がされていることが認められ ば,上記の現象については,いずれも,限定的な状況下で細胞レベルのものとして観察されたにとどまり,人体やヒトの集団を対象としても同様の現象が見られるのか不明である等の指摘がされていることが認められるから,内部被曝の人体やヒトの集団への影響に関する科学的知見として確立したものとはいえない。 遠距離被爆における急性放射線症と内部被曝について のとおり,いわゆる原爆の遠距離被爆者に放射線被曝による急性症状に類する症状が一定割合生じているとの調査結果があることが認められる。 しかしながら,それらの症状は,放射性降下物による外部被曝の影響 とも考えられること,そもそも,放射線以外の原因による症状である部分もあり得ること等を考慮すれば,直ちに内部被曝による健康への影響と認めることはできない。 L ほか「広島フォールアウト地域4重がん症例の肺がん組織で証明された内部被ばく」(甲A188-11~12頁,甲A188の4)についてa 調査内容及び結果広島に投下された原爆の爆心地から4.1㎞の地点で被爆し(よって原爆の初期放射線推定線量は0であり,フォールアウトによる被曝が考えられる。),肺癌,胃癌,大腸癌,染色体異常を伴う骨髄異形成症候群に順次罹患した対象者の肺癌手術の際の切除組織を解析したところ,癌組織内に有意に増加したアルファ線飛跡が確認された。その放射線源は,貪食細胞内に取り込まれた広島原爆ウラン235の可能性が高いことが強く示唆された。原爆被爆時から肺癌発症までの等価線量を求めたところ,肺癌部組織が肺非癌部組織の約10倍高い放射線量となった。 b 検討アルファ線飛跡がウランによるものであるとの確証はなく,また,原爆投下後の核実験によるグローバル・フォールアウトとの関係も明 肺非癌部組織の約10倍高い放射線量となった。 b 検討アルファ線飛跡がウランによるものであるとの確証はなく,また,原爆投下後の核実験によるグローバル・フォールアウトとの関係も明らかではなく,癌が原爆由来の放射線によるものであるとは断定できない。よって,同研究によって内部被曝の危険性が大きいことが証明されたと認めることはできない。 エ小括以上によれば,内部被曝の機序については科学的に未解明な部分もあり,外部被曝と異なる特徴がある可能性は否定できないが,他方で,内部被曝の特殊性,危険性を疑問視する見解の合理性も否定し難く,少なくと も,微小な線量の内部被曝によっても健康への影響が生じると直ちに認めることはできない。 ⑵ A 意見(マックレイニ方式による計算)についてア A 意見の趣旨原判決127頁6行目から128頁2行目までを引用する。 イ認定事実原判決128頁3行目の「後掲」から132頁13行目までを引用する。 ただし,原判決128頁17行目の「地表爆発をした」の後に「(地上500フィートで爆発し,クレーターは形成しなかった。甲A174)」を,130頁17行目の末尾に「。」を,132頁6行目の「「長崎の鐘」には,」の後に「放射能の間接障害の珍しい症例として,」を,10行目の「43頁」の後に「,甲A139の1-42~43頁」をそれぞれ加える。 ウ被爆未指定地域の土壌汚染密度について原判決132頁15行目から135頁初行までを引用する。 ただし,原判決134頁末行の「土壌汚染」の後に「密度」を加える。 エ被爆未指定地域の住民の甲状腺被曝線量ついてA 意見の根拠原判決135頁4行目から137頁24 ただし,原判決134頁末行の「土壌汚染」の後に「密度」を加える。 エ被爆未指定地域の住民の甲状腺被曝線量ついてA 意見の根拠原判決135頁4行目から137頁24行目までを引用する。 ただし,次のとおり補正をする。 原判決135頁8行目の「34」を「32」に改め,136頁19行目の「R/V 比を1とした場合」の後に「。年間積算線量=(セシウム137の土壌汚染密度)×24である。」を,20行目の「R/V 比を2とした場合」の後に「。年間積算線量=(セシウム137の土壌汚染密 度)×38である。」を,21行目の「383mGy」の後に「。ただし,年間積算線量を生涯積算線量の95%とした場合。」をそれぞれ加え,136頁23行目の「甲A135」を「甲A153」に改める。 A 意見についての検討a ヨウ素131の土壌汚染密度の算定とORIGEN コードの使用について⒜ 前記のとおり,マックレイニ報告書及びA 意見においては,長崎原爆由来の放射性降下物中の各放射性核種の割合がORIGEN コードと同じであることを前提に,西山地区におけるヨウ素131の土壌汚染密度を算出している。 しかし,前記(原判決129頁の)のとおり,ORIGEN コードは,原子炉内でプルトニウムが完全に核分裂した場合の放射性核種の割合を示すものであって,プルトニウムの一部しか核分裂反応をしなかった長崎原爆には当てはまらない。また,仮に長崎原爆爆発時の放射性核種の割合がORIGEN コードと同じであったとしても,証拠(乙A229,証人B -65頁)によれば,屋外における核爆発では,核爆発によって生じた火球により,一旦は全ての物質が蒸発(気化)し,その後の数十秒ないし数分 N コードと同じであったとしても,証拠(乙A229,証人B -65頁)によれば,屋外における核爆発では,核爆発によって生じた火球により,一旦は全ての物質が蒸発(気化)し,その後の数十秒ないし数分の間に融点の高いもの(プルトニウム等の難揮発性核種)から凝集し始めるが,融点の低いもの(ヨウ素131やセシウム137等の揮発性核種)はこの凝集過程(フラクショネーション)に加わらない結果,放射性降下物の構成比は,理論的に計算される核分裂生成物の構成比と比べて,難揮発性核種が多くなり,揮発性核種が少なくなるということができ,空中核爆発の場合,揮発性核種である放射性ヨウ素131の割合はORIGEN コードにおける割合よりも低くなるというべきである。そうすると,西山地区におい て計測された線量率を基にORIGEN コードの比率をそのまま当てはめてヨウ素131の土壌汚染密度を算出すると,実際よりも高い推計をすることになる。 なお,上記事情のほか,証拠(甲A139の1-34頁)によれば,マックレイニ報告書においてORIGEN コードが採用されたのは,放射線被曝に関する米軍兵士の安全性を評価するに当たり,慎重を期して,より安全側に配慮したことによるものであることがうかがわれ(証人B -25頁参照),正確な内部被曝線量を計算するためであったとは認め難い。 したがって,A 意見における「長崎原爆由来の放射性降下物中の放射性核種の存在比率がORIGEN コードと同じである」との前提は採用できず,ORIGEN コードを基に長崎原爆における各核種による土壌汚染密度を算出することはできないから,原爆投下1日後のヨウ素131の土壌汚染密度が15,000KBq/㎡であったとのA 意見も採用することができない。 もっとも,前記(原判決134頁の) る土壌汚染密度を算出することはできないから,原爆投下1日後のヨウ素131の土壌汚染密度が15,000KBq/㎡であったとのA 意見も採用することができない。 もっとも,前記(原判決134頁の)のとおり,長崎原爆由来の放射性降下物が降下した地域では放射能による土壌汚染が生じていたこと,証拠(甲A130の1-40頁)によれば, Mらが平成元年に超音波検査装置を用いて検査をした結果,対照群よりも西山地区における甲状腺結節(悪性のものは甲状腺癌である。)の割合が高かったことが認められることからすると,放射能による土壌汚染密度の程度に応じたヨウ素131による土壌汚染があったこと自体は否定できないが,本件証拠上,長崎原爆由来の放射性降下物中の各放射性核種の割合を測定した調査・研究等は見当たらないから,結局,ヨウ素131の土壌汚染密度の具体的な数値を推計することはできない。 ⒝ これに対し,A 意見は,前記のとおり,DS86の式に基づいて推計される西山地区の外部被曝線量と,核実験Diablo のデータ,ORIGEN コード及びCcの式を用いて推計される西山地区の外部被曝線量とがほぼ一致することから,核実験Diablo のデータ及びORIGEN コードを基にヨウ素131の土壌汚染密度を推計することは合理的であるとする。 しかし,A 意見における上記推計は,西山地区におけるR/V 値(難揮発性核種と揮発性核種の量の比の実測値と理論値の比)が1.0ないし2.0であることを前提とするところ(1.0は,フラクショネーションがなく,原爆により発生した環境中のセシウム137の量が理論値と一致する場合であり,2.0は,フラクショネーションが存在し,原爆により発生した環境中のセシウム137の量が理論値の半分である場合を意味す く,原爆により発生した環境中のセシウム137の量が理論値と一致する場合であり,2.0は,フラクショネーションが存在し,原爆により発生した環境中のセシウム137の量が理論値の半分である場合を意味する。),証拠(甲A153-20頁)及び弁論の全趣旨によれば,西山地区におけるR/V 値に関する報告には,上記範囲に収まらないものがあることが認められるから,上記前提が正しいものとすることはできない。 また,A 意見(甲A153-21~22頁,甲A200-5~6頁)は,マックレイニが昭和45年に採取された西山地区の深さ30㎝の土壌サンプルを分析して得たセシウム137の平均濃度とバックグラウンドの土壌サンプルのセシウム137の平均濃度の差から半減期を考慮して逆算した昭和20年のセシウム137の濃度(0.53μCi/㎡)と,核実験Diablo のデータ及びORIGENコードを用いて算出した濃度(0.37μCi/㎡)とが「よく合致する」として,長崎原爆ではフラクショネーションの影響はなく,ORIGEN コードの使用に問題はないとするが,両者の濃度が近似していると評価できるか自体に疑問があり,上記A 意見は採用でき ない。 なお,一審原告らは,被爆当時の本件各申請者の居住地に降下した放射性降下物の主要部分は,爆発後1時間以内に地表に降下したものであるから,その粒子径及び質量は比較的大きく,長崎原爆により巻き上げられた土砂等(甲A162,甲A163)の粗大粒子に放射性物質が付着したものであったと推測され,この場合には,フラクショネーションの影響は受けない(乙A312-26頁),フラクショネーションの影響を受けるような放射性降下物は,風速3m/秒の風に乗って,はるか東方へ流され,本件各申請者の居住地に降下することはなかったとも主張する 響は受けない(乙A312-26頁),フラクショネーションの影響を受けるような放射性降下物は,風速3m/秒の風に乗って,はるか東方へ流され,本件各申請者の居住地に降下することはなかったとも主張する。 しかしながら,前記のとおり,被爆未指定地域に降下した放射性降下物の主要部分が爆発後1時間以内に地表に降下したと認めるに足りないし,同降下物の粒子径や質量が比較的大きかったとしても,空中核爆発であった長崎原爆の放射性降下物がフラクショネーションの影響を受けなかったと断ずることはできない。 以上のとおり,A 意見の根拠のうちヨウ素131の土壌汚染密度の算定とORIGEN コードの使用に関する部分(原判決135頁のa)は採用できない。 b 被爆未指定地域の住民の甲状腺被曝線量について被爆未指定地域の住民の甲状腺被曝線量についてのA 意見の根拠(原判決135頁の)は,西山地区における原爆投下1日後のヨウ素131の土壌汚染密度が15,000KBq/㎡であることを前提にするところ,その前提を採用することができないのは前記aのとおりである。 また,A 意見は,ヨウ素131の土壌汚染密度とその土壌に植生する植物の汚染密度は同等であり,土壌汚染密度はヨウ素131 の半減期に従って低下すること,福島第一原子力発電所事故後の福島県飯舘村深谷地区における植物(雑草)の汚染濃度が西山地区の作物の汚染濃度と同じであることを前提に,西山地区の作物の放射線汚染濃度を推計しているが(甲A130,甲A139),A 意見(甲A130を訂正した甲A148)によると,福島第一原子力発電所の事故後の福島県飯舘村深谷の雑草のヨウ素131の濃度は,ヨウ素131の半減期に従って低下することなく,不規則に変化しており,A によるその測定結果には,同事故においてはヨウ ,福島第一原子力発電所の事故後の福島県飯舘村深谷の雑草のヨウ素131の濃度は,ヨウ素131の半減期に従って低下することなく,不規則に変化しており,A によるその測定結果には,同事故においてはヨウ素131の放出が少なくとも1か月間は断続的に続いていたこと(乙A276-7頁図3)が影響している可能性がある。 さらに,証拠(乙A312-26頁)及び弁論の全趣旨によれば,野菜は通常付着した土などを落とし,皮を除いて摂取するものもあること,半減期の短いヨウ素131が根から吸収される可能性はほとんどなく,根菜類の可食部分にヨウ素131による汚染が沈着しにくいと認められることからすると,原爆投下後被爆未指定地域の住民が摂取していた野菜,果実と福島第一原子力発電所の事故後の福島県飯舘村深谷地区に生育していた雑草とを,その種類,形状及び性質等の差異を考慮せずに同一に見て,両者を同じ量摂取した場合に同じ量の放射性物質を摂取したことになることを前提にしてヨウ素131による被曝線量を推計するのは著しく合理性を欠き,過大に評価することになるというべきである(一審原告らは,野菜以外の食べ物や水に含まれるヨウ素131を考慮すべきであるとも主張するが,具体的にどの程度考慮すべきであるとするのか不明である。)。 なお,西山地区においては,甲状腺結節の割合は高かったものの,甲状腺癌の発症が増加ないし頻発したとの調査・報告は見当たら ず(証人A(反訳書)-21頁,証人B -33頁),少なくとも西山地区で発症した甲状腺障害の内容から積極的にチェルノブイリ事故水準の甲状腺被曝があったことを根拠づけることはできない。 以上によれば,前記のA 意見における甲状腺被曝線量の推計は過大である可能性が高く,採用できない。 オ西山地区の住民の体内から放射性セシ 水準の甲状腺被曝があったことを根拠づけることはできない。 以上によれば,前記のA 意見における甲状腺被曝線量の推計は過大である可能性が高く,採用できない。 オ西山地区の住民の体内から放射性セシウムが計測されたこと(原判決127頁のア③)について前記のK の研究のとおり,昭和44年の調査の時点で,西山地区の住民の体内から他の地域の住民よりも高い放射性セシウムが検出されたこと,西山地区の土壌及び農作物から他の地域よりも高い放射性セシウムが検出されたことからすると,原爆投下により,西山地区の土壌が放射性セシウムを含む放射性物質により汚染され,西山地区の住民がそこで育った作物を摂取するなどして放射性セシウムを体内に摂取し,それによって内部被曝を受けたものと推認できる。 しかし,証拠(乙A228の1-26頁)によれば,平均的な日本人の自然起源の放射性カリウムによる内部被曝の年間積算線量が0.18mGy であることが認められ,これと比べても,前記のとおり,K の研究で推計された西山地区における昭和20年からの40年間の放射性セシウムによる内部被曝の年間積算線量(男性では0.1mGy,女性では0. 08mGy)の値は小さく,放射性セシウムによる内部被曝が直ちに西山地区の住民の健康に有意な影響を与える程度のものであったと認めることはできない。 したがって,K の研究を根拠に,西山地区よりも放射性降下物の降下量が少なかった被爆未指定地域において,住民がそこで育った放射性セシウムを含む作物を摂取することで,健康に有意な影響を与える程度の内部被曝をしたと認めることはできない。 なお,放射性セシウム以外の核種を考慮したとしても,内部被曝線量に大きな差異が生じるとは認められないのは前記イ記載のとおりである。 カベータ線による被曝(原 と認めることはできない。 なお,放射性セシウム以外の核種を考慮したとしても,内部被曝線量に大きな差異が生じるとは認められないのは前記イ記載のとおりである。 カベータ線による被曝(原判決127頁のについて A 意見は,マンハッタン調査団の調査の結果,西山地区及び東長崎地区でベータ線が計測されたこと,Bb らの調査の結果,西山地区の民家の樋の土から高い放射能が検出され,そのベータ線の比率が高かったこと,西山地区の残留放射能の発見のきっかけとなった木の葉の泥の付着した部分が変色していた(原判決132頁のb)のは,ベータ線火傷と同じ機序によるものと考えられること,永井隆の著作「長崎の鐘」に記載されている川平地区の農民に生じた「かゆい紅色の丘疹」(原判決132頁のa)はベータ線被曝によるものと考えられることに照らせば,被爆未指定地域の住民がベータ線核種を体内に取り込んでベータ線による内部被曝をしたり,ベータ線核種が皮膚に付着して外部被曝をしたりしたということができるとする(甲A130の1-42~44頁)。 証拠(乙A228の1-27頁)によれば,チェルノブイリ原発事故で消火活動に携わった作業員に生じたベータ線熱傷では,被曝1,2日後に一過性の日焼け様の発赤が出現して自然に消えた後,被曝8日後から21日後に本格的な熱傷が発症したこと,放射線熱傷は痛みを伴い,重症の場合には水疱形成やびらんを発症し,重症では難治性の深い潰瘍を形成することが認められるところ,前記川平地区の農民に生じた症状は上記のような重度のものとは異なること(A 意見(甲A139の1-42~43頁)は,原爆の皮膚病変を知悉していた永井博士が,黒い雨を浴びて枯れた萱を担いで帰った農民が接触部位に同じような丘疹を起こした点に着目して,放射能の間接障害 と(A 意見(甲A139の1-42~43頁)は,原爆の皮膚病変を知悉していた永井博士が,黒い雨を浴びて枯れた萱を担いで帰った農民が接触部位に同じような丘疹を起こした点に着目して,放射能の間接障害と診断したとの推測を述べるが,証拠上上記診断の根拠は明らかではなく,採用できない。),本件 証拠上,数㏜のベータ線被曝によって木の葉に変色が生じるという科学的知見は見当たらないこと(乙A228の1-27頁)からすると,上記の事情から被爆未指定地域の住民にベータ線被曝が生じたと推認することはできない。 もっとも,Bb らの調査によれば,長崎原爆によって発生した放射性降下物にはベータ線を発する放射性核種(ベータ線核種)が含まれていたこと(原判決131頁の米国海軍医学研究所(NMRI)の調査やBb らの調査の結果,西山地区において,周囲よりも高い数値のベータ線が計測されたこと(原判決84頁の比較的多量のベータ線核種が降下した場所)の住民が,原爆投下後,呼吸や飲食を通じて,体内にベータ線核種を含む放射性降下物を体内に取り込み,その核種から放出されたベータ線によって内部被曝をした可能性及びベータ線核種を含んだ土などが直接皮膚に付着して外部被曝した可能性は否定できない。 そして,A 意見(甲A130-44頁,甲A139-44頁,甲A200-10頁)は, N らの論文(甲A176,乙A338。マックレイニ報告書における西山地区のセシウム137の放射線量の測定値を基に,同地区におけるベータ線の線量が脱毛の急性症状が発生し得る程度に高い値であるとするもの)を根拠に,被爆未指定地域の住民がベータ線核種による外部被曝をしたとする。 しかし,証拠(甲A176,乙A338,証人B -34頁)によれば,A 意見が引用する N らの論文は,① あるとするもの)を根拠に,被爆未指定地域の住民がベータ線核種による外部被曝をしたとする。 しかし,証拠(甲A176,乙A338,証人B -34頁)によれば,A 意見が引用する N らの論文は,① 核爆発後30分までに全ての放射性降下物が地表面に達したこと,② 住民が24時間屋外にいて皮膚を大気にさらしていたこと,③ 皮膚に付着した泥(ベータ線を発するもの)は洗い流されることなく1か月程度皮膚に付着していたことを前提に皮膚の被曝線量を推計するものであることが認められると ころ,上記①ないし③の仮定が事実であることを認めるに足りる証拠はない。したがって, N らの論文に依拠して推計された西山地区の皮膚の被曝線量は過大である可能性があり,実際,西山地区の住民に脱毛が多数生じたことをうかがわせる証拠はない。 以上によれば, N らの論文を根拠にする上記A 意見は採用できない。 一審原告らの当審における主張①(ヒックス方式による計算)についてア A 意見の概要(甲A184,甲A190,甲A207,甲A211) ヒックスの計算値についてA 意見が前提とするヒックスの計算値は,ネバダ砂漠(核実験Diablo 及び核実験Shasta。原判決128頁のb,c)及び太平洋での核実験の実測データ等を基に,爆発12時間後の線量率が1mR/h の場合の地表面における放射線核種の組成及び土壌汚染濃度(単位・μCi/㎡)を経時的に計算したものである。 ヒックスの計算値は,① フラクショネーションがない場合(すなわち,難融性分画が1.0),② フラクショネーションがあり,難融性分画が0.5の場合,③ フラクショネーションがあり,難融性分画が0.1の場合の3種類の条件で計算された。 被爆未指定地域の住民 性分画が1.0),② フラクショネーションがあり,難融性分画が0.5の場合,③ フラクショネーションがあり,難融性分画が0.1の場合の3種類の条件で計算された。 被爆未指定地域の住民の甲状腺被曝線量の推定方法についてヒックスの計算値を用いて被爆未指定地域のb区域のヨウ素131の土壌汚染密度を求める(手順),原爆投下時にb区域の住民が食べていたものと同種の野菜,果物等をサンプルとして栽培し,野菜等の上空に向いた部分の表面積,野菜等の重量,土壌汚染密度から,その野菜等の単位重量当たりのヨウ素131の濃度を求める(手順),上記の野菜等をb区域の住民が昭和20年8月9日から9月2日(長崎に大雨が降った同月3日の前日)までの間毎日一定重量を摂取し たとした場合の甲状腺被曝線量を計算する(手順),b区域と他の区域との線量率の比(エリアb比)から,他の区域の住民の甲状腺被曝線量を推定する(手順)。 a 手順について被爆未指定地域のR/V 値として0.1~0.8を用いることを前提にして,ヒックスの計算値の中から難融性分画が0.5の値を用いる(【別紙9】)。 マンハッタン調査団が昭和20年10月4日に測定したb区域の線量率の平均値0.15mR/h をDS86の式に当てはめると,爆発1時間後の値は850mR/h であり,12時間後には43mR/h となる。 ヒックスの計算値は,爆発12時間後の線量率が1mR/h の場合の放射線核種の組成及び土壌汚染密度を経時的に計算したものであるところ,土壌汚染密度は線量率に比例するので,ヒックスの計算値に43を乗じると,b区域の1㎡当たりの土壌汚染密度が求められる。 被爆未指定地域の住民が長崎原爆投下後最初に摂取する食事を昭和20年8月9日 ,土壌汚染密度は線量率に比例するので,ヒックスの計算値に43を乗じると,b区域の1㎡当たりの土壌汚染密度が求められる。 被爆未指定地域の住民が長崎原爆投下後最初に摂取する食事を昭和20年8月9日の夕食と想定し,b区域の長崎原爆爆発6時間後の土壌汚染密度を求めると,ヨウ素131の土壌汚染密度0.76μCi/㎡(【別紙9】)に43を乗じた32.7μCi/㎡(37,000を乗じてBq/㎡に換算すると1210KBq/㎡となる。)。 b 手順②について上記の土壌汚染密度に基づき,ヨウ素131が上空からサンプル野菜等に沈着し,そのままそこに留まったと仮定して,サンプル野菜等の上空に向いた部分の表面積と重量から,サンプル野菜等の単位重量当たりのヨウ素131濃度を計算する。b区域のサンプル野菜等の上空に向いた部分の表面積,重量,ヨウ素131濃度との間には,【サンプル野菜等のヨウ素131濃度〔Bq/kg〕=1,210,000× (サンプル野菜等の表面積〔㎠〕÷サンプル野菜等の重量〔g〕)】という関係が成り立つ(各野菜,野草,果実サンプルの仮想ヨウ素131濃度の計算結果は,【別紙10】のとおり。)。 c 手順③について平成20年8月当時,被爆未指定地域の住民が摂取していた葉菜と野草(野菜の中でもこれらに限って計算する。)の量を1日100g(本件各申請者が当時子どもであったことを考慮して1日50g)と見積もり,b区域の住民が平成20年8月9日から9月2日(長崎に大雨が降った日の前日)まで毎日50gの汚染された葉菜と野草(以下「汚染葉菜」という。)を食べたとして,甲状腺被曝線量を計算する。 汚染葉菜のヨウ素131濃度は,ヨウ素131の土壌汚染密度が1,210KBq/㎡のときに500KBq/㎏であった。したがって,土壌汚染 葉菜」という。)を食べたとして,甲状腺被曝線量を計算する。 汚染葉菜のヨウ素131濃度は,ヨウ素131の土壌汚染密度が1,210KBq/㎡のときに500KBq/㎏であった。したがって,土壌汚染密度がヒックスの計算値に従って減衰していった場合には,ヨウ素131濃度(m㏜)=土壌汚染密度(KBq/㎡)×500KBq/㎏÷1,210KBq/㎡で計算され(計算結果は,【別紙11】のとおり。),b区域につき573m㏜(573mGy)である(減衰率-1.2のべき乗の場合。減衰率が-1.5のべき乗の場合は573m㏜×2.54=1455m㏜(1455mGy)となる。)。 なお,推計結果に洗浄の影響は加味しない。 d 手順④について本件各申請者についての計算結果は【別紙5】の「甲状腺内部被曝線量」欄記載のとおり。 イ検討A 意見書(甲A207,甲A211-40~41頁)は,ヒックスの計算値が地上爆発であるネバダ砂漠での核実験の実測データ等を基 にしたものであることに関し,長崎原爆は,高度503mで爆発した高空中爆発であるものの,爆発後の被爆未指定地域に降下した放射性降下物は,放射性微粒子が土砂等の粗大な粒子に付着したものであるから,物理特性,放射化学特性がネバダ砂漠の地上爆発の原爆の放射性降下物のそれに近く,また,広範囲のローカル・フォールアウトが見られた点で,長崎原爆には,低空中爆発の原爆である核実験Diablo(爆発高度152m。原判決128頁のb),核実験Shasta(同152m。同c),核実験Smoky(同213m)と共通する点があるとする。 しかし,上記A 意見によれば,上記低空中爆発の原爆の核実験では,ローカル・フォールアウトの及んだ範囲(規模)が長崎原爆をはるかに上回っており 験Smoky(同213m)と共通する点があるとする。 しかし,上記A 意見によれば,上記低空中爆発の原爆の核実験では,ローカル・フォールアウトの及んだ範囲(規模)が長崎原爆をはるかに上回っており,これは,長崎原爆が基本的には空中爆発の原爆としての特性を備えていたことの証左であるといえる。 したがって,長崎原爆についてヒックスの計算値を当てはめて土壌汚染密度を計算すると,相当大きな誤差を生じる可能性があるというべきであり,この一点のみからしても,A のヒックス方式の推定値の意味がどれほどあるのか疑問である。 以上の外,A 意見が前提とするように野菜の葉の全体に放射性降下物が付着すると認めるに足りないこと,A 意見によっても,野菜を洗うことにより最大38%程度の除染効果が見られること(甲A184―16頁)などを併せ考慮すれば,ヒックスの計算値を用いたA 意見書の計算には合理性があるとはいえず,これに基づいて被爆未指定地域の住民の甲状腺被曝線量を認定することはできず,その実際の値は不明といわざるを得ない。 一審原告らの当審における主張②(放射性マンガン56粉末を用いたラットの内部被曝実験)について(甲A208ないし210,甲A211-43頁以下) 一審原告らは,放射性マンガン56粉末を用いたラットの内部被曝実験によって,ホットパーティクルによる腸管被曝が遅延性の組織変化を起こすこと,同線量の被曝であっても外部被曝であれば生じない健康被害が内部被曝では生じ得ること,外部被曝により健康被害が生じた場合には同線量の内部被曝により生じた健康被害は,外部被曝の場合より程度が大きいことといった内部被曝に特徴的な影響が示唆されたと主張する。 しかし,前掲各証拠によれば,上記実験結果は,調査 が生じた場合には同線量の内部被曝により生じた健康被害は,外部被曝の場合より程度が大きいことといった内部被曝に特徴的な影響が示唆されたと主張する。 しかし,前掲各証拠によれば,上記実験結果は,調査対象のラットの数が少ないこと,被曝線量が低いはずのラットの方により多くの有糸分裂細胞が見られること,肺気腫の発現内容,対照群(放射線への曝露のない群)にも出血や炎症等の所見があることなどからすれば,ラットの個体差や環境条件の差異等の結果である可能性もあるから,一審原告らの主張は実験結果の一解釈であるにとどまるというべきであるし,上記実験結果から,何らかの内部被曝の特徴ある影響が確認されたとしても,それが人体やヒトの集団にも妥当するとは即断できない。 したがって,上記実験結果から被爆未指定地域の住民に内部被曝による健康被害が生じた可能性があると認めることはできない。 小括以上のとおり,長崎原爆爆発時に被爆未指定地域に在った住民は,同地域に降下した放射性降下物に由来する放射性物質を呼吸,飲食等で摂取し,それによって内部被曝(甲状腺内部被曝を含む。)をした可能性は否定できないものの,具体的な内部被曝の程度(線量)は明らかでなく,被爆未指定地域の住民に健康被害を生ずる可能性のあるほどの内部被曝があったとの前記A 意見は採用できない。 4 遠距離被爆と急性症状の発症認定事実後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,遠距離被爆に関する調査結果とし て,以下の事実が認められる。 ア原子爆弾災害調査報告集(甲A197,乙A302)東京帝国大学医学部診療班は,昭和20年10月から同年11月にかけて広島原爆の被爆者(爆心地から5㎞圏内で被爆した生存罹災者5120名(うち3㎞以内の被爆者は4406名))を調査した。 そ 東京帝国大学医学部診療班は,昭和20年10月から同年11月にかけて広島原爆の被爆者(爆心地から5㎞圏内で被爆した生存罹災者5120名(うち3㎞以内の被爆者は4406名))を調査した。 その結果,909名に「原子爆弾放射能傷」(脱毛,皮膚溢血斑及び壊疽性ないし出血性口内炎症のうち一つ以上の症状を具備したもの)が見られ,発生頻度は,爆心地からの距離が,0~0.5㎞で81.48%,0.6~1.0㎞で76.66%,1.1~1.5㎞で34.21%,1.6~2.0㎞で14.04%,2.1~2.5㎞で9.34%,2. 6~3.0㎞で3.58%であり,中心地区で頻度が最も高く,1~2㎞の間で急激に減少し,2㎞以遠では緩徐な曲線を描き,2.8㎞で終わる正規曲線に近い曲線を描いているとされた(甲A197-598頁。なお,脱毛は,909例中,707例であり,0~0.5㎞で77.7%,0.6~1.0㎞で70.3%,1.1~1.5㎞で27.1%,1.6~2.0㎞で9.0%,2.1~2.5㎞で6.4%,2.6~3.0㎞で1.7%であった。皮膚溢血斑は,909例中,345例であり,0~0.5㎞で33.3%,0.6~1.0㎞で33.6%,1.1~1.5㎞で13.9%,1.6~2.0㎞で4.6%,2.1~2.5㎞で2. 2%,2.6~3.0㎞で1.5%であった。甲A197-554頁)。 これ以外の4211名についても,各種症状(口内炎症,下痢,発熱,悪心嘔吐,食思不振,倦怠感)の発現が見られた。そして,全症例につき上記各種症状の距離別発現頻度を検討したところ,これらの症状は,被爆地点が爆心地から3.1㎞ないし5.0㎞の患者にも見られた。このうち下痢の発症頻度は,3.1~3.5㎞で18.2%,3.6~4.0㎞で24.0%,4.1~4.5㎞で27.7%,4.6~ 症状は,被爆地点が爆心地から3.1㎞ないし5.0㎞の患者にも見られた。このうち下痢の発症頻度は,3.1~3.5㎞で18.2%,3.6~4.0㎞で24.0%,4.1~4.5㎞で27.7%,4.6~5.0㎞で25. 1%であった(甲A197-575頁第39表)。 上記調査の報告書では,口内炎症及び悪心嘔吐の距離別発現頻度は,脱毛及び皮膚溢血斑のそれと相似の曲線を描いており,両症状は大体において放射線によるものであることをうかがわせるのに対し,発熱・下痢・食欲不振・倦怠感は,発現頻度が被爆距離に比例せずに不規則であり,1. 5㎞以遠の発現頻度が口内炎症及び悪心嘔吐に比べて高いことから,放射線に基づかない他疾患の混在を思わせる,とされている。ただし,これらの症状の初発時期と距離には,発熱,口内炎症及び下痢は被爆当日に4㎞まで,食思不振,悪心嘔吐及び倦怠感は被爆当日に5㎞までの範囲にかなりの発現を見ており,その発現が何らかの意味で原爆の爆発に関係があることを明示している,とされている(甲A197-599頁)。 なお,同報告書では,第1次調査は,広島市及びその周辺の特定の地点において付近住民の来訪を求めて行なわれたものが多く,被曝後何らかの障害を自覚した者が余計に集まった傾向があったとされている(522頁)。また,調査者の中には,「脱毛の出現範囲,部位,方向性等に関して,従来の放射線生物学的な考え方と多少矛盾し,理解に苦しむ点がある。」と述べる者もいた(乙A53-16頁)。 イマンハッタン調査団の最終報告書(甲A132)マンハッタン調査団は,新興善救護所(69名),諌早海軍病院(52名),大村海軍病院(289名)に収容された入院患者に対する医学的調査を実施し,その結果を,最重度群の患者(死亡率100%の患者),中等度群の患者 査団は,新興善救護所(69名),諌早海軍病院(52名),大村海軍病院(289名)に収容された入院患者に対する医学的調査を実施し,その結果を,最重度群の患者(死亡率100%の患者),中等度群の患者(死亡率50%の患者)及び軽症度群の患者(軽症の患者)に分けてまとめた。それによると,軽症度群の患者についても,脱毛・下痢の症状が見られた(脱毛につき投下後20日,下痢につき同24日)。また,爆心地から2㎞以遠で脱毛及び出血症状が20症例見られた(2㎞で5症例,3㎞で10症例,4㎞で3症例,4.1㎞ 及びそれを超える距離で2症例。ただし,発現した最長距離は不明である。また,脱毛等の距離別の発現頻度はこの報告からは明らかではない(原判決別紙22。甲A130の1-53頁,甲A139の1-67頁)。)。 マンハッタン調査団は,広島・長崎の入院中の被爆者のうち900名を調査した(甲A194-3頁)。脱毛の発症者は,広島では,女性が爆心地から2.75㎞以遠で0名,男性が2.25~3.75㎞で0名,3.75~4.25㎞で1名であった。長崎では,女性が2.75~3.25㎞で0名,3.25~3.75㎞で1名,男性が1.75~2.75㎞で0名,2.75~3.25㎞で2名,3.25㎞以遠は0名であった。(甲A194-45頁Figure6)点状出血の発症者は,広島では,女性が2.75~3.25㎞で1名,3.25㎞以遠で0名,男性が2.75~3.25㎞で1名,3. 25㎞以遠で0名であった。長崎では,女性が2.75㎞以遠で0名,男性が2.75~3.25㎞で2名,3.25㎞以遠で0名であった。 (甲A194-46頁Figure7)ウ O の調査(甲A41の9)上記調査(以下「O 調査」という。)は,昭和32年1月から同年7月までの間にお で2名,3.25㎞以遠で0名であった。 (甲A194-46頁Figure7)ウ O の調査(甲A41の9)上記調査(以下「O 調査」という。)は,昭和32年1月から同年7月までの間において,広島市内の一定地区(爆心地から2ないし7㎞の範囲内)に住む被爆生存者3946名につき,その被爆条件,急性原爆症の有無及び程度,被爆後3か月間の行動等を各個人ごとに調査し,爆心地に残留した放射能による人体の障害の程度,期間等を統計的に算出したものである。 O 調査は,調査対象者を,原爆投下から3か月以内に中心地(爆心地から1㎞以内)に出入りしたかどうかに従って二分し,出入りの有無が急性原爆症の発生頻度や症状の軽重を左右したかについて統計的 に観察を行った。さらに,上記調査では,「広島市に原爆が投下された昭和20年8月6日午前8時15分当時に広島市内にいた者」でない者のうち,原爆投下から3か月以内に広島市に入った者(629名)についても,原爆投下から3か月以内に中心地に出入りしたかどうかに従って二分し,入市直後に急性原爆症同様の症状が発現したかを調べた。なお,上記調査の結果によれば,広島市に「原爆直後入市し,中心地に入らなかった非被爆者」(調査人数104名)の下痢,皮粘膜出血,脱毛等の症状の発現数は,いずれも0名とされている(原判決別紙23の表1ないし表6)。 エ P らの調査(甲A196の1・2,乙A304,乙A305)長崎医科大学の P らは,昭和20年10月から同年12月までの間,原爆投下当時長崎にいた者に対し,投下後の出血・脱毛等の症状の有無等について調査(以下「 P らの調査」という。)をした。 P らの調査によれば,脱毛の発症頻度は,爆心地から1㎞の地点にいた生存者では31.1%,1~1.5㎞の地点に 出血・脱毛等の症状の有無等について調査(以下「 P らの調査」という。)をした。 P らの調査によれば,脱毛の発症頻度は,爆心地から1㎞の地点にいた生存者では31.1%,1~1.5㎞の地点にいた生存者では25.8%,1.5~2㎞の地点にいた生存者では8.9%,2~3㎞の地点にいた生存者では3.2%,3~4㎞の地点にいた生存者では1. 8%)であった。なお,4㎞外の地点(詳細な距離は不明)にいた生存者では0.9%であった(87頁第65表)。Pは,別の文献(乙A305-86頁)において,当時の調査結果に急性症状による脱毛ではない単なる自然脱毛が含まれていた可能性を指摘している。 下痢の発症頻度は,爆心地から0~1㎞の地点にいた生存者では38.8%,1~1.5㎞の地点にいた生存者では42.8%,1.5~2㎞の地点にいた生存者では33.8%,2~3㎞の地点にいた生存者では30.1%,3~4㎞の地点にいた生存者では24.0%,4㎞外の地点にいた生存者では13.2%であった(60頁第23表)。この 点につき,Pは,「近距離ハ頻度高ク遠距離トナルニ従ヒ低下スル。但4㎞外ト雖モ全ク零トナラナイノハ,普通ノ健康人デモ夏季中ニ一回位下痢スルコトガアルノニ起因スルモノト思ハレル」(乙A305資料2-69頁)として,放射線以外の原因による下痢が含まれていた可能性を指摘している。 出血の発症頻度は,爆心地から0~1㎞の地点にいた生存者では31.4%,1~1.5㎞の地点にいた生存者では28.8%,1.5~2㎞の地点にいた生存者では10.8%,2~3㎞の地点にいた生存者では7.5%,3~4㎞の地点にいた生存者では4.3%,4㎞外の地点にいた生存者では3.1%であった(80頁第48表)。 オ放影研の調査(甲A42の8,調査嘱託の結果) ㎞の地点にいた生存者では7.5%,3~4㎞の地点にいた生存者では4.3%,4㎞外の地点にいた生存者では3.1%であった(80頁第48表)。 オ放影研の調査(甲A42の8,調査嘱託の結果)原爆傷害調査委員会(ABCC)及び放影研は,寿命調査の対象者である被爆者(原爆投下時に爆心地から10㎞以内にいた者)8万6632名を対象に,昭和22年以降の約10年間に急性症状に関する調査を実施した。 脱毛と爆心地からの距離との関係について,爆心地から2㎞以内での脱毛の頻度は,爆心地に近いほど高く,爆心地からの距離と共に急速に減少し,2㎞から3㎞にかけて緩やかに減少し(3%前後),3㎞以遠でも少しは症状が認められるが(約1%),ほとんど距離とは独立である,このパターンから,遠距離における脱毛が放射線以外の要因を反映しているかもしれないことが示唆された,とされた。脱毛の程度も遠距離被爆ではほとんど全てが軽度であった。 調査対象者のうち被爆地点が爆心地から7㎞以遠であった者合計1995名に対する出血,脱毛(原爆投下後60日以内に起こったと報告された脱毛のみを陽性としている。),口腔咽頭病変,熱傷,火傷の症状の有無に関する調査結果は,原判決別紙24のとおりであり,上記1995名の うち,出血,脱毛,口腔咽頭病変,熱傷,火傷の各症状があったとされた者がそれぞれ3名,1名,7名,1名,0名で,上記各症状について症状の有無が疑わしいとされた者がそれぞれ0名,7名,1名,2名,2名であり,それ以外の者は症状がないか情報が得られない者(出血,脱毛及び口頭咽頭病変につき56名,熱傷及び火傷につき69名)であった。 なお,上記調査において,上記の各症状が放射線の影響によるものかどうかは,確認されなかった。 カ Q -Jones の報告(乙A 口頭咽頭病変につき56名,熱傷及び火傷につき69名)であった。 なお,上記調査において,上記の各症状が放射線の影響によるものかどうかは,確認されなかった。 カ Q -Jones の報告(乙A337)原爆傷害調査委員会(ABCC)の Q 及びオークリッジ国立研究所のT. D. Jones は,広島の爆心地から1600mないし2000mの地点で被爆した者(コホート群。「黒い雨」を浴びた者を含む。)と対照群(爆心地の南東部の,爆心地から2000m以遠で被爆した者)について,急性症状(発熱,下痢,脱毛)の発症率を調査した結果,コホート群における脱毛の発症率の方が対照群における発症率よりも高い結果となった(コホート研究は,疫学研究の方法の1つで,特定の要因に暴露した集団と暴露していない集団を一定期間追跡調査し,研究対象となる疫病の発生率を比較することで要因と疫病発生の関連を調べるもの。甲A130の1-52~53頁,甲A139の1-51~54頁,乙A337,証人A(反訳書)-45頁)。 キ R らの調査平成10年の調査(乙A300)長崎大学の R らは,被爆者(被爆者健康手帳の保持者)のうち,被爆地点の爆心地からの距離(被爆距離)が3.5㎞以内の者3000名を対象に,急性症状(嘔吐,下痢,発熱,脱毛,皮下出血等)の発症頻度と被爆距離との関連を調べた。 上記調査の結果,被爆距離が遠くなるにつれて,急性症状が出る割 合が減った。脱毛に関する調査結果は原判決別紙25のとおりであり,その発症率は概ね被曝距離が延びるのに応じて減少する傾向を示し,被爆距離が2.5~2.9㎞では被爆者の3.65%(889名中32名)が発症し,3.0~3.4㎞の被爆者にも発症した者がいた(1名)。また,脱毛の発症時期は,昭和 びるのに応じて減少する傾向を示し,被爆距離が2.5~2.9㎞では被爆者の3.65%(889名中32名)が発症し,3.0~3.4㎞の被爆者にも発症した者がいた(1名)。また,脱毛の発症時期は,昭和20年8月に発症した者が約60%で,時間の経過と共に発症率が下がったが,同年11月に発症した者もいた。 なお,上記調査の報告書には,上記調査による急性症状には,放射線以外の要因によるもの(たとえば,感染症による下痢や発熱)が含まれているかもしれないこと,脱毛の症例は2㎞以遠でも観察されたが,放射線を要因とするものかを判断するには更に詳細な調査が必要であることが記載されている。 平成12年の調査(乙A301)R らは,被爆距離が4㎞未満の被爆者1万2905名に対し,急性症状の有無について,遮蔽状況を考慮して調査をした。 その結果,脱毛について,被爆距離が1.0㎞以上では,被爆距離が伸びるほど発症率が低下し,3㎞超での脱毛は1000名弱(図1)のうち14症例で,うち12症例は軽度であった(図4)。 なお,上記調査の報告書には,2㎞以遠においても遮蔽の有無による脱毛の頻度の顕著な差が確認されたこと及び脱毛の程度と被爆距離に相関関係が見られたことから,2㎞以遠の脱毛が放射線を原因とすることが考えられるが,放射線との因果関係を調査するには,染色体分析調査等の個人レベルで放射線を受けたことを確認する調査を行う必要があると記載されている。 ク日米合同調査報告書(甲A195,乙A303) 脱毛及び紫斑又は脱毛若しくは紫斑の発症について 長崎原爆に係る調査結果(Table68N。甲A195-236頁)において,爆心地から4.1~5㎞の範囲内で,日本家屋の屋内で被曝した者の群(157名)で1名(0 紫斑の発症について 長崎原爆に係る調査結果(Table68N。甲A195-236頁)において,爆心地から4.1~5㎞の範囲内で,日本家屋の屋内で被曝した者の群(157名)で1名(0.6%)について見られたのみであり,他の群(屋外群,重量建築物の屋内又は防空壕にいた群)では見られず,5㎞以遠では全ての群で0名である。 広島原爆(Table68H。甲A195-235頁)では,爆心地から4.1~5㎞の範囲内では,遮蔽なしの屋外にいた群(68名)で2名,日本家屋の屋内にいた群(127名)で1名,重量建築物の屋内にいた群(27名)で1名の合計4名について見られたのみであり,5㎞以遠では,遮蔽なしの屋外にいた群(19名)で1名について見られたのみである。 脱毛・紫斑又は放射線によると思わせる口咽頭障害,嘔吐,出血等の症状を2つ以上発症した者について長崎原爆(Table69N。甲A195-238頁)では,爆心地から4.1~5㎞の範囲内では,遮蔽なしの屋外にいた群(46名)で2名,遮蔽ありの屋外にいた群(23名)で2名,日本家屋の屋内にいた群(157名)で5名,重量建築物の屋内にいた群(17名)で2名の合計11名について見られたのみであり,5㎞以遠では,遮蔽なしの屋外にいた群(10名)で1名,日本家屋の屋内にいた群(69名)で2名の合計3名について見られたのみである。 広島原爆(Table69H。甲A195-237頁)では,爆心地から4.1~5㎞の範囲内では,遮蔽なしの屋外にいた群(68名)で7名,遮蔽ありの屋外にいた群(7名)で1名,日本家屋の屋内に9いた群(127名)で4名,重量建築物の屋内にいた群(27名)で2名の合計14名について見られたのみであり,5㎞以遠では,遮蔽な 名)で7名,遮蔽ありの屋外にいた群(7名)で1名,日本家屋の屋内に9いた群(127名)で4名,重量建築物の屋内にいた群(27名)で2名の合計14名について見られたのみであり,5㎞以遠では,遮蔽なしの屋外にいた群(19名)で3名,遮蔽ありの屋外にいた群(5名)で1 名,日本家屋の屋内にいた群(22名)で4名の合計8名について見られたのみである。 ケ S の調査(甲A198)昭和42年5月から同46年7月までの間に広島県及び広島市を通じて提出された認定申請書614件を対象とした調査である。 被爆距離別(①0~0.9㎞,②1.0~1.9㎞,③2.0~2.9㎞,④3.0~3.9㎞,⑤4.0㎞~)の発生頻度(%)は,脱毛で①85.7,②43.1,③36.4,④12.5,⑤26.9であり,下痢で①56.0,②43.9,③43.8,④25.0,⑤38.5であった(第23表,第26表,第27表)。 上記調査では,「注目せられることは,4.0㎞以上の被爆者が脱毛,下痢,出血性素因,その他などにおいて3.0~3.9㎞の者より高いものが散見される点であるが,これら遠距離被爆者,入市者は家族,家屋の被害が軽微であったために至近距離圏内にしばしば出入して,残留放射線の影響が大きかったのではないかとも思われる」,「これら脱毛の発症時期が夏季より秋季にかけての生理的脱毛の見られ易い時期であり,また火傷による脱毛を誤認した例も報告されている。また,当時の食糧事情による栄養のアンバランスからきた脱毛もあったかもしれない。しかし,それらはその距離における脱毛を否定するに足るだけの数でなかった。」,「他方,原爆被爆という一大惨事から生じたさまざまな精神的ストレス,肉体的消耗が脱毛促進に関与したことも考えら しれない。しかし,それらはその距離における脱毛を否定するに足るだけの数でなかった。」,「他方,原爆被爆という一大惨事から生じたさまざまな精神的ストレス,肉体的消耗が脱毛促進に関与したことも考えられ,さらに原爆放射線による内分泌機能障害と脱毛との関係も疑い得るのではなかろうか。」(61頁)と分析されている。 遠距離被爆での急性症状の発症ア発症の可能性について後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,放射線被曝による急性放射線症 (全身被曝後数週間以内に起こる臨床症状の総称。乙A111-3頁)については,一般に約1Gy 以上の線量を体幹などの主要な部分に被曝すると起き,皮下出血(歯茎からの出血,紫斑を含む。)については2Gy 程度,脱毛については3Gy 程度,下痢については4Gy 程度の閾線量(被曝した人の1ないし5%に症状が出現する線量。乙A111-2頁)があるとされるところ(乙A22-422~423頁,乙A111,乙A112,弁論の全趣旨),DS86の式(乙A29)及びCc論文(乙A46)により算出される誘導放射線及び放射性降下物による放射線の外部被曝線量は,現実的には最大でも数十センチGy 程度(センチは100分の1を表す。)であり,しかも,上記の閾線量は,DS86の調査(乙A28-335頁)によれば,広島原爆については爆心地から1000ないし1300m付近で,長崎原爆については爆心地から1150ないし1450m付近でそれぞれ被爆した場合の初期放射線による被曝線量に相当する値であり,このことを前提とすれば,広島原爆及び長崎原爆のいずれについても,爆心地から1500m以遠において皮下出血,脱毛,下痢といった放射線被曝による急性症状が生じることはほとんどないことになるはずである。 もっとも,原爆投下後比較的早期に 崎原爆のいずれについても,爆心地から1500m以遠において皮下出血,脱毛,下痢といった放射線被曝による急性症状が生じることはほとんどないことになるはずである。 もっとも,原爆投下後比較的早期に行われた前記各調査(東京帝国大学医学部診療班の原子爆弾災害調査報告〈前記⑴ア。乙A302〉,マンハッタン調査団の最終報告書〈前記⑴イ〉,O 調査〈前記⑴ウ〉, Pらの調査〈前記⑴エ〉等)からは,脱毛や出血傾向が生じたとする者が,1500m以遠で被爆した者についても数%は存在し,かつ,これらの症状(特に脱毛)を生じたとする者の割合が,少なくとも爆心地から2~3㎞程度までについては,概ね爆心地から遠ざかるにつれて減少する傾向が見られ,この傾向は,その後に行われた調査結果(Q -Jones の報告〈前記⑴カ〉, R らの調査〈前記⑴キ〉,日米合同調査報告書〈前記 S)にも見られる。 上記のような各調査の結果に照らすと,長崎原爆の爆心地からの距離が1500mを超えて2ないし3㎞までの地域において被爆した者に生じたとされる脱毛や皮下出血等の症状にも,戦争被害による心理的影響や戦時下ないし戦後の栄養状態,衛生状態の悪化の要因を踏まえてみても,放射線による症状が含まれているとみるのが自然である。 イ被爆未指定地域における発症の有無についてしかしながら長崎原爆の爆心地から7.5㎞以遠の地点にいた者に原爆由来の放射線に起因する急性症状を生じたことを高度の蓋然性をもって認定するに足りる証拠はない。 すなわち,前記,原判決別紙24のとおり,原爆傷害調査委員会(ABCC)及び放影研が寿命調査集団(LSS 集団)に対して行った調査の結果,長崎原爆の爆心地から7㎞以上10㎞以下の地点での被爆者1995名について,出 判決別紙24のとおり,原爆傷害調査委員会(ABCC)及び放影研が寿命調査集団(LSS 集団)に対して行った調査の結果,長崎原爆の爆心地から7㎞以上10㎞以下の地点での被爆者1995名について,出血,脱毛,口腔咽頭病変,熱傷,火傷の各症状があったとされた者は,12名(全体の0.6%)であったところ,上記調査においては上記の各症状が放射線の影響によるものかどうかは,確認されていない。そして,前記(原判決78頁のウ)のとおり,戦時中及び戦後しばらくの間は,食料や生活物資が欠乏し,栄養状態が悪く,多数の国民が栄養失調状態にあったこと,昭和18年には,赤痢,猩紅熱が増加し,特に腸チフス,パラチフス,ジフテリア等の増加が顕著となったほか,戦争が長期化し,本格化するにつれ,国民の体力そのものが低下して,罹病者が増加する傾向を示すなど,衛生状態が劣悪であり,被爆未指定地域を含む地域においても例外ではなかったことが認められ,これらの影響により嘔吐,下痢,脱毛等の身体症状が発症したとしても不自然とはいえないことからすると,上記調査において症状があったとされた者の中に被爆未指定地域の住民が含まれていたとしても,原爆由来の放射線の被曝によって上 記各症状が生じた高度の蓋然性があると認めることはできない。 また,前記⑴の各調査においても,上記原爆傷害調査委員会(ABCC)及び放影研の調査以外の調査において,爆心地から7㎞以遠で被爆した者(入市被爆者を除く。)の相当数に急性症状が発症したというような結果は報告されていない。そもそも,上記のいずれの調査も爆心地から7.5㎞以遠にいた者を調査対象としたものと認めるに足りる証拠はなく,各調査において爆心地から遠距離とされた地域に在ったとする対象者に見られた症状については,症状の発現数や発現頻度が 査も爆心地から7.5㎞以遠にいた者を調査対象としたものと認めるに足りる証拠はなく,各調査において爆心地から遠距離とされた地域に在ったとする対象者に見られた症状については,症状の発現数や発現頻度がさほどないこと,内容や程度が概ね軽度であることに鑑みれば,いずれも,調査時期,調査方法に起因するバイアスの影響や,放射線以外の原因による発症の可能性によって説明され得るものというべきである(バイアスの存在につき, R らによって報告された「長崎原爆被爆者の急性症状に関する情報の確かさ」(乙A147,乙A282,乙A283))。なお,前記認定のとおり,O 調査の調査結果によれば,広島市に原爆投下直後に広島市の中心地に入らなかった104人の非被爆者については,下痢等の症状が発現しなかったとされているものの,調査人数が限られていることに加え,当時の国民生活の状況や衛生状態等からすると,上記調査結果から,当時非被爆者には下痢等の症状が発現しないのが通常であったということもできない。 さらに,広島で1980人,長崎で1062人の原爆被爆者を対象として,同人らから得られた安定型染色体異常頻度を用いて線量効果関係の特性の解析を行った研究(乙A66の12・13)では,原爆投下時に長崎市内にいなかったがその後入市した者(60日以内入市者(早期入市者)24人,60日後入市者(後期入市者)180人)と,DS86の調査で5m㏜未満の被曝線量と評価されている910人(爆心地から約2.5㎞以遠(乙A221-137項によれば約3㎞以遠)に所在した者。うち4人については,爆心地から2.5㎞以内に所在したが,遮蔽等の関係で5 m㏜未満の被曝線量と評価された。)について解析したところ,両者に有意な差異は認められなかったことが認められる(乙A66の1-36頁以 心地から2.5㎞以内に所在したが,遮蔽等の関係で5 m㏜未満の被曝線量と評価された。)について解析したところ,両者に有意な差異は認められなかったことが認められる(乙A66の1-36頁以下,弁論の全趣旨)。加えて,後記「Ddの調査」(原判決182頁のカ)も,遠距離での被爆者と非被爆者の染色体異常頻度には有意な差はないとの上記と同様の結論を示している。 これに対し,A 意見(甲A130の1-57~58頁,証人A(反訳書)-37~38頁)は,平成23年3月8日から同年4月30日までの間に被爆未指定地域にある間の瀬,矢上,古賀,戸石の各地区の住民に対して行ったアンケートを根拠に,「黒い雨」が降ったとする間の瀬地区の住民の多くに脱毛,下痢,吐き気の症状が生じたとする。そして,証拠(甲A130の1-57~58頁)によれば,上記アンケートに回答した者のうち,「黒い雨」が降ったとする間の瀬地区住民14名中(なお,原爆投下時の住民数は約320名であり,「黒い雨」の降り方については人によって回答内容が異なる。),6名(43%)に脱毛,3名(21%)に下痢,2名(14%)に嘔気があったと回答し,他方で矢上,古賀,戸石地区の住民99名中3名(3%)が脱毛の症状があったと回答した事実が認められる。しかし,上記アンケートの結果は,上記原爆傷害調査委員会(ABCC)及び放影研の調査と整合せず,前記⑴のその余の調査等も上記アンケートの信頼性を裏付けるものとはいえない。上記アンケートが実施されたのが原爆投下から60年以上経過した後であり,記憶が減退している可能性は否定できないことを考慮すると,上記アンケートの結果は採用できず,これに依拠するA 意見も採用することができない。 なお,「原子爆弾被爆地域拡大に関する要望書」(① 長崎県が昭和4 ている可能性は否定できないことを考慮すると,上記アンケートの結果は採用できず,これに依拠するA 意見も採用することができない。 なお,「原子爆弾被爆地域拡大に関する要望書」(① 長崎県が昭和40年代に提出したもの〔甲A12〕,② 長崎市が昭和49年6月に提出したもの〔甲A20〕,③ 長崎県及び長崎市が昭和50年12月に提出したもの〔甲A21〕)及び昭和61年12月に長崎市が提出した「原子 爆弾被爆地域拡大是正に関する要望書」(甲A22)並びに平成12年3月の「聞いて下さい!私たちの心のいたで原子爆弾被爆未指定地域証言調査報告書」(甲A13)及び長崎県民主医療機関連合会による平成23年1月から24年10月にかけての「被爆地域拡大証言調査」は,爆心地から7.5㎞以遠の者を調査対象とするものであるが,後記のとおり,これらによって直ちに調査対象者に放射線に起因する症状が発現したと認めることはできず,上記判断を左右するものではない。 ウ小括以上のとおり,遠距離被爆者(爆心地から1500m以遠で被爆した者)に生じた症状がおよそ放射線の影響によるものではないということはできないものの,他方で,これらの症状は戦争被害による心理的影響や戦時下ないし戦後の栄養状態,衛生状態の悪化によっても増加し得るものであって,被爆未指定地域もその例外ではなかったから,被爆未指定地域の住民に下痢,脱毛,出血等を生じた者がいたことから直ちに,被爆未指定地域に放射線に起因する下痢,脱毛や出血等の急性症状ないしそれに類似の症状を発症した者がいた高度の蓋然性があると認めることはできない。 また,仮に,被爆未指定地域と同じく長崎原爆の爆心地から7.5km以遠の地域に在った住民の中に放射線に起因するものと認められる下痢,脱毛や出血等の急性症状ないしそれに類 ると認めることはできない。 また,仮に,被爆未指定地域と同じく長崎原爆の爆心地から7.5km以遠の地域に在った住民の中に放射線に起因するものと認められる下痢,脱毛や出血等の急性症状ないしそれに類似の症状を呈する者がいると認められたとしても,その発症頻度は極めて低く(原爆傷害調査委員会(ABCC)及び放影研の前記調査結果によれば,1%未満となる。),当該調査対象者ら個々人の被曝した当時の行動等も明らかではない以上,地域ごとに被爆者援護法1条3号該当性を判断する場合の当該地域を代表する事象として捉えてよいのかも疑問である。 ⑶ T の意見についてア認定事実 原判決154頁17行目の「証拠」から158頁10行目までを引用する。 ただし,原判決158頁4行目から10行目までを次のとおり改める。 「c 上記回答者のうち,未指定地域①にいた回答者は,41.3%が何らかの症状が現れたと回答し,873人(14.9%)が発熱,860人(14.6%)が下痢,231人(3.9%)が歯茎からの出血,175人(2.9%)が皮膚の斑点,169人(2.8%)が脱毛の症状が現れたと回答した。 また,上記回答者のうち,未指定地域②にいた回答者は,地域合計で107人(8.8%)が発熱,164人(13.5%)が下痢,29人(2.3%)が歯茎からの出血,27人(2.2%)が皮膚の斑点,41人(3.3%)が脱毛の症状が現れたと回答した。」イ T の意見(当審における修正前のもの)の趣旨原判決158頁12行目から25行目までを引用する。 ウ T 被曝線量①の事実に係るT 意見の適否原判決159頁初行から165頁21行目までを引用する。 エ T 被曝線量② 原判決158頁12行目から25行目までを引用する。 ウ T 被曝線量①の事実に係るT 意見の適否原判決159頁初行から165頁21行目までを引用する。 エ T 被曝線量②の事実に係るT 意見の適否原判決165頁23行目から166頁24行目までを引用する。 オ当審における修正後のT 意見(甲A199の1)について T は,広島LSS 集団の全脱毛発症率を初期放射線だけによるものと仮定し,そこに放射性降下物による被曝線量として1.371Gy を加算し(軽度も含む脱毛の発症率の閾値を1.5Gy とし,これを発症率5%に相当するように調整したものと解される。),そこから,全脱毛の発症率と被曝線量の関係を与える正規分布(平均値2.535Gy,標準偏差0.669Gy,以下「T 正規分布④」という。)を得たところ,これがT 正規分布①に近接するとしている。T は,T 正規分 布④を前提に,広島では爆心地から3㎞の同心円状の放射性降下物による被曝線量の平均値は約1Gy であると計算している(21~25頁)。 しかしながら,仮に,重度脱毛だけを取り上げたストラム論文において初期放射線だけが考慮され,放射性降下物による被曝が考慮されていないというT の見解(17頁)が正当であるとしても(この点について,A 意見(甲A189-39~40頁)は異なる解釈をしている。),重度脱毛以外に中軽度脱毛も含めた値である広島LSS 集団の全脱毛発症率が初期放射線だけによるものと仮定するのは不合理である。 T は,T 正規分布④とT 正規分布①との近接をもって双方の数値の合理性の根拠とするものと解されるが,T 正規分布①が採用できないのは前記のとおりであるから,上記仮定は採用できない。 T は,T 正規分布④とT 正規分布①との近接をもって双方の数値の合理性の根拠とするものと解されるが,T 正規分布①が採用できないのは前記のとおりであるから,上記仮定は採用できない。 T 意見は,T 正規分布②(脱毛や紫斑,下痢)を用いて,被曝線量を求め,上記と同様の被曝線量となったとする(26~30頁)が,T 正規分布②が採用できないのは前記のとおりである。 T 意見は,長崎原爆について,爆心地から5㎞までは P らの調査による脱毛等の発症率を,5㎞以遠については「原子爆弾被爆未指定地域証言調査」の結果を,それぞれ放射線に起因する急性症状の発症率として採用することを前提に,広島と同様の被曝線量と発症率の関係を与える正規分布を用いて解析している。その際,長崎原爆の急性症状の脱毛と紫斑についてはT 正規分布①を,下痢の発症率についてはT正規分布②をそれぞれ用いている。その結果,被爆距離が4㎞辺りから12㎞までの地域について,脱毛発症率からは約1.25Gy,紫斑と下痢の発症率からは1.33Gy という被曝線量を算出した(31~36頁)。 しかしながら,① 二つの異なる調査結果を単純に接続させているこ と,② 証言調査については前記のとおり直ちに採用できないこと,③T 正規分布①,②はいずれも採用できないこと,④ T の被曝線量の推定からすれば,4㎞以遠はほとんど被曝線量の低下がないこととなり,被曝線量が距離に従って系統的に低下するというT のよって立つ見解によれば,際限なく1Gy 程度の被曝線量であったことになりかねないことなどからして,T 意見の上記被曝線量の計算結果は,採用できない。 T 意見は,広島LSS 集団の男性の各種癌の岡山県民に対する標準化死亡比(LSS の癌死亡率 ことになりかねないことなどからして,T 意見の上記被曝線量の計算結果は,採用できない。 T 意見は,広島LSS 集団の男性の各種癌の岡山県民に対する標準化死亡比(LSS の癌死亡率÷岡山県民癌死亡率)が,初期放射線被曝線量が0になっても1(すなわち岡山県民と同じ死亡率)にならず,LSS 集団の標準化死亡比から求めた初期放射線被曝線量に対する標準化死亡比を与える回帰直線を初期放射線被曝線量がマイナスとなる所まで伸ばしてみると,初期放射線量がマイナス0.4ないしマイナス1. 0㏜の間でようやく標準化死亡比が1になっており,これは,広島LSS 集団が初期放射線被曝線量0のとき,すでにマイナスの値の絶対値だけの被曝,すなわち0.4ないし1.0㏜の被曝を放射線降下物によって受けていることを示すとする(37~40頁)。 しかし,T の上記見解からすれば,例えば,標準化死亡比が極めて少ない(1に極めて近い)が回帰直線の傾きもまた非常に緩やかな場合,回帰直線が標準化死亡比1の軸に達するのは初期放射線被曝線量の軸が相当大きなマイナスになってからとなり,その結果,莫大な量の放射線降下物による被曝を受けているという帰結になりかねず,不合理である。 よって,上記T 意見は採用し難い。 その他,T 意見は,放影研が初期放射線だけを評価していることについてるる指摘するが,採用することができない。 カ結論以上のとおり,T 意見はいずれも採用できない。 ⑷ U の意見について原判決167頁8行目から171頁23行目までを引用する。 一審原告らの当審における主張(原子爆弾被爆地域拡大に関する要望書,原子爆弾未指定地域証言調査報告書等を考慮すべきこと)についてア一審原告らの主 ら171頁23行目までを引用する。 一審原告らの当審における主張(原子爆弾被爆地域拡大に関する要望書,原子爆弾未指定地域証言調査報告書等を考慮すべきこと)についてア一審原告らの主張一審原告らは,「原子爆弾被爆地域拡大に関する要望書」(①長崎県が昭和40年代に提出したもの〔甲A12〕,②長崎市が昭和49年6月に提出したもの〔甲A20〕,③長崎県及び長崎市が昭和50年12月に提出したもの〔甲A21〕)及び昭和61年12月に長崎市が提出した「原子爆弾被爆地域拡大是正に関する要望書」(甲A22)並びに平成12年3月の「聞いて下さい!私たちの心のいたで原子爆弾被爆未指定地域証言調査報告書」(甲A13)及び長崎県民主医療機関連合会による平成23年1月から24年10月にかけての「被爆地域拡大証言調査」の内容を前提事実として判断すべきである旨主張する。 イ検討 「原子爆弾被爆地域拡大に関する要望書」についてa 長崎県が昭和40年代に提出したもの(甲A12)について長与村(当時),時津村(当時)について,被爆地域としての指定を求める要望書である。「被爆地域に指定されたい理由」として,「健康診断実施結果によると,申請両地域の原爆関連疾病の有病率は,既指定隣接地域及び県下被爆者の有病率に比較してむしろ異状に高い状況にある」こと等が記載されている。 両村(爆心地からの距離は4.5~11㎞の範囲)の合計8524人が調査対象とされ,うち合計3258人が健康診断を受診し,う ち合計1109人が原爆関連疾病を発現した者(「令3号類似患者」)であるとした。そして,「令3号患者類似発現者数」を「受診者数」で除し,原爆関連疾病の「発現率」(全体で34.03%)を求めた。 他方で, 109人が原爆関連疾病を発現した者(「令3号類似患者」)であるとした。そして,「令3号患者類似発現者数」を「受診者数」で除し,原爆関連疾病の「発現率」(全体で34.03%)を求めた。 他方で,長崎市について,「昭和46年制定の特定地域被爆の令3号患者発現状況」(被爆距離3.1~4.5㎞)として,「令3号患者数」(1645人)を「被爆者数」(1万4531人)で除して「発現率」(11.32%)を求めた。また,「一般被爆者該当町被爆の令3号患者発現状況」(被爆距離4.0~9.8㎞)として,「令3号患者数」(1783人)を「被爆者数」(1万6746人)で除して「発現率」(10.65%)を求めた。また,長与町の「既指定地区(高田郷,吉無田郷)の令3号患者発現状況」(被爆距離4.0~5㎞)として,「令3号患者数」(182人)を「被爆者数」(997人)で除して「発現率」(18.25%)を求めた。 同要望書は,これらの「発現率」を比較の上,両村の「発現率」が「異状に高い」としているものと解される。 しかし,長崎市や既指定地区については患者数を「被爆者数」で除しているのに対し,両村については,「受診者数」で除しており,そもそも計算方法が異なっている(仮に,両村につき上記「被爆者数」に相当する「調査対象者数」(8524人)で除した場合,数値は13%程度となり,長崎市や既指定地区と比して異状に高いとはいえない。また,各地域の年齢構成等も不明であり,単純な比較が可能であるかも疑問である。 以上によれば,上記要望書から直ちに被爆未指定地域の住民に放射線に起因する症状が発現したとは認められない。 b 長崎市が昭和49年6月に提出したもの(甲A20)について 同要望書には,原爆の爆発状況やゾンデの飛来状況から広範な被害があったとし 因する症状が発現したとは認められない。 b 長崎市が昭和49年6月に提出したもの(甲A20)について 同要望書には,原爆の爆発状況やゾンデの飛来状況から広範な被害があったとした上で,各地域の被災状況や負傷率が記載されているだけであり,放射線による被害の具体的な状況には特に触れられていないから,上記要望書から被爆未指定地域の住民に放射線に起因する症状が発現したとは認められない。 c 長崎県及び長崎市が昭和50年12月に提出したもの(甲A21)について上記bと同様の記載の後,拡大要望地区の健康診断(一般検査)の受診状況やその結果要精密検査となった者の精密検査受診状況,さらに,同検査の結果(有疾病者の障害別状況)が記載されており,一定の有疾病者の存在が確認できるが,上記bと同様,上記要望書から被爆未指定地域の住民に放射線に起因する症状が発現したとは認められない。 昭和61年12月の長崎市「原子爆弾被爆地域拡大是正に関する要望書」(甲A22)について昭和58年度及び59年度に実施された健康診断の結果,受診者7299人中,2582人が「要精密検査」となり,うち2222人が「有疾病」として,受診者の疾病発現率が30.4%,うち,「健康管理手当支給対象疾病発現者」が1870人(疾病発現率25.6%)として,これを,①「昭和49.4拡大要望した地区」,②「昭和49.10.1措置時津町・長与町」,③「昭和51.9.18措置日見村ほか5地区」,④「在来被爆区域被爆者等(昭和59年度実施分)」(年2回受診)の各地域と比較するものであり,「拡大要望地区」の受診者に占める,精密検査結果での有疾病者や健康管理手当支給対象疾病発現者の割合は,①ないし③の地域とほぼ同等となっている。 しかしながら, 回受診)の各地域と比較するものであり,「拡大要望地区」の受診者に占める,精密検査結果での有疾病者や健康管理手当支給対象疾病発現者の割合は,①ないし③の地域とほぼ同等となっている。 しかしながら,「拡大要望地区」は「健康管理手当対象障害」が11 障害であるのに対し,①ないし③の地域はいずれも8障害にとどまっており,単純に比較はできない。また,④の受診者に占める「有疾病者」の割合(62.6%),「健康管理手当支給対象疾病発現者」の割合(62.5%)と比較して同等以上であるとはいえない。 以上によれば,同要望書により被爆未指定地域の住民に放射線に起因する症状が発現したと認めることはできない。 平成12年3月の「聞いて下さい!私たちの心のいたで原子爆弾被爆未指定地域証言調査報告書」(甲A13)についてa 調査内容及び結果前記(原判決157頁の)のとおりである。 b 検討調査時期が平成11年から12年にかけてであり,原爆投下から55年が経過していること,調査方法がアンケート及びそれに基づく聞き取り・面談にとどまること,調査に至る動機・経緯につき,「陳情,要望を繰り返してきたにもかかわらず,基本問題懇談会が示した「科学的,合理的根拠」という見解によって被爆地域指定拡大が一歩も前進していない。」という認識を前提にしていることから,一審被告らが指摘するバイアス(リコールバイアス,レポーティングバイアス等)が介在している可能性を否定できない。バックグラウンドとしての脱毛,下痢等の発症を考慮していない,「脱毛」の定義(程度)が明らかでないという問題があり,バックグラウンドとなる症例数を差し引いた場合,残る症例報告は,上記バイアス等によって説明可能な範囲のものとなる可能性が 発症を考慮していない,「脱毛」の定義(程度)が明らかでないという問題があり,バックグラウンドとなる症例数を差し引いた場合,残る症例報告は,上記バイアス等によって説明可能な範囲のものとなる可能性が高い。 以上によれば,上記報告書から被爆未指定地域の住民に放射線に起因する症状が発現したと認めることはできない。 長崎県民主医療機関連合会による平成23年1月から同24年10月にかけての「被爆地域拡大証言調査」(甲A213)についてa 調査内容及び結果長崎県民主医療機関連合会が,平成23年1月から24年10月にかけて,「被爆体験者」(193名。長崎の被爆未指定地域で被爆した者(本件各申請者を含まない。))と「非被爆者」(152名。原爆投下前に出生し,爆心地から12㎞圏内に30年以上居住した(ただし,昭和20年8月9日から同21年9月頃までは,爆心地から12㎞以遠にいた)者)に調査票に沿ったインタビュー形式での聞き取りをしたもの。 結果は,「被爆体験者」については,脱毛が20人(10. 4%),下痢が42人(21.8%),歯茎出血が14人(7. 3%),皮膚斑点が18人(9.3%),血便10人(5.2%),発熱が26人(13.5%),吐き気32人(16.6%),鼻血が30人(15.5%),口内炎が28人(14.5%),倦怠感が34人(17.6%)等であった。 これに対し,「非被爆者」については,脱毛が2人(1.3%),下痢が7人(4.6%),歯茎出血が0,皮膚斑点が6人(3. 9%),血便が1人(0.7%),発熱が2人(1.3%),吐き気が3人(2.0%),鼻血が2人(1.3%),口内炎が5人(3. 3%),倦怠感が2人(1.3%)であった。 b 検討調査時期が平成23年から24年に 発熱が2人(1.3%),吐き気が3人(2.0%),鼻血が2人(1.3%),口内炎が5人(3. 3%),倦怠感が2人(1.3%)であった。 b 検討調査時期が平成23年から24年にかけてであり,原爆投下から65年以上が経過していること,② 調査方法が調査票に沿ったインタビュー形式の聞き取りにとどまること,③ 「被爆体験者」を選定するに当たり,主に「長崎被爆地域拡大協議会」の会員及び会員に つながりのある者を中心に協力を募り,東長崎地域では「全国被爆体験者協議会」の会員及び会員につながりのある者の協力を募るなどしていることから,被爆地域指定拡大への関心の特に高い者が集まり,バイアス(リコールバイアス,レポーティングバイアス等)が介在する可能性を否定できない。また,バックグラウンドとしての脱毛,下痢等の発症を考慮して評価する必要があり,脱毛の定義(程度)が明らかではないという問題もある。 脱毛の発現率10.4%は,原子爆弾災害調査報告集では1.6ないし2.0㎞圏内(相当程度の初期放射線が届いた地域),O 調査では2㎞前後, P らの調査では1.5ないし2㎞の地域での数値であり,原爆投下時から比較的近い時期に行われたこれらの調査結果との齟齬が大きい。また,上記の結果(2%程度)とも齟齬する。したがって,バイアスの介在の可能性は否定できず,「脱毛」が軽度なものを含む場合,「非被爆者」が報告の要なしとした程度のものを「被爆体験者」が報告している可能性もあり,これを除くと,バックグラウンドやバイアスによって説明可能な範囲に収まる可能性が高い。 以上によれば,同調査により被爆未指定地域の住民に放射性に起因する症状が発現したと認めることはできない。 ウ結論以上の検討に って説明可能な範囲に収まる可能性が高い。 以上によれば,同調査により被爆未指定地域の住民に放射性に起因する症状が発現したと認めることはできない。 ウ結論以上の検討に,戦後に行われたセシウム137やプルトニウム239・240の濃度の測定結果,これに基づく最大被曝線量の推定結果(乙4ないし7。いずれも被爆未指定地域に特異に高い数値を認めなかった。)等も併せ考慮すれば,一審原告らが挙げる各要望書や各証言調査から被爆未指定地域の住民に放射線に起因する症状が発現したと認めることはできない。 5 西山地区の住民に生じた症状(染色体異常,白血球数増加)とその原因原判決171頁25行目から179頁4行目までを引用する。 ただし,次のとおり補正する。 原判決173頁17行目の「原爆」から19行目の「約52%」までを「100個の細胞観察による数値12rad の52.1%」と,22行目の「7.36」を「7.35」と,同行目の「73.6m㏜」を「73.5m㏜」と,同行目の「100個」から23行目の「52.1%」までを「原爆放射性降下物に関する等線量線区分地図と積算線量からの平均推定量13.97rad の52.6%」とそれぞれ改める。 原判決174頁15行目以下を次のとおり改める。 「 前記ア(原判決171頁のア)のとおり,長崎大学と原爆傷害調査委員会(ABCC)の共同調査チームの調査において,染色分体及び不安定型染色体異常は西山地区住民群に高い傾向が見られ,安定型染色体異常は西山地区住民群が対照群よりもやや高い傾向が見られるところ,上記共同調査チームは,上記の結果について,放射性降下物による原爆直後の影響とともに,長期微量放射能の影響を示唆しているように思われるとしたこと, V の予報において や高い傾向が見られるところ,上記共同調査チームは,上記の結果について,放射性降下物による原爆直後の影響とともに,長期微量放射能の影響を示唆しているように思われるとしたこと, V の予報において,西山地区住民と対照地区住民との間で染色体異常細胞の出現頻度には有意な差があったことからすると,西山地区住民が原爆に由来する放射性降下物によって被曝をしたことによって染色体異常が生じた事実が推認される。 そして,上記事実に照らせば,長崎原爆由来の放射性降下物が降下したと認められる被爆未指定地域において,その住民が放射性降下物によってある程度の被曝をして染色体異常が生じた可能性がないとは言い切れない。 しかし,西山地区と被爆未指定地域とでは放射性降下物の条件や測定された放射線量に大きな違いがあることからすると,前記ア(原判決171 頁のア)の西山地区に在った住民に対して行われた調査の結果に基づいて,被爆未指定地域に在った住民にも染色体異常が生じた高度の蓋然性があると認めることはできず,被爆未指定地域の住民に健康被害が生じ得る程度の被曝をしたとするA 意見は採用することができない。」 原判決176頁21行目の「された。」の後に「うち1名は,西山水源地の東にある木場という集落の住民であり,1歳のときに上半身裸で遊戯中に被曝し,放射性降下物を浴びた者であり(急性症状は見られなかった。),もう1名は,原爆の直曝を受け,その後西山地区に移住した者である。」を,22行目の「52頁」の後に「,乙A228の1-31頁」をそれぞれ加え,178頁19行目の「認められるが,」の後に「うち1名は原爆の直曝を受けた後に西山地区に移った者であるから,同人の症状は西山地区における健康被害を示すものとはいえず,残り1名となるところ,」に改める。 19行目の「認められるが,」の後に「うち1名は原爆の直曝を受けた後に西山地区に移った者であるから,同人の症状は西山地区における健康被害を示すものとはいえず,残り1名となるところ,」に改める。 6 低線量被曝が人体に及ぼす影響について⑴ 認定事実原判決179頁6行目の「後掲の」から182頁25行目までを引用する。 ただし,次のとおり補正する。 ア原判決179頁7行目の「甲A139の3の14」の後に「,乙A323」を加える。 イ原判決180頁2行目の「乙A224-文献26」の後に「,甲A186の1,乙A399」を,3行目の「英国において」の後に「22歳までに1回以上」を,7行目の「別紙31のとおりである」の後に「,すなわち,15歳未満の頭部CTスキャン2,3回の累積線量で脳腫瘍のリスクが約3倍,5ないし10回の累積線量で白血病リスクが約3倍となる」を,16行目の「501頁」の後に「,乙A342,乙A349」を,同行末尾に改行の上,「被曝について増加した絶対リスク(被曝露群(対照 群)の発生率から暴露群(介入群)の発生率を差し引いたリスクの差のことで,曝露効果の強さを示す。)は非常に小さく,患者数では,頭部CTスキャンを1万件実施するごとに被曝後10年以内の白血病及び脳腫瘍の症例がそれぞれ1例増加する程度と推定された(乙A349-16頁,乙A343-2頁)。同研究では,閾値の有無は解析されていない(乙A228の1の35頁)。」をそれぞれ加える。 ウ原判決181頁24行目の「Multiple」を「Muitiplex」と,182頁14行目から15行目にかけての「1mGy 日」を「1mGy/日」と,18行目の「優位」を「有意」とそれぞれ改める。 エ原判決182頁20行目の「乙A329 「Muitiplex」と,182頁14行目から15行目にかけての「1mGy 日」を「1mGy/日」と,18行目の「優位」を「有意」とそれぞれ改める。 エ原判決182頁20行目の「乙A329の1-8頁」の前に「乙A66の14-161頁,」を加える。 オ原判決182頁25行目末尾を改行の上,次を加える。 「キ放影研の W らによる「放射線・反応推定におけるベイジアン・セミパラメトリックモデル」(乙A348)「セミパラメトリックモデル」とは,パラメトリックモデル(リスクが線量(x)とともにどう変化するかを媒介変数(β)を使って記述したモデル)と線量反応について特定の形を全く仮定しないノンパラメトリックモデルの中間に位置するモデルをいう。線形非閾値モデル(リスクが閾値を持たずに線量に比例して増加することを仮定したモデル)など特定のパラメトリックモデルを仮定することなく,さまざまな線量反応曲線とその不確実性をより正確に推定することができるため,特に低線量被曝に伴うリスク評価において役立つと考えられている。 短く区切られた線量カテゴリ上に定義された区分線形関数を結合した線量反応式において,区間ごとの傾きを示す係数をランダム変数とした上で互いに相関を持たせることによって平滑化を行うセミパラメトリッ クモデルを考え,放射線線量反応推定に適用する手法が用いられた。 同手法によるLSS データ(固形癌罹患率解析1958-1998年)の解析では,従来の線形非閾値モデルと比較して,低線量域においてリスク推定値は低く,区間推定は広くなり,100mGy までの放射線被曝によるリスクの上昇が明らかでないことを示唆した(荷重吸収結腸線量(被曝線量)が0.1Gy(100mGy)を超えた辺りから,過剰相対死亡率(ERR)の 推定は広くなり,100mGy までの放射線被曝によるリスクの上昇が明らかでないことを示唆した(荷重吸収結腸線量(被曝線量)が0.1Gy(100mGy)を超えた辺りから,過剰相対死亡率(ERR)の95%信頼区間の下限が0を上回るが,同0. 0から0.1Gy(100mGy)の範囲では,過剰相対リスクは95%信頼区間の下限が0を下回っているため,放射線被曝の健康への影響について統計学的に有意なリスク上昇が認められない。)。」⑵ A 意見(一審原告らが援用する証拠)及びB 意見(一審被告らが援用する証拠)A 意見は,ICRP勧告(原判決179頁のア),Pearce らの報告(原判決180頁のイ),福島第一原子力発電所事故に伴う居住制限(原判決180頁のウ),WHO福島報告書(原判決181頁のエ), X らの研究(原判決181頁のオ)を根拠に,100m㏜以下(1m㏜ないし20m㏜程度)の低線量の被曝によっても,健康被害が生じる可能性があるとする。 (甲A130の1-62~63頁,甲A139の1-69~72頁,甲A153-26頁,甲A200-1頁・16頁,証人A(速記録)-63項以下)これに対し,B 意見は,現時点において,疫学的に健康被害が生じることが証明されている被曝線量は150m㏜であり,それ以下の線量の被曝では,疫学調査によっても癌の発生等の健康被害と線量の相関関係は不明であるとして,100m㏜以下の低線量被曝によって健康被害が生じるとはいえないとする。(証人B -42~44頁・85頁・93頁・94頁) 検討 ア A 意見について証拠(甲A139の1-69頁,乙A220,乙A312-22~23頁,乙A326,乙A339-4枚目,乙A349-5頁・12頁)及び弁論の全趣旨によれば,現時点において, ア A 意見について証拠(甲A139の1-69頁,乙A220,乙A312-22~23頁,乙A326,乙A339-4枚目,乙A349-5頁・12頁)及び弁論の全趣旨によれば,現時点において,低線量(100m㏜以下)の被曝をした場合に健康被害が生じるか,生じるとしてどの程度の線量でどのような健康被害が生じるかは,未解明のままで,確立した科学的知見は存在しないといわざるを得ない。また,Ddの調査(原判決182頁のカ)からすると,原爆由来の放射線によって5m㏜(0.005㏜)未満の線量の被曝をした場合に,健康被害や染色体異常が生じるほどの有意な危険があるとはいい難い。したがって,上記A 意見は採用することができない。 イ各種の勧告・研究等についての個別の検討ICRP勧告についてICRP勧告は,個人の確定的影響の発生を防止し,確率的影響の誘発を減らすため,あらゆる合理的な手段を確実にとることに放射線防護の目標を置き,社会的・経済的要因を考慮に入れながら合理的に達成できる限り低く被曝線量を制限することを求めていることに基づいて公衆の被曝に関する実効線量の限度を年間1m㏜としたものである。よって,それを超えると直ちに一定程度の健康被害の蓋然性が認められるというものとは解されない。 Pearce らの報告についてPearce らの報告は,50mGy 程度の低線量でも相対リスクが増加すること等を示すものであるが,同報告については,次のような問題点が指摘されているから,これをそのまま採用することはできず,その内容を紹介した Y の市民公開講座における報告も同様である。 ① 同論文では,患者がCT検査を受けた理由が調査されていない (例えば潜在的な白血病,脳腫瘍患者がCT検査を多く受けていた可能 介した Y の市民公開講座における報告も同様である。 ① 同論文では,患者がCT検査を受けた理由が調査されていない (例えば潜在的な白血病,脳腫瘍患者がCT検査を多く受けていた可能性を排除できない。)。なお,最初のCT検査時に癌の症状を発症していた患者を解析から除外したKrille らの研究では,単位放射線当たりの脳腫瘍リスクや白血病リスクは,Pearce らの報告に比べ,3分の1ないし4分の1程度の値となっている。(乙A342-3頁,乙A343-2頁,乙A349-16~17頁)多くの疫学研究では被曝時年齢が低いほど同じ放射線量に対する発癌リスクが増加することが示されているのに,同論文では,過剰相対死亡率(ERR)を被曝時年齢別に見た場合,白血病ではほぼ一定であるものの,脳腫瘍では被曝時年齢が高いほどリスクが上昇している(乙A342-2頁,乙A349-17頁)。 CT検査と74症例の白血病との関係を見ると,9症例の骨髄異形成症候群MDSという特殊な疾患がCT検査と強い相関を示している。MDSを除く残り65症例の白血病とCT検査との相関は小さくなり,統計的にも有意な増加ではなくなる(乙A228の1文献26-502頁,同号証の2の26-3枚目)。小児MDSは,様々な遺伝性疾患,ダウン症候群,その他の先天異常を合併している頻度が高いことが報告されている(乙A350-3頁・7頁,乙A228の1-35頁)。 ④ 本来,個々の小児が受ける被曝線量はそれぞれのCT検査機器に設定されている出力等により異なっている。しかるに,同報告では,全員のデータが得られず,当時イギリスで使用されていた典型的な機器を用いた場合の推計値を求めている(乙A228の1文献26)。 ⑤ 骨髄線量について,検査により被曝した解剖学 ,同報告では,全員のデータが得られず,当時イギリスで使用されていた典型的な機器を用いた場合の推計値を求めている(乙A228の1文献26)。 ⑤ 骨髄線量について,検査により被曝した解剖学的部位ごとではなく,全身の赤色骨髄の等価線量に変換して求めているため,頭部CTにより頭蓋骨の骨髄に当たった線量を実際より小さく推定している (乙A228の1-34頁)。 ⑥ 代表的な条件で実施されたCT検査による線量を推定値として個々にあてはめているが,実際に受ける線量と線量推定値との間に誤差があり,リスク推定値が過大評価される可能性が指摘されている(乙A342-3頁)。 福島第一原子力発電所事故における居住制限について福島第一原子力発電所事故における居住制限における「年間20m㏜」の基準は,ICRPが提言する緊急時被曝状況(原子力事故又は放射線緊急事態の状況下において,望ましくない影響を回避若しくは低減するために緊急活動を必要とする状況)の参考レベルの範囲(年間20ないし100m㏜)のうち,安全性(放射線防護)の観点から,最も厳しい値でを採用したものであり(乙A345-14頁,乙A352,乙A349-12及び13頁),ICRP勧告と同様,放射線防護体系の観点から採用されたものである。また,福島第一原子力発電所事故に伴う居住制限における「年間積算線量」は,同所での生活を継続することにより,一定程度の放射線被曝がその後(2年目以降)も積み重なっていくと仮定したものであるが,原判決の原爆投下1時間後から初年度における「年間積算線量」は,原爆による核分裂生成物の放射能が時間の経過とともに指数関数的に減衰することを前提としている。 以上によれば,上記居住制限の存在をもって,低線量被曝の影響について一審原告らの主張が立証さ 量」は,原爆による核分裂生成物の放射能が時間の経過とともに指数関数的に減衰することを前提としている。 以上によれば,上記居住制限の存在をもって,低線量被曝の影響について一審原告らの主張が立証されたということはできない。 WHO 福島報告書についてWHO 福島報告書は,平成23年秋までに入手可能であったデータに基づく「予備的線量評価」(平成24年発行)とこの線量評価に基づいて影響を評価した「影響評価」(平成25年発行)とからなり,平成23年までに得られた限られた情報に基づく(乙A344-11頁,乙A349- 7頁)。その後に発表された「2011年東日本大震災の原子力事故による放射線被ばくのレベルと影響に関するUNSCEAR 報告書(2013年第1巻科学的付属書)」やIAEA 報告書(2015年)では,利用可能なデータが増え,WHO 福島報告書に比して低い評価結果となっている(乙349-8頁)。 また,同報告書の数値は,① 計画的避難,屋内退避,食品流通制限などの防護方策はとらなかったという条件が採用された,② 地表に沈着した放射性核種からの外部被爆の線量推定に当たり,1日のうち16時間を屋内で過ごすと仮定し,その場合の建物としてコンクリートに比べて遮蔽効果が小さい木造を想定している,③ 食品由来の内部被曝の評価については,福島県及び近隣県の食品のみを摂取したと仮定している,④ 甲状腺へのヨウ素による内部被曝の評価について,ヨウ素摂取量の多い日本人の食生活を考慮していない,⑤ 放射線発癌のリスク評価については,固形癌についてLNT モデルを採用しているが,線量・線量率効果係数(DDREF:単位線量当たりの生物学的効果が低線量・低線量率の放射線被曝では高線量・高線量率における被曝と比較して通常低いことを考 形癌についてLNT モデルを採用しているが,線量・線量率効果係数(DDREF:単位線量当たりの生物学的効果が低線量・低線量率の放射線被曝では高線量・高線量率における被曝と比較して通常低いことを考慮するための係数。ICRPでは2を用いている。)を適用していないなどの点で,安全な方向でのいくつもの仮定を置いた上で算定されたものといえる。 さらに,環境中の放射線量の測定からモデルを用いて推定された線量は,実際に住民が受けた線量と比較して過大評価となるとされている(乙A349-9頁)。 以上の条件の下に計算したリスク上昇ですら,都道府県ごとの死亡率の差に隠れてしまうほどの非常に小さい値にすぎない(証人B -44頁)。 以上によれば,WHO 福島報告書の内容から低線量被曝に関する一審原 告らの主張が立証されたとすることはできない。 X らの研究についてX らの研究は,X が,「低線量率放射線の長期間慢性被ばくにより生じるヒト染色体異常頻度の線量・線量率効果関係を調べる研究は,調査対象とするヒト集団の被ばく線量が極端に低いことや交絡因子の影響が加わることから大変困難である」(甲A153・文献9-1頁)と自認していること,また,X が所属する公益財団法人環境科学技術研究所の平成26年度生物学的線量評価実験調査報告書において,① 1mGy/日の低線量率放射線長期照射は,染色体異常を誘発し,それを有意に検出することも可能である,② 0.05mGy/日(年間20m㏜)の低線量率放射線長期照射によって誘発される染色体異常は,少なくとも上記調査の実験条件下では,加齢等に伴い非照射群でも自然に起こる変化や個体間のばらつきなどを超えて検出できるようなレベルのものではないとしていること(乙A347-39頁,乙A349- は,少なくとも上記調査の実験条件下では,加齢等に伴い非照射群でも自然に起こる変化や個体間のばらつきなどを超えて検出できるようなレベルのものではないとしていること(乙A347-39頁,乙A349-18頁)に照らせば,これによって低線量被曝に関する一審原告らの主張が立証されたものとすることはできない。 その他なお,我が国の「電離放射線に係る疾病の業務上外の認定基準について」(昭和51年11月8日基発第810号)が,白血病について0.5rem(=5m㏜)の放射線被曝の事実を考慮要素に挙げていること(乙A382)や,ウクライナのチェルノブイリ法が移住の権利を年間1m㏜から認めていること(甲A150-34頁)について検討するに,前者については,幅広い救済の観点からのものであって,白血病との因果関係を前提としていない(乙A384-23頁)ことに加え,その他の要件を満たした上で,さらに専門家による個別具体的な検討がされる仕組みとなっている(乙A382,乙A385,乙A386)こと,後者については政治 的な要因が影響を与えた結果設定された基準であって科学的根拠に基づくものではない(乙A391-146頁)ことといった事情があり,いずれも一審原告らの主張を根拠づけるものとはいえない。 一審原告らの当審における主張(「INWORKS 癌論文」)についてア 「電離放射線への職業被ばくによる癌リスク:フランス,英国,米国における作業者の後ろ向きコホート研究(INWORKS)」(甲A181の1・2,乙A373の1・2,乙A398。以下「INWORKS 癌論文」という。))について INWORKS 癌論文の概要a 研究課題長期間の電離放射線の低線量被曝は固形癌の発症リスクをもたらすか。 。以下「INWORKS 癌論文」という。))について INWORKS 癌論文の概要a 研究課題長期間の電離放射線の低線量被曝は固形癌の発症リスクをもたらすか。 b 方法電離放射線による外部被曝を,詳細なモニタリング・データを有するフランス,英国,米国の30万8297名の原子力産業労働者の死亡登録と関連付け,癌による死亡率の被曝線量1Gy 当たりの過剰相対死亡率(ERR)を推定するというもの。 追跡調査は820万観察人年に及び,追跡調査の終わりまでに調査された死亡6万6632人のうち1万7957人は固形癌による(なお,全癌死1万9748人,白血病を除く癌死1万9064人,肺癌死を除く固形癌死1万2155人)。 c 結果 被曝線量の増加に伴い癌の割合が直線的に増加することを示唆しているとされた。累積被曝線量の平均,人年,白血病を除く全ての癌の死亡数,放射線による過剰死亡数の推定は,【別紙12】のとおり。 ⒝ 被爆した労働者の結腸の平均累積線量は20.9mGy(中央値4.1mGy)であった。 ⒞ 潜伏期10年を仮定(勤務開始後10年以内の死亡は既に放射線に起因しない可能性があるため,この期間の線量を統計から除外(0m㏜とする))した場合の推定死亡率が次の通り増加した。 ① 全癌では,1Gy 当たり51%② 白血病を除く全癌では,1Gy 当たり48%③ 固形癌では,1Gy 当たり47%④ 肺癌以外の全ての癌では,1Gy 当たり46%⒟ 0~100mGy の推定被曝範囲での結果は,全ての被曝範囲で得られたものと規模に関しては同様であるが,精度は低いとされた。 喫煙や職業性石綿被害は潜 たり46%⒟ 0~100mGy の推定被曝範囲での結果は,全ての被曝範囲で得られたものと規模に関しては同様であるが,精度は低いとされた。 喫煙や職業性石綿被害は潜在的交絡因子であるとされたが,肺癌と肋膜癌による死亡を除外しても推定される関連性には影響を与えないとされた。 なお,固形癌から喫煙との関連が大きい癌(口腔および咽頭,食道,胃,大腸,直腸,肝臓,胆嚢,脾臓,鼻腔,咽頭,肺,子宮頸部,卵巣,膀胱,腎臓及び尿管の癌。固形癌死亡の70%を占める。)を除くと,放射線1Gy 当たりの過剰相対死亡率(ERR)の大きさと精度が減少した。 d その他(中性子線被曝の取扱いについて)INWORKS 癌論文では,中性子被曝線量(ガンマ線よりも生物学的影響が大きいためにその正確な被曝線量を測定することが求められる。)が累積被曝線量の10%以上を占める従事者を解析から除外していない(乙A377の1・2)。同論文では,中性子被曝のレベルにより調整はしているものの,著者らもその調整が十分でなかったか もしれないとしている(乙A373-7頁)。 INWORKS 癌論文に基づくZ 意見(甲A182,甲A187,甲A201,甲A215)の概要a 結果の評価について5mGy 以上の全ての線量区分での死亡率は,基準群(5mGy 未満群)に比べて統計的に有意に高い(【別紙13】のとおり)。 b 喫煙の影響についてaの違いは喫煙率の違いでは説明できない。すなわち, 5mGy 被曝群の癌死亡危険度が5mGy 未満群の2倍以上となっていること(甲A187-2頁表1)について,喫煙率でそれを説明しようとすれば,喫煙率が2倍以上となっていなければならないが,累積被曝線量 y 被曝群の癌死亡危険度が5mGy 未満群の2倍以上となっていること(甲A187-2頁表1)について,喫煙率でそれを説明しようとすれば,喫煙率が2倍以上となっていなければならないが,累積被曝線量階級別の喫煙率の違いは最大で1.23倍であるとする調査結果がある(平成18年1月付け財団法人放射線影響協会「文部科学省委託調査報告書「原子力発電施設等放射線業務従事者に係る疫学的調査(第Ⅲ期平成12年度~16年度)第2次交絡因子調査編」に記載された「喫煙に関する集計結果」)。(甲A187)⒝ 【別紙12】により得られる固形癌死亡の過剰相対死亡率(ERR)の累積被曝線量区分がすべて喫煙率の違いによるという仮説(仮説S)を前提に線量区分別の喫煙率を推計すると,【別紙12】の「仮説Sの下で推算された喫煙率」欄記載のとおりとなる。 それによれば,仮説Sの下では,被曝線量0の集団での喫煙率が30%を超える場合,高被曝線量区分では喫煙率70%以上と推定されることになり,報告されているフランス,英国,米国での喫煙率を遥かに超えた値となる。(甲A215-1~4頁)⒞ 放射線被曝線量の癌罹患への影響を論ずる際に喫煙の影響は実質 的に無視できる程度に軽微であるとする報告が存在する(EricJ.Grant「原爆被爆者の寿命調査における固形癌罹患:1958-2009年」(甲A202))。(甲A201-3頁)c 中性子線被曝について中性子被曝をした作業者に対する放射線の影響の調査解析をする場合の中性子被曝の影響の排除の必要性について,Z 意見は,固形癌死亡の1Gy 当たりの過剰相対死亡率(ERR)は,100mGy 以下の全ての低線量被曝群(5群)が0.05以下であるのに対して,400mGy 以上の全ての高線量被曝群(2群)は0. 意見は,固形癌死亡の1Gy 当たりの過剰相対死亡率(ERR)は,100mGy 以下の全ての低線量被曝群(5群)が0.05以下であるのに対して,400mGy 以上の全ての高線量被曝群(2群)は0.2を超えており(【別紙13】参照),その差を中性子線量の割合の違いによる結果として説明することには無理があり,相対的には中性子被曝の影響は大きくないとする。(甲A201-1~2頁) Grant らの論文(甲A202)について寿命調査(LSS)における固形癌罹患率と結腸線量の関係について調査をしたものである。 男女を平均した線形の線量反応関係を用いると,被爆時年齢が30歳の人の70歳での線量1Gy 当たりの過剰相対死亡率(ERR)は0.50であった。喫煙の調整後の値は0.47であり,喫煙が放射線リスク推定値にほとんど影響しないことが示唆されたとする。 検討a 結果の評価についてINWORKS 癌論文では,本件で問題となる低線量被曝群については,1Gy 当たりの過剰相対死亡率(ERR)の精度が低いとしている。また,Z 意見でも,INWORKS 癌論文の評価の前提となったデータを【別紙13】に差し替える前後で,精度の記述に変化が見られる(甲A182)。 したがって,INWORKS 癌論文から,低線量被曝による癌の発症リスクの直線的増加を直ちに読み取ることはできない。 b 個別問題について 喫煙の影響の調整についてⅰ 同論文は,喫煙による交絡を間接的に評価するため,放射線量と肺癌を除く固形癌の関連を推定した結果,その過剰相対死亡率(ERR)の推定値が全固形癌のそれの数値と同様であったとする(肺癌を除くだけで喫煙の影響が調整されるのであれば, に評価するため,放射線量と肺癌を除く固形癌の関連を推定した結果,その過剰相対死亡率(ERR)の推定値が全固形癌のそれの数値と同様であったとする(肺癌を除くだけで喫煙の影響が調整されるのであれば,他の固形癌に喫煙の影響は及んでいないとも解し得る。)。 しかしながら他方で,同論文は,固形癌の分類から喫煙関連癌(口腔および咽頭,食道,胃,大腸,直腸,肝臓,胆嚢,脾臓,鼻腔,咽頭,肺,子宮頸部,卵巣,膀胱,腎臓及び尿管の癌)を除くと,1Gy 当たりの過剰相対死亡率(ERR)は大きく低下し,精度も低下したともしている。 このように,固形癌死亡の70%を占めるこの大きな喫煙関連癌のグループを除くことにより,1Gy 当たりの過剰相対死亡率(ERR)が大きく低下し,精度も低下したことからすると,喫煙が交絡因子として結果に大きく影響している可能性は否定できない。 ⅱ Z 意見についてZ 意見が依拠するGrant 論文は,原爆被爆者集団を対象とした上記疫学的調査研究において,喫煙が交絡因子となっていなかったというだけであり,他の放射線被曝と癌罹患率との関連性に係るいかなる疫学調査においても喫煙が交絡因子とならない,ということを意味しない。また,同論文は,100mGy を下回る低線量被曝と癌罹患率との関連性について調査研究したもので はない(弁論の全趣旨)。 他方で,喫煙が交絡因子として影響し得ることを指摘する論文(乙A369・特に4頁)や,研究・調査が存在しする(「原子力発電施設等の放射線業務従事者を対象とする低線量放射線による人体への影響に関する疫学的調査,1991-2010」(乙A370,乙A372))。 そうすると,Grant ら論文から直ちに喫煙が交絡因子として無視できる程度のものであるとはいえない。 線による人体への影響に関する疫学的調査,1991-2010」(乙A370,乙A372))。 そうすると,Grant ら論文から直ちに喫煙が交絡因子として無視できる程度のものであるとはいえない。 Z 意見書(甲A187)についてZ 意見書(甲A187)の「2.3 被曝線量別喫煙率との比較」においては,INWORKS 集団の線量群間のリスクの差異を,INWORKS 集団の喫煙データではなく,日本の集団の喫煙データを用いて説明しており,その手法自体に問題がある。また,日本の解析に用いている表3は,単なる集計結果であって,層別解析されたものではなく,年齢調整も考慮されていないことからすれば,上記Z 意見の信用性は低いと言わざるを得ない。 Z 意見書(甲A215)の意見についてZ 意見書(甲A215)は,日本の多目的コホート研究の結果を用いてINWORKS 集団の分析をしている点に問題があり,また,前記のとおり,【別紙13】の相対危険度や過剰相対危険度のデータは,とりわけ低線量被曝群において精度が低い可能性があるから,これを前提とする上記Z 意見は採用できない。 ⒝ 中性子線被曝の影響について【別紙14】のとおり,INWORKS 癌論文では,中性子線被ば くの調整を行わずに解析した結果,白血病を除く癌の1Gy 当たりの過剰相対死亡率(ERR)は有意ではなく,これを前提とするZ意見は採用できない。 そもそも,中性子被曝の不確かさの本質的な問題は,放射線被曝と癌発症率との間に統計学的に有意な関連性が認められるか否かの問題であり,単に,400mGy 以上の高線量被曝群の過剰相対死亡率(ERR)が中性子線被爆による影響であるか否かという問題ではないから,Z 意見は問題の立て方を誤るもの 関連性が認められるか否かの問題であり,単に,400mGy 以上の高線量被曝群の過剰相対死亡率(ERR)が中性子線被爆による影響であるか否かという問題ではないから,Z 意見は問題の立て方を誤るものである。 INWORKS 癌論文では中性子線被曝の評価が不確かであるため,解析に使用した線量分布が実際の線量分布と異なっている可能性が否定できない。 c その他の問題INWORKS 癌論文については,喫煙や中性子線被曝の影響のほかにも,職場における有害物質への曝露の情報や,診断や治療で受ける医療被曝の情報が収集されていない点にも,方法論的な問題があり,同研究結果のみで長期にわたる低線量被曝による健康への影響について結論づけることは早計である旨の評価もあり(乙A397),同論文を,低線量被曝による健康への影響についての確立した科学的知見を提供するものであると認めることはできない。 イ 「被ばく量が記録されている作業者における白血病とリンパ腫による死亡リスクと電離放射線:国際コホート研究」(乙A378の1・2。以下「INWORKS 白血病論文」という。)について INWORKS 白血病論文の概要フランス,英国,米国の放射線業務従事者を対象として,放射線被曝と白血病死亡率との関係を検討した結果,1Gy 当たりの慢性リンパ性白血病を除く白血病の過剰相対死亡率(ERR)が2.96/Gy とされ ている。 検討a INWORKS 白血病論文では,喫煙を含む複数の潜在的交絡因子等の影響が考慮されていないとして疑問を呈する見解が存在する(乙A379の1・2,乙A380の1・2)。 b INWORKS 白血病論文では,中性子による被曝が考えられる作業者で白血病( の影響が考慮されていないとして疑問を呈する見解が存在する(乙A379の1・2,乙A380の1・2)。 b INWORKS 白血病論文では,中性子による被曝が考えられる作業者で白血病(慢性リンパ性白血病を除く。)により死亡した127人が対象に含まれている(乙A378の1・2-e280頁)。 c 我が国の疫学的調査では,累積線量と白血病(慢性リンパ性白血病を除く。)による死亡との関係につき,累積線量と過剰相対リスク(ERR)との間に関連性は認められなかった(乙A370-16頁)。 d 以上によれば,INWORKS 白血病論文に基づいて低線量放射線被曝によって健康に影響が生じるとはいえない。 小括ア以上によれば,100m㏜以下の低線量被曝によっても健康への影響(確率的影響)があることについて,確立した科学的知見に関する証拠はないといわざるを得ない。 イこれに対し,一審原告らは,確率的影響では理論上一つの細胞が損傷しただけで癌等の罹患の可能性が生じるのであるから,100m㏜以下の低線量被曝によっても健康への影響はあること(1m㏜であっても健康への影響はあること)は科学的に証明されている旨主張する。 しかしながら,上記主張は採用することができない。すなわち,癌や遺伝性影響といった確率的影響といわれる健康への影響は,細胞のDNA 損傷による突然変異により生じる(乙A228の1-5頁・10頁)。 他方,細胞の損傷は,生体が備えている防御の処理能力を凌駕しない限り重大な影響は発生せず,短時間に高線量被曝した場合に急性放射線症(障害)が発症するのは,放射線によるラジカル(放射線が照射され電子の一部を失った原子で反応性が高いもの)発生やDNA損傷と生体の防御機構とのバランスが崩れるからと 高線量被曝した場合に急性放射線症(障害)が発症するのは,放射線によるラジカル(放射線が照射され電子の一部を失った原子で反応性が高いもの)発生やDNA損傷と生体の防御機構とのバランスが崩れるからとされる(乙A228の1-3~4頁)。 細胞が防御・修復機構の処理能力を凌駕するほどに損傷された場合に健康への影響が生じ得るところ,細胞の損傷の頻度と放射線量との関係や,細胞に備わった防御ないし修復機能の限界の有無・程度等といった,個別細胞にとどまらない全体としての人体の健康への影響の発生機序は解明されているとは言い難く,上記個別細胞レベルの理論が全体としての人体への影響を余すことなく評価しているのか明らかではない。 B 意見でも,バイスタンダー効果,適応応答(10~100mGyの低線量被曝をした細胞が示す反応で,被曝すると細胞死防止や遺伝子修復等に関する遺伝子群が発現誘導され,後から追加される被曝の影響を緩和する現象),超放射線感受性(10~30mGy の被曝で選択的に細胞死が誘導される現象)といった諸現象がヒトの放射線発癌リスクにどのように影響しているか分かっておらず,単位時間当たり被曝線量が低い場合や,1回の小さな線量を繰り返し被曝する場合には,積算総線量が100~200mGy 以上になっても,同じ線量の急性被曝と比較すると,突然変異率や細胞死率が減少するのも,上記諸現象が複合したためと考えられている(乙A228の1-5~6頁)。 以上に,前記したW らの研究では,LNT 仮説(閾値がなく結果と影響の頻度が直線関係にあるとするもの)と比較して低線量域でのリスク推定値は低くなったことなどを併せ考慮すれば,個別細胞レベル の一般的な理論だけでは,全体としての人体の健康への影響があることの立証としてはなお不十分であるといわ して低線量域でのリスク推定値は低くなったことなどを併せ考慮すれば,個別細胞レベル の一般的な理論だけでは,全体としての人体の健康への影響があることの立証としてはなお不十分であるといわざるを得ないのであって,LNT 仮説は飽くまで仮説ないし放射線防護のためのポリシーであるに留まるというべきである。 7 本件各申請者の被爆者援護法1条3号該当性の判断前記第1の2(原判決62頁。ただし,補正後のもの)のとおり,被爆者援護法1条3号にいう「身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった」とは,原爆の放射線により健康被害を生ずる可能性がある事情の下にあったことをいうものと解される。 被爆未指定地域のうち,最も高い被曝線量であったのは,b区域(戸石村及び矢上村の一部)である。 b区域の被曝線量の最高値と最低値の平均値を基に算定した年間積算線量(外部被曝)は,【別紙8】のとおり,① 減衰率を-1.2のべき乗とした場合で約18.7m㏜,② 減衰率を-1.5のべき乗とした場合で約47.7m㏜である。 そして,減衰率が-1.5のべき乗又はそれに準じた数値であると認められないことは,前記説示のとおりであり,減衰率が-1.2のべき乗を上回るものと認定することはできない。かえって,被爆未指定地域における放射性降下物の降下時期がA 意見のとおりであるとは認められず,また,マンハッタン調査団が地上高5㎝での測定値を用いていることによって,A 意見における被曝線量の推計が過大となっている可能性がある。 すると,b区域の外部被爆の年間積算線量が減衰率を-1.2のべき乗として計算した約18.7m㏜を上回るものであったと認定することはできない。 また,被爆未指定地域の住民は,戦時中及び戦後しばらくの間,近所で採れ 被爆の年間積算線量が減衰率を-1.2のべき乗として計算した約18.7m㏜を上回るものであったと認定することはできない。 また,被爆未指定地域の住民は,戦時中及び戦後しばらくの間,近所で採れた野菜,果物,山菜等を食べ,井戸水,近くの川の水や湧水を生活用水や 飲料用水として利用するという生活状況にあった(原判決79頁の)上,証拠(証人A(速記録)-26頁)及び弁論の全趣旨によれば,当時の住居は現在よりも気密性が低く,原爆投下直後には,放射線防護対策が国レベルでも個人レベルでも行われていなかったと認められることからすると,現在よりも生活環境中に存在する放射性物質が皮膚に接触し,また,その体内に取り込まれる可能性が高かったということができる。 しかし,被爆未指定地域の内部被曝線量は,K らが西山地区につき測定した規模よりも更に小さい規模であった可能性があるから,上記外部被曝の線量を大きく増加させるものであったと認めることができず,それによって,健康被害の危険性が高まるかどうか及びその程度を認定することはできない。 そうすると,b区域における外部被曝線量と内部被曝線量とを合計しても,年間積算線量が約18.7m㏜を上回るものと認めることはできない。 そして,100m㏜以下の低線量被曝によっても健康への影響(確率的影響)があることについて,確立した科学的知見に関する証拠はないといわざるを得ないことも前記説示のとおりである。したがって,上記認定の程度の年間積算線量の被曝によって健康被害を生ずる可能性があると認めることはできない。 よって,本件各申請者のうち長崎原爆投下当時にb区域に在った者は,そのことだけをもって,一般的に原爆の放射線により健康被害を生ずる可能性がある事情の下にあったということはできず,被爆者援護法 よって,本件各申請者のうち長崎原爆投下当時にb区域に在った者は,そのことだけをもって,一般的に原爆の放射線により健康被害を生ずる可能性がある事情の下にあったということはできず,被爆者援護法1条3号に該当するということはできない。 また,本件各申請者のうち長崎原爆投下当時に被爆未指定地域のそれ以外の区域に在った者は,それらの区域における被曝線量がb区域よりも少なかったのであるから,それぞれの区域に在ったということだけをもって被爆者援護法1条3号に該当するということはできない。 なお,本件各申請者に長崎原爆の投下後原爆の放射線による急性症状があったと認めるに足りるだけの証拠もない。 8 一審原告らの当審における主張(憲法14条違反)について 一審原告らの主張被爆者援護法上の「被爆者」には,長崎原爆投下当時,① 爆心地から5㎞以内に在って,当時の「科学的知見」によれば原爆の放射線により健康被害を被ったおそれがあるとされた者と,② 爆心地から5㎞以遠12㎞以内の旧長崎市の行政区画内に在って,当時の「科学的知見」によれば原爆の放射線により健康被害を被ったおそれはないが,行政上ないし政治的配慮により「被爆者」とされた者がいるが,このような行政上ないし政治的配慮による取扱いの差異は,事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものとはいえない。すなわち,ア旧長崎市の行政区画内に在った住民の間で「被爆者」該当性の判断が分かれることを回避する必要性は,上記の取扱いの差異の合理的な根拠とはならない。 イ旧長崎市の行政区画は,爆心地からの距離が当時の「科学的知見」によって健康被害が生じるおそれがあるとされた距離(5㎞)の2.4倍の距離にある地域にまで及ぶところ,① 被爆者の健康面に着目した社会保障法としての 政区画は,爆心地からの距離が当時の「科学的知見」によって健康被害が生じるおそれがあるとされた距離(5㎞)の2.4倍の距離にある地域にまで及ぶところ,① 被爆者の健康面に着目した社会保障法としての性格と② 「原子爆弾の投下の結果として生じた放射能に起因する健康被害が他の戦争被害とは異なる特殊の被害であることにかんがみ」た国家補償的性格を併せ持つところ,そのような性格の各種援護の給付について,5㎞以遠の旧長崎市内に在った者と同市外に在った本件各申請者との間で差異を設ける合理的な根拠はない。 ウ現に,被爆者援護法は,健康診断については,旧長崎市とそれ以外の行政区画とを区別せずに爆心地から12㎞圏内にいた者を「被爆者」とみなす旨規定しており(被爆者援護法7条,同附則17条,被爆者援護法施行 令附則2条,同別表第四),他の援護(医療の給付や各種手当の給付)について,これと異なる扱いをする合理的な理由がない。 よって,被爆者援護法施行令1条1項に基づく区域指定は憲法14条に違反するというべきであり,爆心地から12㎞圏内に在って,かつ,被爆者援護法1条1号の被曝地域以外に在った者全員を同条3号該当の被爆者とすべきである。 一審被告らの主張被爆者援護法1条1号及び2号における被爆地域の指定は,従来の行政区画を基礎として行われたため,例えば長崎市は南北に細長い形をしている結果,爆心地からの距離が比較的遠い場合であっても,同条1号の被爆地域の指定を受けることになる。 しかしこれは飽くまで旧行政区画で切らざるを得なかったという立法政策的な観点に基づく。被爆者対策の基本的な在り方としては,被爆地域の指定は,本来原爆投下による直接放射線量及び残留放射線の調査結果など,十分な科学的根拠に基づいて行われるべきもの かったという立法政策的な観点に基づく。被爆者対策の基本的な在り方としては,被爆地域の指定は,本来原爆投下による直接放射線量及び残留放射線の調査結果など,十分な科学的根拠に基づいて行われるべきものとされている。このような科学的・合理的な根拠に基づくことなく,これまでの被爆地域との均衡を保つためという理由だけで被爆地域を拡大することは,関係者の間に新たな不公平感を生み出す原因となり,いたずらに被爆地域の拡大を続ける結果を招来するおそれがある。 しかるに,一審原告らの主張は,上記のような政策的観点に基づき行われた被爆者援護法1条1号に係る立法趣旨ないし同号の適用範囲を,そのような観点が妥当しない場面である同条3号の場合に合理的な根拠のないまま無限定に及ぼすものであって,本末を転倒するものといわざるを得ない。 検討一審原告らは,被爆者援護法1条1号,被爆者援護法施行令1条1項に基づく区域指定の結果,長崎原爆投下時に爆心地から5㎞以遠12㎞以内の距 離に在った者のうち旧長崎市の行政区画内に在った者については,当時の科学的知見によれば原爆の放射線により健康被害を被ったおそれがなくても,行政上ないし政治的配慮により「被爆者」とされるのに,当時上記行政区画外に在った者については,そのような取扱いがされないのは,憲法14条に違反すると主張する。 しかし,仮に,上記区域指定が,「被爆者」の要件該当性について,長崎原爆投下当時旧長崎市の行政区画内に在った者とそれ以外の者の取扱いに合理的な根拠のない差異を設けているものとして,憲法14条に違反して無効であるとしたとしても,それによって,被爆者援護法や被爆者援護法施行令の改正を待つことなく直ちに,上記区域指定が被爆未指定地域に及ぶことになるとか,長崎原爆投下当時被爆未指定 法14条に違反して無効であるとしたとしても,それによって,被爆者援護法や被爆者援護法施行令の改正を待つことなく直ちに,上記区域指定が被爆未指定地域に及ぶことになるとか,長崎原爆投下当時被爆未指定地域に在った者が被爆者援護法1条3号に該当することになると解することはできない。 一審原告らは,被爆者援護法が,健康診断については,特例として,旧長崎市の行政区域外であっても,長崎原爆投下当時に爆心地から12㎞の区域内に在った者を「被爆者」とみなして援護を行うものとしていることを指摘して,上記区域指定が憲法14条に違反して無効であるとした場合,健康管理手当等の他の援護についても,「被爆者」の範囲を上記特例と同様に取り扱うべきであるとするが,健康診断についてそのような特例が規定されているからといって,現にそれ以外の援護について同様の特例を定めた規定がなく,上記のような立法的措置も講じられていない以上,本件における本件各申請者の「被爆者」要件該当性の判断が左右されることにはならない。 そうすると,被爆者援護法施行令1条1項に基づく区域指定の憲法適合性は,本件における一審原告らの請求の帰すうを左右するものではないから,これについて判断することは必要でなく,相当でもないというべきである。 第3 中心的争点についての判断の結論以上によれば,本件各申請者が被爆者援護法1条3号に該当するということ はできない。 第3章一審原告らの各請求についての判断第1 手帳交付申請却下処分の取消請求について前記説示のとおり,本件各申請者は,被爆者援護法1条3号に規定する者に該当しないから,本件各申請者に係る手帳交付申請却下処分は,いずれも適法であって,その取消しを求める一審原告らの請求は,いずれも理由がない。 第2 被爆者健康手帳交 者援護法1条3号に規定する者に該当しないから,本件各申請者に係る手帳交付申請却下処分は,いずれも適法であって,その取消しを求める一審原告らの請求は,いずれも理由がない。 第2 被爆者健康手帳交付の義務付け請求について一審原告らの被爆者健康手帳の交付の義務付けを求める訴えは,長崎県知事又は長崎市長において,本件各申請者がした手帳交付申請を認めて本件各申請者に対して被爆者健康手帳を交付すべきであるにもかかわらず,これがされないとして提起されたものであるから,行政事件訴訟法3条6項2号が定める申請型の義務付けの訴えに該当する。 同号が定める義務付けの訴えの要件は同法37条の3第1項が定めているところ,これを本件に即していえば,手帳交付申請却下処分が取り消されるべきものであるときに,一審原告らは,被爆者健康手帳の交付の義務付けの訴えを提起することができることになるが,本件各手帳交付申請却下処分がいずれも取り消されるべきものといえないことは前記説示のとおりである。 したがって,本件訴えのうち,一審原告らが被爆者健康手帳交付の義務付けを求める部分は,義務付けの訴えの要件を欠いて不適法であり,却下を免れない。 第3 被爆者の地位の確認請求について 1 原判決38頁末行から同40頁24行目までを引用する。 ただし,原判決39頁初行から2行目にかけての「相続人原告ら」を「原審口頭弁論終結前に死亡した本件各申請者の訴訟承継人である一審原告ら」に改め,40頁20行目から24行目までの括弧書きを削る。 2 一審原告らは,被爆者が死亡した場合,その相続人や葬祭を行った者が健康管理手当や葬祭料(被爆者援護法32条)の受給権を取得することを理由に,確認の利益があると主張する。 しかしながら,被爆者援護法27条に基づく認定の申請がされた 合,その相続人や葬祭を行った者が健康管理手当や葬祭料(被爆者援護法32条)の受給権を取得することを理由に,確認の利益があると主張する。 しかしながら,被爆者援護法27条に基づく認定の申請がされた健康管理手当の受給権は,手帳交付申請及び手当認定申請をした者の一身に専属する権利ということはできず,相続の対象となるところ,手帳交付申請及び手当認定申請の各却下処分の取消しを求める訴訟について,訴訟の係属中に申請者が死亡した場合には,当該訴訟は当該申請者の死亡により当然に終了するものではなく,その相続人がこれを承継するものと解される(最高裁平成28年(行ヒ)第404号の1同29年12月18日第一小法廷判決・民集71巻10号2364頁)。したがって,その相続人が訴訟を承継して上記各却下処分の取消しを得た上で,その取消しを前提として,被爆者健康手帳の交付を求めれば足りるのであり,死亡した申請者がその生前において被爆者の地位にあったことや被爆者援護法1条3号に該当する者であったことの確認を求める必要はない。 また,被爆者援護法には被爆者健康手帳交付の効果がその申請時に遡及する旨の特段の規定は存在しないから,被爆者健康手帳交付に係る被爆者の地位取得の効果はその申請を認容する処分がされた時に発生するというべきであり,それが認容される前に死亡した申請者は,被爆者援護法に規定する被爆者(被爆者援護法1条)に該当せず,その死亡をもって「被爆者が死亡したとき」(被爆者援護法32条)に当たるということはできないから,その葬祭を行った者が同条に基づく葬祭料の支給を受けることはできないというべきである。よって,葬祭料の支給を受けるために死亡した申請者が被爆者の地位にあったことや被爆者援護法1条3号に該当する者であったことの確認を求める利益があるともいえない。 ることはできないというべきである。よって,葬祭料の支給を受けるために死亡した申請者が被爆者の地位にあったことや被爆者援護法1条3号に該当する者であったことの確認を求める利益があるともいえない。 3 以上のとおり,本件訴えのうち,原審口頭弁論終結前に死亡した本件各申 請者の訴訟承継人である一審原告らが,当該本件各申請者が生前被爆者の地位にあったことの確認を求める請求に係る部分は,確認の利益がなく不適法であるから,これを却下すべきである。 第4 手当認定申請の却下処分の取消請求について長崎県知事及び長崎市長は,本件各申請者(一審原告25,165を除く。)について,いずれも被爆者援護法の「被爆者」に該当しないことを理由に本件各手当認定申請却下処分をしたものである。 本件各申請者が被爆者健康手帳の交付を受けていない以上,本件各申請者は,被爆者援護法1条に規定する被爆者ではないから,健康管理手当の支給要件(被爆者援護法27条1項)に該当しないことが明らかであって,上記の本件各申請者に係る本件各手当認定申請却下処分はいずれも適法というべきであり,その取消請求は理由がない。 第5 健康管理手当の支払請求について一審原告ら(一審原告25,165を除く。)の健康管理手当の支払請求に係る訴えは,一審被告らに対し,健康管理手当(被爆者援護法27条)として一定額の金員の支払を求める訴えであり,その性質は,当事者訴訟(行政事件訴訟法4条)に属する給付訴訟というべきである。 健康管理手当の支払請求を給付訴訟により行うことを許さない趣旨の法令上の規定は存在せず,給付訴訟の原告適格を有するのは,自らがその給付を請求する権利を有すると主張する者であり,被告適格を有するのは給付義務者であると原告が主張する者であって,被告とされた一審被告らが の規定は存在せず,給付訴訟の原告適格を有するのは,自らがその給付を請求する権利を有すると主張する者であり,被告適格を有するのは給付義務者であると原告が主張する者であって,被告とされた一審被告らが健康管理手当の支給主体であるかどうか,あるいは,原告となった一審原告らが具体的な健康管理手当請求権を有するかどうかなどは本案請求の当否に関わる事柄であるから,上記の一審原告らの健康管理手当の支払請求に係る訴えは,請求の適格性及び当事者適格において欠けるところはなく,いずれも適法というべきである。 しかし,上記の一審原告ら,は,いずれも健康管理手当の支給要件の認定を受けていないから,その受給権を有するとはいえず,その健康管理手当の支払請求は,いずれも理由がない。 第6 小括以上のとおり,一審原告らの請求のうち本件手帳交付申請却下処分及び本件手当認定申請却下処分の取消し並びに健康管理手当の支払を求める部分はいずれも理由がなく,その余の請求に係る訴えはいずれも不適法として却下すべきである。 第4章まとめ第1 原判決の主文について 1 原判決主文第1項について本件手帳交付申請却下処分及び本件手当認定申請却下処分の各取消し並びに被爆者健康手帳の交付の義務付け及び健康管理手当の支払を求める訴訟について,訴訟の係属中に申請者が死亡した場合には,その相続人が当該訴訟を承継する(前掲最高裁平成29年12月18日第一小法廷判決参照)。 そうすると,原判決中,本件各申請者のうち原審口頭弁論終結前に死亡した者が提起した本件手帳交付申請却下処分及び本件手当認定申請却下処分の各取消し並びに健康管理手当の支払を求める訴訟につき終了宣言をした部分(原判決主文第1項)は失当であるが,上記各請求は,いずれも理由がなく,棄却を免れないところ 下処分及び本件手当認定申請却下処分の各取消し並びに健康管理手当の支払を求める訴訟につき終了宣言をした部分(原判決主文第1項)は失当であるが,上記各請求は,いずれも理由がなく,棄却を免れないところ,同部分については,上記の本件各申請者の訴訟承継人である一審原告らのみが控訴しており,一審被告らは,控訴も附帯控訴もしていないから,不利益変更禁止の原則により,上記の一審原告らの控訴を棄却するにとどめるべきである。 2 原判決主文第2項について本件各申請者のうち原審口頭弁論終結前に死亡した者の訴訟承継人である一審原告らが提起した被爆者の地位の確認請求に係る訴えは,不適法であり, これを却下した原判決(原判決主文第2項)は相当であるから,上記の一審原告らの控訴を棄却すべきである。 3 原判決主文第3項について一審原告ら(本件各申請者のうち原審口頭弁論終結前に死亡した者の訴訟承継人である一審原告ら及び一審原告25,165を除く。)の,健康管理手当の支払を求める訴えは適法であり,原判決中,同訴えを却下した部分(原判決主文第3項)は失当であるが,同部分に係る請求は理由がなく,棄却を免れないところ,同部分については,上記の一審原告らのみが控訴しており,一審被告らは,控訴も附帯控訴もしていないから,不利益変更禁止の原則により,上記の一審原告らの控訴を棄却するにとどめるべきである。 4 原判決主文第4項及び第5項について一審勝訴原告らの本件手帳交付申請却下処分及び本件手当認定申請却下処分の各取消しの請求は理由がなく,原判決中,これを認容した部分(原判決主文第4項及び第5項)は失当であるから,一審被告らの控訴に基づき,同部分を取り消した上,同部分に係る一審勝訴原告らの請求を棄却し,一審勝訴原告らの被爆者健康手帳の交付の義 認容した部分(原判決主文第4項及び第5項)は失当であるから,一審被告らの控訴に基づき,同部分を取り消した上,同部分に係る一審勝訴原告らの請求を棄却し,一審勝訴原告らの被爆者健康手帳の交付の義務付けの訴えは不適法であり,原判決中,同訴えに係る請求を認容した部分(原判決主文第4項及び第5項)は失当であるから,一審被告らの控訴に基づき,同部分を取り消した上,同部分に係る一審勝訴原告らの訴えを却下すべきである。 5 原判決主文第6項及び第7項について一審原告ら(本件各申請者のうち原審口頭弁論終結前に死亡した者の訴訟承継人である一審原告ら及び一審勝訴原告らを除く。)の被爆者健康手帳交付義務付けの訴えは不適法であるから,原判決中,これを却下した部分(原判決の一審原告らの控訴を棄却することとし,本件手帳交付申請却下処分及び本件手当認定申請却下処分(一審原告25,165については,手帳交付申請却下処分の み)の各取消しの請求は理由がないから,原判決中,これを棄却した部分(原判決主文第6項,第7項)は相当であり,同部分に対する上記の一審原告らの控訴を棄却すべきである。 第2 結論よって,一審原告ら(一審勝訴原告らを除く。)の控訴を棄却し(主文第1項),一審被告らの控訴に基づいて原判決中一審被告ら敗訴部分を取り消して(主文第2項),同部分に係る一審勝訴原告らの請求のうち手帳交付申請却下処分及び手当認定申請却下処分の各取消しを求める部分を棄却し(同),被爆者健康手帳の交付の義務付けを求める部分に係る訴えを却下する(同)こととして,主文のとおり判決する。 福岡高等裁判所第1民事部 裁判長裁判官矢尾渉 主文 して,主文のとおり判決する。 理由 福岡高等裁判所第1民事部 裁判長裁判官矢尾渉 裁判官佐藤康平 裁判官村上典子

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