昭和47(行コ)7 公安委員会の裁決,運転免許停止処分各取消請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
昭和49年12月16日 広島高等裁判所 警察関係
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判決文本文23,156 文字)

○ 主文控訴人の被控訴人広島県公安委員会に対する控訴を棄却する。原判決中、被控訴人広島県警察本部長に関する部分を取消す。被控訴人広島県警察本部長が昭和四五年四月一四日控訴人に対してした六〇日間(実停止三〇日間)の運転免許停止処分を取消す。訴訟費用は、第一、二審を通じ、被控訴人広島県公安委員会に生じた分全部と控訴人に生じた分の五分の一を控訴人の負担とし、その余を被控訴人広島県警察本部長の負担とする。○ 事実一申立(一) 控訴人は、「原判決を取消す。被控訴人広島県公安委員会が昭和四五年六月一一日控訴人に対してした広公委(運管)第九一二号審査請求棄却裁決を取消す。」、主文第三項同旨、「訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする」との判決を求めた。(二) 被控訴人らは、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする」との判決を求めた。二主張と証拠関係当事者双方の主張と証拠関係は、次のとおり付加するほか、原判決の事実摘示のとおりであるから、これを引用する。(一) 控訴人の主張 1 本件転倒事故は、吊り輪の瑕疵のみを原因として発生したものである。すなわち、バスの立客中、吊り輪を持つ者は、バスの動揺等によつて転倒しないため、自ら身体のバランス保持をせず、吊り輪に全体重をかけている。そのうえ、現在の交通状況下に当然予想される急激なハンドル・ブレーキ操作に際しては、吊り輪にこれを把持する立客の体重以上の力が加わることは当然予想される。吊り輪は、これらを考慮して、通常の性能としては、通常人の全体重の三倍の力に耐えるよう計算されている。本件事故に際し、控訴人がした程度のハンドル操作、これによるバスの動揺は、現在の交通状況下では、ことに、カーブの多い本件路線においては、多々あることである。吊り輪の切断によつて生じた本件転倒事 。本件事故に際し、控訴人がした程度のハンドル操作、これによるバスの動揺は、現在の交通状況下では、ことに、カーブの多い本件路線においては、多々あることである。 通常人の全体重の三倍の力に耐えるよう計算されている。本件事故に際し、控訴人がした程度のハンドル操作、これによるバスの動揺は、現在の交通状況下では、ことに、カーブの多い本件路線においては、多々あることである。吊り輪の切断によつて生じた本件転倒事 。本件事故に際し、控訴人がした程度のハンドル操作、これによるバスの動揺は、現在の交通状況下では、ことに、カーブの多い本件路線においては、多々あることである。吊り輪の切断によつて生じた本件転倒事故は、吊り輪に瑕疵がなければ起らなかつたし、逆に、吊り輪に瑕疵が存する以上、本件事故時に事故が発生していないとしても、停留所発着の際や道路のカーブによるブレーキ・ハンドル操作によつても、同様の事故が発生することは確実である。2 控訴人が主文第三項掲記の処分(以下本件処分という)を受けたことにより、現在なお蒙つている不利益には、次のようなものもある。(1) 控訴人は、中国バス株式会社のバス運転手であるが、本件処分により三〇日の免許停止期間中、バス車掌(バス会社の機構の中にあつては、格下げである。)として勤務した。本件処分及びこれにより必然的にもたらされた右事態により、職業運転者としての控訴人に対する同僚の評価が下がるばかりか、会社の勤務評価面でマイナスがつきまとい、路線配置や昇給・昇任・賞与等にも影響がある。(2) 控訴人が将来個人タクシーあるいはトラツク事業の免許を取得しようとしても、現在の免許付与行政のもとでは、申請者に処分歴が存在すれば、大きくマイナスの影響を受ける。(3) 被控訴人らは、自動車運転者に対して無事故・無違反表彰を行つており、行政処分等の際、被表彰者に一定の考慮を払つつている。控訴人は、本件処分が取消されない限り、処分歴ありとして、右表彰を受けることができない。(二) 被控訴人らの主張 1 控訴人は、本件処分の取消を求める訴の利益がない。(1) 行政事件訴訟法九条は、取消訴訟におけるいわゆる原告適格のほか、取消訴訟がその処分等の失効後においても、なお処分等の取消によらなければ回復できない法律上の利益を有する限り、訴の 利益がない。(1) 行政事件訴訟法九条は、取消訴訟におけるいわゆる原告適格のほか、取消訴訟がその処分等の失効後においても、なお処分等の取消によらなければ回復できない法律上の利益を有する限り、訴の利益があることを規定している。 行政事件訴訟法九条は、取消訴訟におけるいわゆる原告適格のほか、取消訴訟がその処分等の失効後においても、なお処分等の取消によらなければ回復できない法律上の利益を有する限り、訴の 利益がない。(1) 行政事件訴訟法九条は、取消訴訟におけるいわゆる原告適格のほか、取消訴訟がその処分等の失効後においても、なお処分等の取消によらなければ回復できない法律上の利益を有する限り、訴の利益があることを規定している。これは、違法な行政処分等により権利、利害が侵害されている場合に、その処分等の効果が期間の経過その他の理由により消滅すると、これにより被つていた法律上の不利益は通常解消されるが、なおその処分等の取消を求めなければ回復できないような権利等法律上の不利益が残存することがある。そこで、このように処分の失効後においても、処分の取消によらなければ回復しえない法律上の利益を有する者に限つて訴の利益を認めることとしたのが、右規定の趣旨と解される。したがつて、処分の失効後においても、訴の利益が認められるためには、取消判決により処分等の違法であることが確定し、この判決の遡及的効力による回復しうる法的権利ないし利益が残存する場合でなければならない。事実上の利益たる反射的利益、予防的利益、名誉・信用などの人格的利益は法的権利、利益といえないから、これらの利益が存在することは法律上の利益がある場合に当らない。また、行政庁の違法な行政処分を理由とする国家賠償を請求する権利は、その原因たる処分につき取消判決を得たうえで行使しなければならないものでもなく、また国家賠償請求訴訟は取消訴訟より直截的かつ有効な救済手段であるから、この権利の存在は回復すべき法律上の利益があるとはいえない。(2) 運転免許停止処分を受けた者は、処分を受けた日から一年を経過することにより、法令上不利益に取扱われることはなくなるから(道路交通法一〇三条、同法施行令三八条)、その後においては判決によつて右処分が取消されても、法律上回復されるべき利益は残存しないこととなる。控 とにより、法令上不利益に取扱われることはなくなるから(道路交通法一〇三条、同法施行令三八条)、その後においては判決によつて右処分が取消されても、法律上回復されるべき利益は残存しないこととなる。控訴人はこの場合においても、なお法律上の利益があると主張し、その理由として運転免許証に停止処分が記載されることによる不利益等を掲げられるので、被控訴人はこれらの理由はいずれも失当であることについて、次のとおり主張する。 法令上不利益に取扱われることはなくなるから(道路交通法一〇三条、同法施行令三八条)、その後においては判決によつて右処分が取消されても、法律上回復されるべき利益は残存しないこととなる。控訴人はこの場合においても、なお法律上の利益があると主張し、その理由として運転免許証に停止処分が記載されることによる不利益等を掲げられるので、被控訴人はこれらの理由はいずれも失当であることについて、次のとおり主張する。(イ) 運転免許証に停止処分に係る事項が記載されることによる不利益について運転免許証の停止処分に係る記載は、被処分者の名誉、信用等をを毀損し、あるいは就職等に影響をおよぼすことがあることは否定しえないとしても、これは停止処分がもたらす事実上の効果にすぎず、その違法な権利侵害に対しては、国家賠償を請求することによつて救済を受けることが可能であり、したがつて予め停止処分の取消を求めておく必要もない。しかも、免許証の有効期間は免許証の交付または更新された日から起算して三年とされ(昭和四七年法律五一号による改正前の同法九二条三項)、更新はこれを受けようとする者が現に有する免許証と引替えに新たな免許証を交付して行なうこととされている(同法一〇一条、同法施行規則二九条三項)。控訴人は、昭和四二年一〇月二四日免許証の更新を受け、同四五年四月一四日なされた本件処分はこの免許証に記載されたものであるが、その後同年一〇月頃と同四八年九月二〇日の二回に亘つて免許の更新を受け、現在控訴人が所持している免許証には本件処分に係る事項は何等記載されていないのである。したがつて、控訴人の免許証に停止処分が記載されていることによる不利益の主張は、その前提を欠くから全く理由がないといわなければならない。(ロ) 個人タクシーまたはトラツク事業の免許取得に際して受ける たがつて、控訴人の免許証に停止処分が記載されていることによる不利益の主張は、その前提を欠くから全く理由がないといわなければならない。(ロ) 個人タクシーまたはトラツク事業の免許取得に際して受ける不利益について一般自動車運送事業の免許については、道路運送法六条の二に規定する欠格事由のほか法律上の制約はなく、右規定は道路交通法による行政処分の被処分者を欠格事由として掲げていないから、被処分者は右免許取得について法律上不利益な取扱いを受けることはない。もつとも、個人タクシーの免許については、運輸省の示した要綱にもとづき、各陸運局長が基準を定め、その資格要件の一つに過去三年間道路交通法に違反する行為であつて、運転免許の取消処分以外の処分(同法一二五条に規定する反則行為による反則金の納付を含む。 制約はなく、右規定は道路交通法による行政処分の被処分者を欠格事由として掲げていないから、被処分者は右免許取得について法律上不利益な取扱いを受けることはない。もつとも、個人タクシーの免許については、運輸省の示した要綱にもとづき、各陸運局長が基準を定め、その資格要件の一つに過去三年間道路交通法に違反する行為であつて、運転免許の取消処分以外の処分(同法一二五条に規定する反則行為による反則金の納付を含む。)を受けた者でないことを定めている。しかし、これは行政庁の自由裁量の範囲内に属する免許について、事務処理上の基準を明確にした内部的なものであつて、この資格要件を備えておれば直ちに免許を得ることができるものではないから、これにより被処分者が不利益を受けるおそれがあるとしても、停止処分にもとずく事実上の効果にすぎないというべきである。しかも、控訴人は処分を受けたときから三年を経過しているので、このことは全く問題にならない。(ハ) 表彰が行政処分に及ぼす影響について運転免許の行政処分をするに当り処分を軽減する場合等について、警察庁交通局運転免許課長から各道府県警察本部長等にあてた、昭和四六年三月二三日付警察庁丁運発第三六号通達は、その基準を定めている。右通達は処分の軽減事由の一つに、無事故運転または犯人逮捕もしくは人命救助等で表彰を受けているなど情状酌量すべき事情があり、かつその人格的態度において明らかに改善の可能性が期待できる場合を掲げている。他方、 分の軽減事由の一つに、無事故運転または犯人逮捕もしくは人命救助等で表彰を受けているなど情状酌量すべき事情があり、かつその人格的態度において明らかに改善の可能性が期待できる場合を掲げている。他方、優良運転手の表彰は各都道府県または市町村等の交通安全協会が行なつており、各協会によつて表彰の基準を異にしているが、一定の期間以上交通事故を起したことがなく、かつ他の模範となる人格であることを最小限の要件としていることにおいては一致している。このように行政処分または表彰を受けるにあたつて、無事故のほかに人格的な他の要素も斟酌することとしていることを考慮すれば、このような利益は事実上の利益にすぎず、法律上の利益といえないことは明らかである。しかも、控訴人は本件事故を起こす約一年前である昭和四三年一一月二八日、歩行者に治療三ヶ月を要する交通事故を惹起し、刑事および行政処分を受けているので、このときから優良運転手として表彰される資格を失つている。 うに行政処分または表彰を受けるにあたつて、無事故のほかに人格的な他の要素も斟酌することとしていることを考慮すれば、このような利益は事実上の利益にすぎず、法律上の利益といえないことは明らかである。しかも、控訴人は本件事故を起こす約一年前である昭和四三年一一月二八日、歩行者に治療三ヶ月を要する交通事故を惹起し、刑事および行政処分を受けているので、このときから優良運転手として表彰される資格を失つている。したがつて、控訴人の行政処分において表彰が考慮されるので、訴の利益があるとの主張は失当である。(ニ) 控訴人が勤務先から受ける昇給、賞与、昇任などの不利益について控訴人は、本件処分により、勤務先である中国バス株式会社から昇給、昇任、賞与等において影響を受けている旨主張するが、このような事実は全くないので理由はない。そして、仮に右会社からこのような不利益を受けたとしても、損害賠賞を請求することにより目的は達成されるものであるから、処分の取消を求める利益はない。2 破損した吊り輪には、小さな穴が存在した瑕疵があるけれども、同種の吊り輪について過去に破損した事例はなく、当時控訴人が運転していたバスは、昭和三八年四月に購入され、以後吊り輪を取替えたことがなく、右吊り輪は事故当時まで約六年半の長期にさたり使用され、 も、同種の吊り輪について過去に破損した事例はなく、当時控訴人が運転していたバスは、昭和三八年四月に購入され、以後吊り輪を取替えたことがなく、右吊り輪は事故当時まで約六年半の長期にさたり使用され、通常の運転に十分耐えてその効用を果たしていた。この事実からすると、右吊り輪の瑕疵は、本件事故について大きな原因とはいえない。(三) 証拠関係(省略)○ 理由一控訴人の被控訴人広島県公安委員会に対する請求は失当である。その理由は、原判決理由第一に説くとおりであるから、これを引用する。二控訴人の被控訴人広島県警察本部長に対する請求について(一) 請求原因一、二の事実は、当事者間に争いがない。(二) 訴の利益について本件処分が道路交通法一〇三条二項二号に基く運転免許の効力を停止する処分であることは、右争いのない事実から明らかである。本件処分のように、道路交通法一〇三条二項二号所定の違反行為(以下単に違反行為という。)を理由とする運転免許の効力停止処分は、被処分者に対して、停止期間中当該免許の効力を停止して自動車等の運転を禁ずる効力を有するに止まらず、右期間経過後も後記のような具体的効果をもつ、被処分者の名誉・信用等を毀損する制裁的な処分であるというべきである。 効力を停止する処分であることは、右争いのない事実から明らかである。本件処分のように、道路交通法一〇三条二項二号所定の違反行為(以下単に違反行為という。)を理由とする運転免許の効力停止処分は、被処分者に対して、停止期間中当該免許の効力を停止して自動車等の運転を禁ずる効力を有するに止まらず、右期間経過後も後記のような具体的効果をもつ、被処分者の名誉・信用等を毀損する制裁的な処分であるというべきである。これに関連する制度や行政上の取扱等に触れると、 1 運転免許を保有する者の違反行為の多くは、反則行為とされ、これに対し刑罰を科さないで、反則金の納付によりこれに代えるのを原則としているが、過去一年以内に違反行為を理由として運転免許の停止処分を受けている場合は、反則行為のうちその殆どにつき、反則行為に関する特例処理手続による途を閉ざしている(道路交通法一二五条)。2 公安委員会は、運転免許を保有する者が、違反行為をした場合、政令の定める基準により運転免許の取消・停止をすることができ 反則行為に関する特例処理手続による途を閉ざしている(道路交通法一二五条)。2 公安委員会は、運転免許を保有する者が、違反行為をした場合、政令の定める基準により運転免許の取消・停止をすることができる旨定められている(道路交通法一〇三条)、ところで、右基準には、違反行為の種別等と並んで、過去三年間の違反行為の前歴の有無・回数が処分内容決定の要素とされ、過去一年間に停止処分歴のない者は一定の場合、違反行為の前歴が考慮外となるよう定められている(同法施行令三三条の二、別表第二備考) 3 免許証は、自動車等を運転するときはこれを携帯し、かつ道路交通法所定の場合には警察官の求めによりこれを提示すべきものである(同法九五条)が、これには、免許の効力停止に関する一定事項を記載すべき旨(同法九三条二項、一〇三条八項)、また免許停止処分については、都道府県公安委員会から国家公安委員会に報告すべき旨(同法一〇六条)それぞれ定められている。4 行政庁は、道路運送法所定の事業免許の申請につき許否を決する場合、過去の運転免許停止処分の前歴の有無・内容を、申請者の法令遵守状況の判断資料として、重視することが多いことは、公知の事実である。一例を挙げると、広島陸運局長告示昭和四六年三月一五日第二五号(成立に争いのない乙第一〇号証)には、控訴人の住所地を含む同陸運局管内の一般乗用旅客自動車運送事業(一人一車制、いわゆる個人タクシー)の新規免許につき、過去三年間に免許停止処分を受けた者を欠格としている。 する場合、過去の運転免許停止処分の前歴の有無・内容を、申請者の法令遵守状況の判断資料として、重視することが多いことは、公知の事実である。一例を挙げると、広島陸運局長告示昭和四六年三月一五日第二五号(成立に争いのない乙第一〇号証)には、控訴人の住所地を含む同陸運局管内の一般乗用旅客自動車運送事業(一人一車制、いわゆる個人タクシー)の新規免許につき、過去三年間に免許停止処分を受けた者を欠格としている。5 警察庁交通局運転免許課長通達「運転免許の効力の停止等の処分の軽減および処分量定の特例に関する基準について」(昭和四六年三月二三日付警察庁丁運発第三六号、成立に争いのない乙第一一号証)には、交通安全協会等から長期間の無事故運転を理由として表彰を受けた事実は、運転免許の 処分量定の特例に関する基準について」(昭和四六年三月二三日付警察庁丁運発第三六号、成立に争いのない乙第一一号証)には、交通安全協会等から長期間の無事故運転を理由として表彰を受けた事実は、運転免許の停止等の処分量定に際し、軽減の一事由とされているところ、財団法人広島県交通安全協会の表彰規程(成立に争いのない乙第一二号証)では、一〇年あるいは一五年以上、職業運転者として勤務し、その間交通事故を起こしたことにより免許停止等の処分を受けたことがないこと等を表彰の要件とし、成立に争いのない乙第一三号証によると、控訴人の住所を管轄する府中交通安全協会も類似の表彰制度を設けていることが認められる。6 私入間にあつても、自動車等の運転を業とする者については、その雇傭等に関し、その現に有する運転免許の種別や免許歴のほか、免許停止等の処分歴も通常重視されることは、公知の事実である。7 警察その他の行政庁、私人を通じ、現に免許証に記載され、あるいは、その他記録上確認し得る免許停止の前歴があれば、直ちに、その原因となつた違反行為があつたものとみなす扱いであることも、また公知の事実である。以上のような法制度ないし行政上あるいは私人間の取扱は、違反行為を理由とする運転免許停止処分が当該被処分者に対し、その違反行為の存在を確認・宣言する制裁的処分としての性格を有し、これによつて被処分者の名誉・信用等に対する社会的評価が低下せしめらること並びにそのことは、右処分の事実が存する以上、やむを得ぬこととして一般的に是認せられていることにもとづくものであるということができる。 た公知の事実である。以上のような法制度ないし行政上あるいは私人間の取扱は、違反行為を理由とする運転免許停止処分が当該被処分者に対し、その違反行為の存在を確認・宣言する制裁的処分としての性格を有し、これによつて被処分者の名誉・信用等に対する社会的評価が低下せしめらること並びにそのことは、右処分の事実が存する以上、やむを得ぬこととして一般的に是認せられていることにもとづくものであるということができる。もとより、本件処分のような違反行為を理由とする免許停止処分の具有する制裁的処分としての効果は、期間の経過によつて薄れてゆくことは否定できないし、前述の具体的不利益のうちには、一年ないし三年の期間の経過 より、本件処分のような違反行為を理由とする免許停止処分の具有する制裁的処分としての効果は、期間の経過によつて薄れてゆくことは否定できないし、前述の具体的不利益のうちには、一年ないし三年の期間の経過により消滅するものもないわけではないが、制裁的処分としての効果・影響がこのような短期間ですべて消滅し去るものではない。殊に、控訴人のように自動車運転を業とする者(この点は争いがない。)にあつては、右効果・影響は極めて広汎かつ長期にわたることが予測されるのであつて、これを排除するため違法な運転免許の停止処分の取消を求める利益は、控訴人にとつて看過できない客観的価値をもつ法的利益というべきである。以上述べたところにより、当裁判所は、運転免許停止処分については、その制裁的処分としての人格権的利益侵害の効果が現存する限り、取消を求める訴の利益を認めるべきであり、控訴人についてもこれを肯定すべきものと解する。右のように解することは、理論上支障がないと考えられるし、実際上極めて有用である。もしも、反対の見解を採り、免許停止期間の経過により直ちに訴の利益が失われるとするならば、訴訟審理期間の実情からみて、違法な免許停止処分を受けた者は、いかに出訴期間を遵守しても、取消訴訟によつて救済される可能性は絶無といつても過言ではないし、仮にさきに述べたところにより処分後一年ないし三年間訴の利益を認めるとしても、なお多くの場合取消訴訟による救済は困難といわねばならない。もとより、損害賠償請求による救済の道は別途存する。しかし、人格権的利益の侵害について金銭賠償のみにより十分な満足をうるのが困難であることは、その損害の具体的様相が極めて多岐多様である(運転免許停止処分についてさきに述べたところによつてもこの点は明らかである)ことに由来する不可避の事象ともいうべきで 一年ないし三年間訴の利益を認めるとしても、なお多くの場合取消訴訟による救済は困難といわねばならない。もとより、損害賠償請求による救済の道は別途存する。しかし、人格権的利益の侵害について金銭賠償のみにより十分な満足をうるのが困難であることは、その損害の具体的様相が極めて多岐多様である(運転免許停止処分についてさきに述べたところによつてもこの点は明らかである)ことに由来する不可避の事象ともいうべきで 分な満足をうるのが困難であることは、その損害の具体的様相が極めて多岐多様である(運転免許停止処分についてさきに述べたところによつてもこの点は明らかである)ことに由来する不可避の事象ともいうべきであつて、民法七二三条、不正競争防止法一条の二の三項が金銭賠償に代りないしはこれを補うものとして、名誉または信用を回復するに適当な措置を求めうるとした趣意もまた、右の点にあると理解されるのである。そして、制度的制約を考慮の外におけば、名誉侵害的な行政処分に対する私法上の救済においても右代替ないし補充措置として最も直せつ簡明で有効適切なものが右行政処分自体の取消にあることは明瞭であり、それが制度的に不能である以上、公法上の救済として取消訴訟の窓口をなるべく広く開いておくことは、実際面の配慮として当然留意さるべきことといえよう。(三) 本案について控訴人に本件処分の理由として掲げられた過失があつたとの証拠がなく、また、乗客の受傷については控訴人に責任がないものと断ずべきである。以下その理由を述べる。控訴人がその主張の時刻頃本件バスを運転し、停留所手前にある控訴人主張の三差路左方の竹を積んだ三輪自動車を避けるため、ハンドルを右に、次いで左に切つたこと、その際吊り輪を持ち立つていた乗客Aが右吊り輪の破損切断により車内に転倒し受傷したことは、当事者間に争いがない。成立に争いのない甲第一号証、乙第四号証の一ないし七、第九号証、原審証人B、同C、同Dの各証言、控訴人の原審における本人尋問の結果によると、本件事故現場の本件バスが進行していた道路は、歩車道の区別のない幅員約一一メートルの平坦な概ね直線の見とおしのよいアスフアルト舗装の県道であること、控訴人は、前記日時刻右バスを運転し、右道路の中央線から左側部分(自車線)の中央辺りを時速約四〇キロメートルで い幅員約一一メートルの平坦な概ね直線の見とおしのよいアスフアルト舗装の県道であること、控訴人は、前記日時刻右バスを運転し、右道路の中央線から左側部分(自車線)の中央辺りを時速約四〇キロメートルで東進中、信号機のない前掲三差路の左方道路から前掲三輪自動車が積載した青竹の先端を右交差点内に約二・六五メートル突出した状態で停つているのを、約三〇メートル手前で発見したこと、右地点は、次の停留所の約七〇メートル手前であつて、バス車掌は次の停留所の案内を終えていたこと、控訴人は、右三輪自動車が前進する気配を認めなかつたので、もし、同車が前進をはじめた場合には、自車を急停車させるつもりで、右三輪自動車の前方を通過すべく、前記速度のまま約一〇メートル進行し、同車がなお停止しているので、自車の速度を格別減ずることもなく、ハンドルを右に切つて、センターラインを約一・三メートル越えて右三輪自動車の前方を通過した後、すぐハンドルを左に切り返したところ、乗客が倒れたような大きな音を後方に聞き、右交差点東端から約三五メートルの道路左脇に停車したこと、おりしも、前掲乗客Aは、次の停留所で下車すべく、立ち上がり吊り輪を持つていたところ、前記ハンドル操作により本件バスが左右に揺れたため、右吊り輪にほぼ全体重をかけたところ、右吊り輪が破損切断し、その結果、同女が同車内に転倒し負傷したことが認められる。 の前方を通過した後、すぐハンドルを左に切り返したところ、乗客が倒れたような大きな音を後方に聞き、右交差点東端から約三五メートルの道路左脇に停車したこと、おりしも、前掲乗客Aは、次の停留所で下車すべく、立ち上がり吊り輪を持つていたところ、前記ハンドル操作により本件バスが左右に揺れたため、右吊り輪にほぼ全体重をかけたところ、右吊り輪が破損切断し、その結果、同女が同車内に転倒し負傷したことが認められる。右事実によると、乗客Aの転倒時の状況に鑑み、控訴人のハンドル操作によつて、本件バスの車体が左右に揺れることがなければ、同女が持つていた吊り輪に強い張力が作用せず、右吊り輪が切損することがなかつたと推認することができる。しかし、右吊り輪切損の事実から直ちに、控訴人の前記ハンドル操作が極端に急激なものであつて、本件バスに異常に大きな横揺れが生じたものと推認したり、控訴人の前 ることがなかつたと推認することができる。しかし、右吊り輪切損の事実から直ちに、控訴人の前記ハンドル操作が極端に急激なものであつて、本件バスに異常に大きな横揺れが生じたものと推認したり、控訴人の前記ハンドル操作・これによる本件バスの横揺れと吊り輪の切損・同女の受傷との間に相当因果関係があるということはできない。すなわち、原審及び当審における証人Eの証言によると、切損した吊り輪はプラステイツク製であつて、従前からバスに多く使用される型式のものであり、本件事故車両に設置されて既に六年以上経過していること、控訴人の勤務する中国バス株式会社においてかつてバスの動揺に基く吊り輪の切損の事例はなく、ことにその極限ともいうべき衝突、転落等の事故の場合にあつても、吊り輪の切損の事例をみないことが認められ、さらに、プラステイツク製品が、物性上常温では脆い物体であつて、表面亀裂等の損傷のない限り極めて大きな張力に耐え得る一方、一定の損傷の存する場合、その部位から容易に切断されるに至るものであること、このような脆さは、寒冷状態の経過や長期の曝気によりさらに高程度のものとなることをも考えると、右吊り輪の切損の事実が本件事故当時右吊り輪に切損の原因となるような何らかの瑕疵の存したことを推認させるものであるということはできても、このような瑕疵の不存在が立証されない限り、右切損の事実をもつて、事故の際に右吊り輪に過大な力が作用したものと推認すべき限りでなく、バスの動揺の結果として右吊り輪に加わつた張力は、その切損の誘因と考えられるにしても、その域を超えて因果関係を肯認することはできない。 と、右吊り輪の切損の事実が本件事故当時右吊り輪に切損の原因となるような何らかの瑕疵の存したことを推認させるものであるということはできても、このような瑕疵の不存在が立証されない限り、右切損の事実をもつて、事故の際に右吊り輪に過大な力が作用したものと推認すべき限りでなく、バスの動揺の結果として右吊り輪に加わつた張力は、その切損の誘因と考えられるにしても、その域を超えて因果関係を肯認することはできない。そして、前掲甲第一号証及びBの証言によれば、右吊り輪には巣(二ミリメートル×〇・三ミリメートルの小孔)があつたことが認められるのであるが、右の点を含めて右吊り輪に切損の原因となるよ とはできない。そして、前掲甲第一号証及びBの証言によれば、右吊り輪には巣(二ミリメートル×〇・三ミリメートルの小孔)があつたことが認められるのであるが、右の点を含めて右吊り輪に切損の原因となるような瑕疵が存しなかつたことは立証せられていない。ところで、控訴人はバスの運転者として乗客に危害を及ぼさないよう、ことに、停留所に接近し乗客が下車準備のため立上がることが十分予想される場合には、立客の転倒等の事態が発生しないようにハンドル等の操作をすべき注意義務があるというべきところ、控訴人の前掲ハンドル操作が乗客に危害を及ぼす虞がある程度に急激なものといえるかについて考察すると、前記認定の本件バスの速度・進路関係の事実からは、そのように判断することはできないし、前掲証拠によると当時の本件バス同乗者中には、控訴人の急激なハンドル操作により、本件バスが大きく左右に揺れたとする者があるが、右の者もその動揺等の程度につきさらに具体的に表現せず、これらの者がかように感じたというだけでは、控訴人の前記ハンドル操作が右に述べる程度に急激なものであつたとみることはできず、他にこれを認めるに足る証拠はない。したがつて、控訴人の本件事故の際のハンドル操作が乗客に危険を及ぼす虞がある程度に急激なものであつたということはできないし、また、乗客Aの転倒受傷につき、控訴人の運転操作に基因するものとして控訴人にその責任を帰することはできない(バス運転者に、吊り輪の瑕疵につき点検する等の義務があるといえないことは、原審及び当審証人Eの証言、自動車点検基準(昭和二六年運輸省令第七〇号)に照らし、明らかである。)。よつて、控訴人に本件事故発生につき過失があり、本件乗客の受傷につき責任があることを前提とする被控訴人広島県警察本部長のした本件処分は違法として取消されるべきであ 運転操作に基因するものとして控訴人にその責任を帰することはできない(バス運転者に、吊り輪の瑕疵につき点検する等の義務があるといえないことは、原審及び当審証人Eの証言、自動車点検基準(昭和二六年運輸省令第七〇号)に照らし、明らかである。)。よつて、控訴人に本件事故発生につき過失があり、本件乗客の受傷につき責任があることを前提とする被控訴人広島県警察本部長のした本件処分は違法として取消されるべきであ 号)に照らし、明らかである。)。よつて、控訴人に本件事故発生につき過失があり、本件乗客の受傷につき責任があることを前提とする被控訴人広島県警察本部長のした本件処分は違法として取消されるべきであり、その取消を求める控訴人の右被控訴人に対する請求は理由がある。三よつて、原判決中被控訴人広島県公安委員会に対する請求を棄却した部分は正当であつて、これに対する控訴は失当として棄却すべく、被控訴人広島県警察本部長に対する請求にかかる部分はこれを取消して控訴人の同被控訴人に対する請求を認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、九二条、八九条を適用して主文のとおり判決する。(裁判官胡田勲西内英二高山晨)(原裁判等の表示)○ 主文一、原告の広島県公安委員会に対する請求を棄却する。二、原告の広島県警察本部長に対する請求を棄却する。三、訴訟費用は原告の負担とする。○ 事実第一、当事者の求めた裁判(請求の趣旨)一、被告広島県公安安委員会が昭和四五年六月一一日原告に対してなした広公委(運管)第九一二号審査請求棄却裁決を取消す。二、被告広島県警察本部長が同年四月一四日原告に対して為した六〇日間(実停止三〇日間)の運転免許停止処分を取消す。三、訴訟費用は被告らの負担とする。(請求の趣旨に対する答弁)〈被告広島県公安委員会〉1、本案前の答弁一、原告の被告広島県公安委員会に対する訴を却下する。二、訴訟費用は原告の負担とする。2、本案に対する答弁一、主文第一項及び第三項と同旨。〈被告広島県警察本部長〉1、本案前の答弁一、原告の被告広島県警察本部長に対する訴を却下する。二、訴訟費用は原告の負担とする。2、本案に対する答弁一、主文第二項及び第三項と同旨。第二、当事者の主張(請求原因)一、被告広島県警察本部長に 原告の被告広島県警察本部長に対する訴を却下する。二、訴訟費用は原告の負担とする。2、本案に対する答弁一、主文第二項及び第三項と同旨。 弁一、主文第一項及び第三項と同旨。〈被告広島県警察本部長〉1、本案前の答弁一、原告の被告広島県警察本部長に対する訴を却下する。二、訴訟費用は原告の負担とする。2、本案に対する答弁一、主文第二項及び第三項と同旨。第二、当事者の主張(請求原因)一、被告広島県警察本部長に 原告の被告広島県警察本部長に対する訴を却下する。二、訴訟費用は原告の負担とする。2、本案に対する答弁一、主文第二項及び第三項と同旨。第二、当事者の主張(請求原因)一、被告広島県警察本部長に、昭和四五年四月一四日、原告に対し、原告の所有する大型二種等の運転免許証の使用を右同日より同年六月一二日までの六〇日間停止するとの処分(以下、「本件処分」という。)をし、即日原告にその旨通知した。但し、右処分の停止期間はその後、三〇日間に短縮された。二、本件処分の理由とするところは次のとおりである。原告は中国バス株式会社のバス運転者であるが、昭和四四年一二月一一日、同社所有の大型乗合バスを運転して府中市広谷町八〇八の一番地附近路上にさしかかつた際、原告の急激なハンドル操作による過失によつて同車の乗客である訴外Aに全治三ヶ月間の傷害を負わせ、道路交通法(以下「法」という。)第七〇条に違反した。三、しかしながら、原告は自動車運転者としての安全運転義務を尽くしており、何ら右事故につき過失は認められない。すなわち、右事故の事情は次のとおりである。原告は、昭和四四年一二月一一日午後五時五八分頃、乗合バスを運転して本件事故現場にさしかかり、停留所の直前であるため速度を落して進行中、前方左方道路より竹を積んだ自動三輪車の前部を発見し、これを避けるべくハンドルを右に切り、更に左に切り直したところ、吊り輪をもつて車内に立つていた乗客訴外Aは右吊り輪が切断した為転倒し、傷害を負つた。ところで、同人の転倒負傷は、右吊り輪の瑕疵による切断に起因するものであつて、原告は当時、急激なハンドル操作を行つたものでなく、何ら運転上の過失はなかつた。又、運転者である原告には吊り輪の瑕疵の有無を事前に点検する義務は課されていない。四、原告は本件処分に不服であるので、昭和四五 時、急激なハンドル操作を行つたものでなく、何ら運転上の過失はなかつた。又、運転者である原告には吊り輪の瑕疵の有無を事前に点検する義務は課されていない。四、原告は本件処分に不服であるので、昭和四五年五月一二日、被告広島県公安委員会に対し審査請求をなしたが、右被告は同年六月一一日付で右請求棄却の裁決(以下、「本件裁決」という。 点検する義務は課されていない。四、原告は本件処分に不服であるので、昭和四五 時、急激なハンドル操作を行つたものでなく、何ら運転上の過失はなかつた。又、運転者である原告には吊り輪の瑕疵の有無を事前に点検する義務は課されていない。四、原告は本件処分に不服であるので、昭和四五年五月一二日、被告広島県公安委員会に対し審査請求をなしたが、右被告は同年六月一一日付で右請求棄却の裁決(以下、「本件裁決」という。)をし、同月二二日一原告に通知した。右棄却裁決の理由として「原告の急激なハンドル操作が事故の原因である」と記散されている。五、本件裁決ならびに本件処分はいずれも本件事故につき原告に責任がないにもかかわらず責任があるとしてなされたもので、違法である。よつて、本件処分ならびに本件裁決の取消を求める。(被告らの主張)1、第三五号事件に関する本案前の主張本件処分取消の訴につき、原告は次の理由により訴の利益を喪失するに至つたものであるから、訴の却下を求める。すなわち、本件処分は昭和四五年四月一四日なされたものであり、同年五月一三日の経過によつてその効力を喪失した。ところで、法第一〇三条及び同法施行令第三八条、第四〇条の二(改正前)の規定によれば、公安委員会は道路交通法違反者に対する行政処分の種類、程度を決定するにつき、過去三年以内になされた当該違反者の運転免許停止処分の前歴を判断の資料とすることになつているが、同法施行令別表第二の備考によれば、一年間を無事故、無違反によつて経過した場合には前歴の故をもつて被処分者を不利益に取り扱うことを得ないものとされている。そうすると、本件処分の日たる同年四月一四日から起算して満一年を経過した昭和四六年四月一三日の翌日以降は、本件処分が判決によつて取消されたとしても、もはや法律上の利益を回復される余地はない。従つて、原告は同日以後、本件処分取消を求める利益を喪失したものというべきで た昭和四六年四月一三日の翌日以降は、本件処分が判決によつて取消されたとしても、もはや法律上の利益を回復される余地はない。従つて、原告は同日以後、本件処分取消を求める利益を喪失したものというべきである。2、請求原因に対する答弁一、請求原因第一項、第二項及び第四項の事実は認める。二、同第三項は否認する。3、安全運転義務違反についての主張原告には本件事故に関し、次の過失が認められる。 たものというべきで た昭和四六年四月一三日の翌日以降は、本件処分が判決によつて取消されたとしても、もはや法律上の利益を回復される余地はない。従つて、原告は同日以後、本件処分取消を求める利益を喪失したものというべきである。2、請求原因に対する答弁一、請求原因第一項、第二項及び第四項の事実は認める。二、同第三項は否認する。3、安全運転義務違反についての主張原告には本件事故に関し、次の過失が認められる。原告は、原告の主張する日時、場所において、大型乗合バスに乗客一七、八名を乗せ、時速約四〇キロメ-トルで東進中、前方約三一・五メートルの三差路交差点左方より、青竹を積載した三輪貨物自動車が同県道に向け、青竹の先端を約二・六五メートル突出して停止しているのを発見した。しかも、右発見場所はバス停留所の手前約一〇〇メトールの地点であり、既に同車車掌が次の停留所のアナウンスを終え、乗客は降車準備のため立ち上がつていたのであり、原告も右事実を十分予知することが可能であつたのであるから、このような場合、大型乗合バスの運転者としては、緊急事態を回避する場合を除くほか、不用意に急激なハンドル操作を避け、もつて乗客の安全を図る注意義務がある。しかるに、原告は三輪貨物車を発見した後も何ら減速することなく、同車が前進する気配を見せなかつたので、急遽同車の前部を通過しようと試み、急激に右側に約三・三メートル程ハンドルを切り、さらに元に戻すべく左側にハンドルを切り返した。この為、吊り輪を持ち立つていたバスの乗客訴外Aは衝撃を受け、体の安定を失つて、吊り輪に体重の殆んどを掛けた為、吊り輪が破損し、凭り所を失つた同人は車内に転倒し、加療三ヶ月を要する左大腿骨頸部骨折等の傷害を負つた。よつて、原告の右所為は法第七〇条に規定する安全運転義務違反行為に該当する。(被告らの本案前の主張に対す 損し、凭り所を失つた同人は車内に転倒し、加療三ヶ月を要する左大腿骨頸部骨折等の傷害を負つた。よつて、原告の右所為は法第七〇条に規定する安全運転義務違反行為に該当する。(被告らの本案前の主張に対する原告の反論)一、本件処分が昭和四五年五月一三日の経過によつて、その効力を喪失したことは認める。しかしながら、行政事件訴訟法第九条にいわゆる「法律上の利益」には「法律の保護に値する利益」をも含まれるものと解すべきところ、本件処分は被処分者の名誉、信用等の人格的法益を侵害する制裁処分であり、一旦右処分がなされると道路交通法の規定によつてその旨免許証に記載され、その後停止期間の満了により右停止処分の効力が消滅しても当該処分自体が取消されない限り、免許証の右記載は抹消しうる規定がない以上存続し、その結果右前歴を理由として行政庁から不利益な取り扱いを受けたり、個人タクシーの免許取得、トラツク事業の免許取得や就職の際有形、無形の不利益を被る虞れが大であるから原告は本件訴えにつき法律の保護に値する利益を有するものと解すべきである。 によつてその旨免許証に記載され、その後停止期間の満了により右停止処分の効力が消滅しても当該処分自体が取消されない限り、免許証の右記載は抹消しうる規定がない以上存続し、その結果右前歴を理由として行政庁から不利益な取り扱いを受けたり、個人タクシーの免許取得、トラツク事業の免許取得や就職の際有形、無形の不利益を被る虞れが大であるから原告は本件訴えにつき法律の保護に値する利益を有するものと解すべきである。第三、証拠(省略)理田第一、先ず第三〇号事件の広島県公安委員会に対する裁決取消の請求について判断する。行政事件訴訟法第一〇条第二項によれば、処分の取消の訴とその処分についての審査請求を棄却した裁決の取消の訴とを提起することができる場合には、裁決の取消の訴においては処分の違法を理由として取消を求めることができない。本件処分の取消の訴と本件裁決の取消の訴がいわゆる「裁決主義」(すなわち、特別法で、原処分について出訴を許さず、裁決だけについて出訴することができるものとしている場合。)に該当せず、従つて本条項による制限を受ける場合に該当することは明らかである。しかるに、本件裁決の取消を求めるにつき、原告は原処分である運転免許停止 ついて出訴することができるものとしている場合。)に該当せず、従つて本条項による制限を受ける場合に該当することは明らかである。しかるに、本件裁決の取消を求めるにつき、原告は原処分である運転免許停止処分の違法であることのみを主張し、他に何ら裁決上の手続の違法その他裁決に固有の違法を主張していないのであるから、本件裁決の取消の請求は主張自体失当というほかはない。第二、次に、第三五号事件の広島県警察本部長に対する本件処分取消の請求について判断する。1、本案前の抗弁について本件運転免許停止処分における免許停止期間は昭和四五年四月一四日より同年六月一二日までの六〇日間であつたが、被告広島県警察本部長がその後、右停止期間を三〇日聞に短縮し、本件運転免許停止処分は同年五月一三日の経過により、その効力を喪失するに至つたことは当事者間に争いがなく、本訴最終口頭弁論期日が右停止期間経過後、既に二年以上経ていることは本件記録上明らかである。ところで行政事件訴訟法第九条によれば、取消訴訟は、当該処分又は裁決の取消を求めるにつき法律上の利益を有する者に限つて、これを提起することができるものとし、右の「法律上の利益を有する者」には「処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなつた後においてもなお処分又は裁決の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者」をも含む旨規定しているので、原告が本件免許停止処分の取消によつて回復すべき法律上の利益を有する者に該当するか否かにつき検討してみるに、法第一〇三条、同法施行令第三八条、同別表第二によれば、運転免許停止処分は単にその停止期間中運転をすることをを禁止する効力を持つのみならず、右処分後一年以内に新たに道路交通法に違反する行為をなした場合、公安委員会は新たな違反行為に対する行政処分の種類、程度を決定する をも含む旨規定しているので、原告が本件免許停止処分の取消によつて回復すべき法律上の利益を有する者に該当するか否かにつき検討してみるに、法第一〇三条、同法施行令第三八条、同別表第二によれば、運転免許停止処分は単にその停止期間中運転をすることをを禁止する効力を持つのみならず、右処分後一年以内に新たに道路交通法に違反する行為をなした場合、公安委員会は新たな違反行為に対する行政処分の種類、程度を決定する 分は単にその停止期間中運転をすることをを禁止する効力を持つのみならず、右処分後一年以内に新たに道路交通法に違反する行為をなした場合、公安委員会は新たな違反行為に対する行政処分の種類、程度を決定するにあたり、右停止処分を前歴として、前歴のない場合よりも不利益な判断資料とすることができる旨規定されているところ、弁論の全趣旨によれば、原告は本件の免許停止処分以後法施行令第三八条各第に規定する道路交通法違反事件および交通事故を起すことなく一年以上経過したことが認められ、右事実によれば原告が本件処分を受けたことを理由として右道路交通法上の不利益な処分を受ける虞れはなくなつたものといわなければならず、一見原告は右免許停止処分の取消によつて回復すべき法律上の利益を有しないというべきかのようである。しかしながら、運転免許停止処分の被処分者に与える不利益は右に尽きるものではない。すなわち、法第一〇三条第七項及び広島県自動車等の運転者行政処分規程によれば、停止処分の場合には被処分者に免許証を差し出させて保管し、執行報告書により公安委員会に報告するとともに、停止処分の期間を満了したときは当該免許証に停止処分に係る事項が記載されるところ、免許停止処分時から一年を経過し、もはや右処分を理由として前記のような不利益な処分を受ける虞れの解消した後においても、免許証の右の記載を抹消すべきものとする規定は存しないから、右記載は依然として右免許証上に残存することとなる。そうすると、なるほど本件免許停止処分から一年を経過したことによつて、原告が前記不利益な処分を受ける虞れは解消したとはいえ、免許停止処分が運転者が常時携帯すべき運転免許証に記載されている以上、右処分が違法である場合においては、違法な処分によつて原告の名誉、感情、信用等をそこなう可能性があるものというを 消したとはいえ、免許停止処分が運転者が常時携帯すべき運転免許証に記載されている以上、右処分が違法である場合においては、違法な処分によつて原告の名誉、感情、信用等をそこなう可能性があるものというを防げず、原告にとつて黙過することのできない違法状態が存するところ、原告の右不利益は損害賠償の訴えによつてはその救済の目的を十分に達することはできず、これが救済の為には右処分を取消して右違法状態そのものを排除するほかに適切な法的手段はないから、原告は右処分の取消を求めるにつき法の保護に値する利益を有するものと解すべきである。 違法な処分によつて原告の名誉、感情、信用等をそこなう可能性があるものというを防げず、原告にとつて黙過することのできない違法状態が存するところ、原告の右不利益は損害賠償の訴えによつてはその救済の目的を十分に達することはできず、これが救済の為には右処分を取消して右違法状態そのものを排除するほかに適切な法的手段はないから、原告は右処分の取消を求めるにつき法の保護に値する利益を有するものと解すべきである。従つて、原告は本件免許停止処分の取消によつて回復すべき法律上の利益を有するものということができるから、右訴の却下を求める被告の本案前の申立は理由がない。2、本案について一、請求原因第一項及び第二項については当事者間に争いがない。二、そこで、進んで原告に本件処分の理由として掲げられた過失があるか否かについて判断する。原告が昭和四四年一二月一一日午後五時五八分頃、中国バス株式会社のバス運転者として大型乗合バスを運転し、府中市広谷町八〇八の一番地にさしかかつた際、右バスの乗客である訴外Aが転倒し、全治三ヶ月の傷害を負つたことについては当事者間に争いがない、さらに成立に争いがない乙第二号証、同第三号証(但し、成立に争いがある部分を除く。)、同第四号証の一ないし七、同第九号証、証人B、同C、同E、同Dの各証言ならびに原告本人尋問の結果(後述措信しない部分を除く。)を綜合すると、次の事実が認められる。本件事故現場の道路は歩車道の区別のない巾員約一一・五メートルの平担な見通の良いアスフアルト舗装の県道である。原告は前記日時頃、前記道路を時速約四〇キロメートルで東進中、前方約三〇メートルの信号機のないT字型交差点の左方道路より、青竹を 員約一一・五メートルの平担な見通の良いアスフアルト舗装の県道である。原告は前記日時頃、前記道路を時速約四〇キロメートルで東進中、前方約三〇メートルの信号機のないT字型交差点の左方道路より、青竹を積載した貨物三輪自動車が右青竹の先端を右交差点内に約二・六五メートル突出した状態でいるのを発見した。右場所は次の高木バス停留所の約七〇メートル手前の地点であり、同車車掌は次の停留所の案内を終えていた。原告は右貨物自動車がそれ以上前進しないものと軽信し、同車の前方を通過すべく前記速度のまま約一〇メートル進行したところ、右貨物自動車は停止せず、青竹の先端がセンターライン近くまで延びてきたので、右速度を格別減速することなく、ハンドルを急激に右に切り、センターラインを約一・三メートルを越え、右貨物自動車の前方を通過した後、急遽ハンドルを左りに切り返したところ、乗客が倒れたような大きな音がしたので、右交差点東端より約三五メートルの左側道路脇に停車した。 、同車の前方を通過すべく前記速度のまま約一〇メートル進行したところ、右貨物自動車は停止せず、青竹の先端がセンターライン近くまで延びてきたので、右速度を格別減速することなく、ハンドルを急激に右に切り、センターラインを約一・三メートルを越え、右貨物自動車の前方を通過した後、急遽ハンドルを左りに切り返したところ、乗客が倒れたような大きな音がしたので、右交差点東端より約三五メートルの左側道路脇に停車した。折しも右バスの乗客訴外Aは次の高木停留所で下車すべく立ちあがり吊り輪を持つていたところ、原告の右のような急激なハンドル操作によりバスが左右に大きく揺れた為体の安定を失い、吊り輪にほぼ全体重をかけた為、持つていた吊り輪が破損し、その結果、同人は右車内に転倒し負傷した。以上のとおり認められる。原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は前述各証拠、とりわけ原告自身が立ち会つて作成された本件実況見分調書(乙第三号証)及び同人の警察官面前における供述調書(乙第四号証の七)の各記載に照らし俄かに措信し難く、証人Dの証言中右認定に反する部分は前記乙第四号証の二、三の供述記載に比して措信でぎず、又、証人Cの各証言中には本件事故当時右バスはそれ程揺れなかつたとの供述部分も存するが、右証人の証言によれば同人は当時最前部の座席 に反する部分は前記乙第四号証の二、三の供述記載に比して措信でぎず、又、証人Cの各証言中には本件事故当時右バスはそれ程揺れなかつたとの供述部分も存するが、右証人の証言によれば同人は当時最前部の座席に着席していたことが認められ、後方座席の乗客や立つている乗客とは揺れ具合とその感じ方に差のあることが推認されるから、着席していない乗客の揺れ具合についての前述認定を覆えすには至らず、他に右認定を左右する証拠はない。右事実によると、原告が青竹を積載した貨物自動車が前方左側道路より県道に進入しようとしているのを発見したのは約三〇メートル手前であり、しかも、原告は、次の高木停留所が近く、車掌がその案内を終えていたのであるから、乗客が降車準備の為立ち上がることを充分予知し得たものと認められる。かような場合、大型乗合バスの運転者としては老若男女の多数の乗客を輸送するという職務の性質上、右車内の乗客の動静、前方の貨物自動車の動静を充分察知し、減速徐行するなど慎重に運転し、急激なハンドル操作ないしブレーキ操作は緊急止むを得ない場合のみ使用し、もつて乗客の安全を計る業務上の注意義務があるといえる。 の案内を終えていたのであるから、乗客が降車準備の為立ち上がることを充分予知し得たものと認められる。かような場合、大型乗合バスの運転者としては老若男女の多数の乗客を輸送するという職務の性質上、右車内の乗客の動静、前方の貨物自動車の動静を充分察知し、減速徐行するなど慎重に運転し、急激なハンドル操作ないしブレーキ操作は緊急止むを得ない場合のみ使用し、もつて乗客の安全を計る業務上の注意義務があるといえる。しかるに、前記認定のように、原告はこれを怠り、貨物自動車の動静を見誤り、そのままの速度で前進して急激なハンドル操作をした為本件事故を生じたのであるから原告にも安全運転義務違反のあることを否定できない。ところで、証人高橋良冶の証言によれば、前述破損した吊り輪には二ミリメートルと〇・三ミリメートルル程の穴が一個存した事実が認められ、又証人Eの証言によれば、バスの吊り輪は通常程度の力が加わつた場合にも破損しないことが認められ、右事実を綜合すると、右吊り輪にも何らかの瑕疵があつたものと認められる。そこで、原告は訴外Aの転倒、負傷は専ら吊り輪の瑕疵に帰因すると主張する。しか の力が加わつた場合にも破損しないことが認められ、右事実を綜合すると、右吊り輪にも何らかの瑕疵があつたものと認められる。そこで、原告は訴外Aの転倒、負傷は専ら吊り輪の瑕疵に帰因すると主張する。しかしながら、吊り輪に瑕疵があつたことは右認定のとおりであるけれども、既に認定した全ての事実を綜合すれば、吊り輪の破損は吊り輪自体の瑕疵にのみ帰因するものではなく、原告の前記運転上の過失に帰因するところも決して無視できないものであり、結局本件事故は右二つの原因が相俟つて生じたものと認められる。以上認したところによれば、原告に本件処分の理由として掲げられた安全運転義務違反が存したことが認められる。三、以上認定したところによれば、被告広島県警察本部長の示した本件処分の理由は事実に基づいた正当なものというべく、又は、原告はその他右処分の手続面を争わないから、手続面の正当性を判断するまでもなく、原告の第三五号事件の本案の主張は理由がないというべきである。第三、よつて、原告の各請求はいずれも理由がないから、これを棄却し、訴訟費用については民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

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