主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 控訴人(控訴の趣旨)(1) 原判決を取り消す。 (2) 被控訴人は,控訴人に対し,金500万円及びこれに対する平成12年4月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (3) 被控訴人は,控訴人に対し,別紙記載のとおりの謝罪広告をA新聞に別紙記載のとおりの条件で1回掲載せよ。 (4) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。 (5) 仮執行宣言 2 被控訴人主文同旨第2 本件事案の概要 1 本件は,a町議会議員であった控訴人(原審原告)が,同じくa町議会議員である被控訴人(原審被告)に対し,控訴人がa町営宿泊施設「B亭」の婦人浴場に侵入して湯栓を抜いたなどという虚偽の事実を,被控訴人が町議会において発言したこと等により,控訴人の名誉が毀損されたと主張して,損害賠償と謝罪広告の掲載を請求した事案である。 原審は,名誉毀損は成立しないと判断して,控訴人の請求を全部棄却した。そこで,これを不服とする控訴人が本件控訴に及んだ。 2 本件の前提となる事実,当事者双方の主張及び争点は,次項のとおり控訴人の当審における補充主張を付加するほか,原判決の「事実及び理由」中の「第二事案の概要」の一ないし三記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決の2頁13行目冒頭から14行目の「議会議員であり,」までを「1 控訴人は,平成9年当時以降,a町議会議員の地位にあった者であるが,平成13年2月に任期満了により,その地位を失った。被控訴人は,平成10年当時からa町議会議員の地位にあり,現在も,同議員の職にある者である。」と改める。 降,a町議会議員の地位にあった者であるが,平成13年2月に任期満了により,その地位を失った。被控訴人は,平成10年当時からa町議会議員の地位にあり,現在も,同議員の職にある者である。」と改める。 3 控訴人の当審における補充主張(1) 被控訴人が主張していた「B亭事件」なるものは,①発生日時が平成10年1月25日午後11時ころであり,その事件内容は,②控訴人がa町営の宿泊施設であるB亭の婦人浴場に侵入し,③浴槽の湯を半分ほど抜いて残った湯に全裸でつかっているところを,入浴してきた女性宿泊客に発見され,④駆けつけた職員も,全裸で浴槽内にいる控訴人の姿を現認したというものであり,これが,平成11年10月15日開催のa町議会全員協議会及び同年11月19日開催の同町議会決算特別委員会において,「B亭事件」として被控訴人が指摘した事実であり,また,同年9月21日以降,同町内の不特定多数の住民に対して被控訴人が口外してきた事実である。 これに対して,原判決は,「B亭事件」に関し,<ア>発生時期について,「確たる日を特定することはできないが,少なくとも平成10年の1月ないし3月にかけての一夜であったことは否定できない。」とか,「事件の発生が被控訴人のいう日時であると特定するだけの確たる証拠はない。平成10年の冬の期間内というに止めるのが相当である。」とし,その具体的内容についても,<イ>「B亭の配膳係の女性3名が午後10時半ころに業務を終えた後,入浴のために婦人浴場に赴いたところ,その脱衣所内の脱衣籠棚の右側床に控訴人が上半身裸で寝転んでいたこと,及び婦人浴室の湯栓が抜かれ湯が足首あたりの水位にまで下がっていたこと,の2点は明らかな事実として認めることができるというべきである。」とか,「控訴人がB亭の婦人浴場に侵入したとの点は真実と認 こと,及び婦人浴室の湯栓が抜かれ湯が足首あたりの水位にまで下がっていたこと,の2点は明らかな事実として認めることができるというべきである。」とか,「控訴人がB亭の婦人浴場に侵入したとの点は真実と認めることができ」るとして,「控訴人の主張によって指摘された被控訴人の言動に関しては,真実の証明があるということができ」るとしている。 しかしながら,控訴人は,B亭の女性浴場に侵入したことは絶対にない。原判決は,証人C(以下「証人C」という。),証人D(以下「証人D」という。)及び証人E(以下「証人E」という。)の目撃証言に依拠したものであるが,これらの証人は,口裏を合わせて虚偽の証言をしている。 したがって,原判決は,証拠の取捨選択及び価値判断を誤り,事実誤認をしている。 (2) また,被控訴人が「B亭事件」なるものの内容として公言し,本件訴訟においても主張していた事実は,前記(1)の①ないし④の各事実であるところ,原判決が認定した事実は,前記(1)の<ア><イ>のとおりであるから,真実の証明があるとは到底いえない。 第3 当裁判所の判断 1 まず,いわゆる「B亭事件」の事実関係について検討する。 (1) これに関する証人の証言内容は,次のとおり付加訂正するほか,原判決の「第三争点に対する判断」の「一事実認定」の1記載のとおりであるから,これを引用する。 ア原判決の7頁2行目から3行目に「声をかけると,同原告は急にワイシャツを羽織ってあわてて脱衣所を出ていった。」とあるのを「控訴人は,身体が濡れていたが,証人Cらに声をかけられるや,身体を拭かずに,ワイシャツを羽織ってあわてて脱衣所を出ていった。」と改める。 イ原判決の8頁7行目の末尾に,「なお,その際,控訴人の身体はちょっと濡れていた。」と付加する。 かけられるや,身体を拭かずに,ワイシャツを羽織ってあわてて脱衣所を出ていった。」と改める。 イ原判決の8頁7行目の末尾に,「なお,その際,控訴人の身体はちょっと濡れていた。」と付加する。 (2) 以上の証言のうち,証人F(以下「証人F」という。)の証言内容は,「事件があったとされる日の翌日,事務所にメモが置いてあり,それに婦人風呂に3人の男性が入っていたと書いてあったので,宿直の職員Gから事情を聴くと,控訴人とH課長ともう1人の男性が事件後かなり酔って玄関から帰っていったと答えた。」というものであるが,同証言は,他の証人の証言内容とも大きく異なり,特に,証人G(以下「証人G」という。)が乙3号証の証人Fの陳述書(「G君という職員の話では,事件があった直後の1月26日午前0時30分ころ,控訴人,H課長と,名前を知らない男性一人が,酔っぱらった様子で玄関から外へ出ていったとのことでした。」という記載がある陳述書)について事実ではないと証言していることや,1審原告HがB亭の婦人浴場に侵入したことを認めるに足る的確な証拠はないことに照らして,証人Fの上記証言は信用できない。 (3) これに対して,控訴人がB亭の婦人浴場の脱衣所に居たところを直接目撃したという証人C及び証人Eの各証言は,具体的かつ自然な内容であり,しかも,細部においては微妙な差異はあるものの,基本的な事実の推移に関する部分は一致しているから,信用性が高いというべきである。また,証人Dの証言も,控訴人の顔を直接見ていないものの,証人Cが「誰か居る。」と大声を出した途端,1人の男性が逃げるように出ていったので,その男性の後ろ姿を見たというものであり,具体的かつ自然な内容であり,証人C及び証人Eの各証言とも符合するものであって,信用性が認められる。 また,婦人浴 の男性が逃げるように出ていったので,その男性の後ろ姿を見たというものであり,具体的かつ自然な内容であり,証人C及び証人Eの各証言とも符合するものであって,信用性が認められる。 また,婦人浴室の浴槽の湯の水位が下がっていたとの事実に関しては,証人C,証人E及び証人Dのみならず,当日の宿直員である証人Gも現に確認している事実である上に,証人Gも配膳係の上記3名の証人らから脱衣所に控訴人が寝ていたとの事実を聞かされているのであって,これら4人の証言内容を否定すべき事情は何ら窺われない。 (4) 控訴人は,B亭の婦人浴場に侵入した事実を全面的に否認し,原審及び当審における本人尋問においても,同様の供述をする。しかしながら,控訴人の供述は,証人C,証人E,証人D及び証人Gの証言に照らして,にわかに信用し難いというべきである。 もっとも,控訴人は,証人C,証人E及び証人Dが口裏を合わせて虚偽の証言をしている旨主張し,当審本人尋問において,「平成9年2月のa町議会議員選挙において,控訴人が当選したのに対し,証人Fは落選した。その選挙のことで,証人Fは,控訴人のことを恨んでいた。」,「証人Cは,控訴人や証人Fが立候補した選挙区と同一の地区に居住している。」と供述し,証人C,証人E及び証人Dが同様の証言をしていることに関して,「1人でも2人でも多くの証人を作ったほうがいいというような考え方であの人達は何か捏造してきたんじゃないかなと思います。」と供述している。 確かに,前記認定のように証人Fの証言は信用できないことに照らすと,証人Fが選挙の件で控訴人のことを恨んで虚偽の証言をした可能性もないではない。しかしながら,証人Cが,控訴人や証人Fが立候補した選挙区と同一の地区に居住しているからといって,虚偽の証言をしなければならない事 選挙の件で控訴人のことを恨んで虚偽の証言をした可能性もないではない。しかしながら,証人Cが,控訴人や証人Fが立候補した選挙区と同一の地区に居住しているからといって,虚偽の証言をしなければならない事情があるとは認められないし,証人Cのみならず証人E及び証人Dまでもが虚偽の証言をする事情は全く窺えない。のみならず,証人C,証人E及び証人Dの各証言は,前記のように具体的かつ自然な内容であるばかりか,証言内容が全く一致している訳ではないことからしても,この三者間で口裏を合わせているとは到底認めがたい。 (5) 以上の各証言を総合すると,(ア)B亭の配膳係の女性3名が午後10 時半ころに業務を終えた後,入浴のため婦人浴場に赴いたところ,その脱衣所内の床に控訴人が上半身裸で寝ころんでいたこと,(イ)婦人浴室の浴槽の湯栓が抜かれ,湯が足首あたりの水位にまで下がっていたこと,の2点は明らかな事実として認めることができ,この事実に,証人C及び証人Eが,控訴人の身体は濡れていた旨を証言していることを併せ考えると,(ウ)控訴人が婦人浴室の浴槽の湯栓を抜いた事実も推認できるというべきである。 (6) ところで,本件全証拠によるも,B亭の婦人浴場に控訴人が侵入したとの事件が発生した日については,確たる日を特定することはできないが,証人C,証人E及び証人Dの各証言並びに弁論の全趣旨によれば,少なくとも平成10年の1月から3月の冬の期間内の一夜であったと認めるのが相当である。 この点について,被控訴人は,当初,B亭での事件が発生したのは平成10年1月25日の夜であるとしていたが,控訴人からB亭の宿直日誌(甲5号証の1,2)が提出されると,事件発生の日を同年3月20日過ぎであるとか,同月20日・22日・27日・28日のいずれかであるとする被控訴人の陳述書 であるとしていたが,控訴人からB亭の宿直日誌(甲5号証の1,2)が提出されると,事件発生の日を同年3月20日過ぎであるとか,同月20日・22日・27日・28日のいずれかであるとする被控訴人の陳述書(乙4号証)を提出した。 しかし,同事件の発生が被控訴人のいう日時であると特定するだけの確たる証拠はない。上記各証言の内容に照らして,平成10年の冬の期間内というに止めるのが相当である。 (7) 他方において,控訴人は,当審において,①B亭の宿直日誌の平成9年2月20日の部分(女子浴室より,浴槽の栓が抜けて,湯がない旨の電話があったとの記載がある。)を書証(甲20号証の1,2)として提出するとともに,②平成9年2月20日に控訴人とB亭で一緒に過ごしたが,その際,控訴人は風呂に入らずに,B亭から帰ったという内容のI作成の陳述書(甲18号証),③平成9年2月20日に宿直をしていた証人Gから,「同日の午後11時30分ころに,女子浴室から,浴槽の栓が抜けて,湯が半分程しかなかったという内容の電話があった。」という報告は受けたが,「女性浴室に男が入っていたとか女性の脱衣所に男性がいた。」という報告は受けていませんという内容のJ(同人は,平成7年1月から平成9年4月までB亭の支配人を務め,平成11年1月から再度B亭の支配人をしている。)作成の陳述書(甲19号証)を提出して,控訴人がB亭の婦人浴場に侵入したことはないとの点を立証しようとしている。 しかしながら,いわゆる「B亭事件」が発生したのは,前記認定のとおり,平成10年の1月から3月の冬の期間内の一夜であるから,上記各証拠は,前記認定判断を左右するに足りるものではない。 そして,B亭の宿直日誌には,平成9年2月20日以外に,いわゆる「B停事件」の発生を窺わせる記述が全くないこ 間内の一夜であるから,上記各証拠は,前記認定判断を左右するに足りるものではない。 そして,B亭の宿直日誌には,平成9年2月20日以外に,いわゆる「B停事件」の発生を窺わせる記述が全くないことも,証人F及び証人Gの各証言によれば,宿直日誌に異状を記載すると担当者の責任問題が起きかねないことから,少々の出来事は記載しないのが通例であることが認められるから,同宿直日誌に記載がないからといって,前記認定判断を左右することはできないというべきである。 また,控訴人は,当審において,平成9年度及び10年度の議員手帳の抜粋(甲22号証の1ないし3,23号証の1,2)を提出し,B亭に赴いたのは,この手帳に記載のある日だけであって,当該日において,控訴人がB亭の婦人浴場に侵入したことはないとの点を立証しようとしている。しかしながら,上記の議員手帳の抜粋や控訴人の当審における本人尋問からいっても,控訴人は,行事予定等を全て議員手帳に記載しているわけではないことが認められるから,上記議員手帳に記載されていない日に控訴人がB亭に赴いた可能性は否定できないのであって,上記の点も,前記認定判断を何ら左右するものではないというべきである。 2 そこで,以上認定の事実によって,被控訴人が町議会などで公言した事実(原判決の前提事実2及び原告らの主張欄1で控訴人が指摘する事実)の真実性が立証されたかどうか並びにそれが公益性を有するかどうかについて判断する。 被控訴人がa町議会全員協議会や同町議会決算特別委員会において,「B亭事件」として被控訴人が指摘し,本件訴訟においても主張してきた事実は,①発生日時が平成10年1月25日午後11時ころであり,その事件内容は,②控訴人がa町営の宿泊施設であるB亭の婦人浴場に侵入し,③浴槽の湯を半分ほど抜いて残った湯 訴訟においても主張してきた事実は,①発生日時が平成10年1月25日午後11時ころであり,その事件内容は,②控訴人がa町営の宿泊施設であるB亭の婦人浴場に侵入し,③浴槽の湯を半分ほど抜いて残った湯に全裸でつかっているところを,入浴してきた女性宿泊客に発見され,④駆けつけた職員も,全裸で浴槽内にいる控訴人の姿を現認したというものである。 これに対して,本件訴訟において認定できるのは,前記のように,(ア)平成10年の1月から3月の冬の期間内において,B亭の配膳係の女性3名が午後10時半ころに業務を終えた後,入浴のため婦人浴場に赴いたところ,その脱衣所内の床に控訴人が上半身裸で寝ころんでいたこと,(イ)婦人浴室の浴槽の湯栓が抜かれ,湯が足首あたりの水位にまで下がっていたこと,(ウ)控訴人が婦人浴室の浴槽の湯栓を抜いたことであるから,被控訴人の主張事実と裁判所の認定事実との間に差異があることは否定できない。 しかしながら,町議会議員の現職にあった者が,婦人浴場に侵入し,浴槽の湯栓を抜いたという主要な点においては,事実は一致しているのであり,一致しない部分は,名誉毀損の成否を決するうえで,必ずしも重要な事実ということはできない。したがって,被控訴人が公言した事実は,その主要な点において真実性が立証されているということができる。 そして,上記の立証された事実,即ち,町議会議員の現職にあった控訴人が,婦人浴場に侵入し,浴槽の湯栓を抜いたという事実は,公職である町議会議員の非違行為に関するものであるから,公共の利害に関する事実に係わるものということができ,被控訴人がそれを公言した目的も,専ら公益を図るためであったと認められる。したがって,被控訴人の言動のうち控訴人に関する部分は,違法性を欠き,名誉毀損は成立しないというべきである。 とができ,被控訴人がそれを公言した目的も,専ら公益を図るためであったと認められる。したがって,被控訴人の言動のうち控訴人に関する部分は,違法性を欠き,名誉毀損は成立しないというべきである。 3 よって,控訴人の被控訴人に対する請求をいずれも棄却した原判決は相当であって,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。 名古屋高等裁判所金沢支部第1部裁判長裁判官川崎和夫裁判官源孝治裁判官榊原信次 謝罪広告私が,「a町町営施設B亭の婦人浴場のお湯の栓を抜いて湯を流した者がいる。その者は○○○○○○と控訴人だ。」などと,○○○○氏と控訴人が同婦人浴場の湯の栓を抜いた事実があったとの印象を与える内容の発言を繰り返したことは事実に反し,控訴人の名誉を著しく毀損し,多大な御迷惑をおかけ致しました。 よって,ここに深くお詫び申し上げます。 被控訴人掲載条件 1 掲載場所紙面社会面に縦2段抜き,横10センチメートル 2 字格見出部分及び被控訴人名は5号活字,本文は6号偏平活字以上
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