平成29年(う)第55号業務上横領被告事件平成29年5月18日大阪高等裁判所第1刑事部判決主文原判決を破棄する。 被告人は無罪。 理由 本件控訴の趣意は,主任弁護人梁龍成及び弁護人杉本大樹連名作成の控訴趣意書に記載されたとおりであるから,これを引用する。 論旨は,事実誤認の主張と量刑不当の主張である。 第1 控訴趣意中,事実誤認の主張について 1 控訴趣意の要旨原判決は,被告人が,株式会社A(以下「A」という。)名義の普通預金口座の預金を同社のため業務上預かり保管中,自己の用途に費消する目的で,同口座から,B名義の普通預金口座に50万円を振込入金して横領したとの事実を認定して,業務上横領罪の成立を認めたが,被告人とAとの間には名板貸しの黙示の合意が成立しており,上記A名義の預金口座の預金は被告人に帰属するもので,「他人の物」に当たらず,業務上横領罪は成立しないから,無罪であり,原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある。 2 事案の概要 公訴事実の要旨本件公訴事実の要旨(訴因の予備的追加前のもの)は,「被告人は,Aの建築設計事業部非常勤従業員として,C銀行D支店に開設されたA名義の普通預金口座のキャッシュカード等を保管・管理して,同事業部の売上金及び外注費の支払金の出納管理などの業務に従事していたものであるが,同口座の預金を同社のため業務上預かり保管中,平成24年12月26日,同支店において,自己の用途に費消する目的で,前記キャッシュカードを使用して,同口座からE銀行F支店に開設された B名義の普通預金口座に50万円を振込入金し,もってこれを横領したものである。」というものであり,訴因の予備的追加後の予備的訴因に係る公訴事実の要旨は,「被告人は,A代表 に開設された B名義の普通預金口座に50万円を振込入金し,もってこれを横領したものである。」というものであり,訴因の予備的追加後の予備的訴因に係る公訴事実の要旨は,「被告人は,A代表取締役Gから同会社建築設計事業部の運営を委託され,同事業部の取引口座であるC銀行D支店に開設されたA名義の普通預金口座を管理していたものであるが,同口座の預金を同社のため業務上預かり保管中,平成24年12月26日,同支店において,自己の用途に費消する目的で,前記口座のキャッシュカードを使用して,同口座からE銀行F支店に開設されたB名義の普通預金口座に50万円を振込入金し,もってこれを横領したものである。」というものである。 基本的事実関係関係証拠によると,本件の基本的事実関係は,以下のようなものである。 ア Aは,平成24年9月11日(以下,同年の出来事は年の記載を省略する。),「土木一式工事」などを目的として設立された,土木工事を主たる事業とする会社であり,Gが代表取締役に就任していた。 イ 9月24日,同社の目的に「建築工事業」「土木並びに建築物の設計及び工事監理」等が追加され,その頃,「A建築設計事業部」(以下「建築設計事業部」という。)が立ち上げられた。 ウ 10月29日,C銀行D支店に「A代表取締役G」名義の普通預金口座(以下「本件口座」という。)が開設され,被告人が同口座の預金通帳やキャッシュカードを保管していた。 エ被告人は,12月26日,本件口座のキャッシュカードを使用して,同口座からE銀行F支店に開設されたB名義の普通預金口座(以下「E口座」という。)に50万円を振込入金した。同口座は,主に被告人とその内妻であるBの生活費のためのものであった。 原審における被告人の主張原審において,被告 名義の普通預金口座(以下「E口座」という。)に50万円を振込入金した。同口座は,主に被告人とその内妻であるBの生活費のためのものであった。 原審における被告人の主張原審において,被告人は,建築設計事業部は,被告人がAの商号を借りて立ち上 げた(いわゆる名板貸し)被告人の事業であり,被告人は建築設計事業部の非常勤従業員ではなく,本件口座は被告人の所有・管理に属するものであって,「他人の物」ではなく,仮に,これが「他人の物」に当たるとしても,被告人は上記口座の金員を自由に処分する権限を有していたから,被告人が,12月26日,キャッシュカードを使用して,同口座からE口座に50万円を振り込んだことは横領に当らないなどと主張した。 原判決の要旨原判決は,要旨,① 被告人がAの非常勤従業員であったとは認められないが,② 建築設計事業部が行う建築設計業務は,Aに帰属しており,本件口座もAに帰属していたと認められ,③ 被告人とAとの間に委託信任関係があり,④ 本件振込は被告人らの個人的使途に充てる金銭を確保するために行われたのだから不法領得の意思もあったと認められるなどとして,予備的訴因と同旨の事実を認定し,業務上横領罪の成立を認めた。 3 当裁判所の判断建築設計事業部は,Aの商号を借りて被告人個人が経営するものである可能性を否定できず,したがって,本件口座も被告人に帰属するものである可能性を否定できず,これがAに帰属する「他人の物」に当たることについては合理的疑いがあるから,被告人が,本件口座から50万円をE口座に振り込んだことが横領に当たるとした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があるといわざるを得ない。 その理由は,以下のとおりである。 事実関係関係証拠によると,以下の事 込んだことが横領に当たるとした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があるといわざるを得ない。 その理由は,以下のとおりである。 事実関係関係証拠によると,以下の事実が認められる。 ア建築設計事業部が立ち上げられる以前の経緯等 Gは,かねて,同人の父が経営する,主に道路舗装工事を行う株式会社Hに勤務し,さらに,同社が休業し,株式会社Iが設立されてその事業が引き継がれた 後は,経営陣の1人として,その事業に関与していたが,同社が倒産したことから,9月11日,Aを設立し,その土木工事部門の事業を引き継いで行うことになった。 同社の従業員は8人程度であった。 被告人は,かねて,Hの元請であるJに勤務し,あるいは,Iの元請であるKの担当者,さらには,L工業という屋号でKとIの間に入るなどして,HやIに工事を発注する立場にあったことから,Gと仕事を通じて日常的に交流していた。 そして,A設立後は,L工業として,その関与する土木工事を,K抜きで,Aに発注していた。 イ建築設計事業部が立ち上げられた経緯等平成24年夏頃,Kの設計事業部門が閉鎖されることになり,被告人の紹介により同部門に入社していたMが解雇されることになったことから,被告人を頼り,同じく同部門の閉鎖により退職することになった一級建築士のN(MとNを合わせて「Mら」という。)にも声をかけ,建築設計事業を行うことになった。 その際,Mらが社会保険等への加入を希望したことから,被告人は,9月半ば頃,Gに対し,MらをAの社会保険に入れてやってほしいなどと依頼した。その結果,被告人とGとの間で,MらをAの従業員として社会保険に加入させ,A事務所で,建築設計業務を行うことなどが合意された。 Aは,9月24日,同社の目的に「 入れてやってほしいなどと依頼した。その結果,被告人とGとの間で,MらをAの従業員として社会保険に加入させ,A事務所で,建築設計業務を行うことなどが合意された。 Aは,9月24日,同社の目的に「建築工事業」「土木並びに建築物の設計及び工事監理」等を追加し,建築工事業の許可も取得した。その頃,建築設計事業部が立ち上げられ,業務を開始した。 ウ Aと被告人の関係被告人とAとの間で,被告人に報酬ないし給料を支払うという話はなく,実際,Aは,被告人を同社の社会保険に加入させたり,労働者名簿にも載せたりしておらず,給料等も支払わなかった。 なお,上記のとおり,被告人は,建築設計事業部が立ち上げられる前から,L工業という屋号で,Aの土木工事部門に,土木工事を発注していたが,その関係は, 建築設計事業部立ち上げ後も継続し,Aが受注する工事は,L工業から受注するものがおよそ7割を占めていた。 エ AとMらとの関係Mは9月頃から,Nは11月頃から,建築設計事業部の業務に従事するようになった。 Mらは,社会保険の手続上,Aの従業員として処理され,被告人は,平成25年5月1日,平成24年11月から平成25年3月までの期間に係るMらの社会保険料として,48万6710円を,Aの取締役で経理を担当していたGの母Oに支払った。このとき,同人は,宛て名を「L様」,作成者を「(株)A・O」名義とする領収証を作成して被告人に交付した。 オ建築設計事業部の事業形態等建築設計事業部の主な仕事は建築確認申請の代理業務であり,Mらが二人でこれに従事していた。取引先はほとんどがMがKに在籍していたときの顧客であり,Mがこれらの者との間で契約を取り付けていた。 Mらが契約その他の取引をする際には,「A建築設計事務所」という肩書を用い,取引先との ていた。取引先はほとんどがMがKに在籍していたときの顧客であり,Mがこれらの者との間で契約を取り付けていた。 Mらが契約その他の取引をする際には,「A建築設計事務所」という肩書を用い,取引先との契約書や取引先からの発注書等には,「株式会社A」と記載されていた。 Aの事務所の執務スペースは,土木工事部門と建築設計事業部とがほぼ折半して使用し,新たにコピー機や電話回線を引き,備品は共有とされた。これらの経費として,建築設計事業部が毎月6万円を負担することとし,被告人がOに支払っていた。その支払については,家賃名目の通帳が作られ,支払の度にOが押印していた。 被告人は,営業活動のほか,後記のとおり,本件口座を管理するなどして建築設計事業部における金銭出納を行っており,1週間に一,二回程度事務所に来ていた。 被告人は,業務の内容については,Mらに対して特段の指示はしていなかった。 Gは,事務所でMから,どのような受注先があるかといった仕事の状況について話を聞くことはあったが,建築設計事業部の運営について指示をすることはなかった。 カ建築設計事業部の経理処理等Aは,従前から,P銀行D支店にその土木工事部門の経理処理のための口座を有していたが,Gの指示により,建築設計事業部の経理処理のためのものとして,10月29日,C銀行D支店に本件口座が開設された。開設手続はOが行った。本件口座の開設後は,被告人がその預金通帳,キャッシュカード及び届出印を保管していた。建築設計事業部の売上は本件口座に振り込まれていた。 被告人は,そのほか,Q銀行R支店に開設されたB名義の口座(以下「Q口座」という。)も,建築設計事業部の取引に用いる口座として管理していた。 建築設計事業部に送られてきた請求書等は,Mが取りまとめ,被告人がその支払を行って R支店に開設されたB名義の口座(以下「Q口座」という。)も,建築設計事業部の取引に用いる口座として管理していた。 建築設計事業部に送られてきた請求書等は,Mが取りまとめ,被告人がその支払を行っていた。実際には,本件口座から直接取引先に支払ったものもあるが,多くは,本件口座から下ろした現金をいったんQ口座に入金し,同口座から支払っていた。 M及びNの給料は,Q口座から支払われていた。 建築設計事業部の収支計算は主に被告人が収支表を作成することにより把握しており,Aの土木工事部門の収支とは明確に区別されていた。 被告人がAに関与していた平成25年7月頃までの間,同年6月頃,Aの決算のため,Oが被告人に収支表等の提出を求めたほかは,GやOが,被告人に対し,建築設計事業部の収支の報告を求めたり,請求書等や本件口座の通帳の提示を求めたりしたことはなかった。 キ告訴に至る経緯等被告人は,平成25年4月頃から,Aと連絡が取りづらくなり,同年7月末頃,Mに本件口座のキャッシュカードを渡すなどした後,建築設計事業部の業務から離れた。 被告人は,同年8月に弁護士に自己破産の相談をし,11月自己破産の申立てをした。そのため,Aの土木工事部門は,被告人が発注した工事の多額の債権の回収ができなくなった。 Mは,平成26年1月,建築設計事業部を辞め,上記キャッシュカードをGに渡した。 Aは,弁護士や警察に相談した上,平成26年6月,本件業務上横領について被告人を告訴した。 検討(建築設計事業部及び本件口座がAに帰属するかについて)ア前認定事実の評価前認定の事実によると,Aの土木工事部門と建築設計事業部とは,最終的な決算処理以外においては,金銭の収支や収支計算において完全に独立した会計処理がされており,実際の事 て)ア前認定事実の評価前認定の事実によると,Aの土木工事部門と建築設計事業部とは,最終的な決算処理以外においては,金銭の収支や収支計算において完全に独立した会計処理がされており,実際の事業形態も,Mらは,主としてMのK時代の顧客を引き継ぎ,Gの指導監督等を受けることなく,独自に業務をこなしていたもので,建築設計事業部は,Aの名前を称しているとはいうものの,その実体は,Aそのものからは一歩置いた,独自の事業とみておかしくない状況にあったということができる。 取り分け,Mらの給料が,本件口座からではなく,Q口座から支払われていることや,建築設計事業部が負担した経費について,家賃名目の通帳が作られ,支払の度にOが押印し,あるいは,会社負担分の社会保険料を被告人がOに支払い,同人が,宛先を「L様」とする領収証を発行交付するなど,同一事業体の中での金員のやり取りとは思えないような処理がされていることは,建築設計事業部がAの一部門であることに強い疑問を抱かせる。 確かに,建築設計事業部は,Aの名称を用いて事業を営み,Mらは同社の社会保険に加入しているが,前認定の建築設計事業部の立ち上げの経緯によると,同部門を立ち上げたのは,MらをAの従業員という扱いにすることにより,同人らを社会保険に加入させることに主眼があったとみるのが相当であり,建築設計事業部の業務実態が,Mの従前の業務の継続の域を出ず,Aの一部門としてこれと離れた展開をしていないことから見ても,上記の事情は,Mらのために就労条件を確保するための仮装とみて,何ら不合理なものではない。 以上によれば,建築設計事業部がAに帰属することについては,大いに疑問があ るといわざるをえない。 イ Gらの原審公判供述の評価これに対して,Gは,原審公判廷において,被告人とGの間で 上によれば,建築設計事業部がAに帰属することについては,大いに疑問があ るといわざるをえない。 イ Gらの原審公判供述の評価これに対して,Gは,原審公判廷において,被告人とGの間では,建築設計事業部をAの一部門とする旨の合意があったとして,「被告人から,Kの設計事業部門を引き継いでもらえないかと依頼された。被告人との間で,Aの商号を貸すというような話はなかった。被告人が月々の給料をいらないと言ったので,私は,平成25年6月期決算の業績を見て,そこで利益が出ていたらそれを分配しようと言い,それで話がまとまった。」旨供述し,Oも原審公判廷において同旨の供述をしている。 これらの供述に特に不自然・不合理な点はないが,被告人は,原審公判廷で,「「机を貸してね」というような言い方で場所を貸してほしい旨頼んだ,Mらの仕事を,Aの一部門として行うのか,それとも被告人及びMらが独立して行うのか,ということについて明確な話はなかった。」とこれを否定する供述をしており,当時の被告人とGの力関係や,建築設計事業部が営む業務がその性質上Aに多大のリスクをもたらすものではないと思われることを考えると,Gが,その供述するような利益分配がされなくても,被告人からの発注が増えることを期待して,その要望を入れることは十分あり得るものと考えられるから,被告人の同供述もあながち不合理とはいえないし,Gの上記供述を前提としても,被告人とGの間に,建築設計事業部をAの一部門とするとの明確な合意があったとまではいえず,Gのいう利益の分配は,Aが建築設計事業部にその商号を使わせ,Mらに社会保険への加入を可能にさせたことの対価にすぎないと見る余地があるから,Gらの上記供述をもってしても,前記疑問は解消できない。 ウ被告人の捜査段階の供述の評価被告人は,捜査 を使わせ,Mらに社会保険への加入を可能にさせたことの対価にすぎないと見る余地があるから,Gらの上記供述をもってしても,前記疑問は解消できない。 ウ被告人の捜査段階の供述の評価被告人は,捜査段階において,「L工業の更なる利益のために,Gに依頼して,Aで建築設計事業部を立ち上げてもらった。そのための人材としてMらに声をかけた。被告人とGが建築設計事業部の運営について数回にわたり話合いを持ち,Mら に固定給を支払うこと,建築設計事業部の活動内容の把握及び管理並びに金銭収支管理,取引先に対する受注代金及び外注費等の支払,収支をA代表取締役であるGに報告することなどを被告人の職務及び権限とすることなどを決めた。建築設計事業部は確認申請を行ってAの利益を上げるためのAの一事業部であって,その収入はAの収入であり,被告人がこれを私的な生活費に流用することが許されないことは分かっていた。」,などと供述して,業務上横領罪の成立を認めている。 しかし,建築設計事業部の立ち上げは,Mらに社会保険に加入させることを主たる目的とするものであったのであって,同事業部の立ち上げの経緯は,上記供述と相当に異なるものであり,また,Gの原審公判供述によっても,上記のような明確な目的を持った話合いが繰り返し持たれたような状況はないなど,被告人の捜査段階の供述は,実体にそぐわない部分が多々含まれている。 そして,被告人は,捜査段階で上記のような供述をした理由について,「最初は,警察の事情聴取に対して,建築設計事業部は自分の会社だと主張したが,自分が破産したために外注費を支払えなくなったのでGに申しわけないという気持ちがあり,これでGの気が収まるのならばと思ったことや,刑事から,確約はできないが,今までの経験では起訴されることはまずないと言われたことから罪 外注費を支払えなくなったのでGに申しわけないという気持ちがあり,これでGの気が収まるのならばと思ったことや,刑事から,確約はできないが,今までの経験では起訴されることはまずないと言われたことから罪を認めることにした。調書では,建築設計事業部の運営方針について話合いをした際にMらが何回か同席していたことがあったとか,その話合いにおいて,収支をGに報告することになったと書いてあるが,そのようなことはない。しかし,事情聴取の次に警察に行った時にはそのように調書が出来上がっていて,気になったが,Gに対する申しわけないという気持ちから,調書に署名押印した。」旨供述している。その説明はそれなりに合理的なもので,被告人の捜査段階の供述に上記のような不自然な点があることを自然に説明するものであるから,その信用性を否定することは困難である。 したがって,被告人の捜査段階の上記供述調書は直ちに信用することができず,これをもっても,前記の疑問を解消することはできない。 エ原判決の検討 原判決は,① MらがAの事務所内で執務し,Aを事業主とする健康保険に加入していたこと,発注書や支払明細書の名宛人がA建築設計事務所又は株式会社Aとなっており,その代金が本件口座に振込入金されていたことを併せ考えれば,建築設計業務はAに帰属していたことが強く推認される,②Aが,平成25年6月30日までの事業年度の確定申告に際して,本件口座についても申告した一方で,被告人は,被告人個人の確定申告の際に本件口座について申告せず,また,被告人は,破産申立ての際にも建築設計業務について何ら言及していなかったことが認められ,このことは,上記の推認と符合し,推認を強めるものである,③ Gは,原審公判廷において,Aに建築設計部門を設けることとなった際,これに対応 も建築設計業務について何ら言及していなかったことが認められ,このことは,上記の推認と符合し,推認を強めるものである,③ Gは,原審公判廷において,Aに建築設計部門を設けることとなった際,これに対応するよう事業目的に「建築物の設計」を付け加えて登記を変更した,建築設計業務がAに属するものであるから確定申告の際に本件口座の貯金の明細を申告した旨供述するが,この供述は上記の推認を裏付けている,④ 被告人が自己の事業として建築設計業務を行うのであれば,名板貸しのようなう遠な方法をとらずに自ら会社を設立すればよいはずである,⑤ 被告人は,平成25年7月頃,Oらの求めに応じて,本件口座のキャッシュカードを返却したり,建築設計業務の収支表を交付したりしているが,これは,被告人が建築設計業務の経営者であるとすれば不自然な行動である,などと判示している。 しかし,①については,一般には,そのようにいうことができるであろうが,建築設計事業部を立ち上げた主たる目的は,Mらに社会保険に加入させ,従前の業務を引き続いて行わせることにあったのだから,原判決の指摘する事情はその当然の帰結ともいうべきものであって,仮装だったとしても何ら不自然ではなく,本件において,建築設計事業部がAから独立した事業であることを否定する事情とはいえない。 ②については,確かに,関係証拠によると,原判示の事実が認められるが,点については,建築設計事業部がAの商号を使用していたとしても,A(土木工事部門)と別個に,「株式会社A」という名称で確定申告することはできないと考え られるから,Aとしては,建築設計部門にAの商号の使用を許している以上,事業部門としての実体の有無にかかわらず,確定申告の際には,これを一体として扱わざるを得ないのだから,Aが原判示のような申告をしたか るから,Aとしては,建築設計部門にAの商号の使用を許している以上,事業部門としての実体の有無にかかわらず,確定申告の際には,これを一体として扱わざるを得ないのだから,Aが原判示のような申告をしたからといって,建築設計事業部が実質的にもAの一部門だということはできないし,被告人は,原審公判廷において,Mのために建築設計事業部を存続させようとして破産申立ての際には建築設計部門について触れなかった旨供述しており,その行動の是非はともかく,その説明自体は一応の合理性を有するものであるから,被告人が破産申立ての際,建築設計事業部について言及しなかったことが,建築設計部門がAに属することを裏付けているともいえない。なお,上記確定申告に際し,被告人がOに提出した収支表(原審甲20添付資料3)には,本件振込が記載されていないが,収支表そのものはBが作成したというのであり,これに反する証拠はないから,そのことが,本件口座がAに属することを裏付けているとまではいえない。 ③については,確かに,Gは,原判示のような供述をしているが,Aの事業目的の変更について,被告人は,原審公判廷で,Gに,同じ場所で設計業務するのだから,設計業務であれば受けると提案したことを受けて,D市に設計業務委託の指名願いを出すためにしたものである旨説明しており,これも一応合理的な説明であるから,前認定のような事業目的の変更があったからといって,建築設計部門がAに帰属するとまではいえないし,Aの確定申告の内容が,建築設計事業部がAに属することを裏付けるに足りるものでないことは,前記のとおりである。 ④については,L工業を法人化するためはそれなりに手続が必要であるから,そのような方法をとるよりも,法人であるAの商号を借りる方が手っ取り早いと考えたとしても特に不自然とはいえない。 ⑤ ある。 ④については,L工業を法人化するためはそれなりに手続が必要であるから,そのような方法をとるよりも,法人であるAの商号を借りる方が手っ取り早いと考えたとしても特に不自然とはいえない。 ⑤については,被告人は,平成25年7月頃に建築設計事業部の経営から手を引いたとみることができるから,本件口座のキャッシュカードをMに渡したことは,それまで建築設計事業部の経営をしていたことと矛盾するとはいえない。また,被告人がその頃,Oに収支表を交付したことは,決算処理のために必要だったという にすぎないから,これも,それまで建築設計事業部の経営をしていたことと矛盾するとはいえない。 建築設計部門がAに属するという原判決の判断は,十分理由のあるものとはいえない。 オ小括以上によれば,建築設計事業部は,外形的にはAに属するような形態を呈しているが,実体としてAの一部門として同社に帰属するとみるには疑問の余地があるといわざるを得ない。 したがって,本件口座も,Aに帰属するものではなく,Mらに給料を支払い,その収支を管理するなど,建築設計事業部を統括していた被告人に帰属していた疑いを払拭できない。 本件口座が,被告人にとって「他人の物」であることについては合理的疑いがあるといわざるを得ない。 結語したがって,被告人が本件口座から金50万円をE口座に振り込んだことが,自己の占有する「他人の物」の横領に該当するということはできないから,同事実を認定し業務上横領罪の成立を認めた原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があるといわざるを得ない。 論旨は理由がある。 第2 破棄自判そこで,刑訴法397条1項,382条により原判決を破棄した上,同法400条ただし書により,被告事件について,当裁判所において更に あるといわざるを得ない。 論旨は理由がある。 第2 破棄自判そこで,刑訴法397条1項,382条により原判決を破棄した上,同法400条ただし書により,被告事件について,当裁判所において更に次のとおり判決する。 本件公訴事実(主位的訴因及び予備的訴因)の要旨は,前記のとおりであるが,前記のとおり,同各事実についてはいずれも犯罪の証明がないから,刑訴法336条後段により被告人に対し無罪の言渡しをする。 よって,主文のとおり判決する。 平成29年5月18日大阪高等裁判所第1刑事部 裁判長裁判官福崎伸一郎 裁判官福井健太 裁判官野口卓志は転補のため署名押印することができない。 裁判長裁判官福崎伸一郎
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