- 1 -平成23年6月30日宣告(裁判員裁判)平成21年第2832号,同第3094号,平成22年第103号,同第226号,同第398号,同第612号判決 主文 被告人を死刑に処する。 押収してあるツールナイフ1本(平成23年押第23号の1)を没収する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,第1 金品を窃取する目的で,平成21年9月16日午後1時30分過ぎころ,千葉県佐倉市所在のA方に,6畳間西側腰高窓の施錠を外して侵入した上,そのころ,同所において,同人ほか1名所有の現金約4万3000円を窃取した(平成22年3月31日付け起訴状の公訴事実第1関係),第2 金品を強取する目的で,同年10月2日午後10時30分過ぎころ,同県松戸市所在のB方に,無施錠の玄関から侵入した上,同月3日午前零時過ぎころ,同所において,同人(当時76歳)に対し,その背中を押してその勢いで同人をひざまずかせ,その顔面及び右胸部をげん骨で数回殴り,その左腕等を足で数回けり,「声を出すな。出すと殺すぞ。」などと語気鋭く言い,その腹部に刃を出して用意していたツールナイフ(刃体の長さ約7.0センチメートル,平成23年押第 - 2 -23号の1)を突き付け,その両手薬指を結束バンドで後ろ手に緊縛し,更に,その顔面をげん骨で数回殴り,その足を数回けり,同所にあったタオルで同人に猿ぐつわをして,「そこにいろ。動くと殺す。」などと言うなどの暴行脅迫を加え,その反抗を抑圧して,同人所有又は管理の現金約1万5000円,キャッシュカード2枚及びクレジットカード1枚を強取し,その際,前記暴行により,同人に全治約3週間を要し,眼窩下神経障害の後遺症が残る ,その反抗を抑圧して,同人所有又は管理の現金約1万5000円,キャッシュカード2枚及びクレジットカード1枚を強取し,その際,前記暴行により,同人に全治約3週間を要し,眼窩下神経障害の後遺症が残る左眼窩底骨折,左頬骨骨折及び右前胸部打撲等の傷害を負わせた(平成21年12月28日付け起訴状の公訴事実関係),第3 金品を窃取する目的で,同月6日午後8時ころ,同県佐倉市所在のC方に,サンルーム北西側掃き出し窓の施錠を外して侵入した上,そのころ,同所において,同人所有のLEDライト1個(時価約2980円相当)を窃取した(平成22年3月31日付け起訴状の公訴事実第2関係),第4 金品を強取する目的で,同月7日午後6時40分ころ,同市所在のD方に,無施錠の玄関から侵入した上, 1 そのころ,同所1階の和室及びリビングにおいて,同人(当時61歳)に対し,その側頭部を足でけり,前記第2記載のツールナイフの刃を出して突き付け,「お金はどこだ。」などと語気鋭く言い,その顔面をげん骨で数回殴り,その頭部を足で踏みつけ,その胸部及び腹部等を足で数回けり,同所にあったスカーフやバスタオルでその両手首及び両足首を緊縛するなどの暴行脅迫を加え,その反抗を抑圧して,同人所有の現金約1万円を強取し,その際,前記暴行により,同人に全治約8週間を要し,右下口唇の神経損傷による知覚障害の後遺症を伴う下顎骨体部骨折,下顎骨関節突起骨折,顔面打撲挫創,外傷性く - 3 -も膜下出血,左右上肢打撲及び胸部・腹部打撲の傷害を負わせ, 2 同日午後7時10分ころ,前記玄関付近において,帰宅したE(当時31歳)に対し,その顔面及び頭部等をげん骨で数回殴り,その頭髪をわしづかみにして前記リビングに連行した上,同人に対し,「金出せ。」,「これだけか。財布よこせ。」,「ク 近において,帰宅したE(当時31歳)に対し,その顔面及び頭部等をげん骨で数回殴り,その頭髪をわしづかみにして前記リビングに連行した上,同人に対し,「金出せ。」,「これだけか。財布よこせ。」,「クレジットカードはどれだ。」,「暗証番号は何だ。ちゃんと正しい番号を教えないと殺すぞ。」などと語気鋭く言い,同人が着用していたスパッツでその両手首を後ろ手に緊縛し,更に,「車の鍵はどこだ。」,「これからお前,車に乗れ。暗証番号間違っていたら殺すぞ。」などと言い,前記和室にあったポロシャツをその頭部にかぶせるなどの暴行脅迫を加え,その反抗を抑圧して,同人所有又は管理の現金約1万6000円,キャッシュカード1枚,クレジットカード3枚及び現金561円在中の財布1個(時価約2万円相当),定期券1枚等10点在中のハンドバッグ1個(時価合計約1万7500円相当)を強取し,同日午後7時20分ころ,同人を車に監禁して連行先で姦淫しようなどと更に企て,前記暴行脅迫を受け,その両手首を後ろ手に緊縛されるなどして反抗抑圧の状態に陥っている同人をD方駐車場まで連れて行き,同所に駐車中のE所有の普通乗用自動車の助手席に同人を乗車させ,同車を発進させて同普通乗用自動車1台(時価約30万円相当)を強取するとともに,そのころから同日午後9時50分ころまでの間,同車内において,同人に対し,「お前がここから動くと殺すぞ。」などと言うなどしながら,同県成田市の路上まで同車を走行させるなどして,同人を同車から脱出することを困難にし,もって同人を不法に監禁し,その間,同日午後9時30分ころ,前記路上に駐車中の同車後部付近の車外において,同人が前記暴行脅迫等により抵抗できない状態にある - 4 -のに乗じて,強いて同人を姦淫し,その際,前記玄関付近での暴行により,同人に全治約 ろ,前記路上に駐車中の同車後部付近の車外において,同人が前記暴行脅迫等により抵抗できない状態にある - 4 -のに乗じて,強いて同人を姦淫し,その際,前記玄関付近での暴行により,同人に全治約2週間を要する頭部顔面打撲の傷害を負わせた(平成22年1月27日付け起訴状の公訴事実第1関係),第5 同日午後8時5分ころから同日午後8時8分ころまでの間,同市所在のコンビニエンスストアaにおいて,同所に設置された現金自動預払機に前記第4の2記載の犯行により強取したE名義のキャッシュカード及びクレジットカード各1枚を順次挿入し,同機からQ銀行株式会社R支店支店長L管理の現金合計55万円を引き出して窃取した(平成22年1月27日付け起訴状の公訴事実第2関係),第6 正当な理由がないのに,同月20日の夜ころから同月21日の未明ころまでの間に,同県松戸市所在のマンションbのF方に,ベランダの掃き出し窓の施錠を外して侵入した上,同月21日午前10時16分ころ,帰宅した同人(当時21歳)に対し,金品を強取する目的で,同所にあった包丁(刃の長さ約17.6センチメートル,平成23年押第23号の2及び3は,犯行の際に分離したもの)を突き付け,その両手首をストッキングで緊縛するなどの暴行脅迫を加え,その反抗を抑圧して,同日午後1時ころまでの間に,同人所有又は管理の現金約5000円,キャッシュカード2枚及びクレジットカード2枚等を強取するとともに,そのころ,同所において,殺意をもって,前記包丁で同人の左胸部を3回突き刺すなどし,同人を左胸部損傷による出血性ショックにより死亡させて殺害した(平成22年3月10日付け起訴状の公訴事実第1関係),第7 同日午後1時26分ころから同日午後1時32分ころまでの間,同市所在のS株式会社松戸駅ATMコーナーにおい ックにより死亡させて殺害した(平成22年3月10日付け起訴状の公訴事実第1関係),第7 同日午後1時26分ころから同日午後1時32分ころまでの間,同市所在のS株式会社松戸駅ATMコーナーにおいて,同所に設置された現金自動預払機に前記第6の犯行により強取したF名義の株式会社 - 5 -T銀行発行のキャッシュカード1枚を挿入し,同機からS株式会社f事業本部部長M管理の現金2万円を引き出して窃取し,引き続き,前後4回にわたり,同現金自動預払機に前記第6の犯行により強取したF名義のクレジットカード(gカード)1枚及び株式会社U 銀行発行のキャッシュカード1枚を順次挿入し,同機から前記M管理の現金を引き出して窃取しようとしたが,暗証番号が一致しなかったなどのため,その目的を遂げなかった(平成22年2月17日付け起訴状の公訴事実第1関係),第8 同日午後1時38分ころ,同市所在のコンビニエンスストアhのi店において,同所に設置された現金自動預払機に前記第7記載のF名義のクレジットカード(gカード)1枚を挿入し,同機から株式会社V銀行j支店支店長N管理の現金を引き出して窃取しようとしたが,暗証番号が一致しなかったため,その目的を遂げなかった(平成22年2月17日付け起訴状の公訴事実第2関係),第9 同日午後2時11分ころから同日午後2時15分ころまでの間,前後2回にわたり,同市所在のコンビニエンスストアkのl店において,同所に設置された現金自動預払機に前記第7記載のF名義のキャッシュカード2枚を順次挿入し,同機から株式会社W銀行O管理の現金を引き出して窃取しようとしたが,いずれも残高不足のため,その目的を遂げなかった(平成22年2月17日付け起訴状の公訴事実第3関係),第10 15名が現に住居に使用する前記マンションb(鉄筋 金を引き出して窃取しようとしたが,いずれも残高不足のため,その目的を遂げなかった(平成22年2月17日付け起訴状の公訴事実第3関係),第10 15名が現に住居に使用する前記マンションb(鉄筋コンクリート造スレート葺5階建,床面積合計405.72平方メートル)に放火してFの死体を焼損するなどして前記第6の犯跡を隠ぺいしようと企て,同月22日,死亡した同人に代わって株式会社X管理部部長Pが - 6 -看守するF方に,ベランダの無施錠の掃き出し窓から侵入した上,そのころ,前記死体が存在する同室リビングにおいて,前記死体付近に置かれた衣類等にライターで火を放ち,その火を同室内の床,壁及び天井等に燃え移らせて焼損(焼損面積約24平方メートル)するとともに,前記死体を焼損し,もって現に人が住居に使用する建造物を焼損するとともに死体を損壊した(平成22年3月10日付け起訴状の公訴事実第2関係),第11 自動車に乗車しようとしたG(当時22歳)から金品を強取しようと企て,同月31日午後8時35分ころ,同県印旛郡(現在同県印西市)所在のY病院駐車場において,同人に対し,その背中を手で突き飛ばして同駐車場北側草地内に転倒させた上,その顔面をげん骨で数回殴り,「騒いだら殺すぞ。」と語気鋭く言いながら,その後頸部に用意していたドライバーの先端を押し当てながら,「お前,ここの看護師なんだろ。看護師なら,ここを刺したら死ぬって分かってるだろ。 首を刺されたら死ぬんだよな。」などと言い,その両手親指を結束バンドで後ろ手に緊縛し,更に,「車のキーどこだ。」,「立て。」,「お前,なめてんのか。殺すぞ。」,「車に乗れ。」などと言うなどの暴行脅迫を加え,その反抗を抑圧して金品を強取しようとしたが,目撃した第三者に騒ぎ立てられて逃走したため,その目的を遂げ 「立て。」,「お前,なめてんのか。殺すぞ。」,「車に乗れ。」などと言うなどの暴行脅迫を加え,その反抗を抑圧して金品を強取しようとしたが,目撃した第三者に騒ぎ立てられて逃走したため,その目的を遂げず,その際,前記暴行により,Gに全治約2週間を要する顔面打撲,頸椎捻挫及び後頸部挫創の傷害を負わせた(平成22年3月31日付け起訴状の公訴事実第3関係),第12 正当な理由がないのに,同年11月2日午前8時40分ころ,同郡所在のH方に,無施錠の1階北側子供部屋の掃き出し窓から侵入した上,そのころ,同所において,同人管理の現金約3万円を窃取した後, - 7 -在室していた同人(当時30歳)から金品を強取するとともに同人を強いて姦淫する目的で,同人に対し,同所にあった包丁(刃体の長さ約15.1センチメートル,平成23年押第23号の4)を突き付け,「騒ぐと殺すぞ。」などと語気鋭く言い,その両手首をストッキングで後ろ手に緊縛した上,「金はどこにあるんだ。」,「もっとないのか。」,「本当にないのか。殺すぞ。」などと言うなどの暴行脅迫を加え,その反抗を抑圧して,同人管理の現金約15万5000円を強取し,引き続き,同人が前記暴行脅迫により抵抗できない状態にあるのに乗じて,同人のパンツ等をその足首付近まで引き下ろすなどの暴行を加え,強いて同人を姦淫しようとしたが,同人が生理中であったため,姦淫の目的を遂げなかった(平成21年12月8日付け起訴状の公訴事実関係),第13 金品を窃取する目的で,同月13日午後6時過ぎころ,同郡所在のアパートmのI方に,南東側掃き出し窓の施錠を外して侵入した上,そのころ,同所において,同人所有の現金約6万円及び宝くじ62枚を窃取した(平成22年3月31日付け起訴状の公訴事実第4関係)ものである。 (証拠の標目 東側掃き出し窓の施錠を外して侵入した上,そのころ,同所において,同人所有の現金約6万円及び宝くじ62枚を窃取した(平成22年3月31日付け起訴状の公訴事実第4関係)ものである。 (証拠の標目)省略(争点に対する判断)第1 争点本件の争点は,判示第6の犯行の態様及び殺意の有無である。弁護人は,被告人は,被害者を意図的に刺したことはなく,被告人には殺意はなかった旨主張し,被告人も同旨の供述をする。 第2 当裁判所の判断 - 8 - 1 Jの証言,検察事務官作成の捜査報告書その他関係各証拠を総合すれば,被害者の遺体の解剖結果や本件の凶器について,以下の事実が認められる。 被害者の遺体には,傷が,左胸部に3か所(以下,被害者の頭部に近い傷から順に「左胸①の傷」,「左胸②の傷」,「左胸③の傷」という。),頸部に2か所(以下,被害者の頭部に近い傷から順に「首Aの傷」,「首Bの傷」という。)あった。 本件の凶器は,刃の長さが約17.6センチメートル,幅が最大で約4.5センチメートル,厚さが最大で約1.6ミリメートルの硬い金属製の包丁であり,被告人の案内により雑木林から発見されたときには,金属製の刃が根本で折れ,刃の根本部分が残っている柄と刃体とが分離されていた。 被害者の左胸部の傷のうち,左胸①の傷は,深さがおおよそ五,六センチメートルの刺し傷で,胸骨が真っ二つに切断され,左総頸動脈,気管,食道が損傷されたものであった。左胸②の傷は,深さが少なくとも五,六センチメートルの刺し傷で,第2肋軟骨が切断され,左肺上部,胸部大動脈が損傷され,背中側の第5胸椎をかすめて,その先まで達したものであった。左胸③の傷は,深さが約11センチメートルの刺し傷で,第4肋軟骨が切断され,左肺下部を突き抜け,背中側の左 肺上部,胸部大動脈が損傷され,背中側の第5胸椎をかすめて,その先まで達したものであった。左胸③の傷は,深さが約11センチメートルの刺し傷で,第4肋軟骨が切断され,左肺下部を突き抜け,背中側の左第8肋骨に当たって止まったものであった。左胸部のこれらの傷は,三つとも,傷口においても体内においても,真っ直ぐできれいにできており,切れ込みや途中で方向が変わっているようなことはなかった。 被害者の頸部の傷のうち,首Aの傷は,長さが約7.5センチメートル,深さが一番深い箇所で約三,四センチメートルの切り傷であり, - 9 -首Bの傷は,長さが約2センチメートル,深さが約1センチメートルの切り傷(又は刺し傷)であった。 2 そこで,まず,これらの客観的な事実に基づき検討する。 上記1でみた事実関係に照らすと,被害者の左胸部や頸部には合計5か所の刺し傷や切り傷があり,特に,左胸部の3か所の傷はいずれも,それ一つでも死亡結果をもたらす重大なものであったことが明らかである。被告人が手にしたと認められる凶器は,鋭利で刃体の長さが十分にある殺傷能力が高い包丁であった。しかるに,その包丁は,被害者の胸骨や肋骨を切断したり当たったりするなどした結果,最後には金属製の刃が折れてしまったものとみられる。これらの点にかんがみるだけでも,被告人は,被害者の左胸部を前記包丁を使って強い力で突き刺すなどしたことが認められ,被告人には殺意があったことが推認できる。 ところで,被害者の遺体の解剖を行ったJ医師は,左胸①や②の傷により左総頸動脈や胸部大動脈が切断されていることや,左胸部の3か所の傷,頸部の2か所の傷の周辺の出血状況等から判断して,被害者は,左胸①や②の傷を負ったことにより間もなく意識不明の状態となり,左胸③や首ABの傷は,い 大動脈が切断されていることや,左胸部の3か所の傷,頸部の2か所の傷の周辺の出血状況等から判断して,被害者は,左胸①や②の傷を負ったことにより間もなく意識不明の状態となり,左胸③や首ABの傷は,いずれも被害者が出血性ショックにより死亡する直前ないしは死亡した直後に負ったものであったと考えられる,また,胸骨は,肋骨よりも硬く,包丁でこれを完全に切断するには,背中が固定された状態にあるところに,よほどスピードをつけ体重を掛けて刺さないと無理であると考えられる,などと証言する。 この証言は,n大学大学院医学研究院法医学教室で法医学を専攻し,年間六,七十件ほど遺体解剖を行っている同証人の専門的な経験や知識に裏付けられた知見であって,その内容も合理的で理解しやすいも - 10 -のといえる。そして,被告人が折れた包丁の刃で被害者の頸部の傷を付けたとは考えにくいことを併せ考慮すると,被告人は,まず,被害者の左胸部を前記包丁でほぼ続けざまに2回突き刺し,左胸①②の傷を負わせたこと,殊に,左胸①の傷を負わせたときには,被告人は,被害者が背中を固定された状態,例えば,マットレスや壁等を背にして背中が固定された状態にあるところを,スピードをつけ体重を掛けるようにして,手にしていた前記包丁で一気に突き刺したこと,その後,被告人は,やや時間を置き,死亡直前又は直後の被害者に対し,その頸部を2か所にわたって傷付けた上,その左胸部を前記包丁で一気に突き刺したものと考えられる。このような犯行態様からすれば,被告人による刺突行為は,特段の事情のない限り,一連の殺意に基づくものと優に推認できることになる。 3 これに対し,被告人は,次のように供述し,被告人が被害者を前記包丁で故意に突き刺したことはなく,もとより殺意もなかった旨弁解する。 被告人は,マ づくものと優に推認できることになる。 3 これに対し,被告人は,次のように供述し,被告人が被害者を前記包丁で故意に突き刺したことはなく,もとより殺意もなかった旨弁解する。 被告人は,マットレスの上に座り,向かい合って被害者と話をしていたところ,被害者が「親が聞いたら嘆くだろうな。」という被告人の言葉をきっかけに急に怒り出した。被害者が「殺せるもんなら殺してみろ。」と言うなどし,被告人の左横に置いてあった包丁を取り上げると,被害者の首の方に包丁を持っていったので,被告人は,危ないと思って中腰の姿勢で包丁を奪いにいった。その際,被害者は,座ったまま包丁を抱え込むようにしており,被告人は,被害者から右手の薬指と小指を噛まれた。被告人は,被害者が握っている包丁を左手でがむしゃらに動かしたところ,噛みつかれていた指が外れ,被害者が包丁の柄を右手でつかんだまま左後方に左手を付いてのけぞるような姿勢になった。お互いが右手で包丁の柄を持 - 11 -った状態のままであったが,被害者が,包丁を取り返すため,再び体勢を立て直して勢いよく起き上がり,被告人の右肩付近をつかんできたので,被告人は,被害者の体を両手で押して突き放した。その際,被害者は「痛い。」という大きな声を上げた。被害者の胸には包丁が刺さっていた。被告人は,右手で包丁を抜いたところ,血が噴き出たので,それをよけたが,被害者がしがみついてきていたので,バランスを崩し,そのまま被害者の上に覆い被さるようにして倒れ込んでしまった。気がつくと,被害者の胸に再び包丁が突き刺さっており,包丁の柄は折れていた。一度目の突き刺さりが被害者の左胸②の傷であり,二度目のそれが左胸③の傷である。左胸①の傷と首の2か所の傷は記憶がない。 被告人は,上記のように弁解するところ,この供述 丁の柄は折れていた。一度目の突き刺さりが被害者の左胸②の傷であり,二度目のそれが左胸③の傷である。左胸①の傷と首の2か所の傷は記憶がない。 被告人は,上記のように弁解するところ,この供述は,被害者の遺体に存在する合計5か所の傷のうち,左胸②③の傷についてしか説明し得ていないものであるが,その点はさておき,そもそも,被害者の左胸部の三つの傷は,傷口にも体内にも乱れがみられないのであるから,被告人が供述するような揉み合いの中で生じたものとは考えにくい。また,被告人が左胸①の傷について覚えておらず,刺さったような感覚も全くなかった旨供述する点については,左胸①の傷が胸骨を完全に切断しており,切断の抵抗を手に感じないということは考えられないとするJ証言に反している。また,被告人は,被害者の頸部の傷についても覚えがないと供述するが,被告人の弁解どおりとすると,被害者の頸部に傷害が生じる可能性があるのは左胸部の傷が生じる前の包丁の奪い合いの場面しか考えられないところ,この成傷順序は,J証人が証言する成傷順序と矛盾しているばかりか,被害者の頸部に巻かれていたストッキングの状況に関し - 12 -てK証人が証言するところとも整合していない。加えて,被告人は,自ら供述する被害者の死亡時刻である午後零時40分か50分ころのわずか数十分後である午後1時25分ころには,松戸駅周辺において繰り返し現金の引き出しに及んでいるが,このような行動は,被害者の死亡という重大な事故を誤って起こしてしまった者の行動としては容易に理解できるものではない。 以上のとおり,思い付くままに挙げるだけでも,被告人の上記供述は,客観的な事実関係に整合していないばかりか,その内容も不自然不合理極まりないものであって,到底信用するに値しない。 被告人の弁解は採用で のとおり,思い付くままに挙げるだけでも,被告人の上記供述は,客観的な事実関係に整合していないばかりか,その内容も不自然不合理極まりないものであって,到底信用するに値しない。 被告人の弁解は採用できない。 第3 結論このようにみてくると,先にみたとおり,客観的な事実関係や信用できる解剖医の証言に照らせば,被告人が,殺意をもって,被害者の左胸部を前記の包丁で3回突き刺すなどして殺害したことが優に推認できるところ,被告人の弁解は,この推認を覆すようなものとはおよそならず,また,弁護人が主張するその他の点に即して考察しても,この結論は揺るがない。 (累犯前科)被告人は,平成14年9月30日横浜地方裁判所で住居侵入,強盗致傷の罪により懲役7年に処せられ,平成21年8月31日その刑の執行を受け終わったものであって,この事実は検察事務官作成の前科調書によって認める。 (法令の適用)罰条 判示第1,第3及び第13 の各所為住居侵入の点いずれも刑法130条前段 - 13 -窃盗の点いずれも刑法235条判示第2の所為住居侵入の点刑法130条前段強盗致傷の点刑法240条前段判示第4の所為住居侵入の点刑法130条前段D及びEに対する各強盗致傷の点いずれも刑法240条前段Eに対する強盗強姦の点刑法241条前段Eに対する監禁の点刑法220条判示第5の所為包括して刑法235条判示第6の所為住居侵入の点刑法130条前段 Eに対する監禁の点刑法220条判示第5の所為包括して刑法235条判示第6の所為住居侵入の点刑法130条前段強盗殺人の点刑法240条後段判示第7の所為包括して刑法235条判示第8の所為刑法243条,235条判示第9の所為包括して刑法243条,235条判示第10 の所為建造物侵入の点刑法130条前段現住建造物等放火の点刑法108条死体損壊の点刑法190条判示第11 の所為刑法240条前段判示第12 の所為住居侵入の点刑法130条前段強盗強姦未遂の点刑法243条,241条前段 - 14 -科刑上一罪の処理 判示第1ないし第3,第6,第12 及び第13 につき,いずれも刑法54条1項後段,10条(判示第1,第3及び第 13 につきいずれも重い窃盗の,判示第2につき重い強盗致傷の,判示第6につき重い強盗殺人の,判示第12 につき重い強盗強姦未遂の各罪の刑でそれぞれ処断することとする。)判示第4及び第10 につき,いずれも刑法54条1項前段,後段,10条(判示第4につき,住居侵入とDに対する強盗致傷,同住居侵入とEに対する強盗致傷,及び,同住居侵入と同人に対する強盗強姦がいずれも牽連犯の,Eに対する同強盗致傷と同強盗強姦,及び,同人に対する同強盗強姦と監禁がいずれも観念的競合の各関係にあるので,結局,以上を1罪として最も重いEに対する強盗強姦罪の刑で処断することとし,判示第10 Eに対する同強盗致傷と同強盗強姦,及び,同人に対する同強盗強姦と監禁がいずれも観念的競合の各関係にあるので,結局,以上を1罪として最も重いEに対する強盗強姦罪の刑で処断することとし,判示第10 につき,建造物侵入と現住建造物等放火及び死体損壊がそれぞれ牽連犯の,同現住建造物等放火と同死体損壊が観念的競合の各関係にあるので,結局,以上を1罪として最も重い現住建造物等放火の罪の刑でそれぞれ処断することとする。)刑種の選択 判示第1,第3,第5,第7ないし第9及び第13 の各罪につき,いずれも懲役刑判示第2,第4,第10 及び第12 の各罪につき,いずれも無期懲役刑判示第6の罪につき,死刑 - 15 -判示第11 の罪につき,有期懲役刑累犯加重 判示第1,第3,第5,第7ないし第9,第11 及び第13 の各罪刑法56条1項,57条(前記前科との関係で,いずれも各罪の刑に再犯加重をする。ただし,判示第11 の罪の刑については刑法14条2項の制限に従う。)併合罪の処理 刑法45条前段,46条1項本文(判示第6の罪について死刑を選択したので,他の刑は科さない。)没収 刑法46条1項ただし書,19条1項2号,2項本文(主文掲記のツールナイフ1本は,判示第2及び第4の1の各犯行供用物件で,被告人以外の者に属しない。)訴訟費用の処理 刑事訴訟法181条1項ただし書(不負担)(量刑の理由) 1 本件は,被告人が,約2か月の間に,①住居侵入・窃盗事件3件(判示第1,第3及 用の処理 刑事訴訟法181条1項ただし書(不負担)(量刑の理由) 1 本件は,被告人が,約2か月の間に,①住居侵入・窃盗事件3件(判示第1,第3及び第13),②住居侵入・強盗致傷事件(判示第2),③住居侵入・強盗致傷・強盗強姦・監禁,窃盗事件(判示第4及び第5),④住居侵入・強盗殺人,窃盗,同未遂,建造物侵入・現住建造物等放火・死体損壊事件(判示第6ないし第10,以下「松戸事件」ともいう。),⑤強盗致傷事件(判示第11 ),⑥住居侵入・強盗強姦未遂事件(判示第12)を次々と敢行した,という事案である。 2 被告人は,強盗殺人や現住建造物等放火の各犯行に加え,強盗致傷や強 - 16 -盗強姦,同未遂等の各犯行に連続的に及んでおり,その刑事責任は誠に重く,本件は,被告人に対して死刑をもって臨むべきか,無期懲役刑をもって臨むべきかが問われる事案である。 3 当裁判所は,本件では,死刑が窮極の刑罰であって,その適用には慎重を期さなければならないということを十分に念頭においても,被告人を死刑に処することはやむを得ないとの判断に至った。 以下,その理由を説明する。 第1に,本件の量刑上最も考慮すべき松戸事件の犯行態様が悪質極まりないものであることを指摘しなければならない。すなわち,強盗殺人の点については,被告人は,家人不在の被害者宅に夜陰に乗じて侵入した上で,物色行為に及ぶとともに,若い女性が一人暮らしをしていると分かると,部屋にとどまり,被害者が帰宅するや,被害者宅で見付けて手元に用意していた包丁を使って脅すなどして,被害者から金品を強取した挙げ句,殺害の動機や経緯は判然としないものの,まず,被害者の左胸を殺傷能力が高い当該包丁でほぼ続けざまに2回突き刺し,やや時間を置いて 意していた包丁を使って脅すなどして,被害者から金品を強取した挙げ句,殺害の動機や経緯は判然としないものの,まず,被害者の左胸を殺傷能力が高い当該包丁でほぼ続けざまに2回突き刺し,やや時間を置いて,その首を当該包丁で2か所にわたって傷付けた上,その左胸を当該包丁で更に1回突き刺している。被害者の刺し傷ないし切り傷はいずれも身体の重要部分に集中しているばかりか,被害者の左胸に最初に付けられた二つの傷のうちの一つは,胸骨が真っ二つに切断されている状態にあって,被告人が当該包丁を持った手に思い切り力を込めて一気に突き刺したものと認められる。その後,被告人は,無慈悲にも,死亡直前又は直後の被害者に対し,その首を当該包丁で2回にわたって傷付けた上,とどめをさすために,その左胸を当該包丁で更に深々と1回突き刺し,その際には,当該包丁の刃が折れたことが認められるのであって,そのことにもかんがみると,被告人が,被害者に抱いた殺意は - 17 -極めて強固なものであったと認められる。その殺害態様は,執拗にして冷酷非情なものであったというほかない。 また,現住建造物等放火の点については,被告人は,被害者を殺害した翌日,現場に舞い戻り,被害者宅があるマンションに居住する住民らの生命,身体の安全を顧みず,こともあろうに,被害者の死体を焼損するなどして犯跡を隠蔽しようと企てて火を放ち,被害者の亡骸をその手足の一部が焼失するなどの変わり果てた無惨な姿にするとともに,その部屋を全焼させている。火災自体は,幸い,適切な消火活動がなされたことによってマンションの他の部屋に延焼するようなことはなかったものの,被害者宅から立ち上がった炎や煙は窓から外に大きく噴き出すほどにまでになっていたことが認められ,この放火も誠に類焼の危険性が高い悪質な犯行であった。 他の部屋に延焼するようなことはなかったものの,被害者宅から立ち上がった炎や煙は窓から外に大きく噴き出すほどにまでになっていたことが認められ,この放火も誠に類焼の危険性が高い悪質な犯行であった。 第2に,松戸事件の結果が重大であることである。被害者は,大学4年生で,約半年後には母校である県立農業高校で教壇に立つ夢をもっていた前途有望な女子学生であった。被害者が帰宅してから死亡するまでの間に抱いたであろう恐怖心などの精神的苦痛や,意識不明に陥るまで短時間であったとはいえ,包丁で刺されたことによる肉体的苦痛は極めて大きかったものとうかがわれる。希望に満ちあふれた豊かな将来を被告人の凶行によって突如奪われ,両親や兄など愛する家族を残して絶命せざるを得なかった被害者の無念,悲嘆の情は察するに余りある。 第3に,松戸事件前後の強盗致傷,強盗強姦等の事件が悪質で重大であることである。本件では,松戸事件だけではなく,その前後の事件について,被告人が本来問われるべき刑事責任にも重いものがあるといわなければならない。特に,犯行態様や結果の点についてみると,被告人は,一連の強盗致傷事件により,被害者4名に傷害を負わせ,そのうち - 18 -2名は重傷である。また,被告人が強盗強姦行為に及んで重大な性的被害を与えた被害者も2名いる。すなわち,判示第2の被害者は,被告人から顔面をげん骨で執拗に殴打されるなどし,相当強度の力が加わらなければ折れない頬骨を骨折する等の重傷を負い,神経障害の後遺症が残っている。判示第4の1の被害者は,被告人から顔全体が腫れ上がるほどの激しい暴行を受け,下顎骨2か所の骨折,外傷性くも膜下出血など,命を落としていても何ら不思議ではないほどの重傷を負い,記憶喪失と知覚障害の後遺症が残っている。被告人がこの2名の被害 腫れ上がるほどの激しい暴行を受け,下顎骨2か所の骨折,外傷性くも膜下出血など,命を落としていても何ら不思議ではないほどの重傷を負い,記憶喪失と知覚障害の後遺症が残っている。被告人がこの2名の被害者に対して加えた暴行は,少林寺拳法3段を自認する被告人が,いずれも比較的高齢の女性被害者に対して,手加減することもなく,げん骨で顔面等を殴打したり,靴をはいた足で頭部等を蹴ったりするというもので,極めて強力な態様のものというほかなく,また,刃を出したツールナイフを突き付けるなどという犯行態様も,被害者らが抵抗したり,不意な動きをしたりすれば,被害者の死亡等の重大な結果をもたらしかねない危険なものであったといえる。判示第11 の被害者も,被告人によって,首にドライバーを突き付けられた上,「看護師なら,ここを刺したら死ぬって分かってるだろ。」などと脅迫され,強姦されたり殺害されたりするのではないかという恐怖を味わわされた上,その首等に傷害を負わされた。 判示第4の2の被害者は,約2時間半にわたり,被告人によって,車に監禁され,死の恐怖に怯えさせられた末,強姦されるなどした。判示第 12 の被害者は,被告人によって,包丁を突き付けられて脅迫された上,泣いている幼子がいる部屋で,性的暴行を執拗に加えられた。 これらの事件の悪質な犯行態様や深刻な被害にかんがみると,松戸事件前後の強盗致傷,強盗強姦等の事件もそれぞれが重大な事件であるといえる。 - 19 - 第4に,被告人の反社会的な人格傾向が極めて強いとみられることである。すなわち,被告人は,昭和59年に強盗致傷,強盗強姦事件で懲役7年に処せられ,道路交通法違反,有印私文書偽造,同行使事件で懲役1年,4年間保護観察付き執行猶予に処せられた前刑の執行猶予が取り消されて併せて服役し,平 ,昭和59年に強盗致傷,強盗強姦事件で懲役7年に処せられ,道路交通法違反,有印私文書偽造,同行使事件で懲役1年,4年間保護観察付き執行猶予に処せられた前刑の執行猶予が取り消されて併せて服役し,平成14年には住居侵入,強盗致傷事件で懲役7年に処せられて服役した。昭和59年の前科の内容は,車に乗り込もうとする若い女性を脅し,車で連行した上,強姦したという点で本件の判示第4の2の犯行に類似し,平成14年の前科の内容は,若い女性の家に侵入し,家人の帰宅を待ち構えて同所にあった包丁で脅した上,ストッキングで両手を緊縛してキャッシュカード等を強取したという点で松戸事件(判示第6部分)に類似する。被告人は,これら同種前科により長期間服役して,これらの罪についての内省を深める機会が十分に与えられたはずである。それにもかかわらず,前刑出所後3か月足らずのうちに本件各犯行に及んでいるのであるから,そのこと自体において,強い非難に値するといわなければならない。さらに,一連の犯行が短期間のうちに反復して行われていることも指摘しなければならない。被告人は,出所直後は就労意欲が無かったとはいえず,被告人なりに就労先を探した形跡もうかがわれるものの,刑務所で知り合った暴力団関係者を頼るという出所時のあてがはずれるや,安易に判示第1の犯行に及び,事の成り行きによっては強盗もやむなしと考えるようになって判示第2ないし第5の犯行に及び,女性を狙って金員を奪うとともに性的に支配するという歪んだ傾向性や粗暴性を顕現させるに至った。松戸事件を敢行した後は,このような反社会性の強さが下地となり,正業に就いて更生しようという意欲はついぞ薄れ,積極的に判示第11 の強盗行為に及び,下見を繰り返した上で無体の限りを尽くす判示第12 の犯行に至っ - 20 -ている。被告人 さが下地となり,正業に就いて更生しようという意欲はついぞ薄れ,積極的に判示第11 の強盗行為に及び,下見を繰り返した上で無体の限りを尽くす判示第12 の犯行に至っ - 20 -ている。被告人は,本件各犯行に及んだ期間中には,ツールナイフを携帯していた件や無断で倉庫に侵入して休んでいた件で警察官から事情聴取を2度受け,また,母や妹らを訪問して何度か会ったことが認められるが,それらのことも,被告人の凶行の歯止めとはならず,むしろ犯罪で金を得てはキャバクラで遊興することを繰り返し,判示第12 の犯行当夜にもキャバクラで散財する等,自らの金銭欲と性欲の赴くままに犯行をエスカレートさせていっている。また,被告人が,判示第12 の被害者に対して,「前に,騒ぐと殺すと脅したら,殺せるものなら殺してみろと言われたから,刺してやった。」,「人を刺すときの感触はすーっと刃が入っていって病み付きになる。」などと,松戸事件(判示第6部分)を彷彿させる脅迫文言を平然と用いていることも見過ごせない。 被告人の反社会的な傾向性は顕著で根深いものがあるといわざるを得ない。 第5に,本件では殺害された被害者が一人であり,また,殺害自体について計画性が認められない,という点について考察する。 確かに,殺害された被害者の数は,死刑か無期懲役刑かという量刑判断をする際の重要な要素の一つであり,本件でその人数が1名であるということは十分考慮されるべき点といえる。また,同様に,殺害行為の計画性の有無も,責任非難の大きさに重要な影響を与える要素である。 しかし,被告人は,短期間に,松戸事件以外にも,強盗致傷や強盗強姦といった重大事案を複数回犯し,それら被害者らの中には死亡していてもおかしくないほどの重篤な傷害や,深刻な性的被害を受けた者がいる。また, ,被告人は,短期間に,松戸事件以外にも,強盗致傷や強盗強姦といった重大事案を複数回犯し,それら被害者らの中には死亡していてもおかしくないほどの重篤な傷害や,深刻な性的被害を受けた者がいる。また,被告人は,脅すための道具としてではあるが,ツールナイフや包丁といった刃物を使用して,一連の強盗事件を敢行しており,被告人の粗暴な性格傾向の著しさにもかんがみると,被害者の対応いかんな - 21 -どによってはその生命身体に重篤な危害が及ぶ危険性がどの事件でも十分にあったといわざるを得ない。 これら本件に特有の事情を考慮すると,殺害された被害者が1名であることや,殺害行為自体に計画性があったと認められないことは,それぞれ重要な事情ではあるものの,被告人に対しては極刑を回避すべき決定的事情とまではならない。 第6に,被告人の反省の情及び更生可能性について検討する。 ア被告人は,松戸事件における殺害行為を否認する以外は,起訴された各事実関係を概ね認め,「命をもって償いたい。」などと述べて反省の情を示している。また,被害者らに対して作成した謝罪文や弁護人との文通の内容,逮捕後に自殺を図ったこと,本件のような重大事件を起こしてもなお被告人を見捨てず,当公判廷に出頭した母や妹に対する言動等からは,被告人が自己の犯した罪に思い悩んでいる様子もうかがわれる。 しかしながら,松戸事件における被害者の言動,犯行態様等について信用し難い弁解を繰り返しているほか,いくつかの事件に関しては,下見の有無・程度,強盗・強姦の犯意発生時期等について,公判供述を変遷させたり,不合理な供述をするなど,真実を語らず,責任回避的な言動がみられる。被告人が本件と向き合って真に反省を深めているとみることはできない。 イ次に,成育歴の点である て,公判供述を変遷させたり,不合理な供述をするなど,真実を語らず,責任回避的な言動がみられる。被告人が本件と向き合って真に反省を深めているとみることはできない。 イ次に,成育歴の点である。被告人は,少年期に家庭では父親の暴力,教護院に入ってからは不良仲間に囲まれるなど,不遇な環境にあったことが認められ,被告人の犯罪性向にこれらの影響が無いということはできない。しかしながら,被告人は,犯罪を繰り返す生活をしていたわけではなく,特に,平成4年ころから平成14年までの約10年 - 22 -間は,結婚して子どもにも恵まれ,定職について安定した生活を送っており,被告人も自ら述べるとおり,幸せに暮らしていた時期もあった。それにもかかわらず,その生活を,身勝手な犯罪に走って壊し,前妻や,平成4年の出所以降親身になって被告人を気遣ってくれた母,妹らを裏切ってきたのは,他ならぬ被告人自身である。被告人には安定した生活を送れていた時期がそれなりにあったことや,本件犯行時48歳という年齢であったことなども考慮すると,もはや,少年期における環境的負因を重視して責任を殊更減じる段階にはないというべきである。 ウなお,弁護人は,被告人には知的障害や発達障害(自閉症スペクトラム)の疑いがあることも本件の背景事情として考慮されるべきである旨主張するが,被告人が社会生活を送っていた際の状況,刑務所内での状況,本件各犯行の状況につき,証拠上認められる事実関係や,法廷での言動をみても,かかる疑いを抱かせるような事情は認められない。 エ以上を総合すれば,被告人に更生可能性が全く無いとはいえないが,更生可能性は乏しいといわざるをえない。 4 以上のとおり,松戸事件の殺害態様が執拗で冷酷非情であり,放火も危険性が高い悪質な犯行であること,松戸 れば,被告人に更生可能性が全く無いとはいえないが,更生可能性は乏しいといわざるをえない。 4 以上のとおり,松戸事件の殺害態様が執拗で冷酷非情であり,放火も危険性が高い悪質な犯行であること,松戸事件の結果が重大であること,松戸事件前後の強盗致傷,強盗強姦等の事件が悪質で重大であること,累犯前科や同種前科の存在にもかかわらず本件に及んだことが強い非難に値し,短期間の犯罪の反復累行性に現れた被告人の人格の反社会性が顕著であること,被告人が真に反省しているとは評価できず,更生可能性に乏しいことのほか,松戸事件の被害者遺族や,その他の事件の被害者らの処罰感情が極めて厳しいことなどにかんがみると,本件では殺害された被害者の数 - 23 -が一人であること,松戸事件の被害者の殺害に計画性がないことなどを十分に考慮しても,被告人の刑事責任は誠に重いと断ずるほかない。 死刑が人間存在の根元である生命そのものを永遠に奪い去る冷厳な極刑であり,誠にやむを得ない場合における窮極の刑罰であるとしても,被告人に対しては,死刑をもって臨むのが相当である。 よって,主文のとおり判決する。 (求刑死刑,主文掲記のツールナイフ1本の没収)平成23年6月30日千葉地方裁判所刑事第2部 裁判長裁判官波床昌則 裁判官中尾佳久 裁判官福岡涼
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