平成12(行コ)12 公金支出返還請求控訴事件(原審・高知地方裁判所平成9年(行ウ)第9号)

裁判年月日・裁判所
平成13年2月26日 高松高等裁判所 住民訴訟
ファイル
hanrei-pdf-15653.txt

判決文本文19,362 文字)

主文 一本件各控訴を棄却する。 二控訴費用は控訴人らの負担とする。 事実及び理由 第一控訴の趣旨一原判決中、被控訴人らに関する部分を取り消す。 二被控訴人らは、高知県に対し、連帯して金五五四万八一〇〇円を支払え。 第二事案の概要本件は、高知県の住民である控訴人らが、平成八年一二月五日高知県健康福祉部保険課及び国民年金課(社会保険事務所を含む。)に所属する地方事務官一七二名に対し報償費として合計五五四万八一〇〇円が支給されたことについて、地方自治法二四二条の二第一項四号に基づき、高知県に代位して、被控訴人らに対し、連帯して五五四万八一〇〇円の損害の賠償を求めた住民訴訟である。控訴人らは、次のように主張する。右支給は、報償費に当たらないものを報償費として支給した違法なものである。高知県健康福祉部長の被控訴人Aは右支出に係る支出負担行為を専決し、同部保険課長の被控訴人Bは支出命令を専決し、被控訴人Cは右報償費の交付を受けて各地方事務官に報償費の支払をし、それぞれ故意又は重大な過失によって違法に右報償費の支給をしたものである。したがって、被控訴人らは、地方自治法二四三条の二第一項後段により右支出によって高知県に被らせた右報償費相当額の損害を賠償する責任を負う、と。 原審は、控訴人らの被控訴人らに対する請求をいずれも棄却したため、控訴人らが控訴した。 なお、控訴人らは、原審において右支出負担行為の代決権者である健康福祉部副部長のD、被控訴人A及び同Bを直接補助する職員である同部保険課主幹のE、同課課長補佐のF、同課副主幹のG、同課会計係長のH、同課主事のIに対しても、右同様の請求をしていたところ、原審は、右の者らに対する訴えをいずれも却下した。右却下判決に対し控訴人らから控訴はない。 第三当事者の主張一原判 のG、同課会計係長のH、同課主事のIに対しても、右同様の請求をしていたところ、原審は、右の者らに対する訴えをいずれも却下した。右却下判決に対し控訴人らから控訴はない。 第三当事者の主張一原判決の引用原判決事実摘示(五頁五行目から五八頁四行目まで)のうち、被控訴人らに関する部分のとおりであるから、これを引用する。ただし、次のとおり補正する。 1 原判決事実摘示中、「国民健康保健法」とあるのを「国民健康保険法」に、「老人保険法」とあるのを「老人保健法」に、「自治省財務課長」とあるのを「自治省財政局財政課長」に、それぞれ改める。 2 原判決八頁一行目の「(一)から(三)」を「(1)から(3)」に改める。 3 同一〇頁一行目の「右2」を「右2(一)」に改める。 4 同頁一〇行目の「労働行政に携わる地方事務官(」の次に「規程六九条三号の事務に従事する地方事務官。」を加える。 5 同一一頁一〇行目の「中途人事移動」を「中途人事異動」に改める。 6 同一三頁一〇行目から一一行目にかけての「二四二条の二第一項前段」を「二四三条の二第一項後段、二四二条の二第一項四号」に改める。 7 同一五頁七行目の「予算執行委員」を「予算執行職員等」に改める。 8 同一六頁四行目から五行目にかけての「被告適格を欠いた」を削る。9 同頁一一行目の「地方自治法施行令」から同一七頁六行目までを次のとおり改める。 「支出命令に基づき交付を受けた経費を保管し正当な債権者に支払い、あるいは交付を受けた経費の目的に従って債務を負担し、その債務を支払うことを職務とする(地方自治法施行令一六一条)。このように、資金前渡職員の「支払」に関する職務は右のとおりに限定されているのであって、その責任も、地方自治法二四三条の二第一項前段の事由(故意又は重大な過失によりその保管に係る現金、有価証券、 。このように、資金前渡職員の「支払」に関する職務は右のとおりに限定されているのであって、その責任も、地方自治法二四三条の二第一項前段の事由(故意又は重大な過失によりその保管に係る現金、有価証券、物品等を亡失し、又は損傷したとき)に係るものに限定されるものというべきである。したがって、資金前渡職員に対して右範囲を超える請求をした場合、右資金前渡職員は同法二四二条の二第一項四号の当該職員性を欠くものというべきであって、同条項及び同法二四三条の二第一項後段に基づく被控訴人Cに対する本件訴えは、当該職員性を欠く者を被告とする住民訴訟として不適法である。」 10 同五〇頁四行目の「老人保険」を「老人保健」に改める。 二当審附加主張【控訴人らの主張】 1 被控訴人Aには、本件支出に係る支出負担行為(以下「本件支出負担行為」という。)を専決したことについて故意又は重大な過失があり、地方自治法二四三条の二第一項後段に基づく高知県に対する損害賠償責任を免れない。 (一) 被控訴人Aは、高知県健康福祉部長として本件支出負担行為を専決した。 被控訴人Aは、高知県における自治体公務の指導的地位を約束されて自治省から高知県に出向していたのであり、公務員の給与法定主義に対する理解を有していたことは明らかである。したがって、被控訴人Aは、幹部職員として、従前慣行的に違法な支出が行われていたとしても、その誤りを正し、法に基づく厳正な指揮及び管理監督の責務を負っていたものと解すべきである。 (二) 原判決は、本件支出が法令によらないで社会保険地方事務官の給与に実質的な上乗せをしたと見られても仕方がないとしてその違法性を認めたが、本件支出負担行為をしたことについて被控訴人Aに故意又は重大な過失がないものと判断した。しかしながら、被控訴人Aに故意又は重大な過失があったことは たと見られても仕方がないとしてその違法性を認めたが、本件支出負担行為をしたことについて被控訴人Aに故意又は重大な過失がないものと判断した。しかしながら、被控訴人Aに故意又は重大な過失があったことは、次のとおり明らかである。 (1) 高知県においては、従来、社会保険地方事務官への協力費として一律の金額が総務部福利厚生課の予算から職員互助会への補助金として支出され、職員互助会から職員団体を通じて、各地方事務官に支給されていた。このことは、本件支出が職員団体との協議(団体交渉)の結果金額等が定められていたことを証している。そして、高知県内部においてこの支出方法が問題となって、平成五年度から報償費名目の支給がされるようになったものである。 しかし、支出科目が変えられても、この支出が給与の上積み金の性格を持ち、違法なものであることはいうまでもない。高知県が平成四年一二月に各都道府県に電話で問い合わせた結果の資料(乙七)を見ても、地方事務官のような国費職員に対する謝礼金と称する支出が、時間外勤務手当、旅費、福利厚生費、互助会費、体育奨励金、知事報償費、報償費など様々な名目でなされていたことが明らかである。 これは、同じ職場に勤務する地方公務員と国家公務員(地方事務官)の給与の格差に対する不満を解消するためのお手盛り的な給与の上積みである。 被控訴人らは、平成五年度での支出科目の変更時に、報償費支出の可否を自治省に問い合わせたとしている。しかし、電話での問合せであり、その内容が報償費支出の対象となる役務の提供もない者にも一律支給することを明らかにした上で問い合わせたものか、公式のものか、自治省のいかなる責任者がこれを許容したかなどは明らかではない。 地方公共団体の財務会計の指針である「地方公共団体歳入歳出科目解説」(甲五)には、報償費とは「役務の 合わせたものか、公式のものか、自治省のいかなる責任者がこれを許容したかなどは明らかではない。 地方公共団体の財務会計の指針である「地方公共団体歳入歳出科目解説」(甲五)には、報償費とは「役務の提供や施設の利用などによって受けた利益に対する代償としての支出」とされ、「予算上は報償費として計上されていても、実質上職員手当等の給与その他の給付であれば、違法支出となる」と指摘されている。また、報償費支出に関して厳密な判断をした最高裁判決や行政実例もある。被控訴人Aがこのような報償費の取扱に無知であったことなどあり得ない。また、本件支出に際して無知のために適正なチェックができなかったとしたら、その過失は重大である。自治省側がこれほど明白な違法支出を公式に是認することはあり得ない。 地方事務官に対する支出が福利厚生費から報償費に支出科目が変えられたのは、その経緯からして、県民から違法支出の指摘がされるのを避けるために合法性を装おうとしたものであることが明らかである。したがって、右支出は、法や条例に定めのない給与の上積みを意図的に行っていたというべきであって、本件支出も違法であることを知りながら故意になされたことが明らかである。 (2) 原判決は、「地方事務官に報償費の対象となり得るような県政への協力が現実に存在し」「これに対して報償費を支払うこと自体は十分に理由があったといわざるを得ないのである」としている。 しかし、実際に報償費の対象となる役務の提供に当たる事務を行った者はごく一部の数名の事務官だけである。高知県会計事務処理要領では、報償費について「役務の提供に対する純粋な謝礼又は報償的意味の強い経費」と規定し、支出に当たっての留意事項として「支出額等は適正か」「理由は妥当か」等が具体的に示されている。特別な役務の提供もない職員に対して根 「役務の提供に対する純粋な謝礼又は報償的意味の強い経費」と規定し、支出に当たっての留意事項として「支出額等は適正か」「理由は妥当か」等が具体的に示されている。特別な役務の提供もない職員に対して根拠もなく一律の金額を給与の裏手当として支給することが許される余地はない。 被控訴人Aは、前記の会計規則や会計事務処理要領を熟知し、会計処理を適正に行うよう指揮、監督する責務を有していた。また、本件支出負担行為の際、社会保険地方事務官の全てが報償費の対象となる特別の役務提供を行っていなかったことを知っていた。それにもかかわらず、被控訴人Aは、無責任に本件支出負担行為を専決し、違法な本件支出をもたらしたのである。 (3) 被控訴人らは、地方事務官に対する報償費の支出の違法性が問題になったのは、平成九年一月の自治省財政局財政課長の通知が出されてからであると主張する。しかし、自治省が右通知を出したのは、地方公務員へのヤミ手当等のお手盛り的公金支出が目に余るようになり、これに対する住民の関心と批判の高まりがあったからであり、全国的に右支出が適法でないとの異例の通知を出さざるを得ないほど法規を無視した支出が蔓延していたのであって、本件支出もその端的な事例であった(被控訴人Aによる本件支出負担行為は平成八年一二月であり、右自治省の通知が出される直前である。)。 控訴人らが本件支出の違法性についての認識を何ら持たずに事務執行をしていたことは、「バレなければ何をしてもよい」との無責任体質を証明するだけであり、責任回避の根拠とはなり得ない。 一方、高知県は、自治省通知の前に今後は報償費の支給を行わないことを決めたと説明した。平成九年度予算要求査定は、本件支出決裁前の平成八年一一月二〇日ころにはなされており、右決裁時には平成九年度からの廃止方針は念頭にあったと の前に今後は報償費の支給を行わないことを決めたと説明した。平成九年度予算要求査定は、本件支出決裁前の平成八年一一月二〇日ころにはなされており、右決裁時には平成九年度からの廃止方針は念頭にあったと解するのが妥当である。違法の責任は問わず、事後是正すればよいとの悪弊に溺れて、違法を承知で最後の支給として本件支出は行われたのである。また、本件の法規に反した「給与への上乗せヤミ支給」は、職員団体(国費協)との力関係に基づき、同団体との交渉に左右されて支出されてきた実態が明らかになっており、その責任は厳正に追及されるべきである。 2 被控訴人Bのした支出命令及び同Cの資金前渡職員としてした支払は違法であり、かつ、いずれも本件支出について故意又は重大な過失があり、地方自治法二四三条の二第一項後段に基づく高知県に対する損害賠償責任を免れない。 【被控訴人らの主張】 1 本件支出負担行為の違法性についての認識可能性被控訴人Aには、本件支出負担行為を違法であると認識すべきことについて重大な過失があったとまではいえない。その理由は、次のとおりである。 (一) 高知県は、健康福祉部保険課及び国民年金課(社会保険事務所を含む。)に所属する地方事務官に報償費を支給する件について自治省にその見解を問い合わせ、違法ではない旨の回答を受けている。これにより被控訴人らは、本件報償費の支給が適法であると判断したものである。 (二) 高知県において、平成五年以降、地方事務官に対する報償費の支給の違法性が問題とされたことはなく、毎年度予算措置が講じられ、高知県議会においてもその議決がされてきた。被控訴人らも同様に本件報償費の支給が違法であるとは疑わず、決議された予算に基づき本件支出負担行為、支出命令等を行ったものである。 (三) 地方事務官に支給する報償費の違法性が問題とされ されてきた。被控訴人らも同様に本件報償費の支給が違法であるとは疑わず、決議された予算に基づき本件支出負担行為、支出命令等を行ったものである。 (三) 地方事務官に支給する報償費の違法性が問題とされたのは、平成九年一月二〇日付け自治省財政局財政課長名の文書(甲六)が各都道府県総務部長宛に発出されてからである。本件支出負担行為が決裁された平成八年一二月三日当時、地方事務官に対する報償費の支出については、全国的にも問題となっておらず、その指摘もなかった。被控訴人らの前任者だけでなく、全都道府県の関係者も違法と考えずに同様の報償費を支給してきた。自治省においても、このことが問題として指摘されたこともなかった。被控訴人らにとっては、右自治省課長名の文書を契機に、いわば突然に報償費の違法性が全国的に問題となり論議されるようになったものである。右文書発出以後も報償費の支給を継続したのであれば格別、このような状況下において被控訴人らに重過失があるとまではいい難く、個人責任を負担させるのはいささか合理性を欠く。ちなみに、右当時、高知県においてはカラ出張や官官接待による公金支出が大きな問題として指摘され、大々的に報道されていたものであって、被控訴人Aも、むしろ本件支出がカラ報償費としてプールされているのではないかと心配したのである。同被控訴人の注意がこのことの方に向けられていたとしても、以上のような経緯に照らしやむを得ないというべきである。また、(四) 原判決が指摘した本件支出負担行為の違法性は、一律支給、すなわち地方事務官の協力の有無、程度を問うことなく一律に報償費を支出した点にある。しかし、この点については、控訴人らの監査請求(甲一)、訴状において明確に意識されて指摘されているわけではない。控訴人らが指摘していたのは、本件報償費の支給が給与条例に に報償費を支出した点にある。しかし、この点については、控訴人らの監査請求(甲一)、訴状において明確に意識されて指摘されているわけではない。控訴人らが指摘していたのは、本件報償費の支給が給与条例に定める給与以外の支給であること、地方事務官の高知県に対する協力はその本来の業務に属すること、労働省所管の地方事務官に一律支給をしていないこととの対比において不合理であること、以上の三点であった。控訴人らが協力の有無や程度を問うことなく一律に支給したとの指摘は、原審における主張整理の過程で明確になってきたものである。これらの点からすれば、平成八年一二月三日当時、被控訴人Aが右の内容の違法性を意識しなかったとしても、やむを得なかったというべきである。 2 本件支出負担行為の回避可能性仮に、被控訴人Aが本件支出負担行為の違法性を認識し得たとしても、これを回避することについて重大な注意義務違反があったとまではいえない。 その理由は次のとおりである。 (一) 本件支出負担行為に係る決裁文書が被控訴人Aの許に上がってきたのは平成八年一一月末ころであり、支出予定日の同年一二月五日までには数日しかなかった。しかも、これについては既に予算措置が講じられ高知県議会もこれを承認する議決をしていたものであり、これまで高知県において地方事務官に対する報償費の支出の違法性が問題とされたことはなかった。 (二) このような状況にあるとき、本件報償費の支出を拒むには、本件報償費の支給に関する従前からの経緯について十分に調査をした上で、議会、関係部局との交渉、根回しを行う必要があるところ、そのような時間的余裕はなかった。 (三) そして、現に、地方事務官に対する報償費の一律支給は平成八年度を最後として平成九年度以降は廃止されており、その廃止には被控訴人Aの判断が大きく寄与して ころ、そのような時間的余裕はなかった。 (三) そして、現に、地方事務官に対する報償費の一律支給は平成八年度を最後として平成九年度以降は廃止されており、その廃止には被控訴人Aの判断が大きく寄与している。被控訴人Aは、その注意義務を十分に尽くしたものというべきである。 第四当裁判所の判断一争いのない事実原判決「理由」一(五八頁六行目から五九頁四行目まで)と同じであるから、これを引用する。ただし、五八頁末行及び五九頁一行目の各「自治省財務課長」をいずれも「自治省財政局財政課長」に改める。 二被控訴人Cの本案前の主張について被控訴人Cは、高知県健康福祉部保険課国保業務班長の職にあった者で、地方自治法施行令一六一条及び高知県会計規則五五条により資金前渡職員に指名され、地方自治法二四三条の二第一項三号所定の「支払」の権限を有していたものである(争いがない。)。 資金前渡とは、特定の経費について当該地方公共団体の職員にその資金を交付して、その職員をして支払をさせる制度である(地方自治法施行令一六一条)。資金前渡職員に指名されて資金前渡を受けた者は、単にその交付を受けた資金を出納保管するにとどまらず、交付を受けた目的に従って、正当な債権者に対し現金をもって支払をする権限を有するものであるから、地方自治法二四三条の二第一項三号所定の「支払」の権限を有する職員に該当することが明らかである。したがって、資金前渡職員に指名された被控訴人Cは、同法二四二条の二第一項四号所定の「当該職員」に該当し、同被控訴人を被告とする本件訴えは適法である。 よって、被控訴人Cの本案前の主張は理由がない。 三本件支出の違法性について 1 被控訴人Aのした本件支出負担行為について当裁判所も、被控訴人Aの専決した本件支出負担行為は違法であると判断する。 その理由は 控訴人Cの本案前の主張は理由がない。 三本件支出の違法性について 1 被控訴人Aのした本件支出負担行為について当裁判所も、被控訴人Aの専決した本件支出負担行為は違法であると判断する。 その理由は、原判決「理由」三の1、2(六五頁三行目から七八頁七行目まで)に説示するところと同じであるから、これを引用する。ただし、次のとおり補正する。 (一) 原判決六八頁八行目、六九頁三行目、七〇頁三行目の各「保健課」をいずれも「保険課」に改める。 (二) 同七一頁九行目から同一〇行目にかけての「自治省の適法であるとの見解を確認した上、」を削る。 (三) 同七二頁一行目の「年額三万円」を「一名当たり年額三万円」に改める。 (四) 同七八頁一行目の「地方事務官が」から同三行目の「したとしても、」までを削る。 2 被控訴人Bのした支出命令及び被控訴人Cのした支払行為について(一) 右1で原判決の理由説示を引用して示したとおり、本件支出は、法令によらずして社会保険地方事務官の給与に実質的な上乗せをしたと見られても仕方のないものであり、少なくとも正当な報償費の支給と評価できるものではない。 (二) 被控訴人Bのした支出命令は、普通地方公共団体の長が、当該普通地方公共団体の歳出につき債務が確定した旨を出納長又は収入役に通知し、その支出を命令することである(地方自治法二三二条の四第一項)。本件支出負担行為及びこれに基づく支出命令は、それぞれ健康福祉部長たる被控訴人A及び同部保険課長たる被控訴人Bが専決したものであるが、ともにその本来的権限は高知県知事に属するものであり、かつ、右支出命令は、本件報償費の支給を決定した本件支出負担行為をその直接の原因としてされたものであるから、後者が違法であれば、当然に前者も違法になると解するのが相当である。したがって、被控訴人Bの専決 、右支出命令は、本件報償費の支給を決定した本件支出負担行為をその直接の原因としてされたものであるから、後者が違法であれば、当然に前者も違法になると解するのが相当である。したがって、被控訴人Bの専決した支出命令も違法である。 (三) また、本件報償費の支給について資金前渡職員の指名を受け、各地方事務官に対し本件報償費の支払を行った被控訴人Cの行為も、右のとおり違法な本件支出負担行為及び支出命令をその直接の原因としてされたものである以上、同様に違法であるとの評価を免れるものではない。 四被控訴人らの故意又は重大な過失の有無について 1 職員の賠償責任の要件たる「故意又は重大な過失」の意義支出負担行為、支出命令及び支払をする権限を有する職員が故意又は重大な過失により法令の規定に違反して当該行為をしたこと又は怠ったことにより普通地方公共団体に損害を与えたときは、これによって生じた損害を賠償しなければならない(地方自治法二四三条の二第一項)。 本件支出について、被控訴人Aは支出負担行為の、同Bは支出命令のそれぞれ専決権限を有するものであり、同Cは資金前渡職員としてその支払をする権限を有する。したがって、被控訴人らは、それぞれ本件支出負担行為、これに基づく支払命令及び資金前渡職員としての支払について故意又は重大な過失があるときは、これによって高知県に被らせた損害を賠償すべき責任がある。 そして、ここでいう「故意又は重大な過失により法令の規定に違反して当該行為をしたこと」というのは、次のような場合をいうと解される。 (一) 予算執行職員等において、その行為につき法令の規定に違反する具体的な事実関係を認識し、かつ、右事実関係を基として当該行為が法令に違反するとの判断に至っているのにかかわらず、あえて右違法な行為を行った場合(故意)。 (二) 当該予 為につき法令の規定に違反する具体的な事実関係を認識し、かつ、右事実関係を基として当該行為が法令に違反するとの判断に至っているのにかかわらず、あえて右違法な行為を行った場合(故意)。 (二) 当該予算執行職員の通常有すべき認識・判断能力を基準として、その行為につき法令の規定に違反する具体的な事実関係を極めて容易に認識し得るのにこれを認識せず、その結果、これを認識しておれば当該行為が違法であるとの判断を極めて容易に持ち得たのにこれを持たないまま当該行為を行った場合(重過失)。 (三) 右のような具体的な事実関係を認識しており、かつ、右事実関係を基として極めて容易に当該行為が違法であるとの判断に至るべきであるのに、かかる判断に至らないまま当該行為を行った場合(重過失)。 そこで、被控訴人らそれぞれについて、本件支出に関するそれぞれの行為に当たり、右の意味での故意又は重大な過失があったか否かについて検討する。 2 被控訴人Aについて(一) 証拠(甲二ないし四、六、四五、乙七ないし九、被控訴人A、同B)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。 (1) 被控訴人Aは、自治省入省後三つの地方公共団体に出向して勤務した後、平成七年四月一日付けで同省財政局調整室課長補佐から高知県健康福祉部長に発令されて平成九年三月三一日まで勤務した。そして、同年四月一日付けで同県総務部長に発令され、平成一一年四月一日付けでいったん自治省に復帰し、その後同省系列の特殊法人である公営企業金融公庫に勤務して今日に至っている。 (2) 本件支出に係る決裁書類である「回議書」(甲三)は、健康福祉部保険課国保業務斑のIが平成八年一一月一九日に起案し、国保業務班長(被控訴人C)、庶務係長、副主幹、保険課長補佐、主幹、保険課長(被控訴人B)及び健康福祉部副部長の各決裁を経た後、同 は、健康福祉部保険課国保業務斑のIが平成八年一一月一九日に起案し、国保業務班長(被控訴人C)、庶務係長、副主幹、保険課長補佐、主幹、保険課長(被控訴人B)及び健康福祉部副部長の各決裁を経た後、同月下旬に健康福祉部長である被控訴人Aの許に回されてきた。右「回議書」は「経費支出伺」との表題が付され、「支給の目的・理由」欄には「保険課及び国民年金課(社会保険事務所を含む。)に所属する地方事務官は、いずれも知事の指揮監督のもとに県民生活に密接な関係を有する社会保険及び国民年金業務に従事し、県の社会福祉行政と一体になって県民福祉向上のため多大の貢献をしている。このため、こうした県行政への協力に対する謝金として、支給するものである。」と記載され、支出予算科目は「3民生費 4国民健康保険費、2国民健康保険事業促進費(8)報償費」とされている。支給時期については「効率的な事務処理を行う見地から月々の支給は行わず、年度の後半期のうち、消費支出の増加が見込まれる一二月に一括支給するものとする。本年度は一二月五日を支給日とする。」と記載され、その他、支給対象職員数、支給額等の記載がある。 (3) 被控訴人Aは、右「回議書」を見てその支出形態等について腑に落ちないところがあり、保険課の職員を呼んで説明を受けた。同職員の説明は、次のようなものであった。地方事務官に対する報償費は、県が地方事務官から本来の職務外に種々の業務上の協力を受けていることから、その対価ないし報償の趣旨で支給されるものである。もともと昭和四十五、六年ころから福利厚生費の予算から支給されてきたが、その後議論を重ねた結果、平成五年に報償費として支出するということで県庁内で整理を付けた。その際報償費の支給要領(甲二)も作成され、以来今日に至るまで同支給要領に従って支給されているものである。今 、その後議論を重ねた結果、平成五年に報償費として支出するということで県庁内で整理を付けた。その際報償費の支給要領(甲二)も作成され、以来今日に至るまで同支給要領に従って支給されているものである。今回の報償費支出についても、平成八年度予算に計上済みであり、同年三月に県議会でこれを承認する旨の議決があった。他の都道府県でもこれと同様の支給をしているところが多い。同職員の説明はこのようなものであった。被控訴人Aは、当時、県庁でカラ出張等が行われているとの県民の批判があったことから、本件支出もそのようなものではないかとの懸念をも有していた。しかし、右説明により、とりあえずそのようなものではなく、本件報償費が、従前からの経緯によって現実に地方事務官に支払われているものであることが確認された。 (4) 被控訴人Aは、右説明により、報償費の支出が当時世上騒がれていたようなカラ出張等といったようなものではなく、県行政に係る業務に協力してもらったことに対する謝礼的なものであると認識して一応納得した。そして、本件支出が違法であるとまでの認識は持たないまま、とりあえず、今年度はそのような支出をすることはやむを得ないと考えた。 (五) とはいえ、被控訴人Aは、このような報償費の一律支給は今年度限りとし、来年度においては予算要求せず基本的にはこれを廃止すべきであると判断した。すなわち、このような報償費は、地方公共団体から国家公務員たる地方事務官に対して支払われるものであって、一般的な地方と国との関係からしてその支給形態に問題がある。その上、県の厳しい財政状況を考えると、その支給について県民の納得を得るのは困難であり、その支給は、少なくとも政策的判断としては適切ではない。被控訴人Aはこのように考えた。そこで、同被控訴人は、D健康福祉部副部長及び同部保険課長(被控 その支給について県民の納得を得るのは困難であり、その支給は、少なくとも政策的判断としては適切ではない。被控訴人Aはこのように考えた。そこで、同被控訴人は、D健康福祉部副部長及び同部保険課長(被控訴人B)に指示し、社会保険地方事務官に対する報償費支給を廃止するために、関係部局との調整をさせた。その上で、被控訴人Aは、職員団体(国費協)の代表者を呼んで平成九年度以降報償費の一律支給を廃止する旨を通告するなどの措置を執り、これについて平成九年度の予算要求もしなかった。 (6) しかし、今回の本件報償費については、支給時期が平成八年一二月五日に迫っていて、それまでに、右のように関係部局との調整や職員団体への通告等をする時間的余裕がなかった。右事情のほか、保険課職員の前記説明から本件支出の相当性について一応納得したことや、従前からの経緯に基づいて既に予算計上されていて、県議会でその支出を承認する議決がされていたこと等の事情が確認された。 これらの事情にかんがみ、被控訴人Aは、平成九年度以降は一律支給を取りやめることを前提に、今年度を最後に本件報償費を支出することはやむを得ないと判断して、同月三日に右「回議書」に決裁印を押捺し、本件支出負担行為を専決した。 (二) 以上の認定に基づき判断する。前示(一)認定のとおり、被控訴人Aは、保険課職員から、①地方事務官に対する報償費は県が地方事務官から本来の職務外に種々の業務上の協力を受けていることから、その対価ないし報償の趣旨で支給されるものである、②もともと昭和四十五、六年ころから福利厚生費として支給されてきたが、その後議論を重ねた結果、平成五年に報償費として支出するということで県庁内で整理を付け、その際報償費の支給要領(甲二)も作成され、以来今日に至るまで同支給要領に従って支給されているものである、③今 、その後議論を重ねた結果、平成五年に報償費として支出するということで県庁内で整理を付け、その際報償費の支給要領(甲二)も作成され、以来今日に至るまで同支給要領に従って支給されているものである、③今回の報償費支出についても、平成八年度予算に計上済みであり、同年三月に県議会でこれを承認する旨の議決があった、④他の都道府県でもこれと同様の支給をしているところが多い、といった説明を受けたものである。そして、被控訴人Aが右説明と前示の回議書の内容以外に、本件支出が違法であることを基礎付ける事実関係を認識していたと認めるに足りる証拠はない。 被控訴人Aは、本件支出に関する右認識内容を前提として、本件支出が違法であるとまでの認識を持たないままに、本件支出負担行為をしたものである。したがって、この点について被控訴人Aに故意があったとは認められない。 (三) そこで次に、この点について被控訴人Aに重大な過失があったか否かについて検討する。 (1) まず、右(二)①のとおり、被控訴人Aは、本件報償費が、社会保険地方事務官から本来の職務外に種々の業務上の協力を受けていることの対価ないし報償の趣旨で支給されるものであるとの説明を受けている。そして、原判決「理由」三1(一)、(二)を引用することにより認定したとおり、地方事務官とは、都道府県知事の機関委任事務とされている事務のうち、政令で定める事務に従事する国家公務員であって(地方自治法附則八条)、そのうち社会保険地方事務官の職務とされる事務は、健康保険法、厚生年金保険法、船員保険法、厚生保険特別会計法及び船員保険特別会計法並びに国民年金法及び国民年金特別会計法の施行に関する事務(児童手当法の規定による拠出金の徴収に係る事務を含む。)とされている(規程六九条二項)。しかし、社会保険地方事務官は、右職務に従事する 会計法並びに国民年金法及び国民年金特別会計法の施行に関する事務(児童手当法の規定による拠出金の徴収に係る事務を含む。)とされている(規程六九条二項)。しかし、社会保険地方事務官は、右職務に従事するに留まらず、職掌外である老人保健法、生活保護法、国民健康保険法、農業者年金基本法に関する事務(その詳細は、原判決「理由」三1(二)の(1)から(11)に列挙してあるとおりである。以下「規定外事務」という。)にも従事している。これらの規定外事務は政令で定められた社会保険地方事務官の本来の職務には当たらず、本来は、都道府県職員により遂行されるべきものではあるが、社会保険地方事務官の専門知識なくしては円滑に遂行できないような状況にあった。そこで、社会保険地方事務官は、都道府県職員の職務に属する事務であって厳密にはこれを行うべき職務上の義務を有しない規定外事務も事実上遂行しているという現状があった。前記保険課職員の説明内容は、右と同旨の事実関係を述べる限度で相当である。このことからすると、規定外事務については本来都道府県職員の行う事務を都道府県のために遂行しているという点で「県行政に対する協力行為」(役務の提供)と評価することが十分に可能である。したがって、本件のように、右協力行為を「県の社会福祉行政と一体になって県民福祉向上のため多大の貢献」(甲三)と見、その対価として報償費等を支給することにより、右協力行為に報いることにも一応の合理性があると考えられる。 (2) もっとも、本件支出の名目である「報償費」とは、一般的に、役務の提供や施設の利用などによって受けた利益に関する謝礼又は奨励的意味の強い経費である(原判決「事実」第二の一3(一))ところ、本件における規定外事務は、そのほとんどが本来の職務時間中に県からの依頼により行われたものであり、必ずしも けた利益に関する謝礼又は奨励的意味の強い経費である(原判決「事実」第二の一3(一))ところ、本件における規定外事務は、そのほとんどが本来の職務時間中に県からの依頼により行われたものであり、必ずしも社会保険地方事務官らが本来の職務との違いを明確に意識し、本来の職務と区別して行っていたというわけではない。また、社会保険地方事務官全員が、すべて同等同量の規定外事務を遂行したというものでもなく、それぞれの専門、配属、地位、知識の質、量等によりその関与の態様・程度は千差万別であるというのである。しかるに、本件においては、社会保険地方事務官一名当たり原則として一律に年額三万二七〇〇円の本件報償費を支給している。このことからすれば、原判決「理由」三2の説示を引用して示したとおり、本件支出は、報償費というには各地方事務官の県政に対する個々の協力行為との反対給付性が極めて希薄であって、社会保険地方事務官の地位にある者全員にその協力の程度を問うことなく、一律の金額を支給したものと評価でき、その意味で、本件支出は、法令によらずして社会保険地方事務官の給与に実質的な上乗せをしたと見られても仕方のないものである(少なくとも正当な報償費の支給と評価できるものではない。)。 右説示するところによれば、本件支出が報償費の支給として正当とされないのは、要するに、社会保険地方事務官が本来の職務とは別に県からの依頼により行われる規定外事務の内容、態様、程度は千差万別であるのにこれを同一とみなし、原則として一名当たり年額三万二七〇〇円という定額を一律に支給している点にあることが明らかである。それ故に、本件支出が、その前提となる各地方事務官の県政に対する個々の協力行為との反対給付性が極めて希薄であって、実質的には、給与の上乗せと評価するしかないという点にあるのである。 ( らかである。それ故に、本件支出が、その前提となる各地方事務官の県政に対する個々の協力行為との反対給付性が極めて希薄であって、実質的には、給与の上乗せと評価するしかないという点にあるのである。 (3) しかしながら、地方事務官による規定外事務の遂行による県行政への協力が存在すること自体は、前記(1)のとおり事実である。したがって、これに報いるために何らかの形で報償費を支給することは、当然に違法視されるべき筋合いのものではない。本件においても、たとえば個々の地方事務官ごとにその規定外事務の遂行による県行政への協力の度合いを客観的指標によって個別的に評価し、これを基礎として個々に報償費の額を算定し、支給するのであれば、そのような報償費支給を違法な支出とはいえないことは明らかである(もっとも、これらの規定外事務のほとんどは本来の職務時間中に行われ、必ずしも地方事務官らが本来の職務との違いを明確に意識し、本来の職務と区別して行っていたというわけではない。しかし、そのことによって、これらの規定外事務の遂行を報償費支給の反対給付となる役務の提供とみることが、当然に否定されるものではない。)。 (4) とはいえ、右に述べたように、報償費支給の対象とされた社会保険地方事務官の右役務の提供が、本来の職務の勤務時間中に本来の職務との違いを明確に意識してこれと区別して行われていたわけではないことからすれば、個々の地方事務官ごとの規定外事務の遂行による県行政への協力の度合いを客観的指標によって個別的に評価することは、実際上は極めて困難であることが窺われる。社会保険地方事務官に対し報償費を支給することが正当であるとの判断を前提とした上で、個々の社会保険地方事務官ごとの県行政への協力の度合いを客観的指標によって評価することが困難であるとすれば、右指標に代わる何らか 事務官に対し報償費を支給することが正当であるとの判断を前提とした上で、個々の社会保険地方事務官ごとの県行政への協力の度合いを客観的指標によって評価することが困難であるとすれば、右指標に代わる何らかの手段が必要となる。そこで、高知県では、規定外事務については社会保険地方事務官全体から組織的協力を受けているという前提を採り、これに基づき本件報償費として社会保険地方事務官全員に支給してきたものであるが、その際、これをどのような態様で支給するかは裁量の問題に属すると解釈してきたのである(原判決「事実」第二の五(被告らの主張)6参照)。そして、被控訴人A及び同Bらとしても、高知県に勤務する組織としての社会保険地方事務官全体の協力(被控訴人らのいう「組織的協力」)を総合して役務の提供と評価し、これに対する対価としては各社会保険地方事務官ごとに一律の金額を支給するのが相当であると判断したものである(各被控訴人本人)。このような見解は、前示のとおり、当裁判所の採用するところではないが、一個の見解としておよそ採り得ないというものではないと解される。 (5) また、前示認定のとおり、被控訴人Aは、保険課職員から、本件報償費支給の根拠や経緯について詳細な説明を受けている。これによれば、高知県においては、社会保険地方事務官に対する報償費支給は、福利厚生費の予算から支給されていた期間を含め、長年にわたり特段問題視されることなく支給され続けている(平成五年には報償費の支給要領も作成され、それ以降右支給要領に基づき定例的支出として支出されている。)こと、本件支出に係る報償費が既に高知県の平成八年度予算に計上されており、県議会でも承認議決がされていること、さらに、他の都道府県でも同様の支給をしているところが多い(平成五年に報償費としての支給が開始されるに当たり、高 費が既に高知県の平成八年度予算に計上されており、県議会でも承認議決がされていること、さらに、他の都道府県でも同様の支給をしているところが多い(平成五年に報償費としての支給が開始されるに当たり、高知県の関係部局が全国都道府県の社会保険地方事務官に対する謝礼金等の支給状況を電話照会したところ、ほとんどの都道府県において、同様の趣旨で一人当たり年間六五〇〇円から三二万四〇〇〇円の一律支給がされていた〔乙七、被控訴人B〕。)ことが明らかであった。そして、その説明内容自体に虚偽はなく、いずれも事実である。 (6) 以上のような諸事情を総合して検討すると、本件支出負担行為を専決する権限を有する者として通常有すべき認識・判断能力を基準としてみても、被控訴人Aにおいて本件支出が違法であると極めて容易に判断できたということはできない。 もっとも、前示認定のとおり、被控訴人Aは、社会保険地方事務官に対する本件報償費の一律支給は少なくとも政策的判断としては適切ではないと考えた。 しかし、本件報償費の支給時期は、平成八年一二月五日に迫っていて、それまでに右関係部局や職員団体との調整等をする時間的余裕がなかったし、既に予算計上されていて、県議会でその支出を承認する議決がされていた。また、地方事務官に対する報償費支給の問題が全国的な規模の問題であったことは、平成九年一月には前示のような自治省財政局財政課長名の文書が出されていることや、平成五年の高知県の関係部局の全国調査の結果によって窺われる。そうだとすれば、一定の調整なしにその支給を突然取りやめるとすれば、種々の混乱や業務執行上の障害が発生することも当然懸念されたというべきである。そうすると、被控訴人Aにおいて、平成九年度以降は支給を取りやめ本件支出を最後の報償費支給とすることを前提として、本件支出負担行為 や業務執行上の障害が発生することも当然懸念されたというべきである。そうすると、被控訴人Aにおいて、平成九年度以降は支給を取りやめ本件支出を最後の報償費支給とすることを前提として、本件支出負担行為をしたことにはやむを得ない面があり、それは、ある意味では現実的に可能な次善の策の一つであったといえなくもない。そのことによって、本件報償費支給の違法性が阻却されるわけではないけれども、少なくとも、この点の判断について同被控訴人に重大な過失は認められないというべきである。 (7) 控訴人らは、被控訴人Aは高知県における自治体公務の指導的地位を約束されて自治省から高知県に出向してきたのであり、公務員の給与法定主義に対する理解を有していたことが明らかであることなどから、同被控訴人がこのような報償費の取扱に無知であったことなどあり得ない、また、無知のために適正なチェックができなかったとしたら、その過失は重大であるなどと主張する。しかし、右のとおり説示したところに照らせば、控訴人らの右主張に理由がないことが明らかである。その他控訴人らが当審において主張するところを参酌しても、以上の判断は左右されない。 (四) 以上のとおり、被控訴人Aに本件支出負担行為をするについて故意又は重大な過失があったとは認められない。したがって、控訴人らの被控訴人Aに対する地方自治法二四三条の二第一項後段、二四二条の二第一項四号に基づく損害賠償請求は理由がない。 3 被控訴人Bについて(一) 被控訴人Bは、同Aのした本件支出負担行為に基づき、本件支出に係る支出命令を専決したものであり、その注意義務の程度は、被控訴人Aのそれを上回るものではないというべきである。 (二) そこで、検討するに、証拠(被控訴人B)によれば、被控訴人Bは、平成八年一一月に社会保険庁地方課社会保険監察官から の注意義務の程度は、被控訴人Aのそれを上回るものではないというべきである。 (二) そこで、検討するに、証拠(被控訴人B)によれば、被控訴人Bは、平成八年一一月に社会保険庁地方課社会保険監察官から高知県健康福祉部保険課長に就任したものであり、右支出命令当時は就任直後であったが、本件支出に関する主管課長として、保険課職員が被控訴人Aに説明した内容程度の認識を有していたことが認められる。そして、それ以上に本件支出が違法であることを基礎付けるような事実関係を知っていたと認めるに足りる証拠はない。 (三) そうすると、前記2の被控訴人Aの場合と同様の理由により、被控訴人Bに右支出命令をするについて故意又は重大な過失があったとは認められないというべきである。したがって、控訴人らの被控訴人Bに対する地方自治法二四三条の二第一項後段、二四二条の二第一項四号に基づく損害賠償請求は理由がない。 4 被控訴人Cについて(一) 前示のとおり、資金前渡とは、特定の経費について出納長又は収入役が当該地方公共団体の職員にその資金を交付して、その職員をして支払をさせる制度である(地方自治法施行令一六一条)。資金前渡を受けた者(資金前渡職員)は、単にその交付を受けた資金を善良な管理者の注意義務をもって出納保管し、交付を受けた目的に従って債権者に対して支払をする義務を負い、これに違反して資金保管中にこれを亡失又は損傷したときは、これによって生じた損害を賠償すべき義務を負う(地方自治法二四三条の二第一項前段)。 前示のとおり、資金前渡職員は、地方自治法二四三条の二第一項三号所定の「支払」の権限を有する職員に該当し、同条一項後段により故意又は重大な過失により法令の規定に違反して支払をしたことにより地方公共団体に損害を与えたときは、右損害を賠償すべき義務を負うことになるが の「支払」の権限を有する職員に該当し、同条一項後段により故意又は重大な過失により法令の規定に違反して支払をしたことにより地方公共団体に損害を与えたときは、右損害を賠償すべき義務を負うことになるが、右法令の規定の趣旨に照らせば、その注意義務の程度は、支出負担行為や支出命令をする権限を有する職員よりも格段に低く、善良な管理者の注意義務をもって交付を受けた資金をその交付の目的に従って正当な債権者に対し支払をした以上、一見して違法な支払であることが明白な場合である等特段の事情のない限りその責を負わないというべきである。 (二) 被控訴人Cは、同Bのした支出命令に基づき、各地方事務官に対し本件報償費の支払をしたものであるが、同被控訴人において、右支払が違法であることを認識していたと認めるに足りる証拠はない。また、前示2、3の説示に照らせば、同被控訴人が本件支出に係る支払をするについて、重大な過失があったと認められないことは明らかである。 (三) したがって、控訴人らの被控訴人Cに対する地方自治法二四三条の二第一項後段、二四二条の二第一項四号に基づく損害賠償請求は理由がない。 五結論以上のとおり、控訴人らの被控訴人らに対する本件請求はいずれも理由がない。 したがって、本件請求をいずれも棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。 高松高等裁判所第二部裁判長裁判官小田耕治裁判官田中俊次裁判官朝日貴浩

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る