平成24(行ケ)10165 審決取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成25年2月28日 知的財産高等裁判所 4部 判決 審決取消
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判決文本文31,675 文字)

- 1 -平成25年2月28日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成24年(行ケ)第10165号審決取消請求事件口頭弁論終結日平成25年2月14日判決原告大王製紙株式会社同訴訟代理人弁理士永井義久加藤和孝被告特許庁長官同指定代理人鈴野幹夫髙橋三成筑波茂樹氏原康宏守屋友宏 主文 1 特許庁が不服2011-17364号事件について平成24年3月22日にした審決を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求主文1項と同旨第2 事案の概要本件は,原告が,後記1のとおりの手続において,特許請求の範囲の記載を後記2とする本件出願に対する拒絶査定不服審判の請求について,特許庁が,同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は後記3のとおり)には,後記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。 1 特許庁における手続の経緯- 2 -(1) 原告は,発明の名称を「ティシュペーパー製品」とする発明について,平成22年11月30日に特許出願(特願2010-266183号。平成22年7月20日に出願された特願2010-163393号の分割出願。請求項の数4)をしたが(甲6),平成23年6月14日付 て,平成22年11月30日に特許出願(特願2010-266183号。平成22年7月20日に出願された特願2010-163393号の分割出願。請求項の数4)をしたが(甲6),平成23年6月14日付けの拒絶査定を受けた(甲11)。 (2) 原告は,同年8月10日,これに対する不服の審判を請求するとともに(甲12),手続補正書を提出した(以下,同日付けの補正を「本件補正」という。 甲13)。 (3) 特許庁は,上記請求を不服2011-17364号事件として審理した上,平成24年3月22日,本件補正を却下して,「本件審判の請求は,成り立たない。」との本件審決をし,その謄本は同年4月6日原告に送達された。 2 本件審決が対象とした特許請求の範囲の記載(1) 本件補正前の特許請求の範囲の記載本件補正前の特許請求の範囲請求項1の記載は,以下のとおりである(甲10)。 以下,請求項1に記載された発明を「本願発明」という。なお,文中の「/」は,「g/㎡」の部分を除き,原文の改行箇所を示す。 表面に薬液が塗布された2プライのティシュペーパーがポップアップ方式で折り畳まれて略直方体の収納箱に収納されたティシュペーパー製品であって,/前記ティシュペーパーは,薬剤含有量が両面で1.5~5.0g/㎡であり,/2プライを構成するシートの1層あたりの坪量が10~25g/㎡であり,/2プライの紙厚が100~140μmであり,/前記収納箱は,上面に,その長辺方向に平行に開口を有する紙箱よりなり,前記開口は収納箱内面に貼付されたフィルムにより被覆され,前記フィルムは前記開口に長辺方向に平行なスリットを有し,/前記フィルム横方向と前記フィルム横方向と(判決注:「前記フィルム横方向と」は,重複記載であり,誤記と認める。)ティシュペーパー表面のシート取出し方向との静摩 開口に長辺方向に平行なスリットを有し,/前記フィルム横方向と前記フィルム横方向と(判決注:「前記フィルム横方向と」は,重複記載であり,誤記と認める。)ティシュペーパー表面のシート取出し方向との静摩擦係数が0.20~0.28である,ことを特徴とするティシュペーパー製品(2) 本件補正後の特許請求の範囲の記載- 3 -本件補正後の特許請求の範囲請求項1の記載は,以下のとおりである(甲13)。 以下,請求項1に記載された発明を「本件補正発明」といい,本件補正後の明細書(甲13)を「本願明細書」という。なお,文中の下線部は,補正箇所を示す。 表面に薬液が塗布された2プライのティシュペーパーがポップアップ方式で折り畳まれて略直方体の収納箱に収納されたティシュペーパー製品であって,/前記ティシュペーパーは,薬剤含有量が両面で1.5~5.0g/㎡であり,/2プライを構成するシートの1層あたりの坪量が10~25g/㎡であり,/2プライの紙厚が100~140μmであり,/前記収納箱は,上面に,その長辺方向に平行に開口を有する紙箱よりなり,前記開口は収納箱内面に貼付されたフィルムにより被覆され,前記フィルムは前記開口に長辺方向に平行なスリットを有し,/前記フィルム横方向とティシュペーパー表面のシート取出し方向との静摩擦係数が0.20~0.28であり,/上層から1組目から5組目までの計5組,及び11組目から15組目までの計5組の取り出し抵抗値が70gf以下である,ことを特徴とするティシュペーパー製品 3 本件審決の理由の要旨(1) 本件審決の理由は,要するに,①本件補正発明は,後記引用例1ないし5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり,特許法29条2項の規定により,独立して特許を受けることができないから,本件補 要するに,①本件補正発明は,後記引用例1ないし5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり,特許法29条2項の規定により,独立して特許を受けることができないから,本件補正を却下すべきであり,②本願発明も,同様の理由で,当業者が容易に発明することができたものであるから,同項の規定により,特許を受けることができないというものである。 ア引用例1:特開2008-183127号公報(甲1)イ引用例2:特開2004-187930号公報(甲2)ウ引用例3:特開2005-113368号公報(甲3)エ引用例4:実願平4-81969号(実開平6-42753号)のCD-ROM(甲4)- 4 -オ引用例5:特開2006-182453号公報(甲5)(2) 本件審決は,その判断の前提として,引用例1に記載された発明(以下「引用発明」という。)並びに本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点を以下のとおり認定した。 ア引用発明:表面に薬液が塗布され印刷された2枚重ねのティシュペーパーがポップアップ方式で折り畳まれて略直方体のティシュペーパーカートンに収納されたティシュペーパー製品であって,前記ティシュペーパーは,薬剤含有量が両面で2.5~3.5g/㎡であり,2枚重ねを構成するシートの1層当たりの坪量が15g/㎡~18g/㎡であり,前記ティシュペーパーカートンは,上面に,その長辺方向に平行に開口を有する箱よりなる,ティシュペーパー製品イ一致点:表面に薬液が塗布された2プライのティシュペーパーがポップアップ方式で折り畳まれて略直方体の収納箱に収納されたティシュペーパー製品であって,前記ティシュペーパーは,薬剤含有量が両面で2.5~3.5g/㎡であり,2プライを構成するシートの1層当たりの坪量が15g 方式で折り畳まれて略直方体の収納箱に収納されたティシュペーパー製品であって,前記ティシュペーパーは,薬剤含有量が両面で2.5~3.5g/㎡であり,2プライを構成するシートの1層当たりの坪量が15g/㎡~18g/㎡であり,前記収納箱は,上面に,その長辺方向に平行に開口を有する紙箱よりなる,ティシュペーパー製品ウ相違点1:本件補正発明は,2プライの紙厚が100~140μmであるのに対し,引用発明は,2プライの紙厚が不明な点エ相違点2:本件補正発明は,収納箱の開口が,収納箱内面に貼付されたフィルムにより被覆され,前記フィルムは前記開口に長辺方向に平行なスリットを有し,フィルム横方向とティシュペーパー表面のシート取出し方向との静摩擦係数が0. 20~0.28であるのに対し,引用発明は,収納箱の開口が,収納箱内面に貼付されたフィルムにより被覆され,前記フィルムは前記開口に長辺方向に平行なスリットを有しているか否か不明であり,したがって,フィルム横方向とティシュペーパー表面のシート取出し方向との静摩擦係数も不明な点オ相違点3:本件補正発明は,上層から1組目から5組目までの計5組,及び- 5 -11組目から15組目までの計5組の取出し抵抗値が70gf以下であるのに対し,引用発明は,取出し抵抗値が不明な点 4 取消事由 1 本件補正を却下した判断の誤り(取消事由1)(1) 相違点1に係る判断の誤り(2) 相違点2に係る判断の誤り(3) 相違点3に係る判断の誤り 2 手続違背(取消事由2)第3 当事者の主張 1 取消事由1(本件補正を却下した判断の誤り)について〔原告の主張〕(1) 相違点1に係る判断の誤りについてア引用例2には,その紙厚が具体的にどのような測定によるものであるかまで記載がない。その従来技術 補正を却下した判断の誤り)について〔原告の主張〕(1) 相違点1に係る判断の誤りについてア引用例2には,その紙厚が具体的にどのような測定によるものであるかまで記載がない。その従来技術(甲16)においては,「JISP 8118」の測定方法が用いられており,当該測定方法では加圧面間の圧力が「50kPa±5kPa」又は「100kPa±10kPa」での測定値であり,「PEACOCKG型」で測定する引用例3の測定時の荷重はおおむね8.74kPa(約70gf)程度であり,そこには5倍以上も測定圧の差がある。 したがって,引用例2における紙厚と引用例3における紙厚の測定方法は全く異なるものであり,これら引用例2及び3における紙厚の記載内容から,ティシュペーパー製品において普通に採用されている紙厚の範囲を導き出すことはできない。 イ本件審決が指摘する引用例3(【0023】)における紙厚は,基材紙のものであって,薬液を含有したティシュペーパーの紙厚ではない。 また,引用例3の薬剤含有量は,計算すると5.45g/㎡であって,本件補正発明における1.5~5.0g/㎡という範囲とは異なる。 本件補正発明は,紙厚を薄くして薬液塗布量が少なくても,従来の保湿ティシュ- 6 -以上の滑らかさを有するティシュペーパーとするものである。これに対して,引用例3記載の発明は,肌に接触した時に柔らか感を向上させるために薬液塗布量を多くして水分率を高めるものであり,本件補正発明と引用例3記載の発明とは,その課題及び効果が異なる。 本件審決は,薬剤を含まない基材紙の紙厚や,他の構成と分離して抽出できない引用例3記載の発明の従来例における紙厚に基づいて,薬剤が含有されたティシュペーパー製品において普通に採用されている範囲の紙厚を100~140μmと導 基材紙の紙厚や,他の構成と分離して抽出できない引用例3記載の発明の従来例における紙厚に基づいて,薬剤が含有されたティシュペーパー製品において普通に採用されている範囲の紙厚を100~140μmと導き出した上,引用発明における紙厚として組み合わせており,その判断には誤りがある。 ウ紙厚と柔らかさ感との関係は,必ずしも薄ければ柔らかいというわけではなく,薄くしても繊維密度が高くなる態様であれば,剛度が高くなりかえって硬くなる。したがって,「薄いものは柔らかい感触が得られる」との認定は,薄ければ柔らかいであろうとの想像に基づくものである。本件審決は,引用例2及び3から誤った判断により導き出した2プライの紙厚100~140μmを,単なる想像に基づいて引用発明における紙厚として設定可能であると認定して組み合わせており,その判断には誤りがある。 (2) 相違点2に係る判断の誤りについてア引用例2(【0013】)においてティシュペーパーと板紙との静摩擦係数,特にその上限値を定めるに当たって用いられている「取出し性」は,ティシュペーパーが収納箱上面の内側面とが摺れた状態で取り出される際の取出しを意味するのであって,収納箱上面の内側面に接することなくフィルムとティシュペーパーが摺れて取り出される際の取出しを意図したものではない。 イ本件補正発明において,ティシュペーパーとフィルムとの静摩擦係数を設定した意義は,本願明細書の記載から明らかなとおり,フィルムに設けられたスリットから,ポップアップ式にスムーズにティシュペーパーを引き出すことができ,かつ引き出したティシュペーパーがフィルムに設けたスリットに保持され内部に落ち- 7 -込まないような範囲を規定することである。本件審決は,引用例2の静摩擦係数を定めるための取出しと,それを想定しない 引き出したティシュペーパーがフィルムに設けたスリットに保持され内部に落ち- 7 -込まないような範囲を規定することである。本件審決は,引用例2の静摩擦係数を定めるための取出しと,それを想定しないフィルムを介してのティシュペーパーの取出しを共通のものと判断しており,誤りがある。 ウ引用例2記載の発明におけるティシュペーパーと板紙との静摩擦係数の下限値は,ティシュペーパーの加工適性に基づくものとされている(【0013】)。 しかし,本件補正発明におけるティシュペーパーにおける静摩擦係数の下限値を設定した意義は,本願明細書に記載された課題,構成と効果との関係,構成の評価からして,主にフィルムに設けられたスリットにティシュペーパーが保持され内部に落ち込まないという効果に着想を得たものであり,ティシュペーパーの加工適性とは関係がない。そして,引用例2には,ティシュペーパーの加工適性とティシュペーパーとフィルムとの静摩擦係数の関係を示すところはなく,引用例2からティシュペーパーとフィルムとの静摩擦係数の適切な下限値を導き出すことはできない。 仮に,ティシュペーパーの加工適性の観点からティシュペーパーとフィルムとの静摩擦係数の適切な下限値が導き出せるとしても,引用例2には,ティシュペーパーの加工適性に基づく下限値とフィルムに設けられたスリットにティシュペーパーが保持され内部に落ち込まないという効果との関係は示されておらず,本件補正発明における静摩擦係数の具体的数値を導き出すことはできない。 (3) 相違点3に係る判断の誤りについてア引用例5の取出し抵抗値は,最初から5組までの各組,特に最初の1組の数値が100gf以下であるか否かを評価するものである。これに対し,本件補正発明は,「上層から1組目から5組目までの計5組,及び11組目から15組 し抵抗値は,最初から5組までの各組,特に最初の1組の数値が100gf以下であるか否かを評価するものである。これに対し,本件補正発明は,「上層から1組目から5組目までの計5組,及び11組目から15組目までの計5組の取り出し抵抗値が70gf以下である」ティシュぺーパー製品であるが,これは最初期の1から5組目の取出し抵抗値が70gf以下,上面からある程度の枚数が引き出された11から15組目の取出し抵抗値も70gf以下の製品ということであり,最初は取出し抵抗値が低く,その後に急激な抵抗値の変化がなく,極めて緩やかに取出し抵抗値が低下する製品であることを意味している。よって,本- 8 -件補正発明は,引用例5の取出し抵抗値から容易に想到することはできない。 本件審決は,引用例5の取出し抵抗値と引用例4の取出し荷重値とを同義と判断している一方,その引用例4の実施例における取出し荷重値が111gfであることも示しており,その判断には齟齬がある。 イ本件審決は,引用例4の記載内容を認定しただけで,その発明の内容を認定することもなく,また,本件補正発明の進歩性を否定し得る論理を示しておらず,その論理には飛躍がある。 〔被告の主張〕(1) 相違点1に係る判断の誤りについてア原告の主張は,引用例2における紙厚と引用例3における紙厚の測定方法が異なることを前提とするが,引用例2には,その紙厚の測定方法について特定されていないから,引用例2に記載された紙厚を,甲16に記載された「JISP8118」の条件下で測定されていると断ずることはできない。 イ仮に,引用例2に記載された紙厚が,「JISP 8118」の条件下により測定されたものとしても,以下のとおり,原告の主張に理由はない。 「JISP 8118」の測定圧力が,「JISP イ仮に,引用例2に記載された紙厚が,「JISP 8118」の条件下により測定されたものとしても,以下のとおり,原告の主張に理由はない。 「JISP 8118」の測定圧力が,「JISP 8111」の条件下の「PEACOCKG型」による測定圧と比較して5倍以上の測定圧の差があるとすれば,引用例2の「従来90~105μm」とされる紙厚は,「JISP 8111」の条件下の「PEACOCKG型」で測定すると,その測定圧が1/5以下と小さくなり,紙厚は上記の値よりも大きくなって,本件補正発明の「100~140μm」にはむしろ近づくものと推察される。 そもそも,測定圧力の違いにより厚さがどの程度変化するかは,測定対象物の硬さ等にもよるから,測定圧力が違っていても測定対象物の硬さ等が特定されないティシュペーパーでどの程度の紙厚差が生じるのかは一義的に定まるものではない。 したがって,「JISP 8111」の条件下の「PEACOCKG型」を用いた場合と「JISP 8118」の条件下で測定した場合に紙厚が大きく変わるか- 9 -のような原告の主張は,根拠のないものである。 本願明細書に記載された紙厚の測定方法は,「JISP 8111」の条件下で「PEACOCKG型」を用いたものであるが,ティシュペーパーの紙厚は,工業標準化法によって制定される鉱工業品に関する国の規格であるJISにおいて「紙及び板紙-厚さ及び密度の試験方法」として定められている「JISP18」の条件下で測定されるのが通常である。 そして,引用例3の紙厚測定方法は本願明細書のものと同じであるから,引用例2の紙厚測定方法による紙厚と引用例3の紙厚測定方法による紙厚との間に大きな差はないものと認められる。さらに,引用例3には,本願明細書に開示された測定方 法は本願明細書のものと同じであるから,引用例2の紙厚測定方法による紙厚と引用例3の紙厚測定方法による紙厚との間に大きな差はないものと認められる。さらに,引用例3には,本願明細書に開示された測定方法と同様に「JISP 8111」の条件下において「PEACOCKG型」を用いて紙厚を測定することが開示されている。 ウ基材紙が薬液を含有した際に,紙厚は余り変わらない。また,本件補正発明と引用例3の薬剤含有量はほとんど同じであって,薬剤含有量の違いに技術的な意味はない。さらに,本件補正発明と引用例3は,課題及び効果が異なるとはいえない。 そして,ティシュペーパーに良好な柔らかさ感や肌触り感を求めることは,周知の技術課題である。また,少なくとも紙厚が柔らかさ感や肌触り感に影響する要素となることは当業者の技術常識であるから,引用例2及び3に開示された紙厚も,当然,柔らかさ感や肌触り感を考慮して設定されたものである。 そして,引用発明も,ティシュペーパーに良好な肌触り感や柔らかさ感が求められているところ,本件審決は,そのような技術課題をも踏まえて相違点1の容易想到性について判断したものであり,その判断に誤りはない。 エ紙を薄くすれば繊維の数が減ったり繊維が細くなるのであって,材質や密度を変えなければ,紙が薄くなることにより柔らかくなることは技術常識であり,原告の主張は,前提において誤っている。 (2) 相違点2に係る判断の誤りについて- 10 -ア本願明細書の表1によれば,実施例1ないし7では,収納箱内上面の約58%にフィルムが貼られており,窓フィルムとウェブの間隙は0~3㎜であって空間はほとんどなく,フィルムは一般的に収納箱の上面裏側中央部に貼着されているから,使用開始時に最もフィルムとティシュペーパー間に摩擦力が生じる。 ており,窓フィルムとウェブの間隙は0~3㎜であって空間はほとんどなく,フィルムは一般的に収納箱の上面裏側中央部に貼着されているから,使用開始時に最もフィルムとティシュペーパー間に摩擦力が生じる。 イそして,本願明細書の記載及び実施例1,2からみて,本件補正発明のフィルムとティシュペーパーの静摩擦係数上限は,「収納箱上面の内側面に接することなくフィルムとティシュペーパーが摺れて取り出される際の取出し」に関するものということはできない。 本願明細書の記載によれば,本件補正発明は,保湿ティシュにおいて,①ティシュペーパーが取出し口に保持されにくく,収納箱内に落ち込み,ポップアップしづらくなる,という問題,及び一方で,②ティシュペーパーを取出し口に保持するために,取出し口を小さくする,取出し口に配されるフィルムの剛性を高める等の措置を講じた場合,ティシュペーパーの取出し時に破れやすい,という問題に鑑み,ティシュペーパー収納時において,その取り出しやすさ,ポップアップのしやすさを保持しつつ,かつ,取り出す際に破れにくくなるよう構成された収納箱を使用したティシュペーパー製品を提供することを解決課題とするものである。 そして,上記①の問題は,フィルムの縦方向の剛軟度を0.8~1.4gf/10㎜に設定することで解消し得ることが明らかであるところ,フィルムの縦方向の剛軟度を1.4gf/10㎜より高くすると,ティシュペーパーの取出し時に破れやすくなり,また,0.8gf/10㎜より低くすると取出し口にティシュペーパーを保持しづらくなることも指摘されている。ただし,本件補正発明は,上記剛軟度について特定していない。 一方,本件補正発明は,「静摩擦係数が0.20~0.28」と特定するところ,上記の数値範囲に特定することは,取出し時のティシュペーパーの だし,本件補正発明は,上記剛軟度について特定していない。 一方,本件補正発明は,「静摩擦係数が0.20~0.28」と特定するところ,上記の数値範囲に特定することは,取出し時のティシュペーパーの滑りを良くして抵抗を抑えるためと解される。 以上によれば,本件補正発明は,上記①の問題を,取出し口に配されるフィルム- 11 -の剛性を高める措置を講じることで解消することを前提とするものであって,フィルムの剛性の高さに起因して生じた上記②の問題を,静摩擦係数を適切な範囲に設定することにより解消したものということができる。 そして,引用例2には,ティシュペーパーの取出し性を良好にするため,すなわち,ティシュペーパーを破れることなく良好に取り出すために,ティシュペーパーと収納箱上面の内側面との静摩擦係数を「0.4~0.5」の範囲に設定することが記載されており,上記摩擦係数を設定することは,少なくとも,ティシュペーパーを,破れることなく良好に取り出すという技術的意義を有することが明らかである。したがって,本件補正発明の静摩擦係数を設定することの意義と共通したものといえる。 ウ本願明細書の表2によれば,静摩擦係数と使用途中の落ち込みとの関係は明らかでなく,さらに,0.20を下限値とする根拠はなく,出願人が感覚的に設定したものである。仮に,静摩擦係数の設定により,引き出したティシュペーパーがフィルムに設けたスリットに保持され内部に落ち込まないような範囲を規定したと解し得ても,引用例2は取出し性を考慮している以上,当然に使用途中の落ち込みについても考慮していると解されることから,落ち込みの防止を含めた取出し性を考慮して,静摩擦係数を設定する点については引用例2に記載されていたものである。 (3) 相違点3に係る判断の誤りについてア も考慮していると解されることから,落ち込みの防止を含めた取出し性を考慮して,静摩擦係数を設定する点については引用例2に記載されていたものである。 (3) 相違点3に係る判断の誤りについてア本件補正発明の取出し抵抗値に下限値は特定されておらず,原告の主張は根拠がない。取出し枚数が多くなることで収納箱とウエブの隙間が大きくなることは明らかであり,取出し抵抗値は一般的に最初期が最も高いから,本件補正発明の取出し抵抗値に関する記載は,最も高い最初期でも70gf以下であることを示しているにすぎない。 また,測定方法は単に抵抗値を測定しているだけであって,当該抵抗値に変わりがなければ,ティシュペーパー取出し口がフィルムのスリットであろうと,紙箱の- 12 -開口であろうと,片手で無理なくティシュペーパーを取り出すことができる取出し抵抗値に違いはないものである。 引用例4及び5並びに本件補正発明の取出し抵抗値(取出し荷重値)は取り出す際の力であって,その単位もgfであるところ,格別に相違するものではない。 イ本願明細書に記載されているように,破れと取り出しにくさ,取り出しやすさは同等に扱われるものである。 以上のことから,引用例4及び5には,取出し抵抗と破れや無理なく取り出せることとの関係について記載ないし示唆されていることは明らかであり,本件審決の相違点3に係る判断に誤りはない。なお,取出し抵抗値が70gf以下であるという本件補正発明の構成についても,格別に意味がある数値ではない。 2 取消事由2(手続違背)について〔原告の主張〕(1) 本件審決は,拒絶査定の理由の根拠として示されていない引用例4及び5に基づいて論理構成されており,その引用例4及び5に対する適切な意見書提出の機会が与えられていない。 審尋に対する 〕(1) 本件審決は,拒絶査定の理由の根拠として示されていない引用例4及び5に基づいて論理構成されており,その引用例4及び5に対する適切な意見書提出の機会が与えられていない。 審尋に対する回答書では,十分な意見,反論を述べる機会が付与されていない。 さらに,本件では別件の関連出願の審査において特許性があると心証を開示していた構成に限定したにもかかわらず,その限定事項に対して新たな引用例4及び5によって進歩性を否定するとともに,それに対する意見書提出の機会を設けていないのであり,特許出願審査手続の適正を貫くための基本的な理念が欠けており,適正手続違反がある。 本件審決では,付言において,提示した補正案と引用例4との対比判断を一応示してはいるものの,引用例4における取出し抵抗値の意義が理解できないことは前記1のとおりであり,その判断はおよそ適切なものとは認め難い。 (2) また,前置審査報告書には,拒絶理由が発見されない請求項として請求項4が示されていたのであるから,審判において拒絶理由通知が発せられないことに- 13 -より,請求項4へ限定する補正の機会も与えられていない。 〔被告の主張〕(1) 特許法159条1項,2項は,同法53条1項及び50条ただし書の規定を同法17条の2第1項4号の場合も含むように読み替えた上で準用しており,特許法上は,拒絶査定の理由とは異なる理由であっても,審判請求時の補正により減縮された発明が独立特許要件を欠くのであれば,審判請求人に新たな拒絶の理由を通知することなく当該補正の却下の決定をすることを許容している。 引用例4及び5は,本件補正により特許請求の範囲が減縮されたことに対応して,新たに示すことになった証拠であるが,本件審決は,引用例4及び5を考慮することにより,本件補正発明が独立特許 容している。 引用例4及び5は,本件補正により特許請求の範囲が減縮されたことに対応して,新たに示すことになった証拠であるが,本件審決は,引用例4及び5を考慮することにより,本件補正発明が独立特許要件を欠くと判断して,審判請求人である原告らに拒絶の理由を通知することなく本件補正を却下したものであり,本件審判手続に違法性はない。 (2) 引用例4及び5は,相違点3に係る本件補正発明の構成についての検討で用いられたものである。本件補正前に相違点3に係る本件補正発明の構成はなく,本件補正により請求項1に付加された構成であって,本件補正は,特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とした補正事項を含むものである。 そこで,本件審決は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条5項に規定する要件を満たしているかについて検討を行い,本件補正を同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下したものである。 すなわち,原告は,拒絶査定を受けた結果,初めて相違点3に係る本件補正発明を構成として減縮したものである。原告は,当該下限の設定によって,最初期の1から5組の取出し抵抗値が低く,その後に急激な抵抗値の変化なく,極めて緩やかに取出し抵抗値が低下する製品であることを意味する旨を主張するかもしれないが,本願明細書には「より好適には50~70gfとするのが望ましい」と記載しているのみであって,上記の意味があるとは認められないし,その根拠もない。 (3) 以上のとおり,本件審判手続において引用例4及び5を含んだ新たな拒絶- 14 -理由通知をしないまま本件審決に至った経緯は,特許法の規定に沿ったものであり,原告に対して不当なものではない。 第4 当裁判所の判断 1 本件補正発明について(1) な拒絶- 14 -理由通知をしないまま本件審決に至った経緯は,特許法の規定に沿ったものであり,原告に対して不当なものではない。 第4 当裁判所の判断 1 本件補正発明について(1) 本件補正発明の特許請求の範囲の記載は,前記第2の2(2)のとおりであり,本願明細書(甲13)には,おおむね以下の記載がある。 ア技術分野本発明は,ティシュペーパー製品に関するものである(【0001】)。 イ背景技術ボックスティシュ製品としては,箱の製造コストや輸送コストの削減の観点より,高さを減じ,コンパクト化した収納箱(高さ50~65㎜程度)を使用するのが主流となっている。コンパクト化した収納箱を使用する場合,通常,内部に収納されるティシュペーパーは圧縮されており,圧縮に伴う最上層のティシュペーパーの取り出しにくさを解消するため,収納箱上面の取出し口は箱上面の長辺方向に対して長めに設計されている。しかし,保湿ティシュにおいては,その滑り性の高さから,ティシュペーパーが取出し口に保持されにくく,収納箱内に落ち込み,ポップアップしづらくなる,という問題が生じ得る。一方で,ティシュペーパーを取出し口に保持するために,取出し口を小さくする,取出し口に配されるフィルムの剛性を高める等の措置を講じた場合,ティシュペーパーの取出し時に破れやすい,という問題が生じ得る(【0006】)。 ウ発明が解決しようとする課題本発明の第1の課題は,従来の保湿ティシュペーパーと同等以上の滑らかさ及びしっとり感を有し,かつ,使用時のベタつき感と破れやすさとを軽減したティシュペーパーを提供することである。本発明の第2の課題は,上記のティシュペーパー収納時において,その取り出しやすさ,ポップアップのしやすさを保持しつつ,かつ,取り出す際に破れにくく とを軽減したティシュペーパーを提供することである。本発明の第2の課題は,上記のティシュペーパー収納時において,その取り出しやすさ,ポップアップのしやすさを保持しつつ,かつ,取り出す際に破れにくくなるよう構成された収納箱を使用した,ティシュペー- 15 -パー製品を提供することである(【0008】)。 エ効果2プライのティシュペーパーを構成するシートに規定量の水分を含む薬液を塗布して浸透させることにより,シートのクレープ構造が伸長し,表面の滑らかなティシュペーパーが形成される。また,伸長により紙厚が低くなるとともに繊維密度が高くなるため,繊維間強度が増加し,CD方向の引張強度の高いティシュペーパーとすることができる。従来の保湿ティシュが厚みのある基紙にローション薬液を塗布し,ティシュ表面に皮膜を作り滑らかさを使用者に与えているのに対し,本発明は厚みと薬液塗布量を抑え,クレープ構造を伸長させて表面を滑らかにするもので,これにより従来の保湿ティシュ以上の滑らかさを与えるものである。つまり,ティシュ表面のローション薬液の皮膜を滑らかさを感じさせる最小限の量としてベタつき感を軽減したものである。そのため,乾燥状態における薬剤含有量が従来のローションタイプのティシュペーパーよりも低く,使用時のベタつき感が生じにくいにも関わらず,その効果を奏するのに充分な量の薬剤が含有されていることから,充分なしっとり感,保湿性を保有する。さらには,紙厚が薄いことにより,薬剤含有量に比して柔らかい使用感を有する(【0013】)。 マルチスタンド式インターフォルダの使用により,製造の高速化を行うことができる。マルチスタンド式インターフォルダを使用する場合,製造されるティシュペーパー製品は,需要者がティシュペーパーをCD方向に引き出す形態となる。しかし, ダの使用により,製造の高速化を行うことができる。マルチスタンド式インターフォルダを使用する場合,製造されるティシュペーパー製品は,需要者がティシュペーパーをCD方向に引き出す形態となる。しかし,従来の保湿ティシュは,非保湿ティシュに比して紙力,特にCD方向の引張強度が高くないことから,マルチスタンド式インターフォルダにより製造された製品においては,引出し時に破れやすくなる,という問題が想定される(【0014】)。 本発明におけるティシュペーパー製品においては,上記のようにティシュペーパーをCD方向の引張強度が強く,かつ静摩擦係数の小さいものとするとともに,ティシュペーパーの収納箱として,取出し口周辺のフィルムに柔軟なものを使用し,- 16 -取出し口の大きさを規定したものを使用している。これにより,ティシュペーパーをCD方向に引っ張って取り出しても破れにくく,かつ,最上層が取出し口から箱内部に落ち込みにくい構成とした。保湿ティシュペーパーについてマルチスタンド式インターフォルダで折り加工を行う場合,水分を含む連続シートにMD方向に比較的高い引張力をかけ,かつ厚み方向に圧力をかけながら加工するため,従来のロータリー式インターフォルダ使用時と比して,ウェブ嵩を低く抑えることができる。 この効果により,非保湿ティシュペーパー製品に多用されるコンパクト型収納箱にも収納可能となる(【0015】)。 以上のように,本発明は,従来の保湿ティシュと同等以上にしっとりと滑らかな風合いを有するとともに,従来の保湿ティシュよりもベタつき感がなく,かつCD方向の引張強度の高いティシュペーパーを提供するものである。また,ティシュペーパーを収納箱からCD方向に引っ張って取り出すことが可能であることから,マルチスタンド式インターフォルダを用いて高速で製造す 向の引張強度の高いティシュペーパーを提供するものである。また,ティシュペーパーを収納箱からCD方向に引っ張って取り出すことが可能であることから,マルチスタンド式インターフォルダを用いて高速で製造することが可能な薬液塗布ティシュペーパー製品を提供する。さらに,コンパクト型収納箱に収納された薬液塗布ティシュペーパー製品を提供するものである(【0016】)。 オ発明を実施するための形態(ア) 米坪本発明に係るティシュペーパーのシート1層当たりの米坪は,米坪は10~25g/㎡,より好ましくは11~16g/㎡とすることが好ましい。米坪が10g/㎡未満では,柔らかさの向上の観点からは好ましいものの,使用に耐え得る十分な強度を適正に確保することが困難となる。逆に米坪が25g/㎡を超えると紙全体が硬くなるとともに,ゴワ付き感が生じてしまい肌触りが悪くなる。なお,米坪は,「JISP 8124」(1998)の米坪測定方法による(【0023】)。 (イ) 薬液本発明のティシュペーパーは,薬剤を両面合わせて1.5~5.0g/㎡,より好ましくは3.0~5.0g/㎡含有する。薬剤含有量が1.5g/㎡未満であれ- 17 -ば薬剤の効果が発揮されず,また,5.0g/㎡を超えるとティシュペーパーにベタつき感が生じ,また,乾燥引張強度が低下する(【0025】)。 (ウ) 紙厚本発明に係るティシュペーパーの紙厚は,2プライの状態で100~140μm,より好ましくは120~140μmとする。紙厚が100μm未満では,柔らかさの向上の観点からは好ましいものの,ティシュペーパーとしての強度を適正に確保することが困難となる。また,140μm超では,ティシュペーパーの肌触りが悪化するとともに,使用時にゴワツキ感が生じるようになる(【0036】)。 紙 の,ティシュペーパーとしての強度を適正に確保することが困難となる。また,140μm超では,ティシュペーパーの肌触りが悪化するとともに,使用時にゴワツキ感が生じるようになる(【0036】)。 紙厚の測定方法としては,試験片を「JISP 8111」(1998)の条件下で十分に調湿した後,同条件下でダイヤルシックネスゲージ(厚み測定器)「PEACOCKG型」(尾崎製作所製)を用いて2プライの状態で測定するものとする。具体的には,プランジャーと測定台の間にゴミ,チリ等がないことを確認してプランジャーを測定台の上におろし,前記ダイヤルシックネスゲージのメモリを移動させてゼロ点を合わせ,次いで,プランジャーを上げて試料を試験台の上におき,プランジャーをゆっくりと下ろしそのときのゲージを読み取る。このとき,プランジャーをのせるだけとする。プランジャーの端子は金属製で直径10㎜の円形の平面が紙平面に対し垂直に当たるようにし,この紙厚測定時の荷重は,約70gfである。なお,紙厚は測定を10回行って得られる平均値とする(【0037】)。 (エ) フィルム-ティシュペーパー間の静摩擦係数取出し時のティシュペーパーの滑りを良くして抵抗を抑えるため,フィルム横方向-ティシュペーパー(取出し方向)間の静摩擦係数は0.20~0.30,より好適には0.23~0.28とする。フィルム横方向とはフィルム縦方向とフィルム平面上で垂直な方向を意味する。フィルム-ティシュペーパー間の静摩擦係数は,以下の方法で測定した。フィルムを収納箱内側の面が外側に来るように,斜面方向がフィルム横方向になるようにアクリル板に貼り付ける。2プライのまま100g- 18 -の分銅にティシュペーパーを巻きつけ,斜面方向がティシュ取出し方向になるようにアクリル板上のフィルムに乗せる。ア フィルム横方向になるようにアクリル板に貼り付ける。2プライのまま100g- 18 -の分銅にティシュペーパーを巻きつけ,斜面方向がティシュ取出し方向になるようにアクリル板上のフィルムに乗せる。アクリル板を傾け,おもりが滑り落ちる角度を測定する。角度測定は10回実施し,平均角度を算出し,そのタンジェント値を静摩擦係数とした(【0060】)。 (オ) ティシュペーパーの取出し抵抗ティシュペーパーの取出し時にかかる抵抗を一定範囲に規定することで,取出し時の破れを最低限に減じることができる。ティシュペーパーの取出し抵抗は,以下の方法で測定する。プッシュブルゲージのゲージ先端にティシュペーパーの中央先端部を固定し,下面を固定した収納箱よりティシュペーパーを,0.4~0.6秒の時間をかけ一定速度で垂直に取り出して,その最大抵抗値を測定した。取り出すティシュペーパーは最上層から1組目から5組目までの計5組,及び11組目から15組目までの計5組とし,上記プッシュブルゲージにおける測定値を平均して,取出し抵抗値とした。取出し抵抗は70gf以下,より好適には50~70gfとするのが望ましい(【0061】)。 マルチスタンド式インターフォルダで得られた積層帯は,後段の切断手段において流れ方向に所定の間隔をおいて裁断(切断)されてティシュペーパー束とされ,このティシュペーパー束は,更に後段設備において収納箱に収納される。マルチスタンド式インターフォルダでは,積層帯の紙の方向は,流れ方向に沿って縦方向(MD方向)となっており,流れ方向と直交する方向に沿って横方向(CD方向)となっている。このため,積層帯を所定の長さに切断して得られたティシュペーパー束を構成するティシュペーパーの紙の方向は,ティシュペーパーの折り畳み方向に沿って横方向(CD方向)とな 方向(CD方向)となっている。このため,積層帯を所定の長さに切断して得られたティシュペーパー束を構成するティシュペーパーの紙の方向は,ティシュペーパーの折り畳み方向に沿って横方向(CD方向)となり,ティシュペーパーの折り畳み方向と直交する方向に沿って縦方向(MD方向)となる(【0079】)。 カ表1,表2表1及び表2には,本願発明に係る実施例1ないし7及び比較例1ないし4について,①「箱高さ」,②「ウェブ嵩」,③「窓フィルムとウェブの間隙」及び④- 19 -「窓フィルム(CD方向)とティシュシート(取出し方向)の静摩擦係数」の評価結果が示されている。その結果は,実施例1は,①50㎜,②50㎜,③0㎜,④0.22,実施例2は,①55㎜,②55㎜,③0㎜,④0.25,実施例3は,①62㎜,②61㎜,③1㎜,④0.26,実施例4は,①62㎜,②61㎜,③1㎜,④0.27,実施例5は,①65㎜,②63㎜,③2㎜,④0.24,実施例6は,①65㎜,②64㎜,③1㎜,④0.26,実施例7は,①80㎜,②77㎜,③3㎜,④0.23である。また,比較例1は,①62㎜,②62㎜,③0㎜,④0.36,比較例2は,①90㎜,②87㎜,③3㎜,④0.32,比較例3は,①90㎜,②75㎜,③15㎜,④0.29,比較例4は,①93㎜,②83㎜,③10㎜,④0.30である。 また,2プライの紙厚(ピーコック)は,実施例1ないし7は128ないし141μmであり,比較例1ないし4は,140ないし159μmである。 (2) 以上の記載事項によれば,本件補正発明は,表面に薬液が塗布された2プライのティシュペーパーがポップアップ式で折り畳まれて略直方体の収納箱に収納され,当該収納箱の上面に設けられた開口が収納箱内面に貼付されたスリット付きのフィルムによって ,表面に薬液が塗布された2プライのティシュペーパーがポップアップ式で折り畳まれて略直方体の収納箱に収納され,当該収納箱の上面に設けられた開口が収納箱内面に貼付されたスリット付きのフィルムによって被覆されたティシュペーパー製品において,ティシュペーパーの薬剤含有量と,2プライを構成するシートの1層当たりの坪量と,2プライの紙厚と,フィルム横方向とティシュペーパー表面のシート取出し方向との静摩擦係数と,所定組のティシュペーパーの取出し抵抗値とを数値限定したものであり,これによって,収納されたティシュペーパーの取り出しやすさ,ポップアップのしやすさを保持しつつ,取り出す際に破れにくくするという作用効果を奏するものであると認められる。 2 引用例1ないし3に記載された発明(1) 引用例1に記載された発明(引用発明)は,前記第2の3(2)のとおりであり,引用例1には,おおむね以下の記載がある(甲1)。 ア技術分野- 20 -本発明は,印刷が施され,かつ保湿剤を含有する保湿ティシュペーパーとその製造方法に関するものである(【0001】)。 イ発明が解決しようとする課題本発明の課題は,趣向性が高く,高級感のある保湿ティシュペーパーを提供することにある(【0005】)。 ウ発明を実施するための最良の形態図1に本発明の印刷された保湿ティシュペーパーの一例を示す。ティシュペーパーは2枚重ねでもよいし,3枚以上重ねてもよい。使用するティシュペーパーは,保湿剤により水分を含んでも十分な強度を持つように,通常のティシュペーパーが11g/㎡程度であるのに対して,保湿ティシュペーパーは,それよりも坪量を高め,好ましくは,15g/㎡~18g/㎡がよい。例えば,16.5g/㎡とすることにより強度も保ちつつ肌触りがさらに良好な保湿ティ g/㎡程度であるのに対して,保湿ティシュペーパーは,それよりも坪量を高め,好ましくは,15g/㎡~18g/㎡がよい。例えば,16.5g/㎡とすることにより強度も保ちつつ肌触りがさらに良好な保湿ティシュペーパーとなる(【0014】~【0016】)。 保湿剤は,ティシュペーパー100質量部に対して7.6~10.6質量部含有するようにティシュペーパーに含まれている。すなわち2枚重ねのティシュペーパー16.5g/㎡に対して保湿剤を2.5~3.5g/㎡塗布している。この範囲で保湿剤を塗布すれば,ティシュペーパーが水分を含み,強度が落ちても破れることはない(【0026】)。 図3に,本発明の保湿ティシュペーパーをティシュペーパーカートンに充填し,使用している状態の図を示す。保湿ティシュペーパーがティシュペーパーカートンからティシュペーパーの2枚重ねを1組として,1組ずつ取り出せる(【0038】)。 また,図3には,ティシュペーパーは,略直方体の箱であるティシュペーパーカートンに収納され,前記ティシュペーパーカートンは,上面に,その長辺方向に平行に開口を有する箱であること,ティシュペーパーは,ティシュペーパーカートン上面の開口から取り出されることが記載されている。なお,図3の状態において,- 21 -ティシュペーパーがポップアップ方式で折り畳まれてティシュペーパーカートンに収納されていることは技術常識である。 (2) 引用例2に記載された発明引用例2には,おおむね以下の記載がある(甲2)。 ア発明の属する利用分野本発明は,収納箱に収納したティシュペーパー製品であるいわゆるボックスフェイシャル用ティシュペーパーに関するものである。さらに詳しくは,本発明は,柔らかくて手触り感に優れ,収納箱からの取出し性に優れたティシュペーパ に収納したティシュペーパー製品であるいわゆるボックスフェイシャル用ティシュペーパーに関するものである。さらに詳しくは,本発明は,柔らかくて手触り感に優れ,収納箱からの取出し性に優れたティシュペーパーに関するものである(【0001】)。 イ従来の技術従来から,ティシュペーパーは,2枚1組として1回折っていわゆるポップアップ方式で折り畳んだ束が収納箱に収納されている。そして,収納箱には,その上面に取出し口が形成され,さらに,一般に,取出し口の内側がスリットを有するフィルムで覆われており,ティシュペーパーはスリットを通して順次取り出せるようになっている。このようなティシュペーパーは,柔らかく,手触り感が良く,伸縮性があり,吸収性に優れ,さらに取り出す時に破断することのない十分な強度が要求されている(【0002】)。 また,近年,消費者が持ち運びやすく,収納スペースが少なくて済み,さらに流通業者の利便性が向上する等の理由により,高さ50㎜程度と低いものが多くなっている(特許文献)。それに伴い,これらのコンパクト化製品は,一般的には,収納箱上部に形成されていた空間がほとんどなくなり,初期の取出し時に,収納箱の上面板の内側面とティシュペーパーとの摩擦力が大きくなり,時として,取出し時に破れやすい状況が生じている。また,ティシュペーパーも2枚重ねの厚さが,従来90~105μmであったものが,75μm程度に薄くなっており,坪量も減らしたものが多くなっている。そのため,テッシュペーパーの強度は低下しがちであり,従来品以上の強度アップは容易でなく,この点も,取出し時にテッシュペーパ- 22 -ーを破れやすくする要因と考えられる(【0003】)。 一般に,ティシュペーパーは,1箱当たり2枚1組で200組(すなわち400枚)の束を圧縮した この点も,取出し時にテッシュペーパ- 22 -ーを破れやすくする要因と考えられる(【0003】)。 一般に,ティシュペーパーは,1箱当たり2枚1組で200組(すなわち400枚)の束を圧縮した状態で収納箱に収納されており,保存中に弾性復元力によりティシュペーパーが膨らみ,収納箱を押し上げる傾向にあり,上記の方法では時としてティシュペーパーの取出し性が十分でない場合があった(【0004】)。 ウ発明が解決しようとする課題本発明は,上記従来のティシュペーパー製品の有する問題点を克服するため,ティシュペーパーと収納箱上面との適正な摩擦係数に関して明らかにすると共に,収納箱からの取出し性が良好で,柔らかく,手触り感が良いティシュペーパーを提供するものである(【0006】)。 エ発明の実施の形態本発明のティシュペーパー製品は,2枚1組としてポップアップ方式で折り畳んだ複数枚のティシュペーパーの束を収納箱に収納したものであり,ティシュペーパーは,セルロースパルプを主原料としてなり,さらに収納箱を形成する板紙との「JISK 7125」で規定する静摩擦係数が0.4~0.5であり,かつ動摩擦係数が0.35~0.45である。このような特性を有するティシュペーパー製品は,これを収納箱から取り出す場合,特に,収納箱の高さが低い場合でも,取出し初めに破れることがなく良好に取り出すことができる。静摩擦係数及び動摩擦係数が各々0.5及び0.45を超えて大きくなると,ティシュペーパーの取出し性が悪くなり,ティシュペーパーが破れやすくなる。一方,静摩擦係数が0.4未満及び動摩擦係数が0.35未満になると,ティシュペーパーが滑りやすくなり,折り畳み工程,断裁工程などでティシュペーパーが滑り,蛇行等の走行性不良を起こしやすくなり,加工適正が悪くな 係数が0.4未満及び動摩擦係数が0.35未満になると,ティシュペーパーが滑りやすくなり,折り畳み工程,断裁工程などでティシュペーパーが滑り,蛇行等の走行性不良を起こしやすくなり,加工適正が悪くなる(【0013】)。 オ発明の効果本発明のティシュペーパー製品は,ティシュペーパーと収納箱を形成する板紙との間に特定の静摩擦係数と動摩擦係数を有するものであり,収納箱の高さ寸法を低- 23 -くし,ティシュペーパー1枚当たりの箱高さ寸法を低くしたいわゆるコンパクト化製品とした場合でも,収納箱からの取出し性に優れ,さらに,柔らかく,手触り感のよいものである(【0045】)。 カ表1表1には,実施例等に関するティシュペーパーと収納箱を形成する白板紙との静摩擦係数の評価結果が示されている。実施例1は0.46,実施例2は0.43,実施例3は0.49,実施例4は0.41,比較例1は0.54,比較例2は0. 37となっている。 (3) 引用例3に記載された発明引用例3には,おおむね以下の記載がある(甲3)。 ア技術分野本発明はティシュペーパー等の衛生用紙に関する(【0001】)。 イ背景技術近時,柔軟剤等の薬液を含有させることにより肌触りを柔らかくした,いわゆる高級タイプのティシュペーパーが市販され,繰り返し鼻をかんでも肌がヒリヒリし難い,又は鼻が赤くなり難いとして人気を呼んでいる。しかしながら,従来の薬液含有衛生用紙では,肌のヒリヒリ感や肌が赤くなるのを防止する効果が十分でなかった。すなわち,本発明者らが鋭意研究したところ,従来の薬液含有衛生用紙は,肌の角質層表面と接触すると当該表面の皮脂を取り去る作用がある。よって,かかる衛生用紙を肌の同一部分に対し頻繁に接触させると,衛生用紙によりまず皮脂が取り去られ,次いで ,従来の薬液含有衛生用紙は,肌の角質層表面と接触すると当該表面の皮脂を取り去る作用がある。よって,かかる衛生用紙を肌の同一部分に対し頻繁に接触させると,衛生用紙によりまず皮脂が取り去られ,次いで皮脂の無くなったところから角質層内の水分が取り去られる。 その結果,肌が荒れてしまい赤くなってしまうのである(【0002】~【0004】)。 ウ発明が解決しようとする課題本発明の主たる課題は,使用に際して,しっとり感,柔らかさなどの肌触り性に優れるとともに,頻繁に肌と接触させても肌がヒリヒリし難い,肌が赤くなり難い- 24 -衛生用紙を提供することにある(【0005】)。 エ発明の効果本発明によれば,使用に際して,しっとり感,柔らかさなどの肌触り性に優れるとともに,頻繁に肌と接触させても肌がヒリヒリし難い,肌が赤くなり難い衛生用紙となる(【0016】)。 オ発明を実施するための最良の形態本発明の衛生用紙は,「JISP 8111」で規定する条件で調湿し,「JISP 8127」で測定した水分率が9.50~15.00%,特に,9.50~12.00%が好適である。本発明の衛生用紙は,パルプ基材紙に柔軟剤及び保湿剤を含む薬液を含有する。吸油度は7.0㎜以下,特に4.0~6.5とするのが好ましい。基材紙の紙容積当たりの薬液含有量が46.0~160.0㎎/㎤,特に48.0~60.0㎎/㎤となるように,薬液を基材紙に対し塗布(他の薬液付与方法を採ることもできる)して衛生用紙を製造することができる(【0017】~【0019】)。 基材紙としては,公知のものを問題なく使用することができるが,特にパルプ原料におけるNBKP配合率が30.0~80.0%(JISP 8120),特に50.0~70.0であるものが好適である。米坪は「JISP ,公知のものを問題なく使用することができるが,特にパルプ原料におけるNBKP配合率が30.0~80.0%(JISP 8120),特に50.0~70.0であるものが好適である。米坪は「JISP 8124」で10.0~35.0g/㎠が望ましい。紙厚は2プライで130~200μmが望ましい。クレープ率は15.0~26.0が望ましい(【0023】)。 表1及び表2に示すように各種ティシュペーパー(本発明に係る実施例,従来例及び市販品)について各種物性の測定・算出及び官能評価を行った。紙厚は,「JISP 8111」の条件下で,尾崎製作所ダイヤルシックネスゲージ「PEACOCKG型」を用いて測定する(【0035】)。 表1及び表2には,ティシュペーパーの各種物性の測定・算出及び官能評価の結果が示されている。それぞれの2プライの紙厚は,実施例が160μm,従来例が134μm,市販品1が142μm,市販品2が163μm,市販品3が139μ- 25 -m,市販品4が162μmとなっている。 3 取消事由1(本件補正却下の誤り)について(1) 相違点2について事案に鑑み,まず,相違点2の容易想到性について検討する。 ア前記第2の3(2)のとおり,本件補正発明と引用発明との相違点2は,本件補正発明は,収納箱の開口が,収納箱内面に貼付されたフィルムにより被覆され,前記フィルムは前記開口に長辺方向に平行なスリットを有し,フィルム横方向とティシュペーパー表面のシート取出し方向との静摩擦係数が0.20~0.28であるのに対し,引用発明は,収納箱の開口が,収納箱内面に貼付されたフィルムにより被覆され,前記フィルムは前記開口に長辺方向に平行なスリットを有しているか否か不明であり,したがって,フィルム横方向とティシュペーパー表面のシート取出し方向と ,収納箱内面に貼付されたフィルムにより被覆され,前記フィルムは前記開口に長辺方向に平行なスリットを有しているか否か不明であり,したがって,フィルム横方向とティシュペーパー表面のシート取出し方向との静摩擦係数も不明な点である。本件審決は,引用発明において引用例2に記載された発明のように構成して,相違点2に係る本件補正発明の構成に想到することは容易であると判断した。 イ引用例2における静摩擦係数前記2(2)によれば,引用例2記載の発明は,ティシュペーパーの取出し性の改善を図ることを課題としたものであるところ,この取出し性は,ティシュペーパー束(ウェブ)が圧縮された状態で収納箱に収納されていることを前提としたものであり,ティシュペーパーと収納箱を形成する板紙との静摩擦係数の範囲「0.4~0.5」も,このような圧縮状態を前提として適正化されたものであるものと理解することができる。 ウ本件補正発明における静摩擦係数の意義これに対し,本件補正発明は,本願明細書(【0008】)の記載のとおり,ティシュペーパーの取出し性の改善を図ることを課題としたものであるが,この取出し性は,以下のとおり,ティシュペーパー束が圧縮された状態で収納箱に収納されていることを前提としたものということはできず,むしろ,ティシュペーパー束が- 26 -圧縮されていないことを前提としたものであると解される。 (ア) すなわち,本願明細書の表1には,本件補正発明の実施例1ないし7及び比較例1ないし4が挙げられている。そして,表1には,「窓フィルムとウェブの間隙」という項目があるが,フィルムは収納箱の上面の内側に貼着されていることから,これは,収納箱の上面と,ティシュペーパー束(ウェブ)の上面との間隔を意味するものと解される。 7つの実施例のうち,実施例3な う項目があるが,フィルムは収納箱の上面の内側に貼着されていることから,これは,収納箱の上面と,ティシュペーパー束(ウェブ)の上面との間隔を意味するものと解される。 7つの実施例のうち,実施例3ないし7については,「窓フィルムとウェブの間隙」が1㎜ないし3㎜であることから,収納箱上面とティシュペーパー束との間に隙間が存在することを示しており,ティシュペーパー束が圧縮されていないことになる。また,実施例1及び2については,「窓フィルムとウェブの間隙」が0mmであり,この項目だけでは,ティシュペーパー束が圧縮されて収納箱上面に押し付けられた結果としての0㎜なのか,ティシュペーパー束の高さ(ウェブ嵩)を収納箱の高さにそろえた結果としての0㎜なのかが明らかではないが,①「箱高さ」及び②「ウェブ嵩」の項目については,実施例1については,上記①②共に50mm,実施例2については,上記①②共に55㎜である。実施例1ないし7における①「箱高さ」,②「ウェブ嵩」及び③「窓フィルムとウェブの間隙」の数値の関係に照らせば,③「窓フィルムとウェブの間隙」は,①「箱高さ」と②「ウェブ嵩」との差であることは明らかである。よって,実施例1及び2は,ティシュペーパー束の高さ(ウェブ嵩)を収納箱の高さにそろえた結果として,「窓フィルムとウェブの間隙」が0㎜になったものであることを理解することができ,ティシュペーパー束が実質的に圧縮されていないものであるということができる。そうすると,本件補正発明の全ての実施例1ないし7は,ティシュペーパー束の高さを収納箱の高さにそろえることによって,ティシュペーパー束が実質的に圧縮されないようにしたものである。 他方,表1には,ティシュペーパー束を収納箱よりも高くすることによって,ティシュペーパー束が圧縮されている実施例は挙げられて よって,ティシュペーパー束が実質的に圧縮されないようにしたものである。 他方,表1には,ティシュペーパー束を収納箱よりも高くすることによって,ティシュペーパー束が圧縮されている実施例は挙げられていない。 - 27 -また,本願明細書には,表1及び表2の記載事項も含めて,ティシュペーパー製品の詳細なパラメータの値が具体的に記載されているが,収納箱の静摩擦係数については記載されていない。 (イ) さらに,ティシュペーパーの取出しのメカニズムとして,ティシュペーパー束が圧縮された状態で収納箱に収納されている場合,ティシュペーパー束は,自己の弾力性によって,本来の高さ(ウェブ嵩)に戻ろうとする復元力を有する。しかしながら,収納箱の高さは一定なので,ティシュペーパー束は,本来の高さに戻ることはできず,圧縮による変形分の力で,ティシュペーパー束の上面の大半(取出し口に対応する部位を除く。)が収納箱上面(内上面)に押し付けられる。ティシュペーパー束の復元力は,ティシュペーパー束が最も圧縮された初期状態,換言すれば,ティシュペーパーの取出し初めが最も大きく,ティシュペーパーを取り出すに従って徐々に低下していく。そして,ティシュペーパーを更に取り出して,ティシュペーパー束が圧縮されなくなった時点で,ティシュペーパー束の復元力は消失し,以後,ティシュペーパー束と収納箱上面との間に隙間が生じた状態(ティシュペーパー束が実質的に圧縮されていない状態)では,復元力は生じない。圧縮されたティシュペーパー束からティシュペーパーを取り出す場合,ティシュペーパーの取出しを妨げる力(静摩擦力)として,ティシュペーパーを取り出すための外力に起因した成分に加えて,ティシュペーパー束の復元力に起因した成分も作用するため,比較的大きな静摩擦力が生じることになる。ティシ 出しを妨げる力(静摩擦力)として,ティシュペーパーを取り出すための外力に起因した成分に加えて,ティシュペーパー束の復元力に起因した成分も作用するため,比較的大きな静摩擦力が生じることになる。ティシュペーパー束の復元力は,ティシュペーパー束の上面全体をほぼ均一に上方に押し上げる。よって,圧縮されたティシュペーパー束を前提にティシュペーパーの取出し性を論じる場合には,ティシュペーパーの取出し口を被覆するフィルム面のみならず,フィルムの周囲に露出した収納箱の内上面も含めて,ティシュペーパーと接する全ての接触面の静摩擦係数を考慮する必要がある。 他方,ティシュペーパー束が圧縮されていない場合,上記のようなティシュペーパー束の復元力は存在しない。この状態でティシュペーパーを取り出す場合,ティ- 28 -シュペーパーの取出しを妨げる力としては,ティシュペーパーを取り出すための外力に起因した成分のみが作用するので,ティシュペーパー束が圧縮されている場合と比較して静摩擦力は小さくなる。また,ティシュペーパーの取出しに際して,ティシュペーパーが摺り付けられる部分は,ティシュペーパーの面全体ではなく,取出し口近傍に集中する。よって,圧縮されていないティシュペーパー束を前提にティシュペーパーの取出し性を論じる場合には,取出し口を被覆するフィルム面の静摩擦係数を実質的に考慮すれば足り,ティシュペーパーの摺付けがほとんど生じない収納箱上面の静摩擦係数を重視する必要はない。 (ウ) 以上のメカニズムに基づき本願明細書の記載事項を総合的に参酌すると,本件補正発明において,収納箱の静摩擦係数に言及することなく,ティシュペーパーの取出し性の改善を意図しているということは,収納箱の静摩擦係数がティシュペーパーの取出し性に関与しない形態,すなわち,ティシュペーパー束 いて,収納箱の静摩擦係数に言及することなく,ティシュペーパーの取出し性の改善を意図しているということは,収納箱の静摩擦係数がティシュペーパーの取出し性に関与しない形態,すなわち,ティシュペーパー束が圧縮されていない状態を前提としたものであるというべきである。 エ相違点2の容易想到性前記のように,引用例2は,ティシュペーパーの取出し性の改善を目的とする点では本件補正発明と共通するものの,ティシュペーパー束が圧縮されていることを前提とするもので,ティシュペーパー束が圧縮されていないことを前提とする本件補正発明と,前提において相違する。そして,このような前提の相違に起因して,両者は,ティシュペーパーの取出しを妨げる静摩擦力の発生メカニズムが相違し,その大きさも異なるものである。そうすると,静摩擦力を規定する静摩擦係数についても,引用例2における板紙とティシュペーパーとの静摩擦係数の範囲を定めた意義は,本件補正発明におけるティシュペーパーとフィルムとの静摩擦係数の範囲を定めた意義とは全く異なるものである。 このような静摩擦係数の意義の相違に鑑みれば,引用発明に,引用例2に記載された「ティシュペーパーと板紙との静摩擦係数0.4~0.5」を組み合わせて,本件補正発明における「ティシュペーパーとフィルムとの静摩擦係数0.20~0. - 29 -28」を導き出すことは,困難である。 よって,引用例2記載の「ティシュペーパーと板紙との静摩擦係数0.4~0. 5」という構成から,本件補正発明の「ティシュペーパーとフィルムとの静摩擦係数の範囲0.2~0.28」を導き出した上で,引用発明と組み合わせて,本件補正発明に係る相違点2の構成を容易に想到できるとした本件審決の判断には,誤りがある。 オ被告の主張について(ア) 被告は,本願明細 0.28」を導き出した上で,引用発明と組み合わせて,本件補正発明に係る相違点2の構成を容易に想到できるとした本件審決の判断には,誤りがある。 オ被告の主張について(ア) 被告は,本願明細書の表1によれば,実施例1ないし7では,収納箱内上面の約58%にフィルムが貼られており,窓フィルムとウェブの間隙は0ないし3㎜であって空間はほとんどなく,フィルムは一般的に収納箱の上面裏側中央部に貼着されているから,使用開始時に最もフィルムとティシュペーパー間に摩擦力が生じると主張する。 しかし,本件補正発明において,窓フィルムとウェブの間隔が0ないし3㎜であることは,前記のとおり,ティシュペーパーが圧縮されていない状態を意味するのであって,引用例2のようなティシュペーパーが圧縮されている状態と同視することはできない。したがって,ティシュペーパー束が圧縮されていることを前提とした引用例2の静摩擦係数と,ティシュペーパー束が圧縮されていないことを前提とした本件補正発明の静摩擦係数とでは,技術的意義が相違する以上,使用開始時に最もフィルムとティシュペーパー間に摩擦力が生じることをもって,本件補正発明と引用例2とを同一視することはできない。 また,本件補正発明は,ティシュペーパー束が圧縮されていないことを前提とした取出しに関するものであって,取り出されるティシュペーパーが摺り付けられる部分は取出し口近傍に集中するので,ティシュペーパーの取り出しに起因したフィルムの静摩擦力を論じる場合,取出し口近傍に着目すれば足り,取出し口から離れた部位についてまで考慮する必要はない。したがって,収納箱内上面に占めるフィルムの貼着面積が約58%であることは,相違点2に係る構成の容易想到性の判断- 30 -を左右するものではない。 よって,被告の上記主張は, する必要はない。したがって,収納箱内上面に占めるフィルムの貼着面積が約58%であることは,相違点2に係る構成の容易想到性の判断- 30 -を左右するものではない。 よって,被告の上記主張は,採用することができない。 (イ) 被告は,本願明細書(【0006】【0008】)の記載等から,本件補正発明のフィルムとティシュペーパーの静摩擦係数上限は,「収納箱上面の内側面に接することなくフィルムとティシュペーパーが摺れて取り出される際の取出し」に関するものということはできないと主張する。 確かに,本願明細書(【0006】【0008】)の記載のみを見ると,被告の主張のような解釈もできなくはない。しかしながら,前記のとおり,ティシュペーパー束が圧縮された状態と圧縮されていない状態におけるティシュペーパーの取出しのメカニズムに関する技術常識を踏まえた上で,本願明細書の記載事項を総合的に参酌すると,本件補正発明は,ティシュペーパー束が圧縮されていないことを前提としたものと解されるから,被告の上記主張は,採用することができない。 (ウ) 被告は,本願明細書の表2によれば,静摩擦係数と使用途中の落ち込みとの関係は明らかでなく,さらに,0.20を下限値とする根拠はなく,出願人が感覚的に設定したものであると主張する。 本件補正発明において,ティシュペーパーとフィルムとの静摩擦係数を0.2~0.28とする技術的意義は,ティシュペーパー束が圧縮されていないことを前提とした取出し性に基づくものであるが,当該取出し性の改善は,静摩擦係数のみによって達成されるものではなく,本件補正発明が規定するその他の数値限定との連係によって達成されるものである。したがって,静摩擦係数単独で,機能性評価の結果と比較することに意味はない。また,本件補正発明において,静摩擦 のではなく,本件補正発明が規定するその他の数値限定との連係によって達成されるものである。したがって,静摩擦係数単独で,機能性評価の結果と比較することに意味はない。また,本件補正発明において,静摩擦係数の下限値0.20及び上限値0.28にどの程度の臨界的意義があるかは明らかとはいえないものの,引用例2の静摩擦係数とは技術的意義が異なる以上,引用例2に基づき相違点2に係る本件補正発明の構成を容易に想到することができるということはできない。 よって,被告の上記主張は,採用することができない。 - 31 -(2) 相違点1について次に,相違点1について,検討する。 ア相違点1は,本件補正発明は,2プライの紙厚が100~140μmであるのに対し,引用発明は,2プライの紙厚が不明な点である。本件審決は,引用例3に2プライの紙厚が130~200μm,引用例2に2プライの紙厚が90~105μmと記載されているように,紙厚100~140μmはティシュペーパー製品において普通に採用されている範囲であり,薄いものは柔らかい感触が得られることから,引用発明において,相違点1に係る本件補正発明の構成とすることは,当業者が適宜なし得ることであると認定した。 イ引用例3について(ア) 引用例3(【0023】)には,紙厚が2プライで130~200μm が望ましいことが記載されているが,この紙厚は,ティシュペーパーを作る上での原料となる基材紙の紙厚であって,薬剤が含有されたティシュペーパー製品の紙厚ではない。そうすると,引用例3に,薬液を含浸させた2プライのティシュペーパー製品において,紙厚を130~200μmの範囲とすることが示されているとの本件審決の認定は,薬液が含有されたものであるか否かを無視したものであって,誤りである。 (イ) 他方,引 ティシュペーパー製品において,紙厚を130~200μmの範囲とすることが示されているとの本件審決の認定は,薬液が含有されたものであるか否かを無視したものであって,誤りである。 (イ) 他方,引用例3の表1及び表2に記載された実施例,従来例及び市販品は,いずれも,その紙単位容積当たりの含有量から,薬剤を含有したティシュペーパー製品であることが認められる。そして,その2プライの紙厚は,本件補正発明と同様の「JISP 8111」の条件下で,尾崎製作所ダイヤルシックネスゲージ「PEACOCKG型」を用いて測定した結果,従来例において134μm,市販品3において139μmであるほか,実施例及びその余の市販品においては,142ないし163μmである。 以上のとおり,引用例3には,薬液を含有したティシュペーパー製品において,紙厚が2プライで134μm及び139μmであるものが記載されている。 - 32 -ウ引用例2について(ア) 引用例2(【0003】)には,「ティシュペーパーも2枚重ねの厚さが,従来90~105μmであったものが,75μm程度に薄くなっており,坪量も減らしたものが多くなっている。」と記載されているところ,紙厚の具体的な測定方法については記載されていない。 (イ) 「JISP 8118」は,「紙及び板紙-厚さ及び密度の試験方法」に関するものであり,紙及び板紙の厚さ並びに密度及びバルク密度の試験方法を規定するとともに,加圧面間の圧力について,「50kPa±5kPa」又は「100kPa±10kPa」と規定している。また,「JISP 8118」には,この規格の一部を構成する引用規格として,「JISP 8111」を挙げている(甲18)。 そして,「JISP 8111」は,「紙,板紙及びパルプ-調湿及び試験のための SP 8118」には,この規格の一部を構成する引用規格として,「JISP 8111」を挙げている(甲18)。 そして,「JISP 8111」は,「紙,板紙及びパルプ-調湿及び試験のための標準状態」に関するものであり,紙,板紙及びパルプの調湿及び試験のための標準状態並びに温度及び相対湿度の測定方法を規定しているが,加圧面間の圧力についての定めはない(甲26)。 なお,「JISP 8111」及び「JISP 8118」はどちらも紙全般に関する規格であり,ティシュペーパー固有のものではない。 (ウ) また,引用例2(【0003】)には,従来の技術(特許文献)として甲16が例示されているところ,甲16(【0026】)には,ティシュペーパーの紙厚として「JISP 8118」によって測定された測定値が示されている。 (エ) このように,紙厚の測定方法に関する日本工業規格として「JISP118」が存在し,引用例2に例示された特許文献に,「JISP 8118」による紙厚の測定値が示されていることや,「JISP 8111」の条件下で「PEACOCKG型」で測定した引用例3に記載された実施例や市販品等の紙厚が134ないし163μmであり,本願明細書の比較例の紙厚が140ないし159μmであって,引用例2の上記90~105μmという範囲と大きく異なることを- 33 -総合すれば,少なくとも,引用例2に示された「90~105μm」の紙厚が,引用例3と同様の測定方法によって測定されたものということはできない。 (オ) 被告は,引用例2の測定方法による紙厚と引用例3の測定方法による紙厚との間に大きな差はないと主張する。 しかしながら,測定圧力の違いによって紙厚がどの程度変化するかは,測定対象の硬さ等にもよるから,硬さ等が特定されて 定方法による紙厚と引用例3の測定方法による紙厚との間に大きな差はないと主張する。 しかしながら,測定圧力の違いによって紙厚がどの程度変化するかは,測定対象の硬さ等にもよるから,硬さ等が特定されていないティシュペーパーにおいて,測定圧力に起因して紙厚にどの程度の差が生じるかは一義的に定まるものではないことは,被告の自認するところであって,程度の違いはあっても,測定圧が異なれば紙厚の測定値も異なることは明らかである。よって,「JISP 8111」に規定された調湿・標準状態の条件下で「PEACOCKG型」を用いた測定方法と,「JISP 8118」に規定された測定方法とで,少なくとも,紙厚の測定値が同じになるとは限らないから,引用例2及び3における紙厚の数値は,必ずしも同一視できるものではない。 エ本件審決の認定の是非以上のとおり,引用例3には,薬液を含有したティシュペーパー製品において,本件補正発明と同じ「JISP 8111」の条件下で,尾崎製作所ダイヤルシックネスゲージ「PEACOCKG型」を用いて測定した紙厚が2プライで134μm及び139μmであるものが記載されているものの,引用例2に記載された紙厚は,それと同様の結果をもたらすとはいえない方法で測定されたものである。 さらに,本訴において,引用例2及び3以外に,紙厚100~140μmがティシュペーパー製品において普通に採用されていると認めるに足りる証拠はない。 以上に照らせば,引用例2及び3の記載のみをもって,「紙厚100~140μmはティシュペーパー製品において普通に採用されている範囲」であるとした本件審決の認定は,是認することができない。 よって,上記認定を前提として,相違点1に係る本件補正発明の構成を容易に想到することができるとした本件審決の判断も,誤りで 用されている範囲」であるとした本件審決の認定は,是認することができない。 よって,上記認定を前提として,相違点1に係る本件補正発明の構成を容易に想到することができるとした本件審決の判断も,誤りである。 - 34 -(3) 小括以上のとおり,少なくとも相違点1及び2に係る容易想到性の判断には誤りがあるから,本件補正発明は,本件審決が引用した引用例に基づいてこれを容易に想到することができたということはできない。したがって,本件補正を却下すべきものとした本件審決の判断は,誤りである。 4 結論よって,その余の点について判断するまでもなく,本件審決は,取り消されるべきものである。 知的財産高等裁判所第4部 裁判長裁判官土肥章大 裁判官髙部眞規子 裁判官齋藤巌

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