平成24(ワ)1716 職務発明の対価請求事件

裁判年月日・裁判所
平成25年3月6日 東京地方裁判所
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判決文本文13,800 文字)

平成25年3月6日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成24年(ワ)第1716号職務発明の対価請求事件口頭弁論終結日平成24年12月19日判決静岡市清水区<以下略>原告X同訴訟代理人弁護士小泉征一郎同七字賢彦同戸谷由布子東京都千代田区<以下略>被告三井・デュポンフロロケミカル株式会社同訴訟代理人弁護士小池豊同萱島博文 主文 1 本件訴えのうち,請求の趣旨(2),(3)に係る訴えを却下する。 2 被告は,原告に対し,2万5000円を支払え。 3 原告のその余の請求を棄却する。 4 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 請求の趣旨(1) 被告は,原告に対し,1億0263万円及びこれに対する平成24年2月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2) 被告は,原告に対し,平成25年11月1日に1億円及びこれに対する平成25年11月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (3) 被告は,原告に対し,平成30年11月1日に1億円及びこれに対する平成30年11月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (4) 訴訟費用は被告の負担とする。 (5) 仮執行宣言 2 請求の趣旨に対する答弁(本案前の答弁)請求の趣旨(2), 1月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (4) 訴訟費用は被告の負担とする。 (5) 仮執行宣言 2 請求の趣旨に対する答弁(本案前の答弁)請求の趣旨(2),(3)の訴えを却下する。 (本案の答弁)(1) 請求の趣旨(1)の請求を棄却する。 (2) 訴訟費用は原告の負担とする。 第2 事案の概要 1 本件は,被告の元従業員であり,その在職中にされた別紙発明目録記載の3件の発明(以下以下以下以下,同目録同目録同目録同目録に従い,「,「,「,「発明発明発明発明Ⅰ」などというなどというなどというなどという。)。)。)。)の発明者(発明Ⅰについては共同発明者の1人)である原告が,被告に対し,平成16年法律第79号による改正前の特許法35条(以下以下以下以下,同条同条同条同条についてはについてはについてはについては,特に断らないらないらないらない限り,同改正前同改正前同改正前同改正前の特許法特許法特許法特許法におけるにおけるにおけるにおける同条同条同条同条をいうをいうをいうをいう。)。)。)。)に基づき,各発明に係る特許を受ける権利を被告に承継させたことによる相当の対価の一部請求として,発明Ⅰにつき1億0263万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成24年2月11日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金,発明Ⅱ,Ⅲの第1回分割金として,弁済期の後の日である平成25年11月1日に1億円及びこれに対する平成25年11月2日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金,発明Ⅱ,Ⅲの第2回分割金として,弁済期の後の日である平成30年11月1日に1億円及びこれに対する平成30年11月2日から支払済み 平成25年11月2日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金,発明Ⅱ,Ⅲの第2回分割金として,弁済期の後の日である平成30年11月1日に1億円及びこれに対する平成30年11月2日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提となる事実(いずれも争いがない。)(1) 当事者ア被告は,フッ化樹脂製品であるテフロンの製造販売及びフッ素ケミカル 製品の製造販売等を業として行っている株式会社である。 被告は,昭和38年4月,日東フロロケミカル株式会社として設立され,昭和41年5月に三井フロロケミカル株式会社,昭和59年8月に現在の「三井・デュポンフロロケミカル株式会社」に商号を変更している。 イ原告は,昭和38年8月に被告(当時の商号は日東フロロケミカル株式会社)に入社し,研究開発部門に配属され,フッ素樹脂塗料等(その中でも,特に「マイクロパウダー」と呼ばれる粉体のフッ素樹脂塗料)に関する研究開発に従事してきた。 原告は,平成7年11月30日に被告を定年退職した後も,被告の嘱託として勤務を続け,平成10年11月30日に嘱託満了により退社した。 (2) 対象発明被告の従業員であった原告は,別紙発明目録記載の発明を,発明Ⅰについては他の発明者と共同して,発明Ⅱ,Ⅲについては単独で,発明し,それぞれその特許を受ける権利を被告に承継させた。被告は,各発明につき,特許を取得した。 (3) 被告の職務発明等取扱規程被告には,従業員のなした発明に関し,以下の内容の職務発明等取扱規程(甲4。平成5年12月1日改訂のもの。以下以下以下以下「被告被告被告被告規程規程規程規程」というというというという。)を定めている(平成4年2月21日に出願された 等取扱規程(甲4。平成5年12月1日改訂のもの。以下以下以下以下「被告被告被告被告規程規程規程規程」というというというという。)を定めている(平成4年2月21日に出願された発明Ⅰについても,平成5年12月1日に改訂された被告規程が遡及して適用されることについて当事者間に争いがない。)。 ア(権利の承継) 職務発明については,会社は日本及び外国において特許を受ける権利を承継する(3条1項本文)。 イ(出願補償金) 会社は,職務発明について特許を受ける権利を承継し,特許出願を行ったときには,その発明を行った社員に対し,特許出願1件(2カ国以上に行った特許出願は1件とする。)につき金10,000円 を限度として出願補償金を支払うものとする(10条)。 ウ(登録補償金) 会社は,特許出願を行った職務発明について,特許権の認定登録を受けたときには,その発明を行った社員に対し,特許出願1件(2カ国以上に行った特許出願は1件とする。)につき金15,000円を限度として登録補償金を支払うものとする(11条)。 エ(実績補償金)(ア) 会社は,職務発明について特許を受けたもののうち,その発明を行った社員から実績補償金の請求があった場合,特別評価委員会の審議を経て,会社に貢献があったと認めたものについて,その社員に対し実績補償金を支払うものとする(13条1項)。 (イ) 補償の方法は,後記キの特許実績補償実施基準に定めるところによる(13条2項)。 オ(役員及び嘱託の発明に関する準用) 取締役,監査役及び嘱託が行った会社の業務範囲に属する内容の発明については,この規程を準用する(18条)。 カこの規則の改正は,1994年4月1日から施行する。ただし,上記ウ(11条,登録補償金)及びエ(13条,実績補償金)の 社の業務範囲に属する内容の発明については,この規程を準用する(18条)。 カこの規則の改正は,1994年4月1日から施行する。ただし,上記ウ(11条,登録補償金)及びエ(13条,実績補償金)の規定は,1994年4月1日以前に出願した発明についても適用する(付則)。 キ(特許実績補償実施基準)(ア) 特別評価委員会は,発明者から実績補償金の請求があった場合に設置され,該発明の評価及び実績補償金額の決定を行う。 (イ) 前項の評価及び決定は,次表に定めるとおり各発明毎に2回行い,その都度実績補償金を支払うものとする。 評価及び決定の時期評価及び決定の対象期間 第1回登録時から5年経過後登録後5年間第2回登録時から10年経過後登録後5年経過時から当該特許権の消滅時まで(ウ) 実績補償金の額は,会社に対する貢献度その他の事情を勘案の上,当該発明を評価し,次表に定めるとおり決定する。 等級金額特級都度決定する1級300,000円2級150,000円3級50,000円(4) 被告による支払被告は,発明Ⅰに関し,原告を含む発明者6名に対し,出願補償金として1万円,登録補償金として1万5000円,第1回の実績補償金として15万円を支払った。 第2回の実績補償金として,原告を除く発明者5名に対し,合計12万5000円を支払っているが,原告分2万5000円については,原告による振込先指定がないまま被告預かりの状態となっている。 3 争点(1) 発明Ⅱ,Ⅲの相当対価の将来請求の可否(争点1)(2) 発明Ⅰの相当対価(争点2)(3) 発明Ⅱ,Ⅲの相当対価(争点3) 4 争点に対する当事者の主張(1) 争点1(発明Ⅱ,Ⅲの相当対価の将来請求の可否) 価の将来請求の可否(争点1)(2) 発明Ⅰの相当対価(争点2)(3) 発明Ⅱ,Ⅲの相当対価(争点3) 4 争点に対する当事者の主張(1) 争点1(発明Ⅱ,Ⅲの相当対価の将来請求の可否)について(原告の主張)発明Ⅱ,Ⅲの第1回分割金(第1回実績補償金)の支払期は登録時から5年経過後だから,発明Ⅱ,Ⅲの遅い方をとって平成25年10月31日とす る。 第2回分割金(第2回実績補償金)の支払期は登録時から10年経過後だから,同じく遅い方をとって平成30年10月31日とする。 これらは将来請求であるが,被告は,発明Ⅱ,Ⅲについて登録補償金を支払っておらず,また,権利承継後登録前の実施による利益についても実績補償金の対象とせず,原告の請求を全面的に否認し争っているのであり,権利承継後登録前の実施による実績補償金については消滅時効を主張する可能性もあるのであるから,あらかじめ請求をする必要がある。 (被告の主張)発明Ⅱは平成20年7月25日登録,発明Ⅲは平成20年10月31日登録であり,いまだ登録後5年を経過していない。 被告としては,登録後5年を経過していないから評価及び決定をしていないだけであり,平成25年7月25日経過後あるいは平成25年10月31日経過後,被告規程に基づき,第1回実績補償金の評価及び決定を行う予定である。 発明Ⅱ,Ⅲの登録補償金については,原告による振込先指定がない状態のため,支払っていないものである。 請求の趣旨(2),(3)記載の訴えは将来請求であり,請求適格がなく訴えの利益を欠くものであるから,却下を求める。 (2) 争点2(発明Ⅰの相当対価)について(原告の主張)ア発明Ⅰは,テトラフルオロエチレン共重合体樹脂粉体組成物及びその製造法に関するものである。テトラフルオロ から,却下を求める。 (2) 争点2(発明Ⅰの相当対価)について(原告の主張)ア発明Ⅰは,テトラフルオロエチレン共重合体樹脂粉体組成物及びその製造法に関するものである。テトラフルオロエチレン共重合体樹脂粉体組成物は,厚膜で実質的に気泡を含まず,基材との密着性・耐剥離性が強い被膜を形成し,回転ライニング成形に適する。これにより,パイプ,タンク,バルブ,継手,ポンプ,熱交換器,ホッパー等に,剥離や発泡がなく 表面平滑に優れた厚い被膜を形成できる。 発明Ⅰの実施品は,別紙「退職時の製品一覧表」及び別紙「テフロンPFA」,「PFAプライマー PL-902シリーズ」等のとおりである。 さらに,「製品番号4501-J」及び「製品番号F-45」の製品(以下以下以下以下「本件本件本件本件2製品製品製品製品」というというというという。)。)。)。)も発明Ⅰの実施品である。 イ平成4年2月から平成13年8月までの実施品の売上高95億8300万円,仮想実施料率5%,被告の貢献度90%,発明者6名中の原告の寄与度85%として計算すると,第1回分割金として支払われるべきであった対価は4072万円,既払金2万5000円を控除すると未払額は4069万円(1万円以下切り捨て)である。 平成13年9月から平成24年2月20日までの実施品の売上高145億8300万円,仮想実施料率5%,被告の貢献度90%,発明者6名中の原告の寄与度85%として計算すると,第2回分割金として支払われるべきであった対価は6197万円(1万円未満切り捨て)であり,そこからさらに保留分2万5000円を控除すると6194万円(1万円未満切り捨て)となる。(訴状6,7頁)以上の合計額は1億0236万円である。 ウ平成4年2月 円未満切り捨て)であり,そこからさらに保留分2万5000円を控除すると6194万円(1万円未満切り捨て)となる。(訴状6,7頁)以上の合計額は1億0236万円である。 ウ平成4年2月から平成13年8月までの実施品の売上高95億8300万円のうち超過売上高の率を40%とすると,超過売上高は38億3300万円(100万円以下切り捨て)であり,これに利益率40. 9%,被告の貢献度90%,発明者6名中の原告の寄与度85%として計算すると,第1回分割金として支払われるべきであった対価は1億3325万円(1万円未満切り捨て),既払金2万5000円を控除すると未払額は1億3322万5000円である。 平成13年9月から平成24年2月20日までの実施品の売上高145 億8300万円,超過売上高40%,利益率40.9%,被告の貢献度90%,発明者6名中の原告の寄与度85%として,上記と同様の方法で計算すると,第2回分割金として支払われるべきであった対価は2億0278万円であり,さらに保留分2万5000円を控除すると2億0275万5000円である。(原告準備書面(第2)7ないし9,11頁)エ仮に,被告主張の売上高に基づき平成4年2月から平成24年2月までの売上高1億5204万2303円,超過売上高40%,利益率40. 9%,被告の貢献度90%,発明者6名中の原告の寄与度85%として計算すると,原告に支払われるべきであった対価は211万4300円,既受領額として2万5000円を控除すると208万9300円,保留分を含め5万円を控除すると,支払われるべき金額は206万4300円である。(原告準備書面(第5))オよって,上記イ,ウ又はエに基づき,発明Ⅰの相当対価(ウの計算によればその一部請求)として1億0263万円及びこれに対す 支払われるべき金額は206万4300円である。(原告準備書面(第5))オよって,上記イ,ウ又はエに基づき,発明Ⅰの相当対価(ウの計算によればその一部請求)として1億0263万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成24年2月11日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 (被告の主張)ア発明Ⅰの実施品は,「製品番号4501-J」及び「製品番号F-45」の製品(本件2製品)である。発明Ⅰは,「ポリフェニレンサルファイド」を含有することが必須であるところ,別紙「退職時の製品一覧表」及び別紙「テフロンPFA」,「PFAプライマー PL-902シリーズ」等は,いずれもこれを含まないから発明Ⅰの実施品ではない。 イ平成24年2月末日までの本件2製品の売上高は1億5204万2303円である。 なお,平成4年ないし7年の売上は,被告の会計資料を精査しても存在しない。 ウ発明Ⅰにより通常実施権による売上を超過した売上はなく,超過売上の割合は0%と言っても過言ではない。 発明Ⅰは,被告の取引先の1つである日本フッソ工業株式会社(以下以下以下以下「日本日本日本日本フッソフッソフッソフッソ工業工業工業工業」というというというという。)。)。)。)の要望に応じて開発した技術であり,「製品番号4501-J」は,日本フッソ工業と被告関連会社以外には他の2社にしか提供していない。また,「製品番号F-45」は,日本フッソ工業以外には他の1社にしか提供していない。対象製品に係る市場は閉鎖的で小規模であり,そのシェアを数値として把握することすらできない。 エ仮想実施料率は多くとも3%を超えることはない。 オ発明Ⅰは,日本フッソ工業からの依頼を受けた当初から,被告において 閉鎖的で小規模であり,そのシェアを数値として把握することすらできない。 エ仮想実施料率は多くとも3%を超えることはない。 オ発明Ⅰは,日本フッソ工業からの依頼を受けた当初から,被告において課題解決に向けた概ねの道筋が立っており,被告の貢献度は100%と言っても過言ではない。 カ共同発明者間における原告貢献度は多くとも16%を超えることはなく,限りなく0%に近いと言っても過言ではない。原告は,その長い社歴と経験から,アドバイザーとしてプロジェクトチームに名を連ねたにすぎない。 キ被告は,発明Ⅰに関し,発明者6名に対する補償金として合計32万5000円(出願補償金1万円,登録補償金1万5000円,第1回実績補償金15万円,第2回実績補償金15万円)を計上しており,この金額は裁判実務で用いられる方式により算定した金額と比較しても適正かつ合理的であり,発明Ⅰに係る請求に理由がないことは明らかである。 なお,第2回実績補償金(発明者数で均等割した2万5000円)については,原告による振込先指定がないため,被告預かりの状態である。 (3) 争点3(発明Ⅱ,Ⅲの相当対価)について(原告の主張)ア発明Ⅱは,分散性の優れた微小粒径のコロイダル粒子からなるポリエー テルスルホン(PES)水性分散液の製造方法に関するものであり,簡単な製造工程でPES水性分散液を短時間で製造することができる。得られたPES水性分散液は,平均粒径1μm以下のPESのコロイダル粒子からなり,分散性に優れているので,塗料や塗料用プライマー用の被覆形成組成物として有用である。 発明Ⅲは,分散液の不可逆的な凝固がなく,極めて厚い塗膜を形成できるフッ素樹脂塗料組成物に関するものであり,この分散液を基材に塗装することにより,化学プラント,機械工 組成物として有用である。 発明Ⅲは,分散液の不可逆的な凝固がなく,極めて厚い塗膜を形成できるフッ素樹脂塗料組成物に関するものであり,この分散液を基材に塗装することにより,化学プラント,機械工業,電機工業において有用な防食性,非粘着性,耐薬晶性,耐摩耗性,電気絶縁性等を基材に与えることができる。 本件発明Ⅱ,Ⅲの技術は,ほとんど全てのフッ素樹脂製品(粉体原料)に使用可能なので,スラリー塗料製品以外でも,液体塗料として販売されたものには,必ず本件発明Ⅱ,Ⅲが用いられているはずである。 発明Ⅱ,Ⅲの実施品は,別紙「退職時の製品一覧表」及び別紙「テフロンPFA」,「PFAプライマー PL-902シリーズ」等(製品番号SL-800BK及びSL-800LTを含む。)のとおりである。 さらに,以下の製品も発明Ⅱの実施品である。 製品番号SJ-CL910製品番号SJ-BK840製品番号SJ-AU832製品番号SJ-RD841製品番号SJ-RD833製品番号SJ-830MCまた,以下の製品も発明Ⅲの実施品である。 製品番号SL-820LT製品番号SL-802BK そもそも,原告が発明Ⅲの発明を行おうとしたきっかけは,某家電メーカーの炊飯器の内装のフッ素樹脂コーティングに関して剥離問題が生じ,それを解決する必要が生じたためである。これがIHジャー等に用いられていれば,発明Ⅲの実施品の販売量も膨大なものとなるはずである。 イ平成10年9月から平成25年10月までの実施品の売上高1971億6600万円,平成25年11月から平成30年9月2日までの売上高628億3300万円,仮想実施料率5%,被告の貢献度90%として計算すると,平成25年10月31日に支払われるべき第1 高1971億6600万円,平成25年11月から平成30年9月2日までの売上高628億3300万円,仮想実施料率5%,被告の貢献度90%として計算すると,平成25年10月31日に支払われるべき第1回分割金は9億8583万円,平成30年10月31日に支払われるべき第2回分割金は3億1416万円(1万円未満切り捨て)である。(訴状7,8頁)ウ平成10年9月から平成25年10月までの売上高1971億6600万円のうち,超過売上高の率を40%とすると,超過売上高788億6600万円(100万円未満切り捨て)であり,これに利益率40.9%,被告の貢献度90%として計算すると,平成25年10月31日に支払われるべき第1回分割金は33億2561万円(1万円未満切り捨て。判決注:32億2561万円が正しい額である。)である。 平成25年11月から平成30年9月2日までの売上高628億3300万円,超過売上高の率を40%とすると,超過売上高251億3300万円(100万円未満切り捨て)であり,これに利益率35.8%,被告の貢献度90%として計算すると,平成30年10月31日に支払われるべき第2回分割金は8億9976万円(1万円未満切り捨て)である。 (原告準備書面(第2)9,10頁)エよって,上記イ又はウに基づき,発明Ⅱ,Ⅲの相当対価の一部請求として,第1回分割金の弁済期の後の日である平成25年11月1日に1億円及びこれに対する平成25年11月2日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金,並びに,第2回分割金の弁済期の後の日である平成30 年11月1日に1億円及びこれに対する平成30年11月2日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 (被告の主張)争う。 原告は,発明Ⅱ,Ⅲに関し,IHジャーの内釜 年11月1日に1億円及びこれに対する平成30年11月2日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 (被告の主張)争う。 原告は,発明Ⅱ,Ⅲに関し,IHジャーの内釜に用いられていると主張するが,発明Ⅱ,Ⅲは,防食性能に優れた100~1000μmの厚い塗膜の形成を可能とするものであるから,塗膜の厚さがわずか数十μmというIHジャーの内釜の塗装に用いられるはずもない。 なお,発明Ⅱ,Ⅲにおいては,「ポリエーテルスルホンのコロイダル粒子」が必須であるところ,SL-800BKとSL-800LTを除く全ての製品がこれを充足しない。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(発明Ⅱ,Ⅲの相当対価の将来請求の可否)について(1) 職務発明について特許を受ける権利等を使用者等に承継させる旨を定めた勤務規則等がある場合,従業者等は,当該勤務規則等により,特許を受ける権利等を使用者等に承継させたときに,相当の対価の支払を受ける権利を取得する(特許法35条3項)。対価の額については,同条4項の規定があるので,勤務規則等による額が同項により算定される額に満たないときは同項により算定される額に修正されるのであるが,対価の支払時期についてはそのような規定はないから,勤務規則等に対価の支払時期が定められているときは,勤務規則等の定めによる支払時期が到来するまでの間は,対価の支払を求めることができない(最高裁平成15年4月22日第三小法廷判決・民集57巻4号477頁[オリンパス事件])。 (2) 被告規程によれば,被告における職務発明の対価の支払時期は,出願補償金については出願時,登録補償金については登録時であるが,実績補償金については,登録時から5年経過後及び10年経過後となっている(前提と なる事実(3))。 発 対価の支払時期は,出願補償金については出願時,登録補償金については登録時であるが,実績補償金については,登録時から5年経過後及び10年経過後となっている(前提と なる事実(3))。 発明Ⅱは平成20年7月25日登録,発明Ⅲは平成20年10月31日登録であるから(前提となる事実(2),別紙発明目録),本件口頭弁論終結時において,実績補償金の支払時期は,第1回・第2回とも,いまだ到来していないものである。 しかも,第1回の実績補償金の対象期間の終期は平成25年7月25日(発明Ⅱ)又は平成25年10月31日(発明Ⅲ),第2回の実績補償金の対象期間の終期は,発明Ⅱ,Ⅲの特許権消滅時である,平成30年9月3日(発明Ⅱ)又は平成30年9月25日(発明Ⅲ)と解するのが相当であるから,本件口頭弁論終結時において,被告規程による実績補償金算定の基礎となるべき対象期間中の実施品売上高も,いまだ確定していないものである。 被告は,原告の職務発明対価請求権の存在自体を否定しているものではなく,被告規程で定められた支払時期には被告規程に基づき各実績補償金の評価及び決定を行う予定であるというのであるから,現時点において将来給付の判決をなすべき「あらかじめその請求をする必要がある」(民事訴訟法135条)とは認められない。 (3) そうすると,本件訴えのうち,請求の趣旨(2),(3)記載の訴えは,将来請求としての請求適格を欠くものであるから,却下を免れない。 2 争点2(発明Ⅰの相当対価)について(1) 平成16年法律第79号による改正前の特許法35条4項によれば,「前項[35条3項]の対価の額は,その発明により使用者等が受けるべき利益の額及びその発明がされるについて使用者等が貢献した程度を考慮して定めなければならない。」とされている 法35条4項によれば,「前項[35条3項]の対価の額は,その発明により使用者等が受けるべき利益の額及びその発明がされるについて使用者等が貢献した程度を考慮して定めなければならない。」とされている。 そこで,発明Ⅰにより「使用者等が受けるべき利益の額」及び「その発明がされるについて使用者等が貢献した程度」(使用者貢献度)を算定することとする。 使用者等は,職務発明については特許法35条1項により無償の通常実施権を取得するのであるから,同条4項で考慮すべき「その発明により使用者等が得るべき利益」とは,使用者等が通常実施権の実施によっても得られたであろう利益を控除した,特許発明の実施を排他的に独占することにより得るべき利益(独占の利益)をいう。 独占の利益は,本来,権利承継時に価値を算定すべきものではあるが,発明Ⅰについては既に特許期間が満了し,実際の売上高が明らかになっているので,実際の売上高を基礎にして算定するのが相当である。 そして,被告は,発明Ⅰにつき他社にライセンスすることなく,専ら自己実施のみを行っていたと認められるから(弁論の全趣旨),独占の利益は,実施品の売上高のうち,通常実施権の実施によっても得られたであろう売上高を控除した売上高(超過売上高)に仮想実施料率を乗じて,他社にライセンスしていた場合に得られたであろうライセンス料相当額をもって独占の利益と推定する(実施料率方式)か,超過売上高のうち実施品にかかる変動経費を控除した利益(限界利益)の割合をもって独占の利益と推定する(利益率方式)という2つの方式が考えられる。 以下,具体的に検討する。 (2) 発明Ⅰの実施品「製品番号4501-J」及び「製品番号F-45」の製品(本件2製品)が発明Ⅰの実施品であることは争いがない。 方式が考えられる。 以下,具体的に検討する。 (2) 発明Ⅰの実施品「製品番号4501-J」及び「製品番号F-45」の製品(本件2製品)が発明Ⅰの実施品であることは争いがない。 原告は,別紙「退職時の製品一覧表」記載の各製品,別紙「テフロンPFA」及び「PFAプライマー PL-902シリーズ」等の各製品も発明Ⅰの実施品であると主張するが,そのように認めるに足りる証拠はない。 (3) 売上高平成8年1月から平成24年2月末までの本件2製品の売上高は,1億5204万2303円である(争いがない。)。 発明Ⅰが特許として出願されたのは平成4年2月21日,公開されたのは平成5年5月7日であるが(甲1),平成7年12月31日までの売上高については,被告において既に会計資料が存在せず,売上高の存在を認めるに足りる証拠がない。 平成8年1月1日から登録日の前日である平成8年8月7日までの間の売上高についても,便宜上,特許登録後と同様の割合で独占の利益を算定することとする。 発明Ⅰは平成24年2月21日に特許期間が満了しているが,平成24年2月の売上高は0円であるから(乙9),2月22日~29日分の売上高を除外する必要はない。 (4) 超過売上高弁論の全趣旨によれば,超過売上高は,多くとも売上高の40%を上回らないものと認める。 (5) 仮想実施料率ア原告は,超過売上高に仮想実施料率を乗じるべきではなく,超過売上高に利益率を乗じるべきであると主張する。 しかし,原告の主張する利益率40.9%は,平成18年12月期の,被告全体の売上高に対する売上総利益の割合であり,発明Ⅰの実施品である本件2製品の利益率(売上高に対する限界利益の割合)は明らかでないから,本件においては利益率方式によ %は,平成18年12月期の,被告全体の売上高に対する売上総利益の割合であり,発明Ⅰの実施品である本件2製品の利益率(売上高に対する限界利益の割合)は明らかでないから,本件においては利益率方式によって独占の利益を算定することはできず,超過売上高に仮想実施料率を乗じる実施料率方式によって独占の利益を算定するのが相当である。 イ仮想実施料率乙13によれば,発明Ⅰの属する有機化学製品(イニシャル無)の平成4年度~平成10年度の実施料率は,最頻値3%,中央値4%,平均値5.5%であるから,本件における仮想実施料率は,多くとも5%を上回 らないものと認める。 (6) 使用者貢献度弁論の全趣旨によれば,使用者貢献度は90%を下らないものと認める。 (7) 発明者中の原告の寄与度発明Ⅰの発明者は原告を含め6名である(争いがない。)。 発明者6名の寄与割合は平等と推定されるところ,甲13ないし18,25ないし29,乙7,8,10,16,17(いずれも枝番を含む。)及び弁論の全趣旨によっても,この推定を覆すに足りる証拠はない。 そうすると,発明者6名中原告の寄与度は,多くとも17%(16.66……%の端数を切り上げたもの)を超えないものと認める。 (8) 小括以上によれば,発明Ⅰの特許法35条4項に基づく相当対価は,以下のとおり,多くとも5万1694円を超えないものと認められる。 152,042,303×0.4×0.05×(1-0.9)×0.17=51,694(9) 被告規程に基づく対価の額との関係についてア勤務規則等に使用者等が従業者等に対して支払うべき対価に関する条項がある場合において,勤務規則等による額が特許法35条4項により算定される額に満たないときは,特許を受ける権利を承継させた従 てア勤務規則等に使用者等が従業者等に対して支払うべき対価に関する条項がある場合において,勤務規則等による額が特許法35条4項により算定される額に満たないときは,特許を受ける権利を承継させた従業者等は,同条3項の規定に基づき,その不足する額に相当する対価の支払を求めることができる。 しかし,同条4項により算定される額よりも勤務規則等により算定した額の方が大きいときは,当該勤務規則等が有効であり,従業者等は当該勤務規則等による対価の支払を求めることができる。 イ被告は,発明Ⅰにつき,被告規程に基づく対価として,原告を含む発明者6名に対し,出願補償金として1万円,登録補償金として1万5000円,第1回の実績補償金として15万円,第2回の実績補償金として15 万円の合計32万5000円を計上している。 これを発明者6名で均等割りすると,原告が被告規程に基づき受け取るべき対価は5万4166円(端数切り捨て)となる。 これは,上記(1)から(7)までで算定した特許法35条4項に基づく相当対価(の最大値)5万1694円を上回るから,原告が受け取るべき対価は合計5万4166円である。 (10) 既払金上記被告規程に基づく対価5万4166円のうち,原告による振込先指定がないまま被告預かりの状態となっている第2回実績補償金の原告分2万5000円を除いた2万9166円が支払済みであることは,原告も明らかに争わない。 (11) 遅延損害金について原告による振込先指定がないまま被告預かりの状態となっている2万5000円については,原告が振込先指定をしないまま受領を拒絶しているものと認められ,被告は遅くとも平成23年4月8日頃には弁済の提供を行っていたと認められるから(甲6・4頁),被告は遅滞の責めを負わない(民法 ついては,原告が振込先指定をしないまま受領を拒絶しているものと認められ,被告は遅くとも平成23年4月8日頃には弁済の提供を行っていたと認められるから(甲6・4頁),被告は遅滞の責めを負わない(民法492条)。 しかし,弁済の提供をしたからといって,供託しない限り債務が消滅するものではないから,原告の給付請求権が失われるものではない。 第4 結論以上によれば,以下のとおりである。 1 請求の趣旨(2),(3)の,発明Ⅱ,Ⅲの相当対価の将来給付に係る訴えは,将来請求としての請求適格を欠き不適法であるから却下する。 2 請求の趣旨(1)の,発明Ⅰの相当対価の請求は,被告預かりの状態となっている2万5000円の支払を求める範囲で理由があるから認容し,その余は理由がないから棄却する。 3 訴訟費用については,民事訴訟法64条ただし書きにより,すべて原告の負担とする。 4 仮執行宣言は相当でないのでこれを付さない。 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官大須賀滋 裁判官西村康夫 裁判官森川さつき

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