令和6(わ)516 死体遺棄被告事件

裁判年月日・裁判所
令和7年10月10日 奈良地方裁判所
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判決文本文5,640 文字)

主文 被告人を懲役1年2月に処する。 この裁判確定の日から3年間その刑の執行を猶予する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は、令和6年11月9日頃から同月10日頃の間に、奈良市内の霊園内の一区画において、実母であるA(死亡当時92歳)の死体を土中に埋め、もって死体を遺棄した。 (証拠の標目)省略(事実認定の補足説明) 1 本件の争点等弁護人は、判示事実のうち、客観的な事実関係は争わないが、①被告人の行為は死体遺棄罪における「遺棄」に当たらない、②被告人において死体遺棄罪の故意は認められないとして、被告人は無罪であると主張する。 当裁判所は、判示のとおり、死体遺棄罪の成立を認めたことから、以下その理由について補足して説明する。 2 前提事実(以下、特段の断りがない限り令和6年11月中の出来事である。)関係各証拠によれば、前提として以下の事実が認められる。 ⑴ 被告人は、9日午後9時頃、自宅において実母であるA(以下「母親」という。)が死亡しているのを発見した(以下、同人の死体を「本件死体」という。)。 ⑵ア被告人は、同日午後10時46分頃、奈良市内の霊園(以下「本件霊園」という。)に向かい、本件霊園に入ることができるかどうか確認した。 イ被告人は、本件霊園に入ることができることを確認した後、帰宅し、本件死体とスコップと台車を自車に積んで、10日午前1時30分頃、再度本件 霊園に向かった。 ⑶ア本件霊園に到着後、被告人は、同霊園内において自身が所有する判示の区画(以下「本件区画」という。)内にある土のスペースに持参したスコップで穴を掘り、その穴の中に本件死体を埋め、掘った土を埋め戻した。 イ被告人は、同日午前9時50分 いて自身が所有する判示の区画(以下「本件区画」という。)内にある土のスペースに持参したスコップで穴を掘り、その穴の中に本件死体を埋め、掘った土を埋め戻した。 イ被告人は、同日午前9時50分頃、整地用具(いわゆるトンボ)を自車に積み、本件霊園に向かい、持参したトンボを用いて本件死体を埋めた場所の土をならそうとした。 ウ被告人は、11日午後1時頃、一昨日に行った整地が雨上がりの状態であったことから、本件死体を埋めた場所の土の状態を再度確認するために、本件霊園に向かった。 エ被告人は、12日午後1時14分頃、事前にホームセンターで購入した砂を自車に積み、本件霊園に向かい、本件死体を埋めた場所に購入した砂を敷き、トンボで同場所をならした。 ⑷ Bは、18日、110番通報をし、本件霊園に警察官が臨場したところ、本件区画内の土中から人間の手首、身体の一部と思しき部分が露出している状態であった。 ⑸ 本件死体は、本件区画内に埋められた際、棺桶等に入れられた状態ではなく、特段の防腐措置も施されていなかった。 ⑹ 被告人は、母親が死亡してから、葬儀業者に相談したことも、市区町村に埋葬許可や火葬許可等行政上の手続を経たこともなく、本件霊園に対し、埋葬許可証を提出する、又は母親を埋葬することについての相談や事前連絡をすることもなかった。 ⑺ 本件霊園は、複数の大きな区画に分かれており、その区画の中に本件区画を含む複数の墓所が存在する。 3 Bの公判供述について⑴ 本件霊園の事務職員であるBは、当公判廷において、概要以下のとおり供述 する。 ア私は、令和6年11月18日午後、本件霊園の清掃業務員から、清掃業務を行っていた際に、土の中から変なものが見えたとの報告を受け、本件区画に向かった。 イ本件区画に向 述 する。 ア私は、令和6年11月18日午後、本件霊園の清掃業務員から、清掃業務を行っていた際に、土の中から変なものが見えたとの報告を受け、本件区画に向かった。 イ本件区画に向かったところ、区画の左側に、深さ約20センチの穴が開いた状態であり、そこから変なものが見えた。 その穴に近づいてみたところ、手のようなものが見えた。他にも、肉のようなものが見え、そこにはハエが群がっていたことから、人間の遺体が埋まっていたと思い、上司に報告の上、110番通報をした。 ウ 110番通報に加え、私は、人間の遺体が埋まっていると思われた穴の写真を撮影した。その写真に写っている本件区画の穴は、私が本件区画に来た時と同じ状態である。 エ私が本件霊園に勤務するようになって16年間、同霊園で土葬を受け入れたことはなかった。死体を本件霊園に埋葬する際には、埋葬許可証又は火葬許可証を提出してもらうことになっている。 ⑵ 上記のB供述の内容に特段不合理な点は認められず、虚偽供述の動機も認めがたいのであるから、信用でき、その内容どおりの事実が認められる。 4 死体遺棄罪における「遺棄」に当たるか⑴ 死体遺棄罪における「遺棄」とは、習俗上の埋葬等とは認められない態様で死体等を放棄し又は隠匿する行為であり、そうした「遺棄」に当たるかを判断するに当たっては、その態様自体が習俗上の埋葬等と相いれない処置といえるものか否かという観点から検討する必要がある(最高裁令和5年3月24日第2小法廷判決刑集77巻3号41頁参照)。 ⑵ 本件死体を埋めた態様等ア衛生上の影響の観点本件死体は、上記認定事実のとおり、棺桶に入れられることなく、直接土 中に埋められたものであり、特段の防腐措置等もされていないことから、そのような状態が継続 態様等ア衛生上の影響の観点本件死体は、上記認定事実のとおり、棺桶に入れられることなく、直接土 中に埋められたものであり、特段の防腐措置等もされていないことから、そのような状態が継続した場合、本件死体が土中で腐敗することは当然に想定されるところであり、実際にもBらが本件死体を発見した時点で本件死体にはハエが群がっていた。 そして、本件死体の腐敗が進行した場合、その周辺に腐敗に伴う臭気が発生し、又は本件区画及びその周辺の土壌に対する影響等、衛生上の悪影響が生じることも容易に想定される。上記認定事実のとおり、本件死体が埋められていた穴が深いものとはいえないことなども踏まえれば、そうした悪影響が顕在化する可能性は相応に高かったといえ、他の死者も埋葬され、その死者に対する墓参者も来訪することが想定される本件霊園の性質等も踏まえれば、その悪影響は本件区画にとどまらず本件霊園の相当範囲や他の墓参者などにも及びうるものといえる。 そうすると、土中で腐敗することが当然に想定される態様で本件死体を埋めたという点は、本件死体が上記した衛生上の悪影響の要因となってしまうという意味において、本件死体の一般的な宗教的感情を損なうものといえ、習俗上の埋葬等と相容れない処置であると評価できる事情といえる。 イ死体の一部が露出する可能性の観点上記認定事実から、本件死体を埋めた穴は深いとはいえない上に、被告人が本件死体を埋めた際にとった行動も、掘り返した土を埋め戻し、購入した砂を敷いて整地したのにとどまり、被告人が本件死体を埋めた場所に砂を敷いてから1週間弱の時点(令和6年11月18日)で、本件死体は、土中からその一部が露出する状態となっていた。したがって、本件死体は、風雨や動物による掘り返し等の自然現象によって土砂が流出し、その一部が てから1週間弱の時点(令和6年11月18日)で、本件死体は、土中からその一部が露出する状態となっていた。したがって、本件死体は、風雨や動物による掘り返し等の自然現象によって土砂が流出し、その一部が露出するという事態が比較的容易に生じる状況であったと評価できる。 上記した他の墓参者も来訪することが想定される本件霊園の性質、本件死体が腐敗した場合において想定される影響等も踏まえれば、本件死体が露出 した状態は、一定の公共性を有する空間(本件霊園)において腐敗した姿をさらすものといえ、本件死体に対する一般的な宗教的感情を損なう状態といえる。 そうすると、本件死体が露出するという事態が比較的容易に生じるような態様で埋めたという点も、上記のような本件死体に対する一般的な宗教的感情を損なう事態を招来するものであり、習俗上の埋葬等とは相容れない処置であると評価できる事情といえる。 ウこの点、弁護人は、被告人による埋葬は、自身の所有する墓地である本件区画に埋めたものであり、その態様も整地等を複数回行うなどしているなど懇ろに弔う目的であることが明らかであり、本件死体が一部露出した原因は野犬や職員による掘り起しの可能性があり、客観的には一般的な埋葬と変わらないのであるから、客観的に死者に対する宗教的感情や敬虔感情を害するものではないと主張する。 確かに、土中から本件死体が露出するに至った具体的な機序は明らかではないものの、少なくとも弁護人が指摘するような第三者による掘り起しを疑わせる事情は証拠上認めがたい。その上で、上記の検討に照らせば、弁護人の指摘を踏まえても、本件死体を埋めた態様は、本件死体が一部露出するという事態が比較的容易に生じうるような態様であったといわざるを得ないのであり、この点に関する弁護人の指摘は採用できない。 ⑶ 埋 指摘を踏まえても、本件死体を埋めた態様は、本件死体が一部露出するという事態が比較的容易に生じうるような態様であったといわざるを得ないのであり、この点に関する弁護人の指摘は採用できない。 ⑶ 埋葬にまつわる事前手続との関係性上記認定事実から、被告人は、本件死体を埋めるのに際して、事前に墓地、埋葬等に関する法律(以下「墓地埋葬法」)において求められる手続(同法5条等)を経ていない。もとより、弁護人が指摘するとおり、埋葬態様が墓地埋葬法違反であること自体が直接、習俗上の埋葬等と相容れない処置であることを示すものとはいえない。 しかしながら、墓地埋葬法において求められている手続やそれを前提とした 本件霊園との相談、協議を経ることなく死体を埋めた場合、それ自体が本件霊園との間、又は他の本件霊園への墓参者との間で紛議が生じることは当然に想定しうるものである。そうした紛議を生じうる状態自体が、本件死体の位置づけを不安定にするものであり、死者に対する宗教的感情を損なうものといえ、被告人が本件死体を埋めた行為につき、習俗上の埋葬等とは相容れない処置であるとの評価を支える事情といえる。 ⑷ 弁護人の主張について以上を総合すると、本件で被告人が本件死体を埋めた行為は、習俗上の埋葬等とは相容れない処置であると評価できるのであって、死体遺棄罪における「遺棄」に当たるといえる。 弁護人は、上記で検討したもののほか、本件での行為が母の遺言に基づいてなされたものであること、我が国において、いまだ土葬が相当数行われていることなどを指摘する。 しかしながら、前者の指摘について、死者の事前の意思や埋葬の権利義務者の意思が一つの考慮要素といいうることは弁護人の指摘のとおりであるとしても、死体遺棄罪の保護法益なども踏まえれば、この点の弁護 しかしながら、前者の指摘について、死者の事前の意思や埋葬の権利義務者の意思が一つの考慮要素といいうることは弁護人の指摘のとおりであるとしても、死体遺棄罪の保護法益なども踏まえれば、この点の弁護人の指摘が、上記の評価を揺るがすものとはいえない。 後者についても、土葬がいまだに我が国で相当数なされていることが、上記で検討した態様で本件死体を埋めた行為を正当化する事情とはいえないのであり、この点に関する指摘も上記評価を揺るがすものとはいえない。 その他の弁護人の指摘も、上記の評価を揺るがすものとはいえないものであり採用することはできない。 ⑸ 小括よって、本件で被告人が本件死体を埋めた行為は、死体遺棄罪における「遺棄」に当たる。 5 故意の有無 関係各証拠によれば、被告人において、上記認定事実についての認識に欠けるところはなく、本件死体を埋めるに当たって行政上の手続を欠いていたことや、自身の父親の葬儀では火葬手続等を履践したうえで葬儀を執り行っていたことなど、従前の親族における葬送の状況及びそれに対する被告人の認識等に照らせば、被告人が上記の態様で本件死体を埋めた行為の意味・評価についても認識があったと認められる。これと異なる趣旨をいう弁護人の指摘は採用できない。 よって、被告人において、死体遺棄罪の故意も認められる。 6 結論よって、被告人には、判示事実のとおりの死体遺棄罪が成立する。 (法令の適用)省略(量刑の理由)本件は、もとより自身が所有する区画に埋葬したものであり、特段縁もゆかりもない場所に埋めた事案とはおのずと異なるものの、事実認定の補足説明で検討したとおり、本件死体が損傷した状態で土中から露出した状態になっていたことからも、一般的な宗教的感情を損なった程度は軽視できない。ま 場所に埋めた事案とはおのずと異なるものの、事実認定の補足説明で検討したとおり、本件死体が損傷した状態で土中から露出した状態になっていたことからも、一般的な宗教的感情を損なった程度は軽視できない。また、被告人の供述を前提にしても、適切な方法により埋葬できなかった合理的理由は見出しがたく、その意思決定にも相応に厳しい非難が妥当する。そうすると、被告人の刑事責任は軽視できない。 以上の犯罪事実に関する事情に加え、被告人の反省状況、被告人には近年において懲役刑の前科がないことなどの事情も考慮して、被告人に対しては主文の刑に処したうえで、その刑の執行を猶予するのが相当であると判断した。 よって、主文のとおり判決する。 (求刑懲役1年6月)令和7年10月10日奈良地方裁判所刑事部 裁判官木内悠介

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