平成13(ネ)219 債務不存在確認請求各控訴

裁判年月日・裁判所
平成13年11月28日 仙台高等裁判所
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判決文本文13,007 文字)

平成13年11月28日判決言渡平成13年(ネ)第219号債務不存在確認請求各控訴事件(原審・仙台地方裁判所平成11年(ワ)第429号平成13年4月27日判決言渡) 主文 1 第1審原告A及び同Bの控訴に基づき,原判決主文第2項を取り消す。 2 第1審原告Aと第1審被告との間の,平成10年7月22日付原判決別紙目録1記載の簡易生命保険を担保とする115万円の消費貸借契約,同日付同目録2記載の簡易生命保険を担保とする115万円の消費貸借契約及び同日付同目録3記載の簡易生命保険を担保とする130万円の消費貸借契約に基づく同第1審原告の第1審被告に対する各貸金債務が存在しないことを確認する。 3 第1審原告Bと第1審被告との間の,平成10年7月22日付原判決別紙目録4記載の簡易生命保険を担保とする130万円の消費貸借契約に基づく同第1審原告の第1審被告に対する貸金債務が存在しないことを確認する。 4 第1審被告の第1審原告Cに対する本件控訴を棄却する。 5 第1審原告A及び同Bと第1審被告との間に生じた訴訟費用は第1,2審とも第1審被告の負担とし,第1審原告Cと第1審被告との間に生じた控訴費用は第1審被告の負担とする。 事実 第1 当事者の求めた裁判 1 第1審原告A及び同Bの控訴の趣旨(1) 主文第1ないし第3項と同旨(2) 第1審原告A及び同Bと第1審被告との間に生じた訴訟費用は第1, 実第1 当事者の求めた裁判 1 第1審原告A及び同Bの控訴の趣旨(1) 主文第1ないし第3項と同旨(2) 第1審原告A及び同Bと第1審被告との間に生じた訴訟費用は第1,2審とも第1審被告の負担とする。 2 上記控訴の趣旨に対する第1審被告の答弁(1) 本件控訴をいずれも棄却する。 (2) 第1審原告A及び同Bと第1審被告との間に生じた控訴費用は,同第1審原告らの負担とする。 3 第1審被告の控訴の趣旨(1) 原判決中,第1審被告敗訴の部分を取り消す。 (2) 第1審原告Cの請求を棄却する。 (3) 第1審原告Cと第1審被告との間に生じた訴訟費用は,第1,2審とも同第1審原告の負担とする。 4 上記控訴の趣旨に対する第1審原告Cの答弁(1) 本件控訴を棄却する。 (2) 第1審原告Cと第1審被告との間に生じた控訴費用は第1審被告の負担とする。 第2 事案の概要本件は,仙台中央郵便局の保険外務員であった加藤英一(仮名,以下「D」という)から,真実は自己の借金の返済資金に充てるつもりであるのにこれを秘匿して,顧客に支払うべき満期保険金が盗難に遭いその支払いができなくなったので,その支払資金を至急融通して欲しいとの虚偽の依頼を受け,これを信じてDの指示により簡易保険の積立金を担保に同郵便局から契約者貸付の方法により借り受けた合計620万円(第1審原告A(夫)名義として360万円,同B(妻)名義として130万円,同C(長女)名義として130万円)をDに騙取された第1審原告らが,Dの上記行為は,公権力の行使に当たる公 原告A(夫)名義として360万円,同B(妻)名義として130万円,同C(長女)名義として130万円)をDに騙取された第1審原告らが,Dの上記行為は,公権力の行使に当たる公務員がその職務を行うにつき他人に損害を加えたものであるとして国家賠償法1条に基づき,あるいは使用者である第1審被告の事業の執行につき被用者であるDが他人に損害を加えたものであるとして民法715条1項の使用者責任に基づき,上記騙取された620万円相当額の損害賠償請求権を取得したので,これと上記620万円の貸金債務とを相殺して同貸金債務は存在しなくなったと主張し,第1審被告に対し,同貸金債務合計620万円の不存在確認を求めて提訴した事案であるところ,原審が第1審原告A及び同Bの請求については,Dの行為は国家賠償法及び使用者責任に基づく損害賠償請求の対象とはならないことを理由にいずれもこれを棄却し,同Cの請求については,同人名義の上記130万円の借り受け行為は同女の同意を得ずに無権限でなされた無効の法律行為であるとしてこれを認容する判決をしたので,第1審原告A,同B及び第1審被告がそれぞれ敗訴部分につき控訴したものである。 1 前提となる事実本件における「前提となる事実」は,原判決の「事実及び理由」欄の「第2事案の概要」中の「1 前提となる事実」(原判決2頁末行から同4頁3行目まで)と同一であるから,これを引用する。 2 争点及び争点に対する当事者の主張本件における「争点及び争点に対する当事者の主張」は,次のとおり付加するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」中の「2 争点」及び「3 する当事者の主張本件における「争点及び争点に対する当事者の主張」は,次のとおり付加するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」中の「2 争点」及び「3 争点に対する当事者の主張」(原判決4頁4行目から同5頁24行目まで)と同一であるから,これを引用する。 (1) 原判決4頁21行目の次に行を変えて,次のとおり加える。 「 乙14の「加英面識」の記載は,本件契約者貸付が本来局外貸付の手続をとらなければならない事案であるのに,Dの関与により窓口係のEが窓口貸付の方法で簡易に脱法的に行ったことを示すものである。」(2) 原判決5頁7行目の次に行を変えて,次のとおり加える。 「 Dが,本件における窓口貸付に関与した事実はない。仮に関与があったとしても些末的な事項についてである。乙14の「加英面識」の記載は,後日書類の不備があった場合の訂正の必要等に備えた念のための記載であり,格別の意味はない。保険外務員が面識のある顧客から局外貸付を受けた場合には,同保険外務員において,普通貸付請求書の摘要欄に「面識」と記載して押印するのが郵便局の取り扱いである。 また,被用者の行為が外形上,その事業及び職務の範囲内に属すると見える場合であっても,加害行為を受けた者がその範囲内に属さないことを知り(故意)又は容易にこれを知り得た場合(重過失)には,その者が保護を受けることはできないと解すべきである。しかるところ,第1審原告らは,Dとの貸借行為が郵便局員の職務執 り(故意)又は容易にこれを知り得た場合(重過失)には,その者が保護を受けることはできないと解すべきである。しかるところ,第1審原告らは,Dとの貸借行為が郵便局員の職務執行行為に該当しないことについて容易に知り得たというべきであるから,第1審原告らには少なくとも重過失がある。 したがって,いずれにしても本件においては民法715条1項の適用はないというべきである。」第3 当裁判所の判断 1 上記前提となる事実,証拠(甲1ないし5の各1ないし3,6ないし8,乙1ないし10,14ないし21,22の1ないし3,原審証人F,同Eの各証言(但し,後記措信しない部分を除く),原審における第1審原告A,同Bの各本人尋問の結果)並びに弁論の全趣旨によれば次の事実を認めることができる。 (1) Dは,昭和45年4月1日,仙台中央郵便局第2集配課に採用され,昭和50年5月14日,同郵便局保険課に配置換えとなり,同日以降,保険外務員として局外における簡易生命保険契約の募集,満期保険金の払渡等の事務に関する受払現金の出納員の地位にあった。 第1審原告Aは,大正11年11月24日生まれで,難聴ぎみであるところ,昭和55年仙台防衛施設局を退職後,仙台市の建設会社等に勤務したが,昭和63年からは年金生活をしていた。第1審原告Bは,同Aの妻で昭和7年5月20日生まれである。第1審原告Aと同B夫婦(以下「AB夫婦」ともいう)は,本件騙取行為がなされた平成10年7月当時,仙台市G区にあ Aの妻で昭和7年5月20日生まれである。第1審原告Aと同B夫婦(以下「AB夫婦」ともいう)は,本件騙取行為がなされた平成10年7月当時,仙台市G区にある肩書住所地の自宅で2人暮らしをしており,第1審原告CはAB夫婦の長女で,当時は結婚して福島県いわき市の肩書住所地に居住していた。 (2) Dは,昭和63年ころから,簡易保険の勧誘や保険料の集金等を通じてAB夫婦と知り合い,次第に懇意となって第1審原告A方に出入りしていたが,平成9年11月中旬ころ,第1審原告Aから約120万円を借り受け,間もなく返済したということがあった。 (3) Dは,平成7年4月ころから,貸金業者のH(以下「H」という)等から借金を重ねるようになり,平成10年7月ころには,知人,金融業者等からの借金元利金合計が1億5000万円程度に達しており,借金の返済のために借金を重ねるという状態となっていた。 (4) Dは,同年7月10日,知人からの借金の返済に充てるため,7月22日に確実に返済すると告げて,Hから650万円(利息50万円を天引)を借り受けた。しかし,Dは,上記返済期限の同月22日,Hから同日中に必ず650万円を返済するように強く催促を受け,その返済資金の手当てができずに窮地に陥っていた。 (5) そこで,Dは,懇意にしているAB夫婦から,借金名下に金員を騙取することを思い立ち,同日午後3時30分ころ,制服姿で自家用車に乗 に窮地に陥っていた。 (5) そこで,Dは,懇意にしているAB夫婦から,借金名下に金員を騙取することを思い立ち,同日午後3時30分ころ,制服姿で自家用車に乗ってAB夫婦方を訪問し,勤務時間中に野球の試合の審判をしていたところ,バイクの荷物入れに入れていた顧客に届けなければならない満期保険金540万円がバイクごと盗まれ,本日中に顧客に保険金を届けなければ勤務先に発覚して免職になる旨虚偽の事実を申し向け,AB夫婦宅の電話を借用して知人等に金策のお願いをするような電話を何回もかけるふりをして,その金策が困難であるかのように装ったうえ,最後にAB夫婦にそのための資金を融通してくれるよう申し込んだ。AB夫婦は,Dの言動を真実と誤信したものの,そのような大金を所持していないとして,最初はDの申し込みを断ったが,Dから簡易保険の積立金を担保に借入れができる契約者貸付の方法があることを示唆され,2日後にDが契約している保険を解約して必ず返済すると言って懇願されたことや,金員の融通が公金の立替払いでもあることを考えて借入れに応じることにした。 そこで,第1審原告Bは,保険証書十数通を取り出して,Dに対しその中から借入れの可能な証書を選ぶようすすめたところ,Dは原判決別紙目録記載の簡易保険の証書5通を選び出し,自ら仙台中央郵便局に電話をして,同簡易保険証書を担保に合計700万円の借入れが可能であ すめたところ,Dは原判決別紙目録記載の簡易保険の証書5通を選び出し,自ら仙台中央郵便局に電話をして,同簡易保険証書を担保に合計700万円の借入れが可能であることを確認した。 そして,Dは,持参した業務用鞄の中から複写式の貸付請求書用紙(乙22の1ないし3と同様の書類で,1枚目が普通・振替貸付請求書(普通貸付金受領証,以下「貸付請求書」という)で簡易保険事務センター保管用のもの, 2枚目が貸付金払渡簿・振替貸付簿で郵便局保管用のもの,3枚目が貸付明細書で請求者保管用の3点セットとなっている)5通を取り出して,その各保険証書記号番号欄及び貸付金額欄に記入し(貸付金額の合計は540万円),第1審原告Aが住所氏名欄を記入して押印した。その際,第1審原告Aは,Dから委任状の作成を求められ,第1審原告B及び同Cの貸付金受領権限を同Aに授与する旨の委任状を作成した。 その後,Dは,満期保険金の届け先の顧客に電話するように装って,H宅に電話をかけ「これから遅くなるけれども届ける」旨の連絡をし,また,午後5時を過ぎていても仙台中央郵便局なら貸付が可能であるとAB夫婦に申し向けたうえ,局員である自分が窓口での借入手続をすることはできないのでAB夫婦のどちらかに一緒に行ってくれるよう依頼し,第1審原告Aが同行することになった。 (6) Dと第1審原告Aは,D運転の車で仙台中 ことはできないのでAB夫婦のどちらかに一緒に行ってくれるよう依頼し,第1審原告Aが同行することになった。 (6) Dと第1審原告Aは,D運転の車で仙台中央郵便局に向かったが,Dは,貸付金額が540万円ではHへの返済資金650万円に足りないので,Hへの返済額に近い額に数字を直そうと考え,その途中の車中で第1審原告Aに対し「直しますからね」と言って,第1審原告C名義の簡易保険を担保とする貸付請求書(原判決別紙目録5記載のもの,乙16)の貸付金額欄の数字を「50万円」から「130万円」に書き直した。 これにより,借入金額は合計620万円となった。 (7) Dと第1審原告Aは,同日午後5時ころ仙台中央郵便局に到着した。 同郵便局に着くと,Dは第1審原告Aに簡易保険の窓口を教え,契約者貸付による貸付請求をすることを指示した。第1審原告Aは,同窓口に簡易保険証書,貸付請求書各5通と委任状を提示した。同郵便局の窓口担当者Eは,敬老パスの提示を受けて第1審原告A本人であることを確認し,提出書類のチェックをした。その際,Eは,上記貸付請求書のうちの1通の金額が50万円から130万円に増額されていることに気づき,窓口の向かい側にあるソファーに座って待っていた第1審原告Aを呼んで訂正印の押捺を求め,また,委任状の記載にも誤りがあったので同様に訂正を求めた。第1審原告Aは,Dが計算間違いをしたものと考 告Aを呼んで訂正印の押捺を求め,また,委任状の記載にも誤りがあったので同様に訂正を求めた。第1審原告Aは,Dが計算間違いをしたものと考え,これに応じた(なお,第1審被告は,貸付請求書等について印もれはなかったと主張し,これに副う乙9,10,原審証人Eが存在するが,これらの内容は,訂正を求められたとする乙5,6,原審における第1審原告A本人尋問の結果と対比して採用できない)。 第1審原告Aが貸付請求の手続をとっている間,Dは,同郵便局の2階保険課事務室で時間をつぶしていたが,第1審原告Aが上記の訂正印を押捺して元のソファーに戻って待機しているころ,1階に降りて来て簡易保険窓口係のEと一言二言言葉を交わした。それから間もなく,第1審原告Aは窓口のEに呼ばれ,用意された現金620万円を受け取り,これを窓口付近でDに手渡した。その際,Dは,現金をいれる大きな封筒がないかEに尋ねていたが適当な袋がないようだったので,第1審原告Aが持参してきた袋をDに渡してやった。第1審原告Aは現金をDに渡すと1人で帰宅した。 Eは,第1審原告Aが契約者貸付の手続をとっている際に,同原告とDに面識のあることを知ったので,貸付金払渡簿・振替貸付簿(乙14)の摘要欄に「加英面識」と記載した。この「加英面識」という記載は局外貸付を担当した保険外務員と契約者貸付の申込みをした本人とが面識 貸付簿(乙14)の摘要欄に「加英面識」と記載した。この「加英面識」という記載は局外貸付を担当した保険外務員と契約者貸付の申込みをした本人とが面識のある場合に記載するものであり,窓口貸付の場合には本来記載する必要のない記載である。そこで,同郵便局保険課の上席課長代理の地位にあったFは,後日これを見咎めて上記の「加英面識」との記載を二重線で抹消し,「局外で手続するのを窓口に来局したもの」と朱書した。 なお,第1審原告Aは,窓口で貸付金を受領した際,金額がDの述べていた540万円より多い620万円であることに気づき,Dに対し「金額が多いのではないか,いくらなんだ」と尋ねたところ,Dは落ち着かない様子で「620万円である」と答えた。しかし,第1審原告AはDが計算違いをしたものと軽信し,それ以上問い質すことはしなかった。 (8) Dは,同日午後5時45分ころ,第1審原告Aから受け取った現金620万円を持参して車でH宅に赴き,前記借金の返済として交付した。 その後,Dは,AB夫婦宅を再訪し,第1審原告Bの用意した便せんを使用して,借入額を620万円,返済期限を同月24日までと記載した借用証書を作成し,これに指印してAB夫婦に交付した。Dは,同月24日AB夫婦宅を訪問し,「金の用意ができたので,保険証書を借りて返済の手続をします。保険証書は後で届けます」と言って,前記5通の簡易保険証書を預っ 4日AB夫婦宅を訪問し,「金の用意ができたので,保険証書を借りて返済の手続をします。保険証書は後で届けます」と言って,前記5通の簡易保険証書を預って帰っていった。しかし,Dは,上記620万円をAB夫婦に返済できるあてがなかったので,その後もその場しのぎの言い訳をしてその返済を引き延ばし,同月30日には第1審原告Aの要請で正式の金銭借用証書を差し入れた。 (9) 第1審原告Bは,同月31日,Dからこれまでのいきさつを聞いた同人の妻からの電話で,DがAB夫婦を騙して620万円を借り受け,これをサラ金への返済に充てたことを聞かされた。これを知った第1審原告Aが,Dの勤務先の仙台中央郵便局に事実関係の確認をしたことからDの騙取行為が発覚した。Dは,同年8月1日ころから行方をくらましていたが,同月7日までに,平成9年10月30日顧客の保険金1000万円を着服した容疑で逮捕され,平成10年8月7日仙台中央郵便局から懲戒解雇された。 (10) 本件訴訟において,第1審被告は,原審第2回口頭弁論期日に乙9(Eの供述調書)を提出したが,同供述調書の原本には添付書類として貸付金払渡簿・振替貸付簿(乙14)等が添付されていたのに,これをはずしたものを提出していたところ,捜査記録を謄写した第1審原告ら代理人が乙9の供述調書に上記添付書類が添付されていることを発見し,その中の貸付金払渡簿・振替貸付簿の摘要欄に「加英面 たところ,捜査記録を謄写した第1審原告ら代理人が乙9の供述調書に上記添付書類が添付されていることを発見し,その中の貸付金払渡簿・振替貸付簿の摘要欄に「加英面識」との記載,及び「局外で手続するのを窓口に来局したもの」との記載がなされていたので,添付書類の添付された同供述調書を甲7として原審第4回口頭弁論期日に提出した。また,同期日に第1審被告が提出した乙14(貸付金払渡簿・振替貸付簿の原本,当審第2回口頭弁論期日において留置)には,甲7では明確に記載されていた上記摘要欄の「加英面識」の「加」の字が削り取られて判読できない状態になっていた(第1審被告は,「加」の字が消えたのは「付箋をとるときに紙が剥がれたものであると弁解するが,紙面の外観上,砂消しゴム等で故意に抹消しようとしたことが明らかであり,第1審被告の弁解は到底採用できない)。 (11) 東北郵政局保険部長の郵便局長宛「保険犯罪の防止について(通達)」(乙12)の防犯要綱(集配局用)第二章「事務処理一般」の項目6によれば,職員は窓口において保険料等の支払請求及び保険料の払い込みをすることは禁じられており,窓口で職員から同請求等がされた場合,窓口担当者はいかなる事由があってもこれに応じてはならないとされている。そして,窓口担当者は,職員から支払請求等があった場合,速やかに管理者にその旨を報告することとされている。同項目7,8によれ とされている。そして,窓口担当者は,職員から支払請求等があった場合,速やかに管理者にその旨を報告することとされている。同項目7,8によれば,職員が申込書の契約者欄,各種請求書の住所氏名を代書することは一切認めないとされ,契約者等の認印はいかなる場合でも本人に押捺してもらうべきこととされている。 また,東北郵政局保険部長の郵便局長宛「局外において保険契約に関する各種請求を受けた場合の取扱いについて(通達)」(乙13)並びに弁論の全趣旨によれば,外務職員が局外で顧客から契約者貸付の依頼を受けること自体は禁じられていないが,その場合,当該外務員は顧客から貸付請求書,保険証書及び委任状の交付を受け,受付証(控え)を顧客に交付し,これらの書類を保険課の内部職員に引き継ぎ,内部職員において保険課長の決裁を経て貸付を実行するとされている。 2 以上の事実を前提に,Dが第1審原告らに加えた損害が,民法715条1項の「被用者がその事業を執行するにつき第三者に加えた損害」に該当するかどうかについて判断する。 民法715条1項の「事業の執行につき」とは,被用者の職務の執行そのものに属する行為のほか,外形上,その職務の範囲内の行為に属するものと見られるものを含むものと解すべきである(最高裁判所昭和30年(オ)第29号,同32年7月16日第三小法廷判決・民集11巻7号1254頁,同32年(オ)第281号,同36年6月9日第二小法廷判決・民集15巻6号1546 判所昭和30年(オ)第29号,同32年7月16日第三小法廷判決・民集11巻7号1254頁,同32年(オ)第281号,同36年6月9日第二小法廷判決・民集15巻6号1546頁等参照)。そこで,Dの本件騙取行為が,この観点からみて,仙台中央郵便局の保険外務員の職務に該当する行為といえるかどうかについて検討する。 前記認定の事実によれば,Dは,自己が業務上保管していた金員が盗まれ,これが勤務先に発覚すると免職になるので,同被害金額を秘密裏に填補するための資金が必要であるとして,AB夫婦に借入れを申し込んで合計620万円を借り受け,その旨を記載した借用証書を作成交付したというものであるから,この点のみに着目すれば,Dが第1審原告らから620万円を借り入れた行為は,Dと第1審原告らとの個人的な金銭貸借関係にほかならず,これがDの職務行為そのものに該当しないことはもとより,外形上も職務行為に該当する行為と見ることは困難である。 しかしながら,Dによる本件騙取行為は,Dの第1審原告Aらからの620万円の金銭借入行為だけで評価し尽くせるものではない。すなわち,Dの行為を全体として外形的に観察すれば,仙台中央郵便局の保険外務員であるDの依頼により,本来郵便局(国)が顧客に交付すべき満期保険金の支払いに充てるための公的資金を,Dに対する私的な貸付行為という形式をとって,Dに交付したものと評価しうる側面があるから,これを単純に私的貸付行為と見ることは相当ではない。したがって,この観点からみると,Dが第1審原告Aから620万円を借り受けた行為は,実質的には郵便局職員が公的資金を一時捻出すると 純に私的貸付行為と見ることは相当ではない。したがって,この観点からみると,Dが第1審原告Aから620万円を借り受けた行為は,実質的には郵便局職員が公的資金を一時捻出するという職務に関する行為としての一面があるというべきである。そして,特に,その資金の捻出に関しては,高齢の第1審原告Aらが手許にまとまった資金を有していなかったため,Dにおいて,第1審原告Aらが契約している簡易保険の積立金を担保にした契約者貸付の方法による資金の捻出方法を教示したうえ,その指示に基づいた第1審原告らが契約者貸付の方法によって,郵便局から借り受けさせた金員をDに交付するという方法が取られているのであって,しかも,その契約者貸付の実態は,Dにおいて必要書類等をすべて整えて,保険証書の記号番号欄及び貸付金額欄等の重要部分を自ら記入し,第1審原告Aらを手足のように利用して手続を進めたうえ,Dにおいて保険契約者本人である第1審原告Aを仙台中央郵便局の窓口に連れて行って,形式だけ同人に貸付手続をとらせるという窓口貸付の方法をとったものである。したがって,本件契約者貸付は,本人である第1審原告Aが直接窓口において行った窓口貸付の形をとってはいるが,その実態はDが契約者本人に代わって手続を実行した局外貸付と同視すべきものである。したがって,本件契約者貸付はDが郵便局職員の職務として行った行為と評価するのが相当である。 そうすると,本件は,Dが同郵便局の保険外務員としての立場を利用して,長年にわたって形成された第1審原告Aとの信頼関係のもと,郵便局の契約者貸付という制度を悪用して調達された金員を,第1審原告Aから騙取 Dが同郵便局の保険外務員としての立場を利用して,長年にわたって形成された第1審原告Aとの信頼関係のもと,郵便局の契約者貸付という制度を悪用して調達された金員を,第1審原告Aから騙取したというものであり,D主導による局外貸付という方法によらなければ,これに引き続いた貸付金騙取という不法行為も発生しなかったものであって,保険外務員制度,契約者貸付制度といった郵便貯金事業にとって不可欠な制度に対する信頼を中核としている点において,Dの行為は,これを外形的,全体的にみれば,使用者たる仙台中央郵便局の事業の範囲内に属する,職務と密接な関係を有する行為と評価すべきものである。 なお,本件契約者貸付は,顧客である第1審原告Aが既に記載事項の書き込みを完了した貸付請求書用紙を持参して窓口請求をした事案であり,乙14の貸付金払渡簿・振替貸付簿の摘要欄に仙台中央郵便局の簡易保険の窓口係のEが「加英面識」との記載をしていること,Eの上司であるFが,上記の「加英面識」との記載を二重線で抹消し「局外で手続するのを窓口に来局したもの」との記載を附記していることからみて,本来局外貸付の手続をとるべき事案であったと解すべきものである。特に,本件契約者貸付の手続中,Dが窓口係のEと会話を交わしていること,本件契約者貸付に使用された書類に押捺されている印影が委任状の印影を含めて全部同一であったり(乙15ないし19),金額欄が書き替えられているなど慎重に手続を進めるべき状況が認められるのに,Eがこの点について第1審原告Aに質問をした形跡のないこと等に照らすと,Dが本件契約者貸付の際に窓口係のEに何らかの影響力を与え ているなど慎重に手続を進めるべき状況が認められるのに,Eがこの点について第1審原告Aに質問をした形跡のないこと等に照らすと,Dが本件契約者貸付の際に窓口係のEに何らかの影響力を与えた事実が強く推認できるというべきである。したがって,本件契約者貸付は,少なくとも局外貸付の実態を有するものであることは明らかというべきである。 ところで,第1審被告は,以上の点に関して,Dが契約者貸付の手続に実質的に関与した事実はない,仮にあるとしても補助的で些末な関与にすぎないと主張し,乙14の「加英面識」の記載は,後日書類の不備があった場合の訂正の必要等が生じた場合に備えた念のための記載であり,格別の意味はない,保険外務員が面識のある顧客から局外貸付を受けた場合には,窓口係が貸付金払渡簿・振替貸付簿の摘要欄に面識の事実を記載するのではなく,保険外務員において普通貸付請求書の摘要欄に「面識」と記載して押印する取り扱いとなっていると主張する。そして,乙20(Eの陳述書)には,保険外務員が面識のある顧客から局外貸付を受けた場合には,同保険外務員において,普通貸付請求書の摘要欄に「面識」と記載して押印する取り扱いとなっているとする,第1審被告の主張に副う部分がある。しかしながら,乙20に記載されているような実務慣行が厳守されていたことを裏付ける証拠はなく,たやすく採用できない。また,窓口貸付をした場合に訂正の必要が生じたのであれば,直接請求者本人に連絡をとればすむことであるから,Eが述べるような理由だけで「加英面識」なる記載をする必要性を認め難いというべきである。したがって,「加英面識」なる記載は,Eが, 求者本人に連絡をとればすむことであるから,Eが述べるような理由だけで「加英面識」なる記載をする必要性を認め難いというべきである。したがって,「加英面識」なる記載は,Eが,本件契約者貸付がDの関与した局外貸付の事案であることを認識したので,その事実を記載したものと見るのが相当である。 また,Eは,本件契約者貸付の手続を取っている間,第1審原告AとDが窓口向かい側のソファーで待機して親しそうに談笑し,その間,Dと会話したのは,DがEのところに来て「まだですか」と声をかけたのと,貸付金を受取りに窓口に来たときに「大きな袋あげてください」と言われたことの2回だけであり,本件契約者貸付の手続中にDの関与がなかったように供述をするが(乙9,10,20,原審証人E),その内容はD及び第1審原告Aが供述する当時の状況と大きく食い違っているうえ(乙2ないし6),前記認定の第1審被告の応訴態度等に照らして到底信用できない。 3 次に,第1審被告は,Dとの620万円の貸借行為がDの職務執行行為に該当しないことについては,第1審原告らとしては容易に知り得た事実というべきであるから,この点につき第1審原告らには重過失があると主張する。そして,被用者のなした行為が,その行為の外形からみて,使用者の事業の範囲内に属するものと認められる場合でも,その行為が被用者の職務権限内において行われたものではなく,しかも,その行為の相手方がこの事情を知り,また少なくとも重大な過失によりこの事情を知らないで,当該取引をしたと認められるときは,その行為に基づく損害は事業の執行につき加えた損害とはいえず,行為の相手方は保護を り,また少なくとも重大な過失によりこの事情を知らないで,当該取引をしたと認められるときは,その行為に基づく損害は事業の執行につき加えた損害とはいえず,行為の相手方は保護を受けることはできないと解されている(最高裁判所昭和39年(オ)第1103号,同42年11月2日第一小法廷判決・民集21巻9号2278頁参照)。しかしながら,本件においては,前記認定のような本件騙取行為に至る経緯,態様及び手段,特にDが保険外務員という地位を利用して長年にわたって形成してきた第1審原告AとDとの信頼関係を考慮すると,Dの一連の行為が職務と関係のない行為であると認識できなかったことに重大な過失があったなどと認めることはできない。したがって,第1審被告の主張は採用できない。 以上によれば,第1審被告は,民法715条1項により,第1審原告らが被った620万円の損害を賠償する責任があるというべきである。そして,前記「前提となる事実」によれば,同損害賠償請求権と本件契約者貸付にかかる各貸金債務とを対当額で相殺したことが認められるから,第1審原告らが第1審被告に対して負担する各貸金債務は存在しないものと解すべきである。 4 そうすると,その余の点について検討するまでもなく,第1審原告A及び同Bの本訴請求を棄却した原判決は不当であるから,原判決中,同人らに関する部分を取り消し,同人らの上記請求を認容すべきであり,第1審原告Cの本訴請求を認容した原判決は結論において正当であって,第1審被告の本件控訴は理由がないからこれを棄却すべきである。 よって,訴訟費用の負担につき,民事訴訟法67条1項,2項,61条を適 請求を認容した原判決は結論において正当であって,第1審被告の本件控訴は理由がないからこれを棄却すべきである。 よって,訴訟費用の負担につき,民事訴訟法67条1項,2項,61条を適用して,主文のとおり判決する。 仙台高等裁判所第三民事部裁判長裁判官喜多村治雄裁判官小林崇裁判官片瀬敏寿

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