平成17(わ)757 有価証券虚偽記入・同行使(変更後の訴因 有価証券偽造・同行使),恐喝被告事件

裁判年月日・裁判所
平成20年6月23日 大阪地方裁判所
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判決文本文31,553 文字)

主文 被告人を懲役2年に処する。 この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。 訴訟費用のうち,その2分の1を被告人の負担とする。 本件公訴事実中恐喝の点については,被告人は無罪。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,医療法人社団A1会理事B1から,同人が株式会社Cに割引目的で交付した医療法人社団A1会理事長B2名義の約束手形の回収を依頼され,これを回収したものであるが,回収した約束手形のうちの1通について,その振出人欄に「医療法人社団A1会理事長B2」との記入及び同法人印の捺印があり,金額欄,受取人欄及び支払期日欄等が白地であることを奇貨として,上記手形の各白地欄に金額等を記入して約束手形を偽造した上,銀行に取立てを依頼することを企て,平成14年6月17日,大阪市所在の株式会社D1事務所において,行使の目的で,ほしいままに,情を知らない同社従業員E1をして,上記手形の金額欄にチェックライターで「¥300,000,000※」と印字させ,受取人欄に「被告人」,振出日欄に「14 20」,支払期日欄に「14 19」と記入させ,もって,医療法人社団A1会理事長B2振出名義の約束手形1通を偽造した上,同日午後3時14分ころ,大阪市所在の株式会社F1銀行F2支店において,情を知らない株式会社D1従業員をして,同支店行員に対し,あたかも上記手形が真正であるもののように装って取立方を依頼し,上記偽造に係る上記手形1通を提出行使したものである。 (争点に対する判断)第1章 争点 第1節本件公訴事実(第1については訴因変更後のもの)の要旨は,「被告人は,医療法人社団A1会A2病院理事B1から,同人が金融ブローカーに割引目的で交付した同法人名義の約束手形の回収を依頼され,これを回収したものであるが,回収した約束手形のうちの1通の振出人 「被告人は,医療法人社団A1会A2病院理事B1から,同人が金融ブローカーに割引目的で交付した同法人名義の約束手形の回収を依頼され,これを回収したものであるが,回収した約束手形のうちの1通の振出人欄に医療法人社団A1会理事長B2との記入及び同法人印の捺印があり,金額欄,受取人欄及び支払期日欄が白地であることを奇貨とし,上記手形の各白地欄に金額等を記入して約束手形を偽造した上,これを取立てに回し,資金不足による不渡処分を恐れた同法人から金員を喝取しようと企て,第1平成14年6月17日ころ,大阪市所在の株式会社D1事務所において,行使の目的で,ほしいままに,情を知らない同社従業員E1をして,上記手形の金額欄にチェックライターで「¥300,000,000※」と印字させ,受取人欄に「被告人」,振出日欄に「14 20」,支払期日欄に「14 19」等と上記手形に記入させ,もって,医療法人社団A1会理事長B2振出名義の約束手形を偽造した上,同日午後3時14分ころ,大阪市所在の株式会社F1銀行F2支店において,情を知らない上記株式会社D1従業員をして,同支店行員に対し,あたかも上記手形が真正であるかのよう装って取立方を依頼し,上記偽造に係る上記手形1通を提出行使し,第2同月19日午前11時ころ,群馬県太田市所在の医療法人社団A1会A2病院理事長室において,同法人理事長B2に対して,「もう手形のことはわかっているだろうけど,手形を依頼返却して欲しかったら,3億円を支払うことを約束しろ。小切手を出せ。わしの言うことを聞けないなら,依頼返却はできん。手形が決済できないということは,どういうことになるかわかってるだろう。3億円は小切手でもいいが,現金もいくらか必要だ」などと申し向けて小切手及び現金を要求し,もしその要求に応じなければ,上記 ん。手形が決済できないということは,どういうことになるかわかってるだろう。3億円は小切手でもいいが,現金もいくらか必要だ」などと申し向けて小切手及び現金を要求し,もしその要求に応じなければ,上記手形を依頼返却せず,そのため同手形が資金不足を理由として不渡処分になることにより同法人の信用を失墜させるとともに財産上の損害等を加えかねない気勢を示して,同人をその旨畏怖困惑させ,即時同所において,上記B2から同法人振出に係る小切手3通(額面金額合計2億9000万円)の交付を受け,さらに,平成14年7月12日午後1時ころ,上記B2から指示を受けた同法人職員をして被告人の管理する大阪市所在の株式会社G1銀行G2支店のH名義の普通預金口座に現金1000万円を振込入金させて,もって,人を恐喝して財物を交付させた」というものである。 第2節被告人,弁護人の主張は,要するに次のとおりである。 (1)有価証券偽造,同行使罪について被告人は,医療法人A1会A2病院理事長のB2から包括的な手形小切手の振出しの権限,あるいは「医療法人A1会理事長B2」の名称を用いて小切手,手形の振出しを含む各種文書を作成するいわゆる署名代理の権限を与えられていた同理事B1から,平成14年6月12日,本件白地手形につき,「金額を3億円,支払期日を平成14年6月19日,受取人を被告人」と補充することにつき了解を得た。その上で,被告人は,平成14年6月12日にB1の目の前で支払期日欄に「14 19」と記入した。さらに,被告人は,同月17日,B1に対して,本件白地手形を取立てに回す旨明言し,B1の了解を得た上,E1に指示して,金額欄に「¥300,000,000※」と印字させ,受取人欄に「被告人」,振出日欄に「14 20」と記入させたものである。したがって,被告人に有価証 明言し,B1の了解を得た上,E1に指示して,金額欄に「¥300,000,000※」と印字させ,受取人欄に「被告人」,振出日欄に「14 20」と記入させたものである。したがって,被告人に有価証券偽造罪は成立せず,本件手形は偽造されたものではないから偽造有価証券行使罪も成立しない。 仮に,B1に手形小切手振出しの権限がなかったとしても,被告人は,B1に権限がないとは認識していなかったのであるから,被告人に有価証券偽造罪,同行使罪の故意はない。 (2)恐喝についてA1会は,被告人に対して3億円の支払義務があったところ,平成14年6月19日,そのA1会の債務につき,被告人とB2との間で支払方法について合意がなされ,その合意に基づき,B2から被告人に対して本件小切手3通の交付がなされたにすぎず,被告人は脅迫などしていないし,A1会に被害は生じていない。また,平成14年7月12日のA1会から株式会社G1銀行G2支店のH名義の普通預金口座への現金1000万円の振込みは,A1会が振り出していた手形の回収を依頼されていた被告人が,そのための費用としてA1会から送金してもらったものであり,上記の合意とは関係ない。 第2章検討の前提となる事実関係第1節関係者の立場等(1)被告人被告人は,医療機器の輸出入等を業とする株式会社D1の実質的経営者であったが,その他,複数の会社や医療法人等にも関係しており,医療法人D2会も被告人が実質的に経営していた。I1は被告人の甥である。 (2)医療法人社団A1会A1会は,病院及び老人保健施設の経営等を目的及び業務とする医療法人社団であり,群馬県太田市でA2病院等を経営していた。A1会の定款では,役員として,一人の理事長を含む3名以上6名以内の理事及び監事1名を置くこととされ,理事長のみがA1会を代表し,理 する医療法人社団であり,群馬県太田市でA2病院等を経営していた。A1会の定款では,役員として,一人の理事長を含む3名以上6名以内の理事及び監事1名を置くこととされ,理事長のみがA1会を代表し,理事はA1会の常務を処理すると定められていた。 B2は,A1会の理事長,かつ,A2病院の病院長であった。B1は,平成15年7月1日に退任するまでA1会の理事であり,経理を担当して,A1会やB2個人の預金を管理していた。 (3)株式会社J株式会社Jは,旅館や老人ホームの不動産を所有し,系列会社に旅館や老人ホームの経営をさせていた。K1がJの代表取締役である。K2は,同社の取締役に就任して,債務整理,資金調達の仕事をしていた。Jは,債務の履行が困難になっており,その所有物件につき,競売開始決定がなされている状況であった。 なお,Jは,被告人が実質的に支配しているD2会やその関係者から融資を受けたことがあるが,そのことから被告人とトラブルになったことがあった。 第2節本件白地手形が作成された経緯等以下,平成14年の出来事については暦年の記載を省略する。 (1)K2は,Jに出資してくれる者を探していたところ,スポンサーとして,金融,不動産ブローカーのLからA1会を紹介され,1月初めころ,B1と会った。 (2)K2は,B1に対して,静岡地方裁判所沼津支部において競売開始決定がされていた,Jが所有する老人ホームMの物件をA1会が金を出して競落する話を持ちかけた。B1が,B2にそのことを相談したところ,介護付き老人ホームの経営に興味を持っていたB2は,その話を了承した。 (3)Mは株式会社N1が経営していたものである。K2やB1は,A1会が定款上直接老人ホームの経営をすることができないことから,N1がMの物件を買い受けた上で,N1の経営権をA1会側が 了承した。 (3)Mは株式会社N1が経営していたものである。K2やB1は,A1会が定款上直接老人ホームの経営をすることができないことから,N1がMの物件を買い受けた上で,N1の経営権をA1会側が譲り受けることにした。2月22日には,B1がN1の代表取締役に就任し,B2とO(B2及びB1と中学校の同級生)がその取締役に就任した。 (4)1月8日,A1会から,Jの関連会社でありK2が代表取締役であった株式会社P(Mに隣接する旅館であるPを経営していた)の銀行口座に6000万円が振り込まれた。この6000万円については,翌9日,J及び株式会社Pが連帯してA1会から借り受ける旨の金銭消費貸借質権設定契約公正証書が作成された。 同日,N1は,Mの3階から9階部分等につき,競売裁判所に対し2107万4000円の保証を提供して,入札価格1億7107万4000円で買受を申し出た。その保証の提供には上記6000万円の一部が用いられた。 同月16日の開札の結果,1億8510万円の価額で入札したD2会が最高価買受申出人と定められ,同月23日,D2会に対する売却許可決定がなされた。一方,N1は次順位買受申出の資格があったため,保証の返還は受けず,開札期日に次順位買受申出をした。K2は,被告人と交渉して,この物件の買受けから手を引いてもらおうと考えていた。 (5)Mの残りの1階及び2階部分についても競売開始決定がなされていたが,K2は,この物件についても被告人側が最高価買受申出人となることを妨害するため,実際に買い受ける意思はないにもかかわらず,2月6日,740万4000円の保証を提供した上で,入札価格5億円という破格の額での買受の申し出を行った。これに際しては,同日,A1会の銀行口座からK2の口座に750万円が,Pの口座に2250万円が振り込まれており, 000円の保証を提供した上で,入札価格5億円という破格の額での買受の申し出を行った。これに際しては,同日,A1会の銀行口座からK2の口座に750万円が,Pの口座に2250万円が振り込まれており,K2は,その振り込まれた3000万円の一部を使って,上記保証の提供を行ったものである。 (6)一方,K2は,Lの発案で,Jが所有し,競売開始決定を受けているMやP等の物件を安く取得した上で,その転売益や運用益の配分利益を受ける権利を証券化し,その証券を投資家に売って資金を集め,その資金によってJの債務を整理するという計画(いわゆる証券化スキーム)を進めていた。B1もこの計画に加わることとし,不動産の所有権取得の主体として,A1会の関連会社である有限会社Q食品を用いることになった。 3月か4月ころ,B1はB2に証券化スキームのことを話したが,B2は,その計画に加わることに反対し,B1に対し,手を引くよう言った。しかし,B1は,A1会やB2が資金を提供するわけではないなどと述べ,証券化スキームから手を引くことはなかった。 (7)Mだけでなく,Pの不動産も競売開始決定を受けていたものであるが,これについても,被告人が関係する医療法人社団D3会が最高価買受申出人となり,4月17日,売却許可決定を受けた。K2は,このままでは,証券化スキームが立ち行かないことになると考え,被告人と交渉して,M及びPから手を引いてもらおうと考え,5月3日ころ,被告人と会った。交渉の結果,被告人は,3億円の支払いを受けることで,M及びPから手を引くことを了承した。 B1は,K2から被告人との交渉の結果を聞き,A1会を振出人とする金額合計3億円の約束手形を被告人に交付することを了承した。B1は,医療法人社団A1会理事長B2振出名義の約束手形4通(金額7500万円のもの1通, 被告人との交渉の結果を聞き,A1会を振出人とする金額合計3億円の約束手形を被告人に交付することを了承した。B1は,医療法人社団A1会理事長B2振出名義の約束手形4通(金額7500万円のもの1通,金額1億円のもの2通,金額2500万円のもの1通)を作成したが,B2には了解を得なかった。 (8)5月9日,K2は,被告人に会い,上記4通の約束手形を渡そうとしたが,被告人は,金額2500万円の手形1通のみを受け取り,その他の3通については受け取らなかった。その際,被告人は,K2宛の「2500万円の約束手形をK2の事業に協力する費用として仮に受け取り,約束手形が現金化された時点において,それを内入としてK2の事業に全面協力し,約束手形を現金化せず,返納すれば協力関係は解消する」旨の記載のある「証」と題する書面を作成し,K2に交付した。 (9)一方,B1は,証券化スキームにより金が入ってくるまでのつなぎの資金を得るために,Lを通じて紹介を受けた株式会社Cに約束手形の割引を依頼することとし,5月9日ころ,受取人,支払期日,金額,振出日が記載されていない,振出人欄に「医療法人社団A1会理事長B2」と記載され,A1会の銀行印が押印された白地手形3通(B534247ないしB534249)及び振出人欄に「医療法人社団A1会理事長B2」と記載され,A1会の銀行印が押印された受取人欄白地の金額合計4億7500万円の約束手形30通を作成し,C側に預けた。その際,B1は,(i)C宛の「Cに資金繰りを依頼して約束手形3通を渡し,額面を白地にしておいたので融資実行のときにはCにおいて額面記入することを承諾する」旨の医療法人社団A1会常務理事B1名義の平成14年5月7日付け承諾書,(ii)「Cに資金繰りを依頼して約束手形30通を渡す」旨の医療法人社団A1会常務理事 はCにおいて額面記入することを承諾する」旨の医療法人社団A1会常務理事B1名義の平成14年5月7日付け承諾書,(ii)「Cに資金繰りを依頼して約束手形30通を渡す」旨の医療法人社団A1会常務理事B1名義の平成14年5月9日付け承諾書を作成して交付した。その際,B1は,各承諾書に,B1と刻された印鑑のほか,A1会の銀行印を押印した。B1は,以上の各手形の作成やCに対する交付,各承諾書の作成について,B2の了承は得なかった。 また,B1は,B2に無断で,平成14年5月15日付けで株式会社CR1宛の「A1会がCに預けた約束手形につき,期日に決済できない場合は,診療報酬を担保として,譲渡することに同意する」旨の医療法人社団A1会理事長B2名義の同意書も作成している。 第3節被告人が本件白地手形を手に入れるに至った経緯(1)5月10日ころ,B1は,Cの取締役であるR2の紹介で被告人と会い,その後,頻繁に会うようになった。 被告人は,MとPの物件の取得から手を引くことの見返りである3億円につき,B1と交渉し,うち1000万円については5月22日に,うち1500万円について同月30日に支払うとの話も出たが,それらが支払われることはなかった。被告人が受け取っていた金額2500万円の約束手形の支払期日は5月22日とされていたが,B1が被告人に支払いを待ってほしいと頼んだところ,被告人はこれを承諾し,その約束手形の取立てを依頼することはなかった。 (2)5月30日,東京都内のホテルで,被告人,B1及びE1により,「(i)N1が3億円を支払うことにより,D2会がMの3階から9階部分等の落札権を放棄する,(ii)その3億円の支払いが完全になされた時点で,D2会及び被告人は,Pの競売落札決定者(D3会)のすべての権利(代金納付による物件取得権)及びJ及 会がMの3階から9階部分等の落札権を放棄する,(ii)その3億円の支払いが完全になされた時点で,D2会及び被告人は,Pの競売落札決定者(D3会)のすべての権利(代金納付による物件取得権)及びJ及び株式会社Pに対する全ての請求権(訴訟中のものを含む)を放棄,取下げする,(iii)N1のD2会への3億円の支払いが完了するまで,D2会に対して,N1の株式の51パーセントを担保として譲渡し,また,D2会の指定する取締役3名,監査役1名を就任させる,(iv)3億円の支払期日は,平成14年5月22日に1000万円,同月30日に1500万円,同年6月30日に9200万円,同年7月10日に9200万円,同月30日に9100万円とする」などとの内容の,株式会社N1代表取締役B1,医療法人D2会理事長S,医療法人社団A1会理事長B2,B1及び被告人名義の同日付け確約書が作成された。 5月31日,被告人の関係者であるHがN1の代表取締役に,Tが取締役にそれぞれ就任した。 (3)Mの3階から9階部分等についてのD2会に対する代金納付期限は5月10日午後3時と定められていたが,D2会は裁判所に代金納付期限延期願いを提出し,同月31日午後3時まで代金納付期限が延期されていた。 D2会は,その期限までに代金を納付しなかったため,D2会に対する売却許可決定は失効し,6月10日,売却許可決定期日が同月19日と指定されて,次順位買受申出人であるN1に通知された。同月19日,N1に対する売却許可決定がなされた。 (4)6月5日,B1及び被告人により,「平成14年5月30日付け確約書についての暫定的取り決めとして,(i)B1は契約残金の2億7500万円の支払いにつき,9200万円については平成14年6月30日に支払い,残金1億8300万円についてはA1会発行の約束手形を 約書についての暫定的取り決めとして,(i)B1は契約残金の2億7500万円の支払いにつき,9200万円については平成14年6月30日に支払い,残金1億8300万円についてはA1会発行の約束手形をB1(「被告人」の誤記と認められる)に交付する,(ii)その間,B1は,N1の株式の譲渡及び取締役の変更手続を行う,(iii)2億7500万円の支払が完了した時は,変更した株式及び取締役を被告人は元に戻す」などとの内容の,被告人及びB1名義の平成14年6月5日付け追加契約書が作成された。同追加契約書内には,B1が,A1会,(株)N2・N3,(株)J,(株)P等の代理人であり,被告人がD2会の代理人である旨の記載がある。 (5)B1は,Cに預けた約束手形の割引がなかなか実現しないことから,手形を騙し取られたのではないかとの疑いを抱き,6月4日ころ,被告人にその約束手形の回収を依頼した。被告人は,これを引き受け,約束手形の回収にとりかかった。 (6)そのころ,B2は,A1会のメインバンクであるU1銀行U2支店の担当の行員から,「A1会の手形を持った人から,その手形が決済できるかというような照会があったと他行から聞いたが,そんな手形を出しているのか。理事長,知っているのか」という電話を受け,心当たりはなかったので,B1に確認した。B1は,証券化スキームを進めていく中で,J側が被告人に支払う3億円を代わりに支払う約束をし,その金を作るために手形を使おうとしたところ,金額合計4億7500万円の手形及び白地手形3通をCのR2に取られたと事情を説明した上,「それらの手形は騙し取られたものだから,A1会が決済する義務はない」と言い,また,「その回収を被告人に頼んでいる」と述べた。 B2は,B1と共に,U1銀行U2支店に行き,「手形はB1が騙し取られたも れらの手形は騙し取られたものだから,A1会が決済する義務はない」と言い,また,「その回収を被告人に頼んでいる」と述べた。 B2は,B1と共に,U1銀行U2支店に行き,「手形はB1が騙し取られたものであり,支払いの義務はないと承知している,その手形については信用できる人に回収を頼んでいる」などと説明した。その際,B2は,手形帳を銀行に返した。 (7)6月12日ころ,B1がCに預けた手形のうち,白地手形3通及び金額2000万円で支払期日平成14年8月31日のもの2通が,Cから被告人に引き渡された。 第4節本件白地手形の取立依頼及び依頼返却(1)6月12日,D1事務所において,被告人は,上記5通の手形のうち,白地手形1通(B534248)を除く4通をB1に渡した。 同日,同所において,B1とE1は,被告人立会のもとで,「(i)B1をA1会,N1(代表取締役B1),(株)J,K1,(株)P及びK2等の代理人とし,E1をD2会,D3会,N1(代表取締役H)及び被告人の代理人とする,(ii)B1がE1に払う金額を3億円とし,支払期日は,平成14年5月22日に1000万円,同月30日に1500万円,同年6月30日に9200万円,同年7月10日に9200万円,同月30日に9100万円とする,(iii)M及びPの競落代金払い込みはB1が行う」などとの内容の6月12日付け覚書を作成した。 (2)6月17日午後3時14分ころ,被告人の指示に基づき,D1の従業員により,株式会社F1銀行F2支店に対して,被告人がB1に返さなかった上記白地手形(B534248)の取立依頼がなされたが,その際,同手形には,金額欄にチェックライターで「¥300,000,000※」と印字され,受取人欄に「被告人」,振出日欄に「14 20」,支払期日欄に「14 19」, の取立依頼がなされたが,その際,同手形には,金額欄にチェックライターで「¥300,000,000※」と印字され,受取人欄に「被告人」,振出日欄に「14 20」,支払期日欄に「14 19」,第1裏書人欄に「14 大阪市被告人」,第2裏書人欄に「14 大阪市株式会社D1代表取締役E2」と記載されていた。 (3)6月18日の午後,E1は,被告人の指示により,株式会社F1銀行F2支店において,上記約束手形の返却依頼の手続を行った。この手形の返却依頼があったことについては,同支店から,翌19日午前9時14分に東京手形交換センターに連絡され,午前10時15分ころ,支払地交換銀行の代表銀行であるV1銀行V2支店に依頼返却の手続の依頼がなされ,午前10時50分ころ,V1銀行からU1銀行U2支店に依頼返却の連絡がなされ,午前11時40分ころ,V1銀行V2支店から,東京手形交換センターに依頼返却手続が終了したとの連絡があったという経過がある。 第5節6月19日の状況6月19日の昼ころ,A2病院の理事長室において,被告人とB2は,「(i)A1会は,被告人に対して,3億円を,N1の利用権の販売及びPの売却による利益を充当して支払うが,最終支払期までに充当できなかった場合は,A1会が責任をもって支払うことを確認する,(ii)そのA1会の義務を担保するために,A1会は,自己振出の平成14年7月31日付け金額9000万円の小切手,平成14年8月31日付け金額1億円の小切手及び平成14年9月31日付け金額1億円の小切手を被告人に支払う,(iii)平成14年6月19日,A1会は,被告人に対して,3億円の内金1000万円を送金にて支払う」ことなどを内容とする被告人及び医療法人社団A1会理事長B2名義の覚書を作成した。B2は,覚書の内 iii)平成14年6月19日,A1会は,被告人に対して,3億円の内金1000万円を送金にて支払う」ことなどを内容とする被告人及び医療法人社団A1会理事長B2名義の覚書を作成した。B2は,覚書の内容どおりの金額合計2億9000万円の小切手を被告人に交付した。 第6節A1会から被告人に対する1000万円の支払い7月12日,A1会から,被告人が管理するG1銀行G2支店に開設されたH名義の口座に1000万円が振り込まれた。 弁護人の主張(1)弁護人は,B2はA1会がK2らの証券化スキームに加わることに賛成していた旨主張している。 アB1及びB2は,公判において,B2は証券化スキームには反対だったが,B1が「B2やA1会が金を出すわけではない」などと説明し,資金の提供を求めなかったことから,B1が証券化スキームに加わることを黙認することになったと述べ,両名の供述はほぼ一致している。 イ弁護人は,2月14日にQ食品がK1の自宅であるいわゆるW御殿の土地建物を購入する契約を締結し,その後,A1会が出捐してその代金等が支払われたこと,その代金支払のために融資をしてくれたX株式会社にA1会振出名義の約束手形が交付されていることなどを指摘するが,そもそもW御殿が証券化スキームの対象物件であったか判然としない。B2は,A1会としての資金の出捐について知らなかった旨供述し,B1は,手形の交付は,B2に無断でやった旨供述していることに照らせば,弁護人が主張する事実を考慮しても,上記B2及びB1の供述が信用できないということにはならない。 ウまた,弁護人は,K2が,公判において,3月か4月ころ,B2から証券化スキームをよろしくと言われたことがあると供述している点を指摘しているが,競売に失敗したことなどをB2に謝罪した際に「競売のスキームでも何で は,K2が,公判において,3月か4月ころ,B2から証券化スキームをよろしくと言われたことがあると供述している点を指摘しているが,競売に失敗したことなどをB2に謝罪した際に「競売のスキームでも何でも, ともかく仕上げてくれよ」と言われたような覚えがある旨のK2の供述は,B2の発言内容についてあいまいで,B2がどういう意図で発言したかも判然としないものである。 エその他の弁護人が指摘する点を検討しても,B2がA1会として証券化スキームに加わることを了承していたことをうかがわせる事情は認められず,弁護人の主張は採用できない。 (2)弁護人は,B2は,Cに手形割引のために約束手形を預けることを了承していたと主張する。 アB2及びB1の供述は,約束手形の作成やCへの交付がB2の了承を得ずに行われたものであるという点で一致しているし,U1銀行U2支店からの問い合わせにより,B1による無断での約束手形の作成やCに対しての交付が発覚し,手形帳を銀行に返還することになった点についての供述内容は具体的である。また,約束手形の交付の際作成された各承諾書が,代表権のない常務理事B1名義で作成されていることに加え,その際,B2がB1に委任したことを示す委任状等が示された形跡がないことは,B2及びB1の供述に符合するものである。 イ一方,R1は,公判において,「B1が金額の入った手形30通くらいを預かった際,B2と電話で話し,金額合計4億7500万円の手形を間違いなく振り出すか聞いたところ,B2から「B1に任せているので,B1と相談してやってくれ」と言われた」旨供述している。 しかしながら,R1はその検察官調書(甲26)においては,「金額の入った手形30通と白地手形3通は一緒に預かった」旨供述していたのに対し,公判では,「まず,金額の入った手形30通くら 供述している。 しかしながら,R1はその検察官調書(甲26)においては,「金額の入った手形30通と白地手形3通は一緒に預かった」旨供述していたのに対し,公判では,「まず,金額の入った手形30通くらいを預かり,その後,別の日に白地手形3通を預かった」旨供述するに至ったもので,その供述は信用しがたい。 ウ弁護人は,B1において,B2に無断で,Cに預けた約束手形につき,医療法人の命綱たる診療報酬を担保として譲渡する旨の書面を提出することは考えられないと主張するが,証券化スキームの進展による利益により決済資金を確保できると考えたB1が,「期日に決済できない場合」という条件を付した上で,診療報酬を担保として譲渡する旨の書面をB2に無断で作成して交付することは不自然なものではない。 エその他,Cに手形割引のために約束手形を預けることをB2が了承していた事実をうかがわせる事実は認められず,弁護人の主張は採用できない。 第3章有価証券偽造,同行使罪の成否 B1が,被告人に対して,本件白地手形につき,補充の上,銀行に取立依頼する権利を与える権限を有していたか(1)弁護人は,B1は,A1会の理事にすぎず,A1会の代表権を有していなかったとしても,B2は,B1に包括的な手形小切手振出権限を与えていたと主張する。 ア本件に至る経緯において,B2がB1に対して包括的な手形振出権限を与える旨の委任状等の書面が作成されていた形跡はない。そして,B2は,「A1会においては,理事は本社団の常務を処理すると定められているところ,常務というのは,日常の業務,例えば,業者への支払,あるいは新入職員の面談等を指すと考えている。B1には,A1会の預金通帳や銀行届出印などを預けていたが,これは日常業務をする上で,仕事がしやすいように預けていたものである。A1会の小切 者への支払,あるいは新入職員の面談等を指すと考えている。B1には,A1会の預金通帳や銀行届出印などを預けていたが,これは日常業務をする上で,仕事がしやすいように預けていたものである。A1会の小切手帳及び手形帳は,経理で保管しており,B1に預けていたことになる。しかし,日常の支払の中で手形で支払うということはなく,B1に手形を振り出す権限を与えたことはない。手形帳を預けていたのは,保管をさせていたにすぎない」などと供述するところ,これに矛盾するような事情はなく,この供述は信用できるものと考える。 イB1は,公判において,被告人に交付するために医療法人社団A1会理事長B2振出名義の合計金額3億円の約束手形4通をB2の了承を得ずに作成したことにつき,「自分は手形帳を預かっていましたし,日常のことについては自分が全部やってたんで,その延長線上の中で,本人に承諾を得ないでやったことは事実ですね」などと述べたり,「B2の了承を得ないで作成した手形について,無権限の振出手形になるという認識は持っていなかった」などと述べている。しかしながら,これは,日常の支払等を任されており,手形帳を預かっている状況で,自己の権限について深く考えることなくB2の了承を得ないまま手形を作成してしまったというB1自身の認識についてのものであって,B1に対して,包括的な手形の振出権限が与えられていたことを裏付けるものではない。 ウその他,弁護人が主張するところを考慮しても,B1に対して,包括的な手形の振出権限が与えられていたことをうかがわせる事情はなく,B2において,B1に対して包括的な手形の振出権限を与えていなかったものと認められる。 エなお,弁護人は,B1において,A1会の庶務・経理関係を担当する理事として,A1会のために所要の支払や小切手等の振出行為をする業 対して包括的な手形の振出権限を与えていなかったものと認められる。 エなお,弁護人は,B1において,A1会の庶務・経理関係を担当する理事として,A1会のために所要の支払や小切手等の振出行為をする業務に従事しており,医療法人社団A1会理事長B2の名称を用いて小切手・手形の振出を含む各種文書等を作成する権限を付与されていたと主張するが,上記のとおり,B1は日常の支払等についての業務を担当しており,その際に医療法人社団A1会理事長B2名義での文書や小切手の作成をする権限を有していたとはいえるが,医療法人社団A1会理事長B2名義での手形作成の包括的権限があったとは認められない。 (2)また,弁護人は,被告人は,B1が本件白地手形の白地を補充する権限を有していないという認識はなかったと主張する。被告人もB1に白地補充権があると思っていたと供述する。 アまず,被告人において,単なる理事であるB1にA1会の代表権はないと認識していたことは明らかである。 イ6月12日あるいは同月17日当時,被告人において,それまで,B1がB2に了承を得ずに独自の判断でA1会振出名義の手形を作成していたことを認識していたとは認められず,その他,B1にB2の了承を得ることなく手形を振り出す包括的な権限が与えられていると誤解するような事情を認識していたとも認められない。 ウさらに,Cから被告人が回収した本件白地手形に対する白地補充権をB2がB1に与えていたと誤解する事情を被告人が認識していたとも認められない。かえって,被告人は,B1が,「B2について頭にきたことから本件手形を入金してほしい」などと言ったなどと,本件白地手形へ金額を記入して銀行に取立てを依頼することがB2の意に反することをうかがわせる事情を供述しているのである。 エ以上からすれば,B1に白地補充権 形を入金してほしい」などと言ったなどと,本件白地手形へ金額を記入して銀行に取立てを依頼することがB2の意に反することをうかがわせる事情を供述しているのである。 エ以上からすれば,B1に白地補充権があると思っていたという被告人の供述は信用できず,被告人は,B1が本件白地手形に対する白地補充権を有していないと認識していたと認められる。 B1において,被告人が本件白地手形に金額等を補充した上で,銀行に取立てを依頼することを了承したか否かについて(1)B1の供述についてア上記の認定事実に加え,被告人に本件白地手形を預けたままにした状況等につき,B1は,以下のとおり供述している。 「6月12日ころ,被告人がR2から取り戻した手形を返してもらったが,白地手形1通については,担保だとして返してくれなかった。Jと被告人との間の和解による被告人への3億円の支払いに関してA1会の被告人に対する負債があるような感じになっていたので,その担保だと認識している。しかし,B2や自分が被告人に白地補充権を与えた事実はなく,被告人がその手形に金額を補充して取立てに回すということは全然考えていなかった。また,B2には,被告人に白地手形を預けたままになっていることは報告しなかった」イ以上の供述については,特段不自然な点はなく,B1が被告人に本件白地手形を預けたままにした6月12日に作成された同日付け覚書に,本件白地手形についての記載がなく,その他,B1において被告人に本件白地手形につき補充権を与えた旨の契約書等が作成された形跡がないことは,白地補充権を被告人に与えていないというB1の供述と符合する。 また,6月17日A1会の代理人弁護士からCに対して送られた約束手形の返還を求める旨の通知書中の未返却手形の一覧において6月12日に被告人がB1に渡した4通の えていないというB1の供述と符合する。 また,6月17日A1会の代理人弁護士からCに対して送られた約束手形の返還を求める旨の通知書中の未返却手形の一覧において6月12日に被告人がB1に渡した4通の手形は除外されているにもかかわらず,被告人が預かったままの本件白地手形は含まれている。このことは,B1が,B2に対して,被告人がその手形を預かったままであることを伝えなかったことを裏付けるものである。 (2)ア一方,被告人は,以下のとおり供述する。 「私としては,5月30日付けの確約書によりA1会から3億円の支払いを受ける権利があると思っていた。しかし,6月12日の時点で,2500万円については既に期限が過ぎていたし,残りの2億7500万円について,B1はA1会の手形を出すと言っていたにもかかわらず,その手形も受け取っていなかった。6月12日,B1に対して文句を言い,これ以上手形の回収はしないと言った。すると,B1は,一旦受領した本件白地手形を差し出して,2500万円と手形3通を持ってくる間,担保として預かってほしい旨言った。2500万円と金額合計2億7500円の手形3通を1週間後である6月19日までに持ってこなかったら,本件白地手形を取立てに回してよいという話があった。そこで,本件白地手形の支払期日についてはゴム印で「平成14年6月19日」と記入したが,金額については,3億円と決まっていたものの,B1は,2500万円を先に持ってくると言っており,2500万円を持ってきたらその分減額した金額を書かなくてはいけないと思ったので,記入しなかった。私は,支払期日に「6月19日」と記入したので,3日以内に支払呈示しておかないと手形上の権利がなくなり,手形訴訟等ができなくなると思っていたから,それに間に合うように6月17日に,B1に対して電話で,と 支払期日に「6月19日」と記入したので,3日以内に支払呈示しておかないと手形上の権利がなくなり,手形訴訟等ができなくなると思っていたから,それに間に合うように6月17日に,B1に対して電話で,とりあえず本件白地手形に「金額3億円」と補充して取立てに回すと言った。もっとも,A1会に3億円の支払能力はないと考えていたことから,2500万円と金額2億7500万円の手形をB1が持ってこなくても依頼返却をするつもりだった。その際,B1の方からも入金してくれとの話があった。B1は,B2がW御殿の関係の支払いを優先することに少し頭にきており,そのような気持ちもあって,そのようなことを言ったと思う。私は,B1にA1会の手形につき白地補充権があると思っていた。そして,E1に指示して,本件白地手形を取立てに回した」イ被告人の供述には不自然,不合理な点が多々認められる。 (ア)「B1が,2500万円と金額合計2億7500円の手形3通を1週間後である6月19日までに持ってこなかったら,本件白地手形を取立てに回してよいと言った」というが,6月12日の時点では,A1会の手形帳は既にU1銀行U2支店に返されており,A1会は手形を振り出せる状況になかったのであるから,B1がそのような申し出をするとは考えがたい。 (イ)6月12日に,B1と被告人との間で被告人が供述するような6月19日までに現金と手形を持ってこなければ本件白地手形を取立てに回してもよいなどという重要な合意がなされたのであれば,その旨の契約書等を作成するのが自然であると思われるが,同日付け覚書が作成されているにもかかわらず,同覚書にはその旨の記載はないし,別途,契約書等が作成されたわけでもない。 (ウ)上記のとおり,6月17日にCに本件白地手形の返還を求めていることからすれば,B2は本件白地手 いるにもかかわらず,同覚書にはその旨の記載はないし,別途,契約書等が作成されたわけでもない。 (ウ)上記のとおり,6月17日にCに本件白地手形の返還を求めていることからすれば,B2は本件白地手形が被告人に預けられたままであることを知らなかったことがうかがわれるが,そのこともB1と被告人との間でそのような合意がなされたことと符合しない。 (エ)被告人は,手形訴訟等ができなくなると思って,最初から依頼返却するつもりで取立依頼をしたというが,約束手形は,支払期日及びそれに次ぐ2取引日の支払呈示期間内に支払呈示がなくとも,振出人は手形債務を免れず,振出人に対しては手形訴訟によって手形金の請求も可能なのであって,被告人はこの点につき誤った理解をしていたものと考えられる。その被告人の供述を前提とすると,被告人は,「6月19日」と支払期日を記載すると,2500万円の支払いと金額2億7500万円の手形の交付の期限とした6月19日よりも前に,本件手形の取立依頼の手続をする必要が生じると思っていたことになる。そうであるのに,6月12日に,「6月19日」という支払期日だけを記載したというのは,不合理である。 ウまた,被告人の供述には不合理な変遷や齟齬がある。 (ア)被告人は,「当初,B1に対して,6月17日に依頼返却のことを言ったか言っていないかは記憶がない」と供述していたにもかかわらず,6月17日にB1が本件白地手形を入金してほしいと言うのは不自然であるとの追及を受ける中で,「6月17日に依頼返却をするという話が出ていた」と述べるに至った。 (イ)被告人は,「現金2500万円の支払いと手形3通の交付の期限は6月19日とした」と供述する一方,「期限は6月16日だったので,6月17日にE1に本件白地手形に3億円と印字して取立てをするように言った」と 人は,「現金2500万円の支払いと手形3通の交付の期限は6月19日とした」と供述する一方,「期限は6月16日だったので,6月17日にE1に本件白地手形に3億円と印字して取立てをするように言った」とも供述している。 (ウ)なお,被告人は,第25回公判に至って,「6月12日の夕方,B1との間で,3億円の支払い方法について,6月19日までに現金1000万円を持参する,残金の支払期日は,7月に9000万円,8月に1億円,9月に1億円とする旨合意し直して,その旨,B1に名刺の裏面に書かせた」旨供述したが,上記のとおり,それまで,被告人は,「6月12日には,B1は6月19日までに現金2500万円と手形3通を持ってくる,あるいは現金2500万円は先に持ってくると言っていた」などと供述しており,現金での支払額等について,6月12日中に合意し直した事実については供述していなかった。6月12日に同日付覚書を作成しているところ,それと異なる内容の合意をしたにもかかわらず,新たな覚書等を作成せず,名刺の裏面に書かせただけであるということ自体不自然である。 エ以上のとおりであって,B1において本件白地手形に金額等を記入して銀行に取立依頼をすることを了承していたとの被告人の供述は信用できない。 (3)小括ア以上によれば,6月12日に,B1において,被告人に対して,本件白地手形に金額等を補充してもよいとか,銀行に取立依頼してもよい旨述べた事実はなかったと認められる。被告人は,本件白地手形につき,担保だとしてB1に返還しなかったことが認められるものの,そのことをもって,B1が,被告人において,本件白地手形の金額欄に3億円と記入して取立てに回すことを了承したとはいえず,被告人において,B1がそのような了承をしたと認識したとも認められない。また,6月17日に, て,B1が,被告人において,本件白地手形の金額欄に3億円と記入して取立てに回すことを了承したとはいえず,被告人において,B1がそのような了承をしたと認識したとも認められない。また,6月17日に,B1が本件白地手形につき取立てに回すことを了承した事実もなかったと認められる。 イ弁護人は,被告人において,権限もないのに,本件白地手形に金額等を記入した上で取立依頼をする動機がない旨主張する。 (ア)被告人の平成17年2月17日付け検察官調書(乙2)は,「5月2~3日ころ,Jとの間で私がJの物件から手を引く代わりにJから3億円を支払ってもらう旨の和解が成立した。Jには資金がないので,3億円がA1会から融資を受けて支払われることになることは分かっていた。もっとも,もし,私がMの落札権を失うことになれば,N1が落札権を得ることになり,そうなればJが私に和解金3億円を支払うことなどあり得なくなることは明らかであった。6月15~16日ころ,E1から連絡があり,Mの落札代金の納付期限が5月31日であり,裁判所が6月19日にN1に落札権が移るという決定を下していたとの報告を受けた。この裁判所の決定により,6月19日までにJに和解金3億円を支払わせなければ,3億円が手に入らなくなり,それまでに差し入れていた保証金をすべて失い,それまでにJに貸し付けた1億円,Mの競売の際の保証金5000万円についてもとりはぐれてしまうこととなってしまった。6月19日までにJやA1会が3億円を工面できないことは分かっていたが,そのためには回収していた白地手形に3億円という金額を無断で記入して取立てに回して不渡を恐れるA1会に手形を依頼返却する代わりに3億円の支払義務を認めさせるという手段を取るしかないと思うようになった」などとの記載になっている。 (イ)Mの3階から9 無断で記入して取立てに回して不渡を恐れるA1会に手形を依頼返却する代わりに3億円の支払義務を認めさせるという手段を取るしかないと思うようになった」などとの記載になっている。 (イ)Mの3階から9階部分等について,延期された代金納付期限である5月31日午後3時までにD2会が代金を納付しなければD2会に対する売却許可決定は失効することになるが,被告人は,その前日である5月30日に次順位買受申出人であるN1の代表取締役であったB1との間で同日付け確約書を作成している。この確約書のN1の株式の51パーセントをD2会が担保として譲り受け,N1の取締役及び監査役にD2会の指定する者を就任させるなどとの内容等に照らせば,同確約書は,D2会に対する売却許可決定が失効し,その後N1に対する売却許可決定がなされることを前提に,被告人側の利益を保全するために作成されたものであることは明らかである。被告人が5月31日午後3時という代金納付期限を失念していたとは考えられない。したがって,「6月15~16日ころに,Mの代金納付期限が既に経過してしまったことなどに気付いたことをきっかけに,本件白地手形に3億円という金額を無断で記入して取立てに回してA1会に手形を依頼返却する代わりに3億円の支払義務を認めさせようとした」などという上記検察官調書における供述記載は信用できない。 (ウ)もっとも,被告人は,K2との交渉で,3億円と引き替えにM及びPから手を引く旨約束し,その3億円につき,振出名義が医療法人社団A1会の金額合計3億円の約束手形を提供されたことから,A1会において,被告人に3億円を支払うことについて合意したと認識していたものと認められる。 そして,被告人は,5月30日,N1の代表取締役であるB1との間で,同日付確約書を作成し,その内容に従い,Mの3階から て,被告人に3億円を支払うことについて合意したと認識していたものと認められる。 そして,被告人は,5月30日,N1の代表取締役であるB1との間で,同日付確約書を作成し,その内容に従い,Mの3階から9階部分等についての代金納付期限である5月31日までにD2会として代金を納付しなかった。 入札の際に提供した保証金を犠牲にしたにもかかわらず,その見返りの金員の支払いはなされず,当時,被告人側は見るべき利益を得ていない状況だったのである。そのような中で,被告人において,A1会に圧力をかけて,3億円の支払いを促すために,権限もないのに,本件白地手形に金額等を記入した上で,銀行に取立ての依頼をしたということも十分に考えられるのであって,動機がないとの弁護人の主張は採用できない。 結論 (1)以上によれば,B1において,被告人に対して,本件白地手形につき,金額等の補充や銀行への取立依頼を了承した事実はないし,そもそも,B1において,そのようなことをする権限は有していなかったものである。 アなお,弁護人は,A1会は被告人に対して3億円を支払う義務を有しているのであるから,被告人が本件白地手形に3億円と記入することが偽造にあたることにはならないと主張するが,A1会が被告人に対してそのような債務を有しているか否かという点はおくとしても,振出人欄に署名のある手形を預かった者がそれを奇貨として,ほしいままにその用紙に金額等の手形要件を記載して署名者の真意に反する手形の振出を完成させた場合,仮にその者が署名者に対して金額欄に記載した額の債権を有していても,作成権限のある者の振出行為は存在しないことにかわりはなく,手形の偽造罪が成立することは明らかであって,弁護人の主張は失当である。 イところで,E1は,その平成17年2月10日付け検察官調書(甲21)に のある者の振出行為は存在しないことにかわりはなく,手形の偽造罪が成立することは明らかであって,弁護人の主張は失当である。 イところで,E1は,その平成17年2月10日付け検察官調書(甲21)においては,本件白地手形の支払期日欄,受取人欄,金額欄への記入を,6月17日にE2から指示されて行ったと供述しているところ,その供述内容に特段不自然不合理な点はない。一方,E1は,公判において,6月12日に被告人に指示されて本件白地手形の支払期日欄に記入し,6月17日に被告人に指示されて振出日欄,金額欄,受取人欄に記入したと供述している。 しかしながら,この点,2500万円の支払いと手形の交付の期限であるという6月19日の期限のみを先に記載したとの被告人の供述が不合理で,信用できないことは前述のとおりであって,被告人において,支払期日欄のみ6月12日に記入させることに,合理的な理由はない。また,E1は,かかる供述の変遷の理由について合理的な説明をしているとはいえない。 そうすると,E1において,被告人への感謝の気持ちは忘れておらず,被告人のことは偉大な経営者だと思って慕っているなどと供述していることに照らすと,E1は公判においては,被告人の言い分に合わせて上記のような供述をしたものと認められる。本件白地手形への記入についてのE1の公判供述は信用できず,上記検察官調書における供述を信用することができる。 (2)まとめ以上により,被告人に判示のとおりの有価証券偽造,同行使罪が成立する。 第4章恐喝罪の成否 検察官の立証は,主にB2及びB1の供述に依拠しているので,これらを検討する。 B2の供述の概要(1)6月17日,B1に言われて,熊谷駅の喫茶店でI1と会った。何時ころかは覚えていないが午後だったと思う。I1から,「K1が被告人に払わなけ いるので,これらを検討する。 B2の供述の概要(1)6月17日,B1に言われて,熊谷駅の喫茶店でI1と会った。何時ころかは覚えていないが午後だったと思う。I1から,「K1が被告人に払わなければいけない迷惑料をB1が払う約束をした。それを理事長が追認してくれ,法人として,それを認めて,支払の約束をして欲しい」旨頼まれ,「実は,被告人が白地手形に金額を入れて,取立てに回した。B1が約束した保証すると言ったお金を院長が追認してくれれば,それはもうストップできるんだ。追認しないと大変なことになるから,自分としても被告人にそんなことはさせたくもないし,病院も困るんだから,そんなことになったら大変だ」などと言われたが,断った。B1と,そんなことはできないだろうと話しながら帰ったが,弁護士に相談することになった。 (2)6月18日,弁護士と会って,「手形を取られて,その回収を頼んだ人が,そのうちの1枚の白地手形に金額を入れて,取立てに回したということなんだけれども,どういうことなのだろうか,どうしたらいいのだろうか」と相談をした。弁護士から金額はいくらか,期日はいつかなどと聞かれたが分からないと答えた。B1も分からなかったと思う。弁護士は,それは犯罪であるとして,刑事に明るい弁護士を紹介しようなどと言ってくれたが,まさか本当にそんなことはしないだろうと思って,弁護士とは別れた。 (3)6月19日午前9時ころだと思うが,U1銀行から電話があり,D1のE2から3億円の手形が取立てに回ってきたというような電話があった。取られた手形に金額を入れられたので,支払う必要のない手形だと説明したが,銀行員から,供託金を積んで法的に争うことはできるけれども,3時までに額面の3億円と同額の供託金を積まなければならないと言われた。病院にお金はなかったので, で,支払う必要のない手形だと説明したが,銀行員から,供託金を積んで法的に争うことはできるけれども,3時までに額面の3億円と同額の供託金を積まなければならないと言われた。病院にお金はなかったので,融資をしてもらえるか尋ねたところ,無理であると言われた。 (4)6月19日午前10時前後,B1から連絡があり,被告人が太田に来ているので会ってくれないかと言われ,被告人と,まず東武線太田駅北口の喫茶店で会った。被告人は,病院が見たいと言ったので,昼前に,A2病院に戻って,理事長室で話をした。 被告人は,「B1が約束したK1が負うべき3億円を理事長が認めなさい。 そうすれば,振り込んだ手形は依頼返却しましょう。もし,それができないんであれば,もうこのままだよ。そうなれば病院がどうなるか分かっているんだろう」などと言ってきた。3億円はないと言うと,被告人は,金がないなんて分かっているので,小切手を振り出すように言い,K1の物件を整理することは,K1とやっても出来ない,自分が協力してK1の物件を整理して金に換えることができる,そうすれば3億円くらいのお金は利益として出るから,金を返すのはその後でもよいと言い,具体的には,小切手と現金を渡すように言ってきた。 手形が不渡りになって,倒産することを避けようと思い,被告人の要求を了承せざるを得なかった。実際には,被告人は,6月18日に,依頼返却の手続をしていたということだが,被告人は,そのことは言っておらず,依頼返却してほしければ,小切手を出せ,現金も出せという話だった。 B1も,ほとんどその場にいて,この場は被告人の申し出を受けようというようなことを言っていた。B1に,現金にどれくらい余裕があるのか聞くと,B1は,1000万円くらいならばと答えた。 そして,被告人,B1及び私で話し合って,覚書を作成したが, の申し出を受けようというようなことを言っていた。B1に,現金にどれくらい余裕があるのか聞くと,B1は,1000万円くらいならばと答えた。 そして,被告人,B1及び私で話し合って,覚書を作成したが,その内容は,被告人の指示によるものである。そして,金額合計2億9000万円の小切手を振り出し,被告人に渡した。現金1000万円については,B1が振り込むということであった。 B1の供述の概要(1)6月17日にI1がB2と会わなくてはならないと電話をかけてきて,B2と一緒にI1と会った。I1は,被告人が,預かっていた白地手形を取立てに回したかもしれないと話した。I1は,被告人に対する3億円の債務をA1会で認めてほしい,認めれば依頼返却をするなどと話したが,B2は断り,I1は最終的には引き下がった。 (2)6月18日,手形が回ってきたときの対処法を聞くために,熊谷駅で弁護士と会った。弁護士は,刑事専門の弁護士を紹介する旨言ったが,実際に取立てに回ったかどうか分からないので,紹介を受けることはなかった。 その後,被告人に会うために東京に行き,被告人とI1に会った。被告人に対して,手形を取立てに回したのではないかと抗議をしたところ,被告人は,取立てに回したとははっきり言わず,心配しないでもいい,明日,B2に会いたいと言った。 いつの時点かはっきりしないが,I1から,手形については,何とかする,大丈夫だからなどと,言われていたのは覚えている。依頼返却という言葉が出たかは記憶にない。 (3)6月19日朝,被告人と一緒に新幹線で熊谷に行き,そこから自分の車で太田に向かい,午前10時ころ,到着した。まず,駅前の喫茶店に被告人と二人で入った。電話を掛けるか,呼びに行くかして,そこにB2に来てもらったが,その際,B2からU1銀行から電話があり,手形が取 で太田に向かい,午前10時ころ,到着した。まず,駅前の喫茶店に被告人と二人で入った。電話を掛けるか,呼びに行くかして,そこにB2に来てもらったが,その際,B2からU1銀行から電話があり,手形が取立てに回っていることが分かった旨聞き,ショックを受けた。 B2が来た後,被告人が病院を見たいと言い,A2病院に行った。午前10時30分ころには,到着したと思う。 そのころ,B2に言われて,U1銀行U2支店に電話した。どうなっているのか聞かれたが,I1の「大丈夫」などとの言葉を信頼していたので,「依頼返却になるから大丈夫」と答えた。しかし,B2に対しては依頼返却になるという話はしていない。 B2と被告人は理事長室で話していたが,私は出たり入ったりしていた。被告人が,「依頼返却しない」などと言うのを聞いた明確な記憶はない。被告人は,今払わなくてもよい,小切手で構わない,MとPを一緒に整理することで金が入るのだからなどと言っていた。被告人は,既に依頼返却の手続をしたとの話はしていなかった。 B2にどうしようかと言われて,とりあえず,小切手を切るしかないのではないかとB2に話した覚えがある。 結局,B2は,小切手3通を振り出して,覚書にサインした。B2が覚書にサインをしたのは正午ころだと思う。 その後,被告人と一緒に東京に向かったが,その途中,午後2時から3時の間に,U1銀行U2支店に電話したところ,依頼返却がされたことが確認できた。 (4)10月ころ,被告人から,小切手3通の差し替えを頼まれ,振出日欄が白地の振出人医療法人社団A1会理事長B2名義の金額1億円の小切手2通,9000万円の小切手1通を被告人に渡した。 (5)平成15年4月30日,株式会社Yから借りた金を被告人側に支払って,被告人と関係を断つことを目的に,被告人等の代理人であるE2,K2 の小切手2通,9000万円の小切手1通を被告人に渡した。 (5)平成15年4月30日,株式会社Yから借りた金を被告人側に支払って,被告人と関係を断つことを目的に,被告人等の代理人であるE2,K2との間で,同日付け合意書及び確認書を作成した。E2が指定したZ名義の口座に2億8746万9238円を振り込み,被告人側から差し替えた上記小切手3通の返還を受けた。 (6)平成14年6月19日付け覚書中の被告人への1000万円の支払いは,7月12日にH名義の口座に1000万円を振り込んで行った。 B2及びB1の供述の検討(1)B2及びB1の供述は,上記のとおり,6月17日,I1から,被告人が白地手形を取立てに回したが,A1会において,被告人に対する3億円の支払い義務を認めれば,依頼返却する旨要求されたものの,B2は断ったこと,同月18日,弁護士と会って,そのことについて相談したこと,同月19日,銀行からの手形が取立てに回されている旨の連絡があったこと,同日,A2病院の理事長室で,被告人は,B2に対して,現金の支払と小切手の振出を要求し,B2はその要求に従って覚書を作成した上で,小切手を振り出したことなど,その核心部分において一致している。 (2)弁護人は,6月19日午前9時までに,本件手形を太田手形交換所で受領した者がU1銀行U2支店に帰店することはあり得ず,また,同支店において,依頼返却の連絡を受けた午前10時50分までに,本件手形の取立てにつき,A1会の当座預金に入力(端末処理)がなされていないところ,同支店において,端末処理前に取立ての事実が担当者に報告されることはないこと,当時の同支店におけるA1会の担当者は,B2に取立ての事実を連絡したり,B2から融資の申し出を受けた記憶はないと照会に対して答えていることを理由として,午前 事実が担当者に報告されることはないこと,当時の同支店におけるA1会の担当者は,B2に取立ての事実を連絡したり,B2から融資の申し出を受けた記憶はないと照会に対して答えていることを理由として,午前9時ころに,B2に対して,U1銀行U2支店から本件手形が取立てに回っている旨連絡があった事実はないなどと主張する。 しかしながら,B2は午前9時という時刻を正確なものとして供述しているわけではないし,連絡が誰からなされたのかについても明確な供述をしていない。また,弁護人の主張の根拠である当時のU1銀行U2支店の実務等についての照会結果もあくまで一般的な取扱いを述べたものにすぎないし,当時のA1会の担当者に対する照会結果のみから,担当者において,B2に連絡をした事実を否定することもできない。したがって,U1銀行U2支店において,本件手形の取立てについてのA1会の当座預金への入力処理がなされる前に,A1会の担当者あるいは他の者から,B2に連絡がなされた可能性を否定することはできず,この点から,B2の供述の信用性がないとまではいえない。 (3)アもっとも,被告人は6月18日に本件手形につき依頼返却の手続をとっているところ,B2及びB1の供述によれば,それ以前の被告人側からの3億円についての要求は,6月17日のI1によるものだけということになる。しかしながら,そのI1による要求後においても,B2及びB1は,その手形の金額や支払期日等について認識がなかったとか,実際に手形が回っているとは思わなかったなどと供述しており,重大な危機感を抱いていた様子はうかがえず,B2及びB1の供述によっても,I1から本件手形が取立てに回ったことを背景にする強い要求がなされたとはいえない。そして,そのI1による要求をB2は断ったというのであるから,被告人において,依頼返却 B2及びB1の供述によっても,I1から本件手形が取立てに回ったことを背景にする強い要求がなされたとはいえない。そして,そのI1による要求をB2は断ったというのであるから,被告人において,依頼返却の手続をする前に,改めてB2に接触を図って,3億円についての要求をしてしかるべきであるのに,B2及びB1の供述を前提にすると,被告人は,B2に対して何ら要求することなく,6月18日に依頼返却の手続をしてしまい,その上で6月19日になって初めて,B2と直接会って,本件手形につき銀行に取立ての依頼をしたことを背景に3億円について要求したことになる。このようなB2及びB1が被告人の行動として述べるところは不合理である。 イまた,B2において,本件手形について依頼返却をしてもらうためにやむなく小切手3通を振り出し,平成14年6月9日付け覚書を作成したというのであれば,同覚書に本件手形の依頼返却についての条項の記載を求めるのが自然であると思われるが,同覚書には,同日振り出された小切手3通につき,被告人は取立てに出したり,第三者に譲渡しないなどというA1会側の要望によるものと認められる条項があるにもかかわらず,本件手形については何の記載もない。 ウさらに,B1は,6月18日に被告人と会い,翌19日朝も被告人と行動を共にしているが,本件手形につき,実際に銀行に取立てを依頼したのかどうかという点を含め,何ら具体的な状況を被告人に聞いておらず,当時のB1の置かれていた状況からすると不自然であると言わざるを得ないし,同日朝,銀行から問い合わせがあり,B2が慌てているという状況の一方で,B1は,銀行に対して,「依頼返却になるから大丈夫」と答えているというのであり,不自然さを否めない。 I1の供述について(1)I1は,公判において,6月17日及び18日の という状況の一方で,B1は,銀行に対して,「依頼返却になるから大丈夫」と答えているというのであり,不自然さを否めない。 I1の供述について(1)I1は,公判において,6月17日及び18日の状況について,「6月17日午後7時くらいに,B2及びB1と自分の部下であるI2と一緒に太田市役所前の寿司屋で会ったが,被告人に頼まれたわけではない。B2から被告人に対する3億円の支払いの話が出た。B2は,半額,1億くらいにならないかと言っていた。その日の深夜,B2から電話があり,B1が被告人を怒らせたようだ,手形が回っているようであるなどと興奮して話していた。18日の昼食をB2及びB1と一緒にとり,その際,B2に昨日の話はどうなったか確認したところ,B2は,うまく行った,被告人にお礼を言っておいて下さいなどと言っていた」などとB1やB2の供述とは食い違う供述をしている。 (2)もっとも,I1は,その平成17年2月9日付け検察官調書(甲24)においては,「6月17日ころ,被告人に「B2に会って,B1がJとの和解金3億円を支払うことを承諾していることを話して,B2に3億円の支払義務を追認させて,手形を差し替えさせて,その内容の契約書も作成してきてくれ」と言われ,太田市内の寿司屋でB2とB1と会って,そのとおり話したところ,B2は,3億円を支払う理由がないなどと言って,支払を拒否するような話をしてきたので,被告人に電話で伝えた。その夜,B2が電話を掛けてきて,被告人が回収していた白地手形を取立てに回すと聞いたが,本当かと尋ねてきて,B1からも,被告人がA1会の白地手形に勝手に金額を記入して取立てに回すという話を聞いたが,どういうことかなどと怒った感じで言われた。 被告人に電話をかけて,白地手形に3億円の金額を入れて取立てに回すのか,A1会が3億円 1会の白地手形に勝手に金額を記入して取立てに回すという話を聞いたが,どういうことかなどと怒った感じで言われた。 被告人に電話をかけて,白地手形に3億円の金額を入れて取立てに回すのか,A1会が3億円も支払えないのは知っているのではないかなどと言ったところ,被告人は,笑いながら,「そうや。そんなことは分かっとる」などと答えた」などとその公判供述とは異なる供述をしている。 (3)I1は,公判において,かかる供述の変遷について合理的な説明をしておらず,その公判供述の信用性には疑問があると言わざるを得ないが,その検察官調書における供述内容も,6月17日にI1から本件手形が取立てに回ったことを聞いたとするB2及びB1とその核心部分において食い違っており,B2及びB1の供述の裏付けになるものではない。 被告人の検察官調書について(1)被告人は,その平成17年2月17日付け検察官調書(乙2)においては,以下のとおり供述している。 ア回収していた白地手形に3億円という金額を無断で記入して取立てに回して不渡を恐れるA1会に手形を依頼返却する代わりに3億円の支払義務を認めさせようと考えていたが,まず,6月17日,I1をB1及びB2に会わせて,Jが支払うべき和解金3億円の支払義務をB2に追認させるよう指示した。しかし,I1から,B2が3億円の支払を拒否したとの報告が入り,白地手形に3億円という金額を記入して取立てに回すという手段をとるしかなくなった。そこで6月17日午後3時直前ころに,E2に指示して,A1会が振出名義人となる白地手形に3億円との金額を記入させて,銀行に取立てに回させた。私は,回収した白地手形に3億円の額面金額などを書き込んで取立てに回すことで,6月18日には,A1会に連絡が入り,A1会が不渡り処分を恐れてパニック状態になることは分か て,銀行に取立てに回させた。私は,回収した白地手形に3億円の額面金額などを書き込んで取立てに回すことで,6月18日には,A1会に連絡が入り,A1会が不渡り処分を恐れてパニック状態になることは分かっていた。 イ一方,手形を取立てに回したままにすると不渡り処分になってしまい,A1会が破綻し,結局3億円を払わせることもできなくなってしまうことも分かっており,E2に指示して,6月18日に銀行の窓口の営業時間終了間際に手形の依頼返却手続をさせた。そうしても,銀行からすぐにA1会に連絡が行くことはないので,B2らは手形が依頼返却されているとは気付かないと思った。 ウ私は,B1やB2らが,Mの落札権をN1が取得したことに気付いてしまうと,不渡り処分を覚悟しても支払を拒絶するおそれがあったので,6月19日にA1会に乗り込んでB2に3億円の支払義務を認めさせて,小切手や現金を脅し取ろうと考えた。 エ6月18日,B1は,東京にいた私の下を訪れて,白地手形を取立てに回したことに抗議してきた。 オ6月19日,A1会に向かい,午前11時ころ,A2病院理事長室にB2とB1と共に入室し,B2に対し,「私は,ここまで喧嘩をしに来たんじゃない。手形を依頼返却してもらいたかったら,A1会が私に3億円を支払うことを約束しなさい。私の言うことを聞かないのであれば,手形の返却依頼はできない」「3億円は小切手でもいいぞ。ただし,現金も幾らかは必要になる」と要求した。B2は私の要求に屈し,B1は,「現金で用意できるのは1000万円までです」と言ったので1000万円を現金で受け取り,2億9000万円については小切手で受け取ることにした。そして,A1会に3億円の支払義務を認めさせる内容の覚書を作成し,B2に署名させ,小切手3通を受け取った。 (2)検討アこれによると, ,2億9000万円については小切手で受け取ることにした。そして,A1会に3億円の支払義務を認めさせる内容の覚書を作成し,B2に署名させ,小切手3通を受け取った。 (2)検討アこれによると,被告人は,本件手形を取立てに回して,不渡を恐れるA1会側に依頼返却する代わりに3億円の支払い義務を認めさせようとしているにもかかわらず,6月17日に取立ての依頼をした後,A1会側に何の要求もしないまま,6月18日に依頼返却の手続をし,その後である6月19日に至って,初めて,B2に3億円の支払いを要求したということになるが,これは,手形の依頼返却を理由に金員等を喝取しようとする者の行動としては不自然であるといわざるを得ない。 イまた,本件手形を依頼返却することと引き換えに,3億円の支払い義務を認めさせる内容の覚書を作成させ,小切手3通を振り出させたというのにもかかわらず,同覚書に本件手形についての記載がないというのも不可解である。 被告人の公判供述について(1)被告人は,本件手形につき取立依頼をした後の状況について,公判において,以下のとおり供述する。 ア6月18日の午前中,B1と電話で話したところ,B2が手形かお金を払うから,依頼返却をしてほしいということだったので,私も了解して,依頼返却の手続を指示し,午後3時ころまでにそのことをB1に伝えた。 イ6月18日夜,I1,B1らと東京の焼肉屋で会った。I1から,「B2から依頼返却してもらってありがとう」と礼を言われた旨聞いた。また,B1から「2500万円と手形の件でB2が支払をしてくれるから」と聞き,翌日,太田に行くことにした。 ウ6月19日,B1と一緒に新幹線で熊谷駅まで行き,そこからB1の車で太田に向かった。太田駅前の喫茶店で降ろされ,午前11時ころ,そこにB1とB2が来た。依 と聞き,翌日,太田に行くことにした。 ウ6月19日,B1と一緒に新幹線で熊谷駅まで行き,そこからB1の車で太田に向かった。太田駅前の喫茶店で降ろされ,午前11時ころ,そこにB1とB2が来た。依頼返却しているか確認してはどうかと言ったところ,既に分かっていたようだった。そこで,B2から,条件の変更を求められたが,話はまとまらず,B2が診療の必要があるというので病院に行くことになり,午後12時半ころ病院に到着した。B1は,病院には一緒に来なかった。 エB2と病院の理事長室で話したが,B1は居なかった。そこで,5月30日に取り決めた分の支払いにつき,期限を延ばしてしてほしいと頼まれ,平成14年6月19日付け覚書を作成し,小切手3通を受け取った。 (2)検討ア被告人の公判供述のうち,本件手形について取立依頼をするに至る経緯について,不自然な点や変遷等があり,その全部を信用できないことは上記のとおりである。被告人は,「B2から支払の猶予を求められて平成14年6月19日付け覚書を作成した」と供述しているが,その一方で第25回公判においては,「支払期日につき同覚書とほぼ同内容の合意をB1との間で既にしていた」とも供述しており,供述自体安定していない。 イしかしながら,被告人の上記公判供述は,被告人において,6月18日に本件手形の依頼返却をした上で,6月19日にB2と会い同日付け覚書を作成し,小切手3通の振り出しを受けたという経緯について,一応の合理性をもって説明していると評価しうる。 結論 (1)以上を総合して考えると,被告人において,B2が金などを払うと言っているのを聞いたことから本件手形につき依頼返却の手続をして,6月18日にそのことをB1に伝えており,B2も,6月19日に被告人と会った際には既に被告人が依頼返却の手続をしたこ が金などを払うと言っているのを聞いたことから本件手形につき依頼返却の手続をして,6月18日にそのことをB1に伝えており,B2も,6月19日に被告人と会った際には既に被告人が依頼返却の手続をしたことを知っていたのではないかとの疑いが残る。したがって,被告人が,6月19日に,A2病院理事長室において,B2に対して,本件手形を依頼返却してほしければ,3億円を支払うことを約束して,小切手の交付や現金の支払いをするよう要求したということにも,合理的な疑いが残るといわざるを得ない。 (2)なお,7月12日のA1会から,H名義の口座への1000万円の振込みにつき,B2及びB1は,平成14年6月19日付け覚書に基づく1000万円の支払である旨供述するが,その供述を裏付ける証拠はない。一方,被告人は,その1000万円は,Cから手形を回収するための費用として送ってもらったものであると供述しているところ,実際,その当時,被告人が引き続きA1会のためにCから手形の回収を行っていることが認められることなどからすれば,その1000万円の振込みが被告人の供述どおりに手形回収のための費用であるとの可能性もある。 (3)よって,公訴事実第2を認定することはできない。 (法令の適用)罰条有価証券偽造の点刑法162条1項その行使の点刑法163条1項科刑上の一罪の処理有価証券偽造とその行使との間には手段結果の関係があるので,刑法54条1項後段,10条により犯情の重い偽造有価証券行使罪の刑で処断刑の執行猶予刑法25条1項訴訟費用の負担刑事訴訟法181条1項本文(2分の1)(量刑の理由)被告人は,自分が関係する医療法人が売却許可決定を受けた物件から手を引くことの対価などとして,その物件の取得を希望していた医療法人に対して3億円を要求していたものである (2分の1)(量刑の理由)被告人は,自分が関係する医療法人が売却許可決定を受けた物件から手を引くことの対価などとして,その物件の取得を希望していた医療法人に対して3億円を要求していたものである。本件は,その医療法人に圧力をかけて対価の支払等を促すため,その医療法人関係者から頼まれて回収した手形の中の白地手形にほしいままに金額等を記入して銀行に取立てを依頼したものである。本件犯行は手形取引の安全を阻害するものであり,被告人の刑事責任を軽く見ることはできない。 しかしながら,他方,被告人が,本件手形について依頼返却をしているという事情もある。これに加え,被告人の年齢,健康状態をも考慮して,被告人に対し,刑の執行を猶予することとした。 (公訴事実中恐喝の点(第2)についての結論)公訴事実中恐喝の点(第2)については,上記のとおり,犯罪の証明がないので,刑事訴訟法336条により,被告人に対して無罪の言渡しをする。 よって,主文のとおり判決する。 (求刑懲役6年)平成20年7月8日大阪地方裁判所第1刑事部裁判長裁判官秋山敬裁判官栗原保裁判官荒井格

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