平成18(レ)37 敷金返還請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
平成18年11月8日 京都地方裁判所 棄却 木津簡易裁判所 平成17(ハ)170
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判決文本文5,630 文字)

- 1 -事件番号:平成18年(レ)第37号事件名:敷金返還請求控訴事件裁判年月日:H18.11.8裁判所名:京都地方裁判所部:第7民事部結果:控訴棄却登載年月日:H18. .判示事項の要旨:いわゆる敷引特約が消費者契約法10条により無効とされた事例主文 本件控訴を棄却する。 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1控訴の趣旨 原判決を取り消す。 被控訴人の請求を棄却する。 第2被控訴人の請求控訴人は,被控訴人に対し,30万円及びこれに対する平成17年10月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 第3事案の概要本件は,被控訴人が,控訴人から別紙物件目録記載の物件(以下「本件建物」という)を賃借し(以下「本件賃貸借契約」という,その後,本件賃。 。)貸借契約を解約して本件建物を明け渡したが,控訴人は,預託された敷金35万円のうち30万円を返還しない旨の合意(以下「本件敷引特約」という)。 に基づいて,上記敷金のうち5万円しか返還しなかったことから,被控訴人が,本件敷引特約は消費者契約法10条により無効であるとして,控除された敷金30万円の返還及びこれに対する敷金返還期日の翌日である平成17年10月- 2 -1日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払いを求めた事案である。 原審は,本件敷引特約は消費者契約法10条により無効であるとして,被控訴人の請求を全部認容したことから,控訴人がこれを不服として控訴した。 前提事実(争いがないか,掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)。 (1)控訴人は,不動産の売買及び賃貸借の仲介等を業とする株式会社である(2)被控訴人は,平成14年11月24日,控訴人との間で,本件建物につき, 弁論の全趣旨により容易に認められる事実)。 (1)控訴人は,不動産の売買及び賃貸借の仲介等を業とする株式会社である(2)被控訴人は,平成14年11月24日,控訴人との間で,本件建物につき,以下の内容の本件賃貸借契約を締結した(甲1。 )ア期間平成14年12月1日から平成16年11月末日までイ更新期間満了の1か月前までに当事者のいずれからも書面による異議申し出のない場合には更に2年間更新されるものとし,以後も同様とする。 ウ賃料月額7万円エ敷金35万円オ敷引特約控訴人は,本件賃貸借契約が終了し,被控訴人が本件建物の明渡しその他の債務の履行を完了した後1か月以内に,敷金から退去時控除額30万円(以下「本件敷引金」という)を控。 除した残額を被控訴人に返還する。 (3)本件賃貸借契約は,平成16年12月1日,更新された。 (4)被控訴人は,平成17年8月31日,本件賃貸借契約を解約し,控訴人に対し,本件建物を明け渡した。 (5)控訴人は,被控訴人に対し,預託された敷金35万円から退去時控除額30万円を控除した残額5万円を返還した。 争点 本件敷引特約は消費者契約法10条により無効か。 - 3 - 争点に対する当事者の主張(1)被控訴人の主張ア本件敷引特約は,控訴人の損害の有無・契約期間の長短にかかわらず,本来担保として差し入れられた敷金の約85.7パーセントもの金額を控除するものであり,敷金の本質からみて不合理な特約である。 イ控訴人は,本件敷引金は,①賃料の一部前払い,②契約更新時の更新料免除の対価,③賃貸借契約成立の謝礼の性質を有する金銭であると主張するが,被控訴人はそのような説明を受けたことはない。 そして,上記①については,本件敷引金が控除されることで賃料が低額となっていることを裏付け ,③賃貸借契約成立の謝礼の性質を有する金銭であると主張するが,被控訴人はそのような説明を受けたことはない。 そして,上記①については,本件敷引金が控除されることで賃料が低額となっていることを裏付ける具体的事実はないし,本件敷引金がどの程度賃料に反映されているかも不明である上,居住期間の長短によって実質的な賃料が大きく異なることとなり,不合理である。 また,上記②,③については,建物賃貸借契約において,建物使用の対価は賃料に尽きるのであり,近時の賃貸住宅の需要供給関係に照らしても,賃借人が更新料や礼金を支払うことに合理性はない。 ウ京滋地区で建物賃貸借契約に敷引特約が付されるようになったのはここ数年のことであり,未だ商慣習と呼べるほど成熟・定着していない。そして,事業者たる賃貸人と消費者たる賃借人の間の情報量・交渉力の格差からすると,被控訴人が控訴人との交渉によって本件敷引特約を削除したり,本件敷引金を減額することは極めて困難である。 エ以上の諸点に照らせば,本件敷引特約は,消費者たる被控訴人が本来有している敷金返還請求権を特約によって制限し,義務を加重するものであって,信義則に反して被控訴人の利益を一方的に害するものであるから,消費者契約法10条により無効である。 (2)控訴人の主張ア本件敷引金が敷金の約85.7パーセントと高率であるのは,本来の敷- 4 -金部分が低額となっており,賃料不払いのリスクを賃借人が負担している結果であって,敷引率が高率であるからといって,本件敷引特約が不合理であるとはいえない。 イ本件敷引金の性質は,①賃料の一部前払い(月額賃料を減額することの代償,②契約更新時の更新料免除の対価,③賃貸借契約成立の謝礼の性)質が渾然一体となったものと考えられる。 上記①については,関西地区においては,敷引の慣 賃料の一部前払い(月額賃料を減額することの代償,②契約更新時の更新料免除の対価,③賃貸借契約成立の謝礼の性)質が渾然一体となったものと考えられる。 上記①については,関西地区においては,敷引の慣行を前提にして賃料相場が形成されており,いわば賃料と敷引金の合計が適正賃料であるということができる。そして,賃料の一部を前払いすることで,月額賃料を低額に抑えることができるのであり,相場賃料での安定的な賃貸住宅の供給等の観点から,十分な合理性がある。 また,上記②については,賃借人にとって,契約更新時の紛争を回避し,更新前と同内容の契約を確保する等のメリットがあり,上記③については,建物賃貸借契約成立の謝礼として金員の授受がされることは,全国的に広く行われている慣行であり,いずれも,その額が不合理でない限り,十分な合理性がある。 ウ関西地区においては,敷引は慣習として確立しており,賃借人は,敷引金が賃借人に返還されない金員であることを十分認識しており,また,賃借人は,情報誌,インターネット,店頭広告等により物件選択に必要な情報を事前に確認した上で賃貸借契約を締結しており,賃貸人と賃借人間の情報量の格差は小さく,敷引額について値引交渉を行うことも十分可能である。本件においても,被控訴人は,敷金35万円のうち30万円については被控訴人に返還されず控訴人がこれを取得することを認識した上で本件賃貸借契約を締結したものであり,敷引額も相場並である。 エ以上のとおり,本件敷引特約は,十分な合理性があり,被控訴人もその内容を理解した上で本件賃貸借契約を締結しているのであり,消費者契約- 5 -法10条により無効とされるものではない。 第4争点に対する判断 賃貸借契約は,目的物を使用収益させる義務と賃料支払義務とが対価関係に立つ契約であり,民法上 いるのであり,消費者契約- 5 -法10条により無効とされるものではない。 第4争点に対する判断 賃貸借契約は,目的物を使用収益させる義務と賃料支払義務とが対価関係に立つ契約であり,民法上,賃料以外に賃借人が金銭の支払義務を負担することは予定されていない。 ところで,一般に,建物賃貸借契約の締結に際して敷金の授受が行われているが,これは賃料その他の賃借人の債務を担保する目的で賃借人から賃貸人に交付される金員であり,賃貸借終了時に賃借人に債務があればこれを控除した残額を,賃借人に債務がなければ全額を賃借人に返還されるものと解されており、このような敷金の授受自体は,その目的に照らして,民法上の任意規定に比して賃借人の義務を加重するものとはいえない。 しかし,このような敷金について,賃借人の債務の有無・その額にかかわらず,その一部をあらかじめ返還しない(その結果,賃貸人がその部分を当然に取得することになる)ことを約することは,敷金授受の目的を超えるもので。 あるから,本件敷引特約は民法上の任意規定に比して賃借人の義務を加重する条項であり,この点は控訴人も認めるところである。 そこで,進んで本件敷引特約が賃借人の利益を一方的に害するものか否かについて検討する。 この点,賃借人の債務の有無・その額にかかわらず,敷金の一部を賃借人が当然に取得することは,敷金授受の目的を超えており,それ自体から賃借人の利益を一方的に害するように見える。しかし,敷引の目的,敷引金の性質,敷引率が合理的なものであり,かつ,賃借人がこれを十分に理解・認識した上で敷引特約に合意をした場合は賃借人の利益を一方的に害するということはできないというべきである。 (1)本件敷引金の目的,性質については,契約書上「退去時控除額30万,円」との記載があるのみで,その趣旨 約に合意をした場合は賃借人の利益を一方的に害するということはできないというべきである。 (1)本件敷引金の目的,性質については,契約書上「退去時控除額30万,円」との記載があるのみで,その趣旨は判然としないが,控訴人は,本件敷- 6 -引金は,①賃料の一部前払い,②契約更新時の更新料免除の対価,③賃貸借契約成立の謝礼の性質が渾然一体となったものである旨主張するので,この点について検討する。 アまず,上記①についてみると,本件敷引金が賃料の一部を構成し,月額賃料が相対的に低額となっているのであれば,本件敷引金は賃借人が負担すべき金員の前払いということになる。 しかし,敷引という形式で賃料の一部を前払いさせることによって,相対的に月額賃料が低額になるとしても,本件敷引金は賃貸借の期間の長短にかかわらず30万円とされていることから,本件敷引金のうち賃料の一部前払いに相当する金額は個々の賃貸借契約において一定しない結果になること,あらかじめ入居期間を決めた上で入居する場合以外には,契約締結時において,実質賃料額がいくらになるか賃借人にはわからないこと(控訴人の主張するように本件敷引金が上記①ないし③の性質を併せ持つものとすると,本件敷引金のうち賃料の一部前払いに相当する金額がいくらであるのか判然としないから,なおさらである)を考慮すれば,敷引。 という形式で賃料の一部を前払いさせることに合理的な理由があるとはいえない。 また,本件賃貸借契約において,実際に本件敷引特約があるために月額賃料が相対的に低額となっていることを認めるに足りる証拠もない。 イ次に,上記②についてみると,実質的には更新料免除の対価という名目での更新料にほかならないともいえ,更新料の支払い自体が一般的に合理性を欠くとは直ちにいえないものの,本件敷引金のうち更新料免 。 イ次に,上記②についてみると,実質的には更新料免除の対価という名目での更新料にほかならないともいえ,更新料の支払い自体が一般的に合理性を欠くとは直ちにいえないものの,本件敷引金のうち更新料免除の対価に相当する金額がいくらであるのか判然としない上,賃貸借契約が更新されるか否かにかかわらず,契約締結時において一律に更新料免除の対価をあらかじめ支払わせるものであり,賃借人がこのような金員の支払いを強いられる合理的な理由はない。 - 7 -ウ上記③についてみると,建物賃貸借契約の締結時において,契約成立の謝礼として,いわゆる礼金の授受が行われる場合があることは当裁判所に顕著であるところ,謝礼という金員の趣旨に照らせば,その趣旨及び金額の明示もないまま,敷引という形式によって支払いを強いる合理的な理由はない。また,本件敷引金のうち礼金に相当する金額は判然としない。 エ上記アないしウによれば,控訴人主張の本件敷引金の性質(上記①ないし③)を前提としても,控訴人が敷引という形式でこれを取得する合理的な理由はない上,上記①ないし③の金員の各金額を裏付ける証拠はない(この点から,賃借人に負担させることができない賃貸借目的物の自然損耗ないし通常の使用による損耗に対する原状回復費用を負担させているのではないかとの疑念もあながち否定できない。 。)(2)以上に加えて,本件敷引特約における敷引率は約85.7パーセント(月額賃料の約4.2か月分)にのぼることを考慮すれば,被控訴人の本件敷引特約に対する理解・認識について検討するまでもなく,本件敷引特約は合理性を欠くものであって,民法その他の任意規定による場合に比して被控訴人の義務を加重し,その利益を一方的に害するものであり,消費者契約法10条により無効というべきである。 第5 結論 以上によれば 合理性を欠くものであって,民法その他の任意規定による場合に比して被控訴人の義務を加重し,その利益を一方的に害するものであり,消費者契約法10条により無効というべきである。 第5 結論 以上によれば,被控訴人の請求は理由があるから,これを認容した原判決は相当であり,本件控訴は理由がない。 よって,本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。 京都地方裁判所第7民事部裁判長裁判官田中義則- 8 -裁判官阪口彰洋裁判官大橋弘治- 9 -(別紙)省略

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