令和1(わ)973 傷害,窃盗,詐欺未遂被告事件

裁判年月日・裁判所
令和3年5月20日 札幌地方裁判所
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判決文本文24,657 文字)

主文 被告人を懲役5年に処する。 未決勾留日数中330日をその刑に算入する。 本件公訴事実中,令和2年2月28日付け追起訴状記載の公訴事実第5については,被告人は無罪。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,第1 Aと共謀の上,平成31年2月28日午後3時11分頃から同日午後3時21分頃までの間に,札幌市a区(住所省略)所在のN1店内において,B1が使用中の買い物カートから同人所有又は管理の現金約1万5000円及びクレジットカード等12点在中のショルダーバッグ1個(時価合計約3万7000円相当)を窃取し第2 Aと共謀の上,窃取した株式会社O発行のB1名義のクレジットカードを使用して商品をだまし取ろうと考え,同日午後5時52分頃,同区(住所省略)所在の株式会社P1「P2店」において,同店従業員Cに対し,真実は,同クレジットカードの正当な使用権限も同クレジットカードシステム所定の方法により代金を支払う意思もないのに,これらがあるように装い,同クレジットカードを提示して眼鏡フレーム2本(販売価格合計7万2360円)の購入を申し込み,同人をしてその旨誤信させ,同人から同眼鏡フレーム2本の交付を受けようとしたが,同人に同クレジットカードが事故カードであると見破られたため,その目的を遂げず第3 Aと共謀の上,同年3月2日午後0時9分頃,北海道江別市(住所省略)所在のN2店内において,B2が使用中の買い物カートから同人所有又は管理の現金約6000円及びクレジットカード等7点在中の手提げバッグ1個(時価合計約1万3200円相当)を窃取し 第4 Aと共謀の上,同月10日午後3時38分頃から同日午後3時50分頃までの間に,旭川市(住所省略)所在のN3店内において,B3が使用中の買い 1個(時価合計約1万3200円相当)を窃取し 第4 Aと共謀の上,同月10日午後3時38分頃から同日午後3時50分頃までの間に,旭川市(住所省略)所在のN3店内において,B3が使用中の買い物カートから同人所有又は管理の現金約6万5000円,商品券数枚(額面合計約10万円)及びクレジットカード等12点在中の鞄1個(時価合計約19万100円相当)を窃取し第5 令和元年12月1日午後8時35分頃,札幌市(住所省略)所在の集合住宅Q4階共同廊下において,D(当時44歳)に対し,ラチェットレンチを持つ右腕を押さえられながら振り下ろして同人の頭部を1回殴打し,さらに,果物ナイフ(刃体の長さ約9.8センチメートル。札幌地方検察庁令和2年領第68号符号1-1)を持った右腕を押さえられながら同人の顔面直近で振り回す暴行を加え,よって,同人に全治約14日間を要する左側頭部挫裂創及び顔面切創(右眼下方の比較的長いもの1個及び左眼下方の頬辺りのもの1個)の傷害を負わせた。 (証拠の標目)省略(判示第1から第4までの事実認定の補足説明及び一部無罪の理由)第1 争点判示第1から第4までの各事実及び令和2年2月28日付け追起訴状記載の公訴事実第5(同公訴事実は,「被告人は,Aと共謀の上,平成31年4月13日午後4時35分頃,北海道帯広市(住所省略)所在のN4店内において,B4が使用中の買い物カートから同人所有又は管理の現金約1万8800円及びクレジットカード等17点在中の手提げバッグ1個(時価合計約3万2000円相当)を窃取した。」というものである。以下,同事実を「4月事件」という。)の各争点は,いずれも,被告人が,共犯者Aと共に犯行に及んだ犯人と認められるか(犯人性)である。弁護人は,いずれの犯行も被告人と共に行ったとするAの証言の信用性 。以下,同事実を「4月事件」という。)の各争点は,いずれも,被告人が,共犯者Aと共に犯行に及んだ犯人と認められるか(犯人性)である。弁護人は,いずれの犯行も被告人と共に行ったとするAの証言の信用性を争い,被告人がAと共に各犯行に及んだ犯人とは認められず,いずれも無罪である旨主張する。 第2 当裁判所の判断 判示第1から第4までの各犯行及び4月事件について,いずれも被告人と共に行ったとするAの証言(以下,「Aの証言の核心部分」ともいう。)は,共犯者供述であって,他の証拠との整合性や供述の経過及び動機といった点を踏まえて慎重に信用性を吟味すべきものであるところ,当裁判所は,Aの証言の核心部分のうち,判示第1から第4までの各犯行に係る部分は信用することができ,被告人がAと共に各犯行に及んだ犯人であると認められるが,4月事件に係る部分は信用することができず,被告人がAと共に犯行に及んだ犯人であるとは認められないと判断した。以下,理由を説明する。 1 関係証拠によって認定できる事実関係関係証拠によれば,以下の事実が認められる。 ア Aは,平成29年6月又は7月頃以降,生活保護受給者に不動産を賃貸する事業を行っていたEから,札幌市(住所省略)所在のアパートRb号室を賃借して居住していた。一方,被告人は,Aと保護会・刑務所を通じた知り合いであったところ,自己の出所後の平成31年2月頃,Aに同居したい旨を相談し,AがEの了解を得たため,同月下旬頃から,b号室でAと同居を始めた。被告人は,同年3月上旬又は中旬頃,Eから前記アパートRc号室(以下「被告人方」という。)を賃借し始めたが,それ以降も,b号室に出入りし,同室で寝泊まりすることもあった。 イ Aと男性共犯者1名は,同年2月28日に判示第1の窃盗に及んだ。その際,同共犯者は 下「被告人方」という。)を賃借し始めたが,それ以降も,b号室に出入りし,同室で寝泊まりすることもあった。 イ Aと男性共犯者1名は,同年2月28日に判示第1の窃盗に及んだ。その際,同共犯者は,背面に白字の入ったフード付き黒色ジャンパーを着て,白色マスク及び灰色っぽいニット帽を身に着けていた。 さらにその約2時間半後,Aと男性共犯者1名は,判示第1の被害者名義のクレジットカードを用いて商品の購入を申し込み,判示第2の詐欺未遂に及んだ。 その際,同共犯者は,背面に白字で「VAN」などと書かれた黒色フード付きジャンパーを着て,白色マスク及び灰色っぽいニット帽を身に着けていた。 ウ Aと男性共犯者1名は,同年3月2日に判示第3の,同月10日に判示第 4の窃盗に及んだ。両日共に,アパートRから犯行場所への移動等にはEが所有する白色の普通乗用自動車(本件S車,車両番号(省略)。)が用いられた。 エ Aと男性共犯者1名は,同年4月13日に4月事件の窃盗に及んだ。同日の移動には,本件S車と別の普通乗用自動車(T車,車両番号末尾(省略))が用いられた。 オ Aは,令和元年5月19日,北海道警察札幌方面北警察署へと出頭し,判示第1の窃盗に及び,盗んだクレジットカードで買い物をしたことなどについて自供し,一度帰宅させられて再出頭した同月21日に逮捕され,自首調書が作成された。 カ同月25日,警察官らがE立会いの下で被告人方を捜索した際,背面に白字で「VAN」などと書かれた黒色フード付きジャンパーが差し押さえられた(F証言)。 判示第3,第4の各犯行の際に本件S車が使用されたとの事実関係(前記⑴ウ)を認定した理由についてア判示第3の犯行の際に本件S車が使用されたことEは,令和元年5月25日,判示第3の被害者であるB2名義の後期高齢 行の際に本件S車が使用されたとの事実関係(前記⑴ウ)を認定した理由についてア判示第3の犯行の際に本件S車が使用されたことEは,令和元年5月25日,判示第3の被害者であるB2名義の後期高齢者被保険者証を警察官に提出しているところ,その10日から2週間前頃に,同被保険者証を本件S車の後部座席下から発見したものであった(E証言)。同被保険者証は,判示第3の窃盗の被害品の一部であるところ,財産的価値が乏しい一方で所持し続けていれば犯行の痕跡となり得るため,犯人がすぐに処分することが多いと考えられる。そのため,判示第3の犯行日(平成31年3月2日)より後に同被保険者証が本件S車内に意図的に持ち込まれる理由は考え難く,例えば,A又は共犯者が犯行直後に被害品を確認するなどした際に同被保険者証を車内に落としたと考えるのが自然である。そうすると,前記犯行日より後に本件S車内から同被保険者証が発見されたという前記事実関係は,判示第3の犯行の際に本件S車が用いられたことを推認させる。 さらに,U1店の防犯カメラ映像によれば,平成31年3月2日午後2時28分頃から同日午後2時37分頃までの間,白色の普通乗用自動車が同店前の駐車場に停車し,同店で買い物を終えたAが,同車助手席に乗り込むと直ちに同車が走り去る様子が認められる。同車と本件S車とは,いずれも車両全体が白色の塗色であること,フロント部分(ヘッドライト,フロントバンパ,フロントウィンカー及びラジエーターグリル,エンブレム等)の各位置とおおよその形状が一致している。これらの事実から,Aが乗り込んだ自動車が本件S車と同種・同色のS車であると一定程度推認でき,このことは本件S車が判示第3の犯行の際に用いられたと考えて矛盾しない事情であるからといえる。 の事情を総合すれば,判示第3の んだ自動車が本件S車と同種・同色のS車であると一定程度推認でき,このことは本件S車が判示第3の犯行の際に用いられたと考えて矛盾しない事情であるからといえる。 の事情を総合すれば,判示第3の犯行の際に本件S車が用いられたと認められる。 弁護人は,判示第3の犯行日が土曜日であるところ,Eは,毎週土曜日に,本件S車をアパートRの入居者の通院治療の送迎に利用していたのであるから,判示第3の犯行の際に本件S車が用いられることはないと主張する。しかし,Eは,被告人らから事前に本件S車を貸してほしいと頼まれた場合には,本件S車を利用する予定がある日であっても,知人の運営する団体から自動車を借りることができるときには,被告人らに本件S車を貸していた旨証言しており,かかる証言は具体的で,特段不自然なところもないし,この点についてEが虚偽の証言をする理由もないから,信用することができる。そうすると,土曜日であっても本件S車を貸すことはあり得るから,弁護人の主張るがすものではない。 イ判示第4の犯行の際に本件S車が使用されたこと平成31年3月10日午後8時25分頃のdインターチェンジの防犯カメラ映像,同日午後8時37分頃のeインターチェンジの防犯カメラ映像によれば,いずれも白色の普通乗用自動車(車両番号末尾(省略))が通過する様子が認め られる。加えて,同車がdインターチェンジを通過する際に発券され,eインターチェンジで回収された通行券からはAの指紋が検出されている上,Aの携帯電話機の位置情報が,同日午後7時48分頃から同日午後8時13分頃まで小樽市内のU2店にあり,同日午後8時42分頃以降はU3店など札幌市内にあると認められ,Aが同日午後8時13分頃以降同日午後8時42分頃までの間に小樽市から札幌市まで高速道路を走行して移動した まで小樽市内のU2店にあり,同日午後8時42分頃以降はU3店など札幌市内にあると認められ,Aが同日午後8時13分頃以降同日午後8時42分頃までの間に小樽市から札幌市まで高速道路を走行して移動したと考えて矛盾がないことを併せ考慮すると,同車にはAが乗車していたと推認できる。 そして,同車と本件S車とは,車両番号の末尾4桁の数字が一致していることのほか,いずれも車両全体が白色の塗色であること,フロント部分(ヘッドライト,フロントバンパ,フロントウィンカー及びラジエーターグリル等)の各位置・形状が一致していること,フロント部分にあるエンブレムがV社の青色エンブレムであることが認められる。Aが乗車していた車両と本件S車の色や複数の特徴と車両番号の末尾4桁の数字がこのように偶然一致するとは考え難いから,Aが前記各インターチェンジで乗車していた車は本件S車であると認められる。 さらに,同日のAの携帯電話機の位置情報には,AがアパートRから旭川市に車両で移動し,旭川市内において判示第4の犯行場所を含め同市内のスーパーマーケットや量販店合計6店舗に順次車両で赴き,同市内から前記U2店へ移動して札幌市に戻るまでの間も車両で移動したとの記録が残されている。このような広域の移動手段としては車両以外に想定できず,また,同一日の中で本件S車以外の車両で移動して判示第4の犯行に及び,旭川市から小樽市を経由して札幌市に戻るまでの間に本件S車に乗り換えるというのも考えづらいことからすれば,前記インターチェンジでAが乗車していた本件S車で同一日に行われた判示第4の犯行現場にも行っていたと考えるのが自然である。 の事情を総合すれば,判示第4の犯行の際に本件S車が用いられたと認められる。 2 判示第1から第4の各犯行に係るAの証言の核心部分の信用性について 場にも行っていたと考えるのが自然である。 の事情を総合すれば,判示第4の犯行の際に本件S車が用いられたと認められる。 2 判示第1から第4の各犯行に係るAの証言の核心部分の信用性について ⑴ Aの供述の経過及び動機についてア Aは,自己の関与・刑事責任を認めた上で,既に自己の刑事裁判の刑も確定して服役している中で証言しているから,被告人に一方的に責任を押し付けた虚偽証言をする危険性は一定程度低下しているといえる。 イその上,Aは,生活が苦しかったことや被告人との関係を断ち切りたいと考えたことから,令和元年5月19日に札幌方面北警察署に出頭し,判示第1及び第2の各犯行に及んだことを自供し,その際,当初は単独犯行である旨を説明したものの,警察官から追及されるうちに話のつじつまが合わなくなって,被告人と2人で犯行に及んだ旨を供述し,その日は自宅に帰された(A証言)。このように,Aは,警察署に出頭した当日から本件の証人として公判廷で証言するまで一貫して,被告人と共に前記各犯行に及んだ旨を自供しており,自ら刑事責任を負うことを前提に自発的にしたものであるとみることができ,その供述動機も不自然でないから,これについて,虚偽証言を疑う理由はかなり抽象的なものといえる。 ウ他方で,Aは,逮捕された同月21日以降,判示第3及び第4の各犯行(更に後述の4月事件)についても,被告人と共に犯行に及んだことを自供した。 しかし,Aは,自己の証言について,自分が逆恨みして被告人を巻き込んだというふうに言われているとした上で,それが全てではなく縁を切りたいのであってでっち上げてはいない旨を述べる一方で,逆恨みは少しはあるかもしれない旨も述べている。その詳細について問われると,同月20日に警察から帰った後,その翌日には被告人から面前及び電話で2度 いのであってでっち上げてはいない旨を述べる一方で,逆恨みは少しはあるかもしれない旨も述べている。その詳細について問われると,同月20日に警察から帰った後,その翌日には被告人から面前及び電話で2度にわたり退去を求められ,b号室を退去して野宿せざるを得なくなり,かつて被告人からのb号室での同居の申出を受け入れたこともあるのにこのような目に遭って,被告人を恨む気持ちが芽生え,自分だけが刑に服するということでは納得できなくなったので,被告人を道連れにすることに決めたなどと証言する。その証言する経緯が,Aが被告人に逆恨みすることもあり得る内容であることは否定できない。そうすると,判示第3及び第4の各犯行(更に後述の4月事件)の共犯者に係るAの証言の核心部分の信用 性については,Aが被告人を逆恨みして,被告人と一緒に行った犯行をすべて自供するにとどまらず,例えば,被告人以外の共犯者と行った犯行まで被告人と共に行ったなどと,被告人を巻き込む虚偽の証言をする危険が高まったと認め得る事由が,判示第1の犯行等について自供した同月19日の後に生じたと考えられるから,虚偽証言を疑う具体的な理由があることを前提に,より慎重に判断する必要があるといえる。 ⑵ 他の証拠との整合性についてア判示第1及び第2について 前記1の事実関係によれば,判示第1及び第2の各犯行はいずれも男性二人組によりなされており,その一方がAであると認められる。判示第2の犯行は,判示第1の犯行から約2時間半後という近い時間帯に,場所も札幌市a区内の近い店舗において,判示第1の被害者名義のクレジットカードを用いて,判示第2の共犯者が選んだ眼鏡を購入しようとしたというものであり,その手口や時間・場所的な近さからして判示第1の犯行が判示第2の犯行を遂げるための手段になっている 者名義のクレジットカードを用いて,判示第2の共犯者が選んだ眼鏡を購入しようとしたというものであり,その手口や時間・場所的な近さからして判示第1の犯行が判示第2の犯行を遂げるための手段になっているものと考えられるから,両者で共犯者が片方だけ異なるという状況は想定しづらい。加えて,A以外の,判示第1及び第2の各共犯者は,いずれも白色マスク及び灰色っぽいニット帽を身に着け,背面に白字のある黒色フード付きジャンパーを着ている点で人着が共通している。これらの事情を考慮すれば,A以外の,判示第1と第2の各共犯者は,同一人と認められる。 判示第2の被欺罔者であるCは,本件の約3か月後に実施された警察官取調べにおいて,犯人のうち1人は50歳代前半の男性であり,もう1人は50歳代後半から60歳代前半くらいの男性である旨述べ,その際に実施された写真面割において写真帳3冊を示され(なお,写真帳①ないし③にはCの供述に係る犯人の年齢と近い年齢と思われる男性10枚の写真がそれぞれ掲載されており,写真帳③の写真は同②の男性の写真に眼鏡を着用させた写真である。),犯人2人のうちの1人として,写真帳①の3番の写真(同写真の人物は,当公判廷に証人 として出頭したAと認められる。)を選ぶとともに,もう1人として,写真帳③の4番と5番の2名の写真(このうち,5番の写真の人物は,当公判廷に出頭した被告人と認められる。)を選び出し,はっきりとはわからないがどちらかだと思う旨を述べた。 Cは,十分な明るさの店内において,比較的近い距離で万引きを警戒してAと共犯者の相手をしつつその動静を注視していたことから,犯人らを良好な観察条件の下で意識的に観察しており,人相の観察の正確性に問題はないといえる。また,レシートに事故カードなどと表示されたのを初めて見て盗難されたクレジッ その動静を注視していたことから,犯人らを良好な観察条件の下で意識的に観察しており,人相の観察の正確性に問題はないといえる。また,レシートに事故カードなどと表示されたのを初めて見て盗難されたクレジットカードであるとの疑念を抱き,同クレジットカードは使えない旨を自ら説明しており,レシートの事故カードの表示を初めて見るなどの印象的な出来事と共に記憶していること,実際に事件から相当期間経過後の前記写真面割において犯人のうち1人としてAの写真を正しく選び出していることから,記憶が保持されやすかったといえる。また,被告人の写真を選んだ理由について,Cは,マスクで覆われていない目や顔の輪郭が,ぱっちりした目と面長であったという特徴を具体的に指摘し,その供述内容からも慎重に判断している様子がうかがえる。写真面割りに際しては,写真の中に被疑者らがいるかどうか分からない旨の説明が警察官からされ,写真の選別や配列等について不自然な点もないから,警察官らによる不当な誘導や暗示がなされたとは認められない。そうすると,Cの写真面割りに伴う前記供述の信用性は高く,判示第2のA以外の共犯者が,被告人と似た人物であると認められる。 また,前記1⑴イ,カのとおり,判示第2の被害店舗内において,Aの共犯者が,背面に白字で「VAN」などと書かれた黒色フード付きジャンパーを着ていたところ,令和元年5月25日に被告人方から押収されたジャンパーがこれと同じ特徴を有すると認められる。 なお,弁護人は,被告人方から押収されたジャンパーは平成31年2月28日当時はb号室に存在したAの物であり,Aが逮捕された令和元年5月21日以降 に被告人が被告人方に持ち込んだ旨主張し,これに沿った内容の被告人の供述がある。しかし,Aの逮捕後数日内にあえて同人の所持品を被告人方に持ち込むと あり,Aが逮捕された令和元年5月21日以降 に被告人が被告人方に持ち込んだ旨主張し,これに沿った内容の被告人の供述がある。しかし,Aの逮捕後数日内にあえて同人の所持品を被告人方に持ち込むというのは相当に不自然であり,前記供述は信用できないから,弁護人の主張は理由がない。 このように,判示第2の犯行のAの共犯者が被告人と似た人物であることに加え,被告人方から押収された被告人のジャンパーとAの共犯者が判示第2の犯行の際に着ていたジャンパーが,背面に白字で「VAN」などと書かれた黒色フード付きであるという具体的な特徴を同じくするという事実は,異なる事実関係から被告人の判示第2の犯行への関与を指し示すものである。そして,これらA以外の判示第1と第2の各共犯者は同一人と認められることを併せれば,判示第1及び第2の各犯行のいずれも,共犯者が被告人である旨のAの証言の核心部分が積極的に裏付けられるといえる。 イ判示第3及び第4について前記1の事実関係によれば,判示第3及び第4の各犯行も男性二人組によりなされ,その一方がAであると認められ,また,前記1⑵のとおり,各犯行に際して本件S車が用いられていると認められる。本件S車の所有者であるEは,Aに本件S車を貸したことはないが,被告人には,平成31年3月頃から同年4月頃までの間に5回から10回程度本件S車を貸したことがある旨証言する。Eは,Aに本件S車を貸さなかった理由について,Aが運転免許証を持っていないと知っていたからである旨の具体的な根拠を示しながら証言しており,不自然な点がない。Aが運転するという前提でEがAに本件S車を貸すことはなかったという点では被告人もEの前記証言に整合的な供述をしている。したがって,Eの前記証言は信用することができる。 そして,EがAに本件S車を貸 運転するという前提でEがAに本件S車を貸すことはなかったという点では被告人もEの前記証言に整合的な供述をしている。したがって,Eの前記証言は信用することができる。 そして,EがAに本件S車を貸したことはない一方で,判示第3及び第4の各犯行の行われた同年3月上旬を含めた時期に被告人に本件S車を貸したことがあるという事実関係を踏まえれば,判示第3及び第4の各犯行の際に用いられた本 件S車は,被告人がEから借りたものと認められるのであって,そうすると,前記各犯行の際には,Aが被告人と行動を共にしていたと考えるのが自然である。 この点,Eの証言によれば,Eは被告人以外の知人数名に本件S車を貸すことがあったことも認められるが,それらの者はいずれもEの知人であり,Aとの間に人的関係のある者ではなく,Aに又貸しをする意図を秘してEから本件S車を借り,又はAと共に窃盗に及ぶような事情があったとは考えられない。そうすると,判示第3及び第4の各犯行の際に用いられた本件S車は被告人がEから借りたものであったという事実は,被告人がAと行動を共にして判示第3及び第4の各犯行に関与したことを指し示すものであって,判示第3及び第4の各犯行について共犯者が被告人である旨のAの証言の核心部分と整合し,これを支えるものといえる。 この点,弁護人は,被告人の供述に沿って,判示第3の犯行日以前には被告人がEから本件S車を借りたことがなく,また,判示第4の犯行当日には,Aに頼まれて被告人がEから借りた本件S車をAに又貸ししており,被告人自身が判示第4の犯行日に本件S車を利用していた事実はないなどと主張する。しかし,いずれも被告人の供述以外に裏付けはなく,前記のとおり被告人が借りた本件S車は,被告人がAと共に利用していたと考えるのが自然であって,弁護人の主張は採用 用していた事実はないなどと主張する。しかし,いずれも被告人の供述以外に裏付けはなく,前記のとおり被告人が借りた本件S車は,被告人がAと共に利用していたと考えるのが自然であって,弁護人の主張は採用できない。 ⑶ 小括判示第1及び第2の各犯行については,共犯者が被告人である旨のAの証言の核心部分は,前記⑴イで検討したとおり,虚偽証言を疑う理由がかなり抽象的なものといえる上,前記⑵アで検討したとおり,同証言の核心部分を積極的に裏付ける具体的な事実関係があるから,これを信用することができる。 また,判示第3及び第4の各犯行については,前記⑴ウで検討したとおり,被告人を巻き込む虚偽の証言をする危険が高まったと認め得る事由が,判示第1及び第2の各犯行について自供した後に生じたと考えられるから,虚偽証言を疑う 具体的な理由があることを前提に,より慎重に判断する必要があるといえる。しかしながら,前記⑵イのとおり,前記各犯行の際に被告人がEから借りた本件S車が用いられているという,被告人がAと行動を共にして前記各犯行に関与したことを指し示すとともに,共犯者が被告人である旨のAの証言の核心部分と整合し,これを支えるものといえる事実関係があるから,これを総合して考えれば,Aが虚偽証言をしている可能性は否定できる。したがって,前記各犯行についても,同証言の核心部分は,これを信用することができる。 3 4月事件に係るAの証言の核心部分の信用性について⑴ Aの供述の経過及び動機について前記2⑴ウで検討したとおり,4月事件についても,Aには,虚偽証言を疑う具体的な理由があることを前提に,より慎重に判断する必要があるといえる。 ⑵ 他の証拠との整合性についてア 4月事件のAの共犯者は被害店を出る時にマスクをしておらず,その顔貌を撮影した画像に う具体的な理由があることを前提に,より慎重に判断する必要があるといえる。 ⑵ 他の証拠との整合性についてア 4月事件のAの共犯者は被害店を出る時にマスクをしておらず,その顔貌を撮影した画像につき,被告人も自分と似ていると思うと供述していることを指摘できるが,被告人は,それが犯人ならば自分でないとも供述するので,前記共犯者と被告人の顔貌の類似は,客観的に検討する必要がある。 前記画像と,被告人の顔貌とを比較し,両者が同一人であるか否かについて判断できなかった旨を鑑定したGは,顔貌鑑定等に関する専門的知識・経験を備え,かつ,都道府県警察で広く用いられる手法によっており,その分析・評価の過程に特段不自然な点はなく,不鮮明な画質等の影響も踏まえて観察可能な範囲で異同比較を行うなど慎重に判断している。したがって,G証言は,鑑定書の記載を含めて,信用することができる。 ところで,検察官は,G証言の詳細を見ると,前記共犯者と被告人の同一性について一定程度の根拠を与え,かつ,同共犯者と被告人との間で特徴の矛盾点があったとするわけではないとして,G証言が,4月事件について,Aの証言の核心部分の信用性をある程度支えるという。また,検察官は,共犯者と被告人 の顔貌のうち目の形状や輪郭が一見して類似するとも指摘する。 そこで検討すると,G証言(鑑定書の記載を含む。以下同じ。)の詳細は,次のとおりである。すなわち,4月事件の共犯者の顔貌と被告人の顔貌との間には,顔型について形態学的所見(Pöch[ペッヒ]のⅠ型[楕円型])と計測学的所見(過狭顔型)が一致し,眉の形状及び走向並びに耳介の張り出し程度及び左耳垂の付着状態の各形態学的所見が一致したものの,眼部,外鼻,口唇部,前額部及びその他という5項目については,いずれも画像不鮮明等により異同比較 一致し,眉の形状及び走向並びに耳介の張り出し程度及び左耳垂の付着状態の各形態学的所見が一致したものの,眼部,外鼻,口唇部,前額部及びその他という5項目については,いずれも画像不鮮明等により異同比較に必要な所見を得ることができないため,検査項目から除外し,また,三次元顔画像についても対照資料として不適切であると判断して鑑定に用いなかった。今回得られた所見からは,検査項目から除外したものを含めて,両者が同一人であるとすると矛盾するようなものはなかったが,得られた所見の総合的な考察の結果として,両者が同一人であるか否かについて判断できないと結論付けた。 G証言によれば,共犯者と被告人の各顔貌には,顔型,耳介及び眉と3つの部位の形態学的所見の一致があるが,それぞれの出現頻度は,顔貌鑑定について参考にしている書籍(令文社「顔画像の法科学的識別」)上,顔型(ペッヒのⅠ型[楕円型])につき日本人の約6割が該当し,耳介(耳垂の顔部皮膚面に対する付着状態が密着型又は中間型)につき男性の59.3パーセント,眉(形状が直線型かつ走向が水平型)につき26.8パーセントとされていることが認められる。そうすると,前記3項目が組み合わさって所見が一致するということ自体が特異であるということには無理がある。 また,検査項目から除外された眼部や外鼻等は,いずれも画像不鮮明等のため異同判断に必要な所見が得られないとの理由から検査項目から除外されたのであるため,これらの部位に形態学的相違がある可能性は否定できない。眼部について画像が不鮮明であることは前記のとおりであり,Gは顔の輪郭の特徴の一致を認めた上で,顔貌の比較は両者の同一性を裏付けるものではない旨証言しているから,目の形状や輪郭が一見して類似する旨の検察官の指摘は,理由がない。そ の上,Gは,検査項目から 輪郭の特徴の一致を認めた上で,顔貌の比較は両者の同一性を裏付けるものではない旨証言しているから,目の形状や輪郭が一見して類似する旨の検察官の指摘は,理由がない。そ の上,Gは,検査項目から除外した項目について,今回の鑑定で同一人と考えると矛盾する所見は見当たらない旨を述べているが,その意味について,同一人の可能性を排除していないとまで言い切れていないと考えていると述べた上,矛盾するような所見がないこと自体に同一性を後押しする意味付けは与えていないのかと念押しされても「はい」と答えている。 そうすると,G証言に含まれる「別人であるとはいえない」という判断部分に4月事件についてのAの証言の核心部分の信用性を支える意味を与えることは,鑑定結果を過大に評価するものであって,誤っている。 したがって,被告人と共犯者の各顔貌に形態学的所見及び計測学的所見の一致が見られることが,Aの証言の核心部分の信用性を一定程度裏付けるということはできない。 なお,Aは,4月事件と同一日に共犯者と訪れたU4店の防犯カメラに映った共犯者の顔貌(Aの証人尋問調書速記録末尾添付の書面4)を見て,誰が見ても被告人である旨もいうが,具体的な根拠はなく,顔貌鑑定も経ていないものであるから,この点をもってAの証言の核心部分の信用性を補強するものとはいえない。 また,判示第1から第4までの各犯行と4月事件は,日時も場所も離れており,手口が類似するといっても被告人の関与がなければなし得ないような特徴のある手口でもないから,判示第1から第4の各犯行に関するAの証言に裏付けがあるからといって,4月事件に関するAの証言も裏付けられるとはいえない。 以上のとおり,4月事件に関しては,被告人と共に犯行に及んだとするAの証言の核心部分の信用性の裏付けとなる事実関係が認められ るからといって,4月事件に関するAの証言も裏付けられるとはいえない。 以上のとおり,4月事件に関しては,被告人と共に犯行に及んだとするAの証言の核心部分の信用性の裏付けとなる事実関係が認められない。 イ他方,関係証拠によれば,判示第3及び第4の各犯行の際に札幌市外へ移動する手段として利用されてきた本件S車とは別のT車が,4月事件の際には用いられていること,判示第4の犯行日(平成31年3月10日)から4月事件の犯行日(同年4月13日)まで1か月以上の間隔があること,同犯行時には,A と被告人とのb号室での同居が解消されてから相当期間が経過している上,Aの自首調書によれば同年4月初めから判示第1及び第2の各犯行の共犯者と仲違いした疑いがあることも認められる。これらは,4月事件については,Aが被告人以外の第三者と共に及んだと考えても矛盾しない事情ということはできる。 ⑶ 小括4月事件に関しては,前記⑴のとおり,虚偽証言を疑う具体的な理由がある上,被告人と共に犯行に及んだとするAの証言の核心部分について,前記⑵ア,イのとおり,被告人の犯人性の積極的な裏付けとなる具体的な事実関係が認められず,むしろ,Aが被告人以外の第三者と共に犯行に及んだと考えても矛盾しない事情もあるから,これを信用することができない。 4 被告人の供述及びその他の弁護人の主張被告人は,判示第1から第4までの各犯行日について,b号室又は被告人方にいた旨を供述するが,他の証拠による裏付けがない上,判示第1から第4までの各犯行について,前記2⑵で検討したとおり,共犯者が被告人である旨のAの証言の核心部分を積極的に裏付け,あるいは,同部分と整合し,これを支えるものといえる事実関係に照らして不自然であるから,同供述は信用できない。 その他,弁護人及び被告人 犯者が被告人である旨のAの証言の核心部分を積極的に裏付け,あるいは,同部分と整合し,これを支えるものといえる事実関係に照らして不自然であるから,同供述は信用できない。 その他,弁護人及び被告人は,①平成31年2月27日に被告人がAに窃盗の話を持ち掛けたとされる点について,Aの刑事裁判の公判供述との間で変遷があること,②判示第4の犯行後に高速道路を利用した際の前記通行券から検出された指紋がAのもののみであって,被告人の指紋が検出されていないこと,③Aの携帯電話機の位置情報の時刻と防犯カメラ映像から認められる犯人の所在場所における時刻との間に齟齬があり,第三者がAの携帯電話機を保持していた可能性があることなどを指摘し,Aの証言は信用できない旨をいう。 しかし,①については,Aは被告人と共に各犯行に及んだことに関しては一貫して供述し,共同正犯ではなく幇助犯である旨を主張していた自身の刑事裁判においては,犯行に至る経緯について多少の誇張を織り交ぜて供述することも考え られるから,弁護人の指摘する供述の変遷が,被告人の犯人性というAの証言の核心部分の信用性に影響するものとはいえない。また,②については,通行券から指紋が検出されなかったことは通行券に触れていないことを直ちに意味するものではない。また,Aは被告人から指先にマニキュアを塗るよう指示されていた旨も述べており,塗っていた頻度も各人ごとに異なることは容易に推察されるから,Aの指紋のみが検出されたとしても不自然ではない。さらに,③については,携帯電話機の位置情報は,その時点における位置情報を指し示すものであり,同時点以降に同所にいなかったことまで意味するものではなく,また,そもそもGPSの性能に応じた多少の誤差は生じ得るから,弁護人らの主張は理由がない。 その他,弁護人及び被告人 を指し示すものであり,同時点以降に同所にいなかったことまで意味するものではなく,また,そもそもGPSの性能に応じた多少の誤差は生じ得るから,弁護人らの主張は理由がない。 その他,弁護人及び被告人は種々主張するが,いずれも些細な点を論難するものであり,被告人と共に犯行に及んだとする判示第1から第4の各犯行に係る被告人の犯人性というAの証言の核心部分の信用性に疑念を生じさせるものではない。また,弁護人が,判示第1から第4までの各犯行に関して,被告人以外の第三者がAの共犯者であると指摘する根拠は,いずれも被告人が共犯者であることと矛盾するものでない。 ⑶ したがって,被告人の供述や弁護人の主張を踏まえても,判示第1から第4の各犯行に係るAの証言の核心部分の信用性は揺らがない。 5 結論以上の検討によれば,Aの証言は,判示第1から第4までの各犯行に関し,被告人がAと共謀して同人と共に犯行に及んだ旨をいう部分については信用することができ,これによって,Aと共に,前記各犯行に及んだ共犯者が被告人であると認定できる。 他方で,Aの証言は,4月事件に関し,被告人がAと共謀して同人と共に犯行に及んだ旨をいう部分については信用することができず,その他の証拠を見ても,これを認め得る事実関係は認められない。したがって,Aと共に,4月事件に及んだ共犯者が被告人であると認定するには合理的な疑いが残るのであって,主文掲 記の公訴事実第5については犯罪の証明がないことになるから,刑事訴訟法336条により被告人に対し無罪の言渡しをする。 (判示第5の事実認定の補足説明)第1 争点弁護人は,①被告人が,Dにラチェットレンチを振り下ろして腕に当て,同人の頭をドア枠付近に押し,その顔を引っかいたが,その頭部をラチェットレンチで殴り付けたり,果物ナ 定の補足説明)第1 争点弁護人は,①被告人が,Dにラチェットレンチを振り下ろして腕に当て,同人の頭をドア枠付近に押し,その顔を引っかいたが,その頭部をラチェットレンチで殴り付けたり,果物ナイフをその顔面直近で振り回したりしていないとして暴行の態様を争い,②ラチェットレンチを振り下ろした点,Dをドア枠付近に押し,その顔を引っかいた点については,それぞれ正当防衛又は誤想防衛が成立し,被告人は無罪であると主張する。 第2 当裁判所の判断 1 関係証拠によれば以下の事実が認められる(以下,年月日は令和元年12月1日である。)。 ⑴ 被告人は,本件当時,Dが経営するW工業の従業員であったところ,午後3時頃,身柄拘束中で釈放予定であったDを迎えに札幌方面東警察署に行った。同署には,Dの内妻のHとW工業の従業員のIも来ていた。被告人とDは,同署敷地内でW工業の経営を巡って口論となり,互いにつかみ掛かるなどして警察官に制止された。そして,W工業の経営については,被告人とDが後から話をすることとし,DはH及びIと共にタクシーでその場を離れ,被告人は判示第5の集合住宅Q(以下「本件集合住宅」という。)4階のf号室にあるW工業の事務所兼自身の居室(以下「本件事務所」という。)に戻った。 ⑵ 被告人は,午後4時から4時半頃までの間に,Iに電話を掛けて本件事務所への到着予定時刻を尋ねていたところ,Iに替わり電話口に出たDと口論となり,その際,Dから従業員も連れて行くから待っているように伝えられた。 ⑶ その後,被告人は,午後8時頃にIに電話を掛けたところ,Dが仕事の面で世話になっていたJが電話口に出て被告人とDの喧嘩を諫めるような発言をし,被 告人とJとの間で口論となった。被告人は,Jが暴力団構成員であると考えていたものの,警察に たところ,Dが仕事の面で世話になっていたJが電話口に出て被告人とDの喧嘩を諫めるような発言をし,被 告人とJとの間で口論となった。被告人は,Jが暴力団構成員であると考えていたものの,警察に電話を掛けて助けを求めるなどせず,ラチェットレンチを握って寝ることとした。 ⑷ 一方,Dは,W工業の従業員であるK及びIと共に,同人が運転する車で本件集合住宅に行き,同所に到着すると,Iが先に本件事務所に向かい,DとKは少し遅れて本件事務所に向かった。 ⑸ 被告人は,車のドアが閉まるような音を聞いて目を覚まし,間もなく,本件事務所に入ってきたIからDらも直ぐに来る旨を伝えられ,Dらに襲われるのか話合いになるのか半信半疑ではあったものの,ラチェットレンチを右手に持って玄関の方に行った。 ⑹ア午後8時35分頃,被告人が玄関ドアを開けて共同廊下に出ると,Kが玄関ドア付近におり,やや後方にDがいた。被告人は,Kが腰を落としながら拳を上げて身構えるような仕草をしたのを見て,「このやろう。」などと叫んで立ち止まっているDに向かった。被告人は,Dに対し,頭の高さまで振り上げた右腕で,筒形の部分(ソケット部分)を上にして握ったラチェットレンチを振り下ろそうとし,両名の間にいたKに自己の右腕を押さえられながら,なお勢いに任せてラチェットレンチを振り下ろし,ドンという衝突音が生じて,Dの頭部に当たった。 イその後,被告人の右腕をKが手で押さえ,Iが後ろから被告人を羽交い絞めにし,Dが被告人を殴ったりしたが,この間,被告人は,右腕を振り回すなどして暴れ,結局,Iに引っ張られるようにしてDから引き離され,本件事務所に連れ戻された。 ⑺ 被告人は,本件事務所内で顔から出血したことに気付いて怒りを抑えられなくなり,果物ナイフを右手に持って再び本件事務所を出た に引っ張られるようにしてDから引き離され,本件事務所に連れ戻された。 ⑺ 被告人は,本件事務所内で顔から出血したことに気付いて怒りを抑えられなくなり,果物ナイフを右手に持って再び本件事務所を出た。Iは,被告人が果物ナイフを持って出るのが見えたことから,被告人を追い掛けて本件事務所を出た。 ⑻ 被告人は,共同廊下に出ると,果物ナイフを右手に持ってDに向かい,Kに果物ナイフを持つ右腕を押さえられたり,Iに後ろから羽交い絞めにされるなどし たが,右腕を押さえられながらDの顔面直近で果物ナイフを振り回すなどし,Dに判示第5の顔面切創を負わせた。この間,Dが,被告人の手を払ったり,被告人を殴るなどし,Iが,被告人を引き離して本件事務所に連れ戻した。 2 前記1の事実認定の補足説明⑴ 当裁判所は,前記1⑹アのとおり,被告人が,Dに対し,ラチェットレンチを持つ右腕を押さえられながら振り下ろして同人の頭部を1回殴打した事実を認定したが,その理由は,次のとおりである。 ア Dは,Kが被告人とDの間に入る前に被告人が何回もラチェットレンチをDに振り下ろし,二,三回目に頭に当たったと思う旨証言する一方で,Kは,被告人が右腕に持ったラチェットレンチをDに振り下ろそうとしたのでその右腕をつかんだが,勢いに押されて被告人の腕を止められず,ラチェットレンチがDに向けて振り下ろされ,ドンという音を聞いた旨を証言する。このようにDが頭を殴られる前にKが両名の間に入って被告人の腕を押さえていたかという点について,両名の証言は食い違うところ,D証言に不自然さを指摘はできないものの,K証言も特に不自然さはないこと,Kは被告人を以前から嫌っていた旨証言するような立場にあるにもかかわらず,上記の点については,被告人供述もK証言と整合的な内容であることからすれ 摘はできないものの,K証言も特に不自然さはないこと,Kは被告人を以前から嫌っていた旨証言するような立場にあるにもかかわらず,上記の点については,被告人供述もK証言と整合的な内容であることからすれば,D証言ではなくK証言の信用性が高いといえる。したがって,K証言に沿って,被告人が右腕をKに押さえられながらラチェットレンチをDに向けて振り下ろし,ドンという衝突音が生じたという事実を認定した。 イ次に,被告人が振り下ろしたラチェットレンチがDの頭部に当たったかという点についてみる。 Dの左側頭部には本件当日の夜から傷があったと認められるところ,L医師はこれが挫裂創であり,その生じた機序について,局所的に角稜のある,ある程度直線状の鈍体が作用した挫創と,それによって皮膚が引っ張られたことによる裂創から形成されたものであり,ラチェットレンチのソケット部分の一部か持ち手の直線状の部分のいずれかが作用する殴打行為によっても生じ得る傷である旨証言する。 L医師は,法医学に関する専門的知識,経験に問題はなく,その証言内容は,Dの左側頭部の表皮剥脱の状況やラチェットレンチの形態等の客観的な観察結果に基づいて傷が生じた機序を合理的に説明するものである。これに対し,Dの左側頭部の傷の診療をしたM医師は,左側頭部に鈍体が衝突して皮膚を押し潰した挫滅痕と創口があること自体は認めた上で,前記傷が傷口全体に鈍体が当たったことによって形成された挫創と考えられる旨証言する。しかし,M医師が,挫裂創でも挫創でも治療方針に違いがなかったことからL医師と同様の基準でこれらを区別して診断したわけではない旨と,前記傷がL医師の証言する機序で生じた可能性についても否定できず,挫創の可能性の高低をいうことも難しい旨も証言していることからすると,M医師の証言は,L医師の らを区別して診断したわけではない旨と,前記傷がL医師の証言する機序で生じた可能性についても否定できず,挫創の可能性の高低をいうことも難しい旨も証言していることからすると,M医師の証言は,L医師の証言と矛盾するとは言えず,同証言の信用性に疑念を生じさせるものではない。そうすると,L医師の証言の信用性は高い。 弁護人は,L医師の証言が,①縫合後の左側頭部の写真からは表皮剥脱が生じている部位を正確に判断することはできない旨のM医師の証言に反している上,②ラチェットレンチのソケット部分であっても箇所によっては左側頭部の挫裂創を形成し得る旨の証言は捜査段階の供述から変遷しており,その変遷の経緯も不自然であり,信用できない旨主張する。しかし,L医師は,①表皮剥脱が生じている部位を正確に判断することができるDの頭部の写真を選別した上で再度確認し,左側頭部の創縁に沿って表皮剥脱が生じていると判断できる部位を挫創と,その余の部位を裂創と特定し,これらを合わせて挫裂創と判断しており,その判断は選別された写真の内容に照らして合理的であるから,M医師の証言を踏まえても,信用性に疑念は生じない。②ラチェットレンチについても,現物を初めて見てそのソケット部分にも角稜のある鈍体といえる箇所があることを確認した上で,ソケット部分でも左側頭部の挫裂創が生じ得る旨証言しているから,その証言内容や変遷の経緯が不自然でもない。したがって,L医師の証言は,信用できる。 そして,被告人が右腕をKに押さえられながらラチェットレンチをDに向けて振り下ろし,ドンという衝突音が生じたことからすれば,ラチェットレンチがD の頭部に当たったと考えるのが自然といえることに加えて,信用できるL医師の証言する機序に従って左側頭部の傷がラチェットレンチによる殴打行為によっても生じ得る からすれば,ラチェットレンチがD の頭部に当たったと考えるのが自然といえることに加えて,信用できるL医師の証言する機序に従って左側頭部の傷がラチェットレンチによる殴打行為によっても生じ得る挫裂創であることを総合すれば,被告人が前記のとおりラチェットレンチを振り下ろし,Dの頭部を1回殴打したことは,強く推認できる。 被告人は,Dの左側頭部の挫裂創について,Iの左腕で左腕を羽交い絞めにされ,右腕でヘッドロックなどされて後ろにのけ反った状態で,右手の指をDの鼻の穴に突っ込んでその頭部を本件集合住宅の居室の玄関ドアのドア枠に打ち付けたことによって生じた可能性がある旨供述する。しかし,被告人の供述する体勢は相当に不安定なものであり,挫裂創を生じさせる程の強度でDの頭部をドア枠に打ち付けられたと考えるのは不自然であり,L医師もドア枠を成傷器と考えるのは難しい旨証言していることに照らしても,前記供述は信用できない。 ウ以上の検討によれば,被告人がラチェットレンチを持つ右腕を押さえられながら振り下ろしてDの頭部を1回殴打する暴行を加えたと認定できる。 ⑵ 当裁判所は,前記1⑻のとおり,被告人が,右腕を押さえられながらDの顔面直近で果物ナイフを振り回す暴行を加え,同人に判示第5の顔面切創を負わせた事実を認定したが,その理由は,次のとおりである。 ア Dの顔面には右眼のすぐ下方に3か所,左眼の下方の頬付近に1か所,傷があるところ,L医師は,これらが,創縁が直線状に切れているところからナイフのような刃物によって形成された切創と考えられる旨証言する。Dの右眼直下の比較的長い傷と左頬付近の傷は,写真からもL医師の証言するように創縁が直線状と認められるから,前記証言はDの顔面の傷の客観的状況に基づく合理的な考察といえる。被告人が爪でDの顔をひ 。Dの右眼直下の比較的長い傷と左頬付近の傷は,写真からもL医師の証言するように創縁が直線状と認められるから,前記証言はDの顔面の傷の客観的状況に基づく合理的な考察といえる。被告人が爪でDの顔をひっかくなどしたことにより顔面の傷が形成された可能性については,L医師は,湾曲していて幅もあるという爪の形態を踏まえて,爪で引っかけば表皮剥脱を伴う傷が生じるのが通常であり,切創のような傷が生じるとは考え難い旨の合理的な根拠を示して否定しているのであって,前記の二つの傷に関する限り,L医師の証言の信用性は高い。ただし,右眼直下のその余の二つの傷 については,L医師は創縁が鮮鋭で切れた傷に矛盾ないとはいうものの,写真によっても創縁が直線状であるかどうかが分からないのであって,これらも切創であるとするL医師の証言はいささか強引であるから,信用性が低い。 したがって,Dの右眼直下の比較的長い傷と左頬付近の傷は刃物によって形成された切創であると認められる。 イ次に,前記1⑺のとおり,被告人は,本件事務所から再び出る際,果物ナイフを持っていたことが認められる。そして,DとKは,被告人が,果物ナイフを右手に持ってDに向かって行き,果物ナイフを持つ右腕をKにつかまれながら振り回すなどし,Iに背後から羽交い絞めにされるなどしてもなお果物ナイフを持つ右腕を振り回すなどしていたという一連の経過について概ね符合する証言をしており,その限度では両証言の信用性は高い。なお,D証言中には,Kから右腕をつかまれる前から被告人が果物ナイフを振り回していた旨を証言する部分があり,この点はK証言と食い違っているところ,被告人が果物ナイフを振り回す前に被告人の右腕をつかんだ旨のKの証言もそれ自体不自然とはいえないし,Dも果物ナイフが顔面に作用した時点を特定はできないことか ,この点はK証言と食い違っているところ,被告人が果物ナイフを振り回す前に被告人の右腕をつかんだ旨のKの証言もそれ自体不自然とはいえないし,Dも果物ナイフが顔面に作用した時点を特定はできないことからすれば,K証言と食い違うDの前記証言部分の信用性は高いといえない。 したがって,DとKの証言が符合する限度で,被告人が,果物ナイフを右手に持ってDに向かっていき,果物ナイフを持つ右腕をKに押さえられながら,Dの顔面直近で果物ナイフを振り回したとの事実が認められるにとどまる。 なお,被告人は,廊下に出た後,Dを追い込み果物ナイフを振り上げたが,同人の泣きそうな顔を見て冷静になり,それ以上振り回さなかった旨供述する。しかし,怒りを抑えきれずに果物ナイフを持って共同廊下に出てDに向かって行ったという事実経過や切創と認められる傷が顔面に複数生じている説明ができないことに照らして不自然不合理な内容であって,前記供述は信用できない。 ウ前記ア,イのとおり,Dの右眼直下の比較的長い傷と左眼下方の頬付近の傷は刃物による切創であること,被告人が,果物ナイフを持つ右腕をKに押さえられ ながら,Dの顔面直近で果物ナイフを振り回したと認められることを総合すれば,被告人が,右腕を押さえられながらDの顔面直近で果物ナイフを振り回す暴行を加え,Dに前記2つの顔面切創を負わせたことが推認できる。 3 誤想防衛又は正当防衛の成否⑴ 弁護人は,被告人のラチェットレンチによる暴行は,DやW工業の従業員ら,暴力団構成員のJなど10名近くから襲われるとの誤信の下で,自身の生命や身体を守るためにした行為であるから,誤想防衛が成立すると主張する。 しかし,前記1⑹のとおり,被告人が本件事務所を出た際,Kは,身構えるような姿勢を取ってはいるものの,その場で止まっており, 命や身体を守るためにした行為であるから,誤想防衛が成立すると主張する。 しかし,前記1⑹のとおり,被告人が本件事務所を出た際,Kは,身構えるような姿勢を取ってはいるものの,その場で止まっており,Dも被告人に対して攻撃を仕掛けるような挙動をすることなくその場で止まっていた。KやDの前記動静については被告人も認識しており,Kが前記のような姿勢を取ったのは被告人がラチェットレンチを持って共同廊下に出てきたことに対応したものであると考えられ,そのこともラチェットレンチを持って出た被告人が認識できないはずがない。そうすると,被告人がラチェットレンチでDの頭部を殴打した際,被告人がDらから危害を加えられる危険が差し迫っているなど正当防衛が許容されるような状況(以下「正当防衛状況」ともいう。)にはなく,被告人においてその旨誤信するような状況にもなかったと認められる。 この点,被告人は,弁護人の主張に沿った誤信をしていた旨供述する。しかし,被告人は,本件事務所を離れたり警察に電話して助けを求めるなどの身の安全を確保するための行動に出ていないこと,車の音を聞いて目を覚ましたという時も,窓から外の様子をうかがうなどの状況確認さえせず,多数人から襲われると思っていた者として不自然な行動を取ったことになること,被告人は,本件事務所に入ってきたIからDらが程なく来る旨を告げられたにとどまっており,そこから自分が暴行を受ける状況が迫っていると考えたという内容も不自然であること,被告人が共同廊下に出た時点で,その場にDとKしかおらず,かつ,両名が攻撃を仕掛けるような動きもしていないことを認識できたはずであることからすれば,到底,被告人 が正当防衛状況にあると誤信するような状況であったとは考えられないから,これに沿わない被告人の前記供述は信用できない。 きもしていないことを認識できたはずであることからすれば,到底,被告人 が正当防衛状況にあると誤信するような状況であったとは考えられないから,これに沿わない被告人の前記供述は信用できない。 したがって,ラチェットレンチによる暴行について,正当防衛はもとより誤想防衛は成立しない。 ⑵ また,弁護人は,Dの顔面の傷について,ラチェットレンチによる殴打行為に続くもみ合いの中で被告人がDに加えた暴行により生じたことを前提に正当防衛が成立する旨も主張するが,Dの顔面の傷は果物ナイフによる暴行で生じたものと認められるのであり,弁護人の主張は前提を欠く。 なお,果物ナイフをDの顔面直近で振り回した暴行について正当防衛又は誤想防衛が成立するかについてみると,被告人は,ラチェットレンチによる先制攻撃を仕掛けた後にIに本件事務所まで連れ戻されたにもかかわらず,怒りを抑えきれずに果物ナイフを持ってDに向かっていくなどして攻撃する気勢を示し,果物ナイフを持つ右腕を押さえられた状態で振り回すなどしたのであって,このような事実経過を踏まえれば,前記暴行は被告人が仕掛けた単なる加害行為にすぎない。 したがって,果物ナイフによる暴行について,正当防衛状況にはなく,被告人においてそのような状況にあるとの誤信がなかったことも認められるから,正当防衛はもとより誤想防衛も成立しない。 4 結論以上の検討により,被告人が判示第5の暴行に及んで傷害を負わせた事実を認定し,被告人の各暴行について正当防衛も誤想防衛も成立しないと判断した。 (累犯前科)被告人は,⑴平成18年9月4日札幌地方裁判所で麻薬及び向精神薬取締法違反,覚せい剤取締法違反,関税法違反,窃盗,道路交通法違反,詐欺の罪により懲役7年及び罰金200万円に処せられ(平成19年2月2日確定),平成26 8年9月4日札幌地方裁判所で麻薬及び向精神薬取締法違反,覚せい剤取締法違反,関税法違反,窃盗,道路交通法違反,詐欺の罪により懲役7年及び罰金200万円に処せられ(平成19年2月2日確定),平成26年3月17日その懲役刑の執行を受け終わり,⑵その後犯した窃盗,詐欺,暴行の罪により平成27年6月10日同裁判所で懲役4年に処せられ,平成31年1月10日 その刑の執行を受け終わったものであって,これらの事実は検察事務官作成の前科調書及び⑵の前科に係る判決書謄本によって認める。 (法令の適用) 1 構成要件及び法定刑を示す規定判示第1,第3及び第4の各所為はいずれも刑法60条,235条に,判示第2の所為は同法60条,250条,246条1項に,判示第5の所為は同法204条にそれぞれ該当する。 2 刑種の選択判示第1,第3ないし第5の各罪についていずれも懲役刑を選択する。 3 累犯加重判示第1ないし第4の各罪は前記⑴⑵の各前科との関係で3犯であるから,いずれも刑法59条,56条1項,57条により,判示第5の罪は前記⑵の前科との関係で再犯であるから,同法56条1項,57条により,それぞれ累犯の加重をする。 4 併合罪の処理刑法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により最も重い判示第5の罪の刑に同法14条2項の制限内で法定の加重をする。 5 宣告刑の決定以上の刑期の範囲内で被告人を懲役5年に処する。 6 未決勾留日数の算入刑法21条を適用して未決勾留日数中330日をその刑に算入する。 7 訴訟費用の不負担訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させない。 (量刑の理由)最も重い本件傷害の犯行は,前記累犯前科に粗暴犯を含む罪も含まれるにもかかわらず,Kらに制止されながらも執 訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させない。 (量刑の理由)最も重い本件傷害の犯行は,前記累犯前科に粗暴犯を含む罪も含まれるにもかかわらず,Kらに制止されながらも執拗に暴行に及んでいる。その態様もラチェットレンチで頭部を殴打したり,果物ナイフを顔面直近で振り回したりするなど,凶器 を用いた粗暴で危険なものである。被害者の負った傷害結果も軽視できず,同人が厳罰を望むのも当然である。勤務先の経営を巡るトラブルから犯行に至った経緯も短絡的であって酌むべき点はない。 また,本件窃盗,詐欺未遂の犯行は,被告人が,同種の窃盗,詐欺事犯を含む罪による直近の累犯前科の刑の執行終了から2か月足らずで,買い物中の客のバッグを盗む行為を,10日余りの間に,3回にわたり行い,うち1回は盗んだバッグ内のクレジットカードを使用して詐欺未遂に及んだものであり,常習性の高い職業的な犯行である。被告人は,共犯者に犯行を持ち掛けた上,盗取役及び詐欺未遂の際の買い物客を装って被害品を選び出す役といった各犯行に不可欠で重要な役割を果たした。もとより,金欲しさの犯行と推認でき,動機に酌む余地はない。 以上の犯情に照らせば,被告人の刑事責任はかなり重く,その評価に際し,前記詐欺の犯行が未遂に終わった点を考慮できるにとどまる。その上で,被告人に反省も見られないことなどの事情も踏まえ,主文の刑を量定した。 (検察官岡田和人,同畑尚登,国選弁護人山本賢太郎各出席)(求刑懲役8年)令和3年5月20日札幌地方裁判所刑事第1部 裁判長裁判官石田寿一 裁判官古川善敬 裁判官北村規哲 官 石田 寿一 裁判官 古川 善敬 裁判官 北村 規哲

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