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平成10(わ)465 殺人等

裁判所

平成14年12月11日 和歌山地方裁判所

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19,308 文字

【 判決骨子 】平成10年わ第465号,第500号,第532号,第580号殺人,殺人未遂,詐欺被告事件被告人  A第1 カレー毒物混入事件における被害の発生とその原因平成10年7月25日,B自治会で開催された夏祭りで提供された東鍋カレーを食べた住民67名が,突然,激しいおう吐症状等に襲われて病院に搬送されるなどしたが,うち4名が死亡した。その東鍋カレーからは高濃度の砒素(亜砒酸)が検出され,カレーを食べた住民の症状が急性砒素中毒によることが判明した。第2 関係亜砒酸の同一性(被害の原因となった亜砒酸の由来) 1 この東カレー鍋の中の亜砒酸が,どこから持ち込まれたものなのかを検討するため,被告人の実兄C方で保管されていたaないしcの3つの缶及びdタッパー内の亜砒酸並びに被告人の旧宅のD方ガレージから押収されたeミルク缶内の亜砒酸の亜砒酸粉末5点,被告人方から押収されたfプラスチック製小物入れ付着の亜砒酸及び夏祭り会場から押収されたg青色紙コップ付着の亜砒酸並びにi東鍋カレー中の亜砒酸結晶について,その異同を識別する鑑定が行われた。2 この異同識別の鑑定は,亜砒酸中に製造段階において既に存在している微量元素(以下,「指標元素」という。)の含有状況を比べることで,関係亜砒酸の同一性を判断しようというものである。3 捜査段階においては,SPring-8での放射光を使用した放射光蛍光X線分析(以下,「E鑑定」という。)及びICP-AESによる分析(以下,「科警研鑑定という。)が行われ,公判段階ではSPring-8での放射光を使用した放射光蛍光X線分析(以下,「F鑑定」という。)が行われた。捜査段階と公判段階で,それぞれSPring-8での放射光を使用した放射光蛍光X線 れ,公判段階ではSPring-8での放射光を使用した放射光蛍光X線分析(以下,「F鑑定」という。)が行われた。捜査段階と公判段階で,それぞれSPring-8での放射光を使用した放射光蛍光X線分析が行われたが,E鑑定は,測定されたスペクトルにおける指標元素ごとのピークの高さそのものをパターンとして分析するものであるのに対し,F鑑定は,測定されたスペクトルの指標元素のピークの高さから,検量線法により濃度の数値化を試みたものである。 8での放射光を使用した放射光蛍光X線分析(以下,「F鑑定」という。)が行われた。捜査段階と公判段階で,それぞれSPring-8での放射光を使用した放射光蛍光X線分析が行われたが,E鑑定は,測定されたスペクトルにおける指標元素ごとのピークの高さそのものをパターンとして分析するものであるのに対し,F鑑定は,測定されたスペクトルの指標元素のピークの高さから,検量線法により濃度の数値化を試みたものである。4 放射光蛍光X線分析は,励起源が通常のX線ではなく放射光であるという点が異なるだけで,測定,分析の原理は通常の蛍光X線分析と同じものである。放射光による蛍光X線分析は,既に長年の研究の積み重ねがあり,現在,SPring-8を始め第3世代と呼ばれる放射光施設を含め高度な研究が進められている。本件において,放射光による蛍光X線分析を行った各鑑定人は,それぞれ,長年,その分野において研究をし,SPring-8の建設にも関与した専門家であって,また,本件における分析手法は極めて合理的なものといえる。またICP-AESは,資料を費消してしまう検査ではあるが,資料による検査機器の汚染の危険が少なく,同時に多元素の定性及び定量分析が可能な分析方法である。このように本件で行われた関係亜砒酸の異同識別の鑑定は,最先端の科学技術による分析であり,いずれも合理的かつ高水準の方法による分析がなされているが,本件での分析が少量又は微量の亜砒酸試料中に含まれるppmレベルの極めて微量な元素の含有状況を探ろうという元来困難な分析作業であって,資料の量等の条件や分析手法によって一定の限界や制約を伴わざるを得ない。したがって,関係亜砒酸の異同識別の判断は,1個の異同識別の分析結果のみで判断するのではなく,そのような個々の 析作業であって,資料の量等の条件や分析手法によって一定の限界や制約を伴わざるを得ない。したがって,関係亜砒酸の異同識別の判断は,1個の異同識別の分析結果のみで判断するのではなく,そのような個々の分析結果を1つの判断資料としてとらえ,複数の異なる手法による分析結果の総合的な検討により判断するのが事実認定のあり方として相当である。5 aないしeの5点の亜砒酸粉末は,上記3つのいずれの異同識別鑑定においても,原料鉱石由来の微量元素であるスズ,アンチモン,ビスマスの含有量の構成が酷似しており,また,対照資料からはほとんど検出されなかったモリブデンが検出された。 判断するのではなく,そのような個々の分析結果を1つの判断資料としてとらえ,複数の異なる手法による分析結果の総合的な検討により判断するのが事実認定のあり方として相当である。5 aないしeの5点の亜砒酸粉末は,上記3つのいずれの異同識別鑑定においても,原料鉱石由来の微量元素であるスズ,アンチモン,ビスマスの含有量の構成が酷似しており,また,対照資料からはほとんど検出されなかったモリブデンが検出された。f及びgについても,同様にスズ,アンチモン,ビスマスの含有量の構成が酷似しており,モリブデンが検出された。また,c,d及びeの亜砒酸粉末からはバリウムが検出され,f及びgのいずれの付着亜砒酸からもバリウムが検出された。これらの分析結果のうち,aないしeに関する分析結果は,Gが以前経営していた白蟻駆除業に従事していた者の各亜砒酸資料の由来に関する供述と一致する結果であった。また,対照資料65点(41種類)を分析したが,aないしeと同様の微量元素の構成をもつ亜砒酸はなかった。このような3つの異同識別鑑定等を総合的に検討すると,aないしgの各亜砒酸は,原料鉱石由来の微量元素の構成が酷似していることから,製造段階において同一のものであると認められる。さらに,製造後の使用方法に由来すると考えられるバリウムをもほぼ共通して含有していることが明らかとなった。6 aないしgの亜砒酸(嫌疑亜砒酸)と,i東鍋カレー中の亜砒酸との同一性に関しては,①東鍋カレーから採取された総結晶中の体積的に約4分の1の結晶を分析したところ,その指標元素の総量の構成が,比較的嫌疑亜砒酸の指標元素 酸(嫌疑亜砒酸)と,i東鍋カレー中の亜砒酸との同一性に関しては,①東鍋カレーから採取された総結晶中の体積的に約4分の1の結晶を分析したところ,その指標元素の総量の構成が,比較的嫌疑亜砒酸の指標元素の構成と似たものであったこと,②スズ,アンチモン,ビスマス等の元素を沈殿させた東鍋カレーの硫化沈殿物中の微量元素の構成が嫌疑亜砒酸の構成とよく似ていたこと,③嫌疑亜砒酸の特徴的元素であるモリブデンがカレー中の亜砒酸結晶から検出されていること,④カレー中の亜砒酸結晶からバリウムが検出されていることという鑑定結果に加え,亜砒酸自体が希少なものであって,本件青色紙コップが発見された状況等からg本件青色紙コップ内の亜砒酸が東カレー鍋に混入された可能性が高いといえることを総合的に考慮すると,東カレー鍋には,aないしfの亜砒酸のいずれかが,g本件青色紙コップを介して混入された蓋然性が高いと認められる。 がカレー中の亜砒酸結晶から検出されていること,④カレー中の亜砒酸結晶からバリウムが検出されていることという鑑定結果に加え,亜砒酸自体が希少なものであって,本件青色紙コップが発見された状況等からg本件青色紙コップ内の亜砒酸が東カレー鍋に混入された可能性が高いといえることを総合的に考慮すると,東カレー鍋には,aないしfの亜砒酸のいずれかが,g本件青色紙コップを介して混入された蓋然性が高いと認められる。そして,嫌疑亜砒酸と製造段階が同一であり,製造後の使用方法に由来するバリウムも含有するが,嫌疑亜砒酸とは異なる亜砒酸が東カレー鍋に混入された蓋然性は低く,本件における混入の場所や混入の機会を考えると,そのような亜砒酸が東カレー鍋に混入されたと考えることは,現実的には極めて困難であるから,東カレー鍋に混入された亜砒酸は,g本件青色紙コップを介して,aないしfのいずれかの亜砒酸である蓋然性が極めて高いと認められる。7 なお,異同識別の分析がされた各種亜砒酸資料の収集,保管に,特に不適切な点はなく,E教授がカレー資料中から発見したとする亜砒酸結晶は,E教授が偶然に発見したものであって,作為的なものではないと認められる。第3 亜砒酸が混入された機会 1 東カレー鍋の中にに亜砒酸が混入されたのは,7月25日午前8時30分ころにガレージにおいてカレーの調理が 発見したものであって,作為的なものではないと認められる。第3 亜砒酸が混入された機会 1 東カレー鍋の中にに亜砒酸が混入されたのは,7月25日午前8時30分ころにガレージにおいてカレーの調理が始まってから,午後6時ころに夏祭りが始まるまでの間である。どのような時間帯に東カレー鍋の中に亜砒酸を混入することが可能であったかを検討するに,ガレージでカレーやおでんの調理が行われていた午前中の時間帯及び午後1時過ぎころに住民2人で見張りをするようになってから午後3時ころにカレー鍋等が夏祭り会場に運ばれるまでの時間帯については,ガレージでの人の出入りや行動等は,ほぼ個別に確定することができ,絶えず,複数の住民がカレー鍋周辺におり,また,不審者も見かけられていないから,この時間帯には,東カレー鍋の中に亜砒酸は混入されていないと認められる。2 午後3時ころにカレー鍋が夏祭り会場に運ばれてからの時間帯については,カレー鍋周辺の細かな人の動きを具体的に特定することは困難であるが,夏祭り会場や東カレー鍋が置かれていたテント内での準備状況等から,夏祭り会場にカレー鍋が運ばれた後に,自治会住民以外の不審人物が亜砒酸を混入した可能性はないに等しいということができ,また,自治会住民が混入した可能性もほとんどないと認められる。 ていないと認められる。2 午後3時ころにカレー鍋が夏祭り会場に運ばれてからの時間帯については,カレー鍋周辺の細かな人の動きを具体的に特定することは困難であるが,夏祭り会場や東カレー鍋が置かれていたテント内での準備状況等から,夏祭り会場にカレー鍋が運ばれた後に,自治会住民以外の不審人物が亜砒酸を混入した可能性はないに等しいということができ,また,自治会住民が混入した可能性もほとんどないと認められる。3 午後零時から午後1時過ぎころまでの時間帯に関しては,午後零時20分ころ(前後5分程度の幅のある時間である。)から午後1時ころまで被告人が鍋の見張り当番をしていたことが認められた。そして,この前後の時間帯については,住民3人が1人で見張りをしていたのは,いつほかの見張りの人が来るか分からない状態での短時間の見張りに過ぎず,また,自らや家族が実際にカレーを食べて急性砒素中毒の被害を受けており,亜砒酸との接点も認められなかった。見張りをしていたのは,いつほかの見張りの人が来るか分からない状態での短時間の見張りに過ぎず,また,自らや家族が実際にカレーを食べて急性砒素中毒の被害を受けており,亜砒酸との接点も認められなかった。したがって,これら3名が1人で見張りをしていた際には,いずれも亜砒酸は混入されていないと認められる。4 したがって,被告人が午後零時20分ころから午後1時ころまでカレー鍋等の見張り番をしていた時間帯に,東カレー鍋に亜砒酸が混入された蓋然性が極めて高いといえる。被告人が午後零時20分ころから午後1時まで鍋の見張り当番をしていた時間帯は,被告人が次女と一緒に見張りをしていた時間帯や,少なくとも1度はガレージから離れた時間帯が認められるが,それ以外の時間帯は,被告人が1人で見張りをしていたから,その時間帯に,被告人が東カレー鍋に亜砒酸を混入することは十分に可能であった。また,被告人は,1人で見張りをしている際に,しきりに道路の方を気にしながら西カレー鍋の蓋を開けるという不自然な行動をしていた。第4 被告人や関係者と亜砒酸等の関係 1 被告人方の台所の排水管内の汚泥や台所の排水が流れる会所の汚泥から近隣周辺と比べて顕著に高濃度の砒素が検出され,台所流しから砒素が流されたことがあることを推認された。また,麻雀部屋のほこりからも亜砒酸が検出され,さらに,被告人の毛髪からは通常では付着するはずのない無機の3価砒素の外部付着が認められ,被告人が亜砒酸に接触していた蓋然性は高いことが判明した。 た。第4 被告人や関係者と亜砒酸等の関係 1 被告人方の台所の排水管内の汚泥や台所の排水が流れる会所の汚泥から近隣周辺と比べて顕著に高濃度の砒素が検出され,台所流しから砒素が流されたことがあることを推認された。また,麻雀部屋のほこりからも亜砒酸が検出され,さらに,被告人の毛髪からは通常では付着するはずのない無機の3価砒素の外部付着が認められ,被告人が亜砒酸に接触していた蓋然性は高いことが判明した。2 東カレー鍋に混入された蓋然性が高い嫌疑亜砒酸と被告人との関連性を検討すると,CやDから押収された嫌疑亜砒酸は,いずれも被告人の夫GがH工芸として白蟻駆除業をしていた当時に使っていたものであるが,それらをCに譲渡する以前の段階では自宅ガレージ等に 人との関連性を検討すると,CやDから押収された嫌疑亜砒酸は,いずれも被告人の夫GがH工芸として白蟻駆除業をしていた当時に使っていたものであるが,それらをCに譲渡する以前の段階では自宅ガレージ等に保管していたのであって,被告人が入手することは極めて容易であり,その後についても,少なくともD方のミルク缶については,被告人は容易に入手し得る状況にあった。そして,被告人は,H工芸時代のGとその従業員との会話等から,砒素の危険性を十分に知っていたものと認められる。3 被告人方台所の流し台シンク下の収納庫から押収され嫌疑亜砒酸が採取されたf本件プラスチック製小物入れは,平成7年の秋ころ,被告人が実兄のCに依頼して「白アリ薬剤」と書いてもらった容器であった。この行為は,この容器と被告人との関係を打ち消しておきたかったためと考えるのが自然である 4 以上のように,被告人は,亜砒酸とは極めて密接な関係にあり,また,東カレー鍋に混入された蓋然性が高い嫌疑亜砒酸を容易に入手し得る立場にあったことが判明した。5 H工芸で働いたり,嫌疑亜砒酸が置かれていた等から,東カレー鍋に混入された蓋然性の高い嫌疑亜砒酸と接点のあった者は,7月25日当日は被告人方周辺には来ておらず,また,被告人夫婦とつながりの強かったKは,被告人夫婦との関係を断ち切ろうとしていた時期であり,Lは入院中であって,いずれも7月25日は被告人方周辺には来ていなかった。Gは,当時自宅にいたがガレージ付近では目撃されておらず,また,被告人から砒素を摂取された被害者であり,かつ,自分が急性砒素中毒であったことをカレー毒物混入事件当時も知らずに砒素とは無関係の生活を過ごしていたのであるから,東カレー鍋に砒素を混入してはいないと認められる。 たKは,被告人夫婦との関係を断ち切ろうとしていた時期であり,Lは入院中であって,いずれも7月25日は被告人方周辺には来ていなかった。Gは,当時自宅にいたがガレージ付近では目撃されておらず,また,被告人から砒素を摂取された被害者であり,かつ,自分が急性砒素中毒であったことをカレー毒物混入事件当時も知らずに砒素とは無関係の生活を過ごしていたのであるから,東カレー鍋に砒素を混入してはいないと認められる。さらに,被告人以外の自治会住民で,東カレー鍋 毒であったことをカレー毒物混入事件当時も知らずに砒素とは無関係の生活を過ごしていたのであるから,東カレー鍋に砒素を混入してはいないと認められる。さらに,被告人以外の自治会住民で,東カレー鍋に混入された蓋然性の高い亜砒酸と接点を持つ者は見当たらなかった。第5 夏祭り当日以降の被告人の言動被告人は,見張り当番中に面前で次女がカレーの味見をし,事件発生後は保健所等がしきりに検査を受けるよう呼びかけ,また,被告人も直後は周囲に娘に検査を受けさせる等言っていながら,実際には,次女に対して検査を受けるように言ったことすらなかった。このような行為は,母親としては不自然な行為といえる。また,被告人は,8月2日夕方にカレー毒物混入事件の原因毒物が砒素であると報道された翌朝に,実兄に対し,被告人方で砒素を使用していたことを口止めする内容の電話をかけているが,そのあまりの性急さはやはり不自然な行動といわざるを得ない。第6 被告人夫婦の生活状況及び保険契約の状況被告人夫婦は,Gの経営する白蟻駆除業が平成4年4月に廃業となり,被告人が平成2年に始めた保険外交員の仕事も平成8年末には辞め,以後,被告人夫婦は定職に就かず定期的な収入がない状態であったにもかかわらず,稼働による収入を得ていた時代から,異常に高額な保険料を,保険会社や消費者金融から借り入れて払い続け,時折,高額の保険金を取得すると,借金の返済や保険料の支払いに充て,物品や不動産等高額な購入もするという生活をしており,平成7年以降は,年間収支いずれも1億円ないし2億円を超えるという普通の家庭では到底考えられない生活を,保険金収入を中心に成り立たせてきた。そのような被告人夫婦の生活状況全体を概観すると,被告人にとって,生命保険等の保険契約は,例えて言うならば,「預金機 普通の家庭では到底考えられない生活を,保険金収入を中心に成り立たせてきた。 険料の支払いに充て,物品や不動産等高額な購入もするという生活をしており,平成7年以降は,年間収支いずれも1億円ないし2億円を超えるという普通の家庭では到底考えられない生活を,保険金収入を中心に成り立たせてきた。そのような被告人夫婦の生活状況全体を概観すると,被告人にとって,生命保険等の保険契約は,例えて言うならば,「預金機 普通の家庭では到底考えられない生活を,保険金収入を中心に成り立たせてきた。そのような被告人夫婦の生活状況全体を概観すると,被告人にとって,生命保険等の保険契約は,例えて言うならば,「預金機能のある宝くじ」のようなものであって,当たれば一度に高額の収入を得ることができ,また,当たらない時期が続いても,解約すれば,元本割れはするものの一定金額が必ず返ってくるという性格のものとして位置付けられ,運用されていたものと評価することができる。そして,この位置付けは,当然ながら時には宝くじに当たることを前提にして初めて成り立つものであるから,被告人としては保険事故が発生することに強い期待を抱くとともに,保険事故が発生するように行動する,あるいは保険事故が発生したかのように行動する強い動機となっていったものというべきである。第7 Iの急性砒素中毒と被告人の犯人性 1 Gの下で働いていたIは,昭和60年11月に死亡したが,その原因は,急性砒素中毒によるものと認められる。2 被告人が関与して,Iを被保険者とする3口の生命保険が掛けられていたが,振込口座の変更状況や保険への加入状況からは,被告人に保険金の不正取得目的が疑われる。3 しかし,Iは,現に砒素を扱う白蟻駆除駆除の仕事に従事しており,自宅に砒素を保管する等していたから,ほかの可能性を排斥して,被告人が,飲食物等に亜砒酸を混入して摂取させ,Iを殺害したと認めることはできない。第8 Jの急性砒素中毒と被告人の犯人性 1 Gの下で働いていたJは,昭和62年2月15日深夜に突然激しいおう吐等に襲われた。この症状は,その後の症状や検査所見から,急性砒素中毒によるものと認められる。2 被告人主導でJを被保険者とする生命保険が掛けられているが,その必要性が乏しいことや名義変更の不自然さ,そ れた。この症状は,その後の症状や検査所見から,急性砒素中毒によるものと認められる。2 被告人主導でJを被保険者とする生命保険が掛けられているが,その必要性が乏しいことや名義変更の不自然さ,その後の保険金を被告人夫婦が取り込んでいることから,保険金不正取得目的が強く疑われる。 のと認められる。2 被告人主導でJを被保険者とする生命保険が掛けられているが,その必要性が乏しいことや名義変更の不自然さ,そ れた。この症状は,その後の症状や検査所見から,急性砒素中毒によるものと認められる。2 被告人主導でJを被保険者とする生命保険が掛けられているが,その必要性が乏しいことや名義変更の不自然さ,その後の保険金を被告人夫婦が取り込んでいることから,保険金不正取得目的が強く疑われる。3 Jが腹部症状を発症した前日の2月14日の状況を検討すると,Jがその夜,被告人が作ったお好み焼きを食べたこと,Jは現場で砒素を撒く作業はしていなかったから,仕事上砒素を誤摂取する可能性は他の従業員に比べれば少ないこと,被告人は砒素を容易に入手し得る立場にあったこと,保険金不正取得目的が強く疑われること等から,被告人の犯行の可能性は相当程度あるといえる。しかしながら,仕事や被告人方の家事の手伝いでJが砒素に触れた可能性も否定できず,そもそも10年以上の前の出来事であって,症状の発症から想定される砒素摂取の時間帯に,上記お好み焼き以外に砒素を誤摂取した可能性は必ずしも排斥されていない。また,証拠上,Jを狙って特定のお好み焼きを食べさせた等の被告人の不自然な素振り等は認められない。したがって,被告人が,お好み焼きに砒素を混入してJに摂取させたと認めるには合理的な疑問が残る。第9 昭和63年のG及びDの急性砒素中毒と被告人の犯人性 1 Gは,昭和63年3月中旬ころ,おう吐等の腹部症状を発症したが,その後の症状や検査所見から,その腹部症状は,急性砒素中毒によるものと認めれられる。2 昭和61年2月以降,Gを被保険者として3口の生命保険が締結されているが,異常に高額であり,当時の被告人管理の保険の状況等を考えると,この3口の生命保険について,被告人の保険金不正取得目的が強く疑われる。3 しかし,昭和63年3月ころのGの食事や白蟻駆除の仕事の状況は何ら判明 額であり,当時の被告人管理の保険の状況等を考えると,この3口の生命保険について,被告人の保険金不正取得目的が強く疑われる。3 しかし,昭和63年3月ころのGの食事や白蟻駆除の仕事の状況は何ら判明していないから,被告人が,飲食物の砒素を混入してGに摂取させたと認めることはできない。4 Gと同じ病院に入院していたDは,昭和62年5月10日午後6時ころ,Gの病室で,Gに差し入れられた餃子と酢豚の一部を食べた後,午後10時ころから激しい吐き気等の症状に襲われたが,その後の症状や検査所見から,その症状は,急性砒素中毒によるものと認められる。 和63年3月ころのGの食事や白蟻駆除の仕事の状況は何ら判明していないから,被告人が,飲食物の砒素を混入してGに摂取させたと認めることはできない。4 Gと同じ病院に入院していたDは,昭和62年5月10日午後6時ころ,Gの病室で,Gに差し入れられた餃子と酢豚の一部を食べた後,午後10時ころから激しい吐き気等の症状に襲われたが,その後の症状や検査所見から,その症状は,急性砒素中毒によるものと認められる。5 Dが食べた餃子と酢豚は,被告人が差し入れた可能性が高く,当時,被告人に,Gに掛けた保険による保険金不正取得目的が強く疑われること,入院中のDが砒素を摂取することは通常は考えられないこと等を考えると,Dが急性砒素中毒にり患した原因は,被告人が持ち込んだ可能性の高い餃子,酢豚に砒素が混入されていた可能性が相当程度あるといえる。しかしながら,残りの酢豚と餃子をGも食べた可能性が高いところ,Gはその後砒素摂取に基因するようなおう吐等の腹部症状を発症してない。そして,10年以上も前の出来事で,Dが,Gの病室で酢豚と餃子を食べたということ以外の状況は明らかになっていないことを考えると,被告人がGに摂取させる目的で,Dが食べた餃子や酢豚に砒素を混入させていたと認めるには,合理的な疑問が残る。第10 K,Lと被告人夫婦の関係及び意識消失の出現 1 Kは,平成8年2月から平成10年3月まで,被告人方に住み込み,その間,被告人夫婦丸抱えの生活をしていた。Kには,被告人によって異常に高額の保険が掛けられており,被告人夫婦にとってKは,保険金不正取得の手段あるいは対象として貴重な存在であった。また,Kも,気ままでルー 告人夫婦丸抱えの生活をしていた。Kには,被告人によって異常に高額の保険が掛けられており,被告人夫婦にとってKは,保険金不正取得の手段あるいは対象として貴重な存在であった。また,Kも,気ままでルーズな生活を与えられていたことから,平成10年4月に,自分が何か毒を盛られているのではないかと考えるようになって実家に帰るまで,被告人夫婦の指示に従って行動し,不正な方法で取得された保険金収入で維持されているHファミリーの一員となっていた。2 Lは,被告人方に頻繁に出入りし,被告人夫婦とつながりが強かったが,自営で仕事をしていたことがあり,また,金銭的にルーズな面があったことから,被告人夫婦にとっては,保険金の不正取得の協力を得やすく,対外的な交渉面で役に立つ人物であった。 るのではないかと考えるようになって実家に帰るまで,被告人夫婦の指示に従って行動し,不正な方法で取得された保険金収入で維持されているHファミリーの一員となっていた。2 Lは,被告人方に頻繁に出入りし,被告人夫婦とつながりが強かったが,自営で仕事をしていたことがあり,また,金銭的にルーズな面があったことから,被告人夫婦にとっては,保険金の不正取得の協力を得やすく,対外的な交渉面で役に立つ人物であった。また,Lは,経済的に困窮しており,被告人夫婦に援助を受けていたから,被告人夫婦の指示を断れない立場であった。したがって,Lは,不正な方法で取得された保険金収入で維持されているHファミリーの一員であるともに,Kと比べれば,Gに近い立場であった。3 Kは,平成8年2月から平成10年3月までの間,10回にわたり,原因不明の意識消失状態に陥っているが,そのうち,医学的な所見等から睡眠薬の薬理作用によると認められるものは3回であり,当時,被告人によって,Kを被保険者とする多数の保険が掛けられKの疾病を奇貨とする保険金不正取得目的があったこと,被告人は病院から睡眠薬を処方されていたこと等を考えると,その3回は,被告人夫婦かそのいずれかが,保険金不正取得目的でKに睡眠薬を摂取させたものと認められ,そのうち1回は,Kが意識を失う直前にGがKに多額の現金を預けていることから,被告人が関与したものであると認められる。残り7回のうち1回については,被告人の言動から,被告人が関与したこと れ,そのうち1回は,Kが意識を失う直前にGがKに多額の現金を預けていることから,被告人が関与したものであると認められる。残り7回のうち1回については,被告人の言動から,被告人が関与したことが認められる。4 Lは,Kが被告人方から実家に戻った平成10年5月及び同年7月の2回,原因不明の意識消失状態に陥った。このうち,5月の意識消失は,医学的所見等から,睡眠薬の薬理作用による可能性が高いといえる。そして,平成10年5月当時,被告人が管理するLを被保険者とする保険は,異常に多額なものとなっており,被告人には,Lの疾病を奇貨とする保険金不正取得目的があったと認められるから,5月の意識消失は,被告人夫婦かそのいずれかが,Lに睡眠薬を摂取させたものと認められる。しかしながら,具体的な睡眠薬摂取状況を確定することは困難であるから,被告人の犯行とまで認めることはできない。 用による可能性が高いといえる。そして,平成10年5月当時,被告人が管理するLを被保険者とする保険は,異常に多額なものとなっており,被告人には,Lの疾病を奇貨とする保険金不正取得目的があったと認められるから,5月の意識消失は,被告人夫婦かそのいずれかが,Lに睡眠薬を摂取させたものと認められる。しかしながら,具体的な睡眠薬摂取状況を確定することは困難であるから,被告人の犯行とまで認めることはできない。また,7月の意識消失については,なんら医学的検討がされておらず,その他の情況証拠を踏まえても,睡眠薬の薬理作用によるものと認めることはできない。第11 平成7年及び平成9年のGの急性砒素中毒と被告人の犯人性 1 Gは,平成7年8月,同年9月及び平成9年1月下旬に,おう吐等の腹部症状を訴えているが,関係証拠上,その症状が,ほかの疾病の可能性を否定して,急性砒素中毒によるものとまで認めることはできない。2 Gは,平成9年2月6日におう吐等の腹部症状に襲われているが,その後の症状や検査所見等から,その症状は,急性砒素中毒によるものと認められる。3 Gの平成9年2月6日発症の急性砒素中毒については,当時の飲食状況から,2月6日の昼にGが食べたくず湯に砒素が混入されていた可能性が極めて高いこと,そのくず湯は被告人が1人で作ったものであること,当時Gを被保険者として多額の保険 素中毒については,当時の飲食状況から,2月6日の昼にGが食べたくず湯に砒素が混入されていた可能性が極めて高いこと,そのくず湯は被告人が1人で作ったものであること,当時Gを被保険者として多額の保険が掛けられていたこと,被告人は砒素を入手し得る立場にあったこと,被告人はGの死亡を強く期待する言動をしていたこと等から,被告人が,保険金目的で,くず湯に砒素を混入しGに食べさせたものと認められる。そして,被告人の言動から,この犯行が,保険金目的のみならず,Gに対する憎しみ的感情をも背景に持つ犯行と考えられることから,確定的殺意に基づく犯行と認めることができる。第12 Kの急性砒素中毒と被告人の犯人性 1 Kは,被告人方に住み込んでいた期間中である平成9年9月22日,同年10月12日,同月19日,平成10年3月29日の4回にわたり,激しいおう吐等の腹部症状に襲われている。そして,その後の症状や検査所見を含めた関係証拠からは,平成9年9月22日,同年10月12日,平成10年3月29日に3回の腹部症状は,急性砒素中毒によるものと認められるが,平成9年10月19日発症の腹部症状については,ほかの疾病等の可能性を否定して急性砒素中毒によるものであるとまで認めることはできない。 月12日,同月19日,平成10年3月29日の4回にわたり,激しいおう吐等の腹部症状に襲われている。そして,その後の症状や検査所見を含めた関係証拠からは,平成9年9月22日,同年10月12日,平成10年3月29日に3回の腹部症状は,急性砒素中毒によるものと認められるが,平成9年10月19日発症の腹部症状については,ほかの疾病等の可能性を否定して急性砒素中毒によるものであるとまで認めることはできない。2 平成9年9月22日の急性砒素中毒については,当日,Kが口にした物は,被告人が作った牛丼だけであると認められ,この牛丼は被告人が1人で作ったものであること,被告人は砒素を入手し得る立場にあったこと,平成9年2月には保険金取得目的でGを殺害しようとしていること,Kには多額の保険が掛けられKの疾病を奇貨とする保険金の不正取得目的があったと認められること等からすると,被告人が,保険金不正取得目的で,Kに砒素を混入した牛丼を食べさせたものと認められる。なお,死亡に至らな 掛けられKの疾病を奇貨とする保険金の不正取得目的があったと認められること等からすると,被告人が,保険金不正取得目的で,Kに砒素を混入した牛丼を食べさせたものと認められる。なお,死亡に至らなくても高度障害の状態になれば死亡保険金と同額の保険金を取得することができ,現に被告人は,Gの関係で2度高度障害保険金を取得していることを考えると,殺意は未必的なものにとどまるものと解される。3 平成9年10月12日の急性砒素中毒については,当日,Kが口にした物は,被告人が作った麻婆豆腐だけであり,時期的に,上記2の犯行にもかかわらずKが退院しそうであり多額の保険金取得が失敗しそうな状況にあったことが認められるほか,上記2記載の事情があるから,被告人が,保険金不正取得目的で,Kに砒素を混入した麻婆豆腐を食べさせたものと認められる。4 平成10年3月29日の急性砒素中毒については,症状発症から推測される砒素摂取の時間帯にKが食べた物は,前日の夜に食べた被告人が作ったうどんだけであること,Kには多額の保険が掛けられており,被告人は既に2回にわたってKに保険金不正取得目的で砒素を摂取させていること,同様の目的で睡眠薬をも摂取させたことがあること等から,被告人が,保険金不正取得目的でKに砒素を混入したうどんを食べさせたものと認められる。そして殺意は前記2と同様に未必的なものにとどまるものと解される。 る砒素摂取の時間帯にKが食べた物は,前日の夜に食べた被告人が作ったうどんだけであること,Kには多額の保険が掛けられており,被告人は既に2回にわたってKに保険金不正取得目的で砒素を摂取させていること,同様の目的で睡眠薬をも摂取させたことがあること等から,被告人が,保険金不正取得目的でKに砒素を混入したうどんを食べさせたものと認められる。そして殺意は前記2と同様に未必的なものにとどまるものと解される。第13 カレー毒物混入事件における被告人の犯人性 1 以上の検討から,東鍋カレーには,嫌疑亜砒酸のいずれかが,本件青色紙コップを介して混入された蓋然性が極めて高いところ,この嫌疑亜砒酸を現実的に入手し得る立場にあり,かつ,東鍋カレーに亜砒酸を混入し得る具体的,現実的機会があったと認められる人物は,証拠上は,被告人のみである。そして,被告人が,被 高いところ,この嫌疑亜砒酸を現実的に入手し得る立場にあり,かつ,東鍋カレーに亜砒酸を混入し得る具体的,現実的機会があったと認められる人物は,証拠上は,被告人のみである。そして,被告人が,被告人方台所の収納庫内に置かれ,現実に嫌疑亜砒酸が入れられていたf本件プラスチック製小物入れとの関係を不自然に打ち消そうとしていたことや,この小物入れは被告人が管理していた可能性が高いこと,被告人は,見張り当番中に道路側の様子を非常に気にしながら西カレー鍋の蓋を開けるという不自然な行動をしていること,被告人は,カレーから砒素が検出された旨報道されると,異常に素早く,亜砒酸を預けていた実兄に,被告人方では砒素は使っていなかったことにするよう依頼していること等の事情も,被告人の犯人性を強める事実関係である。さらに,被告人は,現に,保険金取得目的でカレー毒物混入事件発生前の約1年半の間に,4回も人に対して砒素を使用しており,通常の社会生活において存在自体極めて稀少である猛毒の砒素を,人を殺害する道具として使っていたという点で,被告人以外の事件関係者には認められない特徴であって,カレー毒物混入事件における被告人の犯人性を肯定する重要な間接事実である。また,この金銭目的での4回の砒素使用や,その他の2件の睡眠薬使用という事実は,人の命を奪ってはならないという規範意識や,人に対して砒素を使うことへの抵抗感がかなり薄らいでいたことの現れととらえることができる。このような多くの間接事実を総合すると,被告人は,東カレー鍋の中に亜砒酸を混入したものであるということが極めて高い蓋然性をもって推認することができる。 告人の犯人性を肯定する重要な間接事実である。また,この金銭目的での4回の砒素使用や,その他の2件の睡眠薬使用という事実は,人の命を奪ってはならないという規範意識や,人に対して砒素を使うことへの抵抗感がかなり薄らいでいたことの現れととらえることができる。このような多くの間接事実を総合すると,被告人は,東カレー鍋の中に亜砒酸を混入したものであるということが極めて高い蓋然性をもって推認することができる。2 ところで,被告人がカレー毒物混入事件を起こす動機に関し,被告人がガレージに赴いた際に,ガレージに被告人を疎外するような居づらい雰囲 るということが極めて高い蓋然性をもって推認することができる。2 ところで,被告人がカレー毒物混入事件を起こす動機に関し,被告人がガレージに赴いた際に,ガレージに被告人を疎外するような居づらい雰囲気はあったものの,その後の被告人の具体的な様子や行動からは,被告人がガレージでの主婦らとのやり取りに激昂したとは認められず,結局,被告人がカレー毒物混入事件を敢行した動機は,解明することができなかった。しかしながら,被告人が犯人であることと矛盾するような事実関係が証拠上明らかになっているわけではなく,上記で検討した現実的に本件犯行が可能なのは被告人以外には考えられないという客観的な蓋然性の高さや,それ以外の被告人の犯人性を強める諸事情を考えれば,動機が不明確である等の事情は,極めて高い蓋然性で推認される被告人の犯人性の判断に影響を与えるものではない。3 被告人の殺意について検討するに,東鍋カレーには,採取されたカレー資料中の砒素濃度等から,少なくとも,450名ないし1350名分の致死量に当たる約135gの亜砒酸が混入されたと認められる。また,被告人は,砒素について少量でも人の生命を奪いうるほどに危険な毒物との認識を有しており,実際にGやKを殺害する手段として砒素を使用しているのであって,その結果,GやKは,死亡するには至っていないが生命に対する具体的な危険のある状態に陥っており,被告人は,その状態を十分に認識していた。そして,カレー毒物混入事件において,被告人は,これまでに1度に使用したことはないであろう約135gという紙コップの半分を超える多量の亜砒酸を東カレー鍋の中に混入しているのであるから,そのカレーを食べた住民等が死亡するとは思わなかったというようなことは到底考えられず,被告人は,カレーを食べた住民等が死亡することについての る具体的な危険のある状態に陥っており,被告人は,その状態を十分に認識していた。そして,カレー毒物混入事件において,被告人は,これまでに1度に使用したことはないであろう約135gという紙コップの半分を超える多量の亜砒酸を東カレー鍋の中に混入しているのであるから,そのカレーを食べた住民等が死亡するとは思わなかったというようなことは到底考えられず,被告人は,カレーを食べた住民等が死亡することについての 多量の亜砒酸を東カレー鍋の中に混入しているのであるから,そのカレーを食べた住民等が死亡するとは思わなかったというようなことは到底考えられず,被告人は,カレーを食べた住民等が死亡することについての認識,認容があったものと認められる。しかしながら,カレー毒物混入事件の対象の無差別性と死亡という結果の重大性を考えると,被告人が,東カレー鍋に亜砒酸を混入する際,このカレーを食べた者がほぼ確実に死亡するという認識であったと認めるには,やはり何らかの具体的な動機又は異常性格等の事情が必要であると考えられる。したがって,そのような動機や事情が判明していない本件では,被告人が,カレーを食べた者がほぼ確実に死亡するという認識で本件犯行を敢行したと考えることはできず,証拠上認められる殺意は,未必的な殺意にとどまるものと解すべきである。第14 量刑の理由及び結論 1 本件は,被告人が,亜砒酸を混入したカレーを食べさせて住民多数を死傷させた殺人・殺人未遂1件,夫Gほか1名を保険金目的で砒素を摂取させ殺害しようとした殺人未遂3件,夫Gの神経症状等4つの事由を基にして保険会社等から高度障害保険金等をだまし取ったりだまし取れなかった詐欺(詐欺未遂を含む。)という事案であるが,その被害は,死亡被害者合計4名,生存被害者合計65名,保険金詐欺総額約1億6800万円(なお,保険金詐欺未遂の総額は約7400万円である。)というものであって,事件関係者に多くの深刻な被害をもたらした。2 カレー毒物混入事件は,猛毒の亜砒酸を密かに食べ物に混入するという匿名性の高い犯行態様であるばかりか,被告人は,子供を含む不特定多数の者が食べることを知りながら,多量の亜砒酸をカレーに混入したのであって,無差別的な犯行である。その行為によって,それまで明るく和やかな夏祭り い犯行態様であるばかりか,被告人は,子供を含む不特定多数の者が食べることを知りながら,多量の亜砒酸をカレーに混入したのであって,無差別的な犯行である。 猛毒の亜砒酸を密かに食べ物に混入するという匿名性の高い犯行態様であるばかりか,被告人は,子供を含む不特定多数の者が食べることを知りながら,多量の亜砒酸をカレーに混入したのであって,無差別的な犯行である。その行為によって,それまで明るく和やかな夏祭り い犯行態様であるばかりか,被告人は,子供を含む不特定多数の者が食べることを知りながら,多量の亜砒酸をカレーに混入したのであって,無差別的な犯行である。その行為によって,それまで明るく和やかな夏祭り会場が,亜砒酸が混入されているとも知らずにカレーを食べた者があちこちで「胃が喉から飛び出す」ように激しくおう吐する凄惨な状況に一転したのであって,その犯行態様は,極めて悪質かつ冷酷なものといわなければならない。3 被告人の犯行により,4名もの人命が奪われたその結果はあまりに重大である。これらの4名は,それぞれに充実した日々を送っていたのであって,それが被告人の蛮行により,その幸せの途上で,突然に苦悶の中息を引き取らざるを得なかったのであり,死亡被害者の無念,悔しさは,言葉に表しようがない。また,突然,最愛の家族を奪われた遺族の心の傷は深く,その悲しさ,理不尽な死に対する怒りは,聞く者の胸に強く迫るのであって,あらためて,本件犯行の残酷非情さを感じざるを得ない。被告人は,遺族のこの悲痛なまでの叫びを胸に刻むべきである。さらに,一命は取り留めたものの,砒素を摂取させられ深刻な身体的,精神的被害を受けた被害者の数は63名にも上り,個々の被害の深刻さに加え,この被害者の数の多さは,その犯行が,重大な結果を招いたことを表している。そして,被告人は,被害者らに対し,慰謝の措置は全く執っていない。また,B自治会の地域が地域社会としてのまとまりを失ってしまうなど,被告人の犯行による被害はあまりにも広汎なものであった。4 カレー毒物混入事件は,犯行態様の異常さ,被害の深刻さから,社会全体に強い衝撃を与えた前代未聞の事件であって,国民が現在の治安や社会秩序が悪化したと感じざるを得ない(体感秩序を悪化させた)事件であったことは否定できない。犯行態様の異常さ,被害の深刻さから,社会全体に強い衝撃を与えた前代未聞の事件であって,国民が現在の治安や社会秩序が悪化したと感じざるを得ない(体感秩序を悪化させた)事件であったことは否定できない。また,毒物混入という匿名性の高い犯行態様は,その後の同種犯行を誘引しやすいという点においても,強く非難されなければならない。 化したと感じざるを得ない(体感秩序を悪化させた)事件であったことは否定できない。犯行態様の異常さ,被害の深刻さから,社会全体に強い衝撃を与えた前代未聞の事件であって,国民が現在の治安や社会秩序が悪化したと感じざるを得ない(体感秩序を悪化させた)事件であったことは否定できない。また,毒物混入という匿名性の高い犯行態様は,その後の同種犯行を誘引しやすいという点においても,強く非難されなければならない。このように,カレー毒物混入事件が社会に与えた影響には極めて大きいものがあった。5 ところで,被告人が,カレー毒物混入事件を敢行した具体的動機は解明されず,また,それは計画的なものではなく,殺意は未必的なものであった。そこで,このような被告人の主観的事情が,死刑選択の当否にどのように影響するのか検討するに,その動機は未解明であるが,無差別的な犯行であるカレー毒物混入事件の量刑を考える上で,斟酌できるような動機でないことは明らかである。被告人の殺意は,確かに未必的ではあるが,多数の者が急性砒素中毒により生命に危険のある状態となり得ることは十分に認識,認容していたものといえる。そして,計画的な犯行ではないが,被告人が思い付いてすぐに亜砒酸を混入することができたというのは,まさに,被告人が,亜砒酸を食べ物に混入して人に摂取させることに手慣れていたからと推測でき,被告人の犯罪性向が根深いことを表している。したがって,犯行が計画的でないことや殺意が未必的であること,動機が解明されていないこと等の主観的事情は,それ自体,被告人の責任を相当程度に軽減するような事情とはならないさらに,被告人が,カレーに亜砒酸を混入した後,被害発生を回避する方法があったにもかかわらず,それをしようともせず,一面では被害が拡大するような行動をしていること等を併せ考えると,上記の被告人に有利な主観的事情があったとしても,被告人の責任が軽減され を回避する方法があったにもかかわらず,それをしようともせず,一面では被害が拡大するような行動をしていること等を併せ考えると,上記の被告人に有利な主観的事情があったとしても,被告人の責任が軽減されるものではないと解される。6 以上の検討から,カレー毒物混入事件においては,その罪責が極めて重大であって,罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも極刑はやむを得ないというべきであって,死刑を選択せざるを得ないものと考える。 ったにもかかわらず,それをしようともせず,一面では被害が拡大するような行動をしていること等を併せ考えると,上記の被告人に有利な主観的事情があったとしても,被告人の責任が軽減されるものではないと解される。6 以上の検討から,カレー毒物混入事件においては,その罪責が極めて重大であって,罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも極刑はやむを得ないというべきであって,死刑を選択せざるを得ないものと考える。そして,Jに対する殺人未遂は,犯罪の証明がないこととなるから,無罪の言い渡しをする。主文 被告人を死刑に処する。本件公訴事実中,Jに対する殺人未遂の点については,被告人は無罪。

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