平成13(ネ)2847 預り金返還請求控訴

裁判年月日・裁判所
平成13年10月25日 東京高等裁判所
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判決文本文6,334 文字)

(原審・東京地方裁判所平成10年(ワ)第15048号預り金返還請求事件(原審言渡日平成13年4月23日)) 主文 1 原判決中,控訴人敗訴部分を取り消す。 2 被控訴人の請求を棄却する。 3 訴訟費用は1,2審とも被控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨主文と同旨第2 事案の概要 1 本件は,被控訴人が,山一證券との間で信用取引をしていて山一證券株の売買をし,平成9年11月21日に1010万円で買い付けた山一證券株10万株(額面1株50円,1株101円で買付け)が同月24日に山一證券が自主廃業を決定したためほぼ無価値となり,993万1427円の損失を被ったところ,山一證券が同金員について被控訴人からの預り金と相殺処理して当該預り金を返済しないので,被控訴人が,上記山一證券株の買い注文の意思表示の錯誤無効若しくは詐欺による取消し又は上記相殺の信義則違反による無効を主張して,相殺処理された預り金の返還請求をし,その後,山一證券について破産手続が開始され,被控訴人が届け出た同破産債権について控訴人が異議を述べたため,控訴人に対して破産債権確定請求に訴えの変更をした事案である。 なお,被控訴人は,原審において,主位的に,山一證券代表者の不法行為に基づく責任又は山一證券担当従業員の違法勧誘を不法行為とする使用者責任による損害賠償請求権を主張し,予備的に,上記預り金返還請求権を主張していたところ,原審は,主位的請求をいずれも棄却し,相殺の信義則違反による無効を認めて予備的請求を認容したのに対し,控訴人のみが控訴したので,原判決中,主位的請求を棄却した部分は,控訴(附帯控訴)がないことにより確定し,当審における審判対象は,原審の予備的請求の当否のみである。 2 前提となる事実(争いがない。)(1) 被控 したので,原判決中,主位的請求を棄却した部分は,控訴(附帯控訴)がないことにより確定し,当審における審判対象は,原審の予備的請求の当否のみである。 2 前提となる事実(争いがない。)(1) 被控訴人は,平成9年11月13日,山一證券水戸支店において信用取引口座を開設し,山一證券との間で信用取引を開始した。 (2) 被控訴人は,同月21日,信用取引により,山一證券株10万株を1010万円(1株101円)で買い付けた(以下「本件取引」という。)。 (3) 山一證券は,同月24日,自主廃業を決定し,山一證券株は,ほぼ無価値となった。 (4) 被控訴人が山一證券に預託していた預り金の平成10年3月31日現在における残高は,1314万4039円であった。 (5) 山一證券は,同日,(4)の被控訴人の預り金債権について,本件取引に係る損失相当額等の精算として,993万1427円を相殺し(以下「本件相殺」という。),被控訴人に対し,預り金の残高が321万2612円となった旨を通知し,同年4月1日に320万7612円及び同月13日に5000円を返済した。 (6) 山一證券は,平成11年6月2日,東京地方裁判所により破産宣告され,その破産管財人に控訴人が選任された。 (7) 被控訴人は,(4)の山一證券に対する預り金返還請求権(及び不法行為による損害賠償請求権)について破産債権の届出をしたところ,控訴人は,その全額について異議を述べた。 3 争点及び当事者の主張争点は,被控訴人主張の山一證券株の買い注文の意思表示の錯誤無効若しくは詐欺による取消し又は本件相殺の信義則違反による無効の成否であり,これらの点についての当事者の主張は,次のとおり付加(原審主張の補充)するほか,原判決「事実及び理由」の「第2 事案の概要」2(1),(2)及び(5)(被控訴人の主張)並 違反による無効の成否であり,これらの点についての当事者の主張は,次のとおり付加(原審主張の補充)するほか,原判決「事実及び理由」の「第2 事案の概要」2(1),(2)及び(5)(被控訴人の主張)並びに3(1),(2)及び(5)(控訴人の主張)記載のとおりであるから,これを引用する。 (1) 控訴人被控訴人は,経験豊富で資産も十分に保有し,情報収集を怠ることのないプロの投資家であり,その取引は長期保有を目的とするものではなく,日々の値上がりによる差益を目的とする投機的取引を常としていたのであり,その投機行為の一環として山一證券の経営危機,厳しい経営環境が全国紙等に広く報道され株価が暴落する中,その情勢を重々承知しつつ日々の値上がりを目的として著しく廉価な株価(8月に取得した価格の2分の1から4分の1の額面ぎりぎりの株価)で本件取引をしたのである。その際,被控訴人は,山一證券の経営状態,資産状態に着目していなかったのであるから,簿外債務の発生とその隠匿という山一證券側の事情を理由に信義則違反と判断すべきではない。そして,本件取引当時の山一證券株の価格は,純資産額,格付け会社による格付け(格下げ),倒産リスクに見合った相当な価格(額面額に近い水準から100円程度)であったのであり,被控訴人は,その豊富な取引経験に基づき山一證券の倒産リスクの反映された低廉な株価で本件取引をし,結果としてそのリスクが実現してしまったにすぎない。 仮に,本件相殺が無効とされ,費用償還請求権を別訴で行使することもできないとすると,現物取引を行った投資家との不均衡が生じるし,さらには,取引した証券会社による不均衡も生じる。 (2) 被控訴人被控訴人は,兼業農家であり,証券投資に関する専門的な知識,経済や市場の動向について特段の分析能力を有しておらず,証券会社の勧 ,さらには,取引した証券会社による不均衡も生じる。 (2) 被控訴人被控訴人は,兼業農家であり,証券投資に関する専門的な知識,経済や市場の動向について特段の分析能力を有しておらず,証券会社の勧誘に従って余裕資金の運用を試みていたにすぎず,山一證券株の取引に関して積極的,主導的であったことはない。そして,本件取引当時,山一證券が巨額の簿外債務を抱えているという実態は厳重に隠蔽,秘匿されており,山一證券株は山一證券がこのような状態(実質的に経営破綻の状態)にないことを前提に市場で取引されていたのであり,被控訴人は,山一證券が巨額の簿外債務を抱える経営状態,資産状態(実質的に経営破綻の状態)にないことを信頼して本件取引をしたのであるから,保護されるべきである。山一證券が経営不振によって今後倒産の可能性があることが株価に反映されていたとしても,巨額の簿外債務の存在は,これが発覚するや直ちに営業不能となる状況にあるものであり,経営不振による倒産の可能性とは全く次元の異なる問題であって,本件取引当時,簿外債務の事実が隠蔽,秘匿されていたのであるから,これが株価に反映されていたことはあり得ない。 現物取引であっても,預り金口座からの差引処理を無効とする余地もあるし,本件で信義則適用の基礎となったのは,巨額の簿外債務の累積とその隠蔽という不正・違法行為をした発行会社と自社株の積極的勧誘をして顧客を巻き込んだ取扱証券会社とが同一主体であった点にあるから,現物取引ないし他社との間に不均衡があるとはいえない。 第3 当裁判所の判断 1 本件の経緯,本件取引等についての事実認定,説示は,原判決「事実及び理由」の「第 3 当裁判所の判断」1(本件の経緯等)及び2(本件取引)記載のとおりであるから,これを引用する。 2 買い注文の錯誤無効について被控訴人は,上 ての事実認定,説示は,原判決「事実及び理由」の「第 3 当裁判所の判断」1(本件の経緯等)及び2(本件取引)記載のとおりであるから,これを引用する。 2 買い注文の錯誤無効について被控訴人は,上記認定説示のとおり,山一證券の株価が乱高下している状況の下で,しかも,山一證券について,その経営基盤に疑問が投げ掛けられるという極めて厳しい経営環境にあることが広く報じられている状況の下で,短期間における相場の変動を利用して利益を得るという投機的な意図の下に取引していたものと推認される。他方において,被控訴人の上記投機的な意図というのも,被控訴人において,山一證券が既に実質的には破綻していることを知っており,それを知らない投資家との情報ギャップを利用して投機的利益を得ようとしたものではなく,また,山一證券が潰れるか潰れないかというようなぎりぎりの局面で相場を張り,利益を得ようとする意図であったとまでは認められない。 ところで,信用取引,株取引を含む証券取引は,多かれ少なかれ何らかのリスクを伴うものであるところ,被控訴人は,本件取引及びその直前の取引において,山一證券株が既に額面額に近い水準まで落ち込んでいるのを承知の上で上記のとおり投機的取引をしていたものであり,当時の山一證券株の株価は,山一證券の倒産リスクが反映された状態であるということができ,被控訴人において,山一證券の経営状態,資産状態についておよそ倒産のおそれのないものであると誤信して,本件取引をしたものではないといわざるを得ない。この点について,被控訴人は,山一證券が既に経営破綻の状況に至っている事実を秘匿していたと主張するが,山一證券においては,最後まで簿外債務について一括償却を前提とした再建策,当面の資金繰りを模索していたもので,これとの関係で簿外債務の存在の開示時期を検討してい いる事実を秘匿していたと主張するが,山一證券においては,最後まで簿外債務について一括償却を前提とした再建策,当面の資金繰りを模索していたもので,これとの関係で簿外債務の存在の開示時期を検討していたのであり,この対応自体を不合理,不相当なものということはできないから,被控訴人の同主張は必ずしも当たらない(山一證券代表者に簿外債務の存在ないし経営破綻の状態にあることを開示する義務があるのに,これを怠った不法行為責任がある旨の請求は,原審において否定されているところである。)。また,被控訴人は,山一證券の簿外債務の存在が発覚すれば,直ちに営業不能となる状況にあったと主張するが,山一證券において簿外債務について再建策が策定されず,かつ,当面の資金繰りにも窮する事態となって,当時の大蔵省の指導により自主廃業せざるを得なくなったのであって,必ずしも被控訴人主張のようにいうことはできないのであり,簿外債務の存在も,結局は,経営不振の1要因(主たる要因)というべきものであり,これをもって経営不振による倒産の可能性と次元の異なる問題ということはできない。 以上の認定説示に照らすと,山一證券が経営破綻の状況にないことが被控訴人の本件取引における買い注文の意思表示の要素になっていたということはできず,これが表示されてもいなかったのであるから,要素の錯誤をいう被控訴人の主張は理由がない。 3 買い注文の詐欺による取消しについて山一證券代表者において経営状態に関する重要な事実を秘匿しながら,営業担当者をして山一證券株の買付を顧客に積極的に勧めさせていた事実を認めるに足りる証拠はないし,被控訴人の本件取引における買い注文の意思表示の要素に錯誤があったと認められないことは,上記説示のとおりである。また,上記認定説示に照らせば,山一證券において簿外債務の存在を開示 りる証拠はないし,被控訴人の本件取引における買い注文の意思表示の要素に錯誤があったと認められないことは,上記説示のとおりである。また,上記認定説示に照らせば,山一證券において簿外債務の存在を開示していなかったことについて,不作為による欺罔行為とまで評価することはできないし,本件取引の相手方としての山一證券(担当従業員)に欺罔行為があったと認めることもできない(山一證券担当従業員の違法勧誘(欺罔行為が含まれることは明らかである。)を不法行為とする使用者責任による損害賠償請求は,原審において否定されているところである。)から,被控訴人の主張は理由がない。 4 本件相殺の信義則違反による無効について上記認定事実によれば,被控訴人が山一證券との間で山一證券株の信用取引を始めたきっかけは,山一證券の従業員Bから働きかけがあったものではなく,被控訴人が山一證券株の話を持ち出したことによるのであり,本件取引当日もBが別の取引で被控訴人に対し電話連絡した際に,従前被控訴人が再三山一證券株の売買をしていたことから,Bにおいて山一證券株の状況報告をしたのであり,被控訴人において山一證券株の再度の買付けに興味を示したことから,Bにおいて再三状況連絡等をして,本件取引に至ったものである。 このように,本件取引を含む山一證券株の取引は,必ずしも山一證券の従業員Bの主導により実行されたものとはいえず,かつ,山一證券において自社株の積極的勧誘をしていたことを認めるに足りる証拠はない。 また,山一證券においては,最後まで簿外債務について一括償却を前提とした再建策,当面の資金繰りを模索していたもので,これとの関係で簿外債務の存在の開示時期を検討していたのであり,この対応自体を不合理,不相当なものということができないことは,上記説示のとおりである。 そして,被控訴 資金繰りを模索していたもので,これとの関係で簿外債務の存在の開示時期を検討していたのであり,この対応自体を不合理,不相当なものということができないことは,上記説示のとおりである。 そして,被控訴人は,投機的な取引として信用取引による本件取引をしたことにより損失を被ったのに対し,被控訴人がこれを決済しないため,控訴人が同取引の精算処理として預り金との本件相殺をしたものであるところ,信用取引における預り金は,顧客が信用取引により被った損失を決済しない場合に,これに充当処理するためにもあることが明らかである。仮に,本件取引が信用取引でなく,現物取引されたのであれば,預り金との相殺をする余地もなく,したがって,損失を被った者において相殺の無効を主張する余地もない。 さらに,被控訴人が本件取引をしたことにより損失を被ったことについて,山一證券の不法行為責任(使用者責任)を認めることができないことは,原判決のとおりである。被控訴人が本件取引をしたことにより被った損失は,取引した証券会社としての山一證券に違法行為があったために生じたものではなく,株式発行会社としての山一證券が倒産したために生じたものであり,他の証券会社を通じて取引した者も同様の損失を被ったのであるが,この損失を被った者においても相殺の無効を主張する余地はない。 以上の諸般の事情を総合考慮すると,山一證券が本件相殺をしたことをもって信義則に反し無効であるとまでいうことはできない。 5 以上の次第で,被控訴人において本件相殺に係る預り金返還請求権を有すると認めることはできない。 よって,原判決中,被控訴人の同請求権の確定請求を認容した部分は不当であるから,これを取り消し,被控訴人の請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第七民事部裁判長裁判官奥 中,被控訴人の同請求権の確定請求を認容した部分は不当であるから,これを取り消し,被控訴人の請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第七民事部裁判長裁判官奥山興悦裁判官杉山正己裁判官沼田寛

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