- 1 - 申立人から、最高裁判所令和4年(受)第1780号退職慰労金等請求事件について、秘密保護のための閲覧等の制限の申立てがあったが、当裁判所は、上記申立ては理由がないものと認め、裁判官全員一致の意見で、次のとおり決定する。なお、裁判官深山卓也の補足意見がある。 主文 本件申立てを却下する。 申立費用は申立人の負担とする。 裁判官深山卓也の補足意見は、次のとおりである。 1 本件は、基本事件の上告人株式会社テレビ宮崎(以下「申立人」という。)が、基本事件の訴訟記録のうち、上告受理申立て理由補充書の一部の記載(以下「本件記載部分」という。)につき、民事訴訟法92条1項2号の営業秘密に該当するとして、閲覧等の制限の申立てをした事案である。 上記補充書は、基本事件の第1審判決に対する研究者の評釈を紹介しつつ当審において本件を受理すべきである旨を主張する内容のものであるが、本件記載部分は、いずれも基本事件において申立人から証拠提出された書証(調査委員会の作成に係る最終報告書)の引用部分であり、その内容は、同書証に①基本事件の被上告人が代表取締役在任中にした行為の悪質性、②同行為が申立人に与えた損害の重大性、及び③同行為の存在を理由とする退職慰労金不支給決定の正当性について記載がある旨を述べるものである。 申立人は、本件記載部分は、不正競争防止法2条6項に規定する営業秘密に該当するものであり、これが「訴訟記録の閲覧等によって外部に知られるところとなると、競合他社によって容易に申立人の事業情報等が利用され、申立人の業界内における地位は相対的に低下するおそれがあり、その場合の申立人の将来にわたる営業令和4年(マ)第246号閲覧等制限の申立て事 と、競合他社によって容易に申立人の事業情報等が利用され、申立人の業界内における地位は相対的に低下するおそれがあり、その場合の申立人の将来にわたる営業令和4年(マ)第246号閲覧等制限の申立て事件令和6年7月8日第一小法廷決定- 2 -上の損失ははかりしれないものとなる。」ことを理由として、閲覧等の制限の必要性があると主張している。 2 民事訴訟法92条が規定する秘密保護のための閲覧等の制限の制度は、憲法上の裁判の公開原則(憲法82条)をより徹底する趣旨から設けられた訴訟記録の公開制度(民事訴訟法91条)の重大な例外であることから、保護されるべき秘密を必要最小限のものに限定しており、同法92条1項2号括弧書きが営業秘密を「不正競争防止法第2条第6項に規定する営業秘密」、すなわち、「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」をいうとして概念を明確にしているのもその現れである。 このような民事訴訟法92条1項2号の趣旨に照らすと、訴訟記録中の一部分が同号の営業秘密に該当するとして閲覧等の制限の申立てがされた場合には、裁判所は、申立てに係る部分が同号の営業秘密に該当すること、すなわち、①秘密として管理されていること(秘密管理性)、②生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であること(有用性)、及び③公然と知られていないものであること(非公然性)の三要件を具備していることの疎明があるか否かを慎重に検討する必要がある。 3 これを本件申立てについてみると、本件記載部分は、その内容自体から有用性の要件を具備していないことが明らかである上、申立人は、本件記載部分が上記三要件を具備していることの根拠となる具体的な事情を主張しておら 件申立てについてみると、本件記載部分は、その内容自体から有用性の要件を具備していないことが明らかである上、申立人は、本件記載部分が上記三要件を具備していることの根拠となる具体的な事情を主張しておらず、何らの疎明資料も提出していない。したがって、本件申立ては、民事訴訟法92条1項2号の営業秘密に該当することの疎明を欠くものであり、理由がないものとして却下を免れないというべきである。なお、申立人が閲覧等の制限の必要性があることの理由として主張するところは、単に本件記載部分が第三者に閲覧等されることにより申立人に営業上の損失が生じかねない旨を指摘するものにすぎず、本件記載部分が営業秘密に該当することの根拠となる事情とはいえない。 - 3 -近年、民事訴訟法92条1項2号による訴訟記録の閲覧等の制限の申立てにおいて、申立てに係る部分が営業秘密に該当することの疎明が十分にされていない事案が少なからず見受けられることに鑑み、本件申立てが却下を免れない所以を補足した次第である。 (裁判長裁判官深山卓也裁判官安浪亮介裁判官岡正晶裁判官堺徹裁判官宮川美津子)
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