令和2年3月19日判決言渡平成31年(行ケ)第10018号審決取消請求事件(以下「甲事件」という。)平成31年(行ケ)第10029号審決取消請求事件(以下「乙事件」という。)口頭弁論終結日令和2年1月14日判決 甲事件原告シージェイジャパン株式会社 乙事件原告シージェーチェイルジェダンコーポレーション 甲事件原告及び乙事件原告訴訟代理人弁護士飯村敏明同末吉剛訴訟代理人弁理士山本修同鶴喰寿孝訴訟復代理人弁護士高橋聖史 甲事件・乙事件被告味の素株式会社 訴訟代理人弁護士森崎博之同津城尚子訴訟代理人弁理士白石真琴訴訟復代理人弁理士北谷賢次 主文 1 甲事件原告及び乙事件原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は甲事件原告及び乙事件原告の負担とする。 3 乙事件原告につき,この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。 事実及び理由 第1 請求特許庁が無効2017-800021号事件について平成31年1月8日にした審決のうち,特許第3651002号の請求項1~2及び4に係る部分を取り消す。 第2 事案の概要 1 特許庁における手続の経緯等⑴ 甲事件・乙事件被告(以下「被告」という。)は,平成11年9月22日にした特許出願(特願2000-572382 4に係る部分を取り消す。 第2 事案の概要 1 特許庁における手続の経緯等⑴ 甲事件・乙事件被告(以下「被告」という。)は,平成11年9月22日にした特許出願(特願2000-572382号。優先日平成10年9月25日(以下「本件優先日」という。),優先権主張国日本)の一部を分割して,平成16年7月8日,発明の名称を「アミノ酸生産菌の構築方法及び構築されたアミノ酸生産菌を用いる醗酵法によるアミノ酸の製造法」とする発明について特許出願(特願2004-202121号。以下「本件出願」という。)をし,平成17年3月4日,特許権の設定登録(特許第3651002号。請求項の数8。以下,この特許を「本件特許」という。甲1)を受けた。 ⑵ 甲事件原告は,平成29年2月24日,本件特許について特許無効審判を請求(無効2017-800021号事件。以下「本件審判」という。)した。 被告は,同年7月7日付けで,請求項1ないし8からなる一群の請求項について,請求項1,2及び4を訂正し,請求項3及び5ないし8を削除する旨の訂正請求(以下「本件訂正」という。甲46)をした。 乙事件原告は,同年11月2日,本件審判に参加を申請し,本件審判に参加した。 その後,特許庁は,平成31年1月8日,本件訂正を認めた上で,「特許第3651002号の請求項1~2及び4に係る発明についての審判請求は成り立たない。」,「特許第3651002号の請求項3及び5~8に係る発明についての審判請求を却下する。」との審決(乙事件原告に対し,出訴期間として90日を附加。以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月18日,甲事件原告及び乙事件原告(以下,併せて「原告ら」という。)に送達された。 ⑶ 甲事件原告は,平成31年2月14日,乙事件原告は,同年 附加。以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月18日,甲事件原告及び乙事件原告(以下,併せて「原告ら」という。)に送達された。 ⑶ 甲事件原告は,平成31年2月14日,乙事件原告は,同年3月8日,それぞれ,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。 2 特許請求の範囲の記載本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1,2及び4の記載は,以下のとおりである(以下,請求項の番号に応じて,請求項1に係る発明を「本件発明1」などという。甲46)。 【請求項1】コリネ型細菌の染色体上の,グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)遺伝子のプロモーター配列の-35領域にTTGTCA配列及び-10領域にTATAAT配列,並びに/或いはクエン酸合成酵素(CS)遺伝子のプロモーター配列の-10領域にTATAAT配列を導入したコリネ型細菌を,培地で培養し,培地中にL-グルタミン酸を生成蓄積させ,これを該培地から採取することを特徴とする発酵法によるL-グルタミン酸の製造方法。 【請求項2】GDH遺伝子のプロモーターが,-35領域にTTGTCA配列及び-10 領域にTATAAT配列を有するものである請求項1記載の方法。 【請求項4】CS遺伝子のプロモーターが,-10領域にTATAAT配列を有するもの,又は-35領域にTTGACA配列及び-10領域にTATAAT配列を有するものであり,GDH遺伝子のプロモーターが,-35領域にTTGTCA配列及び-10領域にTATAAT配列を有するものである請求項1記載の方法。 3 本件審決の理由の要旨(1) 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)のとおりである。 その要旨は,請求人(甲事件原告)及び参加人(乙事件原告)の主張する本件発明1,2及び4に係る無効理由1(本件優先日 決の理由の要旨(1) 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)のとおりである。 その要旨は,請求人(甲事件原告)及び参加人(乙事件原告)の主張する本件発明1,2及び4に係る無効理由1(本件優先日前に頒布された刊行物である甲2(Microbiology(1996)142「PromotersfromCorynebacteriumglutamicum:cloning,molecularanalysisandsearchforaconsensusmotif」(訳文:「コリネバクテリウム・グルタミカム由来のプロモーター:クローニング,分子解析及びコンセンサスモチーフの探索」))を主引用例とする進歩性の欠如),無効理由2(本件優先日前に頒布された刊行物である甲5(国際公開第95/34672号)を主引用例とする進歩性の欠如),無効理由3(サポート要件違反),無効理由4(実施可能要件違反)などは,いずれも理由がないというものである。 (2)ア本件審決は,本件発明1には以下の3つの発明が含まれると認定した。 (本件発明1-1)「コリネ型細菌の染色体上の,グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)遺伝子のプロモーター配列の-35領域にTTGTCA配列及び-10領域にTATAAT配列を導入したコリネ型細菌を,培地で培養し,培地中にL-グルタミン酸を生成蓄積させ,これを該培地から採取することを特徴とする発酵法によるL-グルタミン酸の製造方法」に係る発明 (本件発明1-2)「コリネ型細菌の染色体上の,クエン酸合成酵素(CS)遺伝子のプロモーター配列の-10領域にTATAAT配列を導入したコリネ型細菌を,培地で培養し,培地中にL-グルタミン酸を生成蓄積させ,これを該培地から採取することを特徴とする発酵法によるL-グルタミ 子のプロモーター配列の-10領域にTATAAT配列を導入したコリネ型細菌を,培地で培養し,培地中にL-グルタミン酸を生成蓄積させ,これを該培地から採取することを特徴とする発酵法によるL-グルタミン酸の製造方法」に係る発明(本件発明1-3)「コリネ型細菌の染色体上の,グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)遺伝子のプロモーター配列の-35領域にTTGTCA配列及び-10領域にTATAAT配列,並びにクエン酸合成酵素(CS)遺伝子のプロモーター配列の-10領域にTATAAT配列を導入したコリネ型細菌を,培地で培養し,培地中にL-グルタミン酸を生成蓄積させ,これを該培地から採取することを特徴とする発酵法によるL-グルタミン酸の製造方法」に係る発明イなお,本件発明1-1~1-3における酵素遺伝子及びプロモーター配列の領域の関係を図示すると,以下のとおりとなる。 本件発明GDHCS-35 領域-10 領域-35 領域-10 領域1-1TTGTCATATAAT(特定無し)1-2(特定無し)(特定無し)TATAAT1-3TTGTCATATAAT(特定無し)TATAAT⑶ 本件審決が認定した甲2に記載された発明(以下「甲2発明」という。),本件発明1-1と甲2発明の一致点及び相違点,本件発明1-2と甲2発明の一致点及び相違点は,以下のとおりである。 ア甲2発明「コリネ型細菌の染色体上の,グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH) 遺伝子のプロモーター配列の-35領域にTGGTCA配列及び-10領域にCATAAT配列を有し,クエン酸合成酵素(CS)遺伝子のプロモーター配列の-35領域にTGGCTA配列及び-10領域にTAGCGT配列を有する,コリネ型細菌 領域にTGGTCA配列及び-10領域にCATAAT配列を有し,クエン酸合成酵素(CS)遺伝子のプロモーター配列の-35領域にTGGCTA配列及び-10領域にTAGCGT配列を有する,コリネ型細菌」の発明イ本件発明1-1と甲2発明の一致点及び相違点(一致点)コリネ型細菌の染色体上の,グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)遺伝子のプロモーター配列の-35領域に特定の塩基配列及び-10領域に特定の塩基配列を有する,コリネ型細菌に係る発明である点。 (相違点1)本件発明1-1のコリネ型細菌は,GDH遺伝子のプロモーター配列の-35領域にTTGTCA配列及び-10領域にTATAAT配列を導入したものであるのに対し,甲2発明のコリネ型細菌は,GDH遺伝子のプロモーター配列の-35領域にTGGTCA配列及び-10領域にCATAAT配列を有するものである点。 (相違点2)本件発明1-1は,コリネ型細菌を培地で培養し,培地中にL-グルタミン酸を生成蓄積させ,これを該培地から採取することを特徴とする発酵法によるL-グルタミン酸の製造方法の発明であるのに対し,甲2発明は,コリネ型細菌の発明である点。 ウ本件発明1-2と甲2発明の一致点及び相違点(一致点)コリネ型細菌の染色体上の,クエン酸合成酵素(CS)遺伝子のプロモーター配列の-10領域に特定の塩基配列を有する,コリネ型細菌に係る発明である点。 (相違点1) 本件発明1-2のコリネ型細菌は,CS遺伝子のプロモーター配列の-10領域にTATAAT配列を導入したものであるのに対し,甲2発明のコリネ型細菌は,CS遺伝子のプロモーター配列の-10領域にTAGCGT配列を有するものである点。 (相違点2)本件発明1-2は,コリネ型細菌を培地で培養し,培地 ものであるのに対し,甲2発明のコリネ型細菌は,CS遺伝子のプロモーター配列の-10領域にTAGCGT配列を有するものである点。 (相違点2)本件発明1-2は,コリネ型細菌を培地で培養し,培地中にL-グルタミン酸を生成蓄積させ,これを該培地から採取することを特徴とする発酵法によるL-グルタミン酸の製造方法の発明であるのに対し,甲2発明は,コリネ型細菌の発明である点。 ⑷ 本件審決が認定した甲5に記載された発明(以下「甲5発明」という。),本件発明1-1と甲5発明の一致点及び相違点,本件発明1-2と甲5発明の一致点及び相違点は,以下のとおりである。 ア甲5発明「染色体上に存在するα-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子又はそのプロモーターの塩基配列中に1又は2以上の塩基の置換,欠失,挿入,付加又は逆位が生じたことにより,α-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ活性が欠損したコリネ型L-グルタミン酸生産菌を,培地で培養し,培地中にL-グルタミン酸を生成蓄積させ,これを該培地から採取することを特徴とするL-グルタミン酸の製造方法」の発明イ本件発明1-1と甲5発明の一致点及び相違点(一致点)コリネ型細菌の染色体上の,遺伝子のプロモーター配列に1又は2以上の塩基の置換させた配列を導入したコリネ型細菌を,培地で培養し,培地中にL-グルタミン酸を生成蓄積させ,これを該培地から採取することを特徴とする発酵法によるL-グルタミン酸の製造方法である点。 (相違点)本件発明1-1のコリネ型細菌は,グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)遺伝子のプロモーター配列の-35領域にTTGTCA配列及び-10領域にTATAAT配列を導入したものであるのに対し,甲5発明のコリネ型細菌は,そのような特 ,グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)遺伝子のプロモーター配列の-35領域にTTGTCA配列及び-10領域にTATAAT配列を導入したものであるのに対し,甲5発明のコリネ型細菌は,そのような特定がされていない点。 ウ本件発明1-2と甲5発明の一致点及び相違点(一致点)コリネ型細菌の染色体上の,遺伝子のプロモーター配列に1又は2以上の塩基の置換させた配列を導入したコリネ型細菌を,培地で培養し,培地中にL-グルタミン酸を生成蓄積させ,これを該培地から採取することを特徴とする発酵法によるL-グルタミン酸の製造方法である点。 (相違点)本件発明1-2は,クエン酸合成酵素(CS)遺伝子のプロモーター配列の-10領域にTATAAT配列を導入したものであるのに対し,甲5発明は,そのような特定がされていない点。 第3 当事者の主張 1 取消事由1(本件発明1のサポート要件及び実施可能要件の判断の誤り)について⑴ 取消事由1-1(GDH遺伝子のプロモーターへの変異導入について)ア原告らの主張本件審決は,本件出願の願書に添付した明細書(以下,図面と併せて「本件明細書」という。)の実施例等には,コリネ型細菌の染色体上のグルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH。以下,単に「GDH」ということがある。)遺伝子のプロモーター配列の-35領域にTTGTCA配列及び-10領域にTATAAT配列を有する変異株が,L-グルタミン酸の収率を向上させたことが示されており(表5(別紙1を参照)),本件発明1 (本件発明1-1)はかかる内容に対応するものであるから,本件発明1は,発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではなく,本件特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしてい るものであるから,本件発明1は,発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではなく,本件特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていないとすることはできない(サポート要件に適合する),また,本件明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本件発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているといえ,本件発明の詳細な説明の記載は,同条4項1号に規定する要件を満たしていないとすることはできない(実施可能要件に適合する)旨判断した。 しかしながら,原告らの実験(甲49)によれば,本件明細書に記載された実施例の親株(AJ13029)と異なるコリネ型細菌の菌株(ATCC13869)を親株として,当該親株と,親株のGDH遺伝子のプロモーター配列に上記実施例と同一の条件で本件発明1-1と同じ変異を導入した菌株とを比較したところ,後者のL-グルタミン酸生産量は,親株と比較して増加しておらず,むしろ低下した。 したがって,グルタミン酸の収率を向上させるという発明の課題は,GDH遺伝子のプロモーター配列にのみ特定の配列を導入するという,本件発明1-1の態様全体にわたって解決できるものではなく,また,本件明細書の発明の詳細な説明は,グルタミン酸の収率が向上できる程度に十分かつ明確に記載されていないといえる。 イ被告の主張原告らの実験(甲49)は,本件明細書の実施例に記載された親株(AJ13029)と異なる菌株(ATCC13869)について,培養温度をシフトする誘導条件を採用している。 しかしながら,本件優先日において,ATCC13869 が,AJ13029 とは異なり,培養温度をシフトしてもL-グルタミン酸生成が誘導されない菌株であ ることは,当業者にとって技術常 しかしながら,本件優先日において,ATCC13869 が,AJ13029 とは異なり,培養温度をシフトしてもL-グルタミン酸生成が誘導されない菌株であ ることは,当業者にとって技術常識であった(乙10,16)。そのため,コリネ型細菌を用いてグルタミン酸を生産する当業者であれば,ATCC13869 を培養・誘導するに際し,甲49に示される条件を採用しないことは明らかである。 そして,ATCC13869 について,温度シフトではなく,界面活性剤の添加によってGDH遺伝子のプロモーターの-10領域及び-35領域に本件発明1-1の変異を導入した被告の実験(乙14)によれば,AJ13029 を親株に用いた本件明細書の実施例と同様に,親株と比較してL-グルタミン酸生成の顕著な増加を示したことが確認されている。 以上のとおり,原告らの主張は,誤った培養条件を採用した実験結果に基づくものであって理由がなく,本件審決の判断に誤りはないから,原告ら主張の取消事由1-1は理由がない。 ⑵ 取消事由1-2(CS遺伝子のプロモーターへの変異導入について)ア原告らの主張本件審決は,①本件明細書の実施例3は,コリネ型細菌の染色体上のGDH遺伝子のプロモーターに本件発明1-1の変異が導入された変異株(FGR2)を基にした物であるものの,染色体上のクエン酸合成酵素(CS。 以下,単に「CS」ということがある。)遺伝子のプロモーターの-10領域のみに変異を有する株(GB02)が,同領域に変異を有しない株(上記FGR2)に比べて,CS比活性が1.9倍増強され,L-グルタミン酸の収率を向上させたことが記載されており(表10及び12(別紙1を参照)),②また,コリネ型細菌のCS遺伝子のプロモーターに特定の変異を導入することが,L-グルタミン酸 倍増強され,L-グルタミン酸の収率を向上させたことが記載されており(表10及び12(別紙1を参照)),②また,コリネ型細菌のCS遺伝子のプロモーターに特定の変異を導入することが,L-グルタミン酸の生産性の向上に寄与することは,当業者であれば理解できるから,本件発明1(本件発明1-2)は,発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではなく,サポート要件に適合し,かつ,本件発明の詳細な説明は,当業 者が本件発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているといえるものであって実施可能要件に適合する旨判断した。 しかしながら,本件明細書の実施例3は,コリネ型細菌の染色体上のGDH遺伝子及びCS遺伝子のプロモーターに変異を導入して,GDH活性及びCS活性の双方を増強した変異株によるL-グルタミン酸の生産性を示すものであって,CS遺伝子を単独で増強させた変異株の生産性を示すものではない。 また,L-グルタミン酸は,別紙2のとおり,クエン酸回路(トリカルボン酸回路。以下「TCA回路」という。)という一連の反応によって生産されるものであり,TCA回路において,CSは,オキサロ酢酸とアセチルCoAとを縮合してクエン酸を合成する働きを持つ酵素であり,GDHは,アンモニアをα-ケトグルタル酸に還元的に固定し,L-グルタミン酸を生成する反応を促進する酵素である(甲13)。 ここで,ある反応の生成物が後続の反応の反応物(原料)となり,反応が順に進行する場合,一連の反応全体の反応速度は,最も遅い反応と実質上等しくなる(律速段階。甲66~68)。そのため,TCA回路において,CSの発現のみを強化してクエン酸の生成を促進しても,後続の反応のいずれかの速度が遅い場合には,L-グルタミン酸の生成速度は 質上等しくなる(律速段階。甲66~68)。そのため,TCA回路において,CSの発現のみを強化してクエン酸の生成を促進しても,後続の反応のいずれかの速度が遅い場合には,L-グルタミン酸の生成速度は増加しないものである。 そして,CSの発現のみを増強してもL-グルタミン酸の生産量が増加しないことは,甲4(Microbiology(1994)140)及び甲34(特開昭63-214189号公報)にも明示されている。すなわち,甲4では,CS活性の増強とL-グルタミン酸の生産量との相関に関する過去の研究を引用して,「C.グルタミカムのグルタミン酸を分泌する能力は,単にCS酵素レベルを上昇させるのみでは,促進することはできない。」と記載され(1821頁左欄~右欄),甲34では,CS遺伝子の発現は強化する ものの,GDH遺伝子の発現は強化しなかった菌株(801(pAG4003))とその親株(801)との間で,L-グルタミン酸の生産量に変化が見られなかったことが記載されている(第13表(別紙3を参照))。 したがって,本件発明1-2のようにCS遺伝子のプロモーター配列にのみ特定の配列を導入することによって,グルタミン酸の収率を向上させるという発明の課題を解決することを,当業者が認識できるものではなく,また,本件明細書の発明の詳細な説明は,グルタミン酸の収率が向上できる程度に十分かつ明確に記載されていないといえる。 イ被告の主張本件明細書の実施例3には,GDH遺伝子の活性が一定の状態で,CS遺伝子のプロモーター配列の-10領域のみに本件発明1-2の変異を導入して,CS活性を適度な範囲に調節すると,グルタミン酸生産量が増大することが示されている。 また,TCA回路の回転の強さは,回路に含まれる物質の量に依存する。 そこで,例えば, 明1-2の変異を導入して,CS活性を適度な範囲に調節すると,グルタミン酸生産量が増大することが示されている。 また,TCA回路の回転の強さは,回路に含まれる物質の量に依存する。 そこで,例えば,CS遺伝子の活性が高まってCS酵素による反応産物が増加すれば,回路は強く回転することになるため,GDH遺伝子の活性を高めずとも,回路の回転で生産されるグルタミン酸は増加する。 そうすると,上記知見を有する当業者であれば,本件明細書の記載から,GDH遺伝子のプロモーター配列の変異と組み合わせずとも,CS遺伝子のプロモーター配列の変異によってその活性を適度に増強することで,グルタミン酸生産能の向上に寄与することを理解できる。 なお,甲4及び甲34に記載されたCS遺伝子の発現の増強は,プラスミド導入によるものであるところ,ある遺伝子をプラスミドで増強させた結果から,染色体上の同遺伝子のプロモーター配列を改変させた結果は予測し得ないものであるから,甲4及び34の記載は,本件発明1-2による上記効果を何ら否定するものではない。 以上によれば,本件審決の判断に誤りはなく,原告ら主張の取消事由1-2は理由がない。 ⑶ 取消事由1-3(プロモーター-35領域及び-10領域の周辺領域について)ア原告らの主張本件審決は,本件発明1は,GDH遺伝子,CS遺伝子のプロモーターの-35領域及び/又は-10領域に特定の配列の変異を導入したコリネ型細菌変異株を用いて,L-グルタミン酸の収率を向上させたL-グルタミン酸の製造方法を提供するものであって,-35領域及び-10領域の周辺領域の配列や長さを発明特定事項とするものではなく,これらの領域の周辺領域の配列や長さについては,本件明細書の記載(【0017】,【0018】,【0022】,【0 て,-35領域及び-10領域の周辺領域の配列や長さを発明特定事項とするものではなく,これらの領域の周辺領域の配列や長さについては,本件明細書の記載(【0017】,【0018】,【0022】,【0025】~【0048】,表5,6,10及び12)及び技術常識に基づき,当業者であれば容易に理解することができるから,本件発明1はサポート要件に適合し,また,本件明細書の発明の詳細な説明は実施可能要件に適合する旨判断した。 しかしながら,本件発明1では,GDH遺伝子のプロモーターの-35領域及び-10領域に特定の配列を導入し,並びに/あるいはCS遺伝子の-10領域に特定の配列を導入することが規定されているものの,-35領域と-10領域の間の配列,-35領域の上流領域及び-10領域の下流領域は何ら特定されていないため,これらの領域には,いずれの配列及び長さを有するものも包含される。 一方,-35領域と-10領域の間の配列や長さは,プロモーター活性に大きく影響することが知られており(甲26(1頁12行~17行),甲27(4頁15行~22行),甲28(実施例2,表1),甲32(191頁(b)及び(c),図2及び3)),コリネ型細菌においても,プロモーターの-35領域と-10領域の間の領域が重要であると報告さ れている(甲2(1306頁左欄39行~59行))。 また,-35領域の上流領域及び-10領域の下流領域の配列や長さが,プロモーター活性に大きく影響することも知られており(甲32(191頁(d),図2~5)),コリネ型細菌においても,プロモーターの-35領域の上流領域が保存され,重要性が示唆されている(甲2(1306頁左欄39行~59行))。 ところが,-35領域と-10領域の間の配列,-35領域の上流領域及び-10領域の下 ロモーターの-35領域の上流領域が保存され,重要性が示唆されている(甲2(1306頁左欄39行~59行))。 ところが,-35領域と-10領域の間の配列,-35領域の上流領域及び-10領域の下流領域の具体例として本件明細書の実施例に示されているのは,それぞれ,GDH遺伝子のプロモーターに関する,配列番号1における「TATCTGCGACACTGC」(15bp),同「TTAATTCTTTG」(11bp)及び同「TTGAACGT」(8bp)のみであって(【0025】),CS遺伝子に関するものは示されておらず,上記配列を採用すべきことを示唆するような記載もない。そして,本件明細書のその他の部分には,これらの領域に関する記載は見当たらず,プロモーターの-35領域及び-10領域の周辺領域の配列や長さがプロモーター活性に影響を与えない範囲が,技術的背景として明らかであったわけでもないから,これを当業者が適宜定めることはできない。 以上によれば,本件明細書の実施例及びその他の記載並びに技術常識を参照しても,本件発明1におけるように,GDH遺伝子及びCS遺伝子のプロモーターの-35領域と-10領域の間の配列,-35領域の上流領域及び-10領域の下流領域を任意の配列や長さにした場合に,L-グルタミン酸の生産性が向上することを当業者は認識することができない。 したがって,本件発明1はサポート要件に適合するものとはいえず,同様の理由により,本件明細書の発明の詳細な説明は実施可能要件に適合するものとはいえない。 イ被告の主張 本件発明1は,目的遺伝子のプロモーターの特異的領域である-35領域及び/又は-10領域に特定の配列の変異を導入し,目的遺伝子の発現量の適度な強化及び調節を行うことで,L-グルタミン酸を高収率で生産する能力を ,目的遺伝子のプロモーターの特異的領域である-35領域及び/又は-10領域に特定の配列の変異を導入し,目的遺伝子の発現量の適度な強化及び調節を行うことで,L-グルタミン酸を高収率で生産する能力を有するコリネ型細菌変異株を提供するものであって,-35領域及び-10領域の周辺領域の長さや配列を発明特定事項とするものではない。 そして,原告らが挙げる甲26等に,プロモーターの-35領域及び-10領域の周辺領域の配列や長さがプロモーター活性に影響を与えることが記載されていたとしても,GDH遺伝子,CS遺伝子のプロモーターの-35領域及び-10領域の周辺領域の配列や長さは,本件明細書の記載及び技術常識に基づき,L-グルタミン酸の収率に影響を与えない範囲で当業者が適宜定めることができる。 なお,GDH遺伝子の-35領域と-10領域の間の配列については,本件明細書の【0025】だけでなく,【0032】(表6)にも記載されている。また,野生型のGDH遺伝子及びCS遺伝子の配列は,-35領域と-10領域の周辺領域も含めて公知であった。 以上によれば,本件審決の判断に誤りはなく,原告ら主張の取消事由1-3は理由がない。 2 取消事由2(甲2を主引用例とする本件発明1の進歩性の判断の誤り)について⑴ 取消事由2-1(本件発明1-1について)ア原告らの主張本件審決は,①甲2,4~8及び34の記載は,コリネ型細菌の染色体上のGDH遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子のプロモーター配列の-35領域及び-10領域の塩基配列をコリネ型細菌のコンセンサス配列に改変することや,コンセンサス配列に基づき上記各領域の塩基配列を改 変することを示唆する記載であるとはいえない,②また,技術常識ないし周知事項を示す証拠として原告らが提出し センサス配列に改変することや,コンセンサス配列に基づき上記各領域の塩基配列を改 変することを示唆する記載であるとはいえない,②また,技術常識ないし周知事項を示す証拠として原告らが提出した甲3,9~12,16~19,23~28,30~33及び35にも,上記①の各領域の塩基配列をコリネ型細菌のコンセンサス配列に改変することや,コンセンサス配列に基づき上記各領域の塩基配列を改変することの動機付けとなるような記載はないから,甲2,4~8及び34の記載及び本件優先日前の周知事項に基づいても,甲2発明のコリネ型細菌において,GDH遺伝子のプロモーター配列の-35領域及び-10領域の塩基配列の一部を置換して,本件発明1-1の構成とすることは,当業者が容易に想到し得ることとはいえない旨判断した。 しかしながら,以下のとおり,甲2発明及び甲2中の示唆に基づいて,又は甲2発明に甲5,甲6又は甲8記載の発明等を適用して,本件発明1-1の構成を採用することは,当業者が容易に想到し得た事項である。 (ア) -10領域についてa 主引用例(甲2)中の示唆(a) 技術常識前記1⑵アのとおり,L-グルタミン酸は,TCA回路という一連の反応によって生産されるものである。そして,L-グルタミン酸の生産を増強するためには,L-グルタミン酸に至るまでの各反応に関与する酵素(CS,GDH,ICDH等)の発現を強化することが望ましいことは,本件優先日前において技術常識であった(甲5(11頁11行~20行),甲11(3頁左上欄5行~10行),甲34(3頁右下欄))。 また,E.coli(大腸菌)において,プロモーターの-10領域及び-35領域をコンセンサス配列に変更ないし近づけることによって,目的遺伝子の発現を強化でき ~10行),甲34(3頁右下欄))。 また,E.coli(大腸菌)において,プロモーターの-10領域及び-35領域をコンセンサス配列に変更ないし近づけることによって,目的遺伝子の発現を強化できることも,本件優先日前におい て技術常識であった(甲6,甲9(1120頁右欄5行~9行),甲17(Abstract),甲18(図1~2,804頁左欄12行~20行),甲19(Abstract,6229頁右欄最終行~6230頁左欄8行),甲27(4頁1行~4行,7頁24行~28行),甲31(Abstract)等)。 ⒝ 甲2の記載甲2には,コリネ型細菌とE.coli のコンセンサス配列が同等であることが示されている(1297頁Abstract11行~18行)。 また,甲2には,コリネ型細菌のプロモーターの-10領域のコンセンサス配列が「TA.aaT」であること,この3番目の塩基「.」は,突出して頻度の高いものは存在しないものの,「T」が33%(11/33)を占めており,相対的に最も頻度の高い塩基であることが記載されている(Abstract,Table2)。 加えて,本件優先日前において,E.coli 等の細菌のプロモーター-10領域のコンセンサス配列は「TATAAT」であり,3番目の塩基は「T」であること(甲2(Table2)),-10領域の配列が「TATAAT」であるプロモーター(例えば,tac,lacUV5)が,コリネ型細菌で強力に機能し,下流の遺伝子の発現を増強することが知られていた⒞ 小括以上によれば,前記⒝の甲2の記載は,当業者に対し,甲2発明のGDH遺伝子のプロモーター配列の-10領域(CATAAT)の1番目の塩基「C」を「T」に変異して,コンセンサス配列,すなわち本件発明1-1の構 れば,前記⒝の甲2の記載は,当業者に対し,甲2発明のGDH遺伝子のプロモーター配列の-10領域(CATAAT)の1番目の塩基「C」を「T」に変異して,コンセンサス配列,すなわち本件発明1-1の構成(「TATAAT」)とすることを示唆するものといえる。 b 副引用例について(a) 甲5の記載 甲5には,コリネ型細菌によるL-グルタミン酸の生産性を向上させるためには,L-グルタミン酸生合成系遺伝子を増強することが有利であり,その具体的な手段として,TCA回路に関わるGDH遺伝子,CS遺伝子等の発現を増強することが記載されている(11頁11行~20行)。 さらに,甲5には,目的遺伝子の発現を強化するには,当該遺伝子をコリネ型細菌で機能する強力なプロモーターの下流に連結すればよいことが記載され,そのようなプロモーターとして,大腸菌のlac,lacUV5,tac,trp プロモーター等が例示されている(12頁9行~16行)。そして,上記の大腸菌のlac プロモーター等は,-10領域に「TATAAT」配列を有する(甲7)。 加えて,甲5には,目的遺伝子を相同組換えによって染色体上へ固定することも記載されている(9頁29行~10頁13行)。しかも,本件優先日当時,目的遺伝子の発現をプラスミドDNA上により増強する技術には,目的遺伝子や菌株によっては,脱落,不十分な発現,過剰発現による菌の生育や物質への悪影響といった問題が生じる場合があること,この課題を解決するための手段として,相同組換えにより目的遺伝子を染色体上へ固定する方法が,既に知られていた(甲5(9頁最終行~10頁13行),甲10(【0003】,【0004】))。また,コリネ型細菌のCS遺伝子については,その発現増強をプラスミドにより行うと,過剰 へ固定する方法が,既に知られていた(甲5(9頁最終行~10頁13行),甲10(【0003】,【0004】))。また,コリネ型細菌のCS遺伝子については,その発現増強をプラスミドにより行うと,過剰発現により菌の生育が悪くなったことから(甲4(1820頁右欄32行~36行)),染色体上での変異導入により解決すべき具体的課題が存在することも知られていた。 そのため,L-グルタミン酸の生産に当たり,目的遺伝子(とりわけ,CS遺伝子)の発現のためにプラスミドではなく染色体上へ の変異導入を行うことは,当業者が当然に採用する手段であった。 以上によれば,L-グルタミン酸の生産量を向上させる目的で,TCA回路に関わるGDH遺伝子の発現を強化するため,甲2発明に対し,甲5記載のlac プロモーター等の-10領域(「TATAAT」)を適用し,甲2発明の染色体上のプロモーターに変異を導入して,相違点1に係る本件発明1-1の構成を採用することは,当業者が容易に想到し得たものである。 ⒝ 甲6の記載甲6には,E.coli のプロモーター配列の-10領域のコンセンサス配列が「TATAAT」であること,E.coli のプロモーター配列の-10領域を「TACAAT」から上記コンセンサス配列に変異させたことにより,活性が7倍上昇したことが記載されている(875頁左欄Abstract4行~10行)。 そして,前記a(a)のとおり,本件優先日前において,コリネ型細菌において,TCA回路に関与する複数の酵素の遺伝子(例えば,GDH遺伝子及びCS遺伝子)の発現を強化することによって,L-グルタミン酸の生産性が向上することが知られており,また,コリネ型細菌とE.coli との間で,プロモーターの機能と構造に共通性があり転用が可能であることも 伝子)の発現を強化することによって,L-グルタミン酸の生産性が向上することが知られており,また,コリネ型細菌とE.coli との間で,プロモーターの機能と構造に共通性があり転用が可能であることも知られていた(甲2(1305頁右欄11行~24行,1306頁左欄18行~38行),甲5(12頁9行~16行),甲16(Abstract(607頁),結果(608頁),Table1(610頁)),甲20(3頁左上欄5行~右上欄),甲21(2頁左上欄12行~右上欄8行),甲22(請求項8,12)等)。 以上によれば,L-グルタミン酸の生産量を向上させる目的で,TCA回路に関わるGDH遺伝子の発現を強化するため,甲2発明 に対し,甲6記載の発明を適用し,甲2発明の染色体上のプロモーターに変異を導入して,相違点1に係る本件発明1-1の構成を採用することは,当業者が容易に想到し得たものである。 ⒞ 甲8の記載甲8には,コリネ型細菌内で機能するプロモーターの配列(-35領域「TAGACA」,-10領域「TATAAT」)の発明や,プロモーター配列の-10領域を「TATAAT」にすることにより,目的遺伝子の発現が14倍上昇することが記載されている(請求項1,実施例2,実施例3)。 そして,前記a(a)のとおり,本件優先日前において,コリネ型細菌において,TCA回路に関与する複数の酵素の遺伝子(例えば,GDH遺伝子及びCS遺伝子)の発現を強化することによって,L-グルタミン酸の生産性が向上することが知られていた。 以上によれば,L-グルタミン酸の生産量を向上させる目的で,TCA回路に関わるGDH遺伝子の発現を強化するため,甲2発明に対し,甲8記載の発明を適用し,甲2発明の染色体上のプロモーターに変異を導入して,相違点1に係る本 タミン酸の生産量を向上させる目的で,TCA回路に関わるGDH遺伝子の発現を強化するため,甲2発明に対し,甲8記載の発明を適用し,甲2発明の染色体上のプロモーターに変異を導入して,相違点1に係る本件発明1-1の構成を採用することは,当業者が容易に想到し得たものである。 c 相違点の容易想到性以上によれば,コリネ型細菌のGDH遺伝子のプロモーター配列の-10領域を本件発明1-1の構成「TATAAT」に改変することは,当業者が甲2発明及び甲2の示唆に基づき,又は,甲2発明及び甲5,甲6若しくは甲8記載の発明に基づいて,容易に想到し得たものである。 (イ) -35領域についてa 前記(ア)a(a)のとおり,本件優先日前において,L-グルタミン酸 の生産を増強するためには,L-グルタミン酸に至るまでの各反応に関与する酵素(CS,GDH,ICDH等)の発現を強化することが望ましいこと,E.coli において,プロモーターの-10領域及び-35領域をコンセンサス配列に変更ないし近づけることによって,目的遺伝子の発現を強化できることは,技術常識であった。 b 野生型コリネ型細菌のプロモーターの-35領域のコンセンサス配列は「TTGCCA」であり,1番目~3番目の塩基は「TTG」である。そして,コリネ型細菌を含む複数の細菌において,プロモーター-35領域の1番目~3番目の塩基「TTG」の保存性が高いことが知られていた(甲2(Table2),甲6(introduction))。 そうすると,当業者が野生型コリネ型細菌のプロモーター-35領域の変異を試みる場合,1番目~3番目の塩基については保存性の高い「TTG」を採用するはずである。 c 以上によれば,L-グルタミン酸の生産性を向上させるために,各酵素 細菌のプロモーター-35領域の変異を試みる場合,1番目~3番目の塩基については保存性の高い「TTG」を採用するはずである。 c 以上によれば,L-グルタミン酸の生産性を向上させるために,各酵素の発現を強化する一環として,甲2発明のコリネ型細菌における野生型GDH遺伝子のプロモーター-35領域の1番目~3番目の塩基を保存性の高い「TTG」にするために,2番目の塩基「G」を「T」に変異して,本件発明1-1の構成(「TTGTCA」)とすることは,当業者が容易に想到し得た事項である。 (ウ) 本件発明1-1の効果本件明細書の記載によれば,野生型の親株(AJ13029)のGDH遺伝子のプロモーター配列に変異を導入して本件発明1-1の構成とした菌株(FGR2(実施例2))のL-グルタミン酸生産量は,親株の1.15倍に過ぎない(表5及び6(別紙1を参照))。 そして,従来技術でも,GHD遺伝子の発現の強化により,L-グルタミン酸生産量が1.20倍に増加することが知られていた(甲34)。 以上によれば,相違点1に係る本件発明1-1の構成を採用することによる効果は,顕著なものとはいえない。 イ被告の主張(ア) -10領域についてa 主引用例(甲2)中の示唆について(a) 技術常識L-グルタミン酸の生産を増強するために,L-グルタミン酸に至るまでの各反応に関与する酵素(CS,GDH,ICDH等)の活性をどの程度増強すればよいかについては,本件優先日当時,明らかではなかった。 また,E.coli において,プロモーターの-10領域及び-35領域をコンセンサス配列に変更ないし近づけることによって,目的遺伝子の発現を強化できることが,本件優先日前において技 また,E.coli において,プロモーターの-10領域及び-35領域をコンセンサス配列に変更ないし近づけることによって,目的遺伝子の発現を強化できることが,本件優先日前において技術常識であったとはいえない。この点に関し原告らが提出する証拠(甲6,9,17~19,27,31)には,E.coli のプロモーターの-35領域及び-10領域の配列が,コンセンサス配列に近づく程活性が高まることは記載されていない。 E.coli に関しても,プロモーター配列の-35領域及び-10領域の配列とコンセンサス配列との類似性が高まることで,プロモーター活性の向上が必ず引き起こされるとは考えられていなかったものである(乙7の1~7の3)。 ⒝ 甲2の記載甲2には,単にE.coli 等と,コリネ型細菌のTS サイトから約35塩基対上流及び約10塩基対上流のモチーフの位置及びモチーフ自体が比較可能であるという程度のことが示されているに過ぎない。 また,甲2には,コリネ型細菌のプロモーターの-10領域のコ ンセンサス配列が「TA.aaT」であることが記載されているが,この3番目の塩基「.」は,塩基が不安定であることを示し,また,小文字で記載される塩基は,甲2で検討した多数の酵素の各プロモーターにおいて,保存性の低い塩基であることを示している。 なお,甲2のTable2 に示されるC.グルタミカムプロモーターの各塩基の保存割合は,Fig.1 に示される33個のプロモーター中の頻度から計算しているが,これは,Fig.1 の-10領域の3番目の塩基が「T」である数と,「G」である数を数え間違え,「T」を11個,「G」を9個として算出した割合と考えられる。しかしながら,実際には,Fig.1 に示される-10領域の の-10領域の3番目の塩基が「T」である数と,「G」である数を数え間違え,「T」を11個,「G」を9個として算出した割合と考えられる。しかしながら,実際には,Fig.1 に示される-10領域の3番目の塩基の「T」は10個であるから,その保存割合は30%(10/33)であり,また,「G」も実際は10個であるから同様に30%であって,「T」が相対的に最も頻度の高い塩基というわけでもない。 また,本件優先日当時,コリネ型細菌の遺伝子発現のためのプロモーターの配列構造についての研究は進んでおらず,大腸菌や枯草菌のような他の産業用微生物とは異なり,公知ではなかったものであり,コリネ型細菌のCS遺伝子のプロモーターの-10領域は,必ずしも甲2に開示される配列に確定していなかった(甲3,4,乙8)。 甲2には,コリネバクテリウム・グルタミカムの複数の遺伝子のプロモーターについて,-35領域及び-10領域の塩基配列を解析した結果が記載されているだけであって,コリネ型細菌の染色体上の遺伝子のプロモーター配列の-35領域及び-10領域の塩基配列をコリネ型細菌のコンセンサス配列に改変することや,コンセンサス配列に基づきこれらの領域の塩基配列を改変することを示唆する記載はない。 かえって,甲2には,コリネ型細菌において,プロモーター活性と,各プロモーターの-35領域及び-10領域とコンセンサス配列との類似性との間に相関が確認できなかったことが記載されている(1306頁右欄下から2行~1307頁左欄6行)。 ⒞ 小括以上によれば,当業者が,甲2の記載に基づき,コリネバクテリウム・グルタミカムの多数の遺伝子のうち,特にGDH遺伝子のプロモーター配列を改変しようとする動機付けがあったとはいえない。 以上によれば,当業者が,甲2の記載に基づき,コリネバクテリウム・グルタミカムの多数の遺伝子のうち,特にGDH遺伝子のプロモーター配列を改変しようとする動機付けがあったとはいえない。 b 副引用例について(a) 甲5の記載甲5は,α-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ(α-KGDH)活性が欠失したコリネ型細菌及び当該菌を用いたL-グルタミン酸の製造法等に関する文献である(請求項1,2等)。 そして,甲5には,α-KGDH活性が欠失したコリネ型細菌を得る方法として,染色体上の配列と相同性を有する配列を持つプラスミドを用いて相同性組換えを起こすことにより,変異が導入されて改変又は破壊された遺伝子が,染色体上の正常な遺伝子と置換された菌株を取得することができる旨が記載されているが,かかる記載は,α-KGDH活性を欠損させる手段として記載されているだけで,コリネ型細菌の染色体上のGDH遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子に変異を導入する手段として記載されているわけではない。 また,甲5には,遺伝子自体を改変又は破壊する手段として,上記の相同性組換えを開示しているに留まり,遺伝子のプロモーターの特定の領域を変異させることや,染色体上にもともと存在する遺 伝子のプロモーターの特定の領域を変異させて発現を適度に調整するという解決手段については,開示も示唆もない。 なお,甲5は,α-KGDH活性の欠失とともに,グルタミン酸生合成系遺伝子を強化し得ることを開示し,そのような遺伝子として,他の多数の遺伝子に加えてCS及びGDHを例示するが,これらの遺伝子を染色体から取得し,これをコリネ型細菌で利用可能なベクターに連結した後,目的遺伝子の発現を増強したい場合には,ベクター上の遺伝子を強力なプロモーターの下流に連結するこ を例示するが,これらの遺伝子を染色体から取得し,これをコリネ型細菌で利用可能なベクターに連結した後,目的遺伝子の発現を増強したい場合には,ベクター上の遺伝子を強力なプロモーターの下流に連結することができることを開示するにとどまる(11頁21行~12頁4行,12頁9行~16行)。 したがって,甲5には,コリネ型細菌の染色体上のGDH遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子のプロモーター配列に関し,その-35領域及び-10領域の塩基配列を改変することの開示も示唆もない。 ⒝ 甲6の記載甲6には,大腸菌の特定の遺伝子のプロモーターについての結果が記載されているだけであって,コリネバクテリウム・グルタミカムのプロモーターのコンセンサス配列に関する記載はない。 また,E.coli とC.グルタミカムとではコンセンサス配列が異なり,コリネ型細菌にE.coli のコンセンサス配列と一致させる変異を導入する動機付けもない。 そもそも,前記a(a)のとおり,E.coli においてさえも,目的遺伝子のプロモーター配列をコンセンサス配列に変更した際に,必ずしも,遺伝子の活性が増強されるとはいえなかった。 このような状況下において,E.coli に関する甲6の開示を,コリネ型細菌に適用する動機付けはなく,コリネ型細菌にE.coli のコ ンセンサス配列と一致させる変異を導入して,相違点1に係る本件発明1-1の構成とすることを想到するのは,容易でない。 ⒞ 甲8の記載甲8は,特定の配列を有するプロモーターがコリネ型細菌内で機能することを示すに過ぎず,コンセンサス配列とは無関係の文献である。また,甲8は,コリネ型細菌内で機能するプロモーターの配列として特定の配列を採用した結果,目的遺伝子の発現が14倍に上昇した で機能することを示すに過ぎず,コンセンサス配列とは無関係の文献である。また,甲8は,コリネ型細菌内で機能するプロモーターの配列として特定の配列を採用した結果,目的遺伝子の発現が14倍に上昇したことを示すものではない。 本件発明は,目的遺伝子の発現を適度に増加して,グルタミン酸を高収率で得る発明であり,目的遺伝子の発現と生成物の収率が連動しているわけではない。また,ある微生物のプロモーターが,他の微生物のプロモーターとして機能する例が知られていることと,そのプロモーターが他の微生物においてコンセンサス配列であることは無関係である。 加えて,甲8でブレビバクテリウム菌株に導入されている遺伝子(CAT)は,その株に全く存在しない外来遺伝子であるから,甲8の記載は,染色体上のGDH遺伝子等のプロモーター配列の-10領域の塩基配列を改変することを示唆する記載ではない。 (イ) -35領域についてa 前記(ア)と同様の理由により,当業者が,甲2の記載に基づき,コリネバクテリウム・グルタミカムの多数の遺伝子のうち,特にGDH遺伝子のプロモーター配列を改変しようとする動機付けがあったとはいえず,また,甲5,甲6及び甲8には,コリネ型細菌の染色体上のGDH遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子のプロモーター配列に関し,その-35領域の塩基配列を改変することの開示や示唆はない。 b また,甲2には,①-35領域のコンセンサス配列は,E.coli が 「TTGACA」であり,C.グルタミカムでは「ttGcca」であること,②E.coliの-35領域では,1番目~3番目の「TTG」の保存性が高い一方,C.グルタミカムの-35領域では,「TTG」のうち,1番目の「T」と2番目の「T」は,いずれも保存性が48%であり,6塩基の中で iの-35領域では,1番目~3番目の「TTG」の保存性が高い一方,C.グルタミカムの-35領域では,「TTG」のうち,1番目の「T」と2番目の「T」は,いずれも保存性が48%であり,6塩基の中でも5番目の「C」(45%)と並んで最も保存性が低いことが示されている(Table2)。 そうすると,仮に,甲2発明のGDH遺伝子のプロモーターの-35領域の配列(TGGTCA)を,コンセンサス配列の各塩基の保存性の高さを考慮して改変するとしても,コンセンサス配列(ttGcca)と相違する塩基(2番目の「G」及び4番目の「T」)のうち,保存性のより高い4番目の塩基(Table2)を維持して「TGGCCA」とするはずであるから,相違点1に係る本件発明1-1の構成に至るものではない。 (ウ) 本件発明1-1の効果アミノ酸生産菌の染色体上でプロモーター配列を改変することによりアミノ酸の収率を実際に向上させた例は,本件発明以前に存在せず,また,本件発明は,目的遺伝子の発現を最適な発現量に調節することにより,目的とするアミノ酸であるL-グルタミン酸の収率を高めるのみならず,目的とするアミノ酸以外の副生を抑制することができるという従来技術から全く予想することができなかった顕著なものである。 (エ) 小括以上によれば,甲2発明及び甲2の記載中の示唆に基づいて,又は甲2発明に甲5,甲6又は甲8記載の発明等を適用して,本件発明1-1の構成を採用することは,当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。 したがって,この点に関する本件審決の判断に誤りはなく,原告ら主張の取消事由2-1は理由がない。 ⑵ 取消事由2-2(本件発明1-2について)ア原告らの主張本件審決は,①甲2,4~8及び34の記載は,コリ 判断に誤りはなく,原告ら主張の取消事由2-1は理由がない。 ⑵ 取消事由2-2(本件発明1-2について)ア原告らの主張本件審決は,①甲2,4~8及び34の記載は,コリネ型細菌の染色体上のCS遺伝子等について,グルタミン酸生合成系遺伝子のプロモーター配列の-10領域における塩基配列をコリネ型細菌のコンセンサス配列に改変することや,コンセンサス配列に基づき上記領域の塩基配列を改変することを示唆する記載であるとはいえない,②また,技術常識ないし周知事項を示す証拠として原告らが提出した甲3,9~12,16~19,23~28,30~33及び35にも,上記①の各領域の塩基配列をコリネ型細菌のコンセンサス配列に改変することや,コンセンサス配列に基づき上記領域の塩基配列を改変することの動機付けとなるような記載はないから,甲2,4~8及び34の記載及び本件優先日前の周知事項に基づいても,甲2発明のコリネ型細菌において,CS遺伝子のプロモーター配列の-10領域における塩基配列の一部を置換して,本件発明1-2の構成とすることは,当業者が容易に想到し得ることとはいえない旨判断した。 しかしながら,甲2発明及び甲2中の示唆に基づいて,又は甲2発明に甲5,甲6若しくは甲8記載の内容を適用して,相違点1に係る本件発明1-2の構成を採用することは,当業者が容易に想到し得た事項である。 その理由は,前記⑴ア(ア)と同様である。 なお,本件発明1-2の効果に関し,本件明細書の実施例3では,GDH遺伝子のプロモーターを本件発明1-1の構成とした菌株(FGR2)に対し,更にCS遺伝子のプロモーターを本件発明1-2の構成とした菌株(GB02)が比較されているが,後者のL-グルタミン酸の生産性は,前者の約1.1倍に過ぎない。 そして,従来技術 (FGR2)に対し,更にCS遺伝子のプロモーターを本件発明1-2の構成とした菌株(GB02)が比較されているが,後者のL-グルタミン酸の生産性は,前者の約1.1倍に過ぎない。 そして,従来技術でも,CS遺伝子の発現の強化により,L-グルタミン酸生産量が1.23倍に増加することが知られていた(甲34)。 以上によれば,相違点1に係る本件発明1-2の構成を採用することによる効果は,顕著なものとはいえない。 また,前記1⑵アのとおり,GDH遺伝子の発現を強化することなく,CS遺伝子の発現のみを強化した例は,本件明細書に記載されていないため,本件発明1-2の効果は,本件明細書では実証されていない。 そのため,相違点1に特段の技術的意義はなく,CS遺伝子のプロモーターの-10領域に変異を導入して本件発明1-2の構成とすることは,当業者が適宜変更できる事項に過ぎない。 イ被告の主張前記⑴イ(ア)と同様の理由により,甲2発明及び甲2中の示唆に基づいて,又は甲2発明に甲5,甲6又は甲8記載の発明等を適用して,本件発明1-2の構成を採用することは,当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。 なお,本件発明1-2が顕著な効果を奏するものであることは,前記⑴イ(ウ)のとおりである。また,本件明細書の記載から,GDH遺伝子のプロモーター配列の変異と組み合わせずとも,CS遺伝子のプロモーター配列の変異によってその活性を適度に増強することで,グルタミン酸生産能の向上に寄与することを理解できることは,前記1⑵イのとおりである。 したがって,この点に関する本件審決の判断に誤りはなく,原告ら主張の取消事由2-2は理由がない。 ⑶ 取消事由2-3(本件発明1-3について)ア原告らの主張本件審決は である。 したがって,この点に関する本件審決の判断に誤りはなく,原告ら主張の取消事由2-2は理由がない。 ⑶ 取消事由2-3(本件発明1-3について)ア原告らの主張本件審決は,本件発明1-3は,本件発明1-1に更なる限定を加えた発明であるから,本件発明1-1が当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上,本件発明1-3も,当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない旨判断した。 したがって,本件発明1-3についても,前記⑴アと同様の理由により,本件審決は,違法なものとして取り消されるべきである。 イ被告の主張前記⑴イ及び⑵イのとおり,甲2発明及び甲2中の示唆に基づいて,又は甲2発明に甲5,甲6又は甲8記載の発明等を適用して,本件発明1-1及び本件発明1-2の構成を採用することは,当業者が容易に想到し得たものであるとはいえないから,本件発明1-3についても,当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。 したがって,この点に関する本件審決の判断に誤りはなく,原告ら主張の取消事由2-3は理由がない。 3 取消事由3(甲5を主引用例とする本件発明1の進歩性の判断の誤り)について⑴ 取消事由3-1(本件発明1-1について)ア原告らの主張(ア) 甲5発明の認定及び本件発明1-1と甲5発明の対比の誤り本件審決は,前記第2の3⑷ア及びイのとおり,甲5発明並びに本件発明1-1と甲5発明の一致点及び相違点を認定した。 しかしながら,以下のとおり,本件審決における甲5発明の認定及び本件発明1-1と甲5発明の一致点及び相違点の認定には誤りがある。 a 甲5に記載された発明(a) 前記2⑴ア(ア)b(a)のとおり,当業者であ ,以下のとおり,本件審決における甲5発明の認定及び本件発明1-1と甲5発明の一致点及び相違点の認定には誤りがある。 a 甲5に記載された発明(a) 前記2⑴ア(ア)b(a)のとおり,当業者であれば,甲5には,L-グルタミン酸の生産量の向上を目的として,CS遺伝子及びGDH遺伝子を増強させる手段が記載されていると理解するところ,さらに,甲5には,目的遺伝子を相同組換えによって染色体上へ固定することも記載されており,L-グルタミン酸の生産に当たり,目的遺伝子(とりわけ,CS遺伝子)の発現のためにプラスミドでは なく染色体上への変異導入を行うことは,当業者が当然に採用する手段であった。 ⒝ 以上によれば,甲5に記載された発明は,以下のとおり認定されるべきである(以下「甲5発明’」という。)。 「コリネ型細菌の染色体上のグルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)又はクエン酸合成酵素(CS)遺伝子のプロモーター配列に変異を導入したコリネ型細菌を培地で培養し,培地中にL-グルタミン酸を生成蓄積させ,これを該培地から採取することを特徴とする発酵法によるL-グルタミン酸の製造方法。」b 本件発明1-1と甲5発明’との対比本件発明1-1と甲5発明’との対比によると,相違点は,以下のとおり認定されるべきである(以下「相違点1’」という。下線部は,本件審決が認定した相違点(前記第2の3⑷イ)と異なる箇所である。)。 「本件発明1-1のコリネ型細菌は,GDH遺伝子のプロモーター配列の-35領域にTTGTCA配列及び-10領域にTATAAT配列を導入したものであるのに対し,甲5発明’のコリネ型細菌は,GDH遺伝子のプロモーター配列に変異が導入されているものの,-35領域及び-10領域の配列が特定されていない点。」c AT配列を導入したものであるのに対し,甲5発明’のコリネ型細菌は,GDH遺伝子のプロモーター配列に変異が導入されているものの,-35領域及び-10領域の配列が特定されていない点。」c 相違点1’の容易想到性前記2⑴アと同様の理由により,相違点1’に係る本件発明1-1の構成は,当業者が容易に想到することができたものである。 (イ) 相違点の容易想到性の判断の誤り本件審決は,甲2を主引用例とする本件発明1-1の進歩性の判断(前記2⑴ア)と同様の理由により,甲2,4~8及び34の記載及び本件優先日前の周知事項に基づいても,甲5発明のコリネ型細菌において,GDH遺伝子のプロモーター配列の-35領域及び-10領域の塩基配 列の一部を置換して,本件発明1-1の構成とすることは,当業者が容易に想到し得ることとはいえない旨判断した。 しかしながら,前記2⑴ア(ア)と同様の理由により,本件審決が認定した相違点に係る本件発明1-1の構成は,当業者が容易に想到することができたものである。また,上記相違点に係る本件発明1-1の構成を採用することによる効果は,顕著なものとはいえない(前記2⑴ア(ウ))。 したがって,本件審決の上記判断には誤りがある。 イ被告の主張(ア) 甲5発明の認定及び本件発明1-1と甲5発明の対比についてa 甲5に記載された発明(a) 前記2⑴イ(ア)b(a)のとおり,甲5は,α-KGDH活性の欠失とともに,グルタミン酸生合成系遺伝子を強化し得ることを開示し,そのような遺伝子として,他の多数の遺伝子に加えてCS及びGDHを例示するが,これらの遺伝子を染色体から取得し,これをコリネ型細菌で利用可能なベクターに連結した後,目的遺伝子の発現を増強したい場合に のような遺伝子として,他の多数の遺伝子に加えてCS及びGDHを例示するが,これらの遺伝子を染色体から取得し,これをコリネ型細菌で利用可能なベクターに連結した後,目的遺伝子の発現を増強したい場合には,ベクター上の遺伝子を強力なプロモーターの下流に連結することができることを開示するにとどまるものであって,コリネ型細菌の染色体上にあるGDH遺伝子等グルタミン酸生合成系遺伝子のプロモーター配列に関し,その-35領域及び-10領域の塩基配列を改変することの開示や示唆はない。 ⒝ 以上によれば,甲5に甲5発明’が記載されているものとは認められず,本件審決における甲5発明の認定に誤りはない。 b 本件発明1-1と甲5発明との対比前記aのとおり,本件審決における甲5発明の認定に誤りはない。 そして,本件発明1-1と甲5発明とを対比すると,本件審決が認 定したとおりの一致点及び相違点が認められるものであって,本件審決の認定に誤りはない。 (イ) 相違点の容易想到性の判断について前記2⑴イ(ア)と同様の理由により,本件審決が認定した相違点に係る本件発明1-1の構成は,甲5と他の従来技術を組み合わせても,当業者が容易に想到することができたものであるとはいえない。また,その効果も従来予測し得なかった顕著なものである(前記2⑴イ(ウ))。 したがって,これと同旨の本件審決の判断に誤りはなく,原告ら主張の取消事由3-1は理由がない。 ⑵ 取消事由3-2(本件発明1-2について)ア原告らの主張(ア) 甲5発明の認定及び本件発明1-2と甲5発明の対比の誤りa 本件審決は,前記第2の3⑷ア及びウのとおり,甲5発明並びに本件発明1-2と甲5発明の一致点及び相違点を認定した。 しかしな の認定及び本件発明1-2と甲5発明の対比の誤りa 本件審決は,前記第2の3⑷ア及びウのとおり,甲5発明並びに本件発明1-2と甲5発明の一致点及び相違点を認定した。 しかしながら,前記⑴ア(ア)のとおり,本件審決における甲5発明の認定には誤りがあり,甲5に記載された発明として,甲5発明’を認定するのが相当である。 b そして,本件発明1-2と甲5発明’とを対比すると,相違点は,以下のとおり認定されるべきである(以下「相違点1’」という。下線部は,本件審決が認定した相違点(前記第2の3⑷ウ)と異なる箇所である。)。 「本件発明1-2のコリネ型細菌は,CS遺伝子のプロモーター配列の-10領域にTATAAT配列を導入したものであるのに対し,甲5発明’のコリネ型細菌は,CS遺伝子のプロモーター配列に変異が導入されているものの,-10領域の配列が特定されていない点。」c 相違点1’の容易想到性 前記2⑵アと同様の理由により,相違点1’に係る本件発明1-2の構成は,当業者が容易に想到することができたものである。 (イ) 相違点の容易想到性の判断の誤り本件審決は,甲2を主引用例とする本件発明1の進歩性の判断(前記2⑴ア)と同様の理由により,甲2,4~8及び34の記載及び本件優先日前の周知事項に基づいても,甲5発明のコリネ型細菌において,CS遺伝子のプロモーター配列の-10領域の塩基配列の一部を置換して,本件発明1-2の構成とすることは,当業者が容易に想到し得ることとはいえない旨判断した。 しかしながら,以下のとおり,本件審決の上記判断には誤りがある。 a 主引用例(甲5)の示唆前記2⑴ア(ア)b(a)と同様の理由により,甲5の記載中の示唆に従い,tac プロモー しかしながら,以下のとおり,本件審決の上記判断には誤りがある。 a 主引用例(甲5)の示唆前記2⑴ア(ア)b(a)と同様の理由により,甲5の記載中の示唆に従い,tac プロモーターの配列を導入することにより,コリネ型細菌のCS遺伝子のプロモーター配列の-10領域を「TATAAT」に改変して本件発明1-2の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たものである。 b 甲2,甲6及び甲8前記2⑴ア(ア)a,b⒝及び⒞と同様の理由により,コリネ型細菌のCS遺伝子の野生型プロモーターの-10領域を「TATAAT」に変異させて,本件発明1-2の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たものである。 c 本件発明1-2の効果前記2⑴ア(ウ)と同様の理由により,本件審決が認定した相違点に係る本件発明1-2の構成を採用することによる効果は,顕著なものとはいえない。 また,前記2⑵アのとおり,上記相違点に特段の技術的意義はなく, CS遺伝子のプロモーターの-10領域に変異を導入して本件発明1-2の構成とすることは,当業者が適宜変更できる事項に過ぎない。 イ被告の主張(ア) 甲5発明の認定及び本件発明1-2と甲5発明の対比について前記⑴イのとおり,本件審決における甲5発明の認定に誤りはない。 そして,本件発明1-2と甲5発明とを対比すると,本件審決が認定したとおりの一致点及び相違点が認められるものであって,本件審決の認定に誤りはない。 (イ) 相違点の容易想到性の判断について前記2⑴イ(ア)と同様の理由により,本件審決が認定した相違点に係る本件発明1-2の構成は,甲5と他の従来技術を組み合わせても,当業者が容易に想到することができたものであるとはいえない。また,その効果も従来 (ア)と同様の理由により,本件審決が認定した相違点に係る本件発明1-2の構成は,甲5と他の従来技術を組み合わせても,当業者が容易に想到することができたものであるとはいえない。また,その効果も従来予測し得なかった顕著なものである(前記2⑴イ(ウ))。 したがって,これと同旨の本件審決の判断に誤りはなく,原告ら主張の取消事由3-2は理由がない。 ⑶ 取消事由3-3(本件発明1-3について)ア原告らの主張本件審決は,本件発明1-3について,本件発明1-1の認定判断を引用するのみである。 したがって,前記⑴アと同様の理由により,本件審決は,違法なものとして取り消されるべきである。 イ被告の主張前記⑴イ及び⑵イのとおり,甲5発明及び甲5の記載中の示唆に基づいて,又は甲5発明に甲2,甲6又は甲8記載の発明等を適用して,本件発明1-1及び本件発明1-2の構成を採用することは,当業者が容易に想到し得たものであるとはいえないから,本件発明1-3についても,当業 者が容易に想到し得たものであるとはいえない。 したがって,この点に関する本件審決の判断に誤りはなく,原告ら主張の取消事由3-3は理由がない。 4 取消事由4(本件発明2及び4の進歩性,サポート要件及び実施可能要件の判断の誤り)について⑴ 原告らの主張本件審決は,本件発明2は本件発明1-1と実質的に同一の発明であり,本件発明4は本件発明1-1に更なる限定を加えた発明であるから,本件発明1が,当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上,本件発明2及び本件発明4も,当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない旨判断した。 しかしながら,取消事由2及び3に関する原告らの主張と同様の理由(前記2及び3)により,本 上,本件発明2及び本件発明4も,当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない旨判断した。 しかしながら,取消事由2及び3に関する原告らの主張と同様の理由(前記2及び3)により,本件発明2及び本件発明4についても,甲2を主引用例として,又は甲5を主引用例として,当業者が容易に発明をすることができたものである。また,本件発明2にサポート要件違反及び実施可能要件違反があることは,前記1⑴ア及び⑶アのとおりであり,本件発明4にサポート要件違反及び実施可能要件違反があることは,前記1⑶アのとおりである。 したがって,本件審決は,違法なものとして取り消されるべきである。 ⑵ 被告の主張取消事由1ないし3に関する被告の主張と同様の理由(前記1ないし3)により,本件審決の判断に誤りはなく,原告ら主張の取消事由4は理由がない。 第4 当裁判所の判断 1 取消事由1(本件発明1のサポート要件及び実施可能要件の判断の誤り)について⑴ 本件明細書の記載事項等について ア本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)の記載は,前記第2の2のとおりである。 本件明細書(甲1)の発明の詳細な説明には,次のような記載がある(下記記載中に引用する「表1,5ないし7,10,12,23及び26」については別紙1を参照)。 (ア) 【技術分野】【0001】本発明は,アミノ酸を高収率で生産する能力を有する変異株を構築する方法及びその変異株を用いる発酵法によるL−アミノ酸の製造方法に関するものである。 【背景技術】【0002】発酵法によるアミノ酸の生産に用いられる変異株の構築方法は,大別すると2通りあり,1つは化学変異剤をもちいてDNA にランダムに変異を導入する方法であり,もう1つは遺伝子組換えを用 【0002】発酵法によるアミノ酸の生産に用いられる変異株の構築方法は,大別すると2通りあり,1つは化学変異剤をもちいてDNA にランダムに変異を導入する方法であり,もう1つは遺伝子組換えを用いる方法である。 遺伝子組換えを用いる方法では,目的物質の生合成に関与する代謝経路上の遺伝子を強化したり,分解に関与する酵素の遺伝子を弱化したりすることにより,目的物質の生産性が向上した菌株を開発出来る。また,その際に,目的遺伝子を強化する方法として,細胞内で,染色体とは独立して自立複製可能なプラスミドが主に用いられてきた。 しかし,プラスミドを用いた目的遺伝子の強化方法には問題点がある。 具体的には目的遺伝子の強化の程度はプラスミド自体のコピー数によって決まるため,目的遺伝子の種類によってはコピー数が高過ぎて,発現量が高くなり過ぎることにより,生育が著しく抑制されたり,逆に目的物質の生産能が低下したりする例が多くある。この様な場合,コピー数が低い種類のプラスミドを用いることにより,目的遺伝子の強化の程度 を下げることが可能であるが,プラスミドの種類は多くの場合限定的であり,目的遺伝子の発現レベルを自由に調節することは不可能である。 【0003】もう一つの問題点は,プラスミドの複製が不安定であることがしばしばであり,プラスミドが脱落してしまうことである。…(イ) 【発明が解決しようとする課題】【0006】本発明は,プラスミドを用いることなく目的遺伝子の発現量の適度な強化および調節を行うことができ,アミノ酸を高収率で生産する能力を有する変異株を遺伝子組換え又は変異により構築する方法を提供することを目的とする。 本発明は,副生アスパラギン酸およびアラニンの著しい増加を引き起こすことなく,コリネバクテリア菌株 生産する能力を有する変異株を遺伝子組換え又は変異により構築する方法を提供することを目的とする。 本発明は,副生アスパラギン酸およびアラニンの著しい増加を引き起こすことなく,コリネバクテリア菌株にグルタミン酸を高収率で生産する能力を付与することができるGDH用プロモーターを提供することを目的とする。 本発明は,又,上記GDH用プロモーター配列を持つGDH遺伝子を提供することを目的とする。 本発明は,又,上記遺伝子を有するL−グルタミン酸生産性コリネバクテリア菌株を提供することを目的とする。 本発明は,構築されたアミノ酸生産菌を用いる醗酵法によるアミノ酸の製造法を提供することを目的とする。 本発明は,コリネ型グルタミン酸生産菌を用いる,グルタミン酸の収率を向上させ,より安価にグルタミン酸を製造するグルタミン酸発酵法を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】【0007】 本発明は,染色体上のアミノ酸生合成系遺伝子のプロモーターを様々に改変し,目的とする遺伝子の発現量を調節することにより上記課題を効率的に解決できるとの知見に基づいてなされたものである。特に,プロモーターの特異的領域である−35領域および/または−10領域に特定の変異を導入することにより上記課題を効率的に解決できるとの知見に基づいてなされたものである。 すなわち,本発明は,コリネ型細菌の染色体上のアミノ酸又は核酸生合成系遺伝子のプロモーター配列に,コンセンサス配列に近づくような変異を起こさせるか又は遺伝子組換えにより導入して,コリネ型細菌の変異体を調製し,該変異体を培養して目的とするアミノ酸又は核酸の産生量の多い変異体を採取することを特徴とするアミノ酸又は核酸産生能が向上したコリネ型細菌の調製方法を提供する。 て,コリネ型細菌の変異体を調製し,該変異体を培養して目的とするアミノ酸又は核酸の産生量の多い変異体を採取することを特徴とするアミノ酸又は核酸産生能が向上したコリネ型細菌の調製方法を提供する。 【0008】本発明は,又,−35領域に CGGTCA ,TTGTCA,TTGACA 及び TTGCCA からなる群から選ばれる少なくとも一種のDNA配列及び/又は−10領域にTATAAT 配列若しくは該配列のATAAT の塩基が別の塩基で置換されており,プロモーター機能を阻害しない配列を有することを特徴とするグルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)産生遺伝子用プロモーターを提供する。 本発明は,又,上記プロモーターを有するグルタミン酸デヒドロゲナーゼ産生遺伝子を提供する。 本発明は,又,上記遺伝子を有するコリネ型L−グルタミン酸生産菌を提供する。 【0009】本発明は,また,上記の方法で構築したアミノ酸又は核酸産生能が向上したコリネ型細菌を,培地で培養し,培地中に目的のアミノ酸又は核 酸を生成蓄積させ,これを該培地から採取することを特徴とする発酵法による該アミノ酸又は核酸の製造方法を提供する。 本発明は,また,4−フルオログルタミン酸に対して耐性を有するコリネ型L−グルタミン酸生産菌を,液体培地で培養し,培地中にL−グルタミン酸を生成蓄積させ,これを該培地から採取することを特徴とする発酵法によるL−グルタミン酸の製造方法を提供する。 (ウ) 【発明を実施するための最良の形態】【0010】本発明でいうコリネ型グルタミン酸生産菌とは,従来ブレビバクテリウム属に分類されていたが現在コリネバクテリウム属細菌として統合された細菌を含み(Int. J.Syst. Bacteriol., 41, 255(1 リネ型グルタミン酸生産菌とは,従来ブレビバクテリウム属に分類されていたが現在コリネバクテリウム属細菌として統合された細菌を含み(Int. J.Syst. Bacteriol., 41, 255(1981)),またコリネバクテリウム属と非常に近縁なブレビバクテリウム属細菌を含む。 …【0012】目的物質としてのアミノ酸としては,生合成に関与する遺伝子およびそのプロモーターが明らかになっているものであれば何でもよい。生合成に関与する酵素の例として具体的には,グルタミン酸発酵の場合には,GDH,クエン酸合成酵素(CS),イソクエン酸デヒドロゲナーゼ(ICDH),ピルビン酸デヒドロゲナーセ(PDH),アコニターゼ(ACO)等が有効である。 【0015】本発明では,コリネ型アミノ酸生産菌の染色体上の所望のアミノ酸生合成系遺伝子のプロモーター配列,例えば,上記GDH用プロモーターなどのプロモーター配列に,コンセンサス配列に近づくような変異を,化学薬品などを用いる変異により起こさせるか又は該変異を遺伝子組換えにより導入して,コリネ型アミノ酸生産菌の変異体を調製する。 ここで,コンセンサス配列は,多くのプロモーター配列を比較して最も高頻度で出現する塩基を並べた配列である。このようなコンセンサス配列としては,大腸菌,バチルスサブチリスなどのコンセンサス配列があげられる。…上記変異は,1つのプロモーター配列,例えば,GDH用プロモーターのみに起こさせてもよいが,2つ以上のプロモーター配列,例えば,GDH用プロモーター,クエン酸合成酵素(CS)やイソクエン酸デヒドロゲナーゼ(ICDH)に起こさせてもよい。 本発明では,このようにして得られた該変異体を培養して目的とするアミノ酸の産生量の多い変異体を採取す ーター,クエン酸合成酵素(CS)やイソクエン酸デヒドロゲナーゼ(ICDH)に起こさせてもよい。 本発明では,このようにして得られた該変異体を培養して目的とするアミノ酸の産生量の多い変異体を採取する。 【0016】グルタミン酸発酵の場合に,コリネ型グルタミン酸生産菌のGDHはそれ自身のプロモーター配列をその上流域に持つことが明らかになっている(Sahmetal. MolecularMicrobiology(1992), 6,317-326)。 …GDH遺伝子のプロモーター配列を,部位特異的変異法を用いて各種変異を導入した配列に置換したものを多数作製し,それぞれの配列とGDH活性との関係を調べて,L−グルタミン酸生産性の高いものを選択することができる。 【0017】本発明では,特に,GDH遺伝子のプロモーターの−35領域のDNA配列がCGGTCA,TTGTCA,TTGACA 及び TTGCCA からなる群から選ばれる少なくとも一種のDNA配列となっているか,及び/又は該プロモーターの−10領域のDNA配列がTATAAT となっているか,若しくは−10領域にTATAAT 配列のATAAT の塩基が別の塩基で置換されており,プロモーター機能を阻害しない配列となっているものが好ましい。…GDH遺伝子のプロモーター配列は,例えば,前出のSahmetal. MolecularMicrobiology(1992), 6,317-326 に記載されており,又,配列番号1に記載されている。又,GDH遺伝子自体の配列は,例えば,同じくSahmetal. MolecularMicrobiology(1992), 6, 317-326 に記載されており,又,配列番号1に記載されている。 同様にして,クエン酸合成酵素( 同じくSahmetal. MolecularMicrobiology(1992), 6, 317-326 に記載されており,又,配列番号1に記載されている。 同様にして,クエン酸合成酵素(CS)やイソクエン酸デヒドロゲナーゼ(ICDH)のプロモーターについても変異を起こさせることができる。 このようにして,GDH用プロモーターとしては,−35領域にCGGTCA ,TTGTCA,TTGACA 及び TTGCCA からなる群から選ばれる少なくとも一種のDNA配列及び/又は−10領域にTATAAT 配列若しくは該配列のATAAT の塩基が別の塩基で置換されており,プロモーター機能を阻害しない配列を有するものがあげられる。又,上記プロモーターを有するグルタミン酸デヒドロゲナーゼ産生遺伝子を提供する。 【0018】CS用プロモーターとしては,−35領域にTTGACA 配列及び/又は−10領域にTATAAT 配列を有しており,プロモーター機能を阻害しない配列を有するものがあげられる。又,上記プロモーターを有するCS遺伝子を提供する。…本発明は,又,上記遺伝子を有するコリネ型L−グルタミン酸生産菌を提供する。 【0020】コリネ型細菌は一般に,ビオチン制限下でL−グルタミン酸を生産する。 従って,培地中のビオチン量を制限するか,界面活性剤やペニシリンなどのビオチン作用抑制物質を添加する。…本発明によれば,コリネ型アミノ酸生産菌のアミノ酸生合成遺伝子のプロモーター領域に変異を導入し,目的遺伝子の発現量を調節すること により,目的アミノ酸を高収率で得ることができ,又プラスミドのように脱落がなく,安定して目的アミノ酸を高収率で得ることができるので,工業的に大きな利点がある。 【0021】また,本発明によれば,副 り,目的アミノ酸を高収率で得ることができ,又プラスミドのように脱落がなく,安定して目的アミノ酸を高収率で得ることができるので,工業的に大きな利点がある。 【0021】また,本発明によれば,副生アスパラギン酸およびアラニンの増加を引き起こすことなく,コリネバクテリア菌株にアミノ酸,特にグルタミン酸を高収率で生産する能力を付与することができる各種プロモーター,特にGDH用プロモーターを提供することができる。 また,本発明によれば,コリネ型L−グルタミン酸生産菌に変異処理を施し,変異がGDH遺伝子のプロモーター領域に起こった,4−フルオログルタミン酸に対して耐性を有する菌株を採取し,この菌株を培養することによりグルタミン酸を高収率で得ることができるので,工業的に大きな利点がある。 (エ) 【0022】次に実施例により本発明を説明する。 実施例1:変異型GDHプロモーターの作製部位特異変異法を用い:次の方法で変異型GDHプロモーターを調製した。 (1)各種変異型のプロモーターを持つGDH遺伝子の作製コリネ型細菌のGDH遺伝子のプロモーターの−35領域および−10領域の野生型配列を配列1に示す。…変異型プロモーターを持つGDH遺伝子を運ぶプラスミドの作製方法は,以下の通りである。…コリネ型細菌野生株ATCC13869 株の染色体遺伝子を鋳型とし,GDH遺伝子の上流と下流とでPCRにより遺伝子を増幅し,両端を平滑末端化した後に,それをプラスミドpHSG399 (宝酒造社製)のSmaI 部位に挿入した。次にこのプラスミドの SalI部位に, コリネ型細菌で複製可能な複製基点をもつプラスミドpSAK4 から取得した複製起点を導入することによりプラスミドpGDHを作製した。この方法において,GDH遺伝子の上流側のプラ 部位に, コリネ型細菌で複製可能な複製基点をもつプラスミドpSAK4 から取得した複製起点を導入することによりプラスミドpGDHを作製した。この方法において,GDH遺伝子の上流側のプライマーとして配列表1から6に示す配列を持つプライマーを用いることにより,上記のおのおのプロモーター配列を持つGDH遺伝子を作製することが出来る。…【0023】(2)各プロモーター配列を有するGDHの発現量の比較上記の様にして作製したプラスミドをコリネ型細菌野生株 ATCC13869株にそれぞれ導入した。…作製したこれらの菌株のGDHの発現量を比較するために,GDHの比活性を調べた。…その結果を表1に示す。 【0025】上記ATCC 13869/p6-2〜ATCC 13869/p6-8 は配列番号2〜6に対応するものであり,これらの配列は配列番号1記載の配列(野生型)を基に下線部を下記の通り変更したものである。 尚,これらの配列は,直鎖状,2本鎖の合成DNAである。 【0026】実施例2:変異株の取得(1)4−フルオログルタミン酸に対する耐性を有する変異株の誘導AJ13029 株はWO96/06180 に記載されるグルタミン酸生産株で,培養温度が31.5℃ではグルタミン酸を生産しないが,培養温度を37℃にシフトするとビオチン作用抑制物質の非存在下でもグルタミン酸を生産する変異株である。本実施例では,ブレビバクテリウム・ラクトファーメ ンタムAJ13029 株を変異株誘導の親株として用いた。もちろん,AJ13029株以外のグルタミン酸生産株であっても4−フルオログルタミン酸に対する耐性を有する変異株誘導の親株となりうる。 AJ13029 株をCM2B 寒天培地(…)上にて31.5℃で2 ,AJ13029株以外のグルタミン酸生産株であっても4−フルオログルタミン酸に対する耐性を有する変異株誘導の親株となりうる。 AJ13029 株をCM2B 寒天培地(…)上にて31.5℃で24時間培養して菌体を得た。得られた菌体を250μg/ml のN−メチル−N′−ニトロ−N−ニトロソグアニジンの水溶液で30℃で30分間処理した後,生存率1%の当該菌体の懸濁液を4−フルオログルタミン酸(4FG)を含む寒天平板培地(…)に播種し,31.5℃で20〜30時間培養しコロニーを形成させた。この際,初めに1mg/ml の4FGを含む培地を傾斜をつけて作製し,その上に4FGを含まない同培地を水平に重層した。これにより,寒天培地表面は4FGの濃度勾配が作製される。このプレート上に上記変異処理菌体を播種すると,菌株の生育限界の領域を境に境界線が出来る。この境界よりも高濃度の4FGが存在する領域でコロニーを形成した株を採種した。かくして約10,000個の変異処理菌株から約50株の4FG耐性株を取得した。 【0029】(2)4FGに対して耐性を示す変異株によるL−グルタミン酸の生産能の確認上記(1) において得られた約50株の変異株及びその親株であるAJ13029 株について,グルタミン酸の生産能を以下のようにして確認した。…この約50株を培養しグルタミン酸収率が親株より高く,GDH活性も高い株を2株分離した(…)。それぞれのGDH活性を測定したところ両株ともGDHの比活性が上昇していた(表5)。…そこでGDH遺伝子の塩基配列を解析したところGDHのプロモーター領域内にのみ変異点が存在していた(表6)。 【0033】 実施例3 コリネ型グルタミン酸生産菌のCS遺伝子プロモーター領域への変異の導入本実施例で したところGDHのプロモーター領域内にのみ変異点が存在していた(表6)。 【0033】 実施例3 コリネ型グルタミン酸生産菌のCS遺伝子プロモーター領域への変異の導入本実施例ではグルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)およびクエン酸合成酵素(CS)をコードする遺伝子のプロモーター強化株を作成した例を示す。 (1)gltA 遺伝子のクローニングコリネ型細菌のクエン酸合成酵素をコードする遺伝子gltA の塩基配列は既に明らかにされている(Microbiol. 140 1817-1828(1994))。…【0034】(2)gltA プロモーターへの変異導入gltA プロモーター領域への変異導入には宝酒造社製のMutan-SuperExpressKm を用いた。…【0035】…gltA プロモーター領域が表7に示す配列に置換されたものを,それぞれpKF19CS1,pKF19CS2,pKF19CS4 と名づけた。 【0043】(7)gltA プロモーター置換株の取得相同組換えにより,変異型gltA 遺伝子を組み込んだBLCS11,BLCS12,BLCS14 株より,まず,カナマイシン感受性株を取得した。…カナマイシン感受性になった株から,染色体を抽出し,配列番号7および配列番号8に示すプライマーを用いてPCR を行ないgltA 遺伝子断片を調製した。得られた増幅断片は宝酒造社製のSUPREC02 にて精製した後,配列番号13に示すプライマーを用いてシーケンス反応を行ない,そのプロモーター領域の配列を決定した。その結果,表7中のpKF19CS1と同じプロモーター配列をもつ株をGB01,pKF19CS2 と同じプロモーター配列をもつ株をGB02,pKF19CS4 と同じプ プロモーター領域の配列を決定した。その結果,表7中のpKF19CS1と同じプロモーター配列をもつ株をGB01,pKF19CS2 と同じプロモーター配列をもつ株をGB02,pKF19CS4 と同じプロモーター配列をもつ株を GB03 と名づけた。…【0044】(8)gltA プロモーター変異株のクエン酸合成酵素活性測定(7)で得られたFGR2, GB01, GB02,GB03 株及びFGR2/pSFKC 株を…クエン酸合成酵素の活性を測定した。測定結果を表10に示す。gltA プロモーター置換株はその親株に比しクエン酸合成酵素活性が上昇していることが確認された。 【0046】(9)gltA プロモーター置換株の培養成績…表12に示すようにGB01 やFGR2/pSFKC 株よりは,むしろGB02 やGB02 株(判決注:GB03 株の誤記と認められる。)ではL-グルタミン酸の大幅な収率向上が認められた。以上のことより,これらの株のグルタミン酸収率向上において,プロモーターに変異を導入しCS 活性を2〜4倍に強めることで好成績となりうることが示された。 【0087】実施例7:コリネ型グルタミン酸生産菌のGDH 遺伝子プロモーター領域への変異の導入(1)変異型gdh プラスミドの構築上記実施例2に示したFGR1 株およびFGR2 株がもつGDH プロモーター配列を有するプラスミドを部位特異的変異手法により構築した。FGR1 株のGDH プロモーター配列を得るためには,…をプライマーとして用いATCC13869 の染色体DNA を鋳型としてPCR を行なった。さらにこのPCR産物を混合したものを鋳型として…PCR を行なった。こうして得られたPCR 産物をpSFKT2(特願平11−69896)の 3869 の染色体DNA を鋳型としてPCR を行なった。さらにこのPCR産物を混合したものを鋳型として…PCR を行なった。こうして得られたPCR 産物をpSFKT2(特願平11−69896)のSmal 部位に挿入したpSFKTG11を構築した。FGR2 株のGDH プロモーター配列を得るためには,…をプライマーとして用いATCC13869 の染色体DNA を鋳型としてPCR を行なっ た。さらにこのPCR 産物を混合したものを鋳型として…PCR を行なった。 こうして得られたPCR 産物をpSFKT2(特願平11−69896)のSmal 部位に挿入したpSFKTG07 を構築した。なお,pSFKTG11 およびpSFKTG07 のSmal部位に挿入したDNA 断片の塩基配列決定を行ない,GDH のプロモーター領域以外に変異が導入されていないことを確認している。 【0088】(2)gdh プロモーター変異株の構築次にpSFKTG11 およびpSFKTG07 を電気パルス法によりAJ13029 株に導入し,25℃で25μg/ml のカナマイシンを含むCM2B プレート上に生育する形質転換体を選択した。この形質転換体を34℃で培養し,34℃でカナマイシン耐性を示す株を選択した。34℃でカナマイシン耐性を示すことはpSFKTG11 あるいはpSFKTG07 がAJ13029 株の染色体上に組み込まれたことを意味する。このような染色体上にプラスミドが組み込まれた株よりカナマイシン感受性株を取得した。これらの株のGDH プロモーター配列を決定し,pSFKTG11 およびpSFKTG07 と同じgdh プロモーター配列を持つ株をそれぞれGA01,GA02 とした。 (3)gdh プロモーター変異株のL-グルタミン酸生産能 ター配列を決定し,pSFKTG11 およびpSFKTG07 と同じgdh プロモーター配列を持つ株をそれぞれGA01,GA02 とした。 (3)gdh プロモーター変異株のL-グルタミン酸生産能の確認GA01 株,GA02 株およびその親株AJ13029 株についてグルタミン酸の生産能を上記実施例2(2)と同じ方法で確認した。その結果,GA01 およびGA02 では顕著なグルタミン酸の蓄積向上が認められた(表23)。 イ前記アの記載事項によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明1に関し,次のような開示があることが認められる。 (ア) 発酵法によるアミノ酸の生産に用いられる変異株の構築方法として遺伝子組換えを用いる場合,目的遺伝子を強化するために,細胞内で染色体とは独立して自律複製が可能なプラスミドが主に用いられてきたが,目的遺伝子の強化の程度はプラスミド自体のコピー数によって決ま るため,目的遺伝子の種類によっては,コピー数が高過ぎて生育が著しく抑制されたり,逆に目的物質の生産能が低下したりする例が多くあり,また,プラスミドの複製は,しばしば不安定であり,プラスミドが脱落してしまうという問題がある(【0002】)。 (イ) 「本発明」は,目的遺伝子の発現量の適度な強化及び調節を行うことができ,アミノ酸を高収率で生産する能力を有する変異株を,プラスミドを用いることなく,遺伝子組換え又は変異によって構築する方法の提供を目的とする(【0006】)。 そして,「本発明」は,上記課題を解決するために,コリネ型細菌の染色体上のアミノ酸又は核酸生合成系遺伝子のプロモーター配列に,コンセンサス配列に近づくような変異を起こさせるか,又は遺伝子組換えにより変異を導入して,コリネ型細菌の変異体を調製し,該変異体を培養し 色体上のアミノ酸又は核酸生合成系遺伝子のプロモーター配列に,コンセンサス配列に近づくような変異を起こさせるか,又は遺伝子組換えにより変異を導入して,コリネ型細菌の変異体を調製し,該変異体を培養して,目的とするアミノ酸又は核酸の産生量の多い変異体を採取するという構成を採用した(【0007】)。 (ウ) アミノ酸の生合成に関与する酵素の例として,グルタミン酸発酵の場合には,グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH),クエン酸合成酵素(CS)等が有効である(【0012】)。また,上記の変異は,1つの遺伝子のプロモーター配列のみに起こさせてもよいし,2つ以上のプロモーター配列に起こさせてもよい(【0015】)。 「本発明」では,GDH遺伝子のプロモーターの-35領域のDNA配列が,TTGTCA 等からなる群から選ばれる少なくとも一種のDNA配列となっているか,及び/又は該プロモーターの−10領域のDNA配列がTATAAT 等となっているものが好ましい(【0017】)。 また,CS遺伝子のプロモーターについては,−35領域にTTGACA 配列及び/又は−10領域にTATAAT 配列を有するものが挙げられる(【0018】)。 「本発明」は,コリネ型アミノ酸生産菌のアミノ酸生合成遺伝子のプロモーター領域に変異を導入し,目的遺伝子の発現量を調節することにより,目的アミノ酸を高収率で得ることができ,又プラスミドのように脱落がなく,安定して目的アミノ酸を高収率で得ることができるので,工業的に大きな利点がある(【0020】)。 また,「本発明」によれば,副生アスパラギン酸及びアラニンの増加を引き起こすことなく,コリネバクテリア菌株にアミノ酸,特にグルタミン酸を高収率で生産する能力を付与できる(【0021】)。 (エ)a 本発明」によれば,副生アスパラギン酸及びアラニンの増加を引き起こすことなく,コリネバクテリア菌株にアミノ酸,特にグルタミン酸を高収率で生産する能力を付与できる(【0021】)。 (エ)a 「本発明」の実施例1である「ATCC 13869/p6-8」は,コリネ型細菌野生株(ATCC13869)に,プロモーター配列の-35領域(TGGTCA 配列)がTTGTCA 配列に改変され,かつ,同-10領域(CATAAT 配列)がTATAAT 配列に改変されたGDH遺伝子のプラスミドを導入したものである。また,「ATCC 13869/p6-8」のGDH比活性(401.3)は,親株(ATCC13869)の約49倍であることが示されている。(【0022】,【0023】,【0025】,表1)。 b 「本発明」の実施例2である「FGR2」は,ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(AJ13029)を変異処理したものであって,AJ13029のGDH遺伝子のプロモーター配列の-35領域(TGGTCA 配列)にTTGTCA 配列への変異を有し,かつ,同-10領域(CATAAT 配列)にTATAAT 配列への変異を有するものである。また,FGR2 のGDH比活性は,親株(AJ13029)の約3.4倍であり,L-グルタミン酸生成(3.0g/dl)は,AJ13029(2.6 g/dl)より増大したことが示されている。(【0026】,【0029】,表5,6)。 c 「本発明」の実施例3である「GBO2」及び「GB03」は,いずれも,FGR2(前記b)のCS遺伝子のプロモーター配列の-10領域(TATAGC配列)を改変して,TATAAT 配列を導入したものであり,「GB03」は, さらに,同-35領域(ATGGCT 配列)を改変して,TT S遺伝子のプロモーター配列の-10領域(TATAGC配列)を改変して,TATAAT 配列を導入したものであり,「GB03」は, さらに,同-35領域(ATGGCT 配列)を改変して,TTGACA 配列を導入したものである。なお,GBO2 及びGB03 のGDH遺伝子のプロモーター配列の-35領域及び-10領域は,FGR2 と同一である。 また,①GBO2 のクエン酸合成酵素の比活性は,FGR2 の約1.9倍であり,GBO3 のクエン酸合成酵素の比活性は,同約4.0倍であること,②GBO2 及びGBO3 のL-グルタミン酸生成(各9.4 g/l)は,FGR2(8.9g/l)より増大したことが示されている。 (以上につき,【0033】~【0035】,【0043】,表7,10,12)。 d 「本発明」の実施例7である「GA02」は,FGR2(前記b)が持つGDH遺伝子のプロモーター配列を用いて,AJ13029(前記a)の染色体上に変異を導入したものであって,GDH遺伝子のプロモーター配列の-35領域及び-10領域は,FGR2 と同一である。また,GAO2 のGDH比活性は,親株(AJ13029)の約3.5倍であること,GAO2 のL-グルタミン酸生成(2.9 g/dl)は, AJ13029(2.6 g/dl)より増大したことが示されている。(【0087】,【0088】,表10,23)。 ⑵ 取消事由1-1(GDH遺伝子のプロモーターへの変異導入の実施可能性について)ア前記⑴イのとおり,本件明細書の発明の詳細な説明には,①「本発明」の課題は,目的遺伝子の発現量の適度な強化及び調節を行うことができ,アミノ酸を高収率で生産する能力を有する変異株を,プラスミドを用いることなく,遺伝子組換え又は変異によって構築する方 ,①「本発明」の課題は,目的遺伝子の発現量の適度な強化及び調節を行うことができ,アミノ酸を高収率で生産する能力を有する変異株を,プラスミドを用いることなく,遺伝子組換え又は変異によって構築する方法を提供することである旨,②「本発明」は,上記①の課題を解決するために,コリネ型細菌の染色体上のアミノ酸又は核酸生合成系遺伝子のプロモーター配列に,コンセンサス配列に近づくような変異を起こさせるか,又は遺伝子組換えに より変異を導入して,コリネ型細菌の変異体を調製し,該変異体を培養して,目的とするアミノ酸又は核酸の産生量の多い変異体を採取するという構成を採用したものであり,また,上記の変異は,1つの遺伝子のプロモーター配列のみに起こしてもよいし,2つ以上の遺伝子のプロモーター配列に起こしてもよい旨,③かかる変異の構成として,GDH遺伝子のプロモーター配列の-35領域がTTGTCA であって,かつ,同-10領域がTATAAT となっているものが好ましい旨,④実施例2の「FGR2」は,親株(AJ13029)のGDH遺伝子のプロモーター配列の-35領域及び-10領域に本件発明1-1の配列への変異を有するものであって,そのGDH活性比は親株の3.4倍であり,L-グルタミン酸生産能も親株より増大した旨が記載されている。 かかる記載を総合すると,本件明細書に接した当業者は,本件発明1-1の構成を有するL-グルタミン酸の製造方法,すなわち,コリネ型細菌の染色体上のGDH遺伝子のプロモーター配列の-35領域にTTGTCA 配列を導入し,かつ,同-10領域にTATAAT 配列を導入する方法によって,目的遺伝子の発現量の適度な強化及び調節を行うことができ,アミノ酸を高収率で生産する能力を有する変異株を,プラスミドを用いることなく,遺伝子組換え又は 域にTATAAT 配列を導入する方法によって,目的遺伝子の発現量の適度な強化及び調節を行うことができ,アミノ酸を高収率で生産する能力を有する変異株を,プラスミドを用いることなく,遺伝子組換え又は変異によって構築する方法を提供するという課題を解決できることを認識できるものと認められる。 また,同様の理由により,本件明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本件発明1(本件発明1-1)の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。 イこれに対し原告らは,原告らの実験(甲49)によれば,本件明細書に記載された実施例の親株(AJ13029)と異なるコリネ型細菌の菌株(ATCC13869)を親株として,親株のGDH遺伝子のプロモーター配列に本件発明1-1と同じ変異を導入した菌株のL-グルタミン酸生産量が,親 株より低下したことが認められるから,グルタミン酸の収率を向上させるという発明の課題は,本件発明1-1の態様全体にわたって解決できるものではなく,また,本件明細書の発明の詳細な説明は,グルタミン酸の収率が向上できる程度に十分かつ明確に記載されていない旨主張する。 しかしながら,証拠(乙10(実施例2,表6及び7),乙16(1頁左下欄末行~右下欄5行,2頁右上欄9行等))によれば,コリネ型細菌がグルタミン酸を生産する条件(培養・誘導条件)は,菌株によって異なるものであり,例えば,AJ13029 は,培養温度を最適生育温度から上昇させることによって,グルタミン酸生産が誘導されるものである一方,ATCC13869 は,界面活性剤の添加によって,グルタミン酸生産が誘導されるものであることが,本件出願当時から公知であったことが認められる。 一方,甲49の実験では,ATCC13869 を親株とする変異導入株のグルタミン 活性剤の添加によって,グルタミン酸生産が誘導されるものであることが,本件出願当時から公知であったことが認められる。 一方,甲49の実験では,ATCC13869 を親株とする変異導入株のグルタミン酸産生を誘導するに当たり,界面活性剤を添加する方法ではなく,31.5℃で培養を開始し,8時間後に37℃にシフトさせる方法を用いている。 そうすると,甲49の実験において,ATCC13869 を親株とする変異導入株に採用されている培養・誘導条件は,当業者が通常採用しないものであるといえる。そして,被告の実験報告書(乙14)によれば,ATCC13869 を親株とする変異導入株のグルタミン酸産生を誘導するに当たり,界面活性剤を添加する方法を用いたところ,本件明細書に記載された実施例(AJ13029 を親株に用いたもの)と同程度の,グルタミン酸生産能の増大が確認されたことが認められる。 以上によれば,本件明細書に接した当業者が,本件発明1-1の構成を有するL-グルタミン酸の製造方法によって,発明の課題を解決できることを認識できるものと認められる旨の前記アの判断は,甲49の実験結果をもって,左右されるものではない。 したがって,原告らの上記主張は採用することができない。 ⑶ 取消事由1-2(CS遺伝子のプロモーターへの変異導入の実施可能性について)ア本件明細書の記載事項前記⑴イ及び(2)アのとおり,本件明細書には,①「本発明」の課題は,アミノ酸を高収率で生産する能力を有する変異株を,遺伝子組換え又は変異によって構築する方法を提供することであり,そのために,コリネ型細菌の染色体上のアミノ酸又は核酸生合成系遺伝子のプロモーター配列に,コンセンサス配列に近づくような変異を起こさせるか,又は遺伝子組換えにより変異を導入して,コリネ型 とであり,そのために,コリネ型細菌の染色体上のアミノ酸又は核酸生合成系遺伝子のプロモーター配列に,コンセンサス配列に近づくような変異を起こさせるか,又は遺伝子組換えにより変異を導入して,コリネ型細菌の変異体を調製し,該変異体を培養して,目的とするアミノ酸又は核酸の産生量の多い変異体を採取するという構成を採用したものである旨,②かかる構成として,CS遺伝子のプロモーター配列の-10領域がTATAAT であるものなどが挙げられる旨,③実施例2の「FGR2」は,親株(AJ13029)のGDH遺伝子のプロモーター配列の-35領域及び-10領域に本件発明1-1の配列への変異を有するものであって,そのGDH活性比は親株の3.4倍であり,L-グルタミン酸生産能は親株より増大した旨,④実施例3の「GBO2」及び「GB03」は,FGR2 のCS遺伝子のプロモーター配列の-10領域を改変して,本件発明1-2の配列を導入したものであって,そのクエン酸合成酵素比活性は,GB02 がFGR2 の約1.9倍,GBO3 が同約4.0倍であり,いずれも,L-グルタミン酸生産能はFGR2 より増大した旨が記載されている。 イ L-グルタミン酸の生成過程に関する技術常識(ア) 甲13(岩波生物学辞典第4版平成8年7月12日発行)によれば,本件出願時において,L-グルタミン酸の生合成に関し,以下のような技術常識が存在したものと認められる。 a 別紙2のとおり,解糖及びその他の異化作用によって生じたアセチ ルCoAを完全に水と二酸化炭素に分解する酸化的過程であるクエン酸回路(TCA回路)は,8段階からなり,アセチルCoAが,オキサロ酢酸と縮合してクエン酸になり,この後,イソクエン酸,α-ケトグルタル酸,スクシニルCoA,コハク酸,フマル酸,L-リンゴ酸 エン酸回路(TCA回路)は,8段階からなり,アセチルCoAが,オキサロ酢酸と縮合してクエン酸になり,この後,イソクエン酸,α-ケトグルタル酸,スクシニルCoA,コハク酸,フマル酸,L-リンゴ酸,オキサロ酢酸に順次変換され,再びクエン酸が生成するサイクルが繰り返される。 bTCA回路においては,前記aのそれぞれの酸への変換を行う8つの酵素が存在する。また,この回路の回転の強さ(速度)は,その含まれる物質の量に依存する。 cL-グルタミン酸は,TCA回路の中間生成物であるα-ケトグルタル酸から生成する。 d クエン酸生成酵素(CS)は,TCA回路において,オキサロ酢酸とアセチルCoAとを縮合して,クエン酸を合成する反応を触媒する酵素であって,CSの活性が増加すると,クエン酸の合成反応が促進される。 e α-ケトグルタル酸をL-グルタミン酸に変換するGDHは,アンモニアをα-ケトグルタル酸に還元的に固定し,L-グルタミン酸を生成する反応を促進する酵素である。 (イ) 前記(ア)の技術常識に鑑みると,TCA回路において,CSの活性が増加すると,クエン酸の合成反応が促進され,クエン酸の生成が増加するのに伴い,クエン酸から生じるイソクエン酸の生成が増加し,それに伴い,イソクエン酸から生じるα-ケトグルタル酸の生成が増加することになるため,α-ケトグルタル酸をL-グルタミン酸に変換するGDHが増加しなくとも,L-グルタミン酸の生成が増加するであろうことは,本件出願時において,当業者が予測できたものといえる。 ウ当業者の理解 前記アの本件明細書の記載及び前記イの本件出願当時の技術常識に鑑みると,本件明細書に接した当業者は,本件発明1-2の構成を有するL-グルタミン酸の製造方法,すなわち,コリネ型細菌の染色体上にあるC 前記アの本件明細書の記載及び前記イの本件出願当時の技術常識に鑑みると,本件明細書に接した当業者は,本件発明1-2の構成を有するL-グルタミン酸の製造方法,すなわち,コリネ型細菌の染色体上にあるCS遺伝子のプロモーター配列の-10領域を改変してTATAAT 配列を導入する方法によって,目的遺伝子の発現量の適度な強化及び調節を行うことができ,アミノ酸を高収率で生産する能力を有する変異株を,プラスミドを用いることなく,遺伝子組換え又は変異によって構築する方法を提供するという課題を解決できることを認識できるものと認められる。 また,同様の理由により,本件明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本件発明1(本件発明1-2)の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。 エ原告らの主張についてこれに対し原告らは,TCA回路のような一連の反応における全体の反応速度は,最も遅い反応と実質上等しくなるため(律速段階。甲66~68),CSの発現のみを強化してクエン酸の生成を促進しても,後続の反応のいずれかの速度が遅い場合には,L-グルタミン酸の生成速度は増加しないものであって,CSの発現のみを増強してもL-グルタミン酸の生産量が増加しないことは,甲4及び甲34にも明示されている旨主張する。 そこで,かかる主張の当否について検討する。 (ア) 律速段階についてa 各文献の記載(a) 甲66(化学大辞典平成元年10月20日発行)には,次のような記載がある。 「化学反応が,複数の素反応が順に進行することにより成り立っている時(複合反応),ある素反応の速度が他のすべての素反応の速度よりも格段に遅ければ,全体としての反応速度はこの素反応の 速度と実質上等しくなる。」⒝ 甲67(岩波理化学辞典第5版 合反応),ある素反応の速度が他のすべての素反応の速度よりも格段に遅ければ,全体としての反応速度はこの素反応の 速度と実質上等しくなる。」⒝ 甲67(岩波理化学辞典第5版平成10年2月20日発行)には,次のような記載がある。 「律速段階…化学反応などの動的過程がいくつかの段階によって構成されているとき,そのうちの1つがほかの段階にくらべて非常に緩慢に進行するために,それによって全過程の進行が実際上支配されてしまうような段階をいう。」⒞ 甲68(P.W.ATKINS 物理化学(下)第2版昭和60年1月10日発行)には,次のような記載がある。 「逐次反応と定常状態ある種の反応は,つぎの二つの連続一次反応のように中間体の形成を経て進行する。 …[B]0=0なる条件を課すと,次式が得られる。 …[C]tは[A]と[B]に対する解から直接得られる。 …上の計算から“律速段階”の意味が明らかになる。まず,速度定数k’1がk1よりずっと大きいとすると,B分子ができると,これはすぐに崩壊してCになってしまう。よって,生成物Cのできる速度はほぼ完全に中間体Bが形成される速度によって決まる。このことはk’1≫k1の場合について(27・3・7c)式を調べてみれば確認できる。この条件のもとではexp(-k’1t)は,exp(-k1t)よりずっと小さいので無視できてつぎのようになる。 ただし,分母のk1がk’1に比べて小さいとして無視した。この式から,予期した通りCの生成の仕方が小さい方の速度定数にだけ依存することがわかる。このようなわけで,もっとも小さい速度定数をもつ段階を反応の律速段階という。 Bの生成速度がCへの崩壊速度よりずっと速いなら律速段階はBの生成物への崩壊である。k 定数にだけ依存することがわかる。このようなわけで,もっとも小さい速度定数をもつ段階を反応の律速段階という。 Bの生成速度がCへの崩壊速度よりずっと速いなら律速段階はBの生成物への崩壊である。k’1≪k1として上で行ったのと同じ議論から次式が得られる。 この場合にもやはり予測通りに全反応の速度は遅い方の,律速段階に対する速度定数により支配される。この過程,すなわち速い段階に遅い段階がつづく過程は1車線の橋しかないところに6車線の高速道路を接続したものに似ている。この場合の交通の流れは橋を渡る速度で決まる。」b 前記aの記載事項によれば,律速段階とは,他の段階の反応と比べて格段に遅い反応をいうものであり,律速段階が存在する場合には,その他の段階の反応速度を上げても,全反応の速度は上がらないことを理解できる。 一方,本件証拠上,TCA回路中のコリネ型細菌のグルタミン酸の生合成系路における,各段階の反応速度は明らかにされておらず,CSによるクエン酸の生成反応の後続の反応に,律速段階すなわち,他の段階の反応と比べて格段に遅い反応が存在することを認めるに足りる証拠はない。 (イ) 甲4及び甲34についてa 甲4には,次のような記載がある。 「我々は,制御,クエン酸合成酵素遺伝子(gltA)の単離,その核酸配列,同種及び異種発現,並びにその転写機構との関連で,C.グルタミカムのクエン酸合成酵素を記載する。」(1818頁左欄36行~40行)「C.グルタミカムを過剰発現するgltA 株は,試験したすべての培地(例えば,LB 培地では80 分ではなく120 分の倍増時間)で生育が悪くなったことを示し,CSのレベルの上昇による細胞の軽度な障害を示したことは注目に値する。」(1820頁右欄32行~36行)「CS酵素 B 培地では80 分ではなく120 分の倍増時間)で生育が悪くなったことを示し,CSのレベルの上昇による細胞の軽度な障害を示したことは注目に値する。」(1820頁右欄32行~36行)「CS酵素活性の上昇がグルタミン酸分泌に及ぼす影響を試験するために,標準的なグルタミン酸醗酵…をC.グルタミカムWT とWT(pJC-gltA3A)で行った。これらの実験では,両方の菌株で,約17μmolmin-1(g乾燥重量)-1 の同じグルタミン酸分泌速度が認められた。したがって,C.グルタミカムのグルタミン酸を分泌する能力は,単にCS酵素レベルを上昇させるのみでは,促進することはできない。この知見は,C.グルタミカムのCS酵素は非常に活性が高く,恒常的に形成され,弱い調節しか受けない(前述)という観察と合わせて,(i)染色体にコードされたCS酵素活性は,この生物のグルタミン酸生産に十分であり,(ii)CS酵素以外の因子がクエン酸サイクルへの炭素流入速度を制限していることを示している。」(1821頁左欄17行~右欄5行)b 甲34には,次のような記載がある(下記記載中に引用する「第2表,第10表,第11表及び第13表」については別紙3を参照)。 (a) 「L-グルタミン酸は調味料として幅広い用途があり,グルタミン酸生産性コリネ型細菌を培養して該細菌にL-グルタミン酸を生産せしめ,生成するL-グルタミン酸を該細菌の培養物から分離する発酵法により工業的に生産されている。」(2頁左下欄10行 ~14行)「…グルタミン酸生合成に関与する酵素の活性を強化することによりL-グルタミン酸の生産速度を高めるとともに効率良くL-グルタミン酸を生成させる試みも近年行われるようになり,この目的を達成するためにグルタミン酸の生合成経路に関与する各種 活性を強化することによりL-グルタミン酸の生産速度を高めるとともに効率良くL-グルタミン酸を生成させる試みも近年行われるようになり,この目的を達成するためにグルタミン酸の生合成経路に関与する各種酵素遺伝子のクローニングが行われつつある。」(2頁右下欄13行~19行)⒝ 「しかしながら,L-グルタミン酸発酵においてその生産性を十分向上することのできる菌株については,これまでに報告された例がなかった。 (問題点を解決するための手段および作用)本発明者らは上記問題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果,グルタミン酸生合成経路に関与する酵素遺伝子のうち,少なくとも2種以上の酵素遺伝子を組換えDNA技術を用いることにより同時に強化した種々の菌株を作製することに成功し,これらの菌株を用いてグルタミン酸発酵を行ったところ,少なくともグルタミン酸デヒドロゲナーゼ(…GDH)遺伝子とイソクエン酸デヒドロゲナーゼ(…ICDH)遺伝子を含む少なくとも2種以上のグルタミン酸生合成経路に関与するグルタミン酸生産性コリネ型細菌由来の酵素遺伝子を含む組換え体DNAで形質転換された菌株を用いてグルタミン酸発酵を行なった場合には親株を使用した場合に比較して培地中へのL-グルタミン酸の蓄積レベルのみならず対糖収率も著しく向上していることを見出し,本発明を完成するに到った。」(3頁右上欄5行~左下欄6行)⒞ 「多重強化株を作製する際の材料となる組換えプラスミドとして,GDH遺伝子を含むpAG1001,ICDH遺伝子を含むpAG3001,AH 遺伝子を含むpAG5001,およびCS遺伝子を含むpAG4003 等が挙げられる。」(6頁右下欄8行~12行)「本発明のグルタミン酸生産性コリネ型細菌が保有する組換え体DNAの例としては,後述のプラスミ AG5001,およびCS遺伝子を含むpAG4003 等が挙げられる。」(6頁右下欄8行~12行)「本発明のグルタミン酸生産性コリネ型細菌が保有する組換え体DNAの例としては,後述のプラスミドpIG101,pAIG321,pCIG231,pCAIG4 等が挙げられる。pIGl01 はpAG50 にグルタミン酸生産性コリネ型細菌由来のGDH遺伝子とICDH遺伝子が同時に組込まれたものである。pAIG321 は同時にAH遺伝子,ICDH遺伝子およびGDH遺伝子が同時に組込まれたものである。また,pCIG231 は同時にCS,ICDH,GDHの3種の酵素の遺伝子がpAG50 に同時に組込まれたものである。さらにpCAIG4 はpAG50 にCS,AH,ICDH,およびGDHの4種の酵素の遺伝子が同時に組込まれたものである。」(7頁左上欄7行~19行)「(実施例)実施例1本実施例では,グルタミン酸生産性コリネ型細菌で,GDHとICDHの活性が同時に強化された2重強化株を作製した例を示す。 GDH遺伝子およびICDH遺伝子を含む組換えプラスミドとしてそれぞれpAG1001 およびpAG3001 を使用した。」(8頁右上欄1行~8行)「GDH活性は,…で測定することにより求めた。…結果を第2表に示す。」(17頁左上欄11行~18行)⒟ 「実施例3実施例では,CS+ICDH+GDHの3重強化株を作成した例を示す。またCS+ICDHの2重強化株およびCS+GDHの2重強化株を作成した例についても同時に示す。 組換えプラスミドを作製する際の材料としては前述のpAG1001, pAG3001 の他にCS遺伝子を含む組換えプラスミドpAG4003 を用いた。」(35頁左下欄1行~8行)「(6)プラスミドpAG40 製する際の材料としては前述のpAG1001, pAG3001 の他にCS遺伝子を含む組換えプラスミドpAG4003 を用いた。」(35頁左下欄1行~8行)「(6)プラスミドpAG4001 保有菌株のCS活性の測定」…第10表に示した様に,プラスミドpAG4001 保持菌株は,ベクターpAG50 保持菌株やプラスミド非保持菌に比べて,高いCS比活性を示した。」(41頁左上欄7行~右上欄4行)「pCI31 およびpCG5 はそれぞれCSとICDHを同時に含む組換えプラスミドおよびCSとGDHを同時に含む組換えプラスミドである。」(42頁右下欄12行~14行)「pCI31,pCG5,およびpCIG231 の各プラスミドを保持する宿主菌(Corynebacteriummelassecola 801)よりそれぞれ細胞抽出液を調製し,CS,ICDH,GDHの酵素活性をプラスミドを保持しない宿主菌の細胞抽出液を用いた場合と比較した。 …第11表の結果によりpCI31 保持株,pCG5 保持株,pCIG231 保持株はそれぞれ目的の酵素活性が全て強化されていることが確認された。」(43頁左上欄9行~右上欄5行)(e) 「実施例5本実施例では,実施例1~4で得られた多重強化株を用いたグルタミン酸発酵の例を示す。 …得られた結果を第13表に示す。 …第13表から明らかなように,少なくともGDHとICDHの両酵素が同時に強化された菌株では,他の菌株に比較してグルタミン酸蓄積量,対糖収率ともに高い成績を示した。」(44頁左上欄7行~45頁左上欄4行)c 甲4及び甲34に開示された事項前記a及びbの記載事項によれば,甲4及び甲34には,CS遺伝 子のみを増強しても,グルタミン酸の生産が増加しなかったことが ~45頁左上欄4行)c 甲4及び甲34に開示された事項前記a及びbの記載事項によれば,甲4及び甲34には,CS遺伝 子のみを増強しても,グルタミン酸の生産が増加しなかったことが開示されていると見られなくもない。 しかしながら,甲4は,C.グルタミカムというコリネ型細菌の一種について,CS酵素の活性がもともと非常に高かったために,遺伝子操作によるCS酵素レベルの上昇が効果を発揮しなかったことを述べているのにとどまるから,律速段階の存在を裏付けるに足りるものではないし,そもそも,一細菌に関するものにすぎない甲4の結論を一般化できるかどうかにも疑問がある。また,甲34は,GDHとICDHの両酵素が同時に強化された菌株では,グルタミン酸蓄積量,対糖収率ともに高い成績を示したと述べているのみで,CS酵素が強化された菌株については,何らの結論を述べるものではない上,その記述を詳細に検討すると,GDH遺伝子,ICDH遺伝子,AH遺伝子を同時に組み込んだ細菌(pAIG321)よりも,上記3遺伝子に加え,CS遺伝子を組み込んだ細菌(pCAIG4)の方が,グルタミン酸濃度,対糖収率ともに高くなっている(第13表参照)というように,CS遺伝子を組み込むことにより効果が発揮されているように見える実験結果も紹介されている。これらのことを考慮すると,上記各書証の記載は,いずれも,TCA回路中のコリネ型細菌のグルタミン酸の生合成系路における,CSによるクエン酸の生成反応の後続の反応に,律速段階が存在することを裏付けるものであるとはいえない。 (ウ) 小括以上によれば,原告らの上記主張は,その前提を欠くものであって,採用することはできない。 ⑷ 取消事由1-3(プロモーター-35領域及び-10領域の周辺領域について)ア前記⑵ア ウ) 小括以上によれば,原告らの上記主張は,その前提を欠くものであって,採用することはできない。 ⑷ 取消事由1-3(プロモーター-35領域及び-10領域の周辺領域について)ア前記⑵ア及び⑶ウのとおり,本件明細書の発明の詳細な説明は,当業者 が本件発明1(本件発明1-1ないし1-3)の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。 イこれに対し原告らは,本件明細書の実施例及びその他の記載並びに技術常識を参照しても,GDH遺伝子及びCS遺伝子のプロモーターの-35領域と-10領域の間の配列,-35領域の上流領域及び-10領域の下流領域を任意の配列や長さにした場合に,L-グルタミン酸の生産性が向上することを当業者は認識することができないから,本件発明1はサポート要件に適合するものとはいえず,同様の理由により,本件明細書の発明の詳細な説明は実施可能要件に適合するものとはいえない旨主張する。そこで,かかる主張の当否について検討する。 (ア) 前記⑴イ(エ)aのとおり,「本発明」の実施例1である「ATCC13869/p6-8」は,コリネ型細菌野生株(ATCC13869)に,プロモーター配列の-35領域及び-10領域を改変して,本件発明1-1の配列としたGDH遺伝子を組み込んだプラスミドを導入したものである。そして,本件明細書には,「ATCC13869 /p6-8」のGDH遺伝子のプロモーター配列の-35領域及び-10領域の周辺領域の配列は,親株(ATCC13869)と同一であることが示されている(【0025】)。 また,前記⑴イ(エ)bのとおり,実施例2の「FGR2」は,親株(AJ13029)のGDH遺伝子のプロモーター配列の-35領域及び-10領域に本件発明1-1の配列への変異を有するものであ 5】)。 また,前記⑴イ(エ)bのとおり,実施例2の「FGR2」は,親株(AJ13029)のGDH遺伝子のプロモーター配列の-35領域及び-10領域に本件発明1-1の配列への変異を有するものである。そして,本件明細書には,「FGR2」のGDH遺伝子のプロモーター配列の-35領域と-10領域の間の領域の配列は,1塩基の欠失があるほかは,親株(ATCC13869)と同一であることが示されている(表6)。 さらに,「本発明」の実施例3である「GB02」及び「GB03」は,FGR2のCS遺伝子のプロモーター配列の-10領域を改変して,本件発明1-2の配列を導入したものであり,「GB03」は,さらに,同-35領域 を改変して,本件発明4の配列を導入したものである。そして,本件明細書には,GBO2 及びGB03 の作製に当たり,FGR2 のCS遺伝子のプロモーター配列の-35領域と-10領域の間の領域に変異を加えた旨の記載はないことから(【0033】~【0047】),-35領域と-10領域の周辺領域は,1塩基の欠失があるほかは,親株(AJ13029)と同じ配列を有していることを理解できる。 加えて,前記⑴イ(エ)dのとおり,「本発明」の実施例7である「GAO2」は,FGR2 が持つGDH遺伝子のプロモーター配列を用いて,AJ13029 の染色体上に変異を導入したものであって,GDH遺伝子のプロモーター配列の-35領域及び-10領域はFGR2 と同一である。そして,本件明細書には,GAO2 及びGAO3 は,GDHのプロモーター領域以外に変異が導入されていないことを確認した上で,AJ13029 に変異が導入されて,作製されたものであることが記載されている(【0087】~【0093】)。 (イ) 以上によれば,遺伝子のプロモ 異が導入されていないことを確認した上で,AJ13029 に変異が導入されて,作製されたものであることが記載されている(【0087】~【0093】)。 (イ) 以上によれば,遺伝子のプロモーターの-35領域及び-10領域の周辺領域の配列や長さがプロモーター活性に影響を与えることが,仮に公知であったとしても,本件明細書に接した当業者は,GDH遺伝子のプロモーター配列の-35領域及び-10領域と,CS遺伝子の-10領域を特定の配列とする変異を染色体上に導入することを解決手段とする本件発明1において,プロモーター配列の-35領域と-10領域の周辺領域については,野生株と同様でよいことを理解できるのであるから,本件発明1の構成を有するL-グルタミン酸の製造方法によって,発明の課題(前記⑵ア)を解決できることを認識できるものといえる。 また,同様の理由により,当業者は,本件明細書の記載から,GDH遺伝子のプロモーター配列の-35領域及び-10領域と,CS遺伝子のプロモーター配列の-10領域の周辺領域は野生株と同様でよいこと を前提にして本件発明1の実施をすることができるといえる。 したがって,原告らの上記主張は採用することができない。 ⑸ 小括前記⑴ないし⑷のとおり,特許請求の範囲の請求項1の記載は,サポート要件に適合するものと認められ,また,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,実施可能要件に適合するものと認められる。 したがって,これと同旨の本件審決の判断に誤りはなく,原告ら主張の取消事由1は理由がない。 2 取消事由2(甲2を主引用例とする本件発明1の進歩性の判断の誤り)について⑴ 甲2の記載事項についてア甲2には,以下のような記載がある(下記記載中に引用する「図1及び図5」並びに「表2」につい 事由2(甲2を主引用例とする本件発明1の進歩性の判断の誤り)について⑴ 甲2の記載事項についてア甲2には,以下のような記載がある(下記記載中に引用する「図1及び図5」並びに「表2」については別紙4を参照)。 (ア) 「これまでのところ,コリネバクテリウム・グルタミカム(C.グルタミカム)のプロモーターの構造に関しては限られた情報しか入手可能ではなかった。…C.グルタミカム由来の新たに特徴づけられたプロモーター配列と共に公開されたプロモーターを比較分析することにより,保存された配列は,TS(転写開始)サイト上流のおよそ35bp(ttGcca)及び10bp(TA.aaT)であることが明らかになった。これらモチーフの位置及びモチーフ自体は,他のグラム陽性及びグラム陰性細菌の-35 及び-10プロモーターコンセンサス配列に相当し,それらはC.グルタミカムでの転写開始シグナルを表すことを示唆している。 しかし,C.グルタミカムは,-35 領域のコンセンサスヘキサマー保存量が,大腸菌…,バチルス…,ラクトバチルス…及び連鎖球菌…よりもはるかに少ない。」(1297頁,要約1行~20行)(イ) 「緒言… C.グルタミカムは,特にさまざまなアミノ酸の生産菌として知られているグラム陽性無芽胞微生物である。さまざまなC.グルタミカム遺伝子の特徴が明らかにされてきたが…,遺伝子発現シグナルに関する知見は未だ不十分であり,C.グルタミカムプロモーターの一般的構造,すなわち典型的なコンセンサス配列は,今のところ定義されていない。…これまでに得られているわずかなデータによれば,C.グルタミカムのプロモーター配列は,大腸菌又は枯草菌と異なっているか,あるいは少なくともグラム陰性菌とグラム陽性菌両方に共通する典型的なプロモーター れまでに得られているわずかなデータによれば,C.グルタミカムのプロモーター配列は,大腸菌又は枯草菌と異なっているか,あるいは少なくともグラム陰性菌とグラム陽性菌両方に共通する典型的なプロモーターコンセンサスパターンと低い一致を示す。 この試験では,C.グルタミカムから18 個,溶原性コリネファージφGA1 から4 個のプロモーターを単離し…,各TS 領域のマップを作成した。次に,新たに開発されたコンピュータプログラムを用いて,コリネバクテリウムのプロモーターコンセンサス配列を示す共通パターンを見つけるために,以前報告されているプロモーター配列と合わせて,これらのプロモーター配列に関する比較解析を実施した。」(1297頁左欄1行,1298頁左欄12行~44行)(ウ) 「C.グルタミカム及び大腸菌でのプロモーター活性の評価クローン化されたプロモーターの相対強度は,Cm のMIC を定量し,さまざまなC.グルタミカムクローンの特異的なCAT 活性を測定することによって評価した。…C.グルタミカム染色体及びファージφGA1 から単離されたフラグメント全てに,C.グルタミカムでも大腸菌でも機能したプロモーターが含まれることが示された。」(1300頁左欄3行~8行,右欄14行~18行)(エ) 「プロモーター運搬フラグメントの配列決定及びTS 部位のマッピング…図1に,プライマー伸長法…から推定されるように配列のプロモー ター関連部を示している。 図1.TS サイトに従って並べられたC.グルタミカムプロモーターの核酸配列。プロムスキャンプログラムにより同定された推定-35 及び-10領域に下線を引いた。hom,thrC,fda,lysA,ask,gdh,glt,gap,pgk,及びtrp のプロモーター配列は,本文 プロムスキャンプログラムにより同定された推定-35 及び-10領域に下線を引いた。hom,thrC,fda,lysA,ask,gdh,glt,gap,pgk,及びtrp のプロモーター配列は,本文で参照したレファレンスより取得した。」(1300頁右欄19行~24行,1301頁左欄1行~2行,図1)(オ) 「プロモーター配列の解析…さらに,上のSrel 平均値を持つ2つ目のk文字パターンワード領域が,-10 領域の上流約20bp で検出された。この領域はこれ以降,-35 領域と呼ぶ。-10 領域で最も多いヘキサマーはGGTATA,GGTACA,TATAAT 及びTACAAT であり,-35 領域で最も多いヘキサマーはTCTTGG,TTTTGC,TTTGCC,TTGCCA,GGCCAA 及びGCCAAA であった。…少なくとも相関している位置での切断がある-10 及び-35 のモチーフを基点として,プロモーター配列のアライメントを行った。図5に示しているように,最もよく保存されている配列は-35 領域のtttGcca.a 及び-10 領域のggTA.aaT であった。図5からも,-35 及び-10 のコンセンサス配列にある各塩基の保存量がかなり異なっていることがわかる。しかし,これら2つのモチーフは,配列自体から明らかなC.グルタミカムプロモーターの主な情報を運搬する領域の特徴を示していると結論づけることができる。 図5.PROMSCAN によってみられた-10 領域及び-35 領域を基点としてアライメントを行ったC.グルタミカムの塩基分布。切断は少なくとも相関している位置で導入した。ヒストグラムには,各位置でも最も顕著な塩基の発生数を示している。ヒストグラムの上に,同じ位置で少なくとも42%(33 個中14 個)のプロ の塩基分布。切断は少なくとも相関している位置で導入した。ヒストグラムには,各位置でも最も顕著な塩基の発生数を示している。ヒストグラムの上に,同じ位置で少なくとも42%(33 個中14 個)のプロモーターに発生している塩基を記載してい る。同じ位置で70%(33 個中23 個)を超えるプロモーターに発生している塩基は大文字で記載している。」(1302頁左欄9行,1304頁右欄3行~1305頁左欄3行,同頁左欄21行~右欄6行,図5)(カ)a 「考察我々の試験の目的は,C.グルタミカムプロモーターを単離して分子的特徴を明らかにすることにあった。プロモータープローブベクターpEKplCm を用いて,多種多様なプロモーター活性DNA フラグメントを単離することができた。試験した全18 フラグメントは,E.coli においてcat の転写を作動させ,単離されたプロモーターがこの生物においても活性であったことが示唆される。この結果は予想できないものではなかった。なぜなら,C.グルタミカムからクローン化された遺伝子の多くは,適切な栄養要求体の異種相補性により示唆されるように…,E.coli で発現したからである。反対に,いくつかのE.coli 遺伝子は,C.グルタミカムで効率的に出現し…,そしてE.colitac,lacUV5,及びtrp プロモーターはコリネバクテリアで機能的であることが示されている…。これら全ての結果は,C.グルタミカムのプロモーターの一般的構造は,E.coli のプロモーターのものと類似していることを示唆する。しかしながら,コリネ型細菌特有のプロモーターがE.coli では明らかに機能しなかったという複数の報告もある…。」(1305頁右欄7行~1306頁左欄2行)b 「C.グルタミカム由来のプロモータ かしながら,コリネ型細菌特有のプロモーターがE.coli では明らかに機能しなかったという複数の報告もある…。」(1305頁右欄7行~1306頁左欄2行)b 「C.グルタミカム由来のプロモーターと他の細菌由来のプロモーターの一次構造の類似性は,比較コンピュータ分析により立証された。 本研究で適用した両プログラムは,C.グルタミカムプロモーターの我々のセットにおいて,最も関連する領域が,TS 部位の上流10bp 周辺に位置し,ヘキサマーTA.AAT を含むことを示した。当該または類似のモチーフをすべてのプロモーターで見つけることができる。別の保 存領域はTS 部位の上流およそ35pb で検出された。この領域で見いだされたコンセンサスヘキサマーTTGCCA は,E.coli のコンセンサスTTGACA と,4番目の位置でのみ異なる。このTTGCCA モチーフはプロモーター33 種のうち14 種にしか明確に(3塩基対より大きいマッチングで)は見出されず,その機能が明確ではない。他のいくつかのプロモーターにおいては,このモチーフは容易に識別できず,C.グルタミカムのプロモーターにおける,より低い保存性を示唆する。」(1306頁左欄3行~18行)c 「しかしながら,TS 部位に関連する位置から,スペーシング(17・35bp の平均)から,及び2つの保存されたヘキサマーモチーフの配列から,C.グルタミカムにおけるこれらのシグナルは,E.coli…及びその他の真正細菌,e.g.バシラス…,ラクトバチルス…,及びストレプトコッカス…の-10 及び-35 プロモーターコンセンサス配列に相当することが明らかである。我々の分析により明らかになったC.グルタミカムのコンセンサスモチーフの優位性は,tac プロモーター(12 個の位 の-10 及び-35 プロモーターコンセンサス配列に相当することが明らかである。我々の分析により明らかになったC.グルタミカムのコンセンサスモチーフの優位性は,tac プロモーター(12 個の位置中11 がコンセンサスと同一)がC.グルタミカムで非常に効率的であることが判明し…,並びにE.colilac プロモーターにおいて-10ヘキサマーをTATGTT からTATATT へ変更し,コンセンサス配列との類似性を高めることは,C.グルタミカムでのプロモーターのより高い効率を導く…という事実により裏付けられる。」(1306頁左欄18行~38行)d 「-10 及び-35 ヘキサマーはさておき,その他の位置もC.グルタミカムプロモーターにおいて保存されているようである:-10 エレメントの5’末端に隣接する二つのG,-35 エレメントの2bp 下流のA残基及び-35 エレメントの直ぐ上流のT残基(図5)。実際,-10 及び-35ヘキサマー付近の保存された塩基は,コンセンサスモチーフをggTA. aaT 及びtttGcca.a にそれぞれ拡張する。多数のバチルス及びラクトバチルスのプロモーターにおいて,-10 ヘキサマーの上流に又は1bp隔てて見いだされたTG モチーフの存在により,伸張されたプロモーターコンセンサスがグラム陽性細菌で提案されている…。ここで分析した33 プロモーターのうち11 が,-10 ヘキサマーの5’近傍でTG モチーフを含む,したがって,-10 ヘキサマーに隣接するTG ダブレットは,C.グルタミカムにおいても,プロモーター機能に有意性を有するかもしれない。-10 領域上流の比較的高いA+T 含量も有意なようである,特に,C.グルタミカムの平均A+T 含量はほんの約43.5%だからである…」( おいても,プロモーター機能に有意性を有するかもしれない。-10 領域上流の比較的高いA+T 含量も有意なようである,特に,C.グルタミカムの平均A+T 含量はほんの約43.5%だからである…」(1306頁左欄39行~59行)e 「例えばバチルス及びストレプトコッカスのようないくつかのグラム陽性細菌では,殆どの-10 及び-35 プロモーター領域は,それらのコンセンサス配列であるTATAAT 及びTTGACA のそれぞれと,ほぼ完全に一致する…。一方,本論文で研究したC.グルタミカムのプロモーターのセットにおいて,これは当てはまらなかった。C.グルタミカムのプロモーターのコンセンサスモチーフにおけるいくつかの塩基は,中程度にしか保存されておらず(図5参照),全体として,比較的中程度にしかモチーフが保存されていないことを示唆する。プロモーターのコンセンサス配列の保存レベルは,所与の細菌における主要RNA ポリメラーゼのσ因子の要求を反映している可能性があることから…,我々の研究におけるポジションごとのコンセンサスの保存の程度を,他の細菌からのプロモーターの編集物におけるものと比較することは興味深い。表2に示すとおり,-35 及び-10 コンセンサスヘキサマーにおけるほぼすべての塩基は,C.グルタミカムのプロモーターのセットと比較して,バチルス,ラクトバチルス及びストレプトコッカスのプロモーターでは非常に高く,E.coli プロモーターではかなり高く,保 存されていた。これらのデータは,リストした微生物における主要RNAポリメラーゼの認識特異性が,バチルス/ラクトバチルス/ストレプトコッカス>E.coli>C.グルタミカムの順で低下することを示唆する。」(1306頁右欄18行~42行)f 「表2.異なる生物に由来するプ ゼの認識特異性が,バチルス/ラクトバチルス/ストレプトコッカス>E.coli>C.グルタミカムの順で低下することを示唆する。」(1306頁右欄18行~42行)f 「表2.異なる生物に由来するプロモーターのコンパイルでの,-35及び-10 モチーフにおけるコンセンサス保存の程度異なる生物のプロモーターコンパイルを以下のレファレンスより取得した:C.グルタミカム,33 プロモーター(本研究);E.coli,263 プロモーター…;バチルス・サブチリス,237 プロモーター…;ラクトバチルス,30 プロモーター…;ストレプトコッカス,17 プロモーター…」(1307頁,表2)g 「E.coli におけるプロモーターの活性は,-35 及び-10 コンセンサスヘキサマーとの類似性と大部分は相関し得るため…,我々は,観察されたCAT 活性は,所定のプロモーターと,予測コンセンサスプロモーター配列との類似性スコアとおおよそ相関すると推測した。しかしながら,そのような相関は確認できなかった。」(1306頁右欄59行~1307頁左欄6行)h 「本論文において提供したデータから明らかなとおり,C.グルタミカムにおけるプロモーター(又はプロモータークラス)の構造-機能相関について詳細な情報を得て,それによりこの産業上重要な微生物における遺伝子発現をより良く理解するためには,例えば,選択プロモーターの厳密な変異分析及び生化学的分析のようなさらなる研究が必要であることが明らかである。」(1307頁右欄4行~10行)イ前記アの記載事項によれば,甲2には,以下の開示があると認められる。 (ア) C.グルタミカムの遺伝子発現シグナルに関する知見は未だ不十分であり,C.グルタミカムプロモーターの一般的構造,すなわち典型的な 事項によれば,甲2には,以下の開示があると認められる。 (ア) C.グルタミカムの遺伝子発現シグナルに関する知見は未だ不十分であり,C.グルタミカムプロモーターの一般的構造,すなわち典型的なコ ンセンサス配列は,今のところ定義されていない。これまでに得られているわずかなデータによれば,C.グルタミカムのプロモーター配列は,大腸菌又は枯草菌と異なっているか,あるいは少なくともグラム陰性菌とグラム陽性菌両方に共通する典型的なプロモーターコンセンサスパターンと低い一致を示す(前記ア(イ))。 (イ) この試験では,C.グルタミカムから18 個,溶原性コリネファージφGA1 から4 個のプロモーターを単離し,各TS 領域のマップを作成した(前記ア(イ))。 図1は,TS サイトに従って並べられたC.グルタミカムプロモーターの核酸配列である(前記ア(エ))。 図1には,グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)遺伝子のプロモーター配列(「p-gdh」)の-35領域に「TGGTCA」配列及び-10領域に「CATAAT」配列を有し,クエン酸合成酵素(CS)遺伝子のプロモーター配列「p-glt」の-35領域に「TGGCTA」配列及び-10領域に「TAGCGT」配列を有することが示されている。 (ウ) 試験した全18 フラグメントは,E.coli においてcat の転写を作動させ,単離されたプロモーターがこの生物においても活性であったことが示唆される(前記ア(カ)a)。 反対に,いくつかのE.coli 遺伝子は,C.グルタミカムで効率的に出現し, E.colitac,lacUV5,及びtrp プロモーターはコリネバクテリアで機能的であることが示されている。これら全ての結果は,C.グルタミカムのプロモーターの一般的構造は, 率的に出現し, E.colitac,lacUV5,及びtrp プロモーターはコリネバクテリアで機能的であることが示されている。これら全ての結果は,C.グルタミカムのプロモーターの一般的構造は,E.coli のプロモーターのものと類似していることを示唆する。他方,コリネ型細菌特有のプロモーターがE.coli では明らかに機能しなかったという複数の報告もある(前記ア(カ)a)。 (エ) 本研究で適用したプログラムは,C.グルタミカムプロモーターのセ ットにおいて,最も関連する領域が,TS 部位の上流10bp 周辺に位置することを示した。また,別の保存領域はTS 部位の上流およそ35pb で検出された。 図5に示しているように,最もよく保存されている配列は-35 領域のttGcca.a 及び-10 領域のggTA.aaT であった(前記ア(カ)b)。 これらモチーフの位置及びモチーフ自体は,他のグラム陽性及びグラム陰性細菌の-35 及び-10 プロモーターコンセンサス配列に相当し,それらはC.グルタミカムでの転写開始シグナルを表すことを示唆している。しかし,C.グルタミカムは,-35 領域のコンセンサスヘキサマー保存量が,大腸菌,バチルス,ラクトバチルス及び連鎖球菌よりもはるかに少ない(前記ア(ア))。 (オ) しかしながら,我々の分析により明らかになったC.グルタミカムのコンセンサスモチーフの優位性は,tac プロモーター(12 個の位置中11がコンセンサスと同一)がC.グルタミカムで非常に効率的であることが判明し,並びにE.coli のlac プロモーターにおいて-10 ヘキサマーをTATGTT からTATATT へ変更し,コンセンサス配列との類似性を高めることは,C.グルタミカムでのプロモーターのより高い効 びにE.coli のlac プロモーターにおいて-10 ヘキサマーをTATGTT からTATATT へ変更し,コンセンサス配列との類似性を高めることは,C.グルタミカムでのプロモーターのより高い効率を導くという事実により裏付けられる(前記ア(カ)c)。 (カ) 一方,バチルス及びストレプトコッカスのようないくつかのグラム陽性細菌では,殆どの-10 及び-35 プロモーター領域は,それらのコンセンサス配列であるTATAAT 及びTTGACA とほぼ完全に一致するのに対し,本論文で研究したC.グルタミカムにこれは当てはまらず,C.グルタミカムのプロモーターのコンセンサスモチーフにおけるいくつかの塩基は,中程度にしか保存されていなかった(図5参照)(前記ア(カ)e)。 表2に示すとおり,-35 及び-10 コンセンサスヘキサマーにおけるほぼすべての塩基は,C.グルタミカムのプロモーターのセットと比較して, バチルス,ラクトバチルス及びストレプトコッカスのプロモーターでは非常に高く,E.coli プロモーターではかなり高く,保存されていた(前記ア(カ)e)。 (キ) E.coli におけるプロモーターの活性は,-35 及び-10 コンセンサスヘキサマーとの類似性と大部分は相関し得るため,我々は,C.グルタミカムのCAT 活性は,所定のプロモーターと,予測コンセンサスプロモーター配列との類似性スコアとおおよそ相関すると推測したが,そのような相関は確認できなかった(前記ア(カ)g)。 本論文において提供したデータから明らかなとおり,C.グルタミカムにおけるプロモーターの構造-機能相関について詳細な情報を得て,それによりこの産業上重要な微生物における遺伝子発現をより良く理解するためには,更なる 供したデータから明らかなとおり,C.グルタミカムにおけるプロモーターの構造-機能相関について詳細な情報を得て,それによりこの産業上重要な微生物における遺伝子発現をより良く理解するためには,更なる研究が必要であることが明らかである(前記ア(カ)h)。 ⑵ 甲5の記載事項についてア甲5には,次のような記載がある。 (ア) 請求の範囲「1. 染色体上に存在するα-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子又はそのプロモーターの塩基配列中に 1 又は2 以上の塩基の置換,欠失,挿入,付加又は逆位が生じたことにより, α-ケトグルタル酸デヒド口ゲナーゼ活性が欠損したコリネ型L-グルタミン酸生産菌。 2. 請求項1 記載のコリネ型L-グルタミン酸生産菌を液体培地中に培養し,培養液中にL-グルタミン酸を生成蓄積させ,これを採取することを特徴とするL-グル夕ミン酸の製造法。」(55頁2行~8行)(イ) 明細書a 「技術分野 本発明は,L-グルタミン酸…の発酵生産に用いられるコリネ型細菌の育種と利用に関する。更に詳しくは,本発明は,α-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ(α-KGDH)活性が欠失したコリネ型L-グルタミン酸生産菌,該菌を用いたL-グルタミン酸の製造法…に関する。」(1頁3行~11行)「背景技術従来よりL-グルタミン酸はブレビバクテリウム属又はコリネバクテリウム属に属するコリネ型細菌を用いた発酵法により工業的に生産されている。 近年,α-KGDH活性が欠損もしくは低下し,かつL-グルタミン酸分解活性が低下した大腸菌変異株が,高いL-グルタミン酸生産能を持つことが明らかとなった…。 これに対し,ブレビバクテリウム属の細菌においては,α-KGDH活性の低下した変異 かつL-グルタミン酸分解活性が低下した大腸菌変異株が,高いL-グルタミン酸生産能を持つことが明らかとなった…。 これに対し,ブレビバクテリウム属の細菌においては,α-KGDH活性の低下した変異株のL-グルタミン酸生産能は親株とほぼ同じであったとの報告があり…,コリネ型細菌では,α-KGDH活性のレベルはL-グルタミン酸の生産に重要ではないものと考えられていた。 一方,α-KGDH活性が低下し,かつL-グルタミン酸生産能を有する変異株をビオチン過剰原料を炭素源とする培地中で培養すると,ぺニシリン類や界面活性剤等のビオチン作用抑制物質を培地に添加することなく,高収率でL-グルタミン酸が生産されることが見い出されている…。しかしながら,上述したようにコリネ型細菌では,α-KGDH活性のレベルはL-グルタミン酸の生産に重要ではないものと考えられていたため,コリネ型L-グルタミン酸生産菌のα-KGDH遺伝子をクローニングし解析した例はなかった。また,α-KGDHを欠失したコリネホルム細菌の変異株も知られていなかった。」 (1頁12行~2頁5行)b 「発明の開示本発明の目的は,コリネ型L-グルタミン酸生産菌由来のα-KGDH遺伝子を取得し,該遺伝子を含む組換えDNAを作製し,該組換えDNAで形質転換した微生物を用いてα-KGDH活性のレベルがL-グルタミン酸の発酵生産に及ぼす影響を明らかにし,もってコリネ型L-グルタミン酸生産菌の育種において新たな方法論を提供することにある。より具体的には,本発明の目的は,染色体上に存在するα-KGDH遺伝子を破壊することによりα-KGDH活性を欠失させたコリネ型L-グルタミン酸生産菌を取得し,該菌を用いたL-グルタミン酸の製造法を提供することにある。…本発明者らは,コリネ型L-グ -KGDH遺伝子を破壊することによりα-KGDH活性を欠失させたコリネ型L-グルタミン酸生産菌を取得し,該菌を用いたL-グルタミン酸の製造法を提供することにある。…本発明者らは,コリネ型L-グルタミン酸生産菌由来のα-KGDH遺伝子を取得しその構造を明らかにするとともに,該遺伝子を組み込んだ組換え体プラスミドでコリネ型L-グルタミン酸生産菌を形質転換し,得られた形質転換体のα-KGDH活性のレベルとL-グルタミン酸の生産能を調べた結果,α-KGDH活性がL-グルタミン酸の生産に顕著な影響を及ぼすことを見いだした。また,本発明者らは,コリネ型L-グルタミン酸生産菌において染色体上に存在するα-KGDH遺伝子を破壊することによりα-KGDH活性を欠失させた株が,過剰量のビオチンを含有する培地に培養する際,界面活性剤やぺニシリンのようなビオチン作用抑制物質を培地に添加することなく著量のL-グルタミン酸を生成蓄積することを見いだした。」(2頁6行~27行)c 「すなわち,本発明は,(1)染色体上に存在するα-KGDH活性を有する酵素をコードする遺伝子又はそのプロモー夕ーの塩基配列中に1又は2以上の塩基の 置換,欠失,挿入,付加又は逆位が生じたことにより,α-KGDH活性が欠損したコリネ型L-グル夕ミン酸生産菌,(2)上記(1)記載のコリネ型L-グルタミン酸生産菌を液体培地中に培養し,培養液中にL-グルタミン酸を生成蓄積させ,これを採取することを特徴とするL-グルタミン酸の製造法,…を提供するものである。」(3頁3行~18行)d(a) 「α-KGDH活性が欠失した株の取得は,化学薬剤を用いて変異を誘導する方法でも,遺伝子組換えによる方法でも取得可能である。しかし,化学薬剤による変異誘導法ではα-KGDH活性が 8行)d(a) 「α-KGDH活性が欠失した株の取得は,化学薬剤を用いて変異を誘導する方法でも,遺伝子組換えによる方法でも取得可能である。しかし,化学薬剤による変異誘導法ではα-KGDH活性が低下した株を得ることは比較的容易であるが該活性が完全に欠失した株の取得は困難であり,このような株を取得するには上記のようにして明らかとなったα-KGDH遺伝子の構造を基に,遺伝子相同組換え法により染色体上に存在するα-KGDH遺伝子を改変又は破壊する方法が有利である。相同組換えによる遺伝子破壊は既に確立しており直鎖DNAを用いる方法や温度感受性プラスミドを用いる方法などが利用できる。 具体的には,部位特異的変異法…や次亜硫酸ナトリウム,ヒドロキシルアミン等の化学薬剤による処理…によって,α-KGDH遺伝子のコーディング領域又はプロモーター領域の塩基配列の中に1つ又は複数個の塩基の置換,欠失,挿入,付加又は逆位を起こさせ,このようにして改変又は破壊した遺伝子を染色体上の正常な遺伝子と置換することにより遺伝子産物であるα-KGDHの活性を欠失させるかα-KGDH遺伝子の転写を消失させることができる。」(8頁24行~9頁10行)⒝ 「このようにして取得した変異が導入されて改変又は破壊された遺伝子をコリネ型L-グルタミン酸生産菌の染色体上の正常な遺伝 子と置換する方法としては,相同性組換えを利用した方法…がある。 相同性組換えは,染色体上の配列と相同性を有する配列を持つプラスミド等が菌体内に導入されると,ある頻度で相同性を有する配列の箇所で組換えを起こし,導入されたプラスミド全体を染色体上に組み込む。この後さらに染色体上の相同性を有する配列の箇所で組換えを起こすと,再びプラスミドが染色体上から抜け落ちるが,この時組換えを起こす位 で組換えを起こし,導入されたプラスミド全体を染色体上に組み込む。この後さらに染色体上の相同性を有する配列の箇所で組換えを起こすと,再びプラスミドが染色体上から抜け落ちるが,この時組換えを起こす位置により変異が導入された遺伝子の方が染色体上に固定され,元の正常な遺伝子がプラスミドと一緒に染色体上から抜け落ちることもある。このような菌株を選択することにより,塩基の置換,欠失,挿入,付加又は逆位を持つ変異が導入されて改変又は破壊された遺伝子が染色体上の正常な遺伝子と置換された菌株を取得することができる。」(9頁29行~10頁13行)⒞ 「かくして得られるα-KGDH活性が欠失したコリネ型L-グルタミン酸生産菌は,α-KGDH活性が部分的に低下した株に比ベて特に過剰量のビオチンを含有する培地においてL-グルタミン酸生産能が顕著に優れている。」(10頁14行~16行)e(a) 「なお,L-グルタミン酸生産性を向上させるには,グルタミン酸生合成系遺伝子を強化することが有利である。グルタミン酸生合成系遺伝子を強化した例としては,解糖系のホスフォフルクトキナーゼ(PFK…),アナプレロティック経路のホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(PEPC…),TCA回路のクエン酸合成酵素(CS…),アコニット酸ヒドラターゼ(ACO…),イソクエン酸デヒドロゲナーゼ(ICDH…),アミノ化反応としてはグルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH…)等がある。」(11頁11行~20行)⒝ 「上記の遺伝子を取得するためには以下に示す様な方法が考えら れる。 (1)目的遺伝子に変異が起こり特徴的な形質を示す変異株で,目的遺伝子を導入することによりその形質が消失するような変異株を取得し,その変異株の形質を相補するような遺伝子をコリネ型細菌の染色 る。 (1)目的遺伝子に変異が起こり特徴的な形質を示す変異株で,目的遺伝子を導入することによりその形質が消失するような変異株を取得し,その変異株の形質を相補するような遺伝子をコリネ型細菌の染色体から取得する方法。 (2)目的遺伝子が他の生物において既に取得され塩基配列が明らかになっている場合,相同性の高い領域のDNAをプローブとしてハイブリダイゼーションの手法により目的の遺伝子を取得する方法。 (3)目的遺伝子の塩基配列がかなり詳細に判明している場合は目的遺伝子を含む遺伝子断片をコリネ型細菌の染色体を鋳型としPCR法…により取得する方法。 ここで用いる染色体の取得方法は上記の方法を用いることができる。また,宿主-べクター系としては,コリネ型細菌で利用可能なものであればよく,上記で述べたものが用いられる。本発明の実施例においては塩基配列が既に明らかになっている場合に有効である上記(3)の方法を用いた。 また,上記(2)及び(3)の方法で遺伝子を取得する場合,目的遺伝子が独自のプロモーターを持たない時にはコリネ型細菌でプロモーター活性を持つDNA断片を目的遺伝子の上流に挿入することにより目的遺伝子を発現させることができる。目的遺伝子の発現を強化するには,強力なプロモーターの下流に目的遺伝子を連結することが考えられる。コリネ型細菌の細胞内で機能するプロモーターのうち強力なものとしては,大腸菌のlacプロモーター,tacプロモーター,trpプロモーター等がある…。また,コリネバクテリウム属細菌のtrpプロモーターも好適なプロモーターであ る…。本発明の実施例においては,PEPC遺伝子の発現にコリネ型細菌のtrpプロモーターを用いた。」(11頁21行~12頁16行)f(a) 「発明を実施するための最良の形態以下 る…。本発明の実施例においては,PEPC遺伝子の発現にコリネ型細菌のtrpプロモーターを用いた。」(11頁21行~12頁16行)f(a) 「発明を実施するための最良の形態以下, 実施例により本発明をさらに具体的に説明する。」(14頁15行~16行)⒝ 「実施例3 α-KGDH遺伝子欠損株の作製α-KGDH遺伝子増幅によりL-グルタミン酸生成が抑制されたことから,逆にα-KGDH遺伝子を破壊する事によりグルタミン酸収率を向上させることが期待された。遺伝子破壊株は,特開平5-7491号に示される温度感受性プラスミドを用いた相同組換え法により取得した。」(23頁18行~22行)⒞ 「実施例4 gdh,gltA及びicd遺伝子増幅用プラスミドの作製」(24頁26行)⒟ 「実施例7 pGDH,pGLTA,pPPC,pICD,pGDH+GLTA+ICD及びpGDH+GLTA+PPC上の各遺伝子の発現の確認pGDH,pGLTA,pPPC,pICD,pGDH+GLTA+ICD及びpGDH+GLTA+PPC上の各遺伝子がブレビバクテリウム・ラクトファーメンタムの細胞内で発現し,これらのプラスミドが遺伝子増幅の機能を果たしていることの確認を行った。」(28頁1行~6行)g 「産業上の利用性コリネ型L-グルタミン酸生産菌のα-KGDH活性のレベルがL-グルタミン酸の発酵生産に影響を及ぼすことが明らかとなった。従って,薬剤遺伝子の挿入等によるα-KGDH遺伝子活性欠失株の取 得,invitro 変異による活性弱化株の取得,プロモーターの改変による発現低下株の取得等により,従来のコリネ型L-グルタミン酸生産菌と比較してさらにL-グルタミン酸生産能が向上した菌株を効率よく育種することが可能となる よる活性弱化株の取得,プロモーターの改変による発現低下株の取得等により,従来のコリネ型L-グルタミン酸生産菌と比較してさらにL-グルタミン酸生産能が向上した菌株を効率よく育種することが可能となる。」(33頁12行~18行)イ前記アの記載事項によれば,甲5には,以下の開示があると認められる。 (ア) 近年,α-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ(α-KGDH。以下,単に「α-KGDH」ということがある。)活性が欠損又は低下し,かつL-グルタミン酸分解活性が低下した大腸菌変異株が,高いL-グルタミン酸生産能を持つことが明らかとなったが,コリネ型細菌では,α-KGDH活性のレベルはL-グルタミン酸の生産に重要ではないと考えられていたため,コリネ型L-グルタミン酸生産菌のα-KGDH遺伝子をクローニングし解析した例はなく,α-KGDHを欠失したコリネホルム細菌の変異株も知られていなかった(前記ア(イ)a)。 (イ) 本発明者らは,コリネ型L-グルタミン酸生産菌由来のα-KGDH遺伝子の活性が,L-グルタミン酸の生産に顕著な影響を及ぼすものであり,このα-KGDH活性を欠失させた株が,著量のL-グルタミン酸を生成蓄積することを見いだした。「本発明」の目的は,染色体上に存在するα-KGDH遺伝子を破壊することによりα-KGDH活性を欠失させたコリネ型L-グルタミン酸生産菌を取得し,該菌を用いたL-グルタミン酸の製造法を提供することにある(前記ア(イ)b)。 (ウ) 「本発明」は,①コリネ型L-グル夕ミン酸生産菌の染色体上に存在するα-KGDH活性を有する酵素をコードする遺伝子又はそのプロモーターの塩基配列中に1又は2以上の塩基の置換,欠失,挿入,付加又は逆位を生じさせて,α-KGDH活性を欠損させ,②上記①のコリネ型L-グルタ GDH活性を有する酵素をコードする遺伝子又はそのプロモーターの塩基配列中に1又は2以上の塩基の置換,欠失,挿入,付加又は逆位を生じさせて,α-KGDH活性を欠損させ,②上記①のコリネ型L-グルタミン酸生産菌を液体培地中に培養し,培養液中にL-グルタミン酸を生成蓄積させ,これを採取することを特徴とするL-グル タミン酸の製造法等を提供するものである(前記ア(ア),同(イ)c)(エ) コリネ型L-グルタミン酸生産菌のα-KGDH活性のレベルがL-グルタミン酸の発酵生産に影響を及ぼすことが明らかとなったため,薬剤遺伝子の挿入等によるα-KGDH遺伝子活性欠失株の取得,invitro 変異による活性弱化株の取得,プロモーターの改変による発現低下株の取得等により,従来よりもL-グルタミン酸生産能が向上した菌株を効率よく育種することが可能となる(前記ア(イ)g)。 (オ) なお,L-グルタミン酸生産性を向上させるには,グルタミン酸生合成系遺伝子を強化することが有利であり,グルタミン酸生合成系遺伝子を強化した例としては,TCA回路のクエン酸合成酵素(CS),アミノ化反応としてはグルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)等がある(前記ア(イ)e)。 ⑶ 甲6の記載事項についてア甲6(EMBOj.(1982)1(7))には,次のような記載がある。 「野生型と比較してプロモーター強度が21倍に増強した6つの変異体は,-35プロモーター領域において,TTGTCA からコンセンサス配列TTGACA に変異されていた。野生型より7倍強いampC プロモーターを示す3つの変異体において,-10領域配列TACAAT は,コンセンサス配列TATAAT に変異されていた。」(875頁,要約4行~10行)「-35領域の非常に保存さ 強いampC プロモーターを示す3つの変異体において,-10領域配列TACAAT は,コンセンサス配列TATAAT に変異されていた。」(875頁,要約4行~10行)「-35領域の非常に保存されたTTG 配列の下流には,3つのより厳密でない保存されたヌクレオチドが続く。」(875頁左欄40行~42行)イ前記アの記載事項によれば,甲6には,大腸菌において,-35領域のTTGTCA 配列がコンセンサス配列TTGACA に変異した変異体では,プロモーター強度が21倍に増強したこと,-10領域のTACAAT 配列がコンセンサス配列TATAAT に変異した変異体では,プロモーター強度が7倍に増強したこと,-35領域にTTG 配列が保存されていることの開示がある。 ⑷ 甲8の記載事項についてア甲8(特開平3-147792号公報)には,次のような記載がある。 (ア) 特許請求の範囲「1.TAGACAで示される塩基配列(a)と,該塩基配列(a)の15~20塩基対下流のTATAATで示される塩基配列(b)とを有することを特徴とするコリネ型細菌細胞内でプロモーターとして機能するDNA断片(c)。」(1頁左欄5行~9行)(イ) 発明の詳細な説明「実施例2合成プロモーターのpPR3への導入:プロモーターはDNA合成装置…を用いて合成した(その両末端がBamHI断片になるようにした)。そのDNA断片の塩基配列を下記に示す。 実施例1で調製したプラスミドpPR3 0.5μgに制限酵素BamHI(5units)を37℃で1時間反応させ,プラスミドDNAを完全に分解した。 上記合成プロモーターDNAとプラスミドDNA解物を混合し,制限酵素を不活化するために65℃で10分間加熱処理した後,該失活溶液中の成分が ℃で1時間反応させ,プラスミドDNAを完全に分解した。 上記合成プロモーターDNAとプラスミドDNA解物を混合し,制限酵素を不活化するために65℃で10分間加熱処理した後,該失活溶液中の成分が最終濃度として各々50mMトリス緩衝液pH7.6,10mMMgCl2,1.0mMジチオスレイトール,1mMATP及びT4リガーゼ1unitsになるように各成分を強化し,16℃で15時間保温した。この溶液を用いてエシェリヒア・コリHB101コンピテントセル(宝酒造製)を形質転換した。 形質転換株は50μg/ml(最終濃度)のカナマイシンを含むL培地(トリプトン10g,酵母エキス5g,NaCl5g,純水1l,pH7.2)で37℃にて24時間培養し,生育株として得られた。これら生育株のプラスミドをアルカリ-SDS法…により抽出した。 得られたプラスミドは実施例1の(E)項に記載の方法に従い,ブレビバクテリウム・フラバムMJ-233株(FERMBP-1497)プラスミド除去株へ形質転換し,実施例1の(A)項に記載の方法を用いてプラスミドを抽出した。 このプラスミドの制限酵素BamHI,KpnI,SacI等の制限酵素による切断パターンによってpPR3に合成DNAが組み込まれていることを確認し,このプラスミドを“pPR3BT2”と命名した。 実施例3合成プロモーター強度の測定:実施例2でpPR3に挿入したプロモーターの強度を,クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)の活性を測定することによって調べた。 pPR3を保有するブレビバクテリウムフラバムMJ-233株とpPR3BT2を保有するブレビバクテリウム・フラバムMJ-233株をそれぞれ,実施例1の(A)項に記載の半合成培地Aにカナマイシンを50μg/m 有するブレビバクテリウムフラバムMJ-233株とpPR3BT2を保有するブレビバクテリウム・フラバムMJ-233株をそれぞれ,実施例1の(A)項に記載の半合成培地Aにカナマイシンを50μg/ml 加えた培地10m1 の入った試験管で一晩前培養し,その培養液を上記の培地100ml の入った三角フラスコで約6時間培養後集菌し,活性測定に用いた。CATの活性はW.V.Shawらの方法…により測定した。その結果,pPR3BT2を有するMJ-233株は,プロモーターの挿入されていないpPR3を有するMJ-233株の約14倍のCAT活性をもっていた。」(6頁右上欄13行~7頁左上欄11行) イ前記アの記載事項によれば,甲8には,-10領域にTATAAT 配列を有するプロモーターがコリネ型細菌で機能し,目的遺伝子の発現を14倍に高めたことの開示がある。 ⑸ 相違点の容易想到性についてア取消事由2-1(本件発明1-1について)(ア) 主引用例(甲2)の記載事項a 前記⑴イのとおり,甲2には,C.グルタミカムプロモーターの核酸配列(図1)が記載されており,コリネ型細菌の染色体上の,GDH遺伝子のプロモーター配列の-35領域に「TGGTCA」配列及び-10領域に「CATAAT」配列を有し,CS遺伝子のプロモーター配列の-35領域に「TGGCTA」配列及び-10領域に「TAGCGT」配列を有することが示されている。また,甲2には,C.グルタミカムプロモーターのセットにおいて,最もよく保存されている配列は-35 領域の「ttGcca.a」及び-10 領域の「ggTA.aaT」であることが記載されている(図5)。 一方,甲2には,コリネ型細菌を用いた発酵法によるグルタミン酸の製造方法において,グルタミン酸生合 の「ttGcca.a」及び-10 領域の「ggTA.aaT」であることが記載されている(図5)。 一方,甲2には,コリネ型細菌を用いた発酵法によるグルタミン酸の製造方法において,グルタミン酸生合成系遺伝子であり,コリネ型細菌の染色体上の特定の遺伝子であるGDH遺伝子及びCS遺伝子のプロモーター配列について,その-35領域及び-10領域の塩基配列をコリネ型細菌のコンセンサス配列に改変することの動機付けとなるような記載はない。 したがって,甲2発明に接した当業者は,甲2の原告ら指摘箇所を認識していたとしても,甲2発明において,GDH遺伝子のプロモーター配列の-35領域及び-10領域の配列と目的遺伝子の発現量の強化の程度及びそれによるグルタミン酸生産能の向上との関係に着目し,グルタミン酸を高収率で生産する能力を有する変異株を得るために,GDH遺伝子のプロモーター配列の-35領域及び-10領域の 配列を本件発明1-1の配列に置換する動機付けはないから,当業者は上記構成を容易に想到できたものとは認められない。 b これに対し原告らは,①L-グルタミン酸の生産を増強するためには,L-グルタミン酸に至るまでの各反応に関与する酵素(CS,GDH,ICDH等)の発現を強化することが望ましいことは,本件優先日前において技術常識であったこと,②E.coli において,プロモーターの-10領域及び-35領域をコンセンサス配列に変更ないし近づけることによって,目的遺伝子の発現を強化できることも,本件優先日前において技術常識であったこと,③甲2には,コリネ型細菌とE.coli のコンセンサス配列が同等であることや,コリネ型細菌のプロモーターの-10領域のコンセンサス配列が「TA.aaT」であり,この3番目の塩基「.」として,相対的に「T」が最 リネ型細菌とE.coli のコンセンサス配列が同等であることや,コリネ型細菌のプロモーターの-10領域のコンセンサス配列が「TA.aaT」であり,この3番目の塩基「.」として,相対的に「T」が最も頻度が高いことが記載されていることからすると,甲2の記載は,当業者に対し,甲2発明のGDH遺伝子のプロモーター配列の-10領域(CATAAT)の1番目の塩基「C」を「T」に変異して,コンセンサス配列,すなわち本件発明1-1の構成(「TATAAT」)とし,同-35領域(「TGGTCA」)の1番目~3番目の塩基を保存性の高い「TTG」にするために,2番目の塩基「G」を「T」に変異して,本件発明1-1の構成(「TTGTCA」)とすることを示唆するものである旨主張する。 しかしながら,仮に,本件優先日前において,L-グルタミン酸の生産を増強するために,L-グルタミン酸の生成反応に関与する酵素(CS,GDH,ICDH等)の発現を強化することが望ましいことが知られていたとしても,当該酵素の遺伝子を増強する具体的な方法は,相当多数のものが想定し得たものと考えられるのであって,かかる方法として,本件発明1のように,目的遺伝子のプロモーターの特定の領域に変異を導入する方法が知られていたことは認められない。 また,E.coli において,プロモーターの-10領域及び-35領域をコンセンサス配列に変更ないし近づけることによって,目的遺伝子の発現を強化できる場合があることが,本件優先日前において知られていたとしても,コリネ型細菌について,これと同様の知見が存在していたことを認めるに足りる証拠はない。かえって,前記⑴イのとおり,甲2には,C.グルタミカムにおけるプロモーターの活性と-35 及び-10 のコンセンサス配列との類似性の間には,E.c 見が存在していたことを認めるに足りる証拠はない。かえって,前記⑴イのとおり,甲2には,C.グルタミカムにおけるプロモーターの活性と-35 及び-10 のコンセンサス配列との類似性の間には,E.coli と異なり,相関は確認できなかった旨が記載されている。 したがって,原告らの上記主張は採用することができない。 (イ) 甲5の記載事項との組合せa 前記⑵イ(オ)のとおり,甲5には,L-グルタミン酸生産性を向上させるには,グルタミン酸生合成系遺伝子を強化することが有利であり,グルタミン酸生合成系遺伝子を強化した例として,CS,GDH等があることが記載されている。 他方,甲5において,CS,GDH等を増強する方法として具体的な開示があるのは,これらの遺伝子を染色体から取得し,これをコリネ型細菌で利用可能なベクターに連結した後,目的遺伝子の発現を増強したい場合には,ベクター上の遺伝子を強力なプロモーターの下流に連結することにとどまる。 また,甲5には,α-KGDH活性が欠失したコリネ型細菌を得る方法として,染色体上の配列と相同性を有する配列を持つプラスミドを用いて相同性組換えを起こすことにより,変異が導入されて改変又は破壊された遺伝子が,染色体上の正常な遺伝子と置換された菌株を取得することができる旨が記載されている(前記⑵ア(イ)d(a),⒝)。 しかしながら,かかる記載は,α-KGDH活性を欠損させる手段として記載されているに過ぎず,コリネ型細菌の染色体上のGDH遺 伝子等のグルタミン酸生合成系の酵素活性を増強する手段として記載されているわけではない。 そして,そのほかに,甲5には,グルタミン酸生合成系遺伝子であり,コリネ型細菌の染色体上の特定の遺伝子であるGDH遺伝子及びCS遺伝子のプロモーター配列につい として記載されているわけではない。 そして,そのほかに,甲5には,グルタミン酸生合成系遺伝子であり,コリネ型細菌の染色体上の特定の遺伝子であるGDH遺伝子及びCS遺伝子のプロモーター配列について,その-35領域及び-10領域の塩基配列をコリネ型細菌のコンセンサス配列に改変することの動機付けとなるような記載はない。 したがって,甲2発明に接した当業者は,甲5の記載を認識していたとしても,甲2発明において,GDH遺伝子のプロモーター配列の-35領域及び-10領域の配列と目的遺伝子の発現量の強化の程度及びそれによるグルタミン酸生産能の向上との関係に着目し,グルタミン酸を高収率で生産する能力を有する変異株を得るために,GDH遺伝子のプロモーター配列の-35領域及び-10領域に本件発明1-1の配列を導入する動機付けはないから,当業者は上記構成を容易に想到できたものとは認められない。 b これに対し原告らは,L-グルタミン酸の生産量を向上させる目的で,TCA回路に関わるGDH遺伝子の発現を強化するため,甲2発明に対し,甲5記載のlac プロモーター等の-10領域(「TATAAT」)を適用し,甲2発明の染色体上のプロモーターに変異を導入して,相違点1に係る本件発明1-1の構成を採用することは,当業者が容易に想到し得たものである旨主張する。 しかしながら,甲5において,CS,GDH等を増強する方法として開示されているのは,これらの遺伝子を染色体から取得し,これをコリネ型細菌で利用可能なベクターに連結した後,目的遺伝子の発現を増強したい場合には,ベクター上の遺伝子を強力なプロモーターの下流に連結することにとどまることについては,前記aのとおりであ る。 したがって,原告らの上記主張は採用することが 強したい場合には,ベクター上の遺伝子を強力なプロモーターの下流に連結することにとどまることについては,前記aのとおりであ る。 したがって,原告らの上記主張は採用することができない。 (ウ) 甲6の記載事項との組合せ甲6の開示事項については,前記⑶イのとおりである。 一方,甲6は,コリネバクテリウム・グルタミカムのプロモーターに関する文献ではなく,特定の遺伝子のプロモーターの配列とプロモーター活性の関係を調べた結果が記載されているだけであって,コリネバクテリウム・グルタミカムのプロモーターの-35領域及び-10領域のコンセンサス配列について,開示ないし示唆するものではない。 したがって,前記(ア)及び(イ)と同様に,甲2発明に接した当業者は,甲6の記載を認識していたとしても,甲2発明において,GDH遺伝子のプロモーター配列の-35領域及び-10領域に本件発明1-1の配列を導入する動機付けはないから,当業者は上記構成を容易に想到できたものとは認められない。 (エ) 甲8の記載事項との組合せ甲8の開示事項については,前記⑷イのとおりである。 一方,甲8は,コリネバクテリウム・グルタミカム由来のプロモーターに関する文献ではなく,特定の配列を有するプロモーターとプロモーター活性の関係を調べた結果が記載されているだけであって,コリネバクテリウム・グルタミカムのプロモーターの-35領域及び-10領域のコンセンサス配列について,開示ないし示唆する記載はない。 したがって,前記(ア)及び(イ)と同様に,甲2発明に接した当業者は,甲8の記載を認識していたとしても,甲2発明において,GDH遺伝子のプロモーター配列の-35領域及び-10領域に本件発明1-1の配列を導入する動機付けはないから,当業者は上記構成を容易に想到 者は,甲8の記載を認識していたとしても,甲2発明において,GDH遺伝子のプロモーター配列の-35領域及び-10領域に本件発明1-1の配列を導入する動機付けはないから,当業者は上記構成を容易に想到できたものとは認められない。 イ取消事由2-2(本件発明1-2について)前記アと同様の理由により,甲2発明に接した当業者は,甲2の原告ら指摘箇所や,甲5,甲6又は甲8の記載を認識していたとしても,甲2発明において,CS遺伝子のプロモーターの-10領域の配列と目的遺伝子の発現量の強化の程度及びそれによるグルタミン酸生産能の向上との関係に着目し,グルタミン酸を高収率で生産する能力を有する変異株を得るために,CS遺伝子のプロモーターの-10領域に本件発明1-2の配列を導入する動機付けはないから,当業者は上記構成を容易に想到できたものとは認められない。 したがって,本件発明1-2は,甲2発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 ウ取消事由2-3(本件発明1-3について)本件発明1-3は,本件発明1-1及び1-2の発明特定事項を更に限定したものである。 したがって,前記ア及びイと同様の理由により,本件発明1-3は,甲2発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 エ小括以上によれば,甲2発明及び甲2の記載中の示唆に基づいて,又は甲2発明に甲5,甲6又は甲8記載の発明等を適用して,本件発明1の構成を採用することは,当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。 したがって,これと同旨の本件審決の判断に誤りはなく,原告ら主張の取消事由2は理由がない。 3 取消事由3(甲5を主引用例とする本件発明1の進歩性の判断の誤り)に 到し得たものであるとはいえない。 したがって,これと同旨の本件審決の判断に誤りはなく,原告ら主張の取消事由2は理由がない。 3 取消事由3(甲5を主引用例とする本件発明1の進歩性の判断の誤り)について⑴ 取消事由3-1(本件発明1-1について) 原告らは,本件審決における甲5発明の認定に誤りがある,また,仮に同認定に誤りがないとしても,相違点の容易想到性の判断に誤りがある旨主張する。そこで,かかる主張の当否について検討する。 ア甲5に記載された発明(ア) 甲5の記載事項(前記2⑵ア(ア)及び(イ)c)によれば,甲5には,本件審決が認定した甲5発明が記載されているものと認められる。 (イ) これに対し原告らは,甲5に記載された発明として,以下の甲5発明’を認定すべきである旨主張する。 「コリネ型細菌の染色体上のグルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)又はクエン酸合成酵素(CS)遺伝子のプロモーター配列に変異を導入したコリネ型細菌を培地で培養し,培地中にL-グルタミン酸を生成蓄積させ,これを該培地から採取することを特徴とする発酵法によるL-グルタミン酸の製造方法。」そして,原告らは,その根拠となる甲5の記載として,①9頁29行~10頁13行(前記2⑵ア(イ)d⒝)及び②11頁11行~20行(前記2⑵ア(イ)e(a))を挙げる。 しかしながら,上記②の記載は,グルタミン酸生合成系遺伝子を強化した例として,TCA回路のクエン酸合成酵素(CS),グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)を挙げているに過ぎず,これらの遺伝子を強化する具体的な方法を記載したものではない。 また,上記①の記載は,その前後の記載(前記2⑵ア(イ)d)に鑑みると,化学薬剤による変異誘導法では得ることが困難な,α-KGDH活性が らの遺伝子を強化する具体的な方法を記載したものではない。 また,上記①の記載は,その前後の記載(前記2⑵ア(イ)d)に鑑みると,化学薬剤による変異誘導法では得ることが困難な,α-KGDH活性が完全に欠失した株を取得する方法として,遺伝子相同組換え法により染色体上に存在するα-KGDH遺伝子を改変又は破壊する方法が有利であることを記載したものであると理解できる。 以上によれば,上記①及び②の記載を考慮しても,甲5には,相同組 換えによる染色体への変異の導入は,α-KGDH活性が欠失したコリネ型L-グルタミン酸生産菌を得る手段として記載されているにとどまり,クエン酸合成酵素(CS),グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)を増強する手段として記載されているとはいえない。 したがって,原告らの上記主張は,採用することができない。 イ本件発明1-1と甲5発明の対比本件発明1-1と甲5発明を対比した場合の一致点及び相違点は,本件審決の認定(前記第2の3⑷イ及びウ)どおりであると認められる。 ウ相違点の容易想到性前記2⑸(イ)のとおり,甲5には,L-グルタミン酸生産性を向上させるには,グルタミン酸生合成系遺伝子を強化することが有利であり,グルタミン酸生合成系遺伝子を強化した例として,CS,GDH等があることが記載されているものの,CS,GDH等を増強する方法として開示されているのは,これらの遺伝子を染色体から取得し,これをコリネ型細菌で利用可能なベクターに連結した後,目的遺伝子の発現を増強したい場合には,ベクター上の遺伝子を強力なプロモーターの下流に連結することにとどまるのであって,そのほかに,グルタミン酸生合成系遺伝子であり,コリネ型細菌の染色体上の特定の遺伝子であるGDH遺伝子及びCS遺伝子の クター上の遺伝子を強力なプロモーターの下流に連結することにとどまるのであって,そのほかに,グルタミン酸生合成系遺伝子であり,コリネ型細菌の染色体上の特定の遺伝子であるGDH遺伝子及びCS遺伝子のプロモーター配列について,その-35領域及び-10領域の塩基配列をコリネ型細菌のコンセンサス配列に改変することの動機付けとなるような記載はない。 したがって,甲5発明に接した当業者は,甲5の原告ら指摘箇所や,甲2,甲6又は甲8の記載を認識していたとしても,甲5発明において,GDH遺伝子のプロモーター配列の-35領域及び-10領域の配列と目的遺伝子の発現量の強化の程度及びそれによるグルタミン酸生産能の向上との関係に着目し,グルタミン酸を高収率で生産する能力を有する変異 株を得るために,GDH遺伝子のプロモーター配列の-35領域及び-10領域に本件発明1-1の配列を導入する動機付けはないから,当業者は上記構成を容易に想到できたものとは認められない。 ⑵ 取消事由3-2(本件発明1-2について)前記⑴ア及びイと同様の理由により,本件審決における甲5発明の認定及び本件発明1-2と甲5発明の対比について,誤りはないと認められる。 また,前記⑴ウと同様の理由により,甲5発明に接した当業者は,甲5の原告ら指摘箇所や,甲2,甲6又は甲8の記載を認識していたとしても,甲5発明において,CS遺伝子のプロモーターの-10領域の配列と目的遺伝子の発現量の強化の程度及びそれによるグルタミン酸生産能の向上との関係に着目し,グルタミン酸を高収率で生産する能力を有する変異株を得るために,CS遺伝子のプロモーターの-10領域に本件発明1-2の配列を導入する動機付けはないから,当業者は上記構成を容易に想到できたものとは認められない。 ⑶ 取消事由3- 力を有する変異株を得るために,CS遺伝子のプロモーターの-10領域に本件発明1-2の配列を導入する動機付けはないから,当業者は上記構成を容易に想到できたものとは認められない。 ⑶ 取消事由3-3(本件発明1-3について)本件発明1-3は,本件発明1-1及び1-2の発明特定事項を更に限定したものである。 したがって,前記⑴及び⑵と同様の理由により,本件発明1-3は,甲5発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 ⑷ 小括以上のとおり,甲5の記載から甲5発明を認定することができ,また,本件発明1-1と甲5発明及び本件発明1-2と甲5発明を対比した場合の一致点及び相違点は,前記第2の3⑷イ及びウのとおりであると認められる。 そして,甲5発明及び甲5の記載中の示唆に基づいて,又は甲5発明に甲2,甲6又は甲8記載の発明等を適用して,本件発明1の構成を採用することは, 当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。 したがって,これと同旨の本件審決の認定及び判断に誤りはなく,原告ら主張の取消事由3は理由がない。 4 取消事由4(本件発明2及び4の進歩性,サポート要件及び実施可能要件の判断の誤り)について⑴ 本件発明2について本件発明2は,本件発明1-2と実質的に同一の発明である。 したがって,前記1ないし3と同じ理由により,本件発明2は,甲2発明又は甲5発明に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められず,かつ,サポート要件及び実施可能要件に適合するものであると認められる。 ⑵ 本件発明4について本件発明4は,本件発明1を引用して,本件発明1-1及び本件発明1-2の内容を更に限定した発明である。 したがって,前記1ないし3と同じ理由により,本件 と認められる。 主文 本件発明4について本件発明4は,本件発明1を引用して,本件発明1-1及び本件発明1-2の内容を更に限定した発明である。したがって,前記1ないし3と同じ理由により,本件発明4は,甲2発明又は甲5発明に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められず,かつ,サポート要件及び実施可能要件に適合するものであると認められる。 理由 小括以上によれば,前記⑴及び⑵の判断と同旨の本件審決の判断に誤りはないから,原告ら主張の取消事由4は理由がない。 結論 以上のとおり,原告ら主張の取消事由1ないし4はいずれも理由がなく,本件審決にこれを取り消すべき違法は認められない。したがって,原告らの請求は棄却されるべきものである。 知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官鶴岡稔彦 裁判官上田卓哉 裁判官山門優 (別紙1) (別紙2) (別紙3)第2表 第10表 第11表 第13表 (別紙4)図1 図5 表2 *C.グルタミカム-35 コンセンサス配列において,4番目のヌクレオチドはAではな 主文 (別紙4)図1 図5 表2 理由 *C.グルタミカム-35コンセンサス配列において、4番目のヌクレオチドはAではなくCである。この位置でのAは、33プロモーターのうち7のみで見られた(21%保存)。発生数
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