- 1 -平成24年11月8日判決言渡同日判決原本交付裁判所書記官平成23年ワ第12270号損害賠償等請求事件口頭弁論終結日平成24年8月30日判決 原告有限会社下野装飾同訴訟代理人弁護士藤木敏之 被告 P1 被告 P2 被告株式会社IXA上記3名訴訟代理人弁護士下川和男同影山博英 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 原告(1)被告 P1 は,原告に対し,74万7900円及びこれに対する訴状- 2 -送達の日の翌日(平成23年11月12日)から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 (2)被告らは,別紙顧客目録記載の顧客らに対し,販売営業活動をしてはならない。 (3)被告らは,原告に対し,連帯して349万2439円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(被告 P1 においては平成23年11月12日,その余の被告らにおいては同月11日)から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 2 被告主文同旨第2 事案の概要 1 前提事実(証拠等の掲記のない事実は当事者間に争いがない。)(1)当事者原告は,大阪市を本店所在地とする会社であり,装飾雑貨,販売促進用物品の販売などの事業を行っている。 被告 P1 (以下「被告P1」という。)は,平成15年5月に原告へ入社して,以後,営業を担当しており,平成19年から平成23年3月20日に退職 ,販売促進用物品の販売などの事業を行っている。 被告 P1 (以下「被告P1」という。)は,平成15年5月に原告へ入社して,以後,営業を担当しており,平成19年から平成23年3月20日に退職するまでは,営業課長の地位にあった(甲6)。 被告 P2(以下「被告P2」という。)は,平成18年3月に原告へ入社し,以後,平成23年3月31日に退職するまで,営業を担当した(甲6)。 被告株式会社IXA(以下「被告会社」という。)は,平成23年5月2日に設立された大阪市を本店所在地とする会社であり,装飾雑貨,販売促進用物品の販売などの事業を行っている。被告会社の設立以来,被告P2はその代表取締役であり,また,被告P1も被告会社で勤務している。 - 3 -(2)原告における就業規則及び退職金規程の内容ア平成19年4月1日施行に係る原告の就業規則(以下「本件就業規則」という。)には,次の規定がある。 「(競業避止義務)第55条退職時において,マネージャー職以上のものについては,退職後6ヶ月間は,同一府県内及び隣接府県内において,会社と同種の事業場に雇用され又は事業を行ってはならない。ただし,会社の許可を得た場合はこの限りではない。 2 前項に違背した場合は,退職金の返還を請求することができる。」「第63条賃金,退職金については,それぞれの賃金規程,退職金規程,の定めるところによる。」イ平成19年4月1日施行に係る原告の退職金規程(以下「本件退職金規程」という。)には,次の規定がある。 「(退職金)第1条有限会社下野装飾(以下「会社」という。)は,社員が退職し,又は解雇されたときは,この規程の定めるところにより退職金を支給する。 2 前項の退職金の支給は,会社が社員ごとに勤労者退職金共済機構 有限会社下野装飾(以下「会社」という。)は,社員が退職し,又は解雇されたときは,この規程の定めるところにより退職金を支給する。 2 前項の退職金の支給は,会社が社員ごとに勤労者退職金共済機構・中小企業退職金共済事業本部(以下「機構・中退共本部」という。)との間に退職金共済契約を締結することによって行うものとする。」「(掛金月額)第4条退職金共済契約の掛金月額は5,000円とする。 2 会社は,業績その他状況により掛金を増額することがある。 (退職金の額)- 4 -第5条退職金の額は,掛金月額と掛金納付月数に応じ中小企業退職金共済法に定められた額とする(掛金月額限度額30,000円)。」「(退職金の支給)第7条退職金は,社員(死亡のときはその遺族)に交付する退職金共済手帳により,機構・中退共本部から支給を受けるものとする。」「(退職金の減額又は返還)第8条社員が懲戒解雇された場合,又は社員が懲戒解雇相当の事由があるときで普通解雇又は論旨解雇とされた場合は,会社は機構・中退共本部に退職金の減額を申し出ることがある。 2 前項の退職金の減額を機構・中退共本部に申し出なかったとき,又は自己都合退職後に懲戒解雇相当の事実があったことが明らかとなったときは,会社はすでに給付された退職金の全部又は一部の返還を求めることができる。 3 前項の退職金の返還を求められた者は,これに従わなければならない。 (特別功労金)第9条在職中,特に功労があった者に対しては,特別功労金を支給することがある。」(3)被告P1に対する退職金の支給被告P1は,原告を退職後,独立行政法人勤労者退職金共済機構(以下「共済機構」という。)から,中小企業退職金共済法所定の退職金として,74万7900円の給付を (3)被告P1に対する退職金の支給被告P1は,原告を退職後,独立行政法人勤労者退職金共済機構(以下「共済機構」という。)から,中小企業退職金共済法所定の退職金として,74万7900円の給付を受けた。 (4)原告及び被告会社の顧客関係原告は,かねてから,別紙顧客目録記載の会社(以下「本件顧客」とい- 5 -う。)と取引関係にあった。 被告P1及び被告P2が,被告会社の業務として営業活動を行う顧客には本件顧客が含まれている。 2 原告の請求原告は,① 被告P1において,原告退職後の競業避止義務違反があったとして,被告P1に対し,本件就業規則55条2項に基づき,退職金74万7900円に相当する金員及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成23年11月12日)から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求め,② 被告らが,原告の営業秘密である顧客情報を使用して本件顧客への営業活動を行うことが,被告P1及び被告P2においては不正競争防止法2条1項7号,被告会社においては同項8号の定める不正競争行為に該当するとして,被告らに対し,同法3条1項に基づき,本件顧客への営業活動の差し止めを求めるとともに,同法4条に基づき,連帯して,349万2439円の損害賠償及びこれに対する訴状送達の日の翌日(被告P1においては平成23年11月12日,その余の被告らにおいては同月11日)から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求めている。 3 争点(1)本件就業規則に基づく退職金返還請求に係る争点ア本件就業規則の有効性 (争点1-1)イ競業避止義務規定の有効性 (争点1-2)ウ退職金返還規定の有効性 (争点1- 本件就業規則の有効性 (争点1-1)イ競業避止義務規定の有効性 (争点1-2)ウ退職金返還規定の有効性 (争点1-3)(2)不正競争防止法に基づく請求に係る争点ア営業秘密該当性 (争点2-1)イ使用の有無など (争点2-2)ウ損害 (争点2-3)- 6 -第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1-1(本件就業規則の有効性)について【被告P1の主張】原告は,本件就業規則55条2項に基づき退職金の返還を請求するものであるが,本件就業規則自体,以下のとおり効力発生に必要な手続を欠いており,無効である。 (1)意見聴取手続の不存在就業規則の作成に当たっては労働者からの意見聴取(労働基準法90法)が必要とされているが,この手続は就業規則の効力発生要件である。 この点,原告は,本件就業規則の作成に当たり,原告従業員代表であるP3 (以下「P3」という。)への意見聴取が行われた旨主張するところ,P3への意見聴取が行われたかは知らない。しかし,P3が「労働者の過半数を代表する者」に選出された事実はないから,いずれにせよ,労働基準法90条所定の意見聴取がなされたとはいえない。 (2)周知手続の不存在就業規則を労働者に周知することは,その効力発生要件である。 しかし,原告の労働者一般は,本件就業規則の備付場所について教えられたことはなく,その保管場所を知らないし,また,採用時に本件就業規則が交付されることもないのであるから,周知措置は何も採られていないというべきである。 【原告の主張】本件就業規則は,原告におい ことはなく,その保管場所を知らないし,また,採用時に本件就業規則が交付されることもないのであるから,周知措置は何も採られていないというべきである。 【原告の主張】本件就業規則は,原告において最初に作成された就業規則であるが,次のとおり,効力発生のため必要な手続はとられており,有効である。 (1)意見聴取手続本件就業規則が作成された平成19年当時,原告では被告P1及び被告P2も含めた当時の従業員8名全員が10坪程度の事務所内で机を並べて- 7 -勤務していた。原告代表者は,本件就業規則の原案を全員に回覧したが,従業員全員が話し合って従業員代表とされたP3から,書面にて,「特に意見なし」との回答を得た。 したがって,労働基準法90条所定の意見聴取手続が行われたといえる。 (2)周知手続原告は,本件就業規則を原告の事務所の本棚に置き,従業員の誰でもが見られるようにしてある。実際,従業員が就業規則を手にとってその内容を見ていることがある。 したがって,本件就業規則の周知手続も採られているといえる。 2 争点1-2(競業避止義務規定の有効性)について【被告P1の主張】(1)本件就業規則55条は,労働者に退職後の競業避止義務を課すもので,労働条件を不利益に変更するものといえるが,このような就業規則の制定あるいは変更による労働条件の不利益変更は,必要性及び内容の両面で合理性がなければ,労働者に対して効力を有しない。 この点,退職後の競業避止義務は,職業選択の自由に対して重大な制約を課すものであるから,個別の合意なく,就業規則によって画一的に処理することがそもそも許されない事項である。したがって,本件就業規則55条は,退職後の競業避止義務を就業規則で定めるものであること自体が合理性を欠くものといえ,無効である。 業規則によって画一的に処理することがそもそも許されない事項である。したがって,本件就業規則55条は,退職後の競業避止義務を就業規則で定めるものであること自体が合理性を欠くものといえ,無効である。 (2)仮に,就業規則で退職後の競業避止義務を課すことが可能であるとしても,① 使用者の正当な利益,② 退職前の労働者の地位,③ 制限される期間・地域・職種の範囲,④ 代償措置,の観点から,職業選択の自由を不当に制約する規定は公序良俗に反し,無効である。 原告に①の利益を認めることはできない。すなわち,被告P1は,特殊なノウハウを有するわけではない営業を担当していたもので,このような- 8 -者に競業避止義務を課すことを正当化するような利益は原告にない。そのため,本件就業規則の競業避止義務規定は,単に労働者の退職を抑制するとともに,市場における自らの地位を維持するために競争を制限することを目的とするものと解するほかないが,これが使用者の正当な利益に当たらないことは明らかである。 また,原告は④の代償措置を何ら設けていない。 したがって,本件就業規則55条は,公序良俗に反して無効であるし,また,かかる規定をもって労働条件を不利益に変更することの合理性を欠くという観点からも無効である。 【原告の主張】卸売を業とする原告にとって,顧客情報,仕入先情報,販売価格,仕入価格は,公に知られることのない機密事項であり,もし仮に競合他社がそれらの情報を手に入れるならば,原告の顧客を奪うことが容易にできる重要な情報となる。そして,被告P1のような営業担当の従業員は,これらの情報を日常業務の中で蓄積しているのであるから,そのような従業員が原告を退職後すぐに同業他社へ就職することを禁止する合理的理由がある。 そして,本件就業規則55条は,競 業担当の従業員は,これらの情報を日常業務の中で蓄積しているのであるから,そのような従業員が原告を退職後すぐに同業他社へ就職することを禁止する合理的理由がある。 そして,本件就業規則55条は,競業避止義務の対象となる従業員を「マネージャー職以上」に限定した上,期間を「退職後6ヶ月間」と極めて限定している。 そのため,本件就業規則55条は,従業員の職業の自由等を不当に制限するものではなく,合理的な範囲内にあるし,公序良俗に反するものでもないから,有効な規定といえる。 3 争点1-3(退職金返還規定の有効性)について【被告P1の主張】本件就業規則55条2項の退職金返還規定(以下「本件退職金返還規定」という。)が返還の対象とする退職金は,共済機構から支給された中小企業- 9 -退職金共済法所定の退職金(以下「中退共退職金」という。)のことであるところ,かかる規定は,以下のとおり,労働基準法及び中小企業退職金共済法の強行規定に違反して無効である。 (1)労働基準法との抵触中退共退職金は,会社に対する退職金債権が退職金規程に従って発生するのとは異なり,被共済者である労働者が退職したときは法律上当然に労働者又はその遺族に受給権が認められ(中小企業退職金共済法5条,10条1項),その額も掛金月額及び掛金納付月数に応じて法令で定められている(同法10条2項)。そのため,これを会社に返還することは,既に確定的に発生した権利に基づいて受給済みである中退共退職金につき,これと同額の金員を会社に支払うことを意味するところ,その法的性質は違約金といわざるをえない。 本件退職金返還規定は,労働契約の不履行に対して違約金を定めることを禁じた労働基準法16条に違反し,無効である。 (2)中小企業退職金共済法との抵触中小企業退職金共 金といわざるをえない。 本件退職金返還規定は,労働契約の不履行に対して違約金を定めることを禁じた労働基準法16条に違反し,無効である。 (2)中小企業退職金共済法との抵触中小企業退職金共済法は,被共済者及びその遺族が当然に退職金共済契約の利益を受けるものとし(同法5条),退職した被共済者又はその遺族に中退共退職金を支給するものとし(同法10条1項),中退共退職金の支給を受ける権利の譲渡,差押え等を禁じているところ(同法20条),これら被共済者の利益を保護しようとする各規定は,中小企業の従業員の福祉を増進することなどを目的とした中小企業退職金共済制度の制度趣旨(同法1条参照)や上記各規定の内容に照らし,強行規定であると解される。そして,同法10条5項が「被共済者がその責めに帰すべき事由により退職し,かつ共済契約者の申出があった場合において,厚生労働省令で定める基準に従い,厚生労働大臣が相当であると認めたときは‥‥退職金の額を減額して支給できる」と定めるのも,これ以外の事由・手続による- 10 -減額を許さない趣旨と解される。 しかるに,本件退職金返還規定は,同規定に定める事由に該当した場合について,労働者の受給する退職金を独自に減額できるものとし,労働者から中退共退職金を原告に返還させることにより,原告が労働者を介して中退共退職金の支給を受け,又は労働者から中退共退職金の受給権の譲渡を受けることを私的に定めたに等しい。 したがって,本件退職金返還規定は,中小企業退職金共済法が被共済者に確実に退職金を受給させようとして設けた上記各規定による被共済者の保護を潜脱しようとするものであって,強行規定に反し,無効である。 【原告の主張】(1)労働基準法との関係本件退職金規程は,退職後の競業避止義務違反によって勤務中の 記各規定による被共済者の保護を潜脱しようとするものであって,強行規定に反し,無効である。 【原告の主張】(1)労働基準法との関係本件退職金規程は,退職後の競業避止義務違反によって勤務中の功労に対する評価が減殺された結果として,退職金の権利の全部又は一部しか発生しないこととする趣旨であると解されるから,その退職金が労働基準法上の賃金にあたるとしても,労働基準法3条,16条,24条及び民法90条等の規定に違反するものではない。 この点,被告P1が受給したのは共済機構からの中退共退職金であるが,中退共退職金は,原告が倒産等した場合でも従業員の退職金を保護するためのものであり,その原資は原告が積み立てたものであるから,使用者から労働者に直接退職金が支払われる場合と別異に解する理由はない。 (2)中小企業退職金共済法との関係被告P1は,原告が被告P1から支給済みの退職金の返還を求めることをもって,原告が労働者を介して中退共退職金の支給を受け,又は労働者から中退共退職金の受給権の譲渡を受けようとするに等しいと主張するが,原告が求めるのは,被告P1に支給された後の金銭の返還であり,中退共退職金そのものの返還ではないのであるから,被告P1の解釈には飛躍が- 11 -ある。 そして,前記のとおり,本件退職金返還規定は,退職後の競業避止義務違反行為の態様により勤務中の功労に対する評価を減殺し,その結果,退職金を減額又は不支給とし,あるいは,その返還を求めるものである。 つまり,被告P1にはそもそも退職金を受け取るべき権利自体がないことになるのであるから,従業員保護のために中退共退職金の制度を利用していたからといって,そのことで本件退職金返還規定を無効とする理由はない。 4 争点2-1(営業秘密該当性)について【原告の主張 になるのであるから,従業員保護のために中退共退職金の制度を利用していたからといって,そのことで本件退職金返還規定を無効とする理由はない。 4 争点2-1(営業秘密該当性)について【原告の主張】原告の顧客に関する情報のうち,① 社名,② 住所,③ 代表者・担当者の名前,④ 販売価格,⑤ 売上額(以下,①~⑤をあわせて「本件顧客情報」という。)は,以下のとおり原告の営業秘密に該当する。 (1)秘密管理性本件顧客情報は,原告のサーバー内に保管され,特にパスワード等は設定されず,原告の従業員であれば誰でも閲覧できる状態にあったが,従業員に対しては,口頭にて,USBに保存したり,社外に持ち出したりすることは厳禁である旨伝えていたのであるから,秘密管理性があるといえる。 (2)有用性本件顧客情報のうち,②,③を利用することで容易に取引先にアクセスすることができるし,④,⑤を利用することにより,例えば原告よりも価格を下げるなどして取引先との商談を有利に運ぶことができるから,その有用性が認められる。 (3)非公知性本件顧客情報はいずれも公知のものではない。 【被告らの主張】- 12 -(1)秘密管理性原告も認めるとおり,本件顧客情報についてパスワード等の設定はなされておらず,部署・雇用形態の別なく,原告の従業員は誰でも本件顧客情報にアクセスすることが可能だったのであるから,アクセス制限が存在していたとはいえない。 また,本件顧客情報自体に秘密であることを示す表示がないことはもとより,本件顧客情報を特定して守秘義務を課す就業規則その他の社内規程もなく,その旨の誓約書の提出を求めるといった措置も採られていなかった。この点,原告は,USBに複製することを口頭で禁止していたと主張するが,そのような事実はないし, を課す就業規則その他の社内規程もなく,その旨の誓約書の提出を求めるといった措置も採られていなかった。この点,原告は,USBに複製することを口頭で禁止していたと主張するが,そのような事実はないし,仮にそれが事実だとしても,そのことだけで本件顧客情報が秘密であることが認識できるようにされていたとはいえない。 したがって,本件顧客情報に秘密管理性は認められない。 (2)有用性本件顧客情報は,④及び⑤も含め,これらによって営業上特段優位に立つことはなく,有用性は認められない。 (3)非公知性まず本件顧客情報のうち,①,②及び③のうち代表者名が公知の情報であることは明らかである。 加えて,原告では,本件顧客情報の利用について,これを制限するルールを何ら設けていなかったから,原告の従業員は,必要な部分を抽出して保存したり,印刷したりするなど自由に利用していた。のみならず,本件顧客情報は,原告が八尾市に有している倉庫の出荷場にあるパソコンからも原告のサーバーにアクセスして入手可能であり,かつ,このパソコンは,同所に出入りする仕入先や運送業者の従業員も操作することが可能な環境にあった。したがって,本件顧客情報は不特定多数の者が知りうる状態に- 13 -置かれていたということができ,その意味で本件顧客情報のすべてが公知性を有している。 5 争点2-2(使用の有無など)について【原告の主張】本件顧客は,もともと被告P1が原告在籍中に担当していた顧客である上,被告らは,本件顧客に対し,原告と同じ商品を原告よりも安く販売できる旨述べているところ,本件顧客情報を知っていればこそ可能な営業活動であり,被告らによる営業秘密の不正な使用に当たる。 また,被告P1及び被告P2は,原告から,本件顧客情報を示されたものであるし,被告 べているところ,本件顧客情報を知っていればこそ可能な営業活動であり,被告らによる営業秘密の不正な使用に当たる。 また,被告P1及び被告P2は,原告から,本件顧客情報を示されたものであるし,被告会社は,被告P1及び被告P2から本件顧客情報を取得したものである。 【被告らの主張】被告らは,本件顧客情報を使用しておらず,本件顧客に対し,原告と同じ商品を原告よりも安く販売できる旨述べている事実もない。原告は,本件顧客情報の有用性から,被告らによる使用が推認されるかのような主張をするが,そのような推認が成り立つものではないし,そもそも本件顧客情報に有用性はない。 6 争点2-3(損害)について【原告の主張】原告は,被告らの不正競争行為により,本件顧客との取引を失い,損害を被った。具体的には,平成23年4月以降の売上げが全くなくなってしまったもので,その損害額は,別紙「過去3年売上粗利比較表」記載のとおり,各取引先に対する平均粗利で算出され,その合計は349万2439円である。 【被告らの主張】本件顧客に対する原告の売上の推移については不知。その余は否認ないし- 14 -争う。 原告は,訴状添付「過去3年売上粗利比較表」において被告会社設立以前の平成23年4月の時点で既に原告と本件顧客との間に取引がなかったことを自認しているということができ,損害主張の前提を欠いている。 第4 当裁判所の判断 1 争点1-3(退職金返還規定の有効性)について事案に鑑み,争点1-1及び1-2に先立って,争点1-3について検討する。 (1)問題の所在本件退職金返還規定は,原告の元従業員が本件就業規則55条1項の規定する退職後の競業避止義務に違反した場合,支払済みの退職金の返還を請求できる旨定めているが,被告は,かかる規 (1)問題の所在本件退職金返還規定は,原告の元従業員が本件就業規則55条1項の規定する退職後の競業避止義務に違反した場合,支払済みの退職金の返還を請求できる旨定めているが,被告は,かかる規定が,労働基準法16条,中小企業退職金共済法10条5項の強行規定に反するものとして無効である旨主張するものである。 この点,本件就業規則及び本件退職金規程において,原告の従業員が受給できるとされている退職金には,中小企業退職金共済法のもと,共済機構から支給される中退共退職金と,在職中特に功労があった者に対して原告から支給される特別功労金とがあるが,本件で原告が被告P1に返還を求めているのは,共済機構から支給済みの中退共退職金であるため,以下この点に絞って検討する。 (2)中小企業退職金共済法との関係ア中退共退職金は,中小企業退職金共済法の下で支給される退職金であるが,同法は,従業員である「被共済者が責めに帰すべき事由により退職し,かつ,」使用者である「共済契約者の申出があつた場合において,厚生労働省令で定める基準に従い厚生労働大臣が相当であると認めたとき」,共済機構は,「厚生労働省令で定めるところにより,- 15 -退職金の額を減額して支給することができる。」と定める(同法10条5項)一方,他に退職金を減額又は不支給とする事由を定めた規定を置いていない。そのため,中小企業退職金共済法は,中退共退職金支給額の減額につき,同法10条5項の定める実体上及び手続上の要件を満たす場合のみ許容する趣旨であり,かつ,その趣旨からして強行規定であると解されるが,本件退職金返還規定に基づいて,元従業員に対し,支給済みの中退共退職金の返還を求めることができるとすれば,中小企業退職金共済法の上記趣旨を潜脱することになる。 しかも,中小企業退職 解されるが,本件退職金返還規定に基づいて,元従業員に対し,支給済みの中退共退職金の返還を求めることができるとすれば,中小企業退職金共済法の上記趣旨を潜脱することになる。 しかも,中小企業退職金共済法10条5項の規定に従って中退共退職金が減額される場合でさえも,元従業員である被共済者に対する共済機構の支払義務が一部消滅するにとどまり,使用者である共済契約者が減額分につき請求権を取得するわけではない。ところが,本件退職金返還規定に基づいて原告が中退共退職金の返還を請求できるとすれば,元従業員を介して中退供退職金の原告への給付を認めることと同じ結果になるが,このように被共済者である使用者が中退共退職金から利得することは,中小企業退職金共済法10条5項の想定するところではないというべきである。 したがって,本件退職金返還規定は,少なくとも,中小企業退職金共済法10条5項の要件が満たされていない場合に,支給済みの中退共退職金の返還を認め,しかもこれを原告が受領できるとしている限りにおいて,同条項に反しており,無効というべきである。 イこの点,原告は,中小企業退職金共済制度を利用するか否かで,退職金の減額又は不支給の可否が異なるとする理由がない旨主張するが,中退共退職金の額は,月々の掛金額及び掛金納付月数といった客観的な数値に基づき,法の規定に従って機械的に算出されるもので(中小企業退職金共済法10条),使用者が功労報償などの観点から自由に- 16 -増減させられるものではないのであるから,従業員の帰責事由による減額についても,法所定の範囲に限定し,当事者の自由裁量を認めないとすることには整合性,合理性がある。原告の上記主張は採用できない。 (3)小括以上より,本件退職金返還規定は,文言上,原告の元従業員に退職後の 所定の範囲に限定し,当事者の自由裁量を認めないとすることには整合性,合理性がある。原告の上記主張は採用できない。 (3)小括以上より,本件退職金返還規定は,文言上,原告の元従業員に退職後の競業避止義務違反があった場合,原告からその元従業員に対し,支給済みの退職金であっても,その返還を請求できるとしているが,少なくとも,本件のように,返還を請求する退職金が,共済機構から支給された中退共退職金である限り,中小企業退職金共済法10条5項に反し,さらに同様の理由により公序良俗に反するものとして,無効である。 したがって,仮に本件就業規則55条1項の競業避止義務に係る規定が有効で,かつ,被告P1に同規定に反する行為があったとしても,原告が,本件退職金返還規定に基づき,共済機構から被告P1に対し一旦支給された中退共退職金相当額の支払を求めることはできず,その余の争点について判断するまでもなく,退職金返還に係る原告の請求は理由がない。 2 争点2-1(営業秘密該当性)について原告は,本件顧客情報,つまり,本件顧客に関する① 社名,② 住所,③代表者・担当者の名前,④ 販売価格,⑤ 売上額といった情報が,原告の「営業秘密」(不正競争防止法2条6項)に当たる旨主張する。 しかし,原告自身が認めるとおり,本件顧客情報は,原告の事務所内にあるサーバーで管理されていたが,パスワードは設定されておらず,原告の従業員であれば,その職務内容及び地位にかかわらず,誰でもアクセス可能であったものである。また,原告の主張を前提としても,原告においては,従業員に対し,本件顧客情報の社外持ち出しやUSB保存を禁じる旨口頭で注意喚起していたというにとどまり,それを超えて本件顧客情報が営業秘密で- 17 -あることを認識できるような措置が採られていたわ 業員に対し,本件顧客情報の社外持ち出しやUSB保存を禁じる旨口頭で注意喚起していたというにとどまり,それを超えて本件顧客情報が営業秘密で- 17 -あることを認識できるような措置が採られていたわけではない。 このような事情からすれば,弁論の全趣旨からうかがわれる原告の事業規模を考慮しても,本件顧客情報が秘密として管理されていたとは到底いえない。 したがって,その余の点について判断するまでもなく,本件顧客情報は,原告の「営業秘密」に該当せず,不正競争防止法に基づく原告の請求は理由がない。 第5 結論以上の次第で,原告の請求は,その余の争点について判断するまでもなく理由がないから,いずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第26民事部 裁判長裁判官山田陽三 裁判官松川充康 裁判官西田昌吾 - 18 - 顧客目録 (別紙)<以下略> - 19 - 過去3年売上粗利比較表<以下略>
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