- 1 -平成22年1月15日判決言渡平成19年(ワ)第5189号損害賠償請求事件判決主文 原告らの請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実 及び理由第1請求 被告は,原告Aに対し,3920万円及びこれに対する平成14年4月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告は,原告B及び原告Cに対し,それぞれ1960万円及びこれに対する平成14年4月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要 事案の要旨本件は,亡Dの相続人である原告らが,被告が設置,運営する被告病院において,被告病院の医師らには,(1)適応がないにもかかわらずDに対する右開胸開腹胸部食道全摘術,胸壁前経路頸部食道胃管吻合術,空腸瘻造設術及び左反回神経合併切除手術(以下「本件手術」という)を行った注意義務違反,。 ⑵①術前の化学放射線療法における放射線の照射量が60Gy以上の場合には術後肺炎発生のリスクが高いこと,②化学放射線療法後の手術は嚥下障害の発生する頻度が高いこと,③手術をしなくとも完治する可能性が十分に考えられたことについての各説明義務違反があり,これによって,Dは,本件手術を受けた結果,呼吸機能が著しく低下し,嚥下障害で栄養の経口摂取ができないことによる低栄養状態,胸水排出による体力の著しい消耗が続き,呼吸不全,全身衰弱,栄養障害が進み,死亡したとして,被告に対し,不法行為(使用者責- 2 -任)又は診療契約上の債務不履行に基づき,損害賠償を求めた事案である。 前提となる事実(証拠等を掲記しない事実は争いのない事実である)。 (1)当事者ア原告Aは,D(昭和8年2月3日生まれの男性)の妻であり,原告B及び原告Cは,Dと原告Aの子である。 イ被告は 前提となる事実(証拠等を掲記しない事実は争いのない事実である)。 (1)当事者ア原告Aは,D(昭和8年2月3日生まれの男性)の妻であり,原告B及び原告Cは,Dと原告Aの子である。 イ被告は,主たる事務所を東京都港区に置き,東京都新宿区において被告病院を設置,運営する学校法人である。 (2)診療経過アDは,嗄声を自覚したことから,自宅近くの耳鼻咽喉科医院での診療を受けたが,その症状が改善しないとして,平成12年4月12日(以下,日付は,特に年を表記しない限り,平成12年の日付である,同。)月19日,5月2日,被告病院の耳鼻科を受診し,同月16日に被告病院の外科を受診し,その後,各種検査の結果,食道癌の疑いがある旨の診断がされ,同月27日,被告病院に入院した。 その後,Dは,各種検査の結果,食道扁平上皮癌であり,癌は左側反回神経リンパ節(106recL)に転移していると診断され,化学放射線療法を受けることになり,6月12日から8月1日まで,抗癌剤が投与されるとともに,合計60Gyの放射線療法が行われた。 Dは,8月21日,化学放射線療法による負担の回復を待つため,被告病院をいったん退院し,9月19日,被告病院に再び入院し,10月3日,E医師らによる右開胸開腹胸部食道全摘術,胸壁前経路頸部食道胃管吻合術,空腸瘻造設手術を受け,左反回神経が腫大したリンパ節に完全に巻き込まれていたため,合併切除された(本件手術(甲A3,)。 乙A1ないし8,乙B14,15,証人E,原告B)イ本件手術後,Dの体温は高値を継続し,胸部レントゲン検査の結果,肺炎像が増悪している状態であり,透過性の低下について合計60Gy- 3 -の放射線療法後に手術がされたことをきっかけに間質性肺炎のような状態に陥ったことが疑われたが,その後,解熱し,Dの状 果,肺炎像が増悪している状態であり,透過性の低下について合計60Gy- 3 -の放射線療法後に手術がされたことをきっかけに間質性肺炎のような状態に陥ったことが疑われたが,その後,解熱し,Dの状態は改善した。 また,Dは,本件手術後,リハビリにより少しずつ声を出せるようになっていたが,平成13年4月25日には,嚥下造影検査の結果,咽頭への送り込みは可能であるが,圧の上昇が不十分なため,良好とはいえないこと,食塊が咽頭,喉頭に到達しても反射が起きず,喉頭挙上も不良であること,喉頭蓋,梨状窩に貯留がみられ,上部食道括約筋(輪状咽頭筋)が弛緩せず,食塊が通過できないこと,経口による食事摂取は不可能であると考えられることが報告された。Dは,その後,嚥下専門外来のあるFクリニックへの通院を継続するようになった。 さらに,Dは,平成13年6月11日,起立時に前胸部から側胸部が締め付けられるような感じを訴え,その後も胸の痛みが治まらなかったことから,胸部CT検査を受けたところ,胸水が貯留していたことから,ドレーンで排出された。 その後,Dは,同年9月29日,被告病院を退院した(甲A3,乙A。 1,2,5,6,8,9,乙B14,15,証人E,原告B)ウDは,平成13年10月22日,被告病院の外科を受診し,呼吸苦の増強を訴え,同年11月10日,原告Aは,E医師に対し,Dが徐々に息切れしているので,被告病院に入院させてほしい旨を訴えたが,被告病院では入院を待つことから,G病院を紹介され,同日,DはG病院に入院した。その後,同病院において継続的にDの胸水が排出されて,呼吸苦が改善したことなどから,Dは,同月24日,G病院を退院した。 Dは,同年12月14日,H病院を受診し,その後も同病院に通院したが,息切れが強く,長く座っていられない状態で,唾液を飲み されて,呼吸苦が改善したことなどから,Dは,同月24日,G病院を退院した。 Dは,同年12月14日,H病院を受診し,その後も同病院に通院したが,息切れが強く,長く座っていられない状態で,唾液を飲み込めないので,痰を出すのが困難であり,CT検査の結果,両側胸水があり,特に左側の胸水が著明で,被胞化されているが,明らかに再発や転移を- 4 -疑う所見はないことが報告された。 その後,Dは,平成14年4月13日,死亡した(甲A1,3,乙A。 2,9ないし11,乙B14,15,証人E,原告B) 争点 (1)E医師らが適応がないにもかかわらず本件手術を行った注意義務違反の有無(2)E医師らの説明義務違反の有無(3)各注意義務違反と損害との間の因果関係の有無(4)損害の有無及び額 争点についての当事者の主張(1)争点(1)(E医師らが適応がないにもかかわらず本件手術を行った注意義務違反の有無)について(原告らの主張)ア注意義務の内容食道癌に対する根治的化学放射線療法により著効となった場合には,食道癌の根治手術は行うべきでない。 呼吸器感染症にかかっている患者については,手術直前の呼吸器感染症が完全に治癒したことを確認し,そこから更に1~2週待ってから手術を施行すべきである。 イ注意義務を基礎付ける事実(ア)化学放射線療法が著効であったこと主病変については,1か月後に至らなくとも化学放射線療法終了直後に既に腫瘍はほぼ消失し病理検査でも癌を認めていないので著効C,,(R)というべきである。実際に,カルテ上「carcinomaとい,える箇所は認められない」とされており「CR/RT後)CRs,(uspected(化学放射線療法後著効と考えられる)と診断さ」- 5 -れている。 転移リンパ節については, omaとい,える箇所は認められない」とされており「CR/RT後)CRs,(uspected(化学放射線療法後著効と考えられる)と診断さ」- 5 -れている。 転移リンパ節については,8月7日の胸部CT検査で74.7%の縮小をみているので,有効(PR)と評価すべきであるし,9月7日の胸部CT検査では更にリンパ節の縮小がみられていた。すなわち,リンパ節の縮小は74.7%にとどまっていたわけではなく,更に縮小していたのであって,その後も経過を追えばもっと縮小する可能性が十分あっ。 ,()た主病変への効果の現れ方から考えれば転移リンパ節の消失CRさえも望める状況にあった。 (イ)手術前のDの状態から本件手術の適応が否定されることDは,本件手術の6日前である9月27日から熱発があり,同月28日には38.2℃に上昇しており,そのため,ボルタレンの投与を受けた。その後,一度解熱したが,同月29日には再び体温が上昇し,抗生(),,剤や消炎酵素剤ダーゼンの投与を受け10月1日にもボルタレンPL顆粒及びダーゼン等の投与を受けていた。カルテでも「易感染状,態で,体調も万全でない状況でopeへ望むこととなりそう」と記載されている。この発熱は,風邪によるものか,咽頭炎,気管支炎あるいは肺炎なのか判然としないものの,呼吸器感染症であった。 血液検査結果に関しても,手術前日の10月2日には,WBC(白血球数)が2800/μℓ(以下,単位は省略する)と基準値より低値。 になっていた。この点については,放射線と抗癌剤が造血機能にも影響していた可能性は高く,免疫能が低下していたことがうかがわれる。 CRPC反応性蛋白値については正常域が03mg/dℓ以(),. (下,単位は省略する)であるところ,手術前日には 響していた可能性は高く,免疫能が低下していたことがうかがわれる。 CRPC反応性蛋白値については正常域が03mg/dℓ以(),. (下,単位は省略する)であるところ,手術前日には3.57に急上昇。 している。 好中球は,9月25日以降,正常値を上回り続けている。 そして,手術前日も抗生剤の投与が継続された。 - 6 -以上の事実から,本件手術前1週間において発熱があり,白血球数低下,好中球の増加,CRP値の急上昇等からしても,感染症の兆候がみられたと判断すべきであった。 しかも,Dは,根治的な化学放射線療法を受けて2か月しか経過していなかった。食道への放射線照射は肺の被爆を伴い,その副作用として放射線性肺臓炎や肺線維症を来すことが知られており,多かれ少なかれ呼吸機能は低下していた。 ウ注意義務違反の事実,,,被告病院の担当医師は①根治的化学放射線療法の結果著効が得られ腫瘍縮小の効果が現れていて,しかも,②術前に発熱,CRP値の上昇などの感染症状がみられていたから,本件手術の適応がなかったにもかかわらず,本件手術を強行した。 (被告の主張)被告病院の担当医師に注意義務違反はないことア化学放射線療法により腫瘍が縮小したとしても,本件手術の適応は否定されないこと原告らが引用するカルテ(乙A3)には「CR/RT後)CRs,(uspected」と記載されているが,その前には「ÖK」と記載され,ている点を無視してはならない。この記載は,食道(ÖK)の内の一部の生検の結果にすぎず,転移リンパ節である106recLについてのものではない。 乙A第2号証にも「ÖK→CR「LN→75%↓」と記載されている,」,ことからも,著効であったのは,原発巣の食道に関してであることは明らかである。 著明に腫大していた転移 てのものではない。 乙A第2号証にも「ÖK→CR「LN→75%↓」と記載されている,」,ことからも,著効であったのは,原発巣の食道に関してであることは明らかである。 著明に腫大していた転移リンパ節である106recLは,8月7日のCTでは74.7%縮小しており,9月7日のCTでも縮小傾向ではあっ- 7 -たが,完全に消失したわけではなかった。 Dは同月14日上部内視鏡検査を行っておりその結果はカルテ乙,,,,(A3)に「右白苔「左後scar(瘢痕「右前白苔」と記載されたとおり,」,)」,であり,肉眼的には病変の遺残があった。 そもそも,化学放射線療法の効果に対する術前の臨床的評価と,術後の検体に対する組織学的判定との一致度について,①術前の画像診断は,組織学,,的所見を明確には反映しないとされ②画像上は癌細胞が証明されなくとも癌細胞が遺残している場合があるとされる。 本件では,術後の病理診断においても,106recLについて「治療,による効果と思われる強い線維化・硝子化を呈している部分があり,同部では濃染・不整異型核を有する細胞の集簇部位を認めます。異型性から,癌細,。 ,胞と考えられますがそのviabilityの判定は難しいですしかし核の濃染の状態,PCNA,MIB1陰性という所見からnon-viableの可能性が高いと考えます」と記載されており(乙A5・288頁,。 )リンパ節に転移していた癌は消失していたとは断定できない状態であった。 この点からしても,術前に癌が残っていることを否定することはできなかった。 また,実際に,化学放射線(CR)療法のみの場合に比べ,同療法後に手,。 術を行った方が治療成績が良いことは被告病院が実績として経験していたしたがって,手術を行ったことには十分 はできなかった。 また,実際に,化学放射線(CR)療法のみの場合に比べ,同療法後に手,。 術を行った方が治療成績が良いことは被告病院が実績として経験していたしたがって,手術を行ったことには十分な理由がある。 イ本件手術当時のDの状態は手術を回避しなければならないものではなかったことDは9月30日の肺のレントゲン写真も異常はなく,またWBCも引き続き減少し,10月1日には解熱していた。 これらをもとに,被告病院の担当医師らは,感染の点も含めて体調の点でDが手術を受けることには特別な支障はないと判断したものである。 - 8 -この点,手術前日(10月2日)のWBCは2800であるが,化学放射線療法後は,それによりWBCが減少し,免疫力が低下する傾向にあるのが一般的である。Dの8月28日のWBCは3000であり,また,次の再入院後の9月19日の時のWBCは3200であった。 したがって,手術前日(10月2日)のWBCの2800という数値は当時のDの白血球の状態からしても炎症所見とすることはできないし,易感染性が特に増大したという程度のものとも考えられない。 CRP値についても,CRPはWBCとともに,炎症反応に関する代表的,,な指標ではあるがそのタンパクが合成されるのに一定の時間を要するためWBCに比べ,数値上の反応が遅く,WBCの後から上昇を始め,また,W。 ,BCの値が下がり始めていてもCRP値が上昇することがあるしたがって炎症が治まったかどうかの判断は,WBCの値が下がったこと,臨床所見及び肺のレントゲン写真で総合的に判断できる。 WBCの値は下がり,Dの臨床所見及び肺のレントゲン写真には異常はなかったため,手術を避けなければならない根拠はなかった。 したがって,手術適応がなかったとの原告らの主張は失当である。 (2)争点( WBCの値は下がり,Dの臨床所見及び肺のレントゲン写真には異常はなかったため,手術を避けなければならない根拠はなかった。 したがって,手術適応がなかったとの原告らの主張は失当である。 (2)争点(2)(E医師らの説明義務違反の有無)について(原告らの主張)ア術前の放射線の照射線量が60Gy以上の場合には術後肺炎発生のリスクが高いことについての説明義務違反があること(ア)説明すべき事項,程度及び時期本件手術前に,化学療法・放射線療法(特に,それらを併用する化学放射線療法)の後に手術を行った場合は,それらの療法を行わなかった場合に比べて,肺炎等の術後合併症の危険が高いことを説明すべきであった。 (イ)説明義務の存在を基礎付ける事実化学療法・放射線療法(特に,それらを併用する化学放射線療法)の後- 9 -に手術を行った場合は,それらの療法を行わなかった場合に比べて,肺炎等の術後合併症の危険が高い。例えば,医学文献では,術前の照射線量が60Gy以上の場合は,術後肺炎が67%発症するリスクがあるとの指摘もされているほどである。 (ウ)説明義務違反の事実,,,,9月22日被告病院のE医師らは手術後のリスクとしては①肺炎②縫合不全,③循環不全,④出血などがあるというだけで,術前療法を受けていると上記合併症の発生頻度が高くなることや本件では放射線を最大照射量の60Gy照射しているので,更に合併症の発生頻度が高くなるという事実についての説明は一切なかった。 イ嚥下機能に対する障害のリスクについての説明義務違反があること(ア)説明すべき事項,程度及び時期本件手術前に,化学療法・放射線療法(特に,それらを併用する化学放射線療法)の後に手術を行った場合は,それらの療法を行わなかった場合に比べて,嚥下障害が発生する頻度が高いこ すべき事項,程度及び時期本件手術前に,化学療法・放射線療法(特に,それらを併用する化学放射線療法)の後に手術を行った場合は,それらの療法を行わなかった場合に比べて,嚥下障害が発生する頻度が高いことを説明すべきであった。 (イ)説明義務の存在を基礎付ける事実食道癌手術(3領域郭清手術)は,頸部領域も郭清の対象となるため反回神経麻痺や頸部組織の瘢痕癒着や炎症が生じ嚥下障害が発生するという機序が一般的に認められる。 甲B第33号証では,食道癌における食道切除術においても,術後の反回神経麻痺の発生率が約10~20%,摂食・嚥下障害の発生率が約30~40%と報告されているなど,嚥下障害の発生頻度は相当程度高い。 (ウ)説明義務違反の事実9月22日,被告病院のE医師らは,手術のリスクについて説明したものの,その内容は手術後のリスクとしては,①肺炎,②縫合不全,③循環不全,④出血などがある,食欲については術後は胃が小さくなることから- 10 -,,も落ちることは予想されるというだけで嚥下障害については説明はなくむしろ術後も経口摂取が可能であるかのような説明内容であった。 ウ手術をしなくても完治する可能性が十分考えられたことについての説明義務違反があること(ア)説明すべき事項,程度及び時期本件手術前に,手術をしなくても完治する可能性が十分考えられたことを説明すべきであった。 (イ)説明義務の存在を基礎付ける事実被告病院のE医師らの論文(乙B4)には,術前の画像診断又は術中診断上T4と判定された胸部食道癌手術症例67例を対象とした考察があ,,,りそのうち術前化学放射線療法を施行した上で切除した例12症例中少なくとも4例(4例とも50Gy照射で術前診断は奏功(PR)は,)()術後の病理診断でGrade3の症例手術標本から ,,,りそのうち術前化学放射線療法を施行した上で切除した例12症例中少なくとも4例(4例とも50Gy照射で術前診断は奏功(PR)は,)()術後の病理診断でGrade3の症例手術標本から癌の遺残がない症例であった旨の記載があり(乙B4表5,これらの症例においては,結果)的に手術が不要であったといえる。このことからすると,術前化学放射線療法として化学放射線療法を施した場合であっても,手術が不要な場合があるというべきである。 また,化学放射線療法により著効(CR)となった患者について,手術をした場合と手術をしなかった場合の生存率データを比較すると,甲B第,,。 20号証の1では3年生存率が59%と報告され手術成績に匹敵するそして,本件手術当時,60Gy照射後に主病変(食道)が著効の患者に対して,経過観察をしないで,急いで手術をする方がよいということを裏付ける医学的文献は存在しない。 (ウ)説明義務違反の事実9月22日,被告病院のE医師らは,手術のリスクについて説明したものの,手術をしなくても完治する可能性が十分考えられたことなどについ- 11 -ては説明がなかった。 (被告の主張)ア術前の放射線の照射線量が60Gy以上の場合に術後肺炎発生のリスクが高いことについての説明義務違反はないこと術後合併症について医師(医療機関)として,本人あるいは家族に対し,どこまで詳しく説明すべきかについては,本人が手術を受けるか否かの決断をするという目的からすれば,その術後合併症の生命に対する危険性という観点において決せられるべきものと考えられる。 説明すべき程度は,当該合併症の生命に対する直接の危険性が大きければ詳細に行う必要があり,その危険性が低下するに従って,要求される説明の詳細さも相対的に低下するものではないかと考えられ 考えられる。 説明すべき程度は,当該合併症の生命に対する直接の危険性が大きければ詳細に行う必要があり,その危険性が低下するに従って,要求される説明の詳細さも相対的に低下するものではないかと考えられる。 本件において,肺炎が上記のような観点から,非常に重篤な障害であり,生命の危険に直結するような術後合併症であれば,確かに原告らがいうように,60Gyを照射した場合に通常の場合(例えば40Gy程度の照射の場合と仮定する)と比べて肺炎発生の頻度が高いということや術後合併症がどの程度高頻度かについて,具体的にそれを行わなければ説明義務違反が問われるかもしれないが,肺炎はもちろん重篤なものもあるにしても,一般的には治療を継続するうちに治癒するものと認識されており,肺炎の発症が死と直結するものとは考えられていない。したがって,60Gyを照射している,,から通常の場合と比較して肺炎が発生する可能性が高いことを説明しても手術を受けるか否かという観点からは,その説明自体に重大性が認められないと考えられる。 また,肺炎がどの程度高頻度に発生するのかについての説明についても,確かに合併症としての肺炎の発生頻度は,放射線の照射量が増大すれば一般的に高くなるとしても,合併症の肺炎すべてが生命に危険のあるものではないから,その頻度を具体的に説明したとしても,同様にその説明自体に重要- 12 -性が認められないと考えられる。 被告病院の医師としても,術後合併症としての肺炎の中でも,60Gy以上の放射線を照射したときは,特に本件のDのように長期間にわたって回復せず,QOLにおいてもつらいものであり,結果的に死亡してしまうような経過が広く報告されており,本件でもそれが容易に予想できたというのであれば,術前により詳しく,その説明をしたかもしれない(もっとも従前から Lにおいてもつらいものであり,結果的に死亡してしまうような経過が広く報告されており,本件でもそれが容易に予想できたというのであれば,術前により詳しく,その説明をしたかもしれない(もっとも従前から述べているとおり,被告病院の医師は食道癌の再発を最も重視・懸念していたのであるから,生命への直接的な危険性の強さからして,術後肺炎について仮に上記のような知見があったとしても,手術を強く勧めていたと思われるが。 )しかし,上記のような知見が一般的でなかった以上,本件手術の際,被告病院の医師が,合併症として肺炎が発生する可能性があることを第一に説明,,していたことに加え更にそれ以上の細かい説明をしていなかったとしても説明義務の違反はない。 イ嚥下機能に対する障害のリスクについての説明義務違反はないこと食道癌手術により嚥下障害が発生することがあることは被告病院の医師らも当然に認識していた。 しかし,それは一過性のものであって,後遺症として残存する嚥下障害については,被告病院では200例以上の手術例で1例しか経験のないまれなものであったことから,術前の説明はしていない。200例以上の手術例で1例しか経験していないことは術後の平成13年3月22日に説明をしたとおりである。 この発生頻度の合併症は予想していないし,この発生頻度の合併症まで逐一説明をすることも現実的ではない。 したがって,嚥下障害については説明義務は及ばないと解される。 ウ手術をしなくても完治する可能性が十分考えられたことについての説明義- 13 -務違反はないこと手術をしなくとも完治する可能性が十分考えられたとはいえない。 原告らの主張は結果論である。手術前に病理診断の結果を知ることは不可能であって「本来は手術をしなくてもよかった」とは,術後から遡っ,て初めていえることであ する可能性が十分考えられたとはいえない。 原告らの主張は結果論である。手術前に病理診断の結果を知ることは不可能であって「本来は手術をしなくてもよかった」とは,術後から遡っ,て初めていえることである。 最も危険なことは,術前の診断のみで完治したと安易に判断し「手術は不要」との方針をとった後に,癌が再発し,もはや手遅れになってしまうという事態であり,これはできる限り避けなければならないことである。 原告らの乙B第4号証の見方はミスリーディングである。そもそも,乙B第4号証は,CR奏効例の中で切除例12例と非切除例10例の間において予後が明らかに差があることを述べているのであって,それに続けて切除例12例の内訳が述べられているものである。 この12例のみを見て「結果として手術の有効性が認められたのは,1,」「,,2症例中でたった2例のみとかしたがって乙B4は…手術よりも経過観察又は追加の化学放射線の治療が有効であることを示唆している論文である」ということには全くならない。 。 したがって,乙B第4号証をもって,原告らが主張するような,手術は不要との結論を導くことには飛躍がある。 (3)争点(3)(各注意義務違反と損害との間の因果関係の有無)について(原告らの主張)ア前記(1)の注意義務違反と損害との間に因果関係があること(ア)前記(1)の注意義務違反とDの死亡との間に因果関係があること本件手術の結果,呼吸状態が悪化し,また,嚥下障害により経口摂取が不可能になり充分な栄養が摂取できず,さらに,胸水の排出による体力の消耗が続いた。 Dは,本件手術後も約1年間に及び入院したものの,体力の回復,経口- 14 -摂取の再開を果たせないまま退院を余儀なくされ,退院後も,経口摂取の再開はできなかった。このように,Dは,死亡するま 。 Dは,本件手術後も約1年間に及び入院したものの,体力の回復,経口- 14 -摂取の再開を果たせないまま退院を余儀なくされ,退院後も,経口摂取の再開はできなかった。このように,Dは,死亡するまで,空腸瘻からの一日1500キロカロリーの熱量と必要最小限の栄養素の補給のみでようやく生命をつないでいる状態であったのである。特に,平成14年3月ころから体重減少,体力の低下の進行が顕著となった。 ,,,さらに頻繁に胸水が貯留し続け大量な胸水の穿刺排液を行うことはエネルギー消費,体力の著しい消耗を招いた。しかも,空腸瘻からの限られた熱量と必要最小限の栄養素の補給しか摂取できない患者にとっては,極めて大きな負担となった。 そして,呼吸不全,全身衰弱,栄養障害が進み,平成14年4月13日に死亡した。 ,。 したがって前記( )の注意義務違反とDの死亡との間に因果関係がある (イ)前記( )の注意義務違反とDの嚥下障害,呼吸機能の低下との間に因果 関係があること①食道癌手術により頸部領域も郭清の対象となるため反回神経麻痺や頸部組織の瘢痕癒着や炎症が生じ嚥下障害が発生するという機序が一般的に認められること,②食道癌手術後の嚥下障害の頻度は相当程度高いこと,③本件手術直後から右反回神経に麻痺が生じたり,喉頭挙上不全,上部食道活躍筋(輪状咽頭筋)弛緩不全になったりしていることから本件手術との時間的接近性が認められること,④E医師も本件手術により右反回神経麻痺が生じたことを認めていることからすれば,第1の注意義務違反とDの嚥下障害との間に因果関係がある。 根治的化学放射線療法により,ある程度呼吸機能が低下し,免疫機能が低下していた状況下で,しかも,術前に発熱,CRP値の上昇などの感染症状がみられ,呼吸器感染症に罹患していたにもかかわらず 係がある。 根治的化学放射線療法により,ある程度呼吸機能が低下し,免疫機能が低下していた状況下で,しかも,術前に発熱,CRP値の上昇などの感染症状がみられ,呼吸器感染症に罹患していたにもかかわらず,それが完治しないままに本件のような侵襲の大きな手術を強行した結果,重症肺炎,- 15 -感染症に感染し,肺の機能を著しく低下させてしまった。このことはカルテの「透過性↓はradiation60Gy後で,Opeをキッカケに間質性肺炎のような状態か」という記載(乙A5・36頁)からも裏付けられる。これらの事実から,前記( )の注意義務違反とDの呼吸機能の低下 との間に因果関係がある。 イ前記( )の各説明義務違反と損害との間に因果関係があること (ア)前記( )の各説明義務違反とDの死亡との間に因果関係があること Dは,化学放射線療法が主病変(食道)につき著効であり,リンパ節の病変も順調に縮小経過中であって,経過観察すれば著効も十分見込まれたことなどに加えて,本件手術による術後肺炎のリスクが高いことや嚥下障害のリスクが相当程度高いことなどの説明を受けていれば,嚥下機能や呼吸機能は人間に生活・生存の質にとって重要な機能であり,本件手術を受けなかったのであるから,前記( )の各説明義務違反とDの死亡との間に因 果関係がある。 (イ)前記( )の各説明義務違反とDの嚥下障害,呼吸機能の低下との間に因 果関係があることDは,前記(ア)の説明を受けていれば,前記(ア)と同様,本件手術を受けなかったのであるから,前記( )の各説明義務違反とDの嚥下障害との間 に因果関係がある。 (被告の主張)ア前記(1)の注意義務違反と損害との間に因果関係がないこと(ア)前記(1)の注意義務違反とDの死亡との間に因果関係がないこと1500キロ 嚥下障害との間 に因果関係がある。 (被告の主張)ア前記(1)の注意義務違反と損害との間に因果関係がないこと(ア)前記(1)の注意義務違反とDの死亡との間に因果関係がないこと1500キロカロリーの熱量が空腸瘻から摂取できていれば,栄養状態が悪いとはいえない。H病院における平成14年1月31日の検査結果によれば,総蛋白は8.3(g/dℓ),アルブミンは3.4(g/dℓ)であり,この数値からすれば,この時点では低栄養状態とは言えないから,手- 16 -術と低栄養状態との間に因果関係はないと考えられる。 なお,原告らの「特に,平成14年3月ごろから体重減少,体力の低下の進行が顕著になった」との主張については,検査データがないので,。 このころの栄養状態については何ともいい難い。 (イ)前記(1)の注意義務違反とDの嚥下障害,呼吸機能低下との間に因果関係がないこと本件手術により,嚥下障害が生じたことは認めるが,予期された合併症であって,注意義務違反はない。 呼吸機能低下については,放射線照射の影響が考えられる。甲B第17号証には,肺に40Gyの照射があると5年後に1~5%の例で,60Gyの照射があると25~50%の例で,それぞれ肺炎や肺線維症が発生するとの記載がある。 また,乙B第13号証には,化学放射線療法を受けた患者78名の内15名(19%)に,治療後に胸水貯留の合併症が発生したという記載もある。 イ前記(2)の各説明義務違反と損害との間に因果関係がないこと(ア)前記(2)の各説明義務違反とDの死亡との間に因果関係がないこと被告病院の医師はDの癌が消失したとはいえないと考えていたことから,食道癌の再発を最も重視・懸念していた。 また,実際に,化学放射線(CR)療法のみの場合に比べ,同療法後に手術を行った方が治療成績が良い 病院の医師はDの癌が消失したとはいえないと考えていたことから,食道癌の再発を最も重視・懸念していた。 また,実際に,化学放射線(CR)療法のみの場合に比べ,同療法後に手術を行った方が治療成績が良いことは,被告病院が実績として経験していたから,化学放射線療法後は合併症である肺炎の発生率が高いことを説明していたとしても,生命に与える危険性の度合いから考えて被告病院は手術を強く勧めたと考えられるし,Dも手術を受けていたと考えられるのであって,因果関係はない。 (イ)前記(2)の各説明義務違反とDの嚥下障害,呼吸機能の低下との間に因- 17 -果関係がないこと被告病院では,後遺症として残存する嚥下障害は過去200例以上の手術において1例しか経験していなかったから,仮に嚥下障害が発生することをDに説明していたとしても,一過性のものが中心であるとして説明したものと考えられる。 また,呼吸機能低下についても,化学放射線(CR)療法のみの場合に比べ,同療法後に手術を行った方が治療成績が良いことは,被告病院が実,,績として経験していたから嚥下障害や呼吸機能低下が発生する可能性は化学放射線療法を行った場合にはそれをしていない場合より発生率が高いことを説明していたとしても,生命に与える危険性の度合いから考えて被告病院は手術を強く勧めたと考えられるし,Dも手術を受けていたと考えられるのであって,因果関係はない。 (4)争点(4)(損害の有無及び額)について(原告らの主張)アDの死亡に関する損害額(ア)Dの損害a入院治療費598万5085円本件手術が行われなければ,2回目の入院はする必要がなかったのであるから,その入通院治療費は被告の債務不履行・不法行為と因果関係のある損害である。その金額は598万5085円である。 b本件手術によ 件手術が行われなければ,2回目の入院はする必要がなかったのであるから,その入通院治療費は被告の債務不履行・不法行為と因果関係のある損害である。その金額は598万5085円である。 b本件手術によるQOLの低下についての慰謝料300万0000円本件手術の結果,Dは,死亡に至るまでの間,呼吸状態が悪化し,気管切開や胸水排出のみならず,嚥下障害に陥り低栄養状態が続き,QOLが著しく低下を余儀なくされた。これに伴う精神的苦痛は,300万円を下回ることはない。 c逸失利益3652万5874円- 18 -Dは死亡時69歳であり,就労可能年数は7年間,平均余命は13年である。当時,Dは,財団法人関東電気保安協会に勤務し,本件手術を受けた前年度である平成11年度は460万9382円受領していた。 また,死亡時,年金を年額364万1368円受領していた。 そこで,生活費を40%控除し,ライプニッツ式で中間利息を5%とすると,次の式により逸失利益は3652万5874円となる(小数点以下四捨五入。 )(計算式)460万9382円×5.7863(7年としての5%ライプニッツ係数による計算)×(1-0.4)+364万1368円×9.393()(. ) 13年としての5%ライプニッツ係数による計算×1-0 =3652万5874円d死亡慰謝料2400万円Dは,長期間,唾液を飲み込めないほど重症の嚥下障害や胸水が貯留するほどの肺障害に陥り呼吸困難が継続しており,その苦痛は尋常ではなかった。しかも,結局,最愛の配偶者・子らを残しこの世を去ったのであり,その無念さは甚大である。したがって,これを慰謝するのに2400万円を下回ることはない。 (イ)原告ら固有の損害a葬儀関係費用150万0000円b証拠保全費用27万2198円 のであり,その無念さは甚大である。したがって,これを慰謝するのに2400万円を下回ることはない。 (イ)原告ら固有の損害a葬儀関係費用150万0000円b証拠保全費用27万2198円c弁護士費用711万6843円(ウ)合計及び各原告の損害額a合計7840万0000円b原告A3920万0000円c原告B1960万0000円- 19 -d原告C1960万0000円イDの嚥下障害及び呼吸障害に関する損害額(ア)Dの損害a入院治療費598万5085円b逸失利益2979万0436円嚥下障害については,甲C第4号証によれば,その障害の程度に応じて,障害等級表に掲げられている他の障害に準じて等級を認定すること,。 ,とし咀嚼機能障害の表に準じて判断することとされている本件ではDは,死亡するまで,流動食ですら経口による摂取はできなくなり,空腸瘻からしか栄養等を摂取できなくなったのであるから「咀嚼又は言語,の機能を廃したもの」に準じて,障害者等級第3級の2に準じるべきである。 したがって,以下の算定式により,逸失利益は2979万0436円となる。 (計算式)460万9382円×6.463(7年としての5%ライプニッツ係数による計算)=2979万0436円c後遺障害慰謝料2000万0000円Dは,死亡するまで,流動食ですら経口による摂取はできなくなり,空腸瘻からしか栄養等を摂取できなくなったのであるから「咀嚼又は言,語の機能を廃したもの」に準じて,障害者等級第3級の2に準じるべきである。 したがって,後遺障害慰謝料は2000万円を下回ることはない。 (イ)原告ら固有の損害a証拠保全費用27万2198円b弁護士費用530万2281円- 20 -(ウ)合計及び である。 したがって,後遺障害慰謝料は2000万円を下回ることはない。 (イ)原告ら固有の損害a証拠保全費用27万2198円b弁護士費用530万2281円- 20 -(ウ)合計及び各原告の損害額a合計6135万0000円b原告A3067万5000円c原告B1533万7500円d原告C1533万7500円(被告の主張)争う。 第3当裁判所の判断 認定事実証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる(末尾に認定の根拠となった証拠等を示す。 。)(1)被告病院への入院と本件手術の施行Dは,嗄声を自覚したことから,自宅近くの耳鼻咽喉科医院での診療を受,,,,,けたがその症状が改善しないとして4月12日同月19日5月2日被告病院の耳鼻科を受診し,同月16日に被告病院の外科を受診し,食道エックス線検査及び胃・食道造影検査を受け,同月22日には食道癌の疑いがある旨の診断がされた。Dは,同月26日,K病院でCT検査を受け,同月27日,被告病院に入院することになった。 Dは,同月29日,上部内視鏡検査及び病理組織検査を受け,同月31日には,上部消化管エックス線検査を受け,上記病理組織検査の結果,中分化扁平上皮癌が検出された旨の報告を受け,6月1日,頸部CTスキャンが施行された。同日,食道班カンファレンスが行われ,Dは食道扁平上皮癌であり,癌は左側反回神経リンパ節(106recL)に転移していると診断された。原発巣の占拠部位は胸部中部食道(Mt,型は隆起型(1型)と軽)度陥凹型(0Ⅱc型)が混合しているものであって,原発巣の壁深達度はT2(癌腫が固有筋層にとどまる)であった。左側反回神経リンパ節は,著明- 21 -に腫大しており,近接している反回神経を巻き込み,更に気管壁を圧 型)が混合しているものであって,原発巣の壁深達度はT2(癌腫が固有筋層にとどまる)であった。左側反回神経リンパ節は,著明- 21 -に腫大しており,近接している反回神経を巻き込み,更に気管壁を圧排して浸潤していることが疑われる状態であり,リンパ節の深達度T4(食道周囲臓器に浸潤している)が疑われた。E医師らは,この時点で,既に気管への浸潤が疑われたことから,手術適応がないと判断し,化学放射線療法により腫大したリンパ節が縮小し,手術適応が得られれば手術をすることが適切な方針であると考え,Dに病状を説明して化学放射線療法を行う旨を話し合った。 Dは,同月6日,気管内視鏡検査を受け,E医師から,食道癌であることを告知され,病変は胸部食道,頸部リンパ節腫脹であること,嗄声は頸部リンパ節腫脹による反回神経麻痺が原因であること,今後,化学放射線療法を行い,その効果次第で手術を考えることなどの説明を受け,同月9日,下咽喉内視鏡検査を受けた結果,下咽頭腫瘍はないことが確認され,同月11日には,気胸が認められたため,呼吸苦が出なければ自然吸収を待つが,呼吸苦が出るようであれば,脱気する可能性がある旨診断され,その旨の告知を受けた(その後,6月21日には,気胸は改善傾向にあるものと判断された。 。)被告病院の担当医師らは,6月12日,Dに対する化学放射線療法を開始し,化学療法(抗癌剤治療)として,同日から8月1日までの間,抗癌剤であるCDDP(シスプラチン)及び5-FU(5-フルオロウラシル)を投与した。また,放射線療法として,6月12日から同月16日までの間,同月19日から同月23日までの間,同月26日から同月30日までの間,7月3日から同月7日までの間,同月10日から同月12日までの間,同月24日から28日までの間,同月31日,8月1日に, での間,同月19日から同月23日までの間,同月26日から同月30日までの間,7月3日から同月7日までの間,同月10日から同月12日までの間,同月24日から28日までの間,同月31日,8月1日に,1日当たり2Gy,合計60Gyの放射線療法を行った。なお,E医師は,6月26日,Dに対する化学放射線療法の効果を確認するため,46Gyとなった前後で,食道造影と胸部CTを行うよう指示をした。また,Dが,7月12日,化学放射線- 22 -療法がつらいとして中断を希望したため,いったん化学放射線療法が中断されたが,同月24日に再開され,8月1日に終了した。Dのリンパ節(106recL)の縮小率は,7月12日に撮影された胸部CTによると44. ,. ,6%であり8月7日に撮影された胸部CTによると747%であったがこの時点で肺への転移が疑われた。 同月14日,上部内視鏡検査が行われ,食道に白苔と瘢痕の存在が認められたのみであり,食道癌について,化学放射線療法後,著効と考えられた。 この際に,癌の原発巣である食道から組織を2箇所採取し,病理診断を行ったところ,上皮に核腫大と軽度の異型性がみられるが,明らかに癌といえる箇所は認められないとの結果が得られた。 E医師は,D及びその家族に対し,同月15日,原発巣の食道について生,(),検では癌が認められなかったことリンパ節106recLについては著明に縮小し,縮小率は約75%であって,化学放射線療法は効果があったこと,しかし,肺に以前になかった異常な陰影を認め,転移か炎症性のものかを判断するために,経過をみる必要があることなどを説明した。そして,今後の方針としては,手術か経過観察のいずれかであるが,可能であれば手術が望ましい旨を説明した。ただし,肺の陰影が転移であれば,食道とリンパ節,肺へ 経過をみる必要があることなどを説明した。そして,今後の方針としては,手術か経過観察のいずれかであるが,可能であれば手術が望ましい旨を説明した。ただし,肺の陰影が転移であれば,食道とリンパ節,肺への転移の三者に対して治療を考えなければならないこと,肺へ転移しているのであれば,全身へ転移している可能性も高いこと,今後は化学放射線療法による負担の回復を待つと同時に肺の影についての性質をみて,その上で治療方針を決めて再度説明する旨を伝えた。 Dは,同月21日,被告病院を退院した。 Dは,9月7日,胸部CT検査を受けたところ,気管左側のリンパ節の径は約15mmであり,前回よりも縮小傾向にあって,肺の病変は瘢痕性変化。 ,,,と思われる旨の報告がされたE医師はD及び原告Aに対し同月11日肺の病変は瘢痕であろうこと,リンパ節(106recL)は探索的な手術- 23 -をしてみないと切除可能性が分からないこと,可能であれば,食道を切除してリンパ節を郭清することを考えるが,不可能であれば,放射線療法を検討することを説明し,D及び原告Aの同意を得た。 Dは,同月19日,被告病院に再び入院し,看護師に対し,手術が容易で,。 ないことは分かっているが手術ができてよかったなと思っていると述べたE医師は,Dに対し,同月22日,肺の病変について転移の可能性は低いこと,癌の原発巣である病変は指摘できないほどになっており,リンパ節(106recL)への転移についても十分な縮小率を得たこと,この小さくなったリンパ節を摘出することが可能であれば,摘出し,胸部食道を全摘して胃管再建手術を行うが,これが不可能であれば,放射線などの手術以外の追加治療を考えること,手術については,手術の時間は正味10時間程度になること,手術後のリスクとして,肺炎,縫合不全,循環不 摘して胃管再建手術を行うが,これが不可能であれば,放射線などの手術以外の追加治療を考えること,手術については,手術の時間は正味10時間程度になること,手術後のリスクとして,肺炎,縫合不全,循環不全及び出血などがあること,食欲については,手術後は胃が小さくなることから食物摂取量が落ちることが予想されることなどを説明した。また,Dから,胸腔鏡手術の適応について質問されたのに対し,E医師は,化学放射線療法をしているため,現時点の医療水準では,胸腔鏡手術の適応はない旨説明した。 同月27日午後3時ころ,Dの体温は37.2℃に上昇し,同月28日午. ,()後1時ころには382℃に上昇したためボルタレンsp解熱鎮痛坐剤25mgが挿肛され,同日午後6時ころには36.6℃に解熱した。また,同日,PL顆粒(非ピリン系感冒剤)も投与され,血液検査の結果,WBCは4600,CRPは0.53で,好中球は75.0%であった。Dは,同月29日午前6時ころには36.8℃であった体温が,午前9時ころには3 4℃午後2時ころには379℃に上昇したためペントシリン剤抗. ,. ,(生剤)が点滴投与され,発熱の原因を調べるため,血液検査,胸部レントゲン写真撮影,尿検査が行われることになり,発熱が持続し,原因が不明であれば,手術の延期の可能性もゼロではないとされ,午後9時ころにダーゼン- 24 -(抗炎症剤)が処方された。同月30日午前6時ころには37.0℃,午後3時には37.7℃であった体温が,午後6時ころには,36.6℃と解熱し,悪寒はなく,顔色は良好であり,表情も良く,声のかすれは昨日の早朝よりも軽減しており,Dも,感冒症状は自覚的には軽減傾向で楽になってきたと述べた。同日の血液検査の結果,WBCは4200であり,肺のレントゲン検査の は良好であり,表情も良く,声のかすれは昨日の早朝よりも軽減しており,Dも,感冒症状は自覚的には軽減傾向で楽になってきたと述べた。同日の血液検査の結果,WBCは4200であり,肺のレントゲン検査の結果,両肺野とも異常はみられず,喀痰培養検査,尿検査も行われた。10月1日のDの体温は36.5℃であり,Dは,痰の量が昨日よりも更に減った旨述べ,体熱感はなかった。同月2日,血液検査の結果,WBCは2800で,CRPは3.57であり,体温は,午後0時ころに36. 2℃,午後7時30分ころに36.7℃であり,午後6時ころ,Dの右肘部からCVカテーテルが挿入された。 E医師らは,9月30日の喀痰培養検査の結果が常在細菌叢であり,特に危険性を示すものでないことを確認するなどした上,10月3日,午前9時,,,55分ころから午後9時ころまでの間約11時間5分をかけてDに対し本件手術を行った。なお,本件手術中に測定されたWBC値は,1800,,(),()。 21003000午後5時ころ2400午後7時ころであった本件手術の術式は,右開胸開腹胸部食道全摘術,胸壁前経路頸部食道胃管吻合術であり,栄養を摂取するための空腸瘻造設が行われた。E医師らは,まず,リンパ節(106recL)の切除可能性を検索したところ,気管とは剥離可能で,食道左壁に浸潤していたので,同リンパ節は食道とともに切除が可能と判断した。そして,リンパ節の106recRと105を郭清し,胸部上部食道(Ut)の縦隔胸膜を胸椎と食道に沿って切開し,胸部上部食道にシリコンペンローズドレーンをかけ,食道を背側に牽引しながらリンパ節(106recL)を郭清した。また,胸部下部食道(Lt)を剥離授動し同様にシリコンペンローズドレーンをかけて仮切離し胸部中部食道M,,(t)を鋭 ーンをかけ,食道を背側に牽引しながらリンパ節(106recL)を郭清した。また,胸部下部食道(Lt)を剥離授動し同様にシリコンペンローズドレーンをかけて仮切離し胸部中部食道M,,(t)を鋭的・鈍的に剥離し,食道全長を授動した。さらに,食道を牽引しな- 25 -がら,107,109,108,110,111,112の各リンパ節を郭清した。肉眼では転移は認められなかった。閉胸後,左頸部創を再度開いて出血の有無を確認し,頸部食道(Ce)を完全に授動した。左反回神経は腫大したリンパ節に完全に巻き込まれていたため,合併切除した。右頸部を切開して,リンパ節の106recR,101Rの検索をしたが,肉眼では転移は認められなかった。右の反回神経の損傷はなかった。その後,完全に食道を摘出し,胃管と食道を吻合した。そして,空腸瘻用チューブを挿入し,手術を終了した。 ,,10月13日に報告された病理診断では手術で摘出した食道については食道壁に全層性に軽度の線維化と慢性炎症性細胞浸潤を認めるが,癌の残存はみられない,郭清したリンパ節についても,癌の転移は認められないという結果が報告された。 E医師らは,この結果が,術前のリンパ節(106recL)が縮小したものの,消失していなかったとの臨床所見にそぐわないため,病理診断を再検討を依頼したところ,11月24日,リンパ節(106recL)につい,,て治療による効果と思われる強い線維化・硝子化を呈している部分があり同部では濃染・不整異型核を有する細胞の集簇部位を認め,異型性から癌細,(),胞と考えられるがその生存活性viabilityの判定は難しいが核の濃染の状態,PCNA,MIB1陰性という所見から,生存活性がない(non-viable)可能性が高いと考えられるという結果が報告され れるがその生存活性viabilityの判定は難しいが核の濃染の状態,PCNA,MIB1陰性という所見から,生存活性がない(non-viable)可能性が高いと考えられるという結果が報告された(甲A3,乙A1ないし8,乙B14,15,証人E,原告B)。 (2)本件手術後の診療経過10月4日,Dの体温は38.5℃前後に上昇し,右肺の上葉が汚く,昨日と著変がなく,茶褐色で少量の汚い痰がみられた。なお,同日の培養検査の結果(同月6日付けの報告)では,塗抹結果は陰性,培養結果は陽性(コリネバクテリウム)であり,手術前の感染が手術に影響を与えていないこと- 26 -が確認された。 同月5日,Dの体温は,おおむね37.5℃から38.5℃と高値が継続,,. ,。 しWBCは5400CRPは2700であり肺炎像が増悪していた同月6日,Dの体温はおおむね36.8℃から38.5℃の間を推移し,CRPは27.12であり,脱水傾向が持続し,胸部レントゲン像は昨日と全く変化がなく,透過性の低下について合計60Gyの放射線療法後に手術がされたことをきっかけに間質性肺炎のような状態に陥ったことが疑われた。痰については,昨日の吸入後,白色のものを少~中等量吸引した。 同月7日,DのWBCは2800,CRPは24.45であり,昨夕より呼吸状態は改善傾向にあり,バイタルも安定しつつあった。肺野の変化は間質性がメインであると疑われたが,気管支鏡検査が施行され,左主気管に汚い(++)痰がみられ,左2分岐にも汚い(+)痰がみられ,痰から緑膿菌及び表皮ブドウ球菌が検出された。 同月8日,Dの体温は高値が継続して肺炎像は増悪し,血液から表皮ブドウ球菌が検出された。 同月9日,胸部レントゲン像は前日と著変はなく,問題として,肺炎の感染コントロールや結核菌の上 が検出された。 同月8日,Dの体温は高値が継続して肺炎像は増悪し,血液から表皮ブドウ球菌が検出された。 同月9日,胸部レントゲン像は前日と著変はなく,問題として,肺炎の感染コントロールや結核菌の上昇に注意すべきことが挙げられた。気管支内視鏡検査(ブロンコ)を施行したところ,両側の下葉を中心に多量の汚い痰が吸引され,MRSAを考慮した抗生剤の投与が検討された。 同月10日,ブロンコにより,汚い痰がみられ,特に左肺下野に著明であった。血液培養検査の結果,好気性菌が陽性であり,気管内吸引物から緑膿菌,クレブシェラ菌が検出されたため,敗血症と診断され,FOY(メシル酸ガベキサート,蛋白分解酵素阻害薬)の投与が開始された。 同月12日,DのCRPは16.23に減少し,抗生物質の効果によるものと考えられた。WBCは6300であり,体温は38℃で軽度の低下傾向がみられた。栄養状態は不良であり,フォローアップを重視する必要がある- 27 -とされた。 同月13日,Dの体温は低下傾向にあり,37.5℃前後になったが,同月14日の午前0時ころには38.7℃になった。同月13日のWBCは5500であり,CRPは11.00で減少傾向にあった。 E医師は,Dの家族に対し,同月14日,食道の手術の中で併発率の高い肺炎を合併していること,抗生物質の効果で炎症は軽減していること,気管支鏡においても痰は徐々に減っていること,通常より遅いように思われるが徐々に改善傾向にあること,化学放射線療法後の手術症例としては通常の経過をたどっていること,うまくいけば週明けに抜管を考えているが状況次第であり,場合によっては気管切開をすること,声帯について,左反回神経は癌により動かなくなっており,右反回神経は手術のために動きが悪くなっているが,これも経過をみていかないと分からないことな 状況次第であり,場合によっては気管切開をすること,声帯について,左反回神経は癌により動かなくなっており,右反回神経は手術のために動きが悪くなっているが,これも経過をみていかないと分からないことなどを説明した。E医師は,Dの家族から,本件手術の前より肺炎だったと聞いたが,肺炎だったにもかかわらず手術をしたのかと質問されたのに対し,手術前に肺炎ではなく,もし肺炎であったのであれば,手術はしていないことを説明した。 被告病院のI医師は,Dの家族に対し,同月17日,同日の午前中に抜管したが,痰の量が多く,声帯等を守るため,鼻から管を通すのではなく,気管前面を切開し,チューブを入れたこと,状態の悪化のためではなく,鼻から入れるよりも楽であるために気管切開をしてチューブを入れたことを説明し,了承を得た。同日のDのWBCは5300であり,CRPは5.86で減少傾向にあった。 その後,Dの状態は徐々に改善を続け,同月24日,一般病棟へ戻った。 11月3日,Dは微熱のみとなり,ようやくコントロールできるようになってきており,同月4日,Dの状態が改善してきたため,日中の酸素投与が中止された。1日に数度の検温においても体温が37.5℃を超えることはほとんどなくなっていた。 - 28 -E医師は,D及び原告Aに対し,同月7日,声帯の動きなどに関して,もともと左反回神経という左の声帯の動きを調節する神経は,癌のリンパ節転移のために麻痺があり,左の声帯は動かないこと,食道癌の手術では反回神経周囲のリンパ節郭清は重要であり,反回神経麻痺は程度の差はあるが生じ,,,,ることしかしDの場合は残された右反回神経麻痺が問題であるものの切断したわけではないので,回復の可能性は十分あること,今後,発声訓練などの声帯リハビリ等を行う予定であり,回復までの時間は個 ,ることしかしDの場合は残された右反回神経麻痺が問題であるものの切断したわけではないので,回復の可能性は十分あること,今後,発声訓練などの声帯リハビリ等を行う予定であり,回復までの時間は個人差があるため,焦らないでほしいこと,全体としては確実に良くなっていることなどを説明した。 同月8日,終日,酸素の投与が中止されることになった。 ,,,,被告病院のI医師は同月19日D及びその家族からの術前の数日間発熱を認めていたが,本当にリスクがないと判断して手術を施行したのかという質問に対し,術前の胸部レントゲン写真,検査データをチェックし,その他の徴候も検討して外科及び麻酔科の両科においてリスクがないと判断していること,リスクがある場合,手術に踏み切らないのであり,術前からの肺炎はなかったと診断していることを説明した。 ,,また術後の病理診断がどのようなものであったかという質問に対しては食道とリンパ節には明らかな癌細胞は証明されなかったが,放射線照射後の組織診断であり,非常に診断困難であると考えられるため,今後もう一度病理に相談する予定であり,後日報告する旨説明した。 そして,術前の診断では,内視鏡検査上,癌はなかったと聞いているが,なぜ手術になったのかという質問に対しては,術前の説明を再確認してほしいと述べ,放射線療法後の組織診断であり,判別は非常に困難であったと考える,肉眼的には病変の遺残が多少なりとも存在し,リンパ節転移も画像上存在しており,根治を求めるには,手術が一番であるとI医師個人は考える旨説明した。 - 29 -さらに,主たる病変はほとんどなくなっており,リンパ節転移が手術前に残っていたものの,そのリンパ節も術前外来で更に小さくなったと聞いており,もう少し待っていれば,もっと小さくなったのではないかという さらに,主たる病変はほとんどなくなっており,リンパ節転移が手術前に残っていたものの,そのリンパ節も術前外来で更に小さくなったと聞いており,もう少し待っていれば,もっと小さくなったのではないかという質問に対しては,主病変は,先に述べたように,肉眼的には遺残があったと考えており,リンパ節腫大に関しては,結果論として何ともいえないが,再増殖して手術ができなくなる状況が起こり得る可能性があり,個人的には,化学放射線療法から1か月前後が経過した時が最もリンパ節腫大が縮小するのではないかと考え,そのため,もう1か月待ったとしても,主病変及び転移リンパ節は,共に消失せず,再増殖する可能性の方が高いと考えると説明した。 加えて,放射線の照射野を頸部だけにすれば体力を奪われなかったのではないかという質問に対しては,術前に体力は回復していたと判断した,放射線を頸部だけに照射した場合,主病変がその間に増殖し,切除不可となる可能性もあったため,T字型に照射したのであり,その際に,主病変だけに対して更に同量の照射するのは,それこそ更に体力を奪うことになると思われる旨説明した。 のみならず,術前の説明では,合併症については聞いていたものの,合併症への放射線の影響について聞いていないところ,術直後のGICUの説明では,放射線を照射したため,合併症発症率が多少高くなるかもしれないと聞いており,もしそのようなことを術前に話していてくれたなら,手術前にセカンドオピニオンを求めていたと考えているというD及びその家族の不満に対し,I医師は,誤解を招くような発言があったことをお詫びし,決してそのようなストレートな意味で説明したのではないと考える旨述べた。 Dは,12月1日,尿用のバルーンを外され,このころには検温結果が37℃を超えることもほとんどなくなった。 E医師は,Dに対 ,決してそのようなストレートな意味で説明したのではないと考える旨述べた。 Dは,12月1日,尿用のバルーンを外され,このころには検温結果が37℃を超えることもほとんどなくなった。 E医師は,Dに対し,同月4日,反回神経麻痺について以前よりも良くなっていること,食事を始める日程は未定だが,今後はとろみの付いたものか- 30 -ら摂取することになるであろうこと,全身状態も着実に回復していることの説明をした。 Dは,12月15日,I医師の前で,ヨーグルトを2口摂取したが,むせ込んだため,気管孔からヨーグルトが吸引された。I医師は,たれこみがあ,,。 るが食道癌の手術後なので仕方がない今後も練習は続ける旨を説明した,,,,E医師はD及びその家族に対し同月26日病理診断部の報告を基にリンパ節(106recL)の再検討の結果,原発巣の食道は化学放射線療法が著効であったが,リンパ節には癌細胞が存在し,手術の利益はあったと考えると説明した。 また,原告Bからの手術適応があったのかという質問に対しては,CT上リンパ節腫大が化学放射線療法後も確認されており,根治度Aの手術の可能性があったので,その時点の被告病院の方針として根治の治療を行ったことを説明した。 さらに,手術を行わずに化学放射線療法のみでも良好な5年生存率の報告もあるようだが,手術を勧めた理由は何かという質問に対しては,そのような報告もあるが,現在まだ試行中であり,広く同意の得られている治療法ではないこと,被告病院では,化学放射線療法後に手術を行う治療法での良好な成績もあって手術を勧めたこと,現在行われている様々な試みに関する治療については,患者からの質問には答えるが,基本的にはコンセンサスの得られている治療法の説明を行っていることを説明した。 加えて,反回神経の一側に浸潤 勧めたこと,現在行われている様々な試みに関する治療については,患者からの質問には答えるが,基本的にはコンセンサスの得られている治療法の説明を行っていることを説明した。 加えて,反回神経の一側に浸潤があり,一方の麻痺が術前からみられたこと,手術操作により対側の神経も一時的に麻痺があったが,現在,徐々に回復してきており,完全回復までにはもう少し時間を要するが,経口投与(食事)再開としたく,多少の誤嚥は否めないが,排痰が可能であれば,試みる意義はあることなどを説明した。 Dは,同月23日ころから発熱があり,その後も発熱が継続する状態とな- 31 -り,平成13年1月1日には,左胸水が認められたため,ドレーンで排出された。その後,同月半ばころには熱が下がり,体温が37℃を超えることもほとんどなくなってきており,同月16日,食事の訓練が再開されたが,その後も,嚥下をうまく行うことはできなかった。 Dは,同月31日,嚥下造影の検査を受け,口腔から舌・咽頭への送り込,,,みはやや不良だが可能であり食塊が咽頭喉頭に到達しても反射が起きず咽頭蓋谷,梨状陥凹に造影剤の貯留があり,声門上にも貯留を認め,呼気とともに気道吸引があることから,誤嚥の危険があり(++,上部食道括約)筋(輪状咽頭筋)の弛緩不全があり,通過障害著明で,経口による食塊を使った直接的な嚥下訓練は危険と考えられる旨の結果が報告された。 E医師は,D及び原告Aに対し,同年2月1日,全身状態は改善している,,,,こと問題は食事であるが術後の影響もありリハビリが必要であること食道癌術後は個人差があるが,嚥下障害が出現することが多いこと,リハビリ科での造影検査の所見としては,現段階での食事は難しいとのことだが,食道癌術後の嚥下困難とそれ以外の嚥下困難の場合とは単純に比較はでき 術後は個人差があるが,嚥下障害が出現することが多いこと,リハビリ科での造影検査の所見としては,現段階での食事は難しいとのことだが,食道癌術後の嚥下困難とそれ以外の嚥下困難の場合とは単純に比較はできないと考えること,発声リハビリを先行し,改善が認められてから食事を始めることも可能であるが,Dにやる気があるのであれば,入院中に食事を試みてもよいこと,最初のうちは誤嚥が必ず出現するが,訓練による改善を期待したいことを伝えた。Dは,食事を再開したいとのことであった。 Dは,同月5日の上部消化管内視鏡検査により,吻合部に狭窄した部分が見つかり,その後,拡張術が数回行われた。 Dは,同年3月13日,胸腹部CTスキャンを受け,頸部にリンパ節腫大がみられるとともに,両側胸水(左>右)がみられ,左側の胸水は前回よりも増加しており,心嚢液貯留もみられた。 同月14日,嚥下造影の検査が行われたが,前回の検査と比べて,著明な改善は認められず,嚥下反射は起こらなかった。 - 32 -E医師は,D及び原告Aに対し,同月15日,嚥下時に喉頭の挙上が認められないこと,嚥下の状況が短期間で改善するのは難しく,退院して自宅でリハビリを続けていく方がよいことなどを伝えた。これに対し,D及び原告Aは,同月20日,経口摂取できるまでは退院しないとの意思を示した。 Dは,同月22日,ゼリーを3口摂取したが,嚥下はほとんどできず,口腔から排痰とともに出す状態であった。しかし,Dは,本件手術後,リハビリにより少しずつ声を出せるようになっていた。 E医師は,D及びその家族に対し,同日,術後肺炎等で経過が長引いていたが,現在の全身状態は良好であること,嚥下が困難であることについて,被告病院では食道癌手術200例の中で1例しか経験していないまれな合併症であり,術前に予想するのは難しいこと, で経過が長引いていたが,現在の全身状態は良好であること,嚥下が困難であることについて,被告病院では食道癌手術200例の中で1例しか経験していないまれな合併症であり,術前に予想するのは難しいこと,通常,約6か月で障害の評価の目安になるため,あと1か月リハビリを頑張ってほしいこと,これで回復が難しければ飲み込みは無理と考えざるを得ないことなどを説明した。Dの家族は,E医師に対し,術前に化学放射線療法を行った患者に対して不十分な説明であったことや,術前のQOLは100%であり,リスクが分かっていれば本件手術を受けない選択もあり得たという不満を伝えた。これに対し,E医師は,手術後のリスクと化学放射線療法の因果関係は証明されいないこと,嚥下障害の原因が化学放射線療法や肺炎であるとは1対1では考えられないこと,手術前の説明として,100%完全ではないにしろ,リスクについて説明しており,同意を得た上で本件手術を行ったことなどを説明した。 これに対し,Dは,自分としては2か月間頑張って声が出せたので,あと1,。 か月精一杯頑張りたいそれでどうしてもダメなら考えるしかないと述べたDは,同年4月25日,嚥下造影検査を受け,その結果,咽頭への送り込みは可能であるが,圧の上昇が不十分なため,良好とはいえないこと,食塊が咽頭,喉頭に到達しても反射が起きず,喉頭挙上も不良であること,喉頭蓋,梨状窩に貯留がみられ,上部食道括約筋(輪状咽頭筋)が弛緩せず,食- 33 -塊が通過できないこと,食道通過障害を考慮すると,前回より悪化している印象であり,経口による食事摂取は不可能であると考えられることが報告された。 E医師は,Dに対し,同月26日,嚥下の状態が改善していないこと,それ以外の全身状態は改善しており,栄養は空腸瘻から摂取できていること,リハビリを今まで 不可能であると考えられることが報告された。 E医師は,Dに対し,同月26日,嚥下の状態が改善していないこと,それ以外の全身状態は改善しており,栄養は空腸瘻から摂取できていること,リハビリを今までどおり続けて外来で経過を評価できることなどを説明した。Dの家族から,嚥下専門外来のあるFクリニックにDを通院させたいとの提案があり,同月27日,カニューレが抜去された。 被告病院リハビリテーション科の小川医師は,同年5月2日,原告Cから,,,の質問に対しDの嚥下障害の原因としては①咽頭での飲み込む力が弱くかつ,速度が遅いこと,②食道入口部における輪状咽頭筋の弛緩不全,③喉頭挙上不全等が考えられること,リハビリを行ってきたが,機能改善がみられず,リハビリテーション科としての療法は終了であり,同科としては今後は外来での経過観察をすること,今後進むべきステップとしては,①空腸瘻管理がきちんとできるようになり,その後退院,②喉頭機能を精査した上での外科的処置のいずれかであることなどを説明した。 Dは,同日,Fクリニックを受診し,その後も同クリニックへの通院を継続することとした。 E医師は,D及びその家族に対し,同年6月1日,Fクリニックでのリハビリの様子を勘案し,在宅での経過観察が可能であることを説明した。 Dは,同月11日,起立時に前胸部から側胸部が締め付けられるような感覚を訴え,その後も胸の痛みが治まらなかったことから,同月22日,胸部CTスキャンが行われた。同月23日,胸部CT上,胸水が貯留していることが認められたことから,胸腔ドレーンを挿入して排出されたものの,その後も状態は変わらず,CTやレントゲンの検査の結果では,原因となるような変化は特段見当たらず,発熱もなかったため,抗不安薬が処方されたが,- 34 -効果はなかった。また,胸水 されたものの,その後も状態は変わらず,CTやレントゲンの検査の結果では,原因となるような変化は特段見当たらず,発熱もなかったため,抗不安薬が処方されたが,- 34 -効果はなかった。また,胸水細胞診検査の結果は,ClassⅠ(正常)であり,癌性胸水ではなかった。 Dは,同年7月26日から,再び被告病院からFクリニックへ定期的に通院し,リハビリ等を続けた。E医師は,D及びその家族に対し,同月9月14日,今後の方針等について,頸部,胸部共に再発,悪性と思われる所見は認められないこと,左胸水が認められるが,これは放射線療法によるものと考えていること,発熱は気管支炎によるものではないかと推定されること,胸水が多量の場合,ドレナージが必要になる可能性があるが,胸水が現状と同じならば無処置で対応することなどを説明した。Dは,同月29日,被告。(,,,,,,,,,病院を退院した甲A3乙A1 乙B14 証人E,原告B)(3)被告病院退院後の診療経過Dは,平成13年10月22日,被告病院の外科を受診し,呼吸苦を訴えた。 原告Aは,E医師に対し,同年11月10日,電話により,Dが徐々に息切れしているので,被告病院に入院させてほしい旨を訴えたが,被告病院で,,。 ,は入院を待つことからG病院を紹介されDはG病院に入院したその後,,,,Dの胸水が排出され呼吸苦が改善し経過が良好であったことからDは同月24日G病院を退院した胸水細胞診検査の結果はClassⅡ良,。 ,(性異型)であった。 Dは,同年12月14日,H病院を受診し,その後も通院したが,息切れが強く,唾液を飲み込めないので,痰を出すのが困難であり,CT検査の結果,両側胸水があり,特に左側の胸水が著明で,被 型)であった。 Dは,同年12月14日,H病院を受診し,その後も通院したが,息切れが強く,唾液を飲み込めないので,痰を出すのが困難であり,CT検査の結果,両側胸水があり,特に左側の胸水が著明で,被胞化されているが,明らかに再発や転移を疑う所見はないことが報告された。 その後,E医師は,H病院の担当医師に対し,平成14年2月6日,Dの診療経過を報告する文書を作成したが,その中では,Dの嚥下困難は,喉頭- 35 -挙上不全,輪状咽頭筋の弛緩不全,咽頭での嚥下力低下,嚥下速度低下などが原因と考えたこと,また,遅発性の胸水貯留は再発ではなく,放射線照射の晩期合併症と考えていることなどを報告した。 Dは,平成14年2月22日,3月22日,H病院を受診し,2月22日には,息切れで長く座っていられないこと,3月22日には,この3日間,吐き気が強いこと,喉が詰まる感じがすること,座る時間は30分がやっとであることなどを訴えた。 Dは,同年4月13日,死亡した。なお,医療法人L医院(M医師)作成の死亡診断書には,Dの直接死因は食道癌である旨記載されている(甲A。 1,3,乙A2,9ないし11,乙B14,15,証人E,原告B) 医学的知見(1)食道癌食道に癌腫の認められるものを食道癌といい,食道癌は,原発性食道癌と転移性食道癌とに大別される。 原発巣の占拠部位を明確にするため,食道の区分がされており,気管分岐部下縁から食道・胃接合部までを二等分した上半分を胸部中部食道(Mt)という。 原発巣について,癌腫の食道壁深達度が粘膜下層までと推定される病変は表在型とされ,固有筋層以上に及んでいると推定される病変は進行型とされる。表在型のうち,おおむね平坦な病変は,表在平坦型とされ,軽度隆起型(0Ⅱa型,平坦型(0Ⅱb型,軽度陥凹型(0Ⅱc型)に分けられる 型とされ,固有筋層以上に及んでいると推定される病変は進行型とされる。表在型のうち,おおむね平坦な病変は,表在平坦型とされ,軽度隆起型(0Ⅱa型,平坦型(0Ⅱb型,軽度陥凹型(0Ⅱc型)に分けられる。 ))進行型のうち,限局性隆起性病変は,隆起型(1型)とされる。壁深達度について,癌腫が固有筋層にとどまる病変はT2とされ,癌腫が食道周囲臓器に浸潤している病変はT4とされる。 食道癌の化学療法及び放射線療法のレントゲン像,内視鏡像による食道病変の奏効度(効果判定基準)について,放射線の照射を用いての効果を判定- 36 -,,する場合には照射終了後1か月前後の値で判定することが望ましいとされ著効(CR)とは,測定可能病変,評価可能病変及び腫瘍による二次的病変がすべて消失し,新病変の出現がない状態が4週間以上持続したもので,レントゲン像で腫瘍陰影の消失を認めるもの,内視鏡像で腫瘍が消失し,表面平滑であるものをいう。有効(PR)とは,二方向測定可能病変の縮小率が50%以上,一方向測定可能病変では30%以上であるとともに,評価可能病変及び腫瘍による二次的病変が増悪せず,かつ,新病変の出現しない状態が4週間以上持続した場合で,レントゲン像で腫瘍陰影の著明な縮小があるもの,内視鏡像で腫瘍又は潰瘍辺縁隆起の縮小又は平坦化と,潰瘍底の浅化及び浄化をみて形態的改善の著しいものをいう(甲B18,乙B1,6)。 (2)放射線の術前照射放射線治療と手術を行う治療領域が同じで,切除を前提として手術前に行う放射線治療を術前照射という。その目的は,①手術操作によって予想される癌細胞の散布又は血管,リンパ管を介しての転移を防止するため,あらかじめ照射により癌細胞に傷害を与え,その着床・増殖能力を破壊すること,②切除困難と考えられる病巣にあらかじめ照射してこ て予想される癌細胞の散布又は血管,リンパ管を介しての転移を防止するため,あらかじめ照射により癌細胞に傷害を与え,その着床・増殖能力を破壊すること,②切除困難と考えられる病巣にあらかじめ照射してこれを縮小させ,切除率を上げることである。照射線量は手術が困難にならない線量にとどめるべきで,40Gy前後の線量を約4週間照射し,手術時期は術前照射から約2~4週間後に行われるのが一般的である。術前照射の適応疾患は,食道癌,頭頸部癌,子宮癌,直腸癌,骨・軟部組織腫瘍などである(甲B1)。 (3)食道癌の切除手術食道癌の切除手術は,開胸・開腹操作を要し,長時間となり,広範なリンパ節郭清を要する侵襲の大きい手術である。気道周囲の郭清は,気道虚血,喀痰排出力の低下,咳嗽反射の低下をもたらし,癌の進行度によって胸管合,,。 併切除や気管支動脈迷走神経肺枝の合併切除など更に侵襲は大きくなるこのため,呼吸・循環器系に与える影響は非常に大きい。特に反回神経麻痺- 37 -,,。 を合併した場合は誤嚥喀痰力の低下などのため肺炎のリスクは更に増す食道癌患者はリスクを有する症例が多く,手術侵襲も多大である。呼吸器合併症の中でも術後肺炎の頻度は高く,不幸な転帰をたどることも少なくない。原因菌は緑膿菌,MRSAが多いとされている。術後肺炎のリスクファクターは多岐にわたる。食道癌手術に特有のリスクとして,術前化学放射線治療,手術侵襲に伴う全身性炎症反応症候群(SIRS)から,CARSと呼ばれる免疫抑制状態,3領域リンパ節郭清時の迷走神経肺枝や気管支動脈の切離,反回神経麻痺の合併,長時間手術,出血などの術中因子と,術後人工呼吸管理,水分出納管理などの術後因子と多岐にわたる。 嚥下機能からみた喉頭運動は内喉頭筋を主体とするが,周囲の神経・筋の影響を受けている 回神経麻痺の合併,長時間手術,出血などの術中因子と,術後人工呼吸管理,水分出納管理などの術後因子と多岐にわたる。 嚥下機能からみた喉頭運動は内喉頭筋を主体とするが,周囲の神経・筋の影響を受けているため,中枢及び末梢神経障害や頸部の手術などにより,これらの機能脱落が起これば,喉頭の閉鎖と挙上が障害され,嚥下障害の原因になり得る。 反回神経麻痺があっても,必ずしも誤嚥による嚥下困難を訴えるとは限らない。また,反回神経麻痺の誤嚥は,喉頭の閉鎖不全のみに起因しているのではなく,喉頭の知覚脱失などの要因が誤嚥に関与しているとされる(甲。 B8,30,乙B16,17) 争点(1)(E医師らが適応がないにもかかわらず本件手術を行った注意義務違反の有無)について原告らは,被告病院の担当医師は,①根治的化学放射線療法の結果,主要病変について著効が得られ,転移リンパ節についても腫瘍縮小の効果が現れていて,しかも,②術前に発熱,CRP値の上昇などの感染症状がみられていたか,,,ら本件手術の適応がなかったにもかかわらず本件手術を強行したのであり被告病院の担当医師に注意義務違反がある旨主張する。 しかし,Dは,食道扁平上皮癌であり,かつ,これは左反回神経リンパ節に転移しており,同リンパ節は著明に腫大しており,近接している反回神経を巻- 38 -き込み,更に気管壁を圧排して浸潤していることが疑われる状態であったことから,手術適応がないと判断され,化学放射線療法により腫大したリンパ節が縮小し,手術適応が得られれば手術をすることが適切な方針であるとされていたことは前記1(1)のとおりであり,このことによれば,Dに対する化学放射線療法は,もともと,同療法の効果により手術適応が認められるようになった場合には,病巣を切除することによって癌を根治することを目的と は前記1(1)のとおりであり,このことによれば,Dに対する化学放射線療法は,もともと,同療法の効果により手術適応が認められるようになった場合には,病巣を切除することによって癌を根治することを目的とするものであり,化学放射線療法のみによって癌を根治することを目的とするものではなかったことが認められ,かつ,Dはこの方針について説明を受け,了承していたことが認められる(乙A3。 )なお,原告は,放射線の術前照射の場合には,照射線量が30~45Gyに制限される旨の文献(甲B2,3,26,乙B4,12等)があるのに対し,Dに対する照射線量は60Gyであったことから,Dに対する化学放射線療法は,根治的化学放射線療法であった旨主張するが,扁平上皮癌の腫瘍致死線量(95%コントロール線量)は50Gy程度であるが,転移リンパ節の腫瘍致死線量は70~75Gyとされていること(甲B17)からすると,Dに対する照射線量60Gyはそれだけで根治的治療となる線量とはいえないことのほか,前者の術前照射は,もともと手術適応のある癌に対し,手術前に化学放射線療法を行う場合であり,また,後者の根治的化学放射線療法は,根治できなかった場合に手術を行うことが想定されていたとしても,第一義的には,化学放射線療法のみによって癌の根治を目的とするものであって,いずれも,化学放射線療法を行う前には手術適応がなく,化学放射線療法が奏功し,手術適用が認められるに至った場合に,はじめて癌の切除術を想定していた本件の場合と異なる面がある(乙B14,証人E[同証人調書14頁等]参照。したが)って,Dに対する化学放射線療法の対象部位の一部について著効と認められたからといって,直ちに,本件手術の適応が否定されるものではない。 また,前記1(1)で認定した事実によれば,確かに,食道癌については て,Dに対する化学放射線療法の対象部位の一部について著効と認められたからといって,直ちに,本件手術の適応が否定されるものではない。 また,前記1(1)で認定した事実によれば,確かに,食道癌については化学- 39 -放射線療法の効果が著効になったと考えられたこと,癌の転移により腫大していた左反回神経リンパ節(106recL)は,74.7%縮小し,更に縮小傾向にあったことが認められる。しかし,他方で,前記1(1),2(1)で認定した事実及び医学的知見並びに証拠(甲B26,27,乙B4,9ないし12,14,15,証人E)によれば,上記リンパ節は縮小しているが,その陰影が遺残しているため,著効とは考えられないこと,本件手術後の病理診断において,上記リンパ節について,癌細胞の生存活性の判定は難しく,生存活性のない可能性が高いとはされているものの,癌細胞の消失とまでは診断されていな,,いこと癌細胞は縮小した後に再び増殖することは臨床上経験することでありその場合には生命の危険に結び付くこと,医学文献上,Dのように癌腫が食道周囲臓器に浸潤しているT4の病変については,化学放射線療法のみを行った場合に比べて,同療法後に手術を行った場合の方が治療成績が良く,照射線量60Gyの化学放射線療法後に手術を行うこともあるとされていることが認められる。これらの事情からすれば,上記リンパ節についての化学放射線療法の効果は著効になったとはいえないのであり,本件手術が必要なかったとまではいうことができない。 なお,原告は,上記リンパ節については本件手術が必要であったとしても,Dの食道癌については著効であった以上,食道癌の切除は不要であったとも主張するようである。しかし,内視鏡下の検査で癌細胞が証明されなくても,食道内(粘膜下,筋層,外膜)に癌細胞が遺残している場合 ,Dの食道癌については著効であった以上,食道癌の切除は不要であったとも主張するようである。しかし,内視鏡下の検査で癌細胞が証明されなくても,食道内(粘膜下,筋層,外膜)に癌細胞が遺残している場合があり(乙B12[1644頁,手術におけるわずかなリンパ節の取り残しや放射線治療にお])ける照射野の不足も再発に直結する(甲B11[7頁)とする文献があるこ]と及び遺残した癌細胞が再増殖した場合には,それが確認された段階では根治([],,)手術が不可能な状態もあり得ること乙B121644頁 証人Eによれば,内視鏡検査の結果,Dの食道癌が著効であったとされたとしても,,。 そのことだけから直ちに本件手術の必要性が失われたということはできない- 40 -さらに,前記1(1)で認定した事実及び証拠(甲B4,5,7,13,乙B,,,,),,. 証人Eによれば本件手術の5日前にいったん382℃まで上昇したDの体温は,その後,ボルタレンsp(解熱鎮痛坐剤,P)L顆粒(非ピリン系感冒剤,ペントシリン剤(抗生剤,ダーゼン(抗炎症))剤)が投与されることにより,本件手術の前々日である10月1日,前日である同月2日には36℃台に低下していたこと,10月2日のWBCは2800であり,基準値より低かったが,軽度の低下にすぎず,しかもこれは化学放射線療法に基づく骨髄抑制によるものと考えられたこと,CRP及び好中球は基準値を超えているが,軽度の上昇にすぎないこと,本件手術前のレントゲン検査の結果では,両肺野に本件手術を避けるべきほどの異常はみられなかったこと,被告病院では化学放射線療法からおおむね1か月経過してから手術を行うことが多いが,化学放射線療法から約2か月経過してから本件手術が行われた 肺野に本件手術を避けるべきほどの異常はみられなかったこと,被告病院では化学放射線療法からおおむね1か月経過してから手術を行うことが多いが,化学放射線療法から約2か月経過してから本件手術が行われたことが認められる。そして,E医師の供述(乙B14,15,証人E)では,Dの診療経過に照らして本件手術の直前に呼吸器感染症を疑う所見はなかった。 ,,,,とされているところであるさらにDは本件手術後体温の高値が継続しCRPも上昇し,間質性肺炎のような状態に陥ったと疑われたが,その後,解熱し,CRPも低下し,症状が改善したこと,Dの死因については,症状等に明確でない部分もあるものの,呼吸機能の低下のほかにも,化学放射線療法の(,,合併症である胸水貯留も一因になっていることが認められる乙B1314証人E。これらの事情からすれば,Dの症状から本件手術の適応が否定され)るとまではいうことができない。 なお,J医師の鑑定意見書(甲B16,21)には,転移リンパ節が縮小していたため,その消失が望めることに加え,Dの呼吸器感染症の原因の検索が不十分であることから,本件手術を行ったこと及びその実施時期が不適切であるとし,また,Dの死亡原因は,本件手術の合併症・後遺症によるものであるとする部分があるが,上記認定判断に照らし,採用することができない。 - 41 -以上の事情にかんがみれば,被告病院の担当医師に,本件手術の適応がなかったにもかかわらず,本件手術を強行した注意義務違反があるとはいうことができない。 したがって,原告らの上記主張は採用することができない。 争点(2)(E医師らの説明義務違反の有無)について原告らは,E医師らには,化学放射線療法を受けた後に手術を行った場合には肺炎等の合併症の発生頻度が高くなること,本件では放射線を とができない。 争点(2)(E医師らの説明義務違反の有無)について原告らは,E医師らには,化学放射線療法を受けた後に手術を行った場合には肺炎等の合併症の発生頻度が高くなること,本件では放射線を最大照射線量の60Gy照射しているので,更に合併症の発生頻度が高くなることの説明義務違反がある旨主張する。 しかし,前記1(1),2,3で認定した事実及び医学的知見によれば,E医師は,Dに対し,本件手術前に,本件手術のリスクとして,肺炎,縫合不全,循環不全及び出血などがあること,手術後は胃が小さくなることから食物摂取量が落ちるのが予想されることなどを説明したことが認められる。また,Dの診療経過に照らして本件手術の直前に著しい呼吸器感染症の所見はみられなかったことも前記1(1)で認定したとおりである。そして,医学文献上,Dのように癌腫が食道周囲臓器に浸潤しているT4の病変については,化学放射線療法のみを行った場合に比べて,同療法後に手術を行った場合の方が治療成績が良く,照射線量60Gyの化学放射線療法後に手術を行うこともあるとされていることが認められるところである。さらに,Dは,本件手術後,体温の高値が継続し,CRPも上昇し,間質性肺炎のような状態に陥ったと疑われたが,,,,,,その後解熱しCRPも低下し症状が改善したことDの死因については症状等に明確でない部分があるものの,呼吸機能の低下のほかにも,化学放射線療法の合併症である胸水貯留も一因になっていることが認められる。 これらの事情に加え,前記1(1)のとおり,化学放射線療法を行う前の段階では,Dには手術適応がないと判断されていたのであり,化学放射線療法を行うことが不可欠であったこと,Dの場合,手術適応がないのは,転移リンパ節- 42 -が気管壁を圧排して浸潤していること の段階では,Dには手術適応がないと判断されていたのであり,化学放射線療法を行うことが不可欠であったこと,Dの場合,手術適応がないのは,転移リンパ節- 42 -が気管壁を圧排して浸潤していることが疑われるからであり,転移リンパの腫瘍致死量が70~75Gyであるため,照射線量を最大照射線量の60Gyとする必要があったこと,さらに,E医師らにおいて,Dが本件手術を受けるかどうかの意思決定をするに当たり,原告らの主張する上記情報を重要視するであろうことを予見し,又は予見することができた事情があるとも認められないことからすると,E医師らに,本件手術のリスクとして,肺炎等の合併症があると説明することに加えて,化学放射線療法を受けていない場合や,60Gyより少ない照射線量の化学放射線療法が実施された場合を仮定し,この仮定的な場合に比べ,同療法を受けた場合には,肺炎等の合併症の発生頻度が高くなること,本件では放射線を最大照射線量の60Gyを照射しているので,更に合併症の発生頻度が高くなることについてまでの説明義務があるとまではいうことができない。 したがって,原告らの上記主張は採用することができない。 次に,原告らは,E医師らには,本件手術により嚥下障害が生じるリスクがあること,化学放射線療法後に手術を行った場合,化学放射線療法を行わなかった場合に比べて,嚥下障害が発生する頻度が高いことの説明義務違反がある旨主張する。そして,胸部食道癌術後には反回神経麻痺や頸部瘢痕癒着による喉頭挙上障害による嚥下障害が生じやすいとする文献や,食道切除及びリンパ節郭清等の手術操作の影響による喉頭収縮不全や上部食道昇圧帯機能不全等が要因となって嚥下障害が発生し,咽頭・喉頭の知覚障害もこれに寄与する可能性があり,術後の摂食・嚥下障害の発生率は約30~40%であるとする 手術操作の影響による喉頭収縮不全や上部食道昇圧帯機能不全等が要因となって嚥下障害が発生し,咽頭・喉頭の知覚障害もこれに寄与する可能性があり,術後の摂食・嚥下障害の発生率は約30~40%であるとする文献(,)。 ,(),等がある甲B31 また証人Eの証言同証人調書32頁にも一般に嚥下障害は声門閉鎖不全,喉頭挙上不全に基づくものが多く,頸部食道と胃管との吻合やリンパ節の郭清などの頸部操作によって,周囲の筋肉の収縮不全や機能低下が生じ,嚥下障害が起きることがあり,さらに,左反回神経リンパ節の郭清による反回神経麻痺もその原因となることがあるとする部分があ- 43 -る。 しかし前記1(1)2(3)3で認定した事実及び医学的知見並びに証拠乙,,,(B14,15,証人E,原告B)によれば,Dに本件手術前から左反回神経麻痺があり,本件手術により頸部の左反回神経リンパ節(106recL)が郭清されることが予定されていたことからすると,本件手術により頸部の筋肉等に侵襲が及び,嚥下障害が生じる可能性があることは,一般人にとっても容易に予想し得ると推認されるところであり,手術前には,手術後は胃が小さくなることから食物摂取量が落ちることが予想される旨の説明を受けたものの,D及びその家族である原告らがそれによる摂食障害の程度について質問等をしたと認めるに足りる証拠はない。また,原告Bは,このような一時的な嚥下障害だけであれば手術を拒否する大きな要因とはならないかもしれない旨供述しているところである(同原告本人調書14頁。さらに,被告病院において,食)道癌の切除手術(頸部郭清等の手術操作を含む)後に永続的な嚥下障害が発。 生したのは,本件手術時で,200例以上のうち,わずか1例にすぎず,本件手術後にも更に100例以 に,被告病院において,食)道癌の切除手術(頸部郭清等の手術操作を含む)後に永続的な嚥下障害が発。 生したのは,本件手術時で,200例以上のうち,わずか1例にすぎず,本件手術後にも更に100例以上の食道癌の切除手術が行われているが,本件手術を除き,永続的な嚥下障害が発生したことはないことが認められるところであり,食道癌の切除手術により永続的な嚥下障害が発生する可能性は極めて低いといえる。加えて,E医師らは,上記のとおり,食道癌の切除手術により永続的な嚥下障害が発生するのは極めてまれであり,Dの場合にも,本件手術により一時的な嚥下障害が発生する可能性はあるものの,通常の場合と同様に,リハビリによって嚥下障害は改善するものと考えており(Dは,本件手術により声が出ない時期があったが,リハビリを継続することにより,声が出せるようになったことは前記認定のとおりである,Dに永続的な嚥下障害が発生す。)るとは考えていなかったため,Dに対し,その旨の説明をしなかったであり,Dに永続的な嚥下障害が発生したこと,あるいはDの嚥下障害がリハビリにより改善しなかったことはE医師らにとっても予想外のことであったことが認め- 44 -られる(証人E調書33頁等。 )これらの事情に加え,経口による食事の摂取は,日常生活を営む上で重要な意義を有するものではあるが,本件手術当時67歳であったDの食道癌やそのリンパ節(106recL)への転移が生命への著しい危険を有するの対し,永続的な嚥下障害が発生することはまれであり,しかも,経口による食事の摂取ができないことは,確かにいわゆるQOLを低下させるものではあるが,そのこと自体が生命への重大な危険を意味するものではないことは明らかである。そうすると,E医師らが,本件手術により嚥下障害が発生する可能性はあるが,リ かにいわゆるQOLを低下させるものではあるが,そのこと自体が生命への重大な危険を意味するものではないことは明らかである。そうすると,E医師らが,本件手術により嚥下障害が発生する可能性はあるが,リハビリによって改善する一時的なものであり,永続的な嚥下障害が発生する可能性はほとんどないものと考え,本件手術前にDに対し,永続的な嚥下障害が発生する可能性があることについてまで説明しなかったことには,やむを得ない面があるといえる。 以上のことからすると,E医師らが,本件手術前にDに対し,本件手術のリスクとして,本件手術により嚥下障害が生じるリスクがあること,化学放射線療法後に手術を行った場合,化学放射線療法を行わなかった場合に比べて,嚥下障害が発生する頻度が高いことについて説明をしなかったとしても,そのことをもって,E医師らに説明義務違反があるとまではいうことができない。 したがって,原告らの上記主張は採用することができない。 さらに,原告らは,被告病院のE医師らには,手術をしなくても完治する可能性が十分考えられたことの説明義務違反がある旨主張する。 そして,原告らは,その根拠として,乙B第4号証において,術前化学放射線療法を施した症例に,同療法を経た段階で,手術標本から癌の遺残がないGrade3の変化を認めた例があったことを挙げる。 しかし,乙B第4号証は,化学放射線療法を実施した例のうち,同療法を施した後に食道を切除した例とこれを切除しなかった例の予後を比較すると,切除した例の方が明らかに良好であったことについての医学文献であり,同書証- 45 -によって,原告らの主張を基礎付けることはできない。 また,原告らは,甲B第20号証の1及び2には,化学放射線療法により著効となった患者の生存率データは3年生存率が59%であり,手術成績に匹敵する旨の よって,原告らの主張を基礎付けることはできない。 また,原告らは,甲B第20号証の1及び2には,化学放射線療法により著効となった患者の生存率データは3年生存率が59%であり,手術成績に匹敵する旨の記載があることをその主張の根拠とする。しかし,原告らが援用する甲B第20号証の1は,化学放射線療法により著効となった患者についての医,,,学文献であるところ前記1(1)3で認定した事実及び医学的知見によればDの場合には,左反回神経リンパ節(106recL)についての化学放射線療法の効果は著効と認められなかったのであり,本件手術をしなくても完治する可能性が十分考えられたとまではいえないことが明らかである。加えて,内視鏡下の検査で癌細胞が証明されなくても,食道内(粘膜下,筋層,外膜)に癌細胞が遺残している場合があり,かつ,手術におけるわずかなリンパ節の取り残しや放射線治療における照射野の不足も再発に直結するとする文献があり,遺残した癌細胞が再増殖した場合には,それが確認された段階では根治手術が不可能な状態もあり得ることから,Dの食道癌について化学放射線療法が著効であったとしても,そのことだけから直ちに,本件手術をしなくても完治する可能性が十分に考えられたということができないことは,前記3のとおりである。のみならず,Dは,E医師から,6月6日,今後化学放射線療法を行い,その効果次第で手術を考えることなどについて説明を受けており,化学放射線療法の効果がみられたことから本件手術を受けるために被告病院に再入院した9月19日には,看護師に対し,手術ができてよかったなと思っていると述べたことは,前記1(1)のとおりであり,Dとしても,化学放射線療法の効果がみられた場合には,根治手術をしないで経過観察とするのではなく,根治手術である本件手術を受ける てよかったなと思っていると述べたことは,前記1(1)のとおりであり,Dとしても,化学放射線療法の効果がみられた場合には,根治手術をしないで経過観察とするのではなく,根治手術である本件手術を受けることを希望していたことが認められる。 これらの事情からすれば,原告らが主張するような,本件手術をしなくてもDの食道癌が完治する可能性が十分考えられたとの事実は認められないから,原告らの上記主張はその前提を欠くというべきであり,E医師らに原告らの主- 46 -張するような説明義務があったということはできない。 したがって,原告らの上記主張は採用することができない。 結論 以上のとおりであり,原告らの請求は,その余の争点について判断するまでもなく,いずれも理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第34部裁判長裁判官村田渉裁判官倉澤守春裁判官平野望
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