令和5(ワ)2395 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
令和6年8月9日 大阪地方裁判所
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判決文本文10,777 文字)

- 1 - 主文 1 被告らは、原告に対し、連帯して、220万円及びこれに対する令和3年11月12日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は、これを3分し、その2を被告らの負担とし、その余を原 告の負担とする。 4 この判決は、第1 項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告東大阪市に対する主位的請求及び被告大阪府に対する請求 被告らは、原告に対し、各自330万円及びこれに対する令和3年11月12日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 2 被告東大阪市に対する予備的請求被告東大阪市は、原告に対し、330万円及びこれに対する令和5年3月26日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等 1 事案の要旨⑴ 被告東大阪市に対する主位的請求及び被告大阪府に対する請求原告は、東大阪市立A中学校(以下「本件中学校」という。)に理科担当教師として勤務していた者であるが、同中学校の校長の注意義務違反により長 時間労働を余儀なくされ、適応障害及びうつ病を発症したとして、被告東大阪市に対しては、主位的に、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求として、上記校長の費用負担者である被告大阪府に対しては、国家賠償法3条1項に基づく損害賠償請求として、各自330万円(慰謝料及び弁護士費用)及びこれに対する適応障害を発症した日(不法行為後の日)である令和3年 11月12日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の - 2 - 支払を求めている。 ⑵ 被告東大阪市に対する予備的請求原告は、被告東大阪市に対し、予備的に、被告東大阪市の安全 から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の - 2 - 支払を求めている。 ⑵ 被告東大阪市に対する予備的請求原告は、被告東大阪市に対し、予備的に、被告東大阪市の安全配慮義務違反により長時間労働を余儀なくされ、適応障害及びうつ病を発症したとして、債務不履行に基づく損害賠償請求として、330万円(慰謝料及び弁護士費 用)及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令和5年3月26日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求めている。 2 前提事実(証拠等を掲記した事実以外には争いがない。)⑴ 当事者等ア原告は、平成31年4月から、本件中学校において、理科担当の教師と して勤務している。 イ B(以下「B校長」という。)は、令和3年度において、本件中学校の校長を務めていた。 ウ被告東大阪市は、本件中学校を設置する地方公共団体である。 エ被告大阪府は、B校長の給与等を負担する費用負担者(国家賠償法3条 1項)である。(弁論の全趣旨)⑵ 原告の発病について原告は、令和3年11月12日、Cクリニックを受診し、適応障害、抑うつ状態(以下「本件発症」という。)の診断を受け、令和4年7月、うつ病と診断され、令和5年4月24日まで、合計29日、毎月2回程度の頻度で通 院治療を受けた。(甲4、26)⑶ 所定の労働時間について本件中学校における原告の所定労働時間は、月曜日から金曜日までの5日間において、午前8時30分から午後5時までの7時間45分(休憩時間を除く。)である。原告の休憩時間は、1日の勤務時間が6時間を超える場合に は45分以上、8時間を超える場合には1時間と定められ、校長がこれを午 - 3 - 前11時から午 (休憩時間を除く。)である。原告の休憩時間は、1日の勤務時間が6時間を超える場合に は45分以上、8時間を超える場合には1時間と定められ、校長がこれを午 - 3 - 前11時から午後2時までの間に置くものとされている。原告の休日は、土曜日、日曜日、祝日及び年末年始の6日間とされている。(乙6、7)⑷ 精神疾患の発症に係る公務災害の認定基準について地方公務員災害補償基金作成に係る「精神疾患等の公務災害の認定について」では、令和3年3月10日以降、精神疾患の発症につき、①当該精神疾 患が対象疾病(適応障害を含む。)に該当し、②発症直前の連続した2か月間に1月当たりおおむね120時間以上の、又は発症直前の連続した3か月間に1月当たりおおむね100時間以上の時間外勤務を行ったと認められる場合に該当して強度の精神的又は肉体的負荷を与える事象があったものと判断でき、③業務以外の負荷及び個体的要因により対象疾病を発症したとは認め られないときに公務上の災害として取り扱うとされている。(甲5)⑸ 文部科学省の見解についてア文部科学大臣の諮問機関である中央教育審議会は、平成31年1月25日、「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について」と題する答 申をまとめた。同答申には、教職員の勤務時間管理は、労働法制上、校長及び服務監督権者である教育委員会等に求められている責務であり、また校務分掌の見直し等教職員間の業務の平準化や、超過勤務傾向にある教師について労働安全衛生法に基づく医師等による面接指導を適切に実施する前提となるという面もある旨記載されている。(甲8(19頁)) イまた、文部科学省作成に係る平成31年1月25日 る教師について労働安全衛生法に基づく医師等による面接指導を適切に実施する前提となるという面もある旨記載されている。(甲8(19頁)) イまた、文部科学省作成に係る平成31年1月25日付けの「公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン」には、公立学校の教師の勤務時間の上限の目安として、特別の事情により勤務せざるを得ない場合、特例的に、連続する複数月のそれぞれの期間について、各月の在校時間及び校外で職務に従事している時間(休憩時間を除く。)の総時間から条例等 で定められた各月の勤務時間の総時間を減じた時間の1か月当たりの平均 - 4 - が80時間を超えないようにする旨記載されている。(甲12) 3 争点⑴ B校長が、原告の過重な勤務時間及び勤務内容を軽減することを怠ったとして、国家賠償法1条1項の注意義務違反ないし安全配慮義務違反が認められるか。 ⑵ 義務違反による原告の損害の発生及び額⑶ 過失相殺の可否及び割合 4 争点に関する当事者の主張⑴ 争点⑴について(原告の主張) ア業務の過重性について校内勤務の時間については、IDカードによる出退勤時刻の打刻の記録である「勤務時間管理簿」(甲1。以下「本件管理簿」という。)で、休日等の校外勤務の時間については、自己申告記録である「特殊勤務手当実績簿」(甲2。以下「本件実績簿」という。)で管理されていた。 これらによれば、本件発症直前の原告の時間外勤務時間は、次のとおりになる。 令和3年10月 145時間03分同年9月 162時間53分同年8月 92時間35分 同年7月 173時間12分同年6月 163時間11分同年5月 145時間03分同年9月 162時間53分同年8月 92時間35分 同年7月 173時間12分同年6月 163時間11分同年5月 155時間31分原告の本件発症直前の本件中学校での時間外勤務は、地方公務員災害補償基金が定める公務災害の認定基準における時間外勤務時間(前提事実⑶) を著しく上回るものである。 - 5 - また、原告の公務には、長時間の時間外勤務時間による量的過重性に加えて、中学3年生の学年主任、進路指導主事、学力向上委員、並びに野球部の主顧問としての業務といった質的過重性もあった。 イ注意義務違反ないし安全配慮義務違反B校長は、被告東大阪市の代理監督者として、被告東大阪市が原告に対 して負う心身の健康を損なうことがないようにすべき義務の内容に従ってその権限を行使すべき国家賠償法上の注意義務を負い、被告東大阪市が原告に対して負う安全配慮義務の履行補助者に該当する。 そして、B校長は、原告の長時間勤務について、校務文書をもって認識し又は認識し得た。また、原告は、B校長に対し、令和3年9月下旬頃と 同年10月中旬頃の2度にわたり、業務の軽減を訴え、同年11月1日、精神状態の不良を伝えた。 にもかかわらず、B校長は、原告の勤務時間及び勤務内容を軽減ないし是正する措置をとらなかったのであるから、上記注意義務違反ないし安全配慮義務違反があったといえる。 (被告東大阪市の主張)原告は、第72回大阪中学校優勝野球大会(準硬式)のパンフレット(乙18)の大阪中学校体育連盟(以下「中体連」という。)準硬式野球部の役員の欄に掲載されておらず、上記役員として休日の校外勤務をしたとは考えられない。 B校長 会(準硬式)のパンフレット(乙18)の大阪中学校体育連盟(以下「中体連」という。)準硬式野球部の役員の欄に掲載されておらず、上記役員として休日の校外勤務をしたとは考えられない。 B校長は、原告の進路指導主事の校務につき、原告の前任者及びその他の教師による協力体制を構築し、資料作成等を他の教師に割り振る等の対策を行い、野球部の顧問につき、これを2名とするなどして、原告の執務を助けた。また、被告東大阪市は、全教職員を対象とする産業医面談を周知し、実施するなどしていた。したがって、B校長の注意義務違反ないし被告東大阪 市の安全配慮義務違反は認められない。 - 6 - (被告大阪府の主張)否認ないし争う。 ⑵ 争点⑵について(原告の主張)原告は、本件発症直前の連続した2か月間に1月当たり120時間を超え る時間外勤務を行い、かつ、本件発症直前の連続した3か月間に1月当たりおおむね100時間の時間外勤務があったから、本件発症につき業務起因性が認められ、義務違反と本件発症との間に因果関係が認められる。 本件発症により、原告には以下のとおり損害が生じた。 ア慰謝料 300万円 イ弁護士費用 30万円(被告東大阪市の主張)原告が適応障害によって、どのような精神状態にあったのかは、明らかになっていない。また、本件では、B校長の不作為が問題となるに過ぎず、原告の主張する慰謝料の額は過大である。 (被告大阪府)不知。 ⑶ 争点⑶について(被告東大阪市の主張)原告は、産業医面談を受けず、必要な健康管理をしなかった点に過失があ り、損害額の1割を減額することが相当である。 (原告の主張)被告東大阪市による産業医面談は、不徹底 原告は、産業医面談を受けず、必要な健康管理をしなかった点に過失があ り、損害額の1割を減額することが相当である。 (原告の主張)被告東大阪市による産業医面談は、不徹底な方法で周知され、原告はこれを受ける契機がなかったのであるから、原告が産業医面談を受けなかったことを過失相殺の基礎とすることは、損害の公平な分担の見地から相当でない。 第3 当裁判所の判断 - 7 - 1 認定事実証拠(後掲書証、甲28、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。なお、書証の枝番号を省略することがある。 ⑴ 原告の時間外勤務時間ア本件中学校の教師の勤務時間のうち校内のものについては、教職員が登 校及び下校の際にIDカードを打刻することで作成される本件管理簿(甲1)で管理され、校外のものについては、自ら記載する本件実績簿(甲2)で管理されていた。 イ令和3年5月から同年10月までの間における原告の校内勤務の始業時刻及び終業時刻は、別表「始業時刻」欄及び「終業時刻」欄のとおりであ る。この始業から終業までの時間から、原告の所定勤務時間(平日につき1日7時間45分)及び休憩時間(平日につき1日45分、休日につき勤務時間が6時間を超える場合に1時間)を控除した時間は、別表「時間外労働時間数(①)」欄のとおりである。また、原告の時間休は、別表「①から差し引かれるべき時間休(②)」欄のとおりである。さらに、原告が野球 部の主顧問として行った所定勤務時間外の校外勤務時間は、別表「土日祝日の校外勤務(③)」欄のとおりである。これらを基に計算すると、本件発症前6か月間の各月における原告の時間外勤務時間数は少なくとも次のとおりである(甲1、2)。 令 時間は、別表「土日祝日の校外勤務(③)」欄のとおりである。これらを基に計算すると、本件発症前6か月間の各月における原告の時間外勤務時間数は少なくとも次のとおりである(甲1、2)。 令和3年10月 136時間13分 同年9月 155時間53分同年8月 85時間47分同年7月 165時間55分同年6月 159時間11分同年5月 148時間52分 ⑵ 原告の担当した校務の内容 - 8 - ア原告は、令和3年度、1コマ45ないし50分の理科の授業を週20コマ担当し、その準備及び片付け、試験の採点等を行ったが、このコマ数は、前年度に比べ、4コマ多かった(甲3)。また、原告は、令和3年度、学習指導要領の改訂に伴い、新しい教科書の使用が開始されたことから、新しい教材の作成等による準備の負担が増加した。さらに、原告は、令和3年 度、道徳及び総合学習の授業をそれぞれ週1コマずつ担当していた。 イまた、原告は、令和3年度、進学を控えた中学3年生の学年主任、進路指導主事及び学力向上委員の校務を担うことになり、学年主任の校務として、学年会議の主宰、修学旅行の準備等、進路指導主事として、年2回の保護者説明会の準備及び実施、数十校に及ぶ進学先の高校の担当者への対 応、生徒向けの進路通信の作成等を行っていた。 ウ原告は、平成31年度以降、本件中学校の野球部の主顧問として、月、火、木、金、土曜日の通常練習における指導を行ったほか、副顧問とともに公式戦及び練習試合への引率を行っていた。 また、原告は、本件中学校の休日、本件中学校の野球部顧問として、中 体連の野球大会の運営、抽選会等の仕事 練習における指導を行ったほか、副顧問とともに公式戦及び練習試合への引率を行っていた。 また、原告は、本件中学校の休日、本件中学校の野球部顧問として、中 体連の野球大会の運営、抽選会等の仕事に従事した。なお、原告は、中体連から本件中学校に野球部顧問を行事に出席させるよう依頼する旨の文書が送付されたのを受け、B校長の承認を得た上で上記仕事に従事していた。(甲21、22)⑶ 本件発症の経緯 ア原告は、令和3年9月下旬頃、不眠症状や焦燥感を覚え、仕事に集中できなくなった。そこで、原告は、その頃、B校長に対し、その状況を伝え、担当する授業のコマ数を減らすか、進路指導主事から外してほしい旨申し入れた。B校長は、代わりはいないので踏ん張ってほしいと回答し、原告の授業数や進路指導主事の立場に変化はなかった。 イ原告は、その後、不眠症状、集中力の欠如などの症状が強まったと感じ、 - 9 - 令和3年11月1日、再度B校長と面談し、仕事に全然集中できず限界である旨伝えた。B校長は、原告に対し、同月8日の保護者説明会まで業務を継続してほしい旨回答した。 ウ原告は、保護者説明会を実施した後、同月9日から年休を取得し、同月12日に、Cクリニックを受診し、本件発症の診断を受けた(前提事実⑵)。 エなお、本件中学校では、東大阪市立学校安全衛生協議会が教職員に対して実施する産業医による健康相談が周知され、令和3年度、同健康相談が11回行われたが、原告は、本件発症に至るまで同健康相談を受けていない(乙12の1)。 オ原告は、令和3年12月10日から令和4年1月9日まで、少なくとも 同年3月26日から同年5月22日まで、病気休暇を取得した。原告は、同月23日、病気休職を命じられ、令和5 12の1)。 オ原告は、令和3年12月10日から令和4年1月9日まで、少なくとも 同年3月26日から同年5月22日まで、病気休暇を取得した。原告は、同月23日、病気休職を命じられ、令和5年3月頃まで休職状態であった(乙1ないし5)。 2 原告の時間外勤務時間に係る事実認定の補足説明原告は、本人尋問において、平日は給食中もその後も生徒の指導をしており、 職務から解放される時間はなかった旨供述する一方、お茶を飲む時間はあった旨供述していること、原告の担当した校務の内容(前記1⑵)を踏まえ、平日の休憩時間は、1日当たり所定休憩時間の45分を上回ることはなかったと認めるのが相当である。他方、休日の休憩時間は、原告が土日については適宜休みながら仕事をしていたこと(原告本人)を考慮し、校内及び校外を合わせて 勤務時間が6時間を超える場合に1時間休憩したと認めるのが相当である。 令和3年7月17日の終業時刻については、本件実績簿の終期ではなく、より正確な本件管理簿により認定した。 なお、被告東大阪市は、原告は、中体連準硬式野球部の役員として休日の校外勤務をしていない旨主張する。しかし、原告は、本件実績簿に、部活動の都 度入力するか又は月末に活動予定表を見て記憶を喚起しながら記入しており - 10 - (原告本人)、本件実績簿の記載には相応の信頼がおけること、原告が中体連からの依頼を受け、B校長の承認を得た上で中体連の野球大会の仕事に従事していたこと(前記1⑵ウ)からすれば、中体連の役員の立場としての勤務であるかは措くとしても、本件実績簿のとおり中体連の野球大会の仕事への従事を含む校外勤務があったと認められ、被告東大阪市の上記主張は採用できない。 3 争点⑴(B校長が、原告の過重な勤務時間及び勤務内容 措くとしても、本件実績簿のとおり中体連の野球大会の仕事への従事を含む校外勤務があったと認められ、被告東大阪市の上記主張は採用できない。 3 争点⑴(B校長が、原告の過重な勤務時間及び勤務内容を軽減することを怠ったとして、国家賠償法1条1項の注意義務違反ないし安全配慮義務違反が認められるか。)⑴ 使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心 身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当であり、使用者に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は、使用者の上記注意義務の内容に従ってその権限を行使すべきものである(最高裁平成12年3月24日第二小法廷判決・民集54巻3号1155頁参照)。この理は、地方公共団体とその設置する学校に勤務する地方公務員と の間においても別異に解すべき理由はない(最高裁平成23年7月12日第三小法廷判決・集民237号179頁参照)。したがって、B校長は、原告を含む本件中学校の教師に疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して、心身の健康を損なうことがないように権限を行使すべき注意義務を負うと解される。 ⑵ 原告の業務について ア量的過重性原告の本件発症直前2か月間の時間外勤務時間は、令和3年10月に136時間13分、令和3年9月に155時間53分であり(前記1⑴イ)、公務災害の認定において強度の精神的又は肉体的負荷を与える事象があったものと判断される時間外勤務時間(前提事実⑷)を大きく上回る。ま た、本件発症の3か月前から6か月前までの時間外労働時間も約85時間 - 11 - ないし165時間にのぼり、文部科学省が公立学校の教師の時間外勤務時 前提事実⑷)を大きく上回る。ま た、本件発症の3か月前から6か月前までの時間外労働時間も約85時間 - 11 - ないし165時間にのぼり、文部科学省が公立学校の教師の時間外勤務時間について、特例的に認めた上限の目安(前提事実⑸イ)を著しく上回る。 したがって、原告の公務は、令和3年5月以降、量的に著しく過重であったといえる。 イ質的過重性 原告は、令和3年度、前年度に比べ、週4コマ分多い、週20コマの理科の授業を担当するようになった上、学習指導要領改訂に伴って新しい教材の作成等による授業準備の負担が増加した(前記1⑵ア)。また、原告は、令和3年度、中学3年生の学年主任や進路指導主事として、新たに学年会議の主宰、修学旅行の準備、保護者会の準備、多数の高校の担当者への対 応などを行うことになった(前記1⑵イ)。このように原告の公務は、令和3年度になり、新たな作業が加わり、対外的な折衝や連携を要する事務を多く引き受けるなど、質的にも負荷が増加したといえる。 ⑶ B校長の注意義務違反についてB校長は、令和3年度、本件中学校の校長として、原告の公務の内容、本 件管理簿及び本件実績簿から、前記⑵の原告の勤務時間及び原告に対する負担の増加を認識することができたといえる。また、B校長は、令和3年9月下旬頃、原告から、不眠症状等の状況や、業務量を減らしてほしい旨の要望を伝えられていた(前記1⑶ア)。 にもかかわらず、B校長は、原告の勤務時間を減少させ、校務の分担を軽 減するなどといった具体的な措置を執っておらず、むしろ、従来どおり公務を続行するよう指示した(前記1⑶ア及びイ)。したがって、B校長は、遅くとも令和3年9月下旬頃、著しく過重であった原告の公務を軽減するなどして、原告に疲労や心理的負荷等 らず、むしろ、従来どおり公務を続行するよう指示した(前記1⑶ア及びイ)。したがって、B校長は、遅くとも令和3年9月下旬頃、著しく過重であった原告の公務を軽減するなどして、原告に疲労や心理的負荷等が過度に蓄積し、心身の健康を損なうことがないようにすべき職務上の注意義務に違反したといえる。 この点、被告東大阪市は、B校長が進路指導主事の公務につき他の教師に - 12 - 資料作成等を割り振るなどの対策をした旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない上、仮にそのような対策がされたとしても、原告の令和3年10月の時間外勤務時間が136時間を超えたこと(前記1⑴)に照らし、原告の公務を軽減する措置として不十分であって、上記注意義務違反の判断は左右されない。 ⑷ 以上より、B校長は、国家賠償法1条1項の職務上の注意義務に違反したと認められる。 4 争点⑵(義務違反による原告の損害の発生及び額)ア本件発症直前の6か月の原告の公務は、公務災害の認定において強度の精神的又は肉体的負荷を与える事象であると優に判断されるような量的に著し く過重なもので、質的にも過重なものであったことは前記3⑵のとおりである。そして、原告において、本件発症前、公務以外に本件発症の原因となり得るような負荷又は要因があったなどの事情は窺えないから、本件発症は、原告の公務に内在する危険が現実化したものとして、公務起因性が認められ、B校長の注意義務違反と本件発症には相当因果関係が認められる。 イ本件発症に至るまでの原告の業務量に加え、原告が令和3年11月12日から令和5年4月24日まで約1年半にわたり、毎月2回程度の通院治療を受け、この間、約13か月にわたり病気休暇又は病気休職を余儀なくされたこと(前提事実⑵、前記1⑶オ)、 原告が令和3年11月12日から令和5年4月24日まで約1年半にわたり、毎月2回程度の通院治療を受け、この間、約13か月にわたり病気休暇又は病気休職を余儀なくされたこと(前提事実⑵、前記1⑶オ)、その他本件に顕れた一切の事情を考慮すれば、本件発病による原告の精神的苦痛を慰謝するに足りる慰謝料の金額は2 00万円と認めるのが相当である。 また、B校長の義務違反行為と相当因果関係のある弁護士費用は、20万円と認めるのが相当である。 5 争点⑶(過失相殺の可否及び額)原告は、本件発症に至るまで、産業医による健康相談を受けていない(前記 1⑶エ)。しかし、原告には不眠症状等を自覚した令和3年9月下旬まで上記健 - 13 - 康相談を受ける具体的契機があったとはいえず、むしろ、被告東大阪市の教育委員会及びB校長において、原告に対する産業医による面接指導を適切に実施することが求められるところ(前提事実⑸ア)、前記1⑶ア及びイのとおり、原告が令和3年9月下旬頃にB校長に自覚症状を伝え、業務量の軽減を求めても、B校長から公務の続行を命じられたという経緯に鑑みれば、原告が上記健康相 談を受けなかったことをもって原告に過失があったということはできない。したがって、被告東大阪市の過失相殺の主張は採用できない。 6 まとめ以上によれば、B校長について、国家賠償法1条1項の職務上の注意義務違反による過失が認められ、同項の違法性もあると評価できるから、被告東大阪 市は同項に基づき、B校長の費用負担者(前提事実⑴)である被告大阪府は同法3条1項に基づき、原告に対し、連帯して、220万円及びこれに対する遅延損害金を支払う義務を負う。 なお、被告東大阪市に対する安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく 被告大阪府は同法3条1項に基づき、原告に対し、連帯して、220万円及びこれに対する遅延損害金を支払う義務を負う。 なお、被告東大阪市に対する安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償請求(予備的請求)に係る損害額が上記認容額を超えると認めら れないのは前記4のとおりであるから、同請求のうち上記認容額を超える部分は理由がない。 第4 結論以上によれば、原告の被告東大阪市に対する主位的請求及び被告大阪府に対する請求は、被告らに対し、連帯して、220万円及びこれに対する令和3年 11月12日から支払済みまで年3%の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、その限りで認容し、その余の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第25民事部 裁判長裁判官小川嘉基 - 14 - 裁判官岡田恵梨 裁判官北岡佑太 - 15 - (別紙の掲載省略)

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