主文 被告人を懲役3年に処する。 この裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予する。 理由 (犯罪事実) 第1 被告人は、株式会社A銀行(以下、単に「A銀行」という。)B支店に開設された自己名義の普通預金口座(以下、「被告人口座」という。)に、山口県C町(以下、「C町」という。)が住民税非課税世帯等に対する臨時特別給付金として4630万円を誤って振込入金したこと(以下、振り込まれた4630万円のことを「本件誤振込金」という。)を利用して、電子計算機を使用し、被告人口 座を決済口座とするA銀行発行の被告人名義のA-Dデビットカード情報(以下、「デビットカード情報」という。)を利用して、オンラインカジノサービスの決済代行業者で、A-Dデビットカードの加盟店であるEにオンラインカジノサービスの利用料金の支払いをすることによりこれを利用し得る地位を得ようと考えて、以下の行為をした。 被告人は、別表1の「操作日時(令和4年・頃)」欄記載の日時に、別表1の「操作場所」欄記載の場所において、インターネットに接続した携帯電話機を操作して、オンラインカジノサイトにアクセスした上、同サイトの決済システムを利用し、東京都多摩市内に設置されたA銀行のデビット取引に係る決済代金の支払等の事務処理に使用される電子計算機に対し、被告人口座に振り込まれた本件誤振込金に つき、誤って振り込まれた被告人に無関係なものであることを認識しているものの、その旨をA銀行に告知していないため、本件誤振込金についてデビットカード情報を利用して決済代金の支払委託等をすることが許されないにもかかわらず、デビットカード情報を利用し、別表1の「振込金額(円)」欄記載の金額の振込を依頼する旨の虚偽の情報を与え、別 てデビットカード情報を利用して決済代金の支払委託等をすることが許されないにもかかわらず、デビットカード情報を利用し、別表1の「振込金額(円)」欄記載の金額の振込を依頼する旨の虚偽の情報を与え、別表1の「被害日時(令和4年・頃)」欄記載の 日時に、オンラインシステムにより、前記電子計算機に接続されている磁気ディス クに記録されたA銀行本店に開設されたDデビット資金精算口口座の預金残高を別表1の「振込金額(円)」欄記載の金額分増加させて財産権の得喪、変更に係る不実の電磁的記録を作るなどし、よって、合計アメリカ合衆国2万4000ドル余り相当の前記オンラインカジノサービスを利用し得る地位を得て、もって財産上不法の利益を得た。 第2 被告人は、前記第1のとおり、C町がA銀行B支店に開設された被告人口座に本件誤振込金を振り込んだことを利用して、電子計算機を使用して被告人口座の預金からオンラインカジノサービスの決済代行業者にその利用料金の支払いをすることによりこれを利用し得る地位を得ようと考え、以下の行為をした。 1 被告人は、別表2の「操作日時(令和4年・頃)」欄記載の日時に、別表2の 「操作場所」欄記載の場所において、インターネットに接続した携帯電話機を操作して、A銀行が提供するインターネットバンキングにアクセスし、東京都多摩市内に設置されたA銀行の預金残高管理、振替、振込等の事務処理に使用される電子計算機に対し、被告人口座に振り込まれた本件誤振込金につき、誤って振り込まれた被告人には無関係な振込金であることを認識しているものの、その旨 をA銀行に告知していないため、本件誤振込金について振込依頼等をすることが許されないにもかかわらず、被告人口座からF銀行株式会社G支店に開設された株式会社H名義の普通預金口座に のの、その旨 をA銀行に告知していないため、本件誤振込金について振込依頼等をすることが許されないにもかかわらず、被告人口座からF銀行株式会社G支店に開設された株式会社H名義の普通預金口座に別表2の「振込金額(円)」欄記載の金額の振込を依頼する旨の虚偽の情報を与え、別表2の「被害日時(令和4年・頃)」欄記載の日時に、オンラインシステムにより、栃木県芳賀郡a町bc番d号にあ るI信託銀行Jセンターに設置された電子計算機に接続されている磁気ディスクに記録された株式会社H名義の普通預金口座の預金残高を別表2の「振込金額(円)」欄記載の金額分増加させて財産権の得喪、変更に係る不実の電磁的記録を作るなどし、よって、前記オンラインカジノサービスを合計3592万4691円相当分利用し得る地位を得て、もって財産上不法の利益を得た。 2 被告人は、令和4年4月12日午前0時14分頃、山口県内、島根県内又はそ の周辺において、インターネットに接続した携帯電話機を操作して、A銀行が提供するインターネットバンキングにアクセスし、東京都多摩市内に設置された同銀行の預金残高管理、振替、振込等の事務処理に使用される電子計算機に対し、被告人口座に振り込まれた本件誤振込金につき、誤って振り込まれた被告人には無関係な振込金であると認識しているものの、その旨をA銀行に告知してい ないため、本件誤振込金について振込依頼等をすることが許されないにもかかわらず、被告人口座からF銀行株式会社G支店に開設されたK有限会社名義の普通預金口座に300万円の振込を依頼する旨の虚偽の情報を与え、同日午前0時18分頃、オンラインシステムにより、栃木県芳賀郡a町bc番d号にあるI信託銀行Jセンターに設置された電子計算機に接続されている磁気ディスク に記録 依頼する旨の虚偽の情報を与え、同日午前0時18分頃、オンラインシステムにより、栃木県芳賀郡a町bc番d号にあるI信託銀行Jセンターに設置された電子計算機に接続されている磁気ディスク に記録されたK有限会社の普通預金口座の預金残高を300万円増加させて財産権の得喪、変更に係る不実の電磁的記録を作るなどし、よって、前記オンラインカジノサービスを300万円相当分利用し得る地位を得て、もって財産上不法の利益を得た。 3 被告人は、令和4年4月12日午後5時9分頃、山口県萩市大字ef番地gに ある株式会社LM店において、インターネットに接続した携帯電話機を操作して、A銀行が提供するインターネットバンキングにアクセスし、東京都多摩市内に設置されたA銀行の預金残高管理、振替、振込等の事務処理に使用される電子計算機に対し、被告人口座に振り込まれた本件誤振込金につき、誤って振り込まれた被告人には無関係な振込金であると認識しているものの、その旨をA銀行 に告知していないため、本件誤振込金について振込依頼等をすることが許されないにもかかわらず、被告人口座から株式会社N銀行O支店に開設された有限会社P名義の普通預金口座に400万円の振込を依頼する旨の虚偽の情報を与え、同日午後5時11分頃、オンラインシステムにより、神奈川県大和市内に設置された電子計算機に接続されている磁気ディスクに記録された有限会社P名 義の普通預金口座の預金残高を400万円増加させて財産権の得喪、変更に係 る不実の電磁的記録を作り、よって、前記オンラインカジノサービスを400万円相当分利用し得る地位を得て、もって財産上不法の利益を得た。 (証拠の標目)省略(法令の適用に関する補足説明) 1 弁護人は、C町から本件誤振込金が被告人口座に振り込まれた時点 ビスを400万円相当分利用し得る地位を得て、もって財産上不法の利益を得た。 (証拠の標目)省略(法令の適用に関する補足説明) 1 弁護人は、C町から本件誤振込金が被告人口座に振り込まれた時点で、被告人 はA銀行に対し本件誤振込金相当額の預金債権を有しており、判示各事実の被告人がインターネットに接続した携帯電話機からA銀行の電子計算機に情報を与える行為(以下、「本件送金行為等」という。)は、その預金債権の正当な権利行使に過ぎないから、電子計算機に虚偽の情報を与えておらず、不法の利益を得ていない旨主張するが、裁判所は、本件送金行為等は、いずれも電子計算機に虚偽の情 報を与えるもので、その結果、被告人は不法の利益を得ていると判断したので、この点について説明をする。 2 関係証拠によれば、C町職員が、令和4年4月8日に本件誤振込金を被告人口座に振り込んだ事実が認められるところ、最高裁判所第二小法廷平成8年4月26日判決を前提とすると、この時点で、被告人とA銀行との間に本件誤振込金相 当額の普通預金契約が成立し、被告人がA銀行に対し本件誤振込金相当額の預金債権を有していたものと認めることができる。 3 検察官は、このような被告人とA銀行との権利関係を踏まえ、最高裁判所第二小法廷平成15年3月12日決定(以下、「平成15年判例」という。)を引用し、被告人にはA銀行に対し誤った振込みがあることを告知すべき義務(以下、これ を単に「告知義務」という。)があり、被告人はこれに違反して本件送金行為等に及んでいるのであるから、本件送金行為等は正当な権利行使ではない旨主張している。裁判所は、この検察官の主張は、その法的根拠や実質的理由が明確にはされていないものであるが、結論においては正当なものと考えた。以下、理由を述べる。 行為等は正当な権利行使ではない旨主張している。裁判所は、この検察官の主張は、その法的根拠や実質的理由が明確にはされていないものであるが、結論においては正当なものと考えた。以下、理由を述べる。 (1) 被告人に告知義務があるかについて ア被告人は、本件送金行為等に及ぶまでの間に、被告人口座に本件誤振込金が振り込まれていることを知っていたのであるから、平成15年判例に従うと、信義則上、被告人には、本件送金行為等の時点でA銀行に対する告知義務があったものといえる。 イこの点、弁護人は、被告人が本件送金行為等に及ぶまでの間に、A銀行も被 告人口座に本件誤振込金が振り込まれた事実を把握していたのであるから、本件送金行為等の時点で、被告人にA銀行に対する告知義務を認めることはできない旨主張する。 しかし、平成15年判例は、誤って受取人口座に金銭が振り込まれた場合、これを知った被仕向銀行が、自行の口座入金手続に過誤がないかを調査し、さ らに、仕向銀行及び仕向銀行を通じて振込依頼人に照会するなどした上、振込依頼人に過誤があり組戻しを求められれば、受取人の承諾を得た上で組戻しの手続を採るというのが銀行実務(以下、「調査等手続」という。)であることを前提として、誤って受取人口座に金銭が振り込まれた場合に、関係者間での無用な紛争の発生を防いだり、あるいは、被仕向銀行が振込依頼人と受取人 との間の紛争等に巻き込まれないようにすることで振込送金制度の円滑な運用を維持するために、被仕向銀行に調査等手続を採る利益を認めるとともに、その利益を実質的なものとするために、受取人口座に誤った振込みがあったことを受取人が知った場合には、信義則に基づき受取人に被仕向銀行に対する告知義務を課することを内容としているものである。 、その利益を実質的なものとするために、受取人口座に誤った振込みがあったことを受取人が知った場合には、信義則に基づき受取人に被仕向銀行に対する告知義務を課することを内容としているものである。 このような平成15年判例の趣旨に照らすと、仮に、既に被仕向銀行が受取人口座に誤った振込みがあったことを知っているという事情があったとしても、被仕向銀行としては、関係者間での無用な紛争の発生を防いだり、あるいは、被仕向銀行が振込依頼人と受取人との間の紛争等に巻き込まれないようするために、誤って受取人口座に振り込まれた金銭についてどのように処理 をするのが相当かを早期に検討する必要があるといえる。そして、その検討の ためには、受取人口座に誤って振り込まれた金銭について、その原因行為の有無等につき受取人がどのように認識しているのかをなるべく早期に被仕向銀行が知る必要がある。そうすると、被仕向銀行が受取人口座に誤った振込みがあることを既に知っていたとしてもなお、受取人には被仕向銀行に対する告知義務があるというべきである。この点についての弁護人の主張は理由がな い。 ウまた、弁護人は、本件のようなインターネットバンキングでの取引で人を介さず電子計算機に情報を入力する場合に、受取人に告知義務があるのか疑問である旨も主張しているが、前記のとおりの平成15年判例の趣旨に照らすと、受取人口座に誤った振込みがあったことを受取人が知った以上、受取 人に告知義務が認められると考えるべきであり、このことは被仕向銀行の窓口で取引する場合であろうと、インターネットを通じて電子計算機に情報を入力して取引する場合であろうと変わりはない。この点についての弁護人の主張も理由がない。 (2) 告知義務に違反している被告人が本件送金行為等を行うこと と、インターネットを通じて電子計算機に情報を入力して取引する場合であろうと変わりはない。この点についての弁護人の主張も理由がない。 (2) 告知義務に違反している被告人が本件送金行為等を行うことは許されるか。 ア平成15年判例が、誤って受取人口座に金銭が振り込まれた場合に、これを知った受取人に告知義務を認めた趣旨に照らすと、受取人は、誤って受取人口座に金銭が振り込まれた事実を知った後、直ちにこれを被仕向銀行に告知しなければならないと解するべきである。被告人は、本件送金行為等に至るまで、A銀行に対し被告人口座に本件誤振込金が振り込まれていたことを 告知しておらず、被告人は、告知義務に違反している状態で本件送金行為等を行ったといえる。 イ次に、告知義務に違反している受取人が、誤って受取人口座に振り込まれた金銭分の預金について権利行使ができるかが問題となる。 前記(1)記載のとおり、平成15年判例が、誤って受取人口座に金銭が振り 込まれた場合に、これを知った被仕向銀行に調査等手続を採る利益を認めて いることを考えると、告知義務に違反している受取人が、被仕向銀行が調査等手続を完了するまでの間に、誤って受取人口座に振り込まれた金銭分の預金について権利行使をすることを許せば、被仕向銀行に調査等手続を採る利益を認め、受取人に告知義務を認めておきながら、一方で、その告知義務に違反する受取人が被仕向銀行の調査等手続を採る利益を侵害する行為を許すこと になり、前記のとおりの平成15年判例の趣旨を没却することになる。そうすると、平成15年判例が信義則に基づいて受取人に告知義務を認めたのと同様、告知義務に違反している受取人が、誤って受取人口座に振り込まれた金銭分の預金について権利行使をすることは、信義則に基づき許され ると、平成15年判例が信義則に基づいて受取人に告知義務を認めたのと同様、告知義務に違反している受取人が、誤って受取人口座に振り込まれた金銭分の預金について権利行使をすることは、信義則に基づき許されないというべきである。 よって、本件送金行為等は正当な権利行使とはいえない。 4 一方、本件送金行為等の際、被告人がインターネットに接続した携帯電話機に、本件送金行為等に関する情報を入力している(以下、「本件各入力行為」という。)ことは明らかである。そして、本件各入力行為によって入力された情報は、被告人が直接入力した被告人口座の情報等だけでなく、その前提として、本件送金行為 等が正当な権利行使であるという情報も含まれているものと解される。そうすると、本件送金行為等が正当な権利行使でないにもかかわらず、本件送金行為等が正当な権利行使であるという情報をA銀行の電子計算機に与えているのであるから、本件各入力行為は、電子計算機使用詐欺罪の「虚偽の情報を与えた」に該当する。そして、虚偽の情報を与えた結果、被告人は判示のとおりのオンラインカジノ サービスを利用し得る地位を得ているのであるから、「財産上不法の利益を得た」にも該当する。 以上のとおりであるから、判示各事実には、いずれも電子計算機使用詐欺罪が成立する。 5 なお、被告人口座に本件誤振込金が振り込まれる直前には、被告人自身がC町 から受け取った臨時特別給付金10万円を含め、被告人口座に10万665円の 預金があったことが認められる。本件誤振込金が振り込まれたことにより、本来被告人が処分可能であった預金についてまでその処分ができなくなるのは不当であることを考えると、令和4年8月26日付け起訴状添付の別表番号1の振込金額のうち前記預金分の権利行使については正当 り、本来被告人が処分可能であった預金についてまでその処分ができなくなるのは不当であることを考えると、令和4年8月26日付け起訴状添付の別表番号1の振込金額のうち前記預金分の権利行使については正当なものとして認めるべきである。 判示第1の別表1番号の振込金額については前記預金分を除く57万8302円 の限度で認めるのが相当であり、これによって被告人が得た財産上不法な利益もアメリカ合衆国2万4000ドル余り相当のオンラインカジノサービスを利用し得る地位にとどまると考えた。 (法令の適用)罰条 被告人の判示第1及び第2の1の各行為は、各別表の番号ごとにいずれも刑法246条の2に該当する。 被告人の判示第2の2及び3の各行為は、いずれも刑法246条の2に該当する。 併合罪の処理 判示各罪は刑法45条前段の併合罪であるから、同法47条本文、10条により犯情の最も重い判示第2の3の罪の刑に法定の加重をする。 宣告刑の決定以上のとおり加重した刑期の範囲内で、被告人を懲役3年に処する。 刑の執行猶予 情状により刑法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予する。 訴訟費用の処理訴訟費用は、刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させない。 (量刑の理由) 本件各犯行が財産犯である以上、量刑の上では被害額が重要であると考えられるところ、本件各犯行の被害額は4600万円余りと非常に多額である。また、被告人はオンラインカジノで遊興する地位を得るために本件各犯行に及んでいるのであり、犯行に至る経緯にも酌むべき点は一切ない。C町から本件誤振込金が被告人口座に振り込まれた後、被告人口座に本件誤振込金が振り込まれる前の権利関係に戻すた め、C町職員が 犯行に及んでいるのであり、犯行に至る経緯にも酌むべき点は一切ない。C町から本件誤振込金が被告人口座に振り込まれた後、被告人口座に本件誤振込金が振り込まれる前の権利関係に戻すた め、C町職員が被告人に対し組戻しに応じるように働きかけたにもかかわらず、これに応じることなく本件各犯行に及んでいるのであって、法規範を軽視する態度も看取でき、この点は責任加重要素とすらいえる。このような犯情事実のみを考えれば、本件は被告人を実刑に処するべき事案である。 他方、被告人自身が負担した部分は一部に過ぎないものの、本件各犯行の被害額 全額が実質的な被害者であるC町に補填されている。前記のとおり、被害額が大きいことが本件各犯行の違法性の高さを示す大きな要素であることを考えると、本件各犯行後の事情とはいえ、本件各犯行の被害額全額が補填されたことで違法性は相当程度減少すると評価するのが相当であり、これにより被告人に対する刑に執行猶予を付けることも考え得ることとなる。そして、被告人が本件各公訴事実をいずれ も認めて、反省の言葉を述べていること、被告人に前科がないことなどの一般情状を考慮すれば、被告人に対する刑には執行猶予をつけるのが相当である。 よって、主文のとおりに判決をする。 (検察官大谷栄治、河上悠里、国選弁護人山田大介各出席)(求刑-懲役4年6か月) 令和5年3月6日山口地方裁判所第3部 裁判官小松本卓
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