- 1 -主文 本件控訴に基づき,原判決中控訴人(附帯被控訴人)敗訴の部分を取り消す。 被控訴人(附帯控訴人)の請求を棄却する。 本件附帯控訴を棄却する。 被控訴人(附帯控訴人)は,控訴人(附帯被控訴人)に対し,995万0315円及びこれに対する平成17年1月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人(附帯控訴人)の負担とする。 事実 及び理由第1当事者の求める裁判 控訴の趣旨主文第1項及び第2項と同旨 附帯控訴の趣旨原判決主文第2項を次のとおり変更する。 控訴人(附帯被控訴人。以下「控訴人」という)は,被控訴人(附帯控訴人。以。 下「被控訴人」という)に対し,755万6407円,平成16年12月5日限り。 98万8132円,平成17年6月15日限り87万8926円及び平成16年10月から本判決確定に至るまで毎月22日限り46万8592円を支払え。 被控訴人の原審における請求の趣旨(1)被控訴人が,控訴人に対し,雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。 (2)控訴人は,被控訴人に対し,平成15年10月から本判決確定に至るまで,毎月22日限り48万2592円,毎年3月15日限り21万4270円,毎年6,。 月15日限り96万6651円毎年12月5日限り91万3919円を支払え第2事案の概要 本件は,控訴人の経営する専門学校に教師として雇用されていた被控訴人が,勤務中に職場のパソコンを利用して,いわゆる出会い系サイトに登録し,大量の私用メールのやり取りを続けていたなどとして,控訴人が被控訴人を懲戒解雇したのに対し,被控訴人が,これは解雇権の濫用であって無効であるとして,控訴人に対し,雇用契約上の地位の確認,未払賃金及び未払賞与 メールのやり取りを続けていたなどとして,控訴人が被控訴人を懲戒解雇したのに対し,被控訴人が,これは解雇権の濫用であって無効であるとして,控訴人に対し,雇用契約上の地位の確認,未払賃金及び未払賞与の支払を求める事案である。 原審は,控訴人による懲戒解雇は解雇権の濫用であって無効であるとして,被控訴人の雇用契約上の地位を確認するとともに,未払賃金及び未払賞与の支払請求を一部認容したため,控訴人がこれを不服として控訴を提起し,被控訴人の請求を棄却する,,裁判を求めるとともに原判決の仮執行宣言に基づいて支払った金員の返還等を求めこれに対して,被控訴人は附帯控訴を提起し,原審が棄却した分のうち平成17年6月分の賞与についての請求の認容を求めた。 争いのない事実等,争点及びこれに関する当事者の主張は,当審において当事者が後記3のとおり主張を追加したほかは,原判決の「事実及び理由」の「第2事案の概要」の「1争いのない事実等「2争点」及び「3当事者の主張」に記載」,- 2 -のとおりであるから,これを引用する(ただし,原判決3頁7行目の「出席」を「出勤」と,同5頁6行目の「出席停止」を「出勤停止」とそれぞれ改める。 。) 当審において当事者が追加した主張(控訴人の主張)原審は,控訴人に対し,被控訴人の未払賃金等の支払を命じるとともに,同部分につき仮執行宣言を付したため,控訴人は被控訴人に対し,控訴人が民訴法260条2項の申立てを行う権利を留保したうえで,平成17年1月20日,平成16年12月末日までに期限の到来した995万0315円を支払った。 よって,控訴人は被控訴人に対し,民訴法260条2項に基づき,上記金員の返還及びこれに対する平成17年1月21日から支払済みまで年5分の割合による損害金の支払を求める。 (被控訴人の主 を支払った。 よって,控訴人は被控訴人に対し,民訴法260条2項に基づき,上記金員の返還及びこれに対する平成17年1月21日から支払済みまで年5分の割合による損害金の支払を求める。 (被控訴人の主張)(1)控訴人が主張するとおり,控訴人が被控訴人に対し,995万0315円を支払った事実は認める。 (2)被控訴人の平成17年6月分の賞与として,同月15日に87万8926円が支払われるべきことが確定している。 第3当裁判所の判断 原判決の引用部分下記(1)及び(2)のとおり加除訂正したうえで,原判決の「事実及び理由」の「第3当裁判所の判断」の1(1)及び(2)アにおける理由説示を引用する。 (1)14頁1行目から8行目までを「この間の平成13年5月19日及び同月20日には,それぞれ異なるメール相手から「学校のパソコンで,女性とメールし,て問題とかないんですか?」とか「学校名だしてだいじょうぶ?」などと,私,用メールをすることについての危倶を表したメールを受け取っていたにもかかわらず(乙4,14の1及び2,被控訴人は,その後も控訴人学校のパーソナル)コンピューターを使用し,本件メールアドレスを用いて,それまでと同様のメールの送受信を繰り返していた」と改める。 。 (2)19頁6行目の「懲戒解雇事由に」から7行目の文末までを「懲戒解雇事由に該当するものと認められる」と改める。 。 当審において付加する部分(1)前記のとおり,被控訴人が受送信したメールには性的な関係を持つことを露骨に求めるものは少なく,日常の出来事に関する雑談に類するようなたわいもないものがほとんどであったとしても,被控訴人は,控訴人学校から貸与されたパーソナルコンピューターを使用し,本件メールアドレスを用いて平成12年12月18日ころからaとの間で私 類するようなたわいもないものがほとんどであったとしても,被控訴人は,控訴人学校から貸与されたパーソナルコンピューターを使用し,本件メールアドレスを用いて平成12年12月18日ころからaとの間で私用メールのやり取りを繰り返し,その後も,多数の出会い系サイトに登録し,同サイトで知り合った女性(又は女性を名乗る者)との間でメールのやり取りを繰り返していたものであり,その回数も,ハードディスクに保存されていたものだけでも,平成10年9月21日から平成15年9月3日までの間の受信記録は1650件余,平成11年5月18日から平成15年9月4日までの送信記録も1330件余にのぼっており,そのうちのa及び出会- 3 -い系サイトでの受送信分も各800件以上という膨大な件数に達していて,しかも,その約半数程度が勤務時間内に受送信され,また,被控訴人が控訴人学校からパーソナルコンピューターを引き上げた平成15年9月から夏休みを挟んだ同年6月中に限ってみても,同パーソナルコンピューターによる送受信メールは各約100件ずつあり,しかも,そのほとんどがbとの私的なメールのやり取りであって,業務に関連するものはほとんどなく,連日のように複数回メールを送信し,その多くが勤務時間内に行われていたものであるなど,被控訴人の行っていた私用メールは,控訴人学校の服務規則に定める職責の遂行に専念すべき義務等に著しく反し,その程度も相当に重いものというほかない。 また,被控訴人は,たわいのないメールの送受信にとどまらず,その発信元が控訴人学校のパーソナルコンピューターであることを推知し得る本件メールアドレスを用い,しかも,前記のとおり,複数のメール相手から控訴人学校のパーソナルコンピューターを使用していることについての危倶を示されていたにもかかわらず,平成15年7月18日 知し得る本件メールアドレスを用い,しかも,前記のとおり,複数のメール相手から控訴人学校のパーソナルコンピューターを使用していることについての危倶を示されていたにもかかわらず,平成15年7月18日には「自分はMじゃないかな?またはMですよ,って思っている女性の方,先ずはお互いを十分理解するまでメール交換しましょう。話を重ねていく中でお互いの信頼が確立するまではプレーには入りませんし貴女の嫌がる行為は基本的にしません。ソフトでもハードでもご要望にお答えしますので,勇気を出して先ずメールを下さい。秘密厳守しますので安心して下さい」との,同年8月6日には「M嬢を探しています。経験,年齢は一切問い。 ,ませんので少しでも興味があればメール下さい。お互いの感性を知ることが大切ですのでメールからゆっくり始めましょう。感性が合うM嬢と良きパートナーの関係が築けるようにお互いに努力して行きたいと思っています。SMに少しでも興味があってマゾっ気の女性であればどなたでもどうぞメール待っています」。 との露骨に性的関係を求める内容のメールを送信し,しかも,上記メールは同年,,9月16日まで削除されることなく第三者も閲覧可能な状態にあったのでありかかる被控訴人の行為は著しく軽率かつ不謹慎であるとともに,これにより控訴人学校の品位,体面及び名誉信用を傷つけるものというべきである。 さらに,被控訴人は,bとはメールのやり取りにとどまらず,私用メールで出張の際に会うための打ち合わせをし,実際に食事を共にするなどしていたものであり(乙15の1ないし17,かかる被控訴人の行為も,同様に控訴人学校に)おける職責を怠り,その名誉を傷つけるものとして軽視することはできない。 (2)以上に対し,被控訴人は,本件投稿に基づくメールのやり取りは,紹介者(SM業者)との間 の行為も,同様に控訴人学校に)おける職責を怠り,その名誉を傷つけるものとして軽視することはできない。 (2)以上に対し,被控訴人は,本件投稿に基づくメールのやり取りは,紹介者(SM業者)との間の送受信が数回あるに過ぎず,実際にメールの相手先の女性と交際をするなどしたことはない,被控訴人は,学生に対する授業や就職関係の事務を特に疎かにしたことはない,控訴人学校にはパーソナルコンピューターに関する使用規程はなく,他の職員もこれを少なからず私的に利用していた,被控訴人にはこれまでに大きな処分歴はなく,本件後,心から反省悔悟しており,また,被控訴人の同僚も寛大な処分を求めている,本件懲戒解雇に当たっては,被控訴人等に対して関係資料が開示されず,また,弁明の機会も与えられなかった,本件懲戒解雇は,具体的な被害事実もないのに,信用の失墜との専断のもとにされ- 4 -た均衡を失する不公平,不公正なものであり,これは,過去に被控訴人が中心となって校長の着任に異議を唱えた事件を強く意識し,不当に重く処分されたものであるとともに,同解雇は,出勤停止の処分のうえ,重ねて下された過酷な処分であり,その結果,被控訴人は約1200万円以上にもなる退職金の支払を受けることもできなくなる,などと主張する。 しかし,被控訴人は,控訴人学校のものであることを推知し得る本件アドレスを用いてSMの相手を求める旨の内容のメールを送信していたものであり,かかるメールが第三者に閲覧可能な状態におかれただけで控訴人学校の名誉等を傷つけ得るものであって,このことは,上記メールを通じて被控訴人が現実に交際をしたか否かとは関わりのないところであるし,控訴人との雇用契約に基づき,被控訴人は勤務時間中,控訴人学校の職務に専念すべき義務を負っていたものと認められるにもかかわらず,被控訴人 訴人が現実に交際をしたか否かとは関わりのないところであるし,控訴人との雇用契約に基づき,被控訴人は勤務時間中,控訴人学校の職務に専念すべき義務を負っていたものと認められるにもかかわらず,被控訴人は,前記のとおり,長期間にわたり,膨大な量の私用メールを勤務時間中に送受信していたものであり,その分の時間と労力を本来の職務に充てれば,より一層の成果が得られたはずであって,かかる職務専念義務を軽視し得ないほどに怠っておきながら,事務を疎かにしなかったなどということはできない。 また,勤務時間中,職務に用いるために貸与されたパーソナルコンピューターを用いた私用メールのやり取りを長期間にわたり,かつ膨大な回数にわたって続けることが許容されるはずがないことは誰にでも分かる自明のことであって,控訴人学校がパーソナルコンピューターの使用規程を設けていたか否かによって,その背信性の程度を異にするものということはできないし,被控訴人以外の控訴人学校の職員の中に,少なくとも,被控訴人に匹敵するほどに私用メールを繰り返していた者がいたことを推認させる証拠はなく,仮にかかる行為を行っていた者が他にいたとしても,控訴人がその事実を把握していながら,被控訴人に限って,懲戒解雇するなどの偏頗な処分をしていたことを窺わせる証拠もない。 さらに,処分事由は異なるものの,被控訴人は本件処分以前に減給処分を受けたことがあり,再度非違行為を繰り返せば,更に重い処分を課されるであろうことは十分に分かっていたはずであり,また,前記のとおり,被控訴人は,私用メールの相手から控訴人学校のパソコンで私用メールをして大丈夫なのかと2度にわたって指摘されていたにもかかわらず,それ以降も,同様のメールの受送信を繰り返していたものであるうえ,控訴人学校の調査によって被控訴人の不正行為が発覚した ンで私用メールをして大丈夫なのかと2度にわたって指摘されていたにもかかわらず,それ以降も,同様のメールの受送信を繰り返していたものであるうえ,控訴人学校の調査によって被控訴人の不正行為が発覚した後も,本件出勤停止の措置が採られるまでの間,事情聴取をした上司に対して謝罪や反省の弁を述べることもなかったのであり,その後に謝罪文を提出し,同僚が嘆願を求めるなどしていたとしても,そのことを殊更に重視することはできない。また,本件懲戒解雇が過去の被控訴人の行為に対する報復的なものであると認めるに足りる証拠はないうえ,前記のとおりの被控訴人の非違行為の程度及び被控訴人が教育者たる立場にあったことからすれば,本件懲戒解雇は,。 誠にやむを得ないものであってこれが不当に苛酷なものということもできないなお,本件出勤停止は,懲戒事由に該当するものと認められた場合,その処分(。 ,),を決定する前にされる暫定的な措置であって服務規則73条3項甲314- 5 -もともと更なる処分がされることを前提としているものであるから,控訴人が本件懲戒解雇に先立ち本件出勤停止を命じていたとしても,そこには何らの問題も認められないし,控訴人が本件懲戒解雇をなすに当たっては,解雇事由に該当すべき服務規則の条項を指摘するとともに(甲7,具体的な処分の理由を記載し)た処分説明書(甲8)を被控訴人に交付して,不服申立ての手続を教示し,これを受けた被控訴人からの不服申立てについても,控訴人の苦情処理委員会において審議し,その結果を被控訴人に通知していたものであって(甲12,同手続)に違法な点を認めることもできない。 上記のとおり,被控訴人が行った行為が控訴人学校の服務規則に定める懲戒解雇事由に該当することは明らかであり,このことは,被控訴人の行為によって,現実に控訴人 )に違法な点を認めることもできない。 上記のとおり,被控訴人が行った行為が控訴人学校の服務規則に定める懲戒解雇事由に該当することは明らかであり,このことは,被控訴人の行為によって,現実に控訴人学校の志願者数に影響を与えるなどの実害を生じたか否かによって変わるところはないし,その他に,本件懲戒解雇が解雇権の濫用であるとして被控訴人が縷々主張するところは,いずれも採用することができない。 (3)以上によれば,本件懲戒解雇は相当であり,これが権利の濫用として許されないものということはできないから,その余の点を判断するまでもなく,被控訴人の本訴請求には理由がない。 よって,本件控訴に基づき,原判決中の控訴人敗訴の部分を取り消して,被控訴人の請求を棄却するとともに,本件附帯控訴には理由がないからこれを棄却し,また,乙18及び19によれば,原判決の仮執行宣言に基づき,平成17年1月20日に控訴人が被控訴人に対し,995万0315円を支払ったことが認められる(同金員の支払自体は当事者間に争いがない)から,民訴法260条2項を適用し,被控訴人。 に対し,同金員及びこれに対する上記支払日の翌日である同月21日から支払済みまで年5分の割合による損害金の支払を命じることとして,主文のとおり判決する。 福岡高等裁判所第2民事部裁判長裁判官石井宏治裁判官永留克記裁判官高宮健二
▼ クリックして全文を表示