昭和30(う)2337 詐欺被告事件

裁判年月日・裁判所
昭和31年9月26日 東京高等裁判所 破棄自判
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【DRY-RUN】主    文      原判決を破棄する。      被告人を懲役弐年に処する。      但し本裁判確定の日から参年間右刑の執行を猶予する。      原審及び当審における訴訟費用は全部被告人の負担

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判決文本文8,245 文字)

主文 原判決を破棄する。 被告人を懲役弐年に処する。 但し本裁判確定の日から参年間右刑の執行を猶予する。 原審及び当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。 理由 本件控訴の趣意は、東京地方検察庁検事正代理検事山内繁雄作成名義の控訴趣意書に記載されたとおりであるから、これをここに引用する。 よつて記録及び証拠により次のとおり考察をする。 いわゆる貿易手形制度は、一口にして言えば、輸出振興上輸出業者の輸出商品買付資金調達の円滑を図るため、或銀行が右資金融通のため割引いた輸出業者振出の約束手形につきA1銀行が、特に有利な条件をもつて再割引の処遇を与える制度のことをいうのであるが、A1銀行は、これが優遇の条件として特別の定めをしている。これによると右割引の条件として、すでに、外国銀行から発行された信用状があり且つ内国における輸出商品の買付も済んでいるという場合、輸出業者において、いわゆる複名手形(売主である輸出業者が、輸出商品のメーカー問屋等に宛て振出した約束手形に、そのメーカー問屋等が裏書して更にこれを売主たる輸出業者の手に戻したもの)による割引融資を受けるには、外国商人との間に商品の売買契約ができていて、輸出商品代金の支払が確実であることの確認できる外国銀行の発行にかかる信用状のほか、輸出業者が内国メーカー問屋等に対し、輸出商品の注文をしたことの確認できる注文書等及び当該商品が日本政府の輸出許可を要するものであるときは、通産省がその輸出許可を与えていることの確認できる資料を添えて提出することを要するが、輸出業者が、融資を得ようとする銀行に直接振出したいわゆる単名手形によつて、割引融資を得ようとするには、右資料のほか、更に、内国のメーカー問屋等との間に輸出商品の売 を添えて提出することを要するが、輸出業者が、融資を得ようとする銀行に直接振出したいわゆる単名手形によつて、割引融資を得ようとするには、右資料のほか、更に、内国のメーカー問屋等との間に輸出商品の売買契約を了し、その代金も完済されていることの確認できる資料として商品売買約定書、代金仕切書及び代金領収書をも添えて提出することを必要としている。 文化の進歩発展は、技術のそれに並行するといわれるが、現在に広がる経済組織の下における国の経済的発展は、国の貿易収入の増大にその負うところの多きはいうまでもなく、右貿易手形制度が、これが目的の実現されんがための時宜を得た合理的な技術的手段方法であることは今更贅言を要しない。而してこれが技術的手段方法は、事柄の性質上これを囲続する各利害関係人において理性人として可能なかぎり金銭的損害なきことが期せられねばならず、前示のように割引ないし再割引を受ける条件として添附されることを要する前記それぞれの資料書類こそは貿易手形制度の運営上、輸出業者の買入資金調達の容易性と割引融資する銀行の損害発生の可能性とを調和する限界点として、当該制度そのものが成立する唯一の根幹を為すものである。すなわち、貿易手形制度利用による輸出業者の商品買入資金調達の方法は、国の経済的発展を目指す輸出振興という公共の目的追及上倫理的にも経済的にも輸出業者、銀行側共に遵守しなければならない寧ろ絶対の規範であるということができ、若し輸出業者において約束手形に添附すべき資料書類の一つでも欠く場合或はその一つにでも偽造ないしは内容架空のものがあるという場合にはその割引融資は絶対にこれを受けることができない。 つまり約束手形による割引融資と、これに添附すべき前記資料書類との間には後者がなければ、前者がないという必然的な因果の関係にあると同時に、その にはその割引融資は絶対にこれを受けることができない。 つまり約束手形による割引融資と、これに添附すべき前記資料書類との間には後者がなければ、前者がないという必然的な因果の関係にあると同時に、その関係が、倫理的、経済的評価の上において軽視さるべきでない<要旨>ことも自ずから明白である。されば、斯く考えて来るにおいては、本件起訴事実におけるが如く、輸出業者に</要旨>おいて、而も、前記いわゆる単名手形による割引融資を受けるに当り、全く内容架空の前記添附資料に属する内国メーカーとの間の生糸売買約定書、生糸代金仕切書及びその代金領収書を恰もその内容の真正なもののように故意に装い、銀行員をその旨錯誤に陥らしめていわゆる貿易手形の割引融資として金員の交付を受けた場合、その欺罔行為と金員交付との間に、法益の保護ないしは道義的観点からいつても決して軽視さるべきでない詐欺罪成立の要件としての因果の関係の存在を否定し得べき筋合ではない。 原判決は、輸出業者であるB株式会社の経理課長であつた被告人が、同会社のため貿易手形制度の利用としてA2銀行C1支店から本件起訴状記載の如く、いわゆる単名手形の割引融資として金員の交付を受けたるについて、内国のメーカーとの間に輸出商品の売買契約を了し、その代金も支払済であることを確認すべき資料として全く内容架空の生糸売買約定書、生糸代金仕切書及びその代金の領収書各一通を添附して提出した行為を明らかに故意にかかる欺岡行為と断じ、而もこれが提出を受けたA2銀行員が、これら書類を真正な内容を具備するものとして取扱つたこと及び被告人もまた真正な内容を具備するものの如く装つてこれを提出したものであること、従つて右銀行員が右欺罔行為により右三種の内容架空の添附書類を真正な内容を有するものとの錯誤に陥つたものであることを認めながら、 また真正な内容を具備するものの如く装つてこれを提出したものであること、従つて右銀行員が右欺罔行為により右三種の内容架空の添附書類を真正な内容を有するものとの錯誤に陥つたものであることを認めながら、敢てこれが添附書類は、本件自体の貿易手形の割引を求める行為全体の中において割引金取得に及ぼした影響力(原因力)において重要でないものがあり、従つて本件貿易手形の割引によつて金員の交附を受けた所為については詐欺罪成立の因果関係が不足するとしてこれが成立を否定し、その理由として、右三種の添附書類は、銀行から貿易手形制度による再割引を受け得る要件として単に存在するか、否かをのみ形式的に調査されるにすぎない程度に扱われ、これら書類の真正を重視し、これを決定的要件として割引が為されるというのではなく、むしろ主としては信用状の存在及び貿易手形の割引を求める者(本件ではB)の信用如何を重視して割引かれるというのが本件当時における一般の実情であつて、本件各手形割引もまたその例に洩れなかつたもので、問題となつている三種の添附書類の実質如何は全く割引を求める者の信用の蔭に置かれた形式的な位置を占めるに止まり、割引を得るか否かについて殆んど形式的要件たるにすぎない程度の価値しかもたなかつたものであるからと説明している。しかしながら、信用状は、元来、外国における買主の依頼によつてこれを発行した外国銀行が、内国(日本国)の外国為替業務を取り扱う銀行(本件においてはA2銀行―本件においては同銀行は本件貿易手形の割引もした)において、輸出業者から買取つた同業者の船積にかかる船荷証券及び保険証券並びに同業者振出の為替手形の送付を受けて後始めてその金銭価値を実現するのであつて、少くとも、商品の現実の積出なきかぎり、信用状は、金銭的価値はなく、ただ、売主たる輸出業者において確 券及び保険証券並びに同業者振出の為替手形の送付を受けて後始めてその金銭価値を実現するのであつて、少くとも、商品の現実の積出なきかぎり、信用状は、金銭的価値はなく、ただ、売主たる輸出業者において確実な商品現物の売渡給付あるときは、それが代金を支払うことを約する事前における信用の附与を内容とする書面たるにすぎない。従つて、輸出業者による商品の船積前において行われる貿易手形の割引融資については、その手形不払の事態を招来するの虞あるを保し難きは事理の当然とするところである。それにもかかわらず、貿易手形制度は、輸出振興という目的達成の上から輸出商品の買入に莫大な資金を必要とする内国輸出業者のこれが資金調達を容易ならしむる建前から、止むなく、右不払の万万なきを確保する最低の条件として信用状のほか、別段の物的ないしは人的担保の提供を要することなく、ただ、前示三種の添附書類の提供のみをもつて満足しているのである。されば、これによつてこれを見るときは、貿易手形の割引融資をする銀行側において、右添附書類の真正、不真正を度外視してその融資に応ずべきことは到底考え得られない。なるほど、割引融資する銀行は、これが手形の再割引によつてA1銀行から右融資した金員を獲得することができ、一応損害なきを保し得るにしても、若し、その手形が不渡となるに及んでは、右再割引を受けた銀行は、A1銀行から更にこの不渡手形を買戻さねばならないことになつているのであるから、信用状のほか、輸出の確実な実行を確認せしめる前示三種の添附書類は、損害の発生を防止する最低の手段として、物的ないしは人的担保にも比肩すべき重要な書類に属せらるべきことは、取引の通念として当然とするところと言わなければならない。尤も、割引融資の条件としてその担保力の実質において物的ないしは人的担保に劣る右三種の添附書 担保にも比肩すべき重要な書類に属せらるべきことは、取引の通念として当然とするところと言わなければならない。尤も、割引融資の条件としてその担保力の実質において物的ないしは人的担保に劣る右三種の添附書類で満足しなければならない貿易手形制度の宿命として、割引融資する銀行側としては輸出業者の信用ということを特段に重要視するであろうことは勿論であろうけれども、それかといつて、割引融資の前提として右三種の添附書類の条件的価値が軽視さるべき筋合ではない。若し、輸出業者の信用力だけで、割引融資ができるのであれば、誰が好んで右三種の書類を徴するの愚を為すであろう。輸出業者の信用力のほか更にこれらの書類を必要とする点に、前にもすでに叙述したように貿易手形制度が制度として存立せしめられる所以があり、銀行側において右書類を徴するに当り、たまたま、その内容の真正、不真正を実質的に検討することなく、単に形式的審査に止めたにすぎないとするも、それは、銀行側が、輸出業者を信用したればこそその内容の真正を信ずるに至つた結果にすぎないものと見なければならない。本件取引当時における貿易手形制度運用の実情として右三種の添附書類は割引融資の決定的要件を為さず、単にA1銀行から貿易手形制度による割引を受け得るための形式的な存在要件にすぎないものとして取扱われて来たものであり、従つて右添附書類がたとえ内容架空なものであつても別段意に介されることなき慣行が存在したというが如き趣旨の所論は、商品取引における経験事理の上から一般論としても到底採用し得られないところであるばかりでなく、本件記録及び証拠並びに当審事実取調の結果によるも、少くとも本件A2銀行は勿論その他一般銀行側の立場においてそうした実情にあつたことはついにこれを確認するに由がない。又仮に、輸出業者側の実情として右所論の如 び証拠並びに当審事実取調の結果によるも、少くとも本件A2銀行は勿論その他一般銀行側の立場においてそうした実情にあつたことはついにこれを確認するに由がない。又仮に、輸出業者側の実情として右所論の如く、右三種の書類は、割引融資の決定的な要件を為さないとして、敢て内容架空なものをもつてする慣行があつたとするも、これが慣行をもつて社会通念上許容されたものとして被告人の本件所為を違法性なき所為と見るべきかぎりではない。かかる慣行をもつて、とかく誇張と隠蔽をもつてする街頭商人の巧舌や甘言による取引慣行と同一視することは貿易手形制度の本旨に照らし法秩序上到底許さるべき筋合ではない。 原判決は、本件取引以前、Bが、本件におけると同様に架空書類を添附してA3銀行C2支店その他の銀行のみならず、本件A2銀行からも貿易手形の割引を受けとどこおりなく決済され来たつた事実あることを認定して、本件架空の添附書類が形式的な意味しか持たなかつたという趣旨のことを述べて本件被告人の所為につき詐欺罪の成立を否定しているが、その論ずるところが、そうした事実にあつたから被害者たるA2銀行側においても錯誤に陥つた事情はないというのであれば、詐欺罪成立の否定さるべき理由として首肯し得られるものがあるけれども、すでにして、A2銀行側が、被告人の前示欺罔行為に因つて錯誤に陥つた事実を認めていながら、右事情の存在を前提として本件架空の添附書類が、形式的意味しか持たなかつたから詐欺罪は成立しないとの論は、上来説述したところに照らし到底採用できない。而してまた、原判決は、Bが、右にも挙げたように本件取引以前すでにA2銀行その他の銀行から本件同様の架空書類を添附して貿易手形の割引融資を受け、而も同手形割引の基礎を為す輸出契約も履行され、それぞれこれが手形につきとどこおりなくその決済が為 に本件取引以前すでにA2銀行その他の銀行から本件同様の架空書類を添附して貿易手形の割引融資を受け、而も同手形割引の基礎を為す輸出契約も履行され、それぞれこれが手形につきとどこおりなくその決済が為されて来た事情を捉えて右輸出契約の不履行や本件手形債務の不履行を敢てする意思は勿論そうした履行不能の必ずしも起り得ないものでないことを予見した事実もなかつたとして、本件詐欺罪の成立を否定しているが、本件取引当時、Bが財政的に極めて困窮した状況に在つて、本件五通の貿易手形の履行期をまたず経営上の重大な危機に直面していたものであること、現に本件各取引によつて割引交付を受けた金員も、これが取引にかかる生糸の買付に使用された形跡は全くなく、他の使途に費消され、生糸の積出は全く不能に陥つたものであることが明らかであり、而も、当時Bの経理課長であり且つA2銀行から貿易手形の割引による金融を受ける事務処理の衝に当つていた被告人において、これらの事情を知らなかつた筈のないところでもあるから、本件各取引当時、被告人に少くとも前示輸出書類や手形債務の履行不能となるべきことの予見のあつた事実が推認し得られるばかりでなく、原判決所論の右の如き従来の割引事情は、Bが元D関係会社の専務とかEの重役をしていたとかいう人達が合体して設立した会社であつて、会社の系統、役員の顔触等によりその資産状況について一般銀行の信用を得ていたことに乗じて貿易手形制度の悪用を継続したもので、たまたま、それが金融のやりくりによる手形の完済ができた結果表面化するに至らなかつたというに止まり、原判決のいうような、従来の割引事情をもつて、被告人の本件欺罔行為とA2銀行員の錯誤による割引による金員交付との間の因果関係を否定したり、行為の違法性や有責性を阻却すべき事由と為し得べきかぎりではない。 以上 ような、従来の割引事情をもつて、被告人の本件欺罔行為とA2銀行員の錯誤による割引による金員交付との間の因果関係を否定したり、行為の違法性や有責性を阻却すべき事由と為し得べきかぎりではない。 以上要するに、原判決の所論は、行為と結果との間に存する何等価値評価の加わるべきでない単なる認識対象に属する因果関係の有無の問題と、行為の違法性ないしは有責性という価値評価の問題とを混淆したるの憾なしとしないが、その論ずるところがいずれも理由のないことは上来叙述したとおりであつて、本件公訴にかかる被告人の各所為は、証拠上いずれも刑法第二百四十六条第一項所定の構成要件に該当する違法、有責の行為であつて詐欺罪の成立あることが明らかであるにかかわらず、原判決がその所論の帰結として本件公訴事実は、犯罪の証明がないとして被告人を無罪としたことは畢竟判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認の過誤を冒したものというのほかはなく、本件控訴の趣意は理由がある。よつて、刑事訴訟法第三百九十七条第一項、第三百八十二条に則り原判決を破棄し、同法第四百条但し書の規定に従い被告事件について更に次のとおり判決をする。 罪となるべき事実起訴状に記載された事実を茲に引用する。 証拠の標目一、 Fの司法警察員に対する昭和二十六年十一月十三日附供述調書一、 F提出の顛末書(訳文)と題する書面一、 F提出の顛末書(英文)一、 G提出の証拠書類任意提出書と題する書面一、 G提出の顛末書と題する書面一、 原審第六回公判及び当審第二回公判における証人Hの各証言一、 原審第十六回公判及び当審第二回公判における証人Iの各証言一、 被告人の司法警察員に対する昭和二十六年十一月二十一日附、十二月十四日附及び同月十八日附各供述調書一、 被告人の検察官に対する昭和二十六年十一 公判及び当審第二回公判における証人Iの各証言一、 被告人の司法警察員に対する昭和二十六年十一月二十一日附、十二月十四日附及び同月十八日附各供述調書一、 被告人の検察官に対する昭和二十六年十一月二十二日附、同月三十日附、十二月十一日附及び同月二十二日附各供述調書一、 被告人作成名義の昭和二十六年十二月四日附損益一覧表一、 被告人作成名義の昭和二十六年十二月十一日附A2銀行における手形割引金詐取一覧表一、 被告人作成名義の昭和二十六年十二月十一日附貿易手形添附書類の不正使用の処理一覧表及び同上未使用分証明資料表一、 被告人作成名義の昭和二十六年十二月三日附不正手段に依り手形割引を受けた金額の使途明細表一、 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