平成22(行ウ)354 遺族補償給付不支給処分取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成24年11月28日 東京地方裁判所
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判決文本文34,380 文字)

平成24年11月28日判決言渡平成22年(行ウ)第354号遺族補償給付不支給処分取消請求事件主文 1 横浜西労働基準監督署長が原告らに対して平成21年1月28日付けでした労働者災害補償保険法による遺族補償給付を支給しない旨の処分を取り消す。 2 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用はこれを4分し,その1を原告らの負担とし,その余を被告の負担とする。 事実 及び理由 第1 請求の趣旨横浜西労働基準監督署長が原告らに対して平成21年1月28日付けでした労働者災害補償保険法による遺族補償給付及び葬祭料を支給しない旨の処分をいずれも取り消す。 第2 事案の概要等 1 本件は,原告らが,原告P1(父。)と原告P2(母。)との間の子であるP3」が就労先のP4株式会社(以下「本件会社」という。)において過重な業務に従事したことに起因して精神障害を発病して自殺したと主張して,労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)に基づき遺族補償給付及び葬祭料の支給を請求したものの,横浜西労働基準監督署長(処分行政庁)がいずれも支給しない旨の処分(以下「本件各不支給処分」という。)をしたため,その取消しを求める事案である。 2 前提となる事実(当事者間に争いがない事実,各所に記載した証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認めることができる事実)(1) 原告ら及び関係者本件会社は,電気通信設備の建設及び修理,電気通信機器,機材の販売等を目的とし,横浜市<以下略>を本店所在地とする資本金1000万円の株 式会社である。 P3は,昭和▲年▲月▲日生の男性であり,本件会社に雇用されて就労していた者であり,原告らはP3の父 を目的とし,横浜市<以下略>を本店所在地とする資本金1000万円の株 式会社である。 P3は,昭和▲年▲月▲日生の男性であり,本件会社に雇用されて就労していた者であり,原告らはP3の父母である。 (2) P3の自殺までの経緯ア P3は,専門学校卒業後,平成10年4月に原告P1が経営する有限会社P5に入社し,電話設置・設営工事,設計等の業務に従事していたが,同社が経営不振に陥ったため,平成14年8月に同社を退職した。その後,P3は,平成15年2月に本件会社との間で雇用契約を締結して同社に入社し,当初,関係会社のP6株式会社(以下「P6」という。)に配属されて,配線図作成等の業務に従事したが,同年12月に本件会社の受注先で横浜市<以下略>所在の株式会社P7(本社は東京都に所在し,現在の商号は「P8株式会社」である。以下「P7」という。)のデータセンター(以下「本件データセンター」という。)に配転され,本件データセンターにおいてケーブル敷設工事等(配線図作成,見積・請求等)の業務に従事するようになった(甲5,乙41)。 イ P3は,平成17年7月25日午前3時頃,自家用自動車を運転して帰宅途中に交通事故に遭遇し(以下「本件交通事故」という。),その後,自宅療養していた。 ウ P3は,平成▲年▲月▲日午前零時頃,神奈川県足柄下郡<以下略>に駐車した自家用自動車(本件交通事故の際の車両とは別の車両)内において,七輪で練炭を燃焼させる方法で自殺するに至った(死因は,急性一酸化炭素中毒であった。以下「本件自殺」という。)。 エ本件自殺後,上記自動車内から発見されたP3の携帯電話に保存されたメールには,別紙「未送信メール」記載の内容(乙31)のほか,「P9ちゃん今去きます!でもこんなやつまっててくれないよねー(絵文字)」など 殺後,上記自動車内から発見されたP3の携帯電話に保存されたメールには,別紙「未送信メール」記載の内容(乙31)のほか,「P9ちゃん今去きます!でもこんなやつまっててくれないよねー(絵文字)」などの記載があった(甲54・7頁)。 また,上記自動車内から発見されたメモ紙片には,「かーさん,すきにつかってください。カードパスワード ○ P10も同じようにお願いします。ごめんね」と記載されていた(甲2)。 (3) 本訴に至る経緯原告らは,処分行政庁に対し,平成20年3月17日に遺族補償給付及び葬祭料の支給を請求したところ,処分行政庁は,平成21年1月28日に本件各不支給処分をした。 原告らは,これを不服として,神奈川労働者災害補償保険審査官(以下「審査官」という。)に対し,同年2月16日付けで審査請求をしたところ,平成22年1月13日付けで棄却決定を受けた。 このため,原告らは,これを不服として,労働保険審査会(以下「審査会」という。)に対し,平成22年2月5日付けで再審査請求をしたものの,再審査請求がされた日から3か月を経過しても裁決がなかったため,労災保険法40条1項1号に基づき,同年7月6日に本件各不支給処分の取消しを求める本訴を提起した。 その後,審査会は,本訴提起後の平成23年3月23日に原告らの上記再審査請求を棄却する旨の裁決をした。 なお,審査官も審査会も,P3について,平成17年7月25日以降に適応障害を発病していた可能性を否定できないとした上で,下記の時間外労働は認めつつ,全ての出来事を総合すると,P3の業務上の心理的負荷の総合評価は「強」とは認められないとして,P3に発症した精神疾患について業務起因性を認めなかった。 記発症前1か月 160時間01分同2か月 3の業務上の心理的負荷の総合評価は「強」とは認められないとして,P3に発症した精神疾患について業務起因性を認めなかった。 記発症前1か月 160時間01分同2か月 81時間30分同3か月 48時間50分 同4か月 91時間10分同5か月 96時間00分同6か月 57時間30分(甲2,乙1ないし6,11,13,61)(4) 行政通達による認定基準厚生労働省(中央省庁等改革基本法等の実施に伴う厚生労働省設置法施行以前においては「労働省」をいう。以下同じ。)は,精神障害の業務起因性に関する判断指針として,平成11年9月14日付けで,厚生労働省労働基準局長通達である「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針について」(基発第544号。以下「判断指針」という。乙51)を都道府県労働基準局長宛に発出し,平成21年4月6日付けで,判断指針の心理的負荷評価表等を改正する内容の同省労働基準局長通達(基発第0406001号。以下,同通達と判断指針とを総称して「判断指針等」という。乙54)を都道府県労働局長宛に発出し,判断指針等に基づき労災認定を行ってきたところ,近時,業務による心理的負荷が関係した精神障害についての労災保険請求が増加し,審査の迅速化・効率化が求められるようになったため,法学,医学等の専門家から構成される「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会」に対し,迅速かつ公正な労災補償を行うために必要な事項についての検討を求めた。同専門検討会は,約1年間に亘る検討の結果,厚生労働省に対し,平成23年11月8日付けで「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会報告書」(以下「 償を行うために必要な事項についての検討を求めた。同専門検討会は,約1年間に亘る検討の結果,厚生労働省に対し,平成23年11月8日付けで「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会報告書」(以下「専門検討会報告書」という。乙75)を提出した。厚生労働省は,専門検討会報告書の内容を踏まえて,同年12月26日付けで同省労働基準局長通達である「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(基発1226第1号。以下「認定基準」という。乙76)を都道府県労働局長宛に発出し,従前の判断指針等を廃止した。 認定基準においては,業務による心理的負荷の評価方法を明確化するため に改めて「業務による心理的負荷評価表」が整備され,「出来事」と「出来事後の状況」とを一括して心理的負荷の判断をすることとされ,その具体例が示されたほか,「出来事の類型」についても見直しが図られた。また,対象疾病の発病に関与する業務による出来事が複数ある場合の心理的負荷の程度は,全体的に評価することとされ,その評価方法等のほか,既に発病していた業務外の精神障害が業務による出来事によって悪化した場合の業務起因性の判断手法についても定められた。 認定基準の内容は別紙「心理的負荷による精神障害の認定基準」のとおりである。 3 争点(1) P3の死亡の業務起因性の有無(2) 葬祭料を受ける権利の消滅時効の成否 4 争点に関する当事者の主張の要旨(1) P3の死亡の業務起因性の有無(争点(1))について【原告らの主張】ア業務起因性に関する法的判断の枠組み労災保険は,被災者や遺族等の生活補償を主たる目的とする制度であるから,被災者の業務上のストレスによる心身の負荷が精神障害の発病及び当該精神障害による死亡の一因であると認められる(共働原因論)のであれば 険は,被災者や遺族等の生活補償を主たる目的とする制度であるから,被災者の業務上のストレスによる心身の負荷が精神障害の発病及び当該精神障害による死亡の一因であると認められる(共働原因論)のであれば,被災者の性格等の個体的要因が同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を逸脱するものでない限り,業務起因性を肯定すべきである。 そして,行政訴訟においては,行政庁の判断の基準等にとらわれることなく,労災保険法の趣旨に基づき業務起因性の有無を判断すべきであると解されるが,本件においては,判断指針等はもちろんのこと,以下のイないしオで詳述するとおり,認定基準によれば一層,P3の死亡の業務起因 性が認められるというべきである。 イ認定基準の対象となる精神障害の発病P3については,平成17年7月25日頃,抑うつ気分,興味と喜びの喪失,易疲労性・活動性低下,集中力と注意力の減退,自己評価と自信の低下,罪悪感と無価値感,将来に対する悲観的な見方,自殺念慮,睡眠障害の症状が認められたから,その頃,精神障害(ICD-10によるうつ病エピソード)を発病したというべきであり,当該精神障害は,認定基準の対象となる精神障害に当たる。 ウ業務による強い心理的負荷の存在(ア) P3の時間外労働時間は,別紙「原告ら主張の時間外労働時間」記載のとおりであり,その算定に係る補足説明は,以下のとおりである。 すなわち,P3の就労先である本件データセンターにおける始業時刻はおおむね9時であり,当事者間に大きな争いはない。その終業時刻は,原則として,P3の出退勤を記録した出勤簿の記載とほぼ一致するP3の手帳の記載によって認定すべきである。なお,P3は,休日出勤をしていたほか,本件会社から貸与されたパソコンを自宅に持ち込んで就労し 原則として,P3の出退勤を記録した出勤簿の記載とほぼ一致するP3の手帳の記載によって認定すべきである。なお,P3は,休日出勤をしていたほか,本件会社から貸与されたパソコンを自宅に持ち込んで就労しており,本件交通事故後も,自宅で療養しながら就労を継続していた。 また,P3は,上司であるP11の命令で,P6における業務にも従事していたものであり,当該業務もP3の本件会社における時間外労働時間に算入されるべきである。 (イ) P3は,平成16年12月,P7関連業務における本件会社の前任者であり先輩のP12よりも先に課長に昇進し,以後,P12の上司として,P12に対して業務上の指示等を行うようになった。 (ウ) 銀行や政府関係のデータを多く取り扱うP7関連業務は,秘密性が高く,日常的に顧客の中での業務遂行を強いられるため,緊張感が強かった。また,本件データセンターには窓がなく,職場環境は劣悪であった 上,昼食時間も満足に取れない状況であった。 (エ) P7における業務に従事する本件会社の従業員の数は,従前,P3を含めて4名であったが,平成17年6月頃,1名減員となり,P3の業務負担が増加した。 (オ) P3は,平成17年7月下旬,受注先のP7の要望を受けて「メディアコンバーター」と称する機器の購入手続に関与したが,P7が指定した特定の機能を使用できない仕様のものが納品されて設置されたため,責任の所在を巡ってP7と製造メーカーとの間で紛争が生じた。また,P3は,同年8月末を納期とするP7関連の業務を完了することができなかった。さらに,P3は,本件会社の関係者から中古車購入の要望を受け,中古車販売業者を紹介したところ,同人が,購入予定の中古車の状態を十分に確認しないまま,これを購入し,その後,ラジエターの故障が発覚し,P3に苦情 3は,本件会社の関係者から中古車購入の要望を受け,中古車販売業者を紹介したところ,同人が,購入予定の中古車の状態を十分に確認しないまま,これを購入し,その後,ラジエターの故障が発覚し,P3に苦情を申し入れたため,P3は,業務が多忙である中,その対応に苦慮した。 (カ) P3は,上記(イ)ないし(オ)のとおり,業務に関係して過労状態にあった中,平成17年7月25日に本件交通事故に遭遇して受傷した。 エ業務以外の心理的負荷や個体側要因の不存在本件自殺時において,P3の家族関係や経済状況に特段問題はなかったし,P3には精神障害の既往歴もなかった。 オ P3の業務による心理的負荷の認定判断に係る原告らの主張上記ウの各出来事を認定基準に従って検討すると,以下(ア)のとおり,「特別な出来事」に該当する出来事が認められ,心理的負荷の総合評価は「強」であるし,仮にそうでないとしても,以下(イ)ないし(オ)の全体を評価すると,出来事が複数ある場合の全体評価は当然に「強」となるから,P3の自殺についての業務起因性を優に認めることができる。 (ア) P3の精神障害が発病した平成17年7月25日頃の直前の同年7 月の時間外労働時間は189時間27分に及んでおり,業務による心理的負荷評価表の「特別な出来事」としての160時間を超える「極度の長時間労働」が認められるから,心理的負荷の総合評価は「強」となる。 (イ) 仮にそうでないとしても,発病直前の平成17年7月に少なくとも120時間以上の時間外労働があり,発病の約2か月前の同年6月に153時間40分,発病の約3か月前の同年5月に98時間10分の時間外労働があり,「具体的出来事」として「1か月に80時間以上の時間外労働を行った」に該当し,平均的心理的負荷の強度は「Ⅱ」であるところ,「発 40分,発病の約3か月前の同年5月に98時間10分の時間外労働があり,「具体的出来事」として「1か月に80時間以上の時間外労働を行った」に該当し,平均的心理的負荷の強度は「Ⅱ」であるところ,「発症直前の連続した2か月間に,1月当たりおおむね120時間以上の時間外労働を行い,その業務内容が通常その程度の労働時間を要するものであった」「発病直前の連続した3か月間に,1月当たりおおむね100時間以上の時間外労働を行い,その業務内容が通常その程度の労働時間を要するものであった」に該当するから,その心理的負荷の総合評価は「強」である。また,P3は,平成17年4月11日から同月23日までの13日間,同年6月6日から同月17日まで,同月20日から同年7月1日まで,同月4日から同月15日までの各12日間の連続勤務を行っており,「具体的出来事」として「2週間以上にわたって連続勤務を行った」に該当し,平均的心理的負荷の強度は「Ⅱ」であるところ,「2週間(12日間)以上にわたって連続勤務を行い,その間,連日,深夜時間帯に及ぶ時間外労働を行った」に該当するから,その心理的負荷の総合評価は「強」である。 (ウ) メディアコンバーターの購入を巡る出来事は,「具体的出来事」として「会社の経営に影響するなどの重大な仕事上のミスをした」に該当し,平均的心理的負荷の強度は「Ⅲ」であるところ,出来事ごとの心理的負荷の総合評価を軽減する事情はうかがわれないから,その心理的負荷の総合評価は「強」である。 また,納期までに業務を完了することができなかったことは,「具体的出来事」として「ノルマが達成されなかった」に該当し,平均的心理的負荷の強度は「Ⅱ」であるところ,出来事ごとの心理的負荷の総合評価を軽減する事情はうかがわれないから,その心理的負荷の総合評価は「 的出来事」として「ノルマが達成されなかった」に該当し,平均的心理的負荷の強度は「Ⅱ」であるところ,出来事ごとの心理的負荷の総合評価を軽減する事情はうかがわれないから,その心理的負荷の総合評価は「中」である。 (エ) P3の遭遇した本件交通事故は,「具体的出来事」として「悲惨な事故や災害の体験,目撃をした」に該当し,平均的心理的負荷の強度は「Ⅱ」であるところ,「業務に関連し,本人の負傷は軽度・無傷であったが,自らの死を予感させる程度の事故等を体験した」に該当するから,その心理的負荷の総合評価は「強」と判断すべきである。 (オ) その他,P3の課長昇進は,「具体的出来事」として「自分の昇格・昇進があった」に該当し,平均的心理的負荷の強度は「Ⅰ」であるところ,P7関連業務の前任の責任者であった先輩のP12よりも先に昇進したものであり,「本人の経験等と著しく乖離した責任が課される等の場合」に当たるから,その心理的負荷の総合評価は,「中」又は「強」と判断すべきである。 また,P7関連業務に従事する本件会社の従業員が1名減員されたことは,「具体的出来事」として「部下が減った」に該当し,平均的な心理的負荷の強度は「Ⅰ」であり,心理的負荷の総合評価は「弱」である。 本件会社の関係者から中古車購入を巡って苦情を受けたことは,「具体的出来事」として「同僚とのトラブルがあった」に準じるものといえ,平均的な心理的負荷の強度は「Ⅱ」であり,その心理的負荷の総合評価は「中」である。 【被告の主張】ア業務起因性に関する法的判断の枠組み精神障害に罹患した被災者の死亡についての業務起因性が認められるた めには,当該業務と死亡の原因となった精神障害との間に条件関係に加えて相当因果関係が存在することが必要である。 そして,業務と精神障害との 被災者の死亡についての業務起因性が認められるた めには,当該業務と死亡の原因となった精神障害との間に条件関係に加えて相当因果関係が存在することが必要である。 そして,業務と精神障害との間の条件関係を肯定するためには,業務上の一定以上の大きさを伴う客観的に意味のあるストレスが精神障害の発病に寄与しており,当該ストレスがなければ精神障害は発病していなかったという関係が高度の蓋然性をもって認められる必要があり,業務と精神障害との間の相当因果関係を肯定するためには,当該精神障害が,業務に内在する危険(危険性の要件)の現実化(現実化の要件)として発病したと認められることが必要である。 また,危険性の要件の判断においては,日常業務を支障なく遂行できる労働者を基準とし(平均的労働者説),業務によるストレスが客観的に精神障害を発病させるに足りる程度の負荷であると認められることが必要であり,現実化の要件の判断においては,当該業務による危険性が,その他の業務外の要因に比して相対的に有力な原因となって当該精神障害を発病させたと認められることが必要である(相対的有力原因説)。 イ認定基準の対象となる精神障害の発病についてP3が本件自殺時においてうつ病エピソードを発病していたと認めることはできない。仮に,P3が本件自殺時において精神障害を発病していたとしても,それは,うつ病エピソードではなく適応障害であったというべきである(発病時期は,P3が本件交通事故に遭遇した平成17年7月25日以降である。)。また,P3の遺書と評価されるメールは,終始冷静な内容で,時折ユーモアを交えながら,顔文字を多用するなどして作成されており,P3が本件自殺の直前である当該メールの作成時においても未だ自己の行動の意味・内容を認識し,相応の判断力を備えていたこと な内容で,時折ユーモアを交えながら,顔文字を多用するなどして作成されており,P3が本件自殺の直前である当該メールの作成時においても未だ自己の行動の意味・内容を認識し,相応の判断力を備えていたことがうかがわれるから,本件自殺は,精神障害によって正常の認識や行為選択能力が著しく阻害された状況下で実行されたものであるということはできな い。 ウ業務による強い心理的負荷の存在について(ア) P3に平成17年7月25日頃に適応障害が発症していたとしても,P3の適応障害発症前6か月の時間外労働時間は,別紙「被告主張の時間外労働時間」記載のとおり,同年7月分(同年6月25日から同年7月24日)95時間03分,同年6月分(同年5月25日から同年6月24日)32時間30分,同年5月分(同年4月25日から同年5月24日)27時間38分,同年4月分(同年3月25日から同年4月24日)37時間59分,同年3月分(同年2月25日から同年3月24日)31時間18分,同年2月分(同年1月25日から同年2月24日)39時間41分にすぎない。(なお,被告の主張するP3の時間外労働時間は,審査官及び審査会の認定よりも相当少なくなっているところ,これは関係者の供述等関係証拠を再度総合して評価した結果である。)その算定に係る補足説明は,以下のとおりである。 すなわち,平成17年7月の始業時刻は,カードリーダーの記録のうちの本件データセンターの建物(以下「P7建物」という。)への入館記録によって認定すべきであり,同年6月以前の始業時刻は,出勤簿に記載された始業時刻によって認定すべきである。 他方,終業時刻は,平日については,原則として本件データセンターの終業時刻である午後6時又は遅くとも本件データセンターの消灯時刻であり,冷暖房の稼働停止時 れた始業時刻によって認定すべきである。 他方,終業時刻は,平日については,原則として本件データセンターの終業時刻である午後6時又は遅くとも本件データセンターの消灯時刻であり,冷暖房の稼働停止時刻でもある午後8時と認定すべきである。 平成17年7月1日から同月24日までの間の終業時刻については,本件会社の工事施工員として勤務していた同僚のP13の勤務表記載の終業時刻をP3の終業時刻として認め,当該時刻が午後8時を超えている場合には,当該時刻をもってP3の終業時刻と認定するものとする。P 3の手帳には,同月をみても,21日中11日に,退館後の時刻が記載されており,その記載は信用できない。原告らが根拠とする出勤簿記載の終業時刻は,社内の査定やこれに基づくボーナス支給額への影響を考慮して実際の労働時間よりも過大に申告したものであるから,採用することができない。また,P3の使用する自動車の帰宅途中の給油時刻が判明している場合(P14給油所におけるもの),当該時刻からさかのぼって約1時間前にP7建物を退館したものと判断することができるところ,P7建物からの退館時刻が午後8時以前であり,かつ出勤簿上の終業時刻よりも早い時刻である場合には(平成17年5月18日,同年4月8日,同月1日,同年3月4日,同月2日,同年2月28日,同月16日,同年1月27日),当該時刻を終業時刻として認定すべきである。なお,同年5月13日,同年4月8日,同年2月14日の終業時刻については,出勤簿上の申告時刻を終業時刻として認める。次に,休日については,休日労働自体が平成17年6月以前には存在せず,同年7月9日,10日,17日,18日,24日にあったのみであり,同月9日,17日,18日は,出勤簿で申告された終業時刻とP7建物の退館時刻とを比較し,早い方の時刻を 成17年6月以前には存在せず,同年7月9日,10日,17日,18日,24日にあったのみであり,同月9日,17日,18日は,出勤簿で申告された終業時刻とP7建物の退館時刻とを比較し,早い方の時刻をもって終業時刻と認める。同月10日はP7建物の退館時刻を終業時刻と認める。同月24日は,上司であるP11の供述等に照らして終業時刻を午後5時29分と認める。 もっとも,本件会社におけるP3の担当業務は,検収書・請求書一覧,見積書内訳書等(以下「見積書等」という。)の作成であり,見積書等については,パソコンを使用して1回入力することによって他の複数の書面が自動的に完成する仕組みとなっていたし,配線図の作成については,「P15」と称するアプリケーションソフトを使用する極初歩的な軽易な内容のものであったから,P3の業務量は労働時間に比して少なかったということができる。 (イ) 原告らは,P3の課長昇進を具体的出来事として主張するが,P3の課長昇進は,精神障害の発病前おおむね6か月の間の出来事ではないし,課長昇進は形だけのものであって,P3の担当業務の質や量には何ら変化はなかった。 (ウ) 本件データセンターにおける業務内容が特に緊張を強いられるものであったはいえないし,職場環境が特段劣悪であったということもできない。 (エ) P7における業務に従事する本件会社の従業員が1名減員となった事実はない。 (オ) メディアコンバーターの購入を巡る出来事は,P3が本件交通事故後に休暇を取得していた際に判明したものであり,そもそもP3には何らの責任もなかった。また,平成17年8月末を納期とする業務の実態は明らかにされておらず,本件会社において,P3にノルマが課されたこともなかった。さらに,中古車購入を巡る本件会社の関係者からの苦情の申入 任もなかった。また,平成17年8月末を納期とする業務の実態は明らかにされておらず,本件会社において,P3にノルマが課されたこともなかった。さらに,中古車購入を巡る本件会社の関係者からの苦情の申入れは,飽くまで私的な紛争の域を出ていない。 (カ) P3が遭遇した本件交通事故の原因・態様等は不明であるし,本件交通事故によるP3の傷害の程度は軽微であった。 エ業務以外の心理的負荷や個体側要因の不存在についてP3については,家族関係が必ずしも良好ではなく,原告P1の事業の倒産によって一家は経済的に困窮していたから,業務以外の心理的負荷があったということができる。また,本件自殺には「P9」という人物が関係している模様であり,本件自殺はP3の私的な理由ないし衝動に基づくものである可能性が高い。 オ P3の業務による心理的負荷の認定判断に係る被告の主張上記ウ,エを総合し,これらを認定基準に従って検討しても,以下のとおり,P3の自殺について業務起因性を認めることはできない。 (ア) P3が発病前の1か月におおむね160時間を超えるような又はこれに満たない期間にこれと同程度の時間外労働を行ったと認めることはできず,「特別な出来事」に該当する出来事は存在しない。 (イ) P3の労働時間は,本件交通事故の直前に長時間化しており,認定基準の「具体的出来事」として「仕事内容,仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」に該当し,平均的な心理的負荷の強度は「Ⅱ」であるところ,「仕事量が著しく増加して時間外労働も大幅に増える(倍以上に増加し,1月当たりおおむね100時間以上となる)などの状況になり,その後の業務に多大な労力を費やした(休憩・休日を確保するのが困難なほどの状態となった等を含む)」には該当しないから,その心理的負荷の し,1月当たりおおむね100時間以上となる)などの状況になり,その後の業務に多大な労力を費やした(休憩・休日を確保するのが困難なほどの状態となった等を含む)」には該当しないから,その心理的負荷の総合評価は「中」にとどまる。 また,P3は,2週間(12日)以上の連続勤務をしており,具体的出来事として「2週間以上にわたって連続勤務を行った」に該当し,平均的な心理的負荷の強度は「Ⅱ」であるところ,連続勤務を行ったのは12日間であり,その間,深夜時間帯に及ぶ時間外労働を行ったのは4日間のみであるから,その心理的負荷の総合評価は「中」にとどまる。 (ウ) メディアコンバーターの購入を巡る出来事は,P3の責任ではなかったし,本件会社においてP3にはノルマもなかったから,「会社の経営に影響するなどの重大な仕事上のミスをした」「ノルマが達成されたなかった」等の「具体的出来事」に該当する出来事は存在しない。 (エ) 本件交通事故は,「具体的出来事」として「病気やケガをした」に該当し,平均的な心理的負荷の強度は「Ⅱ」であるが,本件交通事故が帰宅途中の自動車による自損事故であり,ケガの程度も軽微であったことなどを考慮すると,その心理的負荷の総合評価は「弱」にとどまるというべきである。 (オ) P3の課長昇進は,「具体的出来事」として「自分の昇格・昇進が あった」に該当し,平均的な心理的負荷の強度は「Ⅰ」であるところ,平成16年12月の出来事であり,精神障害の発病前おおむね6か月の間の業務による出来事であるとはいえないし,業務による出来事としてみるとしても,課長の肩書は形だけのものであって,課長昇進の前後を通じてP3の業務の質・量に変化はなかったから,その心理的負荷の総合評価は「弱」にとどまるというべきである。 また,P7関連業務に従 としても,課長の肩書は形だけのものであって,課長昇進の前後を通じてP3の業務の質・量に変化はなかったから,その心理的負荷の総合評価は「弱」にとどまるというべきである。 また,P7関連業務に従事する本件会社従業員の減員の事実はなかったし,本件会社の関係者から中古車購入を巡って苦情を受けたことは,業務上の出来事に当たるとはいえない。 (カ) 以上のとおり,P3に認められる出来事ごとの心理的負荷の総合評価は,①「仕事内容,仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事」につき「中」,②「2週間以上にわたって連続勤務を行った」につき「中」,③「病気やケガをした」につき「弱」,④「自分の昇格・昇進があった」につき「弱」である。 そして,①と②とは複数の出来事が関連して生じた場合に当たるといえるから,②の出来事を①の出来事後の状況とみなして全体評価を行うべきところ,P3の担当業務の業務量は労働時間に比して少なく,労働密度も低いこと,また,その変化の程度も低いことなどの諸事情からすると,その全体評価は「中」を超えるものではないというべきである。 次に,①及び②と,③,④の各出来事は相互に関連しないから,その数,それぞれの出来事の内容,時間的な近接の程度から心理的負荷の全体評価をすべきところ,P3は,③の出来事をきっかけとして自宅療養するようになり,本件自殺の直前において業務量が減少したことに照らすと,その全体評価も「中」にとどまるというべきである。 (2) 葬祭料を受ける権利の消滅時効の成否(争点(2))について【被告の主張】 葬祭料を受ける権利の消滅時効の起算点は,葬祭の実施の有無を問わず被災者の死亡の翌日であると解すべきであり,P3の死亡の翌日は平成▲年▲月▲日であるところ,原告らが葬祭料を請求したのは平成20年3月17 料を受ける権利の消滅時効の起算点は,葬祭の実施の有無を問わず被災者の死亡の翌日であると解すべきであり,P3の死亡の翌日は平成▲年▲月▲日であるところ,原告らが葬祭料を請求したのは平成20年3月17日であるから,原告らの葬祭料を受ける権利については,2年の時効期間の経過によって消滅時効が完成しているというべきである。 【原告らの主張】葬祭料を受ける権利の消滅時効の起算点は,権利行使を現実的に期待することができる時点と解すべきである。 この点,原告らは,事業主である本件会社が葬祭料の支給手続をとるものと考えていたが,P3の本件自殺が労働災害によるものであると認めない本件会社が上記手続を履践しなかったため,原告らは,代理人弁護士に相談した平成19年6月1日になって初めて上記権利行使が可能となったというべきである。そして,原告らは,平成20年2月28日に遺族補償給付及び葬祭料の支給を求めて労災保険の申請手続を行ったものであり,平成19年6月1日から起算して未だ2年の時効期間が経過していないから,葬祭料を受ける権利については,未だ消滅時効は完成していない。 第3 争点に対する判断 1 認定事実第2の2の前提となる事実,各所に掲記した証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実を認めることができる(時間外労働時間の認定については,一部,証拠評価についての判断を含む。)。なお,特に断りのない限り,平成17年については,月日のみを表記する。 (1) P3の属性ア家族の状況等P3は,父原告P1,母原告P2,弟P16(▲年▲月生)及び同P17(▲年▲月生)の5人家族であり,本件自殺当時,原告らの自宅におい て,家族5人で同居していた(甲1,乙47・14項,原告P1本人,原告P2本人)。 イ P3の健康状態及び財産状 同P17(▲年▲月生)の5人家族であり,本件自殺当時,原告らの自宅におい て,家族5人で同居していた(甲1,乙47・14項,原告P1本人,原告P2本人)。 イ P3の健康状態及び財産状況等P3は,喫煙の習慣があったが,平成15年10月16日及び平成16年8月11日に実施された健康診断においては,いずれも異常所見がなかった。 本件自殺当時の本件会社におけるP3の月例賃金額は,基本給31万8000円及び諸手当であり,手取額は30万円程度であった。また,P3は,本件自殺当時,P10銀行ほか4か所の金融機関に総額414万3101円の預貯金を有しており,自宅の住宅ローン債務のうち月額10万5000円を負担していた上,生活費5万円を原告らに渡していた。 (甲13,19,35,39,乙9,原告P2本人)(2) P3の就労状況等ア P7建物の構造等P7建物は東館(EYC)と西館(WYC)とで構成され,両館の北側には市道に面してそれぞれロータリーが設置され,両館の各1階にそれぞれロータリーから建物内部につながるエントランスがある。東館1階と西館地下1階とは地下連絡通路で連結されている。各エントランス,各通用口,各連絡通路,WYC2F西棟口EV側,常駐者用喫煙場所(WYC屋外喫煙コーナー),各コンピュータ室等のP7建物内部の要所要所に設置されたドアを通過する際には,センサーにカードリーダーをかざして解錠操作を行う必要があり,その際,原則として入室時刻のみが記録され,退室時刻は記録されないが,各エントランス,各連絡通路,各通用口,各コンピュータ室については,退室時刻も記録される仕組みであった(以下,当該記録を「本件カードリーダー記録」という。)。 P3のデスクは,P7建物の西館2階に設置されており,当該デスクに 各コンピュータ室については,退室時刻も記録される仕組みであった(以下,当該記録を「本件カードリーダー記録」という。)。 P3のデスクは,P7建物の西館2階に設置されており,当該デスクに は,西館エントランスを入ってWYC2F西棟口EV側のドアを通過するのが最短経路であった。 (乙21ないし23)イ本件会社におけるP7からの工事の受注P7が本件会社に発注していた工事は,主に光ケーブル敷設・撤去工事とLANケーブル敷設・撤去工事であり,P7が本件会社に工事を発注するに当たっては,本件データセンター内の本件会社担当チームが立案し,運営チームが他の顧客担当チームの希望する工事ととともに集約して当該工事の施工順序等を精査した上,施工管理チームを経由して発注する取扱いであった。 他方,本件会社においてP7からの受注業務を担当するのは第2事業部であり,第2事業部に所属するP11以下P3を含む3名が本件データセンターに常駐し,総括責任者P11の下,P3が施工管理を,P12が施工を担当し,P13がP12と連携しつつ施工員として施工業務に従事していた。本件会社がP7から工事の発注を受けると,本件データセンターに常駐する第2事業部が,P7の担当者と共に工事に必要なデータ・装置等に関する打合せを行って受注工事の内容を見積もり,P7との間で工事請負契約を締結していた。 (甲41ないし43,乙15,16,35)ウ本件データセンターに常駐する本件会社従業員の勤務時間等本件データセンターに常駐する本件会社従業員の勤務時間は,午前9時から午後6時まで,休憩時間は,昼食時の1時間のほか,就業規則上,所定の就業時間に対し2時間を超えて就業する場合には,30分の休憩時間を追加するとされていた(就業規則8条)。また,休日は,土曜日,日 から午後6時まで,休憩時間は,昼食時の1時間のほか,就業規則上,所定の就業時間に対し2時間を超えて就業する場合には,30分の休憩時間を追加するとされていた(就業規則8条)。また,休日は,土曜日,日曜日,国民の祝日であった。そして,第2事業部においては,従業員の勤務時間は,タイムカードによる管理はされておらず,自己申告制となってお り,各従業員が作成する出勤簿によって管理されていた。 (甲40,乙24,34,35)エ P3の業務の概要平成16年1月から平成17年8月までの間のP3の主な業務は,<ア>見積作成,<イ>材料発注,<ウ>工事完了報告,<エ>完成図書作成,<オ>月極サポート業務の集計,<カ>請求書作成等であった。P3は,平成16年12月以降,本件データセンターで勤務するようになったが,本件データセンターにおいては,引き続き上記業務を担当したほか,P11,P12の担当する施工業務を補助することもあった。 本件データセンターにおいてP3が主に従事する1日の主な業務及びその推移は,以下のとおりである(なお,業務状況に応じて各業務の順序が前後することもあった。)。 ① 前日に施工完了した工事の完了報告と完成図書の作成② 受注した工事の施工のために前日に発注した部材等の確認・関係者との打合せ③ 見積書作成,部材の発注,施工に係る各種申請書の作成・メール送信等,打合せで使用する資料等の作成④ (発注締切時刻である午後4時までに)P7施工管理チームからの工事発注書の受領⑤ (午後6時頃までに)材料の選定・工事内容の問合せ⑥ 施工済工事の関係書類と試験データの整理,施工作業員に対する工事内容の説明・関係図面等の引渡し⑦ 翌日に発注予定の材料,申請予定の各種申請,予定している問い合わせの内 工事内容の問合せ⑥ 施工済工事の関係書類と試験データの整理,施工作業員に対する工事内容の説明・関係図面等の引渡し⑦ 翌日に発注予定の材料,申請予定の各種申請,予定している問い合わせの内容の整理等(乙17,18,34,35,66)(3) P3の時間外労働 以下アないしウに詳述するところによれば,P3の時間外労働時間は,別紙「時間外労働時間数(裁判所認定)」のとおり認定するのが相当である。 ア 7月1日から同月24日までの間について7月1日から同月24日までの間については,P3のP7建物内のドアの入退室時刻を示す客観的証拠として本件カードリーダー記録(乙22)が存在するから,同記録に基づいてP3の時間外労働時間を認定するのが相当である。 この点,本件カードリーダー記録の中でも,P3のデスクのある部屋への最初の入室時刻,最後の退室時刻をもってP3の拘束時間と認定すべきものとも解される。しかしながら,P3のデスクのある部屋には,WYC2F西棟口EV側のドアを通過して入室することになるところ,確かに当該ドアの入室時刻は本件カードリーダー記録に記録されているものの,P3は,勤務時間中,必ずしもデスクにとどまって執務していたわけではなく,エントランスに入室して間もなく,デスクのある部屋に入室しないまま,携帯電話を利用して関係者と業務上の連絡を取りつつ,P7建物内を移動しながら,物品の運搬,施工の補助等の業務に従事することもあったことが認められるから(乙17,18,21,35,58),WYC2F西棟口EV側のドアの最初の入室時刻を始業時刻として認めるのは相当でない。また,同ドアの退室記録は記録されない仕組みであり,デスクのある部屋からの退室時刻を認めるに足りる証拠はないし,同部屋からの退室後もデスク以外の場 初の入室時刻を始業時刻として認めるのは相当でない。また,同ドアの退室記録は記録されない仕組みであり,デスクのある部屋からの退室時刻を認めるに足りる証拠はないし,同部屋からの退室後もデスク以外の場所で業務に従事していた可能性を否定することはできない。したがって,本件カードリーダー記録の中では,各勤務日の最初の入室記録を始業時刻とし,最後の退室記録を終業時刻としてP3の拘束時間を認定するのが相当である。 また,P3に喫煙の習慣があったことは上記のとおりであるし,証拠(乙21ないし23,35,38,39)によれば,P3が度々館内の喫煙場 所に入室したり通用口等から外出したりしている経緯が認められるから,P3の労働時間数を算定するに当たっては,拘束時間から喫煙時間を含む休憩時間を控除する必要がある。もっとも,本件全証拠によっても,P3の昼食時間,喫煙時間等の休憩時間を正確に把握することはできないし,本件データセンターに常駐する従業員の休憩時間の取得は不規則であったこと,P3は帰宅後に夕食を取っていたことが認められるから(乙35,39,49),休憩時間については,就業規則の規定にのっとり,一律に昼食時に1時間,所定の就業時間に対し2時間を超えて就業した場合に30分の休憩時間を取得したものと推定するほかないというべきであり,そのように解したとしても,本件カードリーダー記録の記載と大きく矛盾することはない。 そうすると,P3の7月1日から同月24日までの間の各日の拘束時間は,別紙「本件カードリーダー記録中各勤務日の最初及び最終の記録」のとおりであり,当該拘束時間から上記の考え方に基づく休憩時間を控除すると,各日の労働時間数が算定されることになる。 イ 1月25日から6月30日までの間について1月25日から6月30日までの間 とおりであり,当該拘束時間から上記の考え方に基づく休憩時間を控除すると,各日の労働時間数が算定されることになる。 イ 1月25日から6月30日までの間について1月25日から6月30日までの間については,本件カードリーダー記録が存在せず,労働時間を把握するための資料としては,出勤簿(甲40)が存在するのみである。当該出勤簿は,P3が自らの出退勤の時刻をその都度本件会社に申告したものであり,本件会社は当該出勤簿を基にP3の労働時間を管理していたのであるから,出勤簿記載の出退勤時刻が出退勤時刻を示す他の客観的資料と明らかに矛盾するなどの特段の事情のない限り,P3の労働時間は上記出勤簿の記載によって認定するのが相当である。 この点,出勤時刻を出勤簿の記載によって認定することについては当事者間に争いがないが,退勤時刻については,出勤簿記載の退勤時刻 に明らかに矛盾する帰宅時のP14給油所における給油時刻が判明しており,当該時刻による修正が必要となる。すなわち,P3は,自動車通勤をしており,帰宅時にP14給油所に立ち寄って自動車に給油する習慣があったところ(乙19,35,49,58),P14給油所と本件データセンターとの間の位置関係,距離等を考慮すると,P3は,給油時刻のおおむね1時間前には,P7建物を退館しているものと推認されるため,出勤簿記載の退勤時刻が給油時刻の1時間前よりも遅い日については,給油時刻の1時間前の時刻に修正して認定することとする。修正を要する部分は,別紙「給油時刻による退勤時刻の修正」のとおりである。 休憩時間については,出勤簿に休憩時間の記載がないため,上記アに判示したとおり,就業規則の規定にのっとって一律に昼食時に1時間,所定の就労時間に対し2時間を超えて就労した場合に30分の休憩時間を取 休憩時間については,出勤簿に休憩時間の記載がないため,上記アに判示したとおり,就業規則の規定にのっとって一律に昼食時に1時間,所定の就労時間に対し2時間を超えて就労した場合に30分の休憩時間を取得したものと推定するほかない。そして,そのように解したとしても,出勤簿(甲40)等の関係証拠の記載内容とは矛盾しないということができる。 ウ時間外労働時間数の認定に関する被告の主張についての検討(ア) 被告は,P3が,出勤簿記載の終業時刻について,本件会社内の査定やこれに基づくボーナス支給額等への影響を考慮して実際の労働時間よりも過大に申告していた旨主張し,これに沿ったP11の証人尋問における供述及びP12の供述(乙39)も存在する。 しかしながら,いずれの供述も抽象的であり,過大に申告した日及び時間を具体的に特定するには至っていないし,本件会社における査定の手法及びその運用実態は必ずしも明らかでなく,一般に労働時間が長いことがボーナスの査定等にプラスに働くということもできないから直ちに採用することができない。もっとも,労働時間を過大に申告すること でそれに応じた時間外手当が支給される可能性があるところ,被告は,本件会社においては1回当たり4時間以上8時間未満の残業で2500円,8時間以上の残業で5000円を支給していたほか,休日出勤には1回当たり5000円を支給していた旨主張しており,P3の給与明細(甲46の1ないし8)には,時間外手当の支給実績があることが認められる。しかし,本件会社においては,給与規程(乙24)上,時間外手当の支給に関する定めは見当たらず,その支給実態は必ずしも明らかでないし,本件全証拠をもってしても,P3自身が,時間外手当の不正受給の目的で労働時間を過大に申告していたと認めることはできない。 当の支給に関する定めは見当たらず,その支給実態は必ずしも明らかでないし,本件全証拠をもってしても,P3自身が,時間外手当の不正受給の目的で労働時間を過大に申告していたと認めることはできない。 したがって,P3が労働時間を過大に申告していたとする被告の上記主張は,直ちに採用することができないといわなければならない。 (イ) 被告は,本件カードリーダー記録に,例えばP3が7月6日には翌日の午前3時40分に,7月22日は翌日午前3時52分に,それぞれP7建物から退館した記載があるにもかかわらず,P7建物においては,午後8時に空調の運転が停止し,消灯となるから,仮にP3が午後8時以降にP7建物内に残っていたとしても,喫煙場所等でP11らと談笑するなどしていた可能性が高いなどと主張し,P11は,その聴取書(乙35)及び陳述書(乙58)においてこれに沿った陳述をし,その証人尋問においても同様の供述をしている。 しかしながら,P7建物においては,午後8時以降であっても,P3のデスクのある部屋の照明は点灯が可能であり,就労することができたということができるし(乙61・6頁,証人P11・8頁),P11の前記各供述によっても,P3がP11らと喫煙場所等で談笑していた具体的日時は必ずしも明らかでなく,P3の業務からの離脱の有無,離脱時間を具体的に特定することは不可能である。 かえって,7月1日から24日の間については,①本件会社は,7月 4日にP7から東西間光ケーブル一括敷設工事(P7建物の東館と西館との間に光ケーブルを敷設する工事)を受注し,当初の見積額は3105万円にのぼっていたところ,当該工事は,本件会社がP7から日常的に受注していた工事の1か月当たりの受注売上額が200万円ないし300万円とあったことと比較して格段に規模が し,当初の見積額は3105万円にのぼっていたところ,当該工事は,本件会社がP7から日常的に受注していた工事の1か月当たりの受注売上額が200万円ないし300万円とあったことと比較して格段に規模が大きく,施工予定期間も同月4日から8月4日までと限られており,その頃,本件会社代表取締役P18も本件データセンターにおける業務を手伝うことがあったこと(甲75,84の2,85,乙58,66,証人P11),②本件カードリーダー記録によれば,P3が7月中に常駐者用喫煙場所に入室した記録は合計18回あるところ,P3が常駐者用喫煙場所を退室し,他の部屋に移動したことを示すその直後の入室記録をみると(別紙「P3の喫煙場所への入室リーダー記録等」〔乙22〕のとおり),大半はP3のデスクのある部屋への入室記録であり,常駐者用喫煙場所に入室して他の部屋に入室するまでの間の時間も数分から数十分にとどまっていたことが認められること,③P11自身,7月は仕事の大詰めの時期に当たっており,多忙であったと供述し(乙58),本件会社取締役P19も,P3の死後に原告ら宅を訪問した際,「ここ2か月はちょっと確かに,すごい,仕事自体が,きつかったっていうか,忙しかったっていうのがありましたね」と供述していること(甲75・33頁)などを考慮すると,P3の7月の業務は相当に繁忙な状況にあったと認めるのが相当であり,少なくともこのような時期において,P3が喫煙場所等において長時間にわたって,更には時によっては,日をまたいで翌日の午前4時近くまでP11らと談笑していたなどと認めることは到底できないというべきである。 また,2月から6月までの間においても,P3は,深夜の時間帯において,友人であるP20に対し,「今仕事終わった」(甲16の6 ・4月29日午前3時10分 底できないというべきである。 また,2月から6月までの間においても,P3は,深夜の時間帯において,友人であるP20に対し,「今仕事終わった」(甲16の6 ・4月29日午前3時10分),「まだ仕事終わんないよ」(甲16の9・6月17日午後11時37分),「まだです」(甲16の10・6月18日午前3時16分)等の記載のあるメールを頻繁に送信しており,少なくとも,上記各日においては,P3が深夜まで勤務をしていた実態があると認めることができる。 以上によれば,P3が午後8時以降稼働していないとする被告の上記主張も採用することができない。 (ウ) 被告は,P3が担当していた見積書の作成業務は軽易なものであったにもかかわらず,P3が2月から7月までの間に作成した見積書等の枚数は,2月が162枚,3月が137枚,4月が219枚,5月が148枚,6月が84枚,7月が88枚にとどまっていることを指摘して(乙66),その間のP3の業務量が少なかった旨主張する。 しかしながら,見積書の記載は,受注工事の内容に応じて記載事項・記載量も変わるものであると解されるから,その作成枚数の多寡のみによって当該業務の業務量を正確に量ることは困難であるというべきであるし,P3の担当業務は,見積書等の作成にとどまるものではなく多岐にわたることは前記(2)エで認定したとおりであるから,被告指摘の上記の点のみによって,その間のP3の業務量が少なかったと認めることはできない。 したがって,P3の業務量が少なかったとする被告の上記主張も採用することができない。 (4) メディアコンバーターの購入を巡るトラブル本件会社にとって東西間光ケーブル一括敷設工事がP7関連の受注業務として規模の大きな仕事であったことは,上記(2)ウ(イ)に判示したと ない。 (4) メディアコンバーターの購入を巡るトラブル本件会社にとって東西間光ケーブル一括敷設工事がP7関連の受注業務として規模の大きな仕事であったことは,上記(2)ウ(イ)に判示したとおりであるところ,P3は,7月頃,上記工事に関連してメディアコンバーターと称 する機器(光通信用の変換器であり,その価額は,設置工事費や一般管理費を含んだ見積額が1751万7940円であり〔甲86の2〕,東西間光ケーブル一括敷設工事の見積額の半額以上を占める高額機器であった。)の購入手続を担当し,米国の同機器のメーカーに対する仕様の指定等の業務に従事したが,その際,P7の要望で,LFS機能の使用可能な機器を手配すべきであったにもかかわらず,何らかの手違いによって,結果として同機能の使用不可能な機器が納入され(納入前にP3に送付された同機器の仕様書には,LFS機能を使用不可能である旨が明記されていた模様である〔甲74・2頁〕。),同月28日頃にはそのことが判明し,責任の所在を巡ってP7又はメーカーとの間で紛争となることも予想される事態となり,メディアコンバーターの購入手続に関与した本件会社としても,事態の収拾のために奔走せざるを得なかった。そのような中,本件会社の同僚のP12は,本件交通事故のために自宅療養中のP3に対し,P3が手配したメディアコンバーターではLFS機能が使用不可能であった旨を連絡したため,P3は,少なからず責任を感じた模様であった(乙40・8頁,49)。もっとも,メディアコンバーターの仕様の齟齬についてのP3の責任の有無・程度は必ずしも明らかにはならなかったし,その後,メディアコンバーターの手配・購入につき本件会社には責任がなかったことが確認された(乙35)。 (5) 本件交通事故の発生及びその後のP3の状況 度は必ずしも明らかにはならなかったし,その後,メディアコンバーターの手配・購入につき本件会社には責任がなかったことが確認された(乙35)。 (5) 本件交通事故の発生及びその後のP3の状況P3は,7月25日午前3時頃,自家用自動車(P21)を運転して帰宅途中,対向車線から中央線を越えて直進してきた自動車と自車右前部を接触し,その反動で道路左側縁石に接触するという本件交通事故に遭遇し,自車は大破した。P3は,本件交通事故後,直ちに交番に出向いて本件交通事故を報告し,原告P1の迎えで帰宅すると,ソファに倒れ込んで「俺はもう駄目だ,駄目だ。」等と何度も繰り返した。P3は,同日,東西間光ケーブル一括敷設工事のうちのメディアコンバーター設置工事関連業務に従事する予 定であったが,本件交通事故の影響で体調が優れなかったため,出勤することができず,その後,P11から在宅勤務の扱いとすることを指示された。 そこで,P3は,同日中にP22病院救急外来を受診し,嘔気,右半身全体の痛みと感覚低下を訴えたが,頭部CTの結果は問題がなく,レントゲン上,明らかな骨折も認められなかった。また,P3は,同月26日に改めて同病院脳神経外科を受診し,頭痛,頸部痛を訴えたところ,頭部打撲,脳振盪,四肢打撲,頚椎捻挫の診断を受け,同月28日,同病院整形外科を受診し,後頭部痛を訴えたところ,頚椎捻挫と診断された。 (甲17,70の1ないし4,85,乙25ないし27,36,原告P1本人,原告P2本人)(6) 本件自殺に至る経緯P3は,本件交通事故後,1日1回の食事しかとらなくなり,原告らが声を掛けてもうわの空でぼんやりと考え事をしていることが増え,予定していた部屋の模様替えに対する関心も急に失った(乙49)。また,P3は,本件交通事故後の7月25日 の食事しかとらなくなり,原告らが声を掛けてもうわの空でぼんやりと考え事をしていることが増え,予定していた部屋の模様替えに対する関心も急に失った(乙49)。また,P3は,本件交通事故後の7月25日から8月7日までの間,自宅で療養しながら,P11の指示に従って,別紙「交通事故後のメール送信状況」記載のとおり,頻繁にメールを送受信するなどして業務を行っていたが,8月7日午前2時53分に「東西間光ケーブル試験成績表」をP12にメール送信した後,同日午後8時頃,自宅から外出したまま失踪するに至った。その後,P3は,原告P2に対し,同月8日午前5時45分に「申し訳ないけど,会社から電話あったら,高熱でねてる事にしておいて下さい。今日は,帰らないかも知れません。また連絡します。」との内容のメールを送信し,同日午前9時05分には,「【病院で,点滴受けて,ついでに検査受けるはずです。】と伝えて下さい。心配かけてごめん。色々考えたいこともあるし,頭が痛いんで,寝てから帰ります。たぶん,夜中になると思います。」との内容のメールを送信した。 上記メールを受信した原告らは,P3の安否を心配し,同月10日にP3の捜索願を警察に提出したところ,▲月11日午前10時30分頃,警察からの連絡で,P3が神奈川県足柄下郡<以下略>に駐車した自家用自動車(P23)内で一酸化炭素中毒によって死亡した(本件自殺)ことを知った。 (甲17,71,乙49)(7) 本件自殺の状況P3は,▲月▲日午前零時頃,神奈川県足柄下郡<以下略>先空地に駐車中の自家用自動車(P23)内において,急性一酸化炭素中毒が原因で死亡したものと推定され,発見された際,自動車は施錠されており,車内には,前提事実(2)エの遺書めいた文面のメールの保存されたP3の携帯電話とメモ紙片とが 3)内において,急性一酸化炭素中毒が原因で死亡したものと推定され,発見された際,自動車は施錠されており,車内には,前提事実(2)エの遺書めいた文面のメールの保存されたP3の携帯電話とメモ紙片とが残されていたため,P3の死亡は自殺と判断された(乙28ないし30)。 なお,P3の上記メールに記された「P9」という人物については,その存在,P3との関係を含めて,一切明らかでない。 (8) P3の死亡に関する医学的見解等ア神奈川労働局地方労災医員協議会精神障害等専門部会作成の平成20年12月15日付け意見書の概要(乙10)P3は,本件交通事故後,自宅にこもりがちであり,自責的であるなどの状態がみられることから,「適応障害F43.2」を発病していた可能性を否定するまでにはいかないが,少なくとも「うつ病エピソード」は発病していないと考える。 仮に,P3が適応障害を発病していたとすると,発病時期は本件交通事故直後の7月25日ころと考えられる。また,具体的出来事として,長時間労働は認められないものの,①課長への昇格,②在宅勤務への勤務形態の変更,③本件交通事故が認められるところ,①,②の平均的な心理的負荷の強度はいずれも「Ⅰ」であり,③の心理的負荷の強度は「Ⅱ」であっ て,総合評価は「弱」にとどまる。 したがって,仮に,P3が精神障害を発病していたとしても,業務要因に精神障害を発病させるおそれのある程度に強い心理的負荷があったとは認められない。 イ神奈川労働局地方労災医員協議会精神障害等専門部会作成の平成21年11月16日付け意見書の概要(乙12)(ア) P3に精神障害が発病していた仮定し,発病時期を7月25日頃として,おおむね6か月の間に心理的負荷の原因となった具体的出来事を検討すると,①長時間の時間外労働( 付け意見書の概要(乙12)(ア) P3に精神障害が発病していた仮定し,発病時期を7月25日頃として,おおむね6か月の間に心理的負荷の原因となった具体的出来事を検討すると,①長時間の時間外労働(7月4日から同月24日までに112時間余),②課長への昇進,③在宅勤務への勤務形態の変化,④会社で起きた事故について責任を問われたことが認められ,その平均的な心理的負荷の強度は,①が「Ⅱ」,②,③がいずれも「Ⅰ」,④が「Ⅱ」であるところ,①については,勤務・拘束時間の変化の程度に照らして修正後の強度を「Ⅲ」と評価すべきである一方,④については,本件会社の責任が否定されたことに照らして修正後の強度を「Ⅰ」と評価すべきである。 そして,出来事後の状況の持続する程度について特段の過重性は認められないから,業務による心理的負荷の総合評価は「中」とすべきである。 (イ) また,本件交通事故が通勤災害に当たるとすると,平均的な心理的負荷の強度は「Ⅱ」であり,出来事後の状況の持続する程度について特段の過重性は認められないから,通勤災害による心理的負荷の総合評価は「弱」にとどまる。 ウ P24病院精神科P25医師作成の平成23年10月19日付け「故P3氏に関する精神科医意見書」の概要(甲80)P3は本件自殺前にうつ病に罹患しており,その発症時期は7月25日 の本件交通事故の頃であり,症状の程度は本件交通事故の頃に軽症うつ病エピソードとなり,本件自殺当時に中等症以上のうつ病エピソードに進行していたと判断されるから,P3の自殺は業務起因性を有すると判断するのが妥当である。 エ P26大学医学部教授P27医師作成の平成23年8月8日付け「医学意見書」の概要(乙67)P3が生前何らかの精神疾患を発病していたことを示す事実は指摘されず, 判断するのが妥当である。 エ P26大学医学部教授P27医師作成の平成23年8月8日付け「医学意見書」の概要(乙67)P3が生前何らかの精神疾患を発病していたことを示す事実は指摘されず,「うつ病エピソード」への罹患は確実に否定されるが,本件交通事故後に「適応障害」を呈してある程度の抑うつ状態に陥っていた可能性は必ずしも否定できない。適応障害に罹患していたと仮定すれば,その発病時期は交通事故後の7月25日以降である。 発病前おおむね6か月の間に起きた業務上の出来事としては,本件交通事故と昇進・昇格とが認められるが,本件交通事故の修正後の心理的負荷の強度は「Ⅱ」であり,昇進・昇格の心理的負荷の強度は「Ⅰ」であるところ,出来事後の状況が持続する程度については過重ではないと判断されるから,業務による心理的負荷の総合評価は「弱」にとどまる一方,業務外の出来事として家庭内の不和が認められ,その修正後の心理的負荷の強度は「Ⅱ」となる可能性があるものの,客観的な情報が乏しいため,この問題に関する判断は留保する。 以上によれば,精神障害(適応障害)の発病を仮定したとしても,業務起因性は認められず,それ以外の要因の可能性も否定することができないから,結局のところ,P3の発病の原因は不明と判断するしかない。 2 P3の死亡の業務起因性の有無(争点(1))について(1) 業務起因性に関する法的判断の枠組みについてア労災保険法に基づく保険給付は,労働者の業務上の負傷,疾病,障害又は死亡に関して行われるところ(労災保険法7条1項1号),労災保険制 度が,労働基準法上の災害補償責任を担保する制度であり,災害補償責任が使用者の過失の有無を問わずに被災労働者の損失を填補する制度であって,いわゆる危険責任の法理に由来するものであることに 度が,労働基準法上の災害補償責任を担保する制度であり,災害補償責任が使用者の過失の有無を問わずに被災労働者の損失を填補する制度であって,いわゆる危険責任の法理に由来するものであることにかんがみれば,「業務上死亡した場合」(労災保険法12条の8第1項4号,同項5号,同条2項,労働基準法79条,80条)といえるためには,当該死亡が被災労働者の従事していた業務に内在ないし随伴する危険性が発現したものと認められる必要がある。したがって,被災労働者の死亡が「業務上」のものといえるためには,業務と当該死亡との間に条件関係があることを前提に,労災保険制度の趣旨に照らして,両者の間にそのような補償を行うことを相当とする関係,いわゆる相当因果関係があることが必要であると解される(最高裁判所昭和51年11月12日第二小法廷判決・裁判集民事119号189頁参照)。 ところで,今日の精神医学的・心理学的知見としては,環境由来のストレスと個体側の反応性・脆弱性との関係で精神的破綻が生じるか否かが決まり,ストレスが非常に強ければ,個体側の脆弱性が小さくても精神障害が起こるし,逆に,個体側の脆弱性が大きければ,ストレスが小さくても破綻が生じるという「ストレス-脆弱性」理論が広く受け入れられている。 そして,今日の社会においては,何らかの個体側の脆弱性要因を抱えながら業務に従事する者も少なくない。 このような社会的実情と,上記「ストレス-脆弱性」理論の趣旨に照らすと,業務の危険性の判断は,当該労働者と同種の平均的な労働者,すなわち,何らかの個体側の脆弱性を有しながらも,当該労働者と職種,職場における立場,経験等の点で同種の者であって,特段の勤務軽減まで必要とせずに通常業務を遂行することができる者を基準とすべきであると解するのが相当である。 を有しながらも,当該労働者と職種,職場における立場,経験等の点で同種の者であって,特段の勤務軽減まで必要とせずに通常業務を遂行することができる者を基準とすべきであると解するのが相当である。 そして,このような意味の平均的労働者にとって,当該労働者の置かれ た具体的状況における心理的負荷が一般に精神障害を発病させる危険性を有し,当該業務による負荷が他の業務以外の要因に比して相対的に有力な要因となって当該精神障害を発病させたと認められれば,業務と精神障害発病との間に相当因果関係が認められると解するのが相当である。 なお,精神障害に係る自殺があったときは,精神障害により正常な認識・行為選択能力が著しく阻害され,又は自殺行為を思いとどまる精神的な抑制力が著しく阻害された状態で自殺が行われたものと推定されるから,労働者の故意による自殺(労災保険法12条の2の2第1項)には当たらず,精神障害発病自体に業務起因性が認められれば,すなわち当該精神障害が「業務上の疾病」に当たれば,その死亡も原則として「業務上の死亡」と認められるというべきである。 イところで,平成23年11月8日にとりまとめられた「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会報告書」は,医師や法律家を含む各界の専門家によって構成された専門検討会が,近時の医学的知見のほか,これまでの労災認定事例,裁判例の状況等を踏まえ,従前の判断指針等が依拠する「ストレス-脆弱性」理論に引き続き依拠し,従来の考え方を踏襲しつつ,業務による心理的負荷(ストレス)の評価基準と審査方法等の改善を提言したものであり,厚生労働省は,これを踏まえて,同年12月26日に認定基準を定めて,判断指針等は廃止したこと,認定基準においては,新たに,「業務による心理的負荷評価表」が定められ,「出来事」と「出 言したものであり,厚生労働省は,これを踏まえて,同年12月26日に認定基準を定めて,判断指針等は廃止したこと,認定基準においては,新たに,「業務による心理的負荷評価表」が定められ,「出来事」と「出来事後の状況」を一括して心理的負荷を判断することとして,その具体例も示されたほか,「出来事の類型」が見直され,対象疾病の発病に関与する業務による出来事が複数ある場合の心理的負荷の程度は全体的に評価することとされ,既に発病していた業務外の精神障害が業務による出来事によって悪化した場合の業務起因性の判断についても定められるなどしたことは,前提事実記載のとおりである。 認定基準は,処分行政庁がした本件各不支給処分時には存在していなかったし,判断指針等と同様に,裁判所による行政処分の違法性に関する判断を直接拘束する性質のものではないことは明らかであるが,認定基準は,労災保険行政の指針として長年にわたって運用されてきた判断指針等の基本的考え方を踏襲しつつ,近時の医学的・心理学的知見や裁判例の状況等も踏まえ,より柔軟な運用が可能となるように判断指針等の内容を改訂したものであり,労災保険制度の基礎である危険責任の法理にもかなうものであって,その作成経緯及び内容に照らして十分な合理性を有するものであると認めることができる。 ウ以上の検討を踏まえ,当裁判所としては,業務起因性の判断をするに当たって,基本的には認定基準に従いつつこれを参考としながら,当該労働者に関する精神障害の発病に至るまでの具体的事情を総合的に斟酌し,必要に応じてこれを修正する手法を採用することとする。 (2) P3の死亡についての業務起因性の有無についてそこで,以下において,前記1の認定事実を前提として,上記(1)の業務起因性の判断枠組みの下,P3の精神障害の発病の を採用することとする。 (2) P3の死亡についての業務起因性の有無についてそこで,以下において,前記1の認定事実を前提として,上記(1)の業務起因性の判断枠組みの下,P3の精神障害の発病の有無及び本件自殺の業務起因性の有無について検討する。 ア P3の精神障害の発病の有無について(ア) 前記1(7)アの専門部会の意見書及び同エのP27医師の医学意見書は,いずれもP3が平成17年7月25日に発生した本件交通事故の後に適応障害を発病した可能性を否定することはできないと判断している。 また,P3が,本件交通事故の直後に自責的となり,食欲もなくなった上,原告らが声を掛けてもうわの空でぼんやりと考え事をしていることが増え,予定した部屋の模様替えに対する関心を急に失うなどしたことは,前記1(5),(6)記載のとおりである。 以上によれば,P3は,平成17年7月25日の本件交通事故の直後頃に,適応障害(以下「本件疾病」という。)を発病したと認めるのが相当である。そして,適応障害(ICD10「F43.2」)は,主観的な苦悩と情緒障害とを主たる症状とし,通常社会的な機能と行為とを妨げ,重大な生活の変化に対して,又はストレス性の生活上の出来事(重篤な身体疾患の存在又はその可能性を含む。)の結果に対して順応が生ずる時期に発生するとされており,認定基準の対象となる精神障害に該当する。 (イ) この点,被告は,P3の遺書とも評価される携帯電話に残されたメールの内容を見ると,P3は,当該メールの作成時点において,未だ自己の行動の意味・内容を認識しており,相応の判断力を備えていたことがうかがわれるとして,本件自殺が精神障害によらない「故意」の自殺であると主張する。 しかしながら,専門検討会報告書は,遺書等の取扱いについて,遺書 を認識しており,相応の判断力を備えていたことがうかがわれるとして,本件自殺が精神障害によらない「故意」の自殺であると主張する。 しかしながら,専門検討会報告書は,遺書等の取扱いについて,遺書の存在そのもののみで正常な認識,行為選択能力及び抑制力が著しく阻害されていなかったとすることは必ずしも妥当でなく,その内容が精神障害者特有の自殺念慮に深く彩られたもので,むしろ精神障害発病の積極的証明と成り得るものもあるから,その表現,内容,作成時の状況等を自殺に至る経緯に係る一資料として総合評価すべきものであると解している(乙55・41頁)。また,前記1(8)記載の医学的知見は,いずれも上記メールの記載内容について全く言及しておらず,同メールの内容とP3に発病した精神障害との関係に係る医学的見解は示されていないというべきであるし,前記メールには,「やること,なすこと,一つもうまく行かず」「家のことも,仕事もうまく行かなくて,ごめんなさい。これがじぶんの限界です。」「自分が居ないほうが,色々うまくいくとおもいます。」「自分みたいに負けないで」「いつもヒントもらってたのに,自分はいつも気付けず(中略)すみません」などと記載され ており,P3が極度の自責の念を抱き,自殺によるのでなければ現状を打破することができないとの強迫観念にとらわれていたことがうかがわれるのであって,このようなメールの文面は,正に,自殺念慮に深く彩られたものであると評価することが可能である。 したがって,被告の上記主張は,直ちに採用することができないといわなければならない。 イ業務による強い心理的負荷の有無についてP3が認定基準の対象となる精神障害(適応障害)が発病していることは,上記アに判示したとおりであるから,続いて,その発病前おおむね6か月の らない。 イ業務による強い心理的負荷の有無についてP3が認定基準の対象となる精神障害(適応障害)が発病していることは,上記アに判示したとおりであるから,続いて,その発病前おおむね6か月の間に,業務による強い心理的負荷が認められるか否かについて検討を進める。 (ア) 「特別な出来事」に該当する出来事の有無についてP3の精神障害の発病時期は,平成17年7月25日の本件交通事故発生の直後頃であると認められるところ,発病直前の1か月(同年6月25日から同年7月24日まで)の時間外労働時間数は176時間59分であり,3週間(同年7月4日から同月24日まで)の時間外労働時間数は127時間28分であったことは,前記1(3)で認定したとおりである。 これによると,P3については,認定基準別表1「業務による心理的負荷評価表」(以下「心理的負荷評価表」という。)所定の「特別の出来事」の類型のうちの「極度の長時間労働」に該当する出来事の存在を認めることができる。 (イ) 「特別な出来事」以外の「具体的出来事」に該当する出来事の有無についてまた,P3の平成17年1月25日から同年7月24日までの間の時間外労働時間数は,同年1月25日から同年2月24日までの間が53 時間,同年2月25日から同年3月24日までの間が93時間53分,同年3月25日から同年4月24日までの間が91時間37分,同年4月25日から同年5月24日までの間が48時55分,同年5月25日から同年6月24日までの間が67時間12分,同年6月25日から同年7月24日までの間が176時間59分であることは,前記1(3)で認定したとおりであり,上記期間の1か月当たりの時間外労働時間数の平均は88時間36分となるから(計算式①),心理的負荷評価表の「具体的出来 日までの間が176時間59分であることは,前記1(3)で認定したとおりであり,上記期間の1か月当たりの時間外労働時間数の平均は88時間36分となるから(計算式①),心理的負荷評価表の「具体的出来事」である「1か月に80時間以上の時間外労働を行った」に該当し,その平均的な心理的負荷の強度は「Ⅱ」であるところ,「に1か月当たりおおむね120時間以上の時間外労働」を行ったとまで認めることはできないものの,発病直前の連続した2か月間の平均時間外労働時間は122時間06分に達していたし(計算式②),平成17年7月頃のP3の担当業務の内容及び困難性のほか,本件会社の繁忙度に照らすと,「その業務内容が通常その程度の時間を要するものであった」ということができるから,出来事ごとの心理的負荷の総合評価は「中」又は「強」であるというべきである。 (計算式①)53:00+93:53+91:37+48:55+67:12+176:59=531:36531:36÷6=88:36(計算式②)67:12+176:59=244:11244:11÷2=122:06さらに,上記のとおり,P3の時間外労働時間数は,同年2月25日から同年3月24日までの間は,その直前の1か月間と比較して倍程度に増加して93時間余りとなったものであるから,心理的負荷評価表の「具体的出来事」である「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさ せる出来事があった」に該当し,その平均的な心理的負荷の強度は「Ⅱ」であるところ,「心理的負荷の強度を『弱』『中』『強』と判断する具体例」の記載に照らして,出来事ごとの心理的負荷の総合評価は,「強」であるというべきである。 その他,メディアコンバーターの購入を巡るトラブルが発生し,その関係者としてP3が少な と判断する具体例」の記載に照らして,出来事ごとの心理的負荷の総合評価は,「強」であるというべきである。 その他,メディアコンバーターの購入を巡るトラブルが発生し,その関係者としてP3が少なからず責任を感じた模様であったことについては,前記1(4)で認定したとおりであり,当該機器の購入を含む本件会社のP7からの受注規模に照らした場合,心理的負荷評価表の「具体的出来事」である「会社の経営に影響するなどの重大な仕事上のミスをした」に該当する可能性があり,その場合の平均的な心理的負荷の強度は「Ⅲ」であるものの,メディアコンバーターの購入に係るP3の責任の有無・程度は必ずしも明らかでないし,結果として,メディアコンバーターの手配・購入につき本件会社には責任がなかったことが確認されたことを考慮すると,出来事ごとの心理的負荷の総合評価は「中」を超えるものではないと認めるのが相当である。また,本件交通事故の発生及びその後のP3の状況については,上記1(5)で認定したとおりであるところ,これによると,本件交通事故は退勤直後の帰宅途中におけるものであったことが認められるから,通勤災害に該当するものとして,業務上の出来事として取り上げるのが相当であり,心理的負荷評価表の「具体的出来事」である「病気やケガをした」に該当するものと解し,その平均的な心理的負荷の強度は「Ⅲ」と評価すべきであるものの,P3のケガの程度は,長期間の入院を要するものではなかったし,本件交通事故後も自宅療養しながらある程度の業務に従事することが可能であったことを考慮すると,出来事ごとの心理的負荷の総合評価は精々「中」にとどまるものと解すべきである。 以上の複数の出来事を全体評価すると,その心理的負荷の強度は,優 に「強」となると認めることができる。 ウ総合評 の心理的負荷の総合評価は精々「中」にとどまるものと解すべきである。 以上の複数の出来事を全体評価すると,その心理的負荷の強度は,優 に「強」となると認めることができる。 ウ総合評価上記イで検討したとおり,P3については,心理的負荷評価表の「特別な出来事」に該当する「極度の長時間労働」が認められるし,「特別な出来事」以外の複数の「具体的出来事」を全体評価しても,その心理的負荷の強度は,優に「強」となると認めることができるというべきである。 エ業務以外の心理的負荷又は個体側要因の有無について本件全証拠をもってしても,P3については,業務以外の心理的負荷又は個体側要因の存在を認めることはできない。 この点,被告は,P3の家族関係の不良を主張するが,その具体的内容は必ずしも明らかでない一方,P3の携帯電話に残された遺書らしきメールの記載の多くが家族に宛てたものであると認めることができることによれば,P3の家族関係がP3に強い心理的負荷を与えるほどに不良であったとまでは認めることはできない。また,被告は,P3の家族が経済的に困窮していた旨主張する。確かに,P3が家族5人の居住する自宅の住宅ローン債務月額10万5000円を負担し,生活費月額5万円を原告らに渡していたことは,前記1(1)のとおりであり,このような債務負担は,認定基準別表2「業務以外の心理的負荷評価表」記載の「住宅ローン又は消費者ローンを借りた」に該当する可能性があり,その心理的負荷の強度は「Ⅰ」に当たる。しかしながら,P3は,400万円を超える預貯金を有していた上,手取額も30万円程度あって,可処分所得として手取額の半額程度(約15万円)を確保することができていたのであるから,その心理的負荷の強度を「Ⅰ」から修正する必要はないというべきである。し していた上,手取額も30万円程度あって,可処分所得として手取額の半額程度(約15万円)を確保することができていたのであるから,その心理的負荷の強度を「Ⅰ」から修正する必要はないというべきである。したがって,被告の上記主張はいずれも採用することができない。 なお,被告は,P3が携帯電話内のメールに記載された「P9」という人物を後追い自殺した可能性を主張をするが,本件全証拠をもってしても, 「P9」という人物の存在,P3との関係等は全く明らかにされていないから,P3が「P9」という人物を後追い自殺した事実を認めることはできない。 (3) 小括以上のとおり,認定基準に照らして本件自殺の業務起因性の有無について検討すると,P3の本件疾病発病前の業務による心理的負荷の総合評価は「強」であり,その他,P3の精神障害の発病の原因となる業務以外の心理的負荷又は個体側要因を認めることはできないから,P3の本件疾病の発病及びその後の本件自殺は,P3の業務に起因するものであると認めるのが相当である。 3 葬祭料を受ける権利の消滅時効の成否(争点(2))について消滅時効は,権利を行使することができる時から進行するとされ(民法166条1項),「権利を行使することができる時」とは,権利行使について法律上の障害がないことをいうものと解されるところ(最高裁判所昭和49年12月20日第二小法廷判決・民集28巻10号2072頁参照),労災保険給付請求権は,原則として当該請求権が発生した日,すなわち保険給付の事由が生じた日から権利行使が可能であるから,当該請求権に係る消滅時効の起算点は同日であると解するのが相当である。 これを本件についてみるに,葬祭料の保険給付の事由は,「労働者が業務上死亡した」ことであるから(労災保険法12条の8第1項5号 該請求権に係る消滅時効の起算点は同日であると解するのが相当である。 これを本件についてみるに,葬祭料の保険給付の事由は,「労働者が業務上死亡した」ことであるから(労災保険法12条の8第1項5号,同条2項,労働基準法80条),P3の死亡にかかる葬祭料支給請求権の消滅時効の起算点は,遅くとも原告らがP3の死亡を知った日の翌日である平成▲年▲月12日であると認めるのが相当である(民法140条・初日不参入)。そして,原告らが葬祭料を請求をしたのは,同日から起算して2年の時効期間を経過した後の平成20年3月17日であったから(前提事実(3)のとおり),原告らの葬祭料を受ける権利については,消滅時効が完成しているというべきである。 この点,原告らは,P3の死亡を知った後,本件会社が葬祭料等の受給手続を行うものと考えていたため,自ら請求手続を行わなかったのであって,代理人弁護士に相談した平成19年6月1日まで権利行使を現実的に期待することができず,消滅時効は進行しないなどと主張するが,上記の事由は権利行使についての単なる事実上の障碍にすぎず,そのことによって消滅時効の進行は妨げられないというべきである。したがって,原告らの上記主張は採用することができない。 第4 結語以上の次第で,本件各不支給処分のうち,P3の本件自殺が業務上の事由によるものとは認められないとして原告らに対する遺族補償給付を不支給とした処分は違法であり取消しを免れない。また,葬祭料を受ける権利につき消滅時効の完成を認めて不支給とした処分は適法である。 よって,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第11部 裁判長裁判官白石 哲 裁判官菊池憲久 文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第11部 裁判長裁判官 白石哲 裁判官 菊池憲久 裁判官 光本洋

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